JP6825399B2 - 清浄鋼の溶製方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、この方法にはC脱酸を生じさせるための溶鋼中CおよびAl濃度、さらには雰囲気圧力の条件について明示されておらず、条件によってはC脱酸反応が効率的に生じない可能性がある。
C+O=CO(g) ・・・(4)
Al2O3(s)=2Al+3O ・・・(5)
しかしながら、スラグ上面にAlおよびMgOを散布させただけでは低級酸化物の還元反応が効率的に進行せず、かつ還元反応に寄与しなかったAlが溶鋼に溶解する可能性がある。したがって、脱ガス処理によってAl2O3低減効果が得られない可能性がある。
しかしながら、溶鋼と接触しているスラグ下部まで安定的に固化させることは難しく、かつ溶鋼温度の低下を招くという課題がある。
そこで本発明は、溶鋼中の酸素を除去する方法として、Al等の還元剤を使用することなく、かつスラグを固化させることなくスラグ中のFeO及びMnO濃度を低減して溶鋼中の介在物を低減できる清浄鋼の溶製方法を提供することを目的とする。
ここで、上述した(4)式及び(5)式で決定される平衡酸素濃度は、各反応における平衡関係式からそれぞれ下記(6)式及び(7)式で表される。したがって、Al脱酸が生じずC脱酸のみが生じる条件は以下の(8)式で表すことができ、(6)式〜(8)式を解くことで、C脱酸が活用できるAl濃度範囲はC濃度の関数として以下の(9)式で表すことができる。
[%O]C=C6(定数)×PCO/[%C] ・・・(6)
[%O]Al=(C7(定数)/[%Al]2)2/3 ・・・(7)
[%O]C<[%O]<[%O]Al ・・・(8)
[%Al]<C9(定数)×[%C]1.5 ・・・(9)
ここで、[%O]Al:Alの酸化反応から求まる溶鋼中O濃度(質量%)、[%O]C:Cの酸化反応から求まる溶鋼中O濃度(質量%)、[%Al]:sol.Al濃度(質量%)、PCO:CO分圧(Torr)、[%C]:C濃度(質量%)、[%O]:溶存酸素濃度(質量%)である。
(1)C:0.2〜1.2質量%、Si:0.03〜0.3質量%、Mn:0.1〜1.5質量%、Ti:0.03質量%以下を含有する溶鋼を、不活性ガスによる底吹き攪拌下で取鍋精錬を実施した後、環流型脱ガス装置にて脱ガス処理を実施する清浄鋼の溶製方法であって、
出鋼後の溶鋼中のAl濃度を(1)式の範囲に調整し、かつスラグ組成をCaO/Al2O3:1.4〜2.0、CaO/SiO2:2.5〜4.0、FeO+MnO:5〜15質量%に調整した後、前記取鍋精錬において、雰囲気CO分圧を80Torr未満、溶鋼の攪拌動力密度を30〜80W/tonに調整し、(2)式及び(3)式に示す条件で取鍋精錬処理を実施し、その後、Alおよび強脱酸元素のいずれも新たに添加せずに、環流型脱ガス装置にて脱ガス処理を実施することを特徴とする清浄鋼の溶製方法。
[%Al]<0.035×[%C]1.5 ・・・(1)
tLadle>55×(PCO/[%C])0.28×ε-1.69×(WSlag/WSteel)1.29
・・・(2)
ε=371GT/WSteel×{ln(1+75ρSteelH/PLadle)+0.06(1−300/T)} ・・・(3)
ここで、[%Al]:溶鋼中Sol.Al濃度(質量%)、[%C]:溶鋼中C濃度(質量%)、tLadle:取鍋精錬処理時間(min)、PCO:取鍋内CO分圧(Torr)、ε:溶鋼の攪拌動力密度(W/ton)、WSlag:スラグ質量(kg)、WSteel:溶鋼質量(ton)、G:底吹き不活性ガス流量(Nm3/s)、T:溶鋼温度(K)、ρSteel:溶鋼密度(ton/m3)、H:取鍋内溶鋼の浴深(m)、PLadle:取鍋内全圧(Torr)である。
ここで、溶鋼の攪拌動力密度εを定義する(3)式は非特許文献1に記載されており、本発明では、この関係式を用いた。
「取鍋精錬」とは、LFやVADに代表される取鍋精錬処理中の雰囲気CO分圧を低下させた上で、取鍋内溶鋼およびスラグを不活性ガスにより底吹きにて攪拌させる処理を指す。「環流型脱ガス装置」とは、一般的にRHと呼称される真空槽を要する溶鋼処理装置である。「脱ガス処理」とは、溶鋼成分とスラグ成分とを所定の範囲に調整した後、環流型脱ガス装置の真空槽内にて(4)式のC脱酸反応を生じさせ、Cによる脱酸を行う処理のことを指す。また、「強脱酸元素」とは、酸素との親和力がAlと同等もしくはそれ以上に高い元素を指し、Ti、Zr、Ca、Mgおよび希土類元素(REM)がこれに該当する。
[C:0.2〜1.2質量%]
Cは、鋼の強度を決める重要元素である。本発明はAlキルド鋼のようなAl濃度の高い鋼種への適用も想定しており、C濃度が低いと効率よくC脱酸を活用できない可能性があるため、C濃度の下限を0.2質量%とする。また、C濃度が高いほどC脱酸の効果は大きくなるが、C濃度が1.2質量%を超えると母材の硬度が大きくなり過ぎるため、加工性が著しく低下してしまう。また、Cが1.2質量%を超えると脱ガス処理後に脱炭処理を行う必要性が生じるため、本発明でのC濃度の上限は1.2質量%とする。
Siは、鋼材の焼き入れ性および強度を高める重要な元素であり、かつ溶鋼の酸素濃度を低位に維持するために最低限必要であるため、転炉出鋼直後の時点で少なくとも0.03質量%は含有させる必要がある。しかし、Si濃度が0.30質量%を上回るとSi脱酸が顕著に生じ、SiO2系酸化物が大量に生成して溶鋼の清浄度が悪化する可能性があるため、0.30質量%を上限とする。
MnもSiと同様に、鋼材の強度を高める重要な元素であり、かつ溶鋼の酸素濃度を低位維持するために最低限必要であるため、転炉出鋼直後の時点で0.1質量%は含有させる必要がある。しかし、Mn濃度が高過ぎると、Siと同様にMnO系酸化物が大量に生成する可能性があるため、1.5質量%を上限とする。
取鍋精錬でのCによるFeOおよびMnOの還元、ならびに環流脱ガス装置での脱ガス処理を行うためには、C脱酸がAl脱酸よりも優勢な条件に制御する必要がある。(1)式の条件は(6)式の形で記述でき、(6)式の右辺の係数(C6)を鋭意検討により求めることで(1)式の条件を得ることができた。したがって、出鋼後から取鍋精錬開始までの間に、Al濃度およびC濃度が(1)式の条件を満たすように制御する必要がある。なお、取鍋精錬の時点で(1)式の範囲に制御出来ていれば、脱ガス処理時もほぼこの範囲に制御可能となる。
本発明で溶製する清浄鋼には、対象となる溶鋼に製品に必要な機能を付加する目的で、合金元素を含有させることも原理的に許容される。具体的には、Feの一部に加えて、Cr:1.7質量%以下、Mo:1.0質量%以下、V:0.3質量%以下、Ni:2.0質量%以下を含有させてもよい。また、不可避的不純物としてP:0.03質量%以下、S:0.03質量%以下、Mg:0.002質量%以下、Ca:0.002質量%以下、N:0.02質量%以下を含有していてもよい。ただし、取鍋精錬処理後から環流型脱ガス装置にて脱ガス処理を実施するまでの間にAlあるいは強脱酸元素を添加してしまうと、脱ガス処理中にC脱酸が生じず溶鋼の清浄化がなされない懸念があるため、上述した時期にAlあるいは強脱酸元素を添加しないようにする。
[CaO/Al2O3:1.4〜2.0]
取鍋精錬下における溶鋼−スラグ間反応を効率的に実施するためには、スラグの粘度を低下させるとともに、スラグ液相率を高位に維持することが重要となる。CaO/Al2O3が低すぎるとスラグ粘度が大きく増加してしまうため、1.4を下限とする。一方で、CaO/Al2O3が高すぎるとスラグの液相率が大きく低下してしまうため、2.0を上限とする。
スラグ中のSiO2はスラグの融点を低下させて液相率を増加させる効果があるため、スラグ中に最低限のSiO2が含有されている必要があり、CaO/SiO2の上限を4.0とする。一方で、SiO2はCaOやAl2O3と比較すると酸素との親和性が弱く、スラグ中にSiO2が過剰に含有されるとSiO2がSiとOとに分離して溶鋼中での再酸化の要因となるため、CaO/SiO2の下限を2.5とする。
スラグ中のFeOおよびMnOは溶鋼での再酸化の要因となり、取鍋精錬前の段階で15%を超えていると、取鍋精錬の現実的な処理時間内にこれらの低級酸化物を還元し切れない可能性があるため、スラグ全体に対して合計で15質量%を上限とする。一方で、FeOおよびMnOはスラグの融点を低下させる成分であり、出鋼直後に液相スラグを効率的に生成させる必要があるため、スラグ全体に対して合計で5質量%を下限とする。なお、本発明により、取鍋精錬後のスラグ中のFeO濃度およびMnO濃度の合計を1.0質量%未満にするものとするが、取鍋精錬前の段階で1.0質量%未満にすると、CaOやSiO2などを大量に添加する必要があり操業上困難であることから、取鍋精錬前の段階では合計で5質量%を下限とする。
[雰囲気CO分圧:80Torr未満]
(2)式からもわかるように、C脱酸反応は雰囲気CO分圧が低位であるほど顕著に生じるため、取鍋精錬中の雰囲気CO分圧は80Torr未満とする。
一般的に溶鋼−スラグ間反応は溶鋼の攪拌動力密度が高いほど顕著に生じることが知られており、スラグ中のFeOおよびMnOを効率的に還元させるためには少なくとも30W/tonは確保する必要がある。一方で、攪拌動力密度を過度に増加させると取鍋固体酸化物の著しい損耗が生じ、この損耗に伴って溶鋼再酸化が顕著となり溶鋼清浄度の悪化を招く懸念があるため、80W/tonを上限とする。前述したように、攪拌動力密度の計算式は非特許文献1に記載された(3)式を用いる。
スラグ中のFeOおよびMnOをCにより還元させるためには一定以上の時間を要し、還元に必要な時間を決定する因子として、CO分圧、C濃度、攪拌動力密度およびスラグと溶鋼との質量比が挙げられる。本発明者らは、後述する効果の確認方法に則り、(1)式の条件を満たした上で、発明の効果を得るために必要な取鍋精錬処理時間と上記の因子との関係を鋭意検討し、(2)式の条件を得た。図1に、(1)式の条件を満たした上での(2)式で計算された右辺の値と、取鍋精錬処理時間tLadleの実績とを比較した結果を示すが、本発明の効果が得られたものは全て(2)式の条件を満たしていることがわかる。したがって、本発明の効果を得るためには、取鍋精錬処理時間tLadleを(2)式の条件を満たすように設定する必要がある。
本発明において、転炉から出鋼された溶鋼は、まず取鍋精錬処理にてスラグ改質が実施された後、環流型脱ガス装置にて脱ガス処理される。転炉等の精錬容器から取鍋に出鋼され、取鍋精錬装置まで搬送されて処理を行う前に、上記の溶鋼成分範囲に調整する目的で、合金等の添加を行うことが望ましい。具体的には、取鍋精錬処理を開始する前に、溶鋼およびスラグ組成を所定の範囲に調整することである。成分調整後の溶鋼およびスラグからサンプルを採取し、迅速分析にて成分濃度を得るとともに、スラグの厚みを測定し、取鍋断面積およびスラグ密度からスラグ質量WSlagを算出する。
本発明の効果は、取鍋精錬後のスラグ中のFeO濃度およびMnO濃度の合計、脱ガス処理後の酸化物系介在物の個数密度にて評価する。スラグ中のFeO濃度およびMnO濃度の合計は、取鍋精錬後の溶鋼上面のスラグからサンプルを採取し、化学分析に供することで得ることができる。酸化物系介在物の個数密度は、脱ガス処理後に採取した溶鋼のボンブサンプルを切断、樹脂埋め、研磨した後に切断面を光学顕微鏡で観察し、検鏡範囲内(=200mm2)に存在する5.0μm以上20μm未満の介在物の個数を計測することで評価する。ただし、本発明ではAlを殆ど添加しないため、酸化物系介在物はAl2O3以外にSiO2、MnO、Ti2O3が主成分となる可能性があり、Al2O3系介在物のみ評価したのでは本発明による介在物低減効果を充分に確認できない。そこで、エネルギー分散型X線アナライザーを具備した走査電子顕微鏡で測定した際、Al、Si、Mn、Ti、Ca、MgおよびOの占める割合が90atm%以上であるものを介在物として計測する。本発明において、取鍋精錬後のスラグ中のFeO濃度およびMnO濃度の合計が1.0質量%未満、かつ5.0μm以上20μm未満の酸化物系介在物の個数密度が10個/mm2未満であったものを、発明の効果が得られたと判断することができる。
次に、表1に示す組成の溶鋼とスラグを、取鍋とともに取鍋精錬装置であるLFまで搬送し、表2に示す条件にて取鍋精錬処理を行った。なお、発明例(実施例)、比較例とも全て、溶鋼量WSteelは80ton、溶鋼温度Tは1873K、取鍋内溶鋼の浴深Hは2.6m、取鍋内全圧PTotalは760Torrであった。また、上記計算において、溶鋼の密度ρSteelは7ton/m3とした。
各試験における取鍋精錬処理後のスラグ中の(FeO+MnO)濃度、および脱ガス処理後の最終的な溶鋼中介在物個数密度を表2に示す。
表1及び表2のCh.No.7〜27は、本発明の条件を一部満たしていなかったため発明の効果が得られなかったものである。
Ch.No.22は、溶鋼中のAlが(1)式の範囲を超えて含有されていたため、Al脱酸がC脱酸よりも優勢となってAl2O3が大量に生成してしまい、介在物個数が大きく増加してしまった。以上の結果から、本発明の効果を得るためには、(1)式の条件を満足する必要があることが確認できた。
Claims (1)
- C:0.2〜1.2質量%、Si:0.03〜0.3質量%、Mn:0.1〜1.5質量%、Ti:0.03質量%以下を含有する溶鋼を、不活性ガスによる底吹き攪拌下で取鍋精錬を実施した後、環流型脱ガス装置にて脱ガス処理を実施する清浄鋼の溶製方法であって、
出鋼後の溶鋼中のAl濃度を(1)式の範囲に調整し、かつスラグ組成をCaO/Al2O3:1.4〜2.0、CaO/SiO2:2.5〜4.0、FeO+MnO:5〜15質量%に調整した後、前記取鍋精錬において、雰囲気CO分圧を80Torr未満、溶鋼の攪拌動力密度を30〜80W/tonに調整し、(2)式及び(3)式に示す条件で取鍋精錬処理を実施し、その後、Alおよび強脱酸元素のいずれも新たに添加せずに、環流型脱ガス装置にて脱ガス処理を実施することを特徴とする清浄鋼の溶製方法。
[%Al]<0.035×[%C]1.5 ・・・(1)
tLadle>55×(PCO/[%C])0.28×ε-1.69×(WSlag/WSteel)1.29 ・・・(2)
ε=371GT/WSteel×{ln(1+75ρSteelH/PLadle)+0.06(1−300/T)} ・・・(3)
ここで、[%Al]:溶鋼中Sol.Al濃度(質量%)、[%C]:溶鋼中C濃度(質量%)、tLadle:取鍋精錬処理時間(min)、PCO:取鍋内CO分圧(Torr)、ε:溶鋼の攪拌動力密度(W/ton)、WSlag:スラグ質量(kg)、WSteel:溶鋼質量(ton)、G:底吹き不活性ガス流量(Nm3/s)、T:溶鋼温度(K)、ρSteel:溶鋼密度(ton/m3)、H:取鍋内溶鋼の浴深(m)、PLadle:取鍋内全圧(Torr)である。
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