JP6775890B2 - 鍛造物の製造方法 - Google Patents
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Description
さらなる面疲労強度が求められる場合には、マイクロショットピーニング処理等の追加表面処理を浸炭後に施す必要があり、コストの大幅な増加の要因となる。
しかし、高Si鋼から鍛造物を作製すると、鍛造に用いられる金型(鍛造型)の摩耗が、ケイ素(Si)を含有していない素材から鍛造物を作製する場合よりも短期間で進むため、金型の摩耗による不具合により、鍛造物の造形に支障が生じ易くなる。
そのため、高Si鋼の素材から鍛造物を適切に作製できるようにすることが求められている。
Siを0.5質量%以上含有する高Si鋼の素材を鍛造する鍛造工程と、
前記鍛造工程で得られた鍛造物の浸炭処理を行う浸炭工程と、を有する鍛造物の製造方法であって、
前記鍛造工程では、前記素材の鍛造を、前記素材での酸化被膜の生成を抑制可能な1180℃以下、前記浸炭工程での浸炭処理温度よりも高い温度以上の範囲内で実施し、
前記素材は、前記鍛造物での粗大粒の発生を抑制するピンニング粒子を形成するAlを、0.020質量%以上、前記鍛造工程で前記素材に固溶可能な最大質量%以下含んでいるものとした。
また、アルミニウム(Al)の添加量を、0.020質量%以上、鍛造工程で素材に固溶可能な最大質量%以下としたことで、鍛造時に、素材に固溶せずに残存する窒化アルミニウム(AlN)を生じないようにすることができる。これにより、浸炭処理時に、ピンニング粒子を適切に形成して鉄(Fe)の結晶粒の粗大化を抑制できるので、浸炭処理後の鍛造物の面疲労強度及び曲げ強度を確保することができる。
図1は、実施の形態にかかる鍛造物の製造方法で作製される固定プーリ2を備えるプーリ1を説明する図である。
図2は、固定プーリ2の製造過程を説明するフローチャートである。
図3は、固定プーリ2の鍛造に用いる鍛造型6と、この鍛造型6を用いた素材4からの固定プーリ2の亜熱間鍛造を説明する図である。
(1)亜熱間鍛造のために素材4を加熱する工程(ステップS101)と、
(2)素材4の亜熱間鍛造により、軸部21とシーブ部22とを有する固定プーリ2(プーリ鍛造物)を造形する工程(ステップS102)と、
(3)プーリ鍛造物を焼鈍する工程(ステップS103)と、
(4)焼鈍後のプーリ鍛造物を生加工する工程(ステップS104)と、
(5)生加工後のプーリ鍛造物の浸炭処理を行う工程(ステップS105)と、が含まれている。
ここで、本明細書における用語「高Si鋼」は、Si(ケイ素)の含有量が0.5質量%以上である鉄系の鋼材を意味しており、好ましくは、Si(ケイ素)の含有量が、0.5質量%以上、1.2質量%以下の範囲内にある鉄系の鋼材である。なお、質量%は、素材4の総質量に対する割合を百分率で示したものである。
実施の形態では、素材4を構成する鉄(Fe)の溶湯にアルミニウム(Al)、窒素(N2)を添加することで、溶湯が固化して固体状の素材4となる過程で、窒化アルミニウム(AlN)が第2相粒子として析出するようになっている。
ここで、実施の形態では、窒化アルミニウム(AlN)を形成するためのAlの添加量が、0.020質量%以上、0.042質量%以下、より好ましくは、0.020質量%以上、0.034質量%以下である高Si鋼で素材4を形成している。
なお、実施の形態にかかる素材4は、Nb(C、N)のような、鉄(Fe)の結晶粒の粗大化を防止するための他の添加剤を含んでない。
実施の形態では、アルミニウム系の添加剤よりも高価な添加剤であるNb(C、N)が含まれていなくても、浸炭処理時の鉄(Fe)の結晶粒の粗大化を阻止できるからである。
これにより、軸部21の長手方向の一端側にシーブ部22を備える鍛造物であって、最終的に固定プーリ2となる鍛造物(プーリ鍛造物)が造形されることになる。
続くステップS104では、焼鈍後のプーリ鍛造物に対する切削加工(生加工)により、バリなどが除去された最終形状の固定プーリ2が作製される。
その結果、(a)鍛造前の素材の加熱を一般的な熱間鍛造温度で行うと、3元酸化物(Fe−Si−O)の被膜が素材の表面に形成されること、(b)この3元酸化物の被膜が非常に硬いために、熱間鍛造を行う際に、鍛造型6の素材4と接する部分が摩耗すること、を見いだした。
実施の形態では、Si(ケイ素)含有量の違いによる影響が小さい1180℃を、熱間鍛造温度の上限として採用している。
この面疲労強度及び曲げ強度の低下の原因を鋭意検討したところ、面疲労強度及び曲げ強度の低下が、浸炭処理時の鉄(Fe)の結晶粒の粗大化に起因するものであることを見いだした。
しかし、浸炭処理を低い温度で行うと、浸炭処理時間が長くなるため、プーリ鍛造物(固定プーリ2、可動プーリ3)の生産性が低下してしまう。
(a)素材4におけるアルミニウム(Al)の添加量が多くなると、亜熱間鍛造時に固溶せずに残る窒化アルミニウム(AlN)の量が多くなること、(b)固溶せずに残った窒化アルミニウム(AlN)が、亜熱間鍛造後の焼鈍工程(図2、ステップS103)の際に核となって、窒化アルミニウム(AlN)の析出物が成長し、高Si鋼からなる鍛造物の内部に窒化アルミニウム(AlN)の粒が均等に分散しないこと、を見いだした。
これは、高Si鋼からなる造形物の内部に、窒化アルミニウム(AlN)の微細な粒が均等に分散していると、鉄(Fe)の結晶粒の粗大化が、均等に分散する窒化アルミニウム(AlN)に阻止されるためであり、従来、アルミニウム(Al)の添加量が多くなるほど、窒化アルミニウム(AlN)の析出量が多くなり、鉄(Fe)の結晶粒の粗大化を抑制する効果(いわゆる、ピン止め効果)が大きくなると考えられていた。
そこで、素材4の亜熱間鍛造時に固溶せずに残る窒化アルミニウム(AlN)を減らすために、アルミニウム(Al)の添加量と、浸炭処理時の異常粒発生温度との関係を、亜熱間鍛造で得られた鍛造物で確認したところ、図6のような結果が得られた。
そして、素材4におけるアルミニウム(Al)の添加量であって、亜熱間鍛造で得られた鍛造物の浸炭処理において異常粒を発生させないために必要となる添加量は、一般的な熱間鍛造温度で得られた鍛造物の浸炭処理おいて異常粒を発生させないために必要とされていた最小の添加量(0.034質量%)未満でも、異常粒の発生を抑制できるという結論に至った。
そして、鍛造型6の摩耗を抑制するために、亜熱間鍛造(ステップS102)での鍛造温度の上限を、一般的な熱間鍛造温度の下限温度(1200℃)よりも低い温度1180℃以下に設定している。さらに、亜熱間鍛造(ステップS102)での鍛造温度の下限を、亜熱間鍛造で得られた鍛造物における浸炭処理時の異常粒発生温度が、一般的な熱間鍛造で得られた鍛造物における浸炭処理時の異常粒発生温度に比べて、低くなりすぎない温度であって、浸炭処理時の温度よりも高い温度(1050℃)以上に設定している。
そして、アルミニウム(Al)の添加量を、0.020質量%以上、0.042質量%以下に設定して、亜熱間鍛造で得られた鍛造物における浸炭処理時の異常粒発生温度が、一般的な熱間鍛造で得られた鍛造物における浸炭処理時の異常粒発生温度に近づくようにした。
なお、浸炭処理を減圧環境下で行うことで浸炭処理時間を短縮して、一般的な熱間鍛造で得られた鍛造物の場合の浸炭処理時間との差が小さくなるようにしても良い。
これにより、高Si鋼からなる素材4に添加するアルミニウム(Al)の量を、従来必要とされていた量よりも少なくしつつ、素材4の亜熱間鍛造により得られた鍛造物において、浸炭処理時の鉄(Fe)の結晶粒の粗大化を好適に抑制できる。
よって、アルミニウム(Al)の添加量が少なくなった分だけ、鍛造物(固定プーリ2)の作製コストの低減が可能になった。
(1)鍛造型6を用いて、ケイ素(Si)を0.5質量%以上、1.2質量%以下含有する高Si鋼の素材4の鍛造を実施する鍛造工程(ステップS102)と、
鍛造工程で得られた鍛造物の浸炭処理を行う浸炭工程(ステップS105)と、を有する固定プーリ2(鍛造物)の製造方法であって、
鍛造工程では、円柱形状の素材4の熱間鍛造を、加熱による素材4での3元酸化物(Fe−Si−O)の被膜(酸化被膜)の生成を抑制可能な1180℃以下、浸炭工程での浸炭処理温度の上限温度990℃よりも高い温度(1050℃)以上の範囲内で実施し、
素材4は、鍛造物での鉄(Fe)の粗大粒の発生を抑制する窒化アルミニウム(ピンニング粒子)を形成するためのアルミニウム(Al)を、0.020質量%以上、鍛造工程で素材4に固溶可能な最大質量%以下含んでいるものとした。
そのため、素材4の鍛造を、一般的な熱間鍛造温度よりも低い温度(1180℃)以下、窒化アルミニウム(AlN)の固溶に必要な温度よりも高い温度(1050℃)以上の範囲内で行うことで、3元酸化物(Fe−Si−O)の被膜を抑制しつつ、窒化アルミニウム(AlN)を固溶させて鍛造物を造形するようにしたので、鍛造型6の摩耗の抑制が可能となった。
これにより、高Si鋼を用いた鍛造部品を、鍛造型の寿命を低下させることなく製造することができるので、摩耗対策を鍛造型に施すことなく、高強度部品(例えば、プーリ)の製造が可能になる。
そのため、鍛造物での鉄(Fe)の粗大粒の発生を抑制するために添加されるアルミニウム(Al)の上限を、1180℃以下1050℃以上の温度範囲内で素材4の鍛造を行う際に素材4に固溶できる最大量に設定して、亜熱間鍛造時に、素材4に固溶せずに残存する窒化アルミニウムが生じないようにしたことで、焼鈍工程(図2、ステップS103)の際に核となって、窒化アルミニウム(AlN)の析出物が成長しないようにした。
これにより、高Si鋼からなる鍛造物の内部に、窒化アルミニウム(AlN)の粒が均等に分散して、浸炭処理時の鉄(Fe)の結晶粒の粗大化を適切に抑制できることになり、結晶粒の粗大化に起因する鍛造物(固定プーリ2及び可動プーリ3)の強度低下を好適に防止できるものとなった。
そして、素材4における窒化アルミニウム(AlN)を形成するためのアルミニウム(Al)の添加量であって、亜熱間鍛造で得られた鍛造物の浸炭処理において異常粒を発生させないために必要となる添加量は、一般的な熱間鍛造温度で得られた鍛造物の浸炭処理において異常粒を発生させないために必要とされていた最小の添加量(0.034質量%)未満でも、異常粒の発生を抑制できるという結論に至った。
そのため、窒化アルミニウム(AlN)を形成するためのアルミニウム(Al)の最大質量%を0.034質量%とすることで、一般的な熱間鍛造(1200℃以上の温度での熱間鍛造)で必要とされていた窒化アルミニウム(AlN)を形成するアルミニウム(Al)の添加量0.04質量%よりも、添加量が少なくなるので、高価なアルミニウム(Al)の添加量が少なくなった分だけ、鍛造物(固定プーリ2及び可動プーリ3)の作製コストの低減が可能になる。
また、アルミニウム系の添加剤よりも高価な添加剤であるNbが含まれていなくても、浸炭処理時の鉄(Fe)の結晶粒の粗大化を阻止できるので、鍛造物(固定プーリ2及び可動プーリ3)の一層の作製コスト(鋼材コスト)の低減が期待できる。
また、鉄(Fe)の粗大粒の発生を抑制するために浸炭処理温度を下げる必要が無いので、高Si鋼を採用したことによる処理時間の増加と、これに伴う処理コストの増加を好適に防止出来る。
また、鍛造物の浸炭処理を、常圧で行う場合を例示したが、減圧下で行う真空浸炭処理であってもよい。
2 固定プーリ
3 可動プーリ
4 素材
6 鍛造型
21 軸部
22 シーブ部
22a シーブ面
31 基部
32 シーブ部
61 可動型
62 固定型
V ベルト
X 軸線
Claims (5)
- Siを0.5質量%以上含有する高Si鋼の素材を鍛造する鍛造工程と、
前記鍛造工程で得られた鍛造物の浸炭処理を行う浸炭工程と、を有する鍛造物の製造方法であって、
前記鍛造工程では、前記素材の鍛造を、加熱による前記素材での酸化被膜の生成を抑制可能な1180℃以下、前記浸炭工程での浸炭処理温度よりも高い温度以上の範囲内で実施し、
前記素材は、前記鍛造物での粗大粒の発生を抑制するピンニング粒子を形成するAlを、0.020質量%以上、前記鍛造工程で前記素材に固溶可能な最大質量%以下含んでいることを特徴とする鍛造物の製造方法。 - 前記素材は、Nbを含まないことを特徴とする鍛造物の製造方法。
- 前記Alの前記最大質量%を、0.034質量%としたことを特徴とする請求項1または2に記載の鍛造物の製造方法。
- 前記ピンニング粒子は、窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鍛造物の製造方法。
- 前記浸炭処理は、前記窒化アルミニウムの溶解温度未満の温度で実施されることを特徴とする請求項4に記載の鍛造物の製造方法。
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