本実施形態に係る素子100について、図1を用いて説明する。素子100は、発振周波数fTHz(共振周波数fTHz)の電磁波を発振する発振器である。図1(a)は本実施形態に係る素子100の外観を示す斜視図であり、図1(b)はそのA−A断面図、図1(c)はそのB−B断面図である。なお、素子100は、以降「発振器100」と呼ぶ。
まず、発振器100の構成について説明する。発振器100は、共振部102、線路108、バイアス回路120、を有する。共振部102は、パッチ導体(第1の導体)103、接地導体(第2の導体)104及び第1の誘電体105aを含むテラヘルツ波帯の共振器と、微分負性抵抗素子101と、を有する。
微分負性抵抗素子101は、電流電圧特性において、電圧の増加に伴って電流が減少する領域、すなわち負の抵抗をもつ領域(微分負性抵抗領域)が現れる素子である。微分負性抵抗素子101は、典型的には、RTDやエサキダイオード、ガンダイオード、一端子を終端したトランジスタなどの高周波素子が好適である。また、タンネットダイオード、インパットダイオード、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、化合物半導体系FET、高電子移動度トランジスタ(HEMT)などを用いてもよい。また、超伝導体を用いたジョセフソン素子の微分負性抵抗を用いてもよい。本実施形態では、テラヘルツ波帯で動作する代表的な微分負性抵抗素子である共鳴トンネルダイオード(RTD)を微分負性抵抗素子101に用いた場合を例にして説明を進める。
共振部102は、共振器と微分負性抵抗素子101とが集積されたアクティブアンテナである。共振器は、テラヘルツ波の共振器であり、パッチ導体103と、接地導体104と、パッチ導体103と接地導体104との間に配置されている誘電体105aと、を有する。パッチ導体103と接地導体104との二導体で誘電体105aを挟む構成は、有限な長さのマイクロストリップラインなどを用いたマイクロストリップ共振器として良く知られている。本実施形態では、テラヘルツ波の共振器としてパッチアンテナを用いている。
パッチアンテナは、パッチ導体103のA−A方向の幅がλ/2共振器となるように設定される。パッチ導体103と接地導体104との間には、微分負性抵抗素子101が配置されている。本実施形態では、微分負性抵抗素子101とパッチアンテナなどのテラヘルツ波帯の共振器とを集積した構成を共振部102とする。
ここで、本明細書における「誘電体」は、導電性よりも誘電性が優位な物質で、直流電圧に対しては電気を通さない絶縁体或いは高抵抗体としてふるまう材料である。典型的には抵抗率が1kΩ・m以上の材料が好適である。具体例としては、プラスティック、セラミック、酸化シリコン、窒化シリコンなどがある。
共振部102は、パッチアンテナと微分負性抵抗素子101とが集積されたアクティブアンテナである。従って、発振器100の共振部102によって規定される発振周波数fTHzは、パッチアンテナのリアクタンスと微分負性抵抗素子101のリアクタンスとを組み合わせた全並列共振回路の共振周波数として決定される。すなわち、発振器100は、発振周波数fTHzのテラヘルツ波を発振する。
具体的には、Jpn.J.Appl.Phys.,Vol.47,No.6,4375(2008)に開示されたRTD発振器の等価回路から、RTDとアンテナのアドミタンス(YRTD及びYANT)を組み合わせた共振回路について、(1)式の振幅条件と(2)式の位相条件との二つの条件を満たす周波数が発振周波数fTHzとして決定される。ここで、Re[YRTD]は、微分負性抵抗素子101のアドミタンスであり負の値を有す。
Re[YRTD]+Re[YANT]≦0 (1)
Im[YRTD]+Im[YANT]=0 (2)
微分負性抵抗素子101にバイアス電圧を供給するためのバイアス回路120は、微分負性抵抗素子101と並列に接続された抵抗110、抵抗110と並列に接続された容量109、電源112、配線111を含む。配線111は、寄生的なインダクタンス成分を必ず伴うため、図1上ではインダクタンスとして表示した。電源112は、微分負性抵抗素子101の駆動に必要な電流を供給し、バイアス電圧を調整する。バイアス電圧は、典型的には、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗領域から選択される。
線路108は、分布定数線路であり、バイアス回路120からのバイアス電圧は、線路108を介して素微分負性抵抗子101に供給される。本実施形態の線路108は、マイクロストリップラインである。線路108は、ストリップ導体(第3の導体)106と、接地導体(第4の導体)104と、第2の誘電体105bと、第5の導体107と、を有し、ストリップ導体106と接地導体104とで第2の誘電体105bを挟んだ構成である。ストリップ導体106とパッチ導体103とは、第5の導体107を介して電気的に接続されている。
第2の誘電体105bの厚さは、第1の誘電体105aの厚さより薄くなるように構成されている。そのため、第5の導体107は、第1の誘電体105aと第2の誘電体105bとの間の段差(高低差)をつなぎ、パッチ導体103とストリップ導体106との間を電気的かつ物理的に接続するためのプラグの役割がある。これにより共振部102と線路108とはDC結合される。なお、本実施形態では共振部102の第2の導体と線路108の第4の導体とは、同一の層である接地導体104であるが、各々異なる導体でもよい。
バイアス回路120の抵抗110及び容量109は、バイアス回路120に起因した比較的低周波な共振周波数fsp(fsp<fLC<fTHz、典型的にはDCから10GHzの周波数帯)の寄生発振を抑制している。ここで、周波数fLCは、線路108のインダクタンスLと微分負性抵抗素子101及びパッチアンテナを含む共振部102の容量(キャパシタンス)CANTによるLC共振の周波数である。これについての詳細は後述する。
抵抗110の値は、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗領域における微分負性抵抗の絶対値と等しいか少し小さい値が選択されることが好ましい。抵抗110は、微分負性抵抗素子101から距離d2離れた位置に配置されている。そして、主に4×d2以上の波長帯において、抵抗110より外側のバイアス回路120は、微分負性抵抗素子101からみて低インピーダンス、すなわち、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値を基準として低インピーダンスとなっている。これを換言すると、抵抗110は、fSP(fSP<fLC<fTHz)以下の周波数帯において、微分負性抵抗素子101からみて低インピーダンスとなるように設定されることが好ましい。
容量109も抵抗110と同様に、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値とインピーダンスが等しいか、少し低くなるように設定されることが好ましい。一般的には、容量109は大きいほうが好ましく、本実施形態では数十pF程度としている。容量109は線路108としてのマイクロストリップラインと直結されたデカップリング容量となっており、例えば、パッチアンテナ102と基板(不図示)とを共にしたMIM(Metal−insulator−Metal)構造を利用してもよい。
従来の素子構成では、線路108のインダクタンスLと微分負性抵抗素子101及び共振部102の容量(キャパシタンス)CANTに起因した周波数fLC(fLC≒1/{2π√(LCANT)}、fSP<fLC<fTHz)のLC共振を形成することがあった。周波数fLCは、主に、微分負性抵抗素子101の容量、線路(本実施形態であればマイクロストリップライン)108の長さと幅、及びパッチアンテナの面積、誘電体105aの厚さ等で決まり、典型的には10GHz以上500GHz以下の範囲となる。
パッチアンテナの構造上、前述の抵抗110及び容量109を含むバイアス回路120を、発振周波数fTHzの共振電界と干渉せず共振部102に直接接続することは容易ではない。このため、微分負性抵抗素子101へバイアス電圧を給電するためには、給電線である線路108を介してバイアス回路120と共振部102とを接続する必要がある。よって、線路108は、バイアス回路120よりも微分負性抵抗素子101に近い位置に配置されるので、微分負性抵抗素子101の利得による寄生的な周波数fLCの発振が生じることがあった。
本実施形態の発振器100は、微分負性抵抗素子101及びパッチアンテナを含む共振部102と、抵抗110及び容量109を含むバイアス回路120とを、分布定数線路である線路108で接続している。従って、分布定数線路である線路108は、バイアス回路120のデカップリング容量である容量109とパッチアンテナを含む共振部102とを接続するための線路である。本実施形態の発振器100は、パッチ導体103と接地導体104との二導体で微分負性抵抗素子101と第1の誘電体105aを挟む構成のアクティブパッチアンテナである。バイアス回路120の抵抗110はシャント抵抗、容量109はデカップリング容量であり、これらは、微分負性抵抗素子101および電源112と並列に接続される。マイクロストリップラインである線路108は、共振部102のパッチアンテナと容量109との間に接続される。
発振器100は、LC共振の周波数fLC付近の周波数帯において、線路(マイクロストリップライン)108は、微分負性抵抗素子101からみて低インピーダンスとなるような構造及び構成となっている。線路108が微分負性抵抗素子101からみて低インピーダンスとなるような構成とは、言い換えると、線路108が微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値を基準とした低インピーダンス線路である構成である。
ここで、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値を基準とした低インピーダンス線路とは、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値を基準とした時に比較的インピーダンスが低い線路の事を指す。比較的インピーダンスが低い線路とは、典型的には、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値の10倍以下、好ましくは微分負性抵抗の絶対値以下となる線路のことである。一般的には、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値は、構造によるが大体0.1Ω以上100Ω以下であるので、低インピーダンス線路のインピーダンスは、概ね1Ω以上1000Ωの範囲に設定される。
微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値を基準として、インピーダンスな線路108を構成するには、例えば、線路108の厚さを調整して線路108の特性インピーダンスを微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値の10倍以下に設定する。より好ましくは、線路108の特性インピーダンスを微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値以下に設定する。また、微分負性抵抗素子101の周波数特性を考慮して利得であるインピーダンスの実部の絶対値(|1/Re[YRTD]|)で考えても良い。この場合、特性インピーダンスが、微分負性抵抗素子101のインピーダンスの実部の絶対値(|1/Re[YRTD]|)の10倍以下、好ましくは微分負性抵抗素子101のインピーダンスの実部の絶対値(|1/Re[YRTD]|)以下となる線路を線路108として用いる。
このような構成にすることにより、線路108は、周波数fLC付近の周波数の電磁波の損失が大きくなるような構成となっている。従って、線路108としてのマイクロストリップラインは損失性の線路であるため、線路108に起因した寄生的なLC共振の損失が増加するので、LC共振の発振を発振不可とする、又は、低減することができる。
ここで、線路108の長さをd1、微分負性抵抗素子101から抵抗110までの距離をd2としたとき、周波数fLC付近の周波数帯は、波長に換算すると4×d1以上4×d2以下の波長帯である。これは、線路108や抵抗110の配置や構造で決まり、典型的には数GHz以上500GHz以下の範囲である。
なお、本明細書における「線路108が微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値を基準とした低インピーダンス線路」は線路108の特性インピーダンスを考えることで簡易的に設計出来る。すなわち線路108の特性インピーダンスが、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値の10倍以下、好ましくは、線路108の特性インピーダンスが、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値以下となるような線路の構造を設計すれば良い。このとき、線路108は微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値を基準とした低インピーダンス線路となる。
周波数fLCにおける微分負性抵抗素子101からみた線路108のインピーダンスが微分負性抵抗の絶対値の10倍以下であれば、微分負性抵抗素子101が持つ利得に対して、線路108による損失の大きさが無視出来なくなるため、LC共振の発振を抑制できる。特に、周波数fLCにおける微分負性抵抗素子101からみた線路108のインピーダンスが低ければ低いほど、線路108におけるこの周波数帯の電磁波の損失が増えるので、LC共振の発振抑制に効果がある。周波数fLCにおける微分負性抵抗素子101からみた線路108のインピーダンスが微分負性抵抗の絶対値以下であれば、微分負性抵抗素子101の利得を損失が上回るのでLC共振は発振不可とする事ができる。
また、微分負性抵抗素子101からみた線路108のインピーダンスが低くなるように設計すれば、上述の効果が得られる構造や構成が実現できる。さらに、線路108のうち微分負性抵抗素子101からみてインピーダンスが低い構造が、微分負性抵抗素子101及び共振部102に近いほどLC共振の発振抑制に効果がある。具体的には、微分負性抵抗素子101からλTHz以下の距離に配置されることが好ましい。なお、λTHzは、発振周波数fTHzのテラヘルツ波の波長である。
このような構成は、線路108の損失による効果で、周波数fsp及びfLCを含むfTHz未満の低周波数領域では、(1)式を満たさずRe[YRTD]+Re[YANT]>0となる。また、発振周波数fTHz付近の周波数領域では、(1)式を満たす構造が実現できる。ここで、Re[YRTD]は負の値を有し、DCでは、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の逆数に漸近する。従って、LC共振の発振が抑制され、発振周波数fTHzのテラヘルツ波を得る事ができる。
線路108などの分布定数線路の主な損失には、表皮効果に起因する導体損失と誘電正接(tanδ)に起因する誘電損失とがある。分布定数線路の等価回路上では、それぞれインダクタンスLと、直列接続された抵抗Rと、キャパシタンスと並列に接続された漏れコンダクタンスGと、で表現される。このうち、漏れコンダクタンスGは、G=tanδ×ω×Cで表現されるので、テラヘルツ波のような高周波になるほど誘電損失による損失が無視できなくなる。また、誘電損失による損失は誘電正接tanδと線路の容量Cの増加関数となる。
よって、線路108の材料と構造を選択して線路108の誘電正接tanδと容量Cとを適切に選ぶことで、線路108の周波数fLC付近の電磁波の漏れコンダクタンスGを増大させ、周波数fLC付近の誘電損失を大きくできる。具体的には、周波数fLC付近において、誘電損失が、微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の逆数の絶対値の1/10以上、より好ましくは、微分負性抵抗の逆数の絶対値以上であれば、周波数fLC付近の発振の抑制に効果がある。
例えば、誘電体105bの厚さを十分に薄くすれば、マイクロストリップライン108の容量Cが増加するので、fLC付近において誘電損失は増加し、線路108は微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値を基準とした低インピーダンス線路となる。具体的には、誘電体105bの厚さは、誘電体の種類にもよるが、典型的には0.001μm以上1μm以下の厚さであれば、周波数fLC付近におけるマイクロストリップライン108の特性インピーダンスは1Ω以上100Ω以下となる。微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値は、構造によるが大体1Ω以上100Ω以下である。
そのため、線路108の厚さを調整して特性インピーダンスを微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値の10倍以下や微分負性抵抗の絶対値以下に設定できる。この時、微分負性抵抗素子101からみた線路108のインピーダンスは、微分負性抵抗の絶対値の10倍以下や微分負性抵抗の絶対値以下となる。その結果、マイクロストリップライン108の周波数fLC付近の誘電損失が増大するので、LC共振の発振を抑制、又は、発振不可にする事ができる。
第2の誘電体105bの厚さを、共振部102の第1の誘電体105aの厚さより薄い構成とすることで、テラヘルツ波の共振器兼放射器であるパッチアンテナは低損失且つ高放射効率を維持しながら、線路108のみの損失を増大させる事ができる。すなわち、発振周波数fTHzの電磁波は共振部102において低損失且つ高放射効率を維持し、周波数fLCの電磁波のマイクロストリップライン108における損失を増大させる事が出来る。
図9は、発振器100のアドミタンス特性の誘電体105bの厚さ依存性を解析した結果をプロットしたグラフである。第2の誘電体105bには半導体製造で良く使われる窒化シリコンを用いた。第2の誘電体105bが厚さ3μmの従来の発振器の場合は、周波数fLC(≒0.08THz)の付近はアドミタンスが10mS以下であり低損失(高インピーダンス)な構成である。一方、発振器100であれば、膜厚を1μmから0.1μmまで薄くすることで、発振周波数fTHz付近のアドミタンスの変化は最小限で、周波数fLC付近のアドミタンスを約10mSから100mS以上にまで任意に調整することが出来る。
このように、線路108の第2の誘電体105bの厚さが共振部102の第1の誘電体105aの厚さより薄くなるように、第2の誘電体105bの厚さを設定する。これにより、線路108と共振部102との間の等価屈折率の差が大きくなるため共振器102と線路108の接続部にインピーダンス不整合が生じる。このため、誘電体105bが薄くなると、アンテナを含む共振部102の容量と線路108のインダクタンスに起因した周波数fLCのLC共振は、共振部102の容量に起因した共振と、線路108のインダクタンスに起因した共振と、の二つに***する。この結果、周波数fLCの前後に周波数の近い二つの共振点が生じ、周波数fLCの前後に低インピーダンスの帯域が生じる。
また、誘電体105bに誘電正接tanδの大きい材料を用いれば、線路108の構造寸法を変えずに周波数fLC付近の電磁波の誘電損を増加させることもできる。周波数fLCにおける誘電正接tanδの大きい材料としては、窒化シリコン、ポリアラミド、ポリエチレンテレフタラート、PMMA、ABS、ポリカーボネイトなどがある。また、スチロールやエポキシ等の誘電損失の大きさが電界強度依存性を有する合成樹脂に金属フィラ―やカーボングラファイトの微粉末を分散して形成した物質でもよい。さらに、周波数fLCにおける誘電正接tanδの大きいメタマテリアル構造でもよい。
ここで、線路108の長さd1は、導体抵抗が顕著にならない範囲で長い方が良く、λTHz/4以上が好ましい。なお、λTHzは、発振周波数fTHzのテラヘルツ波の波長である。
図10は、発振器100のアドミタンス特性の線路108の長さ依存性を解析した結果をプロットしたグラフである。線路の長さを100μm、200μm、300μm、400μm、500μmに設定した場合の発振器100のアドミタンス特性を示した。λTHzを、周波数fTHzのテラヘルツ波の波長とすると100μmはλTHz/4に相当する。ストリップ導体106が長いとインダクタンスLが増加し、LC共振の周波数fLCは低周波側にシフトする。このため、周波数fLC付近の損失が共振部102内の発振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界へ影響するのが抑制される。一方、ストリップ導体106が短いと、インダクタンスLが減少するので、LC共振の周波数fLCは高周波側にシフトする。
この結果、距離と周波数の面で発振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界への影響が無視できなくなり、発振周波数fTHzのテラへルツ波の損失やマルチモードの原因となる。線路108長と、周波数fLC付近の低インピーダンスになる周波数帯域が広がり、また、周波数fLC自体が低周波側にシフトするため。そのため、線路108の長さは、長くすることが好適であり、好ましくはλTHz/4以上が良い。ただし、線路108が長いと直列抵抗の原因となるため、直列抵抗とfLC付近のインピーダンスの兼ね合いで適宜設計すればよい。
導体107及び線路108の幅は、共振部102内の共振電界に干渉しない程度の寸法が好ましく、例えばλTHz/10以下が好適である。また、導体107及び線路108は、共振部102に定在する発振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界の節に配置することが好ましい。この時、線路108は、発振周波数fTHz付近の周波数帯において微分負性抵抗素子101の微分負性抵抗の絶対値よりインピーダンスが高い構成となる。そのため、周波数fLC付近の電磁波の損失が、共振部102内の発振周波数fTHzの電界へ影響することが抑制される。
ここで、「共振部102に定在する発振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界の節」は、共振部102に定在する発振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界の実質的な節となる領域のことである。すなわち、テラヘルツ波の共振器であるパッチアンテナ内に定在する発振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界の実質的な節となる領域であるとも言える。具体的には、共振部102に定在する発振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界強度が、共振部102に定在する発振周波数fTHzのテラヘルツ波の最大電界強度より1桁程度低い領域のことである。望ましくは、発振周波数fTHzのテラヘルツ波の電界強度が、共振部102に定在する発振周波数fTHzのテラヘルツ波の最大電界強度の1/e2(eは自然対数の底)以下となる位置が好適である。
本実施形態の具体例である実施例1の発振器200のアドミタンス特性の解析結果について、図2を参照して説明する。発振器200の構成については、後述する実施例1で説明する。
図2は、実施例1に開示した発振器200のアドミタンス特性の解析結果であり、微分負性抵抗素子であるRTDのアドミタンスの実部Re[YRTD]とパッチアンテナのアドミタンスの実部Re[YANT]とをプロットしたグラフである。グラフには、後述の実施例1の周波数fLC付近の周波数帯で低インピーダンスとなる線路208を備えたパッチアンテナのアドミタンスRe[YANTwith 208]も示した。また、従来の比較的インピーダンスの高いマイクロストリップラインを線路として備えたパッチアンテナのアドミタンスRe[YANT]を示した。
発振器200において、(2)式を満たす発振周波数fTHzは0.45THzであり、LC共振の周波数fLCは0.08THzと見積られる。従来の比較的インピーダンスの高いマイクロストリップラインの場合は、発振周波数fTHz及び周波数fLCの両方で(1)式の発振条件を満たすため、LC共振を含む寄生発振が生じる可能性がある。
一方、実施例1の周波数fLC付近の周波数帯で低インピーダンスとなる線路208を備えた場合は、発振周波数fTHzにおけるインピーダンスが高くなり発振条件を満たす。しかし、周波数fLCを含むDC以上fTHz未満の低周波数の領域では、線路208はRTD201からみて低インピーダンスとなり、(1)式の発振条件を満たさない。従って、実施例1の構成であれば、LC共振を含む寄生発振は抑制されることが分かる。
このように、実施例1の発振器は、テラヘルツ波帯における所望の発振周波数fTHz付近で高インピーダンスとなり、且つ、周波数fLCのLC共振を含むDC以上fTHz未満の寄生発振の周波数領域で低インピーダンスとなるような発振回路が実現される。なお、ここでの高インピーダンス及び低インピーダンスは、RTD201からみて(すなわちRTD201を基準として)高インピーダンス、RTD201からみて(すなわちRTD201を基準として)低インピーダンスであることを言う。したがって、マイクロストリップ型共振器を用いた発振器においても、バイアス回路120や給電構造に起因した低周波の寄生発振を抑制し、共振器により規定される所望の発振周波数fTHzのテラヘルツ波を安定して発振することが可能となる。
このような構成であれば、マイクロストリップ共振器及び分布定数線路の構造の寸法及び材料を任意に設計することで、テラヘルツ波の発振周波数fTHzにおける損失を低減できる。また、適切に設計することにより、発振周波数fTHzにおけるテラヘルツ波の損失を最小化し、寄生発振の周波数における損失を最大化することも可能となる。
本実施形態及び実施例1の発振器は、パッチアンテナなどを含むマイクロストリップ型共振器における課題であった、配線構造に起因した寄生発振を低減できる。具体的には、微分負性抵抗素子にバイアス給電するためのストリップ導体のインダクタンスに起因した新たな寄生発振の発生を低減する。よって、マイクロストリップ型共振器でもDC以上fTHz未満の周波数領域において寄生発振を低減又は抑制することができ、共振器の所望の発振周波数fTHzのテラヘルツ波をより安定して得ることができる。
また、発振周波数fTHzのテラヘルツ波が安定して得られることにより、マイクロストリップ型共振器における所望の発振周波数fTHzのテラヘルツ波がより高出力で得ることができる。
(実施例1)
本実施例に係るテラヘルツ波を発振する素子である発振器200の構成について、図3を参照して説明する。図3は、発振器200の構成を説明する図である。発振器200は、発振周波数fTHz=0.45THzを発振させる素子である。本実施例では微分負性抵抗素子201として共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いている。本実施例で用いたRTD201は、例えば、InP基板230上のInGaAs/InAlAs、InGaAs/AlAsによる多重量子井戸構造とn−InGaAsによる電気的接点層を伴って構成される。
多重量子井戸構造としては、例えば三重障壁構造を用いる。より具体的には、AlAs(1.3nm)/InGaAs(7.6nm)/InAlAs(2.6nm)/InGaAs(5.6nm)/AlAs(1.3nm)の半導体多層膜構造で構成する。このうち、InGaAsは井戸層で、格子整合するInAlAsや非整合のAlAsは障壁層である。これらの層は意図的にキャリアドープを行わないアンドープ層としておく。
この様な多重量子井戸構造は、電子濃度が2×1018cm−3のn−InGaAsによる電気的接点層に挟まれる。こうした電気的接点層間の構造の電流電圧I(V)特性において、ピーク電流密度は280kA/cm2であり、約0.7Vから約0.9Vまでが微分負性抵抗領域となる。RTD201が約2μmΦのメサ構造の場合、ピーク電流10mA、微分負性抵抗−20Ωが得られる。
共振部202は、パッチ導体203、接地導体204及び第1の誘電体205aを有する共振器と、RTD201とを有する。共振器は、パッチ導体203の一辺が200μmの正方形のパッチアンテナを含む。パッチ導体203と接地導体204との間には、第1の誘電体205aとして3μm厚のBCB(ベンゾシクロブテン、ダウケミカル社製、εr=2.4)及び0.1μm厚の窒化シリコンが配置されている。
パッチ導体203と接地導体204との間には、直径2μmのRTD201が接続され、RTD201は、パッチ導体203の重心から共振方向に80μmシフトした位置に配置されている。パッチアンテナの単独の共振周波数は、約0.48THzであるが、微分負性抵抗素子201であるRTDのリアクタンスを考慮すると、発振器200の発振周波数(共振周波数)fTHzは約0.45THzとなる。
パッチ導体203は、導体207を介して線路208としてのマイクロストリップラインのストリップ導体206と接続されている。これにより、パッチアンテナは、線路208を介してMIM容量209と接続される。このような構成にすることにより、線路208は、バイアス回路220と、共振部202とを接続する。
MIM容量209の容量の大きさは、本実施例では100pFとした。MIM容量209には、ワイヤーボンディングを含む配線211が接続され、電源212により微分負性抵抗素子201のバイアス電圧が調整される。マイクロストリップライン208のストリップ導体206のインダクタンスL1と共振部202の容量Cとで形成されるLC共振の周波数fLCは約0.08THzとなる。
線路208は、ストリップ導体206と、接地導体204と、ストリップ導体206と接地導体204との間に配置されている第2の誘電体205bと、を有する。第2の誘電体205bは、厚さ約0.1μmの窒化シリコンである。線路208のインピーダンスは、LC共振の周波数fLCにおいてRTD201の微分負性抵抗の絶対値より低くなっている。線路208としてのマイクロストリップラインの具体的な寸法は、共振部202との接続部から、幅a約6μm、長さb約100μmの線路が伸びており、さらに幅c約20μm、全長約600μmの線路が伸びている。幅c約20μmの線路は、MIM容量209と接続されている。幅c約20μmの線路は、MIM容量209と反対の方向に長さeだけ伸びており、略直角に2回曲がってMIM容量209に向かって長さe伸びる構成となっている。本実施例の長さeは約200μm、長さdは約400μmである。また、長さeのマイクロストリップラインと長さdのマイクロストリップラインと距離fは約60μmである。
パッチ導体203は、発振周波数fTHz(=0.45THz)で共振部202に定在する高周波電界の節で導体207と接続されており、線路208と発振周波数fTHzのテラヘルツ波の共振電界との干渉を抑制している。
このような構成にすると、図2に示したアドミタンス解析の結果からも分かる通り、発振周波数fTHzでは(1)式の発振条件を満たすが、周波数fLCを含むDC以上fTHz未満の低周波数領域では低インピーダンスとなり、(1)式を満たさない。従って、発振器200は、バイアス回路220や給電構造に起因した低周波の寄生発振が抑制され、RTD201とパッチアンテナとを含む共振部202により規定される所望の発振周波数fTHzのテラヘルツ波を安定して発振することが可能となる。
本実施例による発振器200は、以下のように作製される。まず、InP基板230上に、分子ビームエピタキシー(MBE)法や有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法などによって、次の層をエピタキシャル成長する。すなわち、順に、n−InP/n−InGaAs、InGaAs/InAlAsによる共鳴トンネルダイオード(RTD)201をエピタキシャル成長する。InP基板230としてn型の導電性基板を選択する場合は、n−InGaAsからエピタキシャル成長すればよい。
次に、RTD201を、直径が2μmとなるような円弧形状のメサ状にエッチングを行う。エッチングにはEB(電子線)リソグラフィとICP(誘導性結合プラズマ)によるドライエッチングを用いる。フォトリソグラフィを用いてもよい。続いて、エッチングされた面に、リフトオフ法により接地導体204を形成する。第2の誘電体205b及び共鳴トンネルダイオードの側壁保護膜として0.1μmの窒化シリコン膜を全面に成膜する。さらに、スピンコート法とドライエッチングを用いて第1の誘電体205aであるBCBによる埋め込みを行い、リフトオフ法によりTi/Pd/Auのパッチ導体203を形成する。
次に、ドライエッチング法により、パッチアンテナより外側にあるBCBを除去し、第2の誘電体205bである0.1μmの窒化シリコン膜を露出する。リフトオフ法により導体207、ストリップ導体206、MIM容量209の上部の電極を形成する。最後に、リフトオフ法により、抵抗210となる部分にBiパターンを形成し、接地導体204とMIM容量209の上部の電極を接続し、ワイヤーボンディングなどで配線211及び電源212と接続することで本実施例の発振器200は完成する。発振器200への電力の供給はバイアス回路220から行われ、通常は微分負性抵抗領域となるバイアス電圧を印加してバイアス電流を供給すると、発振器として動作する。
本実施例では、RTD201として、InP基板上に成長したInGaAs/InAlAs、InGaAs/AlAsからなる3重障壁共鳴トンネルダイオードについて説明してきた。しかし、これらの構造や材料系に限られることなく、他の構造や材料の組み合わせであっても本発明の半導体素子を提供することができる。例えば、2重障壁量子井戸構造を有する共鳴トンネルダイオードや、4重以上の多重障壁量子井戸を有する共鳴トンネルダイオードを用いてもよい。
また、その材料としては、以下の組み合わせのそれぞれを用いてもよい。
・GaAs基板上に形成したGaAs/AlGaAs/及びGaAs/AlAs、InGaAs/GaAs/AlAs
・InP基板上に形成したInGaAs/AlGaAsSb
・InAs基板上に形成したInAs/AlAsSb及びInAs/AlSb
・Si基板上に形成したSiGe/SiGe
上述の構造と材料は、所望の周波数などに応じて適宜選定すればよい。
このように、本実施例の発振器は、テラヘルツ波帯における所望の発振周波数fTHz付近は高インピーダンスとなり、且つ、周波数fLCのLC共振を含むDC以上fTHz未満の寄生発振の周波数領域は低インピーダンスとなるような発振回路が実現される。したがって、マイクロストリップ型共振器を用いた本実施例の発振器は、バイアス回路や給電構造等の配線構造に起因した低周波の寄生発振を抑制し、所望の発振周波数fTHzのテラヘルツ波を安定して発振できる。
また、発振周波数fTHzのテラヘルツ波が安定して得られることにより、マイクロストリップ型共振器における所望の発振周波数fTHzのテラヘルツ波がより高出力で得ることができる。
(実施例2)
実施例2では、実施例1の発振器200の変形例1〜3の素子について、図4〜図8を参照して説明する。まず、変形例1の素子としての発振器300の構成を、図4を参照して説明する。図4は、発振器300の構成を説明する図である。発振器300は、発振器200と同じく発振周波数fTHz=0.45THzを発振させる発振器である。発振器300は、共振部302の形態が発振器200と異なる。また、発振器300は、線路308の形態が実施例1の発振器200と異なる。線路の形態は、必要に応じて適宜設計すればよい。その他の構成は発振器200と同じなので、詳細な説明を省略する。
共振部302は、パッチ導体203と、接地導体204と、パッチ導体203と接地導体204との間に配置されている第1の誘電体305aとを有する。第1の誘電体305aの側壁の一部は基板230と略垂直でなく、基板230と第1の誘電体305aとがなす角の角度が約60°となるように構成されている。パッチ導体203は、第5の導体207を介して線路208としてのマイクロストリップラインのストリップ導体206と接続されている。
第5の導体207は、第1の誘電体305aの一部が基板230となす角の角度が約60°になるようにテーパー加工された法面上に配置されている。第5の導体207は、パッチ導体203とストリップ導体206との間の段差(高低差)をつなぐためのプラグである。このような構成は、異なる厚さの第1及び第2の誘電体305a、205b間の段差部分における金属のカバレッジ不良による抵抗増加を低減できる。
発振器200の変形例2の発振器400について、図5を参照して説明する。図5(a)は、発振器400の構成を説明する図で、図5(b)はそのD−D断面図、図5(c)はそのE−E断面図である。発振器400は、発振周波数fTHz=0.45THzを発振させる発振器である発振器400は、共振部402とバイアス回路(不図示)とを接続する線路408として、分布定数線路としてのストリップ線路を用いる。その他の構成は発振器200と同じなので、以下は必要な部分についてのみ説明する。
発振器400の線路408は、ストリップ導体(第3の導体)406と、第2の誘電体405bと、第3の誘電体422と、を有する。ストリップ導体406は、厚さt1の第3の誘電体422と厚さt2の第2の誘電体405bとを含む誘電体層に埋め込まれている。また、誘電体層は、第6の導体421と第2の導体(第4の導体)204とで上下から挟まれた構造となっている。ストリップ導体406とパッチ導体203とは、第5の導体207を介して接続されている。
第5の導体207は、パッチ導体203とストリップ導体406との間の段差(高低差)をつなぐためのプラグであり、共振部202とストリップ線路408はDC結合される。なお、第6の導体421と第2の導体204が電気的かつ物理的に接続されている構成であっても良い。
ここで、発振器400のアドミタンス特性について図6を参照して説明する。図6は、発振器400のアドミタンス特性の解析結果であり、微分負性抵抗素子であるRTD401のアドミタンスの実部Re[YRTD]とパッチアンテナのアドミタンスの実部Re[YANT]とをプロットしたグラフである。グラフには、アンテナのアドミタンスの実部Re[YANT]について、第3の誘電体422と第2の誘電体405bとを含む誘電体層の厚さが、t1=t2=100nmとt1=t2=500nmの2種類の場合の解析結果を示した。また、RTD401の利得、すなわちアドミタンスの実部Re[YRTD]は、RTD401の直径が2μmと3μmの場合の2種類の解析結果を示した。
グラフより、線路408の誘電体層(第3の誘電体422と第2の誘電体405b)の厚さを調整することで、fLC付近の周波数帯のインピーダンスを調整可能なことが分かる。なお、fLC付近の周波数帯のインピーダンスは、誘電体層の厚さ以外にも、線路408の長さ及び第2及び第3の誘電体405b、422の材料の選択によっても調整可能であり、RTD401の利得によって適宜選択すれば良い。発振器400の構成は、DC以上fTHz未満の低周波数の領域では損失で発振が抑制され、所望の発振周波数fTHzでは損失が少なく発振条件を満たすことが可能である。
実施例1の変形例3の発振器500について図7を参照して説明する。図7(a)は、発振器500の構成を説明する図で、図7(b)はそのG−G断面図、図7(c)はF−F断面図である。発振器500は、発振周波数fTHz=0.45THzを発振させる素子である。発振器500は、共振部502とバイアス回路(不図示)とを接続する線路508として、方形同軸線路を用いる。その他の構成は発振器200と同じなので詳細な説明を省略し、以下は必要な部分についてのみ説明する。
線路508としての方形同軸線路は、分布定数線路である。線路508は、ストリップ導体(第3の導体)506と、第6の導体521と、第3の誘電体層522と、第4の導体(接地導体)204と、を有する。ストリップ導体506は、厚さh1の第3の誘電体層522と厚さh2の第2の誘電体205bとを含む誘電体層に埋め込まれており、誘電体層が第6の導体521と第4の導体204とを含む導体層で囲まれた構造となっている。ストリップ導体506とパッチ導体203とは、段差(高低差)をつなぐためのプラグである第5の導体207を介して接続されている。線路508は、素子201の微分負性抵抗の絶対値を基準とした低インピーダンス線路である。
ここで、発振器500のアドミタンス特性について図8を参照して説明する。図8は、発振器500のアドミタンス特性の解析結果であり、素子201であるRTDのアドミタンスの実部Re[YRTD]とパッチアンテナのアドミタンスの実部Re[YANT]とをプロットしたグラフである。グラフには、アンテナのアドミタンスの実部Re[YANT]について、第3の誘電体522と第2の誘電体205bとを含む誘電体層の厚が、h1=h2=100nmとh1=h2=500nmの2種類の場合の解析結果を示した。また、RTDの利得、すなわちアドミタンスの実部Re[YRTD]は、RTDの直径が2μmと3μmの場合の2種類の解析結果を示した。
グラフより、ストリップ線路508の第3の誘電体522と第2の誘電体505bの厚さを調整することで、fLC付近の周波数帯のインピーダンスを調整することが可能である。なお、fLC付近の周波数帯のインピーダンスは、誘電体層の厚さ以外にも、線路508の長さ又は各誘電体505b、522の材料の選択によっても調整可能であり、素子201の利得によって適宜選択すれば良い。発振器500の構成は、DC以上fTHz未満の低周波数の領域では損失で発振が抑制され、所望の発振周波数fTHzでは損失が少なく発振条件を満たすことが可能である。
以上、発振器200の変形例1〜3について説明した。上述の変形例1〜3においても、共振部とバイアス回路とを接続する線路が、微分負性抵抗素子の微分負性抵抗の絶対値を基準として低インピーダンス回路となるように構成することにより、配線構造に起因した寄生発振を低減できる。その結果、所望の発振周波数fTHzのテラヘルツ波をより安定して発振できる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
例えば、上述の実施形態及び実施例では、キャリアが電子である場合を想定して説明しているが、これに限定されるものではなく、正孔(ホール)を用いたものであってもよい。また、基板や誘電体の材料は用途に応じて選定すればよく、シリコン、ガリウムヒ素、インジウムヒ素、ガリウムリンなどの半導体や、ガラス、セラミック、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタラートなどの樹脂を用いることができる。
さらに、上述の実施形態及び実施例では、テラヘルツ波の共振器として正方形パッチを用いているが、共振器の形状はこれに限られたものではなく、例えば、矩形及び三角形等の多角形、円形、楕円形等のパッチ導体を用いた構造の共振器等を用いてもよい。
また、発振器に集積する微分負性抵抗素子の数は、1つに限るものではなく、微分負性抵抗素子を複数有する共振器としてもよい。線路の数も1つに限定されず、複数の線路を設ける構成でもよい。
上述の実施形態及び実施例で記載した発振器は、テラヘルツ波を検出する検出器として使用することも可能である。また、上述の実施形態及び実施例で記載した発振器を用いて、テラヘルツ波の発振及び検出を行うこともできる。