<負荷駆動装置の構成>
図1は、負荷駆動装置の構成の一例を概略的に示している。負荷駆動装置は例えば整流器1とリアクトルL1とコンデンサC1と電力変換器2と制御回路3と検出部4とを備えている。
整流器1は交流電源E1から入力されるN(Nは自然数)相交流電圧を整流電圧に整流し、この整流電圧を直流母線(電源線)LH,LLの間に出力する。図1の例では、整流器1はダイオード整流回路である。なお整流器1はダイオード整流回路に限らず、他の整流回路(例えば自励式整流回路または他励式整流回路)であってもよい。
また図1の例では整流器1は、三相交流電圧が入力される三相の整流回路である。ただし、整流器1に入力される交流電圧の相数、即ち整流器1の相数は三相に限らず適宜に設定されればよい。
コンデンサC1は直流母線LH,LLの間に接続されている。コンデンサC1は例えばフィルムコンデンサである。コンデンサC1の容量を小さくした場合、直流母線LH,LLの相互間に印加される直流電圧Vdcを十分に平滑しない。言い換えれば、コンデンサC1は整流器1が整流した整流電圧の脈動を許容する。よって直流電圧VdcはN相交流電圧の整流による脈動成分を有する。例えば全波整流を用いれば、この脈動成分は、N相交流電圧の周波数の2N倍の周波数を有する。以下では、この脈動成分を整流成分と呼ぶ。図1の例では、整流器1は三相交流電圧を全波整流するので、直流電圧Vdcは三相交流電圧の周波数の6倍の周波数で脈動することとなる。
リアクトルL1はコンデンサC1とともにLCフィルタを形成する。図1の例では、リアクトルL1は、整流器1とコンデンサC1との間において(つまり、コンデンサC1に対して電力変換器2とは反対側において)、直流母線LHの上に設けられている。ただしこれに限らず、リアクトルL1は、整流器1とコンデンサC1との間において、直流母線LLの上に設けられてもよい。
コンデンサC1の静電容量が上述の通り小さければ、このLCフィルタの共振周波数は高くなる傾向にある。同様にリアクトルL1のインダクタンスを小さくするほど、共振周波数は高くなる傾向にある。
電力変換器2は制御回路3からの制御信号Sに基づいて、直流電圧Vdcを交流電圧に変換する。そして、電力変換器2はこの交流電圧を負荷M1へと出力する。電力変換器2は例えばインバータ回路である。図1の例では、電力変換器2として三相のインバータ回路が示されている。この電力変換器2は、例えば、スイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。
スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタである。スイッチング素子S1,S2は直流母線LH,LLの間で相互に直列に接続されており、スイッチング素子S3,S4は直流母線LH,LLの間で相互に直列に接続されており、スイッチング素子S5,S6は直流母線LH,LLの間で相互に直列に接続されている。スイッチング素子S1〜S6は制御回路3からの制御信号Sに基づいて導通/非導通する。
ダイオードD1〜D6は、それぞれスイッチング素子S1〜S6に並列に接続されている。ダイオードD1〜D6の順方向は直流母線LLから直流母線LHへと向かう方向である。なお、スイッチング素子S1〜S6は、直流母線LLから直流母線LHへと向かう順方向の寄生ダイオードを有していてもよい。このようなスイッチング素子S1〜S6は例えばMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)電界効果トランジスタである。この場合、ダイオードD1〜D6は設けられていなくてもよい。
スイッチング素子S1,S2を接続する接続点が出力線Puの一端に接続され、スイッチング素子S3,S4を接続する接続点が出力線Pvの一端に接続され、スイッチング素子S5,S6を接続する接続点が出力線Pwの一端に接続される。出力線Pu,Pv,Pwの他端は負荷M1に接続されている。
スイッチング素子S1〜S6が適切に制御されることによって、電力変換器2は直流電圧Vdcを交流電圧(図1の例では三相交流電圧)に変換し、変換後の交流電圧を、出力線Pu,Pv,Pwを介して負荷M1へと出力することができる。以下では、電力変換器2が出力する交流電圧および交流電流を、それぞれ出力交流電圧および出力交流電流とも呼ぶ。
負荷M1は例えば回転機(例えば誘導機又は同期機)であってもよい。また図1では三相の負荷M1が例示されているものの、その相数はこれに限らない。換言すれば、電力変換器2は三相の電力変換器に限らない。
制御回路3は制御信号Sを電力変換器2(具体的には、スイッチング素子S1〜S6)へ出力して、電力変換器2の出力を制御する。
またここでは、制御回路3はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御回路3はこれに限らず、制御回路3によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
<直流電圧Vdcの脈動成分>
本負荷駆動装置において、直流電圧Vdcは、整流器1の整流とは別の要因でも脈動する。コンデンサC1およびリアクトルL1によって形成される共振回路の共振周波数は、例えば整流成分Vrecの周波数よりも高く設定されるため、直流電圧Vdcは、整流成分Vrecの周波数よりも高い周波数を有する脈動成分Vdchも含んでいる。図2は直流電圧Vdc、脈動成分Vdch、および、リアクトルL1の電圧VLの一例を模式的に示している。図2に例示すように、直流電圧Vdcは、整流成分Vrecの周波数よりも高い周波数でも、脈動している。
本実施の形態では、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅を制御により低減することを企図する。
<基本原理>
本実施の形態にかかる制御の説明に先立って、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅を低減する基本原理について説明する。
直流電圧Vdcは、電力変換器2へ入力される直流電流idcが大きくなると、低減する傾向にある。なぜなら、直流電流idcの増大によってコンデンサC1から電力変換器2へと流れる電流が大きくなるからである。また逆に、直流電流idcが低減すると、直流電圧Vdcは増大する傾向にある。
そこで、脈動成分Vdchの瞬時値の増大に応じて直流電流idcを増大させる。このように、脈動成分Vdchの瞬時値の増大中において、直流電流idcが増大すれば、脈動成分Vdchの更なる増大を抑制することができる。したがって、脈動成分Vdchの振幅を低減することができる。
逆に説明すると、脈動成分Vdchの瞬時値の低減に応じて、直流電流idcを低減させる。このように、脈動成分Vdchの瞬時値の低減中において、直流電流idcが低減すれば、脈動成分Vdchの更なる低減を抑制することができる。したがって、脈動成分Vdchの振幅を低減することができる。
より具体的な一例として、以下の式を用いて直流電流idcを補正すればよい。
idc’’=idc’+K・Vdch ・・・(1)
ここで、idc’’,idc’およびKは、それぞれ、補正後の直流電流、補正前の直流電流およびゲインを示す。
式(1)によれば、脈動成分Vdchの瞬時値の増大に応じて直流電流idc’’が増大し、脈動成分Vdchの瞬時値の低減に応じて直流電流idc’’が低減する。これにより、脈動成分Vdchの振幅を低減できる。なお以下では、脈動成分Vdchの瞬時値の増大を単に脈動成分Vdchの増大とも呼び、脈動成分Vdchの瞬時値の低減を単に脈動成分Vdchの低減とも呼ぶ。
ところで、リアクトルL1の電圧VLは脈動成分Vdchに相当する、と考えることができる。その理由について簡単に述べる。まず、直流電圧Vdcは整流成分Vrecと脈動成分Vdchとの和(Vrec+Vdch)である。そして、例えばリアクトルL1のコンデンサC1側の一端の電位を基準電位とした電圧VLを考慮すると、キルヒホッフの法則により、整流器1の出力電圧は電圧VLと直流電圧Vdcの和と等しい。整流器1の出力電圧は、整流成分Vrecとほぼ等しいと考えることができるので、Vrec=Vdc+VLが成立する。Vdc=Vrec+Vdchをこの式に代入すると、VL=−Vdchが成立する。つまり、電圧VLは理想的には脈動成分Vdchの逆相となる。言い換えれば、電圧VLの正負は脈動成分Vdchと正負と相違する(図2も参照)。
VL=−Vdchを式(1)に代入すると、以下の式が導かれる。
idc’’=idc’−K・VL ・・・(2)
よって、式(2)で示すように直流電流idc’を補正すれば、脈動成分Vdchの振幅を低減できる。より一般的に説明すると、電圧VLの瞬時値の増大に応じて直流電流idc’’が低減するように、換言すれば、電圧VLの瞬時値の低減に応じて直流電流idc’’が増大するように、補正を行えば、脈動成分Vdchの振幅を低減できる。なお以下では、電圧VLの瞬時値の増大を単に電圧VLの増大とも呼び、電圧VLの瞬時値の低減を単に電圧VLの低減とも呼ぶ。
<本実施の形態にかかる制御>
上述のように、脈動成分Vdchの増大(あるいは電圧VLの低減)に応じて直流電流を増大させれば、脈動成分Vdchの振幅を低減できる。本実施の形態では、この直流電流を直接に制御するのではなく、負荷M1側の力率である負荷力率を制御する。そして、この負荷力率の制御によって、等価的に、脈動成分Vdchの増大(あるいは電圧VLの低減)に応じて直流電流を増大させるのである。具体的には、制御回路3は電力変換器2を制御して、負荷力率を脈動成分Vdchの増大(あるいは電圧VLの低減)に応じて増大させる。
以下では、まず電圧VLを用いた制御について述べる。例えば、以下の式を用いて負荷力率を補正する。
cosθ2=cosθ1−K・VL ・・・(3)
ここで、θ2は出力交流電圧および出力交流電流の補正後の位相差を示し、θ1は出力交流電圧および出力交流電流の補正前の位相差を示す。よって、位相差θ1の余弦値cosθ1は補正前の負荷力率を示し、位相差θ2の余弦値cosθ2は補正後の負荷力率を示す。
次に、式(3)を用いることによって、直流電流idcが電圧VLの低減に応じて増大することを、以下に説明する。
電力変換器2の入力電力および出力電力は理想的に互いに等しい。よって、電力変換器2が三相交流電圧を出力する場合、以下の式が成立する。
idc・Vdc=√3・io_rms・Vo_rms・cosθ2 ・・・(4)
ここで、idcは、電力変換器2へ入力される直流電流を示し、io_rmsおよびVo_rmsは、それぞれ、出力交流電流および出力交流電圧の実効値を示す。
次に電圧制御率Dを導入する。電圧制御率Dは、直流電圧Vdcに対する、出力交流電圧の振幅Vmの比(=Vm/Vdc=√2・Vo_rms/Vdc)である。この電圧制御率Dを用いて式(4)を変形すると、以下の式を導くことができる。
idc・Vdc=√3・io_rms・D・Vdc/√2・cosθ2・・・(5)
式(5)の両辺に直流電圧Vdcの逆数を乗算すると、以下の式が導かれる。
idc=√(3/2)・io_rms・D・cosθ2 ・・・(6)
式(6)に式(3)を代入すると、以下の式が導かれる。
idc=√(3/2)・io_rms・D・(cosθ1−K・VL)
=√(3/2)・io_rms・D・cosθ1−√(3/2)・io_rms・D・K・VL ・・・(7)
式(7)の右辺の第1項は、式(6)に鑑みると、負荷力率を補正しないときの直流電流idcと考えることができる。この直流電流idcを、負荷力率を補正したときの直流電流idcと区別すべく、直流電流idc1と呼び、負荷力率を補正したときの直流電流idcを直流電流idc2と呼ぶ。直流電流idc1,idc2を用いて表すと、式(7)から以下の式を導くことができる。
idc2=idc1・−√(3/2)・io_rms・D・K・VL ・・・(8)
式(8)の右辺の第2項には、電圧制御率Dおよび出力交流電流の実効値io_rmsが存在するものの、電圧VLが存在する。よって、直流電流idc1は電圧VLで補正されることになる。つまり、電圧VLの低減に応じて直流電流idc2が増大するように、逆に言えば、電圧VLの増大に応じて直流電流idc2が低減するように、直流電流idc1が補正される。
以上のように、式(3)を満たすように負荷力率を補正することで、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅を低減できることが、分かる。より一般的に説明すれば、制御回路3は電力変換器2を制御して、電圧VLの低減に応じて負荷力率を増大させることにより、脈動成分Vdchの振幅を低減することができる。
<制御の具体例>
制御回路3は、上述のように、負荷力率を脈動成分Vdchの増大に応じて増大させるべく、出力交流電圧の位相(以下、電圧位相と呼ぶ)についての電圧位相指令を補正しても構わない。例えば、制御回路3は、以下に、具体例について述べる。
図3は、制御回路3の内部構成の一例を概略的に示す機能ブロック図である。図3の例では、制御回路3は電圧指令生成部31と直交/極座標変換部32と電圧位相補正部33と回転/固定座標変換部34と制御信号生成部35と固定/回転座標変換部36とを備えている。
電圧指令生成部31は出力交流電圧についての電圧指令V*を生成する。電圧指令V*の生成方法は特に限定されないものの、その一例を簡単に説明する。図3の例では、負荷M1が電動機である場合の制御回路3が示されている。図3の例では、制御回路3には、減算器37が設けられており、この減算器37には、電動機の回転速度ωと、回転速度ωについての回転速度指令ω*とが入力される。回転速度指令ω*は例えば外部から減算器37に入力される。回転速度ωは例えば不図示の回転速度検出部によって検出される。回転速度検出部は、いわゆる回転速度センサ(例えばロータリエンコーダ)であってもよく、あるいは、電動機に流れる電流に基づいて回転速度ωを算出する演算回路を有していてもよい。減算器37は回転速度指令ω*から回転速度ωを減算して偏差Δωを算出し、偏差Δωを電圧指令生成部31に出力する。
図3の例では、電圧指令生成部31には、電動機を流れる電流id,iqも入力されている。この電流id,iqは、それぞれ、電動機を流れる交流電流の、d−q軸回転座標系におけるd軸成分およびq軸成分である。d−q軸回転座標系は、電動機の界磁による電機子への鎖交磁束と同相に設定されたd軸と、d軸に対して位相が90度進むq軸とによって構成される。よってd−q軸回転座標系は電動機に同期して回転する。
電動機を流れる電流(出力交流電流)は例えば電流検出部5によって検出される(図1参照)。電流検出部5は例えば電流検出回路であって、出力線Pu,Pv,Pwをそれぞれ流れる電流iu,iv,iwを検出し、これらを固定/回転座標変換部36へと出力する。固定/回転座標変換部36は、電流iu,iv,iwに対して座標変換を行って、d−q軸回転座標系における電流id,iqを算出する。なお、座標変換に必要なd−q軸回転座標系と固定座標系との間の位相差は、例えば回転速度ω(または回転速度指令ω*)を積分して算出すればよい。
図1の例では、電流検出部5は電流iu,iv,iwを検出しているものの、いずれか二つを検出してもよい。電流iu,iv,iwの総和は理想的には零であるので、この二つの電流から残りの一つの電流を算出することができる。また図1の例では、電流検出部5は電流iu,iv,iwを直接に検出しているものの、直流母線LHまたは直流母線LLを流れる直流電流を検出してもよい。具体的には、電流検出部5は、コンデンサC1と電力変換器2との間において直流母線LHまたは直流母線LLを流れる直流電流を検出してもよい。この直流電流は、電流iu,iv,iwのうちスイッチング素子S1〜S6のスイッチパターンに応じた電流と一致する。よってスイッチパターンおよび直流電流に基づいて電流iu,iv,iwを把握できる。かかる電流検出は、いわゆる1シャント方式と呼ばれる。
電圧指令生成部31は、例えば、偏差Δωおよび電流id,iqに基づいて、電圧指令V*を生成する。例えば電圧指令生成部31は、電動機の電圧方程式に基づくフィードフォワード制御および偏差Δωに対する比例積分制御などの制御を用いて、電圧指令V*を生成することができる。この電圧指令V*は制御座標系における各軸の成分によって表現される。例えば電圧指令V*は、そのd軸成分たるd軸電圧指令Vd*と、そのq軸成分たるq軸電圧指令Vq*と含んでいる。つまり、電圧指令V*は直交座標系で表現される。電圧指令生成部31はこの電圧指令V*を直交/極座標変換部32へと出力する。
なお上述の例では、制御回路3はd−q軸回転座標系を用いて電圧指令V*を算出しているものの、他の回転座標系を用いてもよい。以下では、電圧指令V*を算出するための座標系を制御座標系とも呼ぶ。
直交/極座標変換部32は電圧指令V*に対して、直交座標系から極座標系への座標変換を施す。極座標系においては、電圧指令V*はその大きさと位相とによって表現されるので、直交/極座標変換部32は電圧指令V*の大きさたる振幅指令D*と、その位相たる電圧位相指令θv**とを算出することになる。ここでいう位相とは、制御座標系における位相である。直交/極座標変換部32は、振幅指令D*を回転/固定座標変換部34へ出力し、電圧位相指令θv**を電圧位相補正部33へ出力する。
電圧位相補正部33には、電圧VLも入力される。電圧VLは検出部4によって検出される(図1参照)。検出部4は電圧検出回路であって、電圧VLを検出し、これを制御回路3(より具体的には電圧位相補正部33)へと出力する。検出部4は、例えば、リアクトルL1のコンデンサC1側の一端の電位を基準として、電圧VLを検出する。
電圧位相補正部33は、電圧VLの低減に応じて負荷力率が増大するように、電圧位相指令θv**を補正して、電圧位相指令θv*を生成する。図3の例では、例えば電圧位相補正部33は力率算出部331と力率補正部332と位相算出部333と電流位相算出部334とを備えている。
電流位相算出部334には、固定/回転座標変換部36から電流id,iqが入力される。電流位相算出部334は電流id,iqに基づいて、その位相である電流位相θiを算出する。例えば、電流位相算出部334は、電流id,iqに対して、直交座標系から極座標系への変換を施して、電流位相θiを算出する。電流位相θiは、電圧位相指令θv**と同じ座標系における位相であり、ここでは制御座標系における電流の位相である。電流位相算出部334は電流位相θiを力率算出部331および位相算出部333へ出力する。
力率算出部331には、電圧位相指令θv**も入力される。力率算出部331は電圧位相指令θv**と電流位相θiとに基づいて、力率指令PF**を算出する。図4は電圧位相補正部33のより具体的な内部構成の一例を概略的に示す機能ブロック図である。図4に例示するように、力率算出部331は減算器3311と演算部3312とを備えている。減算器3311には、電圧位相指令θv**と電流位相θiとが入力される。減算器3311は電圧位相指令θv**から電流位相θiを減算して、位相差指令θ**を算出し、位相差指令θ**を演算部3312へと出力する。位相差指令θ**は、出力交流電圧と出力交流電流の位相差についての指令である。演算部3312は位相差指令θ**の余弦値(cosθ**)を算出し、その結果を力率指令PF**として力率補正部332へと出力する。
力率補正部332には、電圧VLも入力される。力率補正部332は力率指令PF**および電圧VLに基づいて力率指令PF*を算出する。具体的には、力率補正部332は、力率指令PF*が電圧VLの低減に応じて増大するように、力率指令PF**に対して補正を行う。
図3および図4の例では、力率補正部332は乗算器3321と減算器3322とを備えている。乗算器3321には、電圧VLおよびゲインKが入力される。ゲインKは例えば予め設定されて、制御回路3の記憶媒体に記憶されていてもよい。乗算器3321はゲインKと電圧VLとを乗算し、その結果を減算器3322へと出力する。減算器3322には、力率指令PF**も入力されている。減算器3322は力率指令PF**から乗算器3321の出力を減算して、その結果を力率指令PF*として出力する。つまり、図4の力率補正部332は実質的に式(3)を演算する。つまり負荷力率を式(3)に基づいて補正する。
力率指令PF*および電流位相θiは位相算出部333へ入力される。位相算出部333は力率指令PF*および電流位相θiに基づいて電圧位相指令θv*を算出する。例えば位相算出部333は演算部3331と加算器3332とを備えている。演算部3331には、力率指令PF*が入力される。演算部3331は力率指令PF*の逆余弦値を算出し、その結果を位相差指令θ*として加算器3332へ出力する。加算器3332には、電流位相θiも入力される。加算器3332は位相差指令θ*に電流位相θiを加算して、その結果を電圧位相指令θv*として回転/固定座標変換部34へと出力する。以下の式は、図4の電圧位相補正部33が行う演算式を示している。
θv*=cos−1{cos(θv**−θi)−K・VL}+θi ・・・(9)
回転/固定座標変換部34は、振幅指令D*および電圧位相指令θv*によって示される電圧指令に対して、座標変換を行って、固定座標系における電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を生成し、これらの指令を制御信号生成部35へ出力する。制御信号生成部35は電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に基づいて制御信号Sを生成する。例えば制御信号生成部35は電圧指令Vu*,Vv*,Vw*の各々とキャリア(例えば三角波)との比較に基づいて制御信号Sを生成する。このような制御信号Sの生成方法はパルス幅変調で用いられる方法である。
電力変換器2は制御信号Sに基づいて動作し、理想的には電圧指令Vu*,Vv*,Vw*で示される出力交流電圧を負荷M1へと出力する。
このような制御回路3によって、電圧VLの低減に応じて負荷力率が増大するように、負荷力率が制御される。逆に説明すると、負荷力率が電圧VLの増大に応じて低減するように、負荷力率が制御される。したがって、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchを抑制することができる。
しかも、本制御によれば、振幅指令D*に対して、電圧VLに基づく補正を必要としない。ここで、比較例として、電圧位相指令θv**の補正に替えて、振幅指令D*に対して補正を行う制御を簡単に説明する。例えば電圧VLとゲインKとの積を、振幅指令D*から減算して、補正後の振幅指令D*’を算出する。
そして、例えば、振幅指令D*’と電圧位相指令θv*とで表される電圧指令に基づいて、上述と同様に、制御信号Sを生成する。これにより、出力交流電圧の振幅が、電圧VLの低減に応じて増大する。図5は、比較例にかかる電圧制御率Dおよび位相差θの一例を模式的に示している。電圧制御率Dとは、直流電圧Vdcに対する、出力交流電圧の振幅の比である。図5に示すように、位相差θはほぼ一定であるのに対して、電圧制御率Dの振幅は脈動する。この電圧制御率Dの脈動制御によって、直流電圧Vdcの脈動成分を低減することができる。しかしながら、電圧制御率Dが脈動するので、その電圧制御率Dの平均値Daは電圧制御率Dの最大値Dpよりも小さくなる。
図6は、本実施の形態にかかる電圧制御率Dおよび位相差θの一例を模式的に示している。図6に示すように、本実施の形態によれば、電圧制御率Dはほぼ一定であるのに対して、位相差θが脈動する。本実施の形態では、この位相差θの脈動によって、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅を低減している。本実施の形態では、電圧制御率Dを電圧VLに応じて脈動させる必要がないので、電圧制御率Dの低下を回避、あるいは、抑制できる。なお、電圧制御率Dの最大値Dpは直流電圧Vdcの値に応じて決まっており、本実施の形態では、電圧利用率の上限値として、この最大値Dpを採用することができる。つまり、本実施の形態によれば、電圧利用率の上限値の低下を回避または抑制できる。
また、上述の具体例では、電圧VLの基準電位として、コンデンサC1側のリアクトルL1の一端の電位を採用した。しかるに、リアクトルL1の他端の電位を採用しても構わない。この場合、電圧VLの極性が逆になるので、負荷力率が電圧VLの増大に応じて増大するように、言い換えれば、電圧VLの低減に応じて低減するように、制御されればよい。
また、検出部4は、コンデンサC1側のリアクトルL1の一端の電位を基準とした電圧VLを、逆相の脈動成分Vdchとして検出する脈動成分検出部である、とも説明できる。リアクトルL1の他端の電位を基準とした電圧VLを検出する場合には、検出部4は、当該電圧VLを同相の脈動成分Vdchとして検出する、とも説明できる。
<リミッタ>
図7は電圧位相補正部33Aの内部構成の他の一例を概略的に示す図である。図7の電圧位相補正部33Aは、力率補正部332の内部構成という点で、図4の電圧位相補正部33と相違する。図7の電圧位相補正部33Aはリミッタ3323を更に備えている。リミッタ3323には、力率指令PF*が入力される。リミッタ3323は力率指令PF*が1よりも大きいか否かを判断する。大小の判断は例えば比較器を用いて行うことができる。他の大小の判断も同様である。
力率指令PF*が1よりも大きいときには、リミッタ3323は力率指令PF*を1に設定して、力率指令PF*を演算部3331へと出力する。もし力率指令PF*が1を超える場合には、演算部3331による逆余弦値の算出が適切に行われない。図7の例では、力率指令PF*が1を超えるときにリミッタ3323が力率指令PF*を1に設定するので、演算部3331は電圧位相指令θv*を適切に算出することができる。
同様に、リミッタ3323は力率指令PF*が−1よりも大きいか否かを判断する。力率指令PF*が−1を下回るときには、力率指令PF*を−1に設定する。これにより、算出結果が−1を下回るときにも、演算部3331は電圧位相指令θv*を適切に算出することができる。
以上のように、当該力率指令PF*が−1を下回ったり、あるいは、1を超える場合であっても、電圧位相指令θv*が算出される。つまり、電圧位相指令θv**に対する補正が行われて電圧位相指令θv*が算出される。よって、このような場合にも、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅を低減することができる。
<補正値H>
上述のように、本実施の形態においては、制御回路3は、電力変換器2を制御して、負荷力率を脈動成分Vdchの増大(つまり電圧VLの低減)に応じて増大させる。具体的には、式(3)に例示するように、制御回路3は、脈動成分Vdchの増大に応じて増大する補正値(式(3)の右辺第2項)で負荷力率を変動させている。以下では、この補正値を補正値Hと呼ぶ。補正値Hは、式(3)においては、「−K・VL」で表される。
さて、式(8)から理解できるように、式(3)で表される補正を行うと、直流電流idcは電圧制御率Dおよび出力交流電流の実効値io_rmsの影響を受ける。以下では、式(8)の右辺の第2項を、電流についての補正値Hiと呼ぶ。つまり、負荷力率について補正値Hで補正を行うと、直流電流idcはおおよそ補正値Hiで補正されることになる。
この補正値Hiは、式(8)で示されるように、電圧制御率Dおよび実効値io_rmsに比例する。よって、電圧制御率Dおよび実効値io_rmsが小さいときには、補正値Hiの絶対値(補正量)が小さくなるので、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅の低減効果が小さくなる。電圧制御率Dおよび実効値io_rmsは、回転速度ωが大きいほど大きくなる傾向にあるので、回転速度ωが小さいときには、脈動成分Vdchの低減効果が小さくなる、ともいえる。そこで、電圧制御率Dまたは出力交流電流の実効値io_rmsの影響を低減することを企図する。
まず電圧制御率Dの影響を低減することを企図する。式(8)から理解できるように、補正値Hiは電圧制御率DおよびゲインKを因数として含む。そこで、このゲインKを、電圧制御率Dが小さいほど大きく設定する。つまり、電圧制御率Dが小さいほど補正値H(例えば、−K・VL)の絶対値が大きくなるように、補正値Hを算出する。
これにより、補正値Hiにおいては、電圧制御率Dの低減による積D・Kの低減を抑制することができる。ひいては、補正値Hiの絶対値の低減を抑制することができる。より具体的な一例として、以下の式で示すように、ゲインKを電圧制御率Dの逆数で設定してもよい。
K=K’/D ・・・(10)
ここで、K’は例えば予め設定された値である。式(10)を式(8)に代入すると、電圧制御率Dはキャンセルされる。よって、電圧制御率Dが変動しても、理想的には補正値Hiは変動しない。したがって、電圧制御率Dが低減しても、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅の低減効果を損なわない。
次に、出力交流電流の実効値io_rmsの影響を低減することを企図する。式(8)から理解できるように、補正値Hiは実効値io_rmsおよびゲインKを因数として含む。そこで、ゲインKを、実効値io_rmsが小さいほど大きく設定してもよい。つまり、実効値io_rmsが小さいほど、換言すれば、出力交流電流の振幅が小さいほど、補正値Hの絶対値が大きくなるように、補正値Hを算出する。
これにより、実効値io_rmsの低減による積io_rms・Kの低減を抑制できる。ひいては、補正値Hiの絶対値の低減を抑制することができる。より具体的な一例として、以下の式で示すように、ゲインKを実効値io_rmsの逆数で設定してもよい。
K=K’/io_rms ・・・(11)
これにより、実効値io_rmsが変動しても、理想的には補正値Hiは変動しない。したがって、実効値io_rmsが低減しても、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの低減効果を損なわない。
もちろん、ゲインKを、電圧制御率Dおよび実効値io_rmsの両方に基づいて設定してもよい。つまり、ゲインKを、電圧制御率Dが小さいほど大きく、かつ、実効値io_rmsが小さいほど大きく、設定してもよい。より具体的な一例として、以下の式で示すように、ゲインKを電圧制御率Dと実効値io_rmsとの積の逆数で設定してもよい。
K=K’/(D・io_rms) ・・・(12)
これにより、電圧制御率Dおよび実効値io_rmsの各々が変動しても、理想的には補正値Hiは変動しない。したがって、電圧制御率Dおよび実効値io_rmsが低減しても、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの低減効果を損なわない。
また式(8)を参照して、補正値Hiは、√(3/2)を係数として含んでいる。そこで、この係数もキャンセルすべく、√(3/2)の逆数でゲインKを設定してもよい。以下の式は、ゲインKの一例を示す。
K=√(2/3)・K’/(D・io_rms) ・・・(13)
なお式(13)の√3は式(1)の√3に起因する。つまり、電力変換器2が三相交流電圧を出力する場合には、式(1)の√3が係数として存在し、電力変換器2が単相交流電圧を出力する場合には、この√3は存在しない。よって、この場合には、ゲインKとして以下の式を採用するとよい。
K=√2・K’/(D・io_rms) ・・・(14)
図8は、電圧位相補正部33Bの内部構成の他の一例を概略的に示す図である。図8の電圧位相補正部33Bは、力率補正部332の内部構成という点で、図4の電圧位相補正部33と相違する。図8の電圧位相補正部33Bは、除算器3324,3325を更に備えている。除算器3324には、例えば、ゲインK’と電圧制御率Dとが入力される。除算器3324はゲインK’を電圧制御率Dで除算して、その結果(K’/D)を除算器3325へと出力する。除算器3325には、電流の実効値io_rmsも入力される。実効値io_rmsは電流iu,iv,iwまたは電流iq,idに基づいて算出される。除算器3325は、除算器3324の結果を実効値io_rmsで除算して、その結果(K’/D/io_rms)を乗算器3321へと出力する。
なお、ゲインK’に対して、√(2/3)または√2を乗算する乗算器が設けられてもよい。
<電圧VLの基準電位>
上述の例では、電圧VLの基準電位として、リアクトルL1のコンデンサC1側の一端の電位を採用した。しかるに、電圧VLの基準電位として、リアクトルL1の他端の電位を採用してもよい。この場合、電圧VLの極性が逆になるので、電圧VLは脈動成分Vdchと同相となる。この場合、制御回路3は、電圧VLの増大に応じて負荷力率が増大するように、電力変換器2を制御すればよい。具体的な一例として、式(3)の右辺第2項の「−」を「+」に置き換えればよい。
<座標系>
上述の例では、制御座標系における電圧位相指令θv**と電流位相θiとを用いて、力率指令PF**を算出した。しかるに、座標系は任意である。例えば、固定座標系における電圧位相指令と電流位相とを用いてもよい。具体的な一例について概説する。まず、電圧指令生成部31によって生成された電圧指令V*に対して座標変換を施して、固定座標系における電圧指令Vu**,Vv**,Vw**を算出する。そして、電圧指令Vu**,Vv**,Vw**に基づいて、その振幅指令と、固定座標系における電圧位相指令とを算出する。また、電流検出部5によって検出された電流iu,iv,iwに基づいて、固定座標系における電流位相を算出する。そして、これらの電圧位相指令と電流位相との差の余弦値を力率指令PF**として算出する。次に、力率指令PF**および電圧VLに基づいて、上述のように、力率指令PF*を算出し、その逆余弦値に電流位相を加算して、補正後の電圧位相指令を算出する。次に、補正後の電圧位相指令と、振幅指令とに基づいて、電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を算出する。これによっても、電圧VLに応じて負荷力率が制御される。
<直流電圧Vdcの脈動成分Vdch>
上述の例では、電圧VLを用いて負荷力率を補正したものの、電圧VLは上述のように脈動成分Vdchに相当することから、脈動成分Vdchを用いて負荷力率を補正してもよい。図9は負荷駆動装置の構成の他の一例を概略的に示す図である。図9の負荷駆動装置は検出部4という点で図1の負荷駆動装置と相違する。図9の検出部4は電圧VLではなく直流電圧Vdcを検出する。そして、この検出部4は直流電圧Vdcからその脈動成分Vdchを抽出し、脈動成分Vdchを制御回路3へ出力する。
図10は検出部4の内部構成の一例を概略的に示している。例えば検出部4は高調波抽出部40を備えていてもよい。高調波抽出部40は直流電圧Vdcからその脈動成分Vdchを抽出する。高調波抽出部40は例えばローパスフィルタ41と減算器42とを備えている。ローパスフィルタ41には、直流電圧Vdcが入力される。ローパスフィルタ41は、直流電圧Vdcの少なくとも脈動成分Vdchを除去し、除去後の直流電圧Vdcを減算器42へと出力する。減算器42には、ローパスフィルタ41を経由しない直流電圧Vdcから、ローパスフィルタ41の出力を減算して、脈動成分Vdchを算出し、脈動成分Vdchを制御回路3へと出力する。
なお検出部4は図10の構成に替えて、ハイパスフィルタを備えていてもよい。ハイパスフィルタは、直流電圧Vdcから脈動成分Vdchを抽出し、この脈動成分Vdchを制御回路3へと出力する。
制御回路3は、負荷力率が脈動成分Vdchの増大に応じて増大するように、電力変換器2を制御する。例えば、以下の式を用いて、負荷力率を補正する。
cosθ2=cosθ1+K・Vdch ・・・(15)
これによっても、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅を低減することができる。
また検出部4におけるフィルタのカットオフ周波数を適宜に設定することで、除去対象となる成分を簡単に調整することができる。例えば、検出部4は、直流電圧Vdcの直流成分を除去し、その直流成分よりも高い脈動成分Vdch’を抽出してもよい。そして、制御回路3は、この脈動成分Vdch’の増大に応じて負荷力率を増大させるように、電力変換器2を制御してもよい。
なお上述の例においては、高調波抽出部40は検出部4に設けられているものの、制御回路3に設けられていても構わない。
また、図1の検出部4によれば、直流電圧Vdcに対してフィルタを施す処理が不要であるので、処理を簡易にできる。言い換えれば、簡易に脈動成分Vdchを検出できる。
本負荷駆動装置および制御回路では、その発明の範囲内において、相互に矛盾しない限り、上記の種々の実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。