実施例1におけるロックアップ制御装置は、トルクコンバータと前後進切替機構とバリエータと終減速機構により構成されるベルト式無段変速機(自動変速機の一例)を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「ロックアップ制御装置の構成」、「ロックアップ容量制御系の詳細構成」、「駆動力デマンドブロックの詳細構成」、「ロックアップ容量制御処理構成」に分けて説明する。
[全体システム構成]
図1は、実施例1の自動変速機のロックアップ制御装置が適用されたエンジン車の駆動系と制御系を示す。以下、図1に基づいて全体システム構成を説明する。
エンジン車の駆動系は、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6,6と、を備えている。ここで、ベルト式無段変速機CVTは、トルクコンバータ2と前後進切替機構3とバリエータ4と終減速機構5を図外の変速機ケースに内蔵することにより構成される。
エンジン1は、ドライバーによるアクセル操作による出力トルクの制御以外に、外部からのエンジン制御信号により出力トルクを制御可能である。このエンジン1には、スロットルバルブ開閉動作や燃料カット動作等によりトルク制御を行う出力トルク制御アクチュエータ10を有する。例えば、アクセル足離し操作によるコースト走行時、燃料カット制御が実行される。
トルクコンバータ2は、トルク増幅機能やトルク変動吸収機能を有する流体継手による発進要素である。トルク増幅機能やトルク変動吸収機能を必要としないとき、エンジン出力軸11(=トルクコンバータ入力軸)とトルクコンバータ出力軸21を直結可能なロックアップクラッチ20を有する。このトルクコンバータ2は、ポンプインペラ23と、タービンランナ24と、ステータ26と、を構成要素とする。ポンプインペラ23は、エンジン出力軸11にコンバータハウジング22を介して連結される。タービンランナ24は、トルクコンバータ出力軸21に連結される。ステータ26は、変速機ケースにワンウェイクラッチ25を介して設けられる。
前後進切替機構3は、バリエータ4への入力回転方向を前進走行時の正転方向と後退走行時の逆転方向で切り替える機構である。この前後進切替機構3は、ダブルピニオン式遊星歯車30と、複数枚のクラッチプレートによる前進クラッチ31と、複数枚のブレーキプレートによる後退ブレーキ32と、を有する。前進クラッチ31は、Dレンジ等の前進走行レンジ選択時に前進クラッチ圧Pfcにより油圧締結される。後退ブレーキ32は、Rレンジ等の後退走行レンジ選択時に後退ブレーキ圧Prbにより油圧締結される。なお、前進クラッチ31と後退ブレーキ32は、Nレンジ(ニュートラルレンジ)の選択時には、前進クラッチ圧Pfcと後退ブレーキ圧Prbをドレーンすることでいずれも解放される。
バリエータ4は、プライマリプーリ42と、セカンダリプーリ43と、プーリベルト44と、を有し、ベルト接触径の変化により変速比(バリエータ入力回転とバリエータ出力回転の比)を無段階に変化させる無段変速機能を備える。プライマリプーリ42は、バリエータ入力軸40の同軸上に配された固定プーリ42aとスライドプーリ42bにより構成され、スライドプーリ42bはプライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppriによりスライド動作する。セカンダリプーリ43は、バリエータ出力軸41の同軸上に配された固定プーリ43aとスライドプーリ43bにより構成され、スライドプーリ43bはセカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psecによりスライド動作する。プーリベルト44は、プライマリプーリ42のV字形状をなすシーブ面と、セカンダリプーリ43のV字形状をなすシーブ面とに掛け渡されている。このプーリベルト44は、環状リングを内から外へ多数重ね合わせた2組の積層リングと、打ち抜き板材により形成され、2組の積層リングに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメントにより構成されている。なお、プーリベルト44としては、プーリ進行方向に多数配列したチェーンエレメントを、プーリ軸方向に貫通するピンにより結合したチェーンタイプのベルトであっても良い。
終減速機構5は、バリエータ出力軸41からのバリエータ出力回転を減速すると共に差動機能を与えて左右の駆動輪6,6に伝達する機構である。この終減速機構5は、減速ギヤ機構として、バリエータ出力軸41に設けられたアウトプットギヤ52と、アイドラ軸50に設けられたアイドラギヤ53及びリダクションギヤ54と、デフケースの外周位置に設けられたファイナルギヤ55と、を有する。そして、差動ギヤ機構として、左右のドライブ軸51,51に介装されたディファレンシャルギヤ56を有する。
エンジン車の制御系は、図1に示すように、油圧制御ユニット7と、CVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9と、を備えている。電子制御系であるCVTコントロールユニット8とエンジンコントロールユニット9は、互いの情報を交換可能なCAN通信線13により接続されている。
油圧制御ユニット7は、プライマリ圧室45に導かれるプライマリ圧Ppri、セカンダリ圧室46に導かれるセカンダリ圧Psec、前進クラッチ31への前進クラッチ圧Pfc、後退ブレーキ32への後退ブレーキ圧Prb、等を調圧するユニットである。この油圧制御ユニット7は、走行用駆動源であるエンジン1により回転駆動されるオイルポンプ70と、オイルポンプ70からの吐出圧に基づいて各種の制御圧を調圧する油圧制御回路71と、を備える。油圧制御回路71には、ライン圧ソレノイド弁72と、プライマリ圧ソレノイド弁73と、セカンダリ圧ソレノイド弁74と、セレクトソレノイド弁75と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を有する。なお、各ソレノイド弁72,73,74,75,76は、CVTコントロールユニット8から出力される制御指令値(指示電流)によって調圧動作を行う。
ライン圧ソレノイド弁72は、CVTコントロールユニット8から出力されるライン圧指令値に応じ、オイルポンプ70からの吐出圧を、指令されたライン圧PLに調圧する。このライン圧PLは、各種の制御圧を調圧する際の元圧であり、駆動系を伝達するトルクに対してベルト滑りやクラッチ滑りを抑える油圧とされる。
プライマリ圧ソレノイド弁73は、CVTコントロールユニット8から出力されるプライマリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたプライマリ圧Ppriに減圧調整する。セカンダリ圧ソレノイド弁74は、CVTコントロールユニット8から出力されるセカンダリ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令されたセカンダリ圧Psecに減圧調整する。
セレクトソレノイド弁75は、CVTコントロールユニット8から出力される前進クラッチ圧指令値又は後退ブレーキ圧指令値に応じ、ライン圧PLを元圧として指令された前進クラッチ圧Pfc又は後退ブレーキ圧Prbに減圧調整する。
ロックアップ圧ソレノイド弁76は、CVTコントロールユニット8から出力される指示電流Aluに応じ、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するLU指示圧Pluに調圧する。
CVTコントロールユニット8は、ライン圧制御や変速制御や前後進切替制御やロックアップ制御、等を行う。ライン圧制御では、アクセル開度等に応じた目標ライン圧を得る指令値をライン圧ソレノイド弁72に出力する。変速制御では、目標変速比(目標プライマリ回転Npri*)を決めると、決めた目標変速比(目標プライマリ回転数Npri*)を得る指令値をプライマリ圧ソレノイド弁73及びセカンダリ圧ソレノイド弁74に出力する。前後進切替制御では、選択されているレンジ位置に応じて前進クラッチ31と後退ブレーキ32の締結/解放を制御する指令値をセレクトソレノイド弁75に出力する。ロックアップ制御では、ロックアップクラッチ20を締結/スリップ締結/解放するLU指示圧Pluを制御する指示電流Aluをロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。
CVTコントロールユニット8には、プライマリ回転センサ90、車速センサ91、セカンダリ圧センサ92、油温センサ93、インヒビタスイッチ94、ブレーキスイッチ95、タービン回転センサ96、等からの情報が入力される。これ以外に、セカンダリ回転センサ97、プライマリ圧センサ98、走行モード選択スイッチ99、カーナビゲーションシステム100、等からの情報が入力される。なお、走行モード選択スイッチ99は、ドライバーによる選択操作により「エコモード」と「スポーツモード」を選択するスイッチであり、選択されている走行モード情報が入力される。カーナビゲーションシステム100は、目的地までの自車の走行経路を誘導案内するシステムであり、自車位置を示す地図情報が入力される。
エンジンコントロールユニット9には、エンジン回転センサ12、アクセル開度センサ14、等からのセンサ情報が入力される。CVTコントロールユニット8は、エンジン回転情報やアクセル開度情報をエンジンコントロールユニット9へリクエストすると、CAN通信線13を介し、エンジン回転数Neやアクセル開度APOの情報を受け取る。さらに、エンジントルク情報をエンジンコントロールユニット9へリクエストすると、CAN通信線13を介し、エンジンコントロールユニット9において推定演算されるエンジントルクTeの情報を受け取る。
図2は、Dレンジ選択時に自動変速モードでの無段変速制御をバリエータ4により実行する際に用いられるDレンジ無段変速スケジュールの一例を示す。
「Dレンジ変速モード」は、車両運転状態に応じて変速比を自動的に無段階に変更する自動変速モードである。「Dレンジ変速モード」での変速制御は、車速VSP(車速センサ91)とアクセル開度APO(アクセル開度センサ14)により特定される図2のDレンジ無段変速スケジュール上での運転点(VSP,APO)により、目標プライマリ回転数Npri*を決める。そして、プライマリ回転センサ90からの実プライマリ回転数Npriを、目標プライマリ回転数Npri*に一致させるプーリ油圧のフィードバック制御により行われる。
即ち、「Dレンジ変速モード」で用いられるDレンジ無段変速スケジュールは、図2に示すように、運転点(VSP,APO)に応じて最Low変速比と最High変速比による変速比幅の範囲内で変速比を無段階に変更するように設定されている。例えば、車速VSPが一定のときは、アクセル踏み込み操作を行うと目標プライマリ回転数Npri*が上昇してダウンシフト方向に変速し、アクセル戻し操作を行うと目標プライマリ回転数Npri*が低下してアップシフト方向に変速する。アクセル開度APOが一定のときは、車速VSPが上昇するとアップシフト方向に変速し、車速VSPが低下するとダウンシフト方向に変速する。
[ロックアップ制御装置の構成]
図3は、実施例1のロックアップ制御装置を示す。以下、図3に基づいてロックアップ制御装置の概要構成を説明する。なお、ロックアップを“LU”と略称し、フィードフォワードを“F/F”と略称し、フィードバックを“F/B”と略称する。
ロックアップ制御装置が適用される駆動系は、図3に示すように、エンジン1(走行用駆動源)と、ロックアップクラッチ20を有するトルクコンバータ2と、前後進切替機構3と、バリエータ4と、終減速機構5と、駆動輪6と、を備えている。
ロックアップ制御装置が適用される制御系は、図3に示すように、CVTコントロールユニット8と、エンジンコントロールユニット9と、ロックアップ圧ソレノイド弁76と、を備えている。CVTコントロールユニット8には、様々な要求入力に応じてロックアップクラッチ20のクラッチ状態を、締結状態/スリップ締結状態/解放状態とする統合ロックアップ制御を行うロックアップ制御部80が設けられている。
CVTコントロールユニット8には、ロックアップ制御部80以外に、走行シーン判断部8aと、運転状態判断部8bとを有する。走行シーン判断部8aは、ナビゲーション情報(地図情報や自車位置情報)に基づいて市街地走行や郊外値走行等の自車の走行シーンを判断し、走行シーン判断情報をロックアップ制御部80へ出力する。運転状態判断部8bは、ドライバーの運転操作監視(アクセル操作やブレーキ操作等を監視する学習制御)に基づいて運転状態(ドライバー特性)を判断し、運転状態判断情報をロックアップ制御部80へ出力する。
ロックアップ制御部80での統合ロックアップ制御は、要求駆動力としての余裕駆動力Fd*を推定し、駆動輪6へ出力される実駆動力Fdが余裕駆動力Fd*に収束するようにロックアップクラッチ20のロックアップ容量制御を行う点を特徴とする。その際、ロックアップ容量制御でのコントロール性を高めるために、余裕駆動力Fd*を目標エンジン回転数Ne*に変換する。この目標エンジン回転数Ne*に実エンジン回転数Neを収束させる制御(F/F制御+F/B制御)を実行することでコンバータトルクTcnvを演算する。そして、図3に示すように、Tadj=Tcnv+Tluの関係が成り立つことで、ロックアップクラッチ20の目標LUトルクTlu*を算出し、目標LUトルクTlu*を得る指示電流Aluをロックアップ圧ソレノイド弁76に出力する。このように、目標エンジン回転数Ne*を得るようにトルクコンバータ2のトルク比を制御することで、ロックアップクラッチ20のロックアップ容量制御において、要求駆動力としての余裕駆動力Fd*を達成するようにしている。
図4は、CVTコントロールユニット8のロックアップ制御部80を構成する各ブロックを示す。以下、図4に基づいてロックアップ制御部80のブロック構成を説明する。
ロックアップ制御部80は、図4に示すように、駆動力デマンドブロック81と、要求調停ブロック82と、目標算出ブロック83と、トルク容量演算ブロック84と、実現ブロック85と、を有する。ここで、駆動力デマンドブロック81は、要求駆動力決定部に相当する。目標算出ブロック83、トルク容量演算ブロック84、実現ブロック85は、ロックアップ容量制御部に相当する。
駆動力デマンドブロック81は、要求駆動力を、エンジン駆動力Fdeにトルクコンバータ2のトルク増幅機能による余裕駆動率Dを掛け合わせた余裕駆動力Fd*としている。そして、余裕駆動率Dを、同じ運転状態(運転点(VSP,APO)が同じ状態をいう。)であっても要求入力に応じて可変値により与えるようにしている。さらに、余裕駆動力Fd*を目標エンジン回転数Ne*に変換することで、目標エンジン回転数Ne*のプロファイルを演算する。そして、駆動力デマンドブロック81からは、目標エンジン回転数Ne*と共に、締結要求フラグや解放要求フラグを出力する。
要求調停ブロック82は、駆動力デマンドブロック81からの締結要求フラグと解放要求フラグを入力し、各種要求からロックアップ要求を演算し、要求を調停して優先順位を決める。各種要求としては、基本要求、DP要求(DPはDriving pleasureの略)、運転性要求、保護要求、FS要求(FSはFail Safeの略)、技術限界要求、ほかのシステム要求、コーストスリップ要求、等がある。要求調停により要求調停ブロック82からは、即解放要求フラグや解放要求フラグやスリップ要求フラグや締結要求フラグ等を出力する。
目標算出ブロック83は、要求調停ブロック82からの即解放要求フラグ・解放要求フラグ・スリップ要求フラグ・締結要求フラグ等を入力し、これらのLU要求から差回転目標として目標差回転数ΔN*を演算する。この目標算出ブロック83にて締結差回転目標や解放差回転目標を算出するとき、駆動力デマンドブロック81により演算された目標エンジン回転数Ne*を入力する。なお、差回転目標については、予め設定された目標スリップ回転数特性や演算により設定される目標スリップ回転数特性を用いる。
トルク容量演算ブロック84は、目標算出ブロック83から目標差回転数ΔN*とタービン回転数Ntと実エンジン回転数Ne等を入力する。そして、補正エンジントルクTadjの演算とコンバータトルクTcnvの演算(F/F制御+F/B制御)により、目標差回転数ΔN*を実現する指示トルク(目標LUトルクTlu*)を演算する。
実現ブロック85は、トルク容量演算ブロック84から目標LUトルクTlu*を入力し、目標LUトルクTlu*をLU指示圧Pluに変換し、さらに、LU指示圧Pluを指示電流Aluに変換する。
[ロックアップ容量制御系の詳細構成]
図5は、ロックアップ制御部80に有するロックアップ容量制御系を構成する目標算出ブロック83とトルク容量演算ブロック84と実現ブロック85を示す。以下、図5に基づいてロックアップ容量制御系の詳細構成を説明する。
目標算出ブロック83は、先読みタービン回転数算出器83aと、第1差分器83bを有する。先読みタービン回転数算出器83aは、バリエータ4の先読み変速比とセカンダリ回転センサ97からのセカンダリ回転数Nsecを入力し、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償する先読みタービン回転数Ntpreを算出する。なお、バリエータ4の先読み変速比は、そのときの変速比と変速比進行速度と油圧応答遅れ時間を用い、油圧応答遅れ時間を経過したときに到達するであろうと推定される変速比とする。
第1差分器83bは、駆動力デマンドブロック81により算出された目標エンジン回転数Ne*と先読みタービン回転数算出器83aにより算出された先読みタービン回転数Ntpreの差により目標差回転数ΔN*を算出する。
トルク容量演算ブロック84は、先読み分エンジントルク算出器84aと、第1加算器84bと、ポンプ負荷トルク算出器84cと、第2差分器84dを補正エンジントルク演算エリア841に有する。
先読み分エンジントルク算出器84aは、アクセル開度APOと実エンジン回転数Neを入力し、エンジン全性能マップを用いて現時点のエンジントルクから油圧応答遅れ時間までに変動すると推定される先読み分エンジントルクΔTepreを算出する。なお、現時点のエンジントルクは、現時点のアクセル開度APOと実エンジン回転数Neとエンジン全性能マップにより取得される。先読み分エンジントルクΔTepreは、アクセル開度APOや実エンジン回転数Neの変化速度と油圧応答遅れ時間を用い、現時点から油圧応答遅れ時間を経過するまでのエンジントルクの変化幅(正又は負)とする。
第1加算器84bは、エンジンコントロールユニット9から取得したエンジントルクTeと先読み分エンジントルク算出器84aからの先読み分エンジントルクΔTepreを加算することで、先読みエンジントルクTepreを算出する。
ポンプ負荷トルク算出器84cは、エンジン1により回転駆動されるときのオイルポンプ70による負荷トルクであるポンプ負荷トルクTopを算出する。
第2差分器84dは、第1加算器84bにより算出された先読みエンジントルクTepreとポンプ負荷トルク算出器84cにより算出されたポンプ負荷トルクTopの差により補正エンジントルクTadj(=Tepre−Top)を算出する。
トルク容量演算ブロック84は、F/F補償器84eと、第3差分器84fと、第4差分器84gと、F/B補償器84hと、最小値選択器84iと、第2加算器84jをコンバータトルク演算エリア842に有する。
F/F補償器84eは、第1差分器83bからの目標差回転数ΔN*(=目標スリップ回転数)を入力し、目標差回転数ΔN*に応じたコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffを算出する。
第3差分器84fは、エンジン回転センサ12からの実エンジン回転数Neと、先読みタービン回転数算出器83aにより算出された先読みタービン回転数Ntpreを入力する。そして、実エンジン回転数Neと先読みタービン回転数Ntpreの差により実差回転数ΔNを算出する。
第4差分器84gは、第1差分器83bからの目標差回転数ΔN*(=目標スリップ回転数)と、第3差分器84fからの実差回転数ΔN(=実スリップ回転数)を入力する。そして、目標差回転数ΔN*と実差回転数ΔNの差により差回転数偏差δを算出する。
F/B補償器84hは、第4差分器84gからの差回転数偏差δを入力し、差回転数偏差δに応じたコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を、PIフィードバック制御(P:比例、I:積分)により算出する。このF/B補償器84hは、要求調停ブロック82にてコーストスリップ制御の開始条件の成立によりコーストスリップ要求があると、それまでのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を初期値にリセットする。
最小値選択器84iは、F/B補償器84hからのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)と、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxを入力する。そして、最小値選択によりコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを出力する。
ここで、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxは、
Tcnv_max=Tadj−Tcnv_ff−K(K:固定値) …(1)
であらわされる式(1)、つまり、補正エンジントルクTadjとコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffに応じた可変トルク値で与える。なお、固定値Kは、ロックアップクラッチ20のスリップ締結シーンのときに目標LUトルクTlu*の上昇を促す上限トルク値Tcnv_maxになるように設定する。しかし、固定値Kを低過ぎるトルク値に設定した場合、コンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと固定値Kの和により、トルクコンバータ2への入力トルクである補正エンジントルクTadjを超えないことがある。つまり、ロックアップクラッチ20のスリップ解放シーンのときに目標LUトルクTlu*がゼロとはならず、ロックアップクラッチ20を解放することができない。よって、固定値Kは、ロックアップクラッチ20のスリップ解放シーンを考慮し、コンバータトルクF/F補償分との和により、トルクコンバータ2への入力トルクである補正エンジントルクTadjを超え得るトルク値のうち最小域の値に設定する。
第2加算器84jは、F/F補償器84eからのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと最小値選択器84iからのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを加算し、コンバータトルクTcnvを算出する。
トルク容量演算ブロック84は、補正エンジントルク演算エリア841とコンバータトルク演算エリア842の外部に第5差分器84kを有する。第5差分器84kは、第2差分器84dからの補正エンジントルクTadjと、第2加算器84jからのコンバータトルクTcnvを差し引いて目標LUトルクTlu*を算出する。
実現ブロック85は、トルク→油圧変換器85aと油圧→電流変換器85bを有する。トルク→油圧変換器85aは、トルク容量演算ブロック84から入力される目標LUトルクTlu*をLU指示圧Pluに変換する。油圧→電流変換器85bは、トルク→油圧変換器85aから入力されたLU指示圧Pluを指示電流Aluに変換する。
[駆動力デマンドブロックの詳細構成]
図6及び図7は、ロックアップ制御部80に有する駆動力デマンドブロック1,駆動力デマンドブロック2を示す。以下、図6及び図7に基づいて駆動力デマンドブロック81の詳細構成を説明する。
駆動力デマンドブロック81は、要求入力器81aと、走行抵抗推定器81bと、エンジン駆動力算出器81cと、第1余裕駆動率算出器81dと、第2余裕駆動率算出器81eと、余裕駆動率算出器81fと、乗算器81gと、を有する。そして、最大値選択器81hと、第1除算器81iと、余裕駆動力不感帯処理器81jと、トルク比→速度比変換器81kと、目標エンジン回転数上限算出器81mと、第2除算器81nと、最小値選択器81pと、目標エンジン回転数選択器81qと、を有する。
要求入力器81aは、要求入力に基づいて第1余裕駆動率D1と第2余裕駆動率D2の分配比α,βを決める。決めた分配比α,βは余裕駆動率算出器81fへ出力する。
ここで、要求入力には、ドライバー要求入力とシステム要求入力とがある。ドライバー要求入力は、ドライバーの走行モードの選択操作により取得される走行モード選択情報によるものである。システム要求入力は、ナビゲーション情報に基づいて判断される走行シーン判断情報、又は、ドライバーの運転操作監視に基づいて判断される運転状態判断情報によるものである。
走行抵抗推定器81bは、路面勾配θと車速VSPとアクセル開度APOを入力し、路面勾配θと車速VSPに対する走行抵抗の関係特性を用いて走行抵抗推定値を算出する。算出された走行抵抗推定値は、最大値選択器81hへ出力する。
エンジン駆動力算出器81cは、アクセル開度APOとバリエータ4のプライマリ回転数Npriを入力し、アクセル開度APOをパラメータとするエンジン駆動力マップを用いてエンジン駆動力Fdeを算出する。算出されたエンジン駆動力Fdeは、乗算器81gと第1除算器81iへ出力する。
第1余裕駆動率算出器81dは、車速VSPとアクセル開度APOを入力し、タイト余裕駆動率特性(図9)を用いて第1余裕駆動率D1を算出する。算出された第1余裕駆動率D1は、余裕駆動率算出器81fへ出力する。
第2余裕駆動率算出器81eは、車速VSPとアクセル開度APOを入力し、ルーズ余裕駆動率特性(図10)を用いて第2余裕駆動率を算出する。算出された第2余裕駆動率D2は、余裕駆動率算出器81fへ出力する。
余裕駆動率算出器81fは、要求入力器81aからの分配比α,βと、第1余裕駆動率算出器81dからの第1余裕駆動率D1と、第2余裕駆動率算出器81eからの第2余裕駆動率D2とを入力する。そして、第1余裕駆動率D1と第2余裕駆動率D2を分配比α,βによる分配処理を行って余裕駆動率Dを算出する。算出された余裕駆動率Dは、乗算器81gへ出力する。
乗算器81gは、余裕駆動率算出器81fからの余裕駆動率Dと、エンジン駆動力算出器81cからのエンジン駆動力Fdeとを入力し、(エンジン駆動力Fde×余裕駆動率D)という計算式により余裕駆動力計算値を算出する。算出された余裕駆動力計算値は、最大値選択器81hへ出力する。
最大値選択器81hは、走行抵抗推定器81bからの走行抵抗推定値と、乗算器81gからの余裕駆動力計算値とを入力し、2つの値のうち最大値を選択してこれを余裕駆動力Fd*とする。選択された余裕駆動力Fd*は、第1除算器81iへ出力する。
第1除算器81iは、最大値選択器81hからの余裕駆動力Fd*と、エンジン駆動力算出器81cからのエンジン駆動力Fdeとを入力し、(余裕駆動力Fd*÷エンジン駆動力Fde)の式によりトルクコンバータ2のトルク比tを算出する。算出されたトルク比tと余裕駆動力Fd*は、余裕駆動力不感帯処理器81jへ出力する。
余裕駆動力不感帯処理器81jは、第1除算器81iからの余裕駆動力Fd*を入力し、余裕駆動力Fd*に対して不感帯処理を施し、不感帯処理後の余裕駆動力Fd*に基づいて最終のトルク比tを算出する。余裕駆動力不感帯処理器81jで算出されたトルク比tは、トルク比→速度比変換器81kへ出力する。
トルク比→速度比変換器81kは、余裕駆動力不感帯処理器81jからのトルク比tを入力し、トルクコンバータ2のトルクコンバータ性能特性を用いてトルク比tに対応する速度比eの値に変換する。トルク比→速度比変換器81kで変換された速度比eは、第2除算器81nへ出力する。
目標エンジン回転数上限算出器81mは、プライマリ回転数NpriとエンジントルクTeと油温と目標ライン圧を入力し、目標エンジン回転数上限値Nemax*を算出する。この目標エンジン回転数上限値を算出する場合、タービン回転数Ntより高い回転数(例えば、タービン回転数Ntより200rpm高い回転数)から探索する。算出された目標エンジン回転数上限値Nemax*は、最小値選択器81pへ出力する。
第2除算器81nは、プライマリ回転数Npriとトルク比→速度比変換器81kからの速度比eを入力し、(Npri÷e)の計算式により目標エンジン回転数1(Ne1*)を算出する。算出された目標エンジン回転数1(Ne1*)は、最小値選択器81pへ出力する。
ここで、速度比eは、e=Nt/Neの式であらわされるため、Ne=Nt/eとなる。そして、前進クラッチ31の締結時にはタービン回転数Nt=プライマリ回転数Npriであるため、(Npri÷e)の計算式により目標エンジン回転数1(Ne1*)を算出できる。
最小値選択器81pは、目標エンジン回転数上限算出器81mからの目標エンジン回転数上限値Nemax*と、第2除算器81nからの目標エンジン回転数1(Ne1*)とを入力し、最小値選択により目標エンジン回転数2(Ne2*)を算出する。算出された目標エンジン回転数2(Ne2*)は、目標エンジン回転数選択器81qへ出力される。
目標エンジン回転数選択器81qは、エンジン回転センサ12により検出されたエンジン回転数Neと、Rレンジの目標エンジン回転数(NeR*)と、最小値選択器81pからの目標エンジン回転数2(Ne2*)とを入力する。そして、選択入力に基づいて選択された目標エンジン回転数が最終の目標エンジン回転数Ne*とされる。
例えば、前進走行レンジの選択時であって、ロックアップクラッチ20が完全締結状態を維持し、トルクコンバータ2でのトルク増幅機能が発揮されない走行シーンでは、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数Ne*とされる。Rレンジ選択時は、別途算出されるRレンジでの目標エンジン回転数(NeR*)が目標エンジン回転数Ne*とされる。前進走行レンジの選択時であって、ロックアップクラッチ20が完全締結状態以外の走行シーンでは、目標エンジン回転数2(Ne2*)が目標エンジン回転数Ne*とされる。
[ロックアップ容量制御処理構成]
図8は、実施例1のCVTコントロールユニット8のロックアップ制御部80にて実行されるロックアップ容量制御処理の流れを示す。以下、図8の各ステップについて説明する。なお、この処理は、所定の制御周期により繰り返し処理動作が行われる。
ステップS1では、スタートに続き、先読みタービン回転数Ntpreを算出し、ステップS2へ進む。
ここで、先読みタービン回転数Ntpreとは、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償するタービン回転数である。先読みタービン回転数Ntpreは、先読みタービン回転数算出器83aにおいて、バリエータ4の先読み変速比とセカンダリ回転センサ97からのセカンダリ回転数Nsecに基づいて算出される。
ステップS2では、ステップS1での先読みタービン回転数Ntpreの算出に続き、先読みエンジントルクTepreを算出し、ステップS3へ進む。
ここで、先読みエンジントルクTepreとは、ロックアップ油圧制御での油圧応答遅れ分を補償するエンジントルクである。先読みエンジントルクTepreは、先読み分エンジントルク算出器84aと第1加算器84bにおいて、エンジンコントロールユニット9から取得したエンジントルクTeと先読み分エンジントルクΔTepreを加算することで算出される。
ステップS3では、ステップS2での先読みエンジントルクTepreの算出に続き、補正エンジントルクTadjを算出し、ステップS4へ進む。
ここで、補正エンジントルクTadjとは、トルクコンバータ2に入力されるエンジントルクである。補正エンジントルクTadjは、第2差分器84dにおいて、先読みエンジントルクTepreとポンプ負荷トルクTopの差により算出される。
ステップS4では、ステップS3での補正エンジントルクTadjの算出に続き、目標差回転数ΔN*に基づいて、目標差回転数ΔN*に応じたコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffを算出し、ステップS5へ進む。
ここで、「コンバータトルクF/F補償分Tcnv_ff」は、目標差回転数ΔN*(=目標エンジン回転数Ne*−先読みタービン回転数Ntpre)を入力するF/F補償器84eにおいて、目標差回転数ΔN*に収束させるロックアップトルクのF/F補償分として算出される。
ステップS5では、ステップS4でのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffの算出に続き、差回転数偏差δに基づいて、差回転数偏差δに応じたコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を算出し、ステップS6へ進む。
ここで、「差回転数偏差δ」は、目標差回転数ΔN*と実差回転数ΔN(=Ne−Ntpre)の差により算出される。そして、コーストスリップ要求があると、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)は、F/B補償器84hにおいて、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)を初期値にリセットし、実差回転数ΔNを目標差回転数ΔN*に一致させるコンバータトルクF/B補償分として算出が開始される。
ステップS6では、ステップS5でのコンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)の算出に続き、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)が、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_max以下であるか否かを判断する。YES(Tcnv_fb(c)≦Tcnv_max)の場合はステップS7へ進み、NO(Tcnv_fb(c)>Tcnv_max)の場合はステップS8へ進む。
ステップS7では、ステップS6でのTcnv_fb(c)≦Tcnv_maxであるとの判断に続き、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを、コンバータトルクF/B補償分計算値Tcnv_fb(c)とし、ステップS9へ進む。
ステップS8では、ステップS6でのTcnv_fb(c)>Tcnv_maxであるとの判断に続き、コンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを、コンバータトルクF/B補償分の上限トルク値Tcnv_maxとし、ステップS9へ進む。
ここで、ステップS6〜ステップS8によるコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの選択は、最小値選択器84iにおいて行われる。
ステップS9では、ステップS7又はステップS8でのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbの設定に続き、コンバータトルクTcnvを算出し、ステップS10へ進む。
ここで、コンバータトルクTcnvは、F/F補償器84eからのコンバータトルクF/F補償分Tcnv_ffと、最小値選択器84iからのコンバータトルクF/B補償分Tcnv_fbを加算することで算出される。
ステップS10では、ステップS9でのコンバータトルクTcnvの算出に続き、目標LUトルクTlu*を算出し、ステップS11へ進む。
ここで、目標LUトルクTlu*は、第5差分器84kにおいて、ステップS3にて算出された補正エンジントルクTadjから、ステップS9にて算出されたコンバータトルクTcnvを差し引くことで算出する。
ステップS11では、ステップS10での目標LUトルクTlu*の算出に続き、トルク→油圧変換器85aにおいて、目標LUトルクTlu*をLU指示圧Pluに変換し、ステップS12へ進む。
ステップS12では、ステップS11でのLU指示圧Pluへの変換に続き、油圧→電流変換器85bにおいて、LU指示圧Pluを指示電流Aluに変換し、ステップS13へ進む。
ステップS13では、ステップS12での指示電流Aluへの変換に続き、ロックアップ圧ソレノイド弁76へ指示電流Aluを出力し、エンドへ進む。
次に、実施例1の作用を、「ロックアップ容量制御の課題と課題解決方法」、「駆動力デマンドブロックでの目標エンジン回転数算出作用」、「要求入力による余裕駆動率の可変設定作用」に分けて説明する。
[ロックアップ容量制御の課題と課題解決方法]
従来のロックアップ容量制御では、ロックアップ締結の開始ポイントとなるロックアップ開始車速を、アクセル開度・車速・回転・トルク・レンジ情報・ギヤ段等の多種のパラメータを用いて、車種毎に設定していた。そして、発進シーン等において、車速がロックアップ開始車速になると、ロックアップクラッチのスリップ締結を開始していた。
しかし、従来のロックアップ容量制御は、多種のパラメータでロックアップ締結の開始ポイントを判定する制御となっていたため、ロックアップ開始車速を設定する際、確認工数がかかるし、設定ミスが多発する、という課題があった。即ち、多種のパラメータ条件で実機確認が必要となり、車両メーカの要求である車両性能に対し、1つのロックアップ開始車速を代用として設定していたため、チューニングしながら車両性能の確認を行うことになり、実験工数も膨大となっていた。
(A)上記課題を解決するためには、車両メーカの要求である車両性能をロックアップ容量制御でダイレクトに表現することが必要と考えた。そこで、車両の駆動力特性・走行抵抗特性をロックアップ容量制御に使用することとした。
(B)ロックアップ容量制御に要求される駆動力を推定するため、トルクコンバータのトルク比が寄与する速度比が1以下のときのトルク増幅特性を導入することを考えた。そこで、要求駆動力として、エンジン駆動力とトルク増幅分により実現される余裕駆動率とを掛け合わせた余裕駆動力を用いることとした。
(C)動力性能重視による走行モードや走行シーンか燃費性能重視による走行モードや走行シーンかによって要求駆動力(=余裕駆動力)を変える必要がある。そこで、ドライバー要求入力やシステム要求入力に応じて余裕駆動率を可変にすることとした。
(D)要求入力によって余裕駆動率を可変にする場合、個々の要求入力について対応するには多数の余裕駆動率特性マップが必要である。そこで、余裕駆動率特性マップとして、動力性能重視マップと燃費性能重視マップの2つのマップを用意し、中間的な性能要求に対しては、余裕駆動率の分配比により対応することとした。
(E)ロックアップ容量制御でコントロールできる形にするため、余裕駆動力を目標エンジン回転数とする必要がある。そこで、トルクコンバータの性能特性をベースとして、トルク比を速度比に変換する。そして、速度比をタービン回転数(=プライマリ回転数:前進クラッチ締結時)で割ることで、目標エンジン回転数を算出することとした。
[駆動力デマンドブロックでの目標エンジン回転数算出作用]
以下、図6及び図7に基づいて駆動力デマンドブロック81での目標エンジン回転数Ne*の算出作用を説明する。
余裕駆動率算出器81fでは、要求入力器81aからの分配比α,βと、第1余裕駆動率算出器81dからの第1余裕駆動率D1と、第2余裕駆動率算出器81eからの第2余裕駆動率D2とが入力される。そして、第1余裕駆動率D1と第2余裕駆動率D2を分配比α,βによる分配処理を行って余裕駆動率Dが算出される。
乗算器81gでは、余裕駆動率算出器81fからの余裕駆動率Dと、エンジン駆動力算出器81cからのエンジン駆動力Fdeとが入力される。そして、(エンジン駆動力Fde×余裕駆動率D)という計算式により余裕駆動力計算値が算出される。
最大値選択器81hでは、走行抵抗推定器81bからの走行抵抗推定値と、乗算器81gからの余裕駆動力計算値とが入力される。そして、2つの値のうち最大値を選択し、選択した値が余裕駆動力Fd*とされる。
第1除算器81iでは、最大値選択器81hからの余裕駆動力Fd*と、エンジン駆動力算出器81cからのエンジン駆動力Fdeとが入力される。そして、(余裕駆動力Fd*÷エンジン駆動力Fde)の式によりトルクコンバータ2のトルク比tが算出される。
余裕駆動力不感帯処理器81jでは、第1除算器81iからの余裕駆動力Fd*が入力される。そして、余裕駆動力Fd*に対して不感帯処理を施し、不感帯処理後の余裕駆動力Fd*に基づいて最終のトルク比tが算出される。
トルク比→速度比変換器81kでは、余裕駆動力不感帯処理器81jからのトルク比tが入力される。そして、トルクコンバータ2のトルクコンバータ性能特性を用いてトルク比tに対応する速度比eの値に変換される。
第2除算器81nでは、プライマリ回転数Npriとトルク比→速度比変換器81kからの速度比eが入力される。そして、(Npri÷e)の計算式により目標エンジン回転数1(Ne1*)が算出される。
最小値選択器81pでは、目標エンジン回転数上限算出器81mからの目標エンジン回転数上限値Nemax*と、第2除算器81nからの目標エンジン回転数1(Ne1*)とが入力される。そして、最小値選択により目標エンジン回転数2(Ne2*)が算出される。
目標エンジン回転数選択器81qでは、エンジン回転センサ12により検出されたエンジン回転数Neと、Rレンジの目標エンジン回転数(NeR*)と、最小値選択器81pからの目標エンジン回転数2(Ne2*)とが入力される。そして、選択入力に基づいて選択された目標エンジン回転数が最終の目標エンジン回転数Ne*とされる。
このように、駆動力デマンドブロック81では、第1余裕駆動率D1と第2余裕駆動率D2を分配比α,βによる分配処理を行って余裕駆動率Dが算出されると、(エンジン駆動力Fde×余裕駆動率D)という計算式により余裕駆動力計算値が算出される。そして、余裕駆動力計算値≧走行抵抗推定値の場合、余裕駆動力計算値が余裕駆動力Fd*とされる。
余裕駆動力Fd*は、トルクコンバータ2のトルク比tに置き換えられ、さらに、トルク比tは、トルクコンバータ性能特性を用いてトルク比tに対応する速度比eの値に変換される。そして、余裕駆動力Fd*が、ロックアップ容量制御でコントロールできる目標エンジン回転数Ne*に変換される。
[要求入力による余裕駆動率の可変設定作用]
図9は、駆動力デマンドブロック81で用いられる余裕駆動率特性マップ(タイト)の一例を示し、図10は、駆動力デマンドブロック81で用いられる余裕駆動率特性マップ(ルーズ)の一例を示す。以下、図9及び図10に基づいて、要求入力による余裕駆動率の可変設定作用を説明する。
余裕駆動率特性マップ(タイト)と余裕駆動率特性マップ(ルーズ)は、発進時に解放状態のロックアップクラッチ20を滑らかに締結するスムースLU制御を意図して設定したものである。何れの余裕駆動率特性マップも、アクセル開度APOをパラメータとして車速VSPの上昇に対して余裕駆動率D1,D2が低下する特性に設定されている。
しかし、タイト余裕駆動率特性(第1余裕駆動率特性)は、車速VSPの上昇に対する第1余裕駆動率D1の低下勾配が急勾配に設定されている。つまり、アクセル開度APO1のときに停車時の第1余裕駆動率=2.0から第2車速VSP2で第1余裕駆動率=1.0(完全LU)まで低下する設定となっている。これに対し、ルーズ余裕駆動率特性(第2余裕駆動率特性)は、タイト余裕駆動率特性に比べて車速VSPの上昇に対する第2余裕駆動率D2の低下勾配を緩やかに設定されていている。つまり、アクセル開度APO1のときに停車時の第2余裕駆動率=2.0から第3車速VSP3(>VSP2)で第2余裕駆動率=1.0(完全LU)まで低下する設定となっている。
そして、同じ運転状態である同じ運転点(VSP1,APO1)で対比すると、図9に示すタイト余裕駆動率特性の場合は第1余裕駆動率D11であるのに対し、図10に示すルーズ余裕駆動率特性の場合は第2余裕駆動率D21(>D11)である。つまり、図9と図10に示すマップは、同じ運転状態で異ならせた余裕駆動率特性に設定していて、図9に示すタイト余裕駆動率特性を燃費性能重視特性とし、図10に示すルーズ余裕駆動率特性を動力性能重視特性としている。
要求入力器81aは、要求入力に基づいて第1余裕駆動率D1と第2余裕駆動率D2の分配比α,βを決め、決めた分配比α,βを余裕駆動率算出器81fへ出力する。以下、具体例により説明する。
例えば、ドライバーが走行モードとして「エコモード」を選択した場合、タイト余裕駆動率特性(図9)による第1余裕駆動率D1が100%でルーズ余裕駆動率特性(図10)による第2余裕駆動率D2が0%の分配比とされる。よって、「エコモード」を選択しての発進シーンでは、発進後に素早くロックアップクラッチ20が締結され、燃費性能が向上する。
一方、ドライバーが走行モードとして「スポーツモード」を選択した場合、タイト余裕駆動率特性(図9)による第1余裕駆動率D1が0%でルーズ余裕駆動率特性(図10)による第2余裕駆動率D2が100%の分配比とされる。よって、「スポーツモード」を選択しての発進シーンでは、発進後にトルクコンバータ2でのトルク増幅機能が発揮され、発進加速性が向上する。
例えば、ナビゲーション情報に基づいて判断される走行シーンが市街地走行シーンである場合、タイト余裕駆動率特性(図9)による第1余裕駆動率D1が100%でルーズ余裕駆動率特性(図10)による第2余裕駆動率D2が0%の分配比とされる。よって、停止と再発進を頻繁に繰り返す市街地走行シーンでは、再発進後に素早くロックアップクラッチ20が締結され、燃費性能が向上する。
一方、ナビゲーション情報に基づいて判断される走行シーンが郊外地走行シーンである場合、タイト余裕駆動率特性(図9)による第1余裕駆動率D1が0%でルーズ余裕駆動率特性(図10)による第2余裕駆動率D2が100%の分配比とされる。よって、減速から再加速する郊外地走行シーンでは、再加速後にトルクコンバータ2でのトルク増幅機能が発揮され、再加速性が向上する。
なお、ナビゲーション情報に基づいて判断される走行シーンが市街地でも郊外地でもないシーンのときは、交通流等に合わせて第1余裕駆動率D1:第2余裕駆動率D2=α%:β%という分配比とされる。但し、αは0〜100であり、βは100〜0である。これによって、様々な走行シーンへも対応することができる。
例えば、ドライバーの運転操作監視に基づいて判断される運転状態がアクセル操作幅小の場合、タイト余裕駆動率特性(図9)による第1余裕駆動率D1が100%でルーズ余裕駆動率特性(図10)による第2余裕駆動率D2が0%の分配比とされる。よって、アクセルワーク幅が狭くおとなしい運転特性のドライバーによる発進シーンでは、発進後に素早くロックアップクラッチ20が締結され、燃費性能が向上する。
一方、ドライバーの運転操作監視に基づいて判断される運転状態がアクセル操作幅大の場合、タイト余裕駆動率特性(図9)による第1余裕駆動率D1が0%でルーズ余裕駆動率特性(図10)による第2余裕駆動率D2が100%の分配比とされる。よって、アクセルワーク幅が広く激しい運転特性のドライバーによる発進シーンでは、発進後にトルクコンバータ2でのトルク増幅機能が発揮され、発進加速性が向上する。
なお、これ以外の運転状態判断情報による分配比については、運転状態を細かく分けることで、運転状態判断情報毎に第1余裕駆動率D1:第2余裕駆動率D2=α%:β%という分配比とされる。これによって、様々なドライバー運転特性であっても対応することができる。
以上説明したように、実施例1のベルト式無段変速機CVTのロックアップ制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
(1) トルクコンバータ2と、ロックアップクラッチ20と、ロックアップ制御部80と、を備える。
トルクコンバータ2は、走行用駆動源(エンジン1)と変速機構(バリエータ4)との間に介装される。
ロックアップクラッチ20は、トルクコンバータ2に有し、締結によりトルクコンバータ入力軸とトルクコンバータ出力軸を直結する。
ロックアップ制御部80は、ロックアップクラッチ20の締結/スリップ/解放の制御を行う。
ロックアップ制御部80に、ロックアップクラッチ20のロックアップ容量制御を行う際に要求駆動力を決定する要求駆動力決定部(駆動力デマンドブロック81)を設ける。要求駆動力に駆動輪6へ出力される実駆動力が収束する制御を行うロックアップ容量制御部(目標算出ブロック83、トルク容量演算ブロック84、実現ブロック85)を設ける。要求駆動力決定部(駆動力デマンドブロック81)は、要求駆動力を、駆動源駆動力(エンジン駆動力)にトルクコンバータ2のトルク増幅機能による余裕駆動率Dを掛け合わせた余裕駆動力Fd*とする。余裕駆動率Dを、同じ運転状態であっても要求入力に応じて可変値により与える。
このように、要求駆動力によるロックアップ容量制御とし、要求入力に応じて余裕駆動率Dを可変としている。この結果、ロックアップ容量制御の際、ドライバーが意図する駆動力を達成しつつ、様々な要求入力に応じた余裕駆動率Dを実現することができる。
(2) 要求駆動力決定部(駆動力デマンドブロック81)は、同じ運転状態に対して余裕駆動率D1,D2を異ならせた複数の余裕駆動率特性(図9、図10)を設定する。
要求入力に応じて複数の余裕駆動率特性(図9、図10)から選択した余裕駆動率特性に基づいて余裕駆動率Dを算出する。
このように、要求入力に応じた余裕駆動率特性の選択により余裕駆動率Dを算出している。この結果、複数の余裕駆動率特性(図9、図10)を設定するだけで、同じ運転状態であっても要求入力に応じて可変値により余裕駆動率Dを与えることができる。
(3) 要求駆動力決定部(駆動力デマンドブロック81)は、余裕駆動率特性を、アクセル開度APOをパラメータとして車速VSPの上昇に対して余裕駆動率D1,D2が低下する特性とする。
余裕駆動率特性として、車速VSPの上昇に対する余裕駆動率D1,D2の低下勾配を上限域勾配と下限域勾配に異ならせて設定した第1余裕駆動率特性(タイト余裕駆動率特性)と第2余裕駆動率特性(ルーズ余裕駆動率特性)を有する。
このように、余裕駆動率特性として、第1余裕駆動率特性(タイト余裕駆動率特性)と第2余裕駆動率特性(ルーズ余裕駆動率特性)を有する。そして、車速VSPの上昇に対する余裕駆動率D1,D2の低下勾配を上限域勾配と下限域勾配に異ならせて設定している。この結果、2つの余裕駆動率特性を設定することにより、省エネルギーを重視する要求入力の場合と動力性能を重視する要求入力の場合とに対応した余裕駆動力Fd*を実現することができる。
(4) 要求駆動力決定部(駆動力デマンドブロック81)は、運転状態(運転点(VSP,APO))と第1余裕駆動率特性(タイト余裕駆動率特性)により第1余裕駆動率D1を算出する。運転状態(運転点(VSP,APO))と第2余裕駆動率特性(ルーズ余裕駆動率特性)により第2余裕駆動率D2を算出する。
余裕駆動率Dを、要求入力により決められた分配比α,βに応じて第1余裕駆動率D1と第2余裕駆動率D2とを調整して算出する。
このように、要求入力により決められた分配比α,βに応じて第1余裕駆動率D1と第2余裕駆動率D2とを調整して余裕駆動率Dを算出するようにしている。この結果、2つの余裕駆動率特性を設定するだけで、幅広くきめ細やかな要求入力に対応して可変の余裕駆動率Dを算出することができる。
(5) 要求駆動力決定部(駆動力デマンドブロック81)は、要求入力を、ドライバーの走行モードの選択操作により取得される走行モード選択情報によるドライバー要求入力とする。
このように、余裕駆動率Dを決める要求入力を、走行モード選択情報によるドライバー要求入力としている。この結果、ドライバーの走行モード選択意図に対応した適切なロックアップ容量制御を実現することができる。
例えば、ドライバーによる「エコモード」の選択した場合、発進時に応答良く完全LU締結へ移行することで、燃費低減による省エネルギー効果を達成することができる。また、ドライバーによる「スポーツモード」の選択した場合、発進時にトルクコンバータ2のトルク増幅機能を発揮させることで、動力性能向上効果を達成することができる。
(6) 要求駆動力決定部(駆動力デマンドブロック81)は、要求入力を、ナビゲーション情報に基づいて判断される走行シーン判断情報、又は、ドライバーの運転操作監視に基づいて判断される運転状態判断情報によるシステム要求入力とする。
このように、余裕駆動率Dを決める要求入力を、走行シーン判断情報、又は、運転状態判断情報によるシステム要求入力としている。この結果、様々な走行シーンや運転状態に対応した適切なロックアップ容量制御を自動的に実現することができる。
例えば、市街地走行シーンやアクセル操作幅が小さい運転状態の場合、車速の上昇に対して自動的に応答良く完全LU締結へ移行することで、燃費低減による省エネルギー効果を達成することができる。また、郊外地走行シーンやアクセル操作幅が大きい運転状態の場合、低車速域でトルクコンバータ2のトルク増幅機能が自動的に発揮されることで、動力性能向上効果を達成することができる。
(7) 要求駆動力決定部(駆動力デマンドブロック81)は、余裕駆動力Fd*を、トルクコンバータ2のトルクコンバータ性能特性を用いて目標走行駆動源回転数(目標エンジン回転数Ne*)に換算する。
ロックアップ容量制御部(目標算出ブロック83、トルク容量演算ブロック84、実現ブロック85)は、目標走行駆動源回転数(目標エンジン回転数Ne*)に走行用駆動源(エンジン1)の実走行駆動源回転数(実エンジン回転数Ne)が収束するロックアップクラッチ20のロックアップ容量制御を行う。
このように、余裕駆動力Fd*を目標走行駆動源回転数(目標エンジン回転数Ne*)に換算し、ロックアップ容量制御を行うようにした。この結果、コントロール性の高い走行駆動源回転数フィードバック制御により、運転者の意図する駆動力を達成するロックアップクラッチ20のロックアップ容量制御を実行することができる。
以上、本発明の自動変速機のロックアップ制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1では、駆動力デマンドブロック81として、車速VSPの上昇に対する余裕駆動率D1,D2の低下勾配を上限域勾配と下限域勾配に異ならせて設定したタイト余裕駆動率特性(図9)とルーズ余裕駆動率特性(図10)による2特性を設定する例を示した。しかし、駆動力デマンドブロックとしては、1つの余裕駆動率特性を設定し、運転状態により算出された余裕駆動率を、そのときの要求入力に応じて補正するような例としても良い。さらに、要求入力を複数のパターンに分け、複数のパターン毎に余裕駆動率特性を個別に設定するような例としても良い。
実施例1では、本発明のロックアップ制御装置を、自動変速機としてベルト式無段変速機CVTを搭載したエンジン車に適用する例を示した。しかし、本発明のロックアップ制御装置は、自動変速機として、ステップATと呼ばれる有段変速機を搭載した車両や副変速機付き無段変速機を搭載した車両等に適用しても良い。また、適用される車両としても、エンジン車に限らず、走行用駆動源にエンジンとモータを搭載したハイブリッド車、走行用駆動源にモータを搭載した電気自動車等に対しても適用できる。