以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1の実施の形態〉
図1は、第1の実施の形態に係る液体吐出ヘッドを例示する断面図である。図1を参照するに、液体吐出ヘッド1は、基板10と、振動板20と、電気機械変換素子30と、絶縁保護膜40とを有する。電気機械変換素子30は、下部電極31と、電気機械変換膜32と、上部電極33とを有する。
液体吐出ヘッド1において、基板10上に振動板20が形成され、振動板20上に電気機械変換素子30の下部電極31が形成されている。下部電極31の所定領域に電気機械変換膜32が形成され、更に電気機械変換膜32上に上部電極33が形成されている。絶縁保護膜40は、電気機械変換素子30を被覆している。絶縁保護膜40は、下部電極31及び上部電極33を選択的に露出する開口部を備えており、開口部を介して、下部電極31及び上部電極33から配線を引き回すことができる。
基板10の下部には、インク滴を吐出するノズル51を備えたノズル板50が接合されている。ノズル板50、基板10、及び振動板20により、ノズル51に連通する圧力室10x(インク流路、加圧液室、加圧室、吐出室、液室等と称される場合もある)が形成されている。振動板20は、インク流路の壁面の一部を形成している。言い換えれば、圧力室10xは、基板10(側面を構成)、ノズル板50(下面を構成)、振動板20(上面を構成)で区画されて、ノズル51と連通している。
液体吐出ヘッド1を作製するには、まず、図2に示すように、基板10上に、振動板20、下部電極31、電気機械変換膜32、上部電極33を順次積層する。その後、下部電極31、電気機械変換膜32及び上部電極33を所望の形状にエッチングし、絶縁保護膜40で被覆する。そして、絶縁保護膜40に、下部電極31及び上部電極33を選択的に露出する開口部を形成する。その後、基板10を下方からエッチングして圧力室10xを作製する。次いで、基板10の下面にノズル51を有するノズル板50を接合し、液体吐出ヘッド1が完成する。
なお、図1では、1つの液体吐出ヘッド1のみを示したが、実際には、図3に示すように、液体吐出ヘッド1が所定方向に複数配列された液体吐出ヘッド2が作製される。
液体吐出ヘッド2は、液体を吐出するノズル51と、ノズル51が連通する圧力室10xと、圧力室10x内の液体を昇圧させる吐出駆動手段35と、を備えた構造体が複数個配列された構造である。ここで、吐出駆動手段35は、圧力室10xの壁の一部を構成する振動板20と、電気機械変換膜32を備えた電気機械変換素子30とを含む構成とすることができる。吐出駆動手段35は圧力室10x内の液体を昇圧させる。
なお、図1及び図3に示すLは、上記構造体の配列方向(以下、前記配列方向とする)における夫々の圧力室10xの長さを示している。夫々の圧力室10xの長さLは、後述のように、適宜調整することができる。例えば、夫々の圧力室10xの長さLは、前記配列方向に傾きを有するように調整することができる。なお、圧力室10xの長さLを液室幅と称する場合がある。
次に、電気機械変換素子30の変位量について説明する。図4は、ウェハ内のチップの列内の変位量について説明する図である。図4(a)は、ウェハWの平面図であり、ウェハWの外周側にチップC1及びC4が配され、ウェハWの中心側にチップC2及びC3が配されている。チップC1〜C4内には、夫々複数の電気機械変換素子30が配列されている。なお、O.F.はオリエンテーションフラット(Orientation Flat)である。図4(b)は、チップC1〜C4において、電気機械変換素子30の配列方向(チップC1からチップC4に至る方向)における、電気機械変換素子30の変位量の変化を示したものである。
ウェハ面内での膜厚や膜質等のばらつきに関しては、各プロセス条件の最適化等で改善を図ることはできるが、例えば膜厚等のばらつきを見たときに、中心値に対して±5%程度のばらつきは発生してしまい、ばらつきをほぼ0に抑えることは不可能である。
インク吐出量やインク吐出時の吐出速度に影響する電気機械変換素子30の特性の一つとして、変位特性(変位量)というものがある。例えば、図4(b)に示すように、チップC1〜C4において、外周にかけて変位量が小さくなる傾向が見られる。つまり、ウェハWの外周側にあるチップC1やC4は、ウェハWの中心側にあるチップC2やC3よりも変位量が小さくなる傾向が見られる。
変位特性自体は、電気機械変換膜32を構成する圧電材料の圧電歪や圧力室10xの寸法や各層の膜厚も影響しており、ウェハ面内での膜厚や膜質等の中心から外周にかけてのばらつきが図4(b)のような結果を発生させていると考えられる。特にプロセス上発生要因として高いのが、図1等に示した振動板20と電気機械変換膜32の膜厚の寄与である。
このように、インク吐出時のばらつきの中でもランダムなばらつきではなく、図4(b)に例示したような電気機械変換素子30の列内や列間の中で傾きを有するような特異的な圧電性能のばらつきが発生する場合にも注目する必要がある。このような特異的なばらつきは、インク吐出量やインク吐出時の吐出速度にも大きく影響し、実際に紙面等に印字されたときの品質として明確に不良として認識できるからである。
なお、液体吐出ヘッド2を組立てる時に、ウェハ中心にあるチップのみを選択することで、吐出性能が大きくばらつく不良ヘッドの流出は押さえることもできるが、この方法は好ましくない。ウェハ外周にあるチップの良品率を考えた場合、外周にある電気機械変換素子30の数だけ不良となるため、トータルプロセスを考えたときに大きなコストアップ要因となるからである。
又、ウェハ外周にあるチップから作製した液体吐出ヘッド2に関して、例えば吐出時の電圧波形等の調整によりインク吐出量やインク吐出時の吐出速度ばらつきを補正することもできるが、この方法も好ましくない。ウェハ中心にあるチップから作製されたばらつきの小さい液体吐出ヘッド2が混在するため、液体吐出ヘッド2を複数備えた液体吐出装置の中で複数の波形を準備する必要が生じ、液体吐出装置の大きなコストアップ要因となるからである。
このように、インク吐出量やインク吐出時の吐出速度ばらつき等を抑制するには、電気機械変換膜32の圧電性能のばらつきが小さいことが好ましい。しかし、電気機械変換素子30間のランダムなばらつき以外に、液体吐出ヘッド2内に配列された複数個の電気機械変換素子30の列間や列内で傾きを持つような特異的な圧電性能ばらつきが存在し、このような特異的な圧電性能ばらつきも抑制しなければならない。
例えば、寄与の高いもの同士に安定してばらつきが発生しているのであれば、その項目同士を相殺するようなやり方で変位ばらつきを抑制する手段が考えられる。
ところが変位量ばらつきに対する寄与が小さいものが複数存在したり、安定したばらつきを生じているわけではない場合(例えば、あるウェハ処理では中心から外周にかけての膜厚分布が厚くなる傾向があったり薄くなる傾向があったりと一定のばらつきがあるわけではない場合)等では、比較的処理工程が後にあり、かつ変位ばらつきに対する寄与が高いパラメータで制御することが好ましい。
本実施の形態においては、図1や図3に記載しているような圧力室10xの長さLは、非常に変位ばらつきに対する寄与が大きく、かつ処理工程としては後にあるため、前工程での全てのばらつきを把握できていれば、圧力室10xの作製時に意図的にばらつきを発生させることで、変位量ばらつきを抑制することが可能になる。
例えば6インチウェハ上に単層で振動板を作製したときのウェハのO.F部から反O.F部にかけての膜厚分布が、外周チップに位置するところでは膜厚が厚くなる傾向があったとする。この結果に基づいて、エッチングにより圧力室を作製する際に、マスク設計により図1及び図3に示すような圧力室10xの長さLについて、6インチウェハ上の寸法分布を、中心から外周のO.F部や反O.F部にかけて長さLを長くするように調整することにより、振動板がばらついた分で発生する変位ばらつきの影響を抑制することが可能になる。
図5〜図8は、振動板膜厚、液室幅、及び電気機械変換膜の変位特性の分布を例示する図であり、6インチウェハ上での振動板と電気機械変換膜の膜厚分布と変位特性分布を反O.F部からO.F部にかけて示している。なお、Woutは、ウェハの外周部に位置するチップであることを示している。
図5では、振動板の膜厚が中心から外周にかけて厚くなり、長さL(=液室幅)のばらつきがほぼないときに、変位特性も外周部で傾きを持ったばらつきが発生していることが分かる。
図6に示すように、振動板の膜厚が中心から外周にかけて厚くなっているのに対して、液室幅の寸法ばらつきを中心から外周にかけて広くすることで、外周部での変位傾きを抑制することができる。
ここで、振動板の膜厚(振動板が複数の層から形成されている場合は総膜厚)をds、前記配列方向での振動板の平均膜厚をAve_ds、前記配列方向での振動板の膜厚の傾きをΔds、前記配列方向での圧力室の長さLの傾きをΔLとする。
膜厚の傾きとは、チップ内の前記配列方向における振動板の膜厚の変化や液室幅の寸法変化(長さLの変化)をグラフ化したときに、グラフ上の任意の点での傾き(接線の傾き)である。
なお、図6に示すように、ウェハの外周部に位置するチップ(Woutの部分)では、両側のWoutではΔdsの傾きの方向は異なるが、各Wout内の各点での傾きは略一定となる傾向にある。この場合には、各Wout内において、Δdsは、グラフ上のどの点でも略一定の値(一方向の傾き)となる。ΔLについても同様である。
前記配列方向での電気機械変換素子の変位量のばらつきを抑制するためには、Δds/Ave_dsが±5%以内に収まっていることが好ましい。又、前記配列方向における前記圧力室の長さLの平均をAve_Lとしたときに、ΔL/Ave_Lが±2.5%以内に収まっていることが好ましい。この範囲から外れると、振動板の膜厚のばらつきをキャンセルするように液室幅の寸法のばらつきを制御することが難しくなるからである。
高周波での吐出性能を確保するためには、振動板、電気機械変換膜、絶縁保護膜の剛性を高める必要があり、高ヤング率化や厚膜化をする必要が出てくる。例えば、振動板が単層から形成されたときのヤング率、又は振動板が複数の層から形成されたときの等価ヤング率の平均が75GPa以上であることが好ましい。又、振動板が複数の層から形成された場合、前記配列方向での、複数の層のうち最もヤング率の大きい層の平均ヤング率が150GPa以上であることが好ましい。又、前記配列方向での、電気機械変換膜のヤング率が80GPa以上あることが好ましい。
特に、振動板20は、応力設計も考慮し、シリコン酸化膜(SiO2)、シリコン窒化膜(SiN)、ポリシリコン(Poly−Si)等を材料として含む複数の層から形成することが好ましい。又、振動板20の膜厚は1μm以上3μm以下で作製されることが好ましい。これにより、高周波での吐出性能を確保することができる。
振動板が複数の層から形成される場合においては、その中でも高い剛性(前記配列方向での平均ヤング率が150GPa以上)を有する膜自体がばらつくと、変位特性のばらつきにも大きく影響してくる。例えば、図7は、振動板として75GPa以上の剛性を確保するために、振動板を構成する複数の層の一部である高い剛性の膜の膜厚が中心から外周にかけて厚くなり、液室幅のばらつきがほぼない場合の例を示している。図7の場合、変位特性も外周部で傾きを持ったばらつきが発生していることが分かる。
図8に示すように、高い剛性の膜(剛性の高い振動板層)の膜厚が中心から外周にかけて厚くなっているのに対して、液室幅の寸法ばらつきを中心から外周にかけて広くすることで、外周部での変位傾きを抑制することができる。
このとき、複数の層のうち最もヤング率の大きい層において、前記配列方向での平均膜厚をAve_ds_max、前記配列方向での膜厚の傾きをΔds_maxとしたときに、Δds_max/Ave_ds_maxが±5%以内に収まっていることが好ましい。この範囲から外れると、振動板の膜厚のばらつきをキャンセルするように液室幅の寸法のばらつきを制御することが難しくなるからである。
このように、振動板(複数の層で構成される場合は、剛性の高い層)がウェハ中心から外周にかけて膜厚が厚くなる場合は、その後にエッチングにより圧力室を作製する際の圧力室の長さL(液室幅)をウェハ中心から外周にかけて長くする。これにより、振動板の膜厚分布を圧力室の長さLの分布により相殺することが可能となり、夫々の電気機械変換素子の変位量のばらつきを抑制することができる。
この際、チップ内の前記配列方向での膜厚傾きについての関係が、Δds×ΔL>0 又はΔds_max×ΔL>0を満たすことで、±8%以内に変位ばらつきを抑制することができる。
以下、液体吐出ヘッド2を構成する好適な材料等に関して、更に詳しく説明する。基板10としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、通常100〜600μmの厚みを持つことが好ましい。面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種あるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、液体吐出ヘッド2でも主に(100)の面方位を持つ単結晶基板を使用することができる。
又、圧力室10xを作製していく場合、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工していくが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが好ましい。なお、異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。
例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させた異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝を掘ることができる。そのため、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるため、液体吐出ヘッド2でも(110)の面方位を持つ単結晶基板を使用してもよい。但し、この場合、マスク材であるSiO2もエッチングされる点に留意が必要である。
本実施の形態では、振動板の膜厚分布の状態によっては、ウェハ外周部の圧力室の長さLを長くしたり短くしたりするが、これついてはエッチングを実施するときのレジストマスクでの長さの調整(マスク設計の段階からウェハ外周部の長さを任意に長くしたり短くしたりする)により対応することができる。
又、圧力室10xの長さLの平均であるAve_Lは50μm以上70μm以下が好ましく、55μm以上65μm以下が更に好ましい。この値より大きくなると、残留振動が大きくなり高周波での吐出性能確保が難しくなり、この値より小さくなると、電気機械変換素子の変位量が低下し、十分な吐出電圧が確保できなくなる。
振動板20は、電気機械変換膜32によって発生した力を受けて変形変位し、圧力室10x内のインク滴を吐出させる。そのため、振動板20としては所定の強度を有したものであることが好ましい。具体的には、Si、SiO2、Si3N4等をCVD法等により作製したものが挙げられる。
振動板20の剛性を確保するために、剛性の高い膜を含めて複数の積層膜で構成することができる。つまり、高周波での吐出性能を確保するためには振動板20のヤング率を75GPa以上とすることが好ましいが、1層だけで高い剛性膜を実現しようとした場合、膜が厚くなると剥がれ等の課題が生じるため、若干剛性の低い膜を間に入れて調整することができる。
更に、振動板20の材料としては、下部電極31、電気機械変換膜32の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。
特に、電気機械変換膜32としてPZTを使用する場合には、振動板20の材料として、PZTの線膨張係数8×10−6(1/K)に近い5×10−6(1/K)〜10×10−6(1/K)程度の線膨張係数を有した材料を選択することが好ましい。7×10−6(1/K)〜9×10−6(1/K)程度の線膨張係数を有した材料を選択することが更に好ましい。
振動板20の具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等を挙げられる。これらは、スパッタ法若しくはSol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。
振動板20の膜厚としては1〜3μmが好ましく、1.5〜2.5μmが更に好ましい。この範囲より小さいと圧力室10xの加工が難しくなり、この範囲より大きいと変形変位し難くなり、インク滴の吐出が不安定になる。
下部電極31及び上部電極33としては、金属材料として高い耐熱性と低い反応性を有する白金を用いることができる。但し、白金は、鉛に対しては十分なバリア性を持つとはいえない場合もあり、その場合には、イリジウムや白金−ロジウム等の白金族元素や、これらの合金膜を用いることができる。
なお、下部電極31及び上部電極33として白金を使用する場合には、下地となる振動板20(特にSiO2)との密着性が悪いため、Ti、TiO2、Ta、Ta2O5、Ta3N5等の密着層を介して積層することが好ましい。下部電極31及び上部電極33の作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜を用いることができる。下部電極31及び上部電極33の膜厚としては、0.05〜1μmが好ましく、0.1〜0.5μmが更に好ましい。
更に、下部電極31及び上部電極33において、金属材料と電気機械変換膜32との間に、SrRuO3やLaNiO3を材料とする酸化物電極膜を形成してもよい。なお、下部電極31と電気機械変換膜32との間の酸化物電極膜に関しては、その上に作製する電気機械変換膜32(例えばPZT膜)の配向制御にも影響するため、配向優先させたい方位によって選択される材料が異なる。
液体吐出ヘッド2において、電気機械変換膜32としてPZTを用い、PZT(100)に優先配向させる場合には、下部電極31として、LaNiO3、TiO2、PbTiO3等のシード層を金属材料上に作製し、その後PZT膜を形成すると好ましい。
又、上部電極33と電気機械変換膜32との間の酸化物電極膜としてはSRO膜を用いることができ、SRO膜の膜厚としては、20nm〜80nmが好ましく、30nm〜50nmが更に好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと初期変位や変位劣化特性については十分な特性が得られない。この範囲を超えると、PZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。
電気機械変換膜32としては、好適にはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いることができる。なお、PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体であり、PbZrO3とPbTiO3の比率によって、PZTの特性が異なる。例えば、PbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O3、一般にはPZT(53/47)と示されるPZT等を使用することができる。
電気機械変換膜32の作製方法としては、スパッタ法若しくはSol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。その場合は、パターニングが必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得ることができる。
PZTをSol−gel法により作製する場合には、まず、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を用いる。そして、共通溶媒であるメトキシエタノールに溶解させ均一溶液を得ことで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、PZT前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等を適量、添加してもよい。
下部電極31の全面にPZT膜を形成する場合、スピンコート等の溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるようにPZT前駆体の濃度の調整が必要になる。
電気機械変換膜32の膜厚としては1μm以上3μm以下が好ましく、1.5μm以上2.5μm以下が更に好ましい。この範囲より小さいと圧力室10xの加工が難しくなり、この範囲より大きいと変形変位し難くなり、インク滴の吐出が不安定になる。
なお、電気機械変換膜32としてPZTを用いPZT(100)面を優先配向とする場合、Zr/Tiの組成比率については、組成比率Ti/(Zr+Ti)が0.45以上0.55以下が好ましく、0.48以上0.52以下が更に好ましい。
結晶配向については、ρ(hkl)=I(hkl)/ΣI(hkl)によって表される。ここで、ρ(hkl)は(hkl)面方位の配向度、I(hkl)は任意の配向のピーク強度、ΣI(hkl)は各ピーク強度の総和である。X線回折法のθ−2θ測定で得られる各ピーク強度の総和を1としたときの各々の配向のピーク強度の比率に基づいて算出される(100)配向の配向度は、0.75以上であることが好ましく、0.85以上であることが更に好ましい。これ以下になるときには、圧電歪が十分得られず、電気機械変換素子の変位量を十分確保できなくなる。
電気機械変換膜32として、PZT以外のABO3型ペロブスカイト型結晶質膜を用いてもよい。PZT以外のABO3型ペロブスカイト型結晶質膜としては、例えば、チタン酸バリウム等の非鉛複合酸化物膜を用いても構わない。この場合は、バリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することが可能である。
これら材料は一般式ABO3で記述され、A=Pb、Ba、Sr B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、Ba)(Zr、Ti)O3、(Pb1−x、Sr)(Zr、Ti)O3、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
ここで、配線等を含めた液体吐出ヘッドの構成について説明する。図9は、第1の実施の形態に係る液体吐出ヘッドの配線等を例示する図であり、図9(a)は断面図、図9(b)は平面図である。なお、図9(b)において、絶縁保護膜40及び70の図示は省略されている。
図9を参照するに、絶縁保護膜40上には複数の配線60が設けられ、更に配線60上に絶縁保護膜70が設けられている。絶縁保護膜40は複数の開口部40xを備えており、開口部40x内には下部電極31又は上部電極33の表面が露出している。配線60は、開口部40xを充填して上部電極33と接続されている(図9(b)のコンタクトホールHの部分)配線と、開口部40xを充填して下部電極31と接続されている配線とを含んでいる。
絶縁保護膜70は複数の開口部70xを備えており、夫々の開口部70x内には夫々の配線60の表面が露出している。夫々の開口部70x内に露出する夫々の配線60は、電極パッド61、62、及び63となる。ここで、電極パッド61は共通電極パッドであり、配線60を介して各電気機械変換素子30に共通の下部電極31と接続されている。又、電極パッド62及び63は個別電極パッドであり、配線60を介して電気機械変換素子30毎に独立した上部電極33と接続されている。
次に、分極処理装置について説明する。図10は、分極処理装置の概略構成を例示する図である。分極処理装置500は、コロナ電極510とグリッド電極520とを備えており、コロナ電極510、グリッド電極520は夫々コロナ電極用電源511、グリッド電極用電源521に接続されている。サンプルをセットするステージ530には温調機能が付加されており、最大350℃程度までの温度をかけながら分極処理を行うことができる。ステージ530にはアース540が設置されており、これが付加していない場合には分極処理ができない。
グリッド電極520には、例えばメッシュ加工が施されており、コロナ電極510に高い電圧を印加したときに、コロナ放電により発生するイオンや電荷等が効率よく下のステージ530に降り注き、電気機械変換膜32に注入されるように工夫されている。コロナ電極510やグリッド電極520に印加される電圧の大きさや、サンプルと各電極間の距離を調整することにより、コロナ放電の強弱をつけることが可能である。
図11に示すように、コロナワイヤ600を用いてコロナ放電させる場合、大気中の分子610をイオン化させ、陽イオン620を発生させる。そして、発生した陽イオン620が、電気機械変換素子30のパッド部を介して流れ込むことで、電荷を電気機械変換素子30に注入することができる。
この場合、上部電極と下部電極の電荷差によって内部電位差が生じて分極処理が行われていると考えられる。この際、分極処理に必要な電荷量Qについては特に限定されるものではないが、電気機械変換素子30に1.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることが好ましく、4.0×10−8C以上の電荷量が蓄積されることが更に好ましい。この値に満たない場合は、分極処理が十分できず、PZTの圧電アクチュエータとして連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない。
ここで、分極処理の状態については、電気機械変換素子30のP−Eヒステリシスループから判断することができる。分極処理の判断の方法について図12を用いて説明する。図12(a)は分極処理前のP−Eヒステリシスループを例示し、図12(b)は分極処理後のP−Eヒステリシスループを例示している。
具体的には、まず、図12に示すように、±150kv/cmの電界強度かけてヒステリシスループを測定する。そして、最初の0kv/cm時の分極をPind、+150kv/cmの電圧印加後0kv/cmまで戻したときの0kv/cm時の分極をPrとしたときに、Pr−Pindの値を分極率として定義し、この分極率から分極状態の良し悪しを判断することができる。
分極率Pr−Pindは、10μC/cm2以下であることが好ましく、5μC/cm2以下であることが更に好ましい。分極率Pr−Pindがこの値より大きい場合には、PZTの圧電アクチュエータとして連続駆動後の変位劣化については十分な特性が得られない。
なお、図11においてコロナ電極510及びグリッド電極520の電圧や、ステージ530とコロナ電極510及びグリッド電極520との間の距離等を調整することにより、所望の分極率Pr−Pindを得ることができる。但し、所望の分極率Pr−Pindを得ようとした場合には、電気機械変換膜32に対して高い電界を発生させることが好ましい。
〈第2の実施の形態〉
第2の実施の形態では、応用例として、液体吐出ヘッド2(図3参照)を備えた液体を吐出する装置を例示する。
まず、第2の実施の形態に係る液体を吐出する装置の一例について図13及び図14を参照して説明する。図13は同装置の要部平面説明図、図14は同装置の要部側面説明図である。
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
このキャリッジ403には、第1の実施の形態に係る液体吐出ヘッド2及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド2は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。又、液体吐出ヘッド2は、複数のノズル51からなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
液体吐出ヘッド2の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド2に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
この装置は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド2に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、或いは、エアー吸引等で行うことができる。
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
更に、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド2の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド2のノズル面(ノズル51が形成された面)をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422等で構成されている。
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
このように構成したこの装置においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド2を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
このように、この装置では、第1の実施の形態に係る液体吐出ヘッドを備えているので、高画質画像を安定して形成することができる。
次に、第2の実施の形態に係る液体吐出ユニットの他の例について図15を参照して説明する。図15は同ユニットの要部平面説明図である。
この液体吐出ユニットは、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド2で構成されている。
なお、この液体吐出ユニットの例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420、及び供給機構494の少なくとも何れかを更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
次に、第2の実施の形態に係る液体吐出ユニットの更に他の例について図16を参照して説明する。図16は同ユニットの正面説明図である。
この液体吐出ユニットは、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド2と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。又、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド2と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置等も含むことができる。
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
又、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するもの等を意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布等の被記録媒体、電子基板、圧電素子等の電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セル等の媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等液体が一時的でも付着可能であればよい。
又、「液体」は、インク、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液等も含まれる。
又、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置等が含まれる。
又、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質する等の目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置等がある。
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたもの等が含まれる。
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合等で互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。又、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
例えば、液体吐出ユニットとして、図14で示した液体吐出ユニット440のように、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。又、チューブ等で互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
又、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
又、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。又、図15で示したように、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
又、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
又、液体吐出ユニットとして、図16で示したように、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。又、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
又、「液体吐出ヘッド」は、使用する圧力発生手段が限定されるものではない。例えば、上記実施形態で説明したような圧電アクチュエータ(積層型圧電素子を使用するものでもよい。)以外にも、発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータ等を使用するものでもよい。
又、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等は何れも同義語とする。
[実施例1]
基板10として6インチのシリコンウェハを準備し、基板10にSiO2(膜厚600nm)、Si(膜厚200nm)、SiO2(膜厚100nm)、SiN(膜厚150nm)、SiO2(膜厚130nm)、SiN(150nm)、SiO2(膜厚100nm)、Si(200nm)、SiO2(膜厚600nm)の膜を順に形成して振動板20を作製した。
このとき、各層の単層での剛性と膜厚からトータル厚みでの等価ヤング率を計算した。更に、単層で最も高い剛性が得られているSiNの膜厚分布と、トータル厚みとしての膜厚分布の測定を行った。
その後、振動板20上に密着層としてチタン膜(膜厚20nm)を成膜温度350℃でスパッタ装置にて成膜した後、RTA(急速熱処理)を用いて750℃にて熱酸化した。更に、密着層上に白金膜(膜厚160nm)を成膜温度300℃でスパッタ装置にて成膜し、下部電極31を作製した。
次に、下部電極31上に下地層となるPbTiO3層としてPb:Ti=1:1に調整された溶液と、電気機械変換膜32としてPb:Zr:Ti=115:49:51に調整された溶液とを準備し、スピンコート法により膜を成膜した。
具体的な前駆体塗布液の合成については、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.5モル/リットルにした。PTの溶液に関してもPZT同様に作製し、これらの液を用いて、最初にPT層をスピンコートにより成膜し、成膜後、120℃乾燥を実施し、その後PZTの液をスピンコートにより成膜し、120℃乾燥→400℃熱分解を行った。
3層目の熱分解処理後に、結晶化熱処理(温度730℃)をRTAにて行った。このときPZTの膜厚は240nmであった。この工程を計8回(24層)実施し、電気機械変換膜32として約2μmのPZT膜を得た。
次に、上部電極33を構成する酸化物電極膜として、SrRuO3膜(膜厚40nm)、金属膜として白金膜(膜厚125nm)をスパッタ法で成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィーでレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ製)を用いて図9に示すようなパターンを作製した。これにより、振動板20上に電気機械変換素子30が作製された。
次に、電気機械変換素子30上に、絶縁保護膜40として、ALD工法を用いてAl2O3膜を50nm成膜した。このとき原材料としてAlについては、TMA(シグマアルドリッチ社)、Oについてはオゾンジェネレーターによって発生させたO3を交互に積層させることで、成膜を進めた。
その後、図9に示すように、エッチングによりコンタクトホールHを形成した。その後、Alをスパッタ法で成膜し、エッチングによりパターニングして配線60を形成し、絶縁保護膜70としてSi3N4をプラズマCVD法により500nm成膜した。そして、絶縁保護膜70に開口部70xを設けて配線60の一部を露出させ、電極パッド61、62及び63とした。なお、電極パッド61は共通電極パッドであり、電極パッド62及び63は個別電極パッドであり、個別電極間パッド間の距離は80μmとした。
その後、分極処理装置500を用い、コロナ帯電処理により分極処理を行った。コロナ帯電処理にはφ50μmのタングステンのワイヤーを用いている。分極処理条件としては、処理温度80℃、コロナ電極510の電圧9kV、グリッド電極520の電圧2.5kV、処理時間30s、コロナ電極510−グリッド電極520間の距離4mm、グリッド電極520−ステージ530間の距離4mmにて行った。
その後、基板10の裏面をエッチングして圧力室10xを形成し、液体吐出ヘッド2とした。このときに、レジストパターン作製時に使うマスクについてウェハ外周部を任意に長さを調整(長さLの中心値=60μm)することで、表1に記載する範囲にΔL等の調整を行った。但し、基板10の下部には、ノズル51を備えたノズル板50は接合されていなく、液体吐出ヘッド2は半完成状態である。
[実施例2]
基板10として6インチのシリコンウェハを準備し、基板10にSiO2(膜厚600nm)、Si(膜厚200nm)、SiO2(膜厚95nm)、SiN(膜厚160nm)、SiO2(膜厚120nm)、SiN(160nm)、SiO2(膜厚95nm)、Si(200nm)、SiO2(膜厚600nm)の膜を順に形成して振動板20を作製した。それ以外は実施例1と同様にして、液体吐出ヘッド2(半完成状態)を作製した。
[実施例3]
基板10として6インチのシリコンウェハを準備し、基板10にSiO2(膜厚600nm)、Si(膜厚360nm)、SiO2(膜厚100nm)、SiO2(膜厚130nm)、SiO2(膜厚100nm)、Si(360nm)、SiO2(膜厚600nm)の膜を順に形成して振動板20を作製した。それ以外は実施例1と同様にして、液体吐出ヘッド2(半完成状態)を作製した。
[実施例4]
基板10として6インチのシリコンウェハを準備し、基板10にSiO2(膜厚2900nm)を形成し、SiO2単層で振動板20を作製した。それ以外は実施例1と同様にして、液体吐出ヘッド2(半完成状態)を作製した。
[実施例5]
基板10として6インチのシリコンウェハを準備し、基板10にSiO2(膜厚600nm)、Si(膜厚200nm)、SiO2(膜厚90nm)、SiN(膜厚170nm)、SiO2(膜厚110nm)、SiN(170nm)、SiO2(膜厚90nm)、Si(200nm)、SiO2(膜厚600nm)の膜を順に形成して振動板20を作製した。それ以外は実施例1と同様にして、液体吐出ヘッド2(半完成状態)を作製した。
[比較例1]
基板10として6インチのシリコンウェハを準備し、基板10にSiO2(膜厚600nm)、Si(膜厚200nm)、SiO2(膜厚85nm)、SiN(膜厚180nm)、SiO2(膜厚100nm)、SiN(180nm)、SiO2(膜厚85nm)、Si(200nm)、SiO2(膜厚600nm)の膜を順に形成して振動板20を作製した。それ以外は実施例1と同様にして、液体吐出ヘッド2(半完成状態)を作製した。
[実施例1〜5、比較例1の検討]
実施例1〜5及び比較例1で作製した各液体吐出ヘッド2の電気機械変換素子30について、図4に示したC1の位置(ウェハWの外周側)に相当するチップを用いて、振動板20の膜厚分布と圧力室10xの長さLを確認した。その後、電気機械変換素子30について、電気特性及び変位特性(圧電定数)の評価を行った。
変位特性については、図3に示すように基板10の裏面側から掘加工を行って圧力室10xを形成し、評価を実施した。具体的には、電界印加(150kV/cm)による変形量を、レーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出し、膜厚分布同様変位分布についても確認を行った。評価結果を表1に示す。
なお、表1において、最上欄は各項目の好ましい範囲を示しており、最終的には、Δδ/δ_Aveを±8%以内に収めることが目標となる。ここで、δは電気機械変換膜32に150kv/cmの電界強度かけて評価を行ったときの電気機械変換素子30の変位特性(変位量)であり、Δδは電気機械変換素子30の変位特性δの前記配列方向の傾き(最大値と最小値との差)、δ_Aveは変位特性δの平均値である。
表1から分かるように、実施例1〜5については、Δδ/δ_Aveが目標とする±8%以内に収まっているが、比較例1についてはΔδ/δ_Aveが約±15%となり、目標とする±8%を大きく超えていた。つまり、振動板の膜厚分布に対する圧力室の長さLの寸法分布を適切に調整することにより、Δδ/δ_Aveを目標とする±8%以内に収められることが確認された。
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上記の実施の形態では、上部電極を個別電極、下部電極を共通電極とした場合について説明したが、本発明はこれに限られない。すなわち、上部電極を共通電極、下部電極を個別電極とした構成においても同様の効果を得られる。