JP6627951B1 - 温度制御方法及び温度制御装置 - Google Patents
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Description
ハンチングとは、図12に示すように、制御される対象物の温度が設定された目標温度に対してオーバーシュートとアンダーシュートを繰り返し、安定して制御できない状態をいう。一時的に温度が一定になったとしてもまたハンチングを起こすこともあり、制御される対象物が直上にない場合や、エネルギー(温度)分布により仮想的な距離が存在している場合は、安定した温度制御が特に難しくなる。
このハンチングという現象は、一時的に安定したように見えても再び起きる場合があり、アンダーシュートとオーバーシュートが発生することは、例えば以下の分野で問題となる。
したがって、これらの分野で使用される機器においては、ハンチング等の発生は厳禁である。
特許文献1には、温調ブロック(検体と試薬を混合した反応液を収容する容器を保持するブロック)の温度変化量(現在周期の温度―前回周期の温度)を「大」から「無し」となるように熱源の操作量を制御することでハンチングを抑止する「核酸増幅装置、温度制御方法、及び温度制御装置」の発明が開示されている。
特許文献2には、エンジンの冷却水温度を制御する場合に、設定温度で安定した時のラジエータ放熱量を予測し、この予測値に応じて電子制御サーモスタットを制御することによりハンチングなどを発生させずに冷却水温度制御を行う「電子制御サーモスタットの制御方法」の発明が開示されている。
特許文献3には、冷却プレートの設定温度を基準温度T0からハンチング抑制温度T1に上げ、その後、所定の降温速度で基準温度T0まで降温させる「光学素子の成形方法及び成形装置」の発明が開示されている。
しかし、これらの従来の制御方法では次のような問題がある。
すなわち、1台の装置に多数の温度制御系が存在している場合、制御対象に直接温度センサを取り付けて制御しても、加温・冷却体それぞれを制御しても、各点での制御では、統合的動的な制御点に対する制御ができない。また、多数の制御対象が存在し、それぞれに制御点が存在している場合、各点の平均では一点に対する制御になるため、無駄に制御用の加温・冷却体が多くなって効率的ではない。さらに、制御対象が1個であり、これに対し多数の加温・冷却体があっても一点を対象にした処理では、無駄のない効率的な制御はできない。
したがって、ハンチングを抑制し、且つ効率的な制御ができる温度制御方法が望まれるのである。
そこで、本発明は、ペルチェ素子の制御方法を工夫して、簡便にハンチング等を抑制することを課題とする。
実体制御目的物側の第1実体制御点、及び加温・冷却体側の第2実体制御点の位置やエネルギー指標のいずれか又はそれらの組合せに基づいて仮想制御点を定義するステップと、
一定時間間隔で区切った制御区間毎に、前記第1実体制御点近傍と前記第2実体制御点近傍の各エネルギー指標と、前記仮想制御点と前記第1実体制御点間の距離と前記仮想制御点と前記第2実体制御点間の距離の比とに基づき、前記仮想制御点の現在のエネルギー指標を推計するステップと、
前記実体制御目的物の目標値として設定されたエネルギー指標に対応するようなエネルギー指標に前記仮想制御点が到達して、その後安定してその目標値を継続できるようになるまで前記加温・冷却体の操作を前記制御区間毎に制御するステップと
からなることを特徴とする。
加温・冷却体とは下記の実施形態ではペルチェ素子であるが、ヒータでも空冷ファンでもなんでもよい。
第1、第2実体制御点とは、実体制御目的物と加温・冷却体のそれぞれの表面や近傍に設けた現在のエネルギー指標を計測するための点であり、センサ類が接続している。
エネルギー指標とは、温度が代表的であるが、電気抵抗や電圧や電流の値でもよい。仮想制御点の推計値を算出する際、エネルギー指標をそのまま使用しても、前回取得したエネルギー指標との変化量を使用してもいずれでもよい。
仮想制御点とは、物理的に存在するわけではなく、推計値を算出するために便宜上想定した点である。
仮想制御点は、プログラムの実行時に生ずる仮想的な存在なので、制御処理開始時点で静的に定義されているだけでなく、温度変化等に応じて、任意の位置に定義することができる。
これにより、実体制御目的物上あるいは近傍にある第1実体制御点、加温・冷却体上あるいは近傍にある第2実体制御点の関係が多対多であっても、多対1であっても、1対多であっても安定した温度制御が可能になる。
このように、任意個数に対応できるということは、温度制御中に実体制御目的物の個数の増減などがあっても対応しうることにもなり、温度制御中に発生する実体制御点におけるエネルギー指標の動的変化に対して、より迅速に対応して安定した制御を実現できる。
(1)仮想制御点による温度制御方法
(2)仮想制御点の考え方を適用した温度制御装置
の順に説明する。
(1−1)加温・冷却体―実体制御目的物間の距離と仮想制御点
温度制御において、制御される側(実体制御目的物)と制御する側(加温・冷却体)との位置関係を大別すると、直接接している場合と、物理的に距離が離れている場合の2通りがある。
図1(1)のように、実体制御目的物1と加温・冷却体2が直接的に接しているのであれば、原則として従来の装置で温度制御が可能である。つまり、物理的な距離が無いので、熱伝達の遅れに伴うハンチングなどが問題とならないのである。
このような実体制御目的物1と加温・冷却体2とが離れている場合に、図3に示すような仮想制御点3を直接の制御対象とするのが本実施形態の温度制御方法なのである。
本実施形態の温度制御方法において、「仮想制御点」は最も特徴的な概念であるが、物理的に存在せず温度制御のアルゴリズム中でのみ存在する。そこで便宜上、自動車の安定的な走行に喩えて説明する。
図2に示すように、3台の車が連続して走行しているものとする。先頭車両は本実施形態の加温・冷却体の、後尾車両は実体制御目的物の、中間を走行している車両は仮想制御点のそれぞれ比喩である。
図2では、視界がよく前後の車両を十分に確認しながら走行できる状態にあり、この状態では、いずれの車両も等間隔で同じ速度で運転できるので、各車両の速度vの変化量(Δv)は等しい。
すなわち、本実施形態に即していえば、
Δ加温・冷却体の温度=Δ仮想制御点の温度=Δ実体制御目的物の温度
が成り立つ。
要は、第1実体制御点と第2実体制御点の固定位置に基づき、仮想制御点が静的に定義されるわけではなく、動的に定義されうるという点が重要なのである。
以下、仮の数値を当てはめて、仮想制御点に関する説明を続ける。
実体制御目的物1の第1実体制御点1xが外的要因のために30度を示し、加温・冷却体2の第2実体制御点2xが25度であり、実体制御目的物1に対する最終目的温度が35度であるものとする。
この場合、第1実体制御点1x、第2実体制御点2xまたは仮想制御点3のいずれかを35度に設定し、制御をスタートする。このようなスタートをさせるのは、2種類の実体制御点1x、2xと仮想制御点3のいずれを先行させる必要があるかは外的要因によってケースバイケースであるからである。
まず加温・冷却体側がPID制御またはPI制御(以下、「PID制御」)によって約33度まで到達したならば、定義済みの仮想制御点3を利用してPID制御を開始する。実体制御目的物1の温度状況を検知しながら、予備実験等でどの位置に定義された仮想制御点3の設定温度を何度にすればよいかがわかっている場合、仮想制御点3が設定された温度に到達するように加温・冷却体2の制御を続ける。この制御により仮想制御点3の温度が変化し、これに伴い実体制御目的物1が目標の温度に近づいていく。
この過程で、仮想制御点3と2つの実体制御点との距離S1,S2を変化させることもある。つまり仮想制御点3は動的に定義されるわけである。加温・冷却体2の操作を制御するコンピュータプログラムの実行過程において計算上でのみ存在するので、仮想制御点3はどのようにでも定義が可能なのである。勿論静的に一定比を保つ方が良い場合もある。
図3に示す例では、加温・冷却体2近傍の第2実体制御点2xの空間座標と実体制御目的物1近傍の第1実体制御点1xの空間座標とを両端とする線分上に仮想制御点3を定義する。
S1=加温・冷却体2の実体制御点2xと仮想制御点3との距離
S2=実体制御目的物1の実体制御点1xと仮想制御点3との距離
EI1=実体制御目的物1の実体制御点1xで計測されたエネルギー指標
EI2=加温・冷却体2の実体制御点2xで計測されたエネルギー指標
VCP=仮想制御点3のエネルギー指標(計算で導き出す推計値)
とする。
仮想制御点3におけるエネルギー指標の前回との変化量であるΔVCPは次の数式で推計する。
ΔVCP=((ΔEI1−ΔEI2)×S1/(S1+S2))+ΔEI2
なお、この式は直線補間であるが、温度分布が一様でない場合等は曲線補間であってもかまわない。このように、数式を用いて算出してもよいが、予備試験結果などに基づいて作成したルックアップテーブルを参照して取得したり、任意に推計値を当てはめたりする方法もある。
加温・冷却体2の操作を制御するソフトウェアあるいはハードウェアは、仮想制御点3の推計温度を参照しPID制御を行う。
PID制御は、仮想制御点3の現在の推計値と仮想制御点3の目標温度として設定された値との偏差を求め、これに比例した出力をする比例動作と積分した値に比例した出力をする積分動作と微分した値に比例した出力をする微分動作とによって偏差を解消する方向で加温・冷却体2に対する操作を制御する。
この実施形態では、一般的なPID制御を用いているが、入力値が仮想制御点3の現在推計値と目標値との偏差であるという点が特徴的である。PID制御によっても目標温度に近づくに従い、温度の変化量が緩やかとなってハンチングを低減する働きがあるが、それでもハンチング抑制には十分でない。この実施形態では、仮想制御点を設けたことによって、この弱点を補うものである。
加温・冷却体と実体制御目的物が各1個の場合を想定して説明してきたが、少なくとも一方が複数個あっても仮想制御点を利用した温度制御が可能である。以下、少なくとも一方が複数ある場合の簡単な仮想制御点の定義の仕方を説明する。
図4は、加温・冷却体2が2個と実体制御目的物1が1個の場合である。なお、加温・冷却体2は3個以上でも考え方は同様である。
一方の加温・冷却体2aと実体制御目的物1との距離をA,他方の加温・冷却体2bと実体制御目的物1との距離をB,加温・冷却体2a、2b同士の距離をCとする。A:B:Cの比率から仮想制御点3を定義する。この仮想制御点3を温度制御の示標とすることで実体制御目的物1自体を安定的に制御することが可能となる。
仮想制御点3の位置は、A,B,Cを3辺とする三角形の重心や外心に限らず、測定されたエネルギー指標等に基づき動的に決めればよい。
加温・冷却体2と一方の実体制御目的物1aとの距離をA,加温・冷却体2と他方の実体制御目的物1bとの距離をB,実体制御目的物1a、1b同士の距離をCとする。A:B:Cの比率から仮想制御点3の位置を決定する。この仮想制御点3を温度制御の対象とすることで実体制御目的物1a、1b自体を安定的に制御することが可能となる。
頂点Pを共有する2つの三角形を考え、一方の三角形の辺A:B:Cの比率などに基づき仮想点P1を求め、他方の三角形の辺D:E:Fの比率などに基づき仮想点P2を求める。この仮想点P1と仮想点P2とから仮想制御点3の位置を決定し、この点の温度制御を介して、2つの実体制御目的物1a,1bの温度制御を安定的に行う。なお、頂点Pが必ずしも仮想制御点3と一致するとは限らない。
実体制御目的物1と加温・冷却体2が物理的に離れている場合に仮想制御点3の考え方を適用する意味がある。したがって、直接的に接している場合は、仮想制御点の概念を取り入れるまでもない。しかし、実体制御目的物1と加温・冷却体2とエネルギー指標の差たとえば温度差が著しい等の特別な場合は、仮想制御点3を設けることに意義がある。この点について、図7を参照しながら説明する。
実体制御目的物1と加温・冷却体2が密接しているのでS1=S2=0であり、
ΔEI1=ΔVCP=ΔEI2となる。しかし、実体制御目的物1と加温・冷却体2が何らかの特殊なエネルギー分布を持ち、実体制御点1xと実体制御点2xの間に仮想的な空間が存在しても同然な状況の場合、S1とS2は現実の距離である必要はなく、エネルギー指標の差などを勘案して比を適宜当てはめることも可能である。
例えば、実体制御目的物1が流体であって直接温度を計測できなくても、この流体を通す管上の1点において温度が計測できれば、この1点を実体制御点1xとすればよい。
図9の機能ブロックに従い、温度制御装置10について説明する。
温度制御装置10は、入出力部101と記憶部102と制御部103と制御I/F部104と検出I/F部105と通信I/F部106を備える。
制御部103は、図示しないCPUが記憶部102に格納されているコンピュータプログラムをメモリ上に読み込み、これを実行することにより一連の温度制御処理を制御する。またマクロ言語処理機能があるならば、温度制御装置10はそのマクロ言語処理機能を利用することで、起動直後に自動的に温度制御処理を開始したり定型的な作業を自動化したりすることも可能である。
記憶部102は、マクロ言語処理機能を含むコンピュータプログラムのほかに、処理途中の演算結果なども記憶する。
検出I/F部105は、加温・冷却体2上または近傍の実体制御点2xに設けられた検出部2yと、実体制御目的物1上または近傍の実体制御点1xに設けられた検出部1yとから得られたエネルギー指標を制御部103にフィードバックするときのインターフェースである。
通信I/F部106は、他装置とデータの授受などの連携をするときのインターフェースである。他装置には、ファンやヒータなどの周辺機器、測定機器、エッジ処理を行うコンピュータ、プログラマブルロジックコントローラなどが含まれる。また、通信I/F部106は、有線通信だけではなくWiFi(登録商標)等の無線通信によっても他装置と接続可能である。つまり、WiFi等を通してスマートフォンやパソコンなどから容易に監視や操作ができるのである。また温度制御装置10にはWEBサーバ機能が含まれていてもよい。
なお、図9において、太線で表した双方向矢印は熱が双方向に移動しうることを示している。
温度制御装置10あるいはこれに接続している装置の所定箇所に実体制御目的物1を収容する(ステップS10)。入出力部101を操作したり或は通信I/F部106を介してWEBサーバや周辺機器などに接続したり、さらにはスタートアップマクロの自動設定機能により、仮想制御点3における目標エネルギー指標を設定する(ステップS11)。その目標エネルギー指標は実体制御目的物1に対する値そのものに限らず、その実体制御目的物1に対する値と逸脱していても、この設定値で実体制御目的物1が目的の温度になることをあらかじめ実験等で検証した結果の値であればそれでよい。
加温・冷却体2としてペルチェ素子が適しているが、このペルチェの性質として温度Taから温度Tbへ変化させる上で、2次曲線の様に温度が降下するのが通常である。これに対し、時間軸上に多数の区間を設け、区間毎にあたかも直線的に温度降下させる制御をする場合がある。この実施形態ではスタート時点tから時間k(単位はミリ秒、秒など)毎に多数の区間(t〜t+k、t+k〜t+2k、t+2k〜t+3k、・・・)を設け、これらを温度制御装置10による温度制御のための制御区間とする。1つの制御区間について以下のステップS12〜ステップS16の処理を繰り返す。細かく分割された制御区間あたりの制御は、図11に示すように直線的であってほとんどハンチングは問題にはならない。しかしこの場合も、より目的の温度に近く制御するために仮想制御点を使用することで、より目的に近い直線で制御することが可能となる。
区間毎に検出I/F部105 を介して検出部1yおよび検出部2yが計測したエネルギー指標を取得する(ステップS13)。その計測値と上記の設定されたウェイト値あるいはパーセンテージ値を元に、区間毎に仮想制御点3のエネルギー指標を計算し導き出す(ステップS14)。
もし、目標エネルギー値へ到達し、且つその状態が安定的に継続されるに至ったならば(ステップS16でYes)、入出力部101等を介して、またはあらかじめ設定しておいたマクロ言語処理機能によって選択された目的の状態(停止、次の目的値の再設定など)に移行する(ステップS17)。
2:加温・冷却体
3:仮想制御点
10:温度制御装置
Claims (4)
- 実体制御目的物側の第1実体制御点、及び加温・冷却体側の第2実体制御点の位置やエネルギー指標のいずれか又はそれらの組合せに基づいて仮想制御点を定義するステップと、
一定時間間隔で区切った制御区間毎に、前記第1実体制御点近傍と前記第2実体制御点近傍の各エネルギー指標と、前記仮想制御点と前記第1実体制御点間の距離と前記仮想制御点と前記第2実体制御点間の距離の比とに基づいて、前記仮想制御点の現在のエネルギー指標を推計するステップと、
前記実体制御目的物の目標値として設定されたエネルギー指標に対応するようなエネルギー指標に前記仮想制御点が到達して、その後安定してその目標値を継続できるようになるまで前記加温・冷却体の操作を前記制御区間毎に制御するステップと
からなる
ことを特徴とする温度制御方法。 - 前記加温・冷却体の操作を制御する過程において、前記仮想制御点が静的または動的に定義されることを特徴とする請求項1に記載の温度制御方法。
- 前記実体制御目的物と前記加温・冷却体はそれぞれ1個以上任意個数あることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の温度制御方法。
- 実体制御目的物のエネルギー指標が目標値に到達するように温度制御を行う温度制御装置であって、
制御部と、加温・冷却体の操作を制御する制御インターフェース部と、加温・冷却体および実体制御目的物から検出されたエネルギー指標を取得する検出インターフェース部を備え、
前記制御部は、前記実体制御目的物側の第1実体制御点、及び前記加温・冷却体側の第2実体制御点の位置やエネルギー指標のいずれか又はそれらの組合せに基づいて仮想制御点を定義し、一定時間間隔で区切った制御区間毎に、前記第1実体制御点近傍と前記第2実体制御点近傍の各エネルギー指標と、前記仮想制御点と前記第1実体制御点間の距離と前記仮想制御点と前記第2実体制御点間の距離の比とに基づき、前記仮想制御点の現在のエネルギー指標を推計し、前記実体制御目的物の目標値として設定されたエネルギー指標に対応するようなエネルギー指標に前記仮想制御点が到達して、その後安定してその目標値を継続できるようになるまで前記加温・冷却体の操作を前記制御区間毎に制御する
ことを特徴とする温度制御装置。
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