以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による制御装置が適用された内燃機関(以下「エンジン」という)3を示している。エンジン3は、四輪車両(図示せず)に動力源として搭載されており、低オクタン価燃料としてのガソリンGと、高オクタン価燃料としてのエタノールEを併用するものである。ガソリンGは、10%程度の高オクタン価成分としてのエタノール成分を含む市販のものであり、第1燃料タンク21に貯留されている。エタノールEは、60%程度のエタノール成分を含むものであり、ガソリンGよりもオクタン価が高く、第2燃料タンク22に貯留されている。周知のように、燃料のエタノール成分の濃度は、当該燃料のオクタン価を表し、エタノール成分の濃度が高いほど、オクタン価はより高くなる。第1及び第2燃料タンク21、22の内部には、低圧ポンプ21a及び22aがそれぞれ設けられている。低圧ポンプ22aによる燃料の吐出圧は、所定圧PREFに設定されている。
本実施形態では、エタノールEは、分離装置23によってガソリンGから生成される。この分離装置23は、第1燃料タンク21から通路23aを介して供給されたガソリンGから、エタノール成分を分離することによって、エタノールEを生成するとともに、生成したエタノールEを、通路23bを介して第2燃料タンク22に供給する。分離装置23による第2燃料タンク22へのエタノールEの生成・供給動作は、制御装置の後述するECU2によって制御される(図5参照)。なお、分離装置23による分離方法として、分離膜による方法や、触媒による方法を適宜、採用可能である。
エンジン3は、例えば4つの気筒3a(1つのみ図示)を有している。各気筒3aのピストン3bとシリンダヘッド3cとの間には、燃焼室3dが形成されている。燃焼室3dには、吸気ポート4a及び吸気マニホルド4bを介して、吸気通路4が接続されるとともに、排気ポート5a及び排気マニホルド5bを介して、排気通路5が接続されている。
また、シリンダヘッド3cには筒内噴射弁6が、吸気マニホルド4bにはポート噴射弁7が、気筒3aごとにそれぞれ設けられている。シリンダヘッド3cにはさらに、燃焼室3d内に生成された燃料と空気との混合気を点火するための点火プラグ8が、気筒3aごとに設けられている。
筒内噴射弁6及びポート噴射弁7はいずれも、ソレノイドやニードル弁(いずれも図示せず)などで構成された一般的なものである。筒内噴射弁6は、噴射孔(図示せず)を有する先端部が燃焼室3dに臨むように配置されており、ガソリン供給通路24、及びその途中に設けられた高圧ポンプ25を介して、第1燃料タンク21の低圧ポンプ21aに接続されている。ポート噴射弁7は、噴射孔(図示せず)を有する先端部が吸気ポート4aに臨むように配置されており、エタノール供給通路26を介して、第2燃料タンク22の低圧ポンプ22aに接続されている。
以上の構成により、ガソリンGは、第1燃料タンク21から低圧ポンプ21a及びガソリン供給通路24を介し、高圧ポンプ25によって昇圧された状態で、筒内噴射弁6に供給され、筒内噴射弁6から燃焼室3dに直接、噴射される。筒内噴射弁6に供給されるガソリンGの圧力は、高圧ポンプ25の動作をECU2で制御することによって、変更される。また、エタノールEは、第2燃料タンク22から低圧ポンプ22a及びエタノール供給通路26を介して、ポート噴射弁7に供給され、ポート噴射弁7から吸気ポート4aに噴射される。
次に、第2燃料タンク22について詳細に説明する。図2に示すように、第2燃料タンク22は、エタノールEが貯留されるタンク本体22bと、タンク本体22b内に設けられたリザーバ22cなどで構成されている。リザーバ22cは、車両の旋回時や、加減速時、登坂走行時、降坂走行時に、第2燃料タンク22が車両と一緒に傾斜するのに起因して低圧ポンプ22aがエタノールEを吸入できなくなるのを防止するためのものである。
具体的には、リザーバ22cは、鉢状に形成されており、その底部がタンク本体22bの底面に一体に取り付けられている。上記の低圧ポンプ22aは、このリザーバ22c内のエタノールEを吸入し、エタノール供給通路26を介してポート噴射弁7側に吐出するように、設けられている。リザーバ22cの底部の左側の壁面の前後方向の中央には、水平方向に延びる管状の吸入通路22dが一体に設けられており、吸入通路22dの内部は、一端部に形成されたリザーバ吸入口22eにおいてタンク本体22b内に連通しており、他端部に形成された吐出口においてリザーバ22c内に連通している。
図3に示すように、吸入通路22dの内部には、これを開閉するためのフラッパ22fが設けられており、吸入通路22dの内部におけるフラッパ22fよりもタンク本体22b側の部分には、フラッパ22fの回動を規制するためのストッパ22gが設けられている。フラッパ22fは、図3に二点鎖線で示す開放位置と、実線で示す閉鎖位置との間で回動自在に設けられている。
タンク本体22b内の吸入通路22d側の部分におけるエタノールEの液面がリザーバ22c内の吸入通路22d側の部分におけるエタノールEの液面よりも高いときには、フラッパ22fは、吸入通路22d内に導入されるタンク本体22b内のエタノールEの液圧で押圧されることによって、開放位置に回動する。これにより、吸入通路22dがフラッパ22fで開放されるのに伴い、タンク本体22b内のエタノールEが、吸入通路22dを介してリザーバ22c内に流入する。
これとは逆に、リザーバ22c内の吸入通路22d側の部分におけるエタノールEの液面がタンク本体22b内の吸入通路22d側の部分におけるエタノールEの液面よりも高いときには、フラッパ22fは、吸入通路22d内に導入されるリザーバ22c内のエタノールEの液圧で押圧されることによって、閉鎖位置側に回動するとともに、ストッパ22gに当接することで閉鎖位置に保持される。これにより、吸入通路22dがフラッパ22fで閉鎖されることによって、リザーバ22c内のエタノールEが吸入通路22dを介してタンク本体22b内に流入するのが阻止される。
また、図4は、左右方向に延びる水平線(二点鎖線で図示)に対して第2燃料タンク22が右方に傾斜している場合におけるタンク本体22b内のエタノールEの液面と吸入通路22dのリザーバ吸入口22eとの位置関係を示している。第2燃料タンク22が右方に傾斜するような状況は、車両の左旋回時に、遠心力により第2燃料タンク22が車両と一緒に傾斜することによって発生する。
また、図4(a)は、タンク本体22b内のエタノールEの液面とリザーバ吸入口22eとの上記の位置関係を、この場合における第2燃料タンク22の傾斜角(以下「第2燃料タンク傾斜角」という)θが比較的小さく、かつタンク本体22b内のエタノールEの残量(以下「本体エタノール残量」という)が非常に少ない場合について、示している。また、タンク本体22b内のエタノールEの液面とリザーバ吸入口22eとの上記の位置関係を、図4(b)は、第2燃料タンク傾斜角θが中程度で、かつ本体エタノール残量が比較的少ない場合について、図4(c)は、第2燃料タンク傾斜角θが非常に大きく、かつ本体エタノール残量が図4(b)よりも多い場合について、それぞれ示している。なお、図4(a)及び(b)では便宜上、タンク本体22b内のエタノールEの液面を一点鎖線で示し、リザーバ22c内のエタノールEの液面を実線で示している。
図4(a)〜図4(c)に示すように、本体エタノール残量(タンク本体22b内のエタノールEの残量)が少ないほど、第2燃料タンク傾斜角θがより小さいときに、リザーバ吸入口22eが、タンク本体22b内のエタノールEの液面よりも上方に位置し、エタノールEに浸されなくなることにより、タンク本体22b内のエタノールEをリザーバ22cに流入させることができなくなる。このような場合には、リザーバ22cにそれまでに貯留されたエタノールEが低圧22aポンプで吸入される。ただし、リザーバ22cに貯留できるエタノールEの量は比較的少ない。
なお、吸入通路22dがリザーバ22cに対して前述したように配置されているため、車両の右旋回時、加減速時、登坂走行時及び降坂走行時には、リザーバ吸入口22eがタンク本体22b内のエタノールEの液面よりも上方に位置するような状況は、基本的に発生しない。
また、第1燃料タンク21は、第2燃料タンク22と同様に構成されている。前述したようにエタノールEが分離装置23でガソリンGから生成される構成上、第1燃料タンク21内のガソリンGの残量は、第2燃料タンク22内のエタノールEの残量よりも多くなる傾向にある。また、第1燃料タンク21内のガソリンGの残量が少なくなると、そのことが車両の運転席のインジケータ(図示せず)に表示されることによって、運転者に給油が促される。以上から、第1燃料タンク21では、上述した第2燃料タンク22の場合と異なり、車両の左旋回時、それに伴って第1燃料タンク21が傾斜しても、そのタンク本体内のガソリンGがリザーバに流入しなくなるような事象は、基本的には発生しない。
さらに、エンジン3の吸気通路4には、スロットル弁9が設けられており、スロットル弁9は、吸気通路4を開閉する弁体9aと、弁体9aを駆動するTHアクチュエータ9bを有している。THアクチュエータ9bは、例えば電動モータで構成されており、ECU2に接続されている(図5参照)。スロットル弁9の開度はECU2により変更され、それにより、吸気通路4を介して気筒3a内に流入する吸入空気の量が制御される。
また、エンジン3には、クランク角センサ31、ノックセンサ32及び水温センサ33が設けられている。クランク角センサ31は、クランクシャフト(図示せず)の回転に伴って、パルス信号であるCRK信号及びTDC信号をECU2に出力する(図5参照)。CRK信号は、所定のクランクシャフトの回転角度(以下「クランク角」という。例えば1°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、いずれかの気筒3aにおいて、ピストン3bが吸気行程の開始時の上死点付近に位置することを表す信号であり、実施形態のように気筒3aが4つの場合には、クランク角180°ごとに出力される。
上記のノックセンサ32は、例えばピエゾ素子などで構成され、エンジン3のシリンダブロックに設けられており、エンジン3のノッキングの強度であるノック強度KNOCKを検出するとともに、その検出信号をECU2に出力する。水温センサ33は、エンジン3の冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)TWを検出するとともに、その検出信号をECU2に出力する。
また、吸気通路4のスロットル弁9よりも下流側には吸気圧センサ34が、排気通路5には空燃比センサ35が、それぞれ設けられている。吸気圧センサ34は、吸気通路4内の圧力である吸気圧PBAを検出するとともに、その検出信号をECU2に出力する。ECU2は、算出されたエンジン回転数NE及び検出された吸気圧PBAに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、気筒3a内に吸入される吸入空気の吸入空気量QAIRを算出する。上記の空燃比センサ35は燃焼室3d内で燃焼した混合気の空燃比LAFを検出するとともに、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、エンジン3には、気筒判別センサ(図示せず)が設けられている。気筒判別センサは、気筒を判別するためのパルス信号である気筒判別信号をECU2に出力する。ECU2は、この気筒判別信号、上記のCRK信号及びTDC信号によって、クランクシャフトの実際の回転角度位置である実クランク角度位置を気筒3aごとに算出する。この場合、実クランク角度位置は、各気筒3aのTDC信号を基準としたクランクシャフトの回転角度位置に算出され、TDC信号の発生時には値0に算出される。
また、第1及び第2燃料タンク21、22には、例えばフロート式のガソリン残量センサ36及びエタノール残量センサ37がそれぞれ設けられている。ガソリン残量センサ36は、第1燃料タンク21に貯留されたガソリンGの残量(以下「ガソリン残量」という)QRF1を検出し、その検出信号をECU2に出力する。エタノール残量センサ37は、前記本体エタノール残量QRF2(タンク本体22b内のエタノールEの残量)を検出し、その検出信号をECU2に出力する。
さらに、第1及び第2燃料タンク21、22には、例えば静電容量式の第1濃度センサ38及び第2濃度センサ39がそれぞれ設けられている。第1濃度センサ38は、第1燃料タンク21に貯留されたガソリンGに含まれるエタノール成分の濃度(以下「第1エタノール濃度」という)EL1を検出し、その検出信号をECU2に出力する。第2濃度センサ39は、第2燃料タンク22のリザーバ22cに貯留されたエタノールEに含まれるエタノール成分の濃度(以下「第2エタノール濃度」という)EL2を検出し、その検出信号をECU2に出力する。なお、第1及び第2濃度センサ38、39として、他の適当なセンサ、例えば光学式のセンサなどを用いてもよいことはもちろんである。
また、第2燃料タンク22には、例えば静電容量式の傾斜センサ40が設けられている。傾斜センサ40は、前記第2燃料タンク傾斜角θ(車両の左右方向に延びる水平線に対する第2燃料タンク22の右方への傾斜角)を検出し、その検出信号をECU2に出力する。なお、傾斜センサ40として、他の適当なセンサ、例えば振り子式のセンサなどを用いてもよいことはもちろんである。
また、ECU2には、アクセル開度センサ41から、車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、車速センサ42から、車両の車速VPを表す検出信号が、それぞれ出力される。
ECU2は、CPU、RAM、ROM、及びI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前記各種のセンサ31〜42からの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、筒内噴射弁6及びポート噴射弁7の各々の燃料噴射時間及び噴射時期や、点火プラグ8の点火時期、スロットル弁9の開度を制御するとともに、前述した分離装置23や、高圧ポンプ25の動作を制御する。
次に、図6〜図14を参照しながら、ECU2によって実行される処理について説明する。図6に示すエンジン制御処理は、筒内噴射弁6及びポート噴射弁7の各々の噴射時間及び点火プラグ8の点火時期を気筒3aごとに制御するための処理であり、TDC信号の発生に同期して、繰り返し実行される。まず、図6のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、検出された本体エタノール残量QRF2を、検出されたガソリン残量QRF1とエタノール残量QRF2の和で除算することによって、エタノール残量割合RQRF2を算出する[RQRF2=QRF2/(QRF1+QRF2)]。
次いで、検出された第1エタノール濃度EL1を補正することによって、第1推定エタノール濃度EL1Eを算出する(ステップ2)とともに、検出された第2エタノール濃度EL2を補正することによって、第2推定エタノール濃度EL2Eを算出する(ステップ3)。この場合、第1及び第2推定エタノール濃度EL1E、EL2Eは、後述するステップ10によってエンジン3でノッキングが発生していると判定されるほど、より小さな値に補正される。
次に、エンジン回転数NE及び算出された吸入空気量QAIRに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本燃料噴射量QINJBを算出する(ステップ4)。次いで、エンジン回転数NE及び吸入空気量QAIRに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、要求エタノール濃度EREQを算出する(ステップ5)。この要求エタノール濃度EREQは、燃焼室3d内に供給される燃料のエタノール濃度の要求値であり、上記のマップでは、吸入空気量QAIRが大きいほど、より大きな値に設定されている。
次に、前記ステップ2及び3でそれぞれ算出された第1及び第2推定エタノール濃度EL1E、EL2E、ならびにステップ5で算出された要求エタノール濃度EREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本ポート噴射割合RF2Bを算出する(ステップ6)。この基本ポート噴射割合RF2Bは、筒内噴射量とポート噴射量の和に対するポート噴射量の割合の基本値であり、上記のマップでは、燃焼室3d内に供給される燃料中のエタノール濃度が要求エタノール濃度EREQになるように、設定されている。
次いで、前記ステップ4で算出された基本燃料噴射量QINJBに、補正係数KINJを乗算することによって、総燃料噴射量QINJTを算出する(ステップ7)。総燃料噴射量QINJTは、筒内噴射弁6の噴射量(以下「筒内噴射量」という)とポート噴射弁7の噴射量(以下「ポート噴射量」という)の和の目標値である。この補正係数KINJは、量論混合比補正係数と、空燃比補正係数とに基づいて設定される。この量論混合比補正係数は、燃料中のエタノール濃度が異なると、吸入空気量QAIRに対して空燃比LAFがストイキ相当空燃比になる燃料の質量割合(以下「量論混合比」という)が異なる大きさになる点に着目し、それによる影響を補償するためのものであり、例えば次のようにして算出される。
すなわち、まず、第1及び第2推定エタノール濃度EL1E、EL2Eに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、ガソリンG及びエタノールEの量論混合比を算出する。次いで、値1.0から上記ステップ6で算出された基本ポート噴射割合RF2Bを減算した値に、算出されたガソリンGの量論混合比を乗算した値と、基本ポート噴射割合RF2Bに、算出されたエタノールEの量論混合比を乗算した値との和を、量論混合比補正係数として算出する。総燃料噴射量QINJTは、この量論混合比補正係数に応じて算出されることにより、第1又は第2推定エタノール濃度EL1E、EL2Eが大きいほど、より大きな値に算出される。また、上記の空燃比補正係数は、例えば、検出された空燃比LAFが所定の目標空燃比になるように、所定のフィードバック制御アルゴリズムに従って算出される。なお、量論混合比補正係数を、基本ポート噴射割合RF2Bに代えて、図7のステップ23や、ステップ27、図9のステップ42、図11のステップ79、81で最終的に算出されたポート噴射割合RF2に応じて算出してもよい。
前記ステップ7に続くステップ8では、エンジン回転数NE及び吸入空気量QAIRに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、基本点火時期IGBを算出する。次いで、算出された基本点火時期IGBに、補正係数KIGを乗算することによって、暫定点火時期IGTEMを算出する(ステップ9)。この補正係数KIGは、検出されたエンジン水温TWなどに基づいて算出される。以上により、暫定点火時期IGTEMは、エンジン3の効率が最も高くなるような点火プラグ8の最適点火時期に設定される。
次に、検出されたノック強度KNOCKが所定の判定値KJUDよりも大きいか否かを判別する(ステップ10)。なお、本処理及び後述するいずれの処理においても、ノック強度KNOCKとして、そのときに検出されたKNOCKではなく、エンジン3の前回の燃焼サイクルにおいて検出されたKNOCKの最大値が用いられる。
上記ステップ10の答がYES(KNOCK>KJUD)のときには、エンジン3のノッキングが発生していると判定するとともに、ノッキング用制御処理を実行し(ステップ11)、本処理を終了する。一方、ステップ10の答がNO(KNOCK≦KJUD)のときには、エンジン3のノッキングが発生していないと判定するとともに、非ノッキング用制御処理を実行し(ステップ12)、本処理を終了する。
次に、図7及び図8を参照しながら、図6のステップ11で実行されるノッキング用制御処理について説明する。まず、図7のステップ21では、図6のステップ1で算出されたエタノール残量割合RQRF2、ノック強度KNOCK、エンジン回転数NE及び吸入空気量QAIRに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、加算項COARF2を算出する。このマップでは、加算項COARF2は正値に設定されており、その設定の詳細については後述する。
次いで、前述した基本ポート噴射割合RF2Bの補正値であるポート噴射割合補正項の前回値CORF2Zに、ステップ21で算出された加算項COARF2を加算することによって、今回のポート噴射割合補正項CORF2を算出する(ステップ22)。ポート噴射割合補正項の前回値CORF2Zは、エンジン3の始動時に所定の上限値に設定される。次に、図6のステップ6で算出された基本ポート噴射割合RF2Bに、ステップ22で算出されたポート噴射割合補正項CORF2を加算することによって、ポート噴射割合RF2を算出する(ステップ23)。
次いで、算出されたポート噴射割合RF2が、所定の上限値RF2LMHよりも大きいか否かを判別する(ステップ24)。この上限値RF2LMHは、値1.0以下の正値に設定されている。このステップ24の答がNO(RF2≦RF2LMH)のときには、エタノール残量割合RQRF2に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第1点火時期補正項COIG1を算出する(ステップ25)。このマップでは、第1点火時期補正項COIG1は正値に設定されており、その設定の詳細については後述する。次に、算出された第1点火時期補正項COIG1を、点火時期補正項COIGとして設定し(ステップ26)、ステップ30に進む。この点火時期補正項COIGは、暫定点火時期IGTEMを補正する補正項である。
一方、前記ステップ24の答がYESで、ポート噴射割合RF2が上限値RF2LMHよりも大きいときには、ポート噴射割合RF2を上限値RF2LMHに設定する(ステップ27)。次いで、エタノール残量割合RQRF2に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第2点火時期補正項COIG2を算出する(ステップ28)。このマップでは、第2点火時期補正項COIG2は正値に設定されており、その設定の詳細については後述する。次に、算出された第2点火時期補正項COIG2を、点火時期補正項COIGとして設定し(ステップ29)、ステップ30に進む。
前記ステップ26又は29に続く図8のステップ30では、図6のステップ7で算出された総燃料噴射量QINJTに、前記ステップ23で算出されたポート噴射割合RF2を乗算することによって、目標ポート噴射量QINJ2を算出する。次いで、算出された目標ポート噴射量QINJ2に基づき、ポート噴射弁7の開弁時間の目標値である最終ポート噴射時間TOUT2を算出する(ステップ31)。以上のようにして最終ポート噴射時間TOUT2が算出されると、ポート噴射弁7が、図示しない処理で算出されたポート噴射開始時期に開弁されるとともに、その開弁時間が最終ポート噴射時間TOUT2になるように制御される。その結果、ポート噴射量は、ステップ30で算出された目標ポート噴射量QINJ2になるように制御される。
次に、総燃料噴射量QINJTから、上記ステップ30で算出された目標ポート噴射量QINJ2を減算することによって、目標筒内噴射量QINJ1を算出する(ステップ32)とともに、算出された目標筒内噴射量QINJ1に基づき、筒内噴射弁6の開弁時間の目標値である最終筒内噴射時間TOUT1を算出する(ステップ33)。以上のようにして最終筒内噴射時間TOUT1が算出されると、筒内噴射弁6が、図示しない処理で算出された筒内噴射開始時期に開弁されるとともに、その開弁時間が最終筒内噴射時間TOUT1になるように制御される。その結果、筒内噴射量は、ステップ32で算出された目標筒内噴射量QINJ1になるように制御される。
上記ステップ33に続くステップ34では、図6のステップ9で算出された暫定点火時期IGTEMに、ステップ26又は29で算出された点火時期補正項COIGを加算することによって、点火時期IGを算出する。次いで、算出された点火時期IGが所定の上限値IGLMHよりも大きいか否かを判別する(ステップ35)。この上限値IGLMHは、点火時期IGの遅角側の制限値である。このステップ35の答がYES(IG>IGLMH)のときには、点火時期IGを上限値IGLMHに設定し(ステップ36)、ステップ37に進む一方、NO(IG≦IGLMH)のときには、ステップ36をスキップし、ステップ37に進む。
このステップ37では、後述する設定フラグF_SET及び減算フラグF_SUBTを「1」に設定し、本処理を終了する。以上のようにして点火時期IGが算出されると、点火プラグ8の点火時期が、算出された点火時期IGになるように制御される。なお、点火時期IGは、大きいほど、より遅角側になる。また、設定フラグF_SET及び減算フラグF_SUBTは、エンジン3の始動時に「0」にリセットされる。
以上のように、ノッキング用制御処理では、前記ステップ21〜23の実行により、基本ポート噴射割合RF2Bにポート噴射割合補正項CORF2を加算することによって、ポート噴射割合RF2が増大補正される。この場合、ポート噴射割合補正項CORF2に加算される加算項COARF2は、前記マップにおいて、エタノール残量割合RQRF2が大きいほど、より大きな値に設定されており、また、ノック強度KNOCKが大きいほど、より大きな値に設定されている。これにより、ポート噴射割合RF2の増大補正量は、エタノール残量割合RQRF2が大きいほど、また、ノック強度KNOCKが大きいほど、より大きくなる。なお、ポート噴射割合補正項CORF2は、リミット処理(図示せず)によって、前記上限値以下に制限される。
また、ノッキング用制御処理では、前記ステップ25、26、28、29及び34の実行により、基本点火時期IGBに点火時期補正項COIGを加算することによって、点火時期IGが遅角側に補正される。この場合、点火時期補正項COIGとして用いられる第1及び第2点火時期補正項COIG1、COIG2は、前記マップにおいて、エタノール残量割合RQRF2が小さいほど、より大きな値に設定されている。これにより、点火時期IGの遅角補正量は、エタノール残量割合RQRF2が小さいほど、より大きくなる。また、第1及び第2点火時期補正項COIG1、COIG2は、吸気ポート4aの壁面へのエタノールEの付着の影響や、ポート噴射弁7から噴射された燃料が気筒3a内に実際に流入するまでの時間遅れ(以下「ポート噴射燃料の流入時間遅れ」という)の影響に応じて、エンジン3のノッキングを抑制できるような値に設定されている。
また、増大補正されたポート噴射割合RF2は、上限値RF2LMH以下に制限される(ステップ24、27)。さらに、点火時期補正項COIGとして、ポート噴射割合RF2が上限値RF2LMHに制限されているとき(ステップ24:YES)には、第2点火時期補正項COIG2が用いられ、制限されていないとき(ステップ24:NO)には、第1点火時期補正項COIG1が用いられる。前記マップにおいて、第2点火時期補正項COIG2は、エタノール残量割合RQRF2の全体として、第1点火時期補正項COIG1よりも大きな値に設定されている。これにより、増大補正されたポート噴射割合RF2が上限値RF2LMHに制限されているときには、制限されていないときよりも、点火時期IGの遅角補正量は大きくなる。
次に、図9〜図11を参照しながら、図6のステップ12で実行される非ノッキング用制御処理について説明する。まず、図9のステップ41では、吸入空気量QAIRが所定値QKNOCKよりも大きいか否かを判別する。この答がNO(QAIR≦QKNOCK)のときには、エンジン3が、ノッキングが発生するような負荷領域にないと判定する。次いで、図6のステップ6で算出された基本ポート噴射割合RF2Bをそのまま、ポート噴射割合RF2として設定する(ステップ42)。
次に、ステップ43〜46において、図8のステップ30〜33と同様にして、目標ポート噴射量QINJ2、最終ポート噴射時間TOUT2、目標筒内噴射量QINJ1、及び最終筒内噴射時間TOUT1をそれぞれ算出する。以上により、ポート噴射量が、ステップ43で算出された目標ポート噴射量QINJ2になるように制御されるとともに、筒内噴射量が、ステップ45で算出された目標筒内噴射量QINJ1になるように制御される。
次いで、点火時期IGを、図6のステップ9で算出された暫定点火時期IGTEMに設定し(ステップ47)、本処理を終了する。以上のようにして点火時期IGが算出されると、ステップ34の場合と同様、点火プラグ8の点火時期が、ステップ47で算出された点火時期IGになるように制御される。
一方、前記ステップ41の答がYES(QAIR>QKNOCK)のときには、エンジン3が、ノッキングが発生するような負荷領域にあると判定する。次いで、図10のステップ51において、前記設定フラグF_SETが「1」であるか否かを判別する。この答がYES(F_SET=1)のときには、エタノール残量割合RQRF2が所定値RQRB以上であるか否かを判別する(ステップ52)。
このステップ52の答がYES(RQRF2≧RQRB)のときには、エタノール残量割合RQRF2に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第1減算時間TIMA1を算出する(ステップ53)。このマップでは、第1減算時間TIMA1は正値に設定されており、その設定の詳細については後述する。次いで、算出された第1減算時間TIMA1で、所定の基本減算項COSIBを除算することによって、減算項COSIGを算出する(ステップ54)。次に、減算項COSIGの算出・設定を終了するために、設定フラグF_SETを「0」にリセットし(ステップ55)、ステップ58に進む。
一方、ステップ52の答がNOで、エタノール残量割合RQRF2が所定値RQRBよりも小さいときには、エタノール残量割合RQRF2に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第2減算時間TIMA2を算出する(ステップ56)。このマップでは、第2減算時間TIMA2は正値に設定されており、その設定の詳細については後述する。次いで、算出された第2減算時間TIMA2で、上記の基本減算項COSIBを除算することによって、減算項COSIGを算出する(ステップ57)。次に、減算項COSIGの算出・設定を終了するために、上記ステップ55を実行し(F_SET←0)、ステップ58に進む。
一方、前記ステップ51の答がNO(F_SET=0)のときには、ステップ52〜57をスキップし、ステップ58に進む。
このステップ58では、減算フラグF_SUBTが「1」であるか否かを判別する。この答がYES(F_SUBT=1)のときには、図7のステップ26又は29で設定された点火時期補正項の前回値COIGZから、ステップ54又は57で算出された減算項COSIGを減算することによって、今回の点火時期補正項COIGを算出する(ステップ59)。
次いで、ステップ59で算出された点火時期補正項COIGが値0以下であるか否かを判別する(ステップ60)。この答がNO(COIG>0)のときには、図6のステップ9で算出された暫定点火時期IGTEMに、ステップ59で算出された点火時期補正項COIGを加算することによって、点火時期IGを算出し(ステップ61)、図11のステップ71に進む。以上のようにして点火時期IGが算出されると、図8のステップ34などと同様、点火プラグ8の点火時期が、ステップ61で算出された点火時期IGになるように制御される。
一方、上記ステップ60の答がYESで、点火時期補正項COIGが値0以下になったときには、ステップ59による点火時期補正項COIGの減算処理を終了するために、減算フラグF_SUBTを「0」にリセットする(ステップ62)。次いで、点火時期IGを、図6のステップ9で算出された暫定点火時期IGTEMに設定し(ステップ63)、図11のステップ71に進む。
一方、前記ステップ58の答がNO(F_SUBT=0)のときには、上記ステップ63を実行することによって、点火時期IGを暫定点火時期IGTEMに設定し、図11のステップ71に進む。
図10のステップ61又は63に続く図11のステップ71では、エタノール残量割合RQRF2が所定値RQRB以上であるか否かを判別する。この答がYES(RQRF2≧RQRB)のときには、減算フラグF_SUBTが「1」であるか否かを判別する(ステップ72)。この答がYES(F_SUBT=1)のとき、すなわち、前記ステップ59による点火時期補正項COIGの減算処理の実行中であるときには、ポート噴射割合補正項の前回値CORF2Zを、今回のポート噴射割合補正項CORF2として設定し(ステップ73)、後述するステップ79に進む。
一方、上記ステップ72の答がNO(F_SUBT=0)で、点火時期補正項COIGの減算処理の実行中でないときには、エタノール残量割合RQRF2に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第1減算時間TIMB1を算出する(ステップ74)。このマップでは、第1減算時間TIMB1は正値に設定されており、その設定の詳細については後述する。次いで、算出された第1減算時間TIMB1で、所定の基本減算項COSRBを除算することによって、減算項COSRF2を算出し(ステップ75)、ステップ78に進む。
一方、前記ステップ71の答がNO(RQRF2<RQRB)のときには、エタノール残量割合RQRF2に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第2減算時間TIMB2を算出する(ステップ76)。このマップでは、第2減算時間TIMB2は正値に設定されており、その設定の詳細については後述する。次いで、算出された第2減算時間TIMB2で、上記の基本減算項COSRBを除算することによって、減算項COSRF2を算出し(ステップ77)、ステップ78に進む。
前記ステップ75又は77に続くステップ78では、ポート噴射割合補正項の前回値CORF2Zから、ステップ75又は77で算出された減算項COSRF2を減算することによって、今回のポート噴射割合補正項CORF2を算出する。次いで、ステップ79に進む。
前記ステップ73又は78に続くステップ79では、図6のステップ6で算出された基本ポート噴射割合RF2Bに、ステップ73又は78で設定・算出されたポート噴射割合補正項CORF2を加算することによって、ポート噴射割合RF2を算出する。次いで、算出されたポート噴射割合RF2が所定の下限値RF2LMLよりも小さいか否かを判別する(ステップ80)。この下限値RF2LMLは、図7のステップ24で用いられる上限値RF2LMHよりも小さな正値に設定されている。
このステップ80の答がYES(RF2<RF2LML)のときには、ポート噴射割合RF2を下限値RF2LMLに設定し(ステップ81)、ステップ82に進む。一方、ステップ80の答がNOで、ポート噴射割合RF2が所定の下限値RF2LML以上であるときには、ステップ81をスキップし、ステップ82に進む。
続くステップ82〜85では、図8のステップ30〜33と同様にして、目標ポート噴射量QINJ2、最終ポート噴射時間TOUT2、目標筒内噴射量QINJ1及び最終筒内噴射時間TOUT1をそれぞれ算出し、本処理を終了する。以上により、ポート噴射量が、ステップ82で算出された目標ポート噴射量QINJ2になるように制御されるとともに、筒内噴射量が、ステップ84で算出された目標筒内噴射量QINJ1になるように制御される。
以上のように、非ノッキング用制御処理では、エンジン3が、ノッキングが発生するような負荷領域にないとき(図9のステップ41:NO)には、ポート噴射割合RF2が基本ポート噴射割合RF2Bに設定される(ステップ42)とともに、点火時期IGが暫定点火時期IGTEMに設定される(ステップ47)。また、エンジン3が、ノッキングが発生するような負荷領域にあるとき(ステップ41:YES)には、エンジン3の始動からノッキングが発生しない限り、減算フラグF_SUBTが「0」に保持されることによって、点火時期IGは暫定点火時期IGTEMに設定される(図10のステップ58:NO、ステップ63)。
一方、エンジン3が、ノッキングが発生するような負荷領域にある場合において、それまでにエンジン3のノッキングが発生したと判定されたことでノッキング用制御処理が実行されていたときには、当該ノッキング用制御処理で設定された点火時期補正項COIGを減算する減算処理が実行される(図10のステップ59)。
この点火時期補正項COIGの減算処理は、点火時期補正項COIGが値0以下になるまで繰り返され、その実行中、点火時期IGは、暫定点火時期IGTEMに点火時期補正項COIGを加算した値に、設定される(図10のステップ61)。そして、点火時期補正項COIGが値0以下になると(ステップ60:YES)、点火時期補正項COIGの減算処理が終了され、減算フラグF_SUBTが「0」に設定される(ステップ62)。点火時期補正項COIGの減算処理が終了した以後は、点火時期IGは、暫定点火時期IGTEMに設定される(ステップ58:NO、ステップ63)。以上により、点火時期IGは、エンジン3のノッキングの発生時に、暫定点火時期IGTEMよりも遅角側に補正され、ノッキングが発生しなくなったときに、進角側の暫定点火時期IGTEMに徐々に復帰される。
さらに、点火時期補正項COIGから減算される減算項COSIGは、所定の基本減算項COSIBを第1又は第2減算時間TIMA1、TIMA2で除算することによって、算出される(図10のステップ54、57)。これらの第1及び第2減算時間TIMA1、TIMA2は、前記マップにおいて、エタノール残量割合RQRF2が小さいほど、より大きな値に設定されている(ステップ53、56)。また、エタノール残量割合RQRF2が所定値RQRB以上であるとき(ステップ52:YES)には、第1減算時間TIMA1が用いられ、所定値RQRBよりも小さいとき(ステップ52:NO)には、第2減算時間TIMA2が用いられる。第2減算時間TIMA2は、前記マップにおいて、エタノール残量割合RQRF2の全体として、第1減算時間TIMA1よりも大きな値に設定されている。以上により、エタノール残量割合RQRF2が小さいほど、減算項COSIGがより小さな値に設定されることによって、点火時期IGが暫定点火時期IGTEMに復帰するまでの時間が、より長くなる。
さらに、第1減算時間TIMA1は、前記マップにおいて、前記ポート噴射燃料の流入時間遅れ(ポート噴射弁7から噴射された燃料が気筒3a内に実際に流入するまでの時間遅れ)に応じて、設定されており、このポート噴射燃料の流入時間遅れの間は、点火時期補正項COIGが値0にならないような値に設定されている。
また、非ノッキング用制御処理では、エンジン3が、ノッキングが発生するような負荷領域にあるときには、ポート噴射割合補正項CORF2を減算するポート噴射割合補正項CORF2の減算処理が実行される(図11のステップ78)。ポート噴射割合補正項CORF2の減算処理は、基本的には、上述した点火時期補正項COIGの減算処理とは異なり、エンジン3のノッキングが発生しておらず、かつ、エンジン3が、ノッキングが発生するような負荷領域にある限り、繰り返し実行される。
一方、エンジン3のノッキングが発生しなくなった場合において、エタノール残量割合RQRF2が所定値RQRB以上であるとき(ステップ71:YES)には、非ノッキング用制御処理が開始されてから点火時期補正項COIGの減算処理が終了するまでの間は、ポート噴射割合補正項CORF2の減算処理は実行されず、ポート噴射割合補正項CORF2は、その前回値CORF2Zに保持される(ステップ72:YES、ステップ73)。これにより、ポート噴射割合補正項CORF2は、非ノッキング用制御処理が開始されてから点火時期補正項COIGが値0になるまでの間は、ノッキング用制御処理(図7のステップ22)で増大された値に、保持される。そして、点火時期補正項COIGの減算処理が終了すると(ステップ72:NO)、ポート噴射割合補正項CORF2の減算処理が開始される。
一方、エタノール残量割合RQRF2が所定値RQRBよりも小さいとき(ステップ71:NO)には、点火時期補正項COIGの減算処理にかかわらず、非ノッキング用制御処理の開始に伴って、ポート噴射割合補正項CORF2の減算処理が開始される。すなわち、この場合には、点火時期補正項COIGの減算処理と、ポート噴射割合補正項CORF2の減算処理が互いに併行して実行される。
また、ポート噴射割合補正項CORF2から減算される減算項COSRF2は、所定の基本減算項COSRBを第1又は第2減算時間TIMB1、TIMB2で除算することによって、算出される(図11のステップ75、77)。これらの第1及び第2減算時間TIMB1、TIMB2は、前記マップにおいて、エタノール残量割合RQRF2が小さいほど、より小さな値に設定されている(ステップ74、76)。また、エタノール残量割合RQRF2が所定値RQRB以上であるとき(ステップ71:YES)には、第1減算時間TIMB1が用いられ、所定値RQRBよりも小さいとき(ステップ71:NO)には、第2減算時間TIMB2が用いられる。第2減算時間TIMB2は、前記マップにおいて、エタノール残量割合RQRF2の全体として、第1減算時間TIMB1よりも小さな値に設定されている。以上により、エタノール残量割合RQRF2が小さいほど、減算項COSRF2がより大きな値に設定されることによって、ポート噴射割合補正項CORF2がより大きな傾きで減少する結果、ポート噴射割合補正項CORF2が加算されるポート噴射割合RF2も、より大きな傾きで減少する。
なお、ポート噴射割合補正項CORF2は、リミット処理(図示せず)によって、所定の下限値以上に制限される。
以上のように、エンジン制御処理において、ポート噴射割合RF2を、エンジン3のノッキングが発生していないときに基本的に減少補正するとともに、発生しているときに増大補正するのは、次の理由による。すなわち、第1及び第2濃度センサ39、40で検出された第1及び第2エタノール濃度EL1、EL2の精度は、両センサ39、40の個体差や経年劣化などの影響を受けるため、必ずしも高くはない。このため、第1及び第2エタノール濃度EL1、EL2に基づいて算出された第1及び第2推定エタノール濃度EL1E、EL2Eや要求エタノール濃度EREQを用いて、ポート噴射割合RF2を算出しても、燃焼室3d内に供給される燃料の実際のエタノール濃度が、要求エタノール濃度EREQよりも大きくなったり、小さくなったりし、前者の場合にはエタノールEの無駄な消費につながり、後者の場合にはエンジン3のノッキングの頻繁な発生につながってしまう。この点に着目し、エタノールEの消費を最小限に抑えながら、エンジン3のノッキングを抑制するためである。
次に、図12及び図13を参照しながら、エンジン3の吸入空気量QAIRを制御するための処理について説明する。本処理は、TDC信号の発生に同期して、かつ、前記エンジン制御処理と併行して、繰り返し実行される。まず、本処理の概要について述べる。すなわち、図4を参照して説明したように、本体エタノール残量QRF2(タンク本体22b内のエタノールEの残量)と第2燃料タンク傾斜角θとの関係によっては、タンク本体22b内のエタノールEをリザーバ22cに導入できず、リザーバ22c内のエタノールEしか、低圧ポンプ22aで吸入できなくなる。図12及び図13に示す処理では、このような場合において、リザーバ22c内のエタノールEが後述する下限値QLMLに達したときに、エンジン3のノッキングを抑制するために、エンジン3の出力を制限するように、吸入空気量QAIRが制御される。
まず、図12のステップ91では、本体エタノール残量QRF2に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、上限傾斜角θLMTを算出する。この上限傾斜角θLMTは、吸入通路22dのリザーバ吸入口22eがタンク本体22b内のエタノールEの液面よりも上方に位置し、エタノールEに浸されなくなるときの第2燃料タンク傾斜角θの最小値に相当する。上記のマップでは、図4を参照して説明したタンク本体22b内のエタノールEの液面とリザーバ吸入口22eとの位置関係に基づいて、上限傾斜角θLMTは、本体エタノール残量QRF2が大きいほど、より大きな値に設定されている。
次いで、エンジン回転数NE及び検出されたアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、エンジン3の要求トルクTREQを算出する(ステップ92)。このマップでは、要求トルクTREQは、アクセル開度APが大きいほど、より大きな値に設定されている。次に、検出された第2燃料タンク傾斜角θが上記ステップ91で算出された上限傾斜角θLMT以上であるか否かを判別する(ステップ93)。
このステップ93の答がNO(θ<θLMT)のとき、すなわち、リザーバ吸入口22eがタンク本体22b内のエタノールEの液面よりも下方に位置し、エタノールEに浸されているときには、傾斜済みフラグF_DONEが「1」であるか否かを判別する(ステップ94)。この傾斜済みフラグF_DONEは、エンジン3の始動後、ステップ93の答がYESになったときに、「1」に設定されるものであり、エンジン3の始動時に「0」にリセットされる。
上記ステップ94の答がNO(F_DONE=0)のとき、すなわち、エンジン3の始動から現在までの間にわたって、リザーバ吸入口22eが、タンク本体22b内のエタノールEの液面よりも下方に継続して位置し、エタノールEに継続して浸されているときには、後述する図13のステップ106に進む。
一方、前記ステップ93の答がYES(θ≧θLMT)のとき、すなわち、リザーバ吸入口22eがタンク本体22b内のエタノールEの液面よりも上方に位置し、エタノールEに浸されていないときには、傾斜済みフラグF_DONEが「1」であるか否かを判別する(ステップ95)。
このステップ95の答がNO(F_DONE=0)のときには、エンジン3の始動後、ステップ93の答がYESになったことを、すなわち、リザーバ吸入口22eがタンク本体22b内のエタノールEの液面よりも上方に位置したことを表すために、傾斜済みフラグF_DONEを「1」に設定する(ステップ96)。次いで、図8や、図9、図11などで算出された目標ポート噴射量の前回値QINJ2Zを所定値QREREFから減算することによって、リザーバ22c内のエタノールEの残量(以下「リザーバエタノール残量」という)QRERF2を算出し(ステップ97)、図13のステップ101に進む。この所定値QREREFは、本処理の前回の実行時で、かつポート噴射弁7によるエタノールEの噴射が実行される前のリザーバエタノール残量に相当し、例えば、前回時に検出された本体エタノール残量QRF2に応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、算出される。このマップでは、所定値QREREFは、QRF2が大きいほど、より大きな値に設定されている。
一方、上記ステップ95の答がYES(F_DONE=1)のときには、目標ポート噴射量の前回値QINJ2Zをリザーバエタノール残量の前回値QRERF2Zから減算することによって、今回のリザーバエタノール残量QRERF2を算出し(ステップ98)、図13のステップ101に進む。
一方、前記ステップ94の答がYES(F_DONE=1)のとき、すなわち、ステップ93の答が一旦、YESになってから、NOになったときには、目標ポート噴射量の前回値QINJ2Zをリザーバエタノール残量の前回値QRERF2Zから減算した値に、エタノール流入量QRINを加算することによって、リザーバエタノール残量QRERF2を算出し(ステップ99)、図13のステップ101に進む。このエタノール流入量QRINは、本処理の前回の処理タイミングから今回の処理タイミングまでの間に、タンク本体22b内からリザーバ22c内に流入するエタノールEの流入量であり、例えば本体エタノール残量QRF2に応じたマップ検索によって算出される。エタノール流入量QRINは、基本的には、目標ポート噴射量の前回値QINJ2Zよりも大きい。なお、図示しないものの、ステップ99において、リザーバエタノール残量QRERF2は、リザーバ22cに貯留可能なエタノールEの最大値以下に制限される。
前記ステップ97、98又は99に続く図13のステップ101では、算出されたリザーバエタノール残量QRERF2が所定の下限値QLML以下であるか否かを判別する。この下限値QLMLは、上述したようにして算出されるリザーバエタノール残量QRERF2に基づいてステップ101の答がYESとNOの間で頻繁に切り替わるのを防止するために、所定のヒステリシス付きの値に設定されている。例えば、下限値QLMLは、リザーバエタノール残量QRERF2がステップ97又は98で算出されているときには、値0に設定され、ステップ99で算出されているときには、値0よりも若干大きな所定値に設定される。
このステップ101の答がNO(QRERF2>QLML)のときには、ステップ106に進む。一方、ステップ101の答がYESで、リザーバエタノール残量QRERF2が下限値QLML以下であるときには、ポート噴射割合RF2を値0に設定する(ステップ102)。このステップ102が実行されると、それにより値0に設定されたポート噴射割合RF2は、図8、図9及び図11には図示しないものの、図8のステップ30、図9のステップ43、及び図11のステップ82における目標ポート噴射量QINJ2の算出に、優先的に用いられる。これにより、目標ポート噴射量QINJ2が値0に算出されることによって、ポート噴射弁7によるエタノールEの噴射動作が停止されるとともに、総燃料噴射量QINJT分のガソリンGが筒内噴射弁6から噴射される。
ステップ102に続くステップ103では、エンジン回転数NEに応じ、図14に示すマップを検索することによって、上限要求トルクTREQLIMを算出する。上限要求トルクTREQLIMは、エンジン3の要求トルクTREQの上限値であり、この図14に示すマップでは、ポート噴射割合RF2が値0に設定されているとき、すなわち、ガソリンGのみが燃焼室3dに供給されているときに、エンジン3のノッキングが確実に抑制されるような最大のトルク値に設定されている。また、図14に示すように、上限要求トルクTREQLIMは、エンジン回転数NEが所定の第1回転数NE1よりも低い極低回転領域では、NEが高いほど、比較的大きな傾きで、より大きな値に設定され、NEがNE1以上でかつ所定の第2回転数NE2(>NE1)よりも低い低〜高回転領域では、NEが高いほど、比較的小さな傾きで、より大きな値に設定され、NEがNE2以上の高回転領域では、NEが高いほど、比較的大きな傾きで、より小さな値に設定されている。このような上限要求トルクTREQLIMの設定は、エンジン回転数NEとエンジン3の出力トルクとの関係に基づくものであり、一般的な内燃機関の回転数と出力トルクとの関係と同様である。
前記ステップ103に続くステップ104では、図12のステップ92で算出された要求トルクTREQが、ステップ103で算出された上限要求トルクTREQLIMよりも大きいか否かを判別する。この答がYES(TREQ>TREQLIM)のときには、要求トルクTREQを上限要求トルクTREQLIMに設定し(ステップ105)、ステップ106に進む。一方、ステップ104の答がNO(TREQ≦TREQLIM)のときには、ステップ105をスキップし、ステップ106に進む。
図12のステップ94の答がNO(θ<θGLMTかつF_DONE=0)のとき、前記ステップ101の答がNO(QRERF2>QLML)のとき、又は、ステップ104の答がNO(TREQ≦TREQLIM)のときに続いて、あるいは、ステップ105に続いて実行されるステップ106では、図12のステップ92又は図13のステップ105で算出・設定された要求トルクTREQに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、目標吸入空気量QAOBJを算出する。このマップでは、目標吸入空気量QAOBJは、要求トルクTREQが大きいほど、より大きな値に設定されている。
次いで、算出された目標吸入空気量QAOBJに基づく制御信号をTHアクチュエータ9bに出力し(ステップ107)、本処理を終了する。このステップ107の実行により、スロットル弁9の開度が制御されることによって、吸入空気量QAIRが目標吸入空気量QAOBJになるように制御され、ひいては、エンジン3のトルクが要求トルクTREQになるように制御される。
以上のように、図12及び図13に示す処理によれば、エンジン3の始動後、第2燃料タンク傾斜角θが上限傾斜角θLMTに一度も達していないとき(図12のステップ94:NO)には、エンジン回転数NEなどに応じて算出された要求トルクTREQがそのまま吸入空気量QAIRの制御に用いられる(ステップ92、図13のステップ106、107)。そして、第2燃料タンク傾斜角θが上限傾斜角θLMT以上になると(ステップ93:YES)、リザーバ22c内のエタノールEの残量であるリザーバエタノール残量QRERF2の算出が行われる。
この場合、エンジン3の始動後、第2燃料タンク傾斜角θが上限傾斜角θLMT以上に初めてなったとき(ステップ95:NO)には、リザーバエタノール残量QRERF2は、前回時でかつポート噴射弁7によるエタノールEの噴射が実行される前のリザーバエタノール残量に相当する所定値QREREFから、目標ポート噴射量の前回値QINJ2Zを減算することによって、算出される(ステップ97)。その後、リザーバエタノール残量QRERF2は、θがθLMT以上である限り(ステップ95:YES)、その前回値QRERF2Zから目標ポート噴射量の前回値QINJ2Zを減算することによって、算出される(ステップ98)。
第2燃料タンク傾斜角θが上限傾斜角θLMT以上であるときに、上述したようにしてリザーバエタノール残量QRERF2を算出するのは、θ≧θLMTのときには、図4を参照して説明したように、リザーバ吸入口22eがタンク本体22b内のエタノールEの液面よりも上方に位置することによりタンク本体22b内のエタノールEがリザーバ22c内に吸入されなくなるとともに、リザーバ22c内のエタノールEがポート噴射量(目標ポート噴射量QINJ2)の分、消費されるためである。
そして、第2燃料タンク傾斜角θがθLMTよりも小さくなると(ステップ93:NO、ステップ94:YES)、リザーバエタノール残量QRERF2は、その前回値QRERF2Zから目標ポート噴射量の前回値QINJ2Zを減算した値に、エタノール流入量QRINを加算することによって算出される(ステップ99)。このエタノール流入量QRINは、前述したように本処理の前回時から今回時までの間にタンク本体22b内からリザーバ22c内に流入したエタノールEの流入量である。
このような場合に、リザーバエタノール残量QRERF2を上述したようにして算出するのは、リザーバ22c内のエタノールEがポート噴射量の分、依然として消費されることに加え、θ<θLMTになると、リザーバ吸入口22eがタンク本体22b内のエタノールEに浸されることによって、タンク本体22b内のエタノールEがリザーバ22c内に流入するようになるためである。なお、エタノール流入量QRINは、前述したように基本的にはポート噴射量よりも大きいため、それにより、ステップ99で算出されるリザーバエタノール残量QRERF2は、本処理の実行が繰り返されるのに伴って、増大する。
また、第1実施形態における各種の要素と、本発明における各種の要素との対応関係は、次のとおりである。すなわち、第1実施形態における第1及び第2燃料タンク21、22が、本発明における低オクタン価燃料タンク及び高オクタン価燃料タンクにそれぞれ相当し、本実施形態における傾斜センサ40が、本発明における傾斜状態取得手段に相当するとともに、本実施形態におけるECU2が、本発明における残量取得手段及び出力制限手段に相当する。
以上のように、第1実施形態によれば、第2燃料タンク22が右方に傾斜したときの傾斜角である第2燃料タンク傾斜角θが傾斜角センサ40で検出されるとともに、リザーバ22c内のエタノールEの残量であるリザーバエタノール残量QRERF2が算出される(図12のステップ97〜99)。また、第2燃料タンク傾斜角θ及びリザーバエタノール残量QRERF2に応じて、エンジン3の出力が制限される。
より具体的には、第2燃料タンク傾斜角θが上限傾斜角θLMT以上である場合(図12のステップ93:YES)において、リザーバエタノール残量QRERF2が下限値に達したとき(図13のステップ101:YES)に、エンジン3の出力(トルク)が、気筒3a内にガソリンGのみを供給したときでもノッキングを確実に抑制できるような大きさに、制限される(ステップ103〜107)。これにより、第2燃料タンク22の傾斜及びリザーバエタノール残量QRERF2の減少に起因して気筒3a内にエタノールEを供給できないような場合に、エンジン3のノッキングを適切に抑制することができる。この場合、エンジン3の出力の制限に用いられる上限要求トルクTREQLIMが、ガソリンGのみが気筒3a内に供給されているときに、エンジン3のノッキングが確実に抑制されるような最大のトルク値に設定されている。したがって、エンジン3の出力を過剰に制限することなく、上述した効果を有効に得ることができる。
また、第2燃料タンク22が傾斜しただけでなく、リザーバエタノール残量QRERF2が下限値QLMLに実際に減少するのを待って、エンジン3の出力を制限するので、当該制限が不要に行われるのを防止することができる。
次に、図15〜図21を参照しながら、本発明の第2実施形態による制御装置について説明する。この制御装置は、第1実施形態と比較して、吸入空気量QAIRを制御するための処理が主に異なっており、図15などに示す第2実施形態による吸入空気量QAIRを制御するための処理では、第2燃料タンク傾斜角θが上限傾斜角θLMT以上であるときに、リザーバエタノール残量QRERF2が減少するのに応じて、要求トルクTREQが徐々に制限される。図15、図17及び図19において、第1実施形態と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図15のステップ111では、前述した低圧ポンプ22aによる燃料の吐出圧である所定圧PREFから、吸気圧PBAを減算することによって、圧力偏差DPを算出する。次いで、エンジン回転数NE、吸入空気量QAIR及び、ステップ111で算出された圧力偏差DPに応じ、図16に示すマップを検索することによって、ポート噴射割合RF2の前記上限値RF2LMHの基本値BASELMHを算出する(ステップ112)。
この基本値BASELMHを算出するためのマップとして、圧力偏差DPが第1所定値DPREFa、第2所定値DPREFb、第3所定値DPREFc及び第4所定値DPREFdであるときにそれぞれ用いられる4つのマップが設定されており、図16は、DPがDPREFaであるときに用いられるマップを示している。また、第1〜第4所定値DPREFa〜DPREFdの大小関係は、DPREFa>DPREFb>DPREFc>DPREFdに設定されている。
また、図16に示すように、基本値BASELMHを算出するためのマップでは、エンジン回転数NE及び吸入空気量QAIRで規定される複数の領域αa、βa、γa及びδaが設定されており、NE及びQAIRが領域αa、βa、γa及びδaにそれぞれあるときには、基本値BASELMHは、所定の第1、第2、第3及び第4基本値BASEαa、BASEβa、BASEγa、BASEδaにそれぞれ設定される。なお、図16に示すマップは、DPがDPREFaであるときに用いられるものである。図示しないものの、DPがDPREFbであるときに用いられるマップでは、領域αb、βb、γb及びδbが設定されており、NE及びQAIRがこれらの領域αb、βb、γb及びδbにそれぞれあるときには、基本値BASELMHは、所定の第1、第2、第3及び第4基本値BASEαb、BASEβb、BASEγb、BASEδbにそれぞれ設定される。これらの第1〜第4基本値BASEαb〜BASEδbは、上記の第1〜第4基本値BASEαa〜BASEδaよりも小さな値にそれぞれ設定されている。
また、DPがDPREFcであるときに用いられるマップでは、領域αc、βc、γc及びδcが設定されており、NE及びQAIRがこれらの領域αc、βc、γc及びδcにそれぞれあるときには、基本値BASELMHは、所定の第1、第2、第3及び第4基本値BASEαc、BASEβc、BASEγc、BASEδcにそれぞれ設定される。これらの第1〜第4基本値BASEαc〜BASEδcは、上記の第1〜第4基本値BASEαb〜BASEδbよりも小さな値にそれぞれ設定されている。さらに、DPがDPREFdであるときに用いられるマップでは、領域αd、βd、γd及びδdが設定されており、NE及びQAIRがこれらの領域αd、βd、γd及びδdにそれぞれあるときには、基本値BASELMHは、所定の第1、第2、第3及び第4基本値BASEαd、BASEβd、BASEγd、BASEδdにそれぞれ設定される。これらの第1〜第4基本値BASEαd〜BASEδdは、上記の第1〜第4基本値BASEαc〜BASEδcよりも小さな値にそれぞれ設定されている。
以上のように、基本値BASELMHは、圧力偏差DPが小さいほど、より小さな値に設定される。これは、圧力偏差DPが小さいほど、すなわち、ポート噴射弁7によるエタノールEの噴射圧が吸気ポート4aにおける圧力に対して低くなるほど、ポート噴射弁7の同じ開弁時間に対して、噴射されるポート噴射量がより少なくなるためである。なお、圧力偏差DPが第1〜第4所定値DPREFa〜DPREFdのいずれとも異なるときには、基本値BASELMHは補間演算により算出される。
また、上記の4つのマップにおいて、領域αa〜αdは、エンジン回転数NE及び吸入空気量QAIRで表されるエンジン3の出力(以下「エンジン出力」という)が極めて高い極高出力領域に設定され、領域βa〜βdは、エンジン出力が比較的高く、かつ、領域αa〜αdよりも低い高出力領域にそれぞれ設定されている。また、領域γa〜γdは、エンジン出力が中で、かつ、領域βa〜βdよりも低い中出力領域にそれぞれ設定されており、領域δa〜δdは、エンジン出力が低から中で、かつ、領域γa〜γdよりも低い低中出力領域にそれぞれ設定されている。さらに、第1〜第4基本値BASEαa〜BASEδaの大小関係は、BASEαa<BASEβa<BASEγa<BASEδaに設定されており、第1〜第4基本値BASEαb〜BASEδb、BASEαc〜BASEδc、及びBASEαd〜BASEδdの大小関係は、BASEαb<BASEβb<BASEγb<BASEδb、BASEαc<BASEβc<BASEγc<BASEδc、及びBASEαd<BASEβd<BASEγd<BASEδdにそれぞれ設定されている。以上により、基本値BASELMHは、エンジン出力が高いほど、より小さな値に算出される。これは次の理由による。
すなわち、エンジン出力が高く、エンジン回転数NEが高いほど、エンジン3の1燃焼サイクル当たりの時間が短くなることにより、ポート噴射弁7から噴射されたエタノールEを燃焼室3dで燃焼させることが可能なポート噴射弁7の開弁期間が短くなることで、ポート噴射弁7から実質的に噴射することが可能な燃料量が、より少なくなるためである。また、前述した目標筒内噴射量QINJ1の算出手法から明らかなように、ポート噴射割合RF2が大きいほど、筒内噴射弁6の筒内噴射量がより少なくなる。これにより、筒内噴射弁6の噴射孔部分がガソリンGで冷却されにくくなることによって、筒内噴射弁6の噴射孔部分の温度(以下「先端温度」という)がより高くなる結果、筒内噴射弁6の噴射孔部分に、デポジットの前駆物質が凝集し、デポジットが堆積しやすくなる。このような傾向は、エンジン出力が高く、吸入空気量QAIRが大きいほど、燃焼室3d内の温度が高くなるため、より顕著になる。このデポジットの堆積を防止すべく、エンジン出力が高いほど、ポート噴射弁7のポート噴射割合RF2をより小さな値に制限することによって、筒内噴射弁6の筒内噴射量をより多くするためである。
なお、最も大きな値に設定されている第4基本値BASEδaは、エタノールEを節約するために、値1.0よりも小さな値に設定されている。また、上述した基本値BASELMHの設定において、吸入空気量QAIRに代えて、筒内噴射弁6の先端温度と相関する他の適当なパラメータ、例えばエンジン水温TWなどを用いてもよい。
前記ステップ112に続くステップ113では、ノック強度KNOCKに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、第1補正係数COLMH1を算出する。第1補正係数COLMH1は、上限値RF2LMHを算出するために、基本値BASELMHを補正するための補正係数として用いられるものである。上記のマップでは、第1補正係数COLMH1は、ノック強度KNOCKが高いほど、値1.0以上のより大きな値に設定されている。これは、ノック強度KNOCKが高いほど、エンジン3のノッキングを適切に抑制するために、ポート噴射割合RF2の制限を緩和するためである。
次いで、エンジン回転数NE及び吸入空気量QAIRに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、点火時期IGの前記上限値IGLMH(遅角側の制限値)を算出する(ステップ114)。このマップでは、上限値IGLMHは、点火時期IGの遅角化によるエンジン3の排ガスの過熱化や燃焼の不安定化を防止できるような値に設定されており、同じNE及びQAIRに対して、前記暫定点火時期IGTEMよりも大きな値(遅角側の値)に設定されている。
次に、図8や図10で算出された点火時期IGが上記ステップ114で算出された上限値IGLMHよりも小さいか否かを判別する(ステップ115)。この答がYES(IG<IGLMH)のとき、すなわち、図8の前記ステップ35及び36で点火時期IGが上限値IGLMHに制限されないときには、第2補正係数COLMH2を値1.0に設定し(ステップ116)、ステップ118に進む。この第2補正係数COLMH2は、前記第1補正係数COLMH1と同様、上限値RF2LMHを算出するために、基本値BASELMHを補正するための補正係数として用いられるものである。
一方、上記ステップ115の答がNO(IG≧IGLMH)のとき、すなわち、点火時期IGが上限値IGLMHに制限されるときには、第2補正係数COLMH2を値1.0よりも大きな第1所定値COLMRE1に設定し(ステップ117)、ステップ118に進む。以上のように、第2補正係数COLMH2を用いた基本値BASELMHの補正は、点火時期IGが上限値IGLMHに制限されるときに限って行われ、当該補正により、基本値BASELMHは増大される。
ステップ116又は117に続くステップ118では、先端温度TEDI(筒内噴射弁6の噴射孔部分の温度)が所定の上限温度TELMHよりも低いか否かを判別する。先端温度TEDIは、例えば、サーミスタなどで構成されたセンサ(図示せず)によって検出される。あるいは、本出願人による特開2015−169184号公報に開示されているように、筒内噴射弁6の噴射孔部分の温度に影響を及ぼす各種のパラメータ、例えば、エンジン回転数NE、吸入空気量GAIRや、点火時期IG、エンジン水温TW、筒内噴射弁6の噴射時間などに応じて算出してもよい。
上記の上限温度TELMHは、筒内噴射弁6の噴射孔部分にデポジットが発生し、かつ、筒内噴射弁6の噴射孔部分が過熱化するような温度よりも若干、低い温度に設定されている。このステップ118の答がYES(TEDI<TELMH)のときには、第3補正係数COLMH3を値1.0に設定し(ステップ119)、前記ステップ91に進む。この第3補正係数COLMH3は、前記第1補正係数COLMH1と同様、上限値RF2LMHを算出するために、基本値BASELMHを補正するための補正係数として用いられるものである。
一方、ステップ118の答がNO(TEDI≧TELMH)のときには、第3補正係数COLMH3を値1.0よりも小さな第2所定値COLMRE2に設定し(ステップ120)、ステップ91に進む。以上のように、第3補正係数COLMH3を用いた基本値BASELMHの補正は、先端温度TEDIが上限温度TELMH以上であるときに限って行われ、当該補正により、基本値BASELMHは減少される。
図15及び図17に示すように、第2実施形態においても、前記ステップ92に続いて前記ステップ93〜99が実行され、これらのステップ97〜99において、リザーバエタノール残量QRERF2が算出される。図17の前記ステップ94の答がNOのときには、第1実施形態の場合と異なり、第4補正係数COLMH4を値1.0に設定し(ステップ131)、後述する図19のステップ141に進む。この第4補正係数COLMH4は、前記第1補正係数COLMH1と同様、上限値RF2LMHを算出するために、基本値BASELMHを補正するための補正係数として用いられるものである。
また、図17のステップ97、98又は99に続くステップ132では、算出されたリザーバエタノール残量QRERF2に応じ、図18に示すマップを検索することによって、第4補正係数COLMH4を算出する。図18に示すように、このマップでは、第4補正係数COLMH4は、値1.0以下の正値に設定され、リザーバエタノール残量QRERF2が小さいほど、より小さな値に設定されており、QRERF2が値0のときに、値0に設定されている。これは、リザーバエタノール残量QRERF2が小さいほど、ポート噴射割合RF2の上限値RF2LMHをより小さな値に設定することによって、エタノールEの消費を抑制するとともに、後述する上限要求トルクTREQLIMを用いたエンジン3の出力の制限を徐々に行うためである。なお、第4補正係数COLMH4を、リザーバエタノール残量QRERF2と所定値QREREFとの比(QRERF2/QREREF)に応じて算出してもよい。
ステップ131又は132に続く図19のステップ141では、図15の前記ステップ112で算出された基本値BASELMHに、ステップ113で算出された第1補正係数COLMH1と、ステップ116又は117で設定された第2補正係数COLMH2と、ステップ119又は120で設定された第3補正係数COLMH3と、ステップ131又は132で設定された第4補正係数COLMH4とを乗算することによって、上限値RF2LMHを算出する。当該算出により上限値RF2LMHは、値1.0以下に算出される。
上記のステップ141が実行されると、算出された上限値RF2LMHは、ノッキング用制御処理における図7の前記ステップ24において、ポート噴射割合RF2の制限に用いられる。また、図9及び図11には図示しないものの、非ノッキング用制御処理における図9のステップ43及び図11のステップ82での目標ポート噴射量QINJ2の算出に、算出された上限値RF2LMH以下に制限されたポート噴射割合RF2が用いられる。
ステップ141に続くステップ142では、図6の前記ステップ2及び3でそれぞれ算出された第1及び第2推定エタノール濃度EL1E、EL2E、及び上記ステップ141で算出された上限値RF2LMHを用い、次式(1)によって、筒内供給最大オクタン価ELCMAXを算出する。この式(1)から明らかなように、筒内供給最大オクタン価ELCMAXは、燃焼室3d内に供給することが可能な燃料のエタノール濃度の最大値であり、燃焼室3d内に供給することが可能な燃料のオクタン価の最大値に相当する。なお、筒内供給最大オクタン価ELCMAXを、EL1E、EL2E及びRF2LMHに応じたマップ検索により算出してもよい。
ELCMAX←EL1E(1−RF2LMH)+EL2E・RF2LMH
……(1)
次に、エンジン回転数NE及び算出された筒内供給最大オクタン価ELCMAXに応じ、図20に示すマップを検索することによって、上限要求トルクTREQLIMを算出する(ステップ143)。このマップとして、筒内供給最大オクタン価ELCMAXが所定の第1最大オクタン価EMAX1、第2最大オクタン価EMAX2、及び第3最大オクタン価EMAX3であるときにそれぞれ上限要求トルクTREQLIMを算出するための3つのマップが設定されており、第1〜第3最大オクタン価EMAX1〜EMAX3の大小関係は、EMAX1>EMAX2>EMAX3に設定されている。なお、筒内供給最大オクタン価ELCMAXが第1〜第3最大オクタン価EMAX1〜EMAX3のいずれでもないときには、上限要求トルクTREQLIMは補間演算により算出される。
また、図12に示すように、これらのマップでは、上限要求トルクTREQLIMは、筒内供給最大オクタン価ELCMAXが小さいほど、より小さな値に設定されている。これにより、要求トルクTREQは、筒内供給最大オクタン価ELCMAXが小さいほど、より小さな値に制限される。また、上限要求トルクTREQLIMは、ポート噴射割合RF2が上限値RF2LMHに設定されているとき、すなわち、燃焼室3dに供給される燃料のエタノール成分の濃度が筒内供給最大オクタン価ELCMAXに調整されているときに、エンジン3のノッキングが確実に抑制されるような最大のトルク値に、設定されている。
さらに、上限要求トルクTREQLIMは、エンジン回転数NEが所定の第1回転数NE1よりも低い極低回転領域では、NEが高いほど、比較的大きな傾きで、より大きな値に設定され、NEがNE1以上でかつ所定の第2回転数NE2(>NE1)よりも低い低〜高回転領域では、NEが高いほど、比較的小さな傾きで、より大きな値に設定され、NEがNE2以上の高回転領域では、NEが高いほど、比較的大きな傾きで、より小さな値に設定されている。このような上限要求トルクTREQLIMの設定は、エンジン回転数NEとエンジン3の出力トルクとの関係に基づくものであり、一般的な内燃機関の回転数と出力トルクとの関係と同様である。
また、上記ステップ143に次いで、前記ステップ104〜107を実行し、それにより、ステップ143で算出された上限要求トルクTREQLIMを用いた要求トルクTREQの制限を行うとともに、要求トルクTREQに基づく吸入空気量QAIRの制御を実行した後、本処理を終了する。
図21は、第2実施形態による制御装置の動作例を示している。図21に示すように、車両の左旋回に起因して第2燃料タンク傾斜角θが上限傾斜角θLMTに達すると(時点t1、図17のステップ93:YES)、リザーバエタノール残量QRERF2の算出が開始される(ステップ97)。この場合、前述したようにθ≧θLMTであることでタンク本体22b内のエタノールEがリザーバ22c内に流入せず、また、リザーバ22c内のエタノールEがポート噴射弁7による噴射によって消費されるため、リザーバエタノール残量QRERF2は、時間tの経過に伴って減少する(ステップ98)。
また、この場合、前述した第4補正係数COLMH4を算出するためのマップ(図18)から明らかなように、リザーバエタノール残量QRERF2が小さくなるほど、ポート噴射割合RF2の上限値RF2LMHがより小さな値に算出される(図19のステップ141)。これにより、エタノールEの消費が抑えられ、リザーバエタノール残量QRERF2の減少速度が小さくなる。また、前記式(1)から明らかなように、上限値RF2LMHが小さくなるほど、筒内供給最大オクタン価ELCMAXがより小さな値に算出される(ステップ142)。これに応じて、上限要求トルクTREQLIMは、より小さな値に算出されるとともに、筒内供給最大オクタン価ELCMAXに対してエンジン3のノッキングが確実に抑制されるような最大のトルク値に、算出される(ステップ143)。以上により、エンジン3の出力(トルク)は、リザーバエタノール残量QRERF2が減少するのに応じて、徐々に制限される。
そして、リザーバエタノール残量QRERF2が値0になると(時点t2)、上限値RF2LMHは値0に算出され、それにより、ポート噴射割合RF2が値0に制限(設定)される。これにより、目標ポート噴射量QINJ2が値0に算出されることによって、ポート噴射弁7によるエタノールEの噴射動作が停止されるとともに、総燃料噴射量QINJT分のガソリンGが筒内噴射弁6から噴射される。また、上限値RF2LMHが値0に算出されるのに応じて、筒内供給最大オクタン価ELCMAXが第1推定エタノール濃度EL1Eに算出される。上限要求トルクTREQLIMは、図20に示すマップを用いた算出によって、ガソリンGのみがエンジン3に供給されているとき(ELCMAX=EL1E)にノッキングが確実に抑制されるような最大のトルク値に、算出される。
以上のように、第2実施形態によれば、図21などを参照して説明したように、第2燃料タンク傾斜角θが上限傾斜角θLMT以上である場合(図17のステップ93:YES)において、リザーバエタノール残量QRERF2が減少するのに応じて、エンジン3の出力が徐々に制限される(図17のステップ132、図18、図19のステップ141〜143、104〜107)。したがって、エンジン3のノッキングを抑制しながら、エンジン3の出力の急な制限により運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
この場合、リザーバエタノール残量QRERF2が小さくなるほど、ポート噴射割合RF2の上限値RF2LMHがより小さな値に設定されるとともに、気筒3a内に供給可能な燃料のオクタン価の最大値に相当する筒内供給最大オクタン価ELCMAXが、上限値RF2LMHなどに応じて算出される。また、エンジン3の出力の制限に用いられる上限要求トルクTREQLIMが、筒内供給最大オクタン価ELCMAXに応じて算出される。以上により、上限要求トルクTREQLIMは、ポート噴射割合RF2が上限値RF2LMHに設定されているとき、すなわち、気筒3aに供給される燃料のエタノール成分の濃度(オクタン価)が筒内供給最大オクタン価ELCMAXに調整されているときに、エンジン3のノッキングが確実に抑制されるような最大のトルク値に設定される。したがって、リザーバ22c内のエタノールEの消費量を、エンジン3の出力の制限に見合った大きさに抑えながら、エンジン3の出力を過剰に制限せずに、ノッキングを適切に抑制することができる。
なお、本発明は、説明した第1及び第2実施形態(以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第2燃料タンク傾斜角θを検出しているが、センサで検出された車両の横加速度や、車両の操舵角、車両のヨーレートなどに基づいて算出してもよい。さらに、実施形態では、本発明における高オクタン価燃料タンクの傾斜状態として、第2燃料タンク傾斜角θを用いているが、他の適当なパラメータ、例えば、車両の横加速度や、車両の操舵角、車両のヨーレートなどを用いてもよい。また、実施形態では、リザーバエタノール残量QRERF2を算出しているが、センサで検出してもよく、その場合には、例えばフロート式や静電容量式のセンサなどが用いられる。
さらに、実施形態では、本発明における内燃機関の出力の制限を、吸入空気量の制御に用いる要求トルクTREQを低減補正することにより行っているが、目標吸入空気量QAOBJを低減補正することにより行ってもよく、あるいは、点火時期の遅角補正により行ってもよい。
また、実施形態では、本発明における高オクタン価燃料タンクとして、吸入通路22dがリザーバ22cの底部の左側の壁面の前後方向の中央に設けられた第2燃料タンク22を用いているが、吸入通路がリザーバの底部の右側の壁面の前後方向の中央、リザーバの底部の前側又は後側の壁面の左右方向の中央に設けられた燃料タンクを用いてもよい。リザーバの底部の前側又は後側の壁面に吸入通路が設けられた燃料タンクを用いた場合には、本発明における高オクタン価燃料タンクの傾斜状態として、例えば、車両の前後方向に延びる水平線に対する高オクタン価燃料タンクの後方又は前方への傾斜角や、車両の加速度又は減速度、アクセルペダルの開度又はブレーキペダルの開度などが用いられ、これらのパラメータは、センサで検出してもよく、あるいは算出(推定)してもよい。
さらに、実施形態では、本発明における高オクタン価燃料タンクとして、リザーバ22cが設けられた第2燃料タンク22を用いているが、リザーバが設けられていない燃料タンクを用いてもよい。この場合、第1実施形態に関しては、例えば、取得された高オクタン価燃料タンクの傾斜角が所定値よりも大きく、かつ、取得された高オクタン価燃料タンク内の高オクタン価燃料の残量が所定の下限値に達したときに、高オクタン価燃料タンク内の高オクタン価燃料をポンプで吸入できないとして、内燃機関の出力が制限される。また、第2実施形態に関しては、例えば、取得された高オクタン価燃料タンクの傾斜角が、高オクタン価燃料の残量に基づく所定値よりも大きいときに、高オクタン価燃料をポンプで十分に吸入できないとして、高オクタン価燃料の残量が減少するのに応じて、内燃機関の出力が徐々に制限される。
また、実施形態で説明したポート噴射割合RF2及び点火時期IGの設定手法は、あくまで一例であり、本発明の趣旨の範囲内で、他の適当な設定手法を採用してもよいことは、もちろんである。さらに、実施形態では、第1及び第2エタノール濃度EL1、EL2を、第1及び第2濃度センサ39、40でそれぞれ検出しているが、例えば、次のようにして推定(算出)してもよい。すなわち、内燃機関の負荷が所定の低オクタン価判定領域にあるときに、低オクタン価燃料(ガソリンG)のみを内燃機関に供給するとともに、点火時期を通常の点火時期(暫定点火時期IGTEM)から一旦、遅角側に変化させた後、進角側に徐々に変化させる。上記の低オクタン価判定領域は、内燃機関の点火時期を通常の点火時期よりも遅角側に制御するか、あるいは、低オクタン価燃料に加えて高オクタン価燃料(エタノールE)を内燃機関に供給しなければ、内燃機関のノッキングが発生するような負荷領域(以下「ノック領域」という)のうちの低負荷側の領域に設定される。上述したように点火時期を進角側に変化させているときに、内燃機関のノッキングの有無を検出し、ノッキングが発生した時点における点火時期、内燃機関の負荷、内燃機関の回転数、及び実行圧縮比などの内燃機関の運転状態を特定する複数の運転パラメータを取得するとともに、取得された運転パラメータに基づくマップ検索によって、第1エタノール濃度(低オクタン価燃料のオクタン価)を算出(推定)する。
また、第2エタノール濃度(高オクタン価燃料のオクタン価)の推定は、次のようにして行われる。すなわち、内燃機関の負荷が、上記の低オクタン価判定領域よりも高負荷側の所定の高オクタン価判定領域にあるときに、低オクタン価燃料及び高オクタン価燃料の供給量を図9のステップ42〜45と同様にして制御するとともに、点火時期を通常の点火時期から進角側に変化させる。このように点火時期を進角側に変化させているときに、内燃機関のノッキングの有無を検出し、ノッキングが発生した時点におけるポート噴射割合RF2、第1エタノール濃度、点火時期、内燃機関の負荷、内燃機関の回転数、及び実行圧縮比などの内燃機関の運転状態を特定する複数の運転パラメータを取得するとともに、取得された運転パラメータに基づくマップ検索によって、第2エタノール濃度を算出(推定)する。
あるいは、ガソリンGとエタノールEでは前述した量論混合比が異なるため、両者G、Eから成る混合燃料のエタノール濃度(オクタン価)が高いほど、空燃比LAFを所定値に維持するのに必要な燃料噴射量が大きくなる点に着目し、第1及び第2エタノール濃度を、次のようにして推定してもよい。すなわち、内燃機関の負荷が所定の非ノック領域にあり、かつ一定であるときに、前述した空燃比LAFに基づいて算出される補正係数KINJの移動平均値を算出し、この移動平均値を算出した時点における基本燃料噴射量QINJBに、値1.0からポート噴射割合RF2を減算した値を乗算することによって、第1基準噴射量を算出する。上記の非ノック領域は、内燃機関に低オクタン価燃料のみを供給しても、内燃機関のノッキングが発生しないような低負荷側の領域に設定される。そして、算出された移動平均値、第1基準噴射量及び第1エタノール濃度の前回値に応じて、今回の第1エタノール濃度を算出(推定)する。
また、第2エタノール濃度(高オクタン価燃料のオクタン価)の推定は、次のようにして行われる。すなわち、内燃機関の負荷が前記ノック領域にあり、かつ一定であるときに、前述した空燃比LAFに基づいて算出される補正係数KINJの移動平均値を算出し、この移動平均値を算出した時点における基本燃料噴射量QINJBを、第2基準噴射量として設定する。そして、算出された移動平均値、第2基準噴射量、第1及び第2エタノール濃度の前回値に応じて、今回の第2エタノール濃度を算出(推定)する。
また、実施形態では、ガソリンG及びエタノールEのオクタン価として、第1及び第2推定エタノール濃度EL1E、EL2Eをそれぞれ算出しているが、検出された第1及び第2エタノール濃度EL1、EL2をそれぞれ用いてもよく、EL1E及びEL2E又はEL1及びEL2に基づいて、ガソリンG及びエタノールEのオクタン価そのものをそれぞれ算出してもよい。あるいは、第1及び第2エタノール濃度EL1、EL2に基づくオクタン価を表す検出信号を出力するセンサを用いて、ガソリンG及びエタノールEのオクタン価をそれぞれ検出してもよい。さらに、第2実施形態で説明した上限値RF2LMHの算出手法は、あくまで一例であり、第1〜第3補正係数COLMH1〜COLMH3の少なくとも1つを省略したり、基本値BASELMHの算出手法を変更したりしてもよい。
また、実施形態では、低オクタン価燃料としてのガソリンGを気筒3a内に、高オクタン価燃料としてのエタノールEを吸気ポート4aに、それぞれ噴射しているが、これとは逆に、低オクタン価燃料を吸気ポートに、高オクタン価燃料を気筒内に、それぞれ噴射してもよい。あるいは、低オクタン価燃料及び高オクタン価燃料を、それらの割合を調整した状態で予め混合するとともに、混合した燃料を、単一の噴射弁を用いて気筒内に供給してもよい。
さらに、実施形態は、低オクタン価燃料としてのガソリンGからエタノール成分(高オクタン価成分)を分離することによって、高オクタン価燃料としてのエタノールEが生成されるエンジン3に、本発明を適用した例であるが、本発明はこれに限らず、低オクタン価燃料と高オクタン価燃料が外部から別個の燃料タンクに補給される内燃機関に、適用してもよい。また、実施形態では、低オクタン価燃料及び高オクタン価燃料として、ガソリンG及びエタノールEをそれぞれ用いているが、オクタン価が互いに異なる他の適当な燃料を用いてもよい。
さらに、実施形態では、本発明における内燃機関は、車両用のエンジン3であるが、他の適当な産業用の内燃機関、例えば船舶用の内燃機関などでもよい。なお、これまでに述べた実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。