JP6598366B2 - ステッピングモータ、時計用ムーブメント、時計 - Google Patents
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Description
上述のロータ用貫通孔周りの2か所に幅狭部を形成した一体型のステータの場合、ロータの駆動原理として、まず幅狭部を磁束飽和させてステータを磁気的に分割し2つの磁極片とした後に、ロータへ漏洩磁束が流れロータが回転する。つまり、電流供給時のコイルから発せられる磁束が幅狭部で消費されてしまう(幅狭部の磁束飽和のために電力が消費されてしまう)ため、幅狭部への磁束損失が生じる問題があった。
また、ステータの外形形状に歪みが生じると、ステータの平坦度が低下し、コイルとステータとの接触面積の減少や、ロータとステータの相互位置のずれが生じやすくなる。その結果、磁気的な効率が低下したり、組立工程にステータが破損してしまうおそれがあり、製品品質の低下を招くおそれがある。
当該知見によって得られた本発明の要旨は以下の通りである。
[2]前記Cr拡散領域は、前記Cr拡散領域の形成時にレーザが照射された照射方向において、前記Crの重量比が高い領域の径が、前記レーザが照射された照射側より前記照射側と対向する側の方が小さい、ことを特徴とする上記[1]に記載のステッピングモータ。
また、上記[1]または[2]に記載のステッピングモータによれば、Cr拡散領域の低透磁率化により、ロータ自体から発せられる磁束についても当該領域での消費が抑制され、磁気ポテンシャルの損失を防止することができるため、ロータを磁気的に停止・保持させるための保持力を高めることができ、ロータの回転駆動の安定性を向上させることができる。
また、従来の一体型ステータでは一方の極性でロータを回転させた後に他方の極性でロータを回転させる必要があり、この場合は幅狭部の残留磁束を打消し、かつ幅狭部を磁束飽和させてステータを磁気的に分割し2つの磁極片とさせる必要がある。特に高速運針を行う場合では、短い期間に残留磁束の打消しを含めたロータの回転を終える必要があるが、上記[1]または[2]に記載のステッピングモータによれば、当該領域の残留磁束が大幅に低減されることで、残留磁束打消しに要していた時間を短縮させることができるため、駆動周波数を上げることができる。
さらに、上記[1]または[2]に記載のステッピングモータによれば、ステータは構造として一体として形成されるため、従来の二体型ステータを製造する際に懸念されていた機械的なストレスや溶接・接合過程による歪みや部材の位置ずれの発生を回避することができ、磁気的な効率の低下やステータの破損、製品品質の低下を防止することができる。
またさらに、上記[1]または[2]に記載のステッピングモータによれば、ステータは一体として形成されるため、機械的なストレスが集中しやすい溶接部や接合部がなく、強度の劣化を防止できる。
尚、以下に示す図面は、本発明の実施形態に係るステッピングモータの構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際のステッピングモータの寸法関係等とは異なる場合がある。
本実施形態におけるステッピングモータ駆動装置は、ステッピングモータ105、装置制御回路103、駆動パルス選択回路104及び回転検出回路111により構成されている。
一般に、時計の動力源、時間基準などの装置からなる時計の機械体をムーブメントと称する。電子式のものをモジュールと呼ぶことがある。時計としての完成状態では、ムーブメントには文字板、針が取り付けられ、時計ケースの中に収容される。
ここで、発振回路101及び分周回路102は信号発生部を構成し、アナログ表示部106は時刻表示部を構成している。回転検出回路111及び負荷検出回路112は回転検出部を構成している。制御回路103及び駆動パルス選択回路104は制御部を構成している。また、発振回路101、分周回路102、制御回路103、駆動パルス選択回路104、回転検出回路111及び負荷検出回路112はステッピングモータ制御回路を構成している。
図2は、本実施形態に係るステッピングモータ105の正面模式図である。
コイル209が励磁されていない状態では、ロータ202は、図2に示すように前記位置決め部に対応する位置、換言すれば、ロータ202の磁極軸Aが、切り欠き部204、205を結ぶ線分と直交するような位置(角度θ0位置)に安定して停止している。
まず駆動パルス選択回路104から駆動パルスをコイル209の端子OUT1、OUT2間に供給して(例えば、第1端子OUT1側を正極、第2端子OUT2側を負極)、図2の矢印方向に電流iを流すと、ステータ201には破線矢印方向に磁束が発生する。
尚、ステッピングモータ105を回転駆動することによって通常動作(本発明の各実施の形態はアナログ電子時計であるため運針動作)を行わせるための回転方向(図2では反時計回り方向)を正方向とし、その逆(時計回り方向)を逆方向としている。
その後、前述と同様に、低透磁率領域であるCr拡散領域210、211が形成されていることから、容易に漏洩磁束を確保でき、ステータ201に生じた磁極とロータ202の磁極との相互作用によって、ロータ202は前記と同一方向(正方向)に180度回転し、磁極軸が角度θ0位置で安定的に停止する。
また、従来では「幅狭部」とされていた箇所にCr拡散領域210、211を形成して低透磁率化させることにより、ロータ202自体から発せられる磁束についても当該領域での消費が抑制される。その結果、磁気ポテンシャルの損失を防止することができ、ロータを磁気的に停止・保持させるための保持力を高めることができる。
また、従来では「幅狭部」とされていた箇所にOUT1側(負極)の磁束で飽和させて回転させた後、OUT2側(正極)で回転させるにはOUT1側(負極)の際に生じた残留磁束を打ち消す必要があったが、当該領域での残留磁束が大幅に低減されているため、残留磁束打ち消しに要する時間が不要となり回転を収束させるまでの時間が短縮できる。そのため、高速運針を行う際の動作安定性を維持することができ、駆動周波数を上げることができる。
なお、本実施形態の比較例として、Crを溶融させて、拡散させず従来の「幅狭部」を形成させた例(グラフ中の「レーザなし」、図3(b)参照)と、従来の「幅狭部」を切断加工し、ステータを2分割した例(グラフ中の「分離型」、図3(c)参照)をあわせて示す。
Cr拡散領域210、211を形成した例(サンプル♯1〜♯6)の電流波形を見ると、レーザの出力強度(熱量)を高めるにしたがい「分離型」の電流波形側にシフトしている。つまり、局所的に熱を加えることで、溶融凝固部の範囲が拡大し、Cr拡散領域210、211を増大させるにしたがい「分離型」の磁気特性に近づく傾向にあることが分かる。サンプル#1が印加熱量0.4J(出力強度1kW)によるもの、サンプル#2が印加熱量0.6J(出力強度1.5kW)によるもの、サンプル#3が印加熱量0.8J(出力強度2.5kW)によるもの、サンプル#4が印加熱量1.0J(出力強度2.5kW)によるもの、サンプル#5が印加熱量1.2J(出力強度3kW)によるもの、サンプル#6が印加熱量1.4J(出力強度3.5kW)によるものである。なお、レーザ出力強度は熱源の出力電力(kW)であり、これに印加時間や絞り等を考慮することで、印加熱量(J)が決定される。
以上のことから、「幅狭部」に相当する領域にCr拡散領域210、211を形成することで、「幅狭部」を有する従来のステッピングモータにおいて「幅狭部」を磁気飽和させるために要した消費電力(図3(a)のグラフ中を塗りつぶした面積)を低減できる(省電力化)ことが分かる。
Cr拡散領域210、211は、図4(a)に示すように、従来「幅狭部」とされた領域、つまり、ロータ収容用貫通孔203の端部からステータ201の端部までの領域全体にわたって形成されてもよく、図4(b)に示すように、その領域の一部に形成されていてもよい。
ロータ202を駆動させる漏洩磁束をより効率よく確保する(前述の消費電力をより低減させる)観点からは、図4(a)に示すようにロータ収容用貫通孔203の端部からステータ201の端部までの領域全体にわたってCr拡散領域210、211を形成することが望ましいが、図3(a)のグラフで示したとおり、Cr拡散領域210、211が小さい場合や、Cr拡散領域210、211の形成領域が従来「幅狭部」とされた領域中の一部だけとされても、前述の効果は享受できる。
磁気ポテンシャルが最も低い角度が静止位置となり、最も高い角度はロータが回転するにあたり越えなければならないピークになる。最も高い角度と最も低い角度のピーク差はロータが保有している保持力を示し、ムーブメントの保持トルクに相当することを示す。
本実施形態のステッピングモータ105は静止位置が45°になるように切り欠き部204、205を備えているため、45°が最も磁気ポテンシャルが低い。これに対して135°が最も磁気ポテンシャルが高く、ロータ202はこの角度を越えられなければ静止位置である45°に逆転してしまい、時計の運針に必要な回転力を得られないことになる。
図5より、本実施形態にかかる#6の例について、従来の「レーザなし」よりも、磁気ポテンシャルのピーク差が高いことが確認でき、保持トルクが高いことを示している。
なお、#6の例の場合、幅狭部が非磁性領域となることで、「レーザなし」とは磁束の挙動が変化する。つまり、Cr拡散領域の位置や形状等により、「♯6」と「レーザなし」とは、図5で示すグラフにおいてはそれぞれ僅かに異なる挙動(磁気ポテンシャルがピークを示す角度がずれる)を示すが、本明細書においては、「♯6」と「レーザなし」との間において、前述の「ピーク差」すなわちムーブメントの保持トルクの変化を観察しやすいように、両者の各ピークが生じる角度を合致させるよう表記している。
ここで、2極ステータ方式にて逆転駆動を実現させる場合、逆方向にロータを回転させるために、逆転パルス出力前にロータを所定の位置まで誘導するパルスが必要となり、励磁区間が正方向の場合よりより2〜3倍以上となる。そのため、正方向の回転と逆方向の回転とで設定できる周波数に差があるため、逆方向の回転が遅いという欠点があった。しかし、3極ステータとすることで、回転方向を決定するパルス供給後、回転を行うため、正方向の回転と逆方向の回転とで同じパルス形態及び周波数で運針できるというメリットがある。
また、1回転の中で複数回パルスの極性の切り替えが生じるため、従来「幅狭部」とされている領域に生じた残留磁束を打ち消しながら回転させないといけないという安定動作上の課題もある。
そこで、上述してきた2極ステータの場合と同様に、ロータ用貫通孔の周囲の磁路の少なくとも一部、このもしくは従来「幅狭部」とされている領域の少なくとも一部に、Cr拡散領域を形成して、低透磁率化を図ることで、高速運針時の安定性向上し、更なる高速運針が実現できる。
また当該時計用ムーブメントを備えた時計についても磁気特性の向上を図ることが可能であり、例えば、カレンダ機能付きアナログ電子腕時計、クロノグラフ時計をはじめ、各種のアナログ電子時計に適用可能である。
本実施形態に係るステッピングモータ105の製造方法は、Fe−Ni合金板に対して機械加工を行って、ロータ用貫通孔203とロータ用貫通孔203の周囲に配置された磁路Rとを有するステータ素材201aを形成する工程と、ステータ素材201aの少なくとも一部に拡散用のCr材を配置する工程と、Cr材にレーザを照射して磁路Rの内部にCr材を溶融させてCr拡散領域210、211を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
以下、本実施形態に係る製造方法における各条件について説明する。
また、切り欠き部(外ノッチ)206、207を形成して幅狭部213、214を設ける場合(図6参照)は、この工程で併せて形成するとよい。
具体的には、例えば、粉末状の金属クロムが含まれるペーストを前記磁路の少なくとも一部に塗布して当該ペーストにレーザを照射して溶融拡散させてもよい。または予め、ステータ素材201aの表面にクロムめっき層を形成しておき、当該クロムめっき層のうち、磁路Rの少なくとも一部に形成されたクロムめっき層にレーザを照射して溶融拡散させてもよい。めっきの場合は、ステータ母材を覆う状態の実現性等を考慮して、Crの質量比率として80%を超えることはない。または、前述のペーストではなく粉末であってもよい。
なお、幅狭部213、214を設ける場合(図6参照)は、図7(a)、(b)に示すように、切り欠き部(外ノッチ)206、207に前述のペーストやクロムめっき層を形成してよい。
なお、ステッピングモータ105をアナログ電子時計に用いる場合には、ステータ201及び磁心208はネジ(図示せず)によって地板(図示せず)に固定する。
図8は、「♯2(0.6J)」の例のCr拡散領域210、211の厚み方向と垂直な断面(図4(a)、(b)において、紙面と平行な方向)の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)像を示す。図9は、図8を部分的に拡大した走査型電子顕微鏡像である。図9において、四角い線で囲んだ領域1、2、3は、表1の上側1、中央2、下側3に対応する。
まず、Cr拡散領域210、211における、観察部分に、日本電子社製のIB−09020CP(商品名)を用いて、クロスセクションポリッシャ(CP)加工を行った。加速電圧を7kVとした。
これらの領域1、2、3および基材(Crを溶融することにより、Crを拡散させていない領域)について、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive x−ray Spectroscopy、EDS)を行った。結果を表1に示す。
走査型電子顕微鏡としては、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(商品名:IB−09020CP、日本電子社製)を用いた。加速電圧を5kVとした。
EDSマッピング分析を、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のNORAN SYSTEM7(商品名)を用いて、加速電圧を15kVとした。
これらの領域1、2、3および基材(Crを溶融することにより、Crを拡散させていない領域)について、「♯2(0.6J)」の例と同様にして、EDS分析を行った。結果を表1に示す。
これらの領域1、2、3、4および基材(Crを溶融することにより、Crを拡散させていない領域)について、「♯2(0.6J)」の例と同様にして、EDS分析を行った。結果を表1に示す。
また、表1の結果から、レーザを照射して形成したCr拡散領域210、211では、基材と比較してCr含有率が高いことが確認された。
以上の結果から、Cr拡散領域210、211は低透磁率領域を形成していると言える。
また、いわゆる幅狭部におけるCrの質量濃度の下限値を、例えば#6において示した18%〜20%付近とすることで、残留磁束をほぼゼロとすることができ、残留磁束打消しに要する時間も最小とすることができる。これにより、例えば256Hz程度の高い駆動周波数においても、安定動作可能とすることができる。
また、いわゆる幅狭部におけるCrの質量濃度の上限値を、例えば#2において示した45%〜55%付近とすることで、残留磁束を低減でき、残留磁束打消し時間を高速運針において無視できるほど低減できるとともに、Cr塗布量(めっき等を含む)を現実的な範囲に抑えることができる。これにより、より実現性の高い高速運針可能なステッピングモータを提供できる。
102・・・分周回路
103・・・制御回路
104・・・駆動パルス選択回路(駆動手段)
105・・・ステッピングモータ
106・・・アナログ表示部
107・・・時針
108・・・分針
109・・・秒針
110・・・カレンダ表示部
111・・・回転検出回路
112・・・負荷検出回路
113・・・時計ケース
114・・・ムーブメント
201・・・ステータ
201a・・・ステータ素材
202・・・ロータ
203・・・ロータ用貫通孔
204、205・・・切り欠き部(内ノッチ)
206、207・・・切り欠き部(外ノッチ)
208・・・磁心
209・・・コイル
210、211・・・Cr拡散領域
213、214・・・幅狭部
OUT1・・・第1端子
OUT2・・・第2端子
R・・・磁路
Claims (8)
- 一体のFe−Ni合金により成形されており、ロータ用貫通孔が設けられており、かつ前記ロータ用貫通孔の周囲に磁路が設けられたステータと、
前記ロータ用貫通孔内に回転可能に配設されたロータと、
前記ステータに設けられたコイルと、を備えたステッピングモータであって、
前記磁路の一部にCrの溶融凝固部からなるCr拡散領域が形成されていて、
前記Cr拡散領域は、前記Cr拡散領域の形成時にレーザが照射された照射方向において形成され、前記レーザが照射された照射側より前記照射側と対向する側には形成されていない、
ことを特徴とするステッピングモータ。 - 前記Cr拡散領域は、前記Cr拡散領域の形成時にレーザが照射された照射方向において、前記Crの重量比が高い領域の径が、前記レーザが照射された照射側より前記照射側と対向する側の方が小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載のステッピングモータ。 - 前記ステータには、前記磁路の断面積が他の部位よりも狭くなるように形成された幅狭部が設けられ、該幅狭部の少なくとも一部に前記Cr拡散領域が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のステッピングモータ。
- 前記溶融凝固部は、前記幅狭部を含み、前記ロータの安定位置確保のための前記ロータ用貫通孔に設けられる切り欠き部に干渉しない部分に設けられることを特徴とする請求項3に記載のステッピングモータ。
- 前記Cr拡散領域には、Crが15質量%以上かつ80質量%以下含有されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載のステッピングモータ。
- 前記Cr拡散領域には、Crが18質量%以上かつ55質量%以下含有されていることを特徴とする請求項5に記載のステッピングモータ。
- 請求項1から請求項6の何れか一項に記載のステッピングモータと、前記ステッピングモータにより回転することで時刻を表示する針と、を備えたことを特徴とする時計用ムーブメント。
- 請求項7に記載の時計用ムーブメントを備えたことを特徴とする時計。
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