以下に説明する実施形態においては、建物が戸建て住宅である場合を想定し、空調システムが全館空調システムである場合を想定している。この全館空調システムは、熱源機が生成した熱エネルギーを冷気あるいは暖気として建物のほぼ全体に供給する構成である。また、この全館空調システムは、空調と換気とを行うように構成されている。
図1に示す空調システム10は、建物20に設置されており、熱源機11と、エアフィルタ12と、2台の搬送ファン13とを備える。また、図1に示す空調システム10は、1台の搬送ファン13に対して3個以上のダンパ14と、3個以上の吹出口15とを備えている。ダンパ14及び吹出口15の個数は、望ましくは5個以上7個以下である。ダンパ14と吹出口15とは一対一に対応しているため、ダンパ14と吹出口15との個数は同数である。ここでのダンパ14は、VAVユニット(VAV:Variable Air Volume)で実現される。搬送ファン13の台数と、ダンパ14及び吹出口15の個数とは、熱源機11の容量、建物20の構成及び規模などに応じて適宜に定められる。以下では説明を簡単にするために、ダンパ14と吹出口15が、1台の搬送ファン13に対して5個ずつである場合を例として説明する。
また、空調システム10は、熱源機11から空気を送り出す給気ダクト16と、熱源機11に空気を導入する外気ダクト171とを備える。熱源機11には、建物20の内部の空気も導入される。図1では、建物20の内部の空気を熱源機11に導入する経路を符号172で表している。この経路172は、空気の流れを模式的に表しており、建物20の内部におけるドアの隙間、換気口のように空気が流通する箇所を含む。また、経路172は、還流用のダクトを備えていてもよい。
熱源機11が給気ダクト16に送り出す空気には、熱源機11の運転状態に応じて、熱源機11が冷却した冷気と、熱源機11が加熱した暖気と、熱源機11が冷却と加熱とのいずれも行っていない空気とがある。さらに、図1に示す空調システム10は制御装置30及び複数個の温度センサ18を備えている。ここでは、熱源機11とエアフィルタ12と2台の搬送ファン13とは、建物20に設置される単一の筐体101に収納され、ユニット化されている。したがって、熱源機11からエアフィルタを通り2台の搬送ファン13に至る経路(図1に破線で示している)は、筐体101の内部に形成されている。
この空調システム10は、熱源機11が生成した熱エネルギーを10個の吹出口15に配分するために、2台の搬送ファン13、及び10個のダンパ14を備えている。搬送ファン13が送り出した空気は、給気ダクト16を通して吹出口15に送られる。すなわち、2台の搬送ファン13と10個のダンパ14と給気ダクト16とは、熱源機11が生成した熱エネルギーを10個の吹出口15に配分する分配装置102を構成している。熱源機11が生成した熱エネルギーを10個の吹出口15に配分する割合は、2台の搬送ファン13それぞれの風量と、10個のダンパ14それぞれの開度とにより決まる。すなわち、制御装置30が分配装置102を制御することにより、熱源機11が生成した熱エネルギーを10個の吹出口15に配分する割合が決まる。そして、複数の空調領域21それぞれに単位時間に供給される熱量は、吹出口15から空調領域21に供給される空気の温度及び流量により決まる。
ここでの空調領域21は、吹出口15に一対一に対応するように仮想的に定めた空間領域である。空調の対象である空調空間としての単一の部屋23に複数の吹出口15から冷気又は暖気を供給する場合、単一の部屋23に複数個の空調領域21が存在する。空調空間は、部屋23に限らず廊下あるいは階段などでもよい。図1に示す空調システム10では、1つの部屋23に2つの空調領域21が存在する場合を例示している。部屋23に示す破線は、空調領域21を実空間で仕切っているわけではなく、2つの空調領域21が存在することを示すために仮に設定した線である。
制御装置30は、複数個の温度センサ18それぞれが計測した温度を所定時間ごとに現在温度として取得し、現在温度に基づいて熱源機11と分配装置102とを制御し、10個の吹出口15への単位時間当たりの熱量の配分量を調節する。複数個の温度センサ18それぞれは、輻射熱の影響を受けずに気温を計測するように、通気口を有したケースに収納されていることが望ましい。
建物20は内部に複数の空調領域21を備える。空調領域21は、空調の対象となる空間である。複数の空調領域21それぞれは、一般的には、建物20の部屋23に一対一に対応している。ただし、単一の部屋23に複数の空調領域21が存在する場合があり、また単一の空調領域21が複数の部屋23に跨がる場合がある。空調領域21は、部屋23に限らず、廊下あるいは階段であってもよい。複数の空調領域21には、それぞれ吹出口15が配置される。すなわち、複数の空調領域21それぞれには、吹出口15から空気が供給される。
温度センサ18と部屋23(廊下あるいは階段でもよい)は、原則として一対一に対応し、温度センサ18は、部屋23の温度を計測する。したがって、単一の部屋23に複数の空調領域21が存在する場合、部屋23に1個の温度センサ18が配置される。図1に示す空調システム10では、2つの空調領域21がある単一の部屋23に、1個の温度センサ18が配置された例が示されている。したがって、図1に示す空調システム10は、10個の吹出口15に対して9個の温度センサ18を備える。単一の部屋23に複数の空調領域21が存在する場合、部屋23に配置された1個の温度センサ18が計測した温度は、複数の空調領域21で共用される。すなわち、空調領域21はダンパ14に一対一対応しているが、部屋23がダンパ14に一対多対応する場合、複数のダンパ14の開度は1個の温度センサ18が計測した温度により決まる。ただし、単一の部屋23に複数の空調領域21が存在する場合に、2個以上の温度センサ18が配置されていてもよい。
温度センサ18が配置される場所は、吹出口15が吹き出した空気が温度センサ18に直接当たることがないように定められる。温度センサ18の位置は、空調領域21を囲む壁面であって、例えば床から110[cm]以上120[cm]以下の高さとなるように定められる。このような温度センサ18の位置は、適宜に変更することが可能である。温度センサ18の位置は一例に過ぎず、適宜に変更することが可能である。
熱源機11は、1台の室内機111と1台の室外機112とを備えたヒートポンプ式のエアコンであって、室内機111からの空気は給気ダクト16を通して空調領域21に供給される。また、室内機111が取り込む空気は、建物20の床下22から外気ダクト171を通して取り込まれる屋外の空気と、建物20の内部から経路172を通して回収される屋内の空気とである。外気ダクト171は、床下22の空気を取り込む換気ファン19に接続されている。
熱源機11は、夏季には室内機111から冷気を送り出す冷房運転を行い、冬季には室内機111から暖気を送り出す暖房運転を行う。熱源機11の冷房運転と暖房運転との切替は、春季あるいは秋季のような中間期に行う。冷房運転と暖房運転との違いは、熱源機11の設定温度を、上限値として用いるか、下限値として用いるかの相違である。熱源機11は、冷房運転の際は、室内機111から送り出す冷気の温度が上限値である熱源機11の設定温度を上回らないように動作し、暖房運転の際は、室内機111から送り出す暖気の温度が下限値である熱源機11の設定温度を下回らないように動作する。すなわち、熱源機11は、建物20の内部から回収した空気の温度を計測し、計測した温度を設定温度に維持するように、冷気又は暖気を生成する。以下の説明において、暖房運転の際の熱量は暖気の熱量を意味し、冷房運転の際の熱量は冷気の熱量を意味する。
室内機111からの空気は、エアフィルタ12を通して搬送ファン13に送られる。エアフィルタ12は、HEPAフィルタ(HEPA:High Efficiency Particulate Air)であることが望ましい。エアフィルタ12がHEPAフィルタであれば、微小粒子状物質の除去が可能である。ここに、サイズが比較的大きい塵埃及び昆虫などは、換気ファン19と外気ダクト171と室内機111とを含む経路内の1箇所以上に配置されたフィルタによって、空気をエアフィルタ12に導入する前に除去される。そのため、エアフィルタ12の目詰まりが抑制される。
この空調システム10では、給気ダクト16は、2台の搬送ファン13が送り出した空気がそれぞれ導入される2系統の分岐ダクト161を備える。すなわち、室内機111から送り出されエアフィルタ12を通過した後に2台の搬送ファン13に送られた空気が、搬送ファン13ごとに異なる分岐ダクト161に導入される。2台の搬送ファン13はそれぞれ室内機111からの空気を加速する。この空調システム10では、2系統の分岐ダクト161それぞれが、更に5系統以上の末端ダクト162に分岐している。つまり、室内機111からの空気は10系統の末端ダクト162に導入される。
10系統の末端ダクト162のそれぞれにはダンパ14が配置される。ダンパ14は、開度が調節可能であり、開度の変化により末端ダクト162を通る空気の流量を変化させる。末端ダクト162の末端には吹出口15が接続されている。したがって、室内機111からの空気は、搬送ファン13を通してダンパ14に送られ、ダンパ14で流量が調節された後、吹出口15を通して空調領域21に吹き出す。
上述した空調システム10は、建物20の換気を常時行う。そのため、原則として、搬送ファン13は常に運転を行う。また、空調システム10は、冷房運転あるいは暖房運転を必要としない場合、熱源機11を停止させる。すなわち、外気ダクト171から室内機111に導入される外気は、熱源機11が冷却あるいは加熱を行わない場合でも、換気のために搬送ファン13により空調領域21に送り込まれる。ただし、メンテナンスなどの必要に応じて搬送ファン13を停止させることは可能である。また、換気扇などによる換気を行う場合、搬送ファン13を停止させる場合もある。
以下では、制御装置30について詳述する。制御装置30は、図2に示すように、処理部31と制御部32とを備える。処理部31は、複数の空調領域21のそれぞれに供給する熱量の配分量を定める。制御部32は、熱源機11と搬送ファン13とダンパ14との制御を行う。また、制御装置30は、操作表示装置40との間で情報の入力及び出力を行うためのインターフェイス部33を備える。
操作表示装置40は、表示装置とタッチパッドとを含むタッチパネルを備え、ユーザインターフェイス(GUI:Graphic User Interface)として機能する。すなわち、制御装置30は、操作表示装置40が備える表示装置に情報を出力し、操作表示装置40が備えるタッチパッドから入力される情報を受け付ける。操作表示装置40には、必要に応じて様々な画面が表示される。操作表示装置40は、専用でなくても、スマートフォン、タブレットコンピュータ、パーソナルコンピュータなどであってもよい。また、操作表示装置40ではなく、表示装置と操作装置とを個別に備えていてもよい。
操作表示装置40に表示される1つの画面は、ユーザの操作による入力情報として、複数の部屋23それぞれのユーザ希望温度を受け付ける。制御装置30は、操作表示装置40が受け付けたユーザ希望温度を記憶部34に格納する。記憶部34には、複数の部屋23それぞれについてユーザ希望温度が格納される。
図2に示す制御装置30の処理部31は、複数の温度センサ18それぞれと通信する取得部310を備える。この空調システム10では、取得部310は、温度センサ18との間で有線通信を行い、複数の温度センサ18に対して定期的に現在温度を問い合わせるように構成されている。すなわち、取得部310は、複数の温度センサ18に対してポーリングを行うことにより、個々の温度センサ18から現在温度を取得する。取得部310が複数の温度センサ18それぞれに現在温度を問い合わせる周期は、1分以上15分以下の範囲、望ましくは5分以上10分以下の範囲に定められている。この周期は、温度センサ18の計測精度、部屋23の温度が変化する速さなどにより決まる。
取得部310が温度センサ18から取得した現在温度は、取得部310が温度センサ18に問い合わせたときに温度センサ18が計測した温度である。ただし、温度センサ18が取得部310からの問い合わせを受けた時点付近に定めた所定期間での温度の平均値であってもよい。この所定期間は、温度センサ18が取得部310から問い合わせを受けた時点の前と後とのどちらか、あるいは、その時点を跨ぐ。この所定期間は、例えば10秒以上3分以下の範囲、望ましくは30秒以上1分以下の範囲に定められている。
制御装置30の処理部31は、取得部310に加えて、計算部311、決定部312を備える。ここで、説明のために、取得部310が取得する現在温度の時系列に順序を表す正の整数値iを対応付け、複数の部屋23を互いに区別するための識別情報をjで表す。識別情報jは、例えば正の整数値で表される。
計算部311は、複数の部屋23それぞれについて、記憶部34に格納されているユーザ希望温度に基づいて目標温度を定める。制御装置30の動作によっては、目標温度がユーザ希望温度と異なる場合があるが、ここでは、目標温度がユーザ希望温度と同じである場合について説明する。第1計算部311は、取得部310が取得した現在温度とを入力として、所定時間ごとに取得した現在温度と目標温度との温度差を計算する。識別情報がjである部屋23について、取得部310が取得した現在温度をθj1(i)で表し、目標温度をθj2で表すと、計算部311は、温度差Δθj(i)を、Δθj(i)=θj1(i)−θj2という計算で求め、正負の符号付きで出力する。計算部311は、複数の部屋23それぞれについて温度差Δθj(i)を求める。計算部311が求めた温度差Δθj(i)は、部屋23の識別情報jに対応付けて記憶部34に一時的に格納される。記憶部34に格納された温度差Δθj(i)は、取得部310が現在温度θj1(i)を取得するたびに更新される。
決定部312は、複数の部屋23それぞれについて、計算部311が求めたi番目の温度差Δθj(i)を用いて、複数の部屋23それぞれに熱源機11から供給する熱量の配分量を定める。複数の部屋23それぞれに配分される熱量は、複数のダンパ14それぞれの開度と、2台の搬送ファン13それぞれの風量と、熱源機11が単位時間当たりに生成する熱量とにより定まる。すなわち、決定部312は、複数の部屋23それぞれの温度差Δθj(i)に基づいて、複数のダンパ14それぞれの開度を定めた後に、2台の搬送ファン13それぞれの風量及び熱源機11が単位時間当たりに生成する熱量を定める。
建物20の1つの部屋23に着目すると、決定部312は、空調システム10が冷房期間には、温度差Δθj(i)の符号が正であって絶対値が大きいほど、開度が大きくなるようにダンパ14の開度を定める。一方、空調システム10が暖房期間には、決定部312は、温度差Δθj(i)の符号が負であって絶対値が大きいほど、開度が大きくなるようにダンパ14の開度を定める。ダンパ14の開度は、複数段階から選択される。決定部312は、温度差Δθj(i)を複数の区間に区分し、温度差Δθj(i)の各区間にダンパ14の開度を対応付けている。したがって、決定部312は、温度差Δθj(i)に応じたダンパ14の開度を定めることができる。
取得部310が複数の部屋23それぞれの現在温度を取得すると、決定部312は複数の部屋23それぞれに対応するダンパ14の開度を求める。決定部312は、複数の部屋23それぞれに配分する単位時間当たりの熱量を決めるために、ダンパ14の開度を求めた後には、2台の搬送ファン13それぞれの風量を求める。2台の搬送ファン13の風量は、それぞれ複数段階から選ぶことが可能であり、この空調システム10では、2台の搬送ファン13の風量がそれぞれ4段階から選ばれる。
この空調システム10では1台の搬送ファン13に5個のダンパ14を対応させているから、決定部312は、1台の搬送ファン13の風量を、搬送ファン13に対応した5個のダンパ14の開度に基づいて定める。搬送ファン13の風量は、ダンパ14の開度とあらかじめ対応付けてある。決定部312は、1台の搬送ファン13に対応した5個のダンパ14それぞれの開度を決めた後、搬送ファン13の風量を定める。また、決定部312は、10個のダンパ14の開度に基づいて2台の搬送ファン13の風量を決めた後、熱源機11の風量を定める。搬送ファン13の風量と熱源機11の風量とは、あらかじめ対応付けられている。
熱源機11の設定温度は、空調システム10が冷房運転であれば、複数の部屋23の目標温度のうちの最低温度よりも低い温度に設定され、空調システム10が暖房運転であれば、複数の部屋23の目標温度のうちの最高温度よりも高い温度に設定される。例えば、暖房運転であれば熱源機11の設定温度は、複数の部屋23の目標温度のうちの最高温度に、適宜の温度を加算した値に定められる。最高温度に加算する温度は、1[℃]以上7[℃]未満の範囲から選択され、一例として4[℃]に設定される。冷房運転であれば、同程度の温度が上述した最低温度から減算される。熱源機11の設定温度が決まると、熱源機11が単位時間当たりに供給する熱量は、風量によって調節される。決定部312は、熱源機11の風量を、2台の搬送ファン13の風量の合計に近くなるように決定する。
ところで、上述した空調システム10では、制御装置30が、複数の空調領域21それぞれの温度を計測する複数の温度センサ18と通信を行い、複数の空調領域21それぞれの現在温度に基づいて熱源機11及び分配装置102を制御している。したがって、制御装置30は、複数の温度センサ18のいずれかとの通信ができないと、その温度センサ18に対応する空調領域21の現在温度を取得することができない。制御装置30は、現在温度を取得できない空調領域21については、冷気又は暖気の供給量を決定することができない。言い換えると、分配装置102は、熱源機11が生成した冷気又は暖気を、複数の空調領域21それぞれの現在温度及び目標温度に合うように適切に配分することができない。
制御装置30が複数の温度センサ18の少なくとも1つから現在温度を取得できないという事象が生じた場合に、熱源機11及び分配装置102を停止させるように制御装置30を設計することが考えられる。しかしながら、空調システム10は、全館空調システムであるから、冷気又は暖気を空調領域21に供給するように動作しているときに、熱源機11及び分配装置102が停止すると、複数の空調領域21のすべてで冷気又は暖気の供給が停止する。そのため、空調システム10の動作が回復するまでに、建物20における複数の空調領域21の温度が大きく変化し、建物20内の人にとっての快適性が損なわれる可能性がある。また、気温が非常に高い時期であれば、冷気が停止すると、建物20内の人が熱中症になる可能性があり、気温が非常に低い時期であれば、暖気が急に停止すると、建物20内の人にヒートショックが生じる可能性がある。
そのため、本実施形態の空調システム10では、制御装置30が、複数の温度センサ18のうちの少なくとも1つから現在温度を取得できない場合でも、熱源機11および分配装置102を動作させ、冷気又は暖気を空調領域21に供給する構成を採用している。具体的には、複数の温度センサ18のうちの少なくとも1つから現在温度を取得できないという事象が起こることを条件に含む異常条件が定められ、制御装置30は、異常条件が成立したときに、熱源機11及び分配装置102を以下に説明するように動作させる。
制御装置30は、複数の空調領域21すべてについて現在温度を取得可能であるときの熱源機11の設定温度とは別に、異常条件が成立した場合に指示する設定温度が定められている。異常条件が成立したときの設定温度は、空調システム10が冷房運転である期間と、空調システム10が暖房運転である期間とでは、個別に設定されていることが望ましい。
ところで、制御装置30には、冷房運転の期間と暖房運転の期間とのそれぞれに対して「代表温度」が定められている。代表温度は、建物20の基準となる温度である。制御装置30に代表温度が決められていることにより、複数の空調領域21それぞれの目標温度は、代表温度に対して補正値を加算又は減算することにより設定される。言い換えると、代表温度は、複数の空調領域21それぞれの目標温度に対して補正値分の温度差であり、目標温度との温度差は比較的小さいと言える。
本実施形態の空調システム10では、制御装置30は、異常条件が成立したときに、熱源機11に設定温度を代表温度とするように指示する。熱源機11の設定温度が代表温度であれば、建物20の複数の空調領域21それぞれの目標温度が異なっていたとしても、代表温度に対しては補正値分の温度差であるから、熱源機11が生成する冷気又は暖気の温度との差異は比較的少ない。熱源機11の風量は、大きいほうが望ましいが、調節可能範囲の最大値である必要はない。熱源機11の風量が停止を除いて5段階に設定できるとすれば、異常条件が成立したときの風量は、上位2段階のいずれかに設定されることが望ましい。
さらに、制御装置30は、異常条件が成立したときに、建物20のすべての空調領域21への冷気又は暖気の供給量を等しくするように、分配装置102に指示する。具体的には、すべての空調領域21に対応したダンパ14の開度を最大にする。また、制御装置30は、異常条件が成立したときに、搬送ファン13に対して、風量の調節可能範囲における中央値以上の風量になるように指示を与える。搬送ファン13は、風量を4段階から選択可能である構成を想定しているから、異常条件が成立したときの風量は、上位の2段階のいずれかに定める。なお、搬送ファン13の4段階の風量は、搬送ファン13の停止を含まない。
上述のように制御装置30は、異常条件が成立すると、熱源機11の設定温度を代表温度とし、建物20のすべての空調領域21への冷気又は暖気の供給量がほぼ等しくなるように分配装置102を制御する。この動作により、異常条件が成立した後でも、熱源機11および分配装置102の動作は停止せず、しかも熱源機11の設定温度が代表温度であるから、各空調領域21の目標温度に対する温度変化が抑制される。また、制御装置30は、異常条件が成立すると、ダンパ14の開度を最大にし、熱源機11の風量および搬送ファン13の風量を比較的大きくすることで、建物20のすべての空調領域21に単位時間当たりに供給する冷気又は暖気の体積を比較的大きくしている。そのため、建物20の内部に供給される冷気又は暖気が混ざりやすくなる。
異常条件は、上述したように、制御装置30が複数の温度センサ18の少なくとも1つから現在温度を取得できないという事象が起こることを条件に含んでいる。このような事象は、温度センサ18の動作が異常である場合、あるいは制御装置30と温度センサ18との間の通信が成立しなかった場合に起こる可能性がある。温度センサ18の動作が異常である場合には、温度センサ18から前回取得した現在温度との温度差が所定値を超えている場合、温度センサ18が異常信号を通知した場合などを含む。また、通信が成立しない場合には、温度センサ18が動作しない場合、通信の干渉あるいはノイズの影響によって通信エラーが生じる場合などを含む。制御装置30と温度センサ18との間の通信が成立しなければ、通信のリトライを行うことが可能であるが、短時間で解消しない異常が生じている場合には、通信のリトライを行っても現在温度を取得することは難しい。そのため、異常条件は、現在温度を取得できないという事象が連続して起こる回数が判定回数に達するという条件を含むことが望ましい。
この場合、いずれかの空調領域21について現在温度を取得できないという事象が連続して起こる回数が判定回数に達するまでは、制御装置30は、当該空調領域21の現在温度を過去に取得した現在温度で代用することが望ましい。ここで、事象が連続して起こる回数は、空調領域21ごとにカウントされる。たとえば、判定回数が3回であり、現在温度を取得できないという事象が居間と寝室とで起こる場合には、居間と寝室とのそれぞれで事象が起こる回数が判断される。
この動作のために、制御装置30は、建物20のすべての空調領域21について、過去の所定個数の現在温度を記憶部34に記憶させる。また、制御装置30は、いずれかの空調領域21の現在温度を取得できないという事象が起こると、当該空調領域21の現在温度を、記憶部34に格納されている最新の現在温度で代用する。上述のように、判定回数が3回であれば、制御装置30は、事象が1回生じた時点では、現在温度を1回前に取得した現在温度で代用し、その事象が2回連続して生じた時点では、現在温度を2回前に取得した現在温度で代用する。また、制御装置30は、事象が3回連続して生じた場合は、上述したように、熱源機11には設定温度を代表温度とするように指示し、分配装置102にはダンパ14の開度を最大とし、搬送ファン13の風量を比較的大きくするように指示する。制御装置30が現在温度を10分に1回取得するとすれば、制御装置30は、現在温度を取得できない状態が30分継続した場合に、異常条件が成立したと判断する。
上述した制御装置30の動作を図3にまとめて示す。制御装置30は、温度センサ18からの現在温度θ(i)の取得を試み(S11)、すべての温度センサ18から現在温度θ(i)を取得できたときには(S12:Y)、取得した現在温度θ(i)を採用する。熱源機11の設定温度は、冷房運転時には、建物20の部屋23の目標温度のうちの最低温度から適宜の温度を減算し、暖房運転時には、建物20の部屋23の目標温度のうちの最高温度に適宜の温度を加算した値に定める(S13)。
また、ステップS12において、複数の温度センサ18のいずれかから現在温度θ(i)を取得できないという事象が起これば(S12:N)、制御装置30は、その事象が連続して起こった回数が判定回数に達したか否かを判定する(S14)。判定回数に達していなければ(S14:N)、制御装置30は、現在温度として、記憶部34に格納されている過去の現在温度(θ(i−1)など)を採用する。この場合も、熱源機11の設定温度は、冷房運転時には、建物20の部屋23の目標温度のうちの最低温度から適宜の温度を減算し、暖房運転時には、建物20の部屋23の目標温度のうちの最高温度に適宜の温度を加算した値に定める(S15)。
一方、ステップS14において、判定回数に達していれば(S14:Y)、代表温度を熱源機11の設定温度として採用する(S16)。制御装置30は、ステップS13、S15、S16のいずれかで定めた設定温度を熱源機11に指示する(S17)。なお、図3では、分配装置102の制御に関する記述は省略している。
上述した制御装置30は、プログラムを実行するプロセッサを備えるデバイスを主なハードウェア構成として実現される。プロセッサを備えるデバイスは、半導体メモリを別に設けるMPU(Micro Processing Unit)のほか、半導体メモリと合わせて単一のパッケージに収納したマイクロコントローラ(Micro-Controller)でもよい。制御装置30は、メモリとして、少なくともRAM(Random Access Memory)を備え、他にROM(Read-Only Memory)とEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)との少なくとも一方を備えることが望ましい。
プログラムは、ROMに書き込まれた状態で提供されるほか、光学記録ディスクのような記録媒体あるいはフラッシュメモリを備える記録媒体であって、コンピュータ読取可能な記録媒体によって提供されてもよい。また、プログラムは、インターネット、移動体通信網などの電気通信回線を通して提供されてもよい。記録媒体あるいは電気通信回線により提供されるプログラムは、書換可能な不揮発性メモリ(例えば、EEPROM)に格納されることが望ましい。
建物20は、戸建て住宅に限らず、集合住宅、店舗などの他の建物であってもよい。空調システム10として、ヒートポンプ式の熱源機11を備える構成を例示したが、空調システム10は、温水あるいは冷水を複数のファンコイルユニットに通す構成などであってもよい。また、熱源機11が生成した冷気又は暖気を複数の空調領域21に分配する場合を例として説明したが、単一の空調領域21に1台の熱源機11が配置されている場合でも、熱源機11を通年で運転する場合には、上述した技術を採用することが可能である。
上述した空調システム10では、エアフィルタ12としてHEPAフィルタを採用しているが、他の構成のエアフィルタ12を用いることを妨げない。上述した搬送ファン13の台数、ダンパ14及び吹出口15の個数、温度センサ18の個数、部屋23の個数などは一例であり、適宜に変更される。また、搬送ファン13は空調システム10の必須構成ではない。すなわち、空調システム10は、熱源機11が生成した冷気又は暖気が、加速されることなくダンパ14を通って吹出口15から吹き出す構成であってもよい。
上述した空調システム10において、取得部310は、温度センサ18との間で有線通信を行っているが、無線通信を行ってもよく、建物20において有線通信と無線通信とが混在していてもよい。取得部310と温度センサ18との間の通信規約にはとくに制限はない。また、上述した空調システム10では、取得部310が複数の温度センサ18それぞれに現在温度を問い合わせる構成であるが、複数の温度センサ18が適宜のタイミングで現在温度を取得部310に送信する構成であってもよい。
さらに、上述した空調システム10では、現在温度θ1(i)と目標温度θ2との相違の程度が温度差Δθ(i)で表されており、制御装置30は、温度差Δθ(i)に基づいてダンパ14の開度を決めている。これに対して、現在温度θ1(i)と目標温度θ2との相違の程度は、目標温度θ2に対する現在温度θ1(i)の比で表してもよい。
以上説明したように、空調システム10は、熱源機11と分配装置102と複数の温度センサ18と制御装置30とを備える。熱源機11は、建物20の内部から回収した空気の温度を設定温度に維持するように冷気又は暖気を生成する。分配装置102は、熱源機11が生成した冷気又は暖気を建物20の複数の空調領域21に配分する。複数の温度センサ18は、複数の空調領域21それぞれの温度を現在温度θ1(i)として計測する。制御装置30は、複数の空調領域21それぞれについて、所定の時間間隔で現在温度θ1(i)と目標温度θ2との相違の程度に基づいて熱源機11及び分配装置102の動作を制御する。また、制御装置30は、複数の温度センサ18のうちの少なくとも1つから現在温度θ1(i)を取得できないという事象が起こることを条件に含む異常条件が成立したときに、熱源機11と分配装置102とに以下のように指示する。すなわち、制御装置30は、所定の代表温度を設定温度として熱源機11に指示し、複数の空調領域21それぞれに配分される冷気又は暖気の供給量を等しくするように分配装置102に指示する。
したがって、空調システム10は、制御装置30が温度センサ18から現在温度θ1(i)を取得できない場合でも、熱源機11が停止せず、空調領域21の温度変化の抑制が可能である。また、複数の空調領域21への冷気又は暖気の供給量を等しくするから、複数の空調領域21それぞれでは温度に変化が生じることがあるが、変化の程度は比較的小さく、空調領域21の温度変化の抑制が可能である。なお、代表温度を熱源機11の設定温度として指示する場合、複数の空調領域21への冷気又は暖気の単位時間当たりの供給量ができるだけ多くなるように、熱源機11及び分配装置102の上限付近に設定することが望ましい。この場合、複数の空調領域21への冷気又は暖気の供給量が多くなることによって、建物20の内部の空気が攪拌され、建物20内の温度差が抑制される。
異常条件は、制御装置30が、複数の温度センサ18のうちの少なくとも1つの温度センサ18から現在温度θ1(i)を取得できないという事象が連続して起こる回数が所定の複数回である判定回数に達することであることが望ましい。
すなわち、制御装置30が温度センサ18から現在温度θ1(i)を取得できないという事象が偶発的に起こったとしても、ただちに異常条件とみなさず、熱源機11及び分配装置102の運転を継続させることが可能である。
制御装置30は、複数の温度センサ18のうちの少なくとも1つの温度センサ18から現在温度θ1(i)を取得できないという事象が連続して起こる回数が判定回数に達するまでは、以下の動作を行うことが望ましい。すなわち、制御装置30は、異常条件が成立する前には、現在温度θ1(i)として、当該温度センサ18から過去に取得した現在温度(θ1(i−1)など)を代用することが望ましい。
この動作によって、制御装置30が温度センサ18から現在温度θ(i)を取得できない場合であっても、空調領域21への冷気又は暖気の供給量が急激に変動することがないから、空調領域21の温度が維持される。
制御装置30は、処理部31と制御部32と記憶部34とを備えることが望ましい。処理部31は、複数の空調領域21それぞれについて、複数の温度センサ18それぞれから取得した現在温度θ(i)と目標温度θ2とに基づいて冷気又は暖気の供給量を定める。制御部32は、処理部31が定めた供給量に基づいて熱源機11及び分配装置102を制御する。記憶部34は、複数の空調領域21それぞれの現在温度θ1(i)を複数個ずつ格納する。処理部31は、以下の2つの機能を有することが望ましい。第1の機能は、複数の温度センサ18のうちの少なくとも1つの温度センサ18から現在温度θ1(i)を取得できないという事象が連続して起こる回数が判定回数に達したか否かを判断する機能である。第2の機能は、この事象が連続して起こる回数が判定回数に達するまでは、現在温度θ1(i)に代えて、記憶部34に格納されている当該温度センサ18の過去の1つの現在温度(θ(i−1)など)を用いる機能とを有する。
この構成は、制御装置30の具体例であり、通常の動作では、複数の空調領域21それぞれの現在温度θ1(i)と目標温度θ2とに基づいて、複数の空調領域21それぞれへの冷気又は暖気の供給量を決めている。また、制御装置30は、上述の事象が連続して起こる回数が判定回数に達するまでは、記憶部34に格納された過去の現在温度(θ1(i−1)など)を、今回の現在温度θ1(i)に代えて用いるから、空調領域21の急激な温度変化を回避できる。
分配装置102は、給気ダクト16と複数のダンパ14とを備えることが望ましい。給気ダクト16は、熱源機11からの冷気又は暖気を複数の空調領域21それぞれに配分するように複数系統に分岐している。複数のダンパ14は、給気ダクト16の複数系統それぞれから複数の空調領域21に吹き出す冷気又は暖気の流量を調節する。この場合、制御装置30は、異常条件が成立すると、複数のダンパ14すべての開度を最大にするように、分配装置102に指示する。
したがって、異常条件が成立すると、建物20のすべての空調領域21に供給される冷気又は暖気が混ざりやすくなる。そのため、建物20の全体の温度が均一化されやすくなる。
分配装置102は、熱源機11が供給する冷気又は暖気を複数のダンパ14に送る搬送ファン13を備えていてもよい。この場合、制御装置30は、異常条件が成立すると、搬送ファン13の風量を調節可能範囲の中央値以上とするように、分配装置102に指示する。
すなわち、搬送ファン13の風量を比較的大きくすることにより、建物20のすべての空調領域21に供給される冷気又は暖気が更に混ざりやすくなる。
以上説明した実施形態は、本発明の様々な実施形態の一部に過ぎない。また、上述した実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。