JP6672620B2 - 油井用ステンレス鋼及び油井用ステンレス鋼管 - Google Patents

油井用ステンレス鋼及び油井用ステンレス鋼管 Download PDF

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Description

本発明は、ステンレス鋼及びステンレス鋼管に関し、さらに詳しくは、油井用ステンレス鋼及び油井用ステンレス鋼管に関する。
近年の原油価格及び天然ガス価格の高騰に伴い、より過酷な腐食環境下の油井及び天然ガス井の開発が進められている。このような油井及び天然ガス井は一般に、CO2、H2S、Cl-等を含む腐食環境である。したがって、このような油井及び天然ガス井で使用される油井用鋼管の素材となる鋼には、耐CO2腐食性が求められる。上述の腐食環境下では、耐CO2腐食性に優れた、質量%で13%程度のCrを含有するマルテンサイトステンレス鋼(いわゆる「13%Cr鋼」)を用いた油井用鋼管が使用されている。
ところで、最近開発が進められている大深度油井は150℃を超える高温の腐食環境である。このような高温腐食環境で使用されるステンレス鋼では、高い強度が求められ、さらに、優れた耐食性が求められる。より具体的には、大深度油井のような高温腐食環境で使用されるステンレス鋼には、耐食性として、高温での優れた耐応力腐食割れ(Stress Corrosion Cracking、以下、SCCという)性が求められる。さらに、常温で、優れた耐硫化物応力割れ(Sulfide Stress Cracking、以下、SSCという)性が求められる。高温腐食環境の油井から生産された流体(原油又はガス)は、油井管内を流れる。流体の生産が何らの原因で停止したとき、地表付近に配置された油井管内の流体温度は常温まで低下する。常温の流体と接触している油井管において、SSCが発生する可能性がある。したがって、大深度油井に使用される油井用ステンレス鋼では、高温での耐SCC性だけでなく、常温での耐SSC性も要求される。最近では、さらなる深井戸化により、125ksi級(862MPa以上)の強度を有するステンレス鋼が求められている。
13%Cr鋼の強度及び耐食性は、このような高温腐食環境下では不十分である。2相ステンレス鋼は、高温腐食環境下においても十分な強度及び耐食性を有する。しかしながら、2相ステンレス鋼は、合金元素の含有量が高く、製造コストが高いという問題がある。
そこで、2相ステンレス鋼よりも合金元素の含有量が少なく、高強度を有し、かつ、高温腐食環境下でも高い耐食性を有するステンレス鋼が、特開2005−105357号公報(特許文献1)、特開2012−149317号公報(特許文献2)、国際公開第2009/119048号公報(特許文献3)、国際公開第2010/134498号公報(特許文献4)及び国際公開第2011/136175号公報(特許文献5)に提案されている。
特許文献1に開示された油井用高強度ステンレス鋼管は、C:0.05%以下、Si:0.50%以下、Mn:0.10〜1.80%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:14.0〜17.0%、Ni:5.0〜8.0%、Mo:1.0〜3.5%、Cu:0.5〜3.5%、Al:0.05%以下、V:0.20%以下、N:0.03〜0.15%、O:0.006%以下を含有し、さらに、Nb:0.2%以下、Ti:0.3%以下のうちから選ばれた1種又は2種を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなる組成を有する。上記鋼管の組織には、析出物中のMC型炭窒化物が全析出物量に対する質量%で3.0%以上存在する。これにより、高強度及び優れた耐食性が得られる、と特許文献1には記載されている。
特許文献2に開示された高強度マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管は、質量%で、C:0.01%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.1〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、Cr:15.5%超17.5%以下、Ni:2.5〜5.5%、Mo:1.8〜3.5%、Cu:0.3〜3.5%、V:0.20%以下、Al:0.05%以下、N:0.06%以下を含む組成を有し、焼入れ焼戻処理を施して、降伏強さ:655〜862MPaの強度と降伏比:0.90以上の引張特性を有する。これにより、降伏強さを油井用として所定の強度を確保したうえで、降伏比を0.90以上とすることにより、低引張強さの鋼管となり、耐炭酸ガス腐食性および耐硫化物応力腐食割れ性等の耐食性が向上する、と特許文献2には記載されている。
特許文献3に開示されたステンレス鋼は、油井管に用いられる。このステンレス鋼は、質量%で、C:0.001〜0.05%、Si:0.05〜1%、Mn:2%以下、P:0.03%以下、S:0.002%未満、Cr:16〜18%、Ni:3.5〜7%、Mo:2%を超え4%以下、Cu:1.5〜4%、希土類金属:0.001〜0.3%、sol.Al:0.001〜0.1%、Ca:0.0001〜0.01%、O:0.05%以下及びN:0.05%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなる。このステンレス鋼は、炭酸ガスを含む高温塩化物水溶液環境において、腐食速度が小さく、かつ、耐SCC性に優れる、と特許文献3には記載されている。
特許文献4に開示された油井用ステンレス鋼は、以下の化学組成及び組織を有し、758MPa以上の0.2%オフセット耐力を有する。化学組成は、質量%で、C:0.05%以下、Si:0.5%以下、Mn:0.01〜0.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:16.0超〜18.0%、Ni:4.0超〜5.6%、Mo:1.6〜4.0%、Cu:1.5〜3.0%、Al:0.001〜0.10%、N:0.050%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす。組織は、マルテンサイト相と、体積率で10〜40%のフェライト相とを含む。そして、各々がステンレス鋼の表面から厚さ方向に50μmの長さを有し、10μmピッチで200μmの範囲に一列に配列された複数の仮想線分をステンレス鋼の断面に配置したとき、仮想線分の総数に対するフェライト相と交差する仮想線分の数の割合は85%よりも多い。Cr+Cu+Ni+Mo≧25.5 (1)、−8≦30(C+N)+0.5Mn+Ni+Cu/2+8.2−1.1(Cr+Mo)≦−4 (2)、ここで、式(1)及び式(2)中の元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。このステンレス鋼は、0.2%オフセット耐力で758MPa以上の高強度を有し、高温環境で優れた耐食性及び優れた耐SSC性を有する、と特許文献4には記載されている。
特許文献5に開示された高強度ステンレス鋼は、質量%で、C:0.05%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.3%以下、P:0.05%以下、S:0.002%未満、Cr:16%を超え18%以下、Mo:1.5〜3.0%、Cu:1.0〜3.5%、Ni:3.5〜6.5%、Al:0.001〜0.1%、N:0.025%以下、及び、O:0.01%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成と、マルテンサイト相と、体積率で10〜48.5%のフェライト相と、体積率で10%以下の残留オーステナイト相とを含む組織とを有し、758MPa以上の降伏強度と、10%以上の均一伸びとを有する。このステンレス鋼は、高温環境で優れた耐食性を有し、常温で優れた耐SSC性を有する。さらに、758MPa以上の耐力を有し、13%Cr鋼よりも優れた加工性を有する、と特許文献5には記載されている。
特開2005−105357号公報 特開2012−149317号公報 国際公開第2009/119048号公報 国際公開第2010/134498号公報 国際公開第2011/136175号公報
ところで、大深度油井開発は、寒冷地でも行われる。油井管が寒冷地の大深度油井開発で使用される場合、油井管を構成する鋼には、上述の高強度、優れた耐食性(高温での優れた耐SCC性及び常温での優れた耐SSC性)に加え、優れた低温靭性が求められる。特許文献1〜5では、125ksi級(862MPa)以上といった高強度を有し、かつ、優れた耐食性及び優れた低温靭性を有するステンレス鋼について開示されていない。
さらに、これらの文献のステンレス鋼の多くが、10%以上のフェライトを含む。大深度油井開発では、15mm以上の肉厚の油井管が利用される場合がある。このような厚肉の油井管のミクロ組織が10%以上のフェライトを含有する場合、低温靭性が低い場合がある。
本発明の目的は、高強度を有し、高温での耐SCC性、常温での耐SSC性、及び、低温靭性に優れる油井用ステンレス鋼及び油井用ステンレス鋼管を提供することである。
本発明による油井用ステンレス鋼は、質量%で、C:0.04%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.01〜0.5%、Cr:16.0〜18.0%、Mo:2.0〜3.0%、Cu:0.7〜3.5%、Ni:4.8〜6.0%、sol.Al:0.001〜0.1%、W:0〜2.0%、V:0〜0.5%、Ca:0〜0.01%、及び、Mg:0〜0.01%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物のうち、P、S、O、N、Ti、Nb及びBはそれぞれ、P:0.05%以下、S:0.002%未満、O:0.02%以下、N:0.02%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、及び、B:0.005%以下であり、式(1)で定義されるFn1が80以上である化学組成と、体積率で、10〜50%のフェライトと、5〜20%の残留オーステナイトとを含有し、残部がマルテンサイトからなるミクロ組織とを有する。
Fn1=576.5−2660.7×[C]−74.9×[Ni]−37.4×[Cu] (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本発明による油井用ステンレス鋼管は、上述の油井用ステンレス鋼から製造される。
本発明による油井用ステンレス鋼及び油井用ステンレス鋼管は、高強度を有し、高温での耐SCC性、常温での耐SSC性及び低温靭性に優れる。
本発明者は、125ksi級(862MPa以上)の高強度を有しつつ、高温での耐SCC性、常温での耐SSC性及び低温靭性に優れるステンレス鋼について調査及び検討した。その結果、本発明者は次の知見を得た。
残留オーステナイトは、低温靭性を高める。しかしながら、過剰な残留オーステナイト量は、鋼の強度を低下する。一方、マルテンサイトは鋼の強度を高める。したがって、焼入れ及び焼戻しによりミクロ組織中にマルテンサイトを生成しつつ、残留オーステナイト量を適切に調整できれば、高強度が得られつつ、優れた低温靭性も得られる。
ニッケル(Ni)は、焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量、特に、焼戻し後の残留オーステナイト量を増加する。そのため、Niは残留オーステナイト量を増加して低温靭性を高めることができる。さらに、銅(Cu)は、焼戻し時に微細なCu粒子として析出して、鋼の強度を高める。したがって、Ni含有量及びCu含有量を調整することにより、高強度及び低温靭性に優れた鋼が得られる。
しかしながら、Ni及びCuは、Cとともにマルテンサイト変態温度に影響を与える。より具体的には、C含有量、Ni含有量及びCu含有量が高ければ、鋼のマルテンサイト変態温度が低下する。この場合、マルテンサイト変態が発生しにくくなり、焼入れ後の残留オーステナイト量が過剰に多くなる。その結果、鋼の強度が低下してしまう。
残留オーステナイト量の指標Fn1を式(1)で定義する。
Fn1=576.5−2660.7×[C]−74.9×[Ni]−37.4×[Cu] (1)
式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
Fn1が80以上である場合、上述の化学組成を有するステンレス鋼のミクロ組織において、残留オーステナイトの体積率が5〜20%となり、降伏強度が862MPa以上となる。この場合、肉厚が15mm以上の油井用ステンレス鋼管であっても、高い強度及び優れた低温靭性が得られる。
Ti、Nb及びBはいずれも、鋼の強度を高めるものの、鋼の低温靭性を低下する。したがって、本発明において、Ti、Nb及びBは不純物であり、これらの含有量はなるべく低い方が好ましい。
以上の知見に基づいて完成した油井用ステンレス鋼は、質量%で、C:0.04%以下、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.01〜0.5%、Cr:16.0〜18.0%、Mo:2.0〜3.0%、Cu:0.7〜3.5%、Ni:4.8〜6.0%、sol.Al:0.001〜0.1%、W:0〜2.0%、V:0〜0.5%、Ca:0〜0.01%、及び、Mg:0〜0.01%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物のうち、P、S、O、N、Ti、Nb及びBはそれぞれ、P:0.05%以下、S:0.002%未満、O:0.02%以下、N:0.02%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、及び、B:0.005%以下であり、式(1)で定義されるFn1が80以上である化学組成と、体積率で、10〜50%のフェライトと、5〜20%の残留オーステナイトとを含有し、残部がマルテンサイトからなるミクロ組織とを有する。
Fn1=576.5−2660.7×[C]−74.9×[Ni]−37.4×[Cu] (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
好ましくは、上記油井用ステンレス鋼はさらに、式(2)で定義されるFn2が2.5以上である。
Fn2=[Ni]/[Cu] (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
この場合、低温靭性がさらに高まる。
上記油井用ステンレス鋼はW:0.2〜2.0%を含有してもよい。上記油井用ステンレス鋼はまた、V:0.01〜0.5%を含有してもよい。上記油井用ステンレス鋼はまた、Ca:0.0005〜0.01%、及び、Mg:0.0005〜0.01%のうちの1種以上を含有してもよい。
本発明による油井用ステンレス鋼管は、上述の油井用ステンレス鋼から製造される。
好ましくは、上記油井用ステンレス鋼管ではさらに、Ni含有量が式(3)で定義されるFn3よりも高い。
Fn3=0.0211×t+4.4606 (3)
ここで、式(3)中のt(mm)は、油井用ステンレス鋼管の肉厚(mm)を意味する。
この場合、Niが肉厚に対して十分に含有されるため、さらに優れた低温靭性が得られる。
上述の油井用ステンレス鋼管はたとえば、15mm以上の肉厚を有する。上述のステンレス鋼管はたとえば、862MPa以上の降伏強度を有する。
以下、本発明による油井用ステンレス鋼及び油井用ステンレス鋼管について説明する。
[化学組成]
本実施形態の油井用ステンレス鋼の化学組成は、次の元素を含有する。特に断りがない限り、元素に関する%は質量%を意味する。
C:0.04%以下
炭素(C)は不可避的に含有される。Cは、焼戻し時に炭化物として析出する。この場合、鋼の高温での耐CO2腐食性及び耐SCC性が低下する。さらに、C含有量が高すぎれば、焼入れ時の残留オーステナイトの生成量が多くなる。この場合、残留オーステナイトの生成量を低減するために、強度及び低温靭性に有効なCu及びNi含有量を低下しなければならない。したがって、C含有量は低い方が好ましい。C含有量は0.04%以下である。C含有量の好ましい上限は0.035%であり、さらに好ましくは0.03%である。実際の操業において、C含有量の下限はたとえば0.001%である。
Si:0.05〜1.0%
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Si含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Si含有量が高すぎれば、鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は0.05〜1.0%である。Si含有量の好ましい下限は0.10%である。Si含有量の好ましい上限は0.75%であり、さらに好ましくは0.50%である。
Mn:0.01〜0.5%
マンガン(Mn)は鋼を脱酸する。Mn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、焼入れ焼戻し後にオーステナイトが過剰に残留しやすくなり、残留オーステナイトの体積率が20%を超えるおそれがある。この場合、焼戻し後の鋼の強度が低下する。したがって、Mn含有量は0.01〜0.5%である。Mn含有量の好ましい下限は0.05%である。Mn含有量の好ましい上限は0.4%であり、さらに好ましくは0.3%であり、特に好ましくは0.15%未満である。
Cr:16.0〜18.0%
クロム(Cr)は、高温腐食環境下での耐SCC性を高める。Cr含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Crはフェライト形成元素であるため、Cr含有量が高すぎれば、鋼中のフェライト量が過剰に多くなり、鋼の強度が低下する。したがって、Cr含有量は16.0〜18.0%である。Cr含有量の好ましい下限は16.5%である。Cr含有量の好ましい上限は17.5%である。
Ni:4.8〜6.0%
ニッケル(Ni)はオーステナイト形成元素であり、高温でのオーステナイトを安定化する。そのため、Niは、常温でのマルテンサイト量を増加させ、鋼の強度を高める。Niはさらに、高温腐食環境下での鋼の耐SCC性を高める。Niはさらに、焼戻し時に、室温で安定な残留オーステナイトの生成を促進し、低温靭性を高める。Ni含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、焼戻し時に生成される残留オーステナイトが過剰に多くなる。したがって、Ni含有量は4.8〜6.0%である。Ni含有量の好ましい下限は4.9%であり、さらに好ましくは5.0%である。Ni含有量の好ましい上限は5.9%である。
なお、本発明の鋼の化学組成においては、焼入れ後の段階で存在するオーステナイト、所謂残留オーステナイトの他に、上記のように焼戻し段階でオーステナイトが生成する。したがって、焼戻し後の最終製品においては、焼入れ後の段階から存在する残留オーステナイトと、焼戻し後に生成するオーステナイトとを含めて、「残留オーステナイト」の統一呼称を用いる。
Mo:2.0〜3.0%
油井において流体の生産が一時停止したとき、油井管内の流体の温度は低下する。この場合、鋼の硫化物応力割れ(SSC)感受性は高まる。モリブデン(Mo)は、耐SSC性を高める。Moはさらに、Crとともに含有されることにより、高温での耐SCC性を高める。Mo含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Moはフェライト形成元素であるため、Mo含有量が高すぎれば、鋼中のフェライトが過剰に多く生成し、鋼の強度が低下する。したがって、Mo含有量は2.0〜3.0%である。Mo含有量の好ましい下限は2.2%である。Mo含有量の好ましい上限は2.8%である。
Cu:0.7〜3.5%
銅(Cu)は、焼戻し時に微細なCu粒子として析出して、鋼の強度を高める。Cuはさらに、高温腐食環境下における鋼の溶出速度を低下し、鋼の耐食性を高める。Cu含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Cu含有量が高すぎれば、焼入れ時にマルテンサイト変態が十分に進行せず、残留オーステナイト量が過剰に多くなる。この場合、鋼の強度が低下する。したがって、Cu含有量は0.7〜3.5%である。Cu含有量の好ましい下限は0.8%であり、さらに好ましくは0.9%である。Cu含有量の好ましい上限は3.0%であり、さらに好ましくは2.7%である。
sol.Al:0.001〜0.1%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。sol.Al含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、sol.Al含有量が高すぎれば、その効果は飽和する。sol.Al含有量が高すぎればさらに、介在物が過剰に生成して、鋼の耐SSC性及び低温靭性が低下する。したがって、sol.Al含有量は0.001〜0.1%である。ここで、sol.Alとは酸可溶Alを意味する。sol.Al含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.05%未満であり、さらに好ましくは0.035%である。
本実施形態によるステンレス鋼の残部はFe及び不純物である。ここでいう不純物とは、ステンレス鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入されるものであって、本実施形態のステンレス鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
不純物のうち、P、S、O、N、Ti、Nb及びBの含有量は、次のとおりである。
P:0.05%以下
燐(P)は不純物である。Pは粒界に偏析して、鋼の耐CO2腐食性及び耐SSC性を低下する。したがって、P含有量は0.05%以下である。P含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。
S:0.002%未満
硫黄(S)は不純物である。Sは粒界に偏析して鋼の耐SSC性を低下する。Sはさらに、鋼の熱間加工性を低下する。そのため、S含有量は0.002%未満である。S含有量の好ましい上限は0.001%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。
O:0.02%以下
酸素(O)は不純物である。Oは粗大な酸化物を形成して鋼の靭性及び耐SSC性を低下する。したがって、O含有量は0.02%以下である。O含有量の好ましい上限は0.01%であり、さらに好ましくは0.005%である。O含有量はなるべく低い方が好ましい。
N:0.02%以下
窒素(N)は不純物である。Nは粗大な窒化物を形成する。粗大な窒化物は孔食の起点となり、鋼の耐SSC性を低下する。したがって、N含有量は0.02%以下である。N含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.012%である。N含有量はなるべく低い方が好ましい。
Ti:0.1%以下
チタン(Ti)は不純物である。本化学組成において、Tiは鋼の低温靭性を低下する。そのため、Ti含有量はなるべく低い方が好ましい。Ti含有量は0.1%以下である。好ましいTi含有量は0.04%以下であり、より好ましくは、0.02%以下であり、さらに好ましくは、0.01%以下である。
Nb:0.1%以下
ニオブ(Nb)は不純物である。本化学組成において、Nbは鋼の低温靭性を低下する。そのため、Nb含有量はなるべく低い方が好ましい。Nb含有量は0.1%以下である。好ましいNb含有量は0.04%以下であり、より好ましくは0.02%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。
B:0.005%以下
ボロン(B)は不純物である。本化学組成において、Bは鋼の低温靭性を低下する。そのため、B含有量はなるべく低い方が好ましい。B含有量は0.005%以下である。好ましいB含有量は0.003%以下であり、さらに好ましくは0.001%以下である。
本実施形態のステンレス鋼はさらに、Feの一部に代えて、Wを含有してもよい。
W:0〜2.0%
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、WはMoと同様に、鋼の耐SSC性を高める。Wはさらに、Crとともに含有されることにより、高温での鋼の耐SCC性を高める。Wが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。一方、Wはフェライト形成元素であるため、W含有量が高すぎれば、鋼中にフェライトが過剰に生成する。この場合、鋼の強度が低下する。したがって、W含有量は0〜2.0%である。上記効果をより有効に得るためのW含有量の好ましい下限は0.2%であり、さらに好ましくは0.5%である。W含有量の好ましい上限は1.5%である。
本実施形態のステンレス鋼はさらに、Feの一部に代えて、Vを含有してもよい。
V:0〜0.5%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Vは焼戻し時に微細な析出物として析出して鋼の強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果が得られる。一方、V含有量が高すぎれば、鋼の耐SSC性及び低温靭性が低下する。したがって、V含有量は0〜0.5%である。上記効果をより有効に得るためのV含有量の好ましい下限は0.01%である。V含有量の好ましい上限は0.2%であり、さらに好ましくは0.1%である。
本実施形態のステンレス鋼はさらに、Feの一部に代えて、Ca及びMgのうちの1
種以上を含有してもよい。
Ca:0〜0.01%
Mg:0〜0.01%
カルシウム(Ca)及びマグネシウム(Mg)はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、これらの元素はいずれも、鋼の熱間加工性を高める。これらの元素の1種以上が少しでも含有されれば、上記効果が得られる。一方、これらの元素含有量が高すぎれば、介在物が過剰に生成する。この場合、鋼の靭性及び耐食性が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.01%であり、Mg含有量は0〜0.01%である。上記効果をより有効に得るためのCa含有量の好ましい下限は0.0005%であり、Mg含有量の好ましい下限は0.0005%である。
[式(1)で定義されるFn1について]
本実施形態のステンレス鋼の化学組成はさらに、式(1)で定義されるFn1が80以上である。
Fn1=576.5−2660.7×[C]−74.9×[Ni]−37.4×[Cu] (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
Fn1は焼入れ時の残留オーステナイトの発生量の指標である。Fn1が80未満であれば、マルテンサイト変態点が低下し過ぎ、焼入れ後の鋼の残留オーステナイト量が多くなる。この場合、焼戻し後の鋼の強度が低下する。Fn1が80以上であれば、焼戻し後の残留オーステナイトの体積率が5〜20%と適切となり、優れた低温靭性が得られる。したがって、Fn1値は80以上である。Fn1値の好ましい下限は84であり、さらに好ましくは88である。Fn1の上限は特に制限されない。しかしながら、上記化学組成の場合、Fn1の上限は250以下となる。
[ミクロ組織]
本実施形態のステンレス鋼のミクロ組織は、体積率で、10〜50%のフェライトと、5〜20%の残留オーステナイトとを含有し、残部はマルテンサイトからなる。
ミクロ組織中のフェライトは、高温での鋼の耐SCC性を高める。フェライトの体積率(以下、フェライト分率という)が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、フェライト分率が高すぎれば、鋼の強度及び低温靭性が低下する。したがって、フェライト分率は10〜50%である。耐SCC性を高めるためのフェライト分率の好ましい下限は15%である。鋼の強度及び低温靭性を高位に保つためのフェライト分率の好ましい上限は45%であり、さらに好ましい上限は40%である。
焼戻し後の残留オーステナイトは、鋼の低温靭性を高める。残留オーステナイトの体積率(以下、残留オーステナイト分率という)が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、残留オーステナイト分率が高すぎれば、鋼の降伏強度が低下して、862MPa以上の降伏強度が安定的に得られない。したがって、残留オーステナイト分率は5〜20%である。鋼の降伏強度をさらに高めるための残留オーステナイト分率の好ましい上限は15%である。
[フェライト分率及び残留オーステナイト分率の測定方法]
本発明による油井用ステンレス鋼のミクロ組織中のフェライト分率(vol.%)、残留オーステナイト分率(vol.%)及びマルテンサイト分率(vol.%)は次の方法で測定する。
[フェライト分率の測定方法]
油井用ステンレス鋼からミクロ組織観察用の試験片を採取する。試験片の表面のうち、鋼板の板幅方向に垂直な断面(以下、観察面という)を研磨する。王水とグリセリンとの混合液を用いて、研磨後の観察面をエッチングする。エッチングされた観察面において、フェライトを特定する。特定されたフェライトの面積率を、JIS G0555(2003)に準拠した点算法で測定する。測定された面積率は、体積分率に等しいと考えられるため、これをフェライト分率(vol%)と定義する。
[残留オーステナイト分率の測定方法]
残留オーステナイト分率(残留オーステナイトの体積分率:単位はvol.%)は、X線回折法を用いて求める。油井用ステンレス鋼から15mm×15mm×2mmの試験片を採取する。採取された試験片を用いて、フェライト(α相)の(200)面及び(211)面、オーステナイト(γ相)の(200)面、(220)面及び(311)面の各々のX線強度を測定し、各面の積分強度を算出する。算出後、α相の各面と、γ相の各面との組み合わせ(合計6組)ごとに、次式を用いて残留オーステナイト分率Vγを求める。
γ=100/(1+(Iα×Rγ)/(Iγ×Rα))
ここで、式中の「Iα」はα相の積分強度であり、「Iγ」はγ相の積分強度である。「Rα」はα相の結晶学的理論計算値であり、「Rγ」はγ相の結晶学的理論計算値である。上記各面の体積率Vγの平均値を、残留オーステナイト分率(vol.%)と定義する。
[マルテンサイト分率の測定方法]
上述の化学組成からなる油井用ステンレス鋼のミクロ組織のうち、フェライト及び残留オーステナイト以外の残部は、マルテンサイトからなる。マルテンサイトの体積率(マルテンサイト分率:単位はvol.%)は次の式で求める。
マルテンサイト分率=100−(フェライト分率+残留オーステナイト分率)
[式(2)で定義されるFn2について]
好ましくは、本発明による油井用ステンレス鋼はさらに、式(2)で定義されるFn2が2.5以上である。
Fn2=[Ni]/[Cu] (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
Fn2は低温靭性の指標である。上述のとおり、Niは鋼の低温靭性を高める。一方、Cuは鋼の強度を高める。したがって、Cuに対するNiの比が小さい場合、鋼の強度が高くなりすぎ、鋼の低温靭性がかえって低下する。Fn2が2.5以上であれば、Cu含有量に対するNi含有量が十分であるため、優れた低温靭性が得られる。Fn2の好ましい下限は3.0である。
[製造方法]
本発明のステンレス鋼の製造方法の一例として、継目無鋼管の製造方法を説明する。
上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は、連続鋳造法(ラウンドCCを含む)により製造された鋳片であってもよい。また、造塊法により製造されたインゴットを熱間加工して製造された鋼片でもよい。鋳片から製造された鋼片でもよい。
準備された素材を加熱炉又は均熱炉に装入し、加熱する。続いて、加熱した素材を熱間加工して素管を製造する。たとえば、熱間加工としてマンネスマン法を実施する。具体的には、素材を穿孔機により穿孔圧延して素管にする。続いて、マンドレルミルやサイジングミルにより、素管をさらに圧延する。熱間加工として熱間押出を実施してもよいし、熱間鍛造を実施してもよい。
熱間加工後の素管を焼入れ及び焼戻しして、降伏強度が862MPa以上(125ksi級)になるように強度を調整する。焼入れ温度は900℃以上である。好ましい焼戻し温度は620℃以下である。
[油井用ステンレス鋼管]
以上の工程により製造された油井用ステンレス鋼管は、高強度を有し、好ましくは、862MPa以上の降伏強度を有する。油井用ステンレス鋼管はさらに、高温での耐SCC性、常温での耐SSC性及び低温靭性に優れる。
[式(3)で定義されるFn3について]
好ましくは、本油井用ステンレス鋼管において、Ni含有量は、式(3)で定義されるFn3よりも高い。
Fn3=0.0211×t+4.4606 (3)
ここで、式(3)中のt(mm)には、油井用ステンレス鋼の肉厚(mm)が代入される。
この場合、肉厚の増加に伴う低温靭性の劣化を留めるのに十分なNiが含有されている。そのため、さらに優れた低温靭性が安定して得られる。
上述の油井用ステンレス鋼管を想定して、種々の化学組成を有する複数のステンレス鋼板を製造し、それらの強度、靭性及び低温靭性を調査した。
[調査方法]
表1に示す化学組成を有する溶鋼を真空高周波溶解炉にて溶解し、50kgのインゴットを製造した。
Figure 0006672620
各インゴットを1250℃で2時間加熱した。加熱されたインゴットに対して熱間鍛造を実施して、厚さ45mm、幅60mmの鋼材とした。鋼材を1230℃で1時間加熱した。加熱後の鋼材を熱間圧延して、油井用ステンレス鋼管の肉厚に相当する板厚が12.7〜31.8mmの鋼板を製造した。熱間圧延後の鋼板に対して焼入れ焼戻しを実施した。焼入れでは、鋼板を950℃で15分加熱してから水焼入れした。焼入れ後の鋼板に対して550℃で30分焼戻しを実施し、その後空冷した。
焼入れ焼戻し後の各試験番号の鋼板を用いて、ミクロ組織観察試験、引張試験、衝撃試験、高温での耐SCC性試験及び常温での耐SSC性試験を実施した。
[フェライト分率、残留オーステナイト分率、マルテンサイト分率測定]
各試験番号の鋼板からミクロ組織観察用の試験片を採取した。採取した試験片の表面のうち、鋼板の板幅方向に垂直な断面(以下、観察面という)を研磨した。王水とグリセリンとの混合液を用いて、研磨後の観察面をエッチングした。エッチングされた観察面を用いて、上述の測定方法により、フェライト分率(vol.%)を求めた。
各試験番号の鋼板から15mm×15mm×2mmの試験片を採取した。採取された試験片を用いて、上述の測定方法により、残留オーステナイト分率(vol.%)を求めた。
得られたフェライト分率及び残留オーステナイト分率に基づいて、上記方法により、マルテンサイト分率(vol.%)を求めた。
[引張試験]
各試験番号の鋼板の厚さ中央部から、丸棒引張試験片を採取した。丸棒引張試験片の長手方向は、鋼板の圧延方向に平行な方向(L方向)であった。丸棒引張試験片の平行部の直径は6mmであり、標点間距離は40mmであった。採取された丸棒引張試験片に対して、室温で引張試験を実施し、降伏強度(0.2%耐力)を求めた。
[シャルピー衝撃試験]
各試験番号の鋼板の厚さ中央部から、ASTM E23に準拠したフルサイズ試験片を採取した。試験片の長手方向は、板幅方向に平行であった。この試験片を用いて、−60℃においてシャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギー(J)を測定した。
[高温耐SCC性評価試験]
各試験番号の鋼板から、4点曲げ試験片を採取した。試験片の長さは75mmであり、幅は10mmであり、厚さは2mmであった。各試験片に対して、4点曲げによるたわみを付与した。このとき、ASTM G39に準拠して、試験片に与えられる応力が、試験片の耐力と等しくなるように、各試験片のたわみ量を決定した。
30barのCO2と0.01barのH2Sとが加圧封入された200℃のオートクレーブを試験番号ごとに準備した。上述のたわみをかけた試験片をオートクレーブに収納した。各オートクレーブ内において、25mass%のNaClと、0.41g/リットルのCH3COONa(pHは4.5、CH3COONa+CH3COOH緩衝系)を含有する水溶液に試験片を720時間浸漬した。
720時間浸漬後の試験片に対して応力腐食割れ(SCC)の発生の有無を観察した。具体的には、引張応力が付加された部分の断面を100倍視野の光学顕微鏡で観察し、割れの有無を判定した。さらに試験前の試験片の重量及び720時間浸漬後の試験片の重量の変化量に基づいて、各試験片の腐食減量を求めた。得られた腐食減量から、各試験番号の年間腐食量(mm/年)を計算した。
[常温での耐SSC性評価試験]
各試験番号の鋼板から、NACE TM0177 METHOD A用の丸棒試験片を採取した。試験片の直径は6.35mmであり、平行部の長さは25.4mmであった。各試験片の軸方向に引張応力を負荷した。このとき、NACA TM0177−2005に準拠して、各試験片に与えられる応力が、各試験材の降伏応力(実測)の90%になるように、調整した。
試験浴として、0.01barのH2Sと、0.99barのCO2とを飽和させた25mass%のNaCl溶液を用いた。試験浴は、0.41g/リットルのCH3COONaを含有したCH3COONa+CH3COOH緩衝液によりpH4.0に調整した。さらに、試験浴の温度は25℃に調整した。
引張応力を負荷した丸棒試験片を上記試験浴に720時間浸漬した。720時間浸漬後の試験片に対して、硫化物応力割れ(SSC)の発生の有無を観察した。具体的には、試験中に破断した試験片、及び、破断しなかった試験片に対して、試験片の平行部を肉眼にて観察した。観察の結果、クラック又は孔食の発生が確認された試験片は耐SSC性が劣ると判断した。
[試験結果]
表2に試験結果を示す。
Figure 0006672620
表2中の「板厚」には、各試験番号で製造された鋼板の板厚(mm)が記載されている。「α」には、フェライト分率(vol.%)が記載されている。「残留γ」には、残留オーステナイト分率(vol.%)が記載されている。「M」には、マルテンサイト分率(vol.%)が記載されている。「YS」には、降伏強度(MPa)が記載されている。「AE」には、−60℃でのシャルピー衝撃試験で得られた吸収エネルギー(J)が記載されている。「腐食量」には、高温耐SCC性評価試験で得られた年間腐食量(mm/年)が記載され、「耐SCC性」には、高温耐SCC性評価試験の評価結果が記載されている。「○」は、試験片に割れが確認されず、耐SCC性が優れることを示す。「耐SSC性」には、常温での耐SSC性評価試験の結果が記載されている。「○」は試験片にSSCが確認されず、耐SSC性が優れることを示す。「×」は試験片にSSCが確認され、耐SSC性が低かったことを示す。
表2を参照して、試験番号4〜12、16〜22、26及び27では、化学組成が適切であり、Fn1が80以上であった。そのため、これらの試験番号のミクロ組織はフェライト、残留オーステナイト及びマルテンサイトからなり、フェライト分率が10〜50vol.%であり、残留オーステナイト分率が5〜20vol.%であった。その結果、これらの試験番号では、降伏強度が862MPa以上であった。さらに、−60℃での吸収エネルギーAEが80J以上であり、低温靭性が高かった。さらに年間腐食量が0.01mm/年であり、高温での耐SCC性が高かった。さらに、耐SSC性評価試験において割れが観察されず、耐SSC性が高かった。
特に、試験番号5、6、8、9、11、12、16〜22、26及び27では、板厚が15mm以上であるにもかかわらず、低温靭性、高温での耐SCC性、及び常温での耐SSC性が高かった。
さらに、板厚が同じ25.4mmである試験番号6、9と試験番号26とを比較して、試験番号6及び9のFn2は、2.5以上であるのに対して、試験番号26では2.5未満であった。そのため、試験番号6及び9の−60℃での吸収エネルギーAEは、試験番号26よりも高かった。
さらに、試験番号9のFn2は3.0以上であり、試験番号6よりも高かった。そのため、試験番号9の吸収エネルギーAEは、試験番号6よりも高かった。また、板厚が同じ19.1mmである試験番号5と8とを比較して、試験番号8のFn2は3.0以上であり、試験番号5よりも高かった。そのため、試験番号8の吸収エネルギーAEは、試験番号5よりも高かった。
さらに、試験番号6と試験番号27とを比較して、試験番号6のNi含有量はFn3よりも高かったものの、試験番号27のNi含有量はFn3よりも低かった。そのため、試験番号6の吸収エネルギーAEは、試験番号27の吸収エネルギーAEよりも高かった。
一方、試験番号1〜3では、Ni含有量が低すぎた。そのため、ミクロ組織中の残留オーステナイト分率が低かった。その結果、板厚(肉厚に相当)が15mm以上の試験番号2及び3において、吸収エネルギーAEが80J未満であり、低温靭性が低かった。
試験番号13では、Cu含有量が低すぎた。そのため、降伏強度YSが862MPa未満であった。さらに、耐SSC性評価試験で割れ(SSC)が確認された。試験番号14及び15では、Fn1が80未満であった。そのため、残留オーステナイト分率が20%を超えた。その結果、降伏強度YSが862MPa未満であった。
試験番号23では、Ti含有量が高すぎた。試験番号24では、Nb含有量が高すぎた。試験番号25では、B含有量が高すぎた。そのため、試験番号23〜25の吸収エネルギーAEは80J未満であり、低温靭性が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
本発明による油井用ステンレス鋼は、125ksi級(862MPa以上)の高強度を有し、高温での耐SCC性、常温での耐SSC性、及び低温靭性に優れる。特に15mm以上の肉厚を有する油性用ステンレス鋼管として利用する場合にも、上記特性が得られる。したがって、本発明による油井用ステンレス鋼は、150℃以上の高温であって、CO2、H2S、及びCl-を含有する腐食環境に広く適用でき、特に、油井用ステンレス鋼管としての使用に好適である。

Claims (8)

  1. 質量%で、
    C:0.04%以下、
    Si:0.05〜1.0%、
    Mn:0.01〜0.5%、
    Cr:16.0〜18.0%、
    Mo:2.0〜3.0%、
    Cu:0.70〜3.5%、
    Ni:4.9〜6.0%、
    sol.Al:0.001〜0.1%、
    W:0〜2.0%、
    V:0〜0.5%、
    Ca:0〜0.01%、及び、
    Mg:0〜0.01%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
    前記不純物のうち、P、S、O、N、Ti、Nb及びBはそれぞれ、
    P:0.05%以下、
    S:0.002%未満、
    O:0.02%以下、
    N:0.02%以下、
    Ti:0.10%以下、
    Nb:0.10%以下、及び、
    B:0.005%以下であり、
    式(1)で定義されるFn1が80以上である化学組成と、
    体積率で、10〜50%のフェライトと、5.0〜20%の残留オーステナイトとを含有し、残部がマルテンサイトからなるミクロ組織とを有し、
    降伏強度が862MPa以上であり、
    ASTM E23に準拠した−60℃のシャルピー衝撃試験における吸収エネルギーが80J以上であり、
    0.01barのH Sと、0.99barのCO とを飽和させた25mass%のNaCl溶液を、0.41g/リットルのCH COONaを含有したCH COONa+CH COOH緩衝液によりpH4.0に調整した25℃の試験浴を用い、NACE TM0177 METHOD Aに準拠した耐SSC性評価試験において、実測の降伏応力の90%を付加して720時間浸漬した後、割れが確認されないことを特徴とする、油井用ステンレス鋼。
    Fn1=576.5−2660.7×[C]−74.9×[Ni]−37.4×[Cu] (1)
    ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載の油井用ステンレス鋼であってさらに、
    式(2)で定義されるFn2が2.5以上である、油井用ステンレス鋼。
    Fn2=[Ni]/[Cu] (2)
    ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の油井用ステンレス鋼であって、
    W:0.2〜2.0%を含有する、油井用ステンレス鋼。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の油井用ステンレス鋼であって、
    V:0.01〜0.5%を含有する、油井用ステンレス鋼。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の油井用ステンレス鋼であって、
    Ca:0.0005〜0.01%、及び、
    Mg:0.0005〜0.01%からなる群から選択される1種以上を含有する、油井用ステンレス鋼。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の油井用ステンレス鋼から製造される、油井用ステンレス鋼管。
  7. 請求項6に記載の油井用ステンレス鋼管であってさらに、
    Ni含有量(質量%)は、式(3)で定義されるFn3よりも高い、油井用ステンレス鋼管。
    Fn3=0.0211×t+4.4606 (3)
    ここで、式(3)中のt(mm)は、前記油井用ステンレス鋼の肉厚(mm)を意味する。
  8. 請求項6又は請求項7に記載の油井用ステンレス鋼管であって、
    15mm以上の肉厚を有する、油井用ステンレス鋼管。
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