以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
(第1実施形態)
本実施形態の物体検知システムは、移動体としての車両に搭載されている。図1に示す物体検知システムは、車両10に搭載された超音波センサ30の測距結果を用いて、車両10の周囲に存在する物体(例えば、他の車両や道路構造物等)を検知する。
超音波センサ30は、超音波を探査波として送信し、探査波が周囲の物体で反射した反射波を受信することにより、車両周囲に存在する物体の有無や物体までの距離を検出するセンサである。超音波センサ30は、車両10の運転支援制御(例えば、衝突回避制御等)を実施する運転支援ECU40と通信可能に接続されており、運転支援ECU40からの指令に基づいて物体検知情報を出力する。物体検知情報には、車両10の周囲に存在する物体の位置や距離、方位に関する情報が含まれている。
超音波センサ30は、送受波部21と、物体検知装置としての検知ECU20とを備えている。送受波部21は振動子を有し、1個の振動子が送波と受波とを兼用する構成となっている。送受波部21は、例えば車両10の前部及び後部のバンパに配置されている。
検知ECU20は、送波部22、受波部23及び制御部24を備えており、これらにより送受波機能を実現する。送波部22は、超音波領域の所定周波数の正弦波をパルス変調することによりパルス信号を生成して送受波部21に出力し、送受波部21から所定の送信周期で振動子を振動させ、探査波として超音波を出力させる。受波部23は、振動子の振動を電気信号に変換し、受波信号として波形処理部25に出力する。
制御部24は、運転支援ECU40からの指令に基づいて、送波部22及び受波部23に対して送受波の指令信号を出力するとともに、反射波に基づき認識した物体検知情報を運転支援ECU40に出力する。検知ECU20は、波形処理部25、振幅計測部26及び周波数計測部27を更に備えており、制御部24と共に、物体検知情報を生成する機能を実現する。
波形処理部25は、波形処理として、受波信号に対してフィルタ処理及び増幅処理を行い、包絡線検波回路にて包絡線を検波する。振幅計測部26は、受信波(残響及び反射波を含む。)の振幅値を計測する。本実施形態では、振幅値の上限値が定められており、振幅値がその上限値よりも大きい場合には、振幅値が上限値Amaxで固定される。周波数計測部27は、受信波の周波数を計測する。例えば、電圧が正の値から負の値へ変化する点をゼロクロス点とし、そのゼロクロス点間の時間の逆数を周波数とする。
図2を参照して、超音波センサ30の送波及び受波の一連の流れについて説明する。図2の横軸は時間であり、縦軸は振幅値Aである。図2では包絡線検波した波形で表している。
送波部22は、制御部24からの制御指令に応じて、時刻t10から時刻t11までの間、パルス信号を送受波部21に出力する。これにより、送受波部21の振動子が振動し、所定周波数の超音波が送受波部21から送信される(時刻t10〜t11)。送波終了の時刻t11以降の期間(t11〜t12)では、送信波の残響が生じる。残響は、送波のための振動停止後において振動子の機械的な慣性振動が継続することにより発生する。
時刻t10から時刻t11の期間に送信された超音波が、車両周囲に存在する物体で反射し、反射波として送受波部21に受波されると、物体との距離に応じた時刻(図2では時刻t13)で振幅値Aが増大する。制御部24は、このときの反射波の振幅値Aと振幅閾値Athとを比較し、振幅値Aが振幅閾値Athよりも大きいことにより物体有りと判定する。車両10と物体との距離が短いほど、反射波はより早い時刻に現れる。
振幅閾値Athは、受波信号に基づき算出した振幅との比較に用いられる閾値であり、本実施形態では、残響の終了判定、すなわち、受波信号を反射波に基づく信号として取得する際の開始判定に用いる残響閾値Athaと、反射波により物体を検知する物体検知判定に用いる反射波閾値Athbとが設けられている。検知ECU20は、送波終了後に、受信波の振幅値Aと残響閾値Athaとの比較結果に基づいて残響が終了したことを判定する。残響が終了したと判定されると、反射波の読込開始へ移行する。また、反射波の読込開始への移行に伴い、振幅閾値Athは残響閾値Athaから反射波閾値Athbに切り替えられ、反射波閾値Athbを用いて物体検知が行われる。
具体的には、図2に示すように、送波後の振幅値Aが残響閾値Athaを下回ってから所定のディレイ時間Tyが経過した時点で残響が終了したと判定し(時刻t12)、反射波の読み込みを開始する。残響が終了したと判定されると、振幅閾値Athを残響閾値Athaから反射波閾値Athbへ切り替える。当該切り替えに際し、本実施形態では、振幅閾値Athを残響閾値Athaから反射波閾値Athbへ徐々に低下させ、その後、反射波閾値Athbで一定値とする。時刻t12以降では、反射波の振幅値Aと振幅閾値Athとを比較し、反射波の閾値Aが振幅閾値Athを超えたことに基づき物体の検知有りと判定する。なお、反射波閾値Athbが「検知閾値」に相当する。
残響部分では、周波数が異なる複数の波が干渉して合成波が生成されることにより「うなり」が発生することがある。すなわち、図2に示すように、時刻t11で送波を終了した以降の残響継続期間において、残響の振幅値Aが増減変動することがある。本システムでは、超音波センサ30の正常時に残響でうなりが発生するように、超音波センサ30内のコイルやコンデンサ等の回路構成が設計されている。したがって、超音波センサ30が物体を正常に検知可能な状態であれば、残響波形は図2に示すような増減変動した波形となる。
ここで、超音波センサ30の送受波部21に水や汚れ等の異物が付着していると、感度が低下することによって、実際には物体の反射波を受信しているにも関わらず、反射波の振幅値Aが振幅閾値Athに対して小さくなることがある。こうした感度低下による検知漏れをなくすために、振幅閾値Athを小さめに設計することも考えられる。しかしながら、振幅閾値Athを小さめに設計すると、送受波部21に付着物がない正常時に、路面反射等によるノイズによって不要な物体を検知してしまうおそれがある。
超音波センサ30の送受波部21に異物が付着している場合、残響の振動特性に違いが現れ、残響波形が正常時の状態からずれた場合には、送受波部21に異物が付着していると推定できる。本実施形態では、残響のうなり状態に着目し、残響のうなり状態が正常時と異なる場合には、送受波部21に異物の付着ありとみなし、感度低下を補償するべく、物体が検知されやすくなる側に反射波閾値Athbを変更することとしている。
具体的には、検知ECU20は、図1に示すように、送信波の残響のうなり状態を検出するうなり検出部28と、うなり検出部28による残響のうなり状態の検出結果に基づいて反射波閾値Athbを可変に設定するとともに、振幅閾値Athを設定する閾値設定部29と、を備えている。制御部24は、閾値設定部29で設定した振幅閾値Athを用いて、反射波に基づく物体検知を行っている。以下、うなり検出部28及び閾値設定部29で行う処理について詳しく説明する。
残響にうなりが発生している場合とそうでない場合とでは、残響の振幅値Aが減少傾向にある期間での振幅値Aの傾きが異なる。具体的には、残響でうなりが発生している場合には、図2に示すように、残響の振幅値Aがゼロに向けて単調減少する期間(以下、「振幅立ち下がり期間Td」という。)での振幅値Aの傾きは比較的急峻である。これに対し、残響でうなりが発生していない場合には、図3に示すように、振幅立ち下がり期間Tdでの振幅値Aの傾きは、うなりが発生している場合に比べて緩やかである。この点に着目し、うなり検出部28は、振幅立ち下がり期間Tdでの振幅値Aの傾きに基づいて残響のうなりの有無を検出する。
具体的には、うなり検出部28は、図1に示すように、傾き算出部28aとうなり判定部28bとを備える。傾き算出部28aは、残響が継続している期間、より具体的には、探査波の送信後に振幅値Aが残響閾値Athaを下回る前の期間において、振幅立ち下がり期間Tdでの振幅値Aの傾きの絶対値(以下、「立ち下がり傾きα」という。)を算出する。なお、立ち下がり傾きαが「振幅傾き」に相当する。
うなり判定部28bは、傾き算出部28aで算出した立ち下がり傾きαと、うなり判定値αthとを比較する。そして、立ち下がり傾きαがうなり判定値αth以下の場合、つまり、残響が減衰するときの振幅値Aの低下が緩慢である場合には、残響にうなりは発生していないと判定する。一方、立ち下がり傾きαがうなり判定値αthよりも大きい場合、つまり、残響が減衰するときの振幅値Aの低下が急峻である場合には、残響にうなりが発生していると判定する。うなり検出部28は、残響のうなり状態の検出結果を閾値設定部29に出力する。
なお、残響にうなりが発生している場合、図2に示すように、残響が継続している期間内において振幅値Aが増減変動することによって、1回の残響期間内で、残響の振幅値Aが減少傾向にある期間が複数回出現する。うなり検出部28は、振幅値Aが減少する毎に振幅値Aの傾きを算出して都度書き替えることにより、最後の振幅立ち下がりApでの振幅値Aの傾きを認識し、これを立ち下がり傾きαとしてうなり判定を行う。
閾値設定部29は、うなり検出部28から残響のうなり状態の検出結果を入力し、残響のうなり状態に応じて、反射波閾値Athbを可変に設定する。本実施形態の超音波センサ30は、送受波部21に異物が付着していない正常時には、残響でうなりが発生するように設計されており、閾値設定部29は、残響のうなり状態が正常時の状態、つまり残響でうなりが発生している場合には、反射波閾値Athbとして第2閾値Ath2を設定する。また、残響でうなりが発生しておらず、残響のうなり状態が正常時と異なる場合には、反射波閾値Athbとして、第2閾値Ath2よりも小さい第1閾値Ath1(Ath1<Ath2)を設定する。
また、閾値設定部29は、残響のうなり状態に応じて設定した反射波閾値Athbと、残響閾値Athaとを用いて振幅閾値Athを設定する。本実施形態では、残響でうなりが発生している場合とそうでない場合とでは、残響の最後の振幅立ち下がりApでの傾きが異なる点を考慮し、残響のうなり状態に応じて、振幅閾値を残響閾値Athaから反射波閾値Athbへ徐変させるときの低下率Bを可変に設定する。なお、低下率Bは、振幅閾値Athの単位時間当たりの変化量であり、正の値で示される。つまり、低下率Bが大きいほど、振幅閾値Athを急峻な傾きで低下させることを意味する。
本実施形態では、残響のうなり状態に応じてディレイ時間Tyを可変に設定しており、残響にうなりが発生している場合には、ディレイ時間Tyを第2ディレイ時間Ty2とし、うなりが発生していない場合には、第2ディレイ時間Ty2よりも短い第1ディレイ時間Ty1とする。残響にうなりが発生している場合、振幅値Aが増減変動するため、振幅値Aが振幅閾値Athよりも一旦小さくなった後に、再び振幅閾値Athを超えることが考えられる。また、残響にうなりが発生していない場合には、残響が伸びる分、早めに反射波の読み込み開始に移行することが望ましい。したがって、残響のうなり状態に応じてディレイ時間Tyを設定しておくことにより、残響に基づく物体の誤検知を回避しつつ、近距離物体に対する検知性能を確保するようにしている。
具体的には、残響でうなりが発生している場合には、図2に一点鎖線で示すように、探査波の送信後の所定期間では、振幅閾値Athを残響閾値Athaとする。その後、振幅値Aが残響閾値Athaを下回ってから第2ディレイ時間Ty2が経過した時点(t12)で、振幅閾値Athを、第2低下率B2で残響閾値Athaから第2閾値Ath2に向けて徐々に小さくし、その後、第2閾値Ath2で一定値にする。第2閾値Ath2としては、路面反射による反射波に基づき物体有りと検知しない程度に高い振幅値が設定してあり、これにより物体の不要検知を抑制するようにしている。
また、残響でうなりが発生していない場合には、図4に一点鎖線で示すように、探査波の送信後の所定期間では、振幅閾値Athを残響閾値Athaとする。その後、振幅値Aが残響閾値Athaを下回ってから第1ディレイ時間Ty1(Ty1<Ty2)が経過した時点(t21)で、振幅閾値Athを、第1低下率B1で残響閾値Athaから第1閾値Ath1(Ath1<Ath2)に向けて徐々に小さくし、その後、第1閾値Ath1で一定値にする。残響でうなりが発生しておらず、送受波部21に付着物が存在していることが想定される状況では、反射波閾値Athbを低めに設定することにより、物体の検知漏れを抑制するようにしている。
閾値設定部29は、設定した振幅閾値Athを制御部24に出力する。なお、超音波センサ30の送受波部21からは、送信周期Tcごとに(例えば、数百ミリ秒間隔で)超音波が送信され、振幅閾値Athは送信周期Tcごとに設定される。制御部24は、振幅計測部26から入力した受信波(残響及び反射波)の振幅と、閾値設定部29から入力した振幅閾値Athとの比較により、残響の終了判定及び物体検知を行う。
運転支援ECU40は、CPU、各種メモリ等から構成されたマイコンを主体として構成され、超音波センサ30から取得した物体検知情報に基づいて、車両10の運転支援制御を実施する。運転支援制御としては、車両10が物体に接触しないように車両10の運転者に対して警報音による報知を行ったり、あるいは、物体との接触回避のための制動制御やステアリング制御等の各種制御を行ったりする。また、車両10には、外気温度を検出する外気温センサ41が取り付けられている。
次に、本実施形態の物体検知装置で実行される処理について、図5〜図7のフローチャートを用いて説明する。図5は、反射波閾値Athbの設定処理の処理手順を示し、図6は、振幅閾値Athの設定処理の処理手順を示し、図7は、反射波による物体検知処理の処理手順を示す。これらの処理は、送受波部21から超音波を送信する旨の送信指令が出力された後に、検知ECU20により所定周期毎に実行される。
図5において、ステップS101では、残響を受波部23で受信する。ステップS102では、その受信した残響の振幅値Aが振幅閾値Athを下回る前の期間で、振幅値Aの立ち下がり傾きαを算出する。
ステップS103では、立ち下がり傾きαがうなり判定値αthよりも大きいか否かを判定する。立ち下がり傾きαがうなり判定値αthよりも大きい場合には、ステップS104へ進み、反射波閾値Athbとして第2閾値Ath2を設定し、これを記憶部に記憶する。
一方、立ち下がり傾きαがうなり判定値αth以下の場合には、ステップS105へ進み、外気温センサ41によって検出された外気温情報に基づいて、外気温度が所定温度以上変化していないか否かを判定する(温度変化判定部)。ここでは、所定の短時間(例えば数分〜数十分)の間に外気温度が所定温度以上の急激な温度変化がなければ肯定判定される。急激な温度変化が生じる状況は、例えば車両10がガレージやトンネル、屋内駐車場等といったような外部と遮断された空間に進入した場合に生じ得る。
外気温度が所定温度以上変化していない状況であれば、ステップS105で肯定判定されてステップS106へ進み、反射波閾値Athbとして第1閾値Ath1を設定し、これを記憶部に記憶する。一方、外気温度が所定温度以上変化した状況であれば、ステップS104へ進み、反射波閾値Athbとして第2閾値Ath2を設定する。外気温度が急激に大きく変化した状況の場合、残響のうなりが消失した原因は、送受波部21への異物の付着によるものではなく、超音波センサ30内の回路の温度特性によるものと考えられるためである。
次に、振幅閾値Athの設定処理について説明する。図6において、ステップS201では、送信波及び残響を受波部23で受信し、振幅値Aに基づいて残響が終了したか否かを判定する。具体的には、探査波の送信後の振幅値Aが振幅閾値Athを下回ってからディレイ時間Tyが経過したか否かを判定する。ディレイ時間Tyは、残響でうなりが発生していない場合には第1ディレイ時間Ty1とし、残響でうなりが発生している場合には第2ディレイ時間Ty2とする。残響が終了していないと判定された場合には、ステップS202へ進み、振幅閾値Athを残響閾値Athaに設定する。
ステップS201で肯定判定された場合、つまり残響が終了している場合には、ステップS203へ進み、振幅閾値Athが反射波閾値Athbまで低下する前か否かを判定する。振幅閾値Athが反射波閾値Athbよりも高ければ、ステップS203で肯定判定されてステップS204へ進み、振幅閾値Athを低下率Bで徐変させる。具体的には、残響でうなりが発生していない場合には、振幅閾値Athの前回値を第1低下率B1で減少させた値を今回値とし、残響でうなりが発生している場合には、振幅閾値Athの前回値を第2低下率B2で減少させた値を今回値とする。一方、振幅閾値Athが反射波閾値Athbまで低下している場合にはステップS205へ進み、振幅閾値Athを反射波閾値Athbで保持し、本ルーチンを終了する。
次に、反射波による物体検知処理について説明する。図7において、ステップS301では、図6のステップS201と同様の処理によって残響が終了したか否かを判定する。残響が終了したと判定されている場合には、ステップS302へ進み、受信波を反射波として読み込む。続くステップS303では、図6で設定した振幅閾値Athを取得し、反射波の振幅値Aと振幅閾値Athとを比較する。反射波の振幅値Aが振幅閾値Ath以下である場合にはステップS304へ進み、物体無しと判定する。一方、反射波の振幅値Aが振幅閾値Athよりも大きい場合にはステップS305へ進み、物体有りと判定する。そして本処理を終了する。
以上詳述した本実施形態によれば、次の優れた効果が得られる。
残響のうなり状態に基づいて反射波閾値Athbを可変に設定する構成としたため、送受波部21における付着物の有無に応じた反射波閾値Athbを用いて、反射波に基づく物体検知を行うことができる。これにより、反射波に基づく物体検知性能の向上と、物体の不要検知の抑制との両立を図ることができる。
具体的には、うなり検出部28により検出された残響のうなり状態が、送受波部21に付着物がない正常時の状態と異なる場合に、物体が検知されやすくなる側に反射波閾値Athbを変更する構成とした。この構成によれば、送受波部21に付着物がない場合には、反射波閾値Athbを高めに設定するため、路面反射等によるノイズによって不要な物体検知が行われることを抑制することができる。また、送受波部21に付着物がある場合には、反射波閾値Athbを低めに設定するため、感度が低下している状況において物体を精度良く検知することができる。また、付着物の存在によって感度が低下しているため、反射波閾値Athbを低めに設定しても、不要な物体検知については抑制することができる。
外気温度が所定温度以上変化していないことを条件に、残響のうなり状態の検出結果に基づいて反射波閾値Athbを可変に設定する構成とした。外気温度が所定温度以上変化した状況下では、残響のうなり状態が変化した要因は、送受波部21での付着物の存在ではなく、超音波センサ30内の回路の温度特性によることが考えられる。つまり、外気温度が所定以上変化していない状況で残響のうなり状態が変化した場合には、送受波部21に付着物が存在している蓋然性が高い。この点を考慮して上記構成とすることにより、送受波部21の付着物の有無の判定精度を高めることができる。
残響のうなり状態に応じて、残響波の振幅の立ち下がり傾きαが異なる点に着目し、立ち下がり傾きαに基づいて、残響のうなり状態を検出する構成とした。この構成によれば、最後の振幅立ち下がりApの期間において振幅値Aの傾きを少なくとも算出すればよいため、少ない処理負荷で残響のうなり状態を検出することができる。
残響のうなり状態に応じて、残響が減衰するときの振幅の立ち下がり傾きαが異なる点に着目し、うなり検出部28による残響のうなり状態の検出結果に基づいて、振幅閾値を残響閾値Athaから反射波閾値Athbへ徐変させるときの単位時間当たりの変化量である低下率Bを可変に設定する構成とした。具体的には、残響でうなりが発生していない場合には、残響でうなりが発生している場合に比べて低下率Bを小さくする構成とした。こうした構成によれば、残響の減衰が緩やかな状況では、振幅閾値Athについても緩やかに低下させるため、残響による物体の不要検知を抑制することができる。一方、残響の減衰が急峻な状況では、振幅閾値Athを速やかに低下させるため、車両10から近距離に存在する物体の検知性能の向上を図ることができるとともに、低反射率の物体について精度良く検知することができる。
うなり検出部28による残響のうなり状態の検出結果に基づいてディレイ時間Tyを可変に設定する構成とした。具体的には、残響にうなりが発生していない場合に、残響にうなりが発生している場合に比べて、受波信号を反射波として取得開始する時期が早くなるようにディレイ時間Tyを設定する構成とした。こうした構成によれば、残響の振幅が再度大きくなる可能性があるような不安定な状況では、反射波に基づく物体の検知開始を遅らせることができ、逆に、残響が安定して減衰している状況では、反射波に基づく物体の検知開始に早目に移行することができる。これにより、残響が未終了のまま物体の検知を開始することによる不要検知の抑制と、車両10から近距離に存在する物体の検知性能の向上とを両立させることができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態では、残響波形の立ち下がり部分の傾きの絶対値である立ち下がり傾きαに基づいて、残響のうなり状態を検出する構成とした。これに対し、本実施形態では、残響の振幅値Aが所定以上の変化で増減変動する頻度を検出することにより、残響のうなり状態を検出する。
図8は、本実施形態の物体検知システムの概略構成図である。なお、図8は、図1と異なる部分を示している。図8において、うなり検出部28は、変動検出部28cとうなり判定部28dとを備える。変動検出部28cは、超音波を送信した後に振幅値Aが振幅閾値Athを下回る前の期間で、残響の振幅値Aが所定値以上の変動量で増減変動した回数(以下、「うなり回数δ」という。)を計測する。例えば図9に示すように、探査波の送信終了後の時刻t31以降の期間において、振幅値Aが変動閾値Dthを下回る極小点Pの出現回数をカウントし、その出現回数をうなり回数δとして設定する。変動閾値Dthは、上限値Amaxよりも小さく、かつ残響閾値Athaよりも大きい値に設定されている。
うなり判定部28dは、変動検出部28cで検出したうなり回数δと、うなり判定値δthとを比較し、うなり回数δがうなり判定値δth以下の場合には、残響でうなりは発生していないと判定する。一方、うなり回数δがうなり判定値δthよりも大きい場合には、残響でうなりが発生していると判定する。閾値設定部29は、うなり検出部28から残響のうなり状態の検出結果を入力し、うなりの有無に応じて反射波閾値Athbを可変設定する。
次に、本実施形態の反射波閾値Athbの設定処理について図10のフローチャートを用いて説明する。この処理は、送受波部21から超音波を送信する旨の送信指令が出力された後に、検知ECU20により所定周期毎に実行される。
図10において、ステップS401では、残響を受波部23で受信する。ステップS402では、その受信した残響の振幅値Aが残響閾値Athaを下回る前の期間において、残響の振幅値Aに基づいてうなり回数δを算出する。
ステップS403では、うなり回数δがうなり判定値δthよりも大きいか否かを判定する。うなり回数δがうなり判定値δthよりも大きい場合には、ステップS404へ進み、反射波閾値Athbとして第1閾値Ath1を設定し、これを記憶部に記憶する。一方、うなり回数δがうなり判定値δth以下の場合には、ステップS405へ進み、外気温センサ41によって検出された外気温情報に基づいて、外気温度が所定温度以上変化したか否かを判定する。
外気温度が所定温度以上変化していない状況であればステップS406へ進み、反射波閾値Athbとして第1閾値Ath1を設定し、これを記憶部に記憶する。一方、外気温度が所定温度以上変化した状況であれば、ステップS404へ進み、反射波閾値Athbとして第2閾値Ath2を設定する。その後、本処理を終了する。図10の処理で設定した反射波閾値Athbは、上記図6に示した振幅閾値Athの設定処理で用いられ、上記図7の物体検知処理により、反射波の振幅値Aと振幅閾値Athとの比較結果に基づいて物体検知が行われる。
以上詳述した第2実施形態によれば、残響のうなり状態に応じて、残響波の振幅が増減変動する頻度が異なる点に着目し、当該頻度を表すうなり回数δに基づいて、残響のうなり状態を検出する構成とした。この構成によれば、残響のうなりを直接検出でき、うなり状態をより精度良く検出することができる。その結果、物体の不要検知の抑制と物体の検知性能向上との両立の観点において、より適した反射波閾値Athbを設定することができる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態では、立ち下がり傾きαに基づいて残響のうなり状態を検出する構成としたが、本実施形態では、残響の周波数に基づいてうなり状態を検出する。
残響周波数に基づくうなり検出処理について、図11及び図12を用いて説明する。図11は、残響でうなりが発生している場合を表し、図12は、残響でうなりが発生していない場合を表す。図11及び図12中、上段は合成波の振幅値Aの推移を表し、下段は、低周波数成分及び高周波数成分のそれぞれの振幅値Aの推移を表したものである。
残響のうなりは、周波数が異なる複数の波が干渉して合成波が生成されることにより生じる。残響でうなりが発生している場合には、図11に示すように、低周波数成分と高周波数成分との振幅値Aは経時的にほぼ同じ変化となり、周波数計測部27では、高周波数成分の周波数が計測される。これに対し、残響が低周波数側にシフトしており、周波数計測部27で低周波数成分の振動の周波数が計測されている場合、図12に示すように、残響にうなりは発生しない。この点に着目し、本実施形態では、残響の周波数に基づいてうなり状態を検出することとしている。
図13は、本実施形態の物体検知システムの概略構成図である。なお、図13は、図1と異なる部分を示している。うなり検出部28は、探査波の送信指令の終了後に計測した残響周波数(以下、「残響計測周波数fa」という。)を周波数計測部27から入力し、その入力した残響計測周波数faに基づいて、残響にうなりが発生しているか否かを判定する。本実施形態では、基準温度時(例えば常温時)の残響周波数と駆動周波数との高低の関係を示す周波数情報を予め記憶部に記憶しておき、その周波数情報を用いて残響のうなり状態を検出する。なお、本実施形態では、基準温度において残響でうなりが発生するように超音波センサ30が設計されており、送受波部21に異物が付着していない正常時では、残響周波数として、振幅成分の大きい高周波数成分の周波数(駆動周波数よりも高い周波数)が計測される。基準温度は、通常の車両走行時における環境温度であり、例えば出荷地域等に応じて設定されていてもよい。
具体的には、うなり検出部28は、残響計測周波数faと駆動周波数との関係が、基準温度時の残響周波数と駆動周波数との関係と同じか否かを判定する。両者の関係が基準温度時と同じであれば、残響部分にうなりは発生しているものと判定する。一方、両者の関係が基準温度時と異なっている場合には、残響部分にうなりが発生していないものと判定する。閾値設定部29は、うなり検出部28から残響のうなり状態の検出結果を入力し、うなりの有無に応じて反射波閾値Athbを可変設定する。
次に、本実施形態の時間閾値Tthの設定処理について図14を用いて説明する。この処理は、送受波部21から超音波を送信する旨の送信指令が出力された後に、検知ECU20により所定周期毎に実行される。
図14において、ステップS501では、残響を受波部23で受信する。ステップS502では、残響計測周波数faを取得し、ステップS503で、残響計測周波数faと駆動周波数との関係が基準温度時と同じか否かを判定する。残響計測周波数faと駆動周波数との関係が基準温度時と同じ場合、ステップS504へ進み、反射波閾値Athbとして第2閾値Ath2を設定し、これを記憶部に記憶する。一方、残響計測周波数faと駆動周波数との関係が基準温度時と同じでない場合には、ステップS505へ進み、外気温センサ41によって検出された外気温情報に基づいて、外気温度が所定温度以上変化していないか否かを判定する。
外気温度が所定温度以上変化していなければステップS506へ進み、反射波閾値Athbとして第1閾値Ath1を設定し、これを記憶部に記憶する。一方、外気温度が所定温度以上変化した状況であれば、ステップS504へ進み、反射波閾値Athbとして第2閾値Ath2を設定する。その後、本処理を終了する。図14の処理で設定した反射波閾値Athbは、上記図6に示した振幅閾値Athの設定処理で用いられ、上記図7の物体検知処理により、反射波の振幅値Aと振幅閾値Athとの比較結果に基づいて物体検知が行われる。
以上詳述した第3実施形態によれば、残響のうなり状態に応じて、残響周波数の現れ方が異なる点に着目し、残響周波数に基づいて残響のうなり状態を検出する構成とした。この構成によれば、残響周波数を用いて、残響のうなり状態を比較的簡単に検出することができ、その検出結果を用いて反射波閾値Athbを可変に設定することにより、物体の不要検知の抑制と、物体の検知性能向上との両立を図ることができる。
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されず、例えば以下のように実施されてもよい。
・上記実施形態では、超音波センサ30が、正常時に残響でうなりが発生するように設計されている場合について説明したが、正常時に残響でうなりが発生しないように設計されている超音波センサを備えるシステムに適用してもよい。この場合、残響でうなりが発生していない状態から、うなりが発生している状態に変化した場合に、物体が検知されやすくなる側に反射波閾値Athbを変更する。
・上記実施形態では、うなり検出部28によって残響のうなりの有無を検出したが、うなりの強弱の度合いを検出し、その検出結果に基づいて、反射波閾値Athbや低下率B、ディレイ時間Tyを可変に設定する構成としてもよい。具体的には、立ち下がり傾きαに応じて反射波閾値Athbを設定する際に、正常時の立ち下がり傾きαからの乖離量が大きいほど、反射波閾値Athbを、物体が検知されやすくなる側に設定する。あるいは、うなり回数の数に応じて反射波閾値Athbを設定する際に、正常時のうなり回数からの乖離量が大きいほど、反射波閾値Athbを、物体が検知されやすくなる側に設定する。また、反射波閾値Athbを、外気温度やセンサ個体の温度情報に応じて可変に設定してもよい。
・上記実施形態では、探査波の送信終了後に振幅値Aが振幅閾値Athを下回ってからの時間とディレイ時間Tyとの比較結果に基づいて、残響が終了したか否かを判定する構成としたが、送信終了からの時間をカウントして閾値と比較することにより、残響が終了したか否かを判定する構成としてもよい。この場合、送信指令終了からの時間の閾値を、残響のうなり状態に基づいて可変に設定する。
・上記第3実施形態では、基準温度時の残響周波数と駆動周波数との関係を示す周波数情報を予め定めておき、残響計測周波数faと駆動周波数との関係が基準温度時と同じか否かを判定することによって残響のうなり状態を検出したが、残響の周波数に基づくうなり状態の検出方法はこれに限定されない。例えば、残響が生じている期間内で、駆動周波数に対する残響周波数の高低が変化したか否かを判定し、その判定結果に基づいて残響のうなり状態を検出する構成としてもよい。具体的には、残響が生じている期間内で、残響計測周波数faが駆動周波数よりも高い周波数から低い周波数へ遷移した場合、又は残響計測周波数faが駆動周波数よりも低い周波数から高い周波数へ遷移した場合に、残響でうなりが発生していないものと判定する。また、残響が生じている期間内で、残響計測周波数faが駆動周波数よりも高い状態が継続している場合に、残響でうなりが発生しているものと判定する。
・残響のうなり状態につき、複数の検出方法を組み合わせて検出する構成としてもよい。例えば、立ち下がり傾きαとうなり回数δとに基づいて残響のうなり状態を検出する構成や、立ち下がり傾きαと残響周波数とに基づいて残響のうなり状態を検出する構成等が挙げられる。複数の検出方法を組み合わせる構成によれば、残響のうなり状態をより精度良く検出することができる。
・上記第1実施形態では、振幅値Aが単調減少する期間、つまり振幅立ち下がりApでの立ち下がり傾きαを認識し、これに基づきうなり判定を行う構成としたが、振幅値Aが単調減少する期間よりも前で生じた振幅値Aの増減変動について、振幅の単位時間当たりの減少量を算出し、これに基づきうなり判定を行ってもよい。
・上記実施形態では、超音波センサ30の検知ECU20が物体検知装置として機能する場合について説明したが、車両30側のECUが物体検知装置として機能する構成としてもよい。
・上記実施形態では、車両に搭載された物体検知装置を一例に挙げて説明したが、例えば、鉄道車両、船舶、航空機、ロボット等の移動体に搭載することもできる。
・上記の各構成要素は概念的なものであり、上記実施形態に限定されない。例えば、一つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分散して実現したり、複数の構成要素が有する機能を一つの構成要素で実現したりしてもよい。