JP6923237B2 - 歯科用組成物包装体、その製造方法及び歯科用組成物 - Google Patents

歯科用組成物包装体、その製造方法及び歯科用組成物 Download PDF

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Description

本発明は、歯科用組成物包装体、その製造方法及び歯科用組成物に関する。
歯科治療においては、歯科用セメント、コンポジットレジン等の重合性単量体及び無機フィラーを含有する重合性組成物からなる硬化性修復材や、歯科用セラミックス材料を用いた補綴物等の歯科用修復材料どうし、または、このような歯科用修復材料と歯質とを接着する場合がある。そして、この際の接着性を向上させる目的で、プライマーまたはボンディング材が一般に使用されている。このような目的で使用されるプライマーやボンディング材としては、酸性化合物、シランカップリング剤および水を有効成分とする組成物(以下、「酸・水・カップリング剤共存系組成物」ともいう。)が使用されることが多い。
たとえば、特許文献1には、「a)80.0〜99.5重量%の有機溶剤および0.5〜20.0重量%のシランカップリング剤を含む前処理材、およびb)40.0〜94.4重量%の有機溶剤、0.1〜20.0重量%の酸基を有する重合性単量体、5.0 〜40.0重量%の重合性単量体および0.01〜5.00重量%の重合開始剤を含む後処理材;の2液からなる歯科用接着性組成物」が開示されている。そして、特許文献1記載の技術によれば、簡単な操作で補修による境目が目立たず、優れた接着強度や接着耐久性を有する歯科用セラミックス・レジン接着用の歯科用接着性組成物が提供される。
また、特許文献2には「疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)と、水溶性の重合性単量体(b)と、水(c)と、光重合開始剤(d)と、電子吸引性基を有する芳香族第3級アミン(e)と、架橋性重合性単量体(f)と、前記疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)の一部と反応して水溶性の塩を生成すべき塩基性化合物(g)と、シランカップリング剤(h)とを、必須配合剤として配合してなる部分再修復歯科治療用の接着剤組成物」が開示されている。そして、特許文献2記載の技術によれば、接着後初期はもとより長期にわたって歯質及び歯科修復材料に対して優れた接着力を発現する部分再修復歯科治療用の接着剤組成物及び2剤型接着剤が提供される。
更に、特許文献3には、(1)少なくとも1つのエチレン性不飽和重合性基を含む特定のアルコキシシランモノマー、(2)特定のカチオンと特定の多水素フッ素アニオンとからなる多水素フッ化物塩、(3)有機溶媒;および(4)水を含有するプライマー配合物が、開示されている。また、特許文献3には、さらにセラミックス製歯科修復物用接着性組成物が、遊離フッ化水素酸(HF)を含有しないことも開示されている。そして、特許文献3記載の技術によれば、事前のエッチングまたは粗面化を行わずに、プライマーを処理される表面に直接的に適用することができ、口腔条件下での信頼できる結合を確実にすることができ、さらに、低毒性および高安定性を有する、プライマー配合物が提供される。また、特許文献3には、プライマー配合物の具体例として、プライマー配合物を構成する全成分が混合された状態の1液型の酸・水・カップリング剤共存系組成物も開示されている。
また、シランカップリング剤を含む歯科用組成物において、使用時における光照射によって酸を発生させる物質をさらに配合した組成物も知られている。このような組成物として、たとえば、特許文献4には、「(A)ラジカル重合性単量体、(B)カップリング剤、(C)増感色素、(D)光酸発生剤及び/又は光塩基発生剤、並びに(E)光ラジカル発生剤、または上記(D)成分として光酸発生剤を用いた場合において、アリールボレート化合物若しくはスルフィン酸塩、の各成分が一剤に混合された保存形態からなるセラミックス製歯科修復物用接着性組成物」が開示されている。そして、特許文献4記載の技術によれば、事前のプライマー処理が省略できるほどに高い接着性を有すると共に、接着性組成物を構成する各成分を一剤に混合した状態で長期間安定的に保存できるため、使用直前の試薬の混合操作が省略できる接着性組成物を提供できる。
特開2003−230574号公報 特開2006−225350号公報 特表2016−513627号公報 特開2007−277114号公報
通常、同一の系中に、酸性化合物と水とシランカップリング剤とが存在すると、酸性化合物の作用によって、アルコキシ基等の加水分解性基を有するシランカップリング剤の加水分解・縮合反応が進行する。このため特許文献1、2に例示される一般的な酸・水・カップリング剤共存系組成物では、通常、その使用に際して、(1)当該組成物を構成する全成分を混合・溶解した後、直ちに使用するか、あるいは、(2)酸性化合物、水およびシランカップリング剤の3成分全てが同一の系中に共存しないように、当該組成物を第一剤と第二剤とからなる2液に分けて保管し、当該組成物の使用時に第一剤と第二剤とを混合して使用する必要がある。
しかし、上記(1)に示す1液型組成物の形態では、保存安定性に欠ける。このため、酸・水・カップリング剤共存系組成物の使用が必要となった際に、毎回、酸・水・カップリング剤共存系組成物の調製が必要となり、使用時の操作が煩雑である。一方、上記(2)に示す2液型組成物の形態では、保存安定性の確保は容易である。しかし、酸・水・カップリング剤共存系組成物の使用時に、第一剤と第二剤とを混合する必要があり、使用時の操作が煩雑である。
これに対して、特許文献4に例示されるシランカップリング剤と光酸発生剤とを含む組成物では、シランカップリング剤の加水分解・縮合反応に必要な酸触媒として、光を照射した時のみ酸成分を発生する光酸発生剤を用いる。このため、シランカップリング剤と光酸発生剤とを含む組成物では酸性化合物を用いる必要が無い。これに加えて、シランカップリング剤と光酸発生剤とを含む組成物を構成する全成分を混合・溶解した状態の1液型組成物の状態において、長期間に渡り安定的な保存が可能である。しかし、シランカップリング剤と光酸発生剤とを含む組成物の使用時には、光照射が必要である。このため、所期の効果を得るためには確実に光照射を行うための手技が必要となる上に、設備面でも専用の光照射装置が必要となる。
一方、特許文献3には、プライマー配合物の具体例として開示された1液型の酸・水・カップリング剤共存系組成物が、高い安定性を有することも開示されている。このような酸・水・カップリング剤共存系組成物が、1液型組成物の形態で高い安定性を有することは、特許文献1〜3記載の技術と比べて、使用時の操作作業を簡略化したり、あるいは、光照射技術・設備を不要にできる点でより有利である。このため、本発明者らは、特許文献3に開示された1液型の酸・水・カップリング剤共存系組成物について検討した。しかしながら、本発明者らが、この1液型の酸・水・カップリング剤共存系組成物を長期間保存した後において接着性を評価したところ、接着性能が低下し、性能的に不十分であることが確認された。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、1液型の酸・水・カップリング剤共存系組成物を含む歯科用組成物包装体において、長期間保存した後においても接着性能の低下をより一層抑制できる歯科用組成物包装体、当該歯科用組成物包装体の製造方法および当該歯科用組成物包装体に用いる歯科用組成物を提供することを課題とする。
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、本発明の歯科用組成物包装体は、
均一組成物を含む歯科用組成物と、前記歯科用組成物を収容する容器と、を含み、
<i>前記均一組成物が、
(A)シランカップリング剤:100質量部と、
(B)水溶性フッ化物塩と、
(C)酸性化合物:1質量部以上10000質量部以下と、
(D)有機溶媒:10質量部以上90000質量部以下と、
(E)水:10質量部以上2000質量部以下と、
を含む全成分を均一に混合した組成物からなり、
<ii>前記(A)シランカップリング剤が、
(a)その分子内に、重合性基と、1つ〜3つの加水分解性基が結合したケイ素原子(但し、下記構造式(1s)中に“Si”として表記されるケイ素原子を除く)とを含み、
(b)前記加水分解性基は、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、(b2)下記構造式(1s)に示す置換シロキシ基、および、(b3)水素原子、からなる群より選択される基であり、かつ、
(c)前記ケイ素原子に、前記加水分解性基として3つの前記(b1)アルコキシ基が結合する場合において、これら3つの前記(b1)アルコキシ基の炭素数は2以上30以下である、
ケイ素化合物であり、
Figure 0006923237
〔前記構造式(1s)中、R12、R13、およびR14は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、または、炭素数1〜30のアルコキシ基である。〕
<iii>前記(B)水溶性フッ化物塩が水に溶解した際の19F−NMRにおいて、250ppm〜−250ppmに観測される全スペクトルの積分値の合計に対する、−110ppm〜−140ppmに観測されるスペクトルの積分値の合計の割合が70%以上であり、かつ、
<iv>前記均一組成物中に含まれる前記(B)水溶性フッ化物塩の含有量が、下記式(1)を満たす範囲内にある、
ことを特徴とする。
・式(1) 0.001≦Bm/Am≦6
〔前記式(1)中、Amは、100質量部の前記(A)のシランカップリング剤に含まれる前記加水分解性基の総モル数(mol)を意味し、Bmは、前記(B)水溶性フッ化物塩に由来するフッ素原子の総モル数(mol)を意味する。〕
本発明の歯科用組成物包装体の一実施形態は、前記(A)シランカップリング剤が、下記第一シランカップリング剤、下記第二シランカップリング剤、および、下記第三シランカップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種のシランカップリング剤を含むことが好ましい。
〔第一シランカップリング剤〕:下記構造式(1)で示されるケイ素化合物からなるシランカップリング剤。
Figure 0006923237
(前記構造式(1)中、
11は、メチル基、または水素原子であり、
11は、酸素原子、またはイミノ基であり、
11は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
11、Y11、およびZ11は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、前記(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、または前記(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基であり、
11、Y11、およびZ11の少なくとも1つは、前記(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。)
〔第二シランカップリング剤〕:下記構造式(2)で示されるケイ素化合物からなるシランカップリング剤。
Figure 0006923237
(前記構造式(2)中、
21は、メチル基、または水素原子であり、
21は、酸素原子、またはイミノ基であり、
21は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
21、およびZ21は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、前記(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、または前記(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。)
〔第三シランカップリング剤〕:下記構造式(3)で示されるケイ素化合物からなるシランカップリング剤。
Figure 0006923237
(前記構造式(3)中、
31は、メチル基、または水素原子であり、
31は、酸素原子、またはイミノ基であり、
31は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
31、Y31、およびZ31は、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基または前記(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基である。但し、X31、Y31、およびZ31から選択される少なくとも1つの基は、炭素数2〜5のアルコキシ基である。)
本発明の歯科用組成物包装体の他の実施形態は、前記(C)酸性化合物が、(C1)酸性基含有重合性単量体を含むことが好ましい。
本発明の歯科用組成物包装体の他の実施形態は、前記歯科用組成物が、1液型歯科用接着剤組成物および1液型歯科用プライマー組成物からなる群より選択されるいずれかの組成物であることが好ましい。
本発明の歯科用組成物包装体の他の実施形態は、前記歯科用組成物が、前記均一組成物のみからなることが好ましい。
本発明の歯科用組成物包装体の製造方法は、
(A)シランカップリング剤:100質量部と、
(B)水溶性フッ化物塩:前記式(1)を満たす場合の質量部換算の配合量と、
(C)酸性化合物:1質量部以上10000質量部以下と、
(D)有機溶媒:10質量部以上90000質量部以下と、
(E)水:10質量部以上2000質量部以下と、
を含む全ての原料成分を混合することにより、前記均一組成物を含む前記歯科用組成物を調製する歯科用組成物調製工程と、
前記歯科用組成物を前記容器内に充填する充填工程と、
を含むことを特徴とする。
本発明の歯科用組成物は、
均一組成物を含み、
<i>前記均一組成物が、
(A)シランカップリング剤:100質量部と、
(B)水溶性フッ化物塩と、
(C)酸性化合物:1質量部以上10000質量部以下と、
(D)有機溶媒:10質量部以上90000質量部以下と、
(E)水:10質量部以上2000質量部以下と、
を含む全成分を均一に混合した組成物からなり、
<ii>前記(A)シランカップリング剤が、
(a)その分子内に、重合性基と、1つ〜3つの加水分解性基が結合したケイ素原子(但し、下記構造式(1s)中に“Si”として表記されるケイ素原子を除く)とを含み、
(b)前記加水分解性基は、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、(b2)下記構造式(1s)に示す置換シロキシ基、および、(b3)水素原子、からなる群より選択される基であり、かつ、
(c)前記ケイ素原子に、前記加水分解性基として3つの前記(b1)アルコキシ基が結合する場合において、これら3つの前記(b1)アルコキシ基の炭素数は2以上30以下である、
ケイ素化合物であり、
Figure 0006923237
〔前記構造式(1s)中、R12、R13、およびR14は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、または、炭素数1〜30のアルコキシ基である。〕
<iii>前記(B)水溶性フッ化物塩が水に溶解した際の19F−NMRにおいて、250ppm〜−250ppmに観測される全スペクトルの積分値の合計に対する、−110ppm〜−140ppmに観測されるスペクトルの積分値の合計の割合が70%以上であり、かつ、
<iv>前記均一組成物中に含まれる前記(B)水溶性フッ化物塩の含有量が、下記式(1)を満たす範囲内にある、
ことを特徴とする。
・式(1) 0.001≦Bm/Am≦6
〔前記式(1)中、Amは、100質量部の前記(A)のシランカップリング剤に含まれる前記加水分解性基の総モル数(mol)を意味し、Bmは、前記(B)水溶性フッ化物塩に由来するフッ素原子の総モル数(mol)を意味する。〕
本発明によれば、1液型の酸・水・カップリング剤共存系組成物を含む歯科用組成物包装体において、長期間保存した後においても接着性能の低下をより一層抑制できる歯科用組成物包装体、当該歯科用組成物包装体の製造方法および当該歯科用組成物包装体に用いる歯科用組成物を提供することができる。
本実施形態の歯科用組成物包装体は、均一組成物を含む歯科用組成物と、この歯科用組成物を収容する容器と、を含むものである。ここで、本実施形態の歯科用組成物包装体では、歯科用組成物として、下記<i>〜<iv>に示す条件を満たす本実施形態の歯科用組成物を用いる。
<i>歯科用組成物に含まれる均一組成物は、(A)シランカップリング剤:100質量部と、(B)水溶性フッ化物塩と、(C)酸性化合物:1質量部以上10000質量部以下と、(D)有機溶媒:10質量部以上90000質量部以下と、(E)水:10質量部以上2000質量部以下と、を含む成分を均一に混合した組成物である。
<ii>(A)シランカップリング剤が、下記(a)〜(c)に示す条件を満たすケイ素化合物である。
(a)シランカップリング剤の分子内に、重合性基と、1つ〜3つの加水分解性基が結合したケイ素原子(以下、「第一ケイ素原子」と称す場合がある)とを含む。ここで、第一ケイ素原子からは、下記構造式(1s)中に“Si”として表記されるケイ素原子(以下、「第二ケイ素原子」と称す場合がある)は除かれる。
(b)加水分解性基は、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、(b2)下記構造式(1s)に示す置換シロキシ基、および、(b3)水素原子、からなる群より選択される基である。
(c)第一ケイ素原子に、加水分解性基として3つの(b1)アルコキシ基が結合する場合において、(b1)アルコキシ基の炭素数は2以上30以下である。
Figure 0006923237
構造式(1s)中、R12、R13、およびR14は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、または、炭素数1〜30のアルコキシ基である。
<iii>(B)水溶性フッ化物塩が水に溶解した際の19F−NMRにおいて、250ppm〜−250ppmに観測される全スペクトルの積分値の合計に対する、−110ppm〜−140ppmに観測されるスペクトルの積分値の合計の割合(以下、「NMRスペクトル比」と称す場合がある)が70%以上である。
<iv>均一組成物中に含まれる(B)水溶性フッ化物塩の含有量が、下記式(1)を満たす範囲内にある。
・式(1) 0.001≦Bm/Am≦6
〔式(1)中、Amは、100質量部の(A)のシランカップリング剤に含まれる加水分解性基の総モル数(mol)を意味し、Bmは、(B)水溶性フッ化物塩に由来するフッ素原子の総モル数(mol)を意味する。〕
本実施形態の歯科用組成物に含まれる均一組成物においては、(A)シランカップリング剤、(B)水溶性フッ化物塩、(C)酸性化合物、(D)有機溶媒および(E)水を含む均一組成物を構成する全成分が均一に混合している。このため、(A)シランカップリング剤、(B)水溶性フッ化物塩および(C)酸性化合物を含む溶質成分の全量が、(D)有機溶媒および(E)水を含む混合溶媒成分中に均一に分散・溶解した状態で存在する。
ここで、(A)シランカップリング剤、(B)水溶性フッ化物塩、(C)酸性化合物、(D)有機溶媒および(E)水は、各々、他の成分と相互作用あるいは反応することにより、<i>(A)シランカップリング剤を構成するケイ素化合物を構成する加水分解性基の少なくとも一部はフッ素原子に置換され、<ii>当該加水分解性基の残部の少なくとも一部は水酸基に置換され、<iii>均一組成物中には遊離フッ素イオンが存在する。
本実施形態の歯科用組成物は、(A)シランカップリング剤、(C)酸性化合物および(E)水を含む1液型の酸・水・カップリング剤共存系組成物である上に、歯科用組成物に含まれる均一組成物は、上記<i>〜<iii>に示す状態で安定的に存在する組成物である。このため、本実施形態の歯科用組成物は、特許文献1、2等に例示される一般的な酸・水・カップリング剤共存系組成物には存在しない優れた効果、すなわち、組成物を2液に分割した2液型組成物の状態では無く、組成物を構成する全成分を含む1液型組成物の状態で長期間保存した場合においても接着性能の低下をより一層抑制できるという効果を奏する。そして、この効果は、特許文献3に記載の1液型の酸・水・カップリング剤共存系組成物と比べても優れたものである。
本実施形態の歯科用組成物が、上述したような優れた効果を奏する具体的な理由は不明である。しかしながら、本発明者らは、このような効果が、下記(1)〜(6)項に列挙する確認・検討結果に基づき得られた下記(7)項に説明する機構に起因するのではないかと推定している。しかしながら、上記効果は、勿論、下記(7)項に示す推定機構以外の機構で発揮されるものであってもよい。
(1)各種の酸・水・カップリング剤共存系組成物の接着性能安定性
特許文献3には、多水素フッ化物塩を含むプライマー配合物(酸・水・カップリング剤共存系組成物)が、高安定性を有することが開示されている。ここで、プライマー配合物の高安定性は、長期保存後(50℃、8週間保存後)のプライマー配合物の19F−NMR測定結果により評価されている。そして、19F−NMR測定結果からは、長期保存後のプライマー配合物において、遊離フッ化水素酸HFが存在していないことが確認されている。このため、特許文献3の発明者らは、上記NMR測定により得られたNMRスペクトルが、多水素フッ化物塩を含むプライマー配合物の加水分解およびHF放出(以下、「対HF放出・加水分解安定性」ともいう。)に対する安定性を裏付ける、と結論付けている(特許文献3/段落0093)。
しかしながら、特許文献3には、多水素フッ化物塩を含むプライマー配合物を長期保存した後の接着性能(以下「接着性能安定性」ともいう。)の定量的な評価結果については、何ら示されていない。このため、本発明者らは、特許文献3に記載されているプライマー配合物と同様の、特許文献3記載の多水素フッ化物塩を含む酸・水・カップリング剤共存系組成物について、接着性能安定性の評価を行った(後述の比較例12及び13参照)。その結果、特許文献3記載の多水素フッ化物塩を含む酸・水・カップリング剤共存系組成物の接着性能安定性は、従来の多水素フッ化物塩を含まない一般的な酸・水・カップリング剤共存系組成物の接着性能安定性(後述の比較例6参照)と比べると高いものの、本実施形態の歯科用組成物の接着性能安定性(たとえば、後述する実施例5等参照)と比べると劣っていることが確認された。
(2)フッ化物塩のケミカルシフト
フッ化物塩を含む点で、本実施形態の歯科用組成物と、特許文献3記載のプライマー配合物とは共通しているが、上述したように両者の間には接着性能安定性に差異がある。このため、両者の接着性能安定性の差異が生じる理由を検討すべく、本発明者らは、本実施形態の歯科用組成物に用いられる(B)水溶性フッ化物塩、および、特許文献3記載のプライマー配合物に用いられる多水素フッ化物塩を、水に溶解させた水溶液について、19F−NMR測定を行った。
その結果、(B)水溶性フッ化物塩については、ケミカルシフト(δ)が比較的大きい−110ppm〜−140ppmの領域にほぼすべてのピークが観測された。これに対して、特許文献3記載の多水素フッ化物塩については、−110ppm〜−140ppmの領域にもピークは観測されるもののその割合は小さく、殆どはδがより小さい−140ppm未満の領域にピークが観測された。したがって、上記(1)項に示す結果も踏まえれば、−110ppm〜−140ppmの領域に観測されるピークの強度、言い換えれば、NMRスペクトル比が、接着性能安定性に密接に関係していると推定される。
(3)シランカップリング剤の分子構造
全ての加水分解性基が(加水分解性の高い)メトキシ基から構成されるシランカップリング剤は、その効果の高さから最も汎用的に使用されている。しかし、このようなシランカップリング剤を用いた歯科用組成物においては、(B)水溶性フッ化物塩を併用しても接着性能安定性は不十分であることが確認された(後述の比較例14参照)。
(4)調合後の本実施形態の歯科用組成物の存在形態
本実施形態の歯科用組成物の存在形態を調べるために、後述する実施例1、5、9、10の本実施形態の歯科用組成物を25℃で1日間放置した後のサンプルについて、各種NMR測定を実施した。その結果、本実施形態の歯科用組成物には、<i>Si−F(19F−NMR:−157ppm、29Si−NMR:36ppm)、<ii>Si−OH(29Si−NMR:14ppm)、および、<iii>遊離フッ素イオン(フッ化物イオン:19F−NMR:−135ppm)が存在することが確認された。
(5)(A)シランカップリング剤に含まれる加水分解性基と、(B)水溶性フッ化物塩に由来するフッ素原子とのモル比(Bm/Am)
(A)〜(E)成分の全てを含む歯科用組成物において、さらに式(1)に示すようにモル比(Bm/Am)が所定の範囲内である場合、接着性能安定性はより優れたものとなる(後述する実施例1−20、比較例7、比較例11)。
なお、上記(4)項にて説明したことからも明らかなように、「(B)水溶性フッ化物塩に由来するフッ素原子」とは、(i)歯科用組成物を調製する前の原料状態の(B)水溶性フッ化物塩に含まれるフッ素原子に対応し、かつ、(ii)調製後の歯科用組成物中においては、Si−Fおよび遊離フッ素イオンとして存在するフッ素原子を意味する。
(6)特許文献3記載の多水素フッ化物塩の存在状態
特許文献3の表3−1、図1、図2、段落0094には、特許文献3記載の多水素フッ化物塩の19F−NMR測定の結果が開示されている。この測定結果からは下記(a)−(c)に示す事実が把握できる。
(a)特許文献3記載の多水素フッ化物塩を構成する多水素フッ素アニオンは、−146.7ppm〜−155.2ppmの範囲にピークを有する。
(b)上記(a)で述べたピークは、多水素フッ化物塩に含まれるHFの含有量が多くなるに従い、ケミカルシフト値が小さくなる傾向が見られる。ここで、(b)において、HF含有量の増大は、水素結合の影響度合いが高くなることを意味している。
(c)HFのピークは、−165ppmに存在する。
そして、特許文献3の図2に示されるように、シランカップリング剤、酸性化合物及び水が共存しているにもかかわらず、長期間経過後によっても多水素フッ素アニオンのピークは殆ど減少していない。
なお、本願明細書に開示された19F−NMRの具体的な測定条件と、特許文献3の段落0094等に開示された19F−NMRの具体的な測定条件とは、使用した溶媒等において一致していない。このため、同一物質についてのケミカルシフトの値についても、完全には両者の間で一致しない。
(7)効果発揮の推定機構
上記(1)〜(6)項に示す確認・検討結果を総合すると、以下に説明する機構により本実施形態の歯科用組成物の効果が発現していると推定される。
まず、(A)シランカップリング剤を構成するケイ素化合物は、微量の遊離フッ素イオン、水および酸の共存下において反応する。ここで、加水分解性基が、加水分解された後に脱水縮合することで、シロキサン結合が形成される。そして、形成されたシロキサン結合がフッ化物イオンにより切断されてSi−OH結合およびSi−F結合が形成される。このような一連のプロセスにより、加水分解性基は、最終的に、微量のSi−F結合と多量のSi−OH結合と変化した状態で安定化される。フッ化物イオンは水中で水和してF(OH)4−として存在することがあるとも言われており、また、Siに対する親和性が高いことも良く知られている。このような性能が上記安定化に寄与しているものと考えられる。
これらの点を踏まえると、本実施形態の歯科用組成物が調合されてからある程度の時間が経過した状態では、Si−F結合の形成およびSi原子へのフッ化物イオンが近接することによって加水分解性基が保護されることになる。その結果、本実施形態の歯科用組成物は、保管時においてシランカップリング剤分子間の脱水縮合が起こり難く、極めて安定化した状態が維持される。一方、本実施形態の歯科用組成物の使用時においては、処理対象物に対して本実施形態の歯科用組成物の塗布した後に行われるエアブローなどの乾燥操作により、上述した安定化した状態が破壊される。この際、本実施形態の歯科用組成物の反応性が回復し、高い接着性能が発揮される。
これに対して、多水素フッ素アニオンは、上記したような加水分解性基を安定化させる効果を持たない。また、特許文献3記載の多水素フッ化物塩から発生するフッ化物イオンは量も少ない。さらに、多水素フッ素アニオンとの相互作用(たとえば平衡等)の影響も有る。このため、特許文献3記載の多水素フッ化物塩を用いた場合の接着性能安定性は、本実施形態の歯科用組成物と比べて劣ることになったものと考えられる。
以下に、本実施形態の歯科用組成物およびこれに含まれる各成分の詳細について説明する。
<(A)シランカップリング剤;(A)成分>
シランカップリング剤としては、下記(a)〜(c)に示す条件を満たすケイ素化合物が用いられる。
(a)シランカップリング剤の分子内に、重合性基と、1つ〜3つの加水分解性基が結合したケイ素原子(第一ケイ素原子)とを含む。
(b)加水分解性基は、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、(b2)下記構造式(1s)に示す置換シロキシ基、および、(b3)水素原子、からなる群より選択される基である。
(c)第一ケイ素原子に、加水分解性基として3つの(b1)アルコキシ基が結合する場合において、(b1)アルコキシ基の炭素数は2以上30以下である。
なお、第一ケイ素原子からは、下記構造式(1s)中に示す置換シロキシ基に含まれるケイ素原子(第二ケイ素原子(構造式(1s)中において“Si”として表記されるケイ素原子)は除かれる。また、後述する構造式(1)〜(3)中において“Si”として表記されるケイ素原子は、第一ケイ素原子に該当する。
Figure 0006923237
構造式(1s)中、R12、R13、およびR14は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、または、炭素数1〜30のアルコキシ基である。
なお、加水分解性基の中でもメトキシ基は加水分解性が最も高く、安定性に欠ける。このため、第一ケイ素原子に、加水分解性基としてメトキシ基が3つ結合しているシランカップリング剤(たとえば、歯科用途で汎用されている、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなど)では、十分な接着性能安定性を得ることができない。このため、本実施形態の歯科用組成物で用いるシランカップリング剤からは、上記(c)項に示したように、第一ケイ素原子に3つのメトキシ基が直接結合するシランカップリング剤は除外されている。なお、同様の観点から、加水分解性基が(b1)アルコキシ基である場合、その炭素数は2〜30が好ましい。
本実施形態の歯科用組成物に用いるシランカップリング剤は、上記(a)〜(c)に示す条件を満たすケイ素化合物であれば特に限定されないが、接着性および保存安定性の観点からは、下記構造式(1)に示されるケイ素化合物からなる第一シランカップリング剤、下記構造式(2)に示されるケイ素化合物からなる第二シランカップリング剤、および、下記構造式(3)に示されるケイ素化合物からなる第三シランカップリング剤、からなる群より選択される少なくとも1種のシランカップリング剤を含むことが特に好ましい。以下に、これらシランカップリング剤について詳しく説明する。
(第一シランカップリング剤)
本実施形態の歯科用組成物に用いることができる第一シランカップリング剤は、下記構造式(1)で示されるケイ素化合物からなる。
Figure 0006923237
構造式(1)中、
11は、メチル基、または水素原子であり、
11は、酸素原子、またはイミノ基であり、
11は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
11、Y11、およびZ11は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、または(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基であり、
11、Y11、およびZ11の少なくとも1つは、(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。
前記式(1)において、V11はメチル基、または水素原子である。中でも、優れた接着性を考慮すると、メチル基が好ましい。
前記式(1)において、W11は酸素原子、またはイミノ基(−NH−)である。
前記式(1)において、R11は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基である。中でも、優れた保存安定性、および接着性を考慮すると、R11は、炭素数1〜10のアルキレン基であることが好ましく、より具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等の炭素数が1〜3のアルキレン基が好ましい。
前記式(1)において、X11、Y11、およびZ11は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、または(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。そして、X11、Y11、およびZ11のうち少なくとも一つが(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。
11、Y11、およびZ11において、炭素数1〜30の炭化水素基としては、炭素数1〜30のアルキル基のような飽和炭化水素基が挙げられる。炭素数1〜30のアルキル基としては、特に、炭素数1〜10の直鎖・分岐状のアルキル基が挙げられ、中でも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
11、Y11、およびZ11において、炭素数1〜30の炭化水素基としては、炭素数1〜30の不飽和炭化水素基であってもよい。中でも、接着性において優れた効果を発揮するためには、炭素数1〜10の不飽和炭化水素基が好ましく、ビニル基、アリル基のような末端に重合性基を有する基が好ましい。
11、Y11、およびZ11において、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基としては、優れた効果を発揮するためには、炭素数2〜10のアルコキシ基が好ましく、具体的には、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
11、Y11、およびZ11においては、少なくとも1つが(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。
Figure 0006923237
式中、R12、R13、およびR14は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、または炭素数1〜30のアルコキシ基である。
12、R13、およびR14において、炭素数1〜30の炭化水素基、および炭素数1〜30のアルコキシ基は、X11、Y11、およびZ11において説明した炭素数1〜30の炭化水素基あるいは(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基が挙げられ、保存安定性の観点から炭化水素基であることが好ましい。
11、Y11、およびZ11においては、少なくとも1つが(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基であればよく、2つまたは3つが(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基であってもよい。中でも、優れた保存安定性および接着性を考慮すると、X11、Y11、およびZ11のうちの2つまたは3つが(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基であることが好ましい。
構造式(1)で示される第一シランカップリング剤は、市販のものを使用できる。中でも、好適な化合物を具体的に例示すれば、保存安定性をより向上できるという点から、(メタクリロキシメチル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメチルシロキシ)シラン、メタクリロキシプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン、メタクリロキシトリス(トリメチルシロキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、(3−アクリロキシプロピル)トリス(トリメチルシロキシ)シランが挙げられる。
(第二シランカップリング剤)
本実施形態の歯科用組成物に用いることができる第二シランカップリング剤は、下記構造式(2)で示されるケイ素化合物からなる。
Figure 0006923237
構造式(2)中、
21は、メチル基、または水素原子であり、
21は、酸素原子、またはイミノ基であり、
21は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
21、およびZ21は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、または(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。
構造式(2)において、V21はメチル基、または水素原子である。中でも、優れた接着性を考慮すると、メチル基が好ましい。
構造式(2)において、W21は酸素原子、またはイミノ基(−NH−)である。
構造式(2)において、R21は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、構造式(1)に示すR11で説明した基と同様の基であり、好適な基もR11と同じである。
構造式(2)において、X21、およびZ21は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基、または(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。
21、およびZ21において、炭素数1〜30の炭化水素基としては、構造式(1)に示すX11、Y11、およびZ11において説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
また、同じく、X21、およびZ21において、炭素数1〜30のアルコキシ基としては、構造式(1)に示すX11、Y11、およびZ11において説明した基と同様の基が挙げられ、好ましい基も同様である。
さらに、(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基において、R12、R13、およびR14は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、または炭素数1〜30のアルコキシ基である。これら炭素数1〜30の炭化水素基、および炭素数1〜30のアルコキシ基は、構造式(1)に示すX11、Y11、あるいはZ11として(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基が用いられる場合と同様の基が挙げられ、保存安定性の観点から炭化水素基であることが好ましい。
21、およびZ21において、特に保存安定性、接着性を向上させるためには、両方が(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基であることが好ましい。
構造式(2)で示される第二シランカップリング剤は、市販のものを使用できる。中でも、好適な化合物を具体的に例示すれば、保存安定性をより向上できるという点から、1、3−ビス(3−メタクリロキシプロピル)テトラキス(トリメチルシロキシ)ジシロキサンが挙げられる。
(第三シランカップリング剤)
本実施形態の歯科用組成物に用いることができる第三シランカップリング剤は、下記構造式(3)で示されるケイ素化合物からなる。
Figure 0006923237
構造式(3)中、
31は、メチル基、または水素原子であり、
31は、酸素原子、またはイミノ基であり、
31は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
31、Y31、およびZ31は、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基または(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基である。但し、X31、Y31、およびZ31から選択される少なくとも1つの基は、炭素数2〜5のアルコキシ基である。
構造式(3)において、V31はメチル基、または水素原子である。中でも、優れた接着性を考慮すると、メチル基が好ましい。
構造式(3)において、W31は酸素原子、またはイミノ基(−NH−)である。
構造式(3)において、R31は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、構造式(1)に示すR11について説明した基と同様の基であり、好適な基もR11と同じである。
31、Y31、およびZ31は、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基または(b1)炭素数1〜30のアルコキシ基である。但し、X31、Y31、およびZ31から選択される少なくとも1つの基は、炭素数2〜5のアルコキシ基である。
11、Y11、およびZ11においては、少なくとも1つが炭素数2〜5のアルコキシ基であればよく、2つまたは3つが炭素数2〜5のアルコキシ基であってもよい。中でも、優れた保存安定性、および接着性を考慮すると、X11、Y11、およびZ11のうちの2つまたは3つが炭素数2〜5のアルコキシ基であることが好ましく、X11、Y11、およびZ11の全てが炭素数2〜5のアルコキシ基であることが好ましい。また、特に保存安定性、接着性を向上させるためにはアルコキシ基の炭素数は3〜4であることが好ましい。
構造式(3)で示される第三シランカップリング剤は、市販のものを使用できる。中でも、好適な化合物を具体的に例示すれば、保存安定性をより向上できるという点から、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシランが挙げられ、γ−メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシランが特に好ましい。
((A)シランカップリング剤の配合量)
(A)シランカップリング剤としては、1種類のみを用いてもよく、2種以上組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用した場合には、基準となる質量は、それらの合計量である。
本実施形態の歯科用組成物において、均一組成物中における(A)シランカップリング剤の配合割合としては特に限定されないが0.1質量%〜70質量%の範囲内が好ましく、1質量%〜50質量%の範囲内がより好ましい。配合割合が0.1質量%未満では十分な接着強さ及び保存安定性が得られなくなる場合があり、70質量%を超えると硬化性が低下し接着強さが低下する場合がある。
<(B)水溶性フッ化物塩>
本実施形態の歯科用組成物に用いる(B)水溶性フッ化物塩は、水に可溶な物質である。ここで「水に可溶な物質」とは、25℃の水100gに対して溶質が溶解し得る量(g又はmg)で定義される溶解度が100mg以上である物質を意味する。また、(B)水溶性フッ化物塩は、19F−NMR測定において、250ppm〜−250ppmに観測される全スペクトルの積分値の合計に対する、−110ppm〜−140ppmに観測されるスペクトルの積分値の合計の割合が70%以上である。なお、NMRスペクトル比は、90%以上が好ましく、100%がより好ましい。NMRスペクトル比が70%未満では、接着性能安定性が十分に得られない。19F−NMR測定には、(B)水溶性フッ化物塩0.001〜0.01gを重水1gに溶解して得た水溶液を用いて行う。
したがって、たとえば、フッ素を含む物質であっても、当該物質を水と混合した際にフッ化物イオンを溶出するものの、大部分が不溶解物として水中に存在する物質(たとえば、フルオロアルミノシリケートガラスなど)は、(B)水溶性フッ化物塩には該当しない。また、水溶性のフッ化物塩であっても、特許文献3記載の多水素フッ化物塩のように、NMRスペクトル比が70%未満の物質も、(B)水溶性フッ化物塩には該当しない。
(B)水溶性フッ化物塩を具体的に例示すれば、フッ化ナトリウム(−122ppm 100%)、フッ化カリウム(−122ppm 100%)、フッ化リチウム(−122ppm 100%)、フッ化セシウム(−122ppm 100%)、フッ化バリウム(−122ppm 100%)、フッ化銅(−122ppm 100%)、フッ化ジルコニウム(−122ppm 100%)、フッ化アルミニウム(−122ppm 100%)、フッ化チタン(−122ppm 100%)等の金属フッ化物塩、および、フッ化テトラメチルアンモニウム(−122ppm 100%)、フッ化テトラエチルアンモニウム(−122ppm 100%)、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム(−129ppm 100%)などのフッ化4級アンモニウム塩等を挙げることができる。なお、上記に列挙した各物質の括弧書き内に示す2つの数値のうち、左側の数値(ppm)は19F−NMR測定におけるピーク位置を示し、右側の数値(%)は、NMRスペクトル比を示す。
本実施形態の歯科用組成物において、均一組成物中に含まれる(B)水溶性フッ化物塩の含有量は、下記式(1)を満たす範囲内にあることが必要である。
・式(1) 0.001≦Bm/Am≦6
式(1)中、Amは、100質量部の(A)のシランカップリング剤に含まれる加水分解性基の総モル数(mol)を意味し、Bmは、(B)水溶性フッ化物塩に由来するフッ素原子の総モル数(mol)を意味する。
Bm/Amが6を超える場合、十分な接着性能が得られなくなる。これは、(A)シランカップリング剤を構成する加水分解性基の多くがフッ素原子で置換されてしまい、接着に関与できなくなるためと推定される。また、Bm/Amが0.001未満の場合、歯科用組成物の保存安定性が低下してしまう。これは、保管時において、(A)シランカップリング剤を安定化した状態で維持することが困難となるためと推定される。保存安定性、および接着性を考慮すると、Bm/Amの下限値は0.003以上が好ましく、0.01以上がより好ましく、Bm/Amの上限値は3以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、0.22以下がさらに好ましい。
なお、Amは、(A)シランカップリング剤に含まれる加水分解性基の総モル数(mol)であるので、配合した(A)シランカップリング剤のモル数に、当該(A)シランカップリング剤が分子内に有する加水分解性基の数を乗じることにより求めることができる。複数種の(A)シランカップリング剤を用いた場合には、各(A)シランカップリング剤毎に加水分解性基の量を求め、それを合計した量をAmとする。たとえば、第一シランカップリング剤である(メタクリロキシメチル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシランの場合、1モルの(メタクリロキシメチル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシランであれば、2モルの加水分解性基が存在することとなる。また、第二シランカップリング剤である1、3−ビス(3−メタクリロキシプロピル)テトラキス(トリメチルシロキシ)ジシロキサンの場合、1モルの1、3−ビス(3−メタクリロキシプロピル)テトラキス(トリメチルシロキシ)ジシロキサンであれば、5モルの加水分解性基が存在することとなる。第三シランカップリング剤であるγ−メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシランの場合、1モルのγ−メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシランであれば、3モルの加水分解性基が存在することとなる。
<(C)酸性化合物>
本実施形態の歯科用組成物に用いる(C)酸性化合物は、(A)シランカップリング剤の加水分解の促進、および(C)酸性化合物と被接着体表面のシラノール基との脱水縮合を促進する酸触媒として機能する。
(C)酸性化合物は、水中に1mol/Lの濃度で溶解および/または分散させた水溶液あるいは水性分散液において、pHが5以下となる物質を意味する。(C)酸性化合物としては、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸等の公知の化合物が挙げられる。なお、(C)酸性化合物は、1種又は2種類以上のものを組み合わせて使用することができる。2種類以上の(C)酸性化合物を組み合わせて使用する場合には、基準となる質量は、それらの合計量である。
(C)酸性化合物としては、歯質(象牙質、エナメル質)、卑金属(鉄、ニッケル、クロム、コバルト、スズ、アルミニウム、銅、チタン等あるいはこれらを主成分として含む合金)、および、ジルコニウムなどの金属と酸素とを主成分として含む金属酸化物(ジルコニアセラミックスなど)に対する接着性も向上させる点から、(C1)酸性基含有重合性単量体を用いることが好ましい。それゆえ、卑金属製あるいは金属酸化物製の補綴物と、歯質とを接着させて修復する場合には、(C)酸性化合物として(C1)酸性基含有重合性単量体を用いた本実施形態の歯科用組成物を使用することが好適である。
((C1)酸性基含有重合性単量体)
(C1)酸性基含有重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの酸性基と少なくとも1つの重合性不飽和基を持つ化合物であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。
ここで、「(C1)酸性基含有重合性単量体に含まれる酸性基」とは、酸性基を有する重合性単量体の水分散媒又は水懸濁液が酸性を呈す基であり、単なる酸性基だけでなく、当該酸性基の二つが脱水縮合した酸無水物構造や、酸性基がハロゲン化された酸ハロゲン化物基であってもよい。具体的には、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、リン酸二水素モノエステル基{−O−P(=O)(OH)}、リン酸水素ジエステル基{(−O−)P(=O)OH}、スルホ基(−SOH)、及び酸無水物骨格{−C(=O)−O−C(=O)−}等が挙げられる。
以上に具体例を列挙した酸性基の中でも、カルボキシル基、リン酸二水素モノエステル基、リン酸水素ジエステル基がより好ましい。これらの酸性基では、水に対する安定性が高く、歯面のスメアー層の溶解や歯牙脱灰を緩やかに実施できる。また、上記の効果が最も高いという観点では、リン酸二水素モノエステル基およびリン酸水素ジエステル基が最も好ましい。
リン酸二水素モノエステル基またはリン酸水素ジエステル基を有する重合性単量体としては、具体的には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2−(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−ジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルプロパン−2−フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5−{2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。
カルボキシル基を有する重合性単量体としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
スルホ基を有する重合性単量体としては、具体的には、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸等が挙げられる。
以上に説明した(C1)酸性基含有重合性単量体の中でも、特に下記に列挙する構造式を有する重合性単量体が好ましい。
Figure 0006923237
上記に列挙した構造式として示す(C1)酸性基含有重合性単量体において、Rは、水素原子、またはメチル基である。
また、これら(C1)酸性基含有重合性単量体は、必要に応じて2種以上のものを併用してもよい。2種類以上の(C1)酸性基含有重合性単量体を併用した場合には、基準となる質量は、それらの合計量である。当然のことながら、(C1)酸性基含有重合性単量体とその他の(C)酸性化合物とを併用して使用した場合には、基準となる(C)酸性化合物の質量は、それらの合計量である。
なお、(C)酸性化合物としては、(C1)酸性基含有重合性単量体が重合したポリマーを用いることもできる。
((C)酸性化合物の配合量)
均一組成物中における(C)酸性化合物の配合量は(A)シランカップリング剤100質量部に対して、1質量部〜10000質量部の範囲内であり、10質量部〜1000質量部の範囲内が好ましく、80質量部〜750質量部の範囲内がより好ましい。(C)酸性化合物の配合量が1質量部未満では接着性が低下してしまい、配合量が10000質量部を超える場合は、保存後の接着性が低下(保存安定性が低下)してしまう。
<(D)有機溶媒>
本実施形態の歯科用組成物に用いる(D)有機溶媒としては、公知のものが制限なく使用でき、歯科用組成物の目的に応じて適宜選択できる。(D)有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のハイドロカーボン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が挙げられる。
これらの中でも、溶解性および保存安定性等の観点で、アセトン、エタノール、イソプロピルアルコール等が特に好ましい。(D)有機溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種類以上の(D)有機溶媒を組み合わせて使用した場合には、基準となる量は、それらの合計量である。
歯科組成物中における(D)有機溶媒の配合量は、(A)シランカップリング剤100質量部に対して、10質量部〜90000質量部の範囲であり、100質量部〜50000質量部の範囲内が好ましく、700質量部〜5000質量部の範囲内がより好ましい。(A)シランカップリング剤100質量部に対して、(D)有機溶媒が10質量部未満であると(A)シランカップリング剤と(C)酸性化合物、(E)水の濃度が高くなるため、保存安定性が低下する傾向にある。また、(D)有機溶媒が90000質量部を超えると(A)シランカップリング剤の濃度が希薄となり接着強さ(接着性)が十分に得られない場合がある。
<(E)水>
(E)水としては、貯蔵安定性、生体適合性及び接着性の観点で有害な不純物を実質的に含まない事が好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が挙げられる。
(E)水の配合量は、(A)シランカップリング剤100質量部に対して、10質量部〜2000質量部の範囲内であり、50質量部〜500質量部の範囲内が好ましい。(E)水の配合量が10質量部未満では接着強さが低下してしまう。また、(E)水の配合量が2000質量部を超える場合、被着体表面に塗布された本実施形態の歯科用組成物から水がエアブローで除去しきれずに残存することで、接着が阻害されたり、(A)シランカップリング剤の加水分解が促進され過ぎて保存安定性が低下する。
<歯科用組成物および均一組成物>
本実施形態の歯科用組成物は、均一組成物を含む。この均一組成物は、(A)〜(E)成分を含み、必要に応じて(A)〜(E)成分以外の成分(以下、「その他の成分」と称す場合がある)がさらに含まれていてもよい。また、均一組成物は、当該組成物に含まれる全成分が均一に混合された液状、ペースト状あるいはゾル状の組成物である。この均一組成物は、経時的に調製直後の状態を安定的に維持し続け、長期間静置した後においても固相と液相とに分離したり、水相と油相とに分離したりするなどの経時的な相分離が生じない。
本実施形態の歯科用組成物は、均一組成物のみから構成されていてもよく、均一組成物と、当該均一組成物とは混じり合わずに分離した状態で存在するその他の組成物とから構成されていてもよい。その他の組成物としては、たとえば、均一組成物に対して溶解しない無機フィラー等の組成物(以下、「不溶性組成物」と称する場合がある)が挙げられる。不溶性組成物を構成する成分としては、その他の成分、および、歯科用組成物中に固体状態で存在している(B)水溶性フッ化物塩が挙げられる。なお、(B)水溶性フッ化物塩が歯科用組成物中に固体状態で存在する場合は、均一組成物を構成する溶媒成分(特に(E)水)に対して飽和濃度以上の(B)水溶性フッ化物塩が歯科用組成物に配合されることになる。本実施形態の歯科用組成物が、均一組成物と不溶性組成物とから構成される場合、デカンテーションやろ過などの分離操作によって両者を分離することができる。
なお、本実施形態の歯科用組成物を、一液型の歯科用接着剤あるいは歯科用プライマーとして使用する場合、本実施形態の歯科用組成物は均一組成物のみから構成されていることが好ましい。また、均一組成物と不溶性組成物とを含む本実施形態の歯科用組成物を使用する場合、容器内に本実施形態の歯科用組成物を収容した状態で、使用直前に振とうすることで、均一組成物と不溶性組成物とを均一に混合することが好ましい。
<その他の成分>
本実施形態の歯科用組成物に配合可能な「その他の成分」としては、酸性基を有さない重合性単量体(以下、「酸性基非含有重合性単量体」と称す場合がある)、フィラー、光重合開始剤、重合禁止剤等の、歯科用組成物に使用される物質を必要に応じて使用できる。また、本実施形態の歯科用組成物が、(C1)酸性基含有重合性単量体、酸性基非含有重合性単量体およびラジカル重合性基を含む(A)シランカップリング剤等から選択される少なくとも1種の重合性単量体成分を含む場合、歯科用組成物の重合硬化のために、化学重合開始剤が使用できる。この場合、「その他の成分」として、化学重合開始剤を構成する複数種類の成分のうちの少なくとも1種類の成分を、本実施形態の歯科用組成物に配合できる。以下に、これら「その他の成分」について説明する。
<酸性基非含有重合性単量体>
酸性基非含有重合性単量体としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等の有機酸のエステル類、(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ− N−ビニル誘導体、スチレン誘導体が例示される。中でも、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。酸性基を有しない重合性単量体の具体例を以下に示す。以下の説明においてn官能性の単量体とは、n個のオレフィン性二重結合(官能基)を有する単量体のことである。該酸性基非含有重合性単量体は、1官能、2官能、および3官能以上の重合性単量体が挙げられる。酸性基を有さない1官能の重合性単量体を、以下、単に「単官能重合性単量体」とし、酸性基を有さない2官能の重合性単量体を、以下、単に「2官能重合性単量体」とし、酸性基を有さない3官能以上の重合性単量体を、以下、単に「多官能重合性単量体」とする場合もある。
<酸性基非含有重合性単量体;単官能重合性単量体>
単官能重合性単量体としては、以下の化合物が挙げられる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、1 0−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどである。
<酸性基非含有重合性単量体;2官能重合性単量体>
2官能重合性単量体としては、以下の化合物が挙げられる。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA ジグリシジル(メタ)アクリレート、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3 −(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリトリトールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレートなどである。
<酸性基非含有重合性単量体;多官能重合性単量体>
多官能重合性単量体としては、以下の化合物が挙げられる。具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン) ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタンなどである。
以上に説明した酸性基非含有重合性単量体は、歯科用組成物の目的とする用途に応じて適宜組み合わせて使用することができる。これら酸性基非含有重合性単量体は1種類または複数種類の組み合わせで用いられる。複数種類を使用した場合には、基準となる配合量は、それらの合計量である。
<酸性基非含有重合性単量体の配合量>
本実施形態の歯科用組成物において、酸性基非含有重合性単量体は歯科用組成物の用途等に応じて、必要に応じて適量を用いることができる。本実施形態の歯科用組成物に対して酸性基非含有重合性単量体を配合する場合、(A)シランカップリング剤100質量部に対して、酸性基非含有重合性単量体の配合量を1質量部〜90000質量部とすることが好ましく、10質量部〜50000質量部とすることが好ましい。なお、酸性基非含有重合性単量体の最適な配合量は、歯科用組成物の目的とする用途に応じて適宜決定すればよい。
また、本実施形態の歯科用組成物に酸性基非含有重合性単量体を配合する場合、歯科用組成物の用途に応じて、単官能重合性単量体、2官能重合性単量体、および多官能重合性単量体を適宜組み合わせて使用することが好ましい。
<フィラー>
本実施形態の歯科用組成物には、必要に応じて、さらにフィラーを配合することもできる。フィラーとしては、公知の有機フィラー、無機フィラーを適宜使用することができる。
有機フィラーを具体的に例示するとポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、エチルメタクリレート−ブチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート−トリメチロールプロパントリメタクリレート共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、塩素化ポリエチレン、ナイロン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリカーボネート等が挙げられる。なお、これら有機フィラーは、酸性基を含まないものである。
無機フィラーを具体的に例示すると、石英、無定形シリカ、シリカジルコニア、クレー、酸化アルミニウム、タルク、雲母、カオリン、ガラス、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、リン酸カルシウム等が挙げられる。
なお、何らの表面処理が施されていない無機フィラー(無処理無機フィラー)を本実施形態の歯科用組成物に配合した場合、均一組成物に含まれる(A)シランカップリング剤は、無処理無機フィラーと反応し、消費される。このため、本実施形態の歯科用組成物に無機フィラーを配合する場合は、無処理無機フィラーを表面処理剤で表面処理した表面処理済無機フィラーを用いることが好ましい。また、本実施形態の歯科用組成物に無処理無機フィラーを配合する場合、無処理無機フィラーの配合量は微量に留めることが好ましい。無処理無機フィラー表面処理に用いる表面処理剤としては、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤が挙げられる。なお、無処理無機フィラーの表面処理剤として用いられるシランカップリング剤は、無処理無機フィラーの表面と不可逆的に反応するため、均一組成物に含まれる(A)シランカップリング剤としては機能しない。
また、本実施形態の歯科用組成物に(C1)酸性基含有重合性単量体あるいは酸性基非含有重合性単量体を配合する場合、表面処理済無機フィラーを用いることが好適である。この場合、これら重合性単量体と表面処理済無機フィラーとのなじみをよくし、機械的強度や耐水性を向上させることが容易になる。無処理無機フィラーの表面処理の方法は公知の方法で行えばよい。表面処理剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が好適に用いられる。
フィラーは、単独でも、2種類以上のものを組み合わせて使用できる。2種類以上のものを使用した場合には、基準となる配合量は、それらの合計量である。
本実施形態の歯科用組成物にフィラーを配合する場合、(A)シランカップリング剤100質量部に対するフィラーの配合量は1質量部〜50000質量部であることが好ましく、10質量部〜30000質量部であることが好ましい。なお、フィラーの最適な配合量は、本実施形態の歯科用組成物の用途に応じて適宜決定すればよい。
<光重合開始剤>
本実施形態の歯科用組成物が、(C1)酸性基含有重合性単量体、酸性基非含有重合性単量体およびラジカル重合性基を含む(A)シランカップリング剤等から選択される少なくとも1種の重合性単量体成分を含む場合、必要に応じて、さらに光重合開始剤を用いてもよい。光重合開始剤としては、光照射によりラジカルを発生する光増感剤を用いることができる。紫外線に対する光増感剤の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン化合物系、アセトインべンゾフェノン、p−クロロべンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−メトキシチオキサントン、2−ヒドロキシチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、等のチオキサントン系化合物、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類、3,3'−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリンなどのクマリン類、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどのハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体などが挙げられる。また、可視光線で重合を開始する光増感剤は、人体に有害な紫外線を必要としないために好適に使用される。これらの例としては、ベンジル、カンファーキノン、α−ナフチル、アセトナフセン、p,p’−ジメトキシベンジル、p,p’−ジクトレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン、ナフトキノン 等のα−ジケトン類が挙げられる。好ましくは、カンファーキノンが用いられる。
これら光増感剤(光重合開始剤)は、単独でも、2種類以上のものを組み合わせて使用できる。2種類以上のものを使用した場合には、基準となる配合量は、それらの合計量である。
また、上記光増感剤に光重合促進剤を組み合わせて用いることも好ましい。特に第三級アミン類を光重合促進剤として用いる場合には、芳香族基に直接窒素原子が置換した化合物を用いることがより好ましい。光重合促進剤としては、Ν,Ν−ジメチルアニリン、Ν,Ν−ジエチルアニリン、Ν,Ν−ジ−n−ブチルアニリン、Ν,Ν−ジベンジルアニリン、Ν,Ν−ジメチル−p−トルイジン、Ν,Ν−ジメチル−m−トルイジン、Ν,Ν−ジエチル−p−トルイジン、p−ブロモ−Ν,Νジメチルアニリン、m−クロロΝ,Ν−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノべンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノべンゾイックアシッドエチルエステル、p−ジメチルアミノべンゾイックアシッドアミノエステル、Ν,Ν−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、Ν,Ν−ジヒドロキシエチルアニリン、Ν,Ν−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノスチレン、Ν,Ν−ジメチル−3,5−キシリジン、 4−ジメチル アミノピリジン、Ν,Ν−ジメチル−α−ナフチルアミン、Ν,Ν−ジメチル−β−ナフチルアミン等が挙げられる。これらの光重合促進剤のうち少なくとも一種を選んで用いることができ、さらに二種以上を混合して用いることもできる。
これら光重合促進剤は、単独でも、2種類以上のものを組み合わせて使用できる。2種類以上のものを使用した場合には、基準となる配合量は、それらの合計量である。
重合開始剤成分を含む本実施形態の歯科用組成物に配合する光重合開始剤および光重合促進剤の配合量は適宜決定することができる。通常、有効量の光重合開始剤、および光重合促進剤を使用することが好ましい。光重合開始剤の配合量は、本実施形態の歯科用組成物に配合された重合性単量体成分の全量を100質量部とした場合、0.001質量部〜30質量部であることが好ましく、0.1質量部〜10質量部であることがより好ましい。また光重合促進剤の配合量は、重合性単量体成分の全量を100質量部としたとき、0.001質量部〜30質量部であることが好ましく、0.1質量部〜10質量部であることがより好ましい。
<化学重合開始剤>
本実施形態の歯科用組成物が、(C1)酸性基含有重合性単量体、酸性基非含有重合性単量体およびラジカル重合性基を含む(A)シランカップリング剤等から選択される少なくとも1種の重合性単量体成分を含む場合、必要に応じて、さらに化学重合開始剤を使用してもよい。化学重合開始剤としては、公知の化学重合開始剤であればいずれも制限無く利用することができる。このような化学重合開始剤としては、たとえば、有機過酸化物及びアミン類の組み合わせ、有機過酸化物、アミン類及びスルフィン酸塩類の組み合わせ、酸性化合物及びアリールボレート化合物の組み合わせ、第4周期遷移金属化合物及び有機過酸化物の組み合わせ、有機過酸化物及びチオ尿素誘導体の組み合わせ、バルビツール酸、アルキルボラン等の化学重合開始剤等が挙げられる。
有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートに分類される各種過酸化物を挙げることができる。これらは、単独でも2種以上の組み合わせでも使用することができる。
アミン類としては、第二級又は第三級アミン類が好ましく、具体的に例示すると、第二級アミンとしてはN−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン等が挙げられ、第三級アミンとしてはN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、4−ジメチルアミノピリジン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2’−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の組み合わせでも使用することができる。
アリールボレート化合物としては、1分子中に少なくても1つのホウ素−アリール結合を有していれば、公知のものを使用することができるが、保存安定性が高いことや取り扱いの容易さ、入手のし易さから、1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物が最も好ましい。1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物の具体例としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素などのホウ素化合物の塩を挙げることができる。ホウ素化合物と塩を形成する陽イオンとしては、金属イオン、第3級または第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンを使用することができる。これらは、単独でも2種以上の組み合わせでも使用することができる。
チオ尿素誘導体としては、チオ尿素骨格を有する化合物が特に制限はなく使用でき、後述するチオ尿素化合物やメルカプトベンゾイミダゾール化合物が含まれ、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記チオ尿素化合物としては、エチレンチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素、1−(2−テトラヒドロフルフリル)−2−チオ尿素、1−アセチル−2−チオ尿素等が挙げられる。前記メルカプトベンゾイミダゾール化合物としては、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メトキシベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エトキシベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−メチルベンゾイミダゾール、2−メルカプト−5−エチルベンゾイミダゾール等が挙げられる。これらは、単独でも2種以上の組み合わせでも使用することができる。
第4周期遷移金属化合物において、第4周期の遷移金属とは、周期表第4周期の3〜12族の金属元素であり、具体的には、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)である。これらの遷移金属元素は、各々が複数の価数を取りうるが、安定に存在できる価数のもの、例えば、Sc(III)、Ti(IV)、V(III〜V)、Cr(II、III、VI)、Mn(II〜VII)、Fe(II、III)、Co(II、III)、Ni(II)、Cu(I、II)、Zn(II)の化合物が、少なくとも有機過酸化物と組み合わされて化学重合開始剤として使用される。
このような第4周期遷移金属化合物の具体例としては、ヨウ化スカンジウム(III)、塩化チタン(IV)、チタニウム(IV)テトライソプロポキシド、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、塩化クロム(III)、クロム酸(VI)、クロム酸塩(VI)、酢酸マンガン(II)、酢酸鉄(II)、酢酸鉄(III)、酢酸コバルト(II)、ナフテン酸コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、塩化銅(I)、臭化銅(I)、塩化銅(II)、酢酸銅(II)、硫酸銅(II)、アセチルアセトン銅(II)、酢酸亜鉛(II)等を挙げることができ、これらは、単独でも2種以上の組み合わせでも使用することができる。
重合開始剤成分を含む本実施形態の歯科用組成物の重合硬化のために化学重合開始剤を使用する場合、化学重合開始剤を構成する複数種類の成分のうち、少なくとも1種類の成分(第一成分)が、本実施形態の歯科用組成物に配合される。また、化学重合開始剤を構成する全成分のうち、残りの種類の成分(第二成分)は、本実施形態の歯科用組成物とは異なる別の歯科用組成物(以下、「併用歯科用組成物」と称する場合がある)に配合される。重合開始剤成分を含む本実施形態の歯科用組成物に配合される第一成分の配合量は、使用する化学重合開始剤の種類等に応じて適宜決定することができる。通常、有効量の第一成分および第二成分を使用することが好ましい。化学重合開始剤の一部を構成する第一成分の配合量は、本実施形態の歯科用組成物に配合された重合性単量体成分の全量を100質量部とした場合、0.001質量部〜30質量部であることが好ましく、0.1質量部〜10質量部であることがより好ましい。なお、第一成分を構成する組成と、第二成分を構成する組成との組み合わせとしては、両者が分離された状態で存在している場合は、安定した状態を維持し、両者が接触・混合した場合に反応する組み合わせが適宜選択される。
なお、化学重合開始剤の残部を構成する第二成分が配合される併用歯科用組成物としては、たとえば、歯科用ボンディング材、コンポジットレジン、コンポマー、レジンコア、レジンセメント、レジン強化型グラスアイオノマーセメント、義歯床用レジンなどが挙げられる。従って、第一成分および重合性単量体成分を含む本実施形態の歯科用組成物を重合硬化させる場合、当該歯科用組成物と併用歯科用組成物とを接触または混合させて使用する。
<重合禁止剤>
重合開始剤成分および重合性単量体成分を含む本実施形態の歯科用組成物には、必要に応じて一般的な歯科用材料に使用できる公知の重合禁止剤を配合することもできる。重合禁止剤としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。これらの重合禁止剤のうち少なくとも1種を選んで用いることができ、さらに2種以上を混合して用いることもできる。
前記重合禁止剤は、単独でも、2種類以上のものを組み合わせて使用できる。2種類以上のものを使用した場合には、基準となる配合量は、それらの合計量である。
重合禁止剤の配合量は、歯科用組成物に含まれる重合性単量体成分の全量を100質量部としたとき、0.0001質量部〜10質量部とすることが好ましい。
<容器>
本実施形態の歯科用組成物包装体において、被包装材である本実施形態の歯科用組成物を収容する容器は、従来より一般的に使用されている容器を使用することができる。このような容器としてはボトル、シリンジ、包装袋等が挙げられる。容器の材質は、ガラス等の(A)シランカップリング剤と反応する可能性がある材料でなければ、特に限定されないが、使用感、気密性の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の合成樹脂であることが好ましい。また、本実施形態の歯科用組成物が光重合開始剤を含む場合、容器としては遮光容器を用いる必要がある。
<歯科用組成物包装体の製造方法>
本実施形態の歯科用組成物包装体の製造方法は、歯科用組成物調製工程と、充填工程とを含む。歯科用組成物調製工程では、(A)シランカップリング剤:100質量部と、(B)水溶性フッ化物塩:式(1)を満たす場合の質量部換算の配合量と、(C)酸性化合物:1質量部以上10000質量部以下と、(D)有機溶媒:10質量部以上90000質量部以下と、(E)水:10質量部以上2000質量部以下と、を含む全ての原料成分を混合する。ここで、混合処理は、各々の原料成分が、均一に十分に混ざり合うまで実施する。これにより、均一組成物を含む歯科用組成物を調製する。歯科用組成物を調製に際しては、全ての原料成分を一度に混合してもよい。また、(B)水溶性フッ化物塩の水に対する溶解度が小さい場合は、(B)水溶性フッ化物塩と(E)水とを混合した水溶液を調製する第一の調整工程と、この水溶液と、残りの原料成分とを混合する第二の調整工程を経て、歯科用組成物を調製することが好ましい。また、光重合開始剤を含む歯科用組成物を調製する場合、歯科用組成物調製工程は、光重合開始剤の開始反応が生じる波長の光をカットした環境下で実施することが好ましい。
充填工程では、歯科用組成物調製工程にて調製した歯科用組成物を容器内に充填する工程である。なお、歯科用組成物が光重合開始剤を含む場合、光重合開始剤の開始反応が生じる波長の光をカットした環境下で充填工程を実施することが好ましい。
<歯科用組成物の好適な用途(被接着体)>
本実施形態の歯科用組成物は、様々な被接着体の接着に利用できる。このような被接着体を構成する材質としては、ジルコニアセラミックスや、シリカ系セラミックス(ポーセレンなど)などのセラミックス、歯質(象牙質、エナメル質)、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、スズ、アルミニウム、銅、チタン等を主成分として含む卑金属、金、白金、パラジウム、銀等を主成分として含む貴金属、シリカ粒子あるいはシリカ−ジルコニア粒子などのフィラーを分散含有するレジン硬化体(硬質レジン歯、ハイブリッドレジン、CAD/CAMレジンブロック)等の各種歯科材料が挙げられる。
このような被接着体への接着用途の中でも、本実施形態の歯科用組成物は、特に、セラミックスやシリカ系粒子を含むレジン硬化体に対する接着性に優れている。このため、本実施形態の歯科用組成物は、セラミックスプライマーおよび多目的接着用接着材として利用することが好適である。
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものでは無い。
1.物質の略称
以下に、実施例および比較例において使用した物質の略称について説明する。
<シランカップリング剤>
<1>(A)シランカップリング剤
・MPTES:γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシラン
・MPTIPS:γ−メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン
・MMBSS:(メタクリロキシメチル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン
・MPTSS:メタクリロキシプロピルトリス(ビニルジメチルシロキシ)シラン
・BMPTSS:1、3−ビス(3−メタクリロキシプロピル)テトラキス(トリメチルシロキシ)ジシロキサン
<2>(A)シランカップリング剤以外のその他のシランカップリング剤
・MPS:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
<フッ素化合物>
<1>(B)水溶性フッ化物塩
・NaF:フッ化ナトリウム
・KF:フッ化カリウム
・CsF:フッ化セシウム
・TBAF:フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム
<2>(B)水溶性フッ化物塩以外のその他のフッ素化合物
・HF:フッ化水素酸
・TBABF:二フッ化水素テトラ−n−ブチルアンモニウム
・TBATF:三フッ化2水素テトラ−n−ブチルアンモニウム
・FASG:フルオロアルミノシリケートガラス粉末(トクソーアイオノマー、株式会社トクヤマ製)を湿式の連続型ボールミル(ニューマイミル、三井鉱山株式会杜製)を用いて、平均粒径0.5μmまで粉砕したもの。
<(C)酸性化合物>
<(C1)酸性基含有重合性単量体>
・MDP:10−メタアクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート
・PM2:ビス(2−メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート
<酸性基非含有重合性単量体>
・BisGMA:2.2’ ―ビス[4―(2―ヒドロキシ―3―メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・HEMA:2―ヒドロキシエチルメタクリレート
<その他の成分>
・CQ:カンファーキノン。
・DMBE:4−ジメチルアミノ安息香酸エチル。
2.19F−NMR測定(NMRスペクトル比)
各実施例および比較例の歯科用組成物に用いたフッ素化合物については、19F−NMR測定により、250ppm〜−250ppmに観測される全スペクトルの積分値の合計に対する、−110ppm〜−140ppmに観測されるスペクトルの積分値の合計の割合(NMRスペクトル比)を求めた。以下に19F−NMRの測定条件の詳細を説明する。
各実施例および各比較例に用いたフッ素化合物0.01gを重水1gに溶解した後、19F−NMRスペクトルを下記条件で測定した。なお、FASGは上記混合割合にて溶解しない。このため、適量づつ採取したFASGと重水とを混合した後、室温下で24時間撹拌した溶液を、目開き0.2μmのフィルターにより不溶解成分をろ過することにより得た濾液を測定に用いた。
測定装置:核磁気共鳴装置(400MHz FT−NMR)JNM−ECA4002 株式会社JEOL RESONANCE製
測定方法:シングルパルス法
観測核:19F
試料回転数:15 Hz
測定温度:22℃
共鳴周波数:376.17 MHz
フリップ核:45°
90°パルス幅:8 us
待ち時間:5s
積算回数:64
スペクトル幅:250ppm〜−250ppm
基準物質:トリフルオロトルエンCCF(外部基準:−64ppm)
試料管外径:5mm
各種のフッ素化合物のNMRスペクトル比を、ピークケミカルシフトおよび各スペクトルの積分値の割合と共に示す。
Figure 0006923237
3.各実施例および比較例の歯科用組成物の調製
表2〜表5に示す配合割合で歯科用組成物を構成する全ての成分を均一になるまで十分に混合することで、実施例1〜20および比較例1〜15の歯科用組成物を得た。表2および表3には、各実施例(表2)および各比較例(表3)において、歯科用組成物の全量を100質量%とした場合の各成分の配合割合(質量%)を記載した。また、表2および表3には、Bm/Am比についても示した。
一方、表4および表5には、各実施例(表4)および各比較例(表5)において、シランカップリング剤100質量部当たりの各成分の各成分の配合割合(質量部)を示した。
なお、調製直後の各実施例および比較例の歯科用組成物を目視で観察したところ、比較例15以外の歯科用組成物では全ての成分が均一に混合・溶解していることが確認された。また、調製直後の各実施例および比較例の歯科用組成物を常温環境下にて1月間放置した後、再度目視観察したところ、相分離や沈殿物等は確認されず、調製直後と同様に全ての成分が均一に混合・溶解していることが確認された。これらの目視観察結果から、実施例1〜20および比較例1〜14の歯科用組成物は均一組成物のみから構成されていることが判った。一方、調製直後の比較例15の歯科用組成物を目視で観察したところ、FASGは溶解せずに沈殿した。また、比較例15の歯科用組成物を、調製直後および常温環境下にて1月間放置した後に濾過することで得られた沈殿物(固形分)の重量を測定したところ、沈殿物の重量がFASGの配合量と一致していることが確認された。
Figure 0006923237
Figure 0006923237
Figure 0006923237
Figure 0006923237
4.接着強度の評価
各実施例および比較例の歯科用組成物を用いて、以下に説明する手順にて接着強度を評価した。
まず、被着体として、シリカ系結晶化ガラスを材質とする歯科用セラミックス(いわゆるポーセレン)である「ノリタケスーパーポーセレンAAA」(クラレノリタケ製、縦15mm×横15mm×厚さ3mm)を準備した。次に、この被着体の片面を#800の耐水研磨紙で研磨した。その後、被着体の研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に各実施例、および各比較例の歯科用組成物をそれぞれマイクロブラシで塗布した。そして接着面に塗布された歯科用組成物を5秒間エアブローすることにより乾燥させた。
続いて、光重合開始剤を添加した実施例3〜20、比較例3〜15においては、歯科用組成物を可視光線照射器(パワーライト、トクヤマデンタル社製)にて10秒間光照射して硬化させた。
次に、直径8mmの穴が設けられた厚み0.5mmのパラフィンワックスを、パラフィンワックスの穴と、両面テープの穴とが同心円となるように歯科用組成物が塗布された接着面に貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣクイック、トクヤマデンタル社製)を充填してポリエステルフィルムで軽く圧接した後、可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)を用い、光照射10秒による光硬化を行った。その後、あらかじめ研磨したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)をレジンセメント(ビスタイトII、トクヤマデンタル社製)を用いて接着した。最後に、コンポジットレジンおよびレジンセメントを介して丸棒が接着された模擬窩洞を37℃の水中にて24時間浸漬することで接着強度測定用のサンプルを得た。なお、使用したコンポジットレジン(エステライトΣクイック)は、カンファーキノンおよびアミン化合物を含む光重合性の組成物である。これら接着強度測定用のサンプルについて、島津製作所製オートグラフ(クロスヘッドスピード2mm/分)を用いて引張接着強度を測定した。各実施例および比較例について、4個のサンプルの測定値を平均し、測定結果とした。
表6に、下記(a)−(d)項の評価結果を示す。
(a)接着面に対して調製直後の歯科用組成物を塗布することにより得られたサンプルの接着強度の測定結果(「初期」の接着強度)
(b)接着面に対して調製直後の歯科用組成物をさらに50℃の恒温槽中で3週間保管した後の歯科用組成物を塗布することにより得られたサンプルの接着強度(「50℃3週間保管後」の接着強度)
(c)接着面に対して調製直後の歯科用組成物をさらに50℃の恒温槽中で6週間保管した後の歯科用組成物を塗布することにより得られたサンプルの接着強度(「50℃6週間保管後」の接着強度)
(d)「50℃6週間保管後」の接着強度/「初期」の接着強度(%)(「接着強度保持率」)
Figure 0006923237
<表6に示す評価結果ついて>
実施例1〜20の接着試験結果は、初期、50℃3週間保管後および50℃6週間保管後のいずれにおいても良好であった。
一方、比較例1、2、4、5、6の歯科用組成物は(B)水溶性フッ化物塩を全く含まない。このため、保管中に(A)シランカップリング剤の加水分解、脱水縮合が生じ、初期に対して保管後の接着強度が大きく低下したと推定される。比較例11、12、13、15は(B)水溶性フッ化物塩とは異なるその他のフッ素化合物を用いている。このため、フッ素化合物の添加による効果が十分生じず、初期に対して保管後の接着強さが大きく低下したと推定される。また、特に比較例15はFASG自体にシランカップリング剤のシラノール基が結合してしまい、接着強度が大きく低下したと推定される。
比較例7は、(B)水溶性フッ化物塩の配合量が少ない。このため、(B)水溶性フッ化物塩の添加の効果が十分に生じず、初期に対して保管後の接着強度が大きく低下したと推定される。比較例10は(B)水溶性フッ化物塩の配合量が多すぎる。このため、(B)水溶性フッ化物塩が接着の阻害因子としてなり、初期の接着強度が低下したと推定される。また、比較例10では保管後においても接着強度が大きく低下している。この理由は(B)水溶性フッ化物塩により加水分解性基の多くがフッ素化されたため、加水分解性基が接着に十分に関与できなくなったためと推定される。
比較例14は、(A)シランカップリング剤とは異なるその他のシランカップリング剤を用いている。比較例14において用いたシランカップリング剤は全ての加水分解性基が加水分解性の高いメトキシ基である。このため、歯科用組成物を充分に安定化させる効果が得られず、保管後の接着強度が大きく低下したと推定される。
比較例3、8、9はそれぞれ(A)シランカップリング剤、(C)酸性化合物、(E)水を含まない。このため、十分な接着強度は得られなかったと推定される。
5.歯科用組成物の存在状態
実施例1、5、9、10の歯科用組成物を調製後、温度25℃で1日間放置したサンプルについて下記に説明する19F−NMRおよび29Si−NMR測定を行い、各々のNMRスペクトルを確認した。その結果、これらのNMRスペクトルから、Si−F由来のピーク(19F−NMR:−157ppm、29Si−NMR:36ppm)、Si−OH由来のピーク(29Si−NMR:14ppm)及び遊離フッ素イオン由来のピーク(19F−NMR:−135ppm)が確認された。
19F−NMR測定>
歯科用組成物0.5gを重アセトン0.5gに溶解した後、19F−NMRスペクトルを下記条件で測定を行った。
測定装置:核磁気共鳴装置(400MHz FT−NMR)JNM−ECA4002 株式会社JEOL RESONANCE製
測定方法:シングルパルス法
観測核:19F
試料回転数:15 Hz
測定温度:22℃
共鳴周波数:376.17 MHz
フリップ核:45°
90°パルス幅:8 us
待ち時間:5s
積算回数:64
スペクトル幅:250ppm〜−250ppm
基準物質:トリフルオロトルエンC6H5CF3(外部基準:−64ppm)
試料管外径:5mm
29Si−NMR測定>
歯科用組成物を原液のまま下記条件で測定を行った。
測定装置:核磁気共鳴装置(400MHz FT−NMR)JNM−ECA4002 株式会社JEOL RESONANCE製
測定方法:シングルパルス法
観測核:29Si
試料回転数:15 Hz
測定温度:22℃
共鳴周波数:79.42MHz
フリップ核:30°
90°パルス幅:55 us
待ち時間:20s
積算回数:2500
スペクトル幅:250ppm〜−250ppm
基準物質:テトラメチルシランSi(CH3)4(外部基準:0ppm)
試料管外径:10mm

Claims (7)

  1. 均一組成物を含む歯科用組成物と、前記歯科用組成物を収容する容器と、を含む歯科用組成物包装体であって
    <i>前記均一組成物が、
    (A)シランカップリング剤:100質量部と、
    (B)水溶性フッ化物塩と、
    (C)酸性化合物:1質量部以上10000質量部以下と、
    (D)有機溶媒:10質量部以上90000質量部以下と、
    (E)水:10質量部以上2000質量部以下と、
    を含む全成分を均一に混合した組成物からなり、
    <ii>前記(A)シランカップリング剤が、その分子内に、
    重合性基と
    b1)加水分解性を有する炭素数2〜5のアルコキシ基、及び/又は、
    (b2)下記構造式(1s)
    Figure 0006923237
    〔前記構造式(1s)中、R12、R13、およびR14は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基である。〕
    で示される、加水分解性を有する置換シロキシ基、
    が1〜3個結合したケイ素原子(但し、前記置換シロキシ基におけるケイ素原子を除く)と、
    を含むケイ素化合物であり、
    <iii>前記(B)水溶性フッ化物塩が水に溶解した際の19F−NMRにおいて、250ppm〜−250ppmに観測される全スペクトルの積分値の合計に対する、−110ppm〜−140ppmに観測されるスペクトルの積分値の合計の割合が70%以上であり、かつ、
    <iv>前記均一組成物中に含まれる前記(B)水溶性フッ化物塩の含有量が、下記式(1):0.001≦Bm/Am≦6
    〔前記式(1)中、Amは、100質量部の前記(A)のシランカップリング剤に含まれる前記加水分解性基の総モル数(mol)を意味し、Bmは、前記(B)水溶性フッ化物塩に由来するフッ素原子の総モル数(mol)を意味する。〕
    を満たす範囲内にある、
    ことを特徴とする歯科用組成物包装体
  2. 前記(A)シランカップリング剤が、下記第一シランカップリング剤、下記第二シランカップリング剤、および、下記第三シランカップリング剤からなる群より選択される少なくとも1種のシランカップリング剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の歯科用組成物包装体。
    〔第一シランカップリング剤〕:下記構造式(1)で示されるケイ素化合物からなるシランカップリング剤。
    Figure 0006923237
    (前記構造式(1)中、
    11は、メチル基、または水素原子であり、
    11は、酸素原子、またはイミノ基であり、
    11は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
    11、Y11、およびZ11は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、前記(b1)炭素数2〜5のアルコキシ基、または前記(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基であり、
    11、Y11、およびZ11の少なくとも1つは、前記(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。)
    〔第二シランカップリング剤〕:下記構造式(2)で示されるケイ素化合物からなるシランカップリング剤。
    Figure 0006923237
    (前記構造式(2)中、
    21は、メチル基、または水素原子であり、
    21は、酸素原子、またはイミノ基であり、
    21は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
    21、およびZ21は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基、前記(b1)炭素数2〜5のアルコキシ基、または前記(b2)構造式(1s)に示す置換シロキシ基である。)
    〔第三シランカップリング剤〕:下記構造式(3)で示されるケイ素化合物からなるシランカップリング剤。
    Figure 0006923237
    (前記構造式(3)中、
    31は、メチル基、または水素原子であり、
    31は、酸素原子、またはイミノ基であり、
    31は、炭素数1〜30の2価の炭化水素基であり、
    31、Y31、およびZ31は、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基または前記(b1)炭素数2〜5のアルコキシ基である
  3. 前記(C)酸性化合物が、(C1)酸性基含有重合性単量体を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用組成物包装体。
  4. 前記歯科用組成物が、1液型歯科用接着剤組成物および1液型歯科用プライマー組成物からなる群より選択されるいずれかの組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の歯科用組成物包装体。
  5. 前記歯科用組成物が、前記均一組成物のみからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の歯科用組成物包装体。
  6. (A)シランカップリング剤:100質量部と、
    (B)水溶性フッ化物塩:前記式(1)を満たす場合の質量部換算の配合量と、
    (C)酸性化合物:1質量部以上10000質量部以下と、
    (D)有機溶媒:10質量部以上90000質量部以下と、
    (E)水:10質量部以上2000質量部以下と、
    を含む全ての原料成分を混合することにより、前記均一組成物を含む前記歯科用組成物を調製する歯科用組成物調製工程と、
    前記歯科用組成物を前記容器内に充填する充填工程と、
    を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の歯科用組成物包装体の製造方法。
  7. 均一組成物を含み、
    <i>前記均一組成物が、
    (A)シランカップリング剤:100質量部と、
    (B)水溶性フッ化物塩と、
    (C)酸性化合物:1質量部以上10000質量部以下と、
    (D)有機溶媒:10質量部以上90000質量部以下と、
    (E)水:10質量部以上2000質量部以下と、
    を含む全成分を均一に混合した組成物からなり、
    <ii>前記(A)シランカップリング剤が、その分子内に、
    重合性基と
    b1)炭素数2〜5のアルコキシ基、及び/又は、
    (b2)下記構造式(1s)
    Figure 0006923237
    〔前記構造式(1s)中、R12、R13、およびR14は、それぞれ、炭素数1〜30の炭化水素基である。〕
    で示される、加水分解性を有する置換シロキシ基、
    が1〜3個結合したケイ素原子(但し、前記置換シロキシ基におけるケイ素原子を除く)と、
    を含むケイ素化合物であり、
    <iii>前記(B)水溶性フッ化物塩が水に溶解した際の19F−NMRにおいて、250ppm〜−250ppmに観測される全スペクトルの積分値の合計に対する、−110ppm〜−140ppmに観測されるスペクトルの積分値の合計の割合が70%以上であり、かつ、
    <iv>前記均一組成物中に含まれる前記(B)水溶性フッ化物塩の含有量が、下記式(1):0.001≦Bm/Am≦6
    〔前記式(1)中、Amは、100質量部の前記(A)のシランカップリング剤に含まれる前記加水分解性基の総モル数(mol)を意味し、Bmは、前記(B)水溶性フッ化物塩に由来するフッ素原子の総モル数(mol)を意味する。〕
    を満たす範囲内にある、
    ことを特徴とする歯科用組成物
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