以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
本発明の一実施の形態に係る照明装置、投射装置および投射型映像表示装置は、基本的な構成として、スペックルを効果的に防止することを可能にする構成を有している。
図1〜図12は、本発明の一実施の形態に係る照明装置、投射装置および投射型映像表示装置、並びに、その変形例を説明するための図である。このうち、図1〜図5を参照して、一実施の形態のうちの基本形態に係る照明装置、投射装置および投射型映像表示装置について説明する。その後、基本形態に係る照明装置、投射装置および投射型映像表示装置に対する変形の一例について説明する。
<基本形態>
〔基本形態の構成〕
まず、コヒーレント光を投射する照明装置および投射装置を含み且つスペックルを目立たなくさせることができる投射型映像表示装置の構成を、主として図1〜図5を参照して説明する。
図1に示す投射型映像表示装置10は、スクリーン15と、コヒーレント光からなる映像光を投射する投射装置20と、を有している。投射装置20は、仮想面上に位置する被照明領域LZをコヒーレント光で照明する照明装置40と、被照明領域LZと重なる位置に配置され照明装置40によってコヒーレント光で照明される空間光変調器30と、空間光変調器30からのコヒーレント光をスクリーン15に投射する投射光学系25と、を有している。
空間光変調器30としては、例えば、透過型の液晶マイクロディスプレイを用いることができる。この場合、照明装置40によって面状に照明される空間光変調器30が、画素毎にコヒーレント光を選択して透過させることにより、空間光変調器30をなすディスプレイの画面上に変調画像が形成されるようになる。こうして得られた変調画像(映像光)は、投射光学系25によって、等倍で或いは変倍されてスクリーン15へ投射される。これにより、変調画像がスクリーン15上に等倍で或いは変倍、通常、拡大されて表示され、観察者は当該画像を観察することができる。
なお、空間光変調器30としては、反射型のマイクロディスプレイを用いることも可能である。この場合、空間光変調器30での反射光によって変調画像が形成され、空間光変調器30へ照明装置40からコヒーレント光が照射される面と、空間光変調器30から変調画像をなす映像光が進みでる面が同一の面となる。このような反射光を利用する場合、空間光変調器30としてDMD(Digital Micromirror Device)などのMEMS素子を用いることも可能である。上述した特許文献2に開示された装置では、DMDが空間光変調器として利用されている。
また、空間光変調器30の入射面は、照明装置40によってコヒーレント光を照射される被照明領域LZと同一の形状および大きさであることが好ましい。この場合、照明装置40からのコヒーレント光を、スクリーン15への映像の表示に高い利用効率で利用することができるからである。
スクリーン15は、透過型スクリーンとして構成されていてもよいし、反射型スクリーンとして構成されていてもよい。スクリーン15が反射型スクリーンとして構成されている場合には、観察者は、スクリーン15に関して投射装置20と同じ側から、スクリーン15で反射されるコヒーレント光によって表示される映像を観察することになる。一方、スクリーン15が透過型スクリーンとして構成されている場合、観察者は、スクリーン15に関して投射装置20とは反対の側から、スクリーン15を透過したコヒーレント光によって表示される映像を観察することになる。
ところで、スクリーン15に投射されたコヒーレント光は、拡散され、観察者に映像として認識されるようになる。この際、スクリーン上に投射されたコヒーレント光は拡散によって干渉し、スペックルを生じさせることになる。ただし、ここで説明する投射型映像表示装置10では、以下に説明する照明装置40が、互いに入射角度が異なり且つ互いに干渉性が無い複数のコヒーレント光で、空間光変調器30が重ねられている被照明領域LZを同時に照明するようになっている。より具体的には、以下に説明する照明装置40は、コヒーレント光からなる複数の拡散光で被照明領域LZを同時に照明するが、これらの拡散光の入射角度が互いに異なっている。この結果、スクリーン15に投射されたコヒーレント光も入射角度が互いに異なるようになるので、スクリーン15上ではスペックルパターンがコヒーレント光の数だけ生成されて、これらスペックルパターンは干渉せずに空間的に重畳される。従って、コヒーレント光の拡散で生じるスペックルが重畳されて目立たなくなる。以下、このような照明装置40について、さらに詳細に説明する。
図1および図2に示された照明装置40は、コヒーレント光を拡散してコヒーレント光の進行方向を被照明領域LZへ向ける光学素子50と、光学素子50へコヒーレント光を照射する照射装置60と、を有している。光学素子50は、各点が少なくとも被照明領域LZの全域に対してコヒーレント光を拡散可能なものである。光学素子50は、散乱板6の像5を再生し得るホログラム記録媒体55を含んでいる。図示する例では、光学素子50はホログラム記録媒体55から形成されている。
図示する例で光学素子50をなしているホログラム記録媒体55は、照射装置60から照射されるコヒーレント光を再生照明光Laとして受けて、当該コヒーレント光を高効率で回折することができる。とりわけ、ホログラム記録媒体55は、その各位置、言い換えると、その各点とも呼ばれるべき各微小領域に入射するコヒーレント光を回折することによって、散乱板6の像5を再生することができるようになっている。ホログラム記録媒体55は、図1に示すように、3つの入射領域55a、55b、55cを有している。ただし、各入射領域55a、55b、55cは対応するコヒーレント光が入射し得る領域を示しているものであり、ホログラム記録媒体55が実際に区画されていなくても良い。
一方、照射装置60は、各コヒーレント光が光学素子50のホログラム記録媒体55上の対応する入射領域55a、55b、55cのみに入射するように、光学素子50へ、互いに干渉性が無い同一波長の複数のコヒーレント光、ここでは3つのコヒーレント光を照射する。照射装置60によってあるコヒーレント光を照射されているホログラム記録媒体55上の領域は、ホログラム記録媒体55の表面の一部分であって、とりわけ図示する例では、点と呼ばれるべき微小領域となっている。なお、これらの互いに干渉性が無い2つ以上のコヒーレント光がホログラム記録媒体55の表面の同一点に照射されると、スペックルの原因となる。
そして、照射装置60からホログラム記録媒体55上に照射された各コヒーレント光は、ホログラム記録媒体55上の対応する位置(対応する点または対応する領域(以下、同じ))に、当該ホログラム記録媒体55の回折条件を満たすような入射角度で、同時に入射するようになっている。照射装置60からホログラム記録媒体55の各入射領域55a、55b、55cに入射して拡散されたコヒーレント光は、それぞれ、ホログラム記録媒体55で回折されて少なくとも一部分において互いに重なり合う領域を照明する。とりわけここで説明する形態では、照射装置60からホログラム記録媒体55の各入射領域55a、55b、55cに入射したコヒーレント光は、それぞれ、ホログラム記録媒体55で回折されて同一の被照明領域LZを照明するようになっている。より詳細には、図2に示すように、照射装置60からホログラム記録媒体55の3箇所の入射領域55a、55b、55cに入射したコヒーレント光が、それぞれ、被照明領域LZに重ねて散乱板6の像5を再生するようになっている。すなわち、照射装置60からホログラム記録媒体55の3箇所の位置に入射したコヒーレント光は、それぞれ、光学素子50で拡散されて、被照明領域LZに同時に入射するようになる。つまり、被照明領域LZよりホログラム記録媒体55側に位置する仮想面上で考えると、ホログラム記録媒体55の各入射領域55a、55b、55cに入射して回折されたコヒーレント光は、この仮想面上における対応する領域を、少なくとも一部分において互いに重なり合うように照明する。
このようなコヒーレント光の回折作用を可能にするホログラム記録媒体55として、図示する例では、フォトポリマーを用いた透過型の体積型ホログラムが用いられている。このホログラム記録媒体55は、図3に示すように、実物の散乱板6からの散乱光を物体光Loとして用いて作製されている。図3には、ホログラム記録媒体55をなすようになる感光性を有したホログラム感光材料58に、互いに干渉性を有したコヒーレント光からなる参照光Lrと物体光Loとが露光されている状態が、示されている。
参照光Lrは、例えば、特定波長域のレーザ光を発振するレーザ光源からのレーザ光が用いられており、レンズからなる集光素子7を透過してホログラム感光材料58に入射する。図3に示す例では、参照光Lrをなすようになるレーザ光が、集光素子7の光軸と平行な平行光束として、集光素子7へ入射する。参照光Lrは、集光素子7を透過することによって、それまでの平行光束から収束光束に整形(変換)され、ホログラム感光材料58へ入射する。この際、収束光束Lrの焦点位置FPは、ホログラム感光材料58を越えた位置にある。すなわち、ホログラム感光材料58は、集光素子7と、集光素子7によって集光された収束光束Lrの焦点位置FPと、の間に配置されている。
次に、物体光Loは、たとえばオパールガラスからなる散乱板6からの散乱光として、ホログラム感光材料58に入射する。ここでは作製されるべきホログラム記録媒体55が透過型なので、物体光Loは、参照光Lrと同一面からホログラム感光材料58へ入射する。物体光Loは、参照光Lrと干渉性を有している必要がある。したがって、例えば、同一のレーザ光源から発振されたレーザ光を分割して、分割された一方を上述の参照光Lrとして利用し、他方を物体光Loとして使用することができる。
図3に示す例では、散乱板6の板面への法線方向と平行な平行光束が、散乱板6へ入射して散乱され、そして、散乱板6を透過した散乱光が物体光Loとしてホログラム感光材料58へ入射している。この方法によれば、通常安価に入手可能な等方散乱板を散乱板6として用いた場合に、散乱板6からの物体光Loが、ホログラム感光材料58に概ね均一な光量分布で入射することが可能となる。またこの方法によれば、散乱板6による散乱の度合いにも依存するが、ホログラム感光材料58の各位置に、散乱板6の出射面6aの全域から概ね均一な光量で物体光Loが入射しやすくなる。このような場合には、得られたホログラム記録媒体55の各位置に入射した光が、それぞれ、散乱板6の像5を同様の明るさで再生すること、および、再生された散乱板6の像5が概ね均一な明るさで観察されることが実現され得る。
以上のようにして、参照光Lrおよび物体光Loがホログラム記録材料58に露光されると、参照光Lrおよび物体光Loが干渉してなる干渉縞が生成され、この光の干渉縞が、何らかのパターン、すなわち体積型ホログラムでは、一例として、屈折率変調パターンとして、ホログラム記録材料58に記録される。その後、ホログラム記録材料58の種類に対応した適切な後処理が施され、ホログラム記録材料55が得られる。
図4には、図3の露光工程を経て得られたホログラム記録媒体55の回折作用(再生作用)が示されている。図4に示すように、図3のホログラム感光材料58から形成されたホログラム記録媒体55は、露光工程で用いられたレーザ光と同一波長の光であって、露光工程における参照光Lrの光路を逆向きに進む光によって、その回折条件が満たされるようになる。すなわち、図4に示すように、露光工程時におけるホログラム感光材料58に対する焦点FPの相対位置(図3参照)と同一の位置関係をなすようにしてホログラム記録媒体55に対して位置する基準点SPから発散し、露光工程時における参照光Lrと同一の波長を有する発散光束は、再生照明光Laとして、ホログラム記録媒体55に回折され、露光工程時におけるホログラム感光材料58に対する散乱板6の相対位置(図3参照)と同一の位置関係をなすようになるホログラム記録媒体50に対する特定の位置に、散乱板6の再生像5を生成する。
この際、散乱板6の再生像5を生成する再生光Lb、すなわち再生照明光Laをホログラム記録媒体55で回折してなる光は、露光工程時に散乱板6からホログラム感光材料58へ向かって進んでいた物体光Loの光路を逆向きに進む光として散乱板6の像5の各点を再生する。そして、上述したように、また図3に示すように、露光工程時に散乱板6の出射面6aの各位置から出射する散乱光Loが、それぞれ、ホログラム感光材料58の概ね全領域に入射するように拡散している。すなわち、ホログラム感光材料58上の各位置には、散乱板6の出射面6aの全領域からの物体光Loが入射し、結果として、出射面6a全体の情報がホログラム記録媒体55の各位置にそれぞれ記録されている。このため、図4に示された、再生照明光Laとして機能する基準点SPからの発散光束をなす各光は、それぞれ単独で、ホログラム記録媒体55の各位置に入射して互いに同一の輪郭を有した散乱板6の像5を、互いに同一の位置(被照明領域LZ)に再生することができる。
一方、このようなホログラム記録媒体55からなる光学素子50にコヒーレント光を照射する照射装置60は、次のように構成され得る。図1および図2に示された例において、照射装置60は、レーザアレイ62と、入射側光学系70としての凹レンズ71とを有する。
レーザアレイ62は、波長が同一のコヒーレント光をそれぞれが生成する3つのレーザ光源(コヒーレント光源)61a、61b、61cを一つのチップに内蔵したものである。異なる固体のレーザ光源61a、61b、61cからのコヒーレント光は、互いに干渉性を有しない。この基本形態では、説明を明確化するため、3つのレーザ光源61a、61b、61cを備える一例について説明するが、レーザ光源の数は多い方が好ましい。後述するように、レーザ光源の数が多いほどスペックルを目立たなくさせることができるからである。
凹レンズ71は、レーザ光源61a、61b、61cと、光学素子50との間に配置されている。レーザアレイ62内のレーザ光源61a、61b、61cは平行な方向にコヒーレント光を放射する。凹レンズ71は、これらの平行なコヒーレント光が広がるようにして、各コヒーレント光をホログラム記録媒体55の対応する入射領域55a,55b,55cに導く。これにより、各レーザ光源61a、61b、61cからのコヒーレント光は、ホログラム記録媒体55の対応する入射領域のみに入射する。凹レンズ71からのコヒーレント光は、図4における基準点SPからの発散光束の一光線をなし得るコヒーレント光となっている。なお、入射側光学系70は、回折光学素子またはプリズムであっても良い。
入射領域55aの所定の位置には、レーザ光源61aからのコヒーレント光のみが入射され、これにより、散乱板6の像5が被照明領域LZの全域に再生される。入射領域55aから外れた位置にコヒーレント光が入射されないように、レーザ光源61a及び凹レンズ71の位置が決定される。同様に、入射領域55bの所定の位置には、レーザ光源61bからのコヒーレント光のみが入射され、散乱板6の像5が被照明領域LZの全域に再生される。また、入射領域55cの所定の位置には、レーザ光源61cからのコヒーレント光のみが入射され、散乱板6の像5が被照明領域LZの全域に再生される。
結局、被照明領域LZは、互いに干渉性がない、入射領域55aからのコヒーレント光、入射領域55bからのコヒーレント光および入射領域55cからのコヒーレント光で同時に照明されることになる。
このように、凹レンズ71で進行方向を調整された各コヒーレント光は、基準点SPからの発散光束の一光線をなし得る再生照明光La(図4参照)として、光学素子50のホログラム記録媒体55へ入射し得る。結果として、レーザ光源61a、61b、61cからの互いに干渉性が無いコヒーレント光がホログラム記録媒体55上の3箇所の位置に入射するようになり、且つ、ホログラム記録媒体55上の各位置に入射したコヒーレント光が同一の輪郭を有した散乱板6の像5を同一の位置(被照明領域LZ)に同時に再生するようになる。
図5は、図2に示された照明装置40の構成を斜視図として示している。図5に示された例では、照射装置60からのコヒーレント光の光学素子50への入射点IP1,IP2,IP3は、ホログラム記録媒体55の板面上に定義されたXY座標系、つまり、XY平面がホログラム記録媒体55の板面と平行となるXY座標系のX軸と平行な直線上に位置している。図5では、説明を明確化するため、入射点IP2からの再生光Lbは記載を省略している。
なお、実際上の問題として、ホログラム記録媒体55を作成する際、ホログラム記録材料58が収縮する場合がある。このような場合、ホログラム記録材料58の収縮を考慮して、照射装置60から光学素子50に照射されるコヒーレント光の入出射角度が調整されることが好ましい。したがって、レーザ光源61a、61b、61cで生成するコヒーレント光の波長は、図3の露光工程(記録工程)で用いた光の波長と厳密に一致させる必要はなく、ほぼ同一となっていてもよい。
また、同様の理由から、光学素子50のホログラム記録媒体55へ入射する光の進行方向も、基準点SPからの発散光束に含まれる一光線と厳密に同一の経路を取っていなくとも、被照明領域LZに像5を再生することができる。
〔基本形態の作用効果〕
次に、以上の構成からなる照明装置40、投射装置20および投射型映像表示装置10の作用について説明する。
まず、照射装置60のレーザ光源61a、61b、61cは、平行に進む同一波長の3つのコヒーレント光を生成する。前述の様に、これらのコヒーレント光は干渉性が無い。
これらのコヒーレント光は、凹レンズ71で進行方向を変えられる。凹レンズ71は、ホログラム記録媒体55上の3箇所の位置(入射領域)に、当該位置でのブラッグ条件を満たす入射角度でコヒーレント光を互いに重ならないように入射させる。この結果、3箇所の位置に入射したコヒーレント光は、それぞれ、ホログラム記録媒体55での回折により、被照明領域LZに重ねて散乱板6の像5を同時に再生する。すなわち、照射装置60からホログラム記録媒体55の3箇所の位置に入射したコヒーレント光は、それぞれ、光学素子50で拡散されて、被照明領域LZの全域に入射するようになる。このようにして、照射装置60は、被照明領域LZを干渉性が無いコヒーレント光で同時に照明するようになる。
図1に示すように、投射装置20においては、照明装置40の被照明領域LZと重なる位置に空間光変調器30が配置されている。このため、空間光変調器30は、照明装置40によって面状に照明され、画素毎にコヒーレント光を選択して透過させることにより、映像を形成するようになる。この映像は、投射光学系25によってスクリーン15に投射される。スクリーン15に投射されたコヒーレント光は、拡散され、観察者に映像として認識されるようになる。ただし、この際、スクリーン上に投射されたコヒーレント光は拡散によって干渉し、スペックルを生じさせることになる。
しかしながら、ここで説明してきた基本形態における照明装置40によれば、次に説明するように、スペックルを極めて効果的に目立たなくさせることができる。
前掲の非特許文献1によれば、スペックルを目立たなくさせるには、偏光・位相・角度・時間といったパラメータを多重化し、モードを増やすことが有効であるとされている。
ここでいうモードとは、互いに無相関なスペックルパターンのことである。例えば、複数のレーザ光源から同一のスクリーンに異なる方向からコヒーレント光を投射した場合、レーザ光源の数だけ、モードが存在することになる。そして、このモードが多数存在する場合には、光の干渉パターンが無相関に重ねられ平均化され、結果として、観察者の目によって観察されるスペックルが目立たなくなるものと考えられている。
上述した照射装置60は、互いに干渉性が無い3つのコヒーレント光を、それぞれ光学素子50のホログラム記録媒体55の対応する位置(入射領域)に照射する。また、照射装置60からホログラム記録媒体55の3箇所の位置に入射したコヒーレント光は、それぞれ、同一の被照明領域LZの全域をコヒーレント光で同時に照明するが、当該被照明領域LZを照明するコヒーレント光の照明方向は互いに異なる。
被照明領域LZを基準にして考えると、被照明領域LZ内の各位置には、コヒーレント光が3つの入射方向から入射する。結果として、空間光変調器30の透過光によって形成された映像の各画素をなす光が、互いに異なる光路(角度)で、スクリーン15の特定の位置に投射されるようになる。
以上のことから、上述してきた基本形態によれば、映像を表示しているスクリーン15上の各位置において、相関の無いコヒーレント光の散乱パターンが多重化されて観察されることになる。したがって、各散乱パターンに対応して生成されたスペックルが重ねられ平均化されて、観察者に観察されることになる。これにより、スクリーン15に表示されている映像を観察する観察者に対して、スペックルを極めて効果的に目立たなくさせることができる。
なお、人間によって観察される従来のスペックルには、スクリーン15上でのコヒーレント光の散乱を原因とするスクリーン側でのスペックルだけでなく、スクリーンに投射される前におけるコヒーレント光の散乱を原因とする投射装置側でのスペックルも発生し得る。この投射装置側で発生したスペックルパターンは、空間光変調器30を介してスクリーン15上に投射されることによって、観察者に認識され得るようにもなる。しかしながら、上述してきた基本形態によれば、ホログラム記録媒体55の3箇所の位置に入射した干渉性の無いコヒーレント光が、それぞれ、空間光変調器30が重ねられた被照明領域LZの全域を照明するようになる。すなわち、ホログラム記録媒体55が、スペックルパターンを形成していたそれまでの波面とは別途の新たな波面を形成し、複雑且つ均一に、被照明領域LZ、さらには、空間光変調器30を介してスクリーン15を照明するようになる。このようなホログラム記録媒体55での新たな波面の形成により、投射装置側で発生するスペックルパターンは不可視化されることになる。
ところで、前掲の非特許文献1には、スクリーン上に生じたスペックルの程度を示すパラメータとして、スペックルコントラスト(単位%)という数値を用いる方法が提案されている。このスペックルコントラストは、本来は均一の輝度分布をとるべきテストパターン映像を表示した際に、スクリーン上に実際に生じる輝度のばらつきの標準偏差を、輝度の平均値で除した値として定義される量である。即ち、このスペックルコントラストは、モードの数の平方根の逆数に比例する量である。この基本形態では、モードの数はレーザ光源の数となっている。従って、このスペックルコントラストは、レーザ光源の数の平方根の逆数に比例する。このスペックルコントラストの値が大きければ大きいほど、スクリーン上のスペックル発生程度が大きいことを意味し、観察者に対して、斑点状の輝度ムラ模様がより顕著に提示されていることを示す。つまり、前述の様に、レーザ光源の数が多ければ多いほど、スペックルコントラストの値が小さくなり、スペックルを目立たなくさせることができる。
図1〜図5を参照しながら説明してきた基本形態の投射型映像表示装置10について、例示した3つのレーザ光源61a、61b、61cのみではなく、より多くのレーザ光源を用いた状態でスペックルコントラストを測定したところ、5.0%となった(条件1)。また、上述の光学素子50として、透過型の体積型ホログラムに代えて、特定の再生照明光を受けた場合に散乱板6の像5を再生し得るように計算機を用いて設計された凹凸形状を有する計算機合成ホログラム(CGH)としてのレリーフ型ホログラムを用いた場合についてのスペックルコントラストは6.2%となった(条件2)。HDTV(高精細テレビ)の映像表示用途にて、観察者が肉眼観察した場合に輝度ムラ模様がほとんど認識できないレベルとして、スペックルコントラスト6.0%以下という基準(たとえば、WO/2001/081996号公報参照)が示されているが、上述してきた基本形態はこの基準をある程度満たしている。また、実際に肉眼観察したところ、視認され得る程度の輝度ムラ(明るさのムラ)は発生していなかった。
一方、複数のレーザ光源を用いずに、1つのレーザ光源からのレーザ光を平行光束に整形して空間光変調器30に入射させた場合、すなわち、図1に示された投射型映像表示装置10の空間光変調器30に、光学素子50を介さず、1つのレーザ光源61aからのコヒーレント光を平行光束として入射させた場合、スペックルコントラストは20.7%となった(条件3)。この条件下では、肉眼観察により、斑点状の輝度ムラ模様がかなり顕著に観察された。
また、光源61aを緑色のLED(非コヒーレント光源)に交換し、このLED光源からの光を空間光変調器30に入射させた場合、すなわち、図1に示された投射型映像表示装置10の空間光変調器30に、光学素子50を介さず、1つのLED光源からの非コヒーレント光を平行光束として入射させた場合、スペックルコントラストは4.0%となった(条件4)。この条件下では、肉眼観察で視認され得る程度の輝度ムラ(明るさのムラ)は発生していなかった。
条件1および条件2の結果が、条件3の結果よりも極めて良好であり、さらに、条件4の測定結果と比較しても同程度となった。既に述べたとおり、スペックルの発生という問題は、実用上、レーザ光などのコヒーレント光源を用いた場合に生じる固有の問題であり、LEDなどの非コヒーレント光源を用いた装置では、考慮する必要のない問題である。
加えて、条件1および条件2では、条件4と比較して、スペックル発生の原因となり得る光学素子50が追加されている。これらの点から、条件1および条件2によれば、スペックル不良に十分に対処することができたと言える。
加えて、上述してきた基本形態によれば、次の利点を享受することもできる。
上述してきた基本形態によれば、スペックルを目立たなくさせるための光学素子50が、照射装置60から照射されるコヒーレント光のビーム形態を整形および調整するための光学部材としても機能し得る。したがって、光学系を小型且つ簡易化することができる。
また、上述してきた基本形態によれば、ホログラム記録媒体55の各位置に入射するコヒーレント光が、互いに同一の位置に、散乱板6の像5を生成するとともに、当該像5に重ねて空間光変調器30が配置されている。このため、ホログラム記録媒体55で回折された光を、高効率で、映像形成のために利用することが可能となり、レーザ光源61a、61b、61cからの光の利用効率の面においても優れる。
〔基本形態への変形〕
図1〜5に例示された一具体例に基づいて説明してきた基本形態に対して、種々の変更を加えることが可能である。以下、図面を参照しながら、変形の一例について説明する。
以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いており、重複する説明を省略する。
(投射装置)
基本形態では、空間光変調器30が被照明領域LZと重なる位置に配置される一例について説明したが、空間光変調器30は被照明領域LZと厳密に重なる位置に配置されていなくてもよい。例えば、図1の構成において、空間光変調器30は、被照明領域LZより光学素子50側に配置されてもよく、被照明領域LZより投射光学系25側に配置されてもよい。つまり、光学素子50の各入射領域に入射して回折されたコヒーレント光が、空間光変調器30を重ねて照明するように、光学素子50と空間光変調器30が配置されていればよい。
(照明装置)
図6に示すように、照明装置60のレーザ光源61a、61b、61cは、独立したレーザ光源であっても良い。図6の例では、3つのレーザ光源61a、61b、61cは互いに離れて配置されているため、レーザ光源61a、61b、61cからの平行なコヒーレント光の一部は、直接的にホログラム記録媒体55に入射できない。そのため、照明装置60は、レーザ光源61a、61b、61cと、ホログラム記録媒体55との間に、コヒーレント光をホログラム記録媒体55の各入射領域55a、55b、55cに導く入射側光学系70としての凸レンズ72を備える。この凸レンズ72により、3つのコヒーレント光を収束させて、それぞれをホログラム記録媒体55の対応する入射領域55a、55b、55cに照射することができる。このような構成によっても、上述した基本形態と同様な効果が得られる。このような例では、ホログラム記録媒体55を作製する際の露光工程において、参照光Lrとして、上述した収束光束に代えて、発散光束を用いることになる。なお、入射側光学系70は、回折光学素子またはプリズム等であっても良い。
また、図7に示すように、照明装置60は、入射光学系70に替えて、各レーザ光源61a、61b、61cと、ホログラム記録媒体55の対応する入射領域55a、55b、55cとの間に、コヒーレント光をホログラム記録媒体55の対応する入射領域55a、55b、55cに導く光ファイバ64a、64b、64cを備えても良い。
レーザ光源61aからのコヒーレント光は、光ファイバ64aの入射端の光カップリング部CIaでカップリングされて光ファイバ64aを伝搬し、出射端の光カップリング部COaからホログラム記録媒体55の対応する入射領域55aに出射される。同様に、レーザ光源61bからのコヒーレント光は、光カップリング部CIbでカップリングされて光ファイバ64bを伝搬し、光カップリング部CObからホログラム記録媒体55の対応する入射領域55bに出射される。レーザ光源61cからのコヒーレント光は、光カップリング部CIcでカップリングされて光ファイバ64cを伝搬し、光カップリング部COcからホログラム記録媒体55の対応する入射領域55cに出射される。光ファイバ64a、64b、64cは、中間部分が物理的に結束(バンドル)されていてもよい。
このような構成によれば、互いに干渉性の無いコヒーレント光は、それぞれ対応する光ファイバ内を伝搬するため、伝搬の途中で互いに混合される恐れがない。従って、より確実に各コヒーレント光を対応する入射領域のみに入射させることができる。これにより、より確実にスペックルを目立たなくさせることができる。さらに、レーザ光源61a、61b、61cを任意の位置に配置できるため、光学系の配置の制約を少なくでき、照明装置40を小型化できる。
また、上述した基本形態によれば、スペックルを効果的に目立たなくさせることができる。ただし、この作用効果は、主として照明装置40に起因したものである。したがって、この照明装置40を種々の態様で有用に使用することができる。例えば、照明装置40を単なる照明として用いることができ、この場合、輝度ムラ、ちらつき等の明るさのムラを目立たなくさせることができる。
また、上述した照明装置40をスキャナ、一例として、像読み取り装置用の照明として用いてもよい。このような例においては、照明装置40の被照明領域LZ上にスキャンされるべき対象物を配置することにより、当該対象物上に生じるスペックルを目立たなくさせることができる。結果として、従来必要であった像補正手段等を不要にすることもできる。
照明装置40がスキャナに組み込まれる場合には、照明装置40による被照明領域LZが、上述した形態と同様に、面であってもよい。あるいは、照明装置40による被照明領域LZが一方向に延びる細長い領域または線状とも呼ばれるような領域であってもよい。
この場合、スキャナに組み込まれた照明装置40が、前記一方向と直交する方向に沿って、対象物に対して相対移動することにより、二次元的な像情報を読み取ることも可能となる。
またさらに、図8に示すように、光学素子50が、重ならないようにして並べて配置された複数のホログラム記録媒体55−1,55−2,・・・を含んでいても良い。図8に示された各ホログラム記録媒体55−1,55−2,・・・は、それぞれ短冊状に形成され、その長手方向と直交する方向に、隙間無く並べて配列されている。また、各ホログラム記録媒体55−1,55−2,・・・は、互いに同一の仮想面上に位置している。各ホログラム記録媒体55−1,55−2,・・・は、それぞれ、重ならないようにして並べて配置された被照明領域LZ−1,LZ−2,・・・に散乱板6の像5を生成する、言い換えると、被照明領域LZ−1,LZ−2,・・・にコヒーレント光を照明するようになっている。各被照明領域LZ−1,LZ−2,・・・は、一方向に延びる細長い領域または線状とも呼ばれるような領域として形成され、その長手方向と直交する方向に、隙間無く並べて配列されている。また、各被照明領域LZ−1,LZ−2,・・・は、互いに同一の仮想面上に位置している。
図8に示された例では、次のようにして、被照明領域LZ−1,LZ−2,・・・を照明するようにしてもよい。まず、照射装置60は、各コヒーレント光が第1のホログラム記録媒体55−1の長手方向(前記一方向)に沿った入射点IP1〜IP3のうちの対応する入射点に入射するように、光学素子50の第1のホログラム記録媒体55−1へ当該コヒーレント光を照射する。第1のホログラム記録媒体55−1の各位置に入射したコヒーレント光は、それぞれ、第1の照明領域LZ−1に重ねて線状あるいは細長状の散乱板6の像5を再生し、当該第1の照明領域LZ−1をコヒーレント光で同時に照明するようになる。所定の時間が経過すると、照射装置60は、例えばレーザアレイ62の向きを変更して、第1のホログラム記録媒体55−1に隣接する第2のホログラム記録媒体55−2上の3つの入射点にコヒーレント光を照射し、第1の被照明領域LZ−1に代えて、第1の被照明領域LZ−1に隣接する第2の被照明領域LZ−2をコヒーレント光で照明する。以下、順に各ホログラム記録媒体上の3つの入射点にコヒーレント光を照射して、当該ホログラム記録媒体に対応する被照明領域をコヒーレント光で照明していく。このような方法によれば、照明装置を移動させることなく、二次元的な像情報を読み取ることが可能となる。なお、図8においては、説明を明確化するため、入射点IP2からの再生光Lbのみを図示している。
(空間光変調器、投射光学系、スクリーン)
上述した形態によれば、スペックルを効果的に目立たなくさせることができる。ただし、この作用効果は、主として照明装置40に起因したものである。そして、この照明装置40を、種々の既知な空間光変調器、投射光学系、スクリーン等と組み合わせても、スペックルを効果的に目立たなくさせることができる。この点から、空間光変調器、投射光学系、スクリーンは、例示したものに限られず、種々の既知な部材、部品、装置等を用いることができる。
(投射型映像表示装置)
また、ホログラム記録媒体55が、空間光変調器30の入射面に対応した形状を有した平面状の散乱板6を用いて、干渉露光法により作製される例を示したが、これに限られず、ホログラム記録媒体55が、何らかのパターンを有した散乱板を用いて、干渉露光法により作製されてもよい。この場合、ホログラム記録媒体55によって、何らかのパターンを持った散乱板の像が再生されるようになる。言い換えると、光学素子50(ホログラム記録媒体55)は、何らかのパターンを持った被照明領域LZを照明するようになる。この光学素子50を用いる場合、空間光変調器30を、さらには投射光学系25をも上述の基本形態から省き、スクリーン15を被照明領域LZと重なる位置に配置することによって、スクリーン15上にホログラム記録媒体55に記録された何らかのパターンを表示することが可能となる。この表示装置においても、各レーザ光源61a、61b、61cからの干渉性の無いコヒーレント光がホログラム記録媒体55の対応する入射領域のみに入射することによって、スクリーン15上でのスペックルを目立たなくさせることができる。
図9には、このような例の一例が開示されている。図示する例において、光学素子50は、第1〜第3のホログラム記録媒体55−1,55−2,55−3を含んでいる。第1〜第3のホログラム記録媒体55−1,55−2,55−3は、互いに重ならないように位置をずらして、光学素子50の入射面と平行な面上に配置されている。各ホログラム記録媒体55−1,55−2,55−3は、矢印の輪郭を有した像5を再生することができる、言い換えると、矢印の輪郭を有した被照明領域LZ−1,LZ−2,LZ−3をコヒーレント光で照明することができるようになっている。各ホログラム記録媒体55−1,55−2,55−3にそれぞれ対応した第1〜第3の被照明領域LZ−1,LZ−2,LZ−3は、同一の仮想面上に、互いに重ならないように配置されている。とりわけ図示する例では、各被照明領域LZ−1,LZ−2,LZ−3をなす矢印によって示される向きがすべて同一で、この向きに沿って第1〜第3被照明領域LZ−1,LZ−2,LZ−3が順に位置している。例えば、照射装置60からの各コヒーレント光が第1ホログラム記録媒体55−1上の対応する入射点IP1−1〜IP3−1に同時に入射している場合には、最も後方に位置する第1の被照明領域LZ−1が照明される。一例として次に、図9に示すように、例えばレーザアレイ62の向きを変更することで、照射装置60からの各コヒーレント光が第2ホログラム記録媒体55−2上の対応する入射点IP1−2〜IP3−2に同時に入射するようになり、真ん中に位置する第2の被照明領域LZ−2が照明される。その後、照射装置60からの各コヒーレント光が第3ホログラム記録媒体55−3上の対応する入射点IP1−3〜IP3−3に同時に入射するようになると、最も前方に位置する第3の被照明領域LZ−3が照明される。なお、図9においては、説明を明確化するため、入射点IP2−1、IP2−2、IP2−3からの再生光Lbのみを図示している。
(照射装置)
上述した形態では、照射装置60が、ホログラム記録媒体55の板面上の直線上に位置する3つの入射点にコヒーレント光を同時に照射する例を示したが、これに限られない。
図10に示すように、照射装置60からのコヒーレント光のホログラム記録媒体55への入射点IP1〜IP3は、ホログラム記録媒体55の板面上の任意の位置にあってもよい。つまり、入射点IP1〜IP3は、ホログラム記録媒体55の板面上で二次元的に位置していてもよい。なお、図10では、説明を明確化するため、入射点IP2からの再生光Lbは記載を省略している。また、図10では、説明を明確化するため、3つの入射点IP1〜IP3を示したが、前述の様にレーザアレイ62はより多くのレーザ光源を有していることが好ましい。その場合、レーザアレイ62はマトリクス状にレーザ光源を有して、これらのレーザ光源がホログラム記録媒体55の板面上にマトリクス状に位置した複数の入射点にコヒーレント光を出射しても良い。
さらに、照射装置60のレーザ光源61a、61b、61cが、線状光線として整形されたレーザ光を発振する前提で説明してきたが、これに限られない。とりわけ、上述した形態では、光学素子50の各位置に照射されたコヒーレント光は、光学素子50によって、被照明領域LZの全域に入射するようになる光束に整形される。したがって、照射装置60の光源61a、61b、61cから光学素子50に照射されるコヒーレント光は精確に整形されていなくとも不都合は生じない。このため、光源61a、61b、61cから発生されるコヒーレント光は、発散光であってもよい。また、光源61a、61b、61cから発生されるコヒーレント光の断面形状は、円でなく、楕円等であってもよい。さらには、光源61a、61b、61cから発生されるコヒーレント光の横モードがマルチモードであってもよい。
なお、レーザ光源61a、61b、61cが発散光束を発生させる場合、コヒーレント光は、光学素子50のホログラム記録媒体55に入射する際に、点ではなくある程度の面積を持った領域に入射することになる。この場合、ホログラム記録媒体55で回折されて被照明領域LZの各位置に入射する光は、基本形態よりも角度を多重化されることになる。このような角度の多重化によって、スペックルをさらに効果的に目立たなくさせることができる。
さらに、上述した形態において、照射装置60が、発散光束に含まれる一光線の光路をたどるようにして、コヒーレント光を光学素子50へ入射させる例を示したが、これに限られない。例えば、図1に示した形態において、照射装置60は凹レンズ71を含まないようにしてもよい。この場合、各レーザ光源61a、61b、61cからのコヒーレント光が、光学素子50のホログラム記録媒体55の対応する入射領域のみに直接的に入射する。すなわち、照射装置60は、平行光束を構成する光線の光路をたどるようにして、コヒーレント光を光学素子50へ入射させるようになる。このような例では、ホログラム記録媒体55を作製する際の露光工程において、参照光Lrとして、上述した収束光束に代えて、平行光束を用いることになる。このようなホログラム記録媒体55は、より簡単に作製および複製することができる。
また、照射装置60が、異なる波長域のコヒーレント光を発生させる複数の光源を含んでいてもよい。この場合でも、照射装置60は、各波長域に関して、互いに干渉性が無く波長が同一のコヒーレント光をそれぞれが生成する複数の光源を含む必要がある。この例によれば、単一レーザ光では表示することが困難な色を加法混色によって生成し、当該色で被照明領域LZを照明することができる。また、この場合、投射装置20または透過型映像表示装置10において、空間光変調器30が、例えばカラーフィルタを含んでおり、各波長域のコヒーレント光毎に変調画像の形成が可能である場合には、複数色で映像を表示することが可能となる。あるいは、空間光変調器30がカラーフィルタを含んでいなくとも、照射装置60が各波長域のコヒーレント光を時分割的に照射し、且つ、空間光変調器30が、照射されている波長域のコヒーレント光に対応した変調画像を形成するように時分割的に作動する場合にも、複数色で映像を表示することが可能となる。とりわけ、投射装置20または透過型映像表示装置10において、照射装置60が、赤色光に対応する波長域のコヒーレント光を発生する光源と、緑色光に対応する波長域のコヒーレント光を発生する光源と、青色光に対応する波長域のコヒーレント光を発生する光源と、を含んでいる場合には、フルカラーで映像を表示することが可能となる。
なお、光学素子50に含まれるホログラム記録媒体55は、波長選択性を有している。
したがって、照射装置60が異なる波長域の光源を含んでいる場合には、ホログラム記録媒体55が、各光源で発生されるコヒーレント光の波長域にそれぞれ対応したホログラム要素を、積層した状態で、含むようにしてもよい。各波長域のコヒーレント光用のホログラム要素は、例えば、図3および図4を参照しながら既に説明した方法において、露光用の光(参照光Lrおよび物体光Lo)として、対応する波長域のコヒーレント光を用いることにより、作製され得る。また、各波長域のホログラム要素を積層してホログラム記録媒体55を作製することに代え、各波長域のコヒーレント光からなる物体光Loおよび参照光Lrを、それぞれ同時にホログラム感光材料58に露光して、単一のホログラム記録媒体55によって、複数の波長域の光をそれぞれ回折するようにしてもよい。
(光学素子)
上述した形態において、光学素子50が、フォトポリマーを用いた透過型の体積型ホログラム55からなる例を示したが、これに限られない。既に説明したように、光学素子50は複数のホログラム記録媒体55を含んでいてもよい。例えば、図1に示した光学素子50は入射領域55a、55b、55cに対応した3つのホログラム記録媒体を含み、各コヒーレント光が対応するホログラム記録媒体のみに入射するようにしてもよい。また、光学素子50は、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプの体積型ホログラムを含んでもよい。さらに、光学素子50は、反射型の体積型ホログラム記録媒体を含んでいてもよいし、レリーフ型(エンボス型)のホログラム記録媒体を含んでいてもよい。
ただし、レリーフ(エンボス)型ホログラムは、表面の凹凸構造によってホログラム干渉縞の記録が行われる。しかしながら、このレリーフ型ホログラムの場合、表面の凹凸構造による散乱が、光量ロスのほか、意図しない新たなスペックル生成要因となる可能性があり、この点において体積型ホログラムの方が好ましい。体積型ホログラムでは、媒体内部の屈折率変調パターン(屈折率分布)としてホログラム干渉縞の記録が行われるため、表面の凹凸構造による散乱による影響を受けることはない。
もっとも、体積型ホログラムでも、銀塩材料を含む感光媒体を利用して記録するタイプのものは、銀塩粒子による散乱が光量ロスのほか、意図しない新たなスペックル生成要因となる可能性がある。この点において、ホログラム記録媒体55としては、フォトポリマーを用いた体積型ホログラムの方が好ましい。
また、図3に示す露光工程では、いわゆるフレネルタイプのホログラム記録媒体が作成されることになるが、レンズを用いた記録を行うことにより得られるフーリエ変換タイプのホログラム記録媒体を作成してもかまわない。ただ、フーリエ変換タイプのホログラム記録媒体を用いる場合には、像再生時にもレンズを使用してもよい。
また、ホログラム記録媒体55に形成されるべき縞状パターン(屈折率変調パターンや凹凸パターン)は、現実の物体光Loおよび参照光Lrを用いることなく、予定した再生照明光Laの波長や入射方向、並びに、再生されるべき像の形状や位置等に基づき計算機を用いて設計されてもよい。このようにして得られたホログラム記録媒体55は、計算機合成ホログラムとも呼ばれる。また上述した変形例のように波長域の互いに異なる複数のコヒーレント光が照射装置60から照射される場合には、計算機合成ホログラムとしてのホログラム記録媒体55は、各波長域のコヒーレント光にそれぞれ対応して設けられた複数の領域に平面的に区分けされ、各波長域のコヒーレント光は対応する領域で回折されて像を再生するようにしてもよい。
さらに、上述した形態において、光学素子50が、各位置に照射されたコヒーレント光を拡げて、当該拡げたコヒーレント光を用いて被照明領域LZの全域を照明するホログラム記録媒体55を、有している例を示したが、これに限られない。光学素子50は、ホログラム記録媒体55に代えて或いはホログラム記録媒体55に加えて、各位置に照射されたコヒーレント光の進行方向を変化させるとともに拡散させて、被照明領域LZの全域をコヒーレント光で照明する光学要素としてのレンズアレイまたは拡散板を有するようにしてもよい。このようなレンズアレイの具体例として、拡散機能を付与された全反射型または屈折型のフレネルレンズやフライアイレンズ等を挙げることができる。また、このような拡散板の具体例として、拡散機能を付与されたオパールガラス、すりガラス又は樹脂拡散板等を挙げることができる。このような照明装置40においても、照射装置60が、レンズアレイ又は拡散板にコヒーレント光を照射するようにし、且つ、照射装置60からレンズアレイ又は拡散板の各位置に入射したコヒーレント光が、それぞれレンズアレイ又は拡散板によって進行方向を変化させられて少なくとも被照明領域LZを照明するよう、照射装置60および光学素子50を構成しておくことにより、スペックルを効果的に目立たなくさせることができる。
(照明方法)
上述した形態において、照射装置60がコヒーレント光を光学素子50上の一次元方向に並んだ各位置に照射するように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55、レンズアレイまたは拡散板が各位置に照射されたコヒーレント光を二次元方向に拡散するように構成され、これにより、照明装置40が二次元的な被照明領域LZを照明する例を示した。ただし、既に説明してきたように、このような例に限定されることはなく、例えば、照射装置60がコヒーレント光を光学素子50上の二次元的に並んだ各位置に照射するように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55、レンズアレイまたは拡散板が各位置に照射されたコヒーレント光を二次元方向に拡散するように構成され、これにより、照明装置40が二次元的な被照明領域LZを照明してもよい(図10を参照しながら、既に説明した態様)。
また、既に言及しているように、照射装置60がコヒーレント光を光学素子50上の一次元方向に並んだ各位置に照射するように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55、レンズアレイまたは拡散板が各位置に照射されたコヒーレント光を一次元方向に拡散するように構成され、これにより、照明装置40が一次元的な被照明領域LZを照明するようにしてもよい。この態様において、照射装置60によりコヒーレント光が照射される位置の配列方向と、光学素子のホログラム記録媒体55、レンズアレイまたは拡散板の拡散方向と、が平行となるようにしてもよい。
さらに、照射装置60がコヒーレント光を光学素子50上の一次元方向に並んだ各位置または二次元的に並んだ各位置に照射するように構成され、且つ、光学素子50のホログラム記録媒体55、レンズアレイまたは拡散板が各位置に照射されたコヒーレント光を一次元方向に拡散するように構成されていてもよい。この態様において、既に説明したように、光学素子50が複数のホログラム記録媒体55、レンズアレイまたは拡散板を有し、各ホログラム記録媒体55、レンズアレイまたは拡散板に対応した被照明領域LZを順に照明していくことによって、照明装置40が二次元的な領域を照明するようにしてもよい。この際、各被照明領域LZが、人間の目では同時に照明されているかのような速度で、順に照明されていってもよいし、あるいは、人間の目でも順番に照明していると認識できるような遅い速度で、順に照明されていってもよい。
(入射側光学系)
入射側光学系70は、結像光学系80から構成されてもよい。
図11は、入射側光学系70の一変形例を説明するための図であって、照明装置、投射装置および投射型映像表示装置の概略構成を示す図である。図11に示すように、入射側光学系70は、各レーザ光源(コヒーレント光源)61a,61b,61cの像を光学素子50の対応する入射領域55a,55b,55cに結像させる結像光学系80から構成されている。即ち、レーザ光源61aの像は、対応する入射領域55aに結像し、レーザ光源61bの像は、対応する入射領域55bに結像し、レーザ光源61cの像は、対応する入射領域55cに結像する。光源の像面61Xは、例えば、光学素子50の入射面と平行な面であり、光学素子50内に位置している。
結像光学系80は、凸レンズ81と凹レンズ82を有しており、レーザ光源61a、61b、61cに近い側に凸レンズ81が配置されている。レーザ光源61a,61b,61cからのコヒーレント光は、凸レンズ81と凹レンズ82をこの順番に透過して、光学素子50に入射する。凸レンズ81は、各レーザ光源61a,61b,61cの像を光学素子50の対応する入射領域55a,55b,55cに結像させる。凹レンズ82は、図1の基本形態と同様に、密集したレーザアレイ62のレーザ光源61a,61b,61cからの各コヒーレント光の光線を広げる。即ち、凹レンズ82は、スペックル低減のために、各コヒーレント光の光線の間隔を大きくする。
このような構成により、前述の基本形態よりも確実に、各レーザ光源61a,61b,61cからの各コヒーレント光が光学素子50のホログラム記録媒体55上の対応する入射領域55a、55b、55cのみに入射するようになる。従って、より確実に、スクリーン15上に異なるスペックルパターンを生成できる。これらスペックルパターンは干渉せずに空間的に重畳されるので、コヒーレント光の拡散で生じるスペックルが重畳されて目立たなくなる。
図12は、入射側光学系70の他の変形例を説明するための図であって、照明装置、投射装置および投射型映像表示装置の概略構成を示す図である。図12に示すように、この変形例では、結像光学系80は凹レンズ83と凸レンズ84を有しており、レーザ光源61a,61b,61cに近い側に凹レンズ83が配置されている点が、図11の例と異なる。図11の例と同様に、結像光学系80は、各レーザ光源61a,61b,61cの像を光学素子50の対応する入射領域55a,55b,55cに結像させる。
レーザ光源61a,61b,61cからの平行光であるコヒーレント光は、凹レンズ83によって発散させられ、その後、凸レンズ84によって再び平行光にされる。凸レンズ84は、各レーザ光源61a,61b,61cの像を光学素子50の対応する入射領域55a,55b,55cに結像させる。つまり、この構成によれば、各コヒーレント光を効率よく分離して、光学素子50の対応する入射領域55a,55b,55cのみに入射させることができる。そして、図11の例と同様に、より確実に、スクリーン15上に異なるスペックルパターンを生成できる。
この例でも、光源の像面61Xは、例えば、光学素子50の入射面と平行な面であり、光学素子50内に位置している。なお、1枚のレンズ又は3枚以上のレンズを用いて結像光学系80を構成してもよい。
(変形例の組み合わせ)
なお、以上において上述した基本形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。