以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置、電動送風機、電気掃除機及びハンドドライヤについて詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により、本発明が限定されるものではない。また、以下では、電気的な接続と物理的な接続とを区別せずに、単に「接続」と称して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係るモータ駆動装置2を含むモータ駆動システム1の構成図である。図1に示すモータ駆動システム1は、単相モータ12と、モータ駆動装置2と、バッテリ10と、電圧検出器20と、スイッチ102と、を備える。
モータ駆動装置2は、単相モータ12に交流電力を供給して単相モータ12を駆動する。バッテリ10は、モータ駆動装置2に直流電圧Vdcを出力する電源である。電圧検出器20は、バッテリ10からモータ駆動装置2に出力される直流電圧Vdcを検出する。
単相モータ12は、不図示の電動送風機を回転させる回転電機として利用される。単相モータ12及び当該電動送風機は、電気掃除機及びハンドドライヤといった装置に搭載される。
なお、実施の形態1では電圧検出器20が直流電圧Vdcを検出しているが、電圧検出器20の検出対象は、バッテリ10から出力される直流電圧Vdcに限定されない。電圧検出器20の検出対象は、モータ駆動装置2の出力電圧であるインバータ出力電圧でもよい。「インバータ出力電圧」は後述する「モータ印加電圧」と同義である。
モータ駆動装置2は、インバータ11と、制御部25と、駆動信号生成部32とを備える。インバータ11は、単相モータ12に接続され、単相モータ12に交流電圧を印加する。なお、バッテリ10とインバータ11の間には、図1では不図示のコンデンサ(図示せず)を電圧安定のために挿入してもよい。制御部25は、インバータ11が出力する交流電圧を制御する。
また、モータ駆動装置2は、単相モータ12に流れる電流、即ちモータ電流Imを検出するための電流検出器22を備える。電流検出器22については、モータ電流Im、もしくはモータ電流Imに相当する電流が検出できれば、どこに配置してもよい。具体的に、モータ駆動装置2においては、電流検出器22を、単相モータ12の配線に直列に配置してもよいし、インバータ11のスイッチング素子に対して直列に配置してもよいし、インバータ11の電源線又はグランド線に配置してもよい。
また、電流検出器22における電流の検出方法について、抵抗値が既知な抵抗器を挿入し電圧値を検出することでオームの法則より電流値を算出する方法、トランスによる検出方法、ホール効果を用いた検出方法などが挙げられるが、どの方法を用いてもモータ電流Imが検出できればよい。実施の形態1では、単相モータ12の配線に直列にトランスの電流センサを挿入する方法を記載する。なお、モータ駆動装置2は、電流検出器22が電流を検出しているが、電流を電圧に変換したものを用いて、後述するような制御を行ってもよい。また、インバータ11は、単相インバータを想定しているが、単相モータ12を駆動できるものであればよい。
制御部25には、電圧検出器20により検出された直流電圧Vdcの検出値、電流検出器22により検出されたモータ電流Imの検出値、スイッチ102から出力される指令値、不図示の保護信号などが入力される。指令値の例は、トルクに起因する有効電流指令値Ip*、回転速度指令値ω*などが挙げられる。制御部25は、直流電圧Vdcの検出値と、モータ電流Imの検出値と、各指令値とに基づいて、PWM信号Q1,Q2,Q3,Q4(以下、適宜「Q1〜Q4」と表記)を生成する。
スイッチ102は、例えば物理スイッチであり、電動掃除機などに用いられる手元の強運転、弱運転の切り替えスイッチなどである。スイッチ102の形状は、押しボタン式、トグル式など様々な種類が存在するが、使用者の要求を制御部25に伝えられる形状であればどれでもよい。また、スイッチ102は、物理スイッチに限らず、使用時間、状態に合わせて指令値を自動で切り替える構成の場合には、ソフトウェア上の処理であっても構わない。
駆動信号生成部32は、制御部25から出力されたPWM信号Q1〜Q4に基づいてインバータ11のスイッチング素子を駆動するための駆動信号S1,S2,S3,S4(以下、適宜「S1〜S4」と表記)を生成する。駆動信号生成部32は、制御部25から出力されたPWM信号Q1〜Q4のそれぞれを、インバータ11を駆動するための駆動信号S1〜S4に変換して、インバータ11に出力する。なお、駆動信号生成部32について、図1はあくまでも一例であり、インバータ11に内蔵される構造であってもよいし、制御部25と一体になっている構造であってもよい。
単相モータ12の一例は、ブラシレスモータである。単相モータ12がブラシレスモータである場合、単相モータ12のロータ12aには、図示しない複数個の永久磁石が周方向に配列される。すなわち、単相モータ12は、永久磁石を有する。これらの複数個の永久磁石は、着磁方向が周方向に交互に反転するように配置され、ロータ12aの複数個の磁極を形成する。単相モータ12のステータ12bには図示しない巻線が巻かれている。当該巻線には交流電流が流れる。単相モータ12の巻線に流れる電流を適宜「モータ電流」と呼ぶ。実施の形態1では、ロータ12aの磁極数は4極を想定するが、ロータ12aの磁極数は4極以外でもよい。
図2は、図1に示されるインバータ11の回路構成図である。インバータ11は、ブリッジ接続された複数のスイッチング素子51,52,53,54(以下、適宜「51〜54」と表記)を有する。スイッチング素子51,52は第1のレグ5Aを構成する。第1のレグ5Aにおいて、スイッチング素子51とスイッチング素子52とは直列に接続される。スイッチング素子53,54は第2のレグ5Bを構成する。第2のレグ5Bにおいて、スイッチング素子53とスイッチング素子54とは直列に接続される。第1のレグ5Aと第2のレグ5Bとは、互いに並列に接続される。
スイッチング素子51,53は、高電位側に位置し、スイッチング素子52,54は、低電位側に位置する。インバータ回路では、一般的に、高電位側は「上アーム」と称され、低電位側は「下アーム」と称される。以下の説明において、第1のレグ5Aのスイッチング素子51を「上アーム第1素子」又は「第1のスイッチング素子」と呼び、第2のレグ5Bのスイッチング素子53を「上アーム第2素子」又は「第3のスイッチング素子」と呼ぶ場合がある。また、第1のレグ5Aのスイッチング素子52を「下アーム第1素子」又は「第2のスイッチング素子」と呼び、第2のレグ5Bのスイッチング素子54を「下アーム第2素子」又は「第4のスイッチング素子」と呼ぶ場合がある。
単相モータ12及び電流検出器22は、インバータ11における第1の接続点である接続点6Aと、インバータ11における第2の接続点である接続点6Bとの間に接続される。接続点6Aは、スイッチング素子51とスイッチング素子52との接続点である。接続点6Bは、スイッチング素子53とスイッチング素子54との接続点である。接続点6A,6Bは、ブリッジ回路における交流端を構成する。なお、前述のように、電流検出器22は単相モータ12に流れる電流が検出できればどこに挿入してもよく、電流検出器22における電流の検出方法も限定されない。
複数のスイッチング素子51〜54のそれぞれには、金属酸化膜半導体電界効果型トランジスタであるMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)が使用される。MOSFETは、FET(Field−Effect Transistor)の一例である。MOSFETは、双方向に電流を流す機能、即ちドレインからソースへ、もしくはソースからドレインへ電流を流す機能を有する半導体素子である。この機能は、「逆導通機能」と呼ばれることがある。即ち、MOSFETは、トランジスタ素子自体が逆導通機能を有する半導体素子である。なお、逆導通機能を有する半導体素子の他の例には、逆導通絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Reverse−Conducting Insulated Gate Bipolar Transistor:RC−IGBT)がある。
スイッチング素子51には、スイッチング素子51のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード51aが形成される。スイッチング素子52には、スイッチング素子52のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード52aが形成される。スイッチング素子53には、スイッチング素子53のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード53aが形成される。スイッチング素子54には、スイッチング素子54のドレインとソースとの間に並列接続されるボディダイオード54aが形成される。複数のボディダイオード51a,52a,53a,54aのそれぞれは、MOSFETの内部に形成される寄生ダイオードであり、還流ダイオードとして使用される。なお、別途還流ダイオードを接続してもよい。また、実施の形態1ではMOSFETを例示するが、上述したRC−IGBTを用いてもよい。
また、複数のスイッチング素子51〜54は、シリコン系材料により形成されたMOSFETに限定されず、炭化珪素、窒化ガリウム、酸化ガリウム又はダイヤモンドといったワイドバンドギャップ半導体により形成されたMOSFETでもよい。
一般的にワイドバンドギャップ半導体はシリコン半導体に比べて耐電圧及び耐熱性が高い。そのため、複数のスイッチング素子51〜54にワイドバンドギャップ半導体を用いることにより、スイッチング素子の耐電圧性及び許容電流密度が高くなり、スイッチング素子を組み込んだ半導体モジュールを小型化できる。またワイドバンドギャップ半導体は、耐熱性も高いため、半導体モジュールで発生した熱を放熱するための放熱部の小型化が可能であり、また半導体モジュールで発生した熱を放熱する放熱構造の簡素化が可能である。
図3は、図1に示される制御部25の機能部位のうちのPWM信号を生成する機能部位を示すブロック図である。
図3において、PWM信号生成部38には、後述する電圧指令Vmを生成するときに用いる位相θvが入力される。また、PWM信号生成部38には、位相θvとキャリア生成部33で生成されたキャリアと、直流電圧Vdcと、電圧指令Vmの振幅値である電圧振幅指令V*とが入力される。PWM信号生成部38は、キャリア、位相θv、直流電圧Vdc及び電圧振幅指令V*に基づいて、PWM信号Q1〜Q4を生成する。
図4は、図3に示されるPWM信号生成部38の一例を示すブロック図である。図4には、PWM信号生成部38A及びキャリア生成部33の詳細構成が示されている。図4において、キャリア生成部33には、キャリアの周波数であるキャリア周波数fC[Hz]が設定される。キャリア周波数fCの矢印の先には、キャリア波形の一例として、“0”と“1”との間を上下する三角波キャリアが示される。インバータ11のPWM制御には、同期PWM制御と非同期PWM制御とがある。同期PWM制御の場合、位相θvにキャリアを同期させる必要がある。一方、非同期PWM制御の場合、位相θvにキャリアを同期させる必要はない。
PWM信号生成部38Aは、図4に示されるように、絶対値演算部38a、除算部38b、乗算部38c、乗算部38d、乗算部38f、加算部38e、比較部38g、比較部38h、出力反転部38i、出力反転部38j及び出力選択部38pを有する。
絶対値演算部38aは、電圧振幅指令V*の絶対値|V*|を演算する。除算部38bは、絶対値|V*|を、電圧検出器20で検出された直流電圧Vdcによって除算する。図4に示す構成では、除算部38bの出力が変調率となる。バッテリ10の出力電圧であるバッテリ電圧は、電流を流し続けることにより変動する。一方、絶対値|V*|を直流電圧Vdcで除算することにより、変調率の値を調整し、バッテリ電圧の低下によってモータ印加電圧が低下しないようにできる。
乗算部38cは、位相θvの正弦値を演算する。乗算部38cは、位相θvの正弦値を、除算部38bの出力である変調率に乗算する。乗算部38dは、乗算部38cの出力である電圧指令Vmに“1/2”を乗算する。加算部38eは、乗算部38dの出力に“1/2”を加算する。乗算部38fは、加算部38eの出力に“−1”を乗算する。加算部38eの出力は、複数のスイッチング素子51〜54のうち、上アームの2つのスイッチング素子51,53を駆動するための正側電圧指令Vm1として比較部38gに入力される。乗算部38fの出力は、下アームの2つのスイッチング素子52,54を駆動するための負側電圧指令Vm2として比較部38hに入力される。
比較部38gは、正側電圧指令Vm1と、キャリアの振幅とを比較する。比較部38gの出力を反転した出力反転部38iの出力は、出力選択部38pへのPWM信号Q1’となり、比較部38gの出力は、出力選択部38pへのPWM信号Q2’となる。同様に、比較部38hは、負側電圧指令Vm2と、キャリアの振幅とを比較する。比較部38hの出力を反転した出力反転部38jの出力は、出力選択部38pへのPWM信号Q3’となり、比較部38hの出力は、出力選択部38pへのPWM信号Q4’となる。
前述のように、出力選択部38pには、PWM信号Q1’,Q2’,Q3’,Q4’ (以下、適宜「Q1’〜Q4’」と表記)が入力される。また、出力選択部38pには、図4に示されるように、位相θvが入力される。出力選択部38pは、位相θvと、PWM信号Q1’〜Q4’と、単相モータ12に流れるモータ電流Imの方向と、に基づいて、PWM信号Q1〜Q4を生成する。出力選択部38pによる処理の詳細については、後述する。なお、出力選択部38pに入力されるPWM信号Q1’〜Q4’を変更する必要が無い場合には、PWM信号Q1’〜Q4’が、それぞれPWM信号Q1〜Q4としてそのまま出力される。
図5は、図4に示されるPWM信号生成部38Aにおける要部の波形例を示すタイムチャートである。図5には、加算部38eから出力される正側電圧指令Vm1の波形と、乗算部38fから出力される負側電圧指令Vm2の波形と、PWM信号Q1’〜Q4’の波形とが示されている。また、図5の最下段部には、PWM信号Q1’〜Q4’のそれぞれによって、スイッチング素子51〜54が制御されるときのインバータ出力電圧の波形が示されている。
PWM信号Q1’は、正側電圧指令Vm1がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、正側電圧指令Vm1がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q2’は、PWM信号Q1’の反転信号である。PWM信号Q3’は、負側電圧指令Vm2がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、負側電圧指令Vm2がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q4’は、PWM信号Q3’の反転信号である。このように、図4に示される回路は、“ローアクティブ(Low Active)”で構成されているが、それぞれの信号が逆の値となる“ハイアクティブ(High Active)”で構成されていてもよい。
インバータ出力電圧の波形は、図5に示されるように、PWM信号Q1’とPWM信号Q4’との差電圧による電圧パルスと、PWM信号Q3’とPWM信号Q2’との差電圧による電圧パルスとが表れる。これらの電圧パルスが、モータ印加電圧として、単相モータ12に印加される。
PWM信号Q1’〜Q4’を生成する際に使用する変調方式としては、バイポーラ変調と、ユニポーラ変調とが知られている。バイポーラ変調は、電圧指令Vmの1周期ごとに正又は負の電位で変化する電圧パルスを出力する変調方式である。ユニポーラ変調は、電圧指令Vmの1周期ごとに3つの電位で変化する電圧パルス、すなわち正の電位と負の電位と零の電位とに変化する電圧パルスを出力する変調方式である。図5に示される波形は、ユニポーラ変調によるものである。実施の形態1のモータ駆動装置2においては、何れの変調方式を用いてもよい。なお、モータ電流波形をより正弦波に制御する必要がある用途では、バイポーラ変調よりも、高調波含有率が少ないユニポーラ変調を採用することが好ましい。
また、図5に示される波形は、電圧指令Vmの半周期T/2の区間において、第1のレグ5Aを構成するスイッチング素子51,52と、第2のレグ5Bを構成するスイッチング素子53,54の4つのスイッチング素子をスイッチング動作させる方式によって得られる。この方式は、正側電圧指令Vm1と負側電圧指令Vm2の双方でスイッチング動作させることから、「両側PWM」と呼ばれる。これに対し、電圧指令Vmの1周期Tのうちの一方の半周期では、スイッチング素子51,52のスイッチング動作を休止させ、電圧指令Vmの1周期Tのうちの他方の半周期では、スイッチング素子53,54のスイッチング動作を休止させる方式もある。この方式は、「片側PWM」と呼ばれる。以下、「片側PWM」について説明する。
図6は、図3に示されるPWM信号生成部38の他の例を示すブロック図である。図6には、上述した「片側PWM」によるPWM信号の生成回路の一例が示され、具体的には、PWM信号生成部38B及びキャリア生成部33の詳細構成が示されている。なお、図6に示されるキャリア生成部33の構成は、図4に示されるものと同一又は同等である。また、図6に示されるPWM信号生成部38Bの構成において、図4に示されるPWM信号生成部38Aと同一又は同等の構成部には同一の符号を付して示している。
PWM信号生成部38Bは、図6に示されるように、絶対値演算部38a、除算部38b、乗算部38c、乗算部38k、加算部38m、加算部38n、比較部38g、比較部38h、出力反転部38i、出力反転部38j及び出力選択部38qを有する。
絶対値演算部38aは、電圧振幅指令V*の絶対値|V*|を演算する。除算部38bは、絶対値|V*|を、電圧検出器20で検出された直流電圧Vdcによって除算する。図6の構成でも、除算部38bの出力が変調率となる。
乗算部38cは、位相θvの正弦値を演算する。乗算部38cは、位相θvの正弦値を、除算部38bの出力である変調率に乗算する。乗算部38kは、乗算部38cの出力である電圧指令Vmに“−1”を乗算する。加算部38mは、乗算部38cの出力である電圧指令Vmに“1”を加算する。加算部38nは、乗算部38kの出力、即ち電圧指令Vmの反転出力に“1”を加算する。加算部38mの出力は、複数のスイッチング素子51〜54のうち、上アームの2つのスイッチング素子51,53を駆動するための第1電圧指令Vm3として比較部38gに入力される。加算部38nの出力は、下アームの2つのスイッチング素子52,54を駆動するための第2電圧指令Vm4として比較部38hに入力される。
比較部38gは、第1電圧指令Vm3と、キャリアの振幅とを比較する。比較部38gの出力を反転した出力反転部38iの出力は、出力選択部38qへのPWM信号Q1’となり、比較部38gの出力は、出力選択部38qへのPWM信号Q2’となる。同様に、比較部38hは、第2電圧指令Vm4と、キャリアの振幅とを比較する。比較部38hの出力を反転した出力反転部38jの出力は、出力選択部38qへのPWM信号Q3’となり、比較部38hの出力は、出力選択部38qへのPWM信号Q4’となる。
前述のように、出力選択部38qには、PWM信号Q1’〜Q4’が入力される。また、出力選択部38qには、図6に示されるように、位相θvが入力される。出力選択部38qは、位相θvと、PWM信号Q1’〜Q4’と、単相モータ12に流れるモータ電流Imの方向と、に基づいて、PWM信号Q1〜Q4を生成する。出力選択部38qによる処理の詳細については、後述する。なお、出力選択部38qに入力されるPWM信号Q1’〜Q4’を変更する必要が無い場合には、PWM信号Q1’〜Q4’が、それぞれPWM信号Q1〜Q4としてそのまま出力される。
図7は、図6に示されるPWM信号生成部38Bにおける要部の波形例を示すタイムチャートである。図7には、加算部38mから出力される第1電圧指令Vm3の波形と、加算部38nから出力される第2電圧指令Vm4の波形と、PWM信号Q1’〜Q4’の波形とが示されている。また、図7の最下段部には、PWM信号Q1’〜Q4’のそれぞれによって、スイッチング素子51〜54が制御されるときのインバータ出力電圧の波形が示されている。なお、図7では、便宜的に、キャリアのピーク値よりも振幅値が大きくなる第1電圧指令Vm3の波形部分と、キャリアのピーク値よりも振幅値が大きくなる第2電圧指令Vm4の波形部分は、フラットな直線で表されている。
PWM信号Q1’は、第1電圧指令Vm3がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、第1電圧指令Vm3がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q2’は、PWM信号Q1’の反転信号である。PWM信号Q3’は、第2電圧指令Vm4がキャリアよりも大きいときに“ロー(Low)”となり、第2電圧指令Vm4がキャリアよりも小さいときに“ハイ(High)”となる。PWM信号Q4’は、PWM信号Q3’の反転信号である。このように、図6に示される回路は、“ローアクティブ(Low Active)”で構成されているが、それぞれの信号が逆の値となる“ハイアクティブ(High Active)”で構成されていてもよい。
インバータ出力電圧の波形は、図7に示されるように、PWM信号Q1’とPWM信号Q4’との差電圧による電圧パルスと、PWM信号Q3’とPWM信号Q2’との差電圧による電圧パルスとが表れる。これらの電圧パルスが、モータ印加電圧として、単相モータ12に印加される。
図7に示される波形では、電圧指令Vmの1周期Tのうちの一方の半周期では、スイッチング素子51,52のスイッチング動作が休止し、電圧指令Vmの1周期Tのうちの他方の半周期では、スイッチング素子53,54のスイッチング動作が休止している。
また、図7に示されるように、インバータ出力電圧の波形は、電圧指令Vmの1周期Tごとに3つの電位で変化するユニポーラ変調となる。前述の通り、ユニポーラ変調に代えてバイポーラ変調を用いてもよいが、モータ電流波形をより正弦波に制御する必要がある用途では、ユニポーラ変調を採用することが好ましい。
また、これらPWM信号の生成に使用するキャリアは、所望のキャリア周波数fCから山と谷の三角波を生成している。このキャリア周波数fCはモータの回転速度に合わせて可変であり、モータの回転速度が高くなるほど、周波数も高くなる。回転速度に対して2倍以上の周波数でキャリアを生成することが望ましい。また生成するキャリアは三角波でなく、鋸波などでも構わない。
次に、実施の形態1に係るモータ駆動装置2の要部の動作について、図8から図18を参照して説明する。図8は、図1に示されるインバータ11と単相モータ12とを含む回路である電力変換回路50の構成を示す図である。図9は、図8に示される電力変換回路50の各スイッチング素子の導通又は非導通を制御する駆動信号の組合せによって定義されるスイッチングパターンを示す図である。図10は、図8に示される電力変換回路50における特徴的な回路動作の説明に使用する図である。図11は、図9で定義したパターン1で制御されるときの電力変換回路50に流れる電流の経路を示す図である。図12は、図9で定義したパターン3で制御されるときの電力変換回路50に流れる電流の経路を示す図である。図13は、図9で定義したパターン5で制御されるときの電力変換回路50に流れる電流の経路を示す図である。図14は、図9で定義したパターン7で制御されるときの電力変換回路50に流れる電流の経路を示す図である。図15は、図9で定義したパターン8で制御されるときの電力変換回路50に流れる電流の経路を示す図である。図16は、図8に示される電力変換回路50のスイッチング素子の等価回路を示す図である。図17は、スイッチング素子が導通に制御されるときの図8に示される電力変換回路50の等価回路を示す図である。図18は、スイッチング素子が非導通に制御されるときの図8に示される電力変換回路50の等価回路を示す図である。
まず、図8では、接続点6Aから接続点6Bに向かう右向きの矢印に対して「+Im」と表記されている。実施の形態1では、この電流の方向を「第1の方向」と定義する。また、第1の方向の逆を「第2の方向」と定義する。即ち、第1の方向は、モータ電流Imが接続点6Aから接続点6Bに向かう方向である。第2の方向は、モータ電流Imが接続点6Bから接続点6Aに向かう方向である。
また、図8では、図2に示すインバータ11の回路構成図において、接続点6Aと接続点6Bとの間に接続される単相モータ12を等価的に、モータ巻線41及び電圧源42で表している。Lmは、モータ巻線41のインダクタンス成分である。Rmは、モータ巻線41の抵抗成分である。emは、モータ巻線41に発生する誘起電圧である。図8では、電力発生源としての単相モータ12を誘起電圧emの電圧源42で表している。また、図8では、インバータ11と単相モータ12とを含む回路を電力変換回路50と定義している。
また、図8には、第1のレグ5A及び第2のレグ5Bのそれぞれに対して並列に接続される電源コンデンサ40が示されている。電源コンデンサ40は、電力を蓄積可能な蓄電器である。電源コンデンサ40は、バッテリ10から供給される直流電力を保持する。また、電源コンデンサ40は、単相モータ12が発電機として動作するときに、単相モータ12から供給される電力を回収し、直流電力として保持することができる。
電力変換回路50において、1つのスイッチング素子は、導通及び非導通という2つの状態を取り得る。従って、4つのスイッチング素子51〜54で構成される電力変換回路50では、1つのスイッチング素子の状態が導通又は非導通の2通りであり、素子数が4個であるため、2×4=16通りの状態が想定される。更に、各状態において、モータ電流Imが第1又は第2の方向の何れに流れているかを考慮すると、16×2=32通りの状態が想定される。
図9では、各スイッチング素子への駆動信号S1〜S4の出力が示されている。“1”は各スイッチング素子を導通に制御する駆動信号であり、“0”は各スイッチング素子を非導通に制御する駆動信号である。
図9(a)には、パターン1からパターン9が示されている。図9(b)には、パターン10からパターン18が示されている。図9(c)には、パターン19からパターン25が示されている。図9(d)には、パターン26からパターン32が示されている。パターン1からパターン9及びパターン19からパターン25のそれぞれは、モータ電流Imが第1の方向に流れているときのパターンである。また、パターン10からパターン18及びパターン26からパターン32のそれぞれは、モータ電流Imが第2の方向に流れているときのパターンである。
図9において、パターン1及びパターン10は、力行と定義されるパターンである。力行は、単相モータ12を回転させるのに必要な電流を流すための電圧が単相モータ12に印加されている状態である。上記のパラメータを用いると、モータ電流Imは、ラプラス演算子sを用いて以下の(1)式で表される。
Im=(vmi−em)/(Rm+sLm)……(1)
上記(1)式において、「vmi」は、インバータ11が単相モータ12に印加するモータ印加電圧である。
前述したように、単相モータ12のモータ巻線41には、インダクタンス成分Lmと、抵抗成分Rmとがある。このため、インバータ11から電圧を印加し続けると、上記(1)式に示されるように、モータ印加電圧vmiと、誘起電圧emとの差によって、モータ電流Imが1次遅れで増加し続ける。この状態が続いた場合、モータ巻線41の抵抗成分Rmは小さいため、モータ電流Imの電流値は過大となり、単相モータ12の発熱が問題となることがある。単相モータ12がPMモータである場合、回転子磁石の減磁といった問題を引き起こす可能性がある。前述したPWM制御は、単相モータ12に対して、電圧を印加する区間と、電圧を印加しない区間とを設ける手法である。即ち、PWM制御を用いれば、モータ電流Imが過大にならないように調整することが可能である。
図9において、パターン1,10は、電圧を印加する区間のパターンであり、力行の区間である。また、パターン1,10以外は、電圧を印加しない区間のパターンであり、力行以外の区間のパターンである。
なお、図9に示された各パターンのうち、パターン19からパターン32は、基本的には使用されない。これらのパターンは、インバータ11において、直列に接続された同一レグのスイッチング素子の両方が導通するパターンであるからである。具体的にはスイッチング素子51とスイッチング素子52の両方が導通するパターンと、スイッチング素子53とスイッチング素子54の両方が導通するパターンである。これらの場合、インバータ11に接続されている電源コンデンサ40とグランドとが導通状態にある上下アームのスイッチング素子を通して短絡する回路構成となる。この現象は、「上下アーム短絡」と呼ばれる。上下アーム短絡が起こると、モータ電流Imの流れる方向に関係なく、インバータ11に大電流が流れ、最悪の場合には、スイッチング素子の破損に繋がる。
また、同一レグのスイッチング素子だけでなく、複数のスイッチング素子を同時に導通及び非導通に制御することは、避けるべき制御態様である。これは、スイッチング素子が導通するタイミングのばらつき、導通を制御するプロセッサから各スイッチング素子へ伝達される信号の遅れなどを考えれば明白である。
例えば、図9に示されるパターンにおいて、パターン1の状態からパターン4の状態へ移行する場合のスイッチング制御について考える。図10の上段部には、パターン1の状態からパターン4の状態へ移行する場合の駆動信号の波形が示されている。図10の下段部には、破線で囲んだ区間の拡大波形が示されている。
図9に示されるように、パターン1の状態からパターン4の状態へ移行するには、スイッチング素子53を導通状態にする制御と、スイッチング素子54を非導通にする制御とが実施される。理想的には、スイッチング素子53の導通と、スイッチング素子54の非導通とは同時に実施される。このとき、パターン1の状態からパターン4の状態への移行は、他のパターンを経由することなく実施される。しかしながら、現実には、スイッチング素子53,54が変化するタイミングは、微小時間で見ると完全に一致しない。図10の下段部には、スイッチング素子54が非導通状態となるタイミングよりもスイッチング素子53が導通状態となるタイミングが遅れる状況が示されている。
図10の下段部に示される例の場合、パターン1の状態からパターン4の状態へは、パターン2の状態を経由してから移行している。また、図10とは異なり、スイッチング素子53が導通状態となるタイミングよりもスイッチング素子54が導通状態となるタイミングが遅れる場合、パターン1の状態からパターン4の状態へは、パターン23の状態を経由してから移行することになる。
前述したように、パターン23は、直列に接続された同一レグのスイッチング素子の両方が導通するパターンである。このため、パターン23を経由することは、好ましくない。
従って、各スイッチング素子の導通及び非導通を適切に切り替えるには、各スイッチング素子のばらつき、信号伝達の遅れなどを考慮して、1つずつ導通及び非導通を切り替えることが肝要な点である。また、各スイッチング素子の導通及び非導通を1つずつ切り替える際には、経由するパターンにパターン19からパターン32が含まれないようにすることが肝要な点である。
上述した内容を踏まえた上で図9のパターンを見ると、力行の状態から次の状態への移行は、2つのパターンに絞られる。具体的に、力行パターンの1つであるパターン1からの移行先はパターン2,3の何れかである。また、力行パターンのもう1つであるパターン10からの移行先は、パターン11,12の何れかである。
ここで、インバータ11の各スイッチング素子がMOSFETなどのゲート電圧印加素子である場合、高電位側に位置するスイッチング素子51,53に対しては、ゲート電源にブートストラップ回路を用いる構成が一般的である。ブートストラップ回路では、ブートコンデンサに電荷をチャージすることでゲート電圧を上昇させるが、ブートコンデンサに電荷を定期的にチャージする必要がある。このため、スイッチング素子51,53を常にオンし続けることは困難である。スイッチング素子51,53をオンし続けられる時間は、ブートコンデンサの容量によって決まる。費用の面を考えると、ブートコンデンサが大きくなるのは回避したい。従って、基本的には、スイッチング素子51,53をオンし続ける状態は回避することが好ましい。以上のことから、パターン1の移行先はパターン3の方が実用的である。また、パターン10の移行先は、パターン12の方が実用的である。なお、技術的な問題点ではないので、パターン2,11を使用してもよいことは言うまでもない。
次に、パターンの遷移に伴う回路動作について説明する。まず、パターン1からパターン3へ移行する際の回路動作について説明する。パターン1による制御によって、第1の方向に流れるモータ電流Imは、増加する。モータ電流Imは、図11に示されるように、電源コンデンサ40からスイッチング素子51を通り、モータ巻線41及びスイッチング素子54を経て、電源コンデンサ40に戻る経路を流れる。この状態で、スイッチング素子51をオフに制御すると、図12に示されるパターン3の状態に移行する。前述したように、モータ巻線41にはインダクタンス成分Lmが存在するため、モータ電流Imを第1の方向に流し続けようとする。スイッチング素子51が非導通になると、モータ巻線41からスイッチング素子54及び電源コンデンサ40を介した電流ループは消滅する。一方、スイッチング素子52には並列にボディダイオード52aが接続されている。このため、モータ電流Imの行き場が失われないように、スイッチング素子52のボディダイオード52aを経由した新たな電流ループが形成される。
上記のように、パターン3では、スイッチング素子52に並列に接続されたボディダイオード52aにモータ電流Imが流れることで電流ループが形成される。モータ電流Imがボディダイオードを通る場合、順方向電圧による電圧降下が発生する。この電圧降下によって発生する損失の割合は大きい。このため、可能な限り、ボディダイオードを避けた電流ループを形成することが望ましい。そこで、実施の形態1では、パターン3からパターン5に移行させる。パターン3からパターン5への移行は、スイッチング素子52を導通させればよい。これにより、図13に示されるように、モータ電流Imは、スイッチング素子52の本体内部、即ちスイッチング素子52のチャネルを通して流れるようになる。これにより、スイッチング素子52のボディダイオード52aを介した電流ループに流れる電流は小さくなる。
上記のように、モータ巻線41に対してパターン1で電圧を印加し、パターン3を経由してパターン5に移行する。これにより、モータ巻線41への電圧印加を停止し、モータ巻線41に流れる電流を制御することが可能となる。しかしながら、この方法では、電圧印加を停止している間に流れるモータ電流Imは、全て抵抗成分の熱として消費されてしまう。そこで、実施の形態1では、モータ電流Imを消費するのではなく、蓄電器としての電源コンデンサ40にモータ電流Imによる電力を蓄積する制御を行う。このような制御を行えば、モータ電流Imが熱として消費されるのを回避できるという効果に加え、モータ巻線41に対して電圧を再印加する際に、電源から供給される電力の抑制が可能となる。これにより、電源がバッテリなどの蓄電池であるモータ駆動装置においては、従来よりも、バッテリの使用時間が長くなって、長時間の使用が可能となる。
上記の制御を行うため、実施の形態1では、更に、図13に示すパターン5の状態から、図14に示すパターン7の状態に移行させる。具体的には、図13に示す状態からスイッチング素子54を非導通に制御する。スイッチング素子54を非導通に制御すると、スイッチング素子52、モータ巻線41及びスイッチング素子54を介した電流ループは消滅する。一方、スイッチング素子53には、並列にボディダイオード53aが接続されている。これにより、図14に示されるように、スイッチング素子53のボディダイオード53aを経由した新たな電流ループが形成される。
なお、前述したように、ボディダイオードを通る電流ループは、損失が大きくなる。このため、ボディダイオードを避けた電流ループを形成すべく、パターン8の状態に移行させる。具体的には、図14に示す状態からスイッチング素子53を導通に制御する。これにより、図15に示されるように、モータ電流Imは、スイッチング素子53の本体内部、即ちスイッチング素子53のチャネルを通して流れるようになる。
ここで、ボディダイオードを避けた電流ループを形成することの効果について、図16から図18を参照して説明する。ボディダイオードが逆並列に接続されたスイッチング素子は、図16の右側に示されるように、導通時の抵抗成分であるオン抵抗Ronと、順方向の電圧降下成分である順電圧Vfとが並列に接続される等価回路に置き替えることができる。図17には、電力変換回路50がパターン8で制御されるときの等価回路が示されている。また、図18には、電力変換回路50がパターン7で制御されるときの等価回路が示されている。図17及び図18において、Ron2はスイッチング素子52のオン抵抗であり、Ron3はスイッチング素子53のオン抵抗である。また、Rm,Lm,Im,emは前述した通りである。なお、図17及び図18の等価回路では、単相モータ12の回転によって生じる誘起電圧をemとして電圧源で表し、モータ巻線41に流れるモータ電流Imを電流源で表している。
スイッチング素子において、オン抵抗Ronによって生じる電圧降下は、ボディダイオードの順電圧Vfに比べて非常に小さい。スイッチング素子の導通時と、非導通時とで消費電力を比較した場合の関係は、以下の(2)式で表される。
Vf・Im>Ron3(Im)2 ……(2)
上記(2)式から理解できるように、パターン7に比べてパターン8の電力損失は小さくなる。このため、実施の形態1では、パターン5からパターン7を経由してパターン8に移行する制御を行う。
ここまでの一連の動作の流れについて、図19及び図20を参照して説明する。図19は、図6に示されるPWM信号生成部38Bによって生成されるPWM信号Q1〜Q4の波形例を示すタイムチャートである。図20は、図6に示されるPWM信号生成部38BによってPWM信号を生成する際の動作フローを示すフローチャートである。
図19の上段部には、PWM信号生成部38Bの加算部38mから出力される第1電圧指令Vm3の波形と、PWM信号生成部38Bの加算部38nから出力される第2電圧指令Vm4の波形と、PWM信号生成部38Bの出力選択部38qによって生成されるPWM信号Q1〜Q4の波形とが示されている。また、図19の下段部には、図19の上段部において、破線の四角の枠K1で囲まれた部分の拡大波形が示されている。また、枠K1内を貫通する2本の破線の縦線のそれぞれは、下段部に示す2本の破線の縦線のそれぞれに対応している。
図19及び図20に示されるように、A区間とB区間とで、出力選択部38qは、処理を切り替える。A区間は、第1電圧指令Vm3がキャリアとは交差しないフラットな直線であり、第2電圧指令Vm4がキャリアと交差するように変化する区間である。B区間は、第1電圧指令Vm3がキャリアと交差するように変化し、第2電圧指令Vm4がキャリアとは交差しないフラットな直線である区間である。A区間であるか、B区間であるかの判定は、出力選択部38qに入力される位相θvを用いて行う。具体的に、位相θvが0°≦θv<180°である場合には、“A区間”と判定する。位相θvが180°≦θv<360°である場合には、“B区間”と判定する。出力選択部38qは、位相θvに応じて、処理を切り替える。
次に、図19の波形、及び図20のフローチャートを参照して、実施の形態1におけるPWM信号生成部38Bの処理について説明する。図20のフローチャートにおける動作の主体は、PWM信号生成部38Bである。なお、以下の説明において、モータ電流Imは、第2の方向に流れているとする。また、図20のフローチャートにおいて、スタート直後の状態は、インバータ11が力行パターンであるパターン10によって制御されている状態であるとする。
図20において、ステップS100では、位相θvが0°≦θv<180°であるか否かが判定される。位相θvが0°≦θv<180°であれば、ステップS101に進む。また、位相θvが180°≦θv<360°であれば、図示を省略した逆位相のフローチャートに進む。なお、逆位相のフローチャートは、図20に示すフローチャートと同様な処理であり、本稿での説明は割愛する。
ステップS101では、位相θvが0°<θv<θ1、又はθ2<θv<180°であるか否かが判定される。θ1,θ2は、θ1<θ2を満たす設定値である。位相θvが0°<θv<θ1、又はθ2<θv<180°であれば、ステップS102に進む。ステップS102では、出力選択部38qに入力されるPWM信号Q1’〜Q4’がそのままPWM信号Q1〜Q4として出力される。ステップS101,S102の処理は、A区間とB区間との間の切り替わり部分では、後述するステップS104〜S118の処理を実施しないことを意味している。ステップS102の処理を終えるとステップS100に戻る。
位相θvがθ1≦θv≦θ2であれば、ステップS103に進む。ステップS103では、キャリアと第2電圧指令Vm4とが比較される。キャリアが第2電圧指令Vm4を下回っていない場合には、ステップS102に進む。キャリアが第2電圧指令Vm4を下回っている場合には、ステップS104に進む。ステップS104では、パターン11に移行する処理が実施される。ステップS105に進み、ステップS105では、時間Ts11の経過が判定される。ステップS104,S105により、パターン11の状態が時間Ts11の間継続される。ステップS105の処理が終わるとステップS106に進む。なお、図19の下段部の波形において、パターン10とパターン11との間に記載されている“Tsx”は、スイッチング素子の導通の切り替えに必要な遅延時間である。
ステップS106では、パターン13に移行する処理が実施される。ステップS107に進み、ステップS107では、時間Ts13の経過が判定される。ステップS106,S107により、パターン13の状態が時間Ts13の間継続される。ステップS107の処理が終わるとステップS108に進む。
ステップS108では、パターン15に移行する処理が実施される。ステップS109に進み、ステップS109では、時間Ts15の経過が判定される。ステップS108,S109により、パターン15の状態が時間Ts15の間継続される。ステップS109の処理が終わるとステップS110に進む。
ステップS110では、パターン17に移行する処理が実施される。ステップS111に進み、ステップS111では、時間Ts17の経過が判定される。ステップS110,S111により、パターン17の状態が時間Ts17の間継続される。ステップS111の処理が終わるとステップS112に進む。
ステップS112では、パターン15に移行する処理が実施される。ステップS113に進み、ステップS113では、時間Ts15’の経過が判定される。ステップS112,S113により、パターン15の状態が時間Ts15’の間継続される。ステップS113の処理が終わるとステップS114に進む。
ステップS114では、パターン13に移行する処理が実施される。ステップS115に進み、ステップS115では、キャリアと第2電圧指令Vm4とが比較される。キャリアが第2電圧指令Vm4を上回っていない場合には、ステップS114に戻り、パターン13の状態が継続される。キャリアが第2電圧指令Vm4を上回っている場合には、ステップS116に進む。
ステップS116では、パターン11に移行する処理が実施される。ステップS117に進み、ステップS117では、時間Ts11’の経過が判定される。ステップS116,S117により、パターン11の状態が時間Ts11’の間継続される。ステップS117の処理が終わるとステップS118に進む。
ステップS118では、パターン10に移行する処理が実施される。ステップS118の処理が終わるとステップS100に戻る。以降、ステップS100からの処理が繰り返される。
上述したように、図20のフローチャートによる処理では、パターン10の状態からパターン11、パターン13の順でそれぞれの状態に移行した後に、更に、パターン15、パターン17の順でそれぞれの状態に移行するようにしている。即ち、モータ電流Imをモータ巻線41と各スイッチング素子との間で還流させるのではなく、パターン15及びパターン17の状態へ移行させることで、モータ電流Imによる電力を電源コンデンサ40に回収させている。これにより、モータ駆動装置2の消費電力を低減可能としている。
また、図20の処理において、各パターンを継続するときの、時間Ts11,Ts13,Ts15,Ts17,Ts15’,Ts13’,Ts11’は、モータパラメータによって適切な時間が変化する。このため、予め実験又はシミュレーションなどによって、適切な時間を検討又は調査しておく必要がある。
なお、時間Ts11と時間Ts11’、時間Ts13と時間Ts13’、時間Ts15と時間Ts15’については、同じ時間でも、異なる時間でも構わない。また、これらの時間の総和と、スイッチング素子の切り替えに必要な遅延時間Tsxとを足し合わせた時間を、キャリアの半周期より短くする必要がある。更に、モータ電流Imを熱として消費してしまう時間Ts13,Ts15は、可能な限り短くすることが望ましい。また、パターン15はパターン17に比べてスイッチング素子のボディダイオードによる損失が大きいため、時間Ts15は、時間Ts17よりも短い時間であることが望ましい。
また、遅延時間Tsxについては、スイッチング素子のターンオン又はターンオフにかかる時間であり、スイッチング素子によってばらつきはあるものの、省略することのできない時間である。このため、最低でも遅延時間Tsxを各パターンで確保しておく必要がある。
また、モータ巻線41に流れるモータ電流Imの電流値が小さいときには、モータ巻線41を短絡させるためにパターン15,17からパターン11又はパターン13に移行し、その後にパターン15又はパターン17に戻してもよい。モータ巻線41を短絡させることにより、単相モータ12の回転中に発生する誘起電圧のエネルギーによってモータ巻線41に流れるモータ電流Imを増加させることができる。これは、モータ巻線41に流れる電流を一時的に還流させることで、モータ巻線41に昇圧電圧を発生させる動作である。この動作は、電流検出器22の検出値に基づいて行うことができる。具体的に、モータ電流Imの検出値が規定電流を下回った場合に、モータ巻線41を短絡するパターンに移行すればよい。
また、モータ電流Imが電源コンデンサ40側に流れることで電源コンデンサ40の電圧が過大に上昇し、電源コンデンサ40に接続される機器の耐圧を超えて当該機器が破損するおそれがある。そのため、電圧検出器20などにより電源コンデンサ40を監視することが好ましい。電圧検出器20の検出値が規定電圧まで上昇した場合には、パターン15又はパターン17の状態から別のパターンの状態に移行するようにスイッチング素子を制御する。例えば、モータ電流Imを電力変換回路50の内部で還流するようにすれば、過剰のエネルギーをボディダイオード又は内部抵抗によって消費させることができ、機器の破損を未然に回避することが可能となる。
なお、図20には、モータ電流Imが第2の方向に流れている場合の処理フローが示されているが、モータ電流Imが第1の方向に流れている場合には、各パターンが対応するパターンに変更されるだけで、同様な処理フローとなる。モータ電流Imが第1の方向に流れている場合には、パターン10,11,13,15,17のそれぞれに代えて、パターン1,3,5,7,8が使用される。
図19及び図20の例は、図6に示されるPWM信号生成部38Bによる動作例、即ち片側PWM方式への適用例であった。実施の形態1の手法は、両側PWM方式への適用も可能である。以下、両側PWM方式への適用例について、図21及び図22を参照して説明する。図21は、図4に示されるPWM信号生成部38Aによって生成されるPWM信号Q1〜Q4の波形例を示すタイムチャートである。図22は、図4に示されるPWM信号生成部38AによってPWM信号を生成する際の動作フローを示すフローチャートである。
図21の上段部には、PWM信号生成部38Aの加算部38eから出力される正側電圧指令Vm1の波形と、PWM信号生成部38Aの乗算部38fから出力される負側電圧指令Vm2の波形と、PWM信号生成部38Aの出力選択部38pによって生成されるPWM信号Q1〜Q4の波形とが示されている。また、図21の下段部には、図21の上段部において、破線の四角の枠K2で囲まれた部分の拡大波形が示されている。また、枠K2内を貫通する2本の破線の縦線のそれぞれは、下段部に示す2本の破線の縦線のそれぞれに対応している。図21及び図22に示されるように、A区間とB区間とで、出力選択部38pは、処理を切り替える。A区間は、正側電圧指令Vm1の振幅が正値の区間である。B区間は、負側電圧指令Vm2の振幅が正値の区間である。A区間であるか、B区間であるかの判定は、出力選択部38pに入力される位相θvを用いて行う。具体的に、位相θvが0°≦θv<180°である場合には、“A区間”と判定する。位相θvが180°≦θv<360°である場合には、“B区間”と判定する。出力選択部38pは、位相θvに応じて、処理を切り替える。
次に、図21の波形、及び図22のフローチャートを参照して、実施の形態1におけるPWM信号生成部38Aの処理について説明する。図22のフローチャートにおける動作の主体は、PWM信号生成部38Aである。なお、以下の説明において、モータ電流Imは、第2の方向に流れているとする。また、図22のフローチャートにおいて、スタート直後の状態は、インバータ11が力行パターンであるパターン10によって制御されている状態であるとする。
まず、図22において、ステップS100〜ステップS134までの処理のうち、ステップS100〜ステップS118までの処理によって、図21の上段部の枠K3で囲まれた部分のPWM信号Q1〜Q4が生成される。また、ステップS119〜ステップS134までの処理によって、図21の上段部の枠K2で囲まれた部分のPWM信号Q1〜Q4が生成される。なお、図22において、ステップS100〜ステップS118までの処理は、第2電圧指令Vm4が負側電圧指令Vm2に置き替わっていること、及びステップS103の判定が“No”である場合の行き先が、ステップS119であることが図20との相違点である。これらの相違点以外は図20と同一の処理であり、ここでの説明は割愛する。
ステップS118では、パターン10に移行する処理が実施される。ステップS118の処理が終わるとステップS119に進む。
ステップS119では、キャリアと正側電圧指令Vm1とが比較される。キャリアが正側電圧指令Vm1を上回っていない場合には、ステップS102に戻る。キャリアが正側電圧指令Vm1を上回っている場合には、ステップS120に進む。ステップS120では、パターン12に移行する処理が実施される。ステップS121に進み、ステップS121では、時間Ts12の経過が判定される。ステップS120,S121により、パターン12の状態が時間Ts12の間継続される。ステップS121の処理が終わるとステップS122に進む。
ステップS122では、パターン14に移行する処理が実施される。ステップS123に進み、ステップS123では、時間Ts14の経過が判定される。ステップS122,S123により、パターン14の状態が時間Ts14の間継続される。ステップS123の処理が終わるとステップS124に進む。
ステップS124では、パターン16に移行する処理が実施される。ステップS125に進み、ステップS125では、時間Ts16の経過が判定される。ステップS124,S125により、パターン16の状態が時間Ts16の間継続される。ステップS125の処理が終わるとステップS126に進む。
ステップS126では、パターン17に移行する処理が実施される。ステップS127に進み、ステップS127では、時間Ts17の経過が判定される。ステップS126,S127により、パターン17の状態が時間Ts17の間継続される。ステップS127の処理が終わるとステップS128に進む。
ステップS128では、パターン16に移行する処理が実施される。ステップS129に進み、ステップS129では、時間Ts16’の経過が判定される。ステップS128,S129により、パターン16の状態が時間Ts16’の間継続される。ステップS129の処理が終わるとステップS130に進む。
ステップS130では、パターン14に移行する処理が実施される。ステップS131に進み、ステップS131では、キャリアと正側電圧指令Vm1とが比較される。キャリアが正側電圧指令Vm1を下回っていない場合には、ステップS130に戻り、パターン13の状態が継続される。キャリアが第2電圧指令Vm4を下回っている場合には、ステップS132に進む。
ステップS132では、パターン12に移行する処理が実施される。ステップS133に進み、ステップS133では、時間Ts12’の経過が判定される。ステップS132,S133により、パターン12の状態が時間Ts12’の間継続される。ステップS133の処理が終わるとステップS134に進む。
ステップS134では、パターン10に移行する処理が実施される。ステップS134の処理が終わるとステップS100に戻る。以降、ステップS100からの処理が繰り返される。
上述したように、図22のフローチャートによる処理では、パターン10の状態からパターン11、パターン13の順でそれぞれの状態に移行した後に、更に、パターン15、パターン17の順でそれぞれの状態に移行するようにしている。即ち、モータ電流Imをモータ巻線41と各スイッチング素子との間で還流させるのではなく、パターン15及びパターン17の状態へ移行させることで、モータ電流Imによる電力を電源コンデンサ40に回収させている。これにより、モータ駆動装置2の消費電力を低減可能としている。
また、図22のフローチャートによる処理では、パターン10の状態からパターン12、パターン14の順でそれぞれの状態に移行した後に、更に、パターン16、パターン17の順でそれぞれの状態に移行するようにしている。即ち、モータ電流Imをモータ巻線41と各スイッチング素子との間で還流させるのではなく、パターン16及びパターン17の状態へ移行させることで、モータ電流Imによる電力を電源コンデンサ40に回収させている。これにより、モータ駆動装置2の消費電力を低減可能としている。
なお、図22の処理において、各パターンを継続するときの、時間Ts12,Ts14,Ts16,Ts17,Ts16’,Ts14’,Ts12’は、モータパラメータによって適切な時間が変化する。このため、予め実験又はシミュレーションなどによって、適切な時間を検討又は調査しておく必要がある。
なお、時間Ts12と時間Ts12’、時間Ts14と時間Ts14’、時間Ts16と時間Ts16’については、同じ時間でも、異なる時間でも構わない。また、これらの時間の総和と、スイッチング素子の切り替えに必要な遅延時間Tsxとを足し合わせた時間を、キャリアの半周期より短くする必要がある。更に、モータ電流Imを熱として消費してしまう時間Ts14,Ts16は、可能な限り短くすることが望ましい。また、パターン16はパターン17に比べてスイッチング素子のボディダイオードによる損失が大きいため、時間Ts16は、時間Ts17よりも短い時間であることが望ましい。
以上の説明のように、両側PWM方式であっても、片側PWM方式と同様の処理で実施することができる。
電源であるバッテリ10と並列に接続される電源コンデンサ40との間の寄生インダクタンスが大きいと、寄生インダクタンスによってバッテリ10から電源コンデンサ40への電力の供給が遅れる。この場合、負荷への出力が大きい大出力時には、多くの電力が必要となり、寄生インダクタンスの遅れが無視できなくなる。このような場合であっても、実施の形態1の手法を適用することにより、モータ電流Imの電力を熱として消費せずに再利用することができる。これにより、負荷への電力を安定して供給することが可能となる。
また、実施の形態1の例のように、電源にバッテリなどの外付けの蓄電池を使用し、電源コンデンサをインバータ基板に搭載した場合、バッテリとインバータ基板との間で、物理的な配線距離が生じる。このような設計の場合、寄生インダクタンスが必ず発生するため、実施の形態1の手法を用い場合の効果が期待できる。また、モータ電流Imの電力を効率よく利用できるので、インバータ基板に搭載する電源コンデンサの容量を小さくすることが可能となる。このため、インバータ基板の小型軽量化にも貢献できる。
また、実施の形態1による制御は、単相モータ12が運転中の場合、又は停止中の場合の何れの場合であっても、実施することを想定している。特に、運転中においては、スイッチング素子切り替えにおけるデットタイム中の動作を含んでいる。キャリア周期とモータの回転周期との比が5倍以上となるような高キャリア制御の場合、デットタイムは大きな損失となる。一方、実施の形態1は、電流の損失の少ないスイッチング素子の駆動パターンを意図的に用いる手法であり、デッドタイムに相当する期間を短くすることができる。これにより、高キャリア制御であっても、損失を小さくすることが可能となる。
また、実施の形態1では、インバータ11の印加電圧をキャリアの振幅と電圧指令値とを比較するPWM制御について説明したが、これに限定されない。PWM制御以外にも、モータを制御する方式は多数あり、何れの方式であってもよい。実施の形態1の手法は、モータ巻線41への電圧印加を停止する際に、モータ電流Imを電源コンデンサ40に回収する制御を積極的に行うものである。このため、何れの方式のモータ制御であっても実施可能である。
以上説明したように、実施の形態1に係るモータ駆動装置は、電源から出力される直流電圧を交流電圧に変換して単相モータに交流電圧を印加するインバータを備える。インバータは、上アームの第1のスイッチング素子と下アームの第2のスイッチング素子とが直列に接続された第1のレグと、上アームの第3のスイッチング素子と下アームの第4のスイッチング素子とが直列に接続された第2のレグを有する。モータ駆動装置は、第1の期間において、第1及び第4のスイッチング素子を非導通に制御した後に、第2及び第3のスイッチング素子を導通に制御する第1の制御を実施する。第1の期間は、単相モータに対して交流電圧の印加が停止され、且つ、モータ電流が第1の接続点から第2の接続点に向かう第1の方向に流れている期間である。第1の接続点は、第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子との接続点である。第2の接続点は、第3のスイッチング素子と第4のスイッチング素子との接続点である。モータ駆動装置が行う第1の制御により、単相モータに流れるモータ電流のエネルギーを効率よく回収することができる。これにより、モータ電流を効率よく使用して消費電力を低減可能なモータ駆動装置を得ることが可能となる。
なお、上記の第1の期間において、モータ駆動装置は、第1、第2及び第3のスイッチング素子を非導通に制御し、第4のスイッチング素子を導通に制御した後に第2のスイッチング素子を導通に制御し、その後に、第4のスイッチング素子を非導通に制御し、その後に、第3のスイッチング素子を導通に制御することで第1の制御を実施してもよい。このようにすれば、複数のスイッチング素子を同時に導通する現象を回避しながら、ボディダイオードでの損失を低減することができる。これにより、上下アーム短絡を防止しつつ、モータ電流のエネルギーを効率よく回収することができる。
また、第1の制御の実施中にモータ電流の検出値が規定電流を下回った場合、モータ駆動装置は、第3のスイッチング素子を非導通に制御した後に第4のスイッチング素子を導通に制御し、その後に、第4のスイッチング素子を非導通に制御し、その後に、第3のスイッチング素子を導通に制御するようにしてもよい。このようにすれば、モータ巻線41に昇圧電圧を発生させることができる。これにより、モータ電流のエネルギーを効率よく回収することができる。
また、第1の制御の実施中に電圧検出器の検出値が規定電圧まで上昇した場合、モータ駆動装置は、第1及び第3のスイッチング素子を非導通に制御し、第2及び第4のスイッチング素子を導通に制御するようにしてもよい。このようにすれば、モータ電流のエネルギーを回収する蓄電器の電圧が上昇するのを回避することができる。これにより、蓄電器に接続される機器の電圧が耐圧を超えることを抑止でき、機器の破損を未然に回避することができる。
また、実施の形態1に係るモータ駆動装置は、第2の期間において、第2及び第3のスイッチング素子を非導通に制御した後に、第1及び第4のスイッチング素子を導通に制御する第2の制御を実施する。第2の期間は、単相モータに対して交流電圧の印加が停止され、且つ、モータ電流が第2の接続点から第1の接続点に向かう第2の方向に流れている期間である。モータ駆動装置が行う第2の制御により、単相モータに流れるモータ電流のエネルギーを効率よく回収することができる。これにより、モータ電流のエネルギーを効率よく使用して消費電力を低減可能なモータ駆動装置を得ることが可能となる。
なお、上記の第2の期間において、モータ駆動装置は、第1、第3及び第4のスイッチング素子を非導通に制御し、第2のスイッチング素子を導通に制御した後に第4のスイッチング素子を導通に制御し、その後に、第2のスイッチング素子を非導通に制御し、その後に、第1のスイッチング素子を導通に制御することで第2の制御を実施してもよい。このようにすれば、複数のスイッチング素子を同時に導通する現象を回避しながら、ボディダイオードでの損失を低減することができる。これにより、上下アーム短絡を防止しつつ、モータ電流のエネルギーを効率よく回収することができる。
また、第2の制御の実施中にモータ電流の検出値が規定電流を下回った場合、モータ駆動装置は、第1のスイッチング素子を非導通に制御した後に第2のスイッチング素子を導通に制御し、その後に、第2のスイッチング素子を非導通に制御し、その後に、第1のスイッチング素子を導通に制御するようにしてもよい。このようにすれば、モータ巻線41に昇圧電圧を発生させることができる。これにより、モータ電流のエネルギーを効率よく回収することができる。
また、第2の制御の実施中に電圧検出器の検出値が規定電圧まで上昇した場合、モータ駆動装置は、第1及び第3のスイッチング素子を非導通に制御し、第2及び第4のスイッチング素子を導通に制御するようにしてもよい。このようにすれば、モータ電流のエネルギーを回収する蓄電器の電圧が上昇するのを回避することができる。これにより、蓄電器に接続される機器の電圧が耐圧を超えることを抑止でき、機器の破損を未然に回避することができる。
次に、実施の形態1における制御部25の機能を実現するためのハードウェア構成について、図23及び図24の図面を参照して説明する。図23は、実施の形態1における制御部25の機能を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図24は、実施の形態1における制御部25の機能を実現するハードウェア構成の他の例を示すブロック図である。
実施の形態1における制御部25の機能の一部又は全部を実現する場合には、図23に示されるように、演算を行うプロセッサ200、プロセッサ200によって読みとられるプログラムが保存されるメモリ202、及び信号の入出力を行うインタフェース204を含む構成とすることができる。
プロセッサ200は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、CPU(Central Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)といった演算手段であってもよい。また、メモリ202には、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)といった不揮発性又は揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD(Digital Versatile Disc)を例示することができる。
メモリ202には、実施の形態1における制御部25の機能を実行するプログラムが格納されている。プロセッサ200は、インタフェース204を介して必要な情報を授受し、メモリ202に格納されたプログラムをプロセッサ200が実行し、メモリ202に格納されたテーブルをプロセッサ200が参照することにより、上述した処理を行うことができる。プロセッサ200による演算結果は、メモリ202に記憶することができる。
また、実施の形態1における制御部25の機能の一部を実現する場合には、図24に示す処理回路203を用いることもできる。処理回路203は、単一回路、複合回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field−Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。処理回路203に入力する情報、及び処理回路203から出力する情報は、インタフェース204を介して入手することができる。
なお、制御部25における一部の処理を処理回路203で実施し、処理回路203で実施しない処理をプロセッサ200及びメモリ202で実施してもよい。
実施の形態2.
実施の形態2では、実施の形態1で説明したモータ駆動装置2の適用例について説明する。
図25は、実施の形態2に係る電動送風機64の構成例を示す図である。電動送風機64は、実施の形態1で説明したモータ駆動装置2を備え、モータ駆動装置2が駆動する単相モータ12に対してプロペラ69が装着されている。電動送風機64は、モータ駆動装置2が単相モータ12を回転させることで、風を送り出すまたは吸引する構造となっている。
図26は、実施の形態2に係る電動送風機64を備えた電気掃除機61の構成例を示す図である。電気掃除機61は、図1に示されるバッテリ10に相当するバッテリ67と、図1に示されるモータ駆動装置2と、図1に示される単相モータ12により駆動される電動送風機64とを備える。また、電気掃除機61は、集塵室65と、センサ68と、吸込口体63と、延長管62と、操作部66とを備える。
電気掃除機61を使用する使用者は、操作部66を持ち、電気掃除機61を操作する。電気掃除機61のモータ駆動装置2は、バッテリ67を電源として電動送風機64を駆動する。電動送風機64が駆動されることにより、吸込口体63からごみの吸込みが行われる。吸込まれたごみは、延長管62を介して集塵室65へ集められる。
電気掃除機61は、バッテリ67を電源として使用する製品である。上述した実施の形態1の手法を用いれば、モータ電流Imを効率よく使用して消費電力を低減することが可能である。これにより、バッテリ67の使用時間を長くして、長時間の使用が可能な電気掃除機61を得ることができる。
また、実施の形態2に係る電気掃除機61は、インバータ11のスイッチング素子51〜54をワイドバンドギャップ半導体により形成することで、放熱部品の簡素化により小型化及び軽量化することができる。
図27は、実施の形態2に係る電動送風機64を備えたハンドドライヤ90の構成例を示す図である。ハンドドライヤ90は、ケーシング91と、手検知センサ92と、水受け部93と、ドレン容器94と、カバー96と、センサ97と、吸気口98と、電動送風機64と、を備える。ここで、センサ97は、ジャイロセンサ及び人感センサの何れかである。ハンドドライヤ90では、水受け部93の上部にある手挿入部99に手が挿入されることにより、電動送風機64による送風で水が吹き飛ばされ、吹き飛ばされた水は、水受け部93で集められた後、ドレン容器94に溜められる。
ハンドドライヤ90は、季節を問わず1年中継続して使用する製品である。このため、実施の形態1の手法を適用した製品とすることで、継続的な消費電力の低減の効果が得られる。
以上の説明の通り、本実施の形態では、電気掃除機61及びハンドドライヤ90にモータ駆動装置2を適用した構成例を説明したが、モータ駆動装置2は、モータが搭載された電気機器に適用することができる。モータが搭載された電気機器は、焼却炉、粉砕機、乾燥機、集塵機、印刷機械、クリーニング機械、製菓機械、製茶機械、木工機械、プラスチック押出機、ダンボール機械、包装機械、熱風発生機、OA機器、電動送風機などである。電動送風機は、物体輸送用、吸塵用、または一般送排風用の送風手段である。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。