JP6782621B2 - 自動車用部材 - Google Patents

自動車用部材 Download PDF

Info

Publication number
JP6782621B2
JP6782621B2 JP2016239625A JP2016239625A JP6782621B2 JP 6782621 B2 JP6782621 B2 JP 6782621B2 JP 2016239625 A JP2016239625 A JP 2016239625A JP 2016239625 A JP2016239625 A JP 2016239625A JP 6782621 B2 JP6782621 B2 JP 6782621B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
plating
stainless steel
chemical conversion
gap
metal fitting
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2016239625A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2017115872A (ja
Inventor
裕史 浦島
裕史 浦島
利男 田上
利男 田上
井上 宜治
宜治 井上
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Stainless Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Stainless Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Stainless Steel Corp filed Critical Nippon Steel Stainless Steel Corp
Publication of JP2017115872A publication Critical patent/JP2017115872A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6782621B2 publication Critical patent/JP6782621B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Cooling, Air Intake And Gas Exhaust, And Fuel Tank Arrangements In Propulsion Units (AREA)
  • Fuel-Injection Apparatus (AREA)
  • Chemical Treatment Of Metals (AREA)
  • Other Surface Treatments For Metallic Materials (AREA)

Description

本発明は、自動車用部材に関する。特に、現用のSUS436Lより廉価な素材より成り、かつ現用材相当の耐食性を確保した自動車用部材に関する。
自動車用部材である自動車用の給油管には、米国の法規制で15年間もしくは15万マイル走行の寿命保証が義務付けられており、ステンレス鋼(SUS436L:17Cr−1.2Mo)を素材とした給油管が既に実用化されている。
北米や欧州地区を走行する自動車は融雪塩環境に曝されるので給油管に適用される素材には優れた塩害耐食性が求められ、従来SUS436Lが適用されてきたが、昨今の資源価格高騰を背景として素材コスト低減の要求が生じてきている。SUS436Lは高価なMoを1%程度含有しているので、SUS436LからMoを含まないAISI439鋼(17Cr)に代替するだけでも大きなコスト低減効果が得られる。また、北米や欧州地域以外の地域、例えばインド、中国、中南米など、においては、北米や欧州並みの塩害耐食性は必要なくSUS436Lでは過剰品質であり、より低級の廉価素材が求められるようになってきている。
しかしながら、廉価性を追求するあまり過度に合金元素を削減すれば耐食性劣化を招来する。そこで、素材の低級化による弱点を別の方法で補う技術が重要となる。
給油管における腐食懸念部位は、塩害環境に曝される給油管外面側の隙間部に発生する隙間腐食である。従来、隙間部の塩害耐食性を向上させる手段としてカチオン電着塗装などの塗装が用いられてきた。
例えば、特許文献1では、SUS436パイプを素材としてプロジェクション溶接を用いて組み立てた給油管にカチオン電着塗装を施す製造方法が開示されている。しかしながら、この技術ではSUS436を素材としたものであり、発明者らの知見によればSUS436においても防錆が完全とはいえない。従って、より低級な素材を用いた場合に、この技術で充分な防錆効果が得られるとは推認できない。
また、特許文献2では、SUS436を素材として組み立てた給油管に静電塗装を施して隙間腐食を防止する技術が開示されている。あるいは、特許文献3では、ステンレス鋼製給油管に耐チップ塗装を施し、チッピングを受けても十分な防錆性を確保する技術が示されている。しかしながら、これらの技術は電着塗装の場合よりも塗装コストがかかる。一方、隙間内部には塗装できないため、隙間部の十分な防錆効果が得られる保証はない。
特許文献4では、隙間内部を電着塗装で被覆するために、隙間形成部品に突起をつけ、隙間の開口量を0.2mm以上に制御する技術が開示されている。
特許文献5では、ステンレス鋼製給油管の組み立てにおける溶接、ロウ付け、塑性加工などによって不働態皮膜が損なわれた部位や隙間部位に亜鉛の犠牲陽極を配して犠牲防食する技術が開示されている。しかしながら、腐食懸念部位の全てに亜鉛を配するのは煩雑であるし手間がかかる。また、非特許文献1に示されるように亜鉛は塩害環境で消耗し易いので必要量が嵩むとの問題がある。さらに、特許文献6には、インレットパイプに亜鉛めっき鋼板を用い、隙間部を溶融させた亜鉛で埋めることで、隙間部を無くしている。しかしながら、前述のように亜鉛は耐塩害環境において消耗が激しい上に、給油口がインレットパイプの中に入り込んでいる構造上、溶解した亜鉛はインレットパイプ内に侵入しやすく、水分と反応することで、水酸化亜鉛等の腐食生成物を形成し、燃料噴射装置の目詰まりの原因となる可能性がある。
特許文献7には、Alめっきステンレス鋼板による犠牲防食とカチオン電着塗装の組み合わせにより、隙間腐食を防止する技術が開示されている。
めっき鋼板の表面に塗装前処理として化成処理皮膜を形成する方法として、特許文献8にSnとZnで構成されためっき上にクロメート処理を施すことで塗装密着性の改善を図っている。3価のCrであるが、環境汚染の恐れがある。特許文献9にZnめっきステンレスのカチオン電着塗装の前処理としてリン酸亜鉛処理を施している。特許文献10には、クロムめっき層の外層に水和クロム酸化物層を有する自動車燃料タンク用の表面処理ステンレス鋼板が開示されている。
特開2002−242779号公報 特開2004−21003号公報 特開2006−231207号公報 特開2012−12005号公報 特開2005−206064号公報 特開2012−96570号公報 国際公開WO15/037707号 国際公開WO08/062650号 特開2003−277992号公報 特開2010−280981号公報
橘高敏晴:表面技術、Vol.42(1991), No.2, 169−177 大武 義人:日本ゴム協会誌、Vol.81(2008), No.9, 376−382 真木 純:表面技術、Vol.62(2011), No.1, 20−24
特許文献7に記載の発明によって、SUS436Lより低級な素材を用いることを前提とし、隙間部の開口量にかかわらず、隙間構造部における耐食性を確保して、ステンレス鋼の弱点である塩害耐食性、特に隙間部における耐食性を確保することが可能となった。一方、特許文献7に記載の自動車用部材あるいは自動車燃料給油管の使用を継続したところ、隙間部における耐食性は確保できたものの、Alめっき鋼板からなる金具部品のカチオン電着塗膜表面に膨れが発生することがあった。めっき種が、Alめっき以外の、Znめっき、Zn−Al−Mgめっき、Zn−Niめっき、Sn−Znめっきでも同様であった。
本発明では、フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材とめっきステンレス鋼板を素材とする金具部品からなる自動車用部材であって、部材と金具部品との間に隙間構造部を有し、隙間構造部以外の最表面にカチオン電着塗膜を有するものにおいて、隙間部における耐食性を確保しつつ、金具部品のカチオン電着塗膜表面に生ずる膨れを防止することのできる自動車用部材を提供することを目的とする。
フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材とめっき鋼板を素材とする金具部品からなる、特許文献7に記載の自動車用部材において、めっき鋼板から成型された金具部品を溶接あるいはロウ付けによって部材に取り付け、部材と金具部品との間において隙間構造部を形成している。部材に金具部品が取り付けられた状態でカチオン電着塗装を行い、金具部品および部材の隙間構造部以外の最表面にカチオン電着塗膜を形成している。
前述のとおり、このような自動車用部材(例えば給油管)の使用を継続したところ、隙間部における耐食性は確保できたものの、めっき鋼板からなる金具部品のカチオン電着塗膜表面に膨れが発生することがあった。膨れは、部品端面などの塗装非定常部での腐食が起点となり、めっきの腐食の進行と共に膨れが拡大していくと推定される。したがって、めっき素材の耐食性およびめっき種が重要な要素となる。
金属の表面に、カチオン電着塗装の前に化成処理皮膜を形成することにより、その後に形成するカチオン電着塗膜の塗装密着性を向上させ、膨れの進展を抑制することができる。例えば、金属表面に化成処理皮膜としてリン酸塩皮膜を形成するに際し、酸性リン酸塩水溶液(化成処理液)中に金属を浸漬すると、金属表面から金属が溶解する一方で化成処理液と金属との界面のpHが上昇し、金属表面にリン酸塩結晶が析出して化成処理皮膜となる。
フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材と、例えばAlめっきステンレス鋼板を素材とする金具部品とを、溶接あるいはロウ付けまたはかしめによって接合した後、化成処理液に浸漬して化成処理皮膜を形成しようとすると、金属の溶解は金具部品のAlめっき表面からのAlの溶解として発生するものの、化成処理皮膜はフェライト系ステンレス鋼を素材とした部材の表面に形成されることとなり、金具部品のAlめっき表面に化成処理膜を形成することができなかった。それに対して、化成処理液の液組成を調整することにより、金具部品のAlめっき表面に化成処理膜を形成することが可能となった。
本発明は上記知見に基づいて構成したものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜24.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.080%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%を含有し、更に、Ti:0.03〜0.30%、Nb:0.03〜0.30%の一方又は両方を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とした部材と、めっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のめっきステンレス鋼板を素材とする金具部品から成る自動車用部材において、
前記部材と前記金具部品との間に隙間構造部を有し、前記金具部品および部材の隙間構造部以外の最表面に厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜を有し、金具部品のめっき層とカチオン電着塗膜との間に化成処理皮膜を有し、前記化成処理皮膜が、付着量1g/m 2 以上のリン酸塩もしくは付着量2mg/m 2 以上のジルコニウム酸化物を含有することを特徴とする自動車用部材。
(2)前記部材は、質量%でさらに、下記a群〜c群の1群または2群以上に属する成分を含有することを特徴とする上記(1)に記載の自動車用部材。
a群:B:0.0002〜0.0050%
b群:Mo:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sn:0.01〜0.50%の1種または2種以上
c群:Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%の1種または2種以上
(3)前記めっきが犠牲防食型めっきであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の自動車用部材。
(4)前記犠牲防食型めっきがAl、Zn、Zn−Al−Mg、Sn−ZnもしくはNi−Znめっきの何れかであることを特徴とする上記(3)に記載の自動車用部材。
(5)前記金具部品の素材の組成が、前記部材と同一組成範囲であることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかひとつに記載の自動車用部材
(6)前記フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材が鋼管であることを特徴とする上記(1)乃至()のいずれかひとつに記載の自動車用部
(7)質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜24.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.080%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%を含有し、更に、Ti:0.03〜0.30%、Nb:0.03〜0.30%の一方又は両方を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とした部材と、めっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のめっきステンレス鋼板を素材とする金具部品から成る自動車用部材において、
前記部材と前記金具部品との間に隙間構造部を有し、前記金具部品および部材の隙間構造部以外の最表面に厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜を有し、金具部品のめっき層とカチオン電着塗膜との間に化成処理皮膜を有し、
前記金具部品において、前記めっき層にクラック部もしくはめっき層剥離部が存在し、化成処理皮膜は付着量1g/m 2 以上のリン酸塩であり、クラック部の一部およびめっき剥離部の一部に化成処理皮膜が形成されていることを特徴とする自動車用部材。
)前記部材は、質量%でさらに、下記a群〜c群の1群または2群以上に属する成分を含有することを特徴とする上記()に記載の自動車用部材。
a群:B:0.0002〜0.0050%
b群:Mo:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sn:0.01〜0.50%の1種または2種以上
c群:Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%の1種または2種以上
)前記めっきが犠牲防食型めっきであることを特徴とする上記()または()に記載の自動車用部材。
10)前記犠牲防食型めっきがAl、Zn、Zn−Al−Mg、Sn−ZnもしくはNi−Znめっきの何れかであることを特徴とする上記()に記載の自動車用部材。
11)前記金具部品の素材の組成が、前記部材と同一組成範囲であることを特徴とする上記()乃至(10)のいずれかひとつに記載の自動車用部材。
12)前記フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材が鋼管であることを特徴とする上記()乃至(11)のいずれかひとつに記載の自動車用部材
本発明は、フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材とめっきステンレス鋼板を素材とする金具部品からなる自動車用部材であって、部材と金具部品との間に隙間構造部を有し、隙間構造部以外の最表面にカチオン電着塗膜を有するものにおいて、金具部品のめっき層とカチオン電着塗膜との間に化成処理皮膜を有することにより、隙間部における耐食性を確保しつつ、金具部品のカチオン電着塗膜表面に生ずる膨れを防止することが可能となる。
給油管の中央部に存在する隙間部の隙間構造例を示した図であり、(A)は斜視図、(B)は部分断面図である。 給油管の給油口部に存在する隙間部の隙間構造例を示した図であり、(A)は斜視図、(B)は断面図である。 化成処理付着量が塗装の密着性に及ぼす影響を示す図であり、(A)は化成処理種a、(B)は化成処理種bを用いた例である。 隙間試験片大板のめっき付着量と隙間試験片の電着塗装厚みが隙間腐食深さに及ぼす影響を示す図である。 構造の検討に使用した試験片形状を示す図である。 塗装密着性におよぼす加工度の影響の検討に使用した試験片形状を示す図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の自動車用部材の一部を構成する「部材」とは、その内面が燃料環境に曝され外面が塩害環境に曝される部材の総称である。当該部材のうちで鋼管を成型したパイプ形状の部材を鋼管部材と称し、メインパイプ、ブリーザー、燃料配管などの部材が含まれる。メインパイプはインレットパイプとも呼ばれ、給油口から燃料タンクへ燃料を導入するパイプである。また、金具部品とは、塩害環境のみに曝され、部材あるいは鋼管部材との間に隙間部を構成する部品の総称であり、配管支持部材や例えばステー、ブラケットと称される金具やキャッププロテクターやリテーナーと称される部材などが含まれる。
本発明の自動車用部材あるいはその代表例である給油管には、例えば図1、図2に示すような隙間部が含まれる。図1は給油管の中央部を示す事例であり、図1(A)はメインパイプ1a(鋼管部材1)とブリーザーチューブ1b(鋼管部材1)を結束して車体に固定するための金具部品2が溶接によって溶接部4で取り付けられている様子を示す斜視概念図であり、図1(B)はメインパイプ1aへの金具部品2取り付け部分の断面模式図である。いずれも、金具部品2と鋼管部材1であるメインパイプ1aあるいはブリーザーチューブ1bの溶接部4近傍に隙間部3が形成されている様子を示す。また、図2は給油管の給油口部を示す事例であり、ここではメインパイプをインレットパイプと呼ぶ。図2(A)はインレットパイプ11(鋼管部材11)にキャッププロテクター12(金具部品12)が溶接によって溶接部14で取り付けられている様子を示す斜視概念図であり、図2(B)はインレットパイプ11への金具部品12取り付け部分の断面模式図である。いずれも、金具部品12と鋼管部材11であるインレットパイプ11の溶接部14近傍に隙間部13が形成されている様子を示す。隙間部3や隙間部13を含む部分を本発明では隙間構造部とよぶ。
このような隙間部の隙間内部に、塩水が充填されて乾湿サイクルが付与されると隙間腐食が発生し、成長して鋼管部材を穴明きに至らしめる。これを防止するには隙間腐食の成長を抑制することもさることながら、隙間腐食の発生自体を抑制するのが重要であり、このための手段として犠牲防食を用いるのが常套である。
犠牲防食用の犠牲陽極としてはZnが一般的である。これに比べてAlを犠牲陽極として用いることとすれば、塩害環境においてZnに比較して消耗が少なく発生電気量が大きい点や溶融めっきによって鋼板に付着させて用いることができるため強度部材としても機能させ得る点が有用である。
塩害環境にさらされる給油管には、表面にカチオン電着塗装(以下、電着塗装)が施される。この電着塗装の下地処理皮膜として化成処理皮膜を形成することが一般的である。化成処理皮膜は電着塗装の密着性、耐食性向上のために付与される。通常の工程の組み立てた後に化成処理をすることを考慮すると、隙間部の奥の方まで化成処理液を浸透させるために、処理液に浸漬させる手法が望ましい。化成処理皮膜形成の機構は、化成処理液との反応で金属の表面を腐食させ、その対反応として表面のpHが上昇すると、化成処理皮膜成分の溶解度が下がるため、金属表面に不溶性の皮膜が析出する。めっき種がAlの場合、Al表面に存在する耐食性のある皮膜を破壊するために、化成処理液にはフッ素イオンが添加されている。また、処理液のpHは3〜5であり、ステンレスが腐食しないpHであることからステンレスに化成処理皮膜の形成が期待できない。
さらに、本発明のようなステンレス鋼板とめっきステンレス鋼板の組み合わせの場合、化成処理の機構はより複雑になる。2種類以上の金属が電気的に接合している場合、混成電位により化成処理性が左右される。混成電位とは2種以上の金属が電気的に接合している場合の浸漬電位のことであり、溶液組成、二種類の金属の表面積比、二種類の金属の組み合わせで変化する。例えば、めっきステンレス鋼板がAlめっきステンレス鋼板である場合、犠牲防食のメカニズムと同様に混成電位は、より卑なAlの浸漬電位とより貴なステンレスの浸漬電位との間に位置することになる。したがって、Al単独の浸漬電位よりも貴な方向に電位が分極されているめっき表面では腐食反応が生じ、ステンレス単独の浸漬電位よりも卑な方向に電位が分極されているステンレスの表面に、pHの上昇が生じることになると考えられる。したがって、既存の理論を組み合わせると、化成処理皮膜形成に重要なpHの上昇反応はめっき上で生じず、めっき面の上に化成処理皮膜を形成させるのは難しいと考えられていた。
以上説明したように、ステンレス鋼板とめっきステンレス鋼板を接合した部材を化成処理液に浸漬して、めっきステンレス鋼板表面に化成処理皮膜を形成しようとしても、めっきステンレス鋼板表面には化成処理皮膜が形成できないと考えられていた。
ステンレス鋼製部材とめっき鋼製金具部品を結合する前に、あらかじめめっき表面に化成処理皮膜を形成した金具部品をステンレス鋼製部材に取り付けることは難しい。即ち、金具部品の溶接すべき表面に化成処理皮膜が形成されているため、溶接性が悪くなると考えられる。そのため、化成処理皮膜形成は、ステンレス鋼製部材とめっき鋼製金具部品を結合した後に行う必要がある。また、化成処理皮膜は無機物で加工性が悪く、かしめにより化成処理皮膜が損傷するため、かしめ後に化成処理を実施する必要がある。その結果、ステンレス鋼製部材とめっき鋼製金具部品を結合した溶接部、ろう付け部あるいはかしめ部の表面には、化成処理皮膜が観察される。本発明では、さまざまな犠牲防食効果を持つ材料の中で、化成処理性という観点からステンレスと相性の良いめっきの組み合わせを探索した。
そこでまず、鋼管部材に相当するステンレス鋼板と各種材料を素材とした試験片を作製して、主にめっき面における塗装の密着性におよぼす化成処理方法および材料の組み合わせを調査した。
試験片は、t0.8×70×150mmサイズの大板にt0.8×40×40mmサイズの小板を重ねて中央部をスポット溶接して作製した。小板は、鋼管部材に相当するものであり、フェライト系ステンレス鋼板を用いた。小板は表1記載の本発明例E23の含有成分を使用した。大板は、金具部品に相当するものであり、めっき付着量を変化させためっきステンレス鋼板を用いた。大板は表2記載のE25の含有成分の鋼板に、表3に示すように、種々のめっき種・めっき付着量のめっきを施したものを使用した。大板と小板との対面部分が隙間部を構成する。
大板(金具部品)と小板(部材)とをスポット溶接して形成した隙間試験片には、まず化成処理を行い、次いでカチオン電着塗装を施した。塗装の膨れが生じやすい端面を模擬するため、大板(金具部品)の隙間部以外の一般部にカッターで×字にキズをつけ、大板(金具部品)の現実の端面はシールテープで保護し、その後に塗装密着性の評価を目的とする塩害腐食試験に供した。
化成処理は、リン酸塩(化成処理種a)および酸化ジルコニウム(化成処理種b)を使用し、浸漬時間を変化させ、付着量を変化させた。具体的には、化成処理種aのリン酸塩処理材として、リン酸亜鉛(日本パーカーライジング製PB−AX35、フッ素含有)を用いた。処理は、アルカリ脱脂→水洗→表面調整→化成処理→水洗→純水洗→水切乾燥を実施した。表3の比較例101では、大板(金具部品)のめっき種がAlめっきである場合について、フッ素を含有しない化成処理液を用いた。化成処理種bのジルコニウム系処理材は、酸化ジルコニウム(日本パーカーライジング製PLC−2010、フッ素含有)を用いた。処理工程は、アルカリ脱脂→水洗→化成処理→水洗→純水洗→水切乾燥を実施した。化成処理皮膜の付着量については、蛍光X線解析によりPもしくはZr量を測定し、リン酸亜鉛および酸化ジルコニウムに換算し、評価結果を表3に示した。
また、カチオン電着塗装は、塗料は日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部(大板表面と小板表面のうち、隙間部以外の部分)において20μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。
これら隙間試験片の塗装密着性を評価するための塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は100サイクルとした。試験終了後、×字のキズ部を挟んだ両側の膨れ幅の合計値を計測し、10mm以上を塗装密着性不良として不合格(×)とし、それ以外を「○」とした。
Figure 0006782621
Figure 0006782621
Figure 0006782621
Figure 0006782621
Figure 0006782621
試験水準と試験結果を表3に示し、化成処理種で整理した結果を図3に示す。塗装密着性が不合格であった例はいずれも、大板(金具部品)のめっき面の×字部において10mm以上の塗装密着性不良が見られた。これより、めっき種に関わらず、一定の付着量以上であればリン酸塩および酸化ジルコニウムによる化成処理が塗装密着性改善に有効であることが分かる。
前述のように、従来は、ステンレス鋼板とめっきステンレス鋼板を接合した部材を化成処理液に浸漬して、めっきステンレス鋼板表面に化成処理皮膜を形成しようとしても、めっきステンレス鋼板表面には化成処理皮膜が形成できないと考えられていた。それに対して本発明において化成処理が成功してめっき面の塗装密着性が向上したのは、化成処理液中において、フッ素イオンや添加元素の二次的効果により、めっきの腐食速度が大幅に増加した結果、混成電位がめっき種単体の浸漬電位に近付いたためであると考えられる。
また、表3に示す結果から、めっき面の塗装密着性を改善するための化成処理皮膜膜厚好適範囲が明らかになった。即ち、化成処理膜がリン酸塩である場合は付着量がリン酸塩換算で1g/m2以上、化成処理膜が酸化ジルコニウムである場合は付着量が2mg/m2以上であることにより、めっき面の塗装密着性を改善することができる。なお、金具部品のめっき層とカチオン電着塗膜との間に化成処理皮膜を有する点については、断面観察サンプルを作製し、EPMA(Electron Probe Micro Analyser)により、PやZrなど化成処理皮膜の構成元素の分析を行うことで、化成処理皮膜の存在の有無を確認することができる。
つぎに、鋼管部材に相当する鋼板と種々のめっきステンレス鋼板を素材とした隙間試験片を作製して、隙間部における塩害耐食性、及び一般部(大板表面と小板表面のうち、隙間部以外の部分)における塗装密着性を調査した。
隙間試験片は、t0.8×70×150mmサイズの大板にt0.8×40×40mmサイズの小板を重ねて中央部をスポット溶接して作製した。小板は、鋼管部材に相当するものであり、フェライト系ステンレス鋼板を用いた。大板は、金具部品に相当するものであり、めっき種とめっき付着量を変化させためっきステンレス鋼板を用いた。めっき種として、Alめっき、Znめっき、Zn−Al−Mgめっき、Zn−Niめっき、Sn−Znめっきを用いた。
大板(金具部品)と小板(部材)とをスポット溶接して形成した隙間試験片には、まず化成処理を行い、次いでカチオン電着塗装を施し、塗装の膨れが生じやすい端面を模擬するため、大板(金具部品)の隙間部以外の一般部にカッターで×字にキズをつけ、大板(金具部品)の現実の端面をシールテープで保護し、その後に塩害腐食試験に供した。
化成処理は、リン酸塩(化成処理種a)を使用し、浸漬時間を変化させ、本発明の好適範囲内で付着量を変化させた。化成処理の具体的詳細は、前記表3に示す試験と同様とした。
カチオン電着塗装において、塗料は日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部(大板表面と小板表面のうち、隙間部以外の部分)において2〜40μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。なお、一部の試験片について電着塗装後に溶接ナゲットを穿孔して隙間部の内部を観察し、隙間部の内部に塗膜が形成されないことを確認した。
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は300サイクルまでとした。100サイクル終了後、×字のキズ部を挟んだ両側の膨れ幅の合計値を計測し、10mm以上を塗装密着性不良として不合格(×)とし、それ以外を「○」とした。また、300サイクル終了後、小板(部材)の隙間部内部の腐食深さを顕微鏡焦点深度法によって測定した。1試験片あたり10点の測定を行い、その最大値をサンプルの代表値(最大腐食深さ)とした。最大腐食深さが400μm(板厚の1/2)未満を合格(○)とし、それ以外を不合格(×)とした。
最大腐食深さの合否について、めっきの付着量と電着塗装厚みで整理した結果を図4に示す。これより、大板(金具部品)のめっきステンレス鋼板のめっきの犠牲防食効果によって隙間腐食が大幅に抑制できる。一方、満足すべき効果が得られるには、めっきの付着量と、カチオン電着塗膜の厚みが適正でなければならないことがわかる。すなわち、犠牲防食効果を長期にわたって維持するにはめっきの絶対量が多いほど有利であり、これを維持するには初期の絶対量の多寡と消耗を軽減する対策が必要となる。図4は、化成処理の付着量に関わらず、初期の絶対量はめっき付着量で管理でき、めっき消耗軽減は一般部のカチオン電着塗膜厚みで制御できることを示唆している。図4の結果より、めっき種によらず、めっき付着量は20g/m2以上であれば好適な結果が得られる。また、カチオン電着塗膜厚みは5μm以上が必要であると言える。めっき付着量、カチオン電着塗膜厚みは多いほど望ましいことは自明であるが、廉価性に配慮すれば、めっき付着量は150g/m2を上限とし、カチオン電着塗膜厚みは35μmを上限とするのが順当である。ここにおいて、小板(部材)の表面のうち大板(金具部品)と対面する面(隙間部)については、隙間であるためにカチオン電着塗膜が形成されずにめっき面が露出しており、この部分の表面めっきが犠牲防食に寄与している。
このように、本発明における金具部品としては犠牲防食型めっきステンレス鋼板を素材とするものであり、隙間部に当たる面における犠牲防食型めっき付着量が20g/m2以上を必要とする。めっき付着量がこれを下回ると満足すべき耐食性が得られないためである。一方、めっき付着量が多くなれば耐食寿命は延長されるが、寿命延長はカチオン電着塗膜による隙間以外の面を被覆することによってある程度確保可能であり、コストも考慮して150g/m2をめっき付着量の上限とする。犠牲防食型めっきのめっき種としては、Alめっきが好適であり、その他、Znめっき、Zn−Al−Mgめっき、Zn−Niめっき、Sn−Znめっきを用いることができる。ここにおいて、「隙間部に当たる面」とは、金具部品が部材又は鋼管部材と接近又は当接して隙間部を構成する面を意味する。
Alめっきステンレス鋼板は、溶融めっき法によって製造されたものを用いることができる。Alめっきステンレスは、純Al浴を用いて製造されるTypeIIよりも、Al−5〜15%Si浴を用いて製造されるTypeIを使用することが望ましい。これは、TypeIの方がTypeIIよりもめっき層とステンレス母地との界面に存在する合金層の厚みが薄く、成型加工時にめっき層の剥離が生じにくいためである。このようなTypeIのAlめっき層には、非特許文献3で示すように、通常約10mass%のSiと約1mass%のAl−Fe−Si金属間化合物が含まれている。
Znめっき、Zn−Al−Mgめっき、Sn−Znめっきは溶融めっき法で製造され、Zn−Niめっきは電気めっき法で製造される。代表成分はそれぞれ、Zn−Al−Mgめっきは成分がZn−6%Al−3%Mg、Sn−ZnめっきはSn−7%Zn、Zn−NiめっきはZn−13%Niである。めっき成分はそれぞれ±1〜2%の組成範囲を有している。
金具部品のめっき素材は端面からの腐食を考慮すると、ステンレス鋼でなければならない。
部材、鋼管部材と金具部品の表面のうち、少なくとも隙間部の隙間内部以外の面(一般部)には、化成処理皮膜とその上にカチオン電着塗膜を形成させる。また、少なくとも金具部品の一般部については、めっき層とカチオン電着塗膜との間に化成処理皮膜を有する。一般部の電着塗膜はめっきの防食電流の到達領域を隙間部に限定する効果がある。これによってめっきの消耗速度を抑制し防食寿命が延長できる。このためのカチオン電着塗膜の膜厚は5μm以上が必要である。一方、膜厚は厚過ぎても効果は飽和するので35μmを上限とするのが良い。なお、部材、鋼管部材、金具部品の隙間部の面にカチオン電着塗膜が形成されるか否かは、隙間部の開口量によって異なることとなる。隙間部の開口量が、電着塗膜が十分に形成される程度に広い場合(0.2mm以上)は、部材、鋼管部材の隙間内部に電着塗膜が形成されているので、隙間腐食発生を防ぐことができる。一方、隙間部の開口量が小さく隙間部に当たる面に電着塗膜が形成されない場合、従来であると部材、鋼管部材のこの部分に隙間腐食が発生していたが、本発明においては、金具部品の隙間内部部分はめっきされており、金具部品のこの部分に電着塗膜が形成されていないためめっき面が露出しており、めっきによる犠牲防食効果を発揮することができる。
さらに、給油口部材に適用した時に懸念されるAl成分のインレットパイプ内への流入を防止するためにAlめっきステンレス鋼板製金具部品の取り付け構造の検討を実施した。試験片は、図5に示すようにインレットパイプを模擬したフェライト系ステンレス製鋼管21の外面および内面に金具部品を模擬したAlめっきステンレス製鋼管22を4点のスポット溶接部24により隙間部23を形成したものを用いた。フェライト系ステンレス製鋼管21は成分として表1のNo.E23を用い、形状はφ50×50L×0.8tmmである。Alめっきステンレス製鋼管22として表2のNo.E25を用い、Alめっき付着量は49g/cm2とした。Alめっきステンレス製鋼管22の形状は、図5(A)の構造Iのように、フェライト系ステンレス製鋼管21の外面にAlめっきステンレス製鋼管22を溶接する場合はφ52×50L×0.8tmmとし、図5(B)の構造IIのように、フェライト系ステンレス製鋼管21の内面にAlめっきステンレス製鋼管22を溶接する場合はφ48×50L×0.8tmmとした。Alめっきステンレス製鋼管22を取り付けるための溶接部24位置(取り付け位置)をフェライト系ステンレス製鋼管21の端部から0〜20mmに変化させた。
試験片にはカチオン電着塗装を施した。カチオン電着塗装において、塗料は日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部(フェライト系ステンレス製鋼管21表面とAlめっきステンレス製鋼管22表面のうち、隙間部23以外の部分)において30μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。なお、一部の試験片について電着塗装後に溶接ナゲットを穿孔して隙間部の内部を観察し、隙間部の内部に塗膜が形成されないことを確認した。
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、上記と同様JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は500サイクルとした。インレットパイプ内へ流入するAl成分による燃料噴射装置の目詰まりは、重大なトラブルになり易いため、より安全を考え、腐食の調査よりも長期サイクルの試験とした。なお、試験中は図5に示すように鋼管の上下2カ所にシリコン栓25でふたをし、溶出したAlの液がフェライト系ステンレス鋼管21内部へ自然に流入しないようにした。
試験終了後、フェライト系ステンレス鋼管21内部へのAl腐食生成物の侵入の有無を評価した。
Figure 0006782621
試験結果を表4に示す。いずれも腐食による穴あきは見られなかったが、構造IIでは消耗したAlめっき部からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。さらに、構造Iかつ取り付け位置が5mm未満の場合、鋼管の端面が腐食し、端部とシリコン栓との隙間からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。したがって、構造Iかつ取り付け位置がフェライト系ステンレス鋼管から5mm以上の場合、フェライト系ステンレス鋼管にAl腐食生成物が侵入しないことが分かる。
以上、まとめると、フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材と、部材に取り付けられるAlめっきステンレス鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を有し、隙間構造部の隙間部に当たる面における金具部品のAlめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下であり、少なくとも隙間部以外の部材および金具部品の表面が厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜で被覆されていることを特徴とする自動車用部材とすることにより、隙間部の開口量のいかんに関わらず、隙間腐食を有効に防止することを可能にする。部材と金具部品との取り付けについては、両者が相互に電気伝導性を有する程度に固着していれば足りる。さらに、本発明を給油口部に適用する場合は、インレットパイプ(鋼管部材)の外面かつ端面から5mm以上離れた位置に金具部品を溶接すると好ましい。これにより、インレットパイプ内にAl腐食生成物の侵入を防止できるという効果をも発揮することができる。
次に、上記本発明の自動車用部材の製造方法について説明する。まず、フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材へ、めっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のめっきステンレス鋼板から成型された金具部品を取り付ける。部材と金具部品との取り付けを溶接あるいはロウ付けによって行うと好ましい。部材と金具部品との取り付け部近傍には隙間部が形成される。この隙間部は塩害環境に曝される場所に位置する。また、隙間部を含む部分を隙間構造部という。これにより、部材に取り付けられるめっきステンレス鋼板から成型された金具部品との間において、塩害環境に曝される隙間構造部を形成する。
その後、上記製造した自動車用部材を化成処理液に浸漬し、少なくとも金具部品の一般部表面に化成処理皮膜を形成する。次にカチオン電着塗装を行い、金具部品と部材の表面を厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜で被覆する。Alめっきを付着した金具部品を部材に取り付けるので、取り付け部付近に形成される隙間部の当たる面における金具部品のAlめっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下となる。本発明の自動車用部材はまた、以上のように製造されてなる自動車用部材である。
上記部材として鋼管を成型した鋼管部材を用いることにより、本発明の自動車用部材を給油管として好適に用いることができる。
次に、部材、鋼管部材の素材について説明する。ここで言う鋼管部材とは、内部に燃料ガスが充満するメインパイプ(インレットパイプ)やブリーザーチューブ等のパイプ形状の部材を意味する。また金具部品についても、下記で説明する素材を用いることとすると好ましい。
本発明の部材は、以下の組成より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とする。以下、含有量の%は質量%を意味する。
C、N:CおよびNは、溶接熱影響部における粒界腐食の原因となる元素であり、耐食性を劣化させる。また、冷間加工性を劣化させる。このため、C、Nの含有量は可及的低レベルに制限すべきであり、C、Nの上限は0.015%とするのが望ましく、より望ましは0.010%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、C:0.0010%、N:0.0050%とするのが良い。
Cr:Crは加熱後耐食性を確保する基本的元素であり適量の含有が必須であり、Cr含有量の下限を10.5%とする必要がある。一方、加工性を劣化させる元素であることと合金コスト抑制の観点から上限含有量を24.0%に設定するのがよい。Cr含有量の好ましい範囲は13.0%〜17.5%であり、より好ましくは16.0%〜17.5%である。本発明においては、より低級な素材を追究する観点からは、Crは13.0%未満がよく、より好ましくは、12.0%以下である。
Ti、Nb:TiおよびNbはC、Nを炭窒化物として固定して粒界腐食を抑制する作用を有する。このため、TiとNbの一方又は両方を含有させるが、過剰に含有させても効果は飽和するため、各々の含有量の上限を0.30%とする。ここにおいて、TiとNbの少なくとも一方の含有量が0.03%以上であれば効果を発揮することができる。なお、Ti、Nbの適正含有量としては、両元素の合計量がC、N合計含有量の5倍量以上かつ30倍量以下がよい。好ましくは、Ti、Nb合計含有量がC、N合計含有量の10倍〜25倍とするのが良い。
Si:Siは精錬工程における脱酸元素として有用であり0.01%を下限として含有させる。一方、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.80%に制限するのがよい。好ましい範囲は、0.10〜0.50%である。
Mn:Mnも脱酸元素、S固定元素として0.01%以上を含有させるが、Mnも加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.80%に制限するのがよい。好ましい範囲は、0.10〜0.50%である。
P:Pは加工性を著しく劣化させる元素であり不純物元素である。このため、Pの含有量は可及的低レベルが望ましい。許容可能な含有量の上限を0.080%とする。望ましいPの上限値は0.030%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、0.010%とするのが良い。
S:Sは耐食性を劣化させる元素であり不純物元素である。このためSの含有量は可及的低レベルが望ましい。許容可能なS含有量の上限を0.010%とする。望ましいS含有量の上限値は0.0050%である。なお、下限値は特に規定するものではないが、精錬コストを考慮して、0.0005%とするのが良い。
Al:Alは脱酸元素として有用であり、0.010%以上を含有させるが、加工性を劣化させるため多量に含有させるべきではなく上限を0.100%に制限するのがよい。好ましくは、含有量の上限を0.080%とするのが良い。
部材には前記元素に加えて、鋼の諸特性を調整する目的で以下のa群、b群、c群に属する合金元素が含有されていても良い。
a群は製造性を改善する効果を持つ元素である。
B:Bは2次加工脆化や熱間加工性劣化を防止するのに有用な元素であり、耐食性には影響を与えない元素である。このため0.0002%を下限としてBを含有させるが、0.0050%を超えるとかえって熱間加工性が劣化するので、上限を0.0050%とするのが良い。好ましくは、B含有量の上限を0.0020%とするのが良い。
b群は腐食の発生を抑制し、腐食進展速度を低減する効果を持つ元素である。
Sn:Snは微量の含有で耐食性を向上させるのに有用な元素であり、廉価性を損なわない範囲で含有させる。Sn含有量0.01%未満では耐食性向上効果は発現されず、0.50%を超えるとコスト増が顕在化すると共に加工性も低下するので、含有量0.01〜0.50%を適正範囲とする。好ましくは0.05%から0.30%とするのが良い。
Mo:Moは、不働態皮膜の補修に効果があり、耐発銹性と耐腐食進展性を向上させるのに非常に有効な元素で特にCrとの組み合わせで耐孔食性を向上させる効果がある。Moを増加させると耐食性は向上するため、少なくとも0.01%以上必要であるが、同時に加工性を低下させ、またコストが高くなるため上限を1.5%とする。望ましくは、0.6〜1.1%である。
Cu、Ni:Cu、Niは腐食が進行した際の腐食速度を抑制する効果があり、0.01〜0.5%が望ましい。ただし過剰な添加は加工性を低減させるので望ましくは、0.01から0.3%である。
c群は腐食の発生を抑制する元素である。
Sb、Zr、Co、W:Sb、Zr、Co、Wも、耐食性を向上させるために必要に応じて添加させることができる。これらは腐食速度を抑制するのに重要な元素であるが、過剰な添加は製造性及びコストを悪化させるため、その範囲をいずれも0.005〜0.5%とした。より望ましくは0.05〜0.4%である。
V:Vは耐すき間腐食性を改善するため、必要に応じて添加することができる。ただしVの過度の添加は加工性を低下させる上、耐食性向上効果も飽和するため、Vの下限を0.03%、上限を0.5%とする。より望ましくは0.05〜0.30%である。
Ga:Gaは耐食性および加工性向上に寄与する元素であり、0.001〜0.05%の範囲で含有させることができる。
Ta:Taは耐食性および加工性向上に寄与する元素であり、0.001〜0.05%の範囲で含有させることができる。
前記組成より成るステンレス鋼製の部材は、転炉や電気炉などで溶製、精錬された鋼片を熱間圧延、酸洗、冷延、焼鈍、仕上酸洗等を施す通常のステンレス鋼板の製造方法によって鋼板として製造される。必要に応じて、熱間圧延の後に、熱延板焼鈍を行ってもよい。さらに部材は、この鋼板を素材として電気抵抗溶接、TIG溶接、レーザー溶接などの通常のステンレス鋼管の製造方法によって溶接管として製造される鋼管として好ましく用いられる。
このステンレス鋼管は、曲げ加工、拡管加工、絞り加工といった冷間での塑性加工やスポット溶接、プロジェクション溶接、MIG溶接、TIG溶接といった溶接やろう付け、あるいはボルトナットによる種々の金具の取り付けなどの通常の成型、組立工程を経て給油管に成型される。
なお、金具部品の素材であるめっきステンレス鋼板としては、鋼管部材と同一組成範囲のフェライト系ステンレス鋼であるのが望ましく、少なくとも鋼管部材よりも合金含有量が多い高耐食性材料である必要はない。
実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。まずは、部材であるフェライト系ステンレス鋼の成分、金具部品であるめっきステンレス鋼板のめっき種とめっき付着量、カチオン電着塗装膜厚について説明する。
前記表1に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を150kg真空溶解炉で溶製し、50kg鋼塊に鋳造した後、熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗の工程を通して板厚0.8mmの鋼板を作製した。この鋼板素材より、t0.8×40×40mmサイズの小板を採取した。小板は部材、又は鋼管部材(給油管本体)を模擬したものである。なお、表1の中で、No.X3、X5、X6、X9、X11は、Si、Mn、P、S、Al、Crが過多であり、冷延時に耳割れが生じたため、加工性が不十分であると判断し、以後の耐食性試験には供していない。
また、前記表2に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を転炉溶製して鋳造−熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗を行い、その後表4に示すめっき種とめっき付着量でめっきの工程を通して板厚0.8mmのめっきステンレス鋼板を製造した。このめっきステンレス鋼板素材より、t0.8×70×150mmサイズの大板を採取した。大板は、金具部品を模擬したものである。
大板の上に小板を重ねて、中央部に1点スポット溶接を施して隙間試験片を作製した。表4において、「部材/素材」の欄に記載した符号は、表1のNo.に対応する成分組成を意味している。また「金具部品/素材」の欄に記載した符号は、表2のNo.に対応する成分組成を意味している。金具部品には、表4に示すめっき種とめっき付着量でめっきが施されている。ここで、Zn−Al−Mgめっきは成分がZn−6%Al−3%Mgであり、Zn−NiめっきはZn−13%Ni、Sn−ZnめっきはSn−7%Znである。大板と小板が接して対面する部分が隙間部を構成する。
大板と小板とをスポット溶接して形成した隙間試験片には、まず化成処理を行い、次いでカチオン電着塗装を施し、×字のキズを入れ、その後に塩害腐食試験に供した。
化成処理は、リン酸塩(化成処理種a)を使用し、浸漬時間を変化させ、付着量を変化させた。化成処理の具体的詳細は、前記表3に示す試験と同様とした。
カチオン電着塗装において、塗料は、日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部(大板表面と小板表面のうち、隙間部以外の部分)において表4に示す電着塗装厚み(2〜40μm)になるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。隙間試験片の隙間部はNo.40を除いて開口量が僅少であるため、隙間部の内部には電着塗膜が形成されず、大板の隙間部内部についてはステンレス鋼の素地が露出しており、大板の隙間部内部についてはめっき膜が露出した状況である。なお、一部の試験片について電着塗装後に溶接ナゲットを穿孔して隙間部の内部を観察し、隙間部の内部に塗膜が形成されないことを確認した。
これら隙間試験片の塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は300サイクルとした。試験終了後、隙間部の評価については、溶接ナゲットを穿孔して隙間試験片を解体し、除錆処理を施した後、大板の隙間部内部の腐食深さを顕微鏡焦点深度法によって測定した。1試験片あたり10点の測定を行い、その最大値をサンプルの代表値とした。満足すべき耐食性としては、最大腐食深さが板厚の1/2未満(400μm)であることを目標とした。また、塗装密着性については、表3に示す評価と同様の評価を行った。即ち、100サイクル終了後、×字のキズ部を挟んだ両側の膨れ幅の合計値を計測し、10mm以上を塗装密着性不良として不合格(×)とし、それ以外を「○」とした。
試験水準と試験結果を表5に示す。
Figure 0006782621
Figure 0006782621
本発明例のNo.201〜239、319〜323、325〜327は何れも、塗装密着性は良好であってめっき面の膨れは発生せず、隙間部の最大腐食深さが400μm以下であり良好であった。
参考例No.401は、素材としてE27(SUS436L)を用い、大板(金具部品)にめっきを施していない場合の試験結果である。大板、小板ともにE27(SUS436L)であり、電着塗装も施されているが、隙間腐食によって板厚貫通しており今回の腐食試験が十分に過酷であることがわかる。また、No.408(参考例)は、隙間部の開口量が大きかった例であり、開口部の形成は特許文献4の段落[0042]の方法に基づいて実施した。隙間開口量を0.2mmとした。隙間内部にも塗膜が形成された結果、めっきを付着していないが、隙間部が電着塗装によって被覆された結果、必要な耐食性が確保できることが確認された。
このような腐食試験においても、本発明好適例No.201〜239は、めっきの犠牲防食作用と電着塗膜のめっき消耗抑制作用によって満足すべき耐食性が得られた。
一方、比較例No.301〜310は小板(部材)の組成が本発明範囲を外れているため耐食性が不十分である。また、比較例No.311〜315、318はめっき付着量が不十分であり、比較例No.316、317は電着塗膜厚みが不十分であるため、満足すべき耐食性が得られず、塗装密着性も不良であった。さらに比較例No.328については、大板(金具部品)の組成が普通鋼のX15を用いており、大板の×字キズ部に赤錆の発生が顕著に見られ、誘発された膨れが10mmを超えた。比較例No.324については、大板(金具部品)の組成がステンレス鋼に対しCrが低いX10を用いており、大板の×字キズ部に赤錆の発生が顕著に見られ、誘発された膨れが10mmを超えた。また、参考例No.402は電着塗膜厚みが過多でコスト高となっているが、膜厚がより薄い本発明No.223と同等の耐食性に留まっていた。また、参考例No.403〜407は、めっき付着量が過剰でコスト高となっているが、付着量がより少量の本発明No.223、238〜249と同等の耐食性に留まっていた。
また、本発明例No.319〜323、325〜327については、大板(金具部品)素材に表2のX01、X02、X04、X07、X08、X12〜X14を用いている。これらは、ステンレス鋼であって本発明に含まれるものの本発明の好適範囲(請求項5に規定する金具部品の組成)からは外れており、大板の×字キズ部に赤錆の発生が見られたが、膨れが誘発されるほど顕著ではなく、膨れは目標の10mm未満を満足した。
さらに、フェライト系ステンレス製鋼管部材へAlめっきステンレス鋼製金具部品への取り付け構造について説明する。
表1のE23に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を150kg真空溶解炉で溶製し、50kg鋼塊に鋳造した後、熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗の工程を通して板厚0.8mmの鋼板を作製した。この鋼板素材より、φ50×50×t0.8mmサイズの鋼管をシーム溶接により、フェライト系ステンレス製鋼管21を作製した。フェライト系ステンレス製鋼管21は、インレットパイプを模擬したものである。また、表2のE25に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を転炉溶製して鋳造−熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗−溶融Alめっきの工程を通して板厚0.8mmのAlめっきステンレス鋼板を製造した。Alめっき付着量は49g/cm2とした。このAlめっきステンレス鋼板素材より、φ48×50×t0.8mmおよびφ52×50×t0.8mmサイズの部品を打ち抜き加工とプレス成型により、Alめっきステンレス製鋼管22を作製した。Alめっきステンレス製鋼管22は、金具部品を模擬したものである。
作製した3種類の鋼管を図5のように、フェライト系ステンレス製鋼管21の外部および内部にAlめっきステンレス製鋼管22をフェライト系ステンレス製鋼管21の端部26から0〜20mmの位置の外周に沿った取り付け位置27において4点のスポット溶接(溶接部24)により隙間付き試験片を作製した。フェライト系ステンレス製鋼管21とAlめっきステンレス製鋼管22が接して対面する部分が隙間部23を構成する。
隙間試験片には、カチオン電着塗装を施した。カチオン電着塗装において、塗料は、日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部において30μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。隙間試験片の隙間部23は開口量が僅少であるため、隙間部23の内部には電着塗膜が形成されず、フェライト系ステンレス製鋼管21の隙間部内部についてはステンレス鋼の素地が露出しており、Alめっきステンレス製鋼管22の隙間部内部についてはAlめっき膜が露出した状況である。
これら隙間試験片に図5に示すように鋼管の上下2カ所にシリコン栓25にて内部を密閉し、45°に傾けた姿勢で塩害腐食性試験に供した。塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は500サイクルとした。試験終了後、シリコン栓を外し、フェライト系ステンレス製鋼管内部へのAl腐食生成物の侵入の有無を確認した。
試験水準と試験結果は、前述の表4と同様であった。即ち、いずれの試験片もフェライト系ステンレス鋼管に穴あきは見られなかった。即ち、表4の場合と同様に、すべての本発明例、参考例ともに、本発明の効果を発揮している。
本発明例のNo.a〜dは、構造Iかつ取り付け位置27がフェライト系ステンレス鋼管の端部26から5mm以上であり、何れもフェライト系ステンレス製鋼管内部へAlの腐食生成物の侵入が確認できなかった。
No.1a、1b(参考例)は構造Iだが取り付け位置27がフェライト系ステンレス鋼管の端部26から5mm未満であり、液だまりにより、鋼管の端面が腐食し、端部とシリコン栓との隙間からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。比較例1c〜1gは構造IIであり、消耗したAlめっき部からフェライト系ステンレス鋼管内へAl腐食生成物が侵入していた。
このような腐食試験において、本発明No.a〜dは、Alめっきの犠牲防食作用と電着塗膜のAl消耗抑制作用によって満足すべき耐食性が得られ、フェライト系ステンレス鋼管内へのAl腐食生成物の侵入が無いことを確認できた。
さらに、実部品ではさまざまな形状の部品に成型されるため、その加工度によってめっき層の状態および塗装密着性が変化している可能性がある。そこで、種々の加工を想定した場合の塗装膨れ抑制に対して適正なめっき層と化成処理皮膜の状態について説明する。
表2のE25に示す組成のフェライト系ステンレス鋼を転炉溶製して鋳造−熱延−熱延板焼鈍−酸洗−冷延−焼鈍−仕上酸洗−溶融Alめっきの工程を通して板厚0.8mmのAlめっきステンレス鋼板を製造した。Alめっき付着量は49g/cm2とした。このAlめっきステンレス鋼板素材をφ110×t0.8mmサイズに打ち抜き加工し,プレス成型により深さ30mmのカップ形状試験片を作製した。カップ形状試験片の外観を図6に示す。カップ形状試験片30は図6に示すようにつば部31を有し、つば部31外周のハッチング部は樹脂被覆部33であり、非定常部の端面や固定ジグに接する部分に相当する。プレス成型時は加工度に違いを持たすため、潤滑あり、潤滑無しの2条件の試験を実施した。カップ形状試験片は、金具部品を模擬したものである。
作製したカップ形状試験片には、化成処理とカチオン電着塗装を実施し、試験に供した。めっき鋼板とステンレス鋼板との接合の有無にかかわらず化成処理とカチオン電着塗装は可能であり、加工度と塗装膨れとの関係の評価に大きな影響を及ぼさない。そこで、本検討ではめっき鋼板単独で試験を実施した。
化成処理は、リン酸塩(化成処理種a)および酸化ジルコニウム(化成処理種b)を使用し、浸漬時間を変化させ、付着量を変化させた。具体的には、化成処理種aのリン酸塩処理材として、リン酸亜鉛(日本パーカーライジング製PB−AX35、フッ素含有)を用いた。処理は、アルカリ脱脂→水洗→表面調整→化成処理→水洗→純水洗→水切乾燥を実施した。化成処理種bのジルコニウム系処理材は、酸化ジルコニウム(日本パーカーライジング製PLC−2010、フッ素含有)を用いた。処理工程は、アルカリ脱脂→水洗→化成処理→水洗→純水洗→水切乾燥を実施した。
リン酸塩は2g/m2、酸化ジルコニウムは20mg/m2になるよう処理条件を調整した。化成処理皮膜の付着量の確認については、蛍光X線解析によりPもしくはZr量を測定し、リン酸亜鉛および酸化ジルコニウムに換算した。
また、カチオン電着塗装は、塗料は日本ペイント(株)製PN−110を用い、浴温28℃、塗装電圧170Vで通電し、塗膜厚みが一般部(大板表面と小板表面のうち、隙間部以外の部分)において20μmになるように条件選定した。焼付条件は、170℃×20分とした。塗膜厚みは電磁膜厚計を用いて1試料について5点測定し、その平均値をもって膜厚とした。
これらカップ形状試験片30に対して図6に示すようにカッターで30mmのカットを入れ、カット部32が上を向くように、45°に傾けた姿勢で塩害腐食性試験に供した。塩害耐食性評価試験として、JASOモードの複合サイクル腐食試験(JASO−M609−91規定のサイクル腐食試験(塩水噴霧:5%NaCl噴霧、35℃×2Hr、乾燥:相対湿度20%、60℃×4Hr、湿潤:相対湿度90%、50℃×2Hrの繰り返し))を用いた。試験期間は100サイクルとした。試験終了後、カット部を挟んだ両側の膨れ幅の合計値を計測した。判定は5mm未満の条件を「◎」、5mm以上10mm未満の条件を「○」、10mm以上を不合格(×)とした。
試験水準と試験結果を表6に示す。潤滑の有無とめっき層のクラック/剥離の有無についてみると、潤滑ありではめっき層のクラック/剥離は発生せず、潤滑なしではめっき層のクラック/剥離が発生していることがわかる。リン酸塩処理では潤滑なしの方が潤滑ありよりも膨れ幅が減少した。対して、酸化ジルコニウム処理では潤滑の有無で大きな差異が生じなかった。
Figure 0006782621
リン酸塩処理サンプルの膨れ箇所近傍の断面を観察した結果、膨れ幅が5mm未満のNo.502では、めっき層にクラックや剥離部が存在しており、膨れ幅が5mm以上のNo.501では、めっき層にクラックや剥離が見られなかった。さらに化成処理皮膜の存在状態を確認するため、EPMAでPやZnを検出すると、No.501ではめっき表面だけに存在していたが、No.502ではめっき層のクラック間および剥離部の一部にも化成処理皮膜の存在が確認された。したがって、めっきクラック間やめっき剥離部に存在するリン酸塩が緩衝作用を示し、pHの上昇が抑制された結果、膨れ幅が減少したと考えられた。対して、酸化ジルコニウム処理の場合には、リン酸塩処理のNo.502で認められたのと同様の、めっき層のクラック間および剥離部の一部にも化成処理皮膜として存在する機能は確認できていない。
本発明実施例の腐食試験において、リン酸塩処理の本発明No.502で確認されたように、めっき層にクラックや剥離が存在しても、当該部に化成処理皮膜が形成する場合には、めっき層に欠陥が形成される程度の加工を受ける部位であっても膨れ改善効果が得られることがわかった。
1 鋼管部材
1a メインパイプ(インレットパイプ)
1b ブリーザーチューブ
2 金具部品
3 隙間部
4 溶接部
11 鋼管部材(インレットパイプ)
12 金具部品(キャッププロテクター)
13 隙間部
14 溶接部
21 フェライト系ステンレス製鋼管
22 Alめっきステンレス製鋼管
23 隙間部
24 溶接部
25 シリコン栓
26 端部
27 取り付け位置
30 カップ形状試験片
31 つば部
32 カット部
33 樹脂被覆部

Claims (12)

  1. 質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜24.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.080%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%を含有し、更に、Ti:0.03〜0.30%、Nb:0.03〜0.30%の一方又は両方を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とした部材と、
    めっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のめっきステンレス鋼板を素材とする金具部品
    から成る自動車用部材において、
    前記部材と前記金具部品との間に隙間構造部を有し、
    前記金具部品および部材の隙間構造部以外の最表面に厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜を有し、
    金具部品のめっき層とカチオン電着塗膜との間に化成処理皮膜を有し、
    前記化成処理皮膜が、付着量1g/m 2 以上のリン酸塩もしくは付着量2mg/m 2 以上のジルコニウム酸化物を含有する
    ことを特徴とする自動車用部材。
  2. 前記部材は、質量%でさらに、下記a群〜c群の1群または2群以上に属する成分を含有することを特徴とする請求項1に記載の自動車用部材。
    a群:B:0.0002〜0.0050%
    b群:Mo:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sn:0.01〜0.50%の1種または2種以上
    c群:Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%の1種または2種以上
  3. 前記めっきが犠牲防食型めっきであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用部材。
  4. 前記犠牲防食型めっきがAl、Zn、Zn−Al−Mg、Sn−ZnもしくはNi−Znめっきの何れかであることを特徴とする請求項3に記載の自動車用部材。
  5. 前記金具部品の素材の組成が、前記部材と同一組成範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の自動車用部材。
  6. 前記フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材が鋼管であることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか1項に記載の自動車用部材。
  7. 質量%で、C≦0.015%、N≦0.015%、Cr:10.5〜24.0%、Si:0.01〜0.80%、Mn:0.01〜0.80%、P≦0.080%、S≦0.010%、Al:0.010〜0.100%を含有し、更に、Ti:0.03〜0.30%、Nb:0.03〜0.30%の一方又は両方を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物より成るフェライト系ステンレス鋼を素材とした部材と、
    めっき付着量が20g/m2以上150g/m2以下のめっきステンレス鋼板を素材とする金具部品
    から成る自動車用部材において、
    前記部材と前記金具部品との間に隙間構造部を有し、
    前記金具部品および部材の隙間構造部以外の最表面に厚み5〜35μmのカチオン電着塗膜を有し、
    金具部品のめっき層とカチオン電着塗膜との間に化成処理皮膜を有し、
    前記金具部品において、前記めっき層にクラック部もしくはめっき層剥離部が存在し、化成処理皮膜は付着量1g/m 2 以上のリン酸塩であり、クラック部の一部およびめっき剥離部の一部に化成処理皮膜が形成されている
    ことを特徴とする自動車用部材。
  8. 前記部材は、質量%でさらに、下記a群〜c群の1群または2群以上に属する成分を含有することを特徴とする請求項に記載の自動車用部材。
    a群:B:0.0002〜0.0050%
    b群:Mo:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜0.5%、Ni:0.01〜0.5%、Sn:0.01〜0.50%の1種または2種以上
    c群:Sb:0.005〜0.5%、Zr:0.005〜0.5%、Co:0.005〜0.5%、W:0.005〜0.5%、V:0.03〜0.5%、Ga:0.001〜0.05%、Ta:0.001〜0.05%の1種または2種以上
  9. 前記めっきが犠牲防食型めっきであることを特徴とする請求項または請求項に記載の自動車用部材。
  10. 前記犠牲防食型めっきがAl、Zn、Zn−Al−Mg、Sn−ZnもしくはNi−Znめっきの何れかであることを特徴とする請求項に記載の自動車用部材。
  11. 前記金具部品の素材の組成が、前記部材と同一組成範囲であることを特徴とする請求項乃至請求項10のいずれか1項に記載の自動車用部材。
  12. 前記フェライト系ステンレス鋼を素材とした部材が鋼管であることを特徴とする請求項乃至請求項11のいずれか1項に記載の自動車用部材。
JP2016239625A 2015-12-09 2016-12-09 自動車用部材 Active JP6782621B2 (ja)

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2015240638 2015-12-09
JP2015240638 2015-12-09

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2017115872A JP2017115872A (ja) 2017-06-29
JP6782621B2 true JP6782621B2 (ja) 2020-11-11

Family

ID=59234004

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2016239625A Active JP6782621B2 (ja) 2015-12-09 2016-12-09 自動車用部材

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6782621B2 (ja)

Families Citing this family (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP7133550B2 (ja) 2017-06-13 2022-09-08 株式会社小糸製作所 車両用クリーナシステムおよび車両用クリーナシステムを備える車両
US11427163B2 (en) 2017-06-13 2022-08-30 Koito Manufacturing Co., Ltd. Vehicle cleaner system and vehicle including vehicle cleaner system
CN107868899B (zh) * 2017-11-14 2020-03-31 宁海县大雅精密机械有限公司 一种注塑用透气钢及制备方法
CN112375976A (zh) * 2020-10-29 2021-02-19 包头钢铁(集团)有限责任公司 一种低成本高强度抗硫化氢腐蚀稀土处理石油套管及其制造方法

Family Cites Families (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP4132729B2 (ja) * 2000-08-09 2008-08-13 新日鐵住金ステンレス株式会社 成形性に優れた燃料タンク用可溶型潤滑表面処理ステンレス鋼板および燃料タンクの製造方法
JP2006161067A (ja) * 2004-12-02 2006-06-22 Nippon Paint Co Ltd 自動車用燃料タンク又は給油管
JP5258253B2 (ja) * 2006-11-21 2013-08-07 新日鐵住金ステンレス株式会社 塩害耐食性および溶接部信頼性に優れた自動車用燃料タンク用および自動車燃料パイプ用表面処理ステンレス鋼板および拡管加工性に優れた自動車給油管用表面処理ステンレス鋼溶接管
CN105764733B (zh) * 2013-09-13 2018-09-07 新日铁住金不锈钢株式会社 低廉且具有良好的耐盐性的汽车用构件以及供油管

Also Published As

Publication number Publication date
JP2017115872A (ja) 2017-06-29

Similar Documents

Publication Publication Date Title
EP3045338B1 (en) Feed oil pipe exhibiting excellent salt corrosion resistance
JP5258253B2 (ja) 塩害耐食性および溶接部信頼性に優れた自動車用燃料タンク用および自動車燃料パイプ用表面処理ステンレス鋼板および拡管加工性に優れた自動車給油管用表面処理ステンレス鋼溶接管
JP4014907B2 (ja) 耐食性に優れたステンレス鋼製の自動車用燃料タンクおよび給油管
JP6782621B2 (ja) 自動車用部材
JP5058574B2 (ja) 電気防食される船舶バラストタンク用防錆鋼板および船舶バラストタンクの防錆方法
WO2011152537A1 (ja) 給油管及びその製造方法
WO2012086706A1 (ja) 給油管およびその製造方法
JP6412596B2 (ja) 廉価で塩害耐食性に優れた自動車用部材および給油管
JP2016169417A (ja) 塩害耐食性に優れかつ外観劣化を抑制した自動車用給油管
JP3133231B2 (ja) 加工性・耐食性・溶接性に優れた燃料タンク用防錆鋼板
JP6541992B2 (ja) 塗装かつ犠牲防食効果を利用した耐穴あき性に優れた自動車用部材および自動車用給油管
JP2004330993A (ja) 耐食性に優れたステンレス鋼製の自動車用燃料タンクおよび給油管
WO2018061061A1 (ja) 燃料タンク部材
JP6597947B1 (ja) 溶融Sn−Zn系合金めっき鋼板およびその製造方法
JP5505294B2 (ja) 燃料タンク用表面処理鋼板
JPH06264215A (ja) 自動車排気系機器用蒸着めっきステンレス鋼材
JP5664408B2 (ja) 溶融Sn−Znめっき鋼板
JP2010173525A (ja) 自動二輪車燃料タンク用めっき鋼板および燃料タンク
JP2012132084A (ja) 燃料タンク用表面処理鋼板

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20190821

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20200421

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20200526

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20200622

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20200929

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20201020

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6782621

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250