以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態にかかる高分子アクチュエータについて説明する。
図1に示すように、本実施形態にかかる高分子アクチュエータ10は、第1電極層11と、第2電極層12と、電解質層13とを備えている。高分子アクチュエータ10は、例えば一面およびその反対面となる他面を有する板状もしくは短冊状に構成されており、一面側に第1電極層11が構成され、他面側に第2電極層が構成されている。そして、第1電極層11と第2電極層12との間に所望の電位差を発生させることで使用される。
図2に示すように、第1電極層11および第2電極層12は、金属微粒子11a、12aが集まって構成されている。具体的には、第1電極層11および第2電極層12は、それぞれ、後述するポリマー14aとイオン液体14bとの混合体14中に、金属微粒子11a、12aを混合することで構成されている。
金属微粒子11a、12aは、例えば金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、ストロンチウム(Sr)、ルビジウム(Rb)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、インジウム(In)、錫(Sn)、バリウム(Ba)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、ネオジム(Nd)などの金属やこれらの金属の合金で構成されている。なお、金属微粒子11a、12aは、導電性があれば、金属酸化物や金属窒化物、金属硫化物、金属ホウ化物、金属炭化物、金属ヨウ化物、金属弗化物などの金属化合物で構成されていてもよいし、樹脂に上記の金属やその合金、導電性のある金属化合物をコーティングした粒子であってもよい。
図2に示すように、金属微粒子11a、12aは、周囲が樹脂層11b、12bによってコーティングされている。樹脂層11b、12bは、例えばポリビニルピロリドンなどの樹脂材料で構成されている。金属微粒子11a、12aが樹脂層11b、12bでコーティングされているため、金属微粒子11a、12aは、凝集することなく、単に互いに近接して集まっている。なお、樹脂層11b、12bは、金属微粒子11a、12aを完全には覆っておらず、金属微粒子11a、12aの電極の構成材料としての機能は維持されている。
また、図2に示すように、第1電極層11および第2電極層12には、金属微粒子11a、12aに加えて、添加剤11c、12cが添加されている。添加剤11c、12cは、本実施形態では、モンモリロナイトで構成されている。添加剤11c、12cを添加することにより、高分子アクチュエータ10の発生力を変えることなく、第1電極層11および第2電極層12のヤング率を高めることが可能となる。こうすることで、高分子アクチュエータ10に電圧が印加されていないときの剛性を高めることができる。
前述したように、金属微粒子11a、12aは、互いに単に近接した状態で配置されている。このため、金属微粒子11a、12aの間の隙間に混合体14が形成され、この混合体14中に後述するイオン液体14bが入り込める状態となっている。
なお、金属微粒子11a、12aの粒径については任意であるが、高分子アクチュエータ10の変位量や発生力をより大きくするためには、イオン液体14bがより多く入り込めるように、金属微粒子11a、12aの粒径が1μm以下であることが好ましい。また、第1電極層11および第2電極層12が構成する電極の厚みを効果的に厚くできるように、金属微粒子11a、12aの粒径を20nm以上にすると好ましい。一方で、より面積の大きい高分子アクチュエータ10を利用するためには、金属微粒子11a、12aの粒径を0.1〜100μmにして、第1電極層11および第2電極層12の抵抗値を小さくするとともに、ヤング率を大きくすることが好ましい。金属微粒子11a、12aの粒径が100μmよりも大きくなると、第1電極層11、第2電極層12の膜厚と同程度になり、1層の金属微粒子層で電極を形成することになるため、繰返し動作時の信頼性が低下してしまう。
図3に示すように、電解質層13は、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14中に添加剤13aが含まれた構成とされている。ポリマー14aは、イオン液体14bの移動を可能とする媒体であり、表面が負に帯電している。
ポリマー14aは、例えば、ポリテトラフルオロエチレンパーフルオロスルホン酸(ナフィオン(登録商標))、ポリビリニデンジフルオライド(PVDF)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのポリマーで構成される。
これらのうち、ナフィオンはSO3−を含むため表面が負に帯電している。一方、PVDF、PMMAは負に帯電していないが、ポリマー14aをPVDF、PMMAで構成した場合にも、ナフィオンのSO3−に相当する構成をポリマー14aに加えることにより、ポリマー14aの表面を負に帯電させることができる。
イオン液体14bは、高分子アクチュエータ10の駆動に用いられる物質であり、第1電極層11と第2電極層12との間に電位差が発生したときにポリマー14aと添加剤13aとの間の隙間を移動する移動媒体である。本実施形態では、電解質層13におけるイオン液体14bの体積占有率は、40%以上70%以下とされている。
イオン液体14bとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアン酸を用いることができる。このようなイオン液体14bは、混合体14中においてイオン分解された状態で存在し、化学式1で示されるような1−エチル−3−メチルイミダゾリウムにて構成される陽イオンと、化学式2で示されるようなチオシアン酸にて構成される陰イオンとなっている。本実施形態では、イオン液体として1−エチル−3−メチルイミダゾリウムチオシアン酸を挙げたが、揮発することがない液体であれば材質は問わない。
添加剤13aは、等電点が7以下の絶縁物であり、本実施形態では、シリカにより構成されている。シリカの等電点は4程度であり、イオン液体14bはpHが7程度であるため、添加剤13aは、電解質層13において負に帯電している。また、添加剤13aは、直径が1μm以上かつ電解質層13の厚み以下とされている。
添加剤13aは、イオン液体14bが移動する経路壁面の負の帯電量を増加させて、後述する電気浸透流を促進する役割を果たすとともに、第1電極層11と第2電極層12との間の絶縁を保つ役割を果たす。なお、添加剤13aを、等電点がイオン液体14bのpH以下の他の絶縁物で構成してもよい。
ポリマー14aと添加剤13aとの間には隙間が存在しているため、イオン液体14bは、ポリマー14aと添加剤13aとの間の隙間を移動経路として移動することが可能となっている。
このように構成される高分子アクチュエータ10は、例えば次のようにして製造される。
まず、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14に金属微粒子11aを混合した液体を平坦面の上にキャストし、平坦な膜状となるようにする。そして、例えば60℃程度の温度で溶媒を揮発させる。これにより第1電極層11が形成される。
次に、第1電極層11の上に、混合体14を含む液体をキャストし、平坦な膜状となるようにする。本実施形態では、第1電極層11の上に、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14中に添加剤13aを混合した液体をキャストする。そして、例えば60℃程度の温度で、第1電極層11の上にキャストされた液体の溶媒を揮発させる。これにより、第1電極層11と電解質層13が積層された構造が形成される。
このとき、電解質層13におけるイオン液体14bの体積占有率が40%以上70%以下となるように、混合するイオン液体14bの量を調整する。また、ポリマー14aと添加剤13aとの間にイオン液体14bの移動経路を形成するために、第1電極層11の上にキャストされた液体を攪拌する。このとき、超音波分散機を用いた攪拌や、長時間の攪拌を行わず、例えば回転式の攪拌機を用いた5分程度の攪拌にとどめ、添加剤13aとイオン液体14bとが、例えば顕微鏡観察で識別できる程度に分けられた状態を保つ。
さらに、電解質層13の上に、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14に金属微粒子12aを混合した液体をキャストし、平坦な膜状となるようにする。そして、例えば60℃程度の温度で、電解質層13の上にキャストされた液体の溶媒を揮発させる。これにより、第1電極層11と電解質層13の上に第2電極層12が積層された構造が形成される。このようにして、本実施形態にかかる高分子アクチュエータ10が製造される。
続いて、本実施形態の高分子アクチュエータ10の動作について説明する。
図4に示すように、第1電極層11および第2電極層12に対して電圧を印加していない状態においては、高分子アクチュエータ10は変形することなく平坦な状態となる。
そして、第1電極層11に対して正電圧を印加すると共に第2電極層12を接地電位にすると、ポリマー14aと添加剤13aとの間の隙間を移動経路としてイオン液体14bがマイナス側、すなわち第2電極層12側に移動して、金属微粒子12aの間に入り込む。
イオン液体14bが入り込んだ分、金属微粒子12aの間が広がって第2電極層12が膨張するため、第2電極12側が凸形状、第1電極11側が凹形状となるように高分子アクチュエータ10が変形する。なお、後述するように、本実施形態では電気浸透流が発生し、陽イオンおよび陰イオンが第2電極層12に向かって移動する。
同様に、第2電極層12に対して正電圧を印加すると共に第1電極層11を接地電位にすると、ポリマー14aと添加剤13aとの間の隙間を移動経路としてイオン液体14bがマイナス側、すなわち第1電極層11側に移動して、金属微粒子11aの間に入り込む。
イオン液体14bが入り込んだ分、金属微粒子11aの間が広がって第1電極層11が膨張するため、第1電極11側が凸形状、第2電極12側が凹形状となるように高分子アクチュエータ10が変形する。
このような動作において、高分子アクチュエータ10の変形量および発生力は、電気浸透流が発生するか否かにより大きく変化する。電気浸透流は、陽イオンおよび陰イオンがマイナス側の電極層に向かって移動する流れである。
電気浸透流が発生しない場合、イオン液体14bのうち陽イオンのみがマイナス側の電極層に移動し、陰イオンはプラス側の電極層に移動する。そして、マイナス側の電極層は、マイナス側の電極層に入り込んだ陽イオンの量に応じて膨張し、プラス側の電極層は、プラス側の電極層に入り込んだ陰イオンの量に応じて膨張する。
したがって、高分子アクチュエータ10は、2つの電極層のうち、変形量が大きい方が凸形状となるように変形するが、高分子アクチュエータ10の変形は、変形量が小さい方の電極層の膨張によって妨げられる。
例えば、マイナス側の電極層の変形量がプラス側の電極層の変形量よりも大きい場合、マイナス側の電極層の膨張による高分子アクチュエータ10の変形は、プラス側の電極層の膨張によって妨げられる。同様に、プラス側の電極層の変形量がマイナス側の電極層の変形量よりも大きい場合、プラス側の電極層の膨張による高分子アクチュエータ10の変形は、マイナス側の電極層の膨張によって妨げられる。
これに対し、電気浸透流が発生する場合、陽イオンおよび陰イオンがマイナス側の電極層に向かって移動する。そして、マイナス側の電極層は、マイナス側の電極層に入り込んだイオン液体14bの量に応じて膨張し、プラス側の電極層はほとんど膨張しない。したがって、マイナス側の電極層の膨張による高分子アクチュエータ10の変形がプラス側の電極層の膨張によって妨げられることが抑制され、高分子アクチュエータ10の変形量および発生力の低下が抑制される。
また、陽イオンがマイナス側の電極層に移動し、陰イオンがプラス側の電極層に移動する電気泳動では、イオン移動による電流が発生する。したがって、図5に示すように、電気泳動による変位量が大きくなるにつれて電流値も大きくなるので、変位量を大きくするためには高分子アクチュエータ10の消費電力を大きくする必要がある。
これに対し電気浸透流では、イオンの流れは電界によって生じるので、電流はほとんど発生しない。電気浸透流と共に電気泳動や経路側面の電荷の移動が発生する場合には、電流が発生し、変位量が低下している。その結果、図6に示すように、変位量が大きくなるにつれて電流値が小さくなる。したがって、高分子アクチュエータ10の製造プロセスを調整することにより、変位量を大きくするとともに消費電力を少なくすることが可能となり、高分子アクチュエータ10のアプリケーション適用上の利点が増す。
なお、図5、図6は、製造プロセスの詳細な条件を様々に変化させて複数の高分子アクチュエータ10を製造し、製造した各高分子アクチュエータ10について、図7、図8に示す装置を用いて調べた電流値と変位量との関係を示すグラフである。
図7、図8に示す装置では、高分子アクチュエータ10の長手方向の両端部のうち、一方の端部が厚み方向の両側から2つの押さえ板20で挟まれ、固定されている。そして、この押さえ板20を介して第1電極層11と第2電極層12との間に直流電圧が印加されるようになっている。また、高分子アクチュエータ10のうち、押さえ板20で挟まれていない部分は、厚み方向に変位可能とされている。
高分子アクチュエータ10のうち押さえ板20とは反対側にある先端部の厚み方向の変位量をδとする。また、高分子アクチュエータ10のうち厚み方向に変位可能とされた部分の長さをLとする。また、高分子アクチュエータ10の幅をWとする。高分子アクチュエータ10のうち押さえ板20に挟まれた部分の長さは5mmとされており、長さLは10mmとされており、幅Wは2mmとされている。
図5、図6のグラフの横軸は、第1電極層11と第2電極層12との間に3Vの直流電圧を印加したときの電圧印加直後に2つの電極層の間に流れた電流の大きさであり、縦軸は、高分子アクチュエータ10の先端部の変位量δである。
また、高分子アクチュエータ10を電気泳動で動作させる場合、電解質層13の厚みを薄くすると、高分子アクチュエータ10の剛性が低くなるため、変位量は大きくなるが、発生力は小さくなる。
高分子アクチュエータ10を電気浸透流で動作させる場合、電解質層13の厚みを薄くすると、電気泳動の場合と同様に高分子アクチュエータ10の剛性が低くなり、発生力が小さくなるとともに変位量が大きくなる効果が働く。一方、電解質層13の厚みを薄くすると、第1電極層11と第2電極層12との間の電界強度が大きくなるため、電気浸透流が大きくなり、各電極層の膨張圧も大きくなる。これにより、変位量と発生力が共に大きくなる効果が働く。
高分子アクチュエータ10の剛性の低下による発生力の減少量と、電気浸透流の増加による発生力の増加量は、ほぼ同等である。そのため、高分子アクチュエータ10を電気浸透流で動作させる場合、図9に示すように、電解質層13の厚みを薄くすると、変位量は大きくなり、発生力はほとんど変化しない。なお、図9は、第1電極層11、第2電極層12の厚みを200μmとして、電解質層13の厚みを変化させたときの変位量特性および発生力特性を示すグラフである。
このように、高分子アクチュエータ10を電気浸透流で動作させる場合には、電解質層13の厚みを調整することにより、変位量および発生力のうち変位量だけを変更することができるので、所望の変位量および発生力の特性を得ることが容易である。したがって、高分子アクチュエータ10を電気浸透流で動作させる場合には、アプリケーションへ適用する際の設計範囲が広がり、高分子アクチュエータ10が使いやすくなる。
また、電気泳動による屈曲では、第1電極層11と第2電極層12との間の電界により、陽イオン、陰イオンがそれぞれマイナス側、プラス側の電極層に集まるので、動作による第1電極層11および第2電極層12のヤング率の変動が大きくなる。
これに対し、高分子アクチュエータ10を電気浸透流で動作させ、制御する場合には、電解質層13に添加された絶縁材13a、ポリマー14a等の材料を電気的に刺激してイオン液体14bを動かしている。そのため、電気泳動の場合と比べて、イオンの動きが力学的特性に従いやすくなり、図10に示すように、変位量と発生力との関係が、下記の数式1、2に示す力学的な理論式に近いものとなる。すなわち、第1電極層11および第2電極層12のヤング率の増加に伴い、変位量が減少し、発生力が増加する。したがって、電気浸透流を利用する場合、高分子アクチュエータ10の設計が容易になる。
なお、Fは、高分子アクチュエータ10の発生力であり、Eは、第1電極層11、第2電極層12のヤング率であり、α、βは、イオン液体14bの移動し易さを表す係数である。また、h1は、第1電極層11、第2電極層12の厚みであり、h2は、電解質層13の厚みである。また、数式2は、δ<Lのときの理論式である。また、図10は、h1=h2=200μm、L=10mm、W=2mmとし、第1電極層11と第2電極層12との間に2Vの直流電圧を印加したときの測定結果を示すグラフである。
このように、電気浸透流を発生させることにより、高分子アクチュエータ10の特性を向上させることができる。電気浸透流を発生させるためには、ポリマー14aの表面が負に帯電していることが必要である。
高分子アクチュエータ10の製造において、ポリマー14aがイオン液体14bと混合され、キャストされた状態では、ポリマー14aの表面は、負に帯電している。しかし、この後、例えば特許文献1に記載されているようにホットプレスを用いて2つの電極層と電解質層13とを圧着すると、熱によりポリマー14aが劣化し、負の帯電量が小さくなる。
これに対し、本実施形態では、混合体14等のキャストと、60℃程度での溶媒の揮発とを繰り返すことにより、第1電極層11、電解質層13、第2電極層12を順に積層して高分子アクチュエータ10を製造している。このように、ホットプレスを用いる場合よりも低温で高分子アクチュエータを製造することができるため、熱によるポリマー14aの劣化を抑制し、ポリマー14aの表面が負に帯電した状態を保つことができる。
また、電気浸透流を発生させるためには、電解質層13におけるイオン液体14bの体積占有率が十分高い必要がある。イオン液体14bの体積占有率と、高分子アクチュエータ10の変位量および発生力との関係について調べたところ、図11に示す結果となった。
図11のグラフからわかるように、イオン液体14bの体積占有率が約40%のとき、イオン液体14bの体積占有率の増加に伴い、高分子アクチュエータ10の変位量および発生力が大きく増加する。したがって、イオン液体14bの体積占有率が40%以上のときに電気浸透流が発生していると考えられ、イオン液体14bの体積占有率を40%以上とすることが好ましい。
高分子アクチュエータ10の製造において、例えば、第1電極層11と第2電極層12とで電解質層13を挟んだ構造を形成した後に、電解質層13にイオン液体14bを含有させると、イオン液体14bが電解質層13に十分に浸透しない。そのため、電解質層13におけるイオン液体14bの体積占有率を40%以上とすることが困難である。
これに対し、本実施形態では、電解質層13を形成する工程において、ポリマー14aとイオン液体14bとを混合して成形している。そのため、電解質層13におけるイオン液体14bの体積占有率を40%以上とすることが可能である。
また、電解質層13の形状は、ポリマー14aの分子が絡み合って膜状に保たれているが、イオン液体14bの体積占有率が90%よりも大きくなると、ポリマー14aの分子が絡み合わず、電解質層13の形状を膜状に保つことができない。したがって、ポリマー14aの分子が絡み合って電解質層13の膜の形状を維持するためには、イオン液体14bの体積占有率を90%以下とすることが好ましい。
また、電気浸透流は直径1μm以下の経路で発生する。したがって、イオン液体14bの体積占有率は、ポリマー14aと添加剤13aとの間に形成された経路の直径の最大値が約1μmとなるときの体積占有率以下であることが好ましい。
イオン液体14bの体積占有率が40%のときに電解質層13に含まれる経路を調べたところ、経路の直径は最大で約500nmであった。
イオン液体14bの体積占有率が40%であり、電解質層13に含まれる経路の直径が最大で約500nmであるときのポリマー14a、イオン液体14bの体積をそれぞれV1、V2とする。また、経路の形状を円柱状とし、イオン液体14bの体積占有率の変化により、経路の長さは変化せず直径が変化するものとすると、ポリマー14aの体積がV1、経路の直径の最大値が約1μmとなるときのイオン液体14bの体積は、4V2となる。
ポリマー14aの体積がV1、イオン液体14bの体積が4V2のとき、イオン液体14bの体積占有率は、{4V2/(V1+4V2)}×100[%]となる。V1:V2=60:40より、経路の直径の最大値が約1μmとなるときのイオン液体14bの体積占有率は、約73%となる。よって、イオン液体14bの体積占有率を70%以下とすることで、経路の直径を1μm以下にすることができると考えられる。
以上より、高分子アクチュエータ10の特性を良好にするためには、イオン液体14bの体積占有率を40%以上90%以下とすることが好ましく、40%以上70%以下とすることがさらに好ましい。
本実施形態では、電解質層13を形成する工程において、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14中に添加剤13aを混合した液体をキャストしている。このような方法では、混合するイオン液体14bの量を調整することにより、電解質層13におけるイオン液体14bの体積占有率を容易に調整することができる。これにより、イオン液体14bの体積占有率を40%以上70%以下とすることができる。
以上説明したように、本実施形態では、ポリマー14aの劣化を抑制し、電解質層13におけるイオン液体14bの体積占有率を電気浸透流の発生のために好ましい値とすることにより、電気浸透流を発生させ、高分子アクチュエータ10の特性を向上させることができる。
また、電解質層13におけるイオン液体14bの体積占有率を大きくすることにより、電気浸透流によって流れるイオン液体14bの量が大きくなり、高分子アクチュエータ10の変形量を大きくすることができる。
また、本実施形態では、電解質層13が添加剤13aを備えている。本実施形態で添加剤13aとして用いたシリカの等電点は4程度であり、イオン液体14bはpHが7程度であるため、添加剤13aは、電解質層13において負に帯電している。これにより、イオン液体14bの移動する経路壁面の負の帯電量を増加させ、電気浸透流を促進して、高分子アクチュエータ10の特性をさらに向上させることができる。
また、添加剤13aによる電気浸透流の促進の効果は、添加剤13aがポリマー14aに付着しているときに高くなる。そして、添加剤13aの直径があまりに小さいと、添加剤13aがポリマー14aに付着せず、ポリマー14aの間に形成された経路の内部にのみ存在して、電気浸透流の促進の効果が低くなる可能性がある。
前述したように、本実施形態では、電気浸透流を発生させるために、イオン液体14bの量を調整して経路の直径を1μm以下としている。そのため、添加剤13aの直径が1μm未満の場合、添加剤13aがポリマー14aに付着せず、経路の内部にのみ存在する可能性がある。
これについて、本実施形態では、添加剤13aの直径が1μm以上とされているため、添加剤13aをポリマー14aに付着させ、添加剤13aによる電気浸透流の促進の効果を高くして、高分子アクチュエータ10の特性をさらに向上させることができる。なお、添加剤13aが電解質層13に含まれていることから、添加剤13aの直径は電解質層13の膜厚以下となる。
また、本実施形態では、電解質層13を形成する工程において、混合体14中に添加剤13aを混合した液体の攪拌を、添加剤13aとイオン液体14bとが顕微鏡観察で識別できる程度に分けられた状態が保たれる程度にとどめている。これにより、イオン液体14bに含まれる陰イオンが添加剤13aにトラップされ、電気浸透流が促進されるため、高分子アクチュエータ10の特性をさらに向上させることができる。
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して第1電極層11および第2電極層12の構成を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
本実施形態の第1電極層11は、金属微粒子11aの濃度が互いに異なる2つの領域を有している。これら2つの領域のうち、金属微粒子11aの濃度が高い方を密の領域111、金属微粒子11aの濃度が低い方を疎の領域112とする。
図12に示すように、電解質層13は、密の領域111および疎の領域112に接している。また、本実施形態では、第1電極層11は疎の領域112を複数備えており、複数の疎の領域112はそれぞれ電解質層13に接している。また、本実施形態では、複数の疎の領域112はそれぞれ直線状とされており、第1電極層11のうち電解質層13側の部分において、ストライプ状に並んでいる。密の領域111は、隣り合う2つの疎の領域112に挟まれた部分と、疎の領域112の上面とに形成されており、第1電極層11のうち電解質層13とは反対側の部分は、密の領域111で構成されている。
疎の領域112は、金属微粒子11aの濃度が低く、抵抗値が大きいが、上記のように、金属微粒子11aの濃度が高く抵抗値が小さい密の領域111が、第1電極層11のうち電解質層13側の面から電解質層13とは反対側の面に至って形成されている。そのため、第1電極層11の抵抗値が小さく保たれ、電極としての機能が維持される。
同様に、本実施形態の第2電極層12は、金属微粒子12aの濃度が互いに異なる2つの領域を有している。これら2つの領域のうち、金属微粒子12aの濃度が高い方を密の領域121、金属微粒子12aの濃度が低い方を疎の領域122とする。
図12に示すように、電解質層13は、密の領域121および疎の領域122に接している。また、本実施形態では、第2電極層12は疎の領域122を複数備えており、複数の疎の領域122はそれぞれ電解質層13に接している。また、本実施形態では、複数の疎の領域122はそれぞれ直線状とされており、第2電極層12のうち電解質層13側の部分において、ストライプ状に並んでいる。密の領域121は、隣り合う2つの疎の領域122に挟まれた部分と、疎の領域122の上面とに形成されており、第2電極層12のうち電解質層13とは反対側の部分は、密の領域121で構成されている。
疎の領域122は、金属微粒子12aの濃度が低く、抵抗値が大きいが、上記のように、金属微粒子12aの濃度が高く抵抗値が小さい密の領域121が、第2電極層12のうち電解質層13側の面から電解質層13とは反対側の面に至って形成されている。そのため、第2電極層12の抵抗値が小さく保たれ、電極としての機能が維持される。
これら第1電極層11、第2電極層12が備える密の領域111、121、疎の領域112、122は、本実施形態では、パーコレーション閾値を基準として形成されている。
ある系において、系の中に存在する物質の濃度がある閾値以上になると、この物質が連なって、系の端と端とをつなぐようになる。例えば、第1実施形態の第1電極層11において、金属微粒子11aの濃度がある閾値以上になると、複数の金属微粒子11aが互いに連なって、第1電極層11の端部と端部とを連結する。この閾値がパーコレーション閾値である。
パーコレーション閾値は、物質の形と大きさによって定まる。本実施形態では、金属微粒子11a、12aの形と大きさから求められたパーコレーション閾値を基準として、2つの領域が形成されている。つまり、密の領域111、121においては、金属微粒子11a、12aの濃度がパーコレーション閾値以上とされており、疎の領域112、122においては、金属微粒子11a、12aの濃度がパーコレーション閾値未満とされている。
なお、金属微粒子11a、12aは、周囲が樹脂層11b、12bによってコーティングされているが、第1実施形態で述べたように、樹脂層11b、12bは、金属微粒子11a、12aを完全には覆っておらず、各電極層の導電性は維持されている。そこで、本実施形態では、樹脂層11b、12bの形と厚みを考慮せず、金属微粒子11a、12aの形と大きさに基づいてパーコレーション閾値を求め、これを基準として密の領域111、121および疎の領域112、122を形成している。
このような構成の高分子アクチュエータ10の製造方法について、図13、図14を用いて説明する。
図13(a)に示す工程では、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14に金属微粒子11aを混合した液体を平坦面の上にキャストし、平坦な膜状となるようにする。ここで、この液体に含まれる金属微粒子11aの濃度をパーコレーション閾値以上とする。そして、例えば60℃程度の温度で溶媒を揮発させる。
図13(b)に示す工程では、表面に凹凸が形成された型を図13(a)に示す工程で形成された膜の表面に押し当て、この膜の表面に凹凸を形成する。これにより密の領域111が形成される。
図13(c)に示す工程では、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14に金属微粒子11aを混合した液体を密の領域111の上にキャストし、表面が平坦な膜状となるようにする。ここで、この液体に含まれる金属微粒子11aの濃度をパーコレーション閾値未満とする。そして、例えば60℃程度の温度で溶媒を揮発させる。これにより疎の領域112が形成され、第1電極層11が形成される。
図13(d)に示す工程では、第1電極層11の上に、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14中に添加剤13aを混合した液体をキャストし、平坦な膜状となるようにする。そして、例えば60℃程度の温度で溶媒を揮発させる。これにより、第1電極層11と電解質層13が積層された構造が形成される。
図14(a)に示す工程では、電解質層13の上に、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14に金属微粒子12aを混合した液体をキャストし、平坦な膜状となるようにする。ここで、この液体に含まれる金属微粒子12aの濃度をパーコレーション閾値未満とする。そして、例えば60℃程度の温度で溶媒を揮発させる。
図14(b)に示す工程では、表面に凹凸が形成された型を図14(a)に示す工程で形成された膜の表面に押し当て、この膜の表面に凹凸を形成する。これにより疎の領域122が形成される。
図14(c)に示す工程では、疎の領域122の上に、ポリマー14aおよびイオン液体14bの混合体14に金属微粒子12aを混合した液体をキャストし、表面が平坦な膜状となるようにする。ここで、この液体に含まれる金属微粒子12aの濃度をパーコレーション閾値以上とする。そして、例えば60℃程度の温度で溶媒を揮発させる。これにより、密の領域121が形成され、第2電極層12が形成される。また、これにより、第1電極層11と電解質層13の上に第2電極層12が積層された構造が形成される。このようにして、本実施形態にかかる高分子アクチュエータ10が製造される。
例えば第1電極層11の全体にわたって金属微粒子11aの濃度を一定とした場合、第1電極層11の電極としての機能を維持するためには、金属微粒子11aの濃度をある程度高くして、第1電極層11の抵抗値を小さくする必要がある。同様に、第2電極層12の全体にわたって金属微粒子12aの濃度を一定とした場合、第2電極層12の電極としての機能を維持するためには、金属微粒子12aの濃度をある程度高くして、第2電極層12の抵抗値を小さくする必要がある。
一方、金属微粒子11a、12aの体積の分だけ、第1電極層11および第2電極層12のうちイオン液体14bが入り込める部分の体積が減少する。そのため、金属微粒子11a、12aの濃度が高くなるにつれて、高分子アクチュエータ10の変形量が低下する。
特に、金属微粒子11a、12aの濃度がパーコレーション閾値以上になると、第1電極層11の端部と端部とを連結する金属微粒子11aの連結構造、第2電極層12の端部と端部とを連結する金属微粒子12aの連結構造が形成される。これにより、イオン液体14bが入り込んだときの第1電極層11、第2電極層12の変形が妨げられるため、高分子アクチュエータ10の変形量がさらに低下する。
これに対し、本実施形態では、金属微粒子11a、12aの濃度が高い密の領域111、121が、第1電極層11、第2電極層12のうち、電解質層13側の面から電解質層13とは反対側の面に至って形成されている。そのため、第1電極層11および第2電極層12の抵抗値を小さく保ち、導電性を維持することができる。
また、本実施形態では、金属微粒子11a、12aの濃度が低い疎の領域112、122が、電解質層13に接するように配置されている。そのため、第1電極層11、第2電極層12の全体にわたって金属微粒子11a、12aの濃度を高くした場合に比べて、第1電極層11、第2電極層12のうちイオン液体14bが入り込める部分の体積が大きい。これにより、イオン液体14bが入り込める部分の体積が減少することによる高分子アクチュエータ10の変形量の低下を抑制することができる。
また、疎の領域112、122では、金属微粒子11a、12aの濃度が、パーコレーション閾値未満とされている。そのため、疎の領域112、122では、金属微粒子11a、12aの連結構造が形成されず、これらの連結構造によって第1電極層11、第2電極層12の変形が妨げられることが抑制される。したがって、本実施形態では、金属微粒子11a、12aの連結構造による高分子アクチュエータ10の変形量の低下を抑制することができる。
第1電極層11、第2電極層12に密の領域111、121、疎の領域112、122が形成された本実施形態においても、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、前述したように、本実施形態では、第1電極層11、第2電極層12の導電性を維持しつつ、高分子アクチュエータ10の変形量の低下を抑制して、高分子アクチュエータ10の特性をさらに向上させることができる。
なお、疎の領域112、122を構成する材料に吸水性を有する高分子材料等を混合してもよい。これにより、イオン液体14bが疎の領域112、122に入り込んだときの第1電極層11、第2電極層12の膨張量を大きくして、高分子アクチュエータ10の特性をさらに向上させることができる。
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
例えば、高分子アクチュエータ10の形状については短冊状であることは必須ではなく、他の形状、例えば正方形などの四角形状としても良い。また、平面状の部材に対して複数の高分子アクチュエータ10を貼り合せることで、1つの部材を構成していても良い。例えば、平面状のミラーに対して複数の高分子アクチュエータ10を貼り合せれば、ミラーの曲率を可変できる可変曲率ミラーとすることもできる。
また、上記第1実施形態では、電解質層13において、混合体14に添加剤13aが混合されているが、電解質層13における混合体14に、添加剤13aが混合されていなくてもよい。
また、上記第1実施形態では、第1電極層11、第2電極層12に添加剤11c、12cが添加されているが、第1電極層11、第2電極層12に添加剤11c、12cが添加されていなくてもよい。
また、上記第2実施形態では、第1電極層11と第2電極層12が共に密の領域および疎の領域を有しているが、第1電極層11と第2電極層12のうちいずれか一方のみが密の領域および疎の領域を有していてもよい。
また、上記第2実施形態では、疎の領域112、122が直線状とされているが、疎の領域112、122を他の形状としてもよい。また、上記第2実施形態では、第1電極層11が疎の領域112を複数備えており、第2電極層12が疎の領域122を複数備えているが、第1電極層11、第2電極層12が、それぞれ、疎の領域112、122を1つのみ備えていてもよい。
また、上記第2実施形態では、表面に凹凸が形成された型を用いて密の領域111、121および疎の領域112、122を形成したが、他の方法を用いて密の領域111、121および疎の領域112、122を形成してもよい。例えば、混合体14を含む液体をキャストすることで形成された膜の表面に風を当て、乾燥むらによる凹凸を形成することにより、密の領域111、121および疎の領域112、122を形成してもよい。また、混合体14を含む液体をキャストする容器の底部を収縮させることで、容器内に形成された膜を変形させ、膜の表面に凹凸を形成することにより、密の領域111、121および疎の領域112、122を形成してもよい。
また、上記第2実施形態において、疎の領域112、122における金属微粒子11a、12aの濃度を0としてもよい。この場合、図13(b)に示す工程の後、密の領域111の上に、混合体14中に添加剤13aを混合した液体をキャストし、溶媒を揮発させて疎の領域112および電解質層13を形成する。そして、図14(b)に示す工程と同様にして電解質層13の表面に凹凸を形成することにより疎の領域122を形成し、その後、図14(c)に示す工程を行うことにより、高分子アクチュエータ10を製造することができる。