JP6677714B2 - 窒化珪素焼結体およびそれを用いた高温耐久性部材 - Google Patents
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Description
特許第5268750号公報(特許文献1)では、単位面積10μm×10μmあたりの長径3μm以上の窒化珪素結晶粒子の個数を制御した窒化珪素焼結体を開示している。特許文献1では、このような制御を実施することにより、ビッカース硬度や耐磨耗性を向上させている。
また、特開2010−194591号公報(特許文献2)では、摩擦攪拌接合用ツールを構成する窒化珪素焼結体が開示されている。この特許文献2では、接合用ツールの耐久性を向上させるためにツール表面に被覆層を設けている。摩擦攪拌接合は接合ツール(接合工具)を高速回転させながら被接合部材に押し付け、摩擦熱を利用して被接合部材同士を接合する方法である。摩擦熱を利用するため、接合ツールは300℃以上の高温度になる。特許文献2では高温度下での耐久性を付与するために被覆層を設けている。
窒化珪素焼結体は前述のように様々な用途に用いられている。例えば、ベアリングボールは回転速度の高速化に伴い摺動面が高温となる。同様に摩擦攪拌接合用ツールに関しても、摩擦熱で 摺動面が高温となる。また、圧延ロール、熱間工具や切削工具は、その使用環境が高温下になる場合がある。
そのため、実施形態に係る窒化珪素焼結体を使用して構成された高温耐久性部材は、高温度環境下での耐久性を大幅に向上させることができる。
窒化珪素焼結体は、窒化珪素粉と焼結助剤粉とを混合して成形後、焼結して製造される。焼結工程を実施することにより、焼結助剤粉は粒界相となる。実施形態に係る窒化珪素焼結体は、粒界相の幅が0.2nm以上となっていることを特徴とする。粒界相の幅とは窒化珪素結晶粒子の2粒子界面に形成される粒界相の厚さのことである。窒化珪素結晶粒子の2粒子界面に所定厚さの粒界相が存在するということは、個々の窒化珪素結晶粒子の表面が粒界相で覆われた状態となっていることを示す。また、隣り合う窒化珪素結晶粒子の中で最も近い距離が0.2nm以上、さらには0.2〜5nmの範囲であることが好ましい。
なお、例えば研磨後の焼結体表面のように、窒化珪素焼結体の表面に存在する窒化珪素結晶粒子においては、粒界相で覆われていなくてもよい。言い換えれば、窒化珪素焼結体の任意の断面においては、全ての窒化珪素結晶粒子は粒界相で覆われていることを特徴とするものである。
一方、あまり粒界相の幅が厚いと、厚い粒界相が破壊起点となり、窒化珪素焼結体の強度が低下するおそれがある。そのため、粒界相の幅は0.2〜5nm、さらには0.5〜2nmの範囲であることが好ましい。窒化珪素結晶粒子の2粒子間を0.2〜5nmと薄い粒界相で結合することにより、粒界相が破壊起点とならずに強度を向上させることができる。特に、高温でのビッカース硬度を高くすることができる。
また、ビッカース硬度の測定はJIS−R−1610に基づいて行うものとする。また、試験力は9.807Nで行うものとする。
また、本実施形態の窒化珪素焼結体は、細長いβ−窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとっている。焼結助剤成分が科料になると窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとれない部分ができてしまうため望ましくない。
また、添加成分は3質量%以上12.5質量%以下が好ましい。さらに添加成分は5質量%以上12.5質量%以下が好ましい。添加成分が3質量%未満では、粒界相が過少となり窒化珪素焼結体の密度が低下するおそれがある。添加成分量を3質量%以上に調整していれば、相対密度を95%以上に調整し易くなる。また、添加成分を5質量%以上にすることにより、相対密度を98%以上に制御し易くなる。
また、添加成分としてはY、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選ばれる元素を3種以上具備することが好ましい。添加成分は、Y(イットリウム)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Si(けい素)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Mo(モリブデン)、C(炭素)を構成元素として含んでいれば、その化合物形態は限定されるものではない。例えば、酸化物(複合酸化物含む)、窒化物(複合窒化物含む)、酸窒化物(複合酸窒化物含む)、炭化物(複合炭化物含む)などが挙げられる。
また、これら焼結助剤の組合せによれば、粒界相に固溶体や結晶化合物を形成することができる。固溶体や結晶化合物を形成させることにより、高温度での焼結体の耐久性が向上する。また、結晶化合物の有無はXRD(X線回折法)にて分析できる。XRD分析したとき、窒化珪素に基づくピーク以外のピークが観察されれば結晶化合物が存在することを示す。なお、XRDの分析条件は、Cuターゲット(CuKα)を使用し、管電圧を40kV、管電流を40mA、スリット径を0.2mmとする。走査範囲(2θ)は20〜60°にて実施する。この範囲で窒化珪素に基づくピーク以外のピークが出現すれば、粒界相に結晶化合物が存在することが確認できる。
また、前述のように、2粒子間の粒界相の幅を0.2nm以上、さらには0.2〜5nmと規定することにより、2粒子界面に微小な結晶化合物を介在させることができる。これにより、焼結体の高温度での耐久性をさらに向上させることができる。
また、製造工程において添加する焼結助剤の組合せとしては、次に示す組合せが好ましい。
また、第一の組合せに、TiO2を0.1〜2質量%追加してもよい。第一の組合せにTiO2を添加することにより、Mg、Al、Si、C、Tiの5種の元素を添加剤分として含有することになる。
上記第一ないし第三の組合せは、いずれもY2O3とAl2O3とを添加する組合せを使用していないことである。第一の組合せはY2O3を使用していない。また、第二の組合せは、MgO・Al2O3スピネルとして添加している。また、第三の組合せはAl2O3を使用していない。Y2O3とAl2O3との組合せは焼結すると、YAG(Al5Y3O12)、YAM(Al2Y4O9)、YAL(AlYO3)などのイットリウムアルミニウム酸化物が形成され易い。
また、上記第一ないし第三の組合せは、結晶化合物を形成し易い。また、YAG、YAM、YAL以外の結晶化合物を形成することができる。言い換えると、YAG、YAM、YAL以外の結晶化合物を含有すると、高温度での耐久性を向上させることができる。
また、同様の断面において、長径と短径との平均を粒径と定義したとき、粒径が2μm以上の窒化珪素粒子が窒化珪素粒子全体に占める個数割合が35%以上と高い値にすることが出来る。なお、個数割合の上限は55%以下が好ましい。過度に大きな粒子ばかりであると粒界相の幅の制御が困難になる。
以上のような窒化珪素焼結体では、前述のビッカース硬度のみならず、破壊靭性値および3点曲げ強度も向上させることができる。破壊靭性値は6.0MPa・m1/2以上であり、3点曲げ強度は900MPa以上とすることができる。なお、破壊靭性値はJIS−R−1607のIF法に基づき、新原の式により求めた値である。また、3点曲げ強度はJIS−R−1601に基づいた値である。
また、摩擦攪拌接合装置は、被接合材の接合時間を短縮し、かつ生産効率を上げるために接合ツール部材の回転速度を500rpm以上とし、押込荷重を5kN以上に設定して使用することが望まれる。また、摩擦熱により摩擦面の温度が800℃以上の高温度環境になる場合がある。その場合でも、窒化珪素焼結体の高温度での耐久性を向上させているので、接合ツールとしての耐久性が向上する。
上記利用分野以外にも、熱間工具、ヒータ用基板など、使用環境が300℃以上の高温耐久性部材の構成材としても好適である。
窒化珪素焼結体の粒界相の幅を0.2nm以上、さらには0.2〜5nmに制御するためには原料粉末の調製が重要である。
まず、窒化珪素粉末としては、平均粒径が2μm以下であり、α化率が90%以上であり、不純物酸素含有量が2wt%以下のものを用意する。
また、窒化珪素粉末の平均粒径をAμmとし、焼結助剤粉末の平均粒径をBμmとしたとき、0.8A≧Bの関係を満たすことが好ましい。粒径が窒化珪素粉末よりも小さな焼結助剤粉末を混合することにより、薄い粒界相を形成し易くなる。そのため、0.7A≧Bであることがさらに好ましい。また、平均粒径の比の下限は特に限定されるものではないが、0.8A≧B≧0.2Aの範囲であることが好ましい。焼結助剤粉末の平均粒径Bμmが、窒化珪素粉末の平均粒径Aμmより小さすぎると、その調整が難しくなる。
次に、成型工程で得られた成形体を脱脂する。脱脂工程は、窒素中で温度400〜800℃で実施することが好ましい。
次に、第三の方法で得られた熱処理体を焼結する。焼結工程は、温度1600℃以上で実施する。焼結工程は、不活性雰囲気中または真空中で実施することが好ましい。不活性雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気が挙げられる。また、焼結工程は、常圧焼結、加圧焼結、熱間等方圧加圧法(HIP)、放電プラズマ焼結(SPS)が挙げられる。また、複数種類の焼結方法を組合せてもよい。
得られた焼結体に対し、摩擦面に該当する箇所を研磨加工するものとする。研磨加工により、摩擦面の表面粗さRaを5μm以下、さらには1μm以下に調整する。研磨加工はダイヤモンド砥石を用いた研磨加工であることが好ましい。
(実施例1〜6および比較例1〜2)
窒化珪素粉末として平均粒径が1μmであるα型窒化珪素粉末(α化率98%)を用意した。次に、焼結助剤粉末として表1に示す試料1〜6を用意した。焼結助剤粉末はボールミルにより粉砕する一方、その平均粒径および標準偏差は湿式粒度分布測定機を用いて測定した。
また、表面粗さRaは1μmに調整した。
得られた焼結体に関して、3点曲げ強度、破壊靭性値およびビッカース硬度を測定した。ビッカース硬度HvはJIS−R−1610に基づき試験力9.807N(ニュートン)で測定した。また、破壊靭性値はJIS−R−1607のIF法に準拠し、新原の式により求めた値である。また、3点曲げ強度はJIS−R−1601に準拠して測定した。いずれも室温(25 ℃)で測定した。その測定結果を下記表3に示す。
窒化珪素結晶粒子の平均粒径の測定に際しては、まず任意の断面においてSEM写真を撮る。次にSEM写真に写る窒化珪素結晶粒子の長径と短径を求める。(長径+短径)/2=粒径にて粒径を求める。窒化珪素結晶粒子100粒の平均値を平均粒径とした。また、粒界相の幅はSTEM(走査透過型電子顕微鏡)により測定した。具体的には、まず窒化珪素焼結体の任意の断面をSTEM観察(拡大写真を撮影)する。次に得られた拡大写真において窒化珪素結晶粒子の2粒子間で最も接近している箇所の粒界部分のインテンシティプロファイルを求めて粒界相の幅を測定した。また、粒界相における固溶体または結晶化合物の有無はXRD(X線回折法)により確認した。その結果を下記表4に示す。
次に実施例および比較例に係る窒化珪素焼結体に関して、高温度条件下でのビッカース硬度を測定した。ビッカース硬度Hvの測定は、測定環境を300℃、800℃、1000℃、1200℃に変えて測定した。それぞれの温度に1時間保持して測定した。その結果を下記表5に示す。
このように各実施例に係る窒化珪素焼結体は高温度環境下でも優れた硬度を示すため、使用環境が300℃以上になる高温耐久性部材の構成材料として好適であることが判明した。
2 …摩擦面
3 …圧延ロール
4 …摩擦攪拌接合用ツール
Claims (8)
- 窒化珪素結晶粒子と粒界相とを有する窒化珪素焼結体において、上記窒化珪素結晶粒子は粒界相で覆われており、上記窒化珪素結晶粒子の2粒子間の最短距離を示す粒界相の幅が0.2〜5nmであり、単位面積50μm×50μm当たりのアスペクト比2以上の窒化珪素結晶粒子の面積割合が60%以上であり、上記粒界相に結晶化合物が存在し、添加成分としての粒界相を15質量%以下含有し、常温でのビッカース硬度Hvが1450以上であり、温度300℃でのビッカース硬度Hvが1350以上であり、上記窒化珪素結晶粒子の全体に占める、長径と短径の平均である粒径が2μm以上の窒化珪素結晶粒子の個数割合が35%以上であることを特徴とする窒化珪素焼結体。
- Y、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を3種以上含有することを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素焼結体。
- 温度1000℃でのビッカース硬度Hvが850以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化珪素焼結体。
- 前記粒界相に、YAG,YAM、YAL以外の結晶化合物が存在することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体。
- 前記窒化珪素結晶粒子の全体に占める、前記粒径が2μm以上の窒化珪素結晶粒子の個数割合がさらに55%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体。
- 請求項1乃至5のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体で構成されたことを特徴とする高温耐久性部材。
- 使用環境が300℃以上になることを特徴とする請求項6に記載の高温耐久性部材。
- ベアリングボール、圧延ロール、摩擦攪拌接合用ツール、熱間工具、ヒータのいずれか1種であることを特徴とする請求項6又は7に記載の高温耐久性部材。
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