以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1に断面構造を示すレンズ鏡筒2は、レンズ交換式のカメラシステムを構成するものであり、カメラ本体1(図1に二点鎖線で仮想的に示す)に対して着脱可能である。
レンズ鏡筒2内の撮影レンズ系によって形成される被写体像は、カメラ本体1内に設けた撮像素子(不図示)で受光される。撮像素子で受光した光学的な被写体像は、光電変換により信号化され、画像処理回路(不図示)による処理を経て電子的な画像データとなり、カメラ本体1に設けた表示モニタ(不図示)への画像表示や、記録媒体(不図示)への画像の記録などが行われる。
図1では、レンズ鏡筒2内に支持される撮影レンズ系の光軸Oを一点鎖線で示している。以下の説明における「光軸方向」は、光軸Oに沿う方向を意味する。図1中の左方が物体(被写体)側、右方が結像面側であり、撮影レンズ系は、光学要素として、物体側から順に、第一レンズ群6、第二レンズ群7及び第三レンズ群8を有する三群構成である。
第一レンズ群6、第二レンズ群7及び第三レンズ群8は、所定のフォーカス移動量の範囲内で光軸方向に移動可能であり、この各レンズ群6、7及び8の移動によってフォーカシングを行う。図1はフォーカス位置が無限遠の状態を示している。
以下、レンズ鏡筒2における各レンズ群6、7及び8の支持構造について説明する。図1に示すように、レンズ鏡筒2は、マウント3、直進案内環4(直進案内部材)、リード環5(第1の部材)、外筒9、マウントベース10、第一レンズ枠11(第2の部材)、第二レンズ枠12、第三レンズ枠13、フォーカスリング14を備えている。マウント3と直進案内環4と外筒9とマウントベース10は互いに固定されて固定部を構成する。リード環5は、固定部に対して、光軸Oを中心として回転可能に支持されている。すなわち、リード環5の回転軸(回転中心)は図2に示す光軸Oと一致し、光軸Oを中心とする周方向がリード環5の回転方向となる。第一レンズ枠11は、固定部に対して、光軸方向に直線移動可能に支持されている。第二レンズ枠12と第三レンズ枠13は第一レンズ枠11により支持されており、第一レンズ枠11が光軸方向に直線移動すると、第二レンズ枠12と第三レンズ枠13も一体的に光軸方向に直線移動を行う。
マウント3は、レンズ鏡筒2の後端に設けられ、カメラ本体1のマウント面(不図示)に当接するマウント面や、カメラ本体1側とバヨネット結合するための爪部などを有している。
マウント3の前部にマウントベース10が固定され、マウントベース10の内側に外筒9が固定され、外筒9の内側に直進案内環4が固定されている。直進案内環4には、光軸方向に延びる直線溝4a(図3参照)が形成されている。直線溝4aは光軸Oを中心とする周方向に略等間隔で3つ設けられており、このうち2つが図3に表れている。
リード環5は直進案内環4の外側に支持されている。直進案内環4とリード環5の間には、直進案内環4に対してリード環5を光軸Oを中心として回転可能に案内する回転案内部が設けられている。回転案内部は、直進案内環4の外周面に形成した環状溝4bと、リード環5の内周面に設けた突起5aによって構成される(図3参照)。環状溝4bは光軸Oを中心とする周方向に延びており、環状溝4bに対して突起5aが摺動可能に挿入される。環状溝4bと突起5aの嵌合関係によって、光軸方向へのリード環5の移動が規制される。
外筒9の外側に、光軸Oを中心として回転可能にフォーカスリング14が支持されている。また、カメラ本体1あるいはレンズ鏡筒2の内部に、フォーカシング用モータ(不図示)が内蔵されている。フォーカスリング14の回転動作とフォーカシング用モータの回転動作を択一的にリード環5に伝達する回転伝達機構(不図示)が設けられている。
第一レンズ枠11は、内部に第一レンズ群6を支持する筒状体であり、直進案内環4の内側に支持される。第一レンズ枠11は、直進案内環4に設けた3つの直線溝4aに挿入される3つの直進案内部11a(図3参照)を有している。各直進案内部11aが各直線溝4aの案内を受けることによって、第一レンズ枠11が光軸方向へ直線移動可能に支持される(図2参照)。直進案内環4に対する径方向への第一レンズ枠11の移動は規制される。
図3、図4及び図8に示すように、リード環5の内周面にリード溝60(案内溝)が形成されており、リード溝60に対して摺動可能に挿入される被案内部40(図3参照)が第一レンズ枠11に設けられている。光軸Oを中心とする周方向に等間隔で3つのリード溝60が設けられ、これに応じて、周方向に等間隔で3箇所の被案内部40が設けられている。リード溝60は、周方向に進むにつれて光軸方向の位置を変化させる螺旋状の溝である。リード溝60に対して被案内部40が挿入されている状態を図2に示している。従って、リード環5が回転すると、リード溝60内での被案内部40の位置が変化して、第一レンズ枠11が光軸方向に直線移動を行う。
第二レンズ枠12は内部に第二レンズ群7を支持し、第三レンズ枠13は内部に第三レンズ群8を支持する。第二レンズ枠12と第三レンズ枠13は第一レンズ枠11の内部に支持される。第二レンズ枠12と第三レンズ枠13は、第一レンズ枠11に対して光軸Oと垂直な平面に沿って位置調整可能である。レンズ鏡筒2の製造に際して、第二レンズ群7と第三レンズ群8の光軸調整を行った後に、第一レンズ枠11に対して第二レンズ枠12と第三レンズ枠13を固定する。レンズ鏡筒2の完成状態では、第二レンズ枠12と第三レンズ枠13は第一レンズ枠11と共に光軸方向に直線移動を行う。
以上の構成のレンズ鏡筒2では、フォーカスリング14の回転操作またはフォーカシング用モータの駆動によってリード環5が回転し、第一レンズ枠11に支持される第一レンズ群6、第二レンズ枠12に支持される第二レンズ群7、第三レンズ枠13に支持される第三レンズ群8が、一体的に光軸方向に移動する。そして、先に述べたように、これら3つのレンズ群6、7及び8の光軸方向移動によってフォーカシングを行う。
続いて、レンズ鏡筒2が備える回転進退機構の詳細を説明する。この回転進退機構は、リード溝60と被案内部40の嵌合関係によって、リード環5の回転に応じて第一レンズ枠11を光軸方向に移動させるものであり、リード溝60と被案内部40の間のガタ(バックラッシュ)を除去する構造を有している。バックラッシュを除去するための構成要素として、図3と図5に示すように、第一レンズ枠11には補助案内部材15が取り付けられる。補助案内部材15は、第一レンズ枠11に対して光軸方向に所定の範囲で移動可能に支持されており、ガイドビス16を介して第一レンズ枠11に取り付けられている。補助案内部材15は付勢バネ17(付勢手段)によって物体側に付勢されている。
まず、図5を参照して、第一レンズ枠11の構成を説明する。第一レンズ枠11の外周面上には、先に述べた直進案内部11aが形成されている。直進案内部11aは、第一レンズ枠11の外周面から、光軸Oを中心とする径方向のうち外径方向(光軸Oから離れる方向)に突出する突出部であり、光軸方向に延びる一対の側面20を両側に有している。一対の側面20が直進案内環4の直線溝4aの対向する一対の壁面に挟まれることにより、第一レンズ枠11が光軸方向に直線移動可能に案内される。
直進案内部11aにおける一対の側面20の間に、光軸方向に延びるガイド溝21が形成されている。ガイド溝21は、物体側の端部が開放され、結像面側の端部が閉じられた長溝である。ガイド溝21の結像面側の端部は、物体側を向くストッパ面22となっている。また、ガイド溝21内には、ストッパ面22に隣接する位置に、径方向の深さを小さくした段部23が形成されている。ガイド溝21を挟んだ周方向の両側は、一対の立壁状の挟持部24(規制部)になっており、一対の挟持部24が対向する部分には、光軸方向に延びる略平行な一対の対向面25が形成されている。一対の挟持部24にはそれぞれ、上記の被案内部40が外径方向に突出させて設けられている。被案内部40の詳細については後述する。
第一レンズ枠11の外周面上にはさらに、直進案内部11aと光軸方向に並ぶ位置関係で物体側から順に、一対のガイド突起26、一対の支持座27、ビス穴28が形成されている。一対のガイド突起26は周方向に離間して設けられており、各ガイド突起26は光軸方向に延びる形状になっている。一対の支持座27は、外径方向を向く面として形成されており、光軸方向に長く延びている。ビス穴28の内側には雌ネジが形成されている。また、第一レンズ枠11には、ガイド突起26の物体側にバネ受け面29(第2の受け面)が形成されている。バネ受け面29は、結像面側を向く環状の立壁形状の面である。
続いて、図5を参照して、補助案内部材15の構成を説明する。補助案内部材15は、光軸方向に長手方向が向く細長形状の部材であり、物体側から順に基部30と被挟持部31(規制部)を有している。基部30の周方向の幅は、直進案内部11aの周方向の幅(一対の側面20の間隔)よりもわずかに小さい。被挟持部31は、基部30よりも周方向に幅狭である。
基部30には、内径側(第一レンズ枠11の外周面に対向する側)に向けて開口するガイド凹部32とバネ室33が形成されている。第一レンズ枠11に設けた一対のガイド突起26をガイド凹部32内に挿入可能であり、付勢バネ17をバネ室33内に収納可能である。バネ室33の物体側の端部はガイド凹部32に連通しており、ガイド凹部32の物体側の端部は開放されている。バネ室33の結像面側の端部は閉じられており、バネ受け面34(第1の受け面)が形成されている。
基部30にはさらに、バネ室33よりも結像面側の位置に、ビス当接凹部35と貫通穴36が形成されている。ビス当接凹部35は、外径方向に向けて開放される有底の凹部である。貫通穴36は、ビス当接凹部35の底部から補助案内部材15の内径側の面まで貫通している。ビス当接凹部35と貫通穴36はそれぞれ、光軸方向に長手方向が向く長穴である。
被挟持部31は、基部30から結像面側に突出しており、周方向の両側に一対の側面37を有している。一対の側面37は光軸方向に延びる略平行な面であり、その間隔は、第一レンズ枠11に形成した一対の挟持部24の一対の対向面25の間にガタつきなく収まる大きさになっている。被挟持部31の先端には、結像面側を向くストッパ面38が形成されている。被挟持部31のうちストッパ面38に隣接する部分には、内径側への厚みを小さくした薄肉部39が形成されている。補助案内部材15はさらに、薄肉部39から外径方向に突出する付勢突起50が設けられている。付勢突起50の詳細については後述する。
補助案内部材15は、バネ室33内に付勢バネ17を収めた状態で第一レンズ枠11に対して組み付けられる。まず、補助案内部材15は、第一レンズ枠11の支持座27との当接によって径方向の位置が定まる。また、ガイド凹部32内に一対のガイド突起26を嵌合させ、被挟持部31をガイド溝21内に嵌合させ、これらの嵌合部分によって、第一レンズ枠11に対する補助案内部材15の周方向の移動が規制される。例えば、ガイドビス16を中心として補助案内部材15を回転させるような力が加わった場合に、摩擦による補助案内部材15の回転防止や、ガイドビス16と補助案内部材15との間のねじれ防止、といった効果を得ることができる。特に、ガイド突起26とガイド凹部32の嵌合だけでなく、ガイドビス16を挟んでガイド突起26及びガイド凹部32とは光軸方向の反対側に位置するガイド溝21と被挟持部31を嵌合させることで、補助案内部材15の回転防止効果を高めることができる。また、ガイドビス16に対する補助案内部材15のねじれ防止は、ガイド突起26とガイド凹部32のみでは実現できず、ガイド溝21と被挟持部31の嵌合を要する。また、被挟持部31の薄肉部39がガイド溝21内の段部23上に支持される。これにより、径方向における被挟持部31の支持安定性が向上する。
補助案内部材15の光軸方向の長さは、第一レンズ枠11に形成したバネ受け面29とストッパ面38の光軸方向間隔よりも短く、補助案内部材15は、第一レンズ枠11に対して光軸方向に所定量移動可能である。ガイド突起26とガイド凹部32が互いに接する面と、ガイド溝21の対向面25と被挟持部31の側面37は、いずれも光軸方向に延びる面であるため、第一レンズ枠11に対する補助案内部材15の周方向の移動を規制しながら、光軸方向への補助案内部材15の移動を案内する。
補助案内部材15の基部30の周方向の幅は、直進案内部11aの周方向の幅(一対の側面20の間隔)よりも小さいため、補助案内部材15は直進案内環4の直線溝4aの対向する一対の壁面には当接しない。従って、補助案内部材15は、直線溝4aと直進案内部11aによる第一レンズ枠11の直進案内の機能を妨げない。
このように第一レンズ枠11に対して支持された補助案内部材15は、ガイドビス16によって外径方向への移動(第一レンズ枠11からの離脱)が規制される。図5に示すように、ガイドビス16は、ビス当接凹部35に挿入される頭部16aと、貫通穴36に挿入される中間軸部16bと、ビス穴28に螺合する雄ネジ部16cとを有している。ガイドビス16は、頭部16aがビス当接凹部35の底面に当接する位置まで締め込まれる。ビス当接凹部35と貫通穴36はそれぞれ、頭部16aと中間軸部16bに対して光軸方向に余裕のある大きさを有している。従って、ガイドビス16は、補助案内部材15の光軸方向の移動を規制せずに、補助案内部材15の外径方向への移動のみを規制する。
付勢バネ17は圧縮バネであり、結像面側の端部をバネ受け面34に当接させてバネ室33内に収められる。付勢バネ17の一部は、バネ室33からガイド凹部32内に入って一対のガイド突起26の間を通り、付勢バネ17の物体側の端部がバネ受け面29に当接する。つまり、付勢バネ17は、光軸方向に軸線を向けてバネ受け面29とバネ受け面34の間に保持される。この保持状態で、付勢バネ17は自由状態よりも圧縮されており、バネ受け面34を介して補助案内部材15に対して結像面側へ向けての付勢力を付与する。なお、バネ室33の内面と一対のガイド突起26によって、付勢バネ17の座屈が抑えられる。
補助案内部材15は、ストッパ面38がストッパ面22に当接する位置が第一レンズ枠11に対する結像面側への移動端であり、補助案内部材15に外力を与えない状態では、補助案内部材15は付勢バネ17の付勢力によって結像面側への移動端に保持される。補助案内部材15が結像面側の移動端にある状態を図6に示している。
補助案内部材15は、付勢バネ17の付勢力に抗して、物体側に所定量移動可能である。基部30の物体側の面がバネ受け面29に当接する位置が、第一レンズ枠11に対する補助案内部材15の物体側への移動端である。補助案内部材15が物体側の移動端にある状態を図7に示している。
図9から図11に示すように、第一レンズ枠11上の一対の挟持部24に設けた一対の被案内部40はそれぞれ、物体側に位置するリード面41(第1のリード面)と、結像面側に位置するリード面42(第2のリード面)と、外径側に位置する上面43を有し、上面43に近づくにつれてリード面41とリード面42の光軸方向の間隔が小さくなる台形状断面の突起である。図6と図7に示すように、リード面41とリード面42はそれぞれ、周方向に進むにつれて光軸方向の位置を変化させる斜行面である。一対の被案内部40は、互いのリード面41が略面一となり、互いのリード面42が略面一となる位置関係で、周方向に離間させて配置されている。
補助案内部材15に設けた付勢突起50は、物体側に位置するリード面51(第1のリード面)と、結像面側に位置するリード面52(第2のリード面)と、外径側に位置する上面53を有し、上面53に近づくにつれてリード面51とリード面52の光軸方向の間隔が小さくなる台形状断面の突起である。リード面51はリード面41と略平行な斜行面であり、リード面52はリード面42と略平行な斜行面である。
図9から図11に示すように、付勢突起50は被案内部40よりも小型の断面形状に設定されている。より詳しくは、被案内部40のリード面41とリード面42の光軸方向の間隔よりも、付勢突起50のリード面51とリード面52の光軸方向の間隔の方が小さい。また、挟持部24の外周面から上面43までの被案内部40の径方向の高さよりも、被挟持部31の外周面から上面53までの付勢突起50の径方向の高さの方が小さい。
補助案内部材15を第一レンズ枠11に組み付けた状態で、周方向において一対の被案内部40の間に付勢突起50が位置し、一対の被案内部40と付勢突起50が連続的に並ぶ3連の突起構造となる(図2、図6から図8参照)。図6に示す補助案内部材15の結像面側の移動端では、付勢突起50は一対の被案内部40に対してわずかに結像面側に突出する。より詳しくは、付勢突起50におけるリード面52が、各被案内部40におけるリード面42よりも結像面側に突出する。一方、図7に示す補助案内部材15の物体側の移動端では、付勢突起50は一対の被案内部40に対してわずかに物体側に突出する。より詳しくは、付勢突起50におけるリード面51が、各被案内部40におけるリード面41よりも物体側に突出する。
続いて、図4、図9から図11を参照して、リード環5に形成したリード溝60の構成を説明する。リード溝60は、物体側に位置するリード面61(第1の案内面)と、結像面側に位置するリード面62(第2の案内面)と、外径側に位置する底面63を有し、底面63に近づくにつれてリード面61とリード面62の光軸方向の間隔が小さくなる台形状断面の溝である。リード面61とリード面62はそれぞれ、周方向(リ―ド環5の回転方向)に進むにつれて光軸方向の位置を変化させる斜行面である。
リード溝60のリード面61,62は、全体に亘って一定のリード角(光軸方向及び周方向に対する傾き)を有している。被案内部40のリード面41と付勢突起50のリード面51は、リード溝60のリード面61と略平行な(共通のリード角を有する)面であり、被案内部40のリード面42と付勢突起50のリード面52は、リード溝60のリード面62と略平行な(共通のリード角を有する)面である。
図11に示すように、リード溝60の光軸方向の幅(リード面61とリード面62の光軸方向の間隔)は、被案内部40の光軸方向の幅(リード面41とリード面42の光軸方向の間隔)と略等しく、付勢突起50の光軸方向の幅(リード面51とリード面52の光軸方向の間隔)よりも大きい。厳密には、リード溝60と被案内部40の間にも、摺動を可能にするための僅かなクリアランスが存在するため、リード溝60に対する被案内部40の光軸方向のクリアランスよりも、リード溝60に対する付勢突起50の光軸方向のクリアランスの方が大きい。
また、図11に示すように、被案内部40と付勢突起50はいずれもリード溝60の底面63には当接していない。被案内部40の上面43とリード溝60の底面63との間のクリアランスよりも、付勢突起50の上面53とリード溝60の底面63との間のクリアランスの方が大きい。
リード環5の内周面にはさらに、リード溝60に接続する取り付け溝65が形成されている。取り付け溝65は光軸方向に延びる溝であり、リード環5の前端部に開口し、この開口部分から結像面側に向けて延びて、リード溝60のうち光軸方向で最も前方に位置する側の端部に接続している。取り付け溝65の周方向の幅は、一対の被案内部40を光軸方向に挿入可能な大きさに設定されている。取り付け溝65の結像面側の端部(取り付け溝65がリード溝60に接続する部分)には、リード面62に連続する(リード面62と同一の斜行面である)導入リード面66が形成されている。
続いて、以上の構成を有する回転進退機構の組み立てについて説明する。図8に示すように、第一レンズ枠11とリード環5は、一対の被案内部40とその間に位置する付勢突起50が取り付け溝65と光軸方向に並ぶ(リード環5の回転方向で同じ位置になる)ように互いの位置を合わせる。なお、図8では直進案内環4の図示を省略しているが、この段階で第一レンズ枠11は直進案内環4と組み合わされて直進案内部11aを直線溝4aに挿入させており、一対の被案内部40と付勢突起50は、直進案内環4の外周面よりも外径方向に突出している(図2参照)。第一レンズ枠11をリード環5に取り付ける前の状態では、補助案内部材15は付勢バネ17の付勢力によって結像面側の移動端に保持されており、付勢突起50が両側の被案内部40よりも結像面側に突出している(図6参照)。
図8のように位置合わせした状態でリード環5と第一レンズ枠11を光軸方向に接近させると、一対の被案内部40と付勢突起50が取り付け溝65内に進入する。この進入を進めて、付勢突起50の結像面側のリード面52が導入リード面66に当接した状態を図9に示す。このとき、付勢突起50の両側に位置する被案内部40は導入リード面66に当接していない。
図9の状態では、付勢突起50(リード面52)を導入リード面66に当接させた補助案内部材15がそれ以上の結像面側への移動を規制されるのに対して、第一レンズ枠11は結像面側へ移動する余地がある。そのため、図9の状態からさらにリード環5と第一レンズ枠11を光軸方向に接近させると、一対の被案内部40が導入リード面66に接近し、やがて図10に示すように各被案内部40の結像面側のリード面42が導入リード面66に当接する。図9から図10の状態への移行に際して、バネ受け面29とバネ受け面34の光軸方向の間隔が狭くなり、これに応じて付勢バネ17が圧縮量を大きくしてチャージされる。
なお、図9の状態から図10の状態になるまでの、第一レンズ枠11に対する補助案内部材15の光軸方向の移動量は、補助案内部材15の最大の移動量(図6に示す結像面側の移動端から図7に示す物体側の移動端までの移動量)よりも小さい。そのため、図10の状態においても、補助案内部材15は第一レンズ枠11に対してさらに物体側に相対移動できる余裕がある。これにより、部材間に多少の精度誤差がある場合でも吸収して、被案内部40と付勢突起50を図10の位置まで確実に進入させることができる。
図10の状態に達したら、第一レンズ枠11に対してリード環5を図8の矢印R1方向に回転させる。なお、レンズ鏡筒2全体への組み込み前であれば、リード環5に対して第一レンズ枠11を矢印R1と反対方向に回転させてもよい。いずれの場合も、第一レンズ枠11とリード環5の相対回転により、一対の被案内部40と付勢突起50が導入リード面66の案内を受けてリード溝60内に進入し、図11に示す状態になる。
図11の状態では、付勢バネ17の付勢力を受けた付勢突起50が、結像面側のリード面52をリード溝60のリード面62に押し付けている。付勢突起50を結像面側に押圧する付勢バネ17の反力は、バネ受け面29を介して第一レンズ枠11に及ぶ。この付勢バネ17の反力は、第一レンズ枠11に設けた各被案内部40の物体側のリード面41をリード溝60のリード面61に当接させる方向に働く。
従って、一対の被案内部40と付勢突起50がリード溝60内に進入した状態では、付勢バネ17の付勢力によって、リード溝60のリード面61とリード面62の間で各被案内部40と付勢突起50が突っ張る関係になる。その結果、リード環5に対する第一レンズ枠11のガタつきが抑えられ、第一レンズ枠11を高精度に支持及び移動させることが可能になる。
以上のように、ガイドビス16を介して補助案内部材15を第一レンズ枠11に組み付けた段階で、第一レンズ枠11が補助案内部材15と付勢バネ17を含むバックラッシュ除去構造を備える状態になる(図6から図8参照)。この状態では、補助案内部材15と付勢バネ17はいずれも、ガイドビス16によって第一レンズ枠11に保持されているため、手などで継続的に補助案内部材15や付勢バネ17を押さえておく必要がない。
そして、被案内部40と付勢突起50が取り付け溝65を通して導入リード面66に当接する位置まで光軸方向に挿入させ(図10)、導入リード面66への当接で光軸方向の挿入が規制された段階で回転方向への力を与えるだけで、リード環5と第一レンズ枠11の間の回転進退機構と、補助案内部材15と付勢バネ17を含むバックラッシュ除去構造が同時に完成する。
従って、補助案内部材15や付勢バネ17に対して手間のかかる保持や位置調整を行うことなく、リード環5と第一レンズ枠11を光軸方向に接近させて移動が規制されたら相対回転させるという簡単な動作によって、組み立てを完了させることができる。
なお、図5から図7、図9から図11では、周方向(リ―ド環5の回転方向)に位置を異ならせて3箇所設けられている回転進退機構及びバックラッシュ除去構造のうち1箇所を図示しているが、以上に述べた構成は、他の2箇所の回転進退機構及びバックラッシュ除去構造にも共通する。そのため、3箇所の回転進退機構及びバックラッシュ除去構造の全てで上記の効果が得られ、組み立て作業性の著しい向上を実現できる。
ところで、回転進退機構を高精度で円滑に動作させるためには、バックラッシュ除去構造を構成する付勢突起50の位置や姿勢が安定している必要がある。例えば、補助案内部材15が設計上の位置からずれている場合、リード溝60に対する付勢突起50の当接状態が変化する。すると、リード環5と第一レンズ枠11の間に適切なガタ取り用の付勢力を付与できなくなったり、リード溝60に対する被案内部40の位置精度に悪影響が及んでしまったりするおそれがある。特に、補助案内部材15は、付勢バネ17の付勢力を受けることで光軸方向の位置が定められるが、それ以外の方向においても高い安定性が求められる。
本実施の形態では、第一レンズ枠11と補助案内部材15に、リード環5の回転軸に沿う方向(光軸方向)への補助案内部材15の移動を許しながら、リード環5の回転方向(周方向)への補助案内部材15の移動を規制する規制部が設けられている。具体的には、補助案内部材15に設けた被挟持部31を、第一レンズ枠11に設けた一対の挟持部24によって回転方向の両側から挟んでおり、被挟持部31の側面37と各挟持部24の対向面25の当接関係によって、補助案内部材15の回転方向移動を規制する。付勢突起50は被挟持部31から突出しているので、付勢突起50の基部に位置する被挟持部31を一対の挟持部24で挟んで強固に支持することで、付勢突起50の安定性と位置精度を著しく向上させることができる。
各挟持部24の対向面25と被挟持部31の側面37はそれぞれ光軸方向に長い壁面であるため、補助案内部材15に対する回転規制に際して、対向面25と側面37の当接箇所を軸とする余分なモーメント(光軸Oに垂直な軸を中心とする揺動方向の力)が発生しない。従って、補助案内部材15を確実に回転規制することができる。
また、補助案内部材15は、基部30と被挟持部31が光軸方向に並ぶ構成であり、基部30内のバネ室33に付勢バネ17を配設している。そして、付勢バネ17の軸線方向の延長上に被挟持部31が位置するため、被挟持部31とその両側の挟持部24の間には、付勢バネ17からの付勢力が作用せず、余分な動作負荷が生じない。
補助案内部材15は、被挟持部31が一対の挟持部24の間に保持される結像面側の端部に加えて、物体側の端部においても、ガイド凹部32と一対のガイド突起26の嵌合によって、リード環5の回転方向への移動規制を受けている。これにより、被挟持部31に加えて、付勢バネ17が配設される基部30でも優れた安定性と位置精度を得ることができる。
挟持部24は被案内部40を外周面上に有する部位であり、被案内部40の基部に位置する挟持部24によって被挟持部31の位置規制を行うと、被案内部40と付勢突起50の相対的な位置精度の向上にも寄与する。
特に、本実施の形態では、一対の挟持部24のそれぞれから被案内部40が突設されており、補助案内部材15を第一レンズ枠11に組み付けた状態では、一対の被案内部40の間に付勢突起50が位置する3連の突起構造になる(図6から図8参照)。この3連の突起の相対的な位置関係が精度良く管理されていると、レンズ鏡筒2の完成状態でのリード環5に対する第一レンズ枠11のスムーズな動作に加えて、リード環5に対して第一レンズ枠11を組み付ける際の組み付け易さの向上にも寄与する。
例えば、本実施の形態では、上記の3連の突起(一対の被案内部40と付勢突起50)が3組設けられている。そのため、各組において一対の被案内部40に対する付勢突起50の位置精度にばらつきがあると、取り付け溝65に挿入したときに、図10の状態(各被案内部40がリード溝60内に進入可能な状態)になるタイミングにばらつきが生じるおそれがある。このばらつきが特に大きい場合には、3組のうち特定の組で、導入リード面66よりも物体側の位置で被案内部40の挿入移動が制限されてしまい、図10の状態が得られなくなるおそれもある。すると、リード環5と第一レンズ枠11を相対回転させても、リード溝60内に被案内部40を進入させにくい状態になってしまう。これに対して本実施の形態では、3組の突起の全てで被案内部40と付勢突起50の位置関係が狂いにくく、優れた組み立て作業性を得ることができる。
さらに、挟持部24は、直進案内環4の直線溝4aの案内を受ける直進案内部11aを構成する部位であり、被挟持部31を含む補助案内部材15の大部分は直線溝4a内に配置されるため、スペース効率に優れた構造で先に述べた効果を得ることができる。
先に述べたように、リード溝60に対する被案内部40の光軸方向のクリアランスよりも、リード溝60に対する付勢突起50の光軸方向のクリアランスの方が大きく、被案内部40の上面43とリード溝60の底面63との間のクリアランスよりも、付勢突起50の上面53とリード溝60の底面63との間のクリアランスの方が大きい。別言すれば、リード溝60内での被案内部40の断面積よりも付勢突起50の断面積の方が小さい。そのため、リード溝60への挿入時に付勢突起50が被案内部40の挿入の妨げになることがない。
また、補助案内部材15のうち、ガイドビス16による支持位置から離れた位置にある被挟持部31の先端の付勢突起50付近に対しては、光軸Oを中心とする径方向に変位させるような力が加わる可能性がある。また、部品の精度誤差によって、被挟持部31上の付勢突起50が、設計上の位置よりも外径方向(薄肉部39を段部23から離間させる方向)に突出する(あおりが生じた状態になる)可能性もある。しかし、外径方向への多少の移動や位置ずれが付勢突起50に生じた場合でも、被案内部40よりも小型の断面形状に設定されている付勢突起50は、リード溝60のリード面62以外の面には当接せず、リード溝60への干渉(食いつき等)を生じさせることがない。よって、先に述べた被挟持部31に対する回転方向の位置規制を行うだけで、第一レンズ枠11の動作の安定性と円滑性について十分な効果を得られる。
以上のように、本実施形態のレンズ鏡筒2は、バックラッシュ除去用の補助案内部材15の安定性が高く動作精度に優れる回転進退機構を備えている。但し、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態と異なる構成にすることも可能である。
上記実施の形態では、被案内部40と付勢突起50が、リード溝60のリード面61と平行なリード面41,51や、リード面62と平行なリード面42,52を備えており、被案内部40と付勢突起50がいずれもリード溝60に対して面接触する構成になっている。これと異なり、リード溝60のリード面61,62に相当する案内面に対して、線接触や点接触で当接する構成を用いることも可能である。一例として、図9から図11に表れている被案内部40や付勢突起50の断面形状を基準とした回転対称体を形成することにより、円錐状の外面を有する突起になる。この形態の突起は、円錐の母線に沿う線状の領域がリード溝60のリード面61やリード面62に対して接触する。また、移動する部位の質量が小さくリード面61やリード面62に打痕が発生するおそれがない場合には、被案内部40や付勢突起50の形状を球体状に変更することにより、リード溝60のリード面61やリード面62に対して点接触する形態にすることも可能である。
但し、点接触のように狭い領域で当接させると、狭い接触範囲に負荷が集中しやすくなる。これに対して、上記実施の形態の被案内部40と付勢突起50のように、リード面61,62と面接触する構成であると、強い外力が加わった場合にリード溝60側に打痕等を形成してしまうリスクを抑えることができる。
また、上記実施の形態における付勢突起50は、リード溝60のリード面62に対する結像面側のリード面52の面精度が確保されていれば所要の効果を得ることができるので、物体側の形状については、リード溝60のリード面61に沿う形状(すなわちリード面51)以外の形状を選択してもよい。例えば、付勢突起50の物体側の面を、光軸Oに対して垂直な立壁状の平面等に変更することも可能である。
上記実施の形態は、回転進退の案内を行う案内面として、リード環5の回転軸(光軸O)に対して一定の傾きで螺旋状に形成されるリード溝に適用したものである。本発明は、この種のリード溝以外にも、回転軸に対する傾きが一定ではない案内面を有するカム溝を用いるタイプの回転進退機構に適用することも可能である。カム溝を用いる回転進退機構に適用する場合、上記実施形態の被案内部40や付勢突起50のようにリード面を案内面に対して面接触させる構成に代えて、案内面に対して線接触や点接触する形態の突起(被案内部、付勢突起)を用いるとよい。また、カム溝の導入部分(開口部分)については、回転軸に対する傾きが一定のリード溝で形成することが好ましい。これにより、組み立て時にカム溝内に被案内部や付勢突起を挿入させやすくなる。
また、リード溝とカム溝のいずれを用いる場合でも、その数や配置は任意に選択することができる。例えば、上記実施の形態では、周方向位置の異なる3つのリード溝60を設けることで、第一レンズ枠11の安定した支持と精度の高い進退動作を実現させているが、3つ以外の数のリード溝を備えた構成にすることもできる。例えば、レンズ鏡筒2では、第一レンズ枠11の基本的な支持は直進案内環4によって行われているため、少なくとも1つのリード溝60とこれに対応する被案内部40及び付勢突起50があれば、第一レンズ枠11に光軸方向の移動を行われることが可能である。
上記実施の形態では、一対の挟持部24上に一対の被案内部40を設け、一対の被案内部40の間に付勢突起50を配しているが、一対の挟持部24のいずれか一方のみに被案内部40を設け、1つの被案内部40と1つの付勢突起50が回転方向に並ぶ2連の突起構造を採用することも可能である。
上記実施の形態では、圧縮バネである付勢バネ17によってバックラッシュ除去用の付勢力を与えているが、圧縮バネ以外の付勢部材を用いることも可能である。例えば、バネの種類としては、引張バネや板バネ等を用いてもよい。さらにバネに限らず、ゴム等の弾性体を用いることも可能である。すなわち、必要な力量を確保できることを前提として、各種の弾性部材をバックラッシュ除去用の付勢部材として適用可能である。
上記実施の形態では、補助案内部材15に設けたバネ室33内に付勢バネ17を配置しているが、第一レンズ枠11にバネ室を設けて付勢バネ17を収容してもよい。
本発明を適用するレンズ鏡筒の細部構造は、上記実施の形態とは異なっていてもよい。例えば、撮影光学系におけるレンズ群の数は3つ以外でもよい。また、回転進退機構によって行わせる動作は、上記実施の形態のようなフォーカシングに限られるものではなく、ズーミング等にも用いることができる。また、上記実施の形態では、光学要素(第一レンズ群6)を直接的に支持する第一レンズ枠11に被案内部40を備えているが、被案内部を備える部材は、光学要素を間接的に支持するものであってもよい。
上記実施の形態のレンズ鏡筒2は、レンズ交換式のカメラシステムを構成するものであるが、カメラ本体に対して着脱されないタイプのカメラにおけるレンズ鏡筒等にも、本発明は適用可能である。
また、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態や変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
また、本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。