本発明の一実施の形態に係るドグクラッチ機構は、回転軸に遊転自在に配置された変速ギヤを、回転軸に対して係合または係合解除させるドグクラッチ機構であって、下位段用の変速ギヤと上位段用の変速ギヤとの間に配置され、回転軸と一体回転するハブと、変速ギヤのハブ側の端部に配置され、変速ギヤと一体回転する下位段用および上位段用のギヤドッグと、ハブと一体回転可能にハブの外周側に配置され、外部からの操作力によって中立位置とギヤドッグ側の位置との間で軸方向に移動するスリーブと、ハブとギヤドッグの間に配置され、スリーブに押されることで中立位置からギヤドッグ側の位置に軸方向に移動する下位段用および上位段用のリングと、を備え、スリーブとギヤドッグとは、スリーブとギヤドッグとが傾斜して噛み合う第1噛み合いを形成し、リングとギヤドッグおよびハブとは、リングとギヤドッグとが傾斜して噛み合い、かつ、リングとハブとが傾斜して噛合う第2噛み合いを形成し、リングとギヤドッグおよびハブとは、リングとギヤドッグとが傾斜して噛み合い、かつ、リングとハブとが正対して噛合う第3噛み合いを形成し、リングとギヤドッグおよびスリーブとは、リングとギヤドッグとが傾斜して噛み合い、かつ、リングとスリーブとが正対して噛み合う第4噛み合いを形成し、非シフトアップ中および非シフトダウン中は、下位段側と上位段側の一方において、第1噛み合いまたは第2噛み合いが成立し、シフトアップ中またはシフトダウン中は、下位段側での第3噛み合いと、上位段側での第2噛み合いと、からなる二重噛み合い状態、または、下位段側での第3噛み合いと、上位段側での第1噛み合いと、からなる二重噛み合い状態、または、下位段側での第1噛み合いと、上位段側での第4噛み合いと、からなる二重噛み合い状態、の何れかが一時的に成立し、第3噛み合いにより発生する軸力または第4噛み合いにより発生する軸力によって、リングが中立位置に移動することで、二重噛み合い状態が解除されることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係るドグクラッチ機構は、変速動作時に動力が断絶することを防止できる。
以下、本発明に係るドグクラッチ機構の一実施例について、図面を用いて説明する。まず、構成を説明する。ここで、本実施例のドグクラッチ機構は、車両に搭載される変速機または動力伝達装置に搭載され、変速段の切替えを行うものである。
図1、図2において、回転軸90には、下位段の変速ギヤ130Aと上位段の変速ギヤ130Bとが遊転自在に配置されている。下位段の変速ギヤ130Aおよび上位段の変速ギヤ130Bは、例えば、それぞれ3速段および4速段である。変速ギヤ130Bと変速ギヤ130Aの間には、ドグクラッチ機構100が設けられており、このドグクラッチ機構100は、変速ギヤ130A、130Bを回転軸90に対して係合または係合解除させる。
ハブ110は、下位段用の変速ギヤ130Aと上位段用の変速ギヤ130Bとの間に配置されており、回転軸90と一体回転する。下位段用のギヤドッグ140Aおよび上位段用のギヤドッグ140Bは、変速ギヤ130A、130Bのハブ110側の端部に配置されており、変速ギヤ130A、130Bとそれぞれ一体回転する。
スリーブ150は、ハブ110と一体回転可能にハブ110の外周側に配置されており、変速動作をしないときは、下位段のギヤドッグ140Aと上位段のギヤドッグ140Bとの間の中間地点である中立位置に位置しており、変速動作をするときは、外部からの操作力によって、下位段のギヤドッグ140A側、もしくは、上位段のギヤドッグ140B側に軸方向に移動する。すなわち、スリーブ150は、中立位置とギヤドッグ側の位置との間で軸方向に移動する。
下位段用のリング120Aおよび上位段用のリング120Bは、ハブ110とギヤドッグ140A、140Bの間にそれぞれ配置されており、変速動作をしないときは、それぞれのギヤドッグ140A、140Bから離れる方向である中立位置に位置しており、変速動作をするときは、スリーブ150に押されることで、それぞれのギヤドッグ側の位置に軸方向に移動する。また、ドグクラッチ機構100はスプリング190を備えている。
〔ハブ〕
図11において、ハブ110は、スプライン111により、回転軸90(図1参照)に対して軸方向および回転方向に固定されており、回転軸90と一体回転する。ハブ110は、矢印Aの方向へ回転するときに、変速ギヤ130A、130Bに駆動トルクを伝達する。
ハブ110は、このハブ110の外周から径方向外方に突出するドグ部113、114を備える。ハブ110は、ハブ110の外周から径方向内方に凹む溝部112、118を備えており、溝部112、118は、ドグ部113とドグ部114の間に形成されている。溝部112はドグ部113の回転方向前方側に設けられており、溝部118はドグ部113の回転方向後方側に設けられている。ドグ部113、114と溝部112、118は、周方向に等間隔で3組設けられている。
ドグ部113は、回転方向前方側の端部に歯面115を備えており、回転方向後方側の端部に歯面116を備えている。
ハブ110の軸方向の両端部には、軸方向の中央側に凹む溝部119が全周にわたって設けられている。この溝部119には、リング120A、120Bが収められる。
図8において、歯面115は、ハブ110の軸方向の中央部に平面部113Fを備えており、平面部113Fは軸方向に平行に延びている。歯面115は、平面部113Fの両側に一対の斜面部113Bを備えており、斜面部113Bは、平面部113Fの両端部から軸線方向に遠ざかるほど回転方向後方に向かうように傾斜している。
歯面116は、ハブ110の軸方向の中央部に平面部113Eを備えており、平面部113Eは、軸方向に平行に延びている。歯面116は、平面部113Eの両側に一対の斜面部113Aを備えており、この斜面部113Aは、平面部113Eの両端部から軸線方向に遠ざかるほど回転方向前方に向かうように傾斜している。
ドグ部113は、回転方向前方側の端部に段差部113Dを備えており、段差部113Dはハブ110の外周面から径方向内方に凹んでいる。ドグ部113は、回転方向後方側の端部の角部に段差部113Cを備えており、段差部113Cはハブ110の外周面から径方向内方に凹んでいる。
ドグ部114は、回転方向前方側の端部に平面状の歯面114Bを備えており、歯面114Bは軸方向に平行に延びている。ドグ部114は、回転方向後方側の端部に平面状の歯面114Aを備えており、歯面114Aは軸方向に平行に延びている。
〔スリーブ〕
図3、図4、図5、図7、図9において、スリーブ150は、環状に形成されており、ハブ110およびリング120A、120Bの外周に配置される。
スリーブ150の内周面には、径方向内方に突出するドグ部152が周方向に等間隔で3つ設けられている。また、スリーブ150の内周面には、径方向内方に突出するドグ部153が周方向に等間隔で3つ設けられている。
ドグ部152は、回転方向前方側の端部に歯面155を備えている。ドグ部152は、回転方向後方側の端部に歯面156を備えている。
図10において、歯面155は軸方向に対称に一対の斜面部152Bを備えている。斜面部152Bは、歯面155の軸方向の中央部から軸線方向に遠ざかるほど回転方向後方に向かうように傾斜している。ここで、図10は、スリーブ150の内周面を、図9の矢印Bの方向(径方向外方)に見た状態を示している。
歯面156は、軸方向の中央部に平面部152Dを備えており、平面部152Dは軸方向に平行に延びている。歯面156は、平面部152Dの両側に、軸方向に対称に一対の斜面部152Aを備えている。斜面部152Aは、平面部152Dの両端部から軸線方向に遠ざかるほど回転方向前方に向かうように傾斜している。このように、2つの斜面部152Aに挟まれる位置に平面部152Dが設けられている。
ドグ部152は、回転方向前方側の端部に段差部152Cを備えており、段差部152Cは、ドグ部152の内周面から径方向外方に凹んでいる。段差部152Cは、斜面部152Bとドグ部152の内周面との角部に設けられている。
スリーブ150の内周面における軸方向の端部には溝部151が設けられている。溝部151は、周方向に等間隔で3つ設けられている。
図9において、ドグ部153は、回転方向前方側の端部に平面状の歯面153Bを備え、回転方向後方側の端部に平面状の歯面153Aを備えている。歯面153A、153Bは、回転軸90の軸線方向と平行に延びている。
図1、図4、図5、図7において、スリーブ150の外周面における軸方向の中央部には、溝部154が設けられている。溝部154は、全周にわたって連続して設けられている。この溝部154には、後述するシフトフォーク66(図14参照)が差し込まれる。シフトフォーク66は、既存の手動変速機に用いられるものと同様に構成されており、図示しないシフトセレクトシャフト等のリンク機構を介してシフトレバーまたはアクチュエータに連結される。スリーブ150は、溝部154に差し込まれたシフトフォーク66がシフト操作によって軸方向に移動することで、シフトフォーク66とともに軸方向に移動する。
〔リング〕
図7、図8、図12において、下位段用のリング120Aは、ハブ110およびスリーブ150に対して軸線方向の一方側(図8の左側)に隣合って配置されている。上位段用のリング120Bは、ハブ110およびスリーブ150に対して軸線方向の他方側(図8の右側)に隣合って配置されている。
リング120A、120Bは、回転軸90に直交する平面に対して面対称に構成されており、リング120Aまたはリング120Bの一方について説明し、他方の説明を省略する。
上位段用のリング120Bは、軸方向でハブ110およびスリーブ150から遠い側の端部にフランジ状の環状凸部123を備えており、この環状凸部123は、リング120Bの外周面から径方向外方に突出している。
リング120Bは、軸方向でハブ110およびスリーブ150に近い側の端部に環状の凸部122を備えており、この凸部122は、リング120Bの内周面から径方向内方に突出している。
リング120Bは、外周面から径方向外方に突出するドグ部121を備えており、ドグ部121は、周方向に等間隔で3つ設けられている。リング120Bは、ドグ部121を介してハブ110から伝達された動力により矢印Aの方向に回転し、この動力をギヤドッグ140Bに伝達する。
ドグ部121における回転方向前方側の端部には、歯面125が設けられている。歯面125は、軸方向でハブ110およびスリーブ150に近い側に、平面状の平面部121Gを備えている。歯面125は、軸方向でハブ110およびスリーブ150から遠い側の端部に斜面部121Eを備えている。斜面部121Eは、ハブ110およびスリーブ150から軸線方向に遠ざかるほど回転方向後方に向かうように傾斜している。
ドグ部121における回転方向後方側の端部には、歯面126が設けられている。歯面126は、軸方向でハブ110およびスリーブ150に近い側に斜面部121Aを備えている。斜面部121Aは、ハブ110およびスリーブ150に軸線方向に近づくほど回転方向前方に向かうように傾斜している。歯面126は、軸方向でハブ110およびスリーブ150から遠い側の端部に斜面部121Bを備えている。斜面部121Bは、ハブ110およびスリーブ150から軸線方向に遠ざかるほど回転方向前方に向かうように傾斜している。
斜面部121Aと回転軸90の軸線とがなす角度(挾角)は、斜面部121Eと回転軸90の軸線とがなす角度より大きく設定されている。
ドグ部121は、回転方向後方側の端部に段差部121Cを備えており、段差部121Cは、ドグ部121の外周面から径方向内方に凹んでいる。ドグ部121の外周面と段差部121Cの境界には、平面部121Fが設けられており、この平面部121Fは、回転方向後方に対向しており、回転軸90の軸線方向に平行に延びている。
ドグ部121は、軸方向でハブ110およびスリーブ150から遠い側の端部に突起部121Dを備えている。突起部121Dは、ドグ部121の外周面から径方向外方に突出している。
リング120A、120Bの環状凸部123の外径は、ハブ110の溝部119の外径より大きくされている。これにより、リング120A、120Bの環状凸部123がハブ110の外周部の軸方向の端面に引っ掛かるので、リング120A、120Bがハブ110に対して軸方向中方側に変位するのが規制される。
ハブ110とリング120A、120Bとの間の径方向の隙間は、変速動作時にリング120A、120Bがスリーブ150からの動作荷重を受けた際にスムーズに軸方向へ移動できるよう、適度な大きさに設定されている。
ドグ部121の斜面部121Aは、ハブ110の斜面部113Bと平行になっている。ドグ部121の平面部121Gは、ハブ110のドグ部114の歯面114Bと平行になっている。
〔スプリング〕
図3、図4、図5、図7において、スプリング190は4つの爪部191と2つの腕部192とを備えている。爪部191は、径方向内側に曲げられており、スプリング190は、この爪部191がハブ110の溝部112の外周面に係合することで、ハブ110に固定される。
2つの腕部192は、ハブ110の上位段用のリング120Aの方向と下位段用のリング120Bの方向とにそれぞれ伸びている。腕部192の軸方向の先端部は径方向外方に突出しており、リング120A、120Bの内周面に弾性的に接している。スプリング190の腕部192の先端部は、リング120A、120Bの内周面の凸部122と係合している。これにより、リング120A、120Bは、軸方向へ荷重を受けない限りハブ110およびスリーブ150から離れる方向に移動しないように、スプリング190により弾性的に拘束される。
〔ギヤドッグ〕
図7、図8、図13において、下位段用のギヤドッグ140Aは、リング120Aに対して軸線方向の一方側(図8の左側)に隣合って配置されている。上位段用のギヤドッグ140Bはリング120Bに対して軸線方向の他方側(図8の右側)に隣合って配置されている。
ギヤドッグ140A、140Bは、回転軸90に直交する平面に対して面対称に構成されており、ギヤドッグ140Aまたはギヤドッグ140Bの一方について説明し、他方の説明を省略する。
上位段用のギヤドッグ140Bは、回転軸90に対して遊転自在に配置されている。ギヤドッグ140Bの内周面にはスプライン嵌合部141が設けられており、このスプライン嵌合部141によって上位段の変速ギヤ130Bに一体回転自在に固定されている。
ギヤドッグ140Bは、ハブ110と対向する側の軸方向の端部にドグ部142を備えており、ドグ部142は、スリーブ150に向かって軸線方向に突出している。ドグ部142は、周方向に等間隔で3つ設けられている。
ドグ部142の回転方向前方側の端部には歯面145が設けられている。歯面145には斜面部142Bが設けられている。斜面部142Bは、ハブ110およびスリーブ150に軸線方向に近づくほど回転方向後方に向かうように傾斜している。本実施例では、歯面145の全てが斜面部142Bからなる。
ドグ部142の回転方向後方側の端部には歯面146が設けられている。歯面146には斜面部142Aが設けられている。斜面部142Aは、ハブ110およびスリーブ150に軸線方向に近づくほど回転方向前方に向かうように傾斜している。本実施例では、歯面146の全てが斜面部142Aからなる。このように、ドグ部142は、回転方向前方側および後方側の端部においてテーパ形状になっている。
ギヤドッグ140Bは、ドグ部142の斜面部142Aを介してリング120Bから伝達された動力により矢印Aの方向に回転し、この動力を変速ギヤ130Bに伝達する。また、ギヤドッグ140Bの回転速度がスリーブ150より遅い場合、ギヤドッグ140は、ドグ部142の斜面部142Bを介してスリーブ150に動力を伝達し、スリーブ150を回転させる。
ドグ部142は、リング120B側の軸方向の端部に、全周にわたって溝部143を備えている。溝部143は、径方向においてスプライン嵌合部141とドグ部142との間に設けられている。
〔組付状態〕
図3において、リング120A、120Bのドグ部121は、ハブ110の溝部112に収められている。スリーブ150のドグ部152は、ハブ110の溝部118に収められている。
スリーブ150のドグ部153は、ハブ110の溝部112に収められている。より詳しくは、ドグ部153は、溝部112における、ハブ110の段差部113Dと、リング120A、120Bのドグ部121の段差部121Cの外周側に収められる。
図2において、ギヤドッグ140A、140Bのドグ部142と、リング120A、120Bのドグ部121との間の回転方向の隙間は、変速動作の際にスムーズにスリーブ150およびリング120A、120Bが移動できるよう、適度な大きさに設定されている。同様に、各部品の径方向の隙間も、変速動作の際にスリーブ150およびリング120A、120Bがスムーズに移動できるよう、適度な大きさに設定されている。
図6において、スリーブ150の斜面部152Bとハブ110の斜面部113Aとは平行になっている。同様に、スリーブ150の斜面部152Bとハブ110の斜面部113Aとは平行になっている。
図4、図5において、リング120A、120Bの外周面の突起部121Dは、スリーブ150の溝部151に収められる。図5に示すように、変速動作の際にスリーブ150が軸方向の中央から移動すると、スリーブ150から突起部121Dに荷重が作用し、スリーブ150と一緒にリング120Aが軸方向に移動する。
ギヤドッグ140Aと変速ギヤ130Aとは、スプライン嵌合部141において軸方向および回転方向に固定されており、下位段ギヤコンプを構成している。ギヤドッグ140Bと変速ギヤ130Bとは、スプライン嵌合部141において軸方向および回転方向に固定されており、上位段ギヤコンプを構成している。
図4において、ギヤドッグ140A、140Bのドグ部142とリング120A、120Bのドグ部121との間の隙間、および、リング120A、120Bとスリーブ150との軸方向の隙間は、ギヤコンプの軸方向端面とハブ110の軸方向端面とにより軸方向の変位が規制され、かつ、ニュートラル時に互いに干渉せず、かつ、変速時に必要なシフトストロークを確保できるように設定されている。
リング120A、120Bの外周面の環状凸部123は、変速後にギヤドッグ140A、140Bの溝部143に収まる形状にされている。
図2において、ギヤドッグ140A、140Bの斜面部142Aは、リング120A、120Bの斜面部121Eと平行になるように形成されている。また、ギヤドッグ140A、140Bの斜面部142Bは、リング120A、120Bの斜面部121Bと平行になるように形成されている。
〔変速機への適用例〕
図14は、ドグクラッチ機構100を備える動力伝達装置である。図14において、動力伝達装置3は、図示しないエンジンに連結された状態で、図示しない車両の前部に横向きに搭載されている。
ここで、図14では、車両の運転席に着座した運転者から見た前後方向、左右方向、および上下方向と一致するように、図中で前、左、上の文字を付して矢印を記している。
動力伝達装置3は、手動変速機(MT:Manual Transmission)の構成部品に、変速操作とクラッチ操作を行うアクチュエータを追加し、このアクチュエータをAMTコントローラにより制御することでAT(Automatic Transmission)のように自動で変速を行うAMT(Automated Manual Transmission)として構成されている。
動力伝達装置3は、トランスアクスルケース4を備えており、このトランスアクスルケース4は、第1のケース5および第2のケース6を備えている。第1のケース5の右端部はエンジンに接合されている。第1のケース5の左端部は第2のケース6の右端部に接合されている。
第1のケース5および第2のケース6からなるトランスアクスルケース4の内部には単板式のクラッチ64と、変速機9と、ディファレンシャル装置50とが収容されており、ディファレンシャル装置50は、変速機9の後方に設置されている。
動力伝達装置3は、クラッチ64を介してエンジンの動力を変速機9に入力し、図示しないシフタ軸の作動により変速機9において変速を行い、変速された回転をディファレンシャル装置50により、ドライブシャフト24L、24Rを介して図示しない駆動輪に伝達する。
動力伝達装置3は、クラッチ操作を行うクラッチアクチュエータ62と、変速操作を行うシフトセレクトアクチュエータ63と、クラッチアクチュエータ62およびシフトセレクトアクチュエータ63を制御するAMTコントローラ61とを備えている。シフトセレクトアクチュエータ63は、図示しないシフトアンドセレクト軸を往復移動および回転させることで、変速段を変更する。
また、AMTコントローラ61は、変速段を変更するためにクラッチアクチュエータ62およびシフトセレクトアクチュエータ63を制御する際は、エンジンを制御するエンジンコントローラと協働して制御を行うようになっている。より詳しくは、動力伝達装置3の変速機9においてAMTコントローラ61により下位の変速段と上位の変速段との間で切替が行われる際は、エンジンコントローラは、変速段での回転速度を同期させて切替えがスムーズに行われるよう、エンジン回転数を調整する。
変速機9は、クラッチ64を介して図示しないクランクシャフトに連結されるインプット軸10と、インプット軸10と平行な回転軸を有するカウンタ軸11とを備えている。
インプット軸10には複数の変速ギヤ13が設けられており、変速ギヤ13は、1速ドライブギヤ14A、2速ドライブギヤ14B、3速ドライブギヤ14C、4速ドライブギヤ14Dおよび5速ドライブギヤ14Eを有している。
1速ドライブギヤ14Aは、エンジン側に配置されており、エンジンから軸線方向に遠ざかるに従って2速ドライブギヤ14B、3速ドライブギヤ14C、4速ドライブギヤ14D、5速ドライブギヤ14Eが順次、設けられている。
1速ドライブギヤ14Aおよび2速ドライブギヤ14Bは、インプット軸10に固定されており、3速ドライブギヤ14C、4速ドライブギヤ14Dおよび5速ドライブギヤ14Eは、インプット軸10に対して回転自在に設けられている。
カウンタ軸11には複数の変速ギヤ15が設けられている。変速ギヤ15は、1速ドリブンギヤ16A、2速ドリブンギヤ16B、3速ドリブンギヤ16C、4速ドリブンギヤ16Dおよび5速ドリブンギヤ16Eを有している。
具体的には、変速ギヤ15は、エンジン側に1速ドリブンギヤ16Aが位置しており、エンジンから軸線方向に遠ざかるに従って2速ドリブンギヤ16B、3速ドリブンギヤ16C、4速ドリブンギヤ16D、5速ドリブンギヤ16Eが順次、設けられている。
変速ギヤ15は、同一の各変速段を構成する変速ギヤ13に常時噛合しており、1速ドリブンギヤ16Aおよび2速ドリブンギヤ16Bがカウンタ軸11に回転自在に設けられているとともに、3速ドリブンギヤ16C、4速ドリブンギヤ16Dおよび5速ドリブンギヤ16Eがカウンタ軸11に固定されている。
また、カウンタ軸11のエンジン側の端部には変速ギヤ15の一部を構成するファイナルドライブギヤ16Gが固定して設けられており、このファイナルドライブギヤ16Gには、大径のファイナルギヤ23が噛合している。
動力伝達装置3にはディファレンシャル装置50が設けられている。ディファレンシャル装置50は、大径のファイナルギヤ23が固定されたデフケース51と、ピニオンシャフト52と、ピニオンシャフト52に回転自在に支持された一対のピニオンギヤ53A、53Bと、ピニオンギヤ53A、53Bに噛合する一対のサイドギヤ54A、54Bとを有している。これらサイドギヤ54A、54Bは、左右のドライブシャフト24L、24Rに連結されている。
ファイナルギヤ23は、ファイナルドライブギヤ16Gに噛合しており、ディファレンシャル装置50は、左右の駆動輪の差動を許容しつつ、ファイナルドライブギヤ16Gの回転を左右の駆動輪に伝達する。
デフケース51の車軸方向一端部(左端部)は、軸受55Aを介して第2のケース6に回転自在に支持されており、デフケース51の車軸方向他端部(右端部)は、軸受55Bを介して第1のケース5に回転自在に支持されている。
また、変速機9には前述のドグクラッチ機構100が設けられている。ドグクラッチ機構100は、インプット軸10上の3速ドライブギヤ14Cと4速ドライブギヤ14Dの間、インプット軸10上の5速ドライブギヤ14Eの端部、カウンタ軸11上の1速ドリブンギヤ16Aと2速ドリブンギヤ16Bの間に配置されている。
この変速機9は、シフトセレクトアクチュエータ63によりシフトフォーク66を軸線方向に移動させることで、ドグクラッチ機構100のスリーブ150を軸線方向に移動させる。これにより、変速機9において、各変速段を構成する変速ギヤ13、15の噛み合いが変更され、変速段が変更される。
次に、動作を説明する。以下、ドグクラッチ機構100を設けた動力伝達装置3を車両に搭載し、この車両が走行する際の各種の変速態様におけるドグクラッチ機構100の動作について、図15から図25を参照して説明する。ここでは、下位段としての3速段と上位段としての4速段との間で変速が行われるものとし、図15から図25のうちの一部の図面では、下位段を3rdと記し、上位段を4thと記している。
また、図16から図25では、図15に凡例(各矢印の意味)を記載する4つの矢印を、符号を付さずに記しており、これらの矢印により移動方向等を表している。図15において、白抜きの太い矢印Cは、スリーブ150の移動方向を表しており、ハッチング付きの矢印Dは、ハブ110に対する変速ギヤ130A、130Bの相対運動(相対回転)の方向を表している。また、黒塗りの矢印Eは、ハブ110の回転方向を表しており、白抜きの細い矢印Fは、トルク経路(動力伝達経路)を表している。
ここで、動力伝達装置3の変速態様には、ドライブシフトアップ、ドライブシフトダウン、コーストシフトアップ、コーストシフトダウンの4つがある。
ドライブシフトアップとは、アクセルペダルが踏み込まれて車両が加速走行する際のシフトアップである。ドライブシフトアップでは、ハブ110から変速ギヤ130A、130Bに動力が伝達されている状態で下位段から上位段に変速段が切替えられる。
コーストシフトアップとは、アクセルペダルの踏み込みが緩められて車両が惰性により走行する際のシフトアップである。コーストシフトアップはオフアップともいわれる。コーストシフトアップでは、変速ギヤ130A、130Bからハブ110に動力が伝達されている状態で下位段から上位段に変速段が切替えられる。
ドライブシフトダウンとは、アクセルペダルが踏み込まれて車両が加速走行する際のシフトダウンである。ドライブシフトダウンはキックダウンともいわれる。ドライブシフトダウンでは、ハブ110から変速ギヤ130A、130Bに動力が伝達されている状態で上位段から下位段に変速段が切替えられる。
コーストシフトダウンとは、アクセルペダルが踏み込まれずに車両が減速走行する際のシフトダウンである。コーストシフトダウンでは、変速ギヤ130A、130Bからハブ110に動力が伝達されている状態で上位段から下位段に変速段が切替えられる。
ここで、本実施例では、ハブ110から変速ギヤ130A、130Bに動力が伝達される状態を駆動状態といい、これと逆に変速ギヤ130A、130Bからハブ110に動力が伝達される状態を被駆動状態という。
〔シフトインおよび駆動走行〕
始めに、前述の4つの変速態様での動作の説明に先立って、動力伝達装置3において3速段が成立して車両が加速走行するときの動作、および車両が減速するときの動作について、図16を参照して説明する。
図16(A)に示すように、スリーブ150がニュートラル位置にあり、かつ、リング120A、120Bがニュートラル位置にあるときは、回転軸90(図1参照)と一体回転するハブ110と変速ギヤ130A、130Bとの間で動力伝達は行われない。
図16(B)に示すように、スリーブ150が3速段側に移動すると、リング120Aはスリーブ150によって3速段側に移動され、リング120Aとギヤドッグ140Aとが噛合う。この状態では、リング120Aとギヤドッグ140Aとは、図15の斜面部121Eと斜面部142Aとにおいて傾斜して噛合っている。
その後、図16(C)に示すように、リング120Aとハブ110とがさらに噛み合い、リング120Aがハブ110とスリーブ150とに挟み込まれた状態となる。これにより、ハブ110の動力がリング120Aを介してギヤドッグ140Aおよび変速ギヤ130Aに伝達され、ハブ110と変速ギヤ130Aとが一体回転する。この3速段での駆動状態では、リング120Aは、ギヤドッグ140Aに対して、図15の斜面部121Aと斜面部113Bとにおいてさらに傾斜して噛合っている。また、この状態では、リング120には、図15の斜面部121Eと斜面部142Aとの傾斜した噛み合いによるニュートラル位置側へ戻す方向への軸力が作用しているが、図15の斜面部121Aと斜面部113Bとの傾斜した噛み合いによる軸力の方が大きいため、噛み合い位置に保持されている。
このように、駆動状態のときは、ドグクラッチ機構100において、ハブ110の動力は、リング120Aを経てギヤドッグ140Aに伝達される。
一方、車両の減速走行により変速ギヤ130Aからハブ110に動力が伝達される被駆動状態では、図17に示すように、ハブ110およびスリーブ150とギヤドッグ140Aとが相対回転する。これにより、スリーブ150がギヤドッグ140Aおよびハブ110の両方と噛み合い、スリーブ150は、ギヤドッグ140Aとハブ110とに挟み込まれた状態となる。この状態では、スリーブ150は、ギヤドッグ140Aに対して、図15の斜面部152Aと斜面部142Bとにおいて傾斜して噛み合う。また、スリーブ150は、ハブ110に対して、図15の斜面部152Bと斜面部113Aとで傾斜して噛み合う。また、この状態では、スリーブ150には、図15の斜面部152Aと斜面部142Bとの噛み合いによって、ニュートラル位置側へ戻す方向への軸力が作用しているが、斜面部152Bと斜面部113Aとの噛み合いによる軸力の方が大きいため、噛み合い位置に保持されている。また、この被駆動状態では、リング120Aの噛み合い状態は解除され、リング120は回転方向に移動可能となる。
このように、ドグクラッチ機構100においては、駆動状態のときに、ハブ110の動力はリング120Aを経てギヤドッグ140Aおよび変速ギヤ130Aに伝達される。また、被駆動状態のときに、変速ギヤ130Aおよびギヤドッグ140Aの動力はスリーブ150を経てハブ110に伝達される。
〔ドライブシフトアップ〕
図18(A)は、図16(C)と同じく3速段での駆動状態となっている。この状態からスリーブ150をニュートラル位置へ移動すると、図18(B)に示すように、3速段用のリング120Aは、駆動力で3速側に保持され続ける。この状態では、ハブ110の動力は3速段用のリング120Aを経由して3速段用のギヤドッグ140Aおよび変速ギヤ130Aへと伝達される。
その後、スリーブ150を4速段側へ移動すると、図18(C)に示すように、4速段用のリング120Bは、スリーブ150と一緒に移動する。この状態では、図18(B)と同様に、ハブ110の動力は3速段用のリング120Aを経由して3速段用のギヤドッグ140Aおよび変速ギヤ130Aへと伝達される。
その後、ハブ110およびスリーブ150とギヤドッグ140Aとが相対回転し、図19(A)に示すように、4速段用のリング120Bがハブ110とギヤドッグ140Bとに挟み込まれた状態となる。これにより、ハブ110から4速段用の変速ギヤ130Bに動力が伝達され、ハブ110と4速段用の変速ギヤ130Bとが一体回転する。この状態では、テーパ角度の差異により、4速段用のリング120Bは、ギヤドッグ140B側に保持される。
また、3速段用の変速ギヤ130Aは、動力が途切れて増速し、ハブ110を追い越す。変速ギヤ130A増速は、3速段用の変速ギヤ130Aと4速段用の変速ギヤ130Bとで歯数が異なることに起因する。
その後、図19(B)に示すように、3速段用のリング120Aは、3速段用のギヤドッグ140Aとハブ110とに挟み込まれた状態となる。これにより、4速段用のリング120Bがハブ110とギヤドッグ140Bとに噛合ったまま、3速段用のリング120Aが3速段用のギヤドッグ140Aとハブ110とに噛み合い、二重噛みの状態となる。
この状態では、3速段側のリング120Aとギヤドッグ140Aとは、図15の斜面部121Bと斜面部142Bとにおいて傾斜して噛合っている。また、リング120Aとハブ110とは、図15の平面部121Gと歯面114Aとで回転方向に正対して噛合っている。このため、リング120Aには、軸方向において、図15の斜面部121Bと斜面部142Bとの傾斜した噛み合いによりニュートラル位置側へ戻す方向への軸力のみが作用する。
その後、図19(C)に示すように、3速段用のリング120Aは、図15の斜面部142Bと斜面部121Bとの傾斜した噛み合いによる軸力によって、ニュートラル位置に押し戻される。これにより、リング120Aがギヤドッグ140Aから外れて二重噛みが解除され、ドライブシフトアップが完了する。
〔コーストシフトアップ〕
図20(A)は、図17と同じく3速段での被駆動状態となっている。この状態からクラッチ64(図14参照)を解放して、図20(B)に示すようにスリーブ150をニュートラル位置へ移動すると、ハブ110は減速して停止または変速ギヤ130Aに連れ回る。このため、変速ギヤ130Aの回転速度がハブ110の回転速度を追い越す。
その後、図20(C)に示すように、スリーブ150を4速段側に移動すると、4速段用のリング120Bはスリーブ150に引っ掛かって一緒に4速段側へ移動する。
その後、クラッチ64を再度係合すると、図21(A)に示すように、スリーブ150は4速段用のギヤドッグ140Bとハブ110と挟み込まれた状態となる。これにより、4速段用の変速ギヤ130Bの動力(コーストトルク)は、ギヤドッグ140B、スリーブ150を経由してハブ110へ伝達され、4速段用の変速ギヤ130Bとハブ110とが一体回転する。そして、3速段用の変速ギヤ130Aは、増速してハブ110の回転を追い越す。
変速ギヤ130Aが増速したことで、図21(B)に示すように、3速段用のリング120Aは、ギヤドッグ140Aとハブ110とに挟み込まれた状態となる。これにより、スリーブ150が4速段用のギヤドッグ140Bとハブ110とに噛合ったまま、3速段用のリング120Aがギヤドッグ140Aとハブ110とに噛み合い、二重噛みの状態となる。
その後、図21(C)に示すように、3速段用のリング120Aは、図15の斜面部121Bと斜面部142Bとの傾斜した噛み合いによるニュートラル位置側への軸力によって、ニュートラル位置に押し戻される。これにより、リング120Aがギヤドッグ140Aから外れて二重噛みが解除され、コーストシフトアップが完了する。
〔ドライブシフトダウン〕
図22(A)は、図19(C)と同じく4速段での駆動状態となっている。この状態から図22(B)に示すようにスリーブ150をニュートラル位置へ移動すると、4速段用のリング120Bは、駆動力で4速側に保持され続ける。この状態では、ハブ110の動力は4速段用のリング120Bを経由して4速段用のギヤドッグ140Bおよび変速ギヤ130Bへと伝達される。そして、3速段用の変速ギヤ130Aは、増速してハブ110の回転を追い越す。
その後、図22(C)に示すように、スリーブ150を3速段側へ移動すると、3速段用のリング120Aはスリーブ150に引っ掛かって一緒に3速段側へ移動する。
その後、図23(A)に示すように、3速段用のギヤドッグ140Aがスリーブ150を回転方向に押し、このスリーブ150は4速段用のリング120Bを回転方向に押し始める。これにより、リング120Bはギヤドッグ140Bとスリーブ150とに挟み込まれる。
その後、図23(B)に示すように、ハブ110とギヤドッグ140Aとの間の動力伝達が途切れ、ハブ110の回転速度が低下する。また、リング120Bの平面部121Fとスリーブ150の平面状の歯面153Bとが正対して噛み合い、二重噛みが発生する。
その後、図23(C)に示すように、ハブ110が増速して3速段用の変速ギヤ130Aの回転に追いつき、3速段用のリング120Aがハブ110とギヤドッグ140Aとに挟み込まれた状態となる。
そして4速段用のリング120Bは、図15の斜面部121Eと斜面部142Aとの傾斜した噛み合いによるニュートラル位置側への軸力によって、ニュートラル位置に押し戻される。これにより、リング120Bがギヤドッグ140Bから外れて二重噛みが解除され、ドライブシフトダウンが完了する。ドライブシフトダウンの完了後、4速段用の変速ギヤ130Bは、ハブ110より遅い回転速度で回転する。なお、図23(A)の状態からは、変速ギヤ130Aと変速ギヤ130Bとの差回転に起因して、自動的に図23(B)のようにハブ110の回転速度が低下する。このため、クラッチ64を係合したままでもドライブシフトダウンを実施できる。
〔コーストシフトダウン〕
図24(A)は、図21(C)と同じく4速段での被駆動状態となっている。この状態からクラッチ64(図14参照)を解放してトルクを抜き、図24(B)に示すようにスリーブ150をニュートラル位置へ移動すると、ハブ110は減速して停止または変速ギヤ130Aに連れ回る。このため、変速ギヤ130A、130Bの回転速度がハブ110の回転速度を追い越す。
その後、図24(C)に示すように、スリーブ150を3速段側に移動すると、3速段用のリング120Aはスリーブ150に引っ掛かって一緒に3速段側へ移動する。
そして、クラッチ64を再係合すると、図25(A)に示すように、スリーブ150は3速段用のギヤドッグ140Aとハブ110とに挟み込まれた状態となる。これにより、3速段用の変速ギヤ130Aの動力(コーストトルク)は、ギヤドッグ140A、スリーブ150を経由してハブ110へ伝達され、3速段用の変速ギヤ130Aとハブ110とが一体回転する。
このとき、4速段用の変速ギヤ130Bは、ハブ110の回転速度より遅く回転する。これにより、4速段用のリング120Bは、4速段用のギヤドッグ140Bとスリーブ150とで挟み込まれる。この状態では、二重噛みが発生している。このとき、変速ギヤ130Bとハブ110との差回転と、ギヤドッグ140Bとスリーブ150との傾斜した噛み合いにより、リング120Bに対して、ニュートラル位置側への軸力が作用している。
その後、4速段用のリング120Bは、ニュートラル位置側への軸力によってニュートラル位置に押し戻される。これにより、リング120Bがギヤドッグ140Bから外れて二重噛みが解除され、コーストシフトダウンが完了する。
このように本実施例のドグクラッチ機構100において、スリーブ150とギヤドッグ140A、140Bとは、スリーブ150の斜面部152Aとギヤドッグ140A、140Bの斜面部142Bとが傾斜して噛み合う第1噛み合いを形成する。
詳しくは、スリーブ150は第1斜面部としての斜面部152Aを有し、ギヤドッグ140A、140Bは第2斜面部としての斜面部142Bを有し、これらの斜面部152Aと斜面部142Bとは周方向に噛み合い可能に対向する。そして、スリーブ150とギヤドッグ140A、140Bとは、斜面部152Aと斜面部142Bとにおいて傾斜して噛み合うことで第1噛み合いを形成する。
第1噛み合いが形成されるとき、斜面部152Aと斜面部142Bとが傾斜して噛み合うことでスリーブ150に中立位置側への軸力が作用する。
また、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bおよびハブ110とは、リング120A、120Bの斜面部121Eとギヤドッグ140A、140Bの斜面部142Aとが傾斜して噛み合い、かつ、リング120A、120Bの斜面部121Aとハブ110の斜面部113Bとが傾斜して噛み合う第2噛み合いを形成する。
詳しくは、リング120A、120Bは第3斜面部としての斜面部121Eを有し、ギヤドッグ140A、140Bは第4斜面部としての斜面部142Aを有し、これらの斜面部121Eと斜面部142Aとは周方向に噛み合い可能に対向する。
また、リング120A、120Bは第5斜面部としての斜面部121Aを有し、ハブ110は第6斜面部としての斜面部113Bを有し、これらの斜面部121Aと斜面部113Bとは周方向に噛み合い可能に対向する。
そして、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bおよびハブ110とは、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bとが斜面部121Eと斜面部142Aとにおいて傾斜して噛み合い、かつ、リング120A、120Bとハブ110とが斜面部121Aと斜面部113Bとにおいて傾斜して噛み合うことで第2噛み合いを形成する。
第2噛み合いが形成されるとき、斜面部121Eと斜面部142Aとが傾斜して噛み合うことでリング120A、120Bに中立位置側への軸力が作用し、かつ、斜面部121Aと斜面部113Bとが傾斜して噛み合うことで中立位置と反対側への軸力が作用する。
また、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bおよびハブ110とは、リング120A、120Bの斜面部121Bとギヤドッグ140A、140Bの斜面部142Bとが傾斜して噛み合い、かつ、リング120A、120Bの平面部121Gとハブ110の歯面114Aとが正対して噛み合う第3噛み合いを形成する。
詳しくは、リング120A、120Bは、斜面部142Bと周方向に噛み合い可能に対向する第7斜面部としての斜面部121Bを有する。また、リング120A、120Bは第1正対部としての平面部121Gを有し、ハブ110は第2正対部としての歯面114Aを有し、これらの平面部121Gと歯面114Aとは周方向に噛み合い可能に対向する。
そして、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bおよびハブ110とは、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bとが斜面部121Bと斜面部142Bとにおいて傾斜して噛み合い、かつ、リング120A、120Bとハブ110とが平面部121Gと歯面114Aとにおいて正対して噛み合うことで第3噛み合いを形成する。
第3噛み合いが形成されるとき、斜面部121Bと斜面部142Bとが傾斜して噛み合うことでリング120A、120Bに中立位置側への軸力が作用する。
また、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bおよびスリーブ150とは、リング120A、120Bの斜面部121Eとギヤドッグ140A、140Bの斜面部142Aとが傾斜して噛み合い、リング120A、120Bの平面部121Fとスリーブ150の平面状の歯面153Bとが正対して噛み合う第4噛み合いを形成する。
詳しくは、リング120A、120Bは第3正対部としての平面部121Fを有し、スリーブ150は第4正対部としての歯面153Bを有し、これらの平面部121Fと歯面153Bとは周方向に噛み合い可能に対向する。
そして、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bおよびスリーブ150とは、リング120A、120Bとギヤドッグ140A、140Bとが斜面部121Eと斜面部142Aとにおいて傾斜して噛み合い、かつ、リング120A、120Bとスリーブ150とが平面部121Fと歯面153Bとにおいて正対して噛み合うことで第4噛み合いを形成する。
第4噛み合いが形成されるとき、斜面部121Eと斜面部142Aとが傾斜して噛み合うことでリング120A、120Bに中立位置側への軸力が作用する。
そして、非シフトアップ中および非シフトダウン中は、下位段側と上位段側の一方において、第1噛み合いまたは第2噛み合いが成立する。
一方、シフトアップ中またはシフトダウン中は、下位段側での第3噛み合いと、上位段側での第2噛み合いと、からなる二重噛み合い状態、または、下位段側での第3噛み合いと、上位段側での第1噛み合いと、からなる二重噛み合い状態、または、下位段側での第1噛み合いと、上位段側での第4噛み合いと、からなる二重噛み合い状態、の何れかが一時的に成立する。そして、第3噛み合いにより発生する軸力または第4噛み合いにより発生する軸力によって、リング120A、120Bが中立位置に移動することで、二重噛み合い状態が解除される。
本実施例のドグクラッチ機構100によれば、加速時の変速動作において下位段の変速ギヤ130Aの動力伝達を継続したまま、上位段用の変速ギヤ130Bの動力伝達へ移行することができる。さらに、動力伝達の移行後、上位段用の変速ギヤ130Bと下位段用の変速ギヤ130Aの回転数の差異により、下位段用の変速ギヤ130Aの動力伝達を自動的に断絶することができる。このため、変速時にクラッチ64を切断する必要がなく、動力を断絶することなく下位段から上位段へ変速できる。
この結果、変速動作時に動力が断絶することを防止できる。
したがって、本実施例では、変速動作時に動力が断絶しないため、変速フィーリングを向上でき、ドライバビリティを向上できる。
また、ドグクラッチ機構100は、既存の手動変速機の同期噛み合い装置と置き換えて用いることができ、手動変速機においてドグクラッチ機構100以外の部品は、既存の構成部品と共用できるので、コストアップを抑制できる。
また、ドグクラッチ機構100は、既存の同期噛み合い装置の配置場所に収まる大きさと形状であるため、変速機が大型化することを抑制できる。
また、シフト動作は既存の手動変速機と同じであるため、操作機構やアクチュエータも既存の構成部品と共用できる。また、既存の構成部品のシフト動作を変更する必要がないため、既存のアクチュエータを用いてシフト動作できる。したがって、専用のアクチュエータが不要であるため、コストアップを抑制できる。
また、本実施例のドグクラッチ機構100によれば、回転軸90から変速ギヤ130Aに動力が伝達されているときのドライブシフトアップ中は、下位段側での第3噛み合いと、上位段側での第2噛み合いと、からなる二重噛み合い状態が一時的に成立し、下位段側での第3噛み合いにより発生する軸力によって、リング120Aが中立位置に移動することで、二重噛み合い状態が解除される。
このため、ドライブシフトアップ中の変速動作時に動力が断絶することを防止できるため、動力断絶による大きな減速感が発生することを防止できる。
また、本実施例のドグクラッチ機構100によれば、変速ギヤ130Aから回転軸90に動力が伝達されているときのコーストシフトアップ中は、下位段側での第3噛み合いと、上位段側での第1噛み合いと、からなる二重噛み合い状態が一時的に成立し、下位段側での第3噛み合いにより発生する軸力によって、リング120Aが中立位置に移動することで、二重噛み合い状態が解除される。
また、本実施例のドグクラッチ機構100によれば、回転軸90から変速ギヤ130Bに動力が伝達されているときのドライブシフトダウン中、および、変速ギヤ130Bから回転軸90に動力が伝達されているときのコーストシフトダウン中は、下位段側での第1噛み合いと、上位段側での第4噛み合いと、からなる二重噛み合い状態が一時的に成立し、上位段側での第4噛み合いにより発生する軸力によって、リング120Bが中立位置に移動することで、二重噛み合い状態が解除される。
このため、ドライブシフトダウン中の変速動作時に動力が断絶することを防止できるため、動力断絶による大きな減速感が発生することを防止できる。
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。