しかしながら、特許文献1に記載のように、真空吸着パッドを用いてガラス基板の裏面を吸着保持したのでは、当該裏面のうち真空吸着パッドにより直接的に真空吸着される領域(当該パッドとガラス基板とで囲まれる空間に接する領域)のみが強く吸着され、その周辺領域に対しては吸着力がほとんど及ばない。そのため、たとえ特許文献1に記載のようにガラス基板の周縁部に複数個の真空吸着パッドを配置したとしても、ガラス基板の周縁部には、何れの真空吸着パッドからも十分な吸着力を受けることのない領域が生じることになる。これでは、当該領域が吸着力不足により浮き上がる可能性がある。特に、吸着対象となるガラス基板が相対的に大型化すると(厚み寸法に対して面寸法が大きくなると)、ガラス基板が自重もしくは外力の作用により変形し易くなるため、真空吸着パッドで吸着された領域の周囲が吸着により変形して部分的に浮き上がるおそれも高まる。ガラス基板が部分的に浮き上がると、浮き上がりにより生じた隙間から成膜材料が入り込むことで、色むらや後工程のボンディングにおける接着不良、印刷における印刷不良などの不具合が懸念される。
また、ガラス基板の種類によっては、裏面の周縁部を除く大部分が有効面として用いられる場合もあるため、特許文献1の如く加熱プレートで基板の裏面全域を密着支持することが好ましくない場合もある。
加えて、スパッタリングなど真空環境下で成膜処理を施す場合には、真空吸着パッドとガラス基板との間の気圧とその周辺の気圧、言い換えると、ガラス基板の裏面に作用する負圧と、ガラス基板の表面に作用する負圧との差が縮まり、あるいは実質的に零になる事態が考えられる。これでは、ガラス基板に対する吸着保持力が低下し、あるいは消失するため、成膜時の姿勢が安定しないおそれが生じる。
以上の事情に鑑み、本明細書では、成膜材料の回り込みを防ぎつつ、基板表面の広域に安定して成膜処理を施すことを解決すべき技術的課題とする。
前記課題の解決は、本発明に係る吸着保持用治具により達成される。すなわち、この治具は、基板を吸着保持するための吸着保持用治具であって、基板の周縁部のみに付着可能な付着面と、付着面に開口する吸着用の長穴とを備えた点をもって特徴付けられる。
このように、本発明では、吸着保持用の治具に、基板の周縁部のみを付着可能な付着面を設けると共に、この付着面に開口するように吸着用の長穴を形成した。このように構成した治具であれば、長穴の周囲に対応する領域、すなわち基板の周縁部をその全周にわたって極力漏れなく吸着することが可能となる。よって、長穴を介して基板を吸着した際に基板の周縁部に吸着力不足が生じる領域を極力なくして、当該周縁部の浮き上がりを回避することができる。従って、成膜材料の裏面への回り込みを防止して、成膜対象となる側の表面のみに正確に成膜処理を施すことが可能となる。もちろん、この治具によれば、基板の裏面のみを吸着及び付着して保持することができるので、成膜対象側の表面の全域にわたって成膜処理を施すことが可能となる。
また、本発明では、付着面に開口して吸着用の長穴を設けたので、長穴の幅方向(長手方向に直交する向きをいうものとする。以下、本明細書において同じ。)両側には常に付着面が配設された状態となる。そのため、この治具を用いて基板を吸着した場合には、基板の裏面が長穴の幅方向両側で付着面に付着支持された状態となるので、枠状部の内側の空間、すなわち、基板の平面中央側の領域を付着支持しなくとも、基板を安定して保持することが可能となる。よって、基板の裏面(成膜対象ではない側の表面)の大部分が有効面となる種類の基板であっても、その表面品質に影響を及ぼすことなく安定して保持することが可能となる。
また、本発明では、治具に設けた長穴の周囲において吸着支持すべき面を付着面としたので、長穴を介して基板の周縁部を吸着保持した際、基板の周縁部は長穴の周囲に設けられた付着面に押付けられ、新たに生じた付着力によって固定される。そのため、例えば真空蒸着やスパッタリングなどの成膜処理を施す場合に、基板を治具と共に真空環境下においた場合であっても、付着力により十分な保持力を維持することが可能となる。
また、上記構成に係る治具は、例えばこの治具と、基板が付着面の上に載置された状態で長穴と基板とで囲まれる空間を減圧可能とする減圧装置とを備えた吸着保持装置として提供することも可能である。
このように、上述した治具と、この治具の長穴と基板とで囲まれる空間を減圧可能な減圧装置とを備えた吸着保持装置であれば、付着面(長穴)の上に載置した状態の基板を減圧装置により付着面に吸着させて、吸着力と付着力とで基板を治具に保持することができる。よって、例えば治具を、減圧装置を有する装置本体に対して脱着可能に構成することで、吸着後に基板と治具のみを次工程(例えば成膜処理工程)に搬送することができ、取扱い性の面でも良好である。
また、本発明に係る吸着保持装置は、吸着保持用治具が、付着面が設けられる枠状部をさらに有するものであってもよい。また、その場合に、減圧装置が、基板が付着面の上に載置された状態で枠状部の内側の空間を減圧することなく、長穴と基板とで囲まれる空間のみを減圧可能としたものであってもよい。
このように、付着面が枠状部に設けられる場合に、減圧すべき空間を長穴に係る空間のみに限定することで、基板の周縁部のみを確実に吸着保持することができる。また、枠状部の内側の空間を減圧せずにおくことで、基板がその平面中央側を治具側に窪ませる向きに過度に変形する事態を極力避けて、基板が付着面以外の部位と接触したり、過度な変形(曲げ変形)に起因した割れを生じる事態を可及的に回避することが可能となる。
また、本発明に係る吸着保持装置は、長穴の長手方向端部が角状をなすものであってもよい。
すなわち、長穴を例えば長角穴とすることで、付着面の長穴(長角穴)からの距離をなるべく均等にすることができる。具体的には、長角穴の幅方向両側に位置する付着面の幅方向寸法、及び、長手方向で隣り合う長角穴間の距離、すなわち長角穴間に位置する付着面の長手方向寸法を何れも等しく設計することができる。これにより、長穴を介して基板に作用する吸着力をより均等に周縁部に及ぼすことができ、部分的な浮き上がりのない安定した吸着保持を実現することが可能となる。
また、本発明に係る吸着保持装置は、付着面のうち長穴とその幅方向で隣接する領域の幅方向寸法が、長穴の幅方向寸法よりも小さく設定されているものであってもよい。
本発明者らが、吸着用の長穴とその幅方向で隣接する付着面との寸法関係について検証したところ、上述のように長穴とその幅方向で隣接する付着面それぞれの幅方向寸法を規定することで、当該長穴を介した減圧による吸着作用を有効に基板に及ぼすことができることが判明した。よって、例えば基板の端部において吸着力不足に陥る事態を可及的に回避して、安定した吸着保持を実現することが可能となる。
また、本発明に係る吸着保持装置は、枠状部の内側の空間と、長穴と基板とで囲まれる空間の少なくとも一方を加圧可能とする加圧装置をさらに備えたものであってもよい。
このように、減圧装置に加えて、枠状部の内側の空間と、長穴と基板とで囲まれる空間の少なくとも一方を加圧可能とする加圧装置を設けることで、減圧装置により付着面に吸着保持された状態の基板裏面の周縁部、又は平面中央側の領域を枠状部(付着面)から引き離す向きに押圧することができる。よって、この押圧力(加圧力)を調整することで、ガラス板を直接触れることなく付着面から引き剥がすことが可能となる。また、この際、効果的に基板の付着面からの引き剥がしを行うことを考慮した場合には、枠状部の内側の空間を加圧可能なように加圧装置を構成するのがよい。上述した空間の加圧は、例えば上述した何れかの空間に加圧装置となるブロー装置から所定圧のエアーを送り込むことで行われるが、この際、加圧される空間と基板の裏面とが接する面積が小さいとその分高圧のエアーを送り込まねばならず、出力の大きな加圧装置が必要となるため経済的ではない。また、あまりに高圧のエアーを用いると、発塵性が問題となるおそれもある。その点、枠状部の内側の空間であれば、長穴に比べて基板の裏面に接する面積を容易に大きく取ることができるので、それほど高出力の加圧装置を用いずとも付着面からの剥離に十分な大きさの加圧力を基板に付与することが可能となる。もちろん、構成上問題とならないのであれば、枠状部の内側の空間だけでなく、長穴と基板とで囲まれる空間についても加圧可能に加圧装置を構成するのがよい。
また、前記課題の解決は、本発明に係る吸着保持方法によっても達成される。すなわち、この吸着保持方法は、基板を吸着保持するための方法であって、基板の周縁部のみに付着可能な付着面と、付着面に開口する吸着用の長穴とを備えた吸着保持用治具の上に基板を載置し、然る後、長穴と基板とで囲まれる空間を減圧する点をもって特徴付けられる。
上述のように、本発明に係る吸着保持方法によれば、本発明に係る吸着保持用治具及びこの治具を備えた吸着保持装置と同様に、長穴の周囲に対応する領域、すなわち基板の周縁部をその全周にわたって極力漏れなく吸着することが可能となる。よって、長穴を介して基板を吸着した際に基板の周縁部が浮き上がる事態を回避することでき、これにより成膜材料の裏面への回り込みを防止して、成膜対象となる側の表面のみに正確に成膜処理を施すことが可能となる。また、上述した治具を用いて基板を吸着した場合には、基板の裏面が長穴の幅方向両側で付着面に付着支持された状態となるので、基板の平面中央側の領域を付着支持しなくとも、基板を安定して保持することが可能となる。よって、基板の裏面(成膜対象ではない側の表面)の大部分が有効面となる種類の基板であっても、その表面品質に影響を及ぼすことなく安定して保持することが可能となる。さらに、本発明に係る吸着保持方法によれば、長穴を介して基板の周縁部を吸着保持した際、基板の周縁部は長穴の周囲に設けられた付着面に押付けられ、新たに生じた付着力によって固定される。そのため、例えば真空蒸着やスパッタリングなどの成膜処理を施す場合に、基板を治具と共に真空環境下においた場合であっても十分な保持力を維持することが可能となる。
また、本発明に係る吸着保持方法は、付着面が設けられる枠状部をさらに有する吸着保持用治具を用いて基板の吸着保持を行うものであってもよい。また、この場合、基板が付着面の上に載置された状態で、枠状部の内側の空間を減圧することなく、長穴と基板とで囲まれる空間のみを減圧するものであってもよい。
この場合も、上述した吸着保持装置と同様に、減圧すべき空間を長穴に係る空間のみに限定することで、基板の周縁部のみを確実に吸着保持することができる。また、枠状部の内側の空間を減圧せずにおくことで、基板がその平面中央側を治具側に窪ませる向きに過度に変形する事態を極力避けて、基板が付着面以外の部位と接触したり、過度な変形(曲げ変形)に起因した割れを生じる事態を可及的に回避することが可能となる。
また、上記構成に係る吸着保持方法は、例えばこの吸着保持方法で基板の周縁部を付着面に付着させた後、基板に所定の処理を施し、然る後、長穴と基板とで囲まれる空間と、枠状部の内側の空間の少なくとも一方を加圧することで基板を吸着保持用治具から剥がす、基板の処理方法として提供することも可能である。あるいは、上記吸着方法で基板の周縁部を付着面に付着させた後、基板に成膜処理を施し、然る後、長穴と基板とで囲まれる空間と、枠状部の内側の空間の少なくとも一方を加圧することで基板を吸着保持用治具から剥がす、基板の成膜方法として提供することも可能である。このようにすれば、基板に所定の処理、あるいは成膜処理を施すに際して、作業者が基板に外力を加えることなく当該基板を治具に保持し、かつ治具から引き剥がすことが可能となる。従って、上述の処理を基板に対して上述の処理を安全かつ簡便に実施することができる。また、その際の取扱い性も向上する。
以上に述べたように、本発明によれば、成膜材料の回り込みを防ぎつつ、基板表面の広域に安定して成膜処理を施すことが可能となる。
以下、本発明の第一実施形態を、図1〜図6を参照して説明する。なお、以下の説明中、上方向は、吸着保持用治具に基板としてのガラス基板を保持した状態において、当該治具からみてその厚み方向のガラス基板側を上方向、ガラス基板からみてその厚み方向の上記治具側を下方向と規定するものとする。もちろん、これらの方向の規定は、上記治具及びこの治具を備えた吸着保持装置の設置態様や使用態様を制限するものではない。
図1及び図2に示すように、本発明の一実施形態に係る吸着保持用治具10は、略矩形状の枠状部11と、枠状部11の上側、すなわち吸着保持対象としてのガラス基板1(図4等を参照)を付着する側に設けられた付着部12と、枠状部11の下側に設けられた底板部13とを備える。
枠状部11は、本実施形態では、ガラス基板1の外縁に準じた形状をなしており、例えば矩形状のガラス基板1を吸着保持対象とする場合、枠状部11は、略矩形状(額縁形状)をなす。この場合、枠状部11の内縁形状と外縁形状は共に矩形である。
付着部12は、ガラス基板1の成膜対象ではない側の表面、すなわち裏面2に付着可能な付着面14を有するもので、本実施形態では、層状をなす。また、この付着面14は、付着対象となるガラス基板1の裏面2の周縁部2aに準じた形状をなし、例えば本実施形態ではガラス基板1の外縁形状に倣って略矩形の外縁形状及び内縁形状(額縁形状)をなす。この際、付着面14の外縁をなす一方の長辺縁14a1から他方の長辺縁14a2までの幅寸法(第一幅寸法W1)は、ガラス基板1の短辺の長さ寸法以上に設定される。同様に、付着面14の外縁をなす一方の短辺縁14b1から他方の短辺縁14b2までの幅寸法(第二幅寸法W2)は、ガラス基板1の長辺の長さ寸法以上に設定される。本実施形態では、付着面14の第一幅寸法W1及び第二幅寸法W2は共に、ガラス基板1の短辺及び長辺の長さ寸法と一致する大きさに設定される(後述する図5を参照)。
なお、付着面14に付着力を付与するための手段は特に限定されない。例えば熱硬化性樹脂を用いた接着など不可逆的な(破壊により付着状態を解消する類の)付着手段でない限りにおいて、任意の付着手段で付着面14及び付着部12を構成することが可能である。例えば、本実施形態では、付着部12を両面粘着テープで構成し、その一方の表面を枠状部11の上面11aに貼付け、他方の表面を付着面14としている。この場合、両面粘着テープのガラス基板1に対する付着力よりも、枠状部11に対する付着力のほうが大きいことが好ましい。使用可能な両面粘着テープの例として、紫外線の照射により粘着力が大幅に低下するUVテープや、粘着フッ素ゴム製の両面粘着テープを挙げることができる。また、その厚み寸法についても特に問わない。あるいは、図示は省略するが、付着部12にガラス板を用い、かつ付着面14となる表面を、付着対象となるガラス基板1の裏面2と直接密着(いわゆるガラス板同士のオプティカルコンタクト)で剥離可能に付着するようにしても構わない。この場合、付着面14となるガラス板の表面と、ガラス基板1の裏面2の双方を、適正な表面粗さに仕上げておくことが肝要である。
底板部13は、全体として略矩形状をなすもので、本実施形態では枠状部11と一体的に設けられている。枠状部11の内側の空間15は、枠状部11の内側面11bと、底板部13の上面13aとで区画形成され、上方のみを開放した形態をなす。よって、ガラス基板1を付着面14の上に載置した状態では、枠状部11の内側の空間15は、ガラス基板1の裏面2と、枠状部11の内側面11b、及び底板部13の上面13aとで区画形成され、密閉された状態となる(後述する図4(a)を参照)。なお、底板部13は、本実施形態では、平面視した状態で、その周縁部を枠状部11から食み出させた形態をなしているが、必ずしもこの形態には限られない。後述する長穴16を貫通形成可能な限りにおいて、任意の形態を採ることが可能である。
付着面14には、一又は複数の長穴16が開口して形成される(図1)。これら長穴16は何れも、付着面14の長手方向、すなわち吸着対象となるガラス基板1を付着面14の上に載置した状態でガラス基板1の周縁部2aに沿った向きに伸びる形状をなすもので、付着面14を有する付着部12と枠状部11、及び底板部13を貫通して形成される(図2)。本実施形態では、各長穴16は何れもその全周を付着面14で囲まれた形態をなしている。また、各長穴16は、その長手方向端部を半円状とした形状をなしている。
次に、上述の吸着保持用治具10を備えた吸着保持装置20の構成を図3に基づいて説明する。この吸着保持装置20は、上記構成の吸着保持用治具10と、吸着保持用治具10が設置される吸着保持装置本体21とで構成される。ここで、吸着保持装置本体21は、吸着保持用治具10が載置される基体部22と、接続部23を介して基体部22に接続される変圧装置24とを備える。
また、基体部22の内側には凹部22aが設けられている。この凹部22aの内部空間は、基体部22の上に吸着保持用治具10を載置し、かつ吸着保持用治具10の付着面14の上にガラス基板1を載置した状態では、変圧装置24により変圧可能な変圧空間25として機能する(後述する図4(a)を参照)。この際、変圧空間25は、吸着保持用治具10に設けた長穴16と連通しており、かつ長穴16はガラス基板1によって塞がれているため、変圧装置24により変圧空間25内を変圧することで、この変圧空間25と連通する長穴16の内部空間、すなわち長穴16の内側面とガラス基板1の裏面2とで囲まれる空間も変圧空間25と同じように変圧される。
ここで、変圧装置24は、少なくとも変圧空間25を減圧可能とするもので、例えば真空減圧ポンプなど公知の減圧機構を採用することができる。また、本実施形態では、変圧装置24は、減圧及び加圧を切替え可能とするもので、後述するようにガラス基板1の吸着保持時には減圧装置として作動し、ガラス基板1の吸着解除(剥離)時には加圧装置として作動するようになっている。
次に、上記構成の吸着保持装置20を用いたガラス基板1の吸着保持態様の一例を主に図4〜図6に基づき説明する。
まず、図3に示すように、吸着保持装置本体21の上に吸着保持用治具10を設置する。この際、変圧装置24による変圧(減圧あるいは後述する加圧)が可能な程度に、吸着保持用治具10の底板部13を基体部22の鍔部22bに図示しないねじ止め又はクランプ等の脱着可能な手段で固定しておく。然る後、図4(a)に示すように、吸着保持対象としてのガラス基板1を吸着保持用治具10の付着面14の上に載置する。この際、ガラス基板1の外縁が全て付着面14上にあるよう、その載置位置を設定する。本実施形態では、ガラス基板1の端部1aと、付着面14の外端部(ここでは四辺をなす長辺縁14a1,14a2、及び短辺縁14b1,14b2)とが全周で一致するよう、ガラス基板1を載置する。
ここで、図4(b)に示すように、長穴16の幅方向寸法W3は、ガラス基板1に対する十分な吸着力を確保する観点と、ガラス基板1の裏面2の有効面積をできる限り大きくとる観点とを双方勘案して、例えば0.2mm以上でかつ10.0mm以下の範囲に設定され、好ましくは1.0mm以上でかつ5.0mm以下の範囲に設定される。
また、長穴16の幅方向外側でガラス基板1の裏面2と付着可能な付着面14の幅方向寸法W41は、大きいほどガラス基板1に対する付着力の増加につながる。その一方で、長穴16を介して減圧することで生じる吸着力がガラス基板1に及ぶ範囲(長穴16の端部からの距離)にはある程度限界がある。以上の点を勘案して付着面14の幅方向寸法W41を設定するのがよく、例えば上限値を5.0mm以下、好ましくは3.0mm以下に設定するのがよい。また、下限値を1.0mm以上、好ましくは2.0mm以上に設定するのがよい。長穴16の幅方向寸法W3との大小関係でいえば、この長穴16の幅方向寸法W3よりも小さくなるよう、付着面14の幅方向寸法W41を設定するのがよい。長穴16の幅方向内側でガラス基板1の裏面2と付着可能な付着面14の幅方向寸法W42、及び長手方向で隣り合う長穴16,16間の付着面14の長手方向寸法W43についても、同レベルの範囲に設定するのがよい。
以上のようにガラス基板1を付着面14の上に載置した状態で、変圧装置24を作動させ、基体部22の内側に形成される変圧空間25を減圧する。これにより、変圧空間25と連通する長穴16の内部空間、すなわち長穴16の内側面とガラス基板1の裏面2とに囲まれた空間が同様に減圧され、ガラス基板1の裏面2のうち長穴16を塞ぐ部位及びその周辺領域が所定の吸着力で吸着される。また、この吸着作用により、ガラス基板1の裏面2の周縁部2aが付着面14に押付けられて付着する。
このようにしてガラス基板1が付着面14に吸着及び付着することで吸着保持用治具10に保持された後、当該ガラス基板1を次工程となる成膜処理工程に搬送する。この際、ガラス基板1は吸着保持装置20と一体的に搬送してもよい。また、後述するスパッタリングなど減圧を必要とする成膜処理を施す場合には、吸着保持装置20ごと成膜装置のチャンバー内に入れることができないため、図5に示すように、ガラス基板1を吸着保持用治具10とのみ一体的に搬送することが好ましい。ガラス基板1の裏面2は付着面14に付着した状態にあるため、吸着保持装置20の変圧空間25の圧力を常圧に戻し、吸着保持用治具10を吸着保持装置本体21から取り外した状態にあっても、ガラス基板1は付着力で吸着保持用治具10と一体化された状態を維持し得る。よって、ガラス基板1を直接触れることなく容易に次工程に搬送し得る。
次工程では、ガラス基板1の表面に例えばスパッタリングにより所定の成膜処理を施す。この後、吸着保持用治具10からガラス基板1を離脱する。本実施形態では、例えば図6に示すように、一方の表面3に薄膜4を成形したガラス基板1を一体に有する吸着保持用治具10を再び吸着保持装置本体21の上に載置し、上述した手段で固定する。然る後、変圧装置24を作動させ、基体部22の内側に形成される変圧空間25に高圧エアを送り込むことで、変圧空間25を加圧する。これにより、変圧空間25と連通する長穴16の内部空間、すなわち長穴16の内側面とガラス基板1の裏面2とに囲まれた空間が同様に加圧され、この加圧力によりガラス基板1が吸着保持用治具10の付着面14から離間する向きに押圧される。この加圧力(押圧力)が付着面14との付着力を上回ることで、ガラス基板1が付着面14から引き剥がされ、離脱が可能となる。
このように、本発明では、吸着保持用治具10に、ガラス基板1の裏面2の周縁部2aのみを付着可能な付着面14を設けると共に、この付着面14に開口するように吸着用の長穴16を形成した。このように構成した治具10であれば、長穴16の周囲に対応したガラス基板1の裏面2の周縁部2aのみをその全周にわたって極力漏れなく吸着することが可能となる。よって、長穴16を介してガラス基板1を吸着した際にその裏面2の周縁部2aに吸着力不足が生じる領域を極力なくして、周縁部2aの浮き上がりを回避することができる。従って、成膜材料の裏面2への回り込みを防止して、成膜対象となる側の表面3のみに正確に成膜処理を施すことが可能となる。もちろん、この治具10によれば、ガラス基板1の表面3に一切接触することなく裏面2のみを吸着及び付着して保持することができるので、成膜対象側の表面3の全域にわたって薄膜4を形成することが可能となる。
特に、本実施形態では、長穴16の全周を囲うように付着面14を設けるようにしたので、減圧による吸着力が漏れなく長穴の周囲においてガラス基板1の裏面2に作用する、よって、長穴16に対応するガラス基板1の裏面2の周縁部2aをその全域にわたってより一層強固に付着面14に付着させることが可能となる。
また、本発明では、付着面14に開口して吸着用の長穴16を設けたので、長穴16の幅方向両側には常に付着面14が配設された状態となる。そのため、この吸着保持用治具10を用いてガラス基板1を吸着した場合には、ガラス基板1の裏面2が長穴16の幅方向両側で付着面14に付着支持された状態となるので、枠状部11の内側の空間、すなわち、ガラス基板1の平面中央側の領域を付着支持しなくとも、ガラス基板1を安定して保持することが可能となる。よって、ガラス基板1の裏面2の大部分が有効面となる種類のガラス基板1であっても、その表面品質に影響を及ぼすことなく安定して保持することが可能となる。
また、上記実施形態に係る吸着保持装置20によれば、ガラス基板1の平面中央側の領域を吸着することなく、その周縁部2aのみを吸着保持できる。そのため、例えばガラス基板1の平面中央側に穴などが設けられている場合でも、穴に関係のない箇所(周縁部2a)のみでガラス基板1を正規の位置にかつ端部の浮き上がりなく保持することができる。よって、汎用性にも優れている。
また、本発明では、吸着保持用治具10に設けた長穴16の周囲において吸着支持すべき面を付着面14としたので、長穴16を介してガラス基板1の周縁部2aを吸着保持した際、ガラス基板1の周縁部2aは長穴16の周囲に設けられた付着面14に押付けられ、新たに生じた付着力によって固定される。そのため、上述のようにスパッタリングで成膜処理を施す場合に、ガラス基板1を吸着保持用治具10と共に真空環境下においた場合であっても十分な保持力を維持することが可能となる。
また、本実施形態のように、吸着保持用治具10を吸着保持装置本体21に対して脱着自在に構成することで、ガラス基板1を吸着保持した後、ガラス基板1を吸着保持用治具10とのみ一体化させた状態で、成膜処理工程に搬送し、搬出することができる。よって、成膜処理の前後にわたるガラス基板1の取扱い性を向上させることが可能となる。また、ガラス基板1のサイズが変わっても、吸着保持用治具10を当該ガラス基板1の変更後のサイズに対応したものに変更するだけで、吸着保持装置本体21を使い回すことができる(汎用性をもたせることができるため)好適である。
以上、本発明の第一実施形態を説明したが、本発明に係る吸着保持用治具10とこの治具10を備えた吸着保持装置20、この治具10を用いた吸着保持方法、基板の処理方法、及び基板の成膜方法は、当然に本発明の範囲内において任意の形態を採ることができる。
例えば、上記実施形態(第一実施形態)では、枠状部11及び付着面14として、ガラス基板1の周縁部2aをその全周にわたって付着可能な構成としたが、もちろんこの構成には限られない。図7はその一例(本発明の第二実施形態)を示すもので、本実施形態に係る枠状部11及び付着面14は、完全に閉じた枠状(環状につながった形状)をなすものではなく、その一部を開いた枠状をなす。このように構成することで、例えば図示は省略するが、周縁部2aに穴などを有するガラス基板1であっても、本発明に係る吸着保持用治具10及び吸着保持方法を適用することができる。また、この際、枠状部11及び付着面14の開放部17は、例えば図示のように底板部13の上面13aに設けたブロック18により塞ぐのがよい。このようにすることで、図示は省略するが、ガラス基板1を付着面14上に載置した状態で、枠状部11の内側の空間15をブロック18により塞ぐことができ、開放部17を介した成膜材料の裏面2への回り込みを防止することができる。
また、長穴16の寸法(幅方向寸法、長手方向寸法)に関し、上記実施形態では、全ての長穴16が同一の寸法である場合を例示したが、もちろん、互いに寸法の異なる複数の長穴を付着面14に開口して形成することも可能である。図8はその一例(本発明の第三実施形態)を示すもので、同図に示す吸着保持用治具10は、図1に示す長手方向寸法の長穴16と、これら複数の長穴16を連結した形状をなし、長穴16よりも長手方向寸法の大きい第一連結長穴16aと、第二連結長穴16bとを備える。このように、長穴の形成態様を工夫することで、ガラス基板1をその種類に応じて好適に吸着保持することが可能となる。
また、長穴16の形状に関し、上記実施形態ではその幅方向寸法を一定にしたものを例示したが、もちろんこれ以外の構成を採ることも可能である。図9はその一例(本発明の第四実施形態)を示すもので、同図に示す長穴16,16aは、そのコーナー部において幅方向寸法を広げた(図示例では円孤状の膨出部16cを設けた)形状をなしている。これにより、他の部分に比べて長穴16,16a,16bからの距離が大きくなりやすい付着面14のコーナー部においても十分な吸着性をもたせることが可能となる。
また、長穴16の端部形状に関し、上記実施形態では、長穴16の長手方向端部が半円状をなすものを例示したが、もちろんこれ以外の端部形状をなす長穴16を付着面14に開口して形成しても構わない。図10はその一例(本発明の第五実施形態)を示すもので、同図に示す長穴16は、その長手方向端部16dを角状としている。
また、長穴16の数に関しても任意であり、1個又は複数個の長穴16を付着面14に開口して形成しても構わない。なお、長穴16を1個設ける場合、図示は省略するが、略矩形の枠状に形成された付着面14の全周にわたって当該長穴16を設けると共に、底板部13にはその一部が途切れた(要は長穴16の幅方向外側と内側とで底板部13が少なくとも一部でつながった)長穴16を貫通形成する構成が可能である。
また、上記実施形態では、吸着保持用治具10として、枠状部11と、付着部12(付着面14)と、底板部13とを一体的に有するものを例示したが、もちろん、これ以外の構成をとることも可能である。図11はその一例(本発明の第六実施形態)を示すもので、同図に示す吸着保持用治具10は、枠状部11と、付着部12と、底板部13とに加えて、スペーサ19をさらに有する。スペーサ19は第一実施形態に示す形態よりも幅方向外側に延長した付着面14に付着されており、付着面14上に載置したガラス基板1の外周を囲うような形状及び寸法をなしている。この構成によれば、ガラス基板1を確実に付着面14上の所定位置に載置することができるので、所期の吸着作用をガラス基板1の周縁部2aに及ぼして、ガラス基板1を確実に吸着保持することが可能となる。
また、底板部13は必ずしも枠状部11と一体的に設ける必要はなく、例えば吸着保持装置本体21の上部に取付けるようにしてもよく、あるいは枠状部11を直接、吸着保持装置本体21(の基体部22)に取付け可能であるならば、底板部13自体を省略することも可能である。
また、上記実施形態では、吸着保持用治具10が、枠状部11と、枠状部11に設けられた付着面14と、付着面14に開口して形成された長穴16とを有するものを例示したが、枠状部11は必須の構成要素ではない。付着面14が設けられる限りにおいて上記治具10のベースをなす部分(ベース部)の形状は枠状には限定されず、種々の形態を採ることが可能である。
また、上記実施形態では、ガラス基板1の裏面2の平面中央側の領域に、何らの部材も接触しない構成を例示したが、ガラス基板1のサイズ(厚み寸法、辺寸法など)によっては、自重によるたわみを抑える目的で、裏面2の平面中央側の領域を局所的に支持する構成を追加しても構わない。例えば図示は省略するが、底板部13から立設した支持部で裏面2の平面中央側の領域を局所的に支持することも可能である。ただし、ガラス基板1の平面中央側の領域は表面3と裏面2とに関わらず有効面として機能する場合が多いため、裏面2との接触面(支持部の端面)には付着面14を設けずにおくのが好ましい。
また、上記実施形態では、吸着保持用治具10と共に吸着保持装置20を構成する吸着保持装置本体21として、1個の変圧装置24と1個の変圧空間25を設けて、保持時と離脱時とで変圧空間25の減圧と加圧とを使い分ける場合を例示したが、もちろんこれ以外の脱着態様をとることも可能である。図12はその一例(本発明の第七実施形態)を示すもので、同図に示す吸着保持装置20は、変圧装置24とこれに対応する変圧空間25に加えて、加圧装置28とこれに対応する加圧空間29とをさらに備える。詳述すると、基体部22の凹部22aには、凹部22aの内部空間を減圧用と加圧用とに仕切るための仕切り壁26が設けられており、仕切り壁26で仕切られた内側の空間に接続部27を介して加圧装置28が接続されている。そのため、図11に示すように、基体部22の上に吸着保持用治具10を載置し、かつ吸着保持用治具10の付着面14の上にガラス基板1を載置した状態では、仕切り壁26で仕切られた凹部22aの内側の空間は、加圧装置28により加圧可能な加圧空間29として機能する。
また、底板部13には、枠状部11の内側の空間15と、仕切り壁26で仕切られた凹部22aの内側の空間とを連通するための連通穴30が設けられている。これにより、図12に示す状態で加圧装置28を作動させ、加圧空間29を加圧することで、この加圧空間29と連通する枠状部11の内側の空間15も加圧空間29と同じように加圧される。ここで、枠状部11の内側の空間15は、ガラス基板1の裏面2の周縁部2aを除く平面中央側の領域で塞がれているため、この空間15を加圧することにより、ガラス基板1の平面中央側の領域を押し上げる向きに押圧することができる。このように、枠状部11の内側の空間15であれば、長穴16に比べてガラス基板1の裏面2に接する面積(押圧する面積)を容易に大きく取ることができるので、それほど高出力の加圧装置28を用いずとも付着面14からの剥離に十分な大きさの加圧力をガラス基板1に付与することが可能となる。もちろん、本実施形態でいえば、加圧装置28に加えて、変圧装置24を加圧用に用いることで、ガラス基板1をその周縁部2a(長穴16に臨む領域)と、付着面14に付着していない平面中央側の領域(枠状部11の内側の空間15に臨む領域)とを双方押し上げることができるため、好適である。
もちろん、1個の変圧装置24と変圧空間25のみでガラス基板1の吸着及びその剥離を行う場合にあっては、例えば以下の如き弁構造を採ることも可能である。図13はその一例(本発明の第八実施形態)に係る吸着保持装置20を示している。この吸着保持装置20は、変圧空間25内に、変圧装置24の変圧作用に伴い閉弁動作と開弁動作とを切り替える弁装置31を有するもので、この弁装置31は、例えば球状をなす弁体32と、この弁体32と当接することで、弁装置31の内部空間33と変圧空間25とを遮断する座面34と、弁体32の上方(内部空間33外)への移動を規制する規制面35と、内部空間33と枠状部11の内側の空間15とを連通する連通口36とを有する。
上記構成の弁装置31を有する吸着保持装置20によれば、変圧装置24を作動させて、変圧空間25を減圧した際、変圧空間25とつながる弁装置31の内部空間33が減圧され、弁体32が吸引により座面34と当接する。これにより弁装置31の内部空間33が変圧空間25と遮断されるので、この内部空間33と連通する枠状部11の内側の空間15が減圧される事態を避けて、変圧空間25と連通する長穴16の内部空間、すなわち長穴16の内側面とガラス基板1の裏面2とに囲まれた空間のみを減圧することができる。一方で、変圧装置24を作動させて、変圧空間25を加圧した際には、この加圧が、座面34と当接した状態の弁体32を押し込む向きに作用する。よって、この押込み作用により弁体32が座面34から離れることで、変圧空間25とつながった内部空間33が加圧され、かつ内部空間33と連通する枠状部11の内側の空間15が加圧される。また、この際、変圧空間25と連通する長穴16の内部空間も同様に加圧されるので、ガラス基板1をその周縁部2a(長穴16に臨む領域)と、付着面14に付着していない平面中央側の領域(枠状部11の内側の空間15に臨む領域)とを双方押し上げることが可能となる。以上より、本実施形態に係る吸着保持装置20によれば、1個の変圧装置24のみでもって、ガラス基板1の裏面2の周縁部2aのみを吸着保持しつつも、裏面2を極力広範囲にわたって押し上げることが可能となる。
なお、以上の説明では、ガラス基板1を吸着保持対象とした場合を例示したが、もちろんこれ以外の板状体であって、その一方の表面に成膜処理を施すもの(基板)であれば、ガラス基板1に限らず本発明を適用することが可能である。
また、以上の説明では、ガラス基板1に成膜処理を施す場合を例示したが、もちろん成膜処理以外の処理を施す場合であっても、本発明に係る吸着保持用治具とこれを備えた吸着保持装置、吸着保持方法、基板の処理方法を適用することは可能である。