燃料電池は、水素と酸素とを利用して直流電流を発生させる電池であり、燃料電池の電解質部分の構成材料によって、固体電解質形、溶融炭酸塩形、リン酸形、および固体高分子形に大別される。
これらの燃料電池のうち、200℃付近で動作するリン酸形燃料電池、および650℃付近で動作する溶融炭酸塩形燃料電池は、現在、商用段階に達している。さらに、近年の技術開発の進展により、室温付近で動作する固体高分子形燃料電池と、700℃以上で動作する固体電解質形燃料電池とが、自動車搭載用、または家庭用の小型電源、あるいは商業ビルの電源として、市場に投入され始めている。
図1Aは、燃料電池全体の斜視図であり、図1Bは、燃料電池セル(単セル)の分解斜視図である。
図1Aおよび図1Bに示すように、燃料電池1は単セルの集合体である。図1Bに示すように、単セルは、固体高分子電解質膜2の一面に燃料電極膜(アノード)3が、他面に酸化剤電極膜(カソード)4が積層され、その積層体の両面にセパレータ5a、5bが重ねられた構造を有する。固体高分子電解質膜2を構成する代表的な材料として、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素系イオン交換樹脂膜がある。
燃料電極膜3、および酸化剤電極膜4は、カーボン繊維から構成されるカーボンペーパー、またはカーボンクロスからなる拡散層と、拡散層の表面に接するように設けられた触媒層とを備えている。触媒層は、粒子状の白金触媒と、触媒担持用カーボンと、水素イオン(プロトン)交換基を有するフッ素樹脂とを有する。固体高分子電解質膜2に、燃料電極膜3、および酸化剤電極膜4が貼り合わされて、一体的な部材として構成されたMEA(Membrane Electrode Assembly)が用いられることもある。
セパレータ5a、5bは、バイポーラプレートとよばれることもある。整流板は、燃料ガスまたは酸化性ガスを、整流または配流するための部材であり、多孔質板、フィン、またはメッシュとよばれることもある。
セパレータ5aに形成された溝である流路6aには、燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流され、これにより、燃料電極膜3に燃料ガスが供給される。燃料電極膜3では、燃料ガスは拡散層を透過して触媒層に接触する。また、セパレータ5bに形成された溝である流路6bには、空気等の酸化性ガスBが流され、これにより、酸化剤電極膜4に酸化性ガスが供給される。酸化剤電極膜4では、酸化性ガスは拡散層を透過して触媒層に接触する。これらのガスの供給により、電気化学反応が生じて、燃料電極膜3と酸化剤電極膜4との間に、直流電力が発生する。
固体高分子形燃料電池のセパレータに求められる主な機能は、次の通りである。
(1)燃料ガス、または酸化性ガスを、電池面内に均一に供給する「流路」としての機能
(2)カソード側で生成した水を、反応後の空気、酸素といったキャリアガスとともに、燃料電池から効率的に系外に排出する「流路」としての機能
(3)電極膜(アノード3、カソード4)と接触して電気の通り道となり、さらに、隣接する2つの単セル間の電気的「コネクタ」となる機能
(4)隣り合うセル間で、一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室との「隔壁」としての機能
これまでに、セパレータ材料として、実験室レベルでは、カーボン板材が検討されてきた。しかし、カーボン板材には、割れ易いという問題があり、さらに、表面を平坦にするための機械加工コスト、およびガス流路形成のための機械加工コストが非常にかさむという問題がある。これらの問題が、固体高分子形燃料電池の商用化そのものを難しくしている。
カーボン材の中でも、熱膨張性黒鉛加工品は、格段に安価であることから、固体高分子形燃料電池のセパレータ用素材として最も注目されている。しかし、今後解決すべき課題として、たとえば、以下のものがある。
・ますます厳しくなる寸法精度要求への対応
・燃料電池適用中に生じる経年的な結着用有機樹脂の劣化
・電池運転環境の影響を受けて進行するカーボン腐食
・クロスリークと呼ばれる水素の透過
・燃料電池の組み立て時および使用中に起こる予期せぬ割れ事故
こうした黒鉛系素材の検討とは別に、黒鉛系素材に対してコストを削減し、耐割れ性と量産性を改善すること等を目的に、セパレータに金属製薄板を適用することが試みられている。
特許文献1には、金属製部材からなり、単位電池の電極との接触面に直接金めっきを施した燃料電池用セパレータが開示されている。金属製部材を構成する材料としては、ステンレス鋼、Al、およびNi−Fe合金が挙げられており、ステンレス鋼としては、SUS304が挙げられている。このセパレータは、金めっきが施されている。そのため、セパレータと電極との電気接触抵抗値が低く、セパレータから電極への電子の導通が良好となる。これにより、特許文献1の燃料電池では、出力電圧が大きくなるとされている。
特許文献2には、大気との接触により表面に不動態皮膜が容易に生成される金属材料からなるセパレータを備えた固体高分子形燃料電池が開示されている。金属材料としては、ステンレス鋼、およびTi合金が挙げられている。このセパレータに用いられる金属の表面には、必ず不動態皮膜が存在する。このため、金属の表面が化学的に侵され難くなり、燃料電池セルで生成された水のうちイオン化されるものの割合が低減される。これにより、特許文献2の燃料電池セルでは、電気化学反応度の低下が抑制されるとされている。また、特許文献2には、セパレータの電極膜等に接触する部分の不動態皮膜を除去し、貴金属層を形成することにより、接触抵抗値が低くなることも示されている。
特許文献3には、カメラの上板用チタン材が開示されている。このチタン材は、H:0.002質量%以下、N:0.007質量%以下、Fe:0.02〜0.06質量%、O(酸素):0.03〜0.06質量%を含有し、残部がチタンからなり、結晶粒度が4〜7であり、伸びが45%以上である。
カメラ上板を成形するためには、成形性が極めて優れていることが求められる。カメラ上板を製造する際、ブランク抜き、複数回の絞り加工、刻印、穴あけ、縁切り等の工程を含む加工(一体成形)が行なわれる。特許文献3によれば、加工対象のチタン材の結晶粒度が4(結晶粒径が40〜45μm)であれば、カメラ上板の加工時に、クラックが全く発生しないとされる。一方、結晶粒度が7を超えるチタン材では、クラックの発生が著しく、たとえば、結晶粒度が8または10(結晶粒径が25〜30μm)であるチタン材では、上板の成形加工時にクラックが発生して製品としての適用はできないとされている。ただし、結晶粒度が4未満では、加工部位に肌荒れ(皺)が生じたとされている。
特許文献4には、冷間圧延、および焼鈍を繰り返して、純チタン薄板を製造する方法が開示されている。この方法では、最終的な焼鈍を、大気雰囲気下、600〜800℃で、2〜6分の連続焼鈍として行うことにより、製品の平均結晶粒径を3〜60μmに調整して、表面光沢を抑えた状態の純チタン薄板を得るとされている。最終的な焼鈍の後には、酸洗処理が施される。この方法により、真空焼鈍材に比較して、成形時に、表面が波打つ欠陥が発生することを抑えられるとされている。
特許文献5には、求められる性能および品質に応じて、FeおよびOの含有率と、バッチ式焼鈍の条件とにより、チタン材の適正な結晶粒度調整を行なう方法が開示されている。特許文献5によれば、結晶粒度を、張出し成形性が必要な板材では4〜5とし、張出し成形性に加えて肌荒れの防止が必要な場合は5.5〜6.5とし、溶接管の製造におけるロ−ル成形性が必要な場合は8〜11とすることが開示されている。
特許文献6には、質量%で、Fe:0.035〜0.100%、O:0.010%以上0.030%未満を含有し、残部がチタンおよび不純物からなり、結晶粒度が8.0〜11.5である純チタン板が示されている。このチタン板の素材は、電子ビーム溶解、または真空アーク溶解により得られ、成形性に優れるとされている。
特許文献7には、質量で、Fe:0.1を超え0.5以下、およびO:0.03以上0.1以下を含有し、残部がチタンおよび不純物からなり、結晶粒度が10以上であるチタン材が開示されている。このチタン材は、成形性に優れるとされている。
特許文献8には、質量で、Fe:0.10%を超え0.60%未満と、O:0.005%を超え0.20%未満と、C:0.015%未満と、N:0.015%未満と、H:0.015%未満とを含有し、残部がチタンおよび不純物からなるチタン材が開示されている。このチタン材では、FeがOよりも多く含有されており、α相とβ相との二相組織が形成され、α相の円相当平均粒径が10μm以下とされる。
特許文献9には、質量%で、Fe:0.15%以下(0%を含まない)と、O:0.15%以下(0%を含まない)とを含有するチタン材を、プレス成形法によりチタン板に加工することが開示されている。チタン板のα相の平均結晶粒径は、10〜200μmであるとされている。
特許文献10には、質量%で、Fe:0.15%以下(0%を含まない)と、O:0.15%(0%を含まない)とを含有し、残部がTiおよび不純物からなるチタン板が開示されている。特許文献10では、チタン材について、結晶方位と結晶粒径とが規定されており、このチタン板は、高耐力でのプレス成形性に優れるとされている。結晶粒径としては、チタン板の表面で一辺が1mmの正方形内に存在する結晶粒のうち、そのサイズが上位100個の結晶粒の平均結晶粒径が10〜200μmであるとされている。また、チタン板の圧延垂直方向耐力に対するチタン板の圧延方向の耐力の比が0.75以上であるとされている。
特許文献11には、質量%で、Fe:0.04〜0.10%と、O:0.07〜0.20%とを含有し、残部がTiおよび不純物からなるチタン板が開示されている。このチタン材は、プレス加工などの成形性に優れるとされている。
特許文献12には、質量%で、O:0.07〜0.20%と、Fe:0.04〜0.10%と、N:0.001%以上0.02%未満と、C:0.015%未満(0%を含む)とを含有し、残部がTiおよび不純物からなるチタン板が開示されている。このチタン材は、O含有率[%O]とFeの含有率[%Fe]とが、[%O]+0.12×[%Fe]≧0.080を満たし、高強度で成形性に優れるとされている。
特許文献13には、質量%で、O:0.03%以上0.08%未満と、Fe:0.015%以上0.055%未満と、N:0.001%以上0.02%未満と、C:0.015%未満(0%を含む)とを含有し、残部がTiおよび不純物からなるチタン板が開示されている。このチタン材では、Oの含有率[%O]とFeの含有率[%Fe]とが、[%O]+0.12×[%Fe]<0.080を満たし、成形性に優れるとされている。
特許文献14には、質量%で、Feを0.04〜0.06%、およびOを0.07〜0.11%を含有し、残部がTiおよび不純物からなるチタン板が開示されている。このチタン材は、高耐力でかつプレス加工等の成形性に優れるとされている。
特許文献15には、電子ビーム溶解法により、原料を溶解してチタンまたはチタン合金を得る際に、水素、パラフィン炭化水素、アンモニア、ハロゲン、および一酸化炭素のうちの少なくとも1種からなる精製ガスを、電子ビーム溶解室内に導入して、O、Feなどの不純物元素を低減する製造方法が示されている。
特許文献16には、Oを含有するチタン原料にAlを添加し、これらを電子ビームにより溶解して、チタン原料中に含まれるOを、Alの酸化物として気相脱酸するチタンの脱酸方法が記載されている。また、特許文献16には、AlおよびOが残存するチタン原料に、さらに不足分のAlを添加し、これらを電子ビームにより溶解して、このチタン原料中に含まれるOをAlの酸化物として気相脱酸するチタンの脱酸方法も開示されている。
特許文献16では、実施例として、10質量%の初期O含有率、および10質量%のAl含有率を有するチタン試料が、6分間溶融状態とされた後に、実質的に金属AlのすべてがOと反応し、O含有率が半分になったことが記載されている。また、他の実施例として、1.1質量%の初期O含有率を有するチタン試料、および0.12質量%の初期O含有率を有するチタン試料に、Alを添加して、5分間溶融状態としたところ、それぞれ、O含有率が、0.5質量%、および0.05質量%未満にまで減少したことが示されている。その際、初期試料の総重量に対するAl添加率は、それぞれ、20質量%、および5.5質量%であったとされている。特許文献16には、Alを添加し溶融状態を維持した後のチタン材のAl含有率については、記載されていない。
本発明者は、耐食性に優れた金属セパレータを検討してきた。その際、固体高分子形燃料電池のセパレータとして長時間使用しても、金属セパレータ表面からの金属溶出が極めて少なく、MEAの金属イオンによる汚染がほとんど進行せず、触媒性能の低下、および高分子膜性能の低下が生じ難いことを、目標とする耐食性とした。
セパレータ用として検討した金属は、汎用のSUS304、およびSUS316L、それらの金めっき処理材、M2BまたはM23C6型導電性金属析出物分散型ステンレス材、導電性微粒粉塗布または塗装処理をしたステンレス材、表面改質処理をしたステンレス材、ならびにチタン材であった。検討の結果、以下の知見を得た。
ステンレス鋼は、量産性に優れ、耐食性と加工性とを兼ね備えた材料であり、この点で、固体高分子形燃料電池のセル部材用材料として、候補になり得る。しかし、ステンレス鋼を用いた燃料電池では、その構造、または運転および休止の制御の巧拙によって、金属イオンの溶出の程度が異なる。金属イオンが溶出しやすい条件では、ステンレス鋼表面が不動態に保持されていても、ステンレス鋼からの金属イオンの溶出が徐々に進行し、固体高分子膜、および触媒に、回復不可能なダメージを与えることがある。この場合、固体高分子形燃料電池の性能が大きく低下する。
チタンは、非常に高価な材料であるが、市販の高耐食金属材料の中では、固体高分子形燃料電池内の環境にあっても、ほとんど金属の溶出を生じない数少ない材料のひとつである。換言すれば、仮にコストを無視し耐食性のみを重視すれば、チタンは、燃料電池の構造、または運転および休止の制御の巧拙によって、金属イオンの溶出の程度が影響されないという点において、固体高分子形燃料電池用セル部材の構成材料として極めて適した材料である。
しかし、加工性に関しては、一般に、チタンは、ステンレス鋼に比して劣る。ただし、チタンの加工性は、材料中の微量元素の種類および含有率により大きく変化することが知られている。特に、製造工程において混入する不純物元素であるFe、O、およびNは、チタンの加工性に大きな影響を及ぼす。また、チタン中の微量のHは、割れおよび脆化に大きな影響を及ぼす。しかし、不純物の含有率を下げることと、製造コストを下げることとは、相反する要件である。
純チタンでは、FeおよびOの含有率が高すぎると、耐力が高くなり過ぎて、プレス成形性、および伸び特性が劣るようになる。一方、燃料電池は、多数(たとえば、数百個)のセルを積層し締結した状態で使用され、純チタンのFeおよびOの含有率が低すぎると、耐力が低くなりすぎて、締結する際の荷重によって、セパレータまたは整流板は座屈することがある。
セパレータまたは整流板が、固体高分子形燃料電池において、どのように用いられるのかによって、また、それらのセル部材を製作するのに適用される加工法によって、チタン材に求められる機械的性質は異なる。セパレータまたは整流板を製造する際には、抜き(せん断)加工、張出し成形加工、絞り加工、曲げ加工などが適宜行なわれる。どのような加工が施されるのかによって、チタン材に、その加工に適した機械的特性を持たせておく必要がある。チタン材の機械的性質は、Fe含有率、O含有率、焼鈍温度、最終焼鈍後の調質圧延(スキンパス圧延)などにより調整することが好ましい。
セパレータまたは整流板を形成するための成形加工により、反りおよび肌荒れが生じないようにするために、これらのセル部材に用いるチタン材は、局部伸び特性に優れ、かつ張出し成形部分での肌荒れが発生し難いものであることが好ましい。そのためには、平均結晶粒径(結晶粒度)の調整が極めて重要である。
抜き(せん断)加工、および曲げ加工のみにより製作され、張出し成形加工がほとんど施されないセル部材に用いられる材料には、バリ、および割れが発生し難いことが求められる。このような材料には、高い局部伸び性能、たとえば、流路形成のための張出し成形加工が施されるセル部材に要求される程度の伸び性能は、必要ではない。また、1回の加工は極めて短い時間に行われ、かつ加工は高速で繰り返し行なわれることから、抜き加工に用いる金型(たとえば、抜き刃等)の耐久寿命も重要視される。発明者の判断するところであるが、加工対象のチタン材は、抜き加工に用いる金型が200万回を超える耐久寿命を達成できるものであることが好ましい。
チタン材は、鉄鋼材料のように酸化物系耐火物を内張りした溶解炉またはるつぼ中で溶解、精練して得ることは難しい。これは、Tiが非常にOと結合し易いために真空または不活性ガス雰囲気下で溶製されること、このような雰囲気中では酸化物系耐火物はTiにより還元され易く溶損を受けることによる。このため、チタン材は、通常、水冷銅モールドを用いて溶解されている。
チタン材の原料となるチタンインゴットの溶製法としては、加熱方式が異なる様々な特殊溶解技術が開発されてきている。現在の溶製法の主流は、真空アーク再度解(VAR:Vacuum Arc Remelting)法、プラズマアーク溶解法(PAM:Plasma Arc Melting)、真空誘導溶解(VIM:Vacuum Induction Melting)法、および電子ビーム溶解(EBM:Electron Beam Melting)法である。
EBM法では、VIM法等に比べて、より多くのスクラップを用いた溶解を行なうことが可能である。上述のように、チタン材のFe含有率、およびO含有率は、加工性に大きな影響を及ぼす。このため、チタン材の製造において、Fe含有率、およびO含有率を制御することは、重要である。スクラップのO含有率は一定していないので、スクラップを多量に添加する際にO含有率を制御する技術の確立は、重要な開発課題のひとつとなっている。
EBM法では、溶融した金属(以下、「溶湯」ともいう。)の表面において電子ビームが入射する部分(以下、「火点」という。)の温度は、2000℃を超え、局部的に2千数百℃となっている。また、電子ビームが大電流であることから、電流が作る磁界により、火点近傍の溶融した金属には、流速の速い渦が形成されて、溶湯表面の更新速度が大きくなっている。
Ti中のO(酸素)は熱力学的に安定であって、これを除去することは甚だ困難である。火点における溶湯温度は、2000℃を超える高温であり、この部分では、通常、Tiの蒸発分だけOが濃縮し、OをTiの酸化物蒸気として脱酸することは、熱力学的に困難である。本発明者は、チタンの溶湯からの脱酸方法として、COガスとしての脱酸、Si酸化物蒸気としての脱酸、Al酸化物蒸気としての脱酸などを検討した。その結果、チタン溶湯中のOを除去できる最も有効な手段は、Alを添加してAl2O蒸気として脱酸することであると判断した。
減圧(真空)下で行なうEBM法によるチタン溶解では、溶湯中のAl濃度が高いと、火点、およびその近傍では、Al2Oを主体とするAl酸化物が急速に蒸発して、気相脱酸が進行する。したがって、Al存在下での電子ビーム溶解は、スクラップを多量に添加するチタン溶解に際してのO濃度低減方法、およびO濃度制御方法として有効である。
本発明は、これらの知見と独自の技術的思想とにより得られたものである。
上述のように、本発明のチタン材は、質量%で、Fe:0.010%以上0.100%以下、O:0.005%以上0.110%以下、およびAl:1.0ppmを超え1000ppm以下を含有し、残部がTiおよび不純物からなる。上記不純物は、C:0.015%以下、N:0.001%以上0.020%以下、およびH:0.015%以下を含む。α相の平均結晶粒径は、6.5μm以上100μm以下である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下で、化学組成について、「%」は、いずれも質量%であり、「ppm」は、いずれも質量ppmである。
[本発明のチタン材]
〈化学組成〉
本発明のチタン材において必須の元素は、Ti、Fe、O、およびAlである。このチタン材は、任意元素として、貴金属を含有してもよい。以下、各元素について説明する。
Fe::0.010%以上0.100%以下
Feは、チタン材には、一般に、不純物として含有されるが、本発明のチタン材においては、有効に活用する添加元素(調整元素)である。チタン材中において、Feは、β相安定化元素であり、一部は、α相に固溶するが、多くはβ相を形成し、さらに、熱処理条件によっては、金属間化合物であるTiFeとして析出して、結晶粒成長を抑える働きをする。Fe含有率とO含有率とを調整することにより、チタン材の延性低下を抑制しつつ耐力を高めることができる。また、結晶粒成長を抑えることにより、切断加工または打ち抜き穴形成時のバリの発生を抑制して、金型の損耗を低減する効果も期待できる。
ただし、Fe含有率が0.100%を超えて高くなると、材料中のO含有率を低くしても成形性が確保できなくなる。一方、Fe含有率を0.010%未満とすると耐力が下がり過ぎて軟質となり、座屈し易くなるばかりでなく、Fe含有率を低減できる原料を確保することが困難となり、工業的規模での低コスト安定量産が難しくなる。このため、本発明のチタン材では、Fe含有率について、下限を0.010%とし、上限を0.100%とする。Fe含有率は、好ましくは、0.020%以上0.100%以下であり、さらに好ましくは、0.030%以上0.100%以下である。
O(酸素):0.005%以上0.110%以下
Oは、チタン材には、一般に、不純物として含有されるが、本発明のチタン材においては、有効に活用する添加元素である。本発明のチタン材を製造する方法の一例として、電子ビーム溶解時にAlを添加して、Alによる気相(蒸気)脱酸を行なう。この場合、結果として、使用するスクラップを含めた溶解原料にもよるが、現在市販されている通常のチタン材並みか、それよりも、O含有率が低くなる場合がある。
本発明のチタン材の主たる用途として想定している固体高分子形燃料電池のセル部材には、以下の特性を同時に備えることが求められる。
・量産性に優れること
・安価であること
・耐食性に優れること
・セル部材として加工するに際しての成形性がよい(たとえば、反り、およびバリが生じ難い)こと
・金型の耐久性を十分に高くすることができること
・セルを締結して燃料電池を組み立てる際に座屈し難い材料強度(耐力)を有すること
このような要求を満たすためには、O含有率を、0.005%以上0.110%以下とすることが必要である。すなわち、O含有率が0.005%未満では材料強度が不十分であり、チタン材が軟質となるために座屈し易く、かつ、抜き加工に際して局部伸び性が高過ぎてバリが顕著に生じるようになる。また、チタン材料中のO含有率を0.005%未満にまで下げると、製造コストが高くなり過ぎて、量産性およびコストの点で、想定する上記用途の材料とはなりえない。一方、O含有率が0.110%を超える場合には、Feなど他の元素の含有率を調整しても、材料強度、および耐力が高くなり過ぎ、かつ伸び性能が劣るようになるため、燃料電池用セル部材としての流路形成のための張出し成形が困難となる。また、O含有率が0.110%を超える場合は、金型の寿命が短くなるために、量産に不向きとなる。O含有率は、0.010%以上0.060%以下とすることが好ましい。
Al:1.0ppmを超え1000ppm以下
AlはJIS 1種、2種、3種、11種などのチタン材においては、通常、添加されることのない金属元素であるが、本発明のチタン材においては、Alは積極的に活用する添加元素である。後述のように、本発明のチタン材を製造する際、溶製時に、Alを脱酸元素として積極的に添加して、チタン材のO含有率を調整することができる。このような製造方法によっては、チタン材は、そのAl含有率を1.0ppm以下として、安定量産することは困難である。また、本発明材では、Al含有率が1.0ppm以下の場合、所望の機械的性質、および加工性を安定して得ることが困難である。このため、Al含有率は、1.0ppmを超えるものとする。
一方、Al含有率が1000ppm(0.100%)を超えると、燃料電池のセル部材として、所定の形状に成形することが困難になるとともに、耐食性が確保できなくなる。このため、Al含有率は、1000ppm以下とし、好ましくは、100ppm以下とし、さらに好ましくは、20ppm以下とする。
チタン材のAl含有率は、JIS H 1632−2に規格化されているチタン−ICP発光分光分析方法により定量分析することができる。10ppm未満の含有率については、グロー放電質量分析法により定量分析することができる。これにより、0.01ppmの精度で分析することができる。測定用装置としては、FI ELEMENT社製 VG9000などを用いればよい。
以下、不純物元素について説明する。
C:0.015%以下(0%を含む)
本発明のチタン材においては、Cは不純物である。チタン材の表面には、圧延工程で使用する圧延油からの汚染によりCが付着し易い。チタン材の表層にCが存在することにより、焼鈍工程で、チタン材表面に、TiC、またはTiCNが生成する。TiC、およびTiCNは、いずれも、高硬度の金属間化合物であり、金型の損傷を早める原因となる。このため、C含有率は、0.015%以下(0%を含む)とする。C含有率は、0.010%以下とすることが好ましい。
N:0.001%以上0.020%以下
本発明のチタン材においては、Nは不純物である。焼鈍工程で、雰囲気からNを吸収することで、チタン材のN含有率が高くなり易く、この場合、TiNが生成する。TiNは、高硬度の金属間化合物であり、金型の損傷を早める原因となる。このため、N含有率は、0.001%以上0.020%以下とする。N含有率は、0.015%以下とすることが好ましく、0.010%以下とすることがより好ましい。
H:0.015%以下
本発明のチタン材においては、Hは不純物である。Hは、チタン材の製造工程での酸洗、焼鈍、必要に応じて実施される電解処理などにより、不可避的にチタン材に吸収される。Hは、チタン材の水素脆化、および水素割れの原因になる。このため、H含有率は、0.015%以下とし、好ましくは、0.010%以下とする。
その他の不純物:Ca
本発明のチタン材は、不純物として、Caを数ppm含むことがある。後述の製造方法で、チタン溶湯に添加するAl源として、Al外装−CaCl2内装のコアードワイヤーを用いた場合には、得られたチタン材は、不純物として、Caを含有する。Caも、Alと同様に、Oとの結合力がTiより強く、かつCa酸化物は、蒸気圧が高いので、高温のチタン溶湯から除去され易い。このため、多くの場合、Caが、チタン材に、10ppmを超えて残留することはない。
貴金属:0.25%以下
貴金属は、本発明のチタン材においては必須添加元素ではないが、耐食性および電気的接触抵抗性能を向上させるために、Tiの一部に代えて、貴金属を含有させてもよい。ここで、貴金属とは、Au、Ag、Pt、Pd、およびRuの1種以上である。0.25%を超えて貴金属を含有させると、材料コストの上昇が無視できなくなる。このため、本発明のチタン材が貴金属を含有する場合は、その含有率は、0.25%以下とする。
参考例として、本願発明のチタン材に、希土類元素を含有させた場合について考える。希土類元素は、Oとの結合力が非常に強いので、チタン材に希土類元素を含有させることは、チタン材中のOを固定するのに有効である。このようなチタン材を製造する場合、希土類元素は、チタン溶湯に添加してもよい。この場合、希土類元素をチタン溶湯中に残るOと反応させて、微細な希土類元素の酸化物を形成させ、チタン材の結晶粒微細化を制御することができる。ただし、蒸気圧は低いので、気相(蒸気)脱酸が進行することは期待できない。希土類元素は、希土類元素を内装するAlコアードワイヤーとして添加してもよい。
〈結晶粒度と平均結晶粒径〉
「結晶粒度」とは、JIS G 0551で規格化された粒度番号をいう。「平均結晶粒径」とは、JIS G 0551に倣って求められた1mm2あたりの結晶粒の数より、結晶粒をすべて同じ直径の円とみなして計算した円相当直径である。
本発明のチタン材において、α相の平均結晶粒径は、6.5μm以上100μm以下(結晶粒度番号4〜11.5に相当)である。α相の平均結晶粒径がこの範囲内であれば、チタン材に対して一般的な加工を施すことが可能である。
しかし、より詳細には、このチタン材を固体高分子形燃料電池用セル部材に加工(成形を含む)する場合は、加工方法によって、チタン材の平均結晶粒径(結晶粒度)の好ましい範囲は異なる。たとえば、固体高分子形燃料電池のセル用セパレータの加工は、山部と谷部からなる流路を生成するために、張出し成形加工が主体となる。この場合は、α相の平均結晶粒径を、35μm以上100μm以下(結晶粒度番号4〜7に相当)とすることが好ましい。一方、固体高分子形燃料電池のセル用整流板の加工は、折り曲げ加工および抜き(せん断)加工が主体となる。この場合は、α相の平均結晶粒径を、10μm以上30μm以下(結晶粒度番号7.5〜11に相当)とすることが好ましい。これは、チタン材の結晶粒度により、張出し成形性、および抜き加工部位の端面に沿って生じ得るバリの高さに、大きな違いがみられるためである。
α相の平均結晶粒径が大きくなると、チタン材の局部伸びが大きくなる。α相の平均結晶粒径が35μm以上100μm以下であると、局部伸びが大きいことにより、チタン材に対して張出し成形加工を良好に行うことができる。一方、α相の平均結晶粒径が100μmを超えて大きくなると、チタン材を成形加工する際、割れ、皺発生、および肌荒れが生じ易くなる。
一方、α相の平均結晶粒径が30μm以上であるチタン材に対して抜き加工を施すと、バリの発生が顕著となる場合があり、用いる金型の寿命は短くなり易い。より詳細には、チタン材の抜き加工は、せん断および破断により進行するので、局部伸びが大き過ぎると、破断し難くなり、結果として、高いバリが発生し易くなる。バリの高さが大きい場合、抜き加工を高速で行なうと、抜き刃の先端温度が上昇して、刃先にチタンの抜きカスが付着し、さらに、付着したチタンの抜きカスの酸化が進行して、これにより生ずる酸化物が刃先の損耗を促進するようになる。
加工対象のチタン材に対して、抜き(せん断)加工に加えて、プレス成形が施される場合、α相の平均結晶粒径が小さすぎると、プレス成形時に割れを生じやすくなる。α相の平均結晶粒径が10μm以上30μm以下であれば、チタン材において抜き加工性と張出し成形加工性の両立させることができる。バリ発生は、α相の平均結晶粒径が12μm以上28μm以下であるときに、特に抑えられて、金型の耐久性が最も高くなる。
固体高分子形燃料電池が、たとえば、自動車搭載用である場合、自動車1台あたり800個のセルが用いられるとして、1つのセルにセル部材が2枚用いられる場合は、自動車1台あたり1600枚のセル部材が使用され、自動車1台あたり1つのセルに3枚のセル部材が用いられる場合は、2400枚のセル部材が使用される。バリの発生により金型の耐久性が迅速に劣化する場合は、交換用の予備金型を確保して、加工中に、金型の交換を頻繁に行なう必要が生じる。このため、量産時には、金型が高い耐久性を有することが非常に重要である。金型の耐久性を高くするためには、金型の材質の選定、金型のクリアランス調整、潤滑油適用などの対策も行なわれるが、加工対象であるチタン材の結晶粒度を調整することが非常に重要である。
[本発明のチタン材を製造する方法]
本発明のチタン材を製造する方法は、以下に述べるものに限定されない。
まず、本発明のチタン材を製造する際における原料の溶解方法の一例について述べる。
本発明のチタン材は、自動車に搭載する固体高分子形燃料電池用の材料として、将来的に大量に製造されることを想定している。この点で、上述の溶製法のうち、チタンスクラップ、およびリターン屑を大量に使用することができるEBM法により溶製することが好ましい。特に、大量のスクラップ、およびリターン屑を含む溶解原料を、連続的、または半連続的に火点に供給しながら、連続的にビレットに造塊する溶解方式、たとえば、樋方式EBM法が、最も好ましい方式である。
EBM法により溶製する場合、たとえば、チタン溶湯にAl源を投入し、チタン溶湯中で、AlをOと反応させて、チタン溶湯表面からAlの酸化物蒸気としてOを除去することができる。電子ビーム溶解を行なうチャンバー内の真空度の値を採用して熱力学計算すると、溶湯温度が2000℃を超える溶湯表面からは、Al酸化物ガス(Al2Oと考えられる。)として気化する。この溶湯からは、金属Tiも気化するが、Al酸化物ガスの方が、蒸気圧が二桁程度高く、チャンバーから排気されるガスの大部分はAl酸化物ガスとなる。
また、火点近傍は、大電流の電子ビームの磁界により、溶湯の高速回転(撹拌)が生じており、溶湯表面の更新速度が大きくなっている。以上の要因により、チャンバー内を減圧することにより、火点およびその近傍では、Al気相脱酸が効率よく進行する。
一方、溶湯表面において火点から離れた1500℃以下の部分では、Al酸化物の蒸気圧が低いため、Al酸化物の蒸発速度は低く、添加したAlの大部分は溶湯中に留まる。このように、Al酸化物の蒸発速度は、溶湯表面の温度により、したがって、火点からの距離により異なる。このため、チタン溶湯中のAl濃度は、Al源の添加位置により制御できる。
チタン溶湯全体のAl濃度を高めるのではなく、火点およびその近傍付近のみでAl濃度を高くすることにより、添加したAlを、Al酸化物の蒸発、すなわち、脱酸に効率的に寄与させることができる。このためには、Al源は、溶解槽にチタン溶解原料とは同時には装入せず、火点、およびその周囲の溶融プール部に、直接かつ連続的に投入して、Al濃度が火点およびその近傍のみで高くなるようにすることが好ましい。
Al源としては、たとえば、アルミニウムショット、アルミニウムワイヤー、Al外装/CaCl2内装のコアードワイヤーを用いることができる。ワイヤー形態のAl源は、たとえば、ワイヤー自動送り装置を用いて溶湯中に直接投入することができる。溶湯のAl濃度は、Al添加位置、Al添加量、および溶解槽内の真空度により調整することができる。
固化したチタン材に対して、冷間圧延、および焼鈍を行ってもよい。冷間圧延は、数回のパスで行ってもよい。焼鈍後(複数回の焼鈍を行う場合は最終焼鈍後)のチタン材に対して、調質圧延(スキンパス圧延)を行ってもよい。
冷間圧延時のチタン材の圧下率が大きくなるに従い、チタン材の内部歪が大きくなる。ここで、「圧下率」とは、冷間圧延前の板厚をt0とし、冷間圧延後の板厚をt1とすると、(1−t1/t0)×100(%)で表される。チタン材の内部歪が大きくなることにより、強度(耐力)が高くなり、局部伸び特性が低下する。冷間圧延後の焼鈍により、このような機械的性質の調整を行なうことができる。
チタン材について、スキンパス圧延を行うことにより、張出し成形性能は低下するが、切断時または抜き加工時にバリが発生することを抑制できる。圧下率が大きくなり過ぎると加工性が低下する。このため、スキンパス圧延による圧下率は、0.05%以上15%未満とすることが好ましく、0.05%以上10%未満とすることがより好ましく、1〜3%程度とすることが、さらに好ましい。
以上の製造工程において、チタン材(α相)の平均結晶粒径を、主として、Fe、O、およびAlの含有率と、圧延および焼鈍工程の条件とによって、調整する。具体的には、Fe、O、Alの少なくともの1種の含有率を高くするほど、圧延時の圧下率を大きくするほど、焼鈍温度を低くするほど、また、焼鈍時間を短くするほど、チタン材の平均結晶粒径を小さく調整することができる。
[本発明のセル部材]
本発明のセル部材は、JIS B 0601−1982で規格化されたRa値で、0.12μm以上4μm以下(好ましくは、3μm以下)の表面粗さを有することが好ましい。チタン材は、表面に生成する不動態皮膜により、表面粗さが0.12μm未満であれば、電気的な接触抵抗が高くなり、固体高分子形燃料電池のセル用のセパレータ、整流板等として用いることは困難である。表面粗さを0.12μm以上とすることにより、接触抵抗をある程度低減することが可能である。これは、セパレータ、整流板等のセル部材の表面粗さを粗くすることにより、当該セル部材と、セルの他の構成部材である燃料電極膜および酸化剤電極膜、またはこれらを含むMEAとの接触点数および接触面積が増加するからである。粗さが4μmを超えて大き過ぎても、接触抵抗値は上昇する。当該セル部材と、セルの他の構成部材である燃料電極膜および酸化剤電極膜、またはこれらを含むMEAとの接触点数および接触面積が減少するからである。
[本発明のセル部材を製造する方法]
セル部材は、箔状のチタン材に対して、上述の張出し成形加工、折り加工、抜き加工等を適宜施して製造することができる。
セル部材の表面粗さを調整する場合は、成形加工が終了した後に、酸液により、セル部材の表面処理、たとえば、ふっ酸を含む酸液を用いたスプレーエッチング処理または浸漬処理を行う。表面処理の時間が長くなるほど、また、処理に用いる酸液の温度または濃度が高くなるほど、表面粗さは大きくなる傾向がある。処理後に表面に残るふっ化チタンは、セル部材を組み込んだ燃料電池の稼働中に酸化物となり、接触抵抗の上昇を招く。このため、ふっ酸を含まない酸液中で最後の表面粗さ調整を行なうことが好ましい。
セル部材には、下記の表面処理を施してもよい。
(1)めっき処理または塗装処理により、貴金属(Au、Ag、Pt、Pd、およびRuの少なくとも1種)を含有する導電層を、セル部材において少なくとも一方の表面の最表層に付与すること。
(2)塗装処理または電着処理により、グラファイト粉、カーボン粉、カーボン繊維、およびカーボンナノチューブの少なくとも1種を含有する導電層を、セル部材において少なくとも一方の表面の最表層に付与すること。
〈第1の実施例〉
本発明の効果を確認するため、チタン材の試料を作製し、耐食性、および加工性を評価した。表1に、チタン材の作製に用いた素材の化学組成を示す。
いずれの素材も、原料を溶製して得た。溶製は、真空溶解装置のチャンバー内で、EBM法により、原料を溶解することにより行った。素材のFe含有率、およびO含有率は、以下の方法により調整した。まず、原料として、Fe含有率およびO含有率が目標とする値より低いことが確認された第1のスポンジチタンと、Fe含有率およびO含有率が目標とする値より高いことが確認された第2のスポンジチタンと、Fe含有率およびO含有率が既知のリターンスクラップ材とを用意した。
第1および第2のスポンジチタンは、クロール法により作製した。そして、第1のスポンジチタンを、EBM法により溶解し、これにより生じた溶湯に、第2のスポンジチタン、およびリターンスクラップ材を添加した。溶解した第1のスポンジチタンの量と、添加した第2のスポンジチタン、およびリターンスクラップ材の量との比により、Fe含有率、およびO含有率を調整した。
真空溶解装置チャンバー内に設置されたワイヤー添加装置を用いて、溶製中に、適量のアルミニウムワイヤーを溶湯中に投入した。アルミニウムワイヤーは、溶融プールにおいて、火点、およびその近傍の2000℃を超える高温部に、直接投入した。これにより、Al酸化物による気相(蒸発)脱酸を行い、溶湯中のAl濃度、およびO濃度を調整し、素材のAl含有率、およびO含有率を調整した。
表1に示す試料番号1〜10の素材を、小型の電子ビーム溶解炉内で溶解して、水冷銅鋳型中で造塊し、インゴットを得た。インゴットは、質量が10kgで、厚さが45mmで、幅が100mmであるスラブとした。このスラブを、大気雰囲気の電気炉内で、850℃で均熱した後に、熱間圧延により、厚さを5.3mmとし、放冷して熱延板とした。続いて、この熱延板の焼鈍を、大気炉中で、700℃で、30分保持することにより行い、その後、空冷した。
この熱延板のスケールを機械加工により完全に除去した後に、厚さが0.5mmになるまで、冷間圧延を施して、評価を行うチタン材とした。冷間圧延の途中に、アルゴン雰囲気中で、中間焼鈍処理を1回行った。焼鈍条件と冷間圧延の際の圧下率とにより、チタン材の平均結晶粒径(結晶粒度)の調整を行った。本発明の実施例のチタン材の製造においては、中間焼鈍の温度設定により、α相およびβ相の二相組織となることを利用して、細粒化のためのα-β二相域冷間圧延を行なった。本発明の実施例での熱間圧延および冷間圧延は、いずれもチタン材に対して同じ方向に行った。
得られたチタン材に対して、真空炉内で最終焼鈍を施した。最終焼鈍は、炉の内部を、一旦、アルゴン雰囲気にした後、真空排気してから、500〜800℃の温度範囲内で行なった。保持時間は、いずれも4時間とした。
以上の工程を経て得られたチタン材の試料について、固体高分子形燃料電池のセル部材としての耐食性評価を、以下の手順により行った。まず、試料の表面を、600番エメリー研磨紙で湿式研磨し、その後、70℃の保持溶液中で、96時間連続浸漬を行ない、浸漬による重量減少量を測定し、これを腐食減量として、チタン材の耐食性を評価した。評価に用いたチタン材の試料は、幅が30mmで、長さが40mmの試験片とした。チタン材の各試料について、2つの試験片を用意し、これらの試験片のそれぞれについて、腐食減量を求め、これらを平均して、そのチタン材の腐食減量とした。保持溶液は、pH3に調整した硫酸水溶液に30ppmのふっ素イオンを添加したものとした。この評価条件は、代表的な固体高分子形燃料電池内を模擬した環境といえる。
表2−1および表2−2に、用いた素材の番号(表1参照)、最終焼鈍温度(加熱温度)、および腐食減量を示す。
Al含有率が1000ppmを超える素材7〜9を用いたチタン材、すなわち、比較例7〜34のチタン材については、熱処理条件によらず、わずかであるが腐食減量があることが確認された。これは、チタン材が1000ppmを超えてAlを含有することで、Tiの耐食性が低下したためと推察される。これらのチタン材の耐食性評価後の表面について、アルバック・ファイ社製Quantera SXM 走査型X線光電子分光分析装置による表面分析をしたところ、Al酸化物が生成していることが確認された。十分に高い耐食性を得るためには、チタン材のAl含有率は、1000ppm以下であることが好ましいと判断できる。
各チタン材の結晶粒度を、JIS G 0551に準拠する方法で測定し、この結晶粒度の値から、平均結晶粒径を、円相当結晶粒径として求めた。
各チタン材について、JIS Z 2247に準拠したエリクセン試験を実施し、エリクセン値(成形高さ)を測定して、張出し成形性を評価した。
また、各チタン材について、絞り加工を伴う張出し成形加工を行った。用いたパンチは、直径が20mmで、肩半径が1mmであり、用いたダイは、孔の直径が50mmで、肩半径が1mmであった。これらのパンチおよびダイを用いて、100mmの大きさのチタン材のブランクを、高さが20mmの円錐台状になるように成形した。
図2は、チタン材に絞り加工を施すことにより得られた円錐台成形品の一例の斜視図である。一部のチタン材については、円錐台成形品11の側面に、ボディー皺12が発生した。各チタン材について、ボディー皺12の発生状況(縦壁の皺発生状況)を評価した。
加工による肌荒れについて、エリクセン試験後の試料表面、および張出し成形加工験後の試料表面を、50倍に拡大して観察し、これらの試料の肌荒れ発生状況を総合的に評価した。
固体高分子形燃料電池のセル部材に加工することを想定して、プレス成形金型と、80トン能力のプレス機とを用いたプレス成形により、チタン材に、セパレータの流路と同様の形状を有する溝を形成する試験を行った。プレス成形金型は、サーペンタイン型の流路を形成するためのものであり、流路の山部および谷部の幅は、いずれも0.8mmで、深さは0.4mmで、肩半径は0.15mmであった。各チタン材について、プレス成形による割れ発生の有無の評価(部材成形総合評価)をした。素材9および10を用いた比較例のチタン材は、冷間圧延の途中で、端面割れが発生するとともに、表面肌荒れが顕著であったため、固体高分子形燃料電池のセル部材用の素材として不適切と判断し、これらのチタン材については、表2−1および表2−2に示した耐食性評価以外の評価は行わなかった。
表3−1および表3−2に、用いた素材の番号(表1参照)、最終焼鈍温度(加熱温度)、α相の結晶粒度(粒度番号)、この結晶粒度から求めた平均結晶粒径、耐力および伸び、ならびに成形性評価の結果を示す。
チタン材の機械的特性は、Fe含有率およびO含有率に大きく影響される。表1を参照して、素材1〜8のO含有率は、いずれも0.010〜0.031質量%と低かった。素材1、3および4のFe含有率は、0.034〜0.0036質量%と低く、素材2および5〜7のFe含有率は、0.074〜0.096質量%と、素材1、3および4のFe含有率に比して高かった。素材2および5〜7では、最終焼鈍時の加熱温度が、およそ595℃を境として、より高温では加熱時にα相中にβ相が析出するとともに、加熱温度によってβ相の析出割合が変化し、より低温では加熱時にα相中にβ相は析出しなかった。
表3−1および表3−2から、エリクセン試験で高さが10mm以下であるチタン材には、流路成形時に不具合が生じたことがわかる。このため、エリクセン試験結果として、表3−1および表3−2で、10mm以下のエリクセン値を有するチタン材は、良好ではないといえる。
比較例1〜6のチタン材は、いずれも、平均結晶粒径が6.5μm未満であり、エリクセン試験結果が良好ではなく、部材成形総合評価において、割れを発生していた。したがって、平均結晶粒径は6.5μm以上である必要があることがわかる。
素材7および8は、いずれも、Al含有率が、1000ppmより高く、素材7および8を用いたチタン材は、エリクセン試験、張出し成形加工試験、およびプレスによる流路形成試験で、割れ、皺発生、および肌荒れの少なくともいずれかが多発した。これらのチタン材は、耐食性評価の結果(表2−2参照)も良好ではない。したがって、チタン材のAl含有率は、1000ppm以下とする必要があることがわかる。
一方、下記(i)〜(viii)の要件を満たす材料については、評価結果が良好であった。
(i)Fe含有率:0.010%以上0.100%以下
(ii)O含有率:0.005%以上0.110%以下
(iii)C含有率:0.015%以下(0%を含む)
(iv)N含有率:0.001%以上0.020%以下
(v)H含有率:0.015%以下
(vi)Al含有率:2.0ppmを超え1000ppm以下
(vii)チタン材の残部は、Tiおよび不純物からなる。
(viii)α相の平均結晶粒径:6.5μm以上100μm以下(結晶粒度番号4〜11.5に相当)
また、α相の平均結晶粒径が10μm以上30μm以下(結晶粒度番号7.5〜11に相当)である実施例については、α相の平均結晶粒径がこの範囲内にない実施例および比較例に比して、評価結果が良好であった。
〈第2の実施例〉
電子ビーム溶解により、原料を溶解して、表1に示す素材11〜14のチタンインゴットを、組成毎に1本ずつ、量産規模で作製した。電子ビーム溶解の際、アルミニウムワイヤーを、火点、およびその近傍に投入して、溶湯のO濃度、およびAl濃度を調整した。各インゴットは、質量が3トンであり、厚さが200mmで、幅が530mmであった。インゴットは、いずれも、Al含有率が1.3〜4.8ppmで、O含有率が0.031〜0.098%、Fe含有率が0.045〜0.095%であった。
これらのインゴットの表面を手入れ後に、酸化防止剤を塗布し、熱間鍛造により、厚さが55mm、幅が560mmのスラブに加工した。熱間鍛造の際の加熱温度は、1050℃であった。スラブは、熱間鍛造途中で長手方向に3分割して、熱間圧延用スラブとした。各スラブの表面に対して、表面削り加工を行ない、完全に疵を除去した後に、酸化防止剤を塗布し、電気炉中で730℃に加熱保持した後に、1パスあたりの圧下率が10〜23%となるように熱間圧延を行ない、厚さが4.8mmの熱間圧延コイルを得た。
これらの熱間圧延コイルに対して、連続通板方式の焼鈍炉で、700℃で5分保持する中間焼鈍処理を行ない、引き続き連続方式の酸洗処理により、脱スケール処理を行なった。このコイルに対して、冷間圧延を行い、厚さが0.5mmになるように仕上げた。
得られたコイルを、長さ方向に3分割した後に、チタン専用の光輝焼鈍炉を用いて、実生産対応が可能な短時間加熱処理を行なった。加熱温度は800℃とし、加熱時間は、3分割したコイルについて、それぞれ、1.5分、3分、6分とした。この加熱処理(光輝焼鈍)の後、各コイルについて、60mの領域に対してのみ、圧下率が1.2%になるようにスキンパス圧延を行ない、スキンパス効果を確認するための素材とした。
表1の素材15は、市中より調達したJIS1種規格のチタンコイル材料である。このチタンコイル材料は、光輝焼鈍仕様であり、量産材と判断できるが、その焼鈍条件は不明である。このチタンコイル材料の板厚は0.5mmであった。このチタンコイル材料の化学組成は、以下の通りであった。Fe含有率は0.032%で、O含有率は0.049%で、Al含有率は0.16ppmであり、いずれも通常の不純物含有率とみなせるレベルであった。また、C含有率、N含有率、およびH含有率についても、通常の不純物含有率とみなせるレベルであることが確認された。このチタンコイル材料の外観から、その製造時には、スキンパス圧延は行われなかったと判断できた。
各チタン材について、コイル長手方向に沿ってJIS13号B引っ張り試験片を採取し、常温で、引張強度、および伸びを測定した。また、各チタン材で、スキンパス圧延を施さなかった部分、およびスキンパス圧延を施した部分のそれぞれについて、表3−1および表3−2に示すチタン材と同様に、エリクセン試験、張出し成形加工試験、およびプレスによる流路形成試験を行い、同様の評価をした。さらに、各チタン材のスキンパス圧延を施さなかった部分について、打ち抜き加工試験を行った。
表4に、各チタン材のスキンパス圧延を施さなかった部分について、表3−1および表3−2に示すチタン材と同様の評価をした結果を、用いた素材の番号(表1参照)、および最終焼鈍時間(保持時間)と併せて示す。表5に、各チタン材について、表3−1および表3−2に示すチタン材と同様の成形性評価をした結果を、用いた素材の番号、および最終焼鈍時間(保持時間)と併せて示す。
表3−1および表3−2ならびに表4に示すように、表4に示す実施例における800℃で1.5〜6分保持する短時間焼鈍により、表3−1および表3−2に示す実施例における535〜735℃で4時間保持する長時間焼鈍と、得られたチタン材が同等の特性を有することが確認できた。これらのチタン材は、評価項目によっては、比較例38として示した素材15(市中品)より優れた特性を示した。この結果は、本発明の実施例で、溶製時にAlを活用してO濃度を調整したことによると判断できる。本発明のチタン材は、短時間焼鈍でも良好な特性が得られることから、生産性に優れることが要求される量産ラインにおいても、問題なく製造が可能である。表5に示すように、スキンパス圧延後のチタン材も良好な特性を有することが確認できた。
〈第3の実施例〉
表4に示したチタン材(厚さが0.5mmで、幅が560mmのコイル)について、スキンパス圧延を施さなかった部分の全長にわたり、幅が31mmのスリット加工を行ない、各チタン材より、厚さが0.5mm、幅が31mmのコイルを15個採取した。これらのコイルについて、打ち抜き(穿孔)加工を行ない、その際のバリの発生挙動と、抜き加工に用いる金型、特にパンチ刃先耐久性を調査した。パンチ、およびダイは、市販の工具用鋼である日立金属工具株式会社製HAP40を加工することにより作製した。
打ち抜き穴形状は、一辺が2.000mmの正方形(コーナーRは、0.050mm)とした。コイルの幅方向に沿って一列に2個の打ち抜き穴を同時に穿孔するパターン(模様)で、順送り方式により、コイルに連続穿孔した。送りピッチは、3mmとした、パンチとダイとのクリアランスは、板厚の6.5%に設定した。穿孔プレス速度は230spmとし、打ち抜きを200万回(200万ショット)行なった。スタンピングオイルは、用いなかった。穿孔には、80トン能力のプレス機を用いた。
表6に、打ち抜き加工試験の結果を、用いた素材の番号、α相の結晶粒度(粒度番号)、およびこの結晶粒度から求めた平均結晶粒径と併せて示す。
図3は、チタン材の平均結晶粒径と、200万ショット後の金型摩耗量との関係を示す図である。金型摩耗量は、パンチの摩耗量とダイの摩耗量とを合算したものである。図4は、穿孔ショット回数と、チタン材(コイル)の打ち抜きに伴って生じたバリの高さとの関係を示す図である。図4の凡例に、各チタン材の平均結晶粒径を示す。
図3から、下記のことがわかる。
(1)平均結晶粒径が15μm付近で、金型の摩耗量は最も小さくなる。
(2)平均結晶粒径が15μmより大きい場合、平均結晶粒径が大きくなるに従って、金型の摩耗量は大きくなる。
図4から、下記のことがわかる。
(3)平均結晶粒径が30.8μm(実施例38)より大きな実施例、および比較例では、穿孔ショット回数が増加するに従って、バリ高さは増加する傾向にある。
(4)平均結晶粒が28.3μm(実施例35)より小さな実施例、および比較例では、穿孔ショット回数が120万回を超えても、バリ高さは8μm以下に留まる。
上記(1)〜(4)の結果から、平均結晶粒径を10μm〜30μmとすることで優れた金型耐久性を確保できることがわかる。
〈第4の実施例〉
第2の実施例で製作したスキンパス後のコイル(実施例36、39、および42、ならびに比較例36)から、スリット加工により、厚さが0.5mmで、幅が240mmのコイルを2本採取した。このコイルから、順送りプレス金型、および250トン能力のプレス機を用いて、固体高分子形燃料電池のセル用セパレータを作製した。
これらのセパレータに、硝酸10質量%、ふっ酸4質量%の水溶液であって、液温を45℃に調整したものを噴霧して、表面酸洗を行ない、そのセパレータの表面粗さをRa値で0.15μmに調整した。酸洗後に、塩酸5質量%水溶液により、洗浄を行ない、続いて、水洗浄を行なった。セパレータ表面には、カーボン粉と導電性カーボンナノチューブ、ならびに導電性有機樹脂とからなるからなる導電性塗料を薄く噴霧処理した。セパレータは、サーペンタイン型の3本の流路が形成されたものであり、流路部の山および谷の幅は、それぞれ1mmであり、深さは0.6mmであった。
これらのセパレータと、市販の標準的なジャパン・ゴア社製MEAとを用いて、固体高分子形燃料電池の単セルを組み立て、この単セルについて、評価試験を行なった。まず、これらの単セルについて、電流密度が0.1A/cm2での定電流運転を、2000時間行った。これは、家庭用据え置き型燃料電池の運転評価環境を模擬した条件である。運転の際、水素、および酸素の利用率は、40%で一定とした。
比較のため、厚さが0.1mmのSUS316L製セパレータであって、表面に平均目付量を50nmとしたシアン浴金めっき処理をしたもの用意した。このセパレータは、シアン浴金めっき処理前に、酸液処理により、表面粗さを、Ra値で0.30μmに調整していた。この表面粗さは、本発明を実施するにあたって好ましいと判断される大きさである。このセパレータを用いて、上記と同様に、固体高分子形燃料電池の単セルを組み立て、この単セルを、同じ条件で運転した。
以上の固体高分子形燃料電池の単セルについて、累積で2000時間運転後のセル電圧を測定した。表7に、チタン材の素材(表1参照)、最終焼鈍の加熱温度および保持時間、セパレータ成形操業評価の結果、ならびに固体高分子形燃料電池の単セルを2000時間運転した後のセル電圧(以下、「運転後セル電圧」という。)を示す。
評価条件でのセル電圧は、いずれも、運転直後は0.788V程度あったが、次第に低下した。セル電圧が高く維持できたセルほど、固体高分子形燃料電池として良好と判断できる。この評価では、運転後セル電圧が、0.750Vを超えたものを、良好と判断している。本発明の実施例では、いずれも、運転後セル電圧は、シアン浴による金めっき処理材(比較例42)と同等の性能が得られ、良好であった。比較例40では、運転後セル電圧が、0.750Vを下回った。比較例40のセルを、評価完了後に解体して、セパレータの表面に対して、走査型X線光電子分光分析装置により表面分析を行なったところ、わずかながらAl酸化物が付着していることが確認された。このAl酸化物は、セルの運転時に、セパレータからAlが溶出することにより生成し、これによりセル電圧が低下したと考えられた。