JP6572337B2 - マイオカイン産生促進用組成物 - Google Patents
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Description
ヒト培養骨格筋のセクレトーム解析から、300以上の液性タンパク質がマイオカイン候補物質として挙げられている(非特許文献2)。マイオカインの中で最も代表的なものはインターロイキン−6(IL−6)であり、筋肉と多岐に渡る他臓器とのクロストークを担っていると考えられ(非特許文献1参照)、抗炎症作用や抗糖尿病作用(非特許文献3)、抗肥満作用(非特許文献4)など様々な作用が報告されている。IL−6を一つの指標として筋肉のマイオカインの産生量の変動を確認することができる。
また、マイオカインはその多くが恒常的に分泌されており、筋収縮や機械的刺激、インスリンなどの刺激によりその分泌量は変動しうることが知られている(非特許文献5)。 例えば、IL−6やIL−15など運動によって血中濃度が上昇することが多数のマイオカインについて報告されている(非特許文献6)。運動による健康・美容増進効果の一部はマイオカインによるものであると考えられる。しかしながら、近年、特に女性の運動習慣が減少し、中でも男女とも30代は最も運動習慣が少ない年代であることが明らかになっており、高齢者のみならず若年層においても、マイオカイン分泌を簡便に促進する方法が健康・美容の両面から必要とされている。
しかしこれまで、マイカイオン産生促進を筋肉運動なしで促進する具体的な方法や、促進するための組成物は未だ提供されていない。
すなわち、本発明は、マイオカイン産生促進作用を有する組成物を提供することを課題とする。
(1)カモミール精油、ローズマリー精油、ニュウコウジュ精油、メントール、酢酸リナリル、リナロール、α−ピネンおよびリモネンから選択される1種類以上の物質を有効成分として含有する、筋細胞における、マイオカインの1つであるIL−6の産生促進剤(抗糖尿病剤および抗肥満剤を除く)。
(2)カモミール精油を有効成分として含有する、筋細胞における、マイオカインの1つであるAngptl4の産生促進剤(抗糖尿病剤および抗肥満剤を除く)。
(3)カモミール精油、ローズマリー精油、ニュウコウジュ精油、メントールから選択される1種類以上の物質を有効成分として含有する、筋細胞における、乳酸によるマイオカインの1つであるIL−6産生能の低下抑制剤(抗糖尿病剤および抗肥満剤を除く)。
筋肉組織の産生するマイオカインは、筋肉自身のみならず、血流などを介して脂肪組織、膵臓、免疫系組織、脳神経、骨など多臓器の生理機能を整え、抗筋萎縮、抗肥満、抗糖尿病、抗炎症、記憶力促進、神経再生、骨再生、抗がんなどの作用をもたらす。また、特に皮膚組織などを構成する線維芽細胞組織においては線維芽細胞を増殖させ、更に線維芽細胞の産生するコラーゲン量を増やす。
本発明の組成物について説明する。
本発明の組成物にあっては、筋肉のマイオカイン産生を促進する作用を示す成分は、植物由来の精油及び/又はメントールである。マイオカイン産生促進作用を示す精油又はメントールを1種以上含有する組成物をマイオカイン産生促進用組成物として用いることができる。
マイオカイン産生促進作用を示す精油としては、例えば成分として酢酸リナリル及び/又はリナロール及び/又はα−ピネン及び/又はリモネンを含むものであり、カモミール、ローズマリー、ニュウコウジュ、ハッカ、ラベンダー、オレンジから得られる精油が代表的なものである。
本発明にあっては、上記のハッカ精油から単離した精製メントールや、不斉合成法で得られる化学合成品であっても使用することができる。
本発明の組成物は、食品、医薬品、外用剤として使用できる。食品としては、通常の食品の他、栄養補助食品、機能性食品、健康食品、特定保健用食品等として使用しても良く、例えば、ジュースのような飲料に配合することもできる。
試験1.筋肉に対するマイオカイン産生促進作用確認試験
(1)試験方法
筋肉組織モデルとして培養横紋筋細胞によって形成された筋管組織を用いた。
1)筋管形成
培養マウス横紋筋細胞C2C12株(DSファーマバイオメディカル株式会社)を用い、筋管を形成させた。増殖用培地にはFBS10%含有DMEM high glucose(GIBCO)にペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma Aldrich/)を1%配合したものを用いた。C2C12細胞の継代にはT75フラスコを用い、1フラスコ当たり細胞数が1.5×105cellsとなるように播種した。
継代後2〜3日で細胞密度がフラスコ面積の60〜70%となったことを顕微鏡観察によって確認し、0.05% Trypsin−EDTAを用いて細胞を剥離した。次いで、0.02%のコラーゲン(株式会社高研)でコートした6−well plateに、1ウェル当たり細胞数が1.8×104 cellsとなるように播種した。
その後細胞がコンフルエントに達したことを確認した後、増殖用培地を分化用培地に切り替えた。
分化用培地は、DMEM high glucose(GIBCO)にHorse serum2%含有させた培地に、非必須アミノ酸溶液(NEAA:Sigma Aldrich)を1%、ペニシリン/ストレプトマイシンを1%添加したものを用いた。培地切り替えから3〜7日後、筋管が十分形成されていることを顕微鏡で確認した。筋管組織が形成されたものを以下の試験に用いた。
なお、すべての細胞培養環境は37℃、5%CO2とした。
上記で調製した分化3日目の筋管組織を用いてマイオカイン産生促進効果を試験した。
試験に用いた精油は、市販されている香料用の精油であって、ローズマリー精油(RM ローズマリー油,香栄興業)、カモミール精油(RM ローマカミツレ油,PATAN & BERTRAND)、ニュウコウジュ精油(ニュウコウジュ油,山本香料),及びメントール (L−メントール, 和光純薬工業)及び酢酸リナリル(和光純薬工業)、リナロール(和光純薬工業)、α−ピネン(和光純薬工業)、リモネン(和光純薬工業)を用いた。また陽性対照として、筋肉組織にマイオカイン産生を促進させることが明らかな合成ペプチド、MG−132(Z−Leu−Leu−Leu−CHO:American Peptide)を用いた。これらの添加成分は、分化培地に添加後超音波破砕装置にて均一に分散させた。
各精油及びメントールは、培地中の濃度が0.01質量%及び0.05質量%、酢酸リナリル、α−ピネン、リモネンは0.3mM、リナロールは0.03mMになるように添加し、1時間培養した後に新しい分化培地に入れ替え、その5時間培養後に培地の上清を回収し、マイオカインの変化を測定した。マイオカインの指標としてIL−6量を測定した。IL−6の測定は、マウス・ラット可溶性タンパクMaster Buffer Kit(日本ベクトンディッキンソン)およびマウス可溶性タンパクFlex set IL−6(日本ベクトンディッキンソン)を用いて、FACS Calibur(日本ベクトンディッキンソン)を用いて、回収した培地上清中に含まれるIL−6タンパク質量を測定した。
上記で調製した分化3日目の筋管組織を用いて、脂質代謝に関わるマイオカインの1つであるAngptl4の産生促進効果を遺伝子発現レベルで試験した。
試験に用いた精油は、市販されている香料用のカモミール精油を用い、分化培地に添加後超音波破砕装置にて均一に分散させた。
精油は、培地中の濃度が0.01質量%、0.1質量%になるように添加し、1時間培養した後に新しい分化培地に入れ替え、その3時間培養後に細胞からRNAを抽出した。RNAからcDNAへの逆転写には、PrimeScript RT reagent Kit(タカラバイオ)及びTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標)GradientTP600(タカラバイオ)を用いた。定量PCR反応には、SYBR(登録商標)Premix Ex Taq(商標)II(Tli RNaseH Plus)(タカラバイオ)及びLightCycler 480 system II(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いた。ハウスキーピング遺伝子としてβグルコシダーゼ(Gusb)を用いた。なおマウス配列を基にしたGusb及びAngptl4のプライマーの配列(配列1〜4)を表1に示す。
図1(0.01質量%)、及び図2(0.05質量%)に各精油及びメントールによるIL−6産生量促進効果を測定した結果を示した。なお測定結果は対照(コントロール)の産生量を1とした相対値で示した。
図1、図2からローズマリー精油、カモミール精油、ニュウコウジュ精油、メントールはいずれもIL−6の産生を促進することが確認できた。また、マイオカイン産生を促進させることが明らかな合成ペプチドMG−132でも、毎試行IL−6産生の促進を確認できた。
図3に酢酸リナリル、リナロール、α−ピネン、リモネンによるIL−6産生量促進効果を測定した結果を示した。なお測定結果はコントロールの発現量を1とした相対値で示した。
図3から明らかなように、酢酸リナリル、リナロール、α−ピネン、リモネンはいずれもIL−6の産生を促進することが確認出来た。
図4にカモミール精油によるAngptl4遺伝子の発現促進効果を測定した結果を記した。なお測定結果はコントロールの発現量を1とした相対値で示した。
図4からカモミール精油がIL−6の産生のみならず、Angptl4遺伝子の発現をも促進することが確認出来た。
乳酸蓄積による筋肉のマイオカイン産生能抑制を確認した。その試験について次に説明する。
(1)試験方法
試験1と同様に筋肉組織モデルとして培養横紋筋細胞によって形成された筋管組織を用いた。
1)筋管形成
試験1と同様に筋管を形成させた。これを試験に用いた。
上記で調製した分化3日目の筋管組織を用いて試験を行った。
分化誘導後3日後および7日後の筋管を乳酸0〜40mMを含む培地で24時間培養した後培養上清を回収し、試験1と同様の方法で培地中のIL−6を測定した。
図5(分化3日目)、図6(分化7日目)に、筋管の産生するIL−6の測定結果を示す。
図5、6から明らかなように乳酸は筋肉のマイオカイン産生機能を抑制していることが確認できた。
乳酸蓄積による筋肉のマイオカイン産生能抑制確認をした。その試験について次に説明する。
(1)試験方法
試験1と同様に筋肉組織モデルとして培養横紋筋細胞によって形成された筋管組織を用いた。
1)筋管形成
試験1と同様に筋管を形成させた。これを試験に用いた。
上記で調製した分化3日目の筋管組織を用いて試験を行った。
分化誘導後3日後筋管を、乳酸20mMを含む培地で1時間培養、又は乳酸20mMと各精油又はメントール0.01質量%を添加した培地で1時間培養後、新しい分化培地に入れ替え、その5時間培養後に培養上清を回収し、試験1と同様の方法で培地中のIL−6を測定した。
図7に筋管の産生するIL−6の測定結果を示す。測定結果は対照(乳酸、精油又はメントール無添加)の産生量を1とした相対値で示した。
図7から明らかなように、乳酸は筋肉のマイオカイン産生機能を抑制するが、精油又はメントールを添加することで、乳酸によるマイオカイン産生抑制作用を解消し、マイオカインの産生を促進することが明らかとなった。また乳酸蓄積に伴う機能低下を予防できることが明らかとなった。
筋肉組織近傍に存在する線維芽細胞に対する効果を確認した。
(1)試験方法
1)細胞培養
線維芽細胞としてBALB/3T3cell (継代22回) を用いた。これをT25培養フラスコ1枚に細胞密度1×104cells/cm2になるように播種し、3日間培養した。次いで、0.025% trypsin−EDTAで細胞を剥離して回収し、さらに96well plate 5枚に、1×104cells/mlで播種した。
コンフルエントの80%に増殖した状態で、培地交換を行った。
交換用培地は、試験1に示したC2C12細胞の分化用培地を用いて培養した7日目の培地を回収し、これを3T3細胞の培地に、表2に示した配合比率で混合した。
培地交換24時間後にCell Counting Kit−8(同仁化学研究所)を用いて細胞数を測定した。
線維芽細胞としてBALB/3T3 cell(継代22回) を用いた。これをT25培養フラスコ1枚に細胞密度1×104cells/cm2になるように播種し、3日間培養した。次いで、0.025% trypsin−EDTAで細胞を剥離して回収し、さらにT75フラスコ2枚に、0.8×104cells/mlで播種した。
コンフルエントの80%に増殖した状態で、培地交換を行った。
交換用培地は、試験1に示したC2C12細胞の分化用培地を用いて培養した7日目の培地を回収し、これを3T3細胞の培地に、表2に示した配合比率で混合した。
培地交換24時間後にMitoProbe(商標)JC−1アッセイ(Molecular probes)によりミトコンドリア膜電位を測定した。
線維芽細胞としてBALB/3T3 cell(継代22回)を用いた。これをT25培養フラスコ1枚に細胞密度1×104cells/cm2になるように播種し、3日間培養した。次いで、0.025% trypsin−EDTAで細胞を剥離して回収し、さらにT75フラスコ2枚に、0.8×104cells/mlで播種した。
コンフルエントの80%に増殖した状態で、培地交換を行った。
培地交換6日後に細胞を剥離して回収し、表3に示す組成のコラーゲンゲルに播種した。培地は、試験1に示したC2C12細胞の分化用培地を用いて培養した7日目の培地(Sup)を回収し、表4に示した配合比率で混合したものを各々添加した。
7日間培養し、コラーゲンゲルの収縮を観察して撮影し、得られた画像をImage−Jを用いてゲルサイズを測定し収縮率を算出した。
コラーゲンゲルの調製及び収縮測定は特開2011−157281号公報に記載された方法に従った。
1)細胞数
図8に測定結果を示す。
7日目のC2C12細胞の分化用培地(Sup)の添加量に対応して線維芽細胞数が増加した。筋管組織から分泌されるマイオカインが線維芽細胞の増殖に寄与したものと考えられた。
図9にJC1の測定結果を示す。線維芽細胞(3T3)のミトコンドリア膜電位が、筋管培養上清(Sup)の濃度依存的に低下することが確認された。
コラーゲンゲルの収縮状態を観察した結果得られた収縮率を図10に示す。
線維芽細胞(3T3)入りコラーゲンゲルが、筋管培養上清(Sup)の濃度依存的に収縮することが観察された。
以上の試験結果から、次のことが明らかとなった。
筋管培養上清により、線維芽細胞(3T3)の増殖が起こり、ミトコンドリア膜電位の低下が認められた。これは筋管培養上清に含まれるマイオカインにより線維芽細胞賦活が起こり、細胞が増殖し、また増殖したことによりミトコンドリア膜電位の低下が起こったと考えられた。
コラーゲンゲル収縮法は、I型コラーゲンゲル中に線維芽細胞を包埋し通常の培養条件下で培養を行うと、コラーゲンゲルの体積が収縮する現象が観察される。コラーゲンゲル収縮の程度は細胞数が多いほど、あるいは培地中の血清濃度が高いほど大きいことが知られている。また、高齢者由来の線維芽細胞では若齢者由来の線維芽細胞と比較してゲルの収縮能力が低下することが明らかになっており、真皮線維芽細胞包埋コラーゲンゲルの収縮能力の測定は、加齢に伴う真皮の弾力やハリ、たるみ予防改善用薬剤の評価方法として用いられている。筋管培養上清によるコラーゲンゲル収縮が認められたことは、筋管培養上清に含まれるマイオカインが、たるみなどの皮膚機能に関する抗老化作用を持つことが考えられた。
以上のことより、植物由来の精油又はメントールは、マイオカイン産生を促進し、さらに産生されたマイオカインは皮膚細胞賦活(増殖)に働くことにより、コラーゲンゲルを収縮させ、皮膚のたるみやシワを改善するものと考えられた。
Claims (3)
- カモミール精油、ローズマリー精油、ニュウコウジュ精油、メントール、酢酸リナリル、リナロール、α−ピネンおよびリモネンから選択される1種類以上の物質を有効成分として含有する、筋細胞における、マイオカインの1つであるIL−6の産生促進剤(抗糖尿病剤および抗肥満剤を除く)。
- カモミール精油を有効成分として含有する、筋細胞における、マイオカインの1つであるAngptl4の産生促進剤(抗糖尿病剤および抗肥満剤を除く)。
- カモミール精油、ローズマリー精油、ニュウコウジュ精油、メントールから選択される1種類以上の物質を有効成分として含有する、筋細胞における、乳酸によるマイオカインの1つであるIL−6産生能の低下抑制剤(抗糖尿病剤および抗肥満剤を除く)。
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