以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、フレキシブル性を有する透明支持基板と、
前記透明支持基板上に配置され、かつ一対の電極及び該電極間に配置されている発光層を備える発光素子部と、
前記発光素子部を覆って封止するように前記透明支持基板上に配置されている封止材層と、
前記封止材層上に配置されている封止基板と、
を備えており、
JIS B 0601−1994の算術平均粗さを基準として、前記封止基板の前記封止材層側の表面の表面粗さが、該封止基板のもう一方の表面の表面粗さよりも小さな値を有し、かつ、
前記封止基板の前記封止材層側の表面の前記算術平均粗さと、前記封止材層の厚みとが、下記式(I):
0.002<(Ra/t)<0.2 (I)
[式(I)中、Raは前記封止基板の前記封止材層側の表面のJIS B 0601−1994の算術平均粗さを示し、tは前記封止材層の厚みを示す。]
に示す条件を満たすものである。
図1は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の好適な一実施形態を模式的に示す概略縦断面図である。図1に示す実施形態の有機エレクトロルミネッセンス素子は、透明支持基板1と、発光素子部2と、封止材層3と、封止基板4とを備える。以下、これらを分けて説明する。
[透明支持基板1]
図1に示す透明支持基板1は、フレキシブル性(可撓性)を有するものである。ここにいう「フレキシブル性」としては、一般的なフレキシブルな有機EL素子の基板に要求されるような可撓性を有していてればよく特に制限されるものではないが、ガスバリア性の観点からは薄膜ガラス、軽量化、破壊耐性の観点からはプラスチック基材であることが好ましい。また、透明支持基板1は、有機EL素子の光取出し側の基板に利用することが可能な程度の光の透過性(透明性)を有するものであればよく、特に制限されるものではなく、有機EL素子用の光取出し側の基板に利用される公知の透明基板を適宜利用することができ、全光線透過率が80%以上の透明性を有するものを好適に利用できる。
また、このような透明支持基板1はプラスチックを基材として用いてもガスバリア性を有するものであることが好ましい。このような透明支持基板1としては、有機EL素子のフレキシブルな透明基板として利用することが可能な、公知のガスバリア性のフィルムを適宜利用することができ、例えば、特開2011−73430号公報に記載のガスバリア性積層フィルム(中でも、該フィルムを接着材を用いて複数枚貼り合わせてなる積層体がより好ましい。)を好適に利用することができる。
また、このような透明支持基板1としては、より高度な水蒸気透過防止性能が得られることから、ガスバリア性を有する第一及び第二の薄膜層と、第一及び第二の基材層と、接着剤層とを備え、かつ前記第一の薄膜層、前記第一の基材層、前記接着剤層、前記第二の薄膜層、前記第二の基材層の順に積層された積層構造を有するガスバリア性積層フィルムが好ましい。なお、このようなガスバリア性積層フィルムを用いる場合には、有機EL素子の水蒸気等による劣化をより高度に抑制するとの観点から、前記発光素子部の一方の電極が前記ガスバリア性積層フィルムの前記第一の薄膜層上に積層することが好ましい。以下、このような本発明にかかる透明支持基板1に好適に利用可能な前記ガスバリア性積層フィルムを図2を参照しながら説明する。
図2に示す実施形態のガスバリア性積層フィルムは、第一の基材層100(a)と、第二の基材層100(b)と、ガスバリア性を有する第一の薄膜層101(a)と、ガスバリア性を有する第二の薄膜層101(b)と、接着剤層102とを備え、かつ前記第一の薄膜層101(a)、前記第一の基材層100(a)、前記接着剤層102、前記第二の薄膜層101(b)、前記第二の基材層100(b)の順に積層された積層構造を有するガスバリア性積層フィルムからなるものである。
このように、前記ガスバリア性積層フィルムにおいては、第一の基材層100(a)と、第二の基材層100(b)の2層の基材層を備える。なお、このような基材層の数が1層のみの場合(ガスバリア性積層フィルム中に第一の基材層及び第二の基材層のうちのいずれかが含まれないような構成の場合)には、十分に高度な水準で有機EL素子の劣化を抑制することが困難となり、基材層の数が2層以上の場合と比較して劣化速度が速くなってしまい、保管寿命が短くなってしまう傾向にある。例えば、図2に示す実施形態において、第二の基材層100(b)がない場合、仮に第一の基材層にガスバリア性を有する薄膜層を形成後、さらに第一の基材を乾燥させる工程を経たとしても、第一の基材のガスバリア性を有する薄膜層とは反対面が外部に晒された状態となり、その外部に晒されている面から第一の基材中へ水分が浸入し、第一の基材の飽和含水量に達するまでの時間が大幅に増加する傾向にある。したがって、仮に製造時に乾燥工程を実施したとしても、その乾燥の効果がを十分に利用することができなくなってしまう傾向にある。また、第一の基材層100(a)がない場合について検討すると、仮に第二の基材の両面に第二及び第三の薄膜層を形成した場合、薄膜層形成後に第二の基材層を乾燥させる工程を実施しても、基材層は両面がバリア性を発現する薄膜層で挟まれており、第二の基材内部の水分の除去が困難となるため、乾燥の効果を十分に得られなくなる傾向にある。
このような基材層100(a)及び基材層100(b)を形成する基材は、それぞれ、同一のものであっても異なるものであってもよく、ガスバリア性積層フィルムを形成するために用いることが可能な公知の基材を適宜利用することができる。このような基材としては、基材の可撓性、光透過性、平坦性、デバイスの軽量化の観点からは、第一の基材層100(a)及び第二の基材層100(b)のうちの少なくとも1層が有機高分子材料からなることが好ましく、より高度なフレキシブル性(可撓性)が得られ、基材の分断、曲げ等の加工性が向上することから、第一の基材層100(a)及び第二の基材層100(b)の双方が有機高分子材料からなることが好ましい。
このような有機高分子材料としては、無色透明な基材として利用可能であるとの観点からは、例えは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物;ポリアクリロニトリル系樹脂;アセタール系樹脂;ポリイミド系樹脂等を好適に利用することができる。
また、このような有機高分子材料としては、炭素、水素以外のヘテロ原子(酸素、窒素など)を含むポリマーからなる高分子材料が好ましい。炭素と水素だけからなる炭化水素ポリマーからなる高分子材料(ポリオレフィン等)は非極性の高分子であり、分子内において分極がほとんどないことから一般的に親水性を十分に発揮させることが困難であるのに対して、ヘテロ原子(酸素、窒素など)を含むポリマーからなる高分子材料は、そのヘテロ原子に起因して分極が現われ易く、一般的に親水性が十分に高いものとなる。ここで、親水性の高い高分子材料は、使用環境下(通常、室温(25℃程度)でかつ通常の湿度のある条件下)での含水量が高く、乾燥により内部の水分を十分に除去すると効率よく吸湿性を付与することができる。そのため、このような炭素、水素以外のヘテロ原子を含むポリマーからなる高分子材料を基材の材料として用いた場合には、より効率よく高度な吸湿性能を有するガスバリア性積層フィルムを製造することが可能となり、有機EL素子の基板として用いた場合に、より高度な水蒸気透過防止性能を発揮できる。なお、このような炭素、水素以外のヘテロ原子を含むポリマー中のヘテロ原子としては、基材をガスバリア性積層フィルムに用いた場合に該フィルムに高度な吸湿性能を発揮させることも可能となることから、酸素原子が好ましい。
さらに、このような有機高分子材料としては、無色透明な基材が得られるとともに、水素以外のヘテロ原子を含むポリマーであって、乾燥等して用いた場合に、より高度な吸湿性能を発揮させることが可能となって、透明支持基板1により高度な水蒸気透過防止性能を発揮させることが可能となるといった観点からは、エステル結合を有するポリエステルが好ましい。また、このようなポリエステルの中でも、基材の透明性やフィルムへの加工性がより高度なものとなるばかりか、強度や耐熱性もより向上するといった観点から、ベンゼン環を有するポリエステル(例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート))を利用することが特に好ましい。
また、このような基材の厚みとしては特に制限されないが、その基材の表面に薄膜層を直接形成する場合、形成する薄膜層の種類に応じて、その成膜に適した厚みに適宜設定することが好ましい。例えば、このような基材の厚みとしては、基材の表面上に薄膜層を形成する際に、真空中においても基材の搬送が可能であり、真空条件下において、その基材の表面上に薄膜を形成することが可能となることから、5〜500μmであることが好ましい。また、プラズマCVD法を採用して薄膜層を形成する場合に、前記基材を通して放電しつつ薄膜層を形成する方法を採用することも可能となるとの観点から、前記基材の厚みは50〜200μmであることがより好ましく、50〜100μmであることが特に好ましい。
また、このような基材の厚みは、例えば、基材上に薄膜層を形成した部材同士を貼り合せてガスバリア性積層フィルムを製造する場合においても、その基材の厚みによって貼り合せる工程に特に影響がでるといった性質のものではないため、ガスバリア性積層フィルムの製造方法によらず、薄膜層の成膜が可能な厚みを有するものであれば特に制限なく利用できる。すなわち、このような基材の厚みは、その基材の表面上に薄膜層を形成でき、薄膜層を十分に支持することが可能な厚みを有しているものであればよく、その厚みは適宜設計することができる。
また、図2に示す実施形態のガスバリア性積層フィルムにおいては、第一の薄膜層101(a)と、第二の薄膜層101(b)との2層の薄膜層を備える。なお、このような薄膜層の数が1層のみの場合(ガスバリア性積層フィルム中に第一の薄膜層及び第二の薄膜層のうちのいずれかが含まれないような構成の場合)には、十分に高度な水準で有機EL素子の劣化を抑制することが困難となり、薄膜層の数が2層以上の場合と比較して劣化速度が速くなってしまい、保管寿命が短くなってしまう傾向にある。例えば、図2に示す実施形態において、第一の薄膜層101(a)のみが存在するような場合には、仮に第一の基材を乾燥させる工程を経てガスバリア性積層フィルムを製造したとしても、ガスバリア性を有する第一の薄膜層が積層されている面とは反対側の面にバリア層が存在しないので、ガスバリア性を有する薄膜層が積層されている面とは反対側の面から、第一の基材中へ水分が浸入し、基材の飽和含水量に達するまでの時間が大幅に短くなる傾向にある。したがって、仮に製造時に乾燥工程を実施したとしても、その乾燥の効果を十分に利用することができなくなってしまう傾向にある。また、図2に示す実施形態において、第二の薄膜層のみが存在するような場合には、第一の基材上に直接、有機ELが形成されることになり、基材内部の水分が有機ELを直接的に劣化させる傾向にある。
また、このような第一の薄膜層101(a)及び第二の薄膜層101(b)はいずれもガスバリア性を有する薄膜からなる層(薄膜層)である必要がある。ここにいう「ガスバリア性」とは、下記条件(A)〜(C):
[条件(A)]
JIS K 7126(2006年発行)に準拠した方法で測定された「基材のガス透過度(単位:mol/m2・s・P)」と「薄膜層を成膜した基材のガス透過度(単位:mol/m2・s・P)」を比較して、「基材のガス透過度」に対して「薄膜層を成膜した基材のガス透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
[条件(B)]
JIS K 7129(2008年発行)に記載される方法に準拠した方法で測定された「基材の水蒸気透過度(単位:g/m2・s・P)」と「薄膜層を成膜した基材の水蒸気透過度(単位:g/m2・s・P)」を比較して、「基材の水蒸気透過度」に対して「薄膜層を成膜した基材の水蒸気透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
[条件(C)]
特開2005−283561号公報に記載される方法に準拠した方法で測定された「基材の水蒸気透過度(単位:g/m2・s・P)」と「薄膜層を成膜した基材の水蒸気透過度(単位:g/m2・s・P)」を比較して、「基材の水蒸気透過度」に対して「薄膜層を成膜した基材の水蒸気透過度」の方が2桁以上小さい値(100分の1以下の値)を示すこと。
のうちの少なくとも1つの条件を満たすものであればよい。なお、一般的に、水蒸気バリア性(ガスバリア性)を有する薄膜層を成膜した基材の水蒸気透過度は10−2g/m2/day以下の値を示すことから、上記条件(B)及び(C)を検討する場合に、「薄膜層を成膜した基材の水蒸気透過度」が10−2g/m2/day以下の値となっていることが好ましい。また、このようなガスバリア性を有する薄膜層としては、上記条件(C)を満たすものがより好ましい。
また、このようなガスバリア性を有する薄膜層の1層の厚みは、5〜3000nmの範囲であることが好ましく、10〜2000nmの範囲であることより好ましく、100〜1000nmの範囲であることが特に好ましい。前記薄膜層の厚みが前記下限未満では、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等のガスバリア性が劣る傾向にあり、他方、前記上限を超えると、屈曲によりガスバリア性が低下しやすくなる傾向にある。
このようなガスバリア性を有する第一及び第二の薄膜層の種類は特に制限されず、公知のガスバリア性を有する薄膜を適宜利用することができ、これらの薄膜層はそれぞれ金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物のうちの少なくとも1種を含む薄膜層であることが好ましい。
また、第一及び第二の薄膜層は、基材に対して、有機層/無機層/有機層、無機層/有機層/無機層などと積層された多層膜とすることもできる。この場合、無機層は主にガスバリア性を発現する。無機層の組成としては、下記に記載の金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物、珪素酸化物、珪素酸化炭化物であることが好ましい。有機層は基材と無機層の応力を緩和し、あるいは、有機層により基材上面の凹凸、パーティクルなど埋め平滑化する効果がある。さらに、有機層に捕水機能があってもよい。有機層の組成としては。下記に記載の熱硬化性接着剤及び光硬化性接着剤、2液硬化性接着剤等で用いられる有機材料が好ましい。なお、第一の薄膜層101(a)及び第二の薄膜層101(b)の種類はそれぞれ同一のものであっても或いは異なるものであってよい。
また、このような薄膜層に用いられる金属酸化物、金属窒化物及び金属酸窒化物は、より薄膜で高い水蒸気透過防止性能を発揮できるといった観点や、透明性等の観点から、スパッタ法、真空蒸着法、ALD(原子層堆積)法、イオンプレーティング法などの方法で成膜されることが好ましい。製造の容易性、低製造コストといった観点から、スパッタ法、ALD法がより好ましい。
また、このような薄膜層としては、より高度な水蒸気透過防止性能を発揮できるといった観点や、耐屈曲性、製造の容易性、低製造コストといった観点から、少なくとも珪素と酸素とを含む薄膜からなる層であることがより好ましい。さらに、前珪素と酸素とを含む薄膜からなる層は、プラズマ化学気相成長法、あるいは、プレカーサーを基材面に形成しプラズマ処理を行う薄膜形成法を用いた薄膜層であることが好ましい。このような薄膜層の中でも、珪素、酸素及び炭素を含有する層であり、かつ、
該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(i)〜(iii):
(i)珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において下記式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
で表される条件を満たすこと、
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有すること、
(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であること、
を全て満たす珪素酸化物系の薄膜層であることが特に好ましい。
このような珪素酸化物系の薄膜層は、先ず、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と、珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の量の比率(珪素の原子比)、酸素原子の量の比率(酸素の原子比)及び炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係をそれぞれ示す珪素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、(i)珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上(より好ましくは95%以上、特に好ましくは100%)の領域において下記式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
で表される条件を満たすことが必要である。珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が前記条件を満たさない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が不十分となる。
また、このような珪素酸化物系の薄膜層は、(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが必要である。このような珪素酸化物系の薄膜層においては、前記炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。前記炭素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記炭素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。なお、ここにいう「極値」とは、珪素酸化物系の薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離に対する元素の原子比の極大値又は極小値のことをいう。また、本発明において極大値とは、珪素酸化物系の薄膜層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が増加から減少に変わる点であって且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。さらに、本発明において極小値とは、珪素酸化物系の薄膜層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子比の値よりも、該点から薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。
また、このような珪素酸化物系の薄膜層は、(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが必要である。また、このような薄膜層においては、炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。前記絶対値が5at%未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。
さらに、前記珪素酸化物系の薄膜層においては、前記酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することが特に好ましい。前記酸素分布曲線が極値を有さない場合には、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。また、このように少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する極値における前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
また、前記珪素酸化物系の薄膜層においては、該層の前記酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。前記絶対値が前記下限未満では、得られるガスバリア性積層フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が低下する傾向にある。
前記珪素酸化物系の薄膜層においては、該層の前記珪素分布曲線における珪素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。前記絶対値が前記上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
また、前記珪素酸化物系の薄膜層においては、該層の膜厚方向における該層の表面からの距離と珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、前記酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子比の合計の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。前記絶対値が前記上限を超えると、得られるガスバリア性積層フィルムのガスバリア性が低下する傾向にある。
前記珪素分布曲線、前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線及び前記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における前記薄膜層の膜厚方向における前記薄膜層の表面からの距離に概ね相関することから、「薄膜層の膜厚方向における薄膜層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される薄膜層の表面からの距離を採用することができる。また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar+)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO2熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
また、膜面全体において均一で且つ優れたガスバリア性を有する前記珪素酸化物系の薄膜層を形成するという観点から、該層が膜面方向(薄膜層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。本明細書において、前記珪素酸化物系の薄膜層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により薄膜層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線及び前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
さらに、前記珪素酸化物系の薄膜層においては、該層の前記炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。本明細書において、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記薄膜層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(F1):
(dC/dx)≦ 0.5 ・・・(F1)
で表される条件を満たすことをいう。
また、前記珪素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において前記式(1)で表される条件を満たす場合には、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25〜45at%であることが好ましく、30〜40at%であることがより好ましい。また、前記珪素酸化物系の薄膜層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、33〜67at%であることが好ましく、45〜67at%であることがより好ましい。さらに、前記珪素酸化物系の薄膜層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、3〜33at%であることが好ましく、3〜25at%であることがより好ましい。
さらに、前記珪素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記炭素分布曲線において、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、該層の膜厚の90%以上の領域において前記式(2)で表される条件を満たす場合には、該層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する珪素原子の含有量の原子比率は、25〜45at%であることが好ましく、30〜40at%であることがより好ましい。また、前記珪素酸化物系の薄膜層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、1〜33at%であることが好ましく、10〜27at%であることがより好ましい。さらに、前記珪素酸化物系の薄膜層中における珪素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、33〜66at%であることが好ましく、40〜57at%であることがより好ましい。
また、前記珪素酸化物系の薄膜層は、プラズマ化学気相成長法により形成される層であることが好ましい。このようなプラズマ化学気相成長法により形成される薄膜層としては、前記基材を一対の成膜ロール上に配置し、前記一対の成膜ロール間に放電してプラズマを発生させるプラズマ化学気相成長法により形成される層であることがより好ましい。また、このようにして一対の成膜ロール間に放電する際には、前記一対の成膜ロールの極性を交互に反転させることが好ましい。更に、このようなプラズマ化学気相成長法に用いる成膜ガスとしては有機ケイ素化合物と酸素とを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。また、前記薄膜層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。なお、このような珪素酸化物系の薄膜層は、特開2011−73430号公報に記載された方法を採用して製造することができる。
また、第一の薄膜層101(a)及び第二の薄膜層101(b)としては、より高度な水蒸気透過防止性能を発揮することが可能となることから、少なくとも一方が前記珪素酸化物系の薄膜層であることが好ましく、それらのいずれもが前記珪素酸化物系の薄膜層であることがより好ましい。
さらに、図2に示す実施形態のガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)においては、接着剤層102を備える。このような接着剤層102を形成するために用いることが可能な接着剤としては、製造の容易性、低揮発成分の観点から、熱硬化性接着剤、光硬化性接着剤、及び2液混合硬化性接着剤等の硬化性接着剤が好ましい。
このような熱硬化性樹脂接着剤としては特に制限されず、公知の熱硬化性樹脂接着剤を適宜利用できる。このような熱硬化性樹脂接着剤としては、エポキシ系接着剤及びアクリレート系接着剤等を挙げることができる。このようなエポキシ系接着剤としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂から選ばれるエポキシ化合物を含む接着剤を挙げることができる。また、前記アクリレート系接着剤としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−ヘキシルアクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル及びヒドロキシルアクリレートなどから選ばれる主成分としてのモノマーと、該主成分と共重合可能なモノマーとを含む接着剤を挙げることができる。
また、前記光硬化性接着剤としては、特に制限されず、公知の光硬化性接着剤を適宜利用でき、例えば、ラジカル系接着剤や、カチオン系接着剤等を挙げることができる。このようなラジカル系接着剤としては、例えば、エポキシアクリレート、エステルアクリレート、及びエステルアクリレート等を含む接着剤を挙げることができる。また、前記カチオン系接着剤としては、エポキシ系樹脂、ビニルエーテル系樹脂等を含む接着剤を挙げることができる。
また、このような接着剤層102の中には、更に、水分吸着剤(いわゆる乾燥剤や吸湿剤)、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等が含有されていてもよい。また、積層フィルムが照明用有機ELの基板として使用されるときは、有機ELの発光色と同じ色の染料や顔料を含んでいてもよく、また、混色効果を狙って有機ELの発光色と違う色の染料や顔料を含んでいてもよい。さらに、光の散乱効果や光取り出し効果を持たせるために、接着剤層と屈折率の異なる無機粒子などを含んでいてもよい。
このような接着剤層102としては、接着剤が水分を含む場合に、接着剤層中の水分を低減して接着剤層から発生する水分に基いて性能が低下することを十分に抑制できるとともに、ガスバリア性積層フィルムにより高度な吸湿性能を発揮させることが可能となって、ガスバリア性積層フィルムにより高度な水蒸気透過防止性能を発揮させることも可能となることから、水分吸着剤を含有させることが好ましい。このような水分吸着剤(乾燥剤)としては特に限定されず、例えば、シリカゲル、ゼオライト(モレキュラーシーブ)、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム等の金属酸化物等や、乾燥した水酸化アルミニウム等の金属水酸化物等が挙げられる。このような水分吸着剤(乾燥剤)の中でも、光透過性が十分に高いこと、等の観点から、酸化カルシウムや乾燥した水酸化アルミニウムが特に好ましい。
また、このような水分吸着剤(乾燥剤)としては、粒子状のものが好ましい。このような粒子状の水分吸着剤(乾燥剤)としては、平均粒径が0.01〜10μm(より好ましくは0.01〜5μm、更に好ましくは0.1〜5μm)の範囲にあることが好ましい。このような平均粒径が0.01μm未満では、一次粒子が凝集し易くなる傾向にあり、大きな凝集粒子(2次粒子)が形成されてしまう傾向にあるばかりか、吸湿力が強すぎて、接着剤層に入ったときには、既に吸湿が終わって吸湿能力を示さなくなってしまう傾向にある。他方、前記平均粒子径が10μmを超えると、フィルム状にした際に平滑な層とすることが困難となるとともに、十分な吸湿能力が得られなくなる傾向にある。
さらに、このような水分吸着剤(乾燥剤)の含有量は特に制限されるものではないが、接着剤中に5〜50質量%(より好ましくは10〜30質量%)の割合で含有することが好ましい。このような吸収剤(乾燥剤)の含有量が前記下限未満では、接着剤に内在する水分を吸収してしまい水分給水能力が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、光透過性が減少し有機ELの発光層からの光取り出しが低下する傾向にある。
また、このような接着剤層102においては、有機EL素子の用途に応じて、例えば、ブルーイング剤を含有させることが好ましい。このようなブルーイング剤としては特に制限されず、公知のブルーイング剤を適宜利用することができ、例えば、バイエル社のマクロレックスバイオレットBおよびマクロレックスブルーRRや、サンド社のテラゾールブルーRLSおよびトリアゾールブルーRLS等を好適に利用することができる。また、例えば、カラーインデックス分類によるソルベントバイオレット−3、ソルベントブルー−94、ソルベントブルー−78、ソルベントブルー−95、ソルベントバイオレット−13等を用いることもできる。
また、このような接着剤層102の厚さは特に制限されるものではないが、接着剤に粉末などの固形分(例えば、前述の水分吸着剤(乾燥剤)や屈折率調整粒子等)を入れる場合であって、該粉末を構成する粒子(粉末粒子)に凝集が生じないような場合には、その粉末粒子の1次粒子径の最大径程度の厚みとすることが好ましく、この場合には、通常、1〜20μmの厚みとすることがより好ましい。他方、粉末粒子に凝集が生じるような場合には、その粉末粒子の2次粒子径の最大径程度の厚みとすることが好ましく、この場合には、通常、5〜50μmの厚みとすることがより好ましい。また、接着剤に粉末等の固形分を入れない場合であって、接着剤を塗布及び乾燥して接着剤層102を形成する場合、接着剤層102の厚さは、接着強度や加工性の観点から、0.2〜30μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましい。また、フィルム状の接着剤(接着性フィルム)を使用して、これを接着剤層102とする場合は、加工性の観点から、接着剤層102の厚さは1〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。
また、このような接着剤層を形成する際にフィルム状に加工した接着剤(シート状のもの)を利用することができる。この場合においては、かかる接着剤のフィルムの水蒸気透過率がフィルム厚み100μm、60℃、90%RHの環境において100g/m2/day以下(より好ましくは30g/m2/day以下)であり、かつ、光透過率が70%以上(より好ましくは80%以上)であることが好ましい。このような水蒸気透過率が前記上限を超えるとガスバリア性積層フィルム端部の接着剤部分が露出している箇所からの水分浸入が増加し、第一の基材の飽和含水量に達するまでの時間が短時間となり、結果として有機ELの保管寿命が短くなってしまう傾向にある。また、前記光透過率が前記下限未満では内部の光が十分に外部に出射できず、有機ELの低発光効率化を引き起こす傾向にある。なお、このような水蒸気透過率は、例えば、カルシウム−光透過法(Ca金属が水分を吸収すると酸化カルシウム、水酸化カルシウム等に変化し、光の透過性が変化する。)、あるいは、MOCON水蒸気透過率測定装置、等により測定した値を採用できる。また、前記光透過率は例えばFilm−Tek社(米国)の光学式薄膜測定システム装置、等により測定できる。
また、接着剤層は、第一の基材層100(a)の光屈折率と、前記接着剤層の光屈折率との比([第一の基材層100(a)の光屈折率]/[接着剤層の光屈折率])が0.88〜1.18(より好ましくは1.01〜1.11)となるような層であることが好ましい。このような光屈折率の比が前記下限未満では接着剤層の屈折率を更に大きくする必要があり、第二の薄膜層よりも接着剤層の屈折率が大きいと外部への出射光が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると第一の基材と接着剤層の界面で光の屈折が大きくなり発光層からの光の外部への出射が減少する傾向にある。なお、このような光屈折率は、例えば、Film−Tek社(米国)の光学式薄膜測定システム装置、あるいは、汎用のエリプソメーター、等により測定することができる。
また、図2に示す実施形態のガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)は、薄膜層101(a)、基材層100(a)、接着剤層102、薄膜層101(b)、基材層100(b)の順に積層された積層構造を有する。このような積層構造により、薄膜層の表面上に直接、後述の発光素子部を積層させて、該薄膜層により素子内部への水蒸気の侵入を高度に抑制することが可能となる。
このようなガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)は、その全体の厚みが50〜300μmであることが好ましく、100〜2500μmであることがより好ましい。このようなフィルムの厚みが前記下限未満ではガスバリア性積層フィルムを長尺基材とする場合、有機EL素子の製造工程においてフィルムにシワやヨレが発生しやすくなり、フィルムをコントロールすることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えて基材層の厚みが厚くなった場合には、フィルムによる光吸収量が増加するため、発光層から外部への光出射が減少してしまう傾向にある。また、前記上限を超えてガスバリア性積層フィルムの厚みが厚くなった場合には、ガスバリア性積層フィルムの表面と平行な方向(端部側:端部の面と垂直な方向)から、基材層へ水蒸気が浸入しやすくなり、例えば、ガスバリア性積層フィルムの製造時に乾燥状態の基材等を利用しているような場合には、基材の乾燥状態を十分に長期間保持することが困難となる傾向にある。
また、このようなガスバリア性積層フィルムは、自重(そのガスバリア性積層フィルム自体の質量)の0.1質量%以上(より好ましくは自重の0.2質量%以上)の水を吸収する吸湿性能を有することが好ましい。このような吸湿性能が前記下限未満では、ガスバリア性積層フィルムに更に高度な透湿防止性能を発揮させることが困難となる傾向にある。ガスバリア性積層フィルムの吸湿性能は、乾燥時に基材にかかる負荷、乾燥にかかる時間、吸湿剤増量に伴う接着層の接着性の低下などの観点から、自重の5質量%以下であることが好ましい。この吸湿性能は、より好ましくは自重の3質量%以下であり、さらに好ましくは自重の2質量%以下である。
なお、このようなガスバリア性積層フィルムの吸湿性能は以下のようにして測定することができる。すなわち、先ず、ガスバリア性積層フィルムの吸湿性能の測定用に、縦、横の長さがともに50mm(50mm角)のガスバリア性積層フィルム(50mm角のフィルム)を準備する。次に、50mm角のフィルムを1mmごとに短冊状にカットして、縦50mm、横1mmの短冊状の試料を準備する。次いで、恒温室内において、大気中、室温(25℃)で、縦50mm、横1mmの大きさの短冊状の試料(50個)の質量(単位:g)を小数点4桁まで正確に秤量する。このときの質量を前述のフィルムの自重(W1:使用前の初期質量)とする。次いで、恒温恒湿雰囲気(25℃、湿度50%、重量絶対湿度10g/kg)下に該試料50個を静置し、24時間ごとに、その試料の質量を小数点4桁まで正確に秤量する。このような秤量を試料(50個)の質量が一定になるまで行い、一定の値となった時の質量をWnとする。このようにして求められたWnとW1との値に基づいて、下記式:
[吸湿量の割合Bn]={(Wn−W1)/W1}×100
を計算することにより求められる値を、本発明においては、ガスバリア性積層フィルムの吸湿性能として採用する。
なお、このような吸湿性能は、基本的に、ガスバリア性を有する第一及び第二の薄膜層の間に配置されている基材層の吸湿性に基づいて発揮される性能であるため、第一及び第二の薄膜層の間に配置されている基材層により十分な吸湿が可能となるように、基材層を、水素以外のヘテロ原子を含むポリマー(より好ましくはエステル結合を有するポリエステル、更に好ましくはPET、PEN)からなる基材からなる層とし、且つ、ガスバリア性積層フィルムの製造時に十分に乾燥された状態の基材が第一及び第二の薄膜層の間に配置されるようにしてガスバリア性積層フィルムを製造することが好ましい。
また、図2に示す実施形態のガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)においては、該フィルムの全体の厚さに対する、フィルム中に存在する全基材層の厚さの合計値の割合({[全基材層の厚さの合計値]/[ガスバリア性積層フィルムの全体の厚さ]}×100)は90%以上あることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。このような割合が前記下限未満ではフレキシブル性が低下する、或いは、基材上に形成された薄膜層の応力により基材が変形し、生産性が低下する傾向にある。
さらに、図2に示す実施形態のガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)中に存在する全基材層の厚さに対する、第一の薄膜層と第二の薄膜層との間に存在する全基材層の厚みの合計値の割合({[第一の薄膜層と第二の薄膜層との間に存在する全基材層の厚さの合計値]/[ガスバリア性積層フィルム中に存在する全基材層の厚さ]}×100)は、50%以上であることが好ましく、特に90%以上あることがより好ましい。このような薄膜層間の基材層の厚みの割合が前記下限未満では、基材を乾燥して用いて吸湿性能を発揮させる場合に十分に高度な吸湿性能を発揮させることが困難となる傾向にある傾向にある。
また、図2に示す実施形態のガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)の全体の厚さに対する、第一の薄膜層と第二の薄膜層との間に存在する基材層の厚みの割合({[第一の薄膜層と第二の薄膜層との間に存在する基材層の厚さ]/[ガスバリア性積層フィルムの全体の厚さ]}×100)は、50%以上であることが好ましく、特に90%以上あることがより好ましい。このような薄膜層間の基材層の厚みの割合が前記下限未満では、有機EL素子が形成される第一のフィルム部材の機械的強度が低下し、例えば、連続工程において第一の基材が破壊される可能性が増大する傾向にあるとともに、基材を乾燥して用いて吸湿性能を発揮させる場合に十分に高度な吸湿性能を発揮させることが困難となる傾向にある。
また、前記ガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)においては、有機ELデバイス照明およびディスプレイに利用する場合においては、黄色度YIがより低い値となることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましい。このような黄色度YIは、測定装置として3刺激値XYXを算出できる分光光度用いて、JIS K 7373:2006に準拠することにより測定することができる。
また、前記ガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)においては、有機ELデバイス照明およびディスプレイに利用する場合、全光線透過率がより高いものが好ましい。このような観点からは、前記ガスバリア性積層フィルムの全光線透過率が80%以上であることがより好ましく、85%以上が更に好ましい。なお、このような全光線透過率は、測定装置として積分球を有する透過測定装置を用いて、JIS K7375:2008に準拠することにより測定することができる。
さらに、前記ガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)においては、画像表示装置用の有機EL素子の基板に用いる場合、ヘイズがより低いものが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。一方、照明用の有機EL素子用の基板に使用する場合においては、その用途からヘイズはあまり気にならないばかりか、有機ELの発光面が濃淡や斑が生じるような状態で不均一に発光するような場合にヘイズが高い方が却って不均一な発光をぼかしてくれるため、かかる観点からは、ヘイズが高いものを好適に利用することもできる。このように、前記ガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)は、有機EL素子の用途に応じて、その特性を好適な設計となるように適宜変更しながら使用することができる。
図2に示すガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)を製造するために好適に利用することが可能な方法としては、例えば、第一の基材層及び前記第一の基材層の少なくとも一方の表面上に形成されたガスバリア性を有する第一の薄膜層を備える第一のフィルム部材と、第二の基材層及び前記第二の基材層の少なくとも一方の表面上に形成されたガスバリア性を有する第二の薄膜層を備える第二のフィルム部材とを準備する工程(工程(A))と、
前記第一のフィルム部材の基材層の表面上に第二のフィルム部材中の第二の薄膜層が積層するように接着剤を用いて貼り合せることによりガスバリア性積層フィルムを得る工程(工程(B))と、
を含む方法を採用することが好ましい。以下、これらの工程(A)及び(B)を分けて説明する。
(工程(A))
工程(A)は、前記第一及び第二のフィルム部材を準備する工程である。このような第一及び第二のフィルム部材を準備する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、基材上の少なくとも一方の表面上にガスバリア性を有する薄膜層を形成して、基材層と薄膜層とを備えるフィルム部材(第一及び第二のフィルム部材)を製造することが可能な方法を適宜採用することにより準備してもよく、また、市販の基材層とガスバリア性を有する薄膜層とを備えるフィルム部材(積層体)により、フィルム部材(第一及び第二のフィルム部材)を準備してもよい。また、前記薄膜層を基材上に形成する場合、そのような薄膜層の成膜が可能な公知の方法を適宜採用することができるが、ガスバリア性の観点から、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD)を採用することが好ましい。なお、前記プラズマ化学気相成長法はペニング放電プラズマ方式のプラズマ化学気相成長法であってもよい。また、このような前記薄膜層を基材上に形成する方法としては、特開2011−73430号公報に記載された方法を採用することが好ましく、これにより前述の珪素酸化物系の薄膜層を、基材上に効率よく形成することができる。
(工程(B))
工程(B)は、前記第一のフィルム部材の基材層の表面上に第二のフィルム部材中の第二の薄膜層が積層するように接着剤を用いて貼り合せることによりガスバリア性積層フィルムを得る工程である。
このようにして、前記第一のフィルム部材の基材層の表面上に第二のフィルム部材中の第二の薄膜層が積層するように接着剤を用いて貼り合せることで、積層後のフィルムを、前記第一の薄膜層、前記第一の基材層、接着剤層、前記第二の薄膜層、前記第二の基材層の順に積層する積層構造を有するものとすることが可能である。
このようにして第一及び第二のフィルム部材を接着剤を用いて貼り合せる方法は特に制限されず、接着剤を用いてフィルム部材を貼り合せることが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、第一及び第二のフィルム部材の間に融点の低い接着剤からなるシートを挟んで積層し、該シートを熱で溶かして貼り合せる方法、接着面に接着剤を塗布して第一及び第二のフィルム部材を貼り合せる方法等を適宜利用することができる。なお、これらの方法において採用することが可能な温度条件等についても特に制限されず、第一及び第二のフィルム部材の種類や接着剤の種類等に応じて適宜最適な条件を採用すればよい。また、このような接着剤には、より高度な吸湿性能を発揮させることが可能となることから、水分吸着剤を更に含有させることが好ましい。なお、接着剤の塗布方法や塗布厚み等も特に制限されず、前述のような接着剤からなる層を製造することが可能となるように、公知の塗布方法(例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター、スクリーン印刷、インクジェット等の方式の塗布方法)の中から、最適な方法やその条件を適宜採用すればよい。
また、このようにして前記第一のフィルム部材と前記第二のフィルム部材とを貼り合せる場合には、予め、少なくとも前記第一のフィルム部材(一方のフィルム部材)を乾燥する工程を施すことが好ましい。このような条件を満たすようにして前記第一のフィルム部材と前記第二のフィルム部材とを貼り合せることで、十分な吸湿性能(好ましくは自重の0.1質量%以上の重さの水を吸収する吸湿性能)を有するガスバリア性積層フィルムをより効率よく製造することも可能となる。
このようなフィルム部材を乾燥する工程として採用することが可能な方法(乾燥方法)は特に制限されず、このようなフィルム部材を乾燥させることが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、真空乾燥、加熱乾燥、真空加熱乾燥等を適宜採用することができる。このような乾燥方法としては、中でも、乾燥速度の観点から、真空乾燥と加熱乾燥を組み合わせた真空加熱乾燥を採用することが最も好ましい。また、このような真空乾燥、加熱乾燥又は真空加熱乾燥により乾燥する場合の条件(加熱条件や圧力条件等)はフィルム部材を乾燥させることが可能な条件に適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。なお、このような乾燥方法が加熱工程を含む場合には、より効率よくフィルム部材を乾燥することが可能となることから、加熱温度を50℃以上とすることが好ましく、100℃以上とすることが特に好ましい。また、このような乾燥方法が加熱しながら乾燥する工程である場合(例えば加熱乾燥又は真空加熱乾燥を採用する場合)において、加熱温度の上限は、基材の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されるものではないが、高温による基材の変形をより十分に防止するといった観点から、200℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましい。
また、このような乾燥方法が真空条件下で乾燥する方法である場合(例えば真空乾燥や真空加熱乾燥を採用する場合)においては、その圧力条件は大気圧の760mmHg(101325Pa)より低い圧力にすればよく、特に制限されるものではないが、76mmHg(10132.5Pa)より低い圧力とすることが好ましく、7.6mmHg(1013.25Pa)より低い圧力とすることがより好ましい。なお、本明細書においては、「真空乾燥」は、大気圧の760mmHg(101325Pa)より低い圧力に減圧して行う乾燥であればよい。
また、このような乾燥方法を採用する場合に、フィルム部材の乾燥時間は特に制限されず、採用する条件に応じて、フィルム部材が十分に乾燥するように、その実施時間(乾燥時間)を適宜変更すればよく、例えば、前述の加熱温度の条件及び圧力条件(真空条件)を採用して乾燥する場合(真空加熱乾燥する場合)には、より十分に乾燥状態とするといった観点から、乾燥時間を3時間(180分)以上とすることが好ましく、6時間(360分)以上とすることがより好ましい。なお、このような乾燥時間は、基材の厚みや種類等に応じて適宜設定すればよい。
また、前記乾燥工程を施して少なくとも第一のフィルム部材を乾燥した場合には、前記乾燥後のフィルム部材が、重量絶対湿度が10g/kg以上となる雰囲気下に曝される時間が1時間未満となるようにしながら第一及び第二のフィルム部材を貼り合せることが好ましい。
また、前記第一のフィルム部材と前記第二のフィルム部材とを貼り合せる際には、前記水分吸着剤を含む接着剤を用いて貼り合せることが好ましい。このようにして、水分吸着剤を含む接着剤を用いて貼り合せる場合には、基本的に、薄膜層間に、基材層とともに水分吸着剤を備える接着剤層も存在することとなる。このように薄膜層間に水分吸着剤を含む接着剤層が積層されると、接着剤層中の水分吸着剤により、第一及び第二の薄膜層の間に配置された前記第一の基材層を乾燥させることが可能となる。そのため、このようにして得られるガスバリア性積層フィルムにおいては、薄膜層間に存在する基材層を接着後に乾燥させることもでき、かかる基材層に吸湿性能を発揮させることが可能となる。また、このようにして得られるガスバリア性積層フィルムにおいては、薄膜層間に、水分吸着剤を含む接着剤層を含むことから、該接着剤層中の水分吸着剤自体によっても吸湿性能を発揮させることも可能となる。そのため、前記水分吸着剤を含む接着剤を用いて前記第一のフィルム部材と前記第二のフィルム部材を貼り合せることによっても、十分な吸湿性能(好ましくは自重の0.1質量%以上の重さの水を吸収する吸湿性能)を有するガスバリア性積層フィルムをより効率よく形成することが可能となる。なお、このようにして、前記水分吸着剤を含む接着剤を用いて前記第一のフィルム部材と前記第二のフィルム部材貼り合せる場合には、前記第一及び第二のフィルム部材を貼り合せる前に、少なくとも前記第一フィルム部材を乾燥する工程を含んでいても、含んでいなくてもよいが、より高度な吸湿性能を発現させることが可能となり、ガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)に更に高度な水蒸気透過防止性能を発現させることが可能となるとの観点から、乾燥工程を含むことが好ましい。
なお、このような前記第一及び第二のフィルム部材を貼り合せる工程においては、20〜150℃の温度条件下において、前記第一及び第二のフィルム部材を貼り合せることが好ましい。このような温度が前記上限を超えると基材が変形等のダメージを受ける傾向にあり、他方前記下限未満では接着剤と基材、或いは、薄膜層との密着性が低下し、界面からの水蒸気浸入が起こる可能が増加する傾向にある。
このようにして、工程(A)及び工程(B)を施すことで、本発明に好適に利用することが可能な図2に示す実施形態のガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)を得ることができる。
なお、本明細書において、「第一」、「第二」等の表現は、2つ以上の同一又は相当する要素(例えば基材層や薄膜層、フィルム部材等)を説明する上で便宜上利用するものであり、その番号や説明の順序には特別な意味はなく(番号による優劣はなく)、これらの要素はそれぞれ同一のものであっても、あるいは、異なるものであってもよい。
また、工程(B)は、後述する、前記第一のフィルム部材の第一の薄膜層上へ発光素子部2を形成した後に実施してもよいし、あるいは、発光素子部2を形成する前に工程(B)を実施し、その後、発光素子部2を形成してもよい。また、工程(B)における前記第一のフィルム部材の基材層の乾燥工程を行った後、発光素子部2を形成してもよいし、あるいは、発光素子部2を形成した後に前記乾燥工程を行ってもよい。
[発光素子部2]
発光素子部2は、一対の電極及び該電極間に配置されている発光層を備えるものである。このような発光素子部2を構成する一対の電極(第一電極201、第二電極203)及び該電極間に配置されている発光層202としては、特に制限されず、公知の有機EL素子に利用されている電極や発光層を適宜利用することができる。例えば、光の取り出し面側の電極を透明又は半透明として、発光層に低分子及び/又は高分子の有機発光材料を用いること等が挙げられる。以下、このような第一電極201、発光層202、第二電極203について分けて説明する。
(第一電極201)
第一電極201は、陽極および陰極のうちの一方の電極である。図1に示す実施形態の発光素子部2において、第一電極201は、素子部2の外部に発光層202から放射される光を出射することを可能とすべく、光透過性を示す電極(透明又は半透明の電極)を用いる。このような図1に示す実施形態においては、光透過性を示す第一電極201を陽極として利用する。
このような光透過性を示す第一電極201(陽極)としては、金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を用いることができ、電気伝導度および光透過率がより高いものが好適に用いられる。このような金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜からなる電極としては、例えば、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:略称IZO)、金、白金、銀、および銅等から成る薄膜が挙げられる。このような金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜としては、ITO、IZO、または酸化スズから成る薄膜がより好ましい。このような金属酸化物、金属硫化物および金属などの薄膜を製造する方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等を採用することができる。
また、このような第一電極201としては、ポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などの有機の透明導電膜を用いてもよい。また、このような第一電極201としては、光透過性を有する樹脂と、該光透過性を有する樹脂中に配置された導電性を有するワイヤ状の導電体とからなる膜状の電極(A)であってもよい。このような光透過性を有する樹脂としては、光透過率がより高いものが好ましく、例えば、低密度または高密度のポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−ジメタノ−オクタヒドロナフタレン共重合体、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂などのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6、メタキシレンジアミン−アジピン酸縮重合体;ポリメチルメタクリルイミドなどのアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリルなどのスチレン−アクリロニトリル系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどの疎水化セルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのハロゲン含有樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース誘導体などの水素結合性樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリメチレンオキシド樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶樹脂などのエンジニアリングプラスチック系樹脂などがあげられる。なお、このような第一電極201を構成する樹脂が、陽極上に有機層を塗布法などにより製造する場合に、塗液中に該樹脂がより溶解し難くなるといった観点からは、かかる樹脂として熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、フォトレジスト材料が好適に用いられる。
また、前記ワイヤ状の導電体は、径の小さいものが好ましい。ワイヤ状の導電体の径は、400nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。このようなワイヤ状の導電体は、第一電極201を通る光を回折または散乱するので、第一電極201のヘイズ値を高めるとともに光の透過率を低下させるが、可視光の波長程度又は可視光の波長よりも小さい径のワイヤ状の導電体を用いることによって、可視光に対するヘイズ値を低く抑えるとともに、光の透過率を向上させることができる。また、ワイヤ状の導電体の径は、小さすぎると、抵抗が高くなるため、10nm以上が好ましい。なお、有機EL素子を照明装置に用いる場合には、第一電極201のヘイズ値はある程度高い方が広い範囲を照らすことができるので、ヘイズ値の高い第一電極201が好適に用いられる場合もある。このように、第一電極201の光学的特性は、有機EL素子が用いられる装置に応じて適宜設定することができる。
また、このような膜状の電極(A)に含まれるワイヤ状の導電体は、1本であっても、あるいは、複数本であってもよい。このようなワイヤ状の導電体は、電極(A)中において、網目構造を形成していることが好ましい。すなわち、電極(A)中において、1つまたは複数本のワイヤ状の導電体は、樹脂中の全体に渡って複雑に絡み合うように配置されて網目構造(1本のワイヤ状の導電体が複雑に絡み合ったり、複数本のワイヤ状の導電体が互いに接触し合って配置されて、2次元的又は3次元的に広がって形成される網目状の構造)を形成していることが好ましい。更に、このようなワイヤ状の導電体は、例えば曲線状でも、針状でもよい。曲線状及び/又は針状の導電体が互いに接触し合って網目構造を形成することによって、体積抵抗率の低い第一電極201を実現することができる。この網目構造は規則的であっても、規則的でなくてもよい。網目構造を形成するワイヤ状の導電体によって、第一電極201の体積抵抗率を下げることも可能である。
ワイヤ状の導電体は、少なくとも一部が第一電極201が配置されている透明支持基1とは反対側の表面(本実施形態では発光層202側の表面)の近傍に配置されることが好ましい。このようにワイヤ状の導電体を配置することによって、第一電極201の表面部の抵抗を下げることができる。なお、このようなワイヤ状の導電体の材料としては、例えば、Ag、Au、Cu、Alおよびこれらの合金などの抵抗の低い金属が好適に用いられる。ワイヤ状の導電体は、例えば、N.R.Jana, L.Gearheart and C.J.Murphyによる方法(Chm.Commun.,2001, p617−p618)や、C.Ducamp−Sanguesa, R.Herrera−Urbina, and M.Figlarz等による方法(J. Solid State Chem.,Vol.100, 1992, p272〜p280)によって製造することができる。また、このような電極(A)としては、特開2010−192472号公報に記載の電極と同様の構成としてもよく、その製造方法も特開2010−192472号公報の記載の方法を採用することができる。
また、このような第一電極201(陽極)の膜厚は、要求される特性および工程の簡易さなどを考慮して適宜設定され、例えば10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。
(発光層202)
発光層202としては、有機EL素子の発光層(発光する機能を有する層)に利用できる公知の材料からなる層とすればよく、その材料等は特に制限されないが、有機材料からなる発光層であることが好ましい。このような、有機材料からなる発光層としては特に制限されないが、例えば、発光性材料としての蛍光又はりん光を発光する有機物(低分子化合物および高分子化合物)と、これを補助するドーパントとから形成される層とすることが好ましい。なお、ここにいう高分子化合物とは、ポリスチレン換算の数平均分子量が103以上のものである。なお、このような数平均分子量の上限を規定する理由は特にないが、ポリスチレン換算の数平均分子量の上限は通常、108以下であることが好ましい。
このような発光性材料(蛍光又はりん光を発光する有機物)としては、例えば、色素系材料、金属錯体系材料、高分子系材料などが挙げられる。このような色素系材料としては、例えば、シクロペンダミン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体化合物、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾロキノリン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ピロール誘導体、チオフェン環化合物、ピリジン環化合物、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、オキサジアゾールダイマー、ピラゾリンダイマーなどが挙げられる。
また、前記金属錯体系材料としては、例えば、アルミキノリノール錯体、ベンゾキノリノールベリリウム錯体、ベンゾオキサゾリル亜鉛錯体、ベンゾチアゾール亜鉛錯体、アゾメチル亜鉛錯体、ポルフィリン亜鉛錯体、ユーロピウム錯体など、中心金属に、Al、Zn、BeなどまたはTb、Eu、Dyなどの希土類金属を有し、配位子にオキサジアゾール、チアジアゾール、フェニルピリジン、フェニルベンゾイミダゾール、キノリン構造などを有する金属錯体などを挙げることができる。
さらに、前記高分子系材料としては、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、上記色素体や金属錯体系発光材料を高分子化したものなどが挙げられる。
このような発光性材料のうち、青色に発光する材料としては、ジスチリルアリーレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、およびそれらの重合体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体やポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、緑色に発光する発光性材料としては、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることができる。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
また、赤色に発光する発光性材料としては、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、およびそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などを挙げることが出来る。なかでも高分子材料のポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが好ましい。
なお、このような発光性材料の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、特開2012−144722号公報に記載の方法を採用してもよい。
また、発光層202においては、発光効率の向上や発光波長を変化させるなどの目的で、ドーパントを添加することが好ましい。このようなドーパントとしては、例えば、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、スクアリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、スチリル系色素、テトラセン誘導体、ピラゾロン誘導体、デカシクレン、フェノキサゾンなどを挙げることができる。なお、このような発光層の厚さは、通常約20〜2000Åであることが好ましい。
このような発光層202の形成方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。このような発光層202の形成方法の中でも、塗布法によって形成することが好ましい。前記塗布法は、製造プロセスを簡略化できる点、生産性が優れている点で好ましい。このような塗布法としてはキャスティング法、スピンコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット法等が挙げられる。前記塗布法を用いて発光層を形成する場合、まず発光体と溶媒とを含有する溶液状態の組成物を塗布液として調製し、この塗布液を前述した所定の塗布法によって所望の層又は電極上に塗布し、さらにこれを乾燥することにより、所望の膜厚の発光層を形成することができる。
(第二電極203)
第二電極203は、第一電極201とは反対の極性を有する電極であり、第一電極201に対向して配置されるものである。なお、図1に示す実施形態において、第2電極は陰極である。
このような第二電極203(陰極)の材料としては、特に制限されず、公知の材料を適宜利用することができ、仕事関数が小さく、発光層への電子注入が容易で、電気伝導度の高い材料を利用することが好ましい。また、図1に示す実施形態のように、陽極側から光を取出す構成の有機EL素子においては、発光層から放射される光を陰極で陽極側に反射して、より効率よく光を取出すといった観点から、第二電極203(陰極)の材料としては可視光反射率の高い材料が好ましい。
このような第二電極203(陰極)の材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属および周期表の13族金属などを用いることができる。より具体的には、第二電極203(陰極)の材料としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウムなどの金属、前記金属のうちの2種以上の合金、前記金属のうちの1種以上と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン、錫のうちの1種以上との合金、またはグラファイト若しくはグラファイト層間化合物等を好適に利用できる。このような合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金などを挙げることができる。
また、第二電極203(陰極)としては導電性金属酸化物及び導電性有機物などから成る透明導電性電極を用いることもできる。具体的には、導電性金属酸化物として酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ITO、およびIZOを挙げることができ、導電性有機物としてポリアニリンもしくはその誘導体、ポリチオフェンもしくはその誘導体などを挙げることができる。なお、第二電極203(陰極)は、2層以上を積層した積層体で構成されていてもよい。また、いわゆる電子注入層を陰極として用いてもよい。
このような第二電極203(陰極)の膜厚は、求められる特性および工程の簡易さなどを考慮して適宜設計でき、特に制限されるものではないが、好ましくは10nm〜10μmであり、好ましくは20nm〜1μmであり、さらに好ましくは50nm〜500nmである。このような第二電極203(陰極)の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、また金属薄膜を熱圧着するラミネート法などを挙げることができる。
なお、図1に示す実施形態においては、第二電極203(陰極)は、外部と電気的に接続が可能となるような接続部(取り出し電極203(a))と電気的に接続されている。ここにおいて、図1に示す実施形態においては、取り出し電極203(a)は、第一電極201と同じ材料で形成されている。このような取り出し電極203(a)は、公知の方法で、適宜、製造及び設計することができ、例えば、第一電極201を形成するときに、取り出し電極203(a)の部分を併せてパターン成膜することで形成する等して、容易に製造することができる。
[封止材層3]
封止材層3は、発光素子部2を覆って封止するように透明支持基板上1に配置されている。このような封止材層3は、発光素子部2を封止するようにして、透明支持基板1上に配置される層であり、公知の封止材(例えば、水蒸気透過性が十分に低い接着材のシート等)からなる層を適宜利用することができる。すなわち、このような封止材層3は、透明支持基板1上において発光素子部2の周囲を覆うようにして、発光素子が外気と接触することのないように封止する層である。なお、このような封止に際しては、発光素子として機能させるために、一対の電極を外部と電気的に接続するための接続部[例えば、接続配線やいわゆる取り出し電極の部分(図1に示す実施形態においては、第二電極203と接続された203(a)で示す部分並びに第一電極201の外気と接触可能となっている部分(外部に引き出されている第一電極の一部分)が相当する。)]は除いて封止する。
このような封止材層3を形成する封止材としては、接着性、耐熱性、水分、酸素等に対するバリア性を考慮して、従来公知の任意好適な材料を用いて適宜形成することができ、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂等の他、前記接着剤層を形成するために用いることが可能な接着剤として説明したものと同様の材料、等を適宜利用することができる。なお、このような封止材層3を形成するためにシート状の封止材を利用してもよい。このようなシート状の封止材は公知の方法で適宜成形することにより形成することができる。
また、このような封止材層3の厚み(t)は、発光素子部2を封止することが可能となるように、発光素子部2を覆うことが可能な厚みを有していればよく(発光素子部2の透明支持基板1の表面からの高さよりも大きな値を有していればよく)、特に制限されないが、5〜120μmとすることが好ましく、5〜60μmとすることがより好ましく、10〜60μmとすることが更に好ましく、10〜40μmとすることが特に好ましい。このような封止材層の厚みt(透明支持基板1と封止基板4との間の距離)が前記下限未満では屈曲時に第二電極203と封止基板4とが容易に接触して、ショートを十分に抑制できないばかりか、発光品位が低下し易くなる傾向にあり、また、屈曲時に封止基板4表面の凹凸により第二電極203に圧力がかかり押され、第一電極201が接触することでショートしてしまう傾向にある。他方、前記上限を超えると封止材層の外気と接触する表面が増大して、封止材層の横方向(厚み方向に対して垂直な方向:透明支持基板1の表面に対して平行な方向)からの水蒸気の進入量が多くなり、有機EL素子の保管寿命が低下してしまう傾向にある。なお、このような封止材層3を発光素子部2に対して封止するように配置する方法は後述する。
[封止基板4]
封止基板4は、封止材層3上に配置されている。なお、封止材層3は発光素子部2を覆うように配置されているため、発光素子部2と封止基板4との間には、発光素子部2及び封止材層3が存在することとなる。このように、封止基板4は、透明支持基板1と封止基板4との間に発光素子部2及び封止材層3が介在するように、封止材層3上に配置されている。このような封止基板4は、封止材層3の透明支持基板1と接する面とは反対側の面の表面(封止基板4と接触している面)から、発光素子部2の内部に水蒸気や酸素などが浸入することをより効率よく抑制するとの観点や放熱性を向上させるとの観点から用いられるものである。
このような封止基板4は、JIS B 0601−1994の算術平均粗さRaを基準として、封止基板4の封止材層3側の表面S1の表面粗さが、該封止基板のもう一方の表面S2の表面粗さ(外側の表面粗さ)よりも小さな値となるようにして利用する。このような封止基板4の表面S1の算術平均粗さRaが、封止基板のもう一方の表面S2の算術平均粗さRaよりも大きな値となると、有機EL素子を屈曲させた場合に、封止基板4の表面S1上の凹凸形状(表面の粗さにより存在する凹凸の形状)により発光素子部に傷がつくなどして、ショートし易くなる。そのため、封止基板4の封止材層3側の表面S1の算術平均粗さRaが、該封止基板のもう一方の表面S2の算術平均粗さRaよりも小さな値となるようにして封止基板4を利用する。なお、このような封止基板4の表面粗さを平滑にする処理を施すことも考慮されるが、そのような平滑処理(例えば研磨や表面処理等)を施すとコストが嵩み、有機EL素子の製造時の経済性が低下し、大量生産が困難となるばかりか、表面を平滑にし過ぎると封止材層3との密着性が低下して剥がれ易くなり、有機EL素子を長期に亘って使用することが困難となる。また、封止基板4の表面が平滑になると放射率が低下して放熱が困難となる傾向にもある。なお、本発明においては、封止基板4の表面に平滑処理を施すことは必ずしも必要ではないことから、有機EL素子の生産性を十分に高いものとすることも可能である。
また、本発明においては、封止基板4の封止材層3側の表面S1の算術平均粗さと、封止材層3の厚みとが、下記式(I):
0.002<(Ra/t)<0.2 (I)
[式(I)中、Raは前記封止基板の前記封止材層側の表面のJIS B 0601−1994の算術平均粗さを示し、tは前記封止材層の厚みを示す。]
に示す条件を満たす必要がある。このような算術平均粗さRaと封止材層3の厚みtとの比(Ra/t)が0.002以下では、封止基板4の封止材層3側の表面が平滑になりすぎ封止材層3との密着性が低下し、剥がれやすくなるとともに、封止基板4の封止材層3側の表面と封止材層3との界面から水分が侵入し、有機EL素子の劣化を速めてしまう傾向にある。また、封止材層3の厚みが増す傾向になるので、封止材層3端部の外部に露出している部分から水分が侵入し有機EL素子の劣化を速めてしまう傾向にある。他方、0.2以上では、封止基板4の封止材層3側の表面の凹凸が大きくなり、相対的に封止材層3の厚みが減少するので、屈曲時に第二電極203と封止基板4とが容易に接触して、ショートを十分に抑制できないばかりか、発光品位が低下し易くなる傾向にあり、また、屈曲時に封止基板4表面の凹凸により第二電極203に圧力がかかり押され、第一電極201が接触することでショートしてしまう傾向にある。また、同様の観点で、より高い効果が得られることから、封止基板4の封止材層3側の表面S1の算術平均粗さRaと、封止材層3の厚みtとの比(Ra/t)は、0.003〜0.03の範囲にあることが好ましく、0.005〜0.01の範囲にあることがより好ましい。なお、ここにいう封止材層3の厚みtは、透明支持基板1の表面からの厚みをいい、透明支持基板1と封止基板4と間の距離と同じ値となる。
このような封止基板4の封止材層3側の表面S1の算術平均粗さRaは0.1〜1.0μmであることが好ましく、0.2〜0.5μmであることがより好ましい。このような表面S1の算術平均粗さRaが前記下限未満では封止剤層3に対する密着性が低下してしまうばかりか、熱の放射性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると有機EL素子を屈曲させた際に、その面の凸部のピークが封止材層を突き破って素子に短絡が生じやすくなるばかりか、封止基材4と第2電極203が接触しショートしてしまう傾向にあり、更には、透明支持基板1を介して封止基板4が見えるような構成の素子の場合に、光の反射により低くくすんだ見栄えとなってしまう傾向にある。なお、算術平均粗さRaが前記上限以下の場合には、透明支持基板1を介して封止基板4が見えるような構成の素子の場合に、透明支持基板1から見える封止基板4の表面S1の表面粗さが比較的に小さい面となり、意匠性がより向上する傾向にある。
このような封止基板4の外側の表面S2の算術平均粗さRaは、0.25〜3.8μmであることが好ましく、0.5〜2.5μmであることがより好ましい。このような表面S2の算術平均粗さRaが前記下限未満では前記表面S2の表面積が減少し外部に発光素子部で発熱した熱の放出量が減少し、有機EL素子が高温となり劣化が促進されてしまう傾向にあり、また、前記外側の表面S2の表面上に放熱層、或いは伝熱層を設ける場合、放熱層或いは放熱層と前記表面S2の界面における密着性が低下し剥がれやすくなってしまい、素子が故障し易くなる傾向にある。他方、前記上限を超えると表面S2にさらに特別な粗化工程を施すこととなり、生産性が低下する傾向にある。
また、前記算術平均粗さ(JIS B 0601(1994年)により定義される算術平均粗さ)の測定に際しては、例えば、測定装置として接触式段差表面粗さ測定装置を採用して測定してもよい。
また、封止基板4の封止材層3側の表面S1のJIS B 0601−1994の十点平均粗さRzは、0.4〜4.0μmであることが好ましく、0.8〜2.0μmであることがより好ましい。このような十点平均粗さRzが前記下限未満では封止材層3に対する密着性が低下してしまう傾向にあり、他方、前記上限を超えると有機EL素子を屈曲させた際に、その面の凸部のピークが封止材層を突き破って有機EL素子に短絡が生じ易くなる傾向にあるばかりか、封止基板4と第二電極203とが接触してショートし易くなる傾向にある。
本発明においては、封止基板4の表面(外側の表面)S2のJIS B 0601−1994の十点平均粗さRzは、1.0〜15μmであることが好ましく、2〜10μmであることがより好ましい。このような十点平均粗さRzが前記下限未満では前記表面S2の表面積が減少し外部に発光素子部で発熱した熱の放出量が減少し、有機EL素子が高温となり劣化が促進されてしまう傾向にあり、また、前記表面S2表面上に放熱層、或いは伝熱層を設ける場合、放熱層或いは放熱層と前記表面Sの界面における密着性が低下し剥がれやすくなってしまい、素子が故障し易くなる傾向にある。他方、前記上限を超えると表面S2にさらに特別な粗化工程を用いることになり生産性が悪化する傾向にある。
このような十点平均粗さ(JIS B 0601(1994年)により定義される十点平均粗さ)の測定に際しては、例えば、測定装置として接触式段差表面粗さ測定装置を採用して測定してもよい。
また、このような封止基板の材料は特に制限されないが、放熱性、加工の容易性の観点から、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金のうちのいずれかの金属材料からなることが好ましい。このような金属材料からなる封止基板としては、例えば、アルミニウム箔(アルミニウムホイル)や銅箔(銅ホイル)等が挙げられる。
さらに、このような封止基板4の中でも、電解法で作製された銅箔はピンホールがより少なくなり、水蒸気や酸素などが浸入防止の点でより高い効果が得られる傾向にあるといった観点から、電解法で製造された銅箔からなることがより好ましい。すなわち、このような電解法で製造された銅箔(銅ホイル)を封止基板4に用いることで、より効率よく有機ELの封止が可能となり、これにより銅箔のピンホールから水分が侵入して有機EL素子が劣化することをより十分に抑制することが可能となる。なお、このような電解法としては、特に制限されず、銅箔を製造することが可能な公知の電解法を適宜採用できる。
また、このような封止基板4の厚みは、特に制限されないが、5〜100μmとすることが好ましく、8〜50μmとすることがより好ましい。このような封止基板4の厚みが前記下限未満では、封止基板4の製造時にピンホールの発生を十分に抑制することが困難となり、ピンホールから水分が侵入して有機EL素子が劣化することをより高い水準で抑制することが困難(ピンホールによろ封止性能が低下する)傾向にあり、他方、前記上限を超えると、封止基板4のフレキシブル性が低下し、その結果として封止基板4のを貼合した有機ELデバイスを曲げた場合の曲率半径が増加し、有機EL素子のフレキシブル性が低下する傾向にある。
また、このような封止材層3及び封止基板4を透明支持基板1上に配置する方法としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用でき、例えば、透明支持基板1上の発光素子部2を覆うように接着性を有する材料からなる封止材を塗工し、その上に封止基板4を積層し、その後、封止材を固着させて、封止材層3及び封止基板4を透明支持基板1上に積層(配置)する方法を採用してもよい。また、封止基板4上に、封止材からなる層を予め形成しておき、かかる封止材からなる層が形成された封止基板4を、該封止材からなる層が発光素子部2の周囲を覆うことが可能となるようにしながら押し当て、封止材層3及び封止基板4を透明支持基板1上に積層(配置)する方法を採用してもよい。
また、厚み方向(封止基板4に対して垂直な方向)における封止基板4と発光素子部2との間の距離(発光素子部2と封止基板4との間の封止材層3の厚み:第二電極203の封止剤層3と接する面と、封止基板4の面S1との間の距離)としては、5〜120μmであることが好ましく、10〜60μmであることがより好ましい。このような封止基板4と発光素子部2との間の距離(発光素子部2と封止基板4との間の封止材層3の厚み)が前記下限未満では、屈曲時に第二電極203と封止基板4との接触を必ずしも十分に抑制できず、ショートの発生を十分に抑制することが困難となる傾向にあり、発光品位が低下し易くなる傾向にあり、また、屈曲時に封止基板4表面の凹凸により第二電極203に圧力がかかり押され、第一電極201が接触することでショートしてしまう傾向にある。他方、前記上限を超えると封止材層の外気と接触する表面が増大して、封止材層の横方向(厚み方向に対して垂直な方向:透明支持基板1の表面に対して平行な方向)からの水蒸気の進入量が多くなり、有機EL素子の保管寿命の低下をより高い水準で抑制することが困難となる傾向にある。
以上、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の好適な実施形態について、図1及び図2を参照しながら説明したが、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、図1に示す実施形態においては、発光素子部2が一対の電極(第一電極201、第二電極203)及び該電極間に配置されている発光層202を備えるものであったが、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光素子部2は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば、他の層を適宜備えていてもよい。以下、このような他の層について説明する。
このような有機EL素子において利用することが可能な一対の電極(第一電極201、第二電極203)及び発光層202以外の他の層としては、有機EL素子において利用されている公知の層を適宜利用でき、例えば、陰極と発光の間に設ける層、陽極と発光層の間に設ける層が挙げられる。このような陰極と発光層の間に設ける層としては、電子注入層、電子輸送層、正孔ブロック層等が挙げられる。なお、陰極と発光層の間に一層のみ設けた場合、かかる層は電子注入層である。また、陰極と発光層の間に二層以上設けた場合は、陰極に接している層を電子注入層と称し、それ以外の層は電子輸送層と称する。
このような電子注入層は、陰極からの電子注入効率を改善する機能を有する層であり、電子輸送層は、電子注入層又は陰極により近い電子輸送層からの電子注入を改善する機能を有する層である。なお、前記電子注入層、若しくは、前記電子輸送層が正孔の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層を正孔ブロック層と称することもある。このような正孔の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、ホール電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
陽極と発光層の間に設ける層としては、いわゆる正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層等が挙げられる。ここにおいて、陽極と発光層の間に一層のみ設けた場合、かかる層は正孔注入層であり、陽極と発光層の間に二層以上設けた場合は、陽極に接している層を正孔注入層と称し、それ以外の層は正孔輸送層等と称する。このような正孔注入層は、陰極からの正孔注入効率を改善する機能を有する層であり、正孔輸送層とは、正孔注入層又は陽極により近い正孔輸送層からの正孔注入を改善する機能を有する層である。また、正孔注入層、又は正孔輸送層が電子の輸送を堰き止める機能を有する場合には、これらの層を電子ブロック層と称することがある。なお、電子の輸送を堰き止める機能を有することは、例えば、電子電流のみを流す素子を作製し、その電流値の減少で堰き止める効果を確認することが可能である。
また、このような他の層を備える発光素子部の構造としては、陰極と発光層との間に電子輸送層を設けた構造、陽極と発光層との間に正孔輸送層を設けた構造、陰極と発光層との間に電子輸送層を設け、かつ陽極と発光層との間に正孔輸送層を設けた構造等が挙げられる。図1に示す実施形態及びそれ以外の発光素子部の構造としては、例えば、以下のa)〜d)の構造を例示することができる。
a)陽極/発光層/陰極 (図1に示す実施形態)
b)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
c)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
d)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(ここで、/は各層が隣接して積層されていることを示す。以下同じ。)
ここで、正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層である。なお、以下において、電子輸送層と正孔輸送層を総称して電荷輸送層と呼ぶ。また、発光層、正孔輸送層、電子輸送層は、それぞれ独立に2層以上用いてもよい。また、電極に隣接して設けた電荷輸送層のうち、電極からの電荷注入効率を改善する機能を有し、素子の駆動電圧を下げる効果を有するものは、特に電荷注入層(正孔注入層、電子注入層)と一般に呼ばれることがある。
さらに、電極との密着性向上や電極からの電荷注入の改善のために、電極に隣接して前記の電荷注入層又は膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよく、また、界面の密着性向上や混合の防止等のために電荷輸送層や発光層の界面に薄いバッファー層を挿入してもよい。このようにして、発光素子部に積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、発光効率や素子寿命を勘案して適宜設計して用いることができる。
このような電荷注入層(電子注入層、正孔注入層)を設けた発光素子部(有機EL素子部)としては、陰極に隣接して電荷注入層を設けた構造のもの、陽極に隣接して電荷注入層を設けた構造のもの等が挙げられる。
このような発光素子部(有機EL素子部)の構造としては、例えば、以下のe)〜p)の構造が挙げられる。
e)陽極/電荷注入層/発光層/陰極
f)陽極/発光層/電荷注入層/陰極
g)陽極/電荷注入層/発光層/電荷注入層/陰極
h)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/陰極
i)陽極/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
j)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷注入層/陰極
k)陽極/電荷注入層/発光層/電荷輸送層/陰極
l)陽極/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
m)陽極/電荷注入層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
n)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電荷輸送層/陰極
o)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
p)陽極/電荷注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷注入層/陰極
なお、発光層と他の層(例えば、後述する電荷輸送層等)とを積層する場合には、発光層を設ける前に、陽極上に正孔輸送層を形成する、または、発光層を設けた後に電子輸送層を形成することが望ましい。また、これらの他の層の材料は特に制限されず、公知の材料を適宜利用することができ、その製造方法も特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができる。例えば、陽極と発光層との間、又は正孔注入層と発光層との間に設けられる層である、正孔輸送層を形成する正孔輸送性材料としては、トリフェニルアミン類、ビス類、ピラゾリン誘導体、ポリフィリン誘導体に代表される複素環化合物、ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネート、スチレン誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン等が挙げられる。また、このような正孔輸送層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
また、前記電荷注入層のうちの正孔注入層(陽極と正孔輸送層との間、又は陽極と発光層との間に設けることができる層)を形成する材料としては、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム、酸化アルミニウム等の酸化物、アモルファスカーボン、ポリアニリン、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
さらに、発光層と陰極との間、または発光層と電子注入層との間に設けることができる層である電子輸送層を形成する材料としては、例えば、オキサジアゾール類、アルミニウムキノリノール錯体など、一般的に安定なラジカルアニオンを形成し、イオン化ポテンシャルの大きい物質が挙げられる。具体的には、1,3,4−オキサジアゾール誘導体、1,2,4−トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体などが挙げられる。電子輸送層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
また、前記電荷注入層のうちの電子注入層(電子輸送層と陰極との間、または発光層と陰極との間に設けられる層である。)としては、例えば、発光層の種類に応じて、Ca層の単層構造からなる電子注入層、または、Caを除いた周期律表IA族とIIA族の金属であり且つ仕事関数が1.5〜3.0eVの金属およびその金属の酸化物、ハロゲン化物および炭酸化物の何れか1種または2種以上で形成された層とCa層との積層構造からなる電子注入層を設けることができる。仕事関数が1.5〜3.0eVの、周期律表IA族の金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、リチウム、フッ化リチウム、酸化ナトリウム、酸化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられる。また、仕事関数が1.5〜3.0eVの、Caを除いた周期律表IIA族の金属またはその酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物の例としては、ストロンチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、酸化ストロンチウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。電子注入層は、蒸着法、スパッタリング法、印刷法等により形成される。電子注入層の膜厚としては、1nm〜1μm程度が好ましい。
また、上述の本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の好適な実施形態において、その素子に用いる透明支持基板1の好適な例として、図2を参照しながらガスバリア性積層フィルムを説明したが、このようなガスバリア性積層フィルムの構成も図2に示す実施形態に制限されるものではなく、薄膜層を更に備えるものであっても、他の積層構造となっているものであってもよい。なお、薄膜層を更に備えるガスバリア性積層フィルムの例としては、例えば、「第一薄膜層/第一基材層/接着剤層/第二薄膜層/第二基材層/第三薄膜層」の順で積層した構造を有するガスバリア性積層フィルムなどが挙げられる(ここにおいて、「/」は各層が積層されていることを示す。)。なお、このような「第一薄膜層/第一基材層/接着剤層/第二薄膜層/第二基材層/第三薄膜層」の順で積層した構造を有するガスバリア性積層フィルムは、例えば、前述の工程(A)において、第二のフィルム部材として基材の両面に薄膜層を形成したものを準備して利用する以外は、前述の工程(A)及び(B)を含む方法と同様の方法を採用して適宜製造することができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(調製例1)
〈フィルム部材(A)の調製〉
真空チャンバー内の真空度を1Paに変更した以外は特開2011−73430号公報の実施例1に記載の方法と同様の方法を採用して、2軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)からなる基材上にプラズマCVD法による薄膜形成を行い、厚みが1.2μmの薄膜層が形成された基材からなる積層フィルム(薄膜層/基材層の順に積層された積層体:以下「フィルム部材(A)」という。)を得た。
〈フィルム部材(B)の調製〉
上述のようにしてフィルム部材(A)を得た後、前記基材の代わりにフィルム部材(A)を用いて、フィルム部材(A)の薄膜層が形成されていない側の表面上に、フィルム部材(A)の調製時に採用した成膜条件と同様の条件を採用して新たに薄膜層を形成して、厚みが1.2μmの薄膜層が両面に形成された基材からなる積層フィルム((薄膜層/基材層/薄膜層の順に積層された積層体:以下「フィルム部材(B)」という。)を得た。
なお、フィルム部材(A)及び(B)に形成された薄膜層に対して、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、珪素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を得たところ、各薄膜層の炭素分布曲線は、複数の明確な極値を有しており、炭素の原子比の最大値及び最小値の差の絶対値が5at%以上であり、かつ、珪素の原子比、酸素の原子比及び炭素の原子比が、式(1):
(酸素の原子比)>(珪素の原子比)>(炭素の原子比)・・・(1)
で示された条件を満たしていることが確認された。
〈XPSデプスプロファイル測定の条件〉
エッチングイオン種:アルゴン(Ar+)
エッチングレート(SiO2熱酸化膜換算値):0.05nm/sec
エッチング間隔(SiO2換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名「VG Theta Probe」
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形。
また、このようなフィルム部材(A)のガスバリア性をカルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)に準拠した方法で測定した。すなわち、フィルム部材に対して、乾燥処理後、金属カルシウムを蒸着し、その上から金属アルミニウムで封止し、ガラスに固定後、樹脂で封止したサンプルを温度40℃、湿度90%RHの条件での腐食点の経時変化による増加を画像解析で調べて水蒸気透過度を算出した。なお、このような水蒸気透過度の算出に際しては、腐食点をマイクロスコープで撮影し、その画像をパーソナルコンピューターに取り込んで、腐食点の画像を2値化し、腐食面積を算出して求めることにより、水蒸気透過度を算出した。その結果、フィルム部材(表面上に薄膜層を成膜した基材)の水蒸気透過度は、1×10−5g/m2/dayであった。なお、基材(PENフィルム)のみからなる試料を用いて、同様に上記カルシウム腐食法(特開2005−283561号公報に記載される方法)に準拠した方法でガスバリア性を測定したところ、基材のガスバリア性は1.3g/m2/dayであった。このような結果から、「基材の水蒸気透過度」に対して「薄膜層を成膜した基材の水蒸気透過度」の方が2桁以上小さい値を示すことが確認され、フィルム部材中の薄膜層はガスバリア性を有するものであることが確認された。このような結果から、フィルム部材(A)及び(B)中の薄膜層は、それぞれガスバリア性を有するものであることが分かった。
〈ガスバリア性積層フィルムの調製〉
上述のようにして得られたフィルム部材(A)とフィルム部材(B)とを共に真空オーブン中で100℃の温度条件で360分間乾燥した。その後、前記2枚のフィルム部材を真空オーブンから大気中(気温:25℃、相対湿度:50%、重量絶対湿度:10g/kg(乾燥空気))に取り出し、接着剤としてビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる主剤からなる主剤と変性ポリアミドからなる硬化剤との混合により室温(25℃)で硬化する2液型エポキシ接着剤を用いて、フィルム部材(A)の基材側の表面とフィルム部材(B)の薄膜層とが向かい合うようにして、ゴム硬度60のシリコンゴムロールの貼合装置で貼り合わせて、ガスバリア性積層フィルムを得た。ここにおいて、前記2枚のフィルム部材を真空オーブンから取り出して、これらを貼り合せる工程を開始するまでに要した時間は10分であり、貼り合せに要した時間は15分であった。このように、乾燥工程後の前記2枚のフィルム部材を真空オーブンから取り出してガスバリア性積層フィルムを形成するまでに合計25分の時間を要した。このようにして得られたガスバリア性積層フィルムの積層構造は「第一薄膜層/第一基材層/接着剤層/第二薄膜層/第二基材層/第三薄膜層」の順で積層した構造となった。なお、ガスバリア性積層フィルム中の「第一薄膜層/第一基材層」の積層構造部分はフィルム部材(A)に由来する構造であり、「第二薄膜層/第二基材層/第三薄膜層」の積層構造部分はフィルム部材(B)に由来する構造である。また、このようにして得られたガスバリア性積層フィルムは、上述のようにしてガスバリア性積層フィルムの吸湿性能(前述の吸湿量の割合Bn)を測定したところ、自重の0.29質量%の重さの水を吸収して保持することが可能なものであることが確認された。
(実施例1)
調製例1で得られたガスバリア性積層フィルム中の前記第一薄膜層(フィルム部材(A)に由来する薄膜層)上に、メタルシャドウマスクを用いて、スパッタリング法にて膜厚150nmのITO膜をパターン成膜した。なお、かかるパターン成膜において、ITO膜は、前記ガスバリア性積層フィルムの表面上において2つの領域が形成されるようにパターン成膜され、一方の領域を陰極用の取り出し電極として利用し、他方の領域を陽極(ITO電極)として利用した。
次に、前記ガスバリア性積層フィルムのITO膜(ITO電極)が形成されている面に対して、UV−O3装置(テクノビジョン社製)を用いてUV−O3処理を15分間行って、ITO膜が形成されている面の表面のクリーニング及び表面改質を行った。
次いで、前記ITO膜が形成されている前記ガスバリア性積層フィルムの表面上に、ポリ(3,4)エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(ヘレウス社製の商品名「AI4083」)の懸濁液を0.2ミクロン径のフィルターでろ過して得られたろ液を、スピンコートにより成膜し、大気中、ホットプレート上において130℃の温度条件で30分間乾燥して、前記ITO膜上に65nmの厚みの正孔注入層を形成した。
次に、有機溶媒のキシレンに発光材料(高分子化合物1)を溶解させたキシレン溶液を準備した。なお、このような発光材料(高分子化合物1)は特開2012−144722号公報の実施例1に記載の組成物1の調製方法と同様の方法により調製した。また、このようなキシレン溶液における高分子化合物1の濃度は1.2質量%とした。
次いで、ITO膜及び正孔注入層が形成された前記ガスバリア性積層フィルムの正孔注入層が形成されている表面上に、大気雰囲気中において、前記キシレン溶液をスピンコート法により塗布して、厚さが80nmの発光層用の塗布膜を成膜し、その後、酸素濃度及び水分濃度がそれぞれ体積比で10ppm以下に制御された窒素ガス雰囲気中において130℃の温度条件で10分間保持して乾燥させて、正孔注入層上に発光層を積層せしめた。次に、外部電極との接触部(陽極用及び陰極用の取り出し電極の部分)の上に成膜された正孔注入層及び発光層を除去して、前記外部電極との接触可能となるように一部を露出せしめた後、蒸着チャンバーにITO膜、正孔注入層及び発光層が形成された前記ガスバリア性積層フィルムを移し、陰極マスクとの位置を調整(アライメント)して、発光層の表面上に陰極を積層しつつ陰極用の取り出し電極の部分に陰極が電気的に接続されるように陰極を成膜するために、マスクと基板を回転させながら陰極を蒸着した。このようにして形成した陰極は、先ず、フッ化ナトリウム(NaF)を加熱して蒸着速度約0.5Å/secで厚さ4nmとなるまで蒸着した後に、アルミニウム(Al)を蒸着速度約4Å/secで厚さ100nmとなるまで蒸着して積層した構成とした。
次に、厚みが35μmであり、一方の表面(以下、便宜上、場合により単に「第一の表面」という。)は算術平均粗さRaが0.25μmでかつ十点平均粗さRzが1μmである表面粗さを有し、もう一方の表面(以下、便宜上、場合により単に「第二の表面」という。)が算術平均粗さRaが2.4μmでかつ十点平均粗さRzが9.5μmである表面粗さを有する銅ホイルを、陰極側に積層後、陰極側から見た場合に、前記陰極や発光層の全体が隠れるような大きさで、かつ、外部電極との接触部(陽極用及び陰極用の取り出し電極の部分)の一部が外部にはみ出すような大きさを有する形状(図3に示すように、電解銅ホイル(封止基板4)を上側から見た場合に、陰極よりも大きな面積を有して陰極が見えなくなるような大きさで、かつ前記ガスバリア性積層フィルム上に形成されている外部との接触部(陽極用及び陰極用の取り出し電極の部分)の一部がそのホイルの外側にはみ出して見えるような大きさを有する形状)にローラーカッターを用いて切り出して、封止基板を準備した。なお、このようにして準備した銅ホイルは縦40mm、横40mm、厚み35μmのものであった。さらに、このような銅ホイルとしては、電解法により製造した電解銅箔を利用した。
また、封止材としてビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる主剤、変性ポリアミドからなる硬化剤との混合により室温(25℃)で硬化する2液型エポキシ接着剤を準備した。また、前記封止基板(前記銅ホイル)を窒素雰囲気中、130℃の温度条件で15分間加熱して、それらの表面に吸着している水を除去した(乾燥処理を施した)。
次いで、前記封止材をITO膜/正孔注入層/発光層/陰極の積層構造部分からなる発光部を覆うように封止材を塗布し、その封止材の層上に、封止基板と発光層とが向かい合うように封止基板を貼り合せて封止を行った。すなわち、ITO膜/正孔注入層/発光層/陰極からなる積層構造部分を覆うように前記封止材(接着剤)を塗布して(ただし、各電極と外部とを電気的に接続することを可能とするための接続部(取り出し電極の部分)の一部は除く。)、窒素中で気泡が入らないようにして、前記陰極形成後の前記ガスバリア性積層フィルムの表面上の封止材(接着剤)の層上に、前記第一の表面(Raが0.25μmの表面)が接するように封止基板を貼り合せることで、発光素子部(ITO膜/正孔注入層/発光層/陰極の積層構造部分:取り出し電極の一部の部分を除く。)を封止して、有機EL素子を製造した。なお、このような有機EL素子はフレキシブルなものであり、図1に示す実施形態の有機EL素子の発光素子部2に対して、更に、正孔注入層を積層したような構造のもの(図1に示す発光素子部2とは正孔注入層を更に有する点で発光素子部の構成が異なるものの、それ以外は基本的に同様の構成の有機EL素子)となった。なお、透明支持基板1としては、「第一薄膜層/第一基材層/接着剤層/第二薄膜層/第二基材層/第三薄膜層」の順で積層した構造のガスバリア性積層フィルムを用いている。また、ここにおいて封止材層の厚み(透明支持基板上の高さ)は10μmであり、封止基板(銅ホイル)と陰極との間の距離は10μmであった。なお、このような有機EL素子を封止基板側から見た場合の模式図を図3に示す。図3に示すように、実施例1で得られた有機EL素子を封止基板4側から見ると、透明支持基板1と、陽極201の外部に引き出されている部分(外部との接続部分:取り出し電極の部分)と、陰極と外部との接続部(取り出し電極)203(a)と、封止基板4とが確認できる。このように、本実施例において、封止材及び封止基板を用いた封止に際しては、各電極の取り出し電極の一部が外部と接続可能なような状態にしながら、発光素子部(ITO膜/正孔注入層/発光層/陰極からなる積層構造部分)の周囲を覆うようにして封止した(図1及び図3参照)。なお、このような有機EL素子においては、前記封止基板の封止材層と接触している面の算術平均粗さが封止材層と接触していない面の算術平均粗さよりも小さな値を有し、かつ、封止材層と接触している面の算術平均粗さRaと、封止材層の厚みtとの比(Ra/t)が0.025となっていた。なお、図3に示すガスバリア性積層フィルム(透明支持基板1)の横方向の長さXは50mmであり、封止基板4の横方向の長さYが40mmであった。また、本実施例において、発光素子部において発光エリア(発光する部分の面積)の大きさは縦10mm、横10mmであった。
(比較例1)
前記封止用積層体の製造時に、前記封止基板の算術平均粗さRaが0.25μmの表面(第一の表面)が接触するように前記封止材層上に前記封止基板を貼り合せる代わりに、前記封止基板の算術平均粗さRaが2.4μmの表面(第二の表面)が接触するように前記封止材層上に前記封止基板を貼り合せた以外は、実施例1と同様にして、有機EL素子を製造した。このような有機EL素子は、前記封止基板の封止材層と接触している面の算術平均粗さRaが封止材層と接触していない面の算術平均粗さRaよりも大きな値を有し、封止材層と接触している面の算術平均粗さRaと、封止材層の厚みtとの比(Ra/t)が0.24となっていた。
[実施例1及び比較例1で得られた有機EL素子の特性の評価]
実施例1及び比較例1で得られた各有機EL素子に、逆バイアス電圧を印加してから、順バイアス電圧を印加して発光させた。そして、逆バイアス電圧−5Vの時の電流密度を測定したところ、実施例1及び比較例1で得られた各有機EL素子の初期状態のもの(後述の屈曲試験前の状態のもの)は、電流密度はそれぞれ−0.29mA/cm2(実施例1)、−0.29mA/cm2(比較例1)であった。なお、このような電流密度は測定装置として、直流電電装置とマルチメーターをを用いて電流電圧を測定することで測定した。
次に、各有機EL素子を図3に示す長さXの辺が湾曲するように屈曲させた後に元に戻す工程を100回繰り返し実施した(屈曲試験)。なお、各有機EL素子を屈曲させる際には、最大に屈曲させた際の曲率半径が25mmとなるようにして屈曲させた。
次いで、このような屈曲試験後の各有機EL素子を用いて、逆バイアス電圧を印加してから、順バイアス電圧を印加して発光させた。このようにして、逆バイアス電圧−5Vの時の電流密度を測定したところ、実施例1及び比較例1で得られた各有機EL素子は、屈曲試験後の電流密度はそれぞれ、−0.29mA/cm2(実施例1)、−0.4mA/cm2以上(比較例1)となっていた。
このように、実施例1でで得られた有機EL素子は、電流密度が初期状態において−0.29mA/cm2でありかつ屈曲試験後も−0.29mA/cm2であることから、屈曲試験の前後において電流密度の値に差がなく(同等の値であり)、短絡による故障(ショート故障)は特に発生していないことが分かった。一方、比較例1で得られた有機EL素子は、初期状態においては電流密度が−0.29mA/cm2であるのに対して屈曲試験後においては電流密度が−0.4mA/cm2以上となっていることから、屈曲試験により電流密度が測定誤差を大きく超えるような幅で大きくなっていることが確認され、屈曲試験後に短絡による故障(ショート故障)が発生していることが確認された。また、発光状態を確認したところ、実施例1で得られた有機EL素子においては屈曲試験の前後においてほぼ同等の発光状態であり、発光品位が十分に維持されているのに対して、比較例1で得られた有機EL素子においては、発光輝度が低下したり、ダークスポットが発生したりする等、屈曲試験により発光品位を十分に維持することができなかった。
このような結果から、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(実施例1)においては、屈曲後の短絡(ショート)の発生を十分に抑制することを可能であり、繰り返し屈曲させるような使用環境下においても十分に使用可能であることが確認された。