JP6624145B2 - 高強度・高靭性厚鋼板の製造方法 - Google Patents

高強度・高靭性厚鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は高強度・高靭性厚鋼板の製造方法に関し、特に、高強度、高シャルピー衝撃吸収エネルギー、及び優れたDWTT(Drop Weight Tear Test)性能を有するラインパイプ用鋼管用素材に好適な高強度・高靭性厚鋼板を安定的に得る製造方法に関する。
天然ガスや原油等の輸送用として使用されるラインパイプでは、高圧化による輸送効率の向上や薄肉化による現地溶接施工の効率の向上のため、高強度化の要望が非常に高まっている。特に、高圧ガスを輸送するラインパイプでは、通常の構造用鋼として要求される強度・靭性等の材料特性のみでなく、ガスラインパイプ特有の破壊抵抗に関する材料特性が必要とされる。
通常の構造用鋼における破壊靱性値は、脆性破壊に対する抵抗特性を示し、使用環境で脆性破壊が生じないように設計するための指標として用いられる。一方、高圧ガスラインパイプでは、大規模破壊の回避に対する脆性破壊の抑制だけでは十分ではなく、さらに不安定延性破壊と呼ばれる延性破壊の抑制も必要となる。
この不安定延性破壊は、高圧ガスラインパイプにおいて延性破壊が管軸方向に100m/s以上の速度で伝播する現象で、これによって数kmにもおよぶ大規模破壊が生じる可能性がある。そのため、過去の実管ガスバースト試験結果から求められた不安定延性破壊抑制のために必要なシャルピー衝撃吸収エネルギー値およびDWTT試験値(延性破面率が85%となる破面遷移温度)が規定され、高シャルピー衝撃吸収エネルギーや優れたDWTT特性が要求されてきた。
このような要求に対して、特許文献1では、圧延終了後の空冷過程におけるフェライト生成を抑制した成分系において、700℃以下の累積圧下量を30%以上とすることで、発達した集合組織を有するベイナイト主体の組織とするとともに、旧オーステナイト粒界に存在するフェライトの面積率を5%以下とすることで、靱性に優れた板厚25mm以上の鋼管素材の製造方法が提案されている。
特許文献2では、炭素当量(Ceq)を0.36〜0.60に制御した成分系において、未再結晶温度域では累積圧下率40%以上の圧延を行う一次圧延を実施し、その後、Ar3点以上の温度から再結晶温度以上に再加熱し、その後、Ar3点以下Ar3点-50℃以上の温度に冷却してから圧延を再開し、2相温度域で累積圧下率15%以上の二次圧延を実施し、さらにAr1変態点以上の温度から600℃以下に加速冷却することを特徴とする厚肉高強度・高靭性鋼管素材の製造方法が提案されている。
特許文献3では、C:0.03〜0.1%、Mn:1.0〜2.0%、Nb:0.01〜0.1%、P≦0.01%、S≦0.003%、O≦0.005%を含有する鋼片を、(Ar3点+80℃)〜950℃の温度範囲の中で累積圧下量が50%以上となるように圧延を実施し、引き続きAr3点〜(Ar3点-30℃)の温度範囲の中で累積圧下量が10〜30%となるように圧延し、その後空冷することで、圧延集合組織を発達させることなく、加工フェライトを利用することにより、高い吸収エネルギーを有する板厚15mm以下の薄手高強度鋼板の非水冷型製造方法が提案されている。
特開2010‐222681号公報 特開2009‐127071号公報 特開2003‐96517号公報
しかしながら、特許文献1では、シャルピー衝撃試験を板厚1/4位置から採取した試験片を用いて実施しているため、圧延後の冷却速度が遅い板厚中央部では、所望の組織が得られず、シャルピー衝撃吸収エネルギーが低下していることが懸念される。そのため、ラインパイプ用鋼管素材として不安定延性破壊の伝播停止性能が低位である可能性がある。また、実施例における冷却開始温度は鋼板表面温度で630〜660℃と低いため、フェライト生成に起因してシャルピー衝撃吸収エネルギーが低下していることも懸念される。さらに、圧延温度や冷却開始温度や冷却停止温度などの製造条件が鋼板内で変動することがあり、島状マルテンサイトやベイナイト等の組織構成が変化し、所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーを安定して得ることが困難な場合がある。
特許文献2では、1次圧延後の再加熱工程が必須であり、オンラインの加熱装置が必要なため、製造工程の増加による製造コストの上昇や圧延能率の低下が懸念される。さらに、シャルピー衝撃試験を板厚1/4位置から採取した試験片を用いて実施しているため、板厚中央部ではシャルピー衝撃吸収エネルギーが低下していることが懸念される。そのため、ラインパイプ用鋼管素材として不安定延性破壊の伝播停止性能が低位である可能性がある。また、圧延温度や冷却開始温度や冷却停止温度などの製造条件が鋼板内で変動することがあり、島状マルテンサイトやベイナイト等の組織構成が変化し、所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーを安定して得ることが困難な場合がある。
特許文献3に記載の技術は、(Ar3点+80℃)〜950℃の温度域で50%以上の累積圧下量で圧延した後、Ar3点〜(Ar3点-30℃)の温度域での圧延まで空冷が必要なため、圧延時間が長時間化し、圧延能率の低下が懸念される。また、DWTT試験に関する記載がなく、脆性破壊の伝播停止性能が劣位であることが懸念される。さらに、特許文献3ではセパレーションが発生しない範囲で、加工フェライトを利用することで高強度と高吸収エネルギーを達成しているが、Ar3点〜(Ar3点-30℃)の温度域まで空冷しているため、表層部と板厚中央部とでは空冷後のフェライト量に差が生じ、圧延後の加工フェライト量が板厚方向で異なることが懸念され、所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーを安定して得ることが困難な場合がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、625MPa以上の引張強度、及び-40℃において325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有し、かつ-40℃でのDWTT試験で得られた延性破面率が85%以上である高強度・高靭性厚鋼板を安定的に得る製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、625MPa以上の引張強度、及び-40℃において325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有し、DWTT特性に優れる高強度・高靱性厚鋼板の製造方法について検討した。その結果、C、Mn、Nb、Ti等の所定の成分を含有する鋼板において、オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下率や圧延温度を制御し、圧延後の冷却工程において、冷却開始温度、冷却停止温度および冷却速度を適正に制御することで、これらの特性を有する高強度・高靭性厚鋼板が得られることを知見した。
さらに、これらの特性を有する高強度・高靭性厚鋼板を安定的に製造するための製造条件を詳細に検討したところ、以下のことを知見した。実際の製造ラインにおける冷却停止温度は、狙いの冷却停止温度からある変動幅で変動してしまう。特にシャルピー衝撃吸収エネルギーは、この冷却停止温度の変動の影響を受けて、冷却停止温度の高温側と低温側で低下し、特に低温側で大きく低下することがわかった。これは、冷却停止温度には、所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを達成することができる温度域が存在することを示唆するものである。つまり、製造ラインにおいて冷却停止温度が変動しても、冷却停止温度が上記の温度域内にあれば所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーが得られるが、冷却停止温度が変動して上記の温度域を外れると所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーが得られない。従って、所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有する厚鋼板を安定的に得るには、製造ラインにおける冷却停止温度が上記の温度域を外れないように、冷却停止温度を高精度に制御して、その変動を抑制することが望ましい。しかしながら、実際の製造ラインで、このような高精度な制御を行うのは困難であり、製造コストの観点からも好ましくない。
そこで、本発明者らは、製造ラインにおける冷却停止温度が狙いの冷却停止温度からある変動幅で変動したとしても、その変動幅が所定の範囲内ならば所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを得ることができる製造条件について検討した。その結果、所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーの下限値と製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅とに基づいて冷却速度を適切に制御することで、冷却停止温度を高精度に制御しなくとも、所望の特性を有する高強度・高靱性厚鋼板を安定的に得ることができることを知見した。
本発明は、上記の知見によって完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.03%以上0.08%以下、Si:0.01%以上0.50%以下、Mn:1.5%以上2.5%以下、P:0.001%以上0.010%以下、S:0.0030%以下、Al:0.01%以上0.08%以下、Nb:0.010%以上0.080%以下、Ti:0.005%以上0.025%以下、及びN:0.001%以上0.006%以下を含有し、
さらに、Cu:0.01%以上1.00%以下、Ni:0.01%以上1.00%以下、Cr:0.01%以上1.00%以下、Mo:0.01%以上1.00%以下、V:0.01%以上0.10%以下、及びB:0.0005%以上0.0030%以下から選ばれる1種以上を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、
1000℃以上1250℃以下に加熱し、オーステナイト再結晶温度域において圧延後、オーステナイト未再結晶域において累積圧下率55%以上の圧延を行って厚鋼板とし、(Ar3点+50℃)以上(Ar3点+150℃)以下の温度で圧延を終了し、10℃/s以上80℃/s以下かつ下記(1)式を満足する冷却速度にて、Ar3点以上(Ar3点+100℃)以下の温度から200℃以上500℃以下の冷却停止温度まで前記厚鋼板を加速冷却し、その後室温まで空冷することを特徴とする高強度・高靭性厚鋼板の製造方法。

CR≧(0.0147×vE-4.1767)×ΔT-18.075・・・(1)
ただし、CRは冷却速度(℃/s)、vEは所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーの下限値(J)、ΔTは製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅(℃)である。
[2]前記成分組成が、さらに、質量%で、Ca:0.0005%以上0.0100%以下、REM:0.0005%以上0.0200%以下、Zr:0.0005%以上0.0300%以下、及びMg:0.0005%以上0.0100%以下から選ばれる1種以上を含有する、上記[1]に記載の高強度・高靭性厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、625MPa以上の引張強度、及び-40℃において325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有し、かつ-40℃でのDWTT試験で得られた延性破面率が85%以上である高強度・高靭性厚鋼板を安定的に得ることができる。
[成分組成]
まず、本発明において鋼スラブの成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は、質量%を意味するものとする。
C:0.03%以上0.08%以下
Cは、加速冷却後にベイナイト主体組織を形成し、変態強化による高強度化に有効に作用する。しかしながら、C含有量が0.08%を超えると、加速冷却後に硬質なマルテンサイトが生成しやすくなり、母材のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が低下する場合がある。一方、C含有量が0.03%未満では、冷却中にフェライト変態やパーライト変態が生じやすくなるため、所定量のベイナイトが得られず、625MPa以上の引張強度が得られない場合がある。従って、C含有量は0.03%以上0.08%以下とし、好ましくは0.03%以上0.07%以下とする。
Si:0.01%以上0.50%以下
Siは、脱酸に必要な元素であり、さらに固溶強化により母材の強度を向上させる効果を有する。このような効果を得るためにはSi含有量を0.01%以上とする必要がある。一方、Si含有量が0.50%を超えると、溶接性および母材のシャルピー衝撃吸収エネルギーが低下する。従って、Si含有量は0.01%以上0.50%以下とする。なお、鋼管の溶接部の軟化を防止する観点や熱影響部の靭性劣化を防止する観点から、Si含有量は0.01%以上0.20%以下とすることが好ましい。
Mn:1.5%以上2.5%以下
Mnは、Cと同様に加速冷却後にベイナイト主体組織を形成し、変態強化による高強度化に有効に作用する。しかしながら、Mn含有量が1.5%未満では、冷却中にフェライト変態やパーライト変態が生じやすくなるため、所定量のベイナイトが得られず、625MPa以上の引張強度が得られない場合がある。一方、Mn含有量が2.5%を超えると、鋳造時に不可避的に形成される偏析部にMnが濃化し、シャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT性能を劣化させる原因となる。従って、Mn含有量は1.5%以上2.5%以下とする。なお、靭性向上の観点から、Mn含有量は1.5%以上2.0%以下とすることが好ましい。
P:0.001%以上0.010%以下
Pは固溶強化により鋼板の高強度化に有効な元素である。しかしながら、P含有量が0.001%未満では、その効果が現れないだけでなく、製鋼工程において脱燐コストの上昇を招く場合がある。一方、P含有量が0.010%を超えると、靭性や溶接性が顕著に劣化する。従って、P含有量は0.001%以上0.010%以下とする。
S:0.0030%以下
Sは、熱間脆性を起こす原因となるほか、鋼中に硫化物系介在物として存在して、靭性や延性を低下させる有害な元素である。従って、S含有量を極力低減させるのが好ましく、S含有量は0.0030%以下とし、好ましくは0.0015%以下とする。S含有量の下限は特にないが、製鋼コストの観点から0.0001%以上とすることが好ましい。
Al:0.01%以上0.08%以下
Alは脱酸材として含有させる元素である。また、Alは固溶強化能を有するため、鋼板の高強度化に有効に作用する。しかしながら、Al含有量が0.01%未満では上記効果が得られない。一方、Al含有量が0.08%を超えると、原料コストの上昇を招くとともに、靭性の低下を招く場合がある。従って、Al含有量は0.01%以上0.08%以下とし、好ましくは0.01%以上0.05%以下とする。
Nb:0.010%以上0.080%以下
Nbは、析出強化や焼入れ性増大効果による鋼板の高強度化に有効である。また、Nbは、熱間圧延時のオーステナイトの未再結晶温度域を拡大する効果があり、未再結晶オーステナイト域での圧延の微細化効果による靭性の向上に有効である。これらの効果を得るために、Nb含有量は0.010%以上とする。一方、Nb含有量が0.080%を超えると、加速冷却後に硬質なマルテンサイトが生成しやすくなり、母材のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が低下する場合があったり、溶接熱影響部(HAZ部)の靭性を著しく劣化させる。従って、Nb含有量は0.010%以上0.080%以下とし、好ましくは0.010%以上0.040%以下とする。
Ti:0.005%以上0.025%以下
Tiは、鋼中で窒化物を形成し、窒化物のピンニング効果でオーステナイト粒を微細化する効果があり、母材やHAZ部の靭性を確保するのに寄与する。また、Tiは析出強化による鋼板の高強度化に有効な元素である。これらの効果を得るために、Ti含有量は0.005%以上とする。一方、Ti含有量が0.025%を超えると、TiNが粗大化し、オーステナイト粒の微細化に寄与しなくなり、靭性向上の効果が得られなくなるばかりでなく、粗大なTiNは延性亀裂や脆性亀裂の発生起点となるため、シャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が著しく低下する。従って、Ti含有量は0.005%以上0.025%以下とし、好ましくは0.008%以上0.018%以下とする。
N:0.001%以上0.006%以下
Nは、Tiと窒化物を形成し、窒化物のピンニング効果によりオーステナイトの粗大化を抑制し、靭性の向上に寄与する。このような効果を得るために、N含有量は0.001%以上とする。一方、N含有量が0.006%を超えると、溶接部、特に溶融線近傍で1450℃以上に加熱されたHAZ部でTiNが分解した場合、固溶Nに起因したHAZ部の靭性が顕著に低下する場合がある。従って、N含有量は0.001%以上0.006%以下とする。なお、HAZ部の靭性をより高める観点から、N含有量は0.001%以上0.004%以下とすることが好ましい。
本発明では上記の必須添加元素のほかに,さらにCu、Ni、Cr、Mo、V、及びBから選ばれる1種以上を選択元素として添加する。
Cu:0.01%以上1.00%以下、Ni:0.01%以上1.00%以下、Cr:0.01%以上1.00%以下、Mo:0.01%以上1.00%以下、V:0.01%以上0.10%以下、及びB:0.0005%以上0.0030%以下から選ばれる1種以上
Cu:0.01%以上1.00%以下、Cr:0.01%以上1.00%以下、Mo:0.01%以上1.00%以下
Cu、Cr、Moはいずれも焼入れ性向上元素であり、Mnの代替のために使用することで、Mnと同様に低温変態組織を得て、母材やHAZ部の高強度化に寄与する。この効果を得るためには、Cu、Cr、Mo含有量はそれぞれ0.01%以上とする。一方、Cu、Cr、Mo含有量がそれぞれ1.00%を超えると高強度化の効果は飽和する。従って、Cu、Cr、Moを添加する場合、それぞれ含有量を0.01%以上1.00%以下とする。
Ni:0.01%以上1.00%以下
Niも焼入れ性元素であり、添加しても靭性の劣化を生じないため、有用な元素である。この効果を得るためには、Ni含有量は0.01%以上とする。一方、Niは非常に高価であり、またNi含有量が1.00%を超えるとその効果が飽和する。従って、Niを添加する場合、その含有量は0.01%以上1.00%以下とする。
V:0.01%以上0.10%以下
Vは析出強化による鋼板の高強度化に有効な元素であり。この効果を得るためには、V含有量は0.01%以上とする。一方、V含有量が0.10%を超えると、炭化物量が過剰となり、靭性の低下を招く場合がある。従って、Vを添加する場合、その含有量は0.01%以上0.10%以下とする。
B:0.0005%以上0.0030%以下
Bは、オーステナイト粒界に偏析し、フェライト変態を抑制することで、特にHAZ部の強度低下の防止に寄与する。この効果を得るためには、B含有量は0.0005%以上とする。一方、B含有量が0.0030%を超えるとその効果は飽和する。従って、Bを添加する場合、その含有量は0.0005%以上0.0030%以下とする。
上記成分組成以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなるが、必要に応じて、Ca:0.0005%以上0.0100%以下、REM(希土類元素):0.0005%以上0.0200%以下、Zr:0.0005%以上0.0300%以下、Mg:0.0005%以上0.0100%以下から選ばれる1種以上を含有させることができる。
Ca、REM、Zr、Mgは、いずれも鋼中のSを固定して鋼板の靭性を向上させる効果があり、いずれも含有量を0.0005%以上とすることでその効果が発揮する。一方、Ca含有量が0.0100%、REM含有量が0.0200%、Zr含有量が0.0300%、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼中の介在物が増加し、靭性を劣化させる場合がある。従って、これらの元素を添加する場合、Ca含有量を0.0005%以上0.0100%以下、REM含有量を0.0005%以上0.0200%以下、Zr含有量を0.0005%以上0.0300%以下、Mg含有量を0.0005%以上0.0100%以下とする。
[鋼板のミクロ組織]
次に、本発明の一実施形態である高強度・高靱性鋼板のミクロ組織について説明する。
ミクロ組織は、板厚方向の1/2位置において、面積率が3%未満の島状マルテンサイトを含むベイナイトを主体とする組織、または、面積率が3%以上5%以下かつ平均粒径が0.8μm以下の島状マルテンサイトを含むベイナイトを主体とする組織とすることが好ましい。このようなミクロ組織とすることで、母材の引張強度が625MPa以上であり、-40℃でのシャルピー衝撃吸収エネルギーが325J以上であり、かつ-40℃でのDWTT試験で得られる延性破面率が85%以上の特性を得ることができるからである。ここで、ベイナイトを主体とする組織とは、ベイナイトの面積率が90%以上である実質的なベイナイト組織を意味する。残部組織としては、面積率が5%以下の島状マルテンサイトが許容されるほか、フェライト、パーライト、マルテンサイトなどのベイナイト以外の相が含まれていてもよく、これらの残部組織の合計面積率が10%以下であれば、本発明の効果を得ることができる。
板厚1/2位置における島状マルテンサイトの面積率:3%未満、または3%以上5%以下かつ平均粒径が0.8μm以下
島状マルテンサイトは、硬度が高く、延性亀裂や脆性亀裂の発生起点となり、シャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性を低下させる場合がある。しかしながら、板厚1/2位置における島状マルテンサイトの面積率が3%未満であれば、シャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性の低下は小さい。また、板厚1/2位置における島状マルテンサイトの面積率が3%以上であっても、その面積率が5%以下かつ平均粒径が0.8μm以下であれば、島状マルテンサイトは延性亀裂や脆性亀裂の発生の起点となりにくい。従って、本発明では板厚1/2位置における島状マルテンサイトの面積率を3%未満、または3%以上5%以下かつ平均粒径を0.8μm以下とする。好ましくは島状マルテンサイトの平均粒子径を0.5μm以下とする。
板厚1/2位置におけるベイナイトの面積率:90%以上
ベイナイト相は硬質相であり、変態組織強化によって鋼板の強度を増加させるのに有効である。そのため、鋼板のミクロ組織をベイナイト主体の組織とすることで、シャルピー吸収エネルギーやDWTT特性を高位で安定化しつつ、高強度化が可能となる。一方、ベイナイトの面積率が90%未満では、フェライト、パーライト、マルテンサイトおよび島状マルテンサイト等の残部組織の合計面積率が10%以上となる。このように、ミクロ組織が複合組織となると、異相界面が延性亀裂や脆性亀裂の発生の起点となるため、所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が得られない場合がある。従って、板厚1/2位置におけるベイナイトの面積率は90%以上とし、好ましくは95%以上とする。ここで、ベイナイトとは、ラス状のベイニティックフェライトであって、その内部にセメンタイト粒子が析出した組織をいう。
ベイナイト中に存在するセメンタイトの平均粒径:0.8μm以下
ベイナイト中のセメンタイトは、延性亀裂や脆性亀裂の起点となる場合があるので、好ましくはセメンタイトの平均粒径を0.8μm以下とする。ベイナイト中のセメンタイトの平均粒径が0.8μm以下であれば、シャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性の低下を抑制することができる。なお、より好ましくは、ベイナイト中のセメンタイトの平均粒径を0.5μm以下とする。
ここで、本実施形態における面積率および平均粒径の決定は次のようにして行う。まず、板厚1/2位置において、L断面(圧延方向に平行な垂直断面)を鏡面研磨した後に、ナイタールで腐食する。その後、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、2000倍の倍率にて無作為に5視野観察し、撮影したミクロ組織の写真により組織の種類を同定し、ベイナイト、マルテンサイト、フェライト、パーライト等の各相の面積率を画像解析によって求める。さらに、同じ試料に電解エッチング法(電解液:100ml蒸留水+25g水酸化ナトリウム+5gピクリン酸)を施して、島状マルテンサイトを現出させる。その後、SEMを用いて2000倍の倍率にて無作為に5視野観察し、撮影したミクロ組織の写真から島状マルテンサイトの面積率と円相当径とを画像解析によって求める。島状マルテンサイトの平均粒径とは、この円相当径の5視野にわたる平均値である。さらに、同じ試料に再び鏡面研磨を施した後に、選択的低電位電解エッチング法(電解液:10%アセチルアセトン+1%テトラメチルアンモニウムクロイドメチルアルコール)を施して、セメンタイトを抽出させる。その後、SEMを用いて2000倍の倍率にて無作為に5視野観察し、撮影したミクロ組織の写真からセメンタイト粒子の円相当径を画像解析によって求める。セメンタイトの平均粒径とは、この円相当径の5視野にわたる平均値である。なお、一般に加速冷却を行って製造された鋼板のミクロ組織は、鋼板の板厚方向で異なる。本実施形態では、所望の強度やシャルピー衝撃吸収エネルギーを安定して満足する観点から、冷却速度が遅くこれらの特性を達成しにくい板厚1/2位置における組織を規定した。
[製造方法]
次に、本発明の一実施形態である高強度・高靱性厚鋼板の製造方法について説明する。
上記成分組成範囲に調整した溶鋼を、転炉、電気炉等の通常の溶製手段で溶製し、連続鋳造法または造塊法等の通常の鋳造法で鋼スラブを製造する。なお、成分のマクロ偏析を防止する観点から、連続鋳造法を用いることが好ましい。また、鋼スラブの製造後、鋼スラブを一旦室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加えて、鋼スラブを冷却せず温片のままで加熱炉に装入して、熱間圧延する直送圧延、鋼スラブをわずかに保熱した後に直ちに熱間圧延する直送圧延・直接圧延、あるいは鋼スラブを高温状態のまま加熱炉に装入して再加熱の一部を省略する方法(温片装入)などの省エネルギープロセスを適用することもできる。
スラブ加熱温度:1000℃以上1250℃以下
スラブ加熱温度が1000℃未満では、出鋼スラブ中のNbやV等の炭化物が十分に固溶せず、析出強化による強度上昇効果が得られない場合がある。一方、加熱温度が1250℃を超えると、初期のオーステナイト粒径が粗大化するため、DWTT特性が低下する場合がある。従って、スラブ加熱温度は1000℃以上1250℃以下とし、より好ましくは1000℃以上1150℃以下とする。
オーステナイト再結晶温度域での圧延
スラブ加熱保持後、オーステナイト再結晶温度域での圧延を行うことで、オーステナイトが再結晶により細粒化し、DWTT特性の向上に寄与する。オーステナイト再結晶温度域での累積圧下率は50%以上とすることが好ましい。なお、本発明の鋼の成分範囲においては、オーステナイト再結晶の下限温度はおよそ950℃である。
オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下率:55%以上
オーステナイト再結晶温度域での圧延後、オーステナイト未再結晶温度域において累積圧下率55%以上の圧延を行う。これにより、オーステナイト粒が伸展し、特に板厚方向では細粒となり、DWTT特性が良好となる。オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下率を55%以上とすることで、加速冷却後の変態組織の微細化に起因した島状マルテンサイトの微細化により、シャルピー衝撃吸収エネルギーが向上する。一方、累積圧下率が55%未満では、細粒化効果が不十分となり所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が得られない場合がある。靭性をより向上させたい場合は、オーステナイト未再結晶温度域での累積圧下率を60%以上とすることが好ましく、65%以上とすることがより好ましい。
圧延終了温度:(Ar3点+50℃)以上(Ar3点+150℃)以下
オーステナイトの未再結晶温度域での累積大圧下はシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性の向上に有効であり、より低温域で圧下することでその効果はさらに増大する。しかしながら、(Ar3点+50℃)未満の低温域で圧延すると、オーステナイト粒に集合組織が発達し、その後加速冷却してベイナイト主体組織とした場合、集合組織が変態組織にも一部受け継がれ、この結果、セパレーションが発生しやすくなり、シャルピー衝撃吸収エネルギーが著しく低下する。一方、(Ar3点+150℃)を超える温域で圧延すると、DWTT特性の向上に有効な微細化効果が十分に得られない場合がある。従って、圧延終了温度は(Ar3点+50℃)以上(Ar3点+150℃)以下とする。
ここで、本明細書におけるAr3点は、各鋼素材中の各元素の含有量に基づく以下の式を用いて計算して得られる値を用いるものとする。
Ar3点=910-310[%C]-80[%Mn]-20[%Cu]-15[%Cr]-55[%Ni]-80[%Mo]
ただし、[%X]はX元素の鋼中含有量(質量%)を示す。
加速冷却の冷却開始温度:Ar3点以上(Ar3点+100℃)以下
加速冷却の冷却開始温度がAr3点未満では、熱間圧延後、加速冷却開始までの空冷過程において、オーステナイト粒界から初析フェライトが生成し、母材の強度が低下する場合がある。また、初析フェライトの生成量が増加すると、延性亀裂や脆性亀裂の発生の起点となるフェライトとベイナイトとの界面が増加するため、シャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が低下する場合がある。一方、加速冷却の冷却開始温度が(Ar3点+100℃)を超えると、加速冷却開始までの空冷過程において、オーステナイトの回復や粒成長が進行する場合があり、母材の靭性が低下する場合がある。従って、加速冷却の冷却開始温度はAr3点以上(Ar3点+100℃)以下とする。
加速冷却の冷却速度:10℃/s以上80℃/s以下、かつ下記(1)式を満足する冷却速度
加速冷却の冷却速度が10℃/s未満では、冷却中にフェライト変態が生じ、母材の強度が低下する場合がある。また、フェライトの生成量が増加すると、延性亀裂や脆性亀裂の発生の起点となるフェライトとベイナイトとの界面が増加するため、シャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が低下する場合がある。一方、加速冷却の冷却速度が80℃/sを超えると、ベイナイト変態が起こらずにマルテンサイト変態が生じ、母材の強度は上昇するものの、母材のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が著しく低下する場合がある。従って、加速冷却の冷却速度は10℃/s以上80℃/s以下とする。
本発明では、加速冷却の冷却速度が10℃/s以上80℃/s以下の範囲を満足するだけでは不十分であり、加速冷却の冷却速度が次の(1)式を満足することが重要である。
CR≧(0.0147×vE-4.1767)×ΔT-18.075・・・(1)
ここで、CRは冷却速度(℃/s)、vEは所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーの下限値(J)、ΔTは製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅(℃)である。
上述したように、本発明者らが検討したところ、冷却停止温度には所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを達成することができる温度域が存在し、製造ラインで冷却停止温度が変動して、冷却停止温度がその温度域を外れると所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーが得られないことがわかった。従って、所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有する厚鋼板を安定的に得るには、冷却停止温度の変動を抑制するように高精度な制御を行うことが望ましいが、このような制御を実際の製造ラインで行うのは困難である。従って、冷却停止温度が変動したとしても、その変動幅が製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅ΔTに収まるならば、所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを得ることができる製造条件を見出すことが重要である。さらに、所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有する厚鋼板を安定的に製造するには、許容する冷却停止温度の変動幅ΔTを拡大することにより冷却停止温度に関する制御の自由度を高めることが望ましい。
本発明者らは、このような製造条件を見出すべく、冷却速度に着目して厚鋼板を作製したところ、以下のことがわかった。すなわち、冷却停止温度が許容の範囲内で変動する製造ラインにおいて、冷却速度がある値以上ならば所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーが安定的に得られ、冷却速度がある値未満ならば、冷却停止温度の変動幅によってはシャルピー衝撃吸収エネルギーが所望値に達しない場合があることがわかった。そして、本発明者らがさらなる検討を進めたところ、冷却速度CRの下限値と所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーの下限値vEと製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅ΔTとの間には上記(1)式の関係が存在することを知見した。そして、上記(1)式を満足するように冷却速度CRを制御すれば、冷却停止温度の変動がΔTの幅で許容される製造ラインにおいて、所望値vE以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有する厚鋼板を安定的に得ることができることを知見した。
ここで、所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有する厚鋼板を安定的に製造するにはΔTを拡大する必要があり、具体的にはΔTを50℃以上とする必要がある。冷却停止温度に関する制御の自由度をより高める観点から、ΔTを70℃以上とすることが好ましく、ΔTを90℃以上とすることがより好ましい。また、高速延性破壊を防止する観点から、シャルピー衝撃吸収エネルギーの所望の下限値vEを325Jとする。表1に、vE=325Jの場合において、ΔT=50℃、70℃、90℃とした場合の冷却速度CRの下限値を示す。表1に示すように、製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅ΔTを拡大することにより冷却停止温度に関する制御の自由度を高めたいのであれば、冷却速度CRを上げればよいことがわかる。また、より高いシャルピー衝撃吸収エネルギーを得たいのであれば、冷却速度CRを上げればよいことがわかる。
Figure 0006624145
なお、本明細書における冷却速度とは、冷却開始温度の実績値と冷却停止温度の実績値との差の絶対値を冷却時間で除した平均冷却速度を指す。
加速冷却の冷却停止温度:200℃以上500℃以下
加速冷却の冷却停止温度が200℃未満では、マルテンサイト変態が生じ、母材のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が著しく低下する場合があり、特に鋼板表層近傍でその傾向は顕著となる。一方、冷却停止温度が500℃を超えると、冷却停止後の空冷過程で粗大なセメンタイトやベイナイト変態に伴う島状マルテンサイトが生成し、シャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が低下する場合がある。従って、加速冷却の冷却停止温度は、200℃以上500℃以下とし、好ましくは300℃以上450℃以下とする。
加速冷却後の保持:冷却停止温度±50℃の温度範囲で50s以上300s未満
加速冷却後に保持する際の条件を好適に制御することによって、ベイナイト中に存在するセメンタイトの平均粒径を制御し、高いシャルピー衝撃吸収エネルギーや優れたDWTT性能を得ることができる。加速冷却後の保持温度が冷却停止温度-50℃未満では、冷却によって変態生成したベイナイト中に過飽和に固溶している炭素がセメンタイトとして十分に析出できず、母材のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が低下する場合がある。一方、保持温度が冷却停止温度+50℃を超えると、ベイナイト中のセメンタイトが凝集・粗大化し、母材のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が著しく劣化する場合がある。従って、加速冷却後の保持温度は冷却停止温度±50℃とすることが好ましい。
また、加速冷却後の保持時間が50s未満では、冷却によって変態生成したベイナイト中に過飽和に固溶している炭素が微細なセメンタイトとして十分に析出できず、母材の靭性が低下する場合がある。一方、保持時間が300s以上では、ベイナイト中のセメンタイトが凝集・粗大化し、母材のシャルピー衝撃吸収エネルギーやDWTT特性が著しく劣化する場合がある。従って、加速冷却後の保持時間は50s以上300s未満とすることが好ましい。
なお、本発明の製造条件における温度は、特に断らない限り鋼板平均温度とする。本明細書における「鋼板平均温度」は、鋼板の板厚、放射温度計にて測定された鋼板の表面温度、及び加熱・冷却条件をもとに差分法により算出された板厚断面内の温度分布における板厚方向の温度の平均値とする。
(実施例1)
表2に示す成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを溶製・鋳造した後に、表3に示す熱間圧延、加速冷却、加速冷却後の保持を行い、板厚25mmの鋼板を作製した。また、所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを達成することができる冷却停止温度の温度域の幅ΔT*(℃)を調査するために、冷却停止温度以外の製造条件については表2,3に示す条件とし、冷却停止温度を200℃〜500℃の範囲で変化させて、板厚25mmの鋼板を複数作製した。なお、表3に示す冷却停止温度は、ΔT*の幅を有する温度域の中央値を狙いの冷却停止温度に設定した場合における冷却停止温度の実績値である。
Figure 0006624145
Figure 0006624145
(評価方法)
得られた鋼板のうち表3に示す製造条件で作製した鋼板に対して、以下の(1)〜(3)の方法に従い、ミクロ組織、引張特性、および靱性の評価を行った。また、得られた鋼板のうち、冷却停止温度を200℃〜500℃の範囲で変化させた鋼板に対しては、以下の(4)の方法に従い、製造安定性の評価を行った。
(1)ミクロ組織の評価方法
板厚1/2位置から組織観察用の試験片を採取し、既述の方法にて組織の同定、ベイナイトの面積率、セメンタイトの平均粒径、島状マルテンサイトの面積率および平均粒径を求めた。評価結果を表4に示す。
(2)引張特性の評価方法
API-5Lに準拠した引張方向がC方向となる全厚試験片を採取し、引張試験を実施し、降伏強度(YP)および引張強度(TS)を求めた。評価結果を表4に示す。引張強度が625MPa以上であれば、天然ガスや原油等の輸送用として使用されるラインパイプに対する高強度化の要求に応えることができる。
(3)靱性の評価方法
また、板厚1/2位置からJIS Z 2202に準拠した2mmのVノッチを有する長手方向がC方向となるシャルピー試験片を採取して、-40℃にてJIS Z 2242に準拠したシャルピー衝撃試験を実施し、シャルピー衝撃吸収エネルギー(vE-40℃)を求めた。なお、vE-40℃が325J以上であれば、高圧ガスラインパイプにおける高速延性破壊を防止することができる。
さらに、API-5Lに準拠した長手方向がC方向となるプレスノッチ型全厚DWTT試験片を採取し、-40℃で落重による衝撃曲げ荷重を加え、破断した破面の延性破面率(SA-40℃)を求めた。評価結果を表4に示す。なお、SA-40℃が85%以上であれば、天然ガス等の輸送用として使用されるラインパイプにおける脆性亀裂伝播を防止することができる。
(4)製造安定性の評価方法
冷却停止温度を200℃〜500℃に変化させて作製した全ての鋼板について、それぞれ板厚1/2位置からJIS Z 2202に準拠した2mmのVノッチを有する長手方向がC方向となるシャルピー試験片を採取して、-40℃にてJIS Z 2242に準拠したシャルピー衝撃試験を実施した。そして、シャルピー衝撃吸収エネルギーが325J以上となる冷却停止温度の温度域の幅ΔT*(vE-40℃≧325J)を求めた。評価結果を表4に示す。
Figure 0006624145
(評価結果の説明)
表3では、冷却速度CRが(1)式を満足する場合を○とし、冷却速度CRが(1)式を満足しない場合を×として示す。本発明の成分組成を満たし、かつ表3に示す製造条件に従って作製した鋼板については、表4に示すように所望のミクロ組織、引張特性、及び靱性を有していた。さらに、表3に示すように、例えば鋼No.2では、最低限必要なシャルピー衝撃吸収エネルギーをvE=325Jとした場合には、製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅ΔTが50℃,70℃,90℃のいずれの場合も、冷却速度CR=40℃/sは(1)式を満足していた。そのため、表4に示すように、325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを達成することができる温度域の幅ΔT*(vE-40℃≧325J)は95℃となっており、ΔT=50℃,70℃,90℃のいずれの場合もΔT≦ΔT*を満足していた。この結果から、ΔTを例えば90℃まで拡大しても、325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有する厚鋼板を安定的に得ることができることがわかった。同様に、本発明の成分組成を満たす鋼No.3〜10についても、(1)式を満足するように冷却速度を制御すれば、冷却停止温度の変動がΔTの幅で許容される製造ラインにおいて、所望の特性を有する厚鋼板を安定的に得ることができることがわかった。なお、No.11〜13,16,17は成分組成が本発明の範囲から外れていたため、(1)式に対する評価が○であってもvE-40℃が325J未満となっていた(表4ではΔT*(vE-40℃≧325J)=0として示す)。また、No.1,14,15,18も成分組成が本発明の範囲から外れていたため、(1)式に対する評価が○であっても、所望の引張強度(TS)や延性破面率(SA-40℃)が得られなかった。
(実施例2)
表2に示す鋼No.C,EおよびHの成分を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼スラブを溶製・鋳造した後に、表5に示す熱間圧延、加速冷却、加速冷却後の保持を行い、板厚25mmの鋼板を作製した。また、所望値以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを達成することができる冷却停止温度の温度域の幅ΔT*(℃)を調査するために、冷却停止温度以外の製造条件については表2,5に示す条件とし、冷却停止温度を200℃〜500℃の範囲で変化させて、板厚25mmの鋼板を複数作製した。なお、表5に示す冷却停止温度は、ΔT*の幅を有する温度域の中央値を狙いの冷却停止温度に設定した場合における冷却停止温度の実績値である。
Figure 0006624145
以上により得られた鋼板に対して、実施例1と同様にして、ミクロ組織、引張特性、靱性、および製造安定性の評価を行った。評価結果を表6に示す。
Figure 0006624145
(評価結果の説明)
表5では、冷却速度CRが(1)式を満足する場合を○とし、冷却速度CRが(1)式を満足しない場合を×として示す。表5に示す製造条件に従って作製した鋼板は、表6に示すミクロ組織、引張特性、及び靱性を有していた。さらに、表5に示すように、例えば鋼No.19では、最低限必要なシャルピー衝撃吸収エネルギーをvE=325Jとした場合には、製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅ΔTが50℃,70℃,90℃のいずれの場合も、冷却速度CR=40℃/sは(1)式を満足していた。そのため、表6に示すように、325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを達成することができる温度域の幅ΔT*(vE-40℃≧325J)は95℃となっており、ΔT=50℃,70℃,90℃のいずれの場合もΔT≦ΔT*を満足していた。この結果から、ΔTを例えば90℃まで拡大しても、325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有する厚鋼板を安定的に得ることができることがわかった。また、例えば鋼No.20では、vE=325Jとした場合、冷却速度CR=15℃/sは、ΔT=50℃の場合は(1)式を満足していたものの、ΔT=70℃、90℃の場合は(1)式を満足していなかった。そのため、表6に示すようにΔT*(vE-40℃≧325J)=65℃となっており、ΔT=50℃の場合はΔT≦ΔT*を満足していたが、ΔT=70℃、90℃の場合にはΔT>ΔT*となっていた。この結果から、ΔTを例えば50℃まで拡大しても、325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有する厚鋼板を安定的に得ることができるものの、ΔTを例えば70℃まで拡大するとこのような厚鋼板は安定的に得られないことがわかった。同様に、鋼No.21〜26,28〜30,33〜35,37〜39,41,42についても、(1)式を満足するように冷却速度を制御すれば、冷却停止温度の変動がΔTの幅で許容される製造ラインにおいて、所望の特性を有する厚鋼板を安定的に得ることができることがわかった。なお、No.27は圧延終了温度が(Ar3点+50℃)未満、冷却開始温度がAr3点未満であり、No.31,32,36は冷却停止温度が200℃以上500℃以下の範囲を外れており、No.40は冷却速度が80℃/sを超えていたので、(1)式に対する評価が○であってもvE-40℃が325J未満となっていた(表6ではΔT*(vE-40℃≧325J)=0として示す)。
本発明によれば、625MPa以上の引張強度、及び-40℃において325J以上のシャルピー衝撃吸収エネルギーを有し、かつ-40℃でのDWTT試験で得られた延性破面率が85%以上である高強度・高靭性厚鋼板を安定的に得ることができる。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.03%以上0.08%以下、Si:0.01%以上0.50%以下、Mn:1.5%以上2.5%以下、P:0.001%以上0.010%以下、S:0.0030%以下、Al:0.01%以上0.08%以下、Nb:0.010%以上0.080%以下、Ti:0.005%以上0.025%以下、及びN:0.001%以上0.006%以下を含有し、
    さらに、Cu:0.01%以上1.00%以下、Ni:0.01%以上1.00%以下、Cr:0.01%以上1.00%以下、Mo:0.01%以上1.00%以下、V:0.01%以上0.10%以下、及びB:0.0005%以上0.0030%以下から選ばれる1種以上を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを、
    1000℃以上1250℃以下に加熱し、オーステナイト再結晶温度域において圧延後、オーステナイト未再結晶域において累積圧下率55%以上の圧延を行って厚鋼板とし、(Ar3点+50℃)以上(Ar3点+150℃)以下の温度で圧延を終了し、10℃/s以上80℃/s以下かつ下記(1)式を満足する冷却速度にて、Ar3点以上(Ar3点+100℃)以下の温度から200℃以上500℃以下の冷却停止温度まで前記厚鋼板を加速冷却し、その後前記冷却停止温度±50℃の温度範囲で50s以上300s未満保持することを特徴とする高強度・高靭性厚鋼板の製造方法。

    CR≧(0.0147×vE-4.1767)×ΔT-18.075・・・(1)
    ただし、CRは冷却速度(℃/s)、vEは-40℃における所望のシャルピー衝撃吸収エネルギーの下限値(J)、ΔTは製造ラインにおいて許容する冷却停止温度の変動幅(℃)であり、vE≧325(J)、ΔT≧90(℃)である。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、Ca:0.0005%以上0.0100%以下、REM:0.0005%以上0.0200%以下、Zr:0.0005%以上0.0300%以下、及びMg:0.0005%以上0.0100%以下から選ばれる1種以上を含有する、請求項1に記載の高強度・高靭性厚鋼板の製造方法。
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