以下、本発明に係る溶解装置を図面に則して更に詳しく説明する。
[実施例1]
1.溶解装置の構成
図1は、本実施例の溶解装置1の概略構成を示す模式図である。本実施例では、溶解装置1は、透析液用のA剤を溶かした濃厚溶液であるA原液(透析用原液のひとつ)を調製するものである。
溶解装置1は、溶解槽2と、溶解槽2から送られたA原液を収容する貯留槽3と、A剤を溶解槽2に供給するホッパー4と、を有する。溶解槽2には、溶解槽2に供給される水(RO水)が通る入口管路18が接続されている。入口管路18には、液送ポンプである入口ポンプ6と、電磁弁である入口弁7と、が設けられている。また、溶解槽2の底部には、溶解槽2から排出されたA原液が通る出口管路20の一端が接続されている。出口管路20の他端は貯留槽3に接続されており、途中には環流管路19が接続されている。出口管路20は、溶解槽2に接続された一端から環流管路19の接続箇所までの出口管路20aと、環流管路19の接続箇所から貯留槽3に接続された他端までの出口管路20bとにより構成される。出口管路20aには液送ポンプである出口ポンプ8が設けられ、出口管路20bには電磁弁である出口弁10が設けられている。環流管路19は、出口管路20aを介して溶解槽2から排出された液を再度溶解槽2に環流させる。環流管路19には、電磁弁である環流路弁9が設けられている。また、環流管路19には、電気伝導率計30が設置されている。電気伝導率計30は、環流管路19内を流動する液の電気伝導率を検出する。溶解槽2で調製されたA原液は出口管路20を通って貯留槽3に送られる。貯留槽3の底部には、貯留槽3から排出されたA原液が通る供給管路21が接続されている。供給管路21には、液送ポンプである供給ポンプ11と、電磁弁である供給弁12と、が設けられている。供給管路21は、溶解装置1の外部の図示しない透析液供給装置に接続される。
また、溶解装置1は、溶解槽2に供給する水を収容する受水槽5を有する。受水槽5の底部には、溶解槽2へと水を供給するための上記入口管路18が接続されている。受水槽5には、溶解装置1の外部の図示しないRO水製造装置から給水管路27を介して水が供給される。また、受水槽5には、溶解装置1の外部の図示しない消毒液供給源から給水管路27を介して消毒液を供給できるようになっている。給水管路27には、RO水製造装置からの水の供給を制御する給水弁15、消毒液供給源からの消毒液の供給を行う消毒液供給ポンプ16、及び消毒液の供給を制御する消毒液供給弁17が設けられている。
また、出口管路20、供給管路21には、それぞれ洗浄時などの排水のための排水管路24、25が接続されており、これらの排水管路24、25には電磁弁である排水弁13、14がそれぞれ設けられている。また、溶解槽2、貯留槽3、受水槽5には、それぞれオーバーフローした液を排出するためのオーバーフロー管路22、23、26が接続されている。排水管路24、25、オーバーフロー管路22、23、26は、それぞれ排水口28に接続されている。
ここで、本実施例では、溶解槽2、出口管路20a、出口ポンプ8、環流路弁9、環流管路19などによって、A剤を水で溶解して透析用原液のひとつであるA原液を調製する溶解部61が構成される。また、本実施例では、受水槽5、入口管路18、入口ポンプ6、入口弁7などによって、溶解部61に水を供給する給水部62が構成される。また、本実施例では、ホッパー4によって、溶解部61にA剤を供給する薬剤供給部63が構成される。また、本実施例では、電気伝導率計30は、溶解部61においてA剤が水に溶解された溶液の電気伝導率を検出する。
また、溶解装置1には、溶解装置1の動作を統括制御する制御部50が設けられている。制御部50は、演算制御素子などを備えたコントローラ51、ROMやRAMなどを備えた記憶部52などを有して構成されている。制御部50は、コントローラ51が記憶部52に記憶されたプログラムやデータに従って溶解装置1の各ポンプ、各弁、ホッパー4などの動作を制御して、A原液を調製させ、供給対象としての透析液供給装置にA原液を供給させる。また、溶解装置1には、操作部40が設けられている。操作部40には、操作者が制御部50に対して各種設定の入力などを行うための入力部41、及び各種情報を表示するための表示部42が設けられている。本実施例では、操作部40は、入力部41及び表示部42の機能を有するタッチパネル式の操作パネルとして構成されている。
A原液の調製は次のようにして行われる。なお、特に言及しない場合は、排水弁13、14、消毒液供給弁17は閉じられており、消毒液供給ポンプ16は停止されており、また給水弁15の開閉による受水槽5への水の供給は適宜行われて受水槽5には十分な量の水が収容されているものとする。
まず、出口弁10が閉じられ、出口ポンプ8が停止された状態で、入口弁7が開かれ、入口ポンプ6が作動されて、入口管路18を通して受水槽5から溶解槽2に水が供給される。その後、溶解槽2内の液(水)の水位を検知するフロートスイッチF1が検知信号を制御部50に入力すると、入口弁7が閉じられ、入口ポンプ6が停止されると共に、環流路弁9が開かれ、出口ポンプ8が作動される。これにより、溶解槽2内の水は、出口管路20a及び環流管路19を介して循環され、撹拌される。
続いて、ホッパー4から溶解槽2へのA剤の供給が開始される。A剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、氷酢酸、グルコース(ブドウ糖)を所定の割合で含む粉末状薬剤である。A剤は、循環する水により溶解槽2内にて撹拌、混合される。この時、環流管路19に設置された電気伝導率計30により環流管路19内を流動する液の電気伝導率が検出され、その検出信号が制御部50に入力される。
詳しくは後述するが、制御部50は、概略次のようにして、電気伝導率計30により検出される電気伝導率に基づいてホッパー4の制御を行い、溶解部61において水にA剤を溶解する溶解動作を行わせる。つまり、電気伝導率計30の検出信号は、制御部50において、増幅、A/D変換などの所定の信号処理を経てコントローラ51に入力される。制御部50の記憶部52には、A原液の所定のA剤濃度に応じた電気伝導率の目標値が記憶されている。コントローラ51は、ホッパー4を制御してA剤を適宜供給すると共に、電気伝導率計30の検出値と目標値とを比較して、検出値が目標値に達したことを検知した時点で、ホッパー4によるA剤の供給を停止させる。これにより、所定の濃度のA剤を含有するA原液が調製される。本実施例では、この1回の溶解動作で、所定量のA原液が調製される。
このようにして、A原液が調製されると、出口ポンプ8が停止される。そして、溶解槽2内のA原液は、環流路弁9が閉じられると共に出口弁10が開かれ、出口ポンプ8が作動されることで、出口管路20を通して貯留槽3に送られる。そして、溶解槽2内のA原液が実質的に全て貯留槽3に送られると、上述のようなA原液の調製動作が繰り返される。
また、貯留槽3内のA原液は、供給弁12が開かれ、供給ポンプ11が作動されることで、供給管路21を通して透析液供給装置に供給される。透析液供給装置は、他の溶解装置にて調製されたB原液と、本実施例の溶解装置1により調製されたA原液と、を水(RO水)で希釈混合して、所定濃度の透析液を調製する。なお、B原液は、透析液用のB剤を溶かした濃厚溶液であり、B剤は炭酸水素ナトリウムの粉末状薬剤である。
2.A剤溶液の電気伝導率
次に、水にA剤を添加していった場合の溶液の電気伝導率の変化について説明する。図2は、水にA剤を添加していった場合の、調製された溶液を35倍希釈した後の浸透圧と、調製された溶液の電気伝導率と、調製された溶液を35倍希釈した後のブドウ糖濃度と、の関係を示すグラフである。A剤を添加するごとに、3分間撹拌した後にサンプリングして、浸透圧、電気伝導率及びブドウ糖濃度を測定した。A剤としては、キンダリー2E(扶桑薬品工業社製)を用いた。
図2からわかるように、水にA剤を添加していくと、溶液の電気伝導率及びブドウ糖濃度は、それぞれほぼ線形的に増加していく。しかし、A剤を更に添加していくと、溶液のブドウ糖濃度はほぼ線形に増加し続けるのに対して、溶液の電気伝導率の変化の方向は増加方向から減少方向に変化する。これは、A剤の場合、電解質成分が過飽和状態となり未溶解の電解質成分が増加していくこと、及び非電解質成分が増加していくことによって、電流が流れにくくなり、電気伝導率が低くなることによる。
図3は、溶解装置1において水にA剤を溶解する溶解動作を行った場合の、経過時間と調製された溶液の電気伝導率との関係の一例を示す模式的なグラフである。図3中の実線は、正常動作時の関係を示している。また、図3中の破線は、例えばA剤にB剤が混入した場合、A剤の非電解質成分の含有量が多い場合、あるいは電極の表面への付着物の付着により電気伝導率計の感度が低下した場合などにおける関係を示している。
図3中の実線で示すように、本実施例では、溶解動作が開始されると、溶液の電気伝導率が、A原液の所定のA剤濃度に応じた電気伝導率の目標値よりも低い電気伝導率に設定された連続粉注停止値に達するまで、A剤が連続的に供給される(連続粉注期間)。そして、溶液の電気伝導率が連続粉注停止値に達した後は、A剤の供給は間欠的に行われ(間欠粉注期間)、溶液の電気伝導率が目標値に達した時点で、A剤の供給が終了する。
一方、例えばA剤にB剤が混入した場合、A剤の非電解質成分の含有量が多い場合、あるいは電極の表面への付着物の付着により電気伝導率計の感度が低下した場合などには、電気伝導率計30で検出される溶液の電気伝導率はこれらの事象が発生していない正常動作時よりも低くなる。理由は、前述のとおりである。そのため、図3中の破線で示すように、A剤を供給していっても溶液の電気伝導率は目標値に達しなくなり、A剤を更に供給し続けると、過飽和状態になったA剤の一部の電解質成分、あるいは混入したB剤の析出や過剰に供給された非電解質成分などの影響で、電気伝導率が目標値に達する前に該電気伝導率の変化の方向は増加方向から減少方向に変化する(図2参照)。その結果、溶液の電気伝導率が目標値に達しないまま、A剤を供給し続けてしまうことになる。特に、図3中の破線で示すように、溶液の電気伝導率が連続粉注停止値に達する前に、該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化する場合には、A剤の一部の電解質成分が過飽和状態になった後にもA剤を連続的に供給し続けてしまうことになる。
そこで、従来は、A剤の供給時間の上限を設け、その上限時間を超過した場合には、A剤の供給を停止し、警報を発するようにしている。しかし、例えば上述のように溶液の電気伝導率が連続粉注停止値に達する前に、該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化した場合などには、上限時間を超過した時点ですでにA剤の一部の電解質成分が過飽和の状態となっていることがある。また、A剤の供給を手動で制御する手動供給機能を有する溶解装置の場合は、上限時間を超過してA剤の供給が停止しても、電気伝導率を目標値に達させようとして操作者が手動でA剤を供給し続けてしまうことがある。この場合も、A剤が過剰に供給されてA剤の一部の電解質成分が過飽和の状態となる。このように、A剤の一部の電解質成分が過飽和の状態となると、未溶解のA剤で溶解装置内の配管(例えば出口管路20a、環流管路19)などが詰まってしまうことがある。このようにA剤で配管が詰まった場合、詰まったA剤を除去して復旧するのに時間や手間がかかる。
3.溶解動作の制御
次に、本実施例における溶解動作の制御について説明する。
本実施例では、制御部50は、溶解部61で水にA剤を溶解する溶解動作において、電気伝導率計30により検出される溶液の電気伝導率がA原液の所定のA剤濃度に応じた目標値に達する前に、該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知した場合に、ホッパー4からのA剤の供給を停止する。特に、本実施例では、制御部50は、溶解動作において、電気伝導率計30により検出される溶液の電気伝導率が上記目標値よりも低い基準値としての連続粉注停止値に達する前に、該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知した場合に、ホッパー4からのA剤の供給を停止する。ここで、本実施例では、制御部50は、溶解動作において、電気伝導率計30により検出される溶液の電気伝導率が連続粉注停止値に達した後かつ上記目標値に達する前のホッパー4からのA剤の単位時間あたりの供給量を、電気伝導率計30により検出される溶液の電気伝導率が連続粉注停止値に達する前のホッパー4からのA剤の単位時間あたりの供給量よりも小さくする。そして、制御部50は、溶解動作において該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知してホッパー4からのA剤の供給を停止した場合に、異常を報知する処理を行う。また、異常を報知する処理を行った場合、薬剤供給部63からの薬剤の供給を禁止する処理を行ってもよい。
図4は、本実施例における溶解動作の制御の手順の概略を示すフローチャートである。本実施例では、A剤の連続粉注期間中に電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知する。また、本実施例では、現在から所定時間前の所定期間における電気伝導率の最大値(Xmax)を求め、該最大値(Xmax)に対して現在の電気伝導率(X)が減少した場合(X−Xmaxの値の符号が負になった場合)に、電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したと判断する。
図4中の各記号の定義について説明する。「P」は、A原液の所定のA剤濃度に応じた電気伝導率の目標値[mS/cm]である(例えば、A剤がリンパックTA−3(ニプロ社製)の場合は194mS/cm)。「O」は、電気伝導率の目標値Pのオフセット値[mS/cm]である(例えば、リンパックTA−3の場合は−0.3mS/cm)。このオフセット値は、A剤を供給した後に電気伝導率が上昇しきるまでに一定の時間を要することから設けられている。「X」は、現在の電気伝導率の測定値[mS/cm]である。「Xmax」は、現時点の12秒前から6秒前の間の電気伝導率の最大値[mS/cm]である。「P1」は、連続的にA剤を供給する制御を停止する電気伝導率の基準値である連続粉注停止値[mS/cm]である(例えば、リンパックTA−3の場合は187mS/cm)。本実施例では、図4に示す手順(電気伝導率Xの測定)は約0.3秒間隔で実行される。ただし、この測定間隔はシーケンサの処理速度などに依存するものであり本実施例の値に限定されるものではない。「P」、「O」、「P1」は、予め制御部50の記憶部52に記憶されており、「Xmax」は、逐次制御部50のコントローラ51により求められて、制御部50の記憶部52に記憶される。
制御部50は、溶解動作を開始すると、現在の電気伝導率の測定値が目標値に達したか否か(X≧P+Oを満たすか否か)を判断する(S101)。制御部50は、S101で“No”と判断した場合、現在の電気伝導率の測定値が連続粉注停止値に達していないか否か(X<P1を満たすか否か)を判断する(S102)。制御部50は、S102で“Yes”と判断した場合、現在の電気伝導率の測定値が現在から所定時間前の所定期間における電気伝導率の最大値より小さいか否か(X<Xmaxを満たすか否か)を判断する(S103)。制御部50は、S103で“No”と判断した場合、ホッパー4の駆動モータを連続的に駆動してA剤を連続的に供給する(S104)。
一方、制御部50は、S103で“Yes”と判断した場合は、ホッパー4の駆動モータを停止させてA剤の供給を停止する(S105)。そして、制御部50は、電気伝導率が減少する異常が発生したものと判断して(S106)、該異常を報知する警報処理に移行する(S107)。警報処理では、操作部40の表示部42において、異常の原因の候補の表示を行ったり、配管などを目視で確認することを促す表示などを行ったり、配管から未溶解の粉末薬剤を除去することを促す表示を行ったりすることができる。また、警報処理は、ランプを点灯したり、ブザーやアナウンスなどの音声を発生したり、溶解装置1と通信可能に接続された外部機器(パーソナルコンピュータなど)に異常を報知するための情報を送信したりすることなどであってもよい。また、溶解装置1がA剤の手動供給機能を有している場合には、制御部50は、S107において、警報処理に加えて又は代えて、手動供給機能によるA剤の供給をできないようにする禁止処理を行うことができる。この手動供給機能によるA剤の供給の禁止は、制御部50が、例えば操作者による操作部40の入力部41における所定の入力や、配管などを目視で確認したことを示す溶解装置1の扉の開閉の検知結果などに応じて、解除するようにしてもよい。
また、制御部50は、S102で“No”と判断した場合には、ホッパー4の駆動モータの駆動を連続的な駆動から間欠的な駆動に切り替える(S108)。また、制御部50は、S101で“Yes”と判断した場合は、ホッパー4の駆動モータを停止させて、A剤の供給を終了(溶解動作を終了)させる(S109)。
なお、本実施例では、現在の電気伝導率の測定値Xと現在から所定時間前の所定期間における電気伝導率の最大値Xmaxとを比較したが、変形例として次のような方法が例示できる。例えば、8秒前と4秒前との間の最大値をM1、現在と4秒前の間の最大値をM0としたとき、M1に対してM0が減少した場合(M0−M1の値の符号が負になった場合)に、電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したと判断してもよい。また、定周期(例えば4秒ごと)に電気伝導率を測定し、その微分値の符号が負となった場合に、電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したと判断してもよい。
以上のように、本実施例では、未溶解の粉末薬剤で配管が詰まることが発生し易いA剤の連続粉注期間中に、電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知して、A剤の供給を停止することができる。これにより、A剤を過剰に供給することを防止して、未溶解のA剤で溶解装置1内の配管が詰まるなどの不具合を防止することができる。
[実施例2]
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例の溶解装置の基本的な構成及び動作は、実施例1のものと同じである。したがって、本実施例の溶解装置において、実施例1の溶解装置のものと同一又は対応する機能あるいは構成を有する要素については、実施例1と同一の符号を付して、詳しい説明は省略する。
図5は、本実施例における溶解動作の制御の手順の概略を示すフローチャートである。本実施例では、A剤の連続粉注期間中、間欠粉注期間中のいずれであるかにかかわらず、電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知する。また、本実施例では、所定時間ごとに測定した所定の数の電気伝導率の測定値の移動平均を求め、前回の移動平均(Xn−1)に対して今回の移動平均(Xn)が減少した場合(Xn−Xn−1の値の符号が負になった場合)に、電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したと判断する。
図5中の各記号の定義について説明する。「P」は電気伝導率の目標値(例えば、A剤がリンパックTA−3の場合は194mS/cm)、「O」はオフセット値(例えば、リンパックTA−3の場合は−0.3mS/cm)、「X」は現在の電気伝導率の測定値であり、それぞれ実施例1で説明したものと同じである。「P1」は電気伝導率の減少方向の判断処理を実行しない電気伝導率の値(例えば、リンパックTA−3の場合は192.0mS/cm)、「Xn」は、今回の移動平均の値[mS/cm]、「Xn−1」は、前回の移動平均の値[mS/cm]である。本実施例では、電気伝導率の測定間隔Txは4秒であり、図5に示す手順(電気伝導率の減少の確認)を行う間隔Tcは4秒である。また、本実施例では、移動平均を求める電気伝導率の測定値の数は5個である。つまり、今回の移動平均Xnは、現在、4秒前、8秒前、12秒前、16秒前の電気伝導率の測定値の平均値である。また、前回の移動平均Xn−1は、4秒前、8秒前、12秒前、16秒前、20秒前の電気伝導率の測定値の平均値である。「P」、「O」、「P1」は、予め制御部50の記憶部52に記憶されており、「Xn」、「Xn−1」は、逐次制御部50のコントローラ51により求められて、制御部50の記憶部52に記憶される。
制御部50は、溶解動作を開始すると、現在の電気伝導率の測定値が目標値に達したか否か(X≧P+Oを満たすか否か)を判断する(S201)。制御部50は、S201で“No”と判断した場合、現在の電気伝導率の測定値が電気伝導率の減少方向の判断処理を実行しない電気伝導率の値に達したか否か(X>P1を満たすか否か)を判断する(S202)。制御部50は、S202で“No”と判断した場合、電気伝導率の測定値の今回の移動平均が前回の移動平均より小さいか否か(Xn<Xn−1を満たすか否か)を判断する(S203)。制御部50は、S203で“No”と判断した場合、Xの値に応じてホッパー4の駆動モータを連続的又は間欠的(断続的)に駆動してA剤を連続的又は間欠的に供給する(S204)。
一方、制御部50は、S203で“Yes”と判断した場合は、ホッパー4の駆動モータを停止させてA剤の供給を停止する(S205)。そして、制御部50は、電気伝導率が減少する異常が発生したものと判断して(S206)、該異常を報知する警報処理に移行する(S207)。なお、実施例1で説明したのと同様に、制御部50は、S207において、警報処理に加えて又は代えて、手動供給機能によるA剤の供給をできないようにする禁止処理を行うことができる。
また、制御部50は、S202で“Yes”と判断した場合には、減少方向の判断処理をせずにXの値に応じてホッパー4の駆動モータを連続的又は間欠的に駆動してA剤を連続的又は間欠的に供給する(S204)。なお、簡略化のために、図5ではホッパー4の駆動モータを連続的に駆動する場合も間欠的に駆動する場合も同じステップとして表現している。また、制御部50は、S201で“Yes”と判断した場合は、ホッパー4の駆動モータを停止させて、A剤の供給を終了(溶解動作を終了)させる(S208)。
なお、本実施例では、電気伝導率の測定間隔は4秒、移動平均を求める電気伝導率の測定値の数は5個としたが、これらはいずれも本実施例の値に限定されるものではなく、十分な精度で、できるだけ早い時点で電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知できるように適宜設定することができる。
以上のように、本実施例では、A剤の連続粉注期間中、間欠粉注期間中のいずれであるかにかかわらず、電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知して、A剤の供給を停止することができる。これにより、より確実に、A剤を過剰に供給することを防止して、未溶解のA剤で溶解装置1内の配管が詰まるなどの不具合を防止することができる。
[他の実施例]
以上、本発明を具体的な実施例に即して説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。
上述の実施例では、溶解装置は透析液のA剤の濃厚溶液であるA原液を調製するものであったが、透析液のB剤の濃厚溶液であるB原液を調製するものであってもよい。この場合も、例えばB剤にA剤が混入した場合、あるいは電極の表面への付着物の付着により電気伝導率計の感度が低下した場合などに、電気伝導率が目標値に達しないまま、粉末薬剤を供給し続けてしまうことがある。そして、その場合に、過飽和状態となったB剤、あるいはA剤の混入により析出したB剤などの影響で、電気伝導率が目標値に達する前に該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化する。また、溶解装置はA−1剤(A剤からグルコース成分を除いたもの)とA−2剤(A剤のグルコース成分)との2剤に分かれたA剤からA原液を調製するものであってもよい。従来、A−1剤を水に溶解して所定の濃度のA−1剤溶液を調製し、その後この溶液にA−2剤を投入して所定のA−1剤、A−2剤を含有するA原液を調製する方法が公知である。この場合もA−1剤にA−2剤やB剤が混入した場合、あるいは電極の表面への付着物の付着により電気伝導率計の感度が低下した場合などに、電気伝導率が目標値に達しないまま、粉末薬剤を供給し続けてしまうことがある。そして、その場合に、過飽和状態になったA−1剤の一部の電解質成分、あるいはA−2剤の混入による非電解質成分やB剤の混入により析出したB剤など影響で、電気伝導率が目標値に達する前に該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化する。したがって、このようにB剤の溶解動作、A−1剤の溶解動作に関して本発明を適用することで、上述の実施例と同様、粉末薬剤を過剰に供給することを防止して、未溶解の粉末薬剤で溶解装置内の配管が詰まるなどの不具合を防止することができる。
また、上述の実施例では、溶液の電気伝導率が目標値に達する前に、該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知した場合に、粉末薬剤の供給を停止した。これに対し、より早期に粉末薬剤の供給を停止する観点からは、溶液の電気伝導率が目標値に達する前、かつ、該電気伝導率の変化の方向が増加方向から減少方向に変化したことを検知する前に、該電気伝導率が増加しなくなったことを検知した場合に、粉末薬剤の供給を停止するようにしてもよい。つまり、例えばA剤の溶解動作の場合、図2、図3からわかるように、A剤の一部の電解質成分が過飽和の状態になることなどにより、溶液の電気伝導率は、目標値に達する前に、増加率(粉末薬剤の供給量に対する電気伝導率の増加の割合)が低下し、増加が終了して、やがて変化の方向が減少方向となる。したがって、溶液の電気伝導率が目標値(又は目標値よりも低い連続粉注停止値などの基準値)に達する前に、溶液の電気伝導率が増加しなくなったことを検知した場合に、薬剤の供給を停止することで、より早期に粉末薬剤の供給を停止することができる。溶液の電気伝導率が増加しなくなったことは、例えば、所定期間における代表値(平均値、最大値など)の変化幅(増加幅)が所定の閾値以下になったこと、変化率(増加率)が所定の閾値以下になったことなどによって検知することができる。電気伝導率が増加しなくなるとは、完全に増加が終了することだけではなく、正常時に想定されるものよりも十分に小さい増加率となることも含む。
また、上述の実施例では、溶解装置は単独で構成され、別途用意される透析液供給装置に透析用原液を供給するものとして説明したが、本発明の溶解装置は透析液供給装置や透析装置と一体とされていたり、特定の透析液供給装置や透析装置とセットで用いられるようになっていたりしてもよい。つまり、本発明の溶解装置は透析システムの一部を構成することができる。