以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<粘着シート(表面保護フィルム)の全体構造>
ここに開示される粘着シート(表面保護フィルム)は、一般に、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称される形態のものであり、特に光学部品(例えば、偏光板、波長板等の液晶ディスプレイパネル構成要素として用いられる光学部品)の加工時や搬送時に光学部品の表面を保護する粘着シート(表面保護フィルム)として好適である。前記粘着シートにおける粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、ここに開示される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。
ここに開示される粘着シートの典型的な構成例を図1に模式的に示す。この粘着シート1は、基材(例えばポリエステルフィルム)12と、その第一面12上に設けられた帯電防止層11と、基材12の第二面(帯電防止層11とは反対側の表面)に設けられた粘着剤層13とを備える。粘着シート1は、この粘着剤層13を被着体(保護対象、例えば偏光板等の光学部品の表面)に貼り付けて使用される。使用前(すなわち、被着体への貼付前)の粘着シート1は、粘着剤層13の表面(被着体への貼付面)が、少なくとも粘着剤層13側が剥離面となっている剥離ライナーによって保護された形態であってもよい。あるいは、粘着シート1がロール状に巻回されることにより、粘着剤層13が基材12の背面(帯電防止層11の表面)に当接してその表面が保護された形態であってもよい。
図1に示すように、基材12の第一面上に帯電防止層11が直接(他の層を介することなく)形成され、この帯電防止層11が粘着シート1の背面に露出した態様(すなわち、帯電防止層11がトップコート層を兼ねる態様)は、トップコート層とは別に帯電防止層を設ける構成に比べて、基材12上に帯電防止層11が設けられた帯電防止層付きフィルム(ひいては該フィルムを用いてなる粘着シート)は、粘着シートを構成する層の数を少なくできるため、生産性向上等の観点からも有利である。
<基材>
本発明の粘着シートの基材としては、特に限定されないが、樹脂フィルムが好ましい。かかる樹脂フィルムは、各種の樹脂材料をフィルム形状に成形したものであることが好ましい。上記樹脂材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性、等方性等のうち、1または2以上の特性に優れた樹脂フィルムを構成し得るものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース類;ポリカーボネート類;ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー類等を主成分(好ましくは、50質量%よりも多く含まれる成分)とする樹脂材料から構成された透明(着色透明を包含する意味である。)な樹脂フィルムが好ましく挙げられる。上記樹脂フィルムを構成する他の樹脂材料としては、例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体等のスチレン類;例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ないしノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン類;ポリ塩化ビニル類;ナイロン6、ナイロン6,6、芳香族ポリアミド等のポリアミド類等を主成分とする樹脂材料が挙げられる。さらに、ポリイミド類、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルケトン類、ポリフェニレンスルフィド類、ポリビニルアルコール類、ポリ塩化ビニリデン類、ポリビニルブチラール類、ポリアリレート類、ポリオキシメチレン類、エポキシ類等を主成分とする樹脂材料が挙げられる。なお、上記樹脂フィルムを構成する樹脂材料は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
上記基材用の樹脂フィルムは、透明性を有し、かつその光学特性(位相差等)の異方性が少ないものが好ましい。一般に、上記異方性は少ないほど好ましい。特に、光学部品用粘着シートの基材に用いられる樹脂フィルムにおいては、該樹脂フィルムの光学的異方性を少なくすることが有意義である。上記樹脂フィルムは、単層構造であってもよく、組成の異なる複数の層が積層された構造であってもよい。通常は、単層構造の樹脂フィルムが好ましい。
本発明の粘着シートでは、上記基材は、ポリエステルを主成分(好ましくは50質量%よりも多く含まれる成分)とする樹脂(ポリエステル樹脂)がフィルム状に成形された樹脂フィルム(ポリエステル樹脂フィルム)であることが好ましい。特に、上記ポリエステルが主としてPETである樹脂フィルム(PETフィルム)、主としてPENである樹脂フィルム(PENフィルム)が好ましい。
上記基材を構成する樹脂材料には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止成分、可塑剤、着色剤(顔料、染料等)等の各種添加剤が配合されていてもよい。基材の第一面(背面、すなわち帯電防止層が設けられる側の表面)には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、酸処理、アルカリ処理、下塗り剤の塗布等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、例えば、基材背面と帯電防止層との密着性を高めるための処理であることが好ましい。さらに、基材背面にヒドロキシル基等の極性基が導入されるような表面処理も好ましい。加えて、本発明の粘着シートにおいて、基材の第二面(前面、すなわち粘着剤層が形成される側の表面)には、上記背面と同様の表面処理が施されていてもよい。かかる表面処理は、基材(支持体)と粘着剤層との密着性(粘着剤層の投錨性)を高めるための処理であることが好ましい。
また、上記基材の厚みは、粘着シートの用途、目的、使用形態等を考慮して適宜選択することができる。上記基材の厚みは、強度や取扱性等の作業性、コスト等との兼ね合いから、10〜200μmが好ましく、より好ましくは15〜100μm、さらに好ましくは20〜70μmである。
<帯電防止層(トップコート層)>
本発明の粘着シートは、第一面および第二面を有する基材と、前記基材の前記第一面に設けられた帯電防止層と、前記基材の前記第二面に粘着剤組成物より形成される粘着剤層と、を備える粘着シートであって、前記帯電防止層が、導電性ポリマー成分としてポリアニリンスルホン酸、バインダとしてポリエステル樹脂、及び、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を含有する帯電防止剤組成物から形成されることを特徴とする。前記粘着シートが、帯電防止層(トップコート層)を有することにより、粘着シートの帯電防止性と表面抵抗率の経時安定性が向上し、好ましい態様となる。
<導電性ポリマー>
前記帯電防止層は、導電性ポリマー成分として、ポリアニリンスルホン酸を含有することを特徴とする。前記導電性ポリマーを使用することにより、帯電防止層に基づく帯電防止性及び表面抵抗率の経時安定性を満足することができる。また、前記ポリアニリンスルホン酸は、「水溶性」であるが、後述するイソシアネート系架橋剤を使用することにより、帯電防止層中に固定化でき、耐水性を向上できる。前記水溶性の導電性ポリマー含有水溶液を用いることにより、経時の表面抵抗率に優れた帯電防止層が得られ、好ましい態様となる。一方、帯電防止層を形成する際に用いられる導電性ポリマーが「水分散性」である場合、前記水分散性導電性ポリマー含有溶液を用いて、帯電防止層を形成すると、凝集物が発生し易くなり、均一に塗布できず、経時の表面抵抗率が著しく劣る傾向にあるため、好ましくない。
前記導電性ポリマーの使用量は、帯電防止層に含まれるバインダ100質量部に対して、10〜200質量部が好ましく、より好ましくは、25〜150質量部であり、更に好ましくは、40〜120質量部である。前記導電性ポリマーの使用量が少なすぎると、帯電防止効果が小さくなる場合があり、導電性ポリマーの使用量が多すぎると、帯電防止層の基材への密着性が落ちたり、透明性が低下する恐れがあり好ましくない。
前記導電性ポリマー成分として使用されるポリアニリンスルホン酸は、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、5×105以下であるものが好ましく、3×105以下がより好ましい。また、これら導電性ポリマーの重量平均分子量は、通常は1×103以上であることが好ましく、より好ましくは5×103以上である。
前記帯電防止層を形成する方法として、帯電防止層形成用のコーティング材(帯電防止剤組成物)を基材(支持体)の第一面に塗布・乾燥(または硬化)させる方法が採用でき、帯電防止剤組成物の調製に用いる導電性ポリマー成分としては、ポリアニリンスルホン酸、バインダとしてポリエステル樹脂、及び、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を必須成分として含有するものであり、前記必須成分が水に溶解した形態のもの(導電性ポリマー水溶液、又は、単に水溶液という。)を好ましく使用し得る。かかる導電性ポリマー水溶液は、例えば、親水性官能基を有する導電性ポリマー(分子内に親水性官能基を有するモノマーを共重合させる等の手法により合成され得る。)を水に溶解させることにより調製することができる。前記親水性官能基としては、スルホ基、アミノ基、アミド基、イミノ基、ヒドロキシル基、メルカプト基、ヒドラジノ基、カルボキシル基、四級アンモニウム基、硫酸エステル基(−O−SO3H)、リン酸エステル基(例えば−O−PO(OH)2)等が例示される。かかる親水性官能基は塩を形成していてもよい。
また、前記ポリアニリンスルホン酸水溶液の市販品としては、三菱レイヨン社製の商品名「aqua−PASS」などが例示される。
ここに開示される帯電防止層は、導電性ポリマー成分としては、ポリアニリンスルホン酸(ポリアニリンタイプ)を必須成分として含有するが、例えば、その他の1種または2種以上の帯電防止成分(導電性ポリマー以外の有機導電性物質、無機導電性物質、帯電防止剤など)を共に含んでもよい。なお、好ましい一態様としては、前記帯電防止層が、前記導電性ポリマー以外の帯電防止成分を実質的に含有しない、すなわち、前記帯電防止層に含まれる帯電防止成分が実質的に導電性ポリマーのみからなる態様が、より好ましく実施され得る。
前記有機導電性物質としては、4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、第1アミノ基、第2アミノ基、第3アミノ基等のカチオン性官能基を有するカチオン型帯電防止剤;スルホン酸塩や硫酸エステル塩、ホスホン酸塩、リン酸エステル塩等のアニオン性官能基を有するアニオン型帯電防止剤;アルキルベタインおよびその誘導体、イミダゾリンおよびその誘導体、アラニンおよびその誘導体等の両性イオン型帯電防止剤;アミノアルコールおよびその誘導体、グリセリンおよびその誘導体、ポリエチレングリコールおよびその誘導体等のノニオン型帯電防止剤;前記カチオン型、アニオン型、両性イオン型のイオン導電性基(例えば、4級アンモニウム塩基)を有するモノマーを重合もしくは共重合して得られたイオン導電性重合体;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリエチレンイミン、アリルアミン系重合体等の導電性ポリマー;が挙げられる。このような帯電防止剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記無機導電性物質としては、酸化錫、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化チタン、酸化亜鉛、インジウム、錫、アンチモン、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、チタン、鉄、コバルト、ヨウ化銅、ITO(酸化インジウム/酸化錫)、ATO(酸化アンチモン/酸化錫)等が挙げられる。このような無機導電性物質は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記帯電防止剤としては、カチオン型帯電防止剤、アニオン型帯電防止剤、両性イオン型帯電防止剤、ノニオン型帯電防止剤、前記カチオン型、アニオン型、両性イオン型のイオン導電性基を有する単量体を重合もしくは共重合して得られたイオン導電性重合体、等が挙げられる。
<バインダ>
前記帯電防止層は、必須成分として、ポリエステル樹脂をバインダとして含有することを特徴とする。前記ポリエステル樹脂は、ポリエステルを主成分(典型的には50質量%超え、好ましくは75質量%以上、例えば90質量%以上を占める成分)として含む樹脂材料であることが好ましい。前記ポリエステルは、典型的には、1分子中に2個以上のカルボキシル基を有する多価カルボン酸類(典型的にはジカルボン酸類)およびその誘導体(当該多価カルボン酸の無水物、エステル化物、ハロゲン化物等)から選択される1種または2種以上の化合物(多価カルボン酸成分)と、1分子中に2個以上のヒドロキシル基を有する多価アルコール類(典型的にはジオール類)から選択される1種または2種以上の化合物(多価アルコール成分)とが縮合した構造を有することが好ましい。
前記多価カルボン酸成分として採用し得る化合物の例としては、シュウ酸、マロン酸、ジフルオロマロン酸、アルキルマロン酸、コハク酸、テトラフルオロコハク酸、アルキルコハク酸、(±)−リンゴ酸、meso−酒石酸、イタコン酸、マレイン酸、メチルマレイン酸、フマル酸、メチルフマル酸、アセチレンジカルボン酸、グルタル酸、ヘキサフルオログルタル酸、メチルグルタル酸、グルタコン酸、アジピン酸、ジチオアジピン酸、メチルアジピン酸、ジメチルアジピン酸、テトラメチルアジピン酸、メチレンアジピン酸、ムコン酸、ガラクタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、パーフルオロスベリン酸、3,3,6,6−テトラメチルスベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、パーフルオロセバシン酸、ブラシル酸、ドデシルジカルボン酸、トリデシルジカルボン酸、テトラデシルジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸類;シクロアルキルジカルボン酸(例えば、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸)、1,4−(2−ノルボルネン)ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸(ハイミック酸)、アダマンタンジカルボン酸、スピロヘプタンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸類;フタル酸、イソフタル酸、ジチオイソフタル酸、メチルイソフタル酸、ジメチルイソフタル酸、クロロイソフタル酸、ジクロロイソフタル酸、テレフタル酸、メチルテレフタル酸、ジメチルテレフタル酸、クロロテレフタル酸、ブロモテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキソフルオレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ビフェニレンジカルボン酸、ジメチルビフェニレンジカルボン酸、4,4”−p−テレフェニレンジカルボン酸、4,4”−p−クワレルフェニルジカルボン酸、ビベンジルジカルボン酸、アゾベンゼンジカルボン酸、ホモフタル酸、フェニレン二酢酸、フェニレンジプロピオン酸、ナフタレンジカルボン酸、ナフタレンジプロピオン酸、ビフェニル二酢酸、ビフェニルジプロピオン酸、3,3'−[4,4’−(メチレンジ−p−ビフェニレン)ジプロピオン酸、4,4’−ビベンジル二酢酸、3,3’(4,4’−ビベンジル)ジプロピオン酸、オキシジ−p−フェニレン二酢酸などの芳香族ジカルボン酸類;上述したいずれかの多価カルボン酸の酸無水物;上述したいずれかの多価カルボン酸のエステル(例えばアルキルエステル。モノエステル、ジエステル等であり得る。);上述したいずれかの多価カルボン酸に対応する酸ハロゲン化物(例えばジカルボン酸クロリド);等が挙げられる。
前記多価カルボン酸成分として採用し得る化合物の好適例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸類およびその酸無水物;アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、ハイミック酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸類およびその酸無水物;ならびに前記ジカルボン酸類の低級アルキルエステル(例えば、炭素原子数1〜3のモノアルコールとのエステル)等が挙げられる。
一方、前記多価アルコール成分として採用し得る化合物の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、キシリレングリコール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールA等のジオール類が挙げられる。他の例として、これらの化合物のアルキレンオキサイド付加物(例えば、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物等)が挙げられる。
前記ポリエステル樹脂の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として、例えば5×103〜1.5×105程度(好ましくは1×104〜6×104程度)であり得る。また、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば0〜120℃(好ましくは10〜80℃)であり得る。
前記ポリエステル樹脂として、市販の東洋紡社製の商品名「バイロナール」などを用いることができる。
前記帯電防止層は、ここに開示される粘着シートの性能(例えば、帯電防止性等の性能)を大きく損なわない限度で、バインダとして、ポリエステル樹脂以外の樹脂(例えば、アクリル樹脂、アクリルレタン樹脂、アクリルスチレン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、シリコーン樹脂、ポリシラザン樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂等から選択される1種または2種以上の樹脂)をさらに含有し得る。ここに開示される技術の好ましい一態様としては、帯電防止層のバインダが実質的にポリエステル樹脂のみからなる場合である。例えば、バインダに占めるポリエステル樹脂の割合が98〜100質量%である帯電防止層が好ましい。帯電防止層全体に占めるバインダの割合は、例えば50〜95質量%とすることができ、通常は60〜90質量%とすることが適当である。
<滑剤>
ここに開示される技術における帯電防止層は、滑剤として、脂肪酸アミドを使用することが好ましい態様である。滑剤として、脂肪酸アミドを使用することにより、帯電防止層の表面にさらなる剥離処理(例えば、シリコーン系剥離剤、長鎖アルキル系剥離剤等の公知の剥離処理剤を塗布して乾燥させる処理)を施さない態様においても、十分な滑り性と印字密着性を両立した帯電防止層を得られるため、好ましい態様となりうる。このように帯電防止層の表面にさらなる剥離処理が施されていない態様は、剥離処理剤に起因する白化(例えば、加熱加湿条件下に保存されることによる白化)を未然に防止し得る等の点で好ましい。また、耐溶剤性の点からも有利である。
前記脂肪酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、N−オレイルパルチミン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、N,N´−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルセバシン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´−ジオレイルセバシン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N´−ステアリルイソフタル酸アミドなどが挙げられる。これら滑剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記帯電防止層全体に占める滑剤の割合は、1〜50質量%とすることができ、通常は5〜40質量%とすることが適当である。滑剤の含有割合が少なすぎると、滑り性が低下しやすくなる傾向にある。滑剤の含有割合が多すぎると、印字密着性が低下することがあり得る。
ここに開示される技術は、その適用効果を大きく損なわない限度で、帯電防止層が、前記脂肪酸アミドに加えて、他の滑剤を含む態様で実施され得る。かかる他の滑剤の例として、石油系ワックス(パラフィンワックス等)、鉱物系ワックス(モンタンワックス等)、高級脂肪酸(セロチン酸等)、中性脂肪(パルミチン酸トリグリセリド等)のような各種ワックスが挙げられる。あるいは、前記ワックスに加えて、一般的なシリコーン系滑剤、フッ素系滑剤等を補助的に含有させてもよい。ここに開示される技術は、かかるシリコーン系滑剤、フッ素系滑剤等を実質的に含有しない態様で好ましく実施され得る。なお、前記シリコーン系滑剤を多く使用する場合、ピックアップ性に劣る傾向にあるため、好ましくない。ただし、ここに開示される技術の適用効果を大きく損なわない限度において、滑剤とは別の目的で(例えば、後述する帯電防止剤組成物に含まれる消泡剤として)用いられるシリコーン系化合物の含有を排除するものではない。
<架橋剤>
前記帯電防止層は、架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を含有することを特徴とする。前記イソシアネート系架橋剤を用いることにより、帯電防止層を形成する際に必須成分である水溶性のポリアニリンスルホン酸をバインダ中に固定化でき、耐水性に優れ、更に、印字密着性の向上等の効果を実現することができる。
また、前記イソシアネート系架橋剤として、水溶液中でも安定なブロック化イソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい態様である。前記ブロック化イソシアネート系架橋剤の具体例としては、一般的な粘着剤層や帯電防止層の調製の際に使用できるイソシアネート系架橋剤(例えば、後述する粘着剤層に使用されるイソシアネート化合物(イソシアネート系架橋剤))をアルコール類、フェノール類、チオフェノール類、アミン類、イミド類、オキシム類、ラクタム類、活性メチレン化合物類、メルカプタン類、イミン類、尿素類、ジアリール化合物類、及び、重亜硫酸ソーダなどでブロックしたものが使用できる。
ここに開示される技術における帯電防止層は、必要に応じて、帯電防止成分、酸化防止剤、着色剤(顔料、染料等)、流動性調整剤(チクソトロピー剤、増粘剤等)、造膜助剤、界面活性剤(消泡剤等)、防腐剤等の添加剤を含有し得る。
<帯電防止層の形成>
前記帯電防止層(トップコート層)は、前記導電性ポリマー成分等の必須成分および必要に応じて使用される添加剤が適当な溶媒(水など)に溶解した液状組成物(帯電防止層形成用のコーティング材、帯電防止剤組成物)を基材に付与することを含む手法によって好適に形成され得る。例えば、前記帯電防止剤組成物を基材の第一面に塗布して乾燥させ、必要に応じて硬化処理(熱処理、紫外線処理など)を行う手法を好ましく採用し得る。前記帯電防止剤組成物のNV(不揮発分)は、例えば5質量%以下(典型的には0.05〜5質量%)とすることができ、通常は1質量%以下(典型的には0.10〜1質量%)とすることが適当である。厚みの小さい帯電防止層を形成する場合には、前記帯電防止剤組成物のNVを例えば0.05〜0.50質量%(例えば0.10〜0.40質量%)とすることが好ましい。このように低NVの帯電防止剤組成物を用いることにより、より均一な帯電防止層が形成され得る。
前記帯電防止層形成用帯電防止剤組成物を構成する溶媒としては、帯電防止層の形成成分を安定して、溶解し得るものが好ましい。かかる溶媒は、有機溶剤、水、またはこれらの混合溶媒であり得る。前記有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル等のエステル類;メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等の環状エーテル類;n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環族炭化水素類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール等の脂肪族または脂環族アルコール類;アルキレングリコールモノアルキルエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル)、ジアルキレングリコールモノアルキルエーテル等のグリコールエーテル類;等から選択される1種または2種以上を用いることができる。好ましい一態様では、前記帯電防止剤組成物の溶媒が、水または水を主成分とする混合溶媒(例えば、水とエタノールとの混合溶媒)である。
<帯電防止層の性状>
ここに開示される技術における帯電防止層の厚さは、典型的には3〜500nmであり、好ましくは3〜100nm、より好ましくは3〜60nmである。帯電防止層の厚みが小さすぎると、帯電防止層を均一に形成することが困難となり(例えば、帯電防止層の厚みにおいて、場所による厚みのバラツキが大きくなり)、このため、粘着シートの外観にムラが生じやすくなることがあり得る。一方、厚すぎると、基材の特性(光学特性、寸法安定性等)に影響を及ぼす場合がある。
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、帯電防止層の表面において測定される表面抵抗率(Ω/□)としては、好ましくは、1.0×1011未満であり、より好ましくは、8.0×1010未満であり、更に好ましくは、5.0×1010未満である。前記範囲内の表面抵抗率を示す粘着シートは、例えば、液晶セルや半導体装置等のように静電気を嫌う物品の加工または搬送過程等において使用される粘着シートとして好適に利用され得る。なお、前記表面抵抗率は、市販の絶縁抵抗測定装置を用いて、23℃、50%RHの雰囲気下で測定される表面抵抗率から算出することができる。
ここに開示される粘着シートは、その背面(帯電防止層の表面)が、水性インキや油性インキにより(例えば、油性マーキングペンを用いて)容易に印字できる性質を有することが好ましい。かかる粘着シートは、粘着シートを貼り付けた状態で行われる被着体(例えば光学部品)の加工や搬送等の過程において、保護対象たる被着体の識別番号等を前記粘着シートに記載して表示するのに適している。したがって、印字性に優れた粘着シートであることが好ましい。例えば、溶剤がアルコール系であって顔料を含むタイプの油性インキに対して高い印字性を有することが好ましい。また、印字されたインキが擦れや転着により取れにくい(すなわち、印字密着性に優れる)ことが好ましい。ここに開示される粘着シートは、また、印字を修正または消去する際に、印字をアルコール(例えばエチルアルコール)で拭き取っても外観に目立った変化を生じない程度の耐溶剤性を有することが好ましい。
ここに開示される粘着シート(表面保護フィルム)は、基材、粘着剤層、及び、帯電防止層に加えて、さらに他の層を含む態様でも実施され得る。かかる「他の層」の配置としては、基材の第一面(背面)と帯電防止層との間、基材の第二面(前面)と粘着剤層との間等が例示される。基材背面と帯電防止層との間に配置される層は、例えば、帯電防止成分を含む層(上述した帯電防止層)であり得る。基材前面と粘着剤層との間に配置される層は、例えば、前記第二面に対する粘着剤層の投錨性を高める下塗り層(アンカー層)、帯電防止層等であり得る。基材前面に帯電防止層が配置され、帯電防止層の上にアンカー層が配置され、その上に粘着剤層が配置された構成の粘着シートであってもよい。
<粘着剤層>
本発明の粘着シートにおける粘着剤層は、下記のアクリルエマルション系重合体、及び化合物(I)を必須の成分として含有する水分散型アクリル系粘着剤組成物(再剥離用水分散型アクリル系粘着剤組成物)(「本発明の粘着剤組成物」と称する場合がある)により形成される。
<アクリルエマルション系重合体>
本発明の粘着剤組成物におけるアクリルエマルション系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)及びカルボキシル基含有不飽和単量体(B)を必須のモノマー成分(原料モノマー)として構成された重合体(アクリル系重合体)である。なお、アクリルエマルション系重合体は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本明細書では、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち、いずれか一方又は両方)のことをいう。
また、上記アクリルエマルション系重合体は、得られる粘着剤層の外観欠点(凹みなど)を低減させる観点で、前記必須のモノマー成分に加えて、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、及び、ジエチルアクリルアミドからなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体(C)をモノマー成分として構成された重合体であることが好ましい。なお、アクリルエマルション系重合体は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、本明細書では、「メタクリル酸メチル、酢酸ビニル及びジエチルアクリルアミドからなる群より選ばれた少なくとも1種の単量体(C)」を単に「単量体(C)」と称する場合がある。上記アクリルエマルション系重合体を構成する全モノマー成分中に、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル及びジエチルアクリルアミドからなる群より選ばれた2種以上の単量体が含まれる場合には、それら全てが単量体(C)である。
上記粘着シートにおいて、粘着剤層に外観欠点(例えば、表面に凹みなどが存在すること、粘着剤層の厚みにバラツキを生じることなどの外観特性が悪化すること)を有すると、粘着シートにおける外観特性が低下し、粘着シートを貼付した状態で被着体の外観検査を行う場合、検査精度の低下をまねくおそれがある。なお、検査精度の低下は生産性に悪影響を及ぼすことがある。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)は、主たるモノマー成分として用いられ、主に接着性(粘着性)、剥離性(再剥離性)などの粘着剤(又は粘着剤層)としての基本特性を発現する役割を担う。中でも、アクリル酸アルキルエステルは粘着剤層を形成するポリマーに柔軟性を付与し、粘着剤層に密着性、粘着性を発現させる効果を発揮する傾向があり、メタクリル酸アルキルエステルは粘着剤層を形成するポリマーに硬さを与え、粘着剤層のピックアップ性や再剥離性を調節する効果を発揮する傾向がある。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)としては、特に限定されないが、炭素数が2〜16(より好ましくは2〜10、さらに好ましくは4〜8)の、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。なお、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)には、メタクリル酸メチルは含まれない。
中でも、アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数が2〜14(より好ましくは4〜9)のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸イソノニルなどの直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。中でも好ましくは、アクリル酸2−エチルヘキシルである。
また、メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、炭素数が2〜16(より好ましくは2〜10)のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチルなどの直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルやメタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸イソボルニル等の脂環式のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)は、目的とする粘着性などに応じて適宜選択することができる。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)の含有量は、上記アクリルエマルション系重合体を構成するモノマー成分の総量(全量)(全モノマー成分)(100質量%)中、70〜99.5質量%であり、70〜99質量%が好ましく、より好ましくは85〜98質量%、さらに好ましくは87〜96質量%である。上記含有量を70質量%以上とすることにより、粘着剤層の接着性(粘着性)、ピックアップ性、再剥離性が向上するため好ましい。一方、含有量が99.5質量%を超えるとカルボキシル基含有不飽和単量体(B)(更に、単量体(C)を含む場合)の含有量が低下することにより、粘着剤組成物より形成された粘着剤層の外観が悪くなる場合がある。なお、2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)が用いられている場合には、全ての(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)の合計量(総量)が上記範囲を満たせばよい。
上記カルボキシル基含有不飽和単量体(B)は、上記アクリルエマルション系重合体からなるエマルション粒子表面に保護層を形成し、粒子の剪断破壊を防ぐ機能を発揮することができる。この効果はカルボキシル基を塩基で中和することによってさらに向上する。なお、粒子の剪断破壊に対する安定性は、より一般的には機械的安定性という。また、カルボキシル基と反応する非水溶性架橋剤を1種あるいは2種以上組み合わせることで、水除去による粘着剤層形成段階での架橋点としても作用することもできる。さらに非水溶性架橋剤を介し、基材との密着性(投錨性)を向上させることもできる。このようなカルボキシル基含有不飽和単量体(B)としては、例えば、(メタ)アクリル酸(アクリル酸、メタクリル酸)、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレートなどが挙げられる。なお、カルボキシル基含有不飽和単量体(B)には、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物基含有不飽和単量体も含むものとする。これらの中でも、粒子表面での相対濃度が高く、より高密度な保護層を形成し易いことから、アクリル酸が好ましい。なお、上記カルボキシル基含有不飽和単量体(B)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和単量体(B)の含有量は、上記アクリルエマルション系重合体を構成するモノマー成分の総量(全量)(全モノマー成分)(100質量%)中、0.5〜10質量%であり、好ましくは1〜8質量%、より好ましくは2〜6質量%である。上記含有量を10質量%以下とすることにより、粘着剤層を形成した後の、被着体である偏光板表面の官能基との相互作用の増大を抑制して、経時での剥離力(粘着力)増大を抑制でき、剥離性(再剥離性)が向上するため好ましい。また、含有量が10質量%を超える場合には、カルボキシル基含有不飽和単量体(B)(例えば、アクリル酸)は一般的に水溶性であるため、水中で重合して増粘(粘度増加)を引き起こす場合がある。一方、含有量を0.5質量%以上とすることにより、エマルション粒子の機械的安定性が向上するため好ましい。また、粘着剤層と基材との密着性(投錨性)が向上し、糊残りを抑制できるため好ましい。
上記単量体(C)(メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、ジエチルアクリルアミド)は、主に粘着剤層の外観欠点(凹みなど)を減少させる役割を担う。これらの単量体(C)は、重合中に他のモノマーと重合し、その重合物が、エマルション粒子を形成することで、エマルション粒子の安定性が増し、ゲル物(凝集物)を減少させる。また、疎水性の非水溶性架橋剤との親和性が増し、エマルション粒子の分散性を向上させ、分散不良による凹みを減少させる。
上記単量体(C)の含有量は、特に限定されないが、上記アクリルエマルション系重合体を構成するモノマー成分の総量(全量)(全モノマー成分)(100質量%)中、0.5〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜9質量%、さらに好ましくは2〜8質量%である。上記含有量を0.5質量%以上とすることにより、単量体(C)配合の効果(外観不良の抑止効果)を十分に得られるため好ましい。一方、含有量を10質量%以下とすることにより、粘着剤層を形成するポリマーが比較的柔軟になり、被着体との密着性が向上する。なお、上記アクリルエマルション系重合体を構成する全モノマー成分中に、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル及びジエチルアクリルアミドからなる群より選ばれた2種以上の単量体が含まれる場合には、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル及びジエチルアクリルアミドの含有量の合計(合計含有量)が上記の「単量体(C)の含有量」である。
上記アクリルエマルション系重合体を構成するモノマー成分としては、特定の機能付与を目的として、上記モノマー成分[(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A)、カルボキシル基含有不飽和単量体(B)、単量体(C)]以外の他のモノマー成分を併用してもよい。このようなモノマー成分としては、例えば、エマルション粒子内架橋および凝集力向上の目的で、(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能モノマーを、それぞれ5質量%未満の割合で添加(使用)してもよい。なお、上記含有量は、上記アクリルエマルション系重合体を構成するモノマー成分の総量(全モノマー成分)(100質量%)中の含有量である。
上記他のモノマー成分として、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有不飽和単量体は、白化汚染をより低減する観点からは含有量は少ない方が好ましい。具体的には、ヒドロキシル基含有不飽和単量体の添加量(上記アクリルエマルション系重合体を構成するモノマー成分の総量(全量)(全モノマー成分)(100質量%)中の含有量)は、1質量%未満が好ましく、より好ましくは0.1質量%未満、さらに好ましくは実質的に含まない(例えば、0.05質量%未満)ことが好ましい。ただし、ヒドロキシル基とイソシアネート基の架橋や金属架橋の架橋等の架橋点の導入を目的とする場合には、0.01〜10質量%程度含有してもよい。
上記アクリルエマルション系重合体は、上記のモノマー成分(モノマー混合物)を、乳化剤、重合開始剤によりエマルション重合することによって得られる。
<反応性乳化剤>
上記アクリルエマルション系重合体のエマルション重合に用いる乳化剤は、分子中にラジカル重合性官能基が導入された反応性乳化剤(ラジカル重合性官能基を含む反応性乳化剤)である。すなわち、上記アクリルエマルション系重合体は、分子中にラジカル重合性官能基を含む反応性乳化剤を用いて重合されたアクリルエマルション系重合体である。上記ラジカル重合性官能基を含む反応性乳化剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
上記ラジカル重合性官能基を含む反応性乳化剤(以下、「反応性乳化剤」と称する)は、分子中(1分子中)に少なくとも1つのラジカル重合性官能基を含む乳化剤である。上記反応性乳化剤としては、特に限定されず、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ビニルエーテル基(ビニルオキシ基)、アリルエーテル基(アリルオキシ基)等のラジカル重合性官能基を有する種々の反応性乳化剤から、1種又は2種以上を選択して用いることができる。このような反応性乳化剤を用いることにより、乳化剤が重合体中にとりこまれ、乳化剤由来の汚染が低減する。また、反応性乳化剤を用いることにより、本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層の加湿保存下での白化(吸湿白化)が抑制される。このため、光学フィルム等の光学部材用の表面保護用途に特に好適である。
上記反応性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸ナトリウムなどのノニオンアニオン系乳化剤(非イオン性の親水性基を持つアニオン系乳化剤)にプロペニル基やアリルエーテル基等のラジカル重合性官能基(ラジカル反応性基)が導入された形態を有する(又は該形態に相当する)反応性乳化剤が挙げられる。なお、以下では、アニオン系乳化剤にラジカル重合性官能基が導入された形態を有する反応性乳化剤を「アニオン系反応性乳化剤」と称する。また、ノニオンアニオン系乳化剤にラジカル重合性官能基が導入された形態を有する反応性乳化剤を「ノニオンアニオン系反応性乳化剤」と称する。
特に、アニオン系反応性乳化剤(中でも、ノニオンアニオン系反応性乳化剤)を使用した場合に、乳化剤が重合体中にとりこまれることにより、低汚染性を向上させることができる。さらに、特に後述の非水溶性架橋剤がエポキシ基を有する多官能性エポキシ系架橋剤である場合には、その触媒作用により架橋剤の反応性を向上させることができる。アニオン系反応性乳化剤を使用しない場合、エージングでは架橋反応が終了せず、経時で、粘着剤層の剥離力(粘着力)が変化する問題が生じる場合がある。また、当該アニオン系反応性乳化剤は重合体中にとりこまれるため、エポキシ系架橋剤の触媒として一般的に使用される、第4級アンモニウム化合物(例えば、特開2007−31585号公報参照)のように被着体の表面に析出しないため、白化汚染の原因になり得ないため好ましい。
このような反応性乳化剤としては、商品名「アデカリアソープSE−10N」(株式会社ADEKA製)、商品名「アクアロンHS−10」(第一工業製薬株式会社製)、商品名「アクアロンHS−05」(第一工業製薬株式会社製)などの市販品を用いることも可能である。
また、特に不純物イオンが問題となる場合があるため、不純物イオンを取り除き、SO4 2-イオン濃度が100μg/g以下の反応性乳化剤を用いることが望ましい。また、アニオン系反応性乳化剤の場合、アンモニウム塩反応性乳化剤を用いることが望ましい。反応性乳化剤から不純物を取り除く方法としては、イオン交換樹脂法、膜分離法、アルコールを用いた不純物の沈殿ろ過法など適宜な方法を用いることができる。
上記反応性乳化剤の配合量は、上記アクリルエマルション系重合体を構成するモノマー成分の総量(全量)(全モノマー成分)100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜6質量部、さらに好ましくは1〜4.5質量部である。配合量を0.1質量部以上とすることにより、安定した乳化を維持できるため好ましい。一方、配合量を10質量部以下とすることにより、架橋後の粘着剤層の溶剤不溶分を制御しやすくなり、粘着剤(粘着剤層)の凝集力が向上し被着体への汚染を抑制でき、また乳化剤による汚染を抑制できるため好ましい。
上記アクリルエマルション系重合体のエマルション重合に用いる重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル、2,2´−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2´−アゾビス(N,N´−ジメチレンイソブチルアミジン)などのアゾ系重合開始剤;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素などの過酸化物系重合開始剤;過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤、例えば、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩との組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせによるレドックス系重合開始剤などを用いることができる。なお、上記重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記重合開始剤の配合量は、開始剤やモノマー成分の種類などに応じて適宜決定することができ、特に限定されないが、粘着剤層の溶剤不溶分を好ましい範囲内に制御する等の観点から、上記アクリルエマルション系重合体を構成するモノマー成分の総量(全量)(全モノマー成分)100質量部に対して、0.01〜1質量部が好ましく、より好ましくは0.02〜0.5質量部である。
上記アクリルエマルション系重合体のエマルション重合は、一般的な一括重合、連続滴下重合、分割滴下重合など任意の方法を用いることができ、その方法は特に限定されるものではない。なお、低汚染化や架橋後の粘着剤層の溶剤不溶分を好ましい範囲内に制御する等の観点からは、一括重合でかつ低温(例えば55℃以下、好ましくは30℃以下)で重合することが望ましい。このような条件で重合を行うと、高分子量体が得られやすく、低分子量体が少なくなるため、汚染が減少するものと推定される。
上記アクリルエマルション系重合体の溶剤不溶分(溶剤不溶成分の割合、「ゲル分率」と称する場合もある)は、低汚染性や適正な剥離力(粘着力)の観点から、70質量%以上が好ましく、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。溶剤不溶分が70質量%未満では、アクリルエマルション系重合体中に低分子量体が多く含まれるため、架橋の効果のみでは十分に粘着剤層中の低分子量成分を低減できないため、低分子量成分等に由来する被着体汚染が生じたり、剥離力が高くなりすぎる場合がある。上記溶剤不溶分は、重合開始剤、反応温度、乳化剤やモノマー成分の種類等により制御できる。上記溶剤不溶分の上限値は、特に限定されないが、例えば、99質量%である。
なお、本発明において、アクリルエマルション系重合体の溶剤不溶分は、以下の「溶剤不溶分の測定方法」により算出される値である。
[溶剤不溶分の測定方法]
アクリルエマルション系重合体:約0.1gを採取し、平均孔径0.2μmの多孔質テトラフルオロエチレンシート(商品名「NTF1122」、日東電工株式会社製)に包んだ後、凧糸で縛り、その際の質量を測定し、該質量を浸漬前質量とする。なお、該浸漬前質量は、アクリルエマルション系重合体(上記で採取したもの)と、テトラフルオロエチレンシートと、凧糸の総質量である。また、テトラフルオロエチレンシートと凧糸の合計質量も測定しておき、該質量を包袋質量とする。
次に、上記のアクリルエマルション系重合体をテトラフルオロエチレンシートで包み凧糸で縛ったもの(「サンプル」と称する)を、酢酸エチルで満たした50ml容器に入れ、23℃にて7日間静置する。その後、容器からサンプル(酢酸エチル処理後)を取り出して、アルミニウム製カップに移し、130℃で2時間、乾燥機中で乾燥して酢酸エチルを除去した後、質量を測定し、該質量を浸漬後質量とする。そして、下記の式から溶剤不溶分を算出する。
溶剤不溶分(質量%)=(a−b)/(c−b)×100
(上記式において、aは浸漬後質量であり、bは包袋質量であり、cは浸漬前質量である。)
上記アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分(「ゾル分」と称する場合がある)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、4万〜20万が好ましく、より好ましくは5万〜15万、さらに好ましくは6万〜10万である。アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分の重量平均分子量が4万以上であることにより、粘着剤組成物の被着体への濡れ性が向上し、被着体への接着性(粘着性)が向上する。また、アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分の重量平均分子量が20万以下であることにより、被着体への粘着剤組成物の残留量が低減し、低汚染性が向上する。
上記アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分の重量平均分子量(Mw)は、前述のアクリルエマルション系重合体の溶剤不溶分の測定において得られる酢酸エチル処理後の処理液(酢酸エチル溶液)を常温下で風乾して得られるサンプル(アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分)を、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により測定して求めることができる。具体的な測定方法は、以下の方法が挙げられる。
[溶剤可溶分の測定方法]
GPC測定は、東ソー株式会社製GPC装置「HLC−8220GPC」を用いて行い、ポリスチレン換算値にて分子量を求める。測定条件は下記の通りである。
サンプル濃度:0.2質量%(THF溶液)
サンプル注入量:10μl
溶離液:THF
流速:0.6ml/min
測定温度:40℃
カラム:
サンプルカラム;TSKguardcolumn SuperHZ−H 1本+TSKgel SuperHZM−H 2本
リファレンスカラム;TSKgel SuperH−RC 1本
検出器:示差屈折計
本発明の粘着剤組成物中の上記アクリルエマルション系重合体の含有量は、特に限定されないが、粘着剤組成物の不揮発分(固形分)100質量%に対して、80質量%以上が好ましく、より好ましくは90〜99質量%である。
<化合物(I)>
本発明の粘着剤組成物(水分散型アクリル系粘着剤組成物)における化合物(I)は、下記式で表される化合物である。
R1−(PO)a−(EO)b−(PO)c−R2 (I)
上記式(I)中、R1及びR2は、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、又は、水素原子を表す。R1とR2は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が好ましく例示される。上記R1及びR2は、共に水素原子であることが特に好ましい。
上記式(I)中、POはオキシプロピレン基[−CH2CH(CH3)O−]を表す。また、a及びcは、それぞれ、正の整数(1以上の整数)であり、1〜100が好ましく、より好ましくは10〜50、さらに好ましくは10〜30である。aとcは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
上記式(I)中、EOはオキシエチレン基[−CH2CH2O−]を表す。また、bは、正の整数(1以上の整数)であり、1〜50が好ましく、より好ましくは1〜30、さらに好ましくは1〜15である。
上記式(I)において、EOとPOの付加形態(共重合形態)はブロック型である。すなわち、上記化合物(I)は、EOからなるブロック[ポリオキシエチレンブロック、ポリエチレングリコール(PEG)ブロック]の両側にPOからなるブロック[ポリオキシプロピレンブロック、ポリプロピレングリコール(PPG)ブロック]を有するトリブロック共重合体またはその誘導体である。
上記化合物(I)を粘着剤組成物中に配合することで、その消泡性により、気泡由来の欠点をなくすことが可能となり、外観特性も良好となる。
上記化合物(I)は、ポリオキシエチレンブロックが分子の中央部に位置するブロック型の構造であり、分子の両端部に疎水基であるPOからなるブロックが存在する構造であるため、気−液界面に均一に並びにくく、消泡性を発揮できる。ポリオキシエチレンブロックを分子の両端部に有するPEG−PPG−PEGトリブロック共重合体やポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのジブロック共重合体は、PPG−PEG−PPGトリブロック共重合体に比べて気−液界面に均一に並びやすいため、泡沫を安定させる作用を有する。
さらに、上記化合物(I)は、疎水性が高いため、高湿度環境下で被着体上に生じる白化汚染の原因となりにくく、低汚染性が向上する。親水性の高い化合物(特に水溶性の化合物)の場合には、高湿度環境下では、化合物が水分に溶けて被着体に転写しやすくなったり、被着体にブリードした化合物が膨潤して白化しやすくなったりするため、白化汚染を引き起こしやすい。また、上記化合物(I)を用いることにより、本発明の粘着剤組成物より形成された粘着剤層(アクリル系粘着剤層)は加湿保存下でも白化(吸湿白化)しにくい。粘着シートを光学部材用の表面保護フィルムに用いる場合には、粘着剤層が白化(すなわち、粘着シートが白化)すると光学部材の検査工程に支障が生じる場合がある。
上記化合物(I)の、「化合物(I)の総重量」に対する「EOの総重量」の割合[(EOの総重量)/(化合物(I)の総重量)×100](単位:質量%(%))は、特に限定されないが、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜30質量%である。上記割合(EO含有率)が50質量%を超えると、化合物(I)の親水性が高くなり、消泡性が失われる場合がある。また、上記割合が5質量%未満では、化合物(I)の疎水性が高くなりすぎ、ハジキの原因となる場合がある。上記の「化合物(I)の総重量」とは、「本発明の粘着剤組成物中の全ての化合物(I)の重量の合計量」であり、「EOの総重量」とは、「本発明の粘着剤組成物中の全ての化合物(I)に含まれるEOの重量の合計量」である。なお、上記の「化合物(I)の総重量」に対する「EOの総重量」の割合を、「EO含有率」と称する場合がある。EO含有率の測定方法は、例えば、NMR、クロマト法(クロマトグラフィー)またはTOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)が挙げられる。
本発明の粘着剤組成物中の、上記化合物(I)の数平均分子量(Mn)は、1500〜4000が好ましい。数平均分子量が1500以上であると、化合物(I)の、系(粘着剤組成物の系)への相溶性が高くなりすぎることを抑制して、十分な消泡効果が得やすくなり、好ましい。また、数平均分子量が4000以下であると、系への非相溶性が高くなりすぎて、消泡効果が高くなるものの、粘着剤組成物を基材等に塗布する際のハジキの原因となることが抑えられ、好ましい。
上記化合物(I)は市販品を用いることも可能であり、具体的には、例えば、株式会社ADEKA製、商品名「アデカプルロニック 25R−1」、「アデカプルロニック 25R−2」、「アデカプルロニック 17R−2」、「アデカプルロニック 17R−3」;BASFジャパン株式会社製、「プルロニックRPEシリーズ」などが挙げられる。
上記化合物(I)は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明の粘着剤組成物の調製時に上記化合物(I)を配合する際には、溶媒を用いず化合物(I)のみを配合することが好ましいが、配合作業性を向上させる等の観点から、各種溶媒に化合物(I)を分散または溶解させたものを用いてもよい。上記溶媒としては、2−エチルヘキサノール、ブチルセルソルブ、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロパノールなどが挙げられる。
上記化合物(I)の配合量(本発明の粘着剤組成物中の含有量)は、特に限定されないが、アクリルエマルション系重合体100質量部に対して、0.01〜2.5質量部が好ましく、より好ましくは0.02〜2.0質量部、さらに好ましくは0.05〜1.5質量部、最も好ましくは0.1〜1.0質量部である。上記配合量が0.01質量部以上であると、十分な消泡性を得ることができ、好ましい。また、上記配合量が2.5質量部以下であると、汚染を抑制しやすくなり、好ましい。
<非水溶性架橋剤>
本発明の粘着剤組成物は、上記アクリルエマルション系重合体に加え、さらに、分子中(1分子中)にカルボキシル基と反応しうる官能基を2個以上有する非水溶性架橋剤を含有することが好ましい。上記非水溶性架橋剤は、非水溶性の化合物であり、分子中(1分子中)にカルボキシル基と反応しうる官能基を2個以上(例えば、2個〜6個)有する化合物である。1分子中のカルボキシル基と反応しうる官能基の個数は3個〜5個が好ましい。1分子中のカルボキシル基と反応しうる官能基の個数が多くなるほど、粘着剤組成物が密に架橋する(すなわち、粘着剤層を形成するポリマーの架橋構造が密になる)。このため、粘着剤層形成後の粘着剤層のぬれ広がりを防ぐことが可能となる。また、粘着剤層を形成するポリマーが拘束されるため、粘着剤層中の官能基(カルボキシル基)が被着体面に偏析して、粘着剤層と被着体との剥離力(粘着力)が経時で上昇することを防ぐことが可能となる。一方、1分子中のカルボキシル基と反応しうる官能基の個数が6個を超えて多すぎる場合には、ゲル化物が生じる場合がある。
上記非水溶性架橋剤におけるカルボキシル基と反応しうる官能基としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基などが挙げられる。中でも、反応性の観点からエポキシ基が好ましい。さらに、反応性が高いため、架橋反応における未反応物が残りにくく低汚染性に有利であり、粘着剤層中の未反応のカルボキシル基により被着体との剥離力が経時で上昇することを防止できるという観点から、グリシジルアミノ基が好ましい。すなわち、上記非水溶性架橋剤としては、エポキシ基を有するエポキシ系架橋剤が好ましく、中でも、グリシジルアミノ基を有する架橋剤(グリシジルアミノ系架橋剤)が好ましい。なお、上記非水溶性架橋剤がエポキシ系架橋剤(特にグリシジルアミノ系架橋剤)である場合には、1分子中のエポキシ基(特にグリシジルアミノ基)の個数が2個以上(例えば、2個〜6個)であり、3個〜5個が好ましい。
なお、「非水溶性」とは、25℃における水100質量部に対する溶解度(水100質量部に溶解しうる化合物(架橋剤)の質量)が5質量部以下であることをいい、好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。非水溶性の架橋剤を使用することにより、架橋せずに残存した架橋剤が、高湿度環境下で被着体上に生じる白化汚染の原因となりにくく、低汚染性が向上する。水溶性の架橋剤の場合には、高湿度環境下では、残存した架橋剤が水分に溶けて被着体に転写しやすくなるため、白化汚染を引き起こしやすい。また、非水溶性架橋剤は、水溶性架橋剤と比較して、架橋反応(カルボキシル基との反応)への寄与が高く、剥離力の経時上昇防止効果が高い。さらに、非水溶性架橋剤は架橋反応の反応性が高いため、エージングで速やかに架橋反応が進行し、粘着剤層中の未反応のカルボキシル基により被着体との剥離力が経時で上昇することを防止できる。
なお、上記の架橋剤の水に対する溶解度は、例えば、以下のようにして測定しうる。
(水に対する溶解度の測定方法)
同質量の水(25℃)と架橋剤を、攪拌機を用いて回転数300rpm、10分の条件で混合し、遠心分離により水相と油相に分ける。次いで、水相を採取し120℃で1時間乾燥して、乾燥減量から水相中の不揮発分(水100質量部に対する不揮発成分の質量部)を求める。
具体的には、上記非水溶性架橋剤としては、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(例えば、三菱ガス化学株式会社製、商品名「TETRAD−C」等)[25℃における水100質量部に対する溶解度2質量部以下]、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン(例えば、三菱ガス化学株式会社製、商品名「TETRAD−X」等)[25℃における水100質量部に対する溶解度2質量部以下]等のグリシジルアミノ系架橋剤;Tris(2,3−epoxypropyl)isocyanurate(例えば、日産化学工業株式会社製、商品名「TEPIC−G」等)[25℃における水100質量部に対する溶解度2質量部以下]等のその他のエポキシ系架橋剤などが例示される。なお、非水溶性架橋剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
上記非水溶性架橋剤の配合量(本発明の粘着剤組成物中の含有量)は、上記アクリルエマルション系重合体のモノマー成分として用いられるカルボキシル基含有不飽和単量体(B)のカルボキシル基1モルに対する、上記非水溶性架橋剤のカルボキシル基と反応しうる官能基のモル数が0.4モル〜1.3モルとなる配合量とすることが好ましい。すなわち、「上記アクリルエマルション系重合体のモノマー成分として用いられる全てのカルボキシル基含有不飽和単量体(B)のカルボキシル基の総モル数」に対する、「全ての非水溶性架橋剤のカルボキシル基と反応しうる官能基の総モル数」の割合[カルボキシル基と反応しうる官能基/カルボキシル基](モル比)が0.4〜1.3であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.1、さらに好ましくは0.5〜1.0である。[カルボキシル基と反応しうる官能基/カルボキシル基]を0.4以上とすることにより、粘着剤層中の未反応のカルボキシル基を低減し、カルボキシル基と被着体との相互作用に起因する、経時による剥離力上昇を効果的に防止できるため好ましい。さらに、架橋後の粘着剤層の溶剤不溶分を本発明で規定する範囲内に制御しやすくなるため好ましい。また、1.3以下とすることにより、粘着剤層中の未反応の非水溶性架橋剤を低減し、非水溶性架橋剤による外観不良を抑制して、外観特性を向上させることができるため好ましい。
特に、上記非水溶性架橋剤がエポキシ系架橋剤である場合には、[エポキシ基/カルボキシル基](モル比)が0.4〜1.3であることが好ましく、より好ましく0.5〜1.1、さらに好ましくは0.5〜1.0である。さらに、上記非水溶性架橋剤がグリシジルアミノ系架橋剤である場合には、[グリシジルアミノ基/カルボキシル基](モル比)が上記範囲を満たすことが好ましい。
なお、例えば、粘着剤組成物中に、カルボキシル基と反応しうる官能基の官能基当量が110(g/eq)の非水溶性架橋剤を4g添加(配合)する場合、非水溶性架橋剤の有するカルボキシル基と反応しうる官能基のモル数は、例えば、以下のように算出できる。
非水溶性架橋剤の有するカルボキシル基と反応しうる官能基のモル数=[非水溶性架橋剤の配合量(添加量)]/[官能基当量]=4/110
例えば、非水溶性架橋剤として、エポキシ当量が110(g/eq)のエポキシ系架橋剤を4g添加(配合)する場合、エポキシ系架橋剤の有するエポキシ基のモル数は、例えば、以下のように算出できる。
エポキシ系架橋剤の有するエポキシ基のモル数=[エポキシ系架橋剤の配合量(添加量)]/[エポキシ当量]=4/110
<水分散型アクリル系粘着剤組成物>
本発明の粘着剤組成物は、水分散型の粘着剤組成物である。なお、「水分散型」とは、水性媒体に分散可能なことをいう。上記水性媒体は、水を必須成分とする媒体(分散媒)であり、水単独のほかに、水と水溶性有機溶剤との混合物であっても良い。なお、本発明の粘着剤組成物は上記水性媒体等を用いた分散液であってもよい。
なお、本発明の粘着剤組成物には、アクリルエマルション系重合体のモノマー成分等と反応(重合)して粘着剤層を形成するポリマーに取り込まれる反応性(重合性)成分以外の、いわゆる非反応性(非重合性)成分(但し、乾燥により揮発して粘着剤層に残存しない水などの成分は除く)は実質的に含まないことが好ましい。非反応性成分が粘着剤層中に残存すると、これらの成分が被着体に転写して、白化汚染の原因となる場合がある。なお、「実質的に含まない」とは、不可避的に混入する場合を除いて積極的に添加しないことをいい、具体的には、これらの非反応性成分の粘着剤組成物(不揮発分)中の含有量は1質量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%未満、さらに好ましくは0.005質量%未満である。
上記非反応性成分としては、例えば、特開2006−45412で用いられているリン酸エステル系化合物などの粘着剤層表面にブリードして、剥離性(再剥離性)を付与する成分などが挙げられる。また、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどの非反応性乳化剤も挙げられる。
特に、本発明の粘着剤組成物には、低汚染性の観点から、第4級アンモニウム塩を添加しないことが好ましく、さらに第4級アンモニウム化合物を添加しないことが好ましい。これらの化合物は、エポキシ系架橋剤の反応性を向上させるための触媒等として一般的に使用される。しかし、これらの化合物は、粘着剤層を形成する重合体中に組み込まれず粘着剤層中を自由に移動できるため、被着体表面に析出しやすく、粘着剤組成物中にこれらの化合物が含まれる場合には、白化汚染が引き起こされやすく、低汚染性が達成できない場合がある。具体的には、本発明の粘着剤組成物中の第4級アンモニウム塩の含有量は、粘着剤組成物(不揮発分)100質量%に対して、0.1質量%未満が好ましく、より好ましくは0.01質量%未満、さらに好ましくは0.005質量%未満である。さらに、第4級アンモニウム化合物の含有量が上記範囲を満たすことが好ましい。
なお、第4級アンモニウム塩は、特に限定されないが、具体的には、例えば、下記式で表される化合物である。
上記式において、Rl、Rm、Rn、Roは、水素原子を除き、アルキル基、アリール基又はそれらから誘導された基(例えば、置換基を有するアルキル基やアリール基等)を表す。また、Z−は対イオンを表す。
上記の第4級アンモニウム塩や第4級アンモニウム化合物は、特に限定されないが、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化アルキルアンモニウムやその塩類、水酸化テトラフェニルアンモニウム等の水酸化アリールアンモニウムやその塩類、トリラウリルメチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ジココイルジメチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、ジオレイルジメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、ベヘニルトリメチルアンモニウムイオン、ココイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオン、ポリオキシエチレン(15)ココステアリルメチルアンモニウムイオン、オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオン、ココベンジルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオン、デシルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオンを陽イオンとする塩基やその塩類などが挙げられる。
また、本発明の粘着剤組成物には、低汚染性の観点から、上記の第4級アンモニウム塩(又は第4級アンモニウム化合物)と同様に、エポキシ系架橋剤の反応性を向上させるための触媒等として一般的に使用される第3級アミン及びイミダゾール化合物を添加しないことが好ましい。従って、本発明の粘着剤組成物は第3級アミン及びイミダゾール化合物を実質的に含まないことが好ましい。具体的には、本発明の粘着剤組成物中の、第3級アミン及びイミダゾール化合物の含有量(第3級アミン及びイミダゾール化合物の合計の含有量)は、粘着剤組成物(不揮発分)100質量%に対して、0.1質量%未満が好ましく、より好ましくは0.01質量%未満、さらに好ましくは0.005質量%未満である。
上記の第3級アミンは、例えば、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン及びα−メチルベンジル−ジメチルアミンなどの第三級アミン系化合物が挙げられる。上記のイミダゾール化合物は、例えば、2−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−エチルイミダゾール、4−ドデシルイミダゾール、2−フェニル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−エチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−4−メチルイミダゾール及び2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。
なお、本発明の粘着剤組成物は、低汚染性に影響を与えない範囲であれば、上記以外の各種添加剤を含有してもよい。各種添加剤としては、例えば、顔料、充填剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、消泡剤、老化防止剤、防腐剤などが挙げられる。
<アセチレンジオール系化合物>
本発明の粘着剤組成物は、HLB値が13未満のアセチレンジオール系化合物を含有することが好ましい。上記アセチレンジオール系化合物は、分子内にアセチレン結合を有するジオール化合物である。特に限定されないが、アセチレンジオール系化合物としては、以下の式(II)で表される化合物、又は、式(III)で表される化合物が好ましい。
上記式(II)中のRd、Re、RfおよびRgは、炭素数1〜20の炭化水素基を表し、ヘテロ原子を含んでいてもよい。なお、Rd、Re、RfおよびRgは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
上記式(II)中のRd、Re、RfおよびRgは、直鎖状または分岐鎖状のいずれの構造であってもよい。中でも、RdおよびRgは、炭素数2〜10のアルキル基が好ましく、特に、炭素数4のn−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基が好ましい。また、ReおよびRfは、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、特に、炭素数1又は2のメチル基やエチル基が好ましい。
上記式(II)で表されるアセチレンジオール系化合物の具体例としては、例えば、7,10−ジメチル−8−ヘキサデシン−7,10−ジオール、4,7−ジメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオールなどが挙げられる。
また、本発明の粘着剤組成物の調製時に、上記式(II)で表されるアセチレンジオール系化合物を配合する際には、配合作業性を向上させる目的で、上記アセチレンジオール系化合物を各種溶媒に分散または溶解したものを用いてもよい。溶媒としては、2−エチルヘキサノール、ブチルセルソルブ、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロパノールなどが挙げられる。これらの溶媒の中でも、エマルション系への分散性の観点から、エチレングリコール、プロピレングリコールが好ましく用いられる。また、配合の際のアセチレンジオール系化合物を溶媒に分散または溶解したもの(100質量%)に対する溶媒含有率は、エチレングリコールを溶媒として用いる場合には、40質量%未満(例えば、15〜35質量%)が好ましく、プロピレングリコールを溶媒として用いる場合には70質量%未満(例えば、20〜60質量%)が好ましい。
上記式(II)で表されるアセチレンジオール系化合物は市販品を用いてもよく、例えば、エアープロダクツ社製のサーフィノール104シリーズが挙げられる。より具体的には、サーフィノール104E、サーフィノール104H、サーフィノール104A、サーフィノール104BC、サーフィノール104DPM、サーフィノール104PA、サーフィノール104PG−50などが挙げられる。
また、上記アセチレンジオール系化合物としては、例えば、下記式(III)で表される化合物が好ましい。
上記式(III)中のRh、Ri、RjおよびRkは、炭素数1〜20の炭化水素基を表し、ヘテロ原子を含んでいてもよい。なお、Rh、Ri、RjおよびRkは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、上記式(III)中のp及びqは0以上の整数であり、pとqの和[p+q]は1以上であり、1〜20が好ましく、より好ましくは1〜9である。なお、p及びqは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。p及びqは、アセチレンジオール系化合物のHLB値が13未満になるように調整される数であることが好ましい。また、pが0の場合[−O−(CH2CH2O)pH]はヒドロキシル基であり、qについても同じである。
上記式(III)中のRh、Ri、RjおよびRkは、直鎖状または分岐鎖状のいずれの構造であってもよい。中でも、RhおよびRkは、炭素数2〜10のアルキル基が好ましく、特に、炭素数4のn−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基が好ましい。また、RiおよびRjは、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、特に、炭素数1又は2のメチル基やエチル基が好ましい。
上記式(III)で表されるアセチレンジオール系化合物の具体例としては、例えば、7,10−ジメチル−8−ヘキサデシン−7,10−ジオールのエチレンオキシド付加物、4,7−ジメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド付加物、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド付加物、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオールのエチレンオキシド付加物などが挙げられる。なお、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド付加物のエチレンオキシドの平均付加モル数は、9以下が好ましい。
上記式(III)中のp及びqは、アセチレンジオール系化合物のHLB値が13未満になるように調整される数であることが好ましい。例えば、上記式(III)で表されるアセチレンジオール系化合物が2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド付加物である場合には、pとqの合計は9以下が好ましい。
本発明の粘着剤組成物の調製時に、上記式(III)で表されるアセチレンジオール系化合物(エチレンオキシド付加アセチレンジオール系化合物)を配合する際には、溶媒を用いず化合物(C)のみを配合することが好ましいが、配合作業性を向上させる目的で、上記のアセチレンジオール系化合物を各種溶媒に分散または溶解したものを用いてもよい。上記溶媒としては、2−エチルヘキサノール、ブチルセルソルブ、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロパノールなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもエマルション系への分散性の観点からエチレングリコール、プロピレングリコールが好ましく用いられる。
上記式(III)で表されるアセチレンジオール系化合物は市販品を用いてもよく、例えば、エアープロダクツ社製のサーフィノール400シリーズが挙げられる。より具体的には、サーフィノール420、サーフィノール440などが挙げられる。
上記のアセチレンジオール系化合物は、単独または2種以上を混合して用いることができる。
上記アセチレンジオール系化合物のHLB値(単に「HLB」と称する場合もある)は、特に限定されないが、13未満が好ましく、より好ましくは1〜10、より好ましくは3〜8、さらに好ましくは3〜5である。HLB値が13以上では、被着体への汚染性が悪くなる場合がある。なお、HLB値は、GriffinによるHydrophile−Lipophile Balanceであり、界面活性剤の水や油への親和性の程度を表す値である。HLB値の定義については、W.C.Griffin:J.Soc.Cosmetic Chemists,1,311(1949)や、高橋越民、難波義郎、小池基生、小林正雄 共著、「界面活性剤ハンドブック」、第3版、工学図書株式会社出版、昭和47年11月25日、p179〜182などに記載されている。
上記アセチレンジオール系化合物の配合量(本発明の粘着剤組成物中の含有量)は、アクリルエマルション系重合体100質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜7質量部、さらに好ましくは0.2〜5質量部、より一層好ましくは0.5〜3質量部である。上記配合量が0.01質量部未満では、非水溶性架橋剤の凹み欠点による外観不良が生じる場合があり、10質量部を超えると、アセチレンジオール系化合物による被着体への汚染が生じる場合がある。
上記アセチレンジオール系化合物を配合することにより、粘着剤組成物中の非水溶性架橋剤の分散性向上や粘着剤層形成時のレベリング効果が働くためと推定され、非水溶性架橋剤由来の凹み欠点の発生を抑止しうる。
本発明の粘着剤組成物は、上記アクリルエマルション系重合体、及び上記化合物(I)を混合することにより調製できる。必要に応じて、上記非水溶性架橋剤やその他の各種添加剤を混合することにより調製できる。上記混合方法は、公知慣用のエマルションの混合方法を用いることができ、特に限定されないが、例えば、攪拌機を用いた攪拌が好ましい。攪拌条件は、特に限定されないが、例えば、温度は10〜50℃が好ましく、より好ましくは20〜35℃である。攪拌時間は5分〜30分が好ましく、より好ましくは10分〜20分である。攪拌回転数は、10〜3000rpmが好ましく、より好ましくは30〜1000rpmである。
上記混合において、化合物(I)を加えるタイミングは特に限定されず、アクリルエマルション系重合体の重合中に化合物(I)を加えてもよいし、重合後のアクリルエマルション系重合体と化合物(I)を混合してもよい。非水溶性架橋剤を加えるタイミングも特に限定されないが、ポットライフの観点から、粘着剤組成物の塗布直前が好ましい。
本発明の粘着シートでは、本発明の粘着剤組成物より粘着剤層(粘着剤層)を形成しうる。上記粘着剤層の形成方法は、特に限定されず、公知慣用の粘着剤層の形成方法を用いることができる。例えば、本発明の粘着剤組成物を、基材(透明フィルム基材)又は剥離フィルム(剥離ライナー)上に塗布(塗工)し、必要に応じて、乾燥および/または硬化することにより粘着剤層を形成することができる。乾燥および/または硬化の具体的手法としては、例えば温度条件70〜160℃で10秒〜10分間加熱乾燥する手法があげられる。架橋は、乾燥工程での脱水、乾燥後に粘着剤層を加温すること等により行う。
なお、上記の粘着剤層の形成方法における塗布(塗工)には、公知のコーティング法を用いることが可能であり、慣用のコーター、例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター、コンマコーター、ダイレクトコーターなどを用いることができる。
本発明の粘着シートにおける粘着剤層の厚みは、特に限定されないが、1〜50μmが好ましく、より好ましくは1〜35μm、さらに好ましくは3〜25μmである。
本発明の粘着シートにおける上記粘着剤層(架橋後)の溶剤不溶分は、特に限定されないが、90質量%以上が好ましく、より好ましくは95質量%以上である。溶剤不溶分が90質量%以上であると、被着体への汚染物の転写を抑制して、白化汚染、ピックアップ性及び再剥離性の不足(重剥離化)を抑制でき、好ましい。上記粘着剤層の溶剤不溶分の上限値は、特に限定されないが、例えば、99質量%が好ましい。なお、上記粘着剤層(架橋後)の溶剤不溶分は、上述のアクリルエマルション系重合体の溶剤不溶分の測定方法と同様の方法で測定することができる。具体的には、上述の「溶剤不溶分の測定方法」において、「アクリルエマルション系重合体」を「粘着剤層(架橋後)」に読み替えた方法で測定することができる。
また、上記粘着剤層を形成する(メタ)アクリル系ポリマー(架橋後)のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、−70℃〜−10℃が好ましく、より好ましくは−70℃〜−20℃、さらに好ましくは−70℃〜−40℃、最も好ましくは−70℃〜−60℃である。ガラス転移温度が−10℃以下であると、十分な剥離力(粘着力)を得て、加工時などの浮きや剥がれを抑制でき、好ましい。また、−70℃であると、より高速の剥離速度(引張速度)領域では重剥離化して、作業効率が低下するという不具合を抑制でき、好ましい。この粘着剤層を形成する(メタ)アクリル系ポリマー(架橋後)のガラス転移温度は、例えば、アクリルエマルション系重合体を調製する際のモノマー組成によっても調整できる。
本発明の粘着シートは、必要に応じて、粘着面(粘着剤層のうち被着体に貼り付けられる側の面)を保護する目的で、該粘着面に剥離ライナー(セパレーター)を貼り合わせた形態(剥離ライナー付き粘着シートの形態)であってもよい。剥離ライナーを構成する基材としては、特に限定されないが、例えば、紙、合成樹脂フィルム等が挙げられる。中でも、表面平滑性に優れる点より、合成樹脂フィルムが好ましい。例えば、剥離ライナーの基材としては、特に限定さないが、各種の樹脂フィルム(特にポリエステルフィルム)が好ましく挙げられる。剥離ライナーの厚みは、特に限定されないが、5〜200μmであることが好ましく、より好ましくは10〜100μmである。剥離ライナーのうち粘着剤層に貼り合わされる面には、従来公知の離型剤(例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系、脂肪酸アミド系等)あるいはシリカ粉等を用いて、離型または防汚処理が施されていてもよい。
本発明の粘着シートは、基材、帯電防止層および粘着剤層に加えて、さらに他の層を含んでいてもよい。かかる「他の層」の配置としては、基材の第一面(背面)と帯電防止層との間、基材の第二面(前面)と粘着剤層との間等が挙げられる。基材背面と帯電防止層との間に配置される層は、例えば、帯電防止成分を含む層(別の帯電防止層)であってもよい。基材前面と粘着剤層との間に配置される層は、例えば、上記第二面に対する粘着剤層の投錨性を高める下塗り層(アンカー層)、帯電防止層等であってもよい。基材前面に帯電防止層が配置され、該帯電防止層の上にアンカー層が配置され、その上に粘着剤層が配置された構成の粘着シートであってもよい。
本発明の粘着シートは、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)、フィールドエミッションディスプレイ、タッチパネルディスプレイなどのパネルを構成する偏光板、位相差板、反射防止板、波長板、光学補償フィルム、輝度向上フィルム、導電性フィルムなど光学部材(光学プラスチック、光学ガラス、光学フィルム等)の表面保護用途(光学部材用の表面保護フィルム等)として好ましく用いられる。ただし、用途はこれに限定されるものではなく、半導体、回路、各種プリント基板、各種マスク、リードフレームなどの微細加工部品の製造の際の表面保護や破損防止、あるいは異物等の除去、マスキング等にも使用することができる。
<光学部材>
本発明の光学部材は、前記粘着シートが貼り合わされてなることが好ましい。つまり、本発明の光学部材は、光学部材上に上記粘着シート(表面保護フィルム)が設けられている構造を有することが好ましい。なお、光学部材としては、上述の光学部材が好ましく挙げられる。さらに、本発明の光学部材では、上記粘着シートは、ピックアップ性や再剥離性などに優れるので、粘着シートを剥がしたときに、光学部材の破損等を生じることがなく、好ましい。
以下、本発明に関連するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。また、表中の配合量(添加量)は不揮発分(固形分)を示した。
また、以下の説明中の各特性は、それぞれ次のようにして測定または評価した。
<アクリルエマルション系重合体の溶剤不溶分の測定>
アクリルエマルション系重合体:約0.1gを採取し、平均孔径0.2μmの多孔質テトラフルオロエチレンシート(商品名「NTF1122」、日東電工株式会社製)に包んだ後、凧糸で縛り、その際の質量を測定し、該質量を浸漬前質量とする。なお、該浸漬前質量は、アクリルエマルション系重合体(上記で採取したもの)と、テトラフルオロエチレンシートと、凧糸の総質量である。また、テトラフルオロエチレンシートと凧糸の合計質量も測定しておき、該質量を包袋質量とする。
次に、上記のアクリルエマルション系重合体をテトラフルオロエチレンシートで包み凧糸で縛ったもの(「サンプル」と称する)を、酢酸エチルで満たした50ml容器に入れ、23℃にて7日間静置する。その後、容器からサンプル(酢酸エチル処理後)を取り出して、アルミニウム製カップに移し、130℃で2時間、乾燥機中で乾燥して酢酸エチルを除去した後、質量を測定し、該質量を浸漬後質量とする。そして、下記の式から溶剤不溶分を算出する。
溶剤不溶分(質量%)=(a−b)/(c−b)×100
(上記式において、aは浸漬後質量であり、bは包袋質量であり、cは浸漬前質量である。)
<アクリルエマルション系重合体の溶剤可溶分の重量平均分子量(Mw)の測定>
重量平均分子量(Mw)は、東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8220GPC)を用いて測定を行った。測定条件は下記の通りである。
サンプル濃度:0.2質量%(THF溶液)
サンプル注入量:10μl
溶離液:THF
流速:0.6ml/min
測定温度:40℃
カラム:
サンプルカラム;TSKguardcolumn SuperHZ−H(1本)+TSKgel SuperHZM−H(2本)
リファレンスカラム;TSKgel SuperH−RC(1本)
検出器:示差屈折計(RI)
なお、重量平均分子量はポリスチレン換算値にて求めた。
<厚み測定>
デジタルマイクロメーター(アンリツ社製、製品名「KC−351C」)を用いて測定した。
<表面抵抗率の測定>
温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下、抵抗率計(三菱化学アナリティック製、ハイレスタUP MCP−HT450型)を用い、JIS−K−6911に準じて測定を行った。
なお、本発明における表面抵抗率(Ω/□)としては、初期(23℃、50%RHの条件下に30分間保持したもの)および室温(23℃、50%RHの条件下)で1週間保持したものについて表面抵抗率を測定した。
なお、前記表面抵抗率は、初期及び室温で1週間保持したもの共に、好ましくは、1.0×1011Ω/□未満であり、より好ましくは、5.0×1010Ω/□未満であり、更に好ましくは、1.5×1010Ω/□未満である。前記範囲内の表面抵抗率を示す粘着シートは、例えば、液晶セルや半導体装置等のように静電気を嫌う物品の加工または搬送過程等において使用される粘着シートとして好適に利用され得る。
<耐白化性評価>
粘着シートの背面(帯電防止層の表面)を、手袋をはめた試験者が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムで1回強く擦り、その擦られた部分(擦過部)が周囲(非擦過部)と比べて透明に抜けるか否かを目視にて観察した。その結果、非擦過部と擦過部との透明性の違いが目視で確認できた場合には、白化が認められたと判定した。白化が顕著になると、透明な擦過部とその周囲(白化した非擦過部)とのコントラストが、よりはっきりする現象がみられる。
上記目視観察は、以下のとおり、暗室(反射法、透過法)および明室において行った。
(a)暗室での反射法による観察:外光を遮った室内(暗室)にて、各例に係る粘着シートの背面(帯電防止層の表面)から100cmの位置に100Wの蛍光灯(三菱電機株式会社製、商品名「ルピカライン」)を配置し、視点を変えながらサンプルの背面を目視観察した。
(b)暗室での透過法による観察:上記暗室にて、粘着シートの前面(帯電防止層が設けられた側とは反対側の表面)から10cmの位置に上記蛍光灯を配置し、視点を変えながらサンプルの背面を目視観察した。
(c)明室での観察:外光の入る窓を有する室内(明室)にて、晴天の日中に、直射日光の当たらない窓際にてサンプルの背面を目視観察した。
これら3種類の条件下における観察結果を、以下の5段階で表記した。
0:いずれの観察条件においても白化(擦過部と非擦過部とのが透明に)は認められなかった。
1:暗室での反射法による観察において僅かな白化が認められた。
2:暗室での透過法による観察において僅かな白化が認められた。
3:明室での観察において僅かな白化が認められた。
4:明室での観察において明らかな白化が認められた。
上記の耐白化性評価を、初期(作製後、50℃、15%RHの条件下に3日間保持したもの)および加熱加湿後(作製後、50℃、15%RHの条件下に3日間保持し、さらに60℃、95%RHという高温多湿条件下に2週間保持したもの)の粘着シートについて行った。
<外観特性評価>
粘着シート作製前に、粘着シートに用いる帯電防止層(トップコート)付き基材について、外光の入る窓を有する室内(明室)にて、晴天の日中に、直射日光の当たらない窓際にて、背面(帯電防止層側の表面)を目視観察した。そして、ムラやスジが確認されなかったものを帯電防止層付き基材の外観特性が良好と評価し、ムラやスジが確認されたものを帯電防止層付き基材の外観特性が不良と評価した。
次に、粘着シート作製後、粘着シートの粘着剤層表面の状態を目視で観察し、縦10cm、横10cmの観察範囲内の欠点(凹み及び気泡)の個数を測定した。そして、外見欠点の個数が0〜100個である場合、粘着剤層の外観特性が良好と評価し、外観欠点の個数が101個以上である場合、粘着剤層の外観特性が不良と評価した。
そして、帯電防止層付き基材の外観特性及び粘着剤層の外観特性の両方が良好と評価できる場合、粘着シートの外観特性を良好と評価した。一方、帯電防止層付き基材の外観特性及び粘着剤層の外観特性の両方が不良と評価できる場合、帯電防止層付き基材の外観特性が良好と評価でき、粘着剤層の外観特性が不良と評価できる場合、及び、帯電防止層付き基材の外観特性が不良と評価でき、粘着剤層の外観特性が良好と評価できる場合、粘着シートの外観特性を不良と評価した。
<背面剥離力(粘着力)の測定>
図2に示すように、各例に係る粘着シート1を幅70mm、長さ100mmのサイズにカットし、この粘着シート1の粘着面(粘着剤層20が設けられた側)20Aを、両面粘着テープ130を用いてSUS304ステンレス板132上に固定した。樹脂層フィルム164上にアクリル系粘着剤162を有する片面粘着テープ(日東電工社製、商品名「No.31B」、幅19mm)160を100mmの長さにカットした。この粘着テープ160の粘着面162Aを、粘着シート1の背面(すなわち、帯電防止層14の表面)1Aに、0.25MPaの圧力、0.3m/minの速度で圧着した。これを23℃、50%RHの条件下に30分間放置した。その後、万能引張試験機を用いて、粘着シート1の背面1Aから粘着テープ160を、剥離速度0.3m/min、剥離角度180°の条件で剥離し、このときの背面剥離力[N/19mm]を測定した。
なお、前記背面剥離力が、3.5N/19mm以上が好ましく、より好ましくは、4.0N/19mm以上であり、更に好ましくは、5.0N/19mm以上であり、最も好ましくは6.0N/19mm以上である。前記剥離力が、3.0N/19mm未満であると、十分な剥離力が得られず、ピックアップ性に劣り、保護フィルムの剥離作業性が低下するため、好ましくない。
<対偏光板剥離力(粘着力)の測定>
被着体として、幅70mm、長さ100mmのプレーン偏光板(日東電工社製のTAC偏光板、SEG1425DU)を用意した。各例に係る粘着シートを幅25mm、長さ100mmのサイズにカットし、その粘着面を上記偏光板に、0.25MPaの圧力、0.3m/minの速度で圧着した。これを初期(23℃、50%RHの条件下に30分間保持したもの)、および、加温後(40℃の条件下に1週間保持したもの)を、23℃、50%RHの環境下で万能引張試験機を用いて剥離速度0.3m/min、剥離角度180°の条件で上記偏光板から粘着シートを剥離し、このときの対偏光板剥離力[N/25mm]を測定した。
なお、前記対偏光板剥離力は、初期及び加熱後共に、0.05〜2.5N/25mmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜2.0N/25mm、さらに好ましくは0.2〜1.6N/25mm、特に好ましくは0.3〜1.4N/25mmである。前記剥離力が、2.5N/25mm以下であると、たとえば、偏光板や液晶表示装置の製造工程で粘着シートが剥離しにくくなって、生産性、取り扱い性が低下するという問題の発生を抑制でき、好ましい。また、0.05N/25mm以上であると、製造工程で粘着シートの浮きや剥がれが生じにくくなり、粘着シートとして良好な保護機能が得やすくなり、好ましい。
<ピックアップ性>
図3に示すように、各例に係る粘着シート1を幅50mm、長さ100mmのサイズにカットし、この粘着シート1の粘着面(粘着剤層20が設けられた側)20Aを、プレーン偏光板(日東電工社製のTAC偏光板、SEG1425DU)50上に0.25MPaの圧力、0.3m/minの速度で圧着した。
片面粘着テープ60(日東電工社製、商品名「No.31B」、幅19mm)を幅10mm、長さ50mmにカットした。この粘着テープ60の粘着剤層(粘着面)62を、端部が30mmはみ出るように粘着シート1の幅50mmの背面(すなわち、帯電防止層14の表面)中心上に、手で圧着した。これを23℃、50%RHの条件下に10秒間放置した。その後、片面粘着テープ60を手で剥離し、粘着シート1の剥がれ具合(ピックアップ性)を評価した。
評価基準は、粘着シートが剥離可能な場合は○、剥離できずに粘着シートが残ってしまう場合は×とした。
<印字性(印字密着性)の評価>
23℃×50%RHの測定環境下でシャチハタ社製Xスタンパーを用いて、帯電防止層表面上に印字を施した後、その印字の上からニチバン社製のセロテープ(登録商標)を貼り付け、次いで、剥離速度30m/min、剥離角度180°の条件で剥離する。その後、剥離後の表面を目視観察し、印字面積の50%以上が剥離された場合を×(印字性不良)、印字面積の50%以上が剥離されずに残った場合を○(印字性良好)と評価した。
<帯電防止剤組成物溶液1の調製>
バインダとして、ポリエステル樹脂バイロナールMD−1480(25%水溶液、東洋紡社製)、導電性ポリマーとして、ポリアニリンスルホン酸(aqua-PASS、重量平均分子量4万、三菱レイヨン社製)、架橋剤としてジイソプロピルアミンでブロックしたヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、滑剤として、オレイン酸アミドを水/エタノール(1/3)の混合溶媒に、バインダを固形分量で100質量部、導電性ポリマーを固形分量で75質量部、架橋剤を固形分量で10質量部、滑剤を固形分量で30質量部とを加え、約20分間撹拌して十分に混合した。このようにして、NV約0.4%の帯電防止剤組成物溶液1を調製した。
<帯電防止剤組成物溶液3の調製>
バインダとしてポリエステル樹脂バイロナールMD−1480(25%水溶液、東洋紡社製)、導電性ポリマーとしてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)0.5%およびポリスチレンスルホネート(重量平均分子量15万)(PSS)0.8%を含む水溶液(Bytron P、H.C.Stark社製)を水/エタノール(1/1)の混合溶媒に、バインダを固形分量で100質量部と、導電性ポリマーを固形分量で50質量部と、メラミン系架橋剤(スミマールM−50W、住友化学社製)を固形分量で5質量部とを加え、約20分間撹拌して十分に混合した。このようにして、NV約0.4%の帯電防止剤組成物溶液3を調製した。
<帯電防止剤組成物溶液5の調製>
水−アルコール溶媒中に、カチオン性高分子からなる帯電防止剤(コニシ株式会社製、商品名「ボンディップ−P主剤」)と、硬化剤としてのエポキシ樹脂(コニシ株式会社製品、商品名「ボンディップ−P硬化剤」)とを、NV基準(約0.8%)で100:46.7の質量比で含む帯電防止剤組成物溶液5を調製した。
(帯電防止剤組成物溶液2及び4)
表1に示すように配合した以外は、帯電防止剤組成物溶液1と同様にして、帯電防止剤組成物溶液2及び4を調製した。
(アクリルエマルション系重合体1)
容器に、水90質量部、及び、表2に示すように、アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)96質量部、アクリル酸(AA)4質量部、及び、ノニオンアニオン系反応性乳化剤(商品名「アクアロンHS−10」、第一工業製薬株式会社製)3質量部を配合した後、ホモミキサーにより攪拌混合し、モノマーエマルションを調製した。
次いで、冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、水50質量部、重合開始剤(過硫酸アンモニウム)0.01質量部、及び、上記で調製したモノマーエマルションのうち10質量%にあたる量を添加し、攪拌しながら、75℃で1時間乳化重合した。その後、さらに重合開始剤(過硫酸アンモニウム)0.05質量部を添加し、次いで、攪拌しながら、残りのモノマーエマルションの全て(90質量%にあたる量)を3時間かけて添加して、その後、75℃で3時間反応させた。次いで、これを30℃に冷却して、濃度10質量%のアンモニア水を加えてpH8に調整して、アクリルエマルション系重合体1の水分散液を調製した。
(アクリルエマルション系重合体2)
表2に示すように、反応性乳化剤として、ノニオンアニオン系反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSE−10N」、株式会社ADEKA製)3質量部に変更した以外は、アクリルエマルション系重合体1と同様にして、アクリルエマルション系重合体2を調製した。
(アクリルエマルション系重合体3)
表2に示すように、アクリルエマルション系重合体のモノマー原料を、アクリル酸2−エチルヘキシル(2EHA)92質量部、メタクリル酸メチル(MMA)4質量部、アクリル酸(AA)4質量部に変更した以外は、アクリルエマルション系重合体1と同様にして、アクリルエマルション系重合体3を調製した。
(アクリルエマルション系重合体4〜14)
表2に示すように配合した以外は、アクリルエマルション系重合体1〜3と同様にして、アクリルエマルション系重合体4〜14を調製した。なお、アクリルエマルション系重合体4〜14においては、同じ構成(原料、配合量など)の同じアクリルエマルション系重合体を含んでいるが、便宜上、「アクリルエマルション系重合体4〜14」と記載した。また、アクリルエマルション系重合体11については、重合時に凝集物が生成した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物1)
表3に示すように、上記で得られたアクリルエマルション系重合体1の水分散液(固形分100質量部)に、化合物(I)であるアデカプルロニック25R−1[株式会社ADEKA製、商品名「アデカプルロニック25R−1」、数平均分子量2800、EO含有率:10質量%、有効成分:100質量%]1質量部、非水溶性架橋剤であるエポキシ系架橋剤[三菱ガス化学株式会社製、商品名「テトラッド−C」、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エポキシ当量:110、官能基数:4]3質量部を、攪拌機を用いて、23℃、300rpm、10分の攪拌条件で攪拌混合し、水分散型アクリル系粘着剤組成物1を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物4)
表3に示すように、化合物(I)であるアデカプルロニック17R−3[株式会社ADEKA製、商品名「アデカプルロニック17R−3」、数平均分子量:2000、EO含有率:30質量%、有効成分:100質量%]0.5質量部に変更した以外は、上記水分散型アクリル系粘着剤組成物1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物4を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物5)
表3に示すように、化合物(I)であるポリ(プロピレングリコール)−block−ポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(プロピレングリコール)[PPO−PEO−PPO、SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、数平均分子量:2000、EO含有率:50質量%、有効成分:100質量%]0.5質量部を使用し、架橋剤を、非水溶性架橋剤であるエポキシ系架橋剤[三菱ガス化学株式会社製、商品名「テトラッド−X」、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、エポキシ当量:100、官能基数:4]3質量部の使用に変更した以外は、上記水分散型アクリル系粘着剤組成物1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物5を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物8)
表3に示すように、化合物(I)を使用せず、代わりに、化合物(I)以外の化合物であるポリ(エチレングリコール−ran−プロピレングリコール[POLYRan(EO−PO)、SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、数平均分子量:2500、EO含有率:75質量%、有効成分:100質量%]0.5質量部の使用に変更した以外は、上記水分散型アクリル系粘着剤組成物1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物8を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物9)
表3に示すように、化合物(I)を使用せず、代わりに、化合物(I)以外の化合物であるポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(プロピレングリコール)−block−ポリ(エチレングリコール[PEO−PPO−PEO、SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、数平均分子量:1900、EO含有率:50質量%、有効成分:100質量%]3質量部
の使用に変更した以外は、上記水分散型アクリル系粘着剤組成物1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物9を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物12)
表3に示すように、更に、アセチレンジオール系化合物[エアープロダクツ社製、商品名「サーフィノール104H」、HLB値:4、有効成分:75質量%]1質量部(固形分)を使用した以外は、上記水分散型アクリル系粘着剤組成物1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物12を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物13)
表3に示すように、更に、アセチレンジオール系化合物[エアープロダクツ社製、商品名「サーフィノール420」、HLB値:4、有効成分:100質量%]1質量部を使用した以外は、上記水分散型アクリル系粘着剤組成物1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物13を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物14)
表3に示すように、更に、アセチレンジオール系化合物[エアープロダクツ社製、商品名「サーフィノール440」、HLB値:8、有効成分:100質量%]1質量部に変更した以外は、上記水分散型アクリル系粘着剤組成物1と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物14を調製した。
(水分散型アクリル系粘着剤組成物2、3、6、7、10及び11)
表3に示すように配合した以外は、水分散型アクリル系粘着剤組成物1等と同様にして、水分散型アクリル系粘着剤組成物2、3、6、7、及び10を調製した。
なお、水分散型アクリル系粘着剤組成物11については、上述したアクリルエマルション系重合体11を使用したため、粘着シート(粘着剤層)を調製することができなかった。
<実施例1>
(帯電防止層1の形成)
一方の面(第一面)にコロナ処理が施された厚み38μm、幅30cm、長さ40cmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基材)を用意した。このPETフィルムのコロナ処理面に上記帯電防止剤組成物溶液1をバーコーターで塗布し、130℃に2分間加熱して乾燥させた。このようにして、PETフィルムの第一面に厚み30nmの透明な帯電防止層1を有する基材を作製した。
(粘着シートの作製)
PETフィルムの片面にシリコーン系剥離処理剤による剥離処理が施された離型シートを用意した。この離型シートの剥離面(上記剥離処理が施された面)上に上記水分散型アクリル系粘着剤組成物1を塗布し、乾燥させて、厚み15μmの粘着剤層を形成した。その粘着剤層を上記帯電防止層を有する基材の他方の面(第二面、すなわち上記帯電防止層が設けられていない面)に貼り合わせた後、23℃、50%RHの環境下で7日間養生(エージング)して、粘着シート(表面保護フィルム)を得た。
<比較例7>
<帯電防止層5の調製>
一方の面(第一面)にコロナ処理が施された厚み38μm、幅30cm、長さ40cmの透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意した。このPETフィルムのコロナ処理面に上記帯電防止剤組成物溶液5を乾燥後の厚みが60nmとなるようにバーコーターで塗布し、130℃で1分間加熱して乾燥させ帯電防止層を形成した。次いで、前記帯電防止層の表面に、滑り剤として、長鎖アルキルカルバメート系の剥離処理剤(一方社油脂工業株式会社製品、商品名「ピーロイル1010」)をNV基準(約0.5%)で40nmとなるように塗付して、130℃で1分間加熱して乾燥させ、2層構成となる帯電防止層5を形成した。
実施例及び比較例に係る粘着シートの概略構成と、これらを上述の方法により、測定または評価した結果とを、表1〜5に示した。また、特別な記載がない場合には、実施例2〜9及び比較例1〜7については、実施例1と同様の方法にて、表1〜表3に基づき、帯電防止剤組成物溶液、帯電防止層、アクリルエマルション系重合体、水分散型アクリル系粘着剤組成物、及び、粘着シートを作製した。なお、比較例7を除き、実施例1と同様に、その他実施例及び比較例の帯電防止層の厚みは全て30nmに調製した。
表2及び表3中の略称を、以下に説明する。なお、以下では、「化合物(I)の総重量」に対する「EOの総重量」の割合を、「EO含有率」と表記した。
2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
MMA:メタクリル酸メチル
AA:アクリル酸
HS10:ノニオンアニオン系反応性乳化剤(商品名「アクアロンHS−10」、第一工業製薬株式会社製)
SE−10N:ノニオンアニオン系反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSE−10N」、株式会社ADEKA製)
T/C:非水溶性架橋剤であるエポキシ系架橋剤[商品名「テトラッド−C」、三菱ガス化学株式会社製、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エポキシ当量:110、官能基数:4]
T/X:非水溶性架橋剤であるエポキシ系架橋剤[商品名「テトラッド−X」、三菱ガス化学株式会社製、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、エポキシ当量:100、官能基数:4]
アデカプルロニック25R−1:株式会社ADEKA製、商品名「アデカプルロニック25R−1」(数平均分子量2800、EO含有率10質量%、有効成分100質量%)
アデカプルロニック17R−3:株式会社ADEKA製、商品名「アデカプルロニック17R−3」(数平均分子量2000、EO含有率30質量%、有効成分100質量%)
PPO−PEO−PPO:SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、ポリ(プロピレングリコール)−block−ポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(プロピレングリコール)(数平均分子量2000、EO含有率50質量%、有効成分100質量%)
POLYRan(EO−PO):SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、ポリ(エチレングリコール−ran−プロピレングリコール)(数平均分子量2500、EO含有率75質量%、有効成分100質量%)
PEO−PPO−PEO:SIGMA−ALDRICH(シグマ−アルドリッチ)社製、ポリ(エチレングリコール)−block−ポリ(プロピレングリコール)−block−ポリ(エチレングリコール)(数平均分子量1900、EO含有率50質量%、有効成分100質量%)
サーフィノール104H: エアープロダクツ社製、商品名「サーフィノール104H」(HLB値4、有効成分75質量%)
サーフィノール420 : エアープロダクツ社製、商品名「サーフィノール420」(HLB値4、有効成分100質量%)
サーフィノール440 : エアープロダクツ社製、商品名「サーフィノール440」(HLB値8、有効成分100質量%)
注)表4及び表5中の帯電防止層及び粘着剤層の種類(番号)とは、帯電防止剤組成物溶液及び水分散型アクリル系粘着剤組成物の種類(番号)と一致するものである。
上記評価結果より、全ての実施例において、所望の粘着剤層、及び、帯電防止層を有する粘着シートを用いたことにより、帯電防止特性(表面抵抗率など)、粘着特性(再剥離性、ピックアップ性など)、耐白化性、外観特性、および印字密着性に優れることが確認できた。一方、比較例においては、所望の粘着剤層や帯電防止層などを有する粘着シートを用いなかったため、全ての特性を満足できるものは得られなかった。特に、比較例1〜3においては、粘着剤組成物の調製の際に、必須成分である化合物(I)を使用しなかったため、消泡効果が得られず、外観特性に劣り、比較例2及び3においては、更に耐白化性についても、実施例よりも劣ることが確認された。