以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1に、本実施形態に係るかしめ機の適用対象である第1部品と第2部品を示す。本実施形態において、第2部品は車両用変速機のハウジングすなわちミッションハウジングであり、特にその一部であるハウジング円筒部1である。また第1部品は円筒状部品、具体的にはブッシュ2である。ハウジング円筒部1は円形の穴3を有する。ブッシュ2が同軸に圧入された穴3の周囲部分4(穴3の周囲に位置する部分4)をかしめる目的で、本実施形態のかしめ機が使用される。
本実施形態において変速機は、トラック、バス等の大型車両に適用される手動変速機である。もっとも車両および変速機の種類は任意であり、車両は乗用車等の小型車両であってもよいし、変速機は自動変速機であってもよい。
ブッシュ2は比較的薄肉な円筒状部品であり、軸方向前方に位置する前端部2Aと、軸方向後方に位置する後端部2Bとを有する。なおここでは圧入方向Xにおける前方を前としている。ブッシュ2は前後どちらからでも穴3に挿入できるよう前後対称の形状を有し、前端部2Aおよび後端部2Bに、穴3への初期挿入を容易にするための面取り部2C,2Dを有する。
ハウジング円筒部1も、ブッシュ2の穴3への初期挿入を容易にするため、穴3の入口部に面取り部4Aを有する。この面取り部4Aは前記周囲部分4に含まれる。
図2は、ブッシュ2が穴3に圧入され、周囲部分4がかしめられた後の状態(圧入かしめ後の状態という)を示す。かしめの際、後述するかしめ機により、穴3の周囲部分4、特に面取り部4Aが、周方向の複数箇所(本実施形態では三箇所)で軸方向前方に向かって打撃される。これにより面取り部4Aには周方向三箇所のかしめ痕5すなわち凹みが形成される。かしめ痕5より半径方向内側に位置する周囲部分4が、半径方向内側に塑性変形され、ブッシュ2を半径方向外側から締め付け、ブッシュ2を穴3内に固定する。
なおブッシュ2は、すべり軸受として機能するものであってもよく、この場合、後工程でブッシュ2に軸状部品(図示せず)が挿入され、軸状部品を回転可能に支持する。
次に、本実施形態のかしめ機を説明する。図3はかしめ機10の全体を示す斜視図であり、図4はかしめ機10の全体を示す断面斜視図であり、図5はかしめ機10の要部の部品を示す分解斜視図である。
図3〜図5に示すように、かしめ機10は、その長手中心軸Cの方向(軸方向)の後方から前方に向かって延びる本体11と、本体11に軸方向スライド可能に配置されたハンマー部材12と、ハンマー部材12の後方に隣接して本体11の外周側に配置されたストッパリング13と、ストッパリング13に前向き荷重を付与するための打撃バネ14と、本体11に設けられたカム面15とを備える。
かしめ機10は、かしめ前に、ブッシュ2をハウジング円筒部1の穴3に圧入する機能をも有する。本体11は、ブッシュ2の圧入時にブッシュ2を前方に押圧する押圧面16を前端部に有する。ハンマー部材12は、穴3の周囲部分4(面取り部4A)をかしめる際に穴3の周囲部分4を打撃する爪17を前端部に有する。ストッパリング13は、詳しくは後述するが、ハンマー部材12に係合する係合位置と、ハンマー部材12との係合が解除された解除位置との間で、軸方向に垂直な方向(図示例では上下方向)に移動可能である。カム面15は、詳しくは後述するが、ハンマー部材12が本体11に対し後方に所定距離スライド移動したときに、係合位置にあったストッパリング13を解除位置に移動させる。
また、かしめ機10は、ストッパリング13を上下方向に移動可能に保持するリングホルダ18と、ストッパリング13を係合位置に向かって下方に付勢する付勢バネ19と、ストッパリング13をハンマー部材12に対し後方に付勢するための戻りバネ20とをさらに備える。
カム面15は、軸方向に対し傾斜された傾斜面からなる。本体11は、ブッシュ2の圧入時にブッシュ2の中心穴2E(図1参照)に嵌合挿入される支持軸21を前端部に有する。以下、各部を詳しく説明する。
本体11は、本実施形態においては分割構造であり、後方から順に配置され互いに同軸に組み付けられる後部円筒部材22、バネケース23、メインシャフト24、ガイド部材25及び圧入軸26を有する。
後部円筒部材22とバネケース23とメインシャフト24は、それら中心部においてボルト27(本実施形態では六角穴付きボルト)により互いに共締めされ、組み付けられる。後部円筒部材22の内周部後側には、圧入かしめ時に図示しない流体圧シリンダ等の雄ネジ軸が螺合される雌ネジ28が設けられる。
バネケース23は、コイルバネからなる打撃バネ14の後端部を半径方向外側から囲繞する円筒状カバー部29を外周部に有する。カバー部29の略下半部が前方に突出され、略半円筒状の突出部30が形成されており、突出部30の前端部内周側にカム面15が形成されている。突出部30の周方向両端部には軸方向に延びるピン圧入穴31が形成され、これらピン圧入穴31にそれぞれ回転規制ピン32が圧入固定されている(図3参照)。回転規制ピン32は、後に理解されるが、リングホルダ18の軸回りの回転を規制するものである。
メインシャフト24は、その前端面に開放するシャフト中心穴33を有し、シャフト中心穴33と直交する形でメインシャフト24にはピン圧入穴34が設けられている。
圧入軸26は、その前部に前述の支持軸21を有し、その後部に固定軸35を有し、これら支持軸21と固定軸35の間に押圧フランジ部36を有する。押圧フランジ部36の前端面によって、前述の押圧面16が形成される。
固定軸35が、ガイド部材25のガイド中心穴37に前方から挿通され、その後メインシャフト24のシャフト中心穴33に前方から挿入される。そして中空の固定ピン38が、メインシャフト24のピン圧入穴34と固定軸35のピン圧入穴39とに貫通状態で圧入される。これにより、メインシャフト24、ガイド部材25及び圧入軸26が互いに同軸に組み付けられる。
ボルト27および固定ピン38は着脱可能であり、これらを取り外すことにより、本体11ひいてはかしめ機10を分解することが可能である。これにより、各構成部品のうち一つでも破損した場合には、それを交換することができる。特に、繰り返し圧入に使用される圧入軸26や、繰り返しかしめに使用されるハンマー部材12の爪17が摩耗、損傷等した場合には、それらを容易に交換することができる。
ハンマー部材12は、その前部に、前方に向かって延びる複数(本実施形態では三つ)のハンマーアーム40を周方向等間隔で有する。ハンマーアーム40の前端面で、且つ内周縁部全体に、前述の爪17が一体に突出形成される。またハンマー部材12は、その後部に、メインシャフト24の外側に同軸にかつスライド可能に嵌合されるハンマー円筒部41を有する。
図6に、爪17の断面形状(図3のVI−VI断面図)を示す。爪17は、三角形の断面形状を有する。爪17は、ハンマーアーム40の内周端縁40Aから、ハンマーアーム40の前端面40Bに対し所定角度θで傾斜して半径方向外側かつ前方に延びる爪前端面17Aと、前端面17Aの最も半径方向外側かつ前方に位置する爪リッジ17Bから、前端面40Bに垂直に延びる爪外周面17Cとを有する。これによれば、かしめ時に、爪リッジ17Bを、傾斜する面取り部4Aに効果的に食い込ませ、かしめを効率よく行うことができる。もっとも、爪17の断面形状は任意であり、こうした断面形状に限定されない。なおハンマーアーム40の前端面40Bは長手中心軸Cに垂直である。
図3〜図5に戻って、前方に延びるハンマーアーム40が周方向等間隔で三つ設けられることから、ガイド部材25には、ハンマーアーム40を軸方向に通過させる切欠部42が周方向等間隔で三つ設けられる。ガイド部材25がメインシャフト24に固定されているので、これにより、メインシャフト24に対するハンマー部材12の相対回転が規制される。すなわちハンマー部材12は、ガイド部材25により、メインシャフト24ひいては本体11に対する相対回転が規制され、かつ、軸方向のスライド移動のみが案内される。
圧入軸26のフランジ部36にも同様に、ハンマーアーム40の軸方向の通過を許容する切欠部43が周方向等間隔で三つ設けられる。ブッシュ2の全周押圧を可能とするため、切欠部43の半径方向内側に押圧面16が残されている。但し、切欠部43の半径方向内側に押圧面16を残さず、ブッシュ2を周方向三箇所で押圧するようにしてもよい。図示例ではフランジ部36の最大外径がブッシュ2の外径より大きくされているが、ブッシュ2の外径と等しくされていてもよい。
軸方向において、ハンマー部材12の後側にはリングホルダ18が配置され、リングホルダ18の後側には打撃バネ14が配置される。ハンマー部材12とリングホルダ18の間に戻りバネ20が配置され、リングホルダ18は、打撃バネ14と戻りバネ20の間に挟まれている。ストッパリング13はリングホルダ18内に、上下方向にスライド移動可能に保持されている。付勢バネ19は、リングホルダ18の上面部に取り付けられて付勢バネ19の上端部を押し下げるよう付勢する。
図7にも示すように、リングホルダ18は、ホルダ本体51と、ホルダ本体51から前方に突出されたホルダ円筒部52とを一体的に有する。ホルダ本体51は、ハンマー部材12のハンマー円筒部41の外側に嵌合可能なホルダ嵌合穴53をその中心部に有する。ホルダ嵌合穴53の内径D1は、ハンマー円筒部41の外径dと実質的に等しいか、それより僅かに大きくされる。またホルダ円筒部52の内径D2はホルダ嵌合穴53の内径D1より大きくされ、ハンマー円筒部41の外側に嵌合配置されたコイルバネからなる戻りバネ20の後端部を、ハンマー円筒部41とホルダ円筒部52の間で保持するようになっている。また同時に、ハンマー円筒部41の外側に嵌合配置された戻りバネ20は、ホルダ円筒部52ひいてはリングホルダ18を、ハンマー円筒部41と同軸な位置に保持する。
またホルダ本体51は、上下方向に貫通形成されたスリット54を有し、このスリット54内にストッパリング13を上下方向にスライド可能に保持するようになっている。
ストッパリング13は、外周面57と内周面58とを有する円形リング状の部材である。ストッパリング13は、そのリング中心軸C1が長手中心軸Cと平行になるようにスリット54内に挿入される。ストッパリング13は、その前後面と左右の側面とで、スリット54の内壁面にスライド可能に支持され、リング中心軸C1が長手中心軸Cに平行な状態を保持したまま上下にスライドし得るようになっている。ストッパリング13の左右の側面には上下方向に延びるリング平坦面55が形成され、これらリング平坦面55は、スリット54の左右の内壁面に形成されたホルダ平坦面56に摺接する。これによりストッパリング13は、リングホルダ18内で回転することなく上下方向にスムーズに案内される。ストッパリング外周面57の前後の端縁部にはスリット54への挿入を容易にするための面取り部57A,57Bが形成される(図8(A)参照)。
留意すべきであるが、ストッパリング13の内径D3は、ハンマー円筒部41の外径dと実質的に等しいかそれより僅かに大きくされる。なお本実施形態において、ストッパリング13の内径D3は、ホルダ嵌合穴53の内径D1と等しくされる。
ストッパリング13は、例えば図8(B)に示すような下側の係合位置と、例えば図9(A)に示すような上側の解除位置との間で上下方向に移動可能である。ストッパリング13が係合位置にあるとき、ストッパリング13は、リング中心軸C1が長手中心軸Cより実質的に下側に位置するよう偏心配置され、ハンマー円筒部41の後端41Eに係合する。これによりストッパリング13は、打撃バネ14から比較的強力な前向き荷重ないしバネ力を受けても、ハンマー円筒部41の外側に嵌合されることを阻止される。
他方、ストッパリング13が解除位置にあるとき、ストッパリング13は、リング中心軸C1が長手中心軸Cと実質的に同軸となるよう同軸配置され、ハンマー円筒部後端41Eとの係合が解除され、ハンマー円筒部41の外側に嵌合可能となる。これによりストッパリング13は、打撃バネ14からの前向き荷重を受けて、ハンマー円筒部41の外側に嵌合し、かつハンマー円筒部41上を前方にスライドすることが可能になる。
図5,7では省略するが、付勢バネ19は、六角穴付きボルト59によりホルダ本体51の上面部かつ左右中心部に固定される。本実施形態で付勢バネ19は板バネからなり、その基端部がボルト59により固定され、その先端部はスリット54内に面してストッパリング外周面57に当接される。付勢バネ19の先端部には、ストッパリング外周面57の上端に当接する下向きの凸部60が一体形成されている。付勢バネ19は、比較的弱いバネ力で、ストッパリング13を常時、係合位置に向かって押し下げる。
打撃バネ14は、比較的強いバネ力を有し、断面四角形のバネ鋼を螺旋状に巻回してなるコイルバネからなる。打撃バネ14は、半径方向におけるメインシャフト24の外側に嵌合配置され、軸方向におけるリングホルダ18とバネケース23の間の位置に配置されている。打撃バネ14は、これが圧縮されたとき、リングホルダ18を介してストッパリング13を軸方向前方、すなわち圧入方向およびかしめ方向に強力に付勢し、ストッパリング13に前向き荷重を付与する。なお打撃バネ14は金属プレス機用のバネを用いて作製してもよい。
上述の構成によれば、リングホルダ18が軸回りに回転する虞がある。よってこの回転を規制する目的でバネケース23に左右一対の回転規制ピン32が前方に突出して設けられている。回転規制ピン32は、リングホルダ18の左右の下面部に近接して配置され、リングホルダ18が回転しようとしたときにその回転を規制する。
カム面15は、バネケース23の突出部30の前端部内周側に形成されている。カム面15は、図8(A)に示すように、軸方向に対し所定角度αで傾斜された傾斜面からなる。特にカム面15は、後側に対し前側が拡径されたテーパ面からなる。
図8(B)および図9(A)に示すように、カム面15は、これにストッパリング13が後向きに押し付けられたとき、ストッパリング13を下方の係合位置から上方の解除位置に上昇移動させるよう構成されている。この移動中、ストッパリング13の後側の面取り部57Bがカム面15に面接触するので、当該移動をスムーズに行える。
次に、かしめ機10の作動、およびかしめ機10を用いた圧入かしめ方法を説明する。
図8(A)は、圧入かしめ前の初期状態にあるときのかしめ機10を示す。図示の如く、ハウジング円筒部1の穴3は横向きに配置され、これに従ってかしめ機10も、穴3と同軸に且つ穴3に向かって横向きに配置される。かしめ機10の前端部にブッシュ2が予め取り付けられる。かしめ機10は、図示しない駆動源としての流体圧シリンダ(例えば油圧シリンダ)に連結され、流体圧シリンダによって前方に移動される。このようにかしめ機10が、一般的なプレス機より遙かに小型の流体圧シリンダによって移動させられるので、設備の大幅な簡素化が可能である。
ブッシュ2は、圧入軸26の支持軸21の周りに嵌合されると共に、その後端が圧入軸26の押圧面16に当接される。かしめ機10の後部円筒部材22の雌ネジ28(図4)には、図示しない流体圧シリンダまたはこれに連結された部材の雄ネジ軸が締め付けられて固定される。
この初期状態において、打撃バネ14は実質的に圧縮されてない自然長もしくは自由長を有し、戻りバネ20は軽く圧縮されてリングホルダ18を打撃バネ14に押し付けている。ストッパリング13は、付勢バネ19の付勢力と自重により、下側の係合位置に位置されている。
ブッシュ2は圧入直前の状態として示される。このときブッシュ2は、その前端の軸方向位置が穴3の後端の軸方向位置に一致するよう位置され、ブッシュ2より前方に突出された支持軸21の部分のみが穴3に挿入される。ハンマー部材12の爪17は穴3の周囲部分4(面取り部4A)に当接される。ハンマー部材12は、メインシャフト24上で戻りバネ20により前方に押され、ハンマーアーム40間の前端面12Aがガイド部材25の後端面25Aに接触する最前位置にある。
このとき、本体11は基準位置P1にある。ガイド部材25と周囲部分4の間の軸方向距離LはL1であり、ハンマー部材12のハンマー円筒部41の前端とリングホルダ18との間の軸方向距離MはM1である。
次に、図8(B)に示すように、本体11が流体圧シリンダからの前向き駆動力Fを受けて位置P2に前進移動されると、ブッシュ2は押圧面16に押されて本体11の移動量(P2−P1、但し前方が正)に等しい長さだけ穴3内に圧入される。ブッシュ2が支持軸21により半径方向内側から支持された状態で圧入が行われるので、圧入時のブッシュ2の潰れや変形等を確実に抑制できる。
その一方で、ハウジング円筒部1に対するハンマー部材12の相対位置は変わらないことから、ハンマー部材12は本体11に対し、移動量(P2−P1)に等しい距離だけ後方に相対移動される。
すると、ハンマー部材12は、戻りバネ20を軸方向に圧縮して収縮させると共に、リングホルダ18のホルダ嵌合穴53内に位置するストッパリング13の部分を直接後方に押し、リングホルダ18のホルダ本体51を介して、打撃バネ14を軸方向に圧縮して収縮させる。
このときストッパリング13はまだ係合位置にあり、ハンマー部材12の後端41Eと係合した状態となる。ストッパリング13の後側の面取り部57Bは、カム面15との面接触を開始する。これ以降、リングホルダ18のホルダ本体51はバネケース23の突出部30内周面上をスライド移動するようになる。
このとき、ガイド部材25と周囲部分4の間の軸方向距離Lはより短いL2となり、ハンマー円筒部41の前端とリングホルダ18との間の軸方向距離Mもより短いM2となる。
次に、図9(A)に示すように、本体11がさらに前進移動されて位置P3に至ると、ブッシュ2はその移動量(P3−P2)に等しい長さだけさらに穴3内に圧入される。そしてブッシュ2は、そのほぼ全長が穴3内に圧入された状態となる。
その一方で、ハウジング円筒部1に対するハンマー部材12の相対位置はやはり変わらないことから、ハンマー部材12は本体11に対し、移動量(P3−P2)に等しい距離だけ後方にさらに相対移動される。
すると、ハンマー部材12は、リングホルダ18のホルダ嵌合穴53内に位置するストッパリング13の部分を、さらに直接後方に押す。するとストッパリング13が、付勢バネ19を反付勢方向に変形しつつ、カム面15上をスライドして上昇し、図示の如く解除位置に移動する。
このとき、ストッパリング13が解除位置に移動する直前まで、打撃バネ14がリングホルダ18のホルダ本体51に押され、軸方向に圧縮および収縮される。ガイド部材25と周囲部分4の間の軸方向距離Lはさらに短いL3となるが、ハンマー部材12のハンマー円筒部41の前端とリングホルダ18との間の軸方向距離Mは変わらずM3=M2のままである。
ストッパリング13が解除位置に移動されたことにより、ストッパリング13の内周面58と、リングホルダ18のホルダ嵌合穴53の内周面とが揃い、面一状態となる。そしてこれらの中を、ハンマー部材12のハンマー円筒部41がスライド通過できるようになる。
図9(B)に示すように、ストッパリング13が解除位置に移動した直後、打撃バネ14に蓄積されていたバネ力が瞬時に解放され、打撃バネ14が瞬時に伸長し、ハンマー部材12を瞬時に前進移動させる。そしてハンマー部材12の爪17が穴3の周囲部分4、具体的には面取り部4Aを打撃する。これにより、周方向三箇所のかしめが同時に終了することとなる。
詳しくは、ストッパリング13が解除位置に移動した直後、ストッパリング13とリングホルダ18が、ハンマー部材12のハンマー円筒部41上を相対的にかつ瞬時に前進移動する。これにより戻りバネ20が瞬時に最大収縮し、リングホルダ18のホルダ円筒部52がハンマー部材12を前方に向かって打撃する。この打撃力がハンマー部材12に伝わり、ハンマー部材12の爪17が面取り部4Aを打撃する。爪17は面取り部4A内に食い込み、爪17より半径方向内側に位置する面取り部4Aの肉部分を半径方向内側に塑性変形させる。
図9(B)は、面取り部4Aが打撃された時点の状態を示す。ストッパリング13が解除位置に移動した時点から打撃時点までの間で、本体11は位置P3から位置P4まで、僅かな移動量(P4−P3)だけ前進移動される。この移動により圧入がさらに進む。かしめ終了と同時に圧入も終了され、前向き駆動力Fの供給と本体11の前進移動とが停止される。ハンマー部材12のハンマー円筒部41の前端とリングホルダ18との間の軸方向距離MはM4=0となる。
結局、図8(A)に示した初期状態から、ハンマー部材12が本体11に対し後方に所定距離(P3−P1)移動したとき、カム面15が、係合位置にあったストッパリング13を解除位置に移動させる。そしてこれと実質的に同時に、ハンマー部材12が打撃によるかしめを行う。所定距離(P3−P1)は、ブッシュ2の全長、もしくはブッシュ2の圧入長に実質的に等しい。従ってブッシュ2の圧入が終了したのと実質的に同時にかしめが行われることとなる。
なお図9(B)は便宜上、前記と異なり、圧入軸26の押圧フランジ部36および押圧面16がブッシュ2より僅かに小径の円形形状を有する場合の例を示す。この場合、図示するように、圧入かしめ終了時点において、押圧フランジ部36は穴3内に部分的に挿入され、ブッシュ2は穴3内に完全に圧入される。図示例において、ガイド部材25と周囲部分4の間の軸方向距離LはL4=0である。
この後、図10に示すように、本体11に後向き駆動力F’を供給し、本体11を、図8(A)に示した初期状態のときと同じように基準位置P1まで後退移動させる。するとこの後退移動に伴って、戻りバネ20の作用により、ハンマー部材12が同一位置に維持されると共に、ストッパリング13とリングホルダ18が、ハンマー部材12のハンマー円筒部41上を相対的に後方にスライド移動し、初期状態に向かって戻される。そしてストッパリング13がハンマー円筒部41の後方に外れたと同時に、付勢バネ19の付勢力と自重により、ストッパリング13は下側の係合位置に復帰移動される。これによりかしめ機10は初期状態に戻される。既にかしめが終了しているので、ブッシュ2から圧入軸26を引き抜いても、ブッシュ2は穴3内に固定状態で残される。
このように本実施形態では、かしめ前の圧入時に、ストッパリング13を係合位置に位置させた状態で本体11を前進させ、ハンマー部材12を本体11に対し後方に相対移動させ、打撃バネ14を圧縮し、打撃力を蓄積している。そして、ハンマー部材12が本体11に対し後方に所定距離スライド移動したときに、カム面15によりストッパリング13を解除位置に移動し、これをトリガとして、蓄積されたバネ力ないし打撃力を解放し、ハンマー部材12を瞬時に前進移動させ、打撃によりかしめを行っている。
従って、一般的な手作業による方法と比べ、遙かに安定した一定のかしめ量(例えば爪17の食い込み量)を容易に得ることが可能である。また、本実施形態は打撃バネ14に蓄積されたバネ力を利用して打撃によりかしめを行うので、一般的なプレス機による、高い静圧でゆっくりとかしめを行う方法と比べ、高い圧力を必要とせず、より簡単かつ小型の設備でかしめを行うことができる。そして本実施形態のかしめ機10の構造も簡易かつシンプルであるため、結果的に低廉な設備コストでかしめを行うことができる。
また本実施形態では、かしめ機10が、ブッシュ2を穴3に圧入するためのものでもあり、本体11が、ブッシュ2の圧入時にブッシュ2を前方に押圧する押圧面16を前端部に有している。このため、かしめ前の圧入もかしめ機10によって行うことができ、かしめ機10の1回の前進動作で圧入とかしめの両方を連続的に行うことができる。従って作業性を大幅に向上できる。
また本実施形態では、ストッパリング13を上下方向に移動可能に保持するリングホルダ18を設けたので、かしめ機10の作動時に、ストッパリング13の姿勢を安定的に保持したままストッパリング13を上下動させることができる。すなわち、ストッパリング13のリング中心軸C1が長手中心軸Cに対し傾いたり、ぐらついたりするのを抑制することができ、ストッパリング13の動作を安定化させることができる。こうすると、ストッパリング13が解除位置に移動するタイミング、ひいてはハンマー部材12が前進開始(発射)するタイミングを正確に維持し、正確な圧入長およびかしめ量を安定して得ることができる。
また本実施形態では、ストッパリング13を係合位置に向かって付勢する付勢バネ19を設けたので、ストッパリング13が不用意に解除位置に移動してしまうのを抑止し、安定した作動が得られる。また、かしめ後に初期状態に復帰するとき、ストッパリング13がハンマー部材12の後方に外れたのと同時に、ストッパリング13を自動的に係合位置に復帰させることができる。これによって作業性を向上できる。
また本実施形態では、ストッパリング13をハンマー部材12に対し後方に付勢するための戻りバネ20を設けたので、かしめ後にハンマー部材12、ストッパリング13およびリングホルダ18を自動的に初期状態に復帰させることができ、作業性を向上できる。
また本実施形態では、カム面15が、軸方向に対し傾斜された傾斜面からなるので、単純な構成のカム面15によりストッパリング13を解除位置に正確に移動できる。
また本実施形態では、本体11に、ブッシュ2の中心穴2Eに嵌合挿入される支持軸21を設けたので、ブッシュ2を半径方向内側から支持した状態でブッシュ2の圧入を行うことができ、圧入時のブッシュ2の潰れや変形等を確実に抑制できる。
また本実施形態では、ハウジング円筒部1の周囲部分4のうち、穴3に極近い面取り部4Aをかしめるようにしたので、少ないかしめ量および打撃荷重で効率的にかしめを行うことができ、かしめ機10の簡素化に非常に有利である。
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は上述の基本実施形態に限られず、以下の如き種々の変形例が可能である。
(1)例えば、上述の基本実施形態を簡略化した種々の変形例が可能である。例えば、ストッパリング13の正確な保持、案内等が可能であれば、リングホルダ18を省略してもよい。また、ストッパリング13を係合位置に安定的に保持できるのであれば、付勢バネ19を省略してもよい。また、かしめ後に何等かの手段(手動を含む)でストッパリング13およびリングホルダ18を初期状態に復帰させられるのであれば、戻りバネ20を省略してもよい。
(2)本発明に係るかしめ機は、必ずしも圧入の機能を有していなくてもよい。すなわち、予めブッシュ2が所望長さ圧入された穴3の周囲部分4をかしめる機能だけを有していてもよい。この場合、圧入に用いる押圧面16ひいては圧入軸26を省略することができる。もっとも、圧入軸26によりかしめ機10の中心位置決め(芯決め)を行えるので、圧入軸26は設けられている方が好ましい。
(3)穴に圧入する第1部品はブッシュ2でなくてもよく、円筒状でなくてもよい。第1部品の外形、断面形状、構造等は任意である。例えば第1部品は球、中実軸、円盤等であってもよい。
(4)同様に、第1部品が圧入される第2部品の穴の形状も任意であり、円形でなくても構わない。穴の周囲部分におけるかしめ場所も、上述の面取り部1Aに限らず、それより半径方向外側の場所であってもよい。第2部品も、ミッションハウジングに限られず、種々の部品であってよい。
(5)打撃バネ14、付勢バネ19および戻りバネ20の種類は変更可能である。例えば打撃バネ14および戻りバネ20を板バネから形成したり、付勢バネ19をコイルバネから形成したりすることが可能である。打撃バネ14の一端を本体11に固定したり、戻りバネ20の一端をハンマー部材12に固定したりしてもよい。
(6)ストッパリング13の形状も任意に変更可能である。例えばストッパリング13の外形を四角形等の多角形としてもよい。可能であれば、ストッパリング13をC字状リングから構成してもよい。
(7)かしめ場所および爪17の数は三つに限られず、その数は任意である。例えば二つ、四つなどとすることができる。
(8)かしめ機は横向きに限らず、任意の姿勢で使用することができる。例えば、縦方向上向きに配置された穴に合わせて、かしめ機を縦方向下向きに配置して使用することができる。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。