以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、MEMSデバイスの一種である液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3を例に挙げて説明する。図1は、記録ヘッド3を搭載した液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、プリンター)1の斜視図である。
プリンター1は、記録紙等の記録媒体2(着弾対象の一種)の表面に対してインク(液体の一種)を噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送する搬送機構6等を備えている。ここで、上記のインクは、液体供給源としてのインクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジがプリンターの本体側に配置され、当該インクカートリッジからインク供給チューブを通じて記録ヘッドに供給される構成を採用することもできる。
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。したがってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。キャリッジ4の主走査方向の位置は、位置情報検出手段の一種であるリニアエンコーダー(図示せず)によって検出される。リニアエンコーダーは、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)をプリンター1の制御部に送信する。
次に記録ヘッド3について説明する。図2は、記録ヘッド3の構成を説明する断面図である。図3は、圧力室形成基板29を上方(封止板33側)から見た平面図である。図4は、図3におけるA−A断面図、すなわち圧電素子32が形成された領域のノズル列方向における断面図である。図5は、図3におけるB−B断面図、すなわち個別端子41を含む領域のノズル列方向に直交する方向における断面図である。なお、便宜上、アクチュエーターユニット14を構成する各部材の積層方向を上下方向として説明する。本実施形態における記録ヘッド3は、図2に示すように、アクチュエーターユニット14及び流路ユニット15が積層された状態でヘッドケース16に取り付けられている。
ヘッドケース16は、合成樹脂製の箱体状部材であり、その内部には各圧力室30にインクを供給する液体導入路18が形成されている。この液体導入路18は、後述する共通液室25と共に、複数形成された圧力室30に共通なインクが貯留される空間である。本実施形態においては、2列に並設された圧力室30の列に対応して液体導入路18が2つ形成されている。また、ヘッドケース16の下面側には、当該下面からヘッドケース16の高さ方向の途中まで直方体状に窪んだ収容空間17が形成されている。後述する流路ユニット15がヘッドケース16の下面に位置決めされた状態で接合されると、連通基板24に積層されたアクチュエーターユニット14(圧力室形成基板29、封止板33、駆動IC34等)が収容空間17内に収容されるように構成されている。
ヘッドケース16の下面に接合される流路ユニット15は、連通基板24及びノズルプレート21を有している。連通基板24は、流路ユニット15の上部を構成するシリコン製の基板(例えば、シリコン単結晶基板)である。この連通基板24には、図2に示すように、液体導入路18と連通し、各圧力室30に共通なインクが貯留される共通液室25と、この共通液室25を介して液体導入路18からのインクを各圧力室30に個別に供給する個別連通路26と、圧力室30とノズル22とを連通するノズル連通路27とが、異方性エッチングにより形成されている。共通液室25は、ノズル列方向に沿った長尺な空部であり、2列に並設された圧力室30の列に対応して2列形成されている。
ノズルプレート21は、連通基板24の下面(圧力室形成基板29とは反対側の面)に接合されたシリコン製の基板(例えば、シリコン単結晶基板)である。本実施形態では、このノズルプレート21により、共通液室25となる空間の下面側の開口が封止されている。また、ノズルプレート21には、複数のノズル22が直線状(列状)に開設されている。この複数のノズル22(すなわち、ノズル列)は、2列に形成された圧力室30の列に対応して、2列に形成されている。また、ノズル列を構成するノズル22は、一端側のノズル22から他端側のノズル22までドット形成密度に対応したピッチで、主走査方向に直交する副走査方向に沿って等間隔に設けられている。なお、ノズルプレートを連通基板における共通液室から内側に外れた領域に接合し、共通液室となる空間の下面側の開口を、例えば可撓性を有するコンプライアンスシート等の部材で封止することもできる。このようにすれば、ノズルプレートを可及的に小さくできる。
本実施形態のアクチュエーターユニット14は、図2に示すように、圧力室形成基板29、振動板31、可動素子の一種である圧電素子32、封止板33及び駆動IC34が積層されてユニット化されている。なお、アクチュエーターユニット14は、収容空間17内に収容可能なように、収容空間17よりも小さく形成されている。
圧力室形成基板29は、シリコン製の硬質な板材であり、本実施形態では、表面(上面及び下面)の結晶面方位を(110)面としたシリコン単結晶基板から作製されている。この圧力室形成基板29には、異方性エッチングにより一部が板厚方向に完全に除去されて、圧力室30となるべき空間がノズル列方向に沿って複数並設されている。この空間は、下方が連通基板24により区画され、上方が振動板31により区画されて、圧力室30を構成する。また、この空間、すなわち圧力室30は、2列に形成されたノズル列に対応して2列に形成されている。各圧力室30は、ノズル列方向に直交する方向に長尺な空部であり、長手方向の一側の端部に個別連通路26が連通すると共に、他側の端部にノズル連通路27が連通する。
振動板31は、弾性を有する薄膜状の部材であり、圧力室形成基板29の上面(連通基板24側とは反対側の面)に積層されている。この振動板31によって、圧力室30となるべき空間の上部開口が封止されている。換言すると、振動板31によって、圧力室30が区画されている。この振動板31における圧力室30(詳しくは、圧力室30の上部開口)に対応する部分は、圧電素子32の撓み変形に伴ってノズル22から遠ざかる方向あるいは近接する方向に変位する変位部として機能する。すなわち、振動板31における圧力室30の上部開口に対応する領域が、撓み変形が許容される駆動領域35となる。一方、振動板31における圧力室30の上部開口から外れた領域が、撓み変形が阻害される非駆動領域36となる。
なお、振動板31は、例えば、圧力室形成基板29の上面に形成された二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜と、からなる。そして、この絶縁膜上(振動板31の圧力室形成基板29側とは反対側の面)における各圧力室30に対応する領域、すなわち駆動領域35に圧電素子32がそれぞれ積層されている。圧電素子32は、ノズル列方向に沿って2列に並設された圧力室30に対応して、当該ノズル列方向に沿って2列に形成されている。なお、圧力室形成基板29(詳しくは圧力室30が形成される前の基板29′)及びこれに積層された振動板31からなる基板49が本発明における基板に相当する。
本実施形態の圧電素子32は、所謂撓みモードの圧電素子である。図3及び図4に示すように、この圧電素子32は、例えば、振動板31上に、下電極層37(本発明における第1の電極層の一種)、圧電体層38及び上電極層39(本発明における第2の電極層の一種)が順次積層されてなる。このように構成された圧電素子32は、下電極層37と上電極層39との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、ノズル22から遠ざかる方向あるいは近接する方向に撓み変形する。本実施形態では、下電極層37が圧電素子32毎に独立して形成された個別電極となっており、上電極層39(詳しくは、上電極層39の一部)が複数の圧電素子32に亘って連続して形成された共通電極となっている。すなわち、下電極層37及び圧電体層38は、圧力室30毎に形成されている。一方、上電極層39は、複数の圧力室30に亘って形成されている。なお、駆動回路や配線の都合によって、下電極層(すなわち、下層の電極層)を共通電極、上電極層(すなわち、上層の電極層)を個別電極にすることもできる。
本実施形態における下電極層37、圧電体層38及び上電極層39等に関し、より詳しく説明する。図3に示すように、各下電極層37は、ノズル列方向に直交する方向において、他側(圧力室形成基板29の中央側)の駆動領域35(すなわち、圧力室30に対応する領域)と非駆動領域36との境界から一側(圧力室形成基板29の端部側)の駆動領域35と非駆動領域36との境界を越えて、ノズル列に直交する方向に沿って圧力室形成基板29の端部側の非駆動領域36(圧電素子32から外れた領域)まで延在されている。この下電極層37の一側の端部には、圧電体層38が除去されたコンタクト開口部56(後述)が形成されている。すなわち、コンタクト開口部56から下電極層37が露出されている。この下電極層37が露出した部分は、上電極層39及び上部金属層44が積層されて個別端子41を形成する。個別端子41は、個々の下電極層37毎に形成された電極端子であり、図2に示すように、後述するバンプ電極40が接続される。なお、本実施形態における下電極層37の幅(ノズル列方向における寸法)は、圧力室30の幅よりも狭く形成されている。
また、本実施形態における圧電体層38のノズル列に直交する方向における両端は、同方向における下電極層37の両端よりも外側まで延在されている。すなわち、ノズル列に直交する方向における圧電体層38の一側の端は、同方向における下電極層37の一側の端よりも外側まで形成され、ノズル列に直交する方向における圧電体層38の他側の端は、同方向における下電極層37の他側の端よりも外側まで形成されている。さらに、ノズル列方向における圧電体層38の両端は、圧電素子32が並設された領域よりも外側まで延在されている。そして、ノズル列方向における圧電素子32間の非駆動領域36(ノズル列方向に隣り合う圧電素子32の間の領域)は、圧電体層38が除去された圧電体開口部55となっている。すなわち、この圧電体開口部55によって、圧電体層38が個々の圧電素子32毎に分割されている。本実施形態における圧電体開口部55の長手方向(ノズル列方向に直交する方向)における寸法は、圧力室30の長手方向における寸法よりも短く形成されている。また、圧電素子32が並設された領域から下電極層37の延在方向の外側に外れた領域であって、下電極層37の一側の端部と重なる領域は、複数の下電極層37に亘って圧電体層38が除去されたコンタクト開口部56(本発明におけるコンタクト部の一種)となっている。本実施形態におけるコンタクト開口部56は、ノズル列方向に沿ってスリット状に形成されている。
さらに、本実施形態における上電極層39は、ノズル列方向に直交する方向において、一側(圧力室形成基板29の端部側)の駆動領域35と非駆動領域36との境界から他側(圧力室形成基板29の中央側)の駆動領域35と非駆動領域36との境界を越えて、圧電素子32の列間における非駆動領域36まで延在されている。本実施形態では、一側の圧電素子32の列から延設された上電極層39と、他側の圧電素子32の列から延設された上電極層39とは、圧電素子32の列間における非駆動領域36で接続されている(図示せず)。すなわち、圧電素子32の列間における非駆動領域36には、両側の圧電素子32に共通な上電極層39が形成されている。図2に示すように、この上電極層39には上部金属層44からなる共通端子42が積層され、この共通端子42を介してバンプ電極40が接続されている。
図3及び図5に示すように、個別端子41となる上電極層39、すなわちコンタクト開口部56に形成された上電極層39は、露出した下電極層37を覆うように、長方形状に形成されている。この上電極層39は、コンタクト開口部56において下電極層37と接続されている。なお、コンタクト開口部56に形成された上電極層39のノズル列方向に直交する方向における寸法は、コンタクト開口部56の同方向における寸法よりも大きく形成されている。また、この上電極層39のノズル列方向における寸法は、下電極層37の同方向における寸法よりも大きく形成されている。図5に示すように、この個別端子41となる上電極層39上に積層される上部金属層44は、個別端子41となる上電極層39と重なる領域から、コンタクト開口部56と圧電素子32との間の領域の圧電体層38上まで延在されている。そして、この圧電体層38上に積層された上部金属層44にバンプ電極40が接続される。なお、図3においては、バンプ電極40を破線で表している。
ここで、本実施形態における上電極層39は、異なる工程で形成された3つの層からなる。具体的には、図4及び図5に示すように、上電極層39は、第1の上電極層39aと、第1の上電極層39aが形成された工程よりも後の工程で形成された第2の上電極層39bと、第2の上電極層39bが形成された工程よりも後の工程で形成された第3の上電極層39cと、からなる。上層となる第3の上電極層39cは、上記した上電極層39がパターニングされた領域全体に形成されている。また、中層となる第2の上電極層39bは、圧電体開口部55、及び、この圧電体開口部55の縁における圧電体層38が傾斜した部分に形成されず、この領域以外の上電極層39がパターニングされた領域に形成されている。さらに、下層となる第1の上電極層39aは、圧電体開口部55、コンタクト開口部56、及び、これらの縁における圧電体層38が傾斜した部分(すなわち、圧電体層38がエッチングされた領域全体)に形成されず、この領域以外の上電極層39がパターニングされた領域に形成されている。なお、上電極層39の形成方法に関し、詳しくは後述する。
また、図3に示すように、圧電素子32の長手方向(ノズル列方向に直交する方向)における両端部には、上部金属層44が積層されている。具体的には、図3及び図5に示すように、上電極層39上であって、駆動領域35と非駆動領域36との境界を跨ぐように上部金属層44が積層されている。これにより、圧電素子32の両端部における過度な変形が抑制され、駆動領域35と非駆動領域36との境界において圧電体層38等が破損することを抑制できる。
なお、上記した下電極層37、第1の上電極層39a、第2の上電極層39b、及び、第3の上電極層39cとしては、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、チタン(Ti)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、パラジウム(Pd)、金(Au)等の各種金属、及び、これらの合金やLaNiO3等の合金等が用いられる。本実施形態においては、イリジウム(Ir)にチタン(Ti)が積層されたものが第1の上電極層39aとして用いられ、同様に、イリジウム(Ir)にチタン(Ti)が積層されたものが第2の上電極層39bとして用いられ、さらに、ニッケルクロム(NiCr)合金が第3の上電極層39cとして用いられている。また、圧電体層38としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、ビスマス(Bi)又はイットリウム(Y)等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。その他、チタン酸バリウムなどの非鉛材料も用いることができる。さらに、上部金属層44としては、金(Au)、銅(Cu)等の各種金属、及び、これらの合金等が用いられる。
封止板33は、図2に示すように、振動板31との間に絶縁性を有する接着剤43を介在させた状態で、圧電素子32に対して間隔を開けて配置された平板状のシリコン基板である。本実施形態では、表面(上面及び下面)の結晶面方位を(110)面としたシリコン単結晶基板から作製されている。また、本実施形態における封止板33の下面(圧力室形成基板29側の面)には、駆動IC34からの駆動信号を圧電素子32側に出力するバンプ電極40が複数形成されている。このバンプ電極40は、図2に示すように、一方の圧電素子32の外側に形成された一方の個別端子41に対応する位置、他方の圧電素子32の外側に形成された他方の個別端子41に対応する位置に対応する位置、及び両方の圧電素子32の列間に形成された共通端子42に対応する位置に、それぞれノズル列方向に沿って複数形成されている。そして、各バンプ電極40は、それぞれ対応する下電極層37又は上電極層39に接続されている。
なお、本実施形態においては、封止板33と圧力室形成基板29とを接着(接合)する接着剤43として、感光性及び熱硬化性を有するものが用いられている。例えば、接着剤43として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂等を主成分に含む樹脂が好適に用いられる。この接着剤43により、振動板31等が積層された圧力室形成基板29と封止板33とが、間隔を空けた状態で接着される。また、本実施形態における接着剤43のうち圧力室形成基板29の外側に形成された接着剤43は、複数の圧電素子32を囲うように形成されている。すなわち、圧電素子32は、圧力室形成基板29、封止板33及び接着剤43により囲われた空間内に封止されている。
また、本実施形態におけるバンプ電極40は、弾性を有しており、封止板33の表面から振動板31側に向けて突設されている。具体的には、このバンプ電極40は、弾性を有する樹脂と、樹脂の少なくとも一部の表面を覆う導電膜と(何れも図示を省略)、を備えている。この樹脂は、封止板33の表面においてノズル列方向に沿って突条に形成されている。また、下電極層37(個別端子41)に導通する導電膜は、ノズル列方向に沿って並設された圧電素子32に対応して、当該ノズル列方向に沿って複数形成されている。そして、各導電膜は、下面側配線47と導通されている。なお、バンプ電極としては、樹脂を有するものに、限られない。内部に樹脂を有さない金属のみからなるバンプ電極やハンダからなるバンプ電極を採用することもできる。また、下面側配線47のバンプ電極40とは反対側の端部は、貫通配線45に接続されている。貫通配線45は、封止板33の下面と上面との間を中継する配線であり、封止板33を板厚方向に貫通した貫通孔の内部に金属等の導体を形成してなる。貫通配線45の上面側の端部は、対応する上面側配線46に接続されている。上面側配線46は、貫通配線45から駆動IC34のIC端子51に対応する位置まで延在され、当該位置においてIC端子51と接続されている。
駆動IC34は、圧電素子32を駆動するためのICチップであり、異方性導電フィルム(ACF)等の接着剤54を介して封止板33の上面に積層されている。図2に示すように、この駆動IC34の下面(封止板33側の面)には、上面側配線46の端子部に接続されるIC端子51が、複数形成されている。IC端子51のうち個別端子41に対応するIC端子51は、ノズル列方向に沿って複数並設されている。本実施形態では、2列に並設された圧電素子32の列に対応して、IC端子51の列が2列形成されている。
そして、上記のような構成の記録ヘッド3では、インクカートリッジ7からのインクを、液体導入路18、共通液室25及び個別連通路26等を介して圧力室30に導入する。この状態で、駆動IC34からの駆動信号を、バンプ電極40等を介して圧電素子32に供給することで、圧電素子32が駆動されて圧力室30内のインクに圧力変動を生じさせる。この圧力変動を利用することで、記録ヘッド3はノズル22からインク滴を噴射する。
次に、記録ヘッドの製造方法、特に圧力室形成基板29への圧電素子32の形成工程について詳しく説明する。図6、図8、図10、図12、図14、図16、図18、図20、図22、図24、図26及び図28は、A−A断面における状態遷移図である。また、図7、図9、図11、図13、図15、図17、図19、図21、図23、図25、図27及び図29は、B−B断面における状態遷移図である。なお、これらの状態遷移図では圧力室30となる予定の部分を破線で表している。
まず、図6及び図7に示すように、圧力室形成基板29となる基板29′(シリコン単結晶基板)に振動板31を形成する。なお、以下では、圧力室形成基板29となる基板29′及び振動板31からなる基板(本発明における基板の一種)を単に基板49と称する。次に、下電極層形成工程において、この基板49の上面(すなわち、振動板31の上面)に下電極層37を形成する。具体的には、図示を省略するが、蒸着やスパッタリング等により基板49の表面に金属層を成膜し、露光及び現像されてパターニングされたレジスト層を金属層の表面に形成する。そして、レジスト層をマスクとして金属層をエッチングし、その後、当該レジスト層を剥離することで、下電極層37を形成する。下電極層37が形成されたならば、図6及び図7に示すように、圧電体層積層工程において、圧電体層38となる圧電体基層38′を製膜する。なお、圧電体基層38′の形成方法は、特に限定されないが、例えば、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層を得る、いわゆるゾル−ゲル法が用いられる。圧電体基層38′を製膜したならば、第1の上電極層積層工程において、圧電体基層38′の表面に蒸着やスパッタリング等により第1の上電極層39aとなる金属層39a′を製膜する。これにより、圧電体基層38′上に金属層39a′が積層される。
圧電体基層38′及び金属層39a′が形成されたならば、第1の圧電体層エッチング工程(本発明における第1のエッチング工程に相当)に移行する。具体的には、図9に示すように、露光及び現像することで、コンタクト開口部56に対応する領域が開口された第1のレジスト層58を第1の上電極層39aとなる金属層39a′上に形成する。このとき、図8に示すように、隣り合う圧電素子32の間に対応する領域(すなわち、圧電体開口部55に対応する領域)や圧電素子32に対応する領域には、第1のレジスト層58が形成される。要するに、コンタクト開口部56に対応する領域を除いて、第1のレジスト層58が形成される。そして、この第1のレジスト層58をマスクとして、圧電体基層38′及び金属層39a′を、例えば、ドライエッチングや、ウェットエッチング及びドライエッチングを両方行うエッチング方法によりエッチングを行う。これにより、図11に示すように、第1のレジスト層58の開口に対応する領域の圧電体基層38′及び金属層39a′が除去されてコンタクト開口部56が形成される。なお、このコンタクト開口部56の縁における圧電体基層38′、すなわちコンタクト開口部56に臨む圧電体基層38′の端面は、底面(下方)に向けて下り傾斜した状態に形成される。換言すると、コンタクト開口部56は、下方から上方に向けて幅(ノズル列方向に直交する方向における寸法)が次第に広くなるように、側壁が傾斜した状態に形成される。一方、図10に示すように、圧電体開口部55に対応する領域には、第1のレジスト層58が形成されているため、当該領域はエッチングされず、圧電体開口部55も形成されない。そして、圧電体基層38′がエッチングされたならば、図12及び図13に示すように第1のレジスト層58を除去(剥離)する。
なお、第1のレジスト層58等のレジスト層を剥離する方法としては、当該レジスト層と反応するガスを用いる方法(アッシング)や有機溶剤等の薬液(剥離液)を用いる方法がある。本実施形態では、アッシングを行った後、剥離液を用いてレジスト層を剥離する方法が採用されている。このようなガスや剥離液は、圧電体基層38′にダメージを与える虞がある。圧電素子32となる領域の圧電体基層38′(圧電体層38)がダメージを受けると、圧電素子32形成後に圧電体層38の耐圧が低下する等の不具合が起こる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、圧電素子32となる領域の圧電体基層38′上に第1の上電極層39aとなる金属層39a′を形成しているため、第1の圧電体層エッチング工程における第1のレジスト層58の剥離時に、当該領域の誘電体がガスや剥離液に曝されることを防止できる。その結果、圧電体層38の耐圧の低下を抑制でき、信頼性の高い圧電素子32を形成できる。
上記の第1の圧電体層エッチング工程によりコンタクト開口部56に対応する領域の圧電体基層38′及び金属層39a′が除去されたならば、第2の上電極層積層工程(本発明における第2の電極層積層工程に相当)に移行する。具体的には、図14及び図15に示すように、上電極層39の一部である第2の上電極層39bとなる金属層39b′を全面に製膜する。これにより、コンタクト開口部56から圧力室30に対応する領域に亘って金属層39b′が形成され、圧電体基層38′上に積層された金属層39a′とコンタクト開口部56に露出した下電極層37とが導通される。したがって、下電極層37と金属層39a′、39b′とが同電位になり、これらの間に挟まれた圧電体基層38′に電界がかかることを抑制できる。なお、本実施形態においては、コンタクト開口部56の側壁が下り傾斜しているため、圧電体基層38′と重なる領域からコンタクト開口部56に露出した下電極層37と重なる領域に亘って金属層39b′が形成され易くなる。これにより、コンタクト開口部56の縁で金属層39b′が断線する不具合を抑制できる。
第2の上電極層積層工程により第2の上電極層積39bとなる金属層39b′が積層されたならば、第2の圧電体層エッチング工程(本発明における第2のエッチング工程に相当)に移行する。具体的には、図16に示すように、露光及び現像することで、隣り合う圧電素子32の間に対応する領域(すなわち、圧電体開口部55に対応する領域)が開口された第2のレジスト層59を金属層39b′上に形成する。このとき、図17に示すように、第1の圧電体層エッチング工程により開口されたコンタクト開口部56上にも第2のレジスト層59が形成される。そして、この第2のレジスト層59をマスクとして、圧電体基層38′、第1の上電極層39aとなる金属層39a′及び第2の上電極層39bとなる金属層39b′を、再度、ドライエッチング等によりエッチングする。これにより、図18に示すように、第2のレジスト層59の開口に対応する領域(すなわち、隣り合う圧電素子32の間に対応する領域)の圧電体基層38′及び金属層39a′、39b′が除去されて圧電体基層38′が圧電素子32毎に区画される。換言すると、隣り合う圧電素子32の間に対応する領域に圧電体開口部55が形成される。なお、この圧電体開口部55の縁における圧電体基層38′は、下方(振動板31側)に向けて下り傾斜した状態に形成される。すなわち、圧電体層38の圧電素子32の並設方向における端面は、上面側から下面側に向けて圧電体層38の幅が広がるように傾斜した傾斜面となっている。一方、図19に示すように、コンタクト開口部56に対応する領域はエッチングされないため、コンタクト開口部56に形成された下電極層37及び金属層39b′はエッチングされない。これにより、金属層39a′、39b′と下電極層37とが導通した状態が維持される。そして、金属層39a′がエッチングされ、且つ圧電体基層38′がエッチングされて圧電体層38が形成されたならば、図20及び図21に示すように、第1の圧電体層エッチング工程と同様の方法で第2のレジスト層59を除去(剥離)する。
第2の圧電体層エッチング工程により基板49上に圧電体層38が形成されたならば、第3の上電極層積層工程に移行する。具体的には、図22及び図23に示すように、蒸着やスパッタリング等により第3の上電極層39cとなる金属層39c′を製膜する。その後、上電極層エッチング工程により、上電極層39cとなる各金属層39a′、39b′、39c′をエッチングする。具体的には、図24及び図25に示すように、第3のレジスト層60を第3の上電極層39cとなる金属層39c′上に形成する。このとき、図24に示すように、第3のレジスト層60は、複数の圧電素子32となる領域に亘って連続して形成される。また、第3のレジスト層60は、図25に示すように、コンタクト開口部56の縁であって下電極層37が形成された領域に形成される。そして、この第3のレジスト層60をマスクとして、第1の上電極層39aとなる金属層39a′、第2の上電極層39bとなる金属層39b′及び第3の上電極層39cとなる金属層39c′をエッチングする。これにより、図26及び図27に示すように、第1の上電極層39a、第2の上電極層39b及び第3の上電極層39cが形成される。すなわち、上電極層39が形成され、圧電素子32が形成される。そして、上電極層39が形成されたならば、図28及び図29に示すように、第1の圧電体層エッチング工程と同様の方法で第3のレジスト層60を除去(剥離)する。
このように上電極層エッチング工程により基板49上に上電極層39が形成されたならば、上部金属層44を形成する。具体的には、図示を省略するが、蒸着やスパッタリング等により上部金属層44となる金属層を成膜し、露光及び現像されてパターニングされたレジスト層をこの金属層の表面に形成する。そして、レジスト層をマスクとして金属層をエッチングし、その後、当該レジスト層を剥離することで、図4及び図5に示すような上部金属層44を形成する。
このように基板49上に圧電素子32及び上部金属層44が形成されたならば、当該基板49又は封止板33の何れか一方に接着剤43をパターニングし、基板49と封止板33との間にバンプ電極40及び接着剤43を介在させた状態で基板49と封止板33とを貼り合わせる。そして、バンプ電極40の弾性復元力に抗して、基板49と封止板33とを接合方向に加圧し、且つ加熱することで、接着剤43を硬化させる。これにより、基板49と封止板33とが接合される。基板49と封止板33とが接合されたならば、エッチングにより圧力室形成基板29となる基板29′に圧力室30を形成する。これにより、封止板33が接合された圧力室形成基板29が作成される。その後、異方性導電フィルム(ACF)等の接着剤54を介して封止板33に駆動IC34を接合することで、図2に示すアクチュエーターユニット14が作成される。アクチュエーターユニット14が作成されたならば、当該アクチュエーターユニット14を流路ユニット15に接合する。そして、アクチュエーターユニット14が接合された流路ユニット15をヘッドケース16の下面に接合することで、収容空間17内にアクチュエーターユニット14が収容され、記録ヘッド3が作成される。
このように、上記した記録ヘッド3の製造方法においては、第2の上電極層積層工程が、第1の圧電体層エッチング工程の後であって、第2の圧電体層エッチング工程の前に行われるため、すなわち、コンタクト開口部56が形成された後に、第2の上電極層39bとなる金属層39b′がコンタクト開口部56から圧力室30に対応する領域に亘って形成されるため、コンタクト開口部56を介して第2の上電極層39bとなる金属層39b′と下電極層37とを導通させることができる。これにより、下電極層37と金属層39b′とが同電位となり、その後の工程において、これらに挟まれた圧電体層38に電界がかかることを抑制できる。例えば、第2の圧電体層エッチング工程において、圧電体基層38′をドライエッチング等によりエッチングする際に、基板49の表面に電圧がかかったとしても、下電極層37と金属層39b′とが同電位となるため、これらに挟まれた圧電体基層38′(圧電体層38)に電界がかかることを抑制できる。従って、圧電体層38に予期しない不均一な分極処理が施されることを抑制でき、このような分極処理に起因した圧電体層38のクラックの発生を抑制できる。特に、圧電素子32の形成後における初期変位測定やエージング処理等においては、圧電素子32に通常の電圧(すなわち、インクを噴射する際に印加される電圧)よりも高い電圧が印加されるため、不均一な分極処理に起因するクラックが生じやすい。しかしながら、本発明における製造方法においては、圧電体層38の不均一な分極処理を抑制できるため、初期変位測定やエージング処理等においても圧電体層38のクラックの発生を抑制できる。その結果、記録ヘッド3の信頼性を高めることができる。
また、圧電体層38をエッチングにより形成する際に、第1の圧電体層エッチング工程と第2の圧電体層エッチング工程とに分けて行ったので、圧電体開口部55となる領域に圧電体層が残ったり、コンタクト開口部56となる領域の下電極層37がオーバーエッチングされて断線したりする不具合を抑制できる。より詳しく説明すると、圧電体開口部55となる領域の圧電体基層38′の膜厚とコンタクト開口部56となる領域の下電極層37上に積層された圧電体基層38′の膜厚とを同じにすることは容易ではなく、これらの膜厚は異なり易い。このため、圧電体開口部55を開口するエッチングと、コンタクト開口部56を開口するエッチングを同時に行うと、圧電体基層38′の膜厚が厚くなり易い圧電体開口部55となる領域がアンダーエッチングの状態(削り足りない状態)となったり、圧電体基層38′の膜厚が薄くなり易いコンタクト開口部56の下電極層37が形成された領域がオーバーエッチングの状態(削り過ぎの状態)となったりする虞がある。しかしながら、本実施形態においては、コンタクト開口部56を開口する第1の圧電体層エッチング工程と、圧電体開口部55を開口する第2の圧電体層エッチング工程とに分けて圧電体基層38′のエッチングを行ったので、上記のような不具合を抑制できる。
さらに、第1の圧電体層エッチング工程の後に第2の圧電体層エッチング工程を行ったので、駆動領域35に形成された圧電体層38の端(圧電体開口部55の縁における圧電体層38の傾斜面)が第1の圧電体層エッチング工程後における第1のレジスト層58の剥離によりダメージを受けることを抑制できる。すなわち、第1の圧電体層エッチング工程における第1のレジスト層58の剥離においては、圧電体層38が圧電素子32毎に区画されておらず、圧電体開口部55の縁における圧電体層38の端(傾斜面)も形成されていない。このため、この圧電体層38の端がダメージを受けることは無い。要するに、駆動領域35に形成された圧電体層38の端は、第2の圧電体層エッチング工程における第2のレジスト層59の剥離時にガスや剥離液からダメージを受ける虞があるが、第1の圧電体層エッチング工程における第1のレジスト層58の剥離時にガスや剥離液から保護される。換言すると、第1の圧電体層エッチング工程と第2の圧電体層エッチング工程との2回に分けて圧電体層38をエッチングする場合においても、駆動領域35に形成された圧電体層38の端へのダメージを1回に抑えることができる。その結果、圧電体層38の耐圧が低下することを抑制でき、圧電素子32の破壊を抑制できる。
そして、第1の圧電体層エッチング工程より前に、第1の上電極層積層工程において、圧電体層38の表面に第1の上電極層39aとなる金属層39a′を製膜したので、第1のレジスト層58の剥離時及び第2のレジスト層59の剥離時において、圧電体層38の下電極層37とは反対側の表面がダメージを受けることを抑制できる。すなわち、圧電体層38の表面が上電極層39の一部(詳しくは第1の上電極層39a)となる金属層39′により覆われるため、当該圧電体層38の表面がレジスト層の剥離時にガスや剥離液からダメージを受けることを抑制できる。なお、圧電体層38が圧電素子32毎に区画された後は、第3の上電極層積層工程により駆動領域35に形成された圧電体層38の端が金属層39c′で覆われるため、その後の工程、例えば、上電極層エッチング工程においてレジスト層を剥離する際に圧電体層38の端を保護することができる。
なお、上記視した実施形態においては、上電極層39が第1の電極層39a、第2の電極層39b及び第3の電極層39c(すなわち、異なる工程で形成された3つの層)により構成されたが、これには限られない。例えば、下電極層を共通電極、上電極層を個別電極に設定するような場合には、複数の圧電素子に亘って連続して形成された第3の電極層を設けずに、圧電素子毎に独立して形成された第1の電極層及び第2の電極層のみを上電極層として形成する。この場合、第3の上電極層積層工程を行わずに、第2の圧電体層エッチング工程の後に上電極層エッチング工程に移行する。
また、上記した実施形態においては、封止板33に配線(貫通配線45、上面側配線46、下面側配線47等)等を形成し、当該封止板33に駆動IC34を設けたが、これには限られない。封止板とは別に駆動ICを有するFPC(フレキシブルプリント基板)等の配線基板を備え、この配線基板の電極端子を個別端子等に接続する構成を採用することもできる。この場合において、コンタクト開口部に積層された上電極層又は上部金属層は、リード配線として封止板の外側まで延在され、配線基板の電極端子と接続される。すなわち、上電極層及び上部金属層が積層された個別端子がコンタクト開口部を介して下電極層と接続される構成に限られず、上電極層や上部金属層等からなるリード配線がコンタクト開口部を介して下電極層と接続される構成にも本発明を適用できる。さらに、コンタクト開口部は、複数の個別端子に亘って形成されたスリット状のものに限られず、個別端子毎に形成されても良い。
そして、以上においては、MEMSデバイスの一種としてインクジェット式記録ヘッド3を例に挙げて説明したが、本発明は、可動素子の変形を許容する空間と、この空間に対応する領域において第1の電極層、圧電体層及び第2の電極層が形成されてなる可動素子と、を備えた他のMEMSデバイスにも適用できる。例えば、駆動領域の圧力変化、振動、あるいは変位等を検出するセンサー等にも本発明を適用することができる。なお、一面が駆動領域で区画される空間は、液体が流通するものには限られない。また、インクを噴射する液体噴射ヘッドに限られず、他の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドでは液体の一種としてR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液体の一種として液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは液体の一種として生体有機物の溶液を噴射する。