以下、本発明の実施例について図に基づいて説明する。なお、説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。第1実施例の車両用制動装置は、図1に示すように、液圧発生部1と、ストロークセンサ4と、アクチュエータ5と、ブレーキECU6と、を備えている。
液圧発生部1は、ブレーキ操作部材11と、倍力装置12と、シリンダ機構13と、ホイールシリンダ14〜17と、を備えている。第一実施形態のブレーキ操作部材11は、ブレーキペダルである。倍力装置12は、公知の装置であって、運転者がブレーキ操作部材11に加える踏力を倍力してシリンダ機構13に伝える装置である。倍力装置12としては、例えば負圧式、液圧式(例えば電磁弁と高圧源による方式)、又は電動式(例えばモータを用いる方式)が挙げられる。倍力装置12は、ブレーキ操作に応じてマスタピストン131、132を駆動するマスタピストン駆動部ともいえる。
シリンダ機構13は、マスタシリンダ130と、マスタピストン131、132と、リザーバ133と、を備えている。マスタシリンダ130は、有底筒状のシリンダ部材である。マスタシリンダ130の開口側にブレーキ操作部材11が配置されている。以下、説明上、マスタシリンダ130の底面側を前方とし、開口側を後方とする。マスタピストン131、132は、マスタシリンダ130内に摺動可能に配設されている。マスタピストン132は、マスタピストン131の前方に配置されている。マスタピストン131、132は、マスタシリンダ130内を、第1マスタ室130aと第2マスタ室130bとに区画している。第1マスタ室130aは、マスタピストン131、132とマスタシリンダ130とで形成され、第2マスタ室130bは、マスタピストン132とマスタシリンダ130とで形成されている。リザーバ133は、リザーバタンクであって、管路によって第1マスタ室130a及び第2マスタ室130bと連通可能に配置されている。リザーバ133と各マスタ室130a、130bとは、マスタピストン131、132の移動に応じて連通/遮断される。
具体的に、第2マスタ室130bの周辺部位について説明する。図2に示すように、マスタシリンダ130は、リザーバ133に接続される接続ポート21と、シール部材22、23と、アクチュエータ5に接続される接続ポート24と、を備えている。接続ポート21は、リザーバ133と第2マスタ室130bとを連通させるためのポートである。接続ポート21は、シール部材22、23の間に配置されている。マスタピストン132の筒状部分には、自身の外周側と内周側を連通させる通路132aが形成されている。
マスタピストン132が初期位置(ブレーキ操作部材11が操作されてない状態)にある場合、リザーバ133と第2マスタ室130bは、流路2Aを介して連通される。流路2Aは、接続ポート21、マスタシリンダ130の内周面、マスタピストン132の外周面、及び通路132aで構成されている。一方、マスタピストン132が前進し、通路132aがシール部材23の前方に移動した場合、リザーバ133と第2マスタ室130bはシール部材23により遮断される。つまり、リザーバ133と第2マスタ室130bとの間のブレーキ液(「フルード」に相当する)の流路2Aは、マスタピストン132の前進に伴って遮断可能に構成されている。流路2Aが遮断されるまでのマスタピストン132の移動量を調整することで、マスタ室130a、130bの液圧(以下、「マスタ圧」と称する)の発生が抑制されるストローク区間である無効ストロークの量を調整することができる。接続ポート24は、第2マスタ室130bとアクチュエータ5を接続するためのポートであって、マスタシリンダ130のシール部材23よりも前方に形成されている。第1マスタ室130aに対しても第2マスタ室130bの周辺部位同様の接続ポート及びシール部材が設けられているが、説明は省略する。
ホイールシリンダ14は、車輪RL(左後輪)に配置されている。ホイールシリンダ15は、車輪RR(右後輪)に配置されている。ホイールシリンダ16は、車輪FL(左前輪)に配置されている。ホイールシリンダ17は、車輪FR(右前輪)に配置されている。マスタシリンダ130とホイールシリンダ14〜17は、アクチュエータ5を介して接続されている。ホイールシリンダ14〜17は、入力されている液圧に応じた制動力を車輪RL〜FRに付与する。
このように、運転者がブレーキ操作部材11を踏み込むと、倍力装置12により踏力が倍力され、マスタシリンダ130内のマスタピストン131、132が押圧される。マスタピストン131、132の前進によりマスタシリンダ130とリザーバ133とが遮断されると(以下、この状態を「遮断状態」とも称する)、第1マスタ室130a及び第2マスタ室130bに同圧のマスタ圧が発生する。液圧発生部1は、マスタピストン131、132の移動に応じて容積が変化する第1マスタ室130a及び第2マスタ室130bに、遮断状態において第1マスタ室130a及び第2マスタ室130bの容積に応じたマスタ圧を発生させる。マスタ圧は、アクチュエータ5を介してホイールシリンダ14〜17に反映される。なお、図示しないが、液圧発生部1には、少なくともマスタ室130a、130bが遮断状態となるまで、ブレーキ操作部材11の操作に対して反力を発生させる反力用スプリングが設けられている。また、液圧発生部1は、ストロークに応じた反力を発生させるストロークシミュレータを備えても良い。
ストロークセンサ4は、ブレーキ操作部材11のストローク(操作量)を検出するセンサである。ストロークセンサ4は、ブレーキECU6に検出結果を送信する。
アクチュエータ5は、ブレーキECU6の指示に応じて、ホイールシリンダ14〜17の液圧(以下、ホイール圧と称する)を調整する装置(液圧調整装置)である。具体的に、アクチュエータ5は、図1に示すように、油圧回路5Aと、モータ8と、を備えている。油圧回路5Aは、第1配管系統50aと、第2配管系統50bと、を備えている。第1配管系統50aは、車輪RL、RRに加えられる液圧(ホイール圧)を制御する系統である。第2配管系統50bは、車輪FL、FRに加えられる液圧(ホイール圧)を制御する系統である。
第1配管系統50aは、主管路(「液圧路」又は「第2液圧路」に相当する)Aと、第1差圧弁(「第1弁部」に相当する)51と、第2差圧弁(「第2弁部」に相当する)52、53と、減圧管路Bと、減圧弁54、55と、調圧リザーバ56と、還流管路Cと、ポンプ57と、補助管路Dと、オリフィス部71と、ダンパ部72と、を備えている。説明において、管路は、例えば液圧路、流路、油路、又は配管等に置換可能である。
主管路Aは、マスタシリンダ130とホイールシリンダ14、15の間に配置された流路であって、マスタシリンダ130とホイールシリンダ14、15とを接続する管路である。第1差圧弁51は、主管路Aに設けられ、主管路Aを連通状態と差圧状態に制御する電磁弁である。差圧状態は、弁により流路が制限された状態であり、絞り状態ともいえる。第1差圧弁51は、ブレーキECU6の指示に基づく制御電流に応じて、自身を中心としたマスタシリンダ130側の液圧とホイールシリンダ14、15側の液圧との差圧(以下、「第一差圧」とも称する)を制御する。換言すると、第1差圧弁51は、主管路Aのマスタシリンダ130側の部分の液圧と主管路Aのホイールシリンダ14、15側の部分の液圧との差圧を制御可能に構成されている電磁弁である。第1差圧弁51は、非通電状態で連通状態となり、特定の制御を除く通常のブレーキ制御においては連通状態に制御されている。特定の制御は、例えば自動ブレーキ、横滑り防止制御、又は回生協調制御における初期制御やすり替え制御である。第1差圧弁51に印加される制御電流が大きいほど、第一差圧は大きくなる。第1差圧弁51が差圧状態に制御されてポンプ57が駆動している場合、制御電流に応じて、マスタシリンダ130側の液圧よりもホイールシリンダ14、15側の液圧のほうが大きくなる。
第1差圧弁51に対しては、逆止弁51aが設置されている。主管路Aは、ホイールシリンダ14、15に対応するように、第1差圧弁51の下流側の分岐点Xで2つの管路A1、A2に分岐している。
ここで、第1差圧弁51の構成について概念的に説明する。図3に示すように、第1差圧弁51は、主に、弁座31と、ボール弁32と、スプリング33と、ソレノイド34と、流路3Aと、を備えている。第1差圧弁51は、弁座31に対してボール弁32が着座すると流路3Aが遮断され、離座すると流路3Aが連通するように構成されている。流路3Aは、第1差圧弁51のマスタシリンダ130側の管路と第1差圧弁51のホイールシリンダ14、15側の管路とを接続する流路である。ボール弁32は、弁座31のマスタシリンダ130側に配置され、弁座31から離座した状態でスプリング33に固定されている。ボール弁32は、ソレノイド34に制御電流が印加されると、電磁力により弁座31側が押圧される。ボール弁32が電磁力により弁座31に当接(着座)すると、流路3Aは遮断される。ボール弁32は、ソレノイド34に制御電流が印加されていない状態では、スプリング33により初期位置に戻され、流路3Aは連通する。
第1差圧弁51が差圧状態、すなわち目標差圧に応じた制御電流が印加された状態において、ポンプ57が駆動された場合を考える。この場合、第1差圧弁51のホイールシリンダ14、15側の液圧が、第1差圧弁51のマスタシリンダ130側の液圧よりも目標差圧以上大きくなると、ボール弁32に対する当該差圧による押圧力が電磁力による押圧力よりも大きくなり、ボール弁32が若干マスタシリンダ130側に移動して離座する。それにより、ボール弁32の離座によりブレーキ液が流路3Aを通ってマスタシリンダ130側に移動し、ホイールシリンダ14、15側の液圧が減少する。そして、差圧による押圧力が下がり、またボール弁32が着座する。これを繰り返すことで、目標差圧が維持される。
第2差圧弁52、53は、第1差圧弁51と同様の構成であって、ブレーキECU6の指示に基づき連通状態と差圧状態とが切り替わる電磁弁である。第2差圧弁52、53は、非通電状態で開状態(連通状態)となる常開弁である。第2差圧弁52、53は、ブレーキECU6の指示に基づく制御電流に応じて、自身を中心とした第1差圧弁51側の液圧とホイールシリンダ14、15側の液圧との差圧(以下、「第二差圧」とも称する)を制御する。第2差圧弁52、53に印加される制御電流が大きいほど、第二差圧は大きくなる。第2差圧弁52、53が差圧状態に制御されてポンプ57が駆動している場合、制御電流に応じて、ホイールシリンダ14、15側の液圧よりも第1差圧弁51側の液圧のほうが大きくなる。第2差圧弁52、53は、図3において「ホイールシリンダ側」を「第1差圧弁側」とし、「マスタシリンダ側」を「ホイールシリンダ側」としたものに相当する。
第2差圧弁52は管路A1に配置され、第2差圧弁53は管路A2に配置されている。減圧管路Bは、管路A1における第2差圧弁52とホイールシリンダ14の間と調圧リザーバ56とを接続し、管路A2における第2差圧弁53とホイールシリンダ15の間と調圧リザーバ56とを接続する管路である。第2差圧弁52、53は、例えば、減圧制御時には、閉状態に制御され、マスタシリンダ130とホイールシリンダ14、15を遮断する。
減圧弁54、55は、ブレーキECU6の指示により開閉する電磁弁であって、非通電状態で閉状態(遮断状態)となる常閉弁である。減圧弁54は、ホイールシリンダ14側の減圧管路Bに配置されている。減圧弁55は、ホイールシリンダ15側の減圧管路Bに配置されている。減圧弁54、55は、主に減圧制御時に通電されて開状態となり、減圧管路Bを介してホイールシリンダ14、15と調圧リザーバ56とを連通させる。調圧リザーバ56は、シリンダ、ピストン、及び付勢部材を有するリザーバである。
還流管路Cは、減圧管路B(又は調圧リザーバ56)と、主管路Aにおける第1差圧弁51と第2差圧弁52、53の間(ここでは分岐点X)とを接続する管路である。ポンプ57は、吐出ポートが分岐点X側で吸入ポートが調圧リザーバ56側に配置されるように、還流管路Cに設けられている。ポンプ57は、モータ8によって駆動されるピストン式の電動ポンプである。ポンプ57は、還流管路Cを介して、調圧リザーバ56からマスタシリンダ130側又はホイールシリンダ14、15側にブレーキ液を流動させる。
ポンプ57は、ブレーキ液を吐出する吐出過程と、ブレーキ液を吸入する吸入過程と、を繰り返すように構成されている。つまり、ポンプ57は、モータ8により駆動されると、吐出過程と吸入過程とを交互に繰り返して実行する。吐出過程では、吸入過程で調圧リザーバ56から吸入したブレーキ液が、分岐点Xに供給される。モータ8は、ブレーキECU6の指示により、リレー(図示せず)を介して通電され、駆動する。ポンプ57とモータ8は、1つの電動ポンプともいえる。
オリフィス部71は、還流管路Cのポンプ57と分岐点Xとの間の部分に設けられた、絞り形状部位(いわゆるオリフィス)である。ダンパ部72は、還流管路Cのポンプ57とオリフィス部71との間の部分に接続されたダンパ(ダンパ機構)である。ダンパ部72は、還流管路Cのブレーキ液の脈動に応じて、当該ブレーキ液を吸収・吐出する。オリフィス部71及びダンパ部72は、脈動を低減(減衰、吸収)する脈動低減機構といえる。
補助管路Dは、調圧リザーバ56の調圧孔56aと、主管路Aにおける第1差圧弁51よりも上流側(又はマスタシリンダ130)とを接続する管路である。調圧リザーバ56は、ストローク増加による調圧孔56aへのブレーキ液の流入量増加に伴い、弁孔56bが閉塞されるように構成されている。弁孔56bの管路B、C側にはリザーバ室56cが形成される。
ポンプ57の駆動(作動)により、調圧リザーバ56又はマスタシリンダ130内のブレーキ液が、還流管路Cを介して主管路Aにおける第1差圧弁51と第2差圧弁52、53の間の部分(分岐点X)に吐出される。そして、第1差圧弁51及び第2差圧弁52、53の制御状態に応じて、ホイール圧が加圧される。このようにアクチュエータ5では、ポンプ57の駆動と各種弁の制御により加圧制御が実行される。なお、主管路Aの第1差圧弁51とマスタシリンダ130の間の部分には、当該部分の液圧(マスタ圧)を検出する圧力センサYが設置されている。圧力センサYは、検出結果をブレーキECU6に送信する。
第2配管系統50bは、第1配管系統50aと同様の構成であって、前輪FR、FLのホイールシリンダ16、17の液圧を調整する系統である。第2配管系統50bは、主管路Aに相当する主管路Abと、第1差圧弁51に相当する第1差圧弁91と、第2差圧弁52、53に相当する第2差圧弁92、93と、減圧管路Bに相当する減圧管路Bbと、減圧弁54、55に相当する減圧弁94、95と、調圧リザーバ56に相当する調圧リザーバ96と、還流管路Cに相当する還流管路Cbと、ポンプ57に相当するポンプ97と、補助管路Dに相当する補助管路Dbと、オリフィス部71に相当するオリフィス部81と、ダンパ部72に相当するダンパ部82と、を備えている。第2配管系統50bの詳細構成については、第1配管系統50aの説明を参照できるため、説明を省略する。
第2配管系統50bは、第1配管系統50aと比較して、主に調圧対象のホイールシリンダと主管路の長さの点で異なっている。第2配管系統50bの主管路(「液圧路」又は「第1液圧路」に相当する)Abは、第1マスタ室130aとホイールシリンダ16、17とを接続する流路である。液圧発生部1は車両前方部に配置され、そこから後輪RL、RR側に延びる主管路Aは、前輪FR、FL側に延びる主管路Abよりも長い。つまり、主管路Aの長さは、主管路Abの長さより大きい。
ブレーキECU6は、CPUやメモリ等を備える電子制御ユニットである。ブレーキECU6は、ストロークセンサ4、圧力センサY、及び図示しない車輪速度センサ等の各種センサから検出結果(検出値)を受信し、受信情報に基づいてアクチュエータ5の作動を制御する。ブレーキECU6は、アクチュエータ5に対して、自動加圧制御(例えばESC制御)及びABS制御を実行する他に、脈動抑制制御を実行する。
(脈動抑制制御)
ここで、主に第1配管系統50aに対する脈動抑制制御を例に、脈動抑制制御について説明する。脈動抑制制御は、ブレーキECU6により実行される。換言すると、ブレーキECU6は、機能として、脈動抑制制御を実行する制御部61を備えている。
脈動抑制制御は、ホイール圧を増大させるに際し、ポンプ57を作動させつつ、第1差圧弁51の制御により第1差圧弁51の第2差圧弁52、53側の液圧(以下、「弁部間圧」とも称する)を第1差圧弁51の第2マスタ室130b側の液圧よりも第1圧だけ大きくするとともに、第2差圧弁52、53の制御により第2差圧弁52、53のホイールシリンダ14、15側の液圧を第2差圧弁52、53の第1差圧弁51側の液圧に対して第2圧だけ小さくする制御である。換言すると、脈動抑制制御は、ホイール圧を増大させるに際し、ポンプ57を作動させつつ、第1差圧弁51の制御により弁部間圧をマスタ圧よりも第1圧だけ大きくするとともに、第2差圧弁52、53の制御によりホイール圧を弁部間圧より第2圧だけ小さくする制御である。さらに換言すると、脈動抑制制御は、ポンプ57を作動させる加圧制御において、第1差圧弁51の制御差圧である第一差圧を「目標とする第1圧(目標第1圧)」に設定し、第2差圧弁52、53の制御差圧である第二差圧を「目標とする第2圧(目標第2圧)」に設定する制御である。
第一実施形態において、目標第1圧は、弁部間圧がホイール圧の目標値である目標ホイール圧よりも大きくなるように設定される。また、目標第2圧は、弁部間圧と目標ホイール圧との差、すなわちホイール圧が目標ホイール圧となるように設定される。目標第1圧は、実現したい第1圧の目標値であって、第1差圧弁51に対する第一差圧の制御目標値に相当する。同様に、目標第2圧は、実現したい第2圧の目標値であって、第2差圧弁52、53に対する第二差圧の制御目標値に相当する。
制御部61は、例えばストロークセンサ4の検出結果及び/又は必要加圧値情報(制動状況に応じて演算される値)に基づいて、目標ホイール圧を設定する。そして、制御部61は、加圧制御が必要な状況において、目標ホイール圧に基づいてアクチュエータ5を制御する。制御部61は、主にマスタ圧(圧力センサYの検出値)及び目標ホイール圧に基づいて、目標第1圧及び目標第2圧を設定する。第1差圧弁51の第2マスタ室130b側の液圧は、マスタ圧に相当する。制御部61は、目標第1圧に基づいて第1差圧弁51を制御し、目標第2圧に基づいて第2差圧弁52、53を制御する。このように、制御部61は、マスタ圧と目標ホイール圧とを取得し、マスタ圧と目標ホイール圧とに基づいて、目標第1圧及び目標第2圧を設定し、目標第1圧に基づいて第1差圧弁51を制御し、目標第2圧に基づいて第2差圧弁52、53を制御する。
例えば、制御部61は、予め設定された、マスタ圧及び目標ホイール圧の組み合わせと、目標第1圧及び目標第2圧の組み合わせとの関係(マップ等)に基づいて、目標第1圧と目標第2圧を決定することができる。これによれば、マスタ圧と目標ホイール圧が決まれば、当該関係から目標第1圧と目標第2圧が決まる。例えば、マスタ圧が0で目標ホイール圧が10MPaである場合、目標第1圧が14MPaに設定され、目標第2圧が4MPaに設定されても良い。この場合、理論上、弁部間圧が14MPaになり(第1圧=14MPa)、ホイール圧が10MPaになる(第2圧=14−10=4MPa)。
つまり、第一実施形態は、第1差圧弁51により弁部間圧を目標ホイール圧より大きくし、大きくした分、第2差圧弁52、53により弁部間圧に対してホイール圧を小さくすることで、目標ホイール圧を達成するように構成されている。第一実施形態の制御部61は、弁部間圧が目標ホイール圧よりも大きくなるように目標第1圧を設定し、且つホイール圧が目標ホイール圧となるように目標第2圧を設定する。
具体例として、図4に示すように、制御部61は、第1差圧弁51への指示値(目標第1圧)を弁部間圧が目標ホイール圧よりも一定量大きくなるように設定するとともに、第2差圧弁52、53へも一定の指示値(目標第1圧と目標ホイール圧の差に相当する値:目標第2圧)を設定して一定の制御電流を印加する。制御部61は、これと同じ制御を第2配管系統50bの第1差圧弁91及び第2差圧弁92、93に対しても実行する。これにより、前輪FR、FL側も後輪RR、RL側も脈動抑制制御により目標ホイール圧を達成することができる。なお、図4と後述の図6、7、8、9の例は、マスタ圧が一定の場合を想定している。
図5に示すように、制御部61は、加圧制御の要求があると又は加圧制御が必要と判定すると(S101)、各種受信情報に基づいて目標ホイール圧を演算する(S102)。そして、制御部61は、圧力センサYからマスタ圧情報を取得する(S103)。制御部61は、目標ホイール圧及びマスタ圧に基づいて、目標第1圧及び目標第2圧を設定する(S104)。第一実施形態では、目標第2圧が一定となるように、目標第1圧が設定される。制御部61は、目標第1圧を第1差圧弁51、91への指示値とし、目標第2圧を第2差圧弁52、53、92、93への指示値として、第1差圧弁51、91及び第2差圧弁52、53、92、93を制御する(すなわち脈動抑制制御を実行する)(105)。なお、昇圧(加圧)の必要がなくなった場合、制御部61は、ポンプ57、97の駆動の有無にかかわらず、第1差圧弁51、91への指示値を弁部間圧が目標ホイール圧になるように設定し、第2差圧弁52、53、92、93を連通状態(非通電状態)に制御する。
第一実施形態によれば、加圧制御(自動加圧制御)の際に、脈動抑制制御が実行され、従来であれば連通状態に制御されていた第2差圧弁52、53、92、93が、差圧状態に制御される。差圧状態は、ポンプ57、97の駆動と組み合わせることで、弁自身の上下流間に差圧を発生させることができる状態であり、流路が制限された絞り状態であるといえる。これにより、第2差圧弁52、53、92、93がオリフィスとして機能し、ポンプ57、97の駆動によるブレーキ液の脈動は抑制される。このように、第一実施形態によれば、ポンプ57、97によるブレーキ液の脈動を抑制することができる。第2差圧弁52、53、92、93は、アクチュエータ5にもともと配置されている弁である。つまり、第一実施形態によれば、新たな機構を加えることなく又はダンパ等の性能を上げることなく、すなわちアクチュエータ5を大型化することなく、ダンパ等の機構と異なる仕組みにより、ポンプ57、97によるブレーキ液の脈動を抑制することができる。
第一実施形態では、アクチュエータ5がオリフィス部71、81及びダンパ部72、82を備えており、当該脈動低減機構の作用にさらに脈動抑制制御の効果が加わり、より脈動を抑制することができる。また、脈動抑制制御が行われることにより、アクチュエータ5からオリフィス部71、81及び/又はダンパ部72、82の構成を省くことが可能となり、製造コストの低減の面でも有利となる。第一実施形態によれば、簡素な構成により、脈動抑制性能の発動又は向上が可能となる。第一実施形態によれば、大型化の抑制と脈動抑制性能の向上との両立を図ることができる。
また、目標第1圧を弁部間圧が目標ホイール圧より大きくなるように設定することで、第2差圧弁52、53、92、93を差圧状態にしても、ホイール圧を目標ホイール圧に近づけるように制御することが可能となる。第一実施形態によれば、ホイール圧が目標ホイール圧となるように、目標第1圧と目標第2圧とを設定することができる。また、目標第2圧が一定となるように目標第1圧が設定されるため、制御が容易となる。
<第二実施形態>
第二実施形態の車両用制動装置は、脈動抑制制御の対象の点で第一実施形態と異なっている。したがって、異なっている部分について説明する。第二実施形態の説明において、第一実施形態の図面や各部の説明が参照できる。
第二実施形態の制御部61は、後輪RR、RL側の管路のみ、すなわちホイールシリンダ14、15が接続された管路のみを対象として、脈動抑制制御を実行する。換言すると、制御部61は、主管路Abに配置されている第1差圧弁91及び第2差圧弁92、93に対して脈動抑制制御を実行することなく、主管路Aに配置されている第1差圧弁51及び第2差圧弁52、53に対して脈動抑制制御を実行する。
第一実施形態同様、主管路Aは第2マスタ室130bとホイールシリンダ(「第2ホイールシリンダ」に相当する)14、15とを接続し、主管路Abは第1マスタ室130aとホイールシリンダ(「第1ホイールシリンダ」に相当する)16、17とを接続している。主管路Aは、液圧発生部1が配置された車両前方部から車両後方部にまで延びているため、主管路Abより長い。したがって、脈動の影響すなわち作動音や振動の乗員への影響は、主管路Abを介するものよりも主管路Aを介するもののほうが大きい。
そこで、制御部61は、例えば図6に示すように、第1差圧弁51、91への指示値(目標第1圧)を弁部間圧が目標ホイール圧よりも一定量大きくなるように設定するとともに、第2差圧弁92、93でなく第2差圧弁52、53に一定の指示値(目標第2圧)を設定する。これにより、ホイールシリンダ14、15の液圧は目標ホイール圧より小さくなるが、ホイールシリンダ16、17の液圧は目標ホイール圧よりも大きくなり、車両全体の制動力は要求制動力を満たすことができる。
例えば図7に示すように、制御部61は、単純に、第1配管系統50aに対してのみ脈動抑制制御を実行しても良い。つまり、制御部61は、第1差圧弁91でなく第1差圧弁51への指示値(目標第1圧)を弁部間圧が目標ホイール圧よりも一定量大きくなるように設定するとともに、第2差圧弁92、93でなく第2差圧弁52、53に一定の指示値(目標第2圧)を設定する。
第二実施形態によれば、ポンプの吐出先からホイールシリンダまでの管路(配管)が比較的長く、ブレーキ液の脈動の影響(作動音や振動)が比較的大きい後輪RR、RL側の系統に対してのみ脈動抑制制御を実行することで、後輪RR、RL側の系統にオリフィス効果が発揮され、制御の変更を最小限に抑えつつ、ブレーキ液の脈動の影響を効率的に抑制することができる。
<第三実施形態>
第三実施形態の車両用制動装置は、脈動抑制制御の対象の点で第一実施形態と異なっている。したがって、異なっている部分について説明する。第三実施形態の説明において、第一実施形態の図面や各部の説明が参照できる。
第三実施形態の制御部61は、主管路Abに配置されている第1差圧弁91と主管路Aに配置されている第2差圧弁52、53に対して脈動抑制制御を実行する。つまり、制御部61は、異なる配管系統に配置された第1差圧弁91と第2差圧弁52、53とを1つの組み合わせとして、当該組み合わせに対して脈動抑制制御を実行する。上述のように、主管路Abは、前輪側であるホイールシリンダ16、17(「前輪用の第1ホイールシリンダ」に相当する)に接続された管路であり、主管路Aは、後輪側であるホイールシリンダ14、15(「後輪用の第2ホイールシリンダ」に相当する)に接続された管路である。
例えば図8に示すように、制御部61は、第1差圧弁51への指示値を弁部間圧が目標ホイール圧となる値とし、第1差圧弁91への指示値を弁部間圧が目標ホイール圧よりも大きくなる値(目標第1圧)とし、第2差圧弁52、53への指示値を所定値(目標第2圧)とし、第2差圧弁92、93への指示値を0(連通状態)とする。これにより、第1配管系統50aでは、第1差圧弁51により弁部間圧が目標ホイール圧に調整されるが、差圧状態の第2差圧弁52、53によって目標ホイール圧より小さいホイール圧が発生する。一方、第2配管系統50bでは、第1差圧弁91により弁部間圧が目標ホイール圧より大きい液圧に調整されるが、連通状態の第2差圧弁92、93により目標ホイール圧より大きい弁部間圧がそのままホイール圧となる。したがって、前輪FR、FLの制動力が要求制動力より大きくなり且つ後輪RR、RLの制動力が要求制動力より小さくなって、車両全体としては要求制動力を達成することができる。すなわち、第三実施形態は、第二実施形態と同様の効果に加え、車両挙動を安定させる効果(後輪のスリップを抑制する効果)を有する。
<第四実施形態>
第四実施形態の車両用制動装置は、脈動抑制制御の仕方の点で第一実施形態と異なっている。したがって、異なっている部分について説明する。第三実施形態の説明において、第一実施形態の図面や各部の説明が参照できる。
第四実施形態のブレーキECU6は、ポンプ状態判定部としての機能も有する。つまり、ブレーキECU6は、ポンプ状態判定部として、ポンプ57、97の駆動状態が吐出過程及び吸入過程のいずれであるかを判定する。ブレーキECU6は、例えばモータ8に設けられたエンコーダ(図示せず)からモータ8の回転数、回転速度、及び回転角度についての情報を受信し、当該受信情報に基づいてポンプ57、97の位相を演算する。ポンプ57、97の位相は、モータ8の回転角度と所定の関係を有し、駆動状態(過程)とも所定の関係を有している。ブレーキECU6は、ポンプ57、97の位相に基づいてポンプ57、97の駆動状態を判定(推定)し、判定結果を制御部61に送信する。なお、駆動状態の判定は、上記とは別の方法、例えば駆動初期の液圧の変化(圧力センサの検出値の変化)に基づいて行われても良い。
第四実施形態の制御部61は、ポンプ57、97の駆動状態の判定結果に基づき、ポンプ57、97の駆動状態が吐出過程である場合に脈動抑制制御を実行し、ポンプ57、97の駆動状態が吸入過程である場合に脈動抑制制御を停止する。換言すると、制御部61は、ポンプ57、97の吐出過程において脈動抑制制御を実行し、ポンプ57、97の吸入過程において脈動抑制制御を停止する。つまり、制御部61は、ポンプ57、97がブレーキ液を吐出していないときには、第2差圧弁52、53、92、93の差圧状態を解除して連通状態とする。
例えば図9に示すように、制御部61は、第1差圧弁51、91への指示値を弁部間圧が目標ホイール圧となる値(ここではこの値が目標第1圧となる)とし、第2差圧弁52、53、92、93への指示値を、吐出過程の場合には目標第2圧とし、吸入過程の場合には0(連通状態)とする。配管系統50a、50bにより駆動状態が異なる場合は、制御部61は、配管系統50a、50bごとに脈動抑制制御の実行タイミングを設定する。
第四実施形態によれば、ポンプ57、97がブレーキ液を吐出するタイミングで、第2差圧弁52、53、92、93が通電される(差圧状態となる)ため、当該吐出過程においてのみ、第2差圧弁52、53、92、93が配置された流路でオリフィス効果が発揮され、ホイールシリンダ14〜17に流れるブレーキ液の流量が抑制される。これにより、通常の加圧制御同様に目標第1圧を「弁部間圧が目標ホイール圧となる値」に設定した状態で、ブレーキ液の脈動を抑制することができる。
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、各配管系統50a、50bにつながる車輪FR〜RLの組み合わせは上記に限らず、例えば第1配管系統50aが車輪FR、RLに対応し、第2配管系統50bが車輪FL、RRに対応する構成(いわゆるX配管)であっても良い。ただし、図7又は図8に示すような脈動抑制制御を実行する場合、前輪FR、FL側の第1差圧弁と後輪RR、RL側の第1差圧弁とを別個に制御する必要があり、各配管系統50a、50bに1つの第1差圧弁が配置されている構成では、第一実施形態のようないわゆる前後配管である必要がある。反対に、例えば図4、図6、又は図9に示すような脈動抑制制御は、前後配管及びX配管の何れも適用可能であり、X配管に適用可能とするための制御形式ともいえる。また、差圧弁51〜53、91〜93は、上下流間に差圧を発生させることができる電磁弁であれば良く、例えばオンオフ弁(2位置制御弁)を連続して開閉することによっても代用できる。
また、制御部61は、マスタ圧や目標ホイール圧の他に、推定ホイール圧(現在のホイール圧の推定値)及びホイールシリンダ14〜17への必要供給流量などに基づいて、ポンプ57の吐出量、弁部間圧、目標第1圧、及び目標第2圧を設定しても良い。また、各実施形態を互いに組み合わせても良く、例えば第四実施形態の制御を他の実施形態の制御と組み合わせても良い。