以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.リチウムイオン二次電池の構成>
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の具体的な構成について説明する。図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成を示す模式図である。
図1に示すリチウムイオン二次電池10は、本実施形態に係る二次電池の一例である。図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ(separator)層40とを備える。なお、リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されないが、例えば、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、またはボタン(button)形等のいずれであってもよい。
正極20は、集電体21と、正極活物質層22とを備える。集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(stainless steel)、およびニッケルメッキ鋼(nickel‐plated steel)等であってもよい。
正極活物質層22は、少なくとも正極活物質および導電剤を含み、バインダ(binder)をさらに含んでもよい。なお、正極活物質、導電剤、およびバインダの含有量は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池において適用される含有量であれば、いずれであってもよい。
正極活物質は、例えば、リチウムを含む遷移金属酸化物または固溶体酸化物であり、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であれば特に制限されない。リチウムを含む遷移金属酸化物としては、LiCoO2等のLi・Co系複合酸化物、LiNixCoyMnzO2等のLi・Ni・Co・Mn系複合酸化物、LiNiO2等のLi・Ni系複合酸化物、またはLiMn2O4等のLi・Mn系複合酸化物等を例示することができる。固溶体酸化物としては、LiaMnxCoyNizO2(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnxCoyNizO2(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5O4等を例示することができる。なお、正極活物質の含有量(含有比)は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。また、これらの化合物を単独または複数種、混合して用いてもよい。
導電剤は、例えば、ケッチェンブラック(ketjen black)やアセチレンブラック(acetylene black)等のカーボンブラック(carbon black)、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ(carbon nanotubes)、グラフェン(graphene)、カーボンナノファイバ(carbon nanofibers)等の繊維状炭素、または、これら繊維状炭素とカーボンブラック(carbon black)との複合体等である。ただし、導電剤は、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されずに使用することができる。導電剤の含有量は特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。
バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム(styrene−butadiene rubber)等のスチレン含有樹脂、エチレンプロピレンジエン三元共重合体(ethylene−propylene−diene terpolymer)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile−butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluoroelastomer)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethylcellulose)もしくはこれらの誘導体(カルボキシメチルセルロース類(例えばカルボキシメチルセルロースの塩))またはニトロセルロース(nitrocellulose)等である。ただし、バインダは、正極活物質および導電剤を集電体21上に結着させることができ、かつ正極の高電位に耐える耐酸化性および電解液安定性を有するものであれば、特に制限されない。また、バインダの含有量も特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な含有量であればよい。
正極活物質層22は、例えば、正極活物質、導電剤、およびバインダを適当な有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(N−methyl−2−pyrrolidone)など)に分散させて正極スラリー(slurry)を形成し、該正極スラリーを集電体21上に塗工し、乾燥、圧延することで形成することができる。なお、圧延後の正極活物質層22の密度は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池の正極活物質層に適用可能な密度であればよい。
負極30は、本実施形態に係る二次電池用負極の一例である。負極30は、箔状の集電体31と、集電体31に接して配置された負極活物質層32とを有する。
ここで、本実施形態において、集電体31の破断強度は、400N/mm2より大きく、500N/mm2より小さく、かつ、負極活物質層32の放電容量は、400mAh/g以上である。
上述したように、負極活物質層32の放電容量を大きくした場合には、負極活物質層32は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う体積変化が大きくなる。このような場合において、集電体31の破断強度を上記のような範囲とすることにより、集電体31の破断を防止しつつ集電体31を負極活物質層32の体積変化に追従させることが可能となる。
すなわち、集電体31の破断強度が、上記上限値より小さい、すなわち集電体31が比較的柔軟な材料で構成されることにより、集電体31は、負極活物質層32の体積変化に応じて、伸長、収縮することが可能である。この結果、集電体31と負極活物質層32との間の界面における応力が緩和され、集電体31と負極活物質32との間の界面における剥離が防止される。これにより、集電体31と負極活物質32との間の電子伝導性の低下が防止される。
一方で、集電体31の破断強度が、上記下限値よりも大きいことにより、集電体31は、その伸長・収縮において負荷される応力によって破断することが防止される。
以上により集電体31と負極活物質層32との間の界面における剥離および集電体の破断が防止されることで、リチウムイオン二次電池10の充放電によって生じうる負極活物質層32中の負極活物質の電気的な孤立を抑制することができる。この結果、リチウムイオン二次電池10は、負極30の劣化が抑制され、サイクル特性が優れたものとなる。
なお、集電体の破断強度を高めて、破断を防止することも考えられる。しかしながら、集電体の破断強度が上記上限値以上である場合、集電体31の負極活物質層32の体積変化に応じた伸長、収縮が十分にできず、集電体31と負極活物質32との間の界面における剥離を防止することが困難になる。また、破断強度の高い原料は一般に高価であり、また強度が高く加工が難しいために集電体を効率よく生産することができない。
また、集電体31の破断強度は、400N/mm2より大きければよいが、420N/mm2以上であることが好ましく、430N/mm2以上であることがより好ましい。これにより、より確実に集電体31の破断が防止される。
また、集電体31の破断強度は、500N/mm2より小さければよいが、480N/mm2以下であることが好ましく、460N/mm2以下であることがより好ましい。これにより、より確実に集電体31が、負極活物質層32の体積変化に応じて、伸長、収縮しやすくなる。
なお、集電体31の破断強度は、例えばISO527−3:2012(JIS K 7127:1999)に準拠して測定することができる。
集電体31は、上述した破断強度を有する導電体であれば特に限定されず、例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、ステンレス鋼またはこれらの合金もしくはこれらのメッキ鋼、例えばニッケルメッキ鋼で構成されることができる。集電体31は、特に、銅もしくはニッケルまたはこれらの合金で構成されることが好ましい。これにより、集電体31の導電性を優れたものとしつつ、上述した破断強度をより確実に実現できる。
また、集電体31の厚さは、特に限定されないが、例えば、1〜20μm、好ましくは、4〜12μmとすることができる。これにより、集電体31の追従性を向上させつつ、集電体31の破断をより確実に防止することができる。
また、集電体31の2つの主面の表面粗さRaは、特に限定されないが、0〜2.0μm、好ましくは、0〜1.0μmであることができる。特に、集電体31の負極活物質層32と接する側の主面の表面粗さRaは、好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは0〜1.0μmである。このような主面の表面粗さRaを有する集電体31は、表面が粗面化されていない平滑箔である。一般に、平滑箔は粗化箔と比較して負極活物質層との密着性が低いが、集電体31が上述した破断強度を有することにより、集電体31と負極活物質層32との間の界面における剥離が好適に防止される。
また、集電体31の2つの主面の表面粗さRaの差は、特に限定されないが、2.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。
なお、集電体31の表面粗さは、例えば、ISO 13565−1(JIS B 0671−1)に準拠して測定することができる。
負極活物質層32は、集電体31に接して、より具体的には一方の主面が集電体31上に接着されるようにして配置されている。負極活物質層32は、少なくとも負極活物質を含む。本実施形態においては、負極活物質層32は、負極活物質と、バインダとを含む。
負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)、Si系活物質またはSn系活物質(例えばケイ素(Si)もしくはスズ(Sn)もしくはそれらの酸化物の微粒子、ケイ素もしくはスズを基本材料とした合金)、金属リチウム及びLi4Ti5O12等の酸化チタン系化合物等が挙げられる。負極活物質としては、以上のうち1種以上を用いることができる。ケイ素の酸化物は、SiOx(0≦x≦2)で表される。
上述した中でも、負極活物質層32は、負極活物質として、Si系活物質および/またはSn系活物質を含むことが好ましい。このような負極活物質は、高い可逆容量を有する一方で、リチウムイオンの挿入、脱離における体積変化が大きい。本実施形態に係る負極30においては、集電体31が上述したような破断強度を有するため、このような負極活物質を使用した際にも、集電体31と負極活物質層32との間の界面の剥離を防止できる。この結果、リチウムイオン二次電池10は、高い放電容量と優れたサイクル特性とを同時に有するものとなる。特に、負極活物質層32は、負極活物質として、Si系活物質を含むことが好ましい。
上述したように、負極活物質層32に含まれるSi系活物質は、具体的には、Si、Si合金、または、Si酸化物である。
例えば、Si合金は、Si相、およびSiと他の1種以上の金属元素との金属間化合物の相からなる。Si相は、可逆的にリチウムイオンが挿入および脱離されることで、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な相である。また、Siと他元素との金属間化合物の相(Si含有金属間化合物相)は、活物質であるSi相と密着することにより、充放電によるSi相の体積変化に対してSi相を保持する相である。
Siと金属間化合物を形成する元素は、例えば、Siと安定な金属間化合物を形成することができるアルカリ土類金属元素および遷移金属元素から選んだ1種もしくは2種以上であればよい。Siと金属間化合物を形成する元素は、好ましくは、Mg、Ti、V、Cr、Mn、Co、Cu、FeおよびNiから選んだ1種もしくは2種以上であってもよい。
上記のSi合金などのSi系活物質は、例えば、アトマイズ法(atomizing method)、ロール急冷法、または回転電極法などで形成した不定形状のSi化合物をジェットミル(jet mill)またはボールミル(ball mill)等で粉砕することにより、得ることができる。また、Si系活物質は、Si単体粉末と他の化合物粉末とを粉砕の後、混合し、メカニカルアロイング(mechanical alloying)処理することによっても得ることができる。
ここで、Si系活物質の平均粒径は、0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。Si系活物質の平均粒径がこれらの範囲内の値となる場合、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性をさらに向上させることができる。
なお、Si系活物質の平均粒径とは、Si系活物質を球体と近似した際の直径の算術平均値を表す。Si系活物質の平均粒径は、例えば、レーザ(laser)回折・散乱法を用いた粒度分布測定装置により測定することができる。
ここで、本実施形態に係る負極30は、負極活物質層32中に黒鉛活物質をさらに含むことが好ましい。黒鉛活物質は、炭素原子を含み、かつ電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出することができる物質であり、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等を例示することができる。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、負極活物質層32中に黒鉛活物質をさらに含むことにより、電池特性を向上させることができる。
ただし、負極活物質層32が黒鉛活物質を含む場合、負極活物質層32は、負極30における0Vから1.2Vまでの可逆容量の10%以上がSi系活物質由来となるような含有量でSi系活物質を含むことが好ましい。後述する実施例で実証されるように、Si系活物質の含有量がこれらの条件を満たす場合、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、放電容量をさらに向上させることができる。
なお、Si系活物質由来の可逆容量の割合は、黒鉛活物質のみを活物質として用いた負極30の容量Aと、Si系活物質および黒鉛活物質を活物質として用いた負極30の容量Bとの差分(増加分)を容量Bで除算した割合である。すなわち、上記において、(B−A)/B×100(例えば、A=360mAh/g)にて算出した割合(%)である。
Si系活物質由来の可逆容量の割合は、負極活物質層32におけるSi系活物質および黒鉛活物質の含有量を変更することで制御することができる。具体的には、Si系活物質由来の可逆容量の割合は、負極活物質層32におけるSi系活物質の含有量を増加させることにより、増加させることができる。
ここで、負極30における0Vから1.2Vまでの可逆容量中のSi系活物質由来の割合が10%未満の場合、負極活物質層32にSi系活物質を含有させることによる放電容量の増加量が小さくなるため、好ましくない。また、負極30における0Vから1.2Vまでの可逆容量中のSi系活物質由来の割合は、高ければ高いほど好ましく、特に上限値は制限されない。ただし、バインダ等の負極活物質以外の要件によって負極活物質層32中のSi系活物質の含有量が制限される場合、上限値は、例えば50%であってもよい。
また、本実施形態において、負極活物質によって得られる負極活物質層32の放電容量は、400mAh/g以上、好ましくは、410mAh/g以上である。このような高い放電容量の場合、充放電による負極活物質層32の体積変化が大きいものとなるが、集電体31と負極活物質層32との間の界面の剥離を防止できる。この結果、リチウムイオン二次電池10は、高い放電容量と優れたサイクル特性とを同時に有するものとなる。
また、負極活物質層32の放電容量は、負極活物質層32にリチウム金属またはリチウム含有物質を対向させ、リチウムイオンの挿入・脱離反応時に発生する電気量から測定することができる。
負極活物質層32中における負極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、60.0〜100質量%、好ましくは、80〜99.5質量%、より好ましくは90〜99質量%であることができる。
バインダは、正極活物質層22を構成するバインダと同様のものが使用可能である。上述した中でも、スチレン含有樹脂、フッ素含有樹脂、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース類から選択される1種以上のバインダを含むことが好ましい。このようなバインダは、集電体31に対する剥離強度は比較的大きくはないが、比較的柔らかいため、集電体31および正極活物質層32の間に生じる応力を緩和することができる。また、このようなバインダは、比較的安価であるとともに塗工等の生産時の適正に優れている。なお、スチレン含有樹脂としては、スチレンブタジエンゴムが好ましく、フッ素含有樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。カルボキシメチルセルロース類としては、カルボキシメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロース塩等のカルボキシメチルセルロース誘導体が挙げられる。カルボキシメチルセルロース塩としては、例えばカルボキシメチルセルロースとアルカリ金属イオンとの塩、より具体的にはカルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボキシメチルセルロースリチウムが挙げられる。
一方で、バインダとして、ポリイミド系バインダ等の高強度バインダを使用することもできる。しかしながら、このようなバインダは比較的原料が効果であるとともに、塗工等の生産時における適正が十分でない。
また、負極活物質層32中におけるバインダの含有量は、特に限定されないが、例えば、0〜40質量%、好ましくは、0.5〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%であることができる。
負極活物質層32は、例えば、上述した負極活物質およびバインダを適当な溶媒(例えば、水など)に分散させて負極スラリーを形成し、該負極スラリーを集電体31上に塗工し、乾燥、圧延することで形成することができる。なお、圧延後の負極活物質層32の厚さは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池の負極活物質層に適用可能な厚さであればよい。また、負極活物質層32は、黒鉛活物質を選択的に含んで形成されてもよい。
なお、この場合において、負極スラリーが乾燥する過程で、負極スラリーは、溶媒以外の成分による負極活物質層32となるとともに、収縮する。しかしながら、集電体31は、上述した破断強度を有するため、負極活物質層32の収縮に追従することができ、集電体31と負極活物質層32との間に生じる応力を緩和することができる。
また、このようにして形成される負極活物質層32と集電体31との間の剥離強度は、好ましくは50mN/mm以下、より好ましくは、5〜30mN/mmである。このような剥離強度の場合、負極活物質層32の収縮に伴う応力の発生が緩和される。
上述した負極活物質層32と集電体31との間の剥離強度は、例えばJIS K6854(ISO 8510−2:1990)に記載のはく離接着強さ試験法に準拠して測定することができる。
なお、負極活物質層32は、上述した方法に限定されず、加熱蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法や、化学蒸着法(CVD)により形成することもできる。
セパレータ層40は、セパレータと、電解液とを含む。セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、特に制限されず、どのようなものも使用可能である。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を単独あるいは併用して使用することが好ましい。また、セパレータは、Al2O3、Mg(OH)2、SiO2等の無機物によってコーティング(coating)されていてもよく、上述した無機物をフィラー(filler)として含んでいてもよい。
このようなセパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate),ポリブチレンテレフタレート(polybuthylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride−hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体(vinylidene difluoride−perfluorovinylether copolymer)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride−tetrafluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride−trifluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride−fluoroethylene copolymer)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体(vinylidene difluoride−hexafluoroacetone copolymer)、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体(vinylidene difluoride−ethylene copolymer)、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体(vinylidene difluoride−propylene copolymer)、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride−trifluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(vinylidene difluoride−tetrafluoroethylene−hexafluoropropylene copolymer)、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(vinylidene difluoride−ethylene−tetrafluoroethylene copolymer)等を使用することができる。なお、セパレータの気孔率は、特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池のセパレータが有する気孔率を任意に適用することが可能である。
電解液は、電解質塩と、溶媒とを含む。
電解質塩は、リチウム塩等の電解質である。電解質塩は、例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、NaClO4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO4、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、(CH3)4NBF4、(CH3)4NBr、(C2H5)4NClO4、(C2H5)4NI、(C3H7)4NBr、(n−C4H9)4NClO4、(n−C4H9)4NI、(C2H5)4N−maleate、(C2H5)4N−benzoate、(C2H5)4N−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(lithium stearylsulfate)、オクチルスルホン酸リチウム(lithium octylsulfate)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(lithium dodecylbenzenesulphonate)等の有機イオン塩等を使用することができる。なお、これらの電解質塩は、単独、あるいは2種類以上混合して使用されてもよい。また、電解質塩の濃度は、特に制限はないが、例えば、0.5〜2.0mol/L程度の濃度を使用することができる。
溶媒は、電解質塩を溶解する非水溶媒である。溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(buthylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル類、γ−ブチロラクトン(γ−butyrolactone)、γ−バレロラクトン(γ−valerolactone)等の環状エステル類、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethylmethyl carbonate)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(methyl butyrate)等の鎖状エステル類、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体、1,3−ジオキサン(1,3−dioxane)、1,4−ジオキサン(1,4−dioxane)、1,2−ジメトキシエタン(1,2−dimethoxyethane)、1,4−ジブトキシエタン(1,4−dibutoxyethane)、またはメチルジグライム(methyldiglyme)等のエーテル類、アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル類、ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体、エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等を、単独で、またはそれら2種以上を混合して使用することができる。なお、溶媒を2種以上混合して使用する場合、各溶媒の混合比は、従来のリチウムイオン二次電池で用いられる混合比が適用可能である。
なお、電解液は、負極SEI(Solid Electrolyte Interface)形成剤、界面活性剤等の各種添加剤が添加されてもよい。
このような添加剤としては、例えば、コハク酸無水物(succinic anhydride)、リチウムビスオキサラートボレート(lithium bis(oxalate)borate)、テトラフルオロホウ酸リチウム(lithium tetrafluoroborate)、ジニトリル(dinitrile)化合物、プロパンスルトン(propane sultone)、ブタンスルトン(butane sultone)、プロペンスルトン(propene sultone)、3−スルフォレン(3−sulfolene)、フッ素化アリルエーテル(fluorinated arylether)、フッ素化アクリレート(fluorinated methacrylate)等を使用することができる。また、このような添加剤の含有濃度としては、一般的なリチウムイオン二次電池における添加剤の含有濃度が使用可能である。
<2.リチウムイオン二次電池の製造方法>
続いて、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。ただし、リチウムイオン二次電池10の製造方法は、以下の方法に制限されず、任意の製造方法を適用することが可能である。
正極20は、以下のように製造される。まず、正極活物質、導電剤、および結着剤を所望の割合で混合したものを、有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン)に分散させて正極スラリーを形成する。次に、正極スラリーを集電体21上に形成(例えば、塗工)し、乾燥させることで、正極活物質層22を形成する。
なお、塗工の方法は、特に限定されないが、例えば、ナイフコーター(knife coater)法、グラビアコーター(gravure coater)法等を用いてもよい。以下の各塗工工程も同様の方法により行われる。
さらに、圧縮機により正極活物質層22を所望の厚みとなるように圧縮する。これにより、正極20が製造される。ここで、正極活物質層22の厚みは特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池の正極活物質層が有する厚みであればよい。
負極30も、正極20と同様の方法に製造される。まず、負極活物質、およびバインダを所望の割合で混合したものを、溶媒(例えば、水)に分散させることで負極スラリーを形成する。なお、負極スラリーには、選択的に黒鉛活物質が混合されてもよい。
次に、負極スラリーを集電体31上に形成(例えば、塗工)し、乾燥させて、負極活物質層32を形成する。さらに、圧縮機により負極活物質層32を所望の厚みとなるように圧縮する。これにより、負極30が製造される。ここで、負極活物質層32の厚みは特に制限されず、従来のリチウムイオン二次電池の負極活物質層が有する厚みであればよい。また、負極活物質層32として金属リチウムを用いる場合、集電体31に金属リチウム箔を重ねれば良い。
ここで、上記のSi系活物質は、例えば、Si単体と他の化合物粉末とを混合し、アトマイズ法、ロール急冷法、または回転電極法などで不定形状のSi化合物とした後、ジェットミルまたはボールミル等でSi化合物を粉砕することにより、得ることができる。
続いて、セパレータを正極20および負極30にて挟み込むことで、電極構造体を製造する。次に、製造した電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、該形態の容器に挿入する。さらに、該容器内に所望の電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池10が製造される。
<3.実施例>
以下では、実施例および比較例を参照しながら、本実施形態に係る二次電池について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、あくまでも一例であって、本実施形態に係る二次電池が下記の例に限定されるものではない。
(負極の製造)
まず、以下の方法にて実施例1〜4および比較例1〜3に係る負極を製造した。
Si系活物質、グラファイト(graphite)、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースをプラネタリーミキサーで混合し、更に粘度調整のために水を加えて負極合剤スラリーを作製した。次いで、スラリーを集電体上に塗工乾燥させた後、ロールプレス機でプレスし、負極を作製した。
なお、集電体としては、表1に示す物性、組成を有する集電体を使用した。また、表中、破断強度は、ISO527−3:2012(JIS K 7127:1999)に記載の方法に準拠して測定を行い得られた値であり、表面粗さRaは、ISO 13565−1(JIS B 0671−1)に記載の方法に準拠して測定を行ない、集電体における負極合剤と接触する主面について、得られた値である。
また、得られた各負極の極板容量(補伝容量)は、418mAh/gであった。極板容量は、負極活物質層32にリチウム金属を対向させ、リチウムイオンの挿入・脱離反応時に発生する電気量を計測することにより測定した。
作成した負極を適宜、切断し、その一部は剥離強度試験に、また他の一部は二次電池(コインセル)の組み立てに使用した。
(リチウムイオン二次電池の製造)
まず、上述した各実施例および各比較例の負極からコインセルに対応するように打ち抜いて、リチウムイオン二次電池用の負極を製造した。
LiCo2O3、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを、プラネタリーミキサーで混合し、正極合剤スラリーを作成した。スラリーをアルミニウム集電箔上に塗工乾燥させた後、ロールプレス機でプレスし、正極を作製した。
セパレータとして多孔質ポリエチレンフィルム(polyethylene film)(厚さ25μm)を用意し、セパレータを正極および負極で挟むことで、電極構造体を製造し、コインフルセル(coin full cell)に収納した。
一方、エチレンカーボネート(EC)、およびジメチルカーボネート(DMC)をEC:DMC=1:1の体積比で混合した溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1.0mol/Lの濃度で溶解し、電解液を製造した。
さらに、コインフルセル内に上記組成の電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔に電解液を含浸させた。これにより、各実施例および各比較例に係るリチウムイオン二次電池を製造した。
(評価結果)
上記にて製造した実施例1〜4および比較例1〜3に係るリチウムイオン二次電池に対して、サイクル特性の評価を実施した。
具体的には、まず、それぞれのリチウムイオン二次電池に対して、定電流定電圧(CCCV充電、具体的には、1C、10mV充電)にて、電流値が0.01Cになるまで充電し、定電流(CC放電、具体的には、1C放電)にて1.2Vまで放電した。これを1サイクルとして繰り返し、50サイクル実施した。
ここで、サイクル特性は、充放電50サイクル後の放電容量を1サイクル目の放電容量にて除算した容量維持率にて評価した。また、初回効率は、1サイクル目の放電容量を1サイクル目の充電容量で除算した値である。その結果を以下の表1に示す。
次に、上記充放電のサイクル前後における極板の厚さを測定し、充放電のサイクルにおける負極の膨張率を測定した。極板の厚さはマイクロゲージにより測定し、膨張率は、下記式1により求めた。結果を表1に示す。
{(充放電前の電極厚みt−集電体厚みx)/(充放電後の電極厚みt’−集電体厚みx)}−1 ・・式1
また、各実施例および各比較例の負極について、負極活物質層と集電体との間の剥離強度を測定した。剥離強度の測定にはJIS K 6854に記載の剥離試験法を用いて、180°引張試験を行った。結果を表1に示す。
表1参照すると、実施例1〜4では、負極の集電体の破断強度が本発明の範囲内に含まれているため、比較例1〜3に対してサイクル特性(容量維持率)が向上していることがわかる。
次に、表1を参照すると、負極の集電体の破断強度が本発明の範囲内に含まれている実施例1〜4に係る負極は、比較例1、2の負極に対し膨張率が大きかった。今回の実施例1〜4および比較例1、2における負極活物質層の構成は同一であるため、実施例1〜4および比較例1、2についての負極活物質層の膨張率は、同一であると考えられる。したがって、実施例1〜4に係る負極は、集電体が負極活物質層の膨張収縮に追従した結果、ゆがみが生じて膨張率が、比較例1、2に係る負極よりも大きくなったものと考えられた。
また、比較例3に係る負極は、実施例1〜4に係る負極と比較して、膨張率が大きくなったにも関わらず、サイクル特性が劣っていた。これは、比較例3においては、集電体の破断強度が十分でなく、負極活物質層の膨潤収縮により集電体が部分的に破断した結果、サイクル特性が低下したものと考えられる。
さらに、表1を参照すると、実施例1〜4では、負極の集電体と負極活物質層との間の剥離強度が、比較例1、2のものと比較して高くなった。これは、負極の集電体の破断強度が本発明の範囲内に含まれている実施例1〜4に係る負極においては、負極製造時、負極スラリーの乾燥の際に負極活物質層が収縮するが、集電体が好適に追従し、集電体と負極活物質層との間の応力が緩和されたためであると考えられる。
したがって、本実施形態によれば、集電体の破断強度を本発明の範囲とすることにより、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることができることがわかった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、上記実施形態では、リチウムイオン二次電池に本実施形態に係る二次電池用負極を使用したが、他の種類の二次電池に本実施形態に係る二次電池用負極を使用してもよい。