図1は、補強フィルムの一実施形態を表す断面図である。補強フィルム10は、フィルム基材1の一主面上に粘着剤層2を備える。粘着剤層2は、基材フィルム1の一主面上に固着積層されている。粘着剤層2は光硬化性組成物からなる光硬化性粘着剤であり、紫外線等の活性光線の照射により硬化して、被着体との接着力が上昇する。
図2は、粘着剤層2の主面上にセパレータ5が仮着された補強フィルムの断面図である。図3は、デバイス20の表面に補強フィルム10が貼設された状態を示す断面図である。
粘着剤層2の表面からセパレータ5を剥離除去し、粘着剤層2の露出面をデバイス20の表面に貼り合わせることにより、デバイス20の表面に補強フィルム10が貼設される。この状態では、粘着剤層2は光硬化前であり、デバイス20上に補強フィルム10(粘着剤層2)が仮着された状態である。粘着剤層2を光硬化することにより、デバイス20と粘着剤層2との界面での接着力が上昇し、デバイス20と補強フィルム10とが固着される。
「固着」とは積層された2つの層が強固に接着しており、両者の界面での剥離が不可能または困難な状態である。「仮着」とは、積層された2つの層間の接着力が小さく、両者の界面で容易に剥離できる状態である。
図2に示す補強フィルムでは、フィルム基材1と粘着剤層2とが固着しており、セパレータ5は粘着剤層2に仮着されている。フィルム基材1とセパレータ5を剥離すると、粘着剤層2とセパレータ5との界面で剥離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。剥離後のセパレータ5上には粘着剤は残存しない。
図3に示す補強フィルム10が貼設されたデバイスは、粘着剤層2の光硬化前においては、デバイス20と粘着剤層2とが仮着状態である。フィルム基材1とデバイス20を剥離すると、粘着剤層2とデバイス20との界面で剥離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。デバイス20上には粘着剤が残存しないため、リワークが容易である。粘着剤層2を光硬化後は、粘着剤層2とデバイス20との接着力が上昇するため、デバイス20からフィルム1を剥離することは困難であり、両者を剥離すると粘着剤層2の凝集破壊が生じる場合がある。
[補強フィルムの構成]
<フィルム基材>
フィルム基材1としては、プラスチックフィルムが用いられる。フィルム基材1と粘着剤層2とを固着するために、フィルム基材1の粘着剤層2付設面は離型処理が施されていないことが好ましい。
フィルム基材の厚みは、例えば4〜500μm程度である。剛性付与や衝撃緩和等によりデバイスを補強する観点から、フィルム基材1の厚みは12μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、45μm以上がさらに好ましい。補強フィルムに可撓性を持たせハンドリング性を高める観点から、フィルム基材1の厚みは300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。機械強度と可撓性とを両立する観点から、フィルム基材1の圧縮強さは、100〜3000kg/cm2が好ましく、200〜2900kg/cm2がより好ましく、300〜2800kg/cm2がさらに好ましく、400〜2700kg/cm2が特に好ましい。
フィルム基材1を構成するプラスチック材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。ディスプレイ等の光学デバイス用の補強フィルムにおいては、フィルム基材1は透明フィルムであることが好ましい。また、フィルム基材1側から活性光線を照射して粘着剤層2の光硬化を行う場合、フィルム基材1は、粘着剤層の硬化に用いられる活性光線に対する透明性を有することが好ましい。機械強度と透明性とを兼ね備えることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂が好適に用いられる。被着体側から活性光線を照射して粘着剤層を硬化する場合は、被着体が活性光線に対する透明性を有していればよく、フィルム基材1は活性光線に対して透明でなくてもよい。
フィルム基材1の表面には、易接着層、易滑層、離型層、帯電防止層、ハードコート層、反射防止層等の機能性コーティングが設けられていてもよい。なお、前述のように、フィルム基材1と粘着剤層2とを固着するために、フィルム基材1の粘着剤層2付設面には離型層が設けられていないことが好ましい。
<粘着剤層>
フィルム基材11上に固着積層される粘着剤層2は、ベースポリマー、光硬化剤および光重合開始剤を含む光硬化性組成物からなる。粘着剤層2は、光硬化前はデバイスやデバイス部品等の被着体との接着力が小さいため、リワークが容易である。粘着剤層2は、光硬化により被着体との接着力が向上するため、デバイスの使用時においても補強フィルムがデバイス表面から剥離し難く、接着信頼性に優れる。
補強フィルムが、ディスプレイ等の光学デバイスに用いられる場合、粘着剤層2の全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。粘着剤層2のヘイズは、2%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.7%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
(ベースポリマー)
ベースポリマーは粘着剤組成物の主構成成分である。硬化前の粘着剤層2の接着性を適切な範囲とする観点から、ベースポリマーには架橋構造が導入されていることが好ましい。ベースポリマーとしては、窒素原子を実質的に含まないポリマーが用いられ、ベースポリマーの構成元素中の窒素の割合は、0.01モル%以下である。ベースポリマーの構成元素中の窒素の割合は、0.005モル%以下、0.001モル%以下、または0であってもよい。なお、ベースポリマーに架橋構造が導入されている場合は、架橋構造導入前のポリマーが実質的に窒素原子を含まないものであればよく、架橋剤は窒素原子を含んでいてもよい。
ベースポリマーは、窒素原子を実質的に含まないものであれば、その種類は特に限定されず、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ゴム系ポリマー等を適宜に選択すればよい。特に、光学的透明性および接着性に優れ、かつ接着性の制御が容易であることから、粘着剤組成物は、ベースポリマーとしてアクリル系ポリマーを含有するものが好ましく、粘着剤組成物の50重量%以上がアクリル系ポリマーであることが好ましい。
アクリル系ポリマーとしては、主たるモノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むものが好適に用いられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好適に用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は直鎖でもよく分枝を有していてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソトリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸イソテトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸アラルキル等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対して40重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、55重量%以上がさらに好ましい。
アクリル系ベースポリマーは、共重合成分として、架橋可能な官能基を有するモノマー成分を含有することが好ましい。ベースポリマーに架橋構造が導入されることにより、凝集力が向上し、粘着剤層2の接着力が向上するとともに、リワークの際の被着体への糊残りが低減する傾向がある。
架橋可能な官能基を有するモノマーとしてはヒドロキシ基含有モノマーや、カルボキシ基含有モノマーが挙げられる。ベースポリマーのヒドロキシ基やカルボキシ基は、後述の架橋剤との反応点となる。例えば、イソシアネート系架橋剤を用いる場合は、ベースポリマーの共重合成分として、ヒドロキシ基含有モノマーを含有することが好ましい。エポキシ系架橋剤を用いる場合は、ベースポリマーの共重合成分として、カルボキシ基含有モノマーを含有することが好ましい。また、窒素原子を実質的に含むことなく粘着剤の凝集性を高める観点からも、ベースポリマーはモノマー成分としてカルボキシ基含有モノマーを含むことが好ましい。
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(メタ)アクリル酸4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチル等が挙げられる。カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられる。
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分全量に対するヒドロキシ基含有モノマーとカルボキシ基含有モノマーの合計量が、1〜30重量%であることが好ましく、2〜25重量%であることがより好ましく、3〜20重量%であることがさらに好ましい。特に、カルボキシ基含有モノマーの含有量が上記範囲であることが好ましい。
アクリル系ベースポリマーは、上記以外のモノマー成分を含んでいてもよい。アクリル系ベースポリマーは、モノマー成分として、例えば、ビニルエステルモノマー、芳香族ビニルモノマー、エポキシ基含有モノマー、ビニルエーテルモノマー、スルホ基含有モノマー、リン酸基含有モノマー、酸無水物基含有モノマー等を含んでいてもよい。
窒素原子を実質的に含まないベースポリマーを得るために、ベースポリマーの構成モノマー成分は、シアノ基含有モノマー、ラクタム構造含有モノマー、アミド基含有モノマー、モルホリン環含有モノマー等の窒素原子含有モノマーを含まないことが好ましい。
光硬化前の粘着剤の接着特性は、ベースポリマーの構成成分および分子量に左右されやすい。ベースポリマーの分子量が大きいほど、粘着剤が硬くなる傾向がある。アクリル系ベースポリマーの重量平均分子量は、10万〜500万が好ましく、30万〜300万がより好ましく、50万〜200万がさらに好ましい。なお、ベースポリマーに架橋構造が導入される場合、ベースポリマーの分子量とは、架橋構造導入前の分子量を指す。
ベースポリマーが構成モノマー成分として、高Tgモノマーを含むことにより、粘着剤の凝集力が向上し、光硬化前はリワーク性に優れ、光硬化後は高い接着燐来性を示す傾向がある。高Tgモノマーとは、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が高いモノマーを意味する。ホモポリマーのTgが40℃以上のモノマーとしては、ジシクロペンタニルメタクリレート(Tg:175℃)、ジシクロペンタニルアクリレート(Tg:120℃)、イソボルニルメタクリレート(Tg:173℃)、イソボルニルアクリレート(Tg:97℃)、メチルメタクリレート(Tg:105℃)、1−アダマンチルメタクリレート(Tg:250℃)、1−アダマンチルアクリレート(Tg:153℃)等の(メタ)アクリル酸エステル;メタクリル酸(Tg:228℃)、アクリル酸(Tg:106℃)等の酸モノマー等が挙げられる。
アクリル系ベースポリマーは、ホモポリマーのTgが40℃以上のモノマーの含有量が、構成モノマー成分全量に対して1〜50重量%であることが好ましく、3〜40重量%であることがより好ましい。適度な硬さを有しリワーク性に優れる粘着剤層を形成するためには、ベースポリマーのモノマー成分として、ホモポリマーのTgが80℃以上のモノマー成分を含むことが好ましく、ホモポリマーのTgが100℃以上のモノマー成分を含むことがより好ましい。アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分全量に対するホモポリマーのTgが100℃以上のモノマーの含有量が、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましく、3重量%以上であることが特に好ましい。
上記モノマー成分を、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の各種公知の方法により重合することによりベースポリマーとしてのアクリル系ポリマーが得られる。粘着剤の接着力、保持力等の特性のバランスや、コスト等の観点から、溶液重合法が好ましい。溶液重合の溶媒としては、酢酸エチル、トルエン等が用いられる。溶液濃度は通常20〜80重量%程度である。溶液重合に用いられる重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系等の各種公知のものを使用できる。分子量を調整するために、連鎖移動剤が用いられていてもよい。反応温度は通常50〜80℃程度、反応時間は通常1〜8時間程度である。
(オリゴマー)
粘着剤組成物は、ベースポリマーに加えてオリゴマーを含んでいてもよい。例えば、粘着剤組成物は、アクリル系ベースポリマーに加えてアクリル系オリゴマーを含んでいてもよい。オリゴマーとしては、重量平均分子量が1000〜30000程度のものが用いられる。アクリル系オリゴマーは、主たる構成モノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する。光硬化後の粘着剤層2の接着力を高める観点から、アクリル系オリゴマーのガラス転移温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。
オリゴマーは、ベースポリマーと同様に架橋可能な官能基を含んでいてもよい。粘着剤組成物がオリゴマーを含む場合、ベースポリマーと同様、オリゴマーも窒素原子を実質的に含まないものが好ましい。
粘着剤組成物におけるオリゴマーの含有量は特に限定されない。粘着剤組成物がアクリル系ベースポリマーに加えてアクリル系オリゴマーを含有する場合、接着力を適切な範囲に調整する観点から、ベースポリマー100重量部に対するオリゴマーの量は0.1〜20重量部が好ましく、0.3〜10重量部がより好ましく、0.5〜5重量部がさらに好ましい。
(架橋剤)
粘着剤に適度の凝集力を持たせる観点から、ベースポリマーには架橋構造が導入されることが好ましい。例えば、ベースポリマーを重合後の溶液に架橋剤を添加し、必要に応じて加熱を行うことにより、架橋構造が導入される。架橋剤は、1分子中に2個以上の架橋性官能基を有する。架橋剤は1分子中に3個以上の架橋性官能基を有するものであってもよい。
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。これらの架橋剤は、ベースポリマー中に導入されたヒドロキシ基やカルボキシ基等の官能基と反応して架橋構造を形成する。ベースポリマーのヒドロキシ基やカルボキシ基との反応性が高く、架橋構造の導入が容易であることから、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤が好ましい。
イソシアネート系架橋剤としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが用いられる。イソシアネート系架橋剤は、1分子中に3個以上のイソシアネート基を有するものであってもよい。イソシアネート系架橋剤としては、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類;2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートHL」)、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(例えば、三井化学製「タケネートD110N」)、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(例えば、東ソー製「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物等が挙げられる。
エポキシ系架橋剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物が用いられる。エポキシ系架橋剤は、1分子中に3個以上または4個以上のエポキシ基を有するものであってもよい。エポキシ系架橋剤のエポキシ基はグリシジル基であってもよい。エポキシ系架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、ジグリシジルアニリン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o−フタル酸ジグリシジルエステル、トリグリシジル−トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノール−S−ジグリシジルエーテル等が挙げられる。エポキシ系架橋剤として、ナガセケムテックス製の「デナコール」、三菱ガス化学製の「テトラッドX」「テトラッドC」等の市販品を用いてもよい。
ベースポリマーに架橋構造が導入される場合、前述のように、ベースポリマーが窒素原子を実質的に含まなければ、架橋剤はイソシアネート等の窒素原子を含むものであってもよい。架橋剤が窒素原子を含んでいる場合でも、ベースポリマーが窒素原子を実質的に含まないものであれば、プラズマ処理等の表面活性化処理を行った被着体に対する初期接着力を低く抑えることができる。表面活性化処理の有無による初期接着力の差をより小さくする観点からは、架橋剤も窒素原子を実質的に含まないものが好ましく、エポキシ系架橋剤が特に好ましく用いられる。
架橋剤の使用量は、ベースポリマーの組成や分子量等に応じて適宜に調整すればよい。架橋剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.01〜10重量部程度であり、好ましくは0.1〜7重量部、より好ましくは0.2〜6重量部、さらに好ましくは0.3〜5重量部である。また、ベースポリマー100重量部に対する架橋剤の使用量(重量部)を架橋剤の官能基当量(g/eq)で割った値は、0.00015〜0.11が好ましく、0.001〜0.077がより好ましく、0.003〜0.055がさらに好ましく、0.0045〜0.044が特に好ましい。永久接着を目的とした一般的なアクリル系の光学用透明粘着剤よりも架橋剤の使用量を大きくして粘着剤に適度な硬さを持たせることにより、リワーク時の被着体への糊残りが低減し、リワーク性が向上する傾向がある。
(架橋促進剤)
粘着剤組成物は、架橋剤に加えて、架橋促進剤を含んでいてもよい。架橋促進剤を用いることにより、架橋反応(ベースポリマーへの架橋構造の導入)を効率的に進行させることができる。また、架橋促進剤を用いてベースポリマーに架橋構造を導入することにより、補強フィルムの粘着剤層が、表面が活性化処理された被着体に対しても、低い初期接着力を示す傾向がある。
架橋促進剤としては、有機金属錯体(キレート)、金属とアルコキシ基との化合物、および金属とアシルオキシ基との化合物等の有機金属化合物;ならびに第三級アミン等が挙げられる。特に、常温の溶液状態での架橋反応の進行を抑制して粘着剤組成物のポットライフを確保する観点から、有機金属化合物が好ましい。また、粘着剤層の厚み方向全体にわたって均一な架橋構造を導入しやすいことから、架橋促進剤としては常温で液体である有機金属化合物が好ましい。
有機金属化合物の金属としては、鉄、錫、アルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、チタン、鉛、コバルト、亜鉛等が挙げられる。
鉄系架橋促進剤としては、トリス(アセチルアセトナート)鉄、トリス(ヘキサン−2,4−ジオネート)鉄、トリス(ヘプタン−2,4−ジオネート)鉄、トリス(ヘプタン−3,5−ジオネート)鉄、トリス(5−メチルヘキサン−2,4−ジオネート)鉄、トリス(オクタン−2,4−ジオネート)鉄、トリス(6−メチルヘプタン−2,4−ジオネート)鉄、トリス(2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオネート)鉄、トリス(ノナン−2,4−ジオネート)鉄、トリス(ノナン−4,6−ジオネート)鉄、トリス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオネート)鉄、トリス(トリデカン−6,8−ジオネート)鉄、トリス(1−フェニルブタン−1,3−ジオネート)鉄、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナート)鉄、トリス(アセト酢酸エチル)鉄、トリス(アセト酢酸−n−プロピル)鉄、トリス(アセト酢酸イソプロピル)鉄、トリス(アセト酢酸−n−ブチル)鉄、トリス(アセト酢酸−sec−ブチル)鉄、トリス(アセト酢酸−tert−ブチル)鉄、トリス(プロピオニル酢酸メチル)鉄、トリス(プロピオニル酢酸エチル)鉄、トリス(プロピオニル酢酸−n−プロピル)鉄、トリス(プロピオニル酢酸イソプロピル)鉄、トリス(プロピオニル酢酸−n−ブチル)鉄、トリス(プロピオニル酢酸−sec−ブチル)鉄、トリス(プロピオニル酢酸−tert−ブチル)鉄、トリス(アセト酢酸ベンジル)鉄、トリス(マロン酸ジメチル)鉄、トリス(マロン酸ジエチル)鉄、トリメトキシ鉄、トリエトキシ鉄、トリイソプロポキシ鉄等が挙げられる。
錫系架橋促進剤としては、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルフィド、トリブチル錫メトキシド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキシド、トリブチル錫エトキシド、ジオクチル錫オキシド、ジオクチル錫ジラウレート、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2−エチルヘキサン酸錫等が挙げられる。
アルミニウム系架橋促進剤としては、アルミニウムジイソプロピレートモノsec-ブチレート、アルミニウムsec-ブチレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムエチレート、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムアルキルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムモノアセチルアセトナートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリスアセチルアセトナート等が挙げられる。
ジルコニウム系架橋促進剤としては、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセトナート、ナフテン酸ジルコニウム、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド等が挙げられる。
亜鉛系架橋促進剤としては、ナフテン酸亜鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛等が挙げられる。
チタン系架橋促進剤としては、ジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラオクチルチタネート、ブトキシチタニウムトリクロライド、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタントリエタノールアミネート、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトナート、チタンイソステアレート、チタンジエタノールアミネート、チタンアミノエチルアミノエタノレート等挙げられる。
鉛系架橋促進剤としてはオレイン酸鉛、2−エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、ナフテン酸鉛等が挙げられる。
コバルト系架橋促進剤としては、2−エチルヘキサン酸コバルト、安息香酸コバルト等が挙げられる。
架橋促進剤の使用量は、架橋剤の種類および使用量、ならびに架橋促進剤の種類に応じて適宜に調整すればよい。架橋促進剤の使用量は、一般には、ベースポリマー100重量部に対して0.001〜2重量部程度である。
エポキシ系架橋剤に対して架橋促進剤を用いる場合、架橋促進剤の使用量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましい。エポキシ系架橋剤には、架橋促進剤として非スズ系有機金属を用いることが好ましい。イソシアネート系架橋剤に対して架橋促進剤を用いる場合、架橋促進剤の使用量は、0.001〜0.1重量部が好ましい。
粘着剤組成物は、架橋促進剤に加えて架橋遅延剤を含んでいてもよい。架橋遅延剤を添加することにより、常温の溶液状態での架橋反応の進行を抑制して粘着剤組成物のポットライフを長期化できる。架橋遅延剤としては、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル等のβ−ケトエステル;アセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、ベンゾイルアセトン等のβ−ジケトン;tert−ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。中でもβ‐ジケトンが好ましく、アセチルアセトンが特に好ましい。架橋遅延剤の使用量は、粘着剤組成物全量100重量部に対して、0.1〜30重量部程度であり、好ましくは25重量部以下、より好ましくは20重量部以下である。
(光硬化剤)
粘着剤層2を構成する粘着剤組成物は、ベースポリマーに加えて光硬化剤を含有する。光硬化性の粘着剤組成物からなる粘着剤層2は、被着体との貼り合わせ後に光硬化を行うと、被着体との接着力が向上する。
光硬化剤は、1分子中に2個以上の重合性官能基を有する。重合性官能基としては、光ラジカル反応による重合性を有するものが好ましく、光硬化剤としては1分子中に2個以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましい。また、光硬化剤は、ベースポリマーとの相溶性を示す化合物が好ましい。ベースポリマーとの適度な相溶性を示すことから、光硬化剤は常温で液体であるものが好ましい。光硬化剤がベースポリマーと相溶し、組成物中で均一に分散することにより、被着体との接触面積を確保可能であり、かつ透明性の高い粘着剤層2を形成できる。また、ベースポリマーと光硬化剤とが適度な相溶性を示すことにより、光硬化後の粘着剤層2内に光硬化剤による架橋構造が均一に導入されやすく、被着体との接着力が適切に上昇する傾向がある。
ベースポリマーと光硬化剤との相溶性は、主に、化合物の構造の影響を受ける。化合物の構造と相溶性は、例えばハンセン溶解度パラメータにより評価可能であり、ベースポリマーと光硬化剤の溶解度パラメータの差が小さいほど相溶性が高くなる傾向がある。
アクリル系ベースポリマーとの相溶性が高いことから、光硬化剤として多官能(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。多官能(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ブタジエン(メタ)アクリレート、イソプレン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、アクリル系ベースポリマーとの相溶性に優れることから、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートまたはポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが特に好ましい。
ベースポリマーと光硬化剤との相溶性は、化合物の分子量にも左右される。光硬化性化合物の分子量が小さいほど、ベースポリマーとの相溶性が高くなる傾向がある。ベースポリマーとの相溶性の観点から、光硬化剤の分子量は1500以下が好ましく、1000以下がより好ましく、500以下がさらに好ましく、400以下が特に好ましい。
ベースポリマーとの相溶性が高く、かつ光硬化後の接着力を向上する観点から、光硬化剤の官能基当量(g/eq)は500以下が好ましく、400以下がより好ましく、300以下がさらに好ましく、200以下が特に好ましい。一方、光硬化剤の官能基当量が過度に小さいと、光硬化後の粘着剤層の架橋点密度が高くなり、接着性が低下する場合がある。そのため、光硬化剤の官能基当量は80以上が好ましく、100以上がより好ましく、130以上がさらに好ましい。
アクリル系ベースポリマーと多官能アクリレート光硬化剤との組み合わせにおいては、光硬化剤の官能基当量が小さい場合は、ベースポリマーと光硬化剤の相互作用が強く、初期接着力が上昇し、リワーク性の低下につながる場合がある。光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力を適切な範囲に保持する観点からも、光硬化剤の官能基当量は上記の範囲内であることが好ましい。
粘着剤組成物における光硬化剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、10〜50重量部が好ましい。光硬化剤の配合量を上記範囲とすることにより、光硬化後の粘着剤層と被着体との接着性を適切な範囲に調整できる。光硬化剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、15〜45重量部がより好ましく、20〜40重量部がさらに好ましい。
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、活性光線の照射により活性種を発生し、光硬化剤の硬化反応を促進する。光重合開始剤としては、光硬化剤の種類等に応じて、光カチオン開始剤(光酸発生剤)、光ラジカル開始剤、光アニオン開始剤(光塩基発生剤)等が用いられる。光硬化剤として多官能アクリレート等のエチレン性不飽和化合物が用いられる場合は、重合開始剤として光ラジカル開始剤を用いることが好ましい。
光ラジカル開始剤は、活性光線の照射によりラジカルを生成し、光ラジカル開始剤から光硬化剤へのラジカル移動により、光硬化剤のラジカル重合反応を促進する。光ラジカル開始剤(光ラジカル発生剤)としては、波長450nmよりも短波長の可視光または紫外線の照射によりラジカルを生成するものが好ましく、ヒドロキシケトン類、ベンジルジメチルケタール類、アミノケトン類、アシルフォスフィンオキサイド類、ベンゾフェノン類、トリクロロメチル基含有トリアジン誘導体等が挙げられる。光ラジカル開始剤は、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
粘着剤層2に透明性が求められる場合、光重合開始剤は、400nmよりも長波長の光(可視光)に対する感度が小さいことが好ましく、例えば、波長405nmにおける吸光係数が1×102[mLg−1cm−1]以下である光重合開始剤が好ましく用いられる。
粘着剤層2における光重合開始剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.02〜3重量部がより好ましく、0.03〜2重量部がさらに好ましい。粘着剤層2における光重合開始剤の含有量は、光硬化剤100重量部に対して、0.02〜10重量部が好ましく、0.05〜7重量部がより好ましく、0.1〜5重量部がさらに好ましい。
(その他の添加剤)
上記例示の各成分の他、粘着剤層は、シランカップリング剤、粘着性付与剤、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、劣化防止剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤界面活性剤、帯電防止剤等の添加剤を、本発明の特性を損なわない範囲で含有していてもよい。
[補強フィルムの作製]
フィルム基材1上に光硬化性の粘着剤層2を積層することにより、補強フィルムが得られる。粘着剤層2は、フィルム基材1上に直接形成してもよく、他の基材上でシート状に形成された粘着剤層をフィルム基材1上に転写してもよい。
上記の粘着剤組成物を、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコート等により、基材上に塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより粘着剤層が形成される。乾燥方法としては、適宜、適切な方法が採用され得る。加熱乾燥温度は、好ましくは40℃〜200℃、より好ましくは50℃〜180℃、さらに好ましくは70℃〜170℃である。乾燥時間は、好ましくは5秒〜20分、より好ましくは5秒〜15分、さらに好ましくは10秒〜10分である。
粘着剤層2の厚みは、例えば、1〜300μm程度である。粘着剤層2の厚みが大きいほど被着体との接着性が向上する傾向がある。一方、粘着剤層2の厚みが過度に大きい場合は、光硬化前の流動性が高く、ハンドリングが困難となる場合がある。そのため、粘着剤層2の厚みは5〜100μmが好ましく、8〜50μmがより好ましく、10〜40μmがさらに好ましく、13〜30μmが特に好ましい。
粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合は、溶媒の乾燥と同時、または溶媒の乾燥後に、加熱またはエージングにより架橋を進行させることが好ましい。加熱温度や加熱時間は、使用する架橋剤の種類によって適宜設定され、通常、20℃〜160℃の範囲で、1分から7日程度の加熱により架橋が行われる。溶媒を乾燥除去するための加熱が、架橋のための加熱を兼ねていてもよい。
ベースポリマーに架橋構造が導入されることにより、ゲル分率が上昇する。ゲル分率が高いほど粘着剤が硬く、リワーク等による被着体からの補強フィルムの剥離時に、被着体への糊残りが抑制される傾向がある。光硬化前の粘着剤層2のゲル分率は、30%以上が好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、65%以上が特に好ましい。粘着剤層2の光硬化前のゲル分率は、70%以上または75%以上であってもよい。
粘着剤は未反応の光硬化剤を含有するため、光硬化前の粘着剤層2のゲル分率は一般に90%以下である。光硬化前の粘着剤層2のゲル分率が過度に大きいと、被着体に対する投錨力が低下し、初期接着力が不十分となる場合がある。そのため、光硬化前の粘着剤層2のゲル分率は、85%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
ゲル分率は、酢酸エチル等の溶媒に対する不溶分として求めることができ、具体的には、粘着剤層を酢酸エチル中に23℃で7日間浸漬した後の不溶成分の、浸漬前の試料に対する重量分率(単位:重量%)として求められる。一般に、ポリマーのゲル分率は架橋度に等しく、ポリマー中の架橋された部分が多いほど、ゲル分率が大きくなる。そのため、架橋剤の使用量(架橋性官能基の含有量)が多いほど、ゲル分率が大きくなる傾向がある。また、架橋促進剤を用いることにより、架橋剤の未反応官能基の量が低減するため、ゲル分率が大きくなる傾向がある。光硬化前の粘着剤層2では、光硬化剤は未反応の状態であるため、光硬化剤の量が多いほど、ゲル分率は小さくなる。
架橋剤によりポリマーに架橋構造を導入後も、光硬化剤は未反応の状態を維持している。そのため、ベースポリマーと光硬化剤とを含む光硬化性の粘着剤層2が形成される。フィルム基材1上に粘着剤層2を形成する場合は、粘着剤層2の保護等を目的として、粘着剤層2上にセパレータ5を付設することが好ましい。粘着剤層2上にセパレータ5を付設後に架橋を行ってもよい。
他の基材上に粘着剤層2を形成する場合は、溶媒を乾燥後に、フィルム基材1上に粘着剤層2を転写することにより補強フィルムが得られる。粘着剤層の形成に用いた基材を、そのままセパレータ5としてもよい。
セパレータ5としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムが好ましく用いられる。セパレータの厚みは、通常3〜200μm、好ましくは10〜100μm程度である。セパレータ5の粘着剤層2との接触面には、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系、もしくは脂肪酸アミド系等の離型剤、またなシリカ粉等による離型処理が施されていることが好ましい。セパレータ5の表面が離型処理されていることにより、フィルム基材1とセパレータ5を剥離した際に、粘着剤層2とセパレータ5との界面で剥離が生じ、フィルム基材1上に粘着剤層2が固着した状態が維持される。
[補強フィルムの使用]
本発明の補強フィルムは、デバイスまたはデバイス構成部品に貼り合わせて用いられる。補強フィルムが貼り合わせられる被着体は特に限定されず、各種の電子デバイス、光学デバイスおよびその構成部品等が挙げられる。補強フィルムは被着体の全面に貼り合わせられてもよく、補強を必要とする部分にのみ選択的に貼り合わせられてもよい。また、被着体の全面に補強フィルムを貼り合わせ後、補強を必要としない箇所の補強フィルムを切断し、補強フィルムを剥離除去してもよい。粘着剤を光硬化する前であれば、補強フィルムは被着体表面に仮着された状態であるため、被着体の表面から補強フィルムを容易に剥離除去できる。
補強フィルムを貼り合わせることにより、適度な剛性が付与されるため、ハンドリング性向上や破損防止効果が期待される。デバイスの製造工程において、仕掛品に補強フィルムが貼り合わせられる場合は、製品サイズに切断される前の大判の仕掛品に補強フィルムを貼り合わせてもよい。ロールトゥーロールプロセスにより製造されるデバイスのマザーロールに、補強フィルムをロールトゥーロールで貼り合わせてもよい。
<光硬化前の粘着剤層の特性>
補強フィルム10は、粘着剤層2がフィルム基材1と固着されており、被着体との貼り合わせ後光硬化前は、被着体への接着力が小さい。そのため、光硬化前は被着体からの補強フィルムの剥離が容易であり、リワーク性に優れる。また、光硬化前は補強フィルムを切断し、被着体表面の一部の領域の補強フィルムを除去する等の加工も容易に行い得る。
(接着力)
被着体からの剥離を容易とし、補強フィルムを剥離後の被着体への糊残りを防止する観点から、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力は1N/25mm以下が好ましく、0.7N/25mm以下がより好ましく、0.5N/25mm以下がさらに好ましい。光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力は、0.4N/25mm以下、0.3N/25mm以下または0.2N/25mm以下であってもよい。保管やハンドリングの際の補強フィルムの剥離を防止する観点から、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力は、0.005N/25mm以上が好ましく、0.01N/25mm以上がより好ましく、0.02N/25mm以上がさらに好ましく、0.03N/25mm以上が特に好ましい。
補強フィルムは、粘着剤層を光硬化前の状態において、ポリイミドフィルムに対する接着力が上記範囲内であることが好ましい。フレキシブルディスプレイパネル、フレキシブルプリント配線板(FPC)、ディスプレイパネルと配線板とを一体化したデバイス等においては、可撓性の基板材料が用いられ、耐熱性や寸法安定性の観点から、一般的に、ポリイミドフィルムが用いられる。粘着剤層が基板としてのポリイミドフィルムに対して上記の接着力を有する補強フィルムは、粘着剤の光硬化前には剥離が容易であり、光硬化後は接着信頼性に優れる。
補強フィルムを貼り合わせる前に、清浄化等を目的として、デバイス表面のポリイミドフィルム等の被着体に活性化処理を行ってもよい。表面活性化処理としては、プラズマ処理、コロナ処理、グロー放電処理等が挙げられる。特に、大気圧化で処理が可能であり、活性化効果が高いことから、大気圧プラズマ処理が好ましい。
被着体に表面活性化処理を行うと、表面活性化処理を行っていない場合に比べて、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力が高くなる傾向がある。光硬化前の粘着剤層と被着体との接着力が過度に大きくなると、リワークが困難となる場合がある。そのため、表面活性化処理を行った被着体と光硬化前の粘着剤層の接着力は、表面活性化処理を行っていない被着体と光硬化前の粘着剤層の接着力の2倍以下が好ましく、1.7倍以下がより好ましく、1.5倍以下がさらに好ましい。
本発明においては、粘着剤のベースポリマーが窒素原子を実質的に含まないことにより、被着体に表面活性化処理を行った場合でも、光硬化前の粘着剤層の接着力(初期接着力)を低く抑えることができる。そのため、ポリイミドフィルム等の被着体に表面活性化処理を行った場合でも、表面活性化処理を行わない場合と同様、リワークが容易である。
表面が活性化処理された被着体は、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシル基等の活性基を多く含んでおり、ベースポリマーが窒素原子を含んでいる場合は、窒素原子の不対電子とこれらの活性官能基との分子間相互作用により、接着力が上昇しやすいと考えられる。また、被着体がポリイミドである場合は、活性化処理により、アミド酸、末端のアミノ基やカルボキシ基(またはカルボン酸無水物基)等が活性化され、窒素原子との相互作用が強いことも、初期接着力の上昇に関与していると考えられる。ベースポリマーが窒素原子を実質的に含まないことにより、これらの相互作用が生じ難いため、初期接着力の上昇が抑制されると推定される。
ベースポリマーが架橋構造を有している場合、イソシアネート系架橋剤等に含まれる窒素原子も、ベースポリマーの窒素原子と同様に、表面活性化処理された被着体に対する初期接着力を上昇させる要因となり得るが、ベースポリマーに比べるとその影響は小さい。そのため、架橋剤(ベースポリマーの架橋構造部分)は窒素原子を含んでいてもよい。架橋構造部分は、ポリマーの内部に埋設しやすく、表面への窒素原子の露出が少ないため、被着体の表面活性化処理の有無による初期接着力変化への影響が小さいと考えられる。
有機金属等の架橋促進剤を用いることにより、被着体の表面活性化処理による初期接着力の上昇が抑制される傾向があり、特に、架橋剤の1分子中に含まれる架橋性官能基の数が多く、官能基密度が高い場合にその傾向が大きい。架橋促進剤を用いると、架橋性官能基が活性化されて反応性が高くなる。そのため、未反応の官能基が減少し、1つの架橋剤により架橋されるポリマー鎖の数が多く、高密度の架橋構造が形成されやすいことが、初期接着力の上昇抑制に関与していると考えられる。
例えば、架橋密度が低い場合は、粘着剤層のバルク部分において、ポリマー鎖の隙間に光硬化剤(多官能モノマー)が存在しやすいのに対して、架橋密度が高い場合は、ポリマー鎖の隙間が少ない(小さい)ため、バルク部分に光硬化剤が存在し難く、光硬化前の粘着剤層では界面近傍に光硬化剤が偏在しやすいと考えられる。そのため、被着体に表面活性化処理を行った場合でも、接着界面における被着体とベースポリマーとの相互作用が小さいために、初期接着力の上昇が抑制されると考えられる。
(貯蔵弾性率)
粘着剤層2は、光硬化前の25℃におけるせん断貯蔵弾性率G’iが1×104〜1.2×105Paであることが好ましい。せん断貯蔵弾性率(以下、単に「貯蔵弾性率」と記載する)は、JIS K7244−1「プラスチック−動的機械特性の試験方法」に記載の方法に準拠して、周波数1Hzの条件で、−50〜150℃の範囲で昇温速度5℃/分で測定した際の、所定温度における値を読み取ることにより求められる。
粘着剤のように粘弾性を示す物質において、貯蔵弾性率G’は硬さの程度を表す指標として用いられる。粘着剤層の貯蔵弾性率は凝集力と高い相関を有しており、粘着剤の凝集力が高いほど被着体への投錨力が大きくなる傾向がある。光硬化前の粘着剤層2の貯蔵弾性率が1×104Pa以上であれば、粘着剤が十分な硬さと凝集力を有するため、被着体から補強フィルムを剥離した際に被着体への糊残りが生じ難い。また、粘着剤層2の貯蔵弾性率が大きい場合は、補強フィルムの端面からの粘着剤のはみ出しを抑制できる。光硬化前の粘着剤層2の貯蔵弾性率が1.2×105Pa以下であれば、粘着剤層2と被着体との界面での剥離が容易であり、リワークを行った場合でも、粘着剤層の凝集破壊や被着体表面への糊残りが生じ難い。
補強フィルムのリワーク性を高め、リワーク時の被着体への糊残りを抑制する観点から、粘着剤層2の光硬化前の25℃における貯蔵弾性率G’iは、3×104〜1×105Paがより好ましく、4×104〜9.5×104Paがさらに好ましい。
<粘着剤層の光硬化>
被着体に補強フィルムを貼り合わせた後、粘着剤層2に活性光線を照射することにより、粘着剤層を光硬化させる。活性光線としては、紫外線、可視光、赤外線、X線、α線、β線、およびγ線等が挙げられる。保管状態における粘着剤層の硬化を抑制可能であり、かつ硬化が容易であることから、活性光線としては紫外線が好ましい。活性光線の照射強度や照射時間は、粘着剤層の組成や厚み等に応じて適宜設定すればよい。粘着剤層2への活性光線の照射は、フィルム基材1側および被着体側のいずれの面から実施してもよく、両方の面から活性光線の照射を行ってもよい。
<光硬化後の粘着剤層の特性>
(接着力)
デバイスの実用時の接着信頼性の観点から、光硬化後の粘着剤層2と被着体との接着力は、2N/25mm以上が好ましく、3N/25mm以上がより好ましく、5N/25mm以上がさらに好ましい。粘着剤層を光硬化後の補強フィルムと被着体との接着力は、6N/25mm以上、8N/25mm以上、10N/25mm以上、12N/25mm以上、または13N/25mm以上であってもよい。補強フィルムは、光硬化後の粘着剤層が、ポリイミドフィルムに対して上記範囲の接着力を有することが好ましい。光硬化後の粘着剤層2と被着体との接着力は、光硬化前の粘着剤層2と被着体との接着力の5倍以上が好ましく、8倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましい。光硬化後の粘着剤層と被着体との接着力は、光硬化前の粘着剤層と被着体との接着力の20倍以上、30倍以上、40倍以上、または50倍以上であってもよい。
前述のように、粘着剤のベースポリマーが窒素原子を含まないことにより、被着体の表面活性化処理による初期接着力の上昇が抑制される。一方、被着体を表面活性化処理した場合は、被着体の表面活性化処理を行っていない場合に比べて、光硬化後の粘着剤層2と被着体との接着力が大きくなる傾向がある。すなわち、所定の組成を有する粘着剤層を備える補強フィルムを用いる場合は、被着体にプラズマ処理等の表面活性化処理を実施することにより、初期接着力の上昇を抑制してリワーク性を確保しつつ、光硬化後には高い接着力を実現し、補強フィルムの接着信頼性に優れるデバイスが得られる。特に、粘着剤組成物が有機金属等の架橋促進剤を含む場合は、被着体を表面活性化処理した場合の初期接着力の上昇抑制と、光硬化後の接着力上昇がより顕著となる傾向がある。
(貯蔵弾性率)
粘着剤層2は、光硬化後の25℃における貯蔵弾性率G’fが1.0×105Pa以上であることが好ましい。光硬化後の粘着剤層2の貯蔵弾性率が1.0×105Pa以上であれば、凝集力の増大に伴って被着体との接着力が向上し、高い接着信頼性が得られる。一方、貯蔵弾性率が過度に大きい場合は、粘着剤が濡れ拡がり難く被着体との接触面積が小さくなる。また、粘着剤の応力分散性が低下するため、剥離力が接着界面に伝播しやすく、被着体との接着力が低下する傾向がある。そのため、粘着剤層2の光硬化後の25℃における貯蔵弾性率G’fは2×106Pa以下が好ましい。粘着剤層を光硬化後の補強フィルムの接着信頼性を高める観点から、G’fは、1.1×105〜1.2×106Paがより好ましく、1.2×105〜1×106Paがさらに好ましい。
粘着剤層2の光硬化前後の25℃における貯蔵弾性率の比G’f/G’iは、2以上が好ましい。G’fがG’iの2倍以上であれば、光硬化によるG’の増加が大きく、光硬化前のリワーク性と光硬化後の接着信頼性とを両立できる。G’f/G’iは4以上がより好ましく、8以上がさらに好ましく、10以上が特に好ましい。G’f/G’iの上限は特に限定されないが、G’f/G’iが過度に大きい場合は、光硬化前のG’が小さいことによる初期接着不良、または光硬化後のG’が過度に大きいことによる接着信頼性の低下に繋がりやすい。そのため、G’f/G’iは、100以下が好ましく、40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましく、25以下が特に好ましい。
補強フィルムを付設後の被着体は、複数の積層部材の積層界面の親和性向上等を目的としたオートクレーブ処理や、回路部材接合のための熱圧着等の加熱処理が行われる場合がある。このような加熱処理が行われた際に、補強フィルムと被着体との間の粘着剤が、端面から流動しないことが好ましい。
高温加熱時の粘着剤のはみ出しを抑制する観点から、光硬化後の粘着剤層2の100℃における貯蔵弾性率は、5×104Pa以上が好ましく、8×104Pa以上がより好ましく、1×105Pa以上がさらに好ましい。加熱時の粘着剤のはみ出し防止に加えて、加熱時の接着力低下を防止する観点から、光硬化後の粘着剤層2の100℃における貯蔵弾性率は、50℃における貯蔵弾性率の60%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、75%以上が特に好ましい。
補強フィルムを貼り合わせることにより、被着体である仕掛品に適度な剛性が付与されるとともに、応力が緩和・分散されるため、製造工程において生じ得る種々の不具合を抑制し、生産効率を向上し、歩留まりを改善できる。また、補強フィルムは、被着体が表面活性化処理されている場合でも、粘着剤層を光硬化する前は、被着体からの剥離が容易であるため、積層や貼り合わせ不良が生じた場合もリワークが容易である。粘着剤層を光硬化後は、被着体に対して高い接着力を示し、補強フィルムがデバイス表面から剥離し難く、接着信頼性に優れている。
以下に実施例を挙げてさらに説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<ベースポリマーの重合>
温度計、攪拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、モノマーとして、ブチルアクリレート(BA)95重量部およびアクリル酸(AA)5重量部、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部、ならびに溶媒として酢酸エチル233重量部を投入し、窒素ガスを流し、攪拌しながら約1時間窒素置換を行った。その後、60℃に加熱し、7時間反応させて、重量平均分子量60万のアクリル系ポリマーの溶液を得た。
<粘着剤組成物の調製>
アクリル系ポリマーの溶液に、架橋剤として4官能エポキシ系化合物(三菱ガス化学製「テトラッドC」)0.5重量部、多官能アクリルモノマーとして新中村化学工業製「NKエステル A200」(ポリエチレングリコール#200(n=4)ジアクリレート;分子量308、官能基当量154g/eq)30重量部、および光重合開始剤(BASF製「イルガキュア651」)0.1重量部を添加して、粘着剤組成物を調製した。
<粘着剤組成物の塗布および架橋>
表面処理がされていない厚み75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ製「ルミラーS10」)上に、上記の粘着剤組成物を、乾燥後の厚みが25μmとなるように、ファウンテンロールを用いて塗布した。130℃で1分間乾燥して溶媒を除去後、粘着剤の塗布面に、セパレータ(表面がシリコーン離型処理された厚み25μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)の離型処理面を貼り合わせた。その後、25℃の雰囲気で4日間のエージング処理を行い、架橋を進行させ、フィルム基材上に光硬化性粘着シートが固着積層され、その上にセパレータが仮着された補強フィルムを得た。
[実施例2〜6]
粘着剤組成物の調製において、アクリル系ポリマーの溶液に、架橋剤、多官能アクリルモノマー、および光重合開始剤に加えて、表1に示す種類および量の有機金属架橋促進剤を添加した。有機金属架橋促進剤を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、補強フィルムを作製した。
[実施例7および実施例8]
実施例7では、粘着剤組成物の調製において、アクリル系ポリマーの溶液に、架橋剤、多官能アクリルモノマー、および光重合開始剤に加えて、カルボキシ基含有アクリルオリゴマー(東亞合成製「ARUFON UC−3000」;重量平均分子量:1万、ガラス転移温度:65℃、酸価:74mgKOH/g)1重量部を添加した。実施例8では、さらに有機金属架橋促進剤を添加した。これらの変更以外は、実施例1と同様にして、補強フィルムを作製した。
[実施例9]
粘着剤組成物の調製において、光重合開始剤として、BASF製「イルガキュア651」に代えて、BASF製「イルガキュア184」を用いた。それ以外は実施例1と同様にして、補強フィルムを作製した。
[実施例10]
ベースポリマーの重合において、モノマーの仕込み比を、BA:90重量部およびAA:10重量部に変更した。それ以外は、実施例9と同様にして、補強フィルムを作製した。
[比較例1]
<ベースポリマーの重合>
温度計、攪拌機、還流冷却管および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)63重量部、メチルメタクリレート(MMA)9重量部、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)13重量部、およびN−ビニルピロリドン(NVP)15重量部、熱重合開始剤としてAIBN0.2重量部、ならびに溶媒として酢酸エチル233重量部を投入し、窒素ガスを流し、攪拌しながら約1時間窒素置換を行った。その後、60℃に加熱し、7時間反応させて、重量平均分子量120万のアクリル系ポリマーの溶液を得た。
<粘着剤組成物の調製>
アクリル系ポリマー溶液に、架橋剤としてキシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物の75%酢酸エチル溶液(三井化学製「タケネート D110N」)を固形分で2.5重量部、多官能アクリルモノマーとして新中村化学工業製「NKエステル APG700」(ポリプロピレングリコール#700(n=12)ジアクリレート;分子量808、官能基当量404g/eq)30重量部、および光重合開始剤(BASF製「イルガキュア184」)1重量部を添加して、粘着剤組成物を調製した。
<粘着剤組成物の塗布および架橋>
実施例1と同様にして、粘着剤組成物の塗布、加熱乾燥および架橋を行い、フィルム基材上に光硬化性粘着シートが固着積層され、その上にセパレータが仮着された補強フィルムを作製した。
[比較例2および比較例3]
粘着剤組成物の調製において、アクリル系ポリマーの溶液に、架橋剤、多官能アクリルモノマー、および光重合開始剤に加えて、表1に示す種類および量の有機金属架橋促進剤を添加した。有機金属架橋促進剤を添加したこと以外は、比較例1と同様にして、補強フィルムを作製した。
[比較例4]
粘着剤組成物の調製において、光重合開始剤として、BASF製「イルガキュア184」に代えて、BASF製「イルガキュア651」を用いた。それ以外は比較例2と同様にして、補強フィルムを作製した。
[比較例5]
粘着剤組成物の調製において、多官能アクリルモノマーとして、新中村化学工業製「NKエステル APG700」30重量部に代えて、新中村化学工業製「NKエステル A200」20重量部を添加した。それ以外は比較例2と同様にして、補強フィルムを作製した。
[ポリイミドフィルムに対する接着力の測定]
<光硬化前の接着力>
厚み12.5μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン製「カプトン50EN」)を、両面接着テープ(日東電工製「No.531」)を介してガラス板に貼付し、測定用ポリイミドフィルム基板を得た。幅25mm×長さ100mmに切り出した補強フィルムの表面からセパレータを剥離除去し、測定用ポリイミドフィルム基板にハンドローラを用いて貼り合わせて、接着力測定用試料(プラズマ処理なし)を作製した。
測定用ポリイミド基板を搬送速度3m/分で搬送しながら、常圧式プラズマ処理機を用い、電極電圧160Vの条件でポリイミドフィルムの表面にプラズマ処理を実施した。プラズマ処理後の測定用ポリイミドフィルム基板に、ハンドローラを用いて補強フィルムを貼り合わせて、接着力測定用試料(プラズマ処理あり)を作製した。
これらの試験サンプルを用い、補強フィルムのポリエチレンテレフタレートフィルムの端部をチャックで保持して、引張速度300mm/分で、補強フィルムの180°ピール試験を行い、ピール強度を測定した。得られた結果から、プラズマ処理なしの場合の接着力に対するプラズマ処理ありの場合の接着力の比(プラズマ処理による接着力の増加率)を算出した。
<光硬化後の接着力>
ポリイミドフィルム基板(プラズマ処理あり、およびプラズマ処理なし)に補強フィルムを貼り合わせた後、補強フィルム側(PETフィルム側)から、波長365nmのLED光源を用いて積算光量4000mJ/cm2の紫外線を照射して粘着剤層を光硬化した。この試験サンプルを用い、上記と同様に、180°ピール試験により接着力を測定した。
それぞれの補強フィルムの粘着剤の組成、ポリイミドフィルムに対する接着力およびプラズマ処理による接着力の増加率(「プラズマ処理なし」の接着力に対する「プラズマ処理あり」の接着力の比)、ならびに光硬化後の接着力を表1に示す。表1の組成における添加量は、ベースポリマー100重量部に対する添加量(重量部)である。
表1において、「UC3000」は、東亞合成製「ARUFON UC−3000」であり、「A200」は、新中村化学工業製「NKエステル A200」であり、「APG700」は新中村化学工業製「NKエステル APG700」であり、「Irg651」はBASF製「イルガキュア651」であり、「Irg184」はBASF製「イルガキュア184」である。表1における架橋促進剤の詳細は下記の通りである。
Fe:トリス(アセチルアセトネート)鉄(日本化学産業製「ナーセム第二鉄」)
Zr:ジルコニウムテトラアセチルアセトナート(東京化成工業製)
Ti:チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトナート(東京化成工業製)
Al:アルミニウムトリスアセチルアセトナート(東京化成工業製)
Sn:ジオクチルスズジラウレート(東京ファインケミカル製「エンビライザー OL−1」)
いずれの実施例および比較例においても、プラズマ処理を行っていないポリイミドフィルム基板に対する初期接着力は0.5N/25mm以下であり、ポリイミドフィルムから容易に剥離が可能であった。また、粘着剤の光硬化を行うと、接着力が上昇しポリイミドフィルム基板に強固に接着していた。
モノマー成分としてN−ビニルピロリドンを含むベースポリマーを用いた比較例1では、プラズマ処理後のポリイミドフィルム基板に対する初期接着力が、プラズマ処理を行っていないポリイミドフィルム基板に対する初期接着力の4倍以上に上昇しており、ポリイミドフィルム基板からの補強フィルムの剥離が困難となっていた。
架橋促進剤を添加した比較例2〜4では、比較例1に比べると、プラズマ処理による初期接着力の上昇は抑制されていたが、プラズマ処理を行っていないポリイミドフィルム基板に対する初期接着力の2倍以上に上昇していた。
ブチルアクリレートとアクリル酸を構成モノマー成分とするベースポリマーを用いた実施例1では、プラズマ処理後のポリイミドフィルム基板に対する初期接着力が、プラズマ処理を行っていないポリイミドフィルム基板に対する初期接着力の1.4倍であり、プラズマ処理による初期接着力の上昇が抑制されていた。架橋促進剤を添加した実施例2〜6では、実施例1に比べて、さらに初期接着力の上昇が抑制されていた。
アクリル系ベースポリマーに加えて、アクリル系オリゴマーを添加した実施例7,8においても、プラズマ処理による初期接着力の上昇が抑制されており、架橋促進剤を添加することにより初期接着力の上昇がさらに抑制される傾向がみられた。光重合開始剤の種類を変更した実施例9、およびベースポリマーにおけるモノマーの仕込み比を変更した実施例10においても、他の実施例と同様、プラズマ処理による初期接着力の上昇が抑制されていた。
粘着剤を光硬化後の接着力に着目すると、いずれの実施例においても、プラズマ処理後のポリイミド基板に補強フィルムを貼り合わせて光硬化を行うことにより、プラズマ処理を行っていない場合に比べて、接着力が上昇していた。
以上の結果から、ベースポリマーが窒素原子を含まない光硬化性の粘着剤を備える補強フィルムは、プラズマ処理等の活性化処理を行った被着体に対する初期接着力が低く、リワーク性に優れ、光硬化後は被着体に対する高い接着力を示し、接着信頼性に優れることが分かる。