杭径内部が中空の既製杭による杭基礎構造を構築する施工方法の一つとしてプレボーリング工法がある。この工法は、アースオーガ等により地盤掘削をして杭穴を設け、この杭穴に根固め液や杭周固定液、もしくは、これらと掘削土砂とを撹拌混合して得られるソイルセメント状物を充填し、これら充填物で満たされた前記杭穴に前記既製杭を埋設するものである。
既製杭の埋設は、杭頭部と杭打機の駆動部とを回転キャップを介して連結し、この回転キャップにより前記既製杭を回転させながら前記充填物で満たされた前記杭穴に押し込むようにして行われる。
回転キャップは、中空かつ底面部が開放された円筒状のもので、円筒の外周側面には杭を吊り込み保持するために杭頭部の外周面に設けられた突起に係合し得る切欠き部を有したものが一般的である。
中には、既製杭を正確に埋設できるよう杭頭固定治具を備えたもの、確実に杭頭処理ができるよう杭頭処理機能を有するものなど、目的に応じて様々な工夫を凝らしたものもある。前者の例としては特許文献1がある。
特許文献1のものは、「杭頭部の外周に嵌装される円筒状の基礎杭キャップ本体の上端閉塞部から該基礎杭キャップ本体の下端側に向かって前記基礎杭の中空部の内径に対応する外径を有し、且つ前記円筒状の基礎杭キャップ本体の軸方向長さよりも短い棒状の弾性体からなる杭頭固定治具を前記基礎杭キャップ本体と同軸芯となるように垂設した基礎杭キャップ」である。
後者の例としては特許文献2がある。特許文献2のものは、「上部に杭打ち機に連結するための中空の軸部を有し、下部に既製杭の杭頭部を把持する杭把持部を有し、前記中空軸部の下端部に連通するように、回転キャップの基体内に、前記既製杭の中空部内に薄め液を吐出できるノズルを取り付けた杭頭処理機能付きの回転キャップ」である。
一方、既製杭としてPHC杭などを用いた場合は、上杭において杭頭やフーチングとの結合を強固なものにするため、該上杭における杭頭の杭径内部にコンクリートを打設することが行われている。
図6はこれを示すものであり、(a)に示すように、回転キャップ23を用いて杭周固定液と掘削土砂の混合物による充填物6で満たされた杭穴3に既製杭を埋設後、充填物6が硬化してから(b)に示すように、複式スコップ28等で上杭の杭頭の杭径内部14に充填されている前記充填物6を取り除く。その後、(c)に示すように、充填物6が取り除かれた杭径内部14にコンクリート29を打設する。また、必要に応じて、コンクリート29を打設する前に、補強鉄筋やフーチングとの接続鉄筋が配筋された鉄筋籠が設置される。(図示省略)
また、上杭の杭頭部を耐震補強すべく様々な手段がとられている。特許文献3はその一例であり、この例では既製杭の杭頭外周部に外管(鋼管)を配して杭頭部を二重管構造にして補強している。
前記既製杭による上杭の耐震補強を行おうとすると、上述のような上杭における杭頭の杭径内部にコンクリートを打設する方法では杭頭部が強固になるため耐震補強になり得るものの、上記(b)に示す前記充填物は硬化しているためその除去が困難であり、上記(c)に示すコンクリート打設施工も手間やコストがかかる。
特許文献3に示すような外管(鋼管)を用いて杭頭部を補強する方法では、施工が複雑になるとともに外管(鋼管)とその施工分だけ手間やコストがかかってしまう。
本発明は、上述のような課題を考慮しつつ、杭径内部が中空の既製杭を埋設してなる杭基礎において、少なくとも上杭あるいは上杭の杭頭部に耐震補強を施した杭基礎構造、及び、従来の杭基礎構造の構築方法を大きく変えたり施工工程を増やしたりすることなく、簡便に前記杭基礎構造が構築できる杭基礎構造の構築方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、少なくとも上杭や上杭の杭頭部に耐震補強を施すことが目的であれば、上記上杭等の杭径内部に充填するのはコンクリートでなくてもセメントミルクで良いこと、既製杭の埋設に用いる回転キャップにセメントミルクの吐出機能を付与すれば、従来の杭基礎構造の構築方法を大きく変えることなく上記上杭や上杭の杭頭部等に耐震補強が施せることを見出し、本発明を完成させた。
本願の発明の一つは、杭周固定液と掘削土砂との混合物が充填された杭穴に、杭径内部が中空のコンクリート製既製杭を埋設してなる杭基礎構造であって、埋設された前記既製杭の杭径内部は、少なくとも上杭の上端位置と該上端位置から20m下方の位置との間における該上端位置から所定の深さの範囲に充填されたセメントミルクによるセメントミルク層と、その下方の杭周固定液と掘削土砂との混合物による層とを含む複層からなり、前記セメントミルクの硬化物の一軸圧縮強度が5〜65N/mm2であることを特徴とする杭基礎構造である。
本発明の杭基礎構造は、建物やフーチング等の上部構造物の基礎として地盤中に構築される既製杭による杭基礎の構造である。
既製杭が埋設される杭穴は、アースオーガ等の掘削機により従来の方法で形成される。杭穴の形状や寸法は特に限定されない。例えば、ストレート形状のもの、拡径部を有するものなどである。
前記杭穴には、従来と同様、杭周固定液と掘削土砂との混合物が充填され、該混合物が硬化しない前に杭径内部が中空の既製杭が埋設される。杭穴の底部は、該混合物に替えて根固め液もしくは根固め液と掘削土砂との混合物が充填されていてもよく、これら充填のものも本発明の範囲に含まれる。杭周固定液や根固め液は、従来から用いられているものであればよく、これらの種類は特に限定されない。
上記杭穴に埋設される杭径内部が中空のコンクリート製既製杭の種類は特に限定されない。例えば、PC杭、PHC杭、PRC杭などのコンクリート製杭、RC杭等の合成杭、SC杭、節杭などである。本発明における杭基礎の杭は、多くの場合、上杭と下杭、上杭と中杭と下杭など、複数の杭が継手などにより接続されてなる。継手を設けず、単杭として使用する場合もある。上記上杭は、この単杭も含む。
本発明の杭基礎構造は、杭周固定液と掘削土砂との混合物が充填された杭穴に杭径内部が中空の既製杭を埋設してなるものであり、完成した杭基礎では、杭穴の周壁と埋設された杭(上杭、中杭、下杭等)の外面との間及び中杭や下杭としての前記既製杭の杭径内部には前記混合物が充填されそれが硬化しており、埋設された前記既製杭の上杭の上端から20m以下(以内)における上端から所定の深さの範囲の前記既製杭の杭径内部はセメントミルクが充填されそれが硬化した構造となっている。このような構造にすることによって、本発明の目的である上杭あるいは上杭の杭頭部の耐震補強が図れる。
セメントミルクの充填範囲を埋設された前記既製杭の上杭の上端から20m以下(以内)の上端から所定の深さの範囲とするのは、この範囲が地震時に杭に作用する主な曲げモーメントおよびせん断力の範囲だからである。セメントミルクの充填範囲は、埋設された前記既製杭の上杭の上端から20m以下(以内)での該上端からの所定の範囲における前記既製杭の杭径内部であるからして、必ずしも上杭部分に限定されるものではなく、上杭の杭長によっては充填範囲が中杭、あるいは下杭の杭径内部にまで渡ることもあり、このような杭基礎構造のものも本発明の範囲に含まれる。
上記セメントミルクは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉セメント等の混合セメント、エコセメントといった各種セメントのいずれかを水セメント比50〜150%の混練水で混練してなるものである。
必要に応じて、ブリーディグ防止剤、遅延材、分散剤、減水剤等の化学混和剤、活性シリカ粉、膨張材等のセメント混和材を添加してもよい。また、前記セメントミルクには、充填施工時に掘削土砂や杭周固定液が混入してしまうこともあるため、これらの混入物が入ったものも含めてセメントミルクと称す。
前記セメントミルクの硬化物は、一軸圧縮強度が5〜65N/mm2であるのが好ましい。強度をこの範囲にすることによって、中空既製杭における杭体内のコンクリートと杭径内部に充填したセメントミルクとの付着強度が良好となるため揺れ等の外力に対して杭体とセメントミルクが一体挙動し、十分な耐震性能を確保できる。65N/mm2を超える強度は過剰品質であって、これを得ようとすると強度面ではよいが施工し難くなったりコスト高となったりすることがある。
上記のような範囲の一軸圧縮強度にするには、例えば、所定の充填範囲に充填するのに必要な量以上のセメントミルクを該充填範囲に注入し、杭周固定液と掘削土砂との混合物を極力排除してセメントミルクと置き換えるようにするか、洗浄水により所定の充填範囲に存在する前記混合物を除去する前処理を施した後にセメントミルクを該充填範囲に注入すればよい。
本発明の上記杭基礎構造は、従来の杭基礎の構築工程の中で得ることができる。例えば、図4に示すように、アースオーガにより杭穴を掘削する際に掘削ヘッドや掘削ロッドに設けた吐出口からセメントミルクを吐出して、杭穴の下方部には根固め液や杭周固定液と掘削土砂との混合物が充填され上方部にはセメントミルクが充填された杭穴を造成し、該杭穴に既製杭を埋設すれば本発明の上記杭基礎構造が得られる。
あるいは、図5に示すように、従来通りの方法で根固め液や杭周固定液と掘削土砂との混合物が充填された杭穴に前記既製杭を埋設し、その後、埋設された前記既製杭による上杭の杭径内部を小径掘削ロッドにより掘削して充填されている混合物を除去しつつセメントミルクを注入して前記杭径内部に充填すれば本発明の上記杭基礎構造が得られる。
あるいは、後述の本発明の構築方法ように、本発明の特殊な既製杭埋設装置(回転キャップ)を用いることにより、杭の埋設施工の段階で本発明の上記杭基礎構造を得ることもできる。
本発明の他の一つである回転キャップとしてのこの既製杭埋設装置は、前記既製杭を保持して埋設するための回転キャップ本体と、前記回転キャップ本体の中央から下方に向かって着脱自在に装着され、吐出液の吐出口が備わった吐出液供給ロッドとを有するものである。
回転キャップ本体は、前記既製杭を保持して埋設する機能が備わったものであればその構造や形状は限定されず、従来と同様のものでよい。例えば、前述のような、中空かつ底面部が開放された円筒状のもので、円筒の外周側面には杭を吊り込み保持するために杭頭部の外周面に設けられた突起に係合し得る切欠き部を有したものが挙げられる。
この回転キャップ本体の中央(中軸部)には該回転キャップ本体の下方に向かって、吐出液の吐出口が備わった吐出液供給ロッドがジョイント部を介して脱着自在に装着されている。
吐出液供給ロッドは、アースオーガ等の掘削機で用いられるロッドと同様のものであり、ロッドの先端又はロッドの側面にはセメントミルク、洗浄水等の吐出液が吐出(噴射)できる吐出口(ノズルを含む)が設けられている。吐出口は、吐出液が低圧〜高圧で噴射できる口径と形状を有するものであれば、特に限定されない。アースオーガのロッドに設けられた従来の吐出口と同様のものでもよい。
吐出口をノズルとし、該ノズルの先端が吐出液をいろいろな方向に角度を変えてもしくは同時に噴出できる構造になっていれば、上述のセメントミルクの充填が効率よく行えるので好ましい。
前記吐出液供給ロッドは内部が中空となっており、前記吐出口まで前記吐出液を供給するための供給管が配されている。この供給管も、アースオーガのロッドに設けられた従来の供給管と同様のものでもよい。
なお、埋設する杭の杭径が小さい場合は杭径内部の径(内径)が小さくなるため前記ロッドに替えて上記吐出口を有する単なる注入管が好ましい。本発明では該注入管も含めて吐出液供給ロッドと称す。
前記吐出液供給ロッドの長さは、1〜20mが好ましい。この範囲にすれば、杭打ち機の標準的な長さのリーダーに、キャップ、ロッドおよびヘッドを取り付けやすく、杭径内部へのヘッドおよびロッドの挿入が容易で、また、上下撹拌および吐出液の杭径内部への注入も容易である。前述のとおり、セメントミルクの充填範囲の長さが上杭の杭長より長くなる場合もあるので、その場合は前記吐出液供給ロッドの長さを上杭の杭長より長くして充填しても良い。上述の通り、本発明の杭基礎構造では、埋設された前記既製杭の上杭の上端から20m以下における前記既製杭の杭径内部にセメントミルクを充填するので、前記吐出液供給ロッドの長さを20mを超えて長くする必要はない。
前記吐出液供給ロッド(前記注入管を除く)の外面には、複数の撹拌翼が備わっているのが好ましい。撹拌翼があれば杭径内部の前記混合物を排除したり、該杭径内部に残存している前記混合物とセメントミルクとの撹拌が容易となり、充填したセメントミルクの品質確保や強度・出来栄え等のばらつきを少なくすることができる。
前記撹拌翼は、羽根形状のもの、スクリュー式(スパイラルタイプ)のもの、などである。寸法は下記の掘削ヘッドの径と同じかそれ以下が望ましく、撹拌翼の設置位置は特に限定されず複数の翼が任意の位置にあればよいが、中でも一つが前記掘削ヘッド直上のジョイント部付近にあるのが望ましい。
また、前記吐出液供給ロッド(前記注入管を除く)の先端には掘削ヘッドが備わっているのが好ましい。掘削ヘッドが回転することにより前記杭径内部に充填されている未硬化の杭周固定液と掘削土砂の混合物が掘り起こされ上方に押し上げることができるので、該混合物の排除が容易となる。
この掘削ヘッドは、アースオーガの先端に取り付けられるものと同様のものである。例えば、先端に掘削爪があり、半巻以上のスパイラル上の板が取り付けられているといったものである。
上述の本発明の杭基礎構造の構築方法の一つとして、上述の本発明の既製杭埋設装置を用いて構築する方法が挙げられる。
すなわち、本発明の他の一つである杭基礎構造の構築方法は、上述の杭基礎構造の構築方法であって、上杭としての前記既製杭を埋設する際に、前記既製杭を保持して埋設するための回転キャップ本体と、前記回転キャップ本体の中央から下方に向かって装着され、吐出液の吐出口が備わった吐出液供給ロッドとを有する回転キャップとしての既製杭埋設装置を用い、前記吐出液供給ロッドが前記既製杭の杭径内部に挿入される形で前記回転キャップ本体により埋設する前記既製杭を保持して該既製杭を自沈、回転により埋設して上杭を設置し、上杭設置完了後に前記回転キャップ本体を逆回転させて該回転キャップ本体を上杭としての前記既製杭から外し、前記既製杭埋設装置を引き上げながら前記吐出口からセメントミルクを吐出して、上杭としての前記既製杭の杭径内部をセメントミルクで充填することを特徴とする杭基礎構造の構築方法である。
このように、本発明の前記既製杭埋設装置を用いれば、従来の杭基礎の構築(杭穴の形成及びソイルセメント状物の充填、既製杭の埋設)方法の中で効率よく前記本発明の杭基礎構造を構築することができる。
構築する本発明の杭基礎構造と構築する際に用いる本発明の既製杭埋設装置は、上述の通りである。
本発明の構築方法では、まず、アースオーガ等の掘削機により従来の方法で杭周固定液と掘削土砂との混合物が充填された杭穴を形成する。次に、前記混合物が硬化する前に従来の方法で上杭以外の既製杭を前記杭穴に埋設する。埋設する際、従来の既製杭埋設装置(回転キャップ)を用いてもよいが、本発明の上記既製杭埋設装置を用いてもよい。
少なくとも上杭を埋設・設置する際には、本発明の前記既製杭埋設装置を用いる。前記回転キャップ本体に該本体から下方に向けて吐出液供給ロッドが装着された本発明の既製杭埋設装置の前記回転キャップ本体部分で既製杭を把持して吊り上げ、該既製杭を自沈回転により埋設する。既製杭を把持して吊り上げる際、前記吐出液供給ロッドは前記既製杭の杭径内部に挿入される形となっている。
上杭までの設置が完了したら、前記回転キャップ本体を逆回転させて該回転キャップ本体を上杭としての前記既製杭から外し、前記既製杭埋設装置を引き上げながら前記吐出液供給ロッドの前記吐出口からセメントミルクを吐出して、上杭としての前記既製杭の杭径内部、もしくは上杭から中杭に渡る杭径内部、もしくは上杭から下杭に渡る杭径内部の所定範囲をセメントミルクで充填する。
なお、このセメントミルクの充填は、前記既製杭埋設装置(前記吐出液供給ロッド)を上下に一回もしくは複数回上げ下げし、その過程で行ってもよく、このような充填方法も本発明の範囲に含まれる。
また、前記吐出液供給ロッドの前記吐出口からのセメントミルクの吐出(中空既製杭の杭径内部への充填)は、前記回転キャップ本体を上杭から外して既製杭埋設装置を引き上げる際に行うのではなく、前記既製杭の杭径内部を前処理した後に行ってもよい。
例えば、前記吐出液供給ロッドとして、前記掘削ヘッドと撹拌翼が備わったものを用い、セメントミルクを吐出する前に前記杭径内部に充填されている前記混合物を地上に排出するといった前処理をし、その後、セメントミルクの充填作業を行ってもよい。
あるいは、前記回転キャップ本体を上杭から外して既製杭埋設装置を引き上げる際に高圧の洗浄水を噴出してセメントミルクを充填する所定範囲の杭径内部を洗浄するといった前処理をし、その後、セメントミルクの充填作業を行ってもよい。これらのような前処理を行うパターンも本発明の範囲に含まれる。
セメントミルク等の前記吐出液の前記吐出口は、吐出液供給ロッドの先端、側面、先端と側面の両方のいずれかに設けられる。ロッドの先端に掘削ヘッドを取り付ける場合は、該掘削ヘッドにだけ吐出口を設けておくこともできる。
セメントミルク、洗浄水等の前記吐出液の吐出は、必要に応じて低圧〜高圧における適圧で噴射して行う。ここで言う低圧とは2MPa程度の圧力であり、高圧とは18MPa程度の圧力である。通常は、杭穴の形成時にアースオーガのヘッドやロッドからセメントミルクが吐出される際の2MPa程度の吐出圧(噴射圧)である。圧が低すぎるとセメントミルクの充填効率が悪くなったり前記混合物の混入が多くなって充填されたセメントミルクの品質が悪くなる。圧が高すぎると前記既製杭の内面を傷めてしまう虞がある。
建物やフーチングの下方に造成される杭基礎を本発明の杭基礎構造にすれば、少なくとも地震時に大きな曲げモーメントやせん断力が作用する上杭あるいは上杭の杭頭部に補強が施されているので、耐震性のある杭基礎となる。また、本発明の既製杭埋設装置を用いた本発明の杭基礎構造の構築方法によれば、従来の杭基礎構造の構築方法を大きく変えたり施工工程を増やしたりすることなく、簡便に前記杭基礎構造が構築できるので、施工が複雑になったり施工コストを大幅に上げることなく既製杭を用いた杭基礎の耐震化が図れる。
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
図1は、本発明の杭基礎構造1の一例を示す図である。この例では、地盤2中に杭穴3が設けられ、該杭穴3に上杭4と下杭5とからなる既製杭(SC杭、PRC杭、PHC杭等)による杭が埋設されている。
杭下部の杭穴底部にはセメントミルクからなる根固め液7が充填されている。杭穴底部より上方の杭穴周壁と杭外面との間及び下杭5の杭径内部と上杭4の杭径内部の一部は、杭周固定液と掘削土砂との混合物6からなるソイルセメント状物が充填されている。
杭周固定液はセメントミルクであり、杭周固定液と掘削土砂との混合割合は、杭周固定液:掘削土砂=1:9〜9:1である。杭周固定液と掘削土砂との混合物6の硬化一軸圧縮強度は0.1〜3.0N/mm2程度となるように、杭周固定液の種類や配合を調整するのが好ましい。セメントミルクは、セメントスラリー、セメントにスラグ等のセメント混和材やベントナイト等の粘度調整剤や流動調整剤、強度増進剤等の化学混和剤を添加したセメント組成物によるスラリーである。
上杭4の杭頭部における杭径内部には、セメントミルク8が充填されている。この例では、上杭4の杭頭部だけであるが、上杭4における杭径内部の全体もしくは上杭4から下杭5に渡って充填してもよい。セメントミルク8の硬化による硬化物は、一軸圧縮強度が5〜65N/mm2であるのが好ましい。この範囲にすることによって、作業性を大きく害することなく、また、著しいコスト高となることなく耐震補強効果を得ることができる。
セメントミルク8の充填範囲は、埋設された前記既製杭の上杭4の上端から20m以下における前記既製杭の杭径内部である。20m以下とするのは、この範囲が地震時に杭に作用する主な曲げモーメントおよびせん断力の範囲だからである。
建物やフーチングの下方に構築される杭基礎を上述のような本発明の杭基礎構造1にすれば、大地震により座屈等の損壊が起こり易い杭上部が強固になるので耐震性のある杭基礎が得られる。
図2は、本発明の既製杭埋設装置11と、それを上杭13に取り付けた状態を示す図である。(a)は吐出液供給ロッド10として掘削ヘッド16と撹拌翼17を備えたものを用いた例、(b)は吐出液供給ロッドとして供給管20を用いた例、(c)は回転キャップ本体9のA−Aでの平面の例である。
本発明の既製杭埋設装置11は、回転キャップ本体9と吐出液供給ロッド10とからなる。回転キャップ本体9は、従来のものと同様のものであり、上面はジョイント部15を介してヤットコのロッド18に接続できるようになっている。
図の(a)に示すものでは、中空かつ下底面部が開放された円筒状のもので、円筒の外周側面には杭を吊り込み保持するために杭頭部の外周面に設けられた突起に係合し得る切欠部12を有している。
図の(c)に示すように、回転キャップ本体9の上面には開口部22が設けられており、必要に応じて杭径内部14の充填物6を地上に排出できるようになっている。そのため、開口部22の開口面積は大きい方が好ましい。
本発明の既製杭埋設装置11には、吐出液供給ロッド10が備わっている。この吐出液供給ロッド10の上端は前記回転キャップ本体9の上底面部に取り付けれるようになっている。
吐出液供給ロッド10は、図に示すように、回転キャップ本体9の中央から下方に向かって装着される。装着は、ジョイント部15を介すことにより回転キャップ本体9に着脱自在となっており、また、ジョイント部15を複数設けることによりロッドの長さを変えることができるようになっている。
図の(a)に示す吐出液供給ロッド10では、掘削ヘッド16と撹拌翼17が備わっている。掘削ヘッド16は先端に掘削爪があり、半巻以上のスパイラル状の板があるといったものであり、撹拌翼17は羽根形状のもの、あるいはスクリュー式(スパイラルタイプ)のものである。
そして、これらの近傍にはセメントミルク等の吐出液を吐出(噴射)するための吐出口19が設けられている。図2(a)の例では、吐出口19は掘削ヘッド16の先端付近にのみ設けられているが、必要に応じて、撹拌翼17近傍や吐出液供給ロッド10の外側面にも設けてもよい。吐出口19は、ノズル、吐出弁といったものであり、吐出液を高圧噴射する場合は、ノズルを使用する。
掘削ヘッド16と撹拌翼17が備わっていることにより、杭径内部に充填されている充填物(杭周固定液と掘削土砂との混合物)が開口部22を通じて地上に排出しやすくなるとともに、このように吐出口19が設けられていることにより、杭径内部14へのセメントミルクの充填が効率よく効果的に行える。
吐出液供給ロッド10は内部に吐出液の輸送管となる内管が設置された二重管構造となっており、セメントミルク等の吐出液が吐出口19まで送液できるようになっている。
図の(b)に示す吐出液供給ロッドは、注入管20となっている。この注入管20には少なくとも先端に開閉蓋21のある吐出口19が設けられており、吐出口19の奥には吐出口19からの逆流を防ぐための弁が設けられている。埋設する杭の杭径が小さい場合は杭径内部14の径(内径)が小さくなるため前記吐出液供給ロッド10に替えて先端等に吐出口19を有する単なる注入管20が好ましい。
この注入管20の内部もセメントミルク等の吐出液を圧送できる二重管構造となっており、セメントミルク等の吐出液が先端の吐出口19まで送液できるようになっている。開閉蓋21は内部からの吐出圧で作動するようになっており、吐出液の吐出時以外は閉じられている。この例では、吐出口19は注入管20の先端のみに設けられているが、必要に応じて注入管20の管側面に複数設けてもよい。
図2(a)、(b)は、本発明の既製杭埋設装置11を上杭13に取り付けた状態を示す図でもある。既製杭埋設装置11は、図に示すように、回転キャップ本体9で上杭13(中空既製杭)の上端を把持し、吐出液供給ロッド10を杭径内部14に挿入する形で上杭13に取り付けられる。
この例では、上杭13の杭頭部の側面に回転キャップ本体9の切欠部12と嵌合する突起部(図示省略)が設けられており、該突起部と前記切欠部12とが嵌合することにより既製杭埋設装置11が上杭13を保持(把持、吊り上げ)できるようになっている。既製杭埋設装置11による上杭13の保持方法はこれに限定されるものではなく、本発明の既製杭埋設装置11の構成を変えるものでなければ、他の従来法を用いてもよい。
図3は、本発明の杭基礎構造の構築方法の一例を示す図である。(a)は従来の回転キャップ23を用いて下杭5を杭穴3に埋設する直前の状態を示す図、(b)は本発明の既製杭埋設装置11を用いて上杭4を杭穴3に埋設する直前の状態を示す図、(c)は杭の埋設が完了し既製杭埋設装置11を上杭4から外す図、(d)と(e)はセメントミルク8を上杭4の杭径内部14に注入しながら既製杭埋設装置11を上下させて、上杭4の杭径内部14にセメントミルク8を充填している様子を示す図、(f)はセメントミルク8の充填が完了し本発明の杭基礎構造1が完成した状態を示す図である。
この例では、杭穴3に埋設される杭は上杭4と中杭24と下杭5とからなる。杭は上杭4と下杭5とからなるものでもよく、これらに限定されるものではない。
杭穴3には、図の(a)に示すように、杭穴形成時に作られた杭周固定液と掘削土砂との混合物6が充填されている。下杭5の上端部に従来の回転キャップ23が取り付けられ、下杭5は従来の回転キャップ23に保持された状態で従来の方法で自沈回転しながら杭穴3の所定の位置に埋設される。中杭24も、下杭5に連結する形で、従来の回転キャップ23により従来の方法で自沈回転しながら杭穴3に埋設される(図示省略)。この例では、中杭24や下杭5を埋設する際に従来の回転キャップ23を用いたが、本発明ではこれに限定されるものではなく、この従来の回転キャップ23に替えて、本発明の既製杭埋設装置11を用いてもよい。
少なくとも上杭4を埋設する際は、従来の回転キャップ23に替えて本発明の既製杭埋設装置11が用いられる。既製杭埋設装置11における吐出液供給ロッド10の先端部には掘削ヘッドと撹拌翼が備わっている。
図の(b)に示すように、既製杭埋設装置11の吐出液供給ロッド10を上杭4杭径内部に挿入するようにして回転キャップ本体9で上杭4の上端を把持して既製杭埋設装置11が上杭4の上端に取り付けられる。その後、回転キャップ本体9を正回転させることにより上杭4は自沈回転しながら杭穴3に埋設される。
杭の埋設が完了したら、図の(c)に示すように、既製杭埋設装置11の回転キャップ本体9を逆回転させて杭から外し、既製杭埋設装置11を引き上げながら前記回転キャップ本体9を正回転することにより掘削ヘッドや撹拌翼の翼を介して上杭4の杭径内部14に充填されていた杭周固定液と掘削土砂との混合物6を上方に押し上げ、該杭周固定液と掘削土砂との混合物6を地上に排出する。その際、前記吐出口19から高圧の洗浄水もしくはセメントミルクを吐出(噴射)することにより、充填範囲の杭径内部14を洗浄してもよい。この(c)の工程は、杭の埋設後、杭周固定液と掘削土砂との混合物6が硬化し始める前に行う。
その後、図の(d)〜(e)に示すように、所定配合と所定密度のセメントミルク8を吐出液供給ロッド10の吐出口19から吐出しながら既製杭埋設装置11を上下させ、前記杭周固定液と掘削土砂との混合物6の地上への排出を更に進めるとともに、図に示すような所定の充填範囲にセメントミルク8を充填する。
充填が完了したら、図の(f)に示すように、本発明の既製杭埋設装置11を杭穴3から出しセメントミルク8と杭周固定液と掘削土砂との混合物6が十分に硬化すれば本発明の杭基礎構造1が完成する。
このように、本発明の前記既製杭埋設装置を用いれば、従来の施工工程をほとんど変えることなく、基礎杭の杭頭部が耐震化された本発明の基礎杭構造1が簡便に得られる。
図4は、上述のような本発明の既製杭埋設装置を用いないで本発明の杭基礎構造1を構築する方法の一例を示す図である。(a)〜(e)はアースオーガ25による杭穴3の形成を示す図、(f)〜(g)は従来の回転キャップ23による下杭5と中杭24と上杭4とからなる杭の杭穴3への埋設を示す図、(h)は杭の埋設が完了し本発明の杭基礎構造1が完成した状態を示す図である。
本発明の杭基礎構造1は、上述のような本発明の既製杭埋設装置を用いた方法でなくとも、図4に示す例のように、従来の杭基礎施工の中で構築することもできる。
図の(a)〜(c)に示すように、まず、アースオーガ25等の掘削機により目的の杭穴3を形成する。そして、図の(d)に示すように、掘削時又はアースオーガ25等の掘削機を引き上げる段階で、杭穴3に杭周固定液と掘削土砂との混合物6を充填していく。杭穴3の底部は、ほとんどの場合、根固め液7を充填する。
杭穴13の上方部では、掘削土砂を極力地上に排出した後、アースオーガ25等の掘削機に設けられた吐出口からセメントミルクを吐出してセメントミルク8を充填する。したがって、図の(e)に示すように、杭穴3は、下方部には杭周固定液と掘削土砂との混合物6が充填され上方部にはセメントミルク8が充填された構造となっている。
その後、図の(f)〜(g)に示すように、杭周固定液と掘削土砂との混合物6とセメントミルク8が硬化する前に、回転キャップ23を用いて従来の方法で杭を埋設する。そうすれば、図の(h)に示すように、本発明の杭基礎構造1が従来の杭基礎施工の中で構築できる。
このように、本発明の杭基礎構造1を構築するのに必ずしも本発明の既製杭埋設装置11を用いる必要はないが、この方法だと杭挿入時にセメントミルクが移動するため、所定のセメントミルク充填範囲を確実に充填するためには、充填範囲を該充填範囲より長くしておく必要があるといった問題が生じる可能性があるので、前述の本発明の既製杭埋設装置を用いた構築方法の方が好ましい。
本発明の既製杭埋設装置を用いないで本発明の杭基礎構造を構築する方法として、次のような方法もある。
図5も、上述のような本発明の既製杭埋設装置を用いないで本発明の杭基礎構造1を構築する方法の一例を示す図である。(a)〜(b)は従来の回転キャップ23による下杭5と中杭24と上杭4とからなる杭の杭穴3への埋設を示す図、(c)〜(d)は小径掘削ロッド26により上杭4の杭径内部14に充填されている杭周固定液と掘削土砂との混合物6を掘削し地上に排出することを主体とした施工を示す図、(e)は前記杭径内部14へのセメントミルク8の充填施工を示す図、(f)はセメントミルク8の充填が完了し本発明の杭基礎構造1が完成した状態を示す図である。
本発明の杭基礎構造1は、上記図4に示す方法以外にも、本発明の既製杭埋設装置を用いないで構築することができる。
図5に示す方法では、まず、アースオーガ等による従来の方法で杭周固定液と掘削土砂との混合物6が充填された杭穴3を形成し(図示省略)、図の(a)〜(b)に示すように、回転キャップ23を用いて従来の方法で杭を埋設する。その後、図の(c)〜(e)に示すように、上杭4の杭径内部14に挿入可能な小径掘削ロッド26を用いて杭径内部14に充填されている杭周固定液と掘削土砂との混合物6を除去しつつ、除去した個所にセメントミルク8を充填する。この(c)〜(e)の作業は、杭周固定液と掘削土砂との混合物6が硬化する前に行うのが好ましい。硬化した後だと前記除去作業がし難くなる。
充填が完了したら、図の(f)に示すように、小径掘削ロッド26を杭穴3から撤去しセメントミルク8と杭周固定液と掘削土砂との混合物6を十分に硬化させれば本発明の杭基礎構造1が完成する。
このような方法でも、本発明の既製杭埋設装置を用いずに本発明の杭基礎構造1を構築することができるが、この方法だと(1)上杭の埋設位置が深い場合、小径掘削ロッドの杭径内部への挿入時に杭に接触し、杭を押す可能性がある、(2)小径掘削ロッド挿入時に杭穴の上部に残存する泥水を杭径内部に押し込んでしまうといった問題が生じる可能性があるので、やはり前述の本発明の既製杭埋設装置を用いた構築方法の方が好ましい。