JP6557984B2 - アルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法、及び封孔処理装置 - Google Patents
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Description
さらに、陽極酸化処理したままでは、陽極酸化処理で形成された細孔の孔底からのアルミニウムの溶出や陽極酸化処理で使用した処理液からの吸着物質の溶出があるため、実用に当たっては何らかの封孔処理が施されている。
陽極酸化処理に引続いて行なわれる封孔処理については、蒸気封孔、温水封孔及び封孔剤を用いた封孔など各種の方法があるが、封孔剤を用いる方法が主に用いられている。封孔剤としては酢酸ニッケルをはじめ各種のものが知られており、これらの封孔剤を含む70〜100℃の水溶液を収容した封孔槽中に、陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材を浸漬することにより、封孔処理が行なわれる(例えば特許文献2)。
なお、溶液皮膜の封孔処理に先立ち、陽極酸化皮膜の細孔内に抗菌剤等の機能性材料を充填した後封孔処理することで封入し、機能性を付与することも行われている。
一般に、アルミニウムを陽極酸化処理すると、陽極では、
Al→Al3++3e− …(1)
の反応に従ってAl3+が溶出する。
溶出したAl3+は、陽極反応として一部または局部電池で起こる次式(2)で表される水分解反応によって発生する酸素と反応し、Al2O3となる。
3H2O→3(O)+6H++6e− …(2)
2Al+3H2O→Al2O3+6H++12e− …(3)
即ち、本発明では、陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材をpHの低い酸溶液に浸漬することにより、処理液に接触する陽極酸化皮膜表面において、下記式(4)で表される、前記式(3)の逆向きの反応を起こす。
Al2O3+6H+→2Al3++3H2O …(4)
上記式(4)の反応と同時に、陽極酸化層の下に存在するアルミニウム基材からAl溶出分とあわせ、下記式(5)で表される、前記式(3)の正方向の反応が起こる。
Al3++3H2O→Al2O3+6H+ …(5)
このように、封孔処理を短時間で行えることから、陽極酸化皮膜の細孔中に機能性材料を封入する場合も、その溶出や封入量の減少を抑制することができる。
封孔処理液の酸化還元電位は高い程好ましいが、酸化還元電位を最も高くするためにフッ酸を用いた際に得られる酸化還元電位は+3.5Vであるので、酸化還元電位の上限は+3.5Vである。ただし、フッ酸を使用すると処理液寿命が短くなるため、フッ酸以外の例えばフッ素等による酸化還元電位として、封孔処理液の酸化還元電位は好ましくは+1.7〜+3.0Vであり、より好ましくは+2.0〜+2.1Vである。
本発明で処理するアルミニウム基材は特に限定されず、例えば純アルミニウムやアルミニウムを主成分とし微量(例えば5重量%以下)の異元素を含む合金が挙げられる。アルミニウム基材の厚さは、良好な封孔処理面を形成する観点から1mm以上が好ましい。アルミニウム基材の厚さの上限には特に制限はない。
アルミニウム基材は、陽極酸化処理に先立ち、予め脱脂処理や電解研磨、鏡面仕上げ処理といった表面処理を施しても良い。
本発明において、アルミニウム基材に陽極酸化皮膜を形成する方法には特に制限はないが、以下の理由により、アルミニウムの溶出を抑えて良好な陽極酸化皮膜を形成できることから、酸化還元電位+1.5〜+3.5Vの陽極酸化処理液中で陽極酸化処理することが好ましい。
陽極酸化処理液の酸化還元電位は高い程好ましいが、酸化還元電位を最も高くするためにフッ酸を用いた際に得られる酸化還元電位は+3.5Vであるので、酸化還元電位の上限は+3.5Vである。ただし、フッ酸を使用すると処理液寿命が短くなるため、フッ酸以外の例えばフッ素等による酸化還元電位として、陽極酸化処理液の酸化還元電位は好ましくは+1.7〜+3.0Vであり、より好ましくは+2.0〜+2.1Vである。
(陽極酸化処理液)
陽極酸化処理液としては、アルミニウムの陽極酸化処理に一般的に用いられているものをいずれも使用することができ、これらの一般的な処理液の酸化還元電位を上記範囲に調整して用いることが好ましい。
例えば、酸化剤としては、オゾンや過酸化水素、過硫酸、過酢酸、過ホウ酸等の1種又は2種以上を用いることができ、高ORP液としては、フッ酸、フッ素等を用いることができる。
電解処理については後述する。
(1) 陽極酸化を行うための処理液を貯留した処理槽(以下、単に「処理槽」と称す場合がある。)と、酸化還元電位調整のための調整槽とに処理液を循環させて、調整槽において電解処理、酸化剤添加又は高ORP液の添加を行う(循環処理)。
(2) 処理槽に所定の酸化還元電位の処理液を一過式で添加する(一過式添加)。
(3) 処理槽内の処理液にオゾンガス等のガスを吹き込む(ガス吹き込み)。
酸濃度が上記下限よりも低いと陽極酸化処理を行っても孔が形成されず、上記上限よりも高いと形成される孔の孔径が大きくなり過ぎる。
また、酸化剤濃度が上記下限よりも低いと、形成される孔の孔径が過大となり、上記上限よりも高いと、後述の過硫酸生成用電解セル等の酸化還元電位調整のための設備が過大となり、或いは酸化剤添加コストがかさみ好ましくない。
なお、Alの溶解を防止して、陽極酸化による電解処理のみで細孔表面を形成するために、陽極酸化処理液のpHは低い方が好ましく、−0.2〜+0.3程度であることが好ましい。
封孔処理液としては、上述の陽極酸化処理液と同様のものを用いることができるが、封孔処理液と陽極酸化処理液とは同一の酸や酸化剤を含むものに限らず、配合成分は互いに異なるものであってもよい。
ただし、一般的には、同一の処理槽内で電圧を印加して陽極酸化処理した後、必要に応じて処理液の成分調整を行った後、通電を停止して封孔処理を行うことが好ましく、この観点において、同種の酸や酸化剤を含むものを用いることが好ましい。
封孔処理液の酸濃度が上記範囲よりも低すぎても、高すぎても封孔速度が遅くなる。また、酸化剤濃度が上記下限よりも低すぎると封孔速度が遅くなり、上記上限よりも高すぎると、後述の過硫酸生成用電解セル等の酸化還元電位調整のための設備が過大となる。また、酸化剤コストが高くつく。
なお、封孔処理液のpHは−0.5〜−1.0程度であることが好ましい。
硫酸を含有する陽極酸化処理液及び封孔処理液(以下、単に「処理液」と称す。)に過硫酸を存在させて処理液を+1.5〜+3.5Vに調整する方法としては特に制限はなく、以下の方法を採用することができる。
(1) 硫酸溶液を硫酸電解セルに導入し、電解処理して過硫酸を生成させる。
(2) 硫酸と過酸化水素水を混合して過硫酸を生成させる。
(3) 硫酸とオゾンを混合して過硫酸を生成させる。
処理槽1内には、液を撹拌するための散気管等の撹拌手段を設置してもよい。
本発明の封孔処理装置が封孔処理のみを行うものである場合は、図1において、陰極5及び電源6を省略した構成のものとすることができる。
(陽極酸化処理条件)
以下に、上記のような陽極酸化処理液を用いる陽極酸化工程の処理条件について説明する。
以下に、上記の封孔処理液を用いる本発明の封孔処理の処理条件について説明する。
なお、陽極酸化処理と異なり、封孔処理ではアルミニウム基材と陰極間に電流を流さない。電流を流すと陽極酸化皮膜を溶解してしまうおそれがある。
なお、ここで、封孔処理の程度は、封孔処理前の細孔に対して、封孔処理された細孔の割合の百分率を「封孔度」として表すことがある。封孔度は、アルミニウム基材の用途に応じて、30〜100%の範囲で適宜設定される。
本発明に従って封孔処理を施した本発明のアルミニウム基材の適用分野としては特に制限はないが、例えば以下のようなものが挙げられる。
本発明により形成した陽極酸化皮膜の細孔に塗装を封入し、その後封孔処理することにより、長期に亘り、変色の問題もなく所望の着色を維持し得るカラーサッシを得ることができる。
従来のカラーサッシは、アルミサッシに塗料を施していたが、アルミサッシ表面のアルミ酸化物上に塗装するため、塗料の塗膜が経時により変色したり、剥離したりする問題があった。
本発明によれば、この問題を解決することができる。
また、陽極酸化皮膜の細孔に抗菌剤を封入した後封孔処理することにより、抗菌アルミサッシとすることもできる。この際、封孔度を例えば90%程度とし、徐々に抗菌剤が表面に出るような放射性を付与することもできる。
半導体や液晶で使用されるドライエッチング装置プラズマ用部品は、チャンバー内を真空とするため、部品に不純物を含んでいるとこれがチャンバー内に拡散して被処理物に付着し、製品不良につながる。
本発明によれば、封孔処理を確実に行うことができ、細孔内からの不純物拡散を抑えることができる。
本発明により形成された陽極酸化皮膜の細孔に触媒金属を封入した後、適度に封孔処理することで、良好な金属担持触媒とすることができる。
触媒は化学反応を起こさせる反応場であるため、比表面積が大きいほど触媒能は向上する。例えば、白金(Pt)は多くの反応で触媒として使用されており、比表面積を大きくするために、Ptナノコロイドが開発されている。しかし、Ptナノコロイドを大きな触媒活性表面積が得られるように担持することが難しい。現在樹脂に担持することが行われているが、担持量は樹脂表面積の5%以下である。
本発明に従って、陽極酸化したアルミニウム基材の細孔にPtナノコロイドを封入し、反応系に脱落しないように僅かに封孔する(例えば封孔度10〜20%)ことにより、アルミニウム基材表面積の30%程度をPt表面とすることが可能となり、触媒機能を高めることができる。
図1に示す装置を用いて、純度99.85%、厚さ2mmのアルミニウム板を陽極酸化処理し、次いで封孔処理する表面処理を行った。処理槽の仕様及び条件は以下の通りである。
処理槽1の容積:40L
アルミニウム板の大きさ:500mm×500mm×厚さ2mm
陰極の大きさ:500mm×500mm×厚さ3mm
陰極材料:カーボン
アルミニウム板と陰極との距離:30mm
印加電圧:20V(一定)
陽極酸化処理液
硫酸濃度:100g/L
過硫酸濃度:10g/L
酸化還元電位:+2.0V
pH:0.0
温度:20℃
処理時間:2時間
セル容積:0.5L
陽極及び陰極:ダイヤモンド電極(直径150mm)
バイポーラ膜材質:陽極と同じ
電流密度:50A/dm2
液流量:52L/h
硫酸含有処理液:
硫酸濃度:1,200g/L
過硫酸濃度:10g/L
酸化還元電位:+2.0V
pH:−1.0
温度:80℃
処理時間:5分
まず、ヨウ素滴定により処理液中に含まれる全酸化剤濃度を測定する。このヨウ素滴定とは、Klを加えてl2を遊離させ、そのl2をチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定してl2の量を求め、そのl2の量から、酸化剤濃度を求めるものである。次に過酸化水素濃度のみを過マンガン酸カリウム滴定により求め、ヨウ素滴定−過マンガン酸カリウム滴定より過硫酸濃度を求めた。
また、図3に示されるように、封孔処理で陽極酸化皮膜の開孔が封孔度100%程度で封孔され、良好な封孔処理面が形成された。
実施例1において、封孔処理液として、表1に示す硫酸濃度、過硫酸濃度、酸化還元電位(ORP)及びpHのものを用いたこと以外は同様に封孔処理を行ったところ、比較例1では封孔処理時に陽極酸化皮膜が溶解したが、実施例2,3では良好な封孔処理を行うことができた。
本発明に係る封孔処理が陽極酸化皮膜のAl2O3の再溶解ではなく、Al2O3溶解とAl酸化(Al2O3生成)との競争反応であることを確認するための実験を行った。
厚さ20μmのアルミニウム薄膜(純度99.85%)を用いたこと以外は実施例1と同様に陽極酸化処理を30分間行い、陽極酸化処理により、貫通細孔を形成した多孔質アルミナ膜を得た。その後、実施例1と同一の条件で封孔処理し、得られた封孔処理膜を純水で洗浄した後乾燥し、断面の電子顕微鏡観察を行った。その電子顕微鏡写真を図4に示す。
図4より、本発明によれば、表層の細孔のみが封孔処理されることが分かる。
2 恒温ヒータ
3 アルミニウム基板
4 ホルダ
5 陰極
9 過硫酸生成用電解セル
Claims (10)
- 陽極酸化処理により表面に細孔を形成したアルミニウムまたはアルミニウム合金に対して、封孔処理液中で細孔表面の封孔処理を行うアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法であって、該封孔処理液が硫酸と過硫酸を含有し、該封孔処理液の酸化還元電位が+1.5〜+3.5Vであることを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法。
- 請求項1において、電解処理、酸化剤の添加、及び高い酸化還元電位を有する液の添加のいずれか1以上の手法により、前記封孔処理液の酸化還元電位を+1.5〜+3.5Vに調整することを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法。
- 請求項1又は2において、前記封孔処理液の循環処理、前記封孔処理液の一過式添加、及び前記封孔処理液へのガス吹き込みのいずれか1以上の手法により、前記封孔処理液の酸化還元電位を+1.5〜+3.5Vに調整することを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法。
- 請求項1ないし3のいずれか1項において、前記封孔処理液の温度が60〜90℃、酸濃度が350〜1,600g/L、酸化剤濃度が2〜15g/Lであり、非通電下で封孔処理することを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の表面処理方法。
- 請求項1ないし4のいずれか1項において、前記封孔処理液の硫酸濃度が350〜1,600g/Lで、過硫酸濃度が2〜15g/Lであることを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法。
- 請求項1ないし5のいずれか1項において、前記硫酸を含有する封孔処理液を過硫酸生成用電解セルに循環流通させて電解処理することにより過硫酸を含有させることを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法。
- 請求項1ないし5のいずれか1項において、前記封孔処理液が硫酸と過酸化水素とを混合することにより過硫酸を生成させてなることを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法。
- 請求項1ないし5のいずれか1項において、前記封孔処理液が硫酸とオゾンとを混合することにより過硫酸を生成させてなることを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法。
- 請求項1ないし8のいずれか1項において、前記アルミニウムまたはアルミニウム合金が、厚さ1mm以上のアルミニウム基材またはアルミニウム合金基材であることを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理方法。
- 硫酸含有処理液を貯留するための封孔処理槽と、該封孔処理槽内の硫酸含有処理液が循環される過硫酸生成用電解セルとを備え、該過硫酸生成用電解セルは、該硫酸含有処理液を電解処理して過硫酸を生成させることで、該封孔処理槽内の液の酸化還元電位を+1.5〜+3.5Vに調整することを特徴とするアルミニウムまたはアルミニウム合金の封孔処理装置。
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