本発明は、走行用の動力源として回転機のみを備える電気自動車や、回転機の他にエンジンを備えるハイブリッド車両に適用され得る。例えば(a) 差動用回転機のトルク制御でエンジンの回転速度を無段階に変速して中間伝達部材に伝達することができる電気式差動部と、(b) 前記中間伝達部材と駆動輪との間に配設され、出力回転速度に対する該中間伝達部材の回転速度の変速比が異なる複数のギヤ段を機械的に成立させることができる自動変速機と、を有するハイブリッド車両にも好適に適用される。自動変速機としては、例えば遊星歯車式の有段変速機が好適に用いられるが、一対の入力軸を切り替えて変速する常時噛合式の有段変速機など、一対の油圧式摩擦係合装置の係合及び解放によるクラッチツウクラッチ変速によってギヤ段が切り替えられる各種の有段変速機を用いることができる。
コーストダウンシフトは、アクセルペダルが踏込み操作されていないパワーオフの減速走行(コースト走行)時のダウンシフトで、回転機の回生を伴うコーストダウンシフトは、例えばブレーキペダルが踏込み操作されたブレーキオン時に実行されるが、ブレーキペダルが踏込み操作されていないブレーキオフ時にも実行できる。ブレーキのオン、オフに拘らず共通の解放側指示圧が用いられても良いが、ブレーキオン時とブレーキオフ時とで別々の解放側指示圧を用いることも可能で、その場合は解放側指示圧の学習制御が別々に行われる。3速以上のギヤ段に亘ってコーストダウンシフトが行われる場合、コーストダウンシフトの種類毎に解放側指示圧は個別に定められるとともに、その解放側指示圧の学習制御は個別に行われる。
解放側指示圧を学習する際のアンダーシュート量としては、例えば変速前ギヤ段の同期回転速度に対する実際の入力回転速度の低下量の最大値(アンダーシュート回転数)が用いられるが、同期回転速度を入力回転速度が下回っている時間(アンダーシュート時間)、或いはその積分値を用いることもできる。アンダーシュート量の上限値は、変速ショックや変速所要時間等を考慮して適宜定められ、アンダーシュート量が上限値を越えた場合の解放側指示圧の増大幅は、予め一定値が定められても良いが、例えば上限値との差に応じて増大幅を段階的或いは連続的に変化させても良い。増大幅が一定値の場合、その増大幅は上限値に応じて適宜定められるが、例えばアンダーシュート量が略0の弱タイアップ状態となるように定めることもできる。アンダーシュート量が上限値以下の時の解放側指示圧の低減幅についても、予め一定値が定められても良いが、例えば上限値との差に応じて低減幅を段階的或いは連続的に変化させても良い。第2発明では、アンダーシュート量が上限値以下の時に解放側指示圧を低減する際の油圧幅が、アンダーシュート量が上限値を越えた場合に解放側指示圧を増大する際の油圧幅よりも小さいが、第1発明の実施に際しては必ずしも制限されない。第2発明において解放側指示圧の低減時及び増大時の油圧幅がそれぞれ一定値の場合、低減時の油圧幅は増大時の油圧幅の例えば1/2〜1/10程度の範囲内が適当であるが、その範囲外を含めて適宜定められる。
解放側指示圧を増大した後にアンダーシュート量が上限値以下と判断されたコーストダウンシフトの回数が設定値に達するまで解放側指示圧の低減が制限されるが、この制限としては、解放側指示圧の低減を禁止するものでも良いし、低減の油圧幅を小さくするだけでも良い。設定値は、1以上の任意の値を設定することが可能で、コーストダウンシフトの種類に関係無く一定値であっても良いが、コーストダウンシフトの種類毎に異なる値を設定しても良い。
解放側指示圧の学習制御に際しては、係合側の油圧式摩擦係合装置の係合側指示圧や待機時間などについても学習制御を行うことが望ましいが、互いの学習制御の影響を受けることを避けるため、例えば係合側の学習制御が終了した後に解放側の学習制御を行うことが望ましい。但し、解放側の学習制御が終了した後に係合側の学習制御を行うこともできるし、両方の学習を同時に並行して行うことも可能である。
クラッチツウクラッチ変速では、トルク相で出力トルクの落込みが生じる場合があり、その落込みを相殺するように回転機の回生トルクを低減するトルク相補償制御を行うことが望ましく、その場合は、解放側指示圧の学習制御を適切に行う上で回生トルクの低減をトルク相が開始する前、すなわち入力回転速度のアンダーシュートが発生する前に完了させることが望ましい。但し、出力トルクの落込みが軽微な場合にはトルク相補償制御は必ずしも必要ないなど、トルク相補償制御が行われない場合にも本発明は適用され得る。
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両10に備えられた車両用駆動装置12の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両用駆動装置12は、エンジン14と、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース16(以下、ケース16という) 内において共通の軸心上に配設された、エンジン14に直接或いは図示しないダンパーなどを介して間接的に連結された電気式無段変速部18(以下、無段変速部18という) と、無段変速部18の出力側に連結された機械式有段変速部20(以下、有段変速部20という) とを直列に備えている。又、車両用駆動装置12は、有段変速部20の出力回転部材である出力軸22に連結された差動歯車装置24、差動歯車装置24に連結された一対の車軸26等を備えている。車両用駆動装置12において、エンジン14や後述する第2回転機MG2から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義) は、有段変速部20へ伝達され、その有段変速部20から差動歯車装置24等を介して車両10が備える駆動輪28へ伝達される。車両用駆動装置12は、例えば車両10において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ) 型車両に好適に用いられるものである。尚、無段変速部18や有段変速部20等はエンジン14などの回転軸心(上記共通の軸心) に対して略対称的に構成されており、図1ではその回転軸心の下半分が省略されている。
エンジン14は、車両10の走行用の動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置80によってスロットル弁開度或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジントルクTe が制御される。本実施例では、エンジン14は、トルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく無段変速部18に連結されている。
無段変速部18は、第1回転機MG1と、エンジン14の動力を第1回転機MG1及び無段変速部18の出力回転部材である中間伝達部材30に機械的に分割する動力分割機構としての差動機構32と、中間伝達部材30に動力伝達可能に連結された第2回転機MG2とを備えている。無段変速部18は、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式差動部であり、電気式無段変速機である。第1回転機MG1は、差動用回転機に相当し、又、第2回転機MG2は、走行用の動力源として機能する電動機であって、走行駆動用回転機に相当する。車両10は、走行用の動力源として、エンジン14及び第2回転機MG2を備えているハイブリッド車両である。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、電動機(モータ) としての機能及び発電機(ジェネレータ) としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ50を介して、車両10に備えられた蓄電装置としてのバッテリ52に接続されており、後述する電子制御装置80によってインバータ50が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルク(力行トルク又は回生トルク) であるMG1トルクTg 及びMG2トルクTm が制御される。バッテリ52は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
差動機構32は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0の3つの回転要素を差動回転可能に備えている。キャリアCA0には連結軸34を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤS0には第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤR0には第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。差動機構32において、キャリアCA0は入力要素として機能し、サンギヤS0は反力要素として機能し、リングギヤR0は出力要素として機能する。
有段変速部20は、中間伝達部材30と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。中間伝達部材30は、有段変速部20の入力回転部材(AT入力回転部材)としても機能する。中間伝達部材30には第2回転機MG2が一体回転するように連結されているので、有段変速部20は、第2回転機MG2と駆動輪28との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速機である。有段変速部20は、例えば第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の複数組の遊星歯車装置と、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置(以下、特に区別しない場合は単に係合装置CBという) とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、車両10に備えられた油圧制御回路54内のリニアソレノイドバルブSL1−SL4(図7参照)から各々出力される調圧された各係合油圧Pcbによりそれぞれのトルク容量(係合トルク) Tcbが変化させられることで、それぞれ作動状態(係合や解放などの状態) が切り替えられる。
有段変速部20は、第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38の各回転要素(サンギヤS1、S2、キャリアCA1、CA2、リングギヤR1、R2) が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的(或いは選択的) に、一部が互いに連結されたり、中間伝達部材30、ケース16、或いは出力軸22に連結されている。
有段変速部20は、係合装置CBのうちの所定の係合装置の係合によって、変速比γat(=AT入力回転速度ωi /出力回転速度ωo )が異なる複数のギヤ段のうちの何れかのギヤ段が形成される。本実施例では、有段変速部20にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称する。AT入力回転速度ωi は、有段変速部20の入力回転部材の回転速度(角速度) であって、中間伝達部材30の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度ωm と同値である。AT入力回転速度ωi は、MG2回転速度ωm で表すことができる。出力回転速度ωo は、有段変速部20の出力回転速度である出力軸22の回転速度であって、無段変速部18と有段変速部20とを合わせた全体の変速機40の出力回転速度でもある。
有段変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」の4速の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、高車速側(ハイ側のAT4速ギヤ段側) 程、変速比γatが小さくなる。図2の係合作動表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各作動状態(各ATギヤ段において係合させられる係合装置) との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時や有段変速部20のコーストダウンシフト時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。AT1速ギヤ段を形成するブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時(加速時) にはブレーキB2を係合させる必要は無い。有段変速部20のコーストダウンシフトは、駆動要求量(例えばアクセル開度θacc )の減少やアクセルオフ(アクセル開度θacc がゼロ又は略ゼロ) による減速走行中の車速関連値(例えば車速V) の低下によってダウンシフトが判断(要求) されたパワーオフダウンシフトのうちで、アクセルオフの減速走行状態のままで要求されたダウンシフトである。尚、係合装置CBが何れも解放されることにより、有段変速部20は、何れのATギヤ段も形成されないニュートラル状態(すなわち動力伝達を遮断するニュートラル状態) とされる。
有段変速部20は、後述する電子制御装置80によって、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて係合装置CBのうちの解放側係合装置の解放と係合装置CBのうちの係合側係合装置の係合とが制御されることで、形成されるATギヤ段が切り替えられる(すなわち複数のATギヤ段が選択的に形成される) 。つまり、有段変速部20の変速制御においては、例えば係合装置CBの何れかの掴み替えにより(すなわち係合装置CBの係合と解放との切替えにより) 変速が実行される、所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。例えば、AT2速ギヤ段からAT1速ギヤ段へのダウンシフト(2→1ダウンシフト) では、図2の係合作動表に示すように、解放側係合装置となるブレーキB1が解放されると共に、AT1速ギヤ段にて係合させられる係合装置(クラッチC1及びブレーキB2) のうちで2→1ダウンシフト前には解放されていた係合側係合装置となるブレーキB2が係合させられる。この際、ブレーキB1の解放過渡油圧やブレーキB2の係合過渡油圧が予め定められた変化パターンなどに従って調圧制御される。
図7は、上記係合装置CBを係合解放制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL4を含む油圧制御回路54の要部を示す回路図である。油圧制御回路54は、エンジン14によって回転駆動される機械式オイルポンプ100、及びエンジン非作動時にポンプ用電動機102によって回転駆動される電動式オイルポンプ(EOP)104を、係合装置CBの油圧源として備えている。これ等のオイルポンプ100、104から出力された作動油は、それぞれ逆止弁106、108を介してライン圧油路110に供給され、プライマリレギュレータバルブ等のライン圧コントロールバルブ112により所定のライン圧PLに調圧される。ライン圧コントロールバルブ112にはリニアソレノイドバルブSLTが接続されており、そのリニアソレノイドバルブSLTは、電子制御装置80によって電気的に制御されることにより、略一定圧であるモジュレータ油圧Pmoを元圧として信号圧Pslt を出力する。そして、その信号圧Pslt がライン圧コントロールバルブ112に供給されると、そのライン圧コントロールバルブ112のスプール114が信号圧Pslt によって付勢され、排出用流路116の開口面積を変化させつつスプール114が軸方向へ移動させられることにより、その信号圧Pslt に応じてライン圧PLが調圧される。このライン圧PLは、例えば出力要求量であるアクセル開度θacc 等に応じて調圧される。上記リニアソレノイドバルブSLTはライン圧調整用の電磁調圧弁で、ライン圧コントロールバルブ112は、そのリニアソレノイドバルブSLTから供給される信号圧Pslt に応じてライン圧PLを調圧する油圧制御弁である。これ等のライン圧コントロールバルブ112及びリニアソレノイドバルブSLTを含んでライン圧調整装置118が構成されている。
ライン圧調整装置118によって調圧されたライン圧PLの作動油は、ライン圧油路110を介してリニアソレノイドバルブSL1〜SL4等に供給される。リニアソレノイドバルブSL1〜SL4は、前記クラッチC1、C2、ブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)120、122、124、126に対応して配置されており、電子制御装置80から供給される油圧制御指令信号Satの係合解放指令(ソレノイドの励磁電流で、図8の解放側油圧指令値Pdra 、係合側油圧指令値Papp )に従ってそれぞれ出力油圧(係合油圧Pcb)が制御されることにより、クラッチC1、C2、ブレーキB1、B2が個別に係合解放制御され、前記AT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」の何れかのATギヤ段が形成される。これ等のリニアソレノイドバルブSL1〜SL4は、電子制御装置80から供給される油圧制御指令信号Satに従ってクラッチC1、C2、ブレーキB1、B2を選択的に係合させるソレノイドバルブである。
図3は、無段変速部18及び有段変速部20における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。図3において、無段変速部18を構成する差動機構32の3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応するサンギヤS0の回転速度を表すg軸であり、第1回転要素RE1に対応するキャリアCA0の回転速度を表すe軸であり、第3回転要素RE3に対応するリングギヤR0の回転速度(すなわち有段変速部20の入力回転速度) を表すm軸である。又、有段変速部20の4本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7は、左から順に、第4回転要素RE4に対応するサンギヤS2の回転速度、第5回転要素RE5に対応する相互に連結されたリングギヤR1及びキャリアCA2の回転速度(すなわち出力軸22の回転速度) 、第6回転要素RE6に対応する相互に連結されたキャリアCA1及びリングギヤR2の回転速度、第7回転要素RE7に対応するサンギヤS1の回転速度をそれぞれ表す軸である。縦線Y1、Y2、Y3の相互の間隔は、差動機構32のギヤ比(歯数比) ρ0に応じて定められている。又、縦線Y4、Y5、Y6、Y7の相互の間隔は、第1、第2遊星歯車装置36、38の各ギヤ比ρ1、ρ2に応じて定められている。シングルピニオン型の遊星歯車装置の場合、共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリアとの間の間隔を「1」とすると、キャリアとリングギヤとの間の間隔がギヤ比ρ(=サンギヤの歯数Zs /リングギヤの歯数Zr)となる。
図3の共線図を用いて表現すれば、無段変速部18の差動機構32において、第1回転要素RE1にエンジン14(図中の「ENG」参照) が連結され、第2回転要素RE2に第1回転機MG1(図中の「MG1」参照) が連結され、中間伝達部材30と一体回転する第3回転要素RE3に第2回転機MG2(図中の「MG2」参照) が連結されて、エンジン14の回転を中間伝達部材30を介して有段変速部20へ伝達するように構成されている。無段変速部18では、縦線Y2を横切る各直線L0、L0Rにより、サンギヤS0、キャリアCA0、及びリングギヤR0の相互の回転速度の関係が示される。
又、有段変速部20において、第4回転要素RE4はクラッチC1を介して中間伝達部材30に選択的に連結され、第5回転要素RE5は出力軸22に連結され、第6回転要素RE6はクラッチC2を介して中間伝達部材30に選択的に連結されると共にブレーキB2を介してケース16に選択的に連結され、第7回転要素RE7はブレーキB1を介してケース16に選択的に連結されている。有段変速部20では、係合装置CBの係合解放制御によって縦線Y5を横切る各直線L1、L2、L3、L4、LRにより、各ATギヤ段「1st」、「2nd」、「3rd」、「4th」、「Rev」における各回転要素RE4〜RE7の相互の回転速度の関係が示される。
図3中に実線で示す、直線L0及び直線L1、L2、L3、L4は、少なくともエンジン14を動力源として走行するエンジン走行が可能なハイブリッド走行モードでの前進走行における各回転要素の相対回転速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、差動機構32において、キャリアCA0に入力されるエンジントルクTe に対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤS0に入力されると、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd 〔=Te /(1+ρ) =−(1/ρ) ×Tg 〕が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTd とMG2トルクTm との合算トルクが車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wg は、バッテリ52に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wg の全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wg に加えてバッテリ52からの電力を用いて、MG2トルクTm を出力する。
図3に図示はしていないが、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を動力源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、差動機構32において、キャリアCA0はゼロ回転とされ、リングギヤR0には正回転にて正トルクとなるMG2トルクTm が入力される。このとき、サンギヤS0に連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン14の回転速度であるエンジン回転速度ωe はゼロとされ、MG2トルクTm (ここでは正回転の力行トルク) が車両10の前進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段のうちの何れかのATギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。
図3中に破線で示す、直線L0R及び直線LRは、モータ走行モードでの後進走行における各回転要素の相対回転速度を示している。このモータ走行モードでの後進走行では、リングギヤR0には負回転にて負トルクとなるMG2トルクTm が入力され、そのMG2トルクTm が車両10の後進方向の駆動トルクとして、AT1速ギヤ段が形成された有段変速部20を介して駆動輪28へ伝達される。後述する電子制御装置80は、AT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段のうちの前進用の低車速側(ロー側) ギヤ段としてのAT1速ギヤ段を形成した状態で、前進用の電動機トルクである前進用のMG2トルクTm (ここでは正回転の正トルクとなる力行トルク;特にはMG2トルクTmFと表す) とは正負が反対となる後進用の電動機トルクである後進用のMG2トルクTm (ここでは負回転の負トルクとなる力行トルク;特にはMG2トルクTmRと表す) を第2回転機MG2から出力させることで後進走行を行うことができる。このように、本実施例の車両10では、前進用のATギヤ段(つまり前進走行を行うときと同じATギヤ段) を用いて、MG2トルクTm の正負を反転させることで後進走行を行う。有段変速部20では、有段変速部20内で入力回転を反転して出力する、後進走行専用のATギヤ段は形成されない。尚、ハイブリッド走行モードにおいても、エンジン14を正回転方向へ回転させたまま、直線L0Rのように第2回転機MG2を負回転とすることが可能であるので、モータ走行モードと同様に後進走行を行うことが可能である。
車両用駆動装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCA0と差動用電動機(差動用回転機) としての第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤS0と走行駆動用電動機(走行駆動用回転機) としての第2回転機MG2が動力伝達可能に連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤR0との3つの回転要素を有する差動機構32を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより差動機構32の差動状態が制御される電気式変速機構(電気式差動機構) としての無段変速部18が構成される。つまり、エンジン14が動力伝達可能に連結された差動機構32と、その差動機構32に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより、差動機構32の差動状態が制御される無段変速部18が構成される。無段変速部18は、中間伝達部材30の回転速度であるMG2回転速度ωm に対する連結軸34の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe )の変速比γ0(=ωe /ωm )が無段階(連続的)で変化させられる電気的な無段変速機として作動させられる。
例えば、ハイブリッド走行モードにおいては、有段変速部20にて所定のATギヤ段が形成されることで駆動輪28の回転に拘束されるリングギヤR0の回転速度に対して、第1回転機MG1の回転速度を制御することによってサンギヤS0の回転速度が上昇或いは下降させられると、キャリアCA0の回転速度(すなわちエンジン回転速度ωe )が上昇或いは下降させられる。従って、エンジン走行では、エンジン14を効率の良い運転点にて作動させることが可能である。つまり、所定のATギヤ段が形成された有段変速部20と無段変速機として作動させられる無段変速部18とで、変速機40が全体として無段変速機を構成することができる。
また、無段変速部18を有段変速機のように変速させることも可能であるので、ATギヤ段が形成される有段変速部20と有段変速機のように変速させる無段変速部18とで、変速機40全体として有段変速機のように変速させることができる。つまり、変速機40において、出力回転速度ωo に対するエンジン回転速度ωe の変速比γt(=ωe /ωo )が異なる複数のギヤ段(模擬ギヤ段と称する) を選択的に成立させるように、有段変速部20と無段変速部18とを協調制御することが可能である。変速比γtは、直列に配置された、無段変速部18と有段変速部20とで形成されるトータル変速比であって、無段変速部18の変速比γ0と有段変速部20の変速比γatとを乗算した値(γt=γ0×γat) となる。
模擬ギヤ段は、例えば有段変速部20の各ATギヤ段と1又は複数種類の無段変速部18の変速比γ0との組合せによって、有段変速部20の各ATギヤ段に対してそれぞれ1又は複数種類を成立させるように割り当てられる。例えば、図4は、ギヤ段割当(ギヤ段割付) テーブルの一例であり、AT1速ギヤ段に対して模擬1速ギヤ段〜模擬3速ギヤ段が成立させられ、AT2速ギヤ段に対して模擬4速ギヤ段〜模擬6速ギヤ段が成立させられ、AT3速ギヤ段に対して模擬7速ギヤ段〜模擬9速ギヤ段が成立させられ、AT4速ギヤ段に対して模擬10速ギヤ段が成立させられるように予め定められている。図5は、図3と同じ共線図上において有段変速部20のATギヤ段がAT2速ギヤ段のときに、模擬4速ギヤ段〜模擬6速ギヤが成立させられる場合を例示したものであり、出力回転速度ωo に対して所定の変速比γtを実現するエンジン回転速度ωe となるように無段変速部18が制御されることによって、各模擬ギヤ段が成立させられる。
図1に戻って、車両10は、エンジン14、無段変速部18、及び有段変速部20などの制御を行うコントローラとして機能する電子制御装置80を備えている。図1は、電子制御装置80の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置80は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置80は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等に分けて構成される。この電子制御装置80は車両10の制御装置に相当する。
電子制御装置80には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ60、MG1回転速度センサ62、MG2回転速度センサ64、出力回転速度センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、Gセンサ72、シフトポジションセンサ74、バッテリセンサ76など) による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン回転速度ωe 、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度ωg 、AT入力回転速度ωi であるMG2回転速度ωm 、車速Vに対応する出力回転速度ωo 、運転者の加速操作の大きさを表す運転者の加速操作量(すなわちアクセルペダルの操作量) であるアクセル開度θacc 、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、車両10の前後加速度G、車両10に備えられたシフト操作部材としてのシフトレバー56の操作位置(操作ポジション)POSsh、バッテリ52のバッテリ温度THbat やバッテリ充放電電流Ibat 、バッテリ電圧Vbat など) が、それぞれ供給される。又、電子制御装置80からは、車両10に備えられた各装置(例えばスロットルアクチュエータや燃料噴射装置、点火装置等のエンジン制御装置58、インバータ50、油圧制御回路54など) に各種指令信号(例えばエンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se 、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御する為の回転機制御指令信号Smg、ポンプ用電動機102及び係合装置CBの作動状態を制御する為の(すなわち有段変速部20の変速を制御する為の) 油圧制御指令信号Satなど) が、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、例えば係合装置CBの各々の油圧アクチュエータ120〜126へ供給される各係合油圧Pcbを調圧する各リニアソレノイドバルブSL1〜SL4を駆動する為の指令信号(駆動電流) であり、油圧制御回路54へ出力される。尚、電子制御装置80は、各油圧アクチュエータ120〜126へ供給される各係合油圧Pcbの値に対応する油圧指令値(指示圧) Pdra 、Papp を設定し、その油圧指令値Pdra 、Papp に応じた駆動電流を出力する。
シフトレバー56の操作ポジションPOSshは、例えばP、R、N、D操作ポジションである。P操作ポジションは、変速機40がニュートラル状態とされ(例えば係合装置CBの何れもの解放によって有段変速部20が動力伝達不能なニュートラル状態とされ) 且つ機械的に出力軸22の回転が阻止(ロック) された、変速機40のパーキングポジション(Pポジション) を選択するパーキング操作ポジションである。R操作ポジションは、有段変速部20のAT1速ギヤ段「1st」が形成された状態で後進用のMG2トルクTmRにより車両10の後進走行を可能とする、変速機40の後進走行ポジション(Rポジション) を選択する後進走行操作ポジションである。N操作ポジションは、変速機40がニュートラル状態とされた、変速機40のニュートラルポジション(Nポジション) を選択するニュートラル操作ポジションである。D操作ポジションは、有段変速部20のAT1速ギヤ段「1st」〜AT4速ギヤ段「4th」の総てのATギヤ段を用いて(例えば模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段の総ての模擬ギヤ段を用いて) 自動変速制御を実行して前進走行を可能とする、変速機40の前進走行ポジション(Dポジション) を選択する前進走行操作ポジションである。シフトレバー56は、人為的に操作されることで変速機40のシフトポジションの切替え要求を受け付ける切替操作部材として機能する。
電子制御装置80は、例えばバッテリ充放電電流Ibat 及びバッテリ電圧Vbat などに基づいてバッテリ52の充電状態(蓄電残量) SOCを算出する。又、電子制御装置80は、例えばバッテリ温度THbat 及びバッテリ52の充電状態SOCに基づいて、バッテリ52の入力電力の制限を規定する充電可能電力(入力可能電力) Win、及びバッテリ52の出力電力の制限を規定する放電可能電力(出力可能電力) Wout を算出する。充放電可能電力Win、Wout は、例えばバッテリ温度THbat が常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbat が低い程低くされ、又、バッテリ温度THbat が常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbat が高い程低くされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電状態SOCが大きな領域では充電状態SOCが大きい程小さくされる。放電可能電力Wout は、例えば充電状態SOCが小さな領域では充電状態SOCが小さい程小さくされる。
電子制御装置80は、車両10における各種制御を実行する為に、ハイブリッド制御手段として機能するハイブリッド制御部82、及びAT変速制御手段として機能するAT変速制御部90を備えている。
AT変速制御部90は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた) 関係(例えばATギヤ段変速マップ) を用いて有段変速部20の変速判断を行い、必要に応じて有段変速部20の変速制御を実行して有段変速部20のATギヤ段を自動的に切り替えるように、ソレノイドバルブSL1〜SL4により係合装置CBの係合解放状態を切り替える為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路54へ出力する。上記ATギヤ段変速マップは変速条件で、例えば図6に「AT」を付して示した変速線にて定められており、実線はアップシフト線で破線はダウンシフト線であり、所定のヒステリシスが設けられている。この変速マップは、例えば出力回転速度ωo (ここでは車速Vなども同意) 及びアクセル開度θacc (ここでは要求駆動トルクTdem やスロットル弁開度θthなども同意) を変数とする二次元座標上に定められており、出力回転速度ωo が高くなるに従って変速比γatが小さい高車速側(ハイ側)のATギヤ段に切り替えられ、アクセル開度θacc が大きくなるに従って変速比γatが大きい低車速側(ロー側)のATギヤ段に切り替えられるように設定されている。
ハイブリッド制御部82は、エンジン14の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部としての機能と、インバータ50を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。例えばアクセル開度θacc 及び車速V等に基づいて要求駆動パワーPdem (見方を換えれば、そのときの車速Vにおける要求駆動トルクTdem )を算出し、バッテリ52の充放電可能電力Win、Wout 等を考慮して、要求駆動パワーPdem を実現するように、エンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を制御する指令信号(エンジン制御指令信号Se 及び回転機制御指令信号Smg) を出力する。エンジン制御指令信号Se は、例えばそのときのエンジン回転速度ωe におけるエンジントルクTe を出力するエンジンパワーPe の指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTe の反力トルク(そのときのMG1回転速度ωg におけるMG1トルクTg )を出力する第1回転機MG1の発電電力Wg の指令値であり、又、そのときのMG2回転速度ωm におけるMG2トルクTm を出力する第2回転機MG2の消費電力Wm の指令値である。
また、無段変速部18を無段変速機として作動させて変速機40全体として無段変速機として作動させる場合、エンジン最適燃費点等を考慮して、要求駆動パワーPdem を実現するエンジンパワーPe が得られるエンジン回転速度ωe とエンジントルクTe となるように、エンジン14を制御すると共に第1回転機MG1の発電電力Wg を制御することで、無段変速部18の無段変速制御を実行して無段変速部18の変速比γ0を変化させる。この制御の結果として、変速機40を無段変速機として作動させた場合の全体の変速比γtが制御される。
ハイブリッド制御部82はまた、無段変速部18を有段変速機のように変速させて変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段化制御部84を機能的に備えている。模擬有段化制御部84は、予め定められた関係(例えば模擬ギヤ段変速マップ) を用いて変速機40の変速判断を行い、AT変速制御部90による有段変速部20のATギヤ段の変速制御と協調して、複数の模擬ギヤ段を選択的に成立させるように無段変速部18の変速制御を実行する。複数の模擬ギヤ段は、それぞれの変速比γtを維持できるように出力回転速度ωo に応じて第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωe を制御することによって成立させることができる。各模擬ギヤ段の変速比γtは、出力回転速度ωo の全域に亘って必ずしも一定値である必要はなく、所定範囲で変化させても良いし、各部の回転速度の上限や下限等によって制限が加えられても良い。
上記模擬ギヤ段変速マップは、ATギヤ段変速マップと同様に出力回転速度ωo 及びアクセル開度θacc をパラメータとして予め定められている。図6は、模擬ギヤ段変速マップの一例であって、実線はアップシフト線であり、破線はダウンシフト線である。模擬ギヤ段変速マップに従って模擬ギヤ段が切り替えられることにより、無段変速部18と有段変速部20とが直列に配置された変速機40全体として有段変速機と同様の変速フィーリングが得られる。変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段変速制御は、例えば運転者によってスポーツ走行モード等の走行性能重視の走行モードが選択された場合や要求駆動トルクTdem が比較的大きい場合に、変速機40全体として無段変速機として作動させる無段変速制御に優先して実行するだけでも良いが、所定の実行制限時を除いて基本的に模擬有段変速制御が実行されても良い。
模擬有段化制御部84による模擬有段変速制御と、AT変速制御部90による有段変速部20の変速制御とは、協調して実行される。本実施例では、AT1速ギヤ段〜AT4速ギヤ段の4種類のATギヤ段に対して、模擬1速ギヤ段〜模擬10速ギヤ段の10種類の模擬ギヤ段が割り当てられている。このようなことから、模擬3速ギヤ段と模擬4速ギヤ段との間での変速(模擬3⇔4変速と表す) が行われるときにAT1速ギヤ段とAT2速ギヤ段との間での変速(AT1⇔2変速と表す) が行なわれ、又、模擬6⇔7変速が行われるときにAT2⇔3変速が行なわれ、又、模擬9⇔10変速が行われるときにAT3⇔4変速が行なわれる(図4参照) 。その為、模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれるように、ATギヤ段変速マップが定められている。具体的には、図6における模擬ギヤ段の「3→4」、「6→7」、「9→10」の各アップシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1→2」、「2→3」、「3→4」の各アップシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1→2」等参照) 。又、図6における模擬ギヤ段の「3←4」、「6←7」、「9←10」の各ダウンシフト線は、ATギヤ段変速マップの「1←2」、「2←3」、「3←4」の各ダウンシフト線と一致している(図6中に記載した「AT1←2」等参照) 。又は、図6の模擬ギヤ段変速マップによる模擬ギヤ段の変速判断に基づいて、ATギヤ段の変速指令をAT変速制御部90に対して出力するようにしても良い。このように、AT変速制御部90は、有段変速部20のATギヤ段の切替えを、模擬ギヤ段が切り替えられるときに行う。模擬ギヤ段の変速タイミングと同じタイミングでATギヤ段の変速が行なわれる為、エンジン回転速度ωe の変化を伴って有段変速部20の変速が行なわれるようになり、その有段変速部20の変速に伴うショックがあっても運転者に違和感を与え難くされる。
ハイブリッド制御部82は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、要求駆動パワーPdem が予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域(例えば低車速で且つ低駆動トルクの領域)にある場合には、エンジン14を停止して第2回転機MG2だけで走行するモータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdem が予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、エンジン14を作動させて走行するハイブリッド走行モードを成立させる。ハイブリッド走行モードでは、回生制御される第1回転機MG1からの電気エネルギー及び/又はバッテリ52からの電気エネルギーを第2回転機MG2へ供給し、その第2回転機MG2を駆動(力行制御)して駆動輪28にトルクを付与することにより、エンジン14の動力を補助するためのトルクアシストを必要に応じて実行する。また、モータ走行領域であっても、バッテリ52の充電状態SOCや放電可能電力Wout が予め定められた閾値未満の場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。モータ走行モードからハイブリッド走行モードへ移行する際のエンジン14の始動は、走行中か停車中かに拘らず、例えば第1回転機MG1によりエンジン回転速度ωe を引き上げてクランキングすることにより行うことができる。
ハイブリッド制御部82は更に、回生制御手段として機能する回生制御部86を備えている。回生制御部86は、アクセルオフすなわちパワーオフの減速走行であるコースト走行時に、第2回転機MG2を回生制御してバッテリ52を充電するとともに所定の制動力を発生させる。回生トルク(MG2トルク)Tm は一定値であっても良いが、車速Vに応じて変化させても良い。また、ブレーキが踏込み操作されたブレーキオン時には、踏込み操作されていないブレーキオフ時よりも回生トルクTm を大きくして良く、ブレーキ操作力に応じて回生トルクTm を変化させることもできる。なお、本実施例ではブレーキのオンオフに関係無く回生制御を行うが、ブレーキオン時だけ回生制御を実行し、ブレーキオフ時には回生制御を実行しないようにしても良い。
一方、前記AT変速制御部90は、コーストダウンシフト制御手段として機能するコーストダウンシフト制御部92、油圧記憶手段として機能する油圧記憶部94、及び学習制御手段として機能する学習制御部96を備えている。コーストダウンシフト制御部92は、コースト走行時に車速Vの低下に伴って前記有段変速部20をダウンシフトする際の変速制御を実行するもので、図2に示される係合作動表から明らかなように、一対の係合装置CBの係合及び解放によるクラッチツウクラッチ変速によってATギヤ段を切り替える。具体的には、AT4速ギヤ段「4th」からAT3速ギヤ段「3rd」へのコーストダウンシフトの場合、ブレーキB1を解放するとともにクラッチC1を係合し、AT3速ギヤ段「3rd」からAT2速ギヤ段「2nd」へのコーストダウンシフトの場合、クラッチC2を解放するとともにブレーキB1を係合し、AT2速ギヤ段「2nd」からAT1速ギヤ段「1st」へのコーストダウンシフトの場合、ブレーキB1を解放するとともにブレーキB2を係合する。
図8は、AT3速ギヤ段「3rd」からAT2速ギヤ段「2nd」へダウンシフトする場合の各部の変化を説明するタイムチャートの一例で、時間t1は変速判断が為された時間であり、時間t2で、実際のクラッチツウクラッチ変速を行うための油圧制御指令信号Satが出力される。具体的に説明すると、クラッチC2を解放するための解放側油圧指令値Pdra は、例えば、直ちに所定の解放待機指示圧αまで低下させられ、一定の待機時間だけその解放待機指示圧αに保持された後に一定の変化率で低下させられる。解放側油圧指令値Pdra は解放側の係合装置CBの係合油圧Pcbに対応し、係合油圧Pcbは所定の応答遅れを有して変化させられる。また、ブレーキB1を係合させるための係合油圧指令値Papp は、例えば、パック詰めのためのファーストフィルに続いて所定の係合待機指示圧βに一定の待機時間だけ保持された後、AT入力回転速度ωi の変化等に応じて上昇させられる。係合側油圧指令値Papp は係合側の係合装置CBの係合油圧Pcbに対応し、係合油圧Pcbは所定の応答遅れを有して変化させられる。図8の時間t3は、変速前ATギヤ段の変速比γatx と出力回転速度ωo とを掛け算した変速前同期回転速度よりもAT入力回転速度ωi が高くなるイナーシャ相の開始判断が為された時間である。時間t4は、変速後ATギヤ段の変速比γaty と出力回転速度ωo とを掛け算した変速後同期回転速度とAT入力回転速度ωi とが略一致する同期判断(変速終了判断)が為された時間で、この同期判断が為されると係合側油圧指令値Papp が最大圧まで増大させられて一連の変速制御が終了する。解放待機指示圧αは解放側指示圧に相当し、係合待機指示圧βは係合側指示圧に相当する。
ここで、上記解放待機指示圧α及び係合待機指示圧βは、それぞれ予め油圧記憶部94に記憶されているとともに、学習制御部96によって学習補正されるようになっている。すなわち、コーストダウンシフトでは、解放側の係合装置CBを解放しつつ、係合側の係合装置CBの係合トルクによりAT入力回転速度ωi を引き上げて変速を進行させる必要があり、各部の個体差や経時変化に拘らず、AT入力回転速度ωi が大きくアンダーシュートしたりタイアップしたりすることが防止されるように、解放待機指示圧α及び係合待機指示圧βが学習制御部96によって学習補正される。解放待機指示圧α及び係合待機指示圧βは、コーストダウンシフトの種類毎、すなわちダウンシフトに関与する係合装置BC毎に記憶されるとともに学習補正される。また、ブレーキ操作の有無など車両状態に応じて場合分けして個別に記憶するとともに学習補正することも可能である。
コーストダウンシフトのクラッチツウクラッチ変速では、変速時のトルク相及びイナーシャ相で変速機出力トルクに落込み(制動トルクの増加)が生じることから、等パワー変速を実現する上で、前記回生制御部86によって第2回転機MG2の回生トルクTm を一時的に低減する回生トルク低減制御が行われる。図8のタイムチャートのMG2トルクTm の欄のトルク相補償制御及びイナーシャ相補償制御は、この回生トルク低減制御を具体的に例示したものであり、破線は、変速に伴うAT入力回転速度ωi の変化に拘らず等パワーとなる回生トルクTm である。また、MG2トルクTm が変化させられると、変速に伴うAT入力回転速度ωi の変化に影響し、更には学習制御部96による学習制御に影響する恐れがあるため、本実施例では、トルク相が開始する前にトルク相補償制御による回生トルクTm の低減制御が完了させられる。
前記学習制御部96は、解放待機指示圧αの学習制御に先立って係合待機指示圧βの学習制御を実行する。係合待機指示圧βの学習補正は、例えばイナーシャ相開始所要時間tine(図8参照)が予め定められた目標値となるように、係合待機指示圧βを増減させる。イナーシャ相開始所要時間tineは、例えば図8に示すように係合待機指示圧βに一定時間保持した後に係合側油圧指令値Papp が上昇を開始する時点からイナーシャ相開始(時間t3)までの時間であるが、変速制御の開始時点(時間t2)からイナーシャ相開始までの時間であっても良い。目標値は、例えばコーストダウンシフトの種類毎に定められ、イナーシャ相開始所要時間tineが目標値よりも短い場合は係合待機指示圧βが低減され、イナーシャ相開始所要時間tineが目標値よりも長い場合は係合待機指示圧βが増大させられる。増減時の目標値には所定のヒステリシスが設けられる。図10のタイムチャートの変速回数Sh1は、係合待機指示圧βの学習補正が終了して係合側学習完了フラグがONとなった時間であり、この後に解放待機指示圧αの学習制御が開始される。図10は、係合待機指示圧βが一定の油圧幅で低減されているが、目標値との偏差に応じて1回の学習補正の油圧幅を変更しても良い。上記係合側学習完了フラグはコーストダウンシフトの種類毎に設けられているとともに、例えば同じ種類のコーストダウンシフトの実行回数が所定値に達するなど一定の条件下でONからOFFにリセットされ、係合待機指示圧βの学習制御が定期的に行われる。
解放待機指示圧αの学習制御は、例えば図9のフローチャートのステップS1〜S6(以下、単にS1〜S6という)に従って行われる。学習制御部96は、解放待機指示圧αの学習制御に関連して低減制限手段として機能する低減制限部98を備えており、図9のフローチャートのS3、S4、及びS6は低減制限部98に相当する。
図9のフローチャートは、前記係合側学習完了フラグがONであることを条件として、同じ種類のコーストダウンシフトが行われる毎に実行され、S1では、コーストダウンシフトの際のアンダーシュート回転数nundが予め定められた上限値nsを越えているか否かを判断する。アンダーシュート回転数nundは、図8に示されるように変速前同期回転速度に対する実際のAT入力回転速度ωi の低下量の最大値で、例えば変速前ATギヤ段の変速比γatx を用いて次式(1) に従って算出される値の最大値である。AT入力回転速度ωi が極小値になった時の変速前同期回転速度との回転速度差をアンダーシュート回転数nundと見做しても良い。上限値nsは、変速ショックや変速所要時間等を考慮して、コーストダウンシフトの種類毎に予め定められ、一定値であっても良いが、車速Vや減速度、ブレーキ操作の有無などの車両状態に応じて変更しても良い。本実施例では、アンダーシュート回転数nundがアンダーシュート量であるが、AT入力回転速度ωi が変速前同期回転速度を下回っているアンダーシュート時間tundや、そのアンダーシュート時間tundの間のアンダーシュート回転数nundの積分値などを、アンダーシュート量として用いることもできる。
nund=ωo ×γatx −ωi ・・・(1)
上記S1の判断がYES(肯定)の場合、すなわちnund>nsの場合には、S2を実行し、アンダーシュートが抑制されるように次回のコーストダウンシフト時における解放待機指示圧αが増大させられるように、その解放待機指示圧αを学習補正する。具体的には、油圧記憶部94に記憶されている解放待機指示圧αを増大して上書きし、次回の同じ種類のコーストダウンシフト時にその新たな解放待機指示圧αを用いて解放側油圧指令値Pdra が制御されるようにする。解放待機指示圧αの増大幅は、例えばアンダーシュート回転数nundが略0の弱タイアップ状態となるように、上限値nsに応じて予め一定値が定められる。図10のタイムチャートの変速回数Sh2、Sh3、Sh4は、何れもS2が実行されて解放待機指示圧αを増大させる学習補正が行われた変速時である。次のS3では、同じ種類のコーストダウンシフトの実行回数を計数するカウンタCを0にリセットする。
S1の判断がNO(否定)の場合、すなわちnund≦nsの場合には、S4を実行し、カウンタCの計数値が予め定められた設定値Cs以上か否かを判断する。前記S2の実行で解放待機指示圧αが増大させられた直後は、S3でカウンタCがリセットされることから計数値は0であり、S6を実行してカウンタCに1を加算する。そして、同じ種類のコーストダウンシフトが実行される毎に、S1及びS4に続いてS6が繰り返し実行されることにより、カウンタCが1ずつ加算され、設定値Csに達すると、S4に続いてS5が実行される。S5では、次回のコーストダウンシフト時における解放待機指示圧αが低減されるように、その解放待機指示圧αを学習補正する。具体的には、油圧記憶部94に記憶されている解放待機指示圧αを低減して上書きし、次回の同じ種類のコーストダウンシフト時にその新たな解放待機指示圧αを用いて解放側油圧指令値Pdra が制御されるようにする。解放待機指示圧αの低減幅は、前記S2の増大幅よりも小さい一定値で、例えば増大幅の1/2〜1/10程度の範囲内で設定され、解放待機指示圧αが徐々に低減される。図10は低減幅が増大幅の1/5程度の場合である。
前記S4の設定値Csは、解放待機指示圧αの低減が禁止される変速回数に相当し、1以上の任意の値を設定できるが、本実施例では経時変化等を考慮して例えば5〜20程度の範囲内で設定され、図10はCs=6の場合である。この設定値Csは、コーストダウンシフトの種類に拘らず一定値であっても良いが、コーストダウンシフトの種類毎に異なる値を設定することもできる。また、ブレーキ操作の有無や減速度、或いはAT入力トルク等の車両状態に応じて場合分けして異なる値を設定しても良い。図10の最下段の解放待機指示圧αのグラフは、カウンタCによる低減制限を行わない場合で、参考として示したものであり、増大させられた後に直ちに徐減されるのに対し、下から2段目に示す本実施例では、設定値Csに対応する変速回数だけ解放待機指示圧αが増大させられた状態に保持される。すなわち、S2における解放待機指示圧αの増大幅によって異なるが、例えばアンダーシュート回転数nundが略0の弱タイアップ状態となる状態に保持される。
このように、本実施例の車両10の電子制御装置80によれば、アンダーシュート回転数nundが上限値nsを越えてS2で解放待機指示圧αが増大させられると、アンダーシュート回転数nundが上限値ns以下と判断されたコーストダウンシフトの回数であるカウンタCの計数値が設定値Csに達するまで(S4の判断がYES)、解放待機指示圧αの低減が禁止される。このため、アンダーシュート回転数nundが上限値nsよりも小さい状態、具体的には例えばアンダーシュート回転数nundが略0の弱タイアップ状態となる状態が長くなる。これにより、第2回転機MG2の回生制御によって負トルク(回生トルク)Tm が加えられるコーストダウンシフトのクラッチツウクラッチ変速においても、油圧のばらつきや外乱による油圧不足で上限値nsを大きく上回るアンダーシュートの発生が抑制される。
また、アンダーシュート回転数nundが上限値nsを越えたら解放待機指示圧αを増大するように学習制御が行われ、上限値nsとして比較的大きな値を設定できるため、上限値nsそのものを小さくする場合に比較して、過大なアンダーシュートを抑制しつつ解放待機指示圧αの増大時に例えばアンダーシュート回転数nundが略0の弱タイアップ状態となるように学習制御を行うことができる。
また、アンダーシュート回転数nundが上限値ns以下の時に解放待機指示圧αを低減する際の油圧幅が、アンダーシュート回転数nundが上限値nsを越えた場合に解放待機指示圧αを増大する際の油圧幅よりも小さいため、アンダーシュート回転数nundが上限値ns以下と判断されたコーストダウンシフトの回数すなわちカウンタCの計数値が設定値Csに達した後においても、解放待機指示圧αが徐々に低減されるようになり、アンダーシュート回転数nundが上限値nsよりも十分に小さい状態が長く維持されて、油圧のばらつきや外乱による油圧不足で上限値nsを大きく上回るアンダーシュートの発生(頻度や大きさ)が一層適切に抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用され得る。
例えば、前述の実施例では、無段変速部18と有段変速部20とを直列に備える車両10を例示したが、この態様に限らない。例えば、図11に示すような車両200であっても良い。車両200は、走行用の動力源としてのエンジン202、動力源として機能する回転機MG、を有するハイブリッド車両で、車両用駆動装置204を備えている。回転機MGは、電動機及び発電機として選択的に用いられるモータジェネレータである。車両用駆動装置204はまた、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース206内において、エンジン202側から順番に、クラッチK0、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータ208、及び機械式有段変速部210等を備えており、更に差動歯車装置212、車軸214等を備えている。トルクコンバータ208のポンプ翼車208aは、クラッチK0を介してエンジン202と連結されていると共に、直接的に回転機MGと連結されている。トルクコンバータ208のタービン翼車208bは、機械式有段変速部210と直接的に連結されている。車両用駆動装置204において、エンジン202の動力及び/又は回転機MGの動力は、クラッチK0(エンジン202の動力を伝達する場合) 、トルクコンバータ208、機械式有段変速部210、差動歯車装置212、車軸214等を順次介して駆動輪216へ伝達される。機械式有段変速部210は、遊星歯車式の自動変速機で複数の油圧式摩擦係合装置を備えており、クラッチツウクラッチ変速によりギヤ段が切り替えられるものである。
このような車両200においても、クラッチK0を遮断することによりエンジン202を停止して回転機MGにより走行するモータ走行モードや、エンジン202を作動させて走行するハイブリッド走行モードが可能である。そして、それ等のモータ走行モードやハイブリッド走行モードでの走行時に、図8に示すように回転機MG2による回生を伴うコーストダウンシフトが行われる際に、図9に示すフローチャートに従って解放待機指示圧αの学習制御を行うことが可能で、前記実施例と同様の作用効果が得られる。
また、本発明の実施に際しては、上記車両200におけるエンジン202やクラッチK0やトルクコンバータ208を備えず、有段変速部210の入力側に直接的に回転機MGが連結されるような車両であっても良い。要は、動力源として機能する回転機と、その回転機と駆動輪との間の動力伝達経路の一部を構成する有段変速部とを備えた車両であれば、本発明を適用することができる。尚、車両200では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ208が用いられているが、トルク増幅作用のない流体継手などの他の流体式伝動装置が用いられても良い。又、トルクコンバータ208は、必ずしも設けられなくても良いし、或いは、単なるクラッチに置き換えられても良い。
また、前述の実施例では、有段変速部20は、前進4速のATギヤ段が形成される遊星歯車式の自動変速機であったが、この態様に限らない。例えば、同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備え、各系統の入力軸に油圧式摩擦係合装置(クラッチ) が設けられ、それぞれ偶数段、奇数段のギヤ段を成立させる型式の変速機である公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などの自動変速機であっても良い。
また、前述の実施例では、変速機40全体として有段変速機のように変速させる模擬有段化制御部84を備えており、模擬ギヤ段変速マップを用いて模擬ギヤ段を切り替えたが、この態様に限らない。例えば、シフトレバー56やアップダウンスイッチ等による運転者の変速指示に従って変速機40の模擬ギヤ段を切り替えるものでも良い。
また、前述の実施例では、4種類のATギヤ段に対して10種類の模擬ギヤ段を割り当てる実施態様を例示したが、この態様に限らない。好適には、模擬ギヤ段の段数はATギヤ段の段数以上であれば良く、ATギヤ段の段数と同じであっても良いが、ATギヤ段の段数よりも多いことが望ましく、例えば2倍以上が適当である。ATギヤ段の変速は、中間伝達部材30やその中間伝達部材30に連結される第2回転機MG2の回転速度が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、又、模擬ギヤ段の変速は、エンジン回転速度ωe が所定の回転速度範囲内に保持されるように行なうものであり、それら各々の段数は適宜定められる。
また、前述の実施例では、差動機構32は、3つの回転要素を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置の構成であったが、この態様に限らない。例えば、差動機構32は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、差動機構32は、ダブルピニオン型の遊星歯車装置であっても良い。又、前記実施例の差動機構32は図3の共線図において中間に位置する回転要素RE1(キャリアCA0)にエンジン14が連結されていたが、例えば共線図の中間に位置する回転要素にAT入力回転部材(中間伝達部材30)を連結しても良いなど、種々の態様が可能である。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。