以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施形態によれば、二酸化炭素の還元物を生産する還元物生産システムが提供される。このシステムは、酸化触媒を備えた酸化反応用電解槽と、還元触媒を備えた還元反応用電解槽とを有し、二酸化炭素を還元して還元物を生成する化学反応装置と、前記還元反応用電解槽に電解液を供給する電解液供給ユニットと、前記電解液に二酸化炭素を溶解させて前記還元反応用電解槽における還元反応を持続させることにより、該電解液中の前記還元物の濃度を上昇させる二酸化炭素供給ユニットと、前記還元物の濃度が上昇した電解液から前記還元物を分離する分離ユニットとを備える。
図1に、還元物生産システム60の構成の一例を示す。還元物生産システム60は、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bと隔膜31cとを有する化学反応装置61と、電解液供給ユニットと、二酸化炭素供給ユニットと、分離ユニットとを備える。
化学反応装置61は、酸化反応用電解槽31aに酸化触媒を備え、還元反応用電解槽31bに還元触媒を備えている。酸化反応用電解槽31aには、配管80aを介して水が供給され、酸化反応で生じた酸素が水と共に配管80bを介して排出される。
還元反応用電解槽31bには、電解液供給ユニットから二酸化炭素を含む電解液が供給される。還元反応用電解槽31bにおいて、還元触媒により電解液中の二酸化炭素が還元され、還元物が生成される。なお、還元触媒として、二酸化炭素のみでなく、二酸化炭素が還元された中間生成物、例えば、ギ酸、ホルムアルデヒド、シュウ酸、グリコール酸及びグリコールアルデヒドなども還元できる触媒が用いられる。還元触媒と化学反応装置については、後に詳細に説明する。
電解液供給ユニットは、還元反応用電解槽31bに電解液を供給するユニットであり、電解液を貯留する貯留槽64と、該貯留槽64から還元反応用電解槽31bに電解液を供給する第1配管81と、還元反応用電解槽31bから電解液を排出し、貯留槽64に戻す第2配管82とを備える。電解液供給ユニットは送液ポンプ81aを備え、送液ポンプ81aにより、貯留槽64と還元反応用電解槽31bとの間で電解液を循環させる。図1では、送液ポンプ81aが第1配管81に備えられた例を示しているが、これに限らず、送液ポンプ81aは、第1配管81及び第2配管82のうちの少なくとも一方に備えられればよい。
電解液供給ユニットは、分離ユニットと連結されており、貯留槽64と還元反応用電解槽31bとの間で循環している電解液が分離ユニットに送液される。例えば、第1配管81に三方弁81bが備えられ、この三方弁81bを介して分離ユニットに電解液が送液される。貯留槽64と還元反応用電解槽31bとの間を循環している電解液は、所定の時間の後、三方弁81bを介して分離ユニットの第3配管83に送液される。或いは、貯留槽64と還元反応用電解槽31bとの間を循環している電解液の一部が連続的に三方弁81bを介して分離ユニットの第3配管83に送液される。
なお、図1では、三方弁81bが第1配管81に備えられた例を示しているが、これに限らず、三方弁81bは、第1配管81及び第2配管82のうちの少なくとも一方に備えられればよい。或いは、三方弁81bの代わりに弁を有する配管を貯留槽64に備えてもよい。
貯留槽64には、弁を有する配管92が備えられ、この配管92を通して貯留槽64に新たな電解液が供給される。
二酸化炭素供給ユニットは、還元反応用電解槽31bに供給される電解液に二酸化炭素を供給するユニットである。二酸化炭素供給ユニットは、還元反応用電解槽31b、貯留槽64、第1配管81及び第2配管82の少なくとも1つに備えられる。二酸化炭素供給ユニットは、例えば図1に示すように、弁を有する配管66と、電解液の内部に炭酸ガスを直接噴霧するユニットであってよい。
電解液供給ユニットは、電解液に溶解しなかった余剰の炭酸ガス、及び、還元反応により生じたガスを排気する排気ユニットを備えていることが好ましい。排気ユニットは、弁を備えた配管68であってよく、例えば、貯留槽64に備えることができる。
分離ユニットは、電解液からCO2還元物を回収するユニットである。分離ユニットは、三方弁81bを介して電解液供給ユニットと連結された第3配管83と、電解液から電解質及び還元物を分離するユニットを備える。具体的には、電解液から電解質を分離する粗蒸留塔70と、粗蒸留塔70から排出された液分から還元物を分離する精留塔72とを備える。
一つの態様において、精留塔72は、図1に示すように、水より低い沸点を有する還元物を分離するための第1精留塔72aと、水より高い沸点を有する還元物を分離するための第3精留塔72cとを備える。水より低い沸点を有する還元物として、これらに限定されないが、メタノール及びエタノールが挙げられる。水より高い沸点を有する還元物として、これに限定されないが、エチレングリコールが挙げられる。
分離ユニットは、電解液供給ユニットから三方弁81bを介して第3配管83に流入した電解液を、まず粗蒸留塔70に供給する。粗蒸留塔70では、電解液を蒸留し、液分と電解質とに分離する。粗蒸留塔70における蒸留は、従来の方法によって行うことができる。具体的には、10〜120Torrの減圧下で電解液を減圧蒸留する。これにより、電解液に含まれる還元物及び水などの液体成分の85〜99質量%が蒸発し、塔頂部から排出される。一方、電解質は塔低部に蓄積され、塔外に除去される。
粗蒸留塔70の塔頂部から排出された液分は、配管86を通って第1精留塔72aに供給され、精留される。第1精留塔72aにおける精留は従来の方法により行うことができる。具体的には、沸点の差を利用した減圧蒸留によって行うことができる。これにより、メタノールやエタノールなどの水より低い沸点を有する還元物を含む液分が、第1精留塔72a塔頂部から配管88を通って排出される。一方、水より高い沸点を有する還元物を含む液分は塔底部から排出される。
第1精留塔72aの塔頂部から排出された、メタノールやエタノールなどの水より低い沸点を有する還元物を含む液分は、さらに各成分に精製されてもよく、或いは、後述するように新たな電解液を調製するために用いてもよい。
第1精留塔72aの塔底部から排出された液分は、次に、配管90を通って第3精留塔72cに供給され、精留される。第3精留塔72cにおける精留は従来の方法により行うことができる。具体的には、沸点の差を利用した減圧蒸留によって行うことができ、塔頂部からは水が分離し、塔底部からは水より高い沸点を有する還元物が排出される。このような還元物として、エチレングリコールが挙げられる。
実施形態に係る還元物生産システム60において使用される電解液は、CO2の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、且つ、CO2を吸収する性質を有することが好ましい。このような電解液に含まれる電解質の例には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸リチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸水素リチウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸2水素リチウム、リン酸2水素ナトリウム、及びリン酸2水素カリウムが含まれる。溶媒としては、水を用いることが好ましい。電解液中の電解質の濃度は、CO2の溶解性、イオン電導性、粘度等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、0.01〜1mol/Lの範囲であることが好ましい。
実施形態に係る還元物生産システム60では、上記の電解質を含む電解液を用いることにより、電解液から電解質を分離し、還元物を効率よく回収することが可能である。
一つの態様において、還元物生産システム60は、複数の化学反応装置61を備えていてもよい。複数の化学反応装置61は、直列に接続されていてもよく、並列に接続されていてもよい。複数の化学反応装置61を備えることにより、還元効率を上昇させることが可能である。
一つの態様において、還元物生産システム60は、図2に示すように、メタノールを分離する第1精留塔72aと、エタノールを分離する第2精留塔72bと、エチレングリコールを分離する第3精留塔72cとを備える。粗蒸留塔70から排出された液分は、配管86を通って第1精留塔72aに供給され、精留される。第1精留塔72aにおける精留は従来の方法により行うことができる。具体的には、沸点の差を利用した減圧蒸留によって行うことができる。これにより、第1精留塔72a塔頂部から配管88aを通ってメタノールが排出され、他の液分が塔底部から排出される。
第1精留塔72aの塔底部から排出された液分は、次に、配管90aを通って第2精留塔72bに供給され、精留される。第2精留塔72bにおける精留は従来の方法により行うことができる。具体的には、沸点の差を利用した減圧蒸留によって行うことができる。これにより、塔頂部から配管88bを通ってエタノールが排出され、他の液分が塔底部から排出される。
第2精留塔72bの塔底部から排出された液分は、次に、配管90bを通って第3精留塔72cに供給され、精留される。第3精留塔72cにおける精留は従来の方法により行うことができる。具体的には、沸点の差を利用した減圧蒸留によって行うことができる。これにより、塔頂部から配管88cを通って水が排出され、エチレングリコールが塔底部から排出される。
このような構成によれば、メタノール、エタノール及びエチレングリコールのそれぞれを回収することができる。
他の態様において、還元物生産システム60は、図2に示すように、粗蒸留塔70において分離された電解質と、精留塔72において分離された水とを用いて新たな電解液を調製する調製槽74を備えていても良い。
粗蒸留塔70において分離された電解質は、第5配管78を通って、調製槽74に注入される。第5配管78は、電解質を一時的に収容する収容槽79を有していてもよい。また、第3精留塔72cの塔頂部から排出された水が配管88cを通って調製槽74に供給される。
調製槽74では、電解質と水とを用いて新たな電解液が調製される。調製槽74は、内部に撹拌翼などの撹拌機構を備えることが好ましい。電解液は所定の濃度に調整するために、既知の方法により濃度の調整を行うことができる。例えば、所定の質量の電解質と水とを混合し、攪拌機構により攪拌することにより、電解質を溶解させ、均一な溶液を調製する。
調製槽74は、水素イオン濃度及び電気伝導度を測定するpHメーター又は導電率計を備えていてもよい。これらの機器により、電解質が水に溶解し、所定の濃度の電解液が調整されたことを確認することができる。
調製槽74において調製された電解液は、弁を有する第4配管76により、貯留槽64に供給される。
このような構成によれば、電解液を安定して使用し続けることができ、還元物生産システムの稼働を簡便に維持することができる。また、分離された電解質及び水を再利用することができるためコストを削減することができる。
他の態様において、還元物生産システム60は、CO2の還元物の濃度が上昇した電解液から還元物を回収する分離ユニットが他の形態を有する。他の形態を有する分離ユニットを、図3を用いて説明する。
図3に示される還元物生産システム60において、分離ユニットは、三方弁81bを介して第3配管83により電解液供給ユニットに連結されている。
この分離ユニットは、CO2の還元物の濃度が上昇した電解液から、還元物と未反応のCO2を抽出溶媒であるイオン液体に抽出する抽出装置201と、抽出装置201から排出された還元物とCO2を含むイオン液体からCO2を分離する二酸化炭素分離塔202と、二酸化炭素分離塔202から排出された還元物を含むイオン液体から還元物を分離する精留塔72とを備える。
分離ユニットは、まず、電解液供給手段から三方弁81bを介して第3配管83に流入した電解液を、抽出装置201に供給する。抽出装置201には、抽出溶媒としてイオン液体が充填されている。抽出装置201では、還元物と未反応のCO2を含む電解液と、抽出溶媒としてのイオン液体とを混合、接触して液−液抽出することで、電解液から還元物と未反応のCO2とをイオン液体に抽出する。
還元物と未反応のCO2を含む電解液と、イオン液体とを混合、接触して液−液抽出する操作は、従来の方法によって行うことができる。具体的には、イオン液体が充填されている抽出装置201に、還元物と未反応のCO2が含まれている電解液が第3配管83を通して供給される。撹拌によって還元物及びCO2がイオン液体に抽出されるが、電解液とイオン液体が物理的に接触する方法としては、振とうや超音波などがあり、限定されない。
未反応のCO2を抽出する観点からは、撹拌に加え、加圧することが好ましい。加圧することでイオン液体にCO2を効果的に溶解させることができる。加圧する圧力は、低すぎると吸収が完了するまでに時間がかかるし、高すぎても運転制御が難しくなる。したがって、0MPa以上50MPa以下、好ましくは常圧(例えば、0.1MPa)以上25MPa以下、より好ましくは常圧以上12MPa以下である。
また、加圧する際の温度条件としては、還元物やイオン液体の熱安定性、溶液の流動性などを考慮して、−50℃以上250℃以下、好ましくは0℃以上200℃以下、より好ましくは、常温(例えば、15〜25℃)以上100℃以下である。
抽出溶媒として用いられるイオン液体は、カチオンとアニオンからなるイオン性の液体である。イオン液体は、例えば、アルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンから選択される有機カチオンを含む化合物である。アニオンとしては、例えば、下記一般式Ia〜VIa中のカウンターアニオンXa−における具体例と同じアニオンを挙げることができる。抽出溶媒として、カチオン構造又はアニオン構造が異なる2種以上のイオン液体を混合して用いてもよい。
抽出溶媒として好適に用い得るイオン液体として、具体的には、下記一般式Ia〜VIaの何れかにより表される化合物が挙げられる。
一般式Ia〜VIaにおいて、R1a、R2a、R3a及びR4aは、各々独立に、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。Xa−は、カウンターアニオンを表す。
イオン液体は、上述の通り、カチオンとアニオンからなるイオン性の液体であり、一形態において、カチオン分子のアルキル鎖の長さが不均衡な化合物である。カチオン分子のアルキル鎖の長さを不均等とすることで分子構造の非対称性を高めた結果、溶液状態となっている。
R1a、R2a、R3a及びR4aにより表されるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。また、R1a、R2a、R3a及びR4aにより表されるシクロアルキル基としては、例えば、炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましく、炭素数4〜6のシクロアルキル基がより好ましい。
また、R1aは、炭素数がR2a、R3a及びR4aより小さい基であることが好ましい。具体的には、R1aと、R2a、R3a及びR4aとの炭素数の差は、1以上11以下であることが好ましく、より好ましくは、1以上5以下である。
Xa−により表されるカウンターアニオンとしては、例えば、BF4 −、PF6 −、フルオロメタンスホネートアニオン(CF3SO3 −)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン((CF3SO3)2N−)及び(CN)2N−、(CN)4B−が挙げられる。
イオン液体は、カチオンとアニオンの組み合わせによって水に対する溶解性が変化する。抽出装置201において抽出溶媒として用いられるイオン液体は、水に溶解しないことが望まれるため、カチオンとアニオンは疎水性が得られる組み合わせの中から適宜選択すればよい。
抽出溶媒として用い得るイオン液体の具体例として、下記を挙げることができる。
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ペンチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ノニル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ウンデシル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、
1−エチル−3−プロピルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−ヘキシルイミダゾリウムテトラシアノボラート、1−エチル−3−オクチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスホネート、1−エチル−3−デシルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、
1−エチル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−プロピル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ブチル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ペンチル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−へキシル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−オクチル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ノニル−4−メチルピリジニウムトリフルオロメタンスルホニルイミド、1−デシル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ウンデシル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ドデシル−4−メチルピリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、
1−エチル−4−プロピルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−4−ペンチルピリジニウムテトラシアノボラート、1−エチル−4−ノニルピリジニウムトリフルオロメタンスホネート、1−エチル−4−ウンデシルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−エチル−4−ドデシルピリジニウムジシアナミド、
1−エチル−1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−プロピル−1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ペンチル−1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−へキシル−1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−オクチル−1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ノニル−1− メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−デシル−1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ウンデシル−1−メチルピロリジニウムトリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ドデシル−1−メチルピロリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、
1−エチル−1−ブチルピロリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−1−ヘキシルピロリジニウムテトラシアノボラート、1−エチル−1−オクチルピロリジニウムトリフルオロメタンスホネート、1−エチル−1−デシルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−エチル−1−ドデシルピロリジニウムピリジニウムジシアナミド、
1−エチル−1−メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−プロピル−1−メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ペンチル−1−メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−へキシル−1−メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−オクチル−1−メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ノニル−1− メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−デシル−1−メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ウンデシル−1−メチルピペリジニウムトリフルオロメタンスルホニルイミド、1−ドデシル−1−メチルピペリジニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、
1−エチル−1−プロピルピペリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−1−ブチルピペリジニウムテトラシアノボラート、1−エチル−1−ヘキシルピペリジニウムトリフルオロメタンスホネート、1−エチル−1−デシルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−エチル−1−ドデシルピペリジニウムビスジシアナミド、
エチルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、プロピルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ブチルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ペンチルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、オクチルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ノニルトリメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホニルイミド、デシルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ウンデシルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ドデシルトリメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、
ブチルトリエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、ヘキシルトリエチルアンモニウムテトラシアノボラート、オクチルトリエチルアンモニウムフルオロメタンスホネート、デシルトリエチルアンモニウムテトラフルオロボラート、エチルトリブチルアンモニウムジシアナミド、
エチルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、プロピルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ブチルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ペンチルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ヘキシルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、オクチルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ノニルトリメチルホスホニウムトリフルオロメタンスルホニルイミド、デシルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ウンデシルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ドデシルトリメチルホスホニウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド、
ブチルトリエチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、ヘキシルトリエチルホスホニウムテトラシアノボラート、オクチルトリエチルホスホニウムフルオロメタンスホネート、デシルトリエチルホスホニウムテトラフルオロボラート、エチルトリブチルホスホニウムジシアナミド。
抽出装置201において生成する、還元物とCO2が抽出除去された電解液と、還元物とCO2を含有するイオン液体は、それぞれ別の配管を通って排出される。電解液とイオン液体の密度によって異なるが、還元物とCO2を含むイオン液体の方が電解液よりも密度が大きい場合、抽出装置201の低部にイオン液体が蓄積され、配管100aを通してイオン液体が装置外に排出される。一方、抽出装置201の上部に蓄積された電解液は、イオン液体とは別に配管101aを通して排出される。
抽出装置201の低部から排出されたイオン液体は、配管100aを通して二酸化炭素分離塔202に供給される。二酸化炭素分離塔202では、抽出装置201でイオン液体がCO2を吸収した際に加えられた圧力よりも低い圧力にイオン液体を減圧することによって、イオン液体に含まれているCO2が分離回収される。具体的には、イオン液体がCO2を吸収した際の圧力よりも、0MPa以上50MPa以下、好ましくは10MPa以上35MPa以下、より好ましくは15MPa以上25MPa以下の範囲でより低くするが、これに限定されるものではなく、イオン液体のCO2放出特性等を考慮して適宜選択できる。
二酸化炭素分離塔202でCO2が分離除去されたイオン液体は、配管100bを通り精留塔72に供給される。精留塔72において、イオン液体に含まれる還元物は、従来の方法により蒸留してイオン液体から分離することができる。具体的には、沸点の差を利用した減圧蒸留によって行うことができる。これにより、メタノールやエタノールなどの水より低い沸点を有する還元物や、水より高い沸点を有するエチレングリコールのような還元物は精留塔72の上部に備わる配管101cより取り出され、蒸気圧をほとんど持たないイオン液体は精留塔72の底部から回収される。
一つの態様において、還元物生産システム60は、図3に示すように、精留塔72と抽出装置201とが、第6配管100cで接続されている。精留塔72において還元物が分離除去されたイオン液体は、精留塔72の底部から回収され、第6配管100cを通り、抽出装置201に充填される。
他の態様において、還元物生産システム60は、図3に示すように、抽出装置201において還元物とCO2が分離除去された電解液と、二酸化炭素分離塔202においてイオン液体から分離されたCO2とを用いて、CO2が溶解した電解液を調製する調製槽74を備えていてもよい。
調製槽74は、抽出装置201および二酸化炭素分離塔202と、それぞれ配管101aおよび配管101bで接続されている。
調製槽74で調製されたCO2が溶解した電解液は、弁を有する第7配管84により、貯留槽64に供給される。
更に、他の態様において、還元物生産システム60は、CO2の還元物の濃度が上昇した電解液から還元物を回収する分離ユニットが他の形態を有する。他の形態を有する分離ユニットを、図4を用いて説明する。
図4に示される還元物生産システム60において、分離ユニットは、三方弁81bを介して第3配管83により電解液供給ユニットに連結されている。
この分離ユニットは、CO2の還元物の濃度が上昇した電解液から未反応のCO2を分離する二酸化炭素分離塔202と、二酸化炭素分離塔202においてCO2が分離された電解液から還元物を分離する精留塔72とを備える。
図4に示される還元物生産システム60において使用される電解液は、CO2の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、且つ、CO2を吸収する性質を有することが好ましい。このような電解液としては、例えば、イオン液体の水溶液を用いることができる。
電解液における電解質として用い得るイオン液体は、カチオンとアニオンからなるイオン性の液体である。イオン液体は、例えば、アルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンから選択される有機カチオンを含む化合物である。アニオンとしては、例えば、下記一般式Ib〜VIb中のカウンターアニオンXb−における具体例と同じアニオンを挙げることができる。電解液における電解質として、カチオン構造又はアニオン構造が異なる2種以上のイオン液体を混合して用いてもよい。
電解質として好適に用い得るイオン液体として、具体的には、下記一般式Ia〜VIaの何れかにより表される化合物が挙げられる。
一般式I〜VIにおいて、R1b、R2b、R3b及びR4bは、各々独立に、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。Xb−は、カウンターアニオンを表す。
イオン液体は、上述の通り、カチオンとアニオンからなるイオン性の液体であり、一形態において、カチオン分子のアルキル鎖の長さが不均衡な化合物である。カチオン分子のアルキル鎖の長さを不均等とすることで分子構造の非対称性を高めた結果、溶液状態となっている。
R1b、R2b、R3b及びR4bにより表されるアルキル基としては、例えば、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。また、R1b、R2b、R3b及びR4bにより表されるシクロアルキル基としては、例えば、炭素数3〜8のシクロアルキル基が好ましく、炭素数4〜6のシクロアルキル基がより好ましい。
また、R1bは、炭素数がR2b、R3b及びR4bより小さい基であることが好ましい。具体的には、R1bと、R2b、R3b及びR4bとの炭素数の差は、1以上11以下であることが好ましく、より好ましくは、1以上5以下である。
Xb−により表されるカウンターアニオンとしては、例えば、Cl−、Br−、I−、BF4 −、(CN)4B−及び(CN)2N−が挙げられる。
イオン液体は、カチオンとアニオンの組み合わせによって水に対する溶解性が変化する。電解液に用いられるイオン液体は水に溶解することが望まれるため、カチオンとアニオンは親水性が得られる組み合わせの中から適宜選択すればよい。
電解液における電解質として用い得るイオン液体の具体例として、下記を挙げることができる。
1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−ペンチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−ノニル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−ウンデシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート、
1−エチル−3−プロピルイミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−オクチルイミダゾリウムヨージド、1−エチル−3−デシルイミダゾリウムテトラシアノボラート、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウムジシアナミド、
1−エチル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−プロピル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−ブチル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−ペンチル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−へキシル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−オクチル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−ノニル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−デシル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−ウンデシル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、1−ドデシル−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボラート、
1−エチル−4−プロピルピリジニウムクロライド、1−エチル−4−ペンチルピリジニウムブロミド、1−エチル−4−ノニルピリジニウムヨージド、1−エチル−4−ウンデシルピリジニウムテトラシアノボラート、1−エチル−4−ドデシルピリジニウムジシアナミド、
1−エチル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−プロピル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−ペンチル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−へキシル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−オクチル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−ノニル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−デシル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−ウンデシル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、1−ドデシル−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボラート、
1−エチル−1−ブチルピロリジニウムブロミド、1−エチル−1−ヘキシルピロリジニウムクロリド、1−エチル−1−オクチルピロリジニウムヨージド、1−エチル−1−デシルピロリジニウムテトラシアノボラート、1−エチル−1−ドデシルピロリジニウムピリジニウムジシアナミド、
1−エチル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−プロピル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−ペンチル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−へキシル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−オクチル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−ノニル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−デシル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−ウンデシル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、1−ドデシル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボラート、
1−エチル−1−プロピルピペリジニウムクロライド、1−エチル−1−ブチルピペリジニウムブロミド、1−エチル−1−ヘキシルピペリジニウムヨージド、1−エチル−1−デシルピペリジニウムテトラシアノボラート、1−エチル−1−ドデシルピペリジニウムビスジシアナミド、
エチルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、プロピルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、ブチルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、ペンチルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、ヘキシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、オクチルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、ノニルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、デシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、ウンデシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、ドデシルトリメチルアンモニウムテトラフルオロボラート、
ブチルトリエチルアンモニウムクロライド、ヘキシルトリエチルアンモニウムブロミド、オクチルトリエチルアンモニウムヨージド、デシルトリエチルアンモニウムテトラシアノボラート、エチルトリブチルアンモニウムジシアナミド、
エチルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、プロピルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、ブチルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、ペンチルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、ヘキシルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、オクチルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、ノニルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、デシルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、ウンデシルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、ドデシルトリメチルホスホニウムテトラフルオロボラート、
ブチルトリエチルホスホニウムブロミド、ヘキシルトリエチルホスホニウムクロライド、オクチルトリエチルホスホニウムヨージド、デシルトリエチルホスホニウムテトラシアノボラート、エチルトリブチルホスホニウムジシアナミド。
電解液中の電解質の濃度、すなわち、イオン液体の濃度は、CO2の溶解性、イオン電導性、流動性等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、0.1〜15mol/Lの範囲であることが好ましい。
図4に示される還元物生産システム60において、電解液として上述したイオン液体の水溶液が用いられる場合、二酸化炭素供給ユニットにおける電解液へのCO2の供給は、上述した直接噴霧する手段に加え、以下の手段によってもよい。
すなわち、貯留槽64において、電解液であるイオン液体の水溶液にCO2を加圧することで溶解させることもできる。加圧する圧力は、低すぎると吸収が完了するまでに時間がかかるし、高すぎても運転制御が難しくなる。したがって、例えば、0MPa以上50MPa以下、好ましくは常圧(例えば、0.1MPa)以上25MPa以下、より好ましくは常圧以上12MPa以下である。
また、加圧する際の温度条件としては、還元物やイオン液体の熱安定性、溶液の流動性などを考慮して、−50℃以上250℃以下、好ましくは0℃以上200℃以下、より好ましくは、常温(例えば、15〜25℃)以上100℃以下である。
図4に示される還元物生産システム60において、分離ユニットは、まず、電解液供給手段から三方弁81bを介して第3配管83に流入した電解液を、二酸化炭素分離塔202に供給する。
二酸化炭素分離塔202では、CO2の還元物の濃度が上昇した電解液(イオン液体の水溶液)から、未反応のCO2を分離する。イオン液体の水溶液に溶解しているCO2は、従来の方法によりイオン液体から分離することができる。例えば、二酸化炭素供給ユニットにおける電解液へのCO2の供給が、貯留槽64において、イオン液体の水溶液にCO2を加圧することにより行われた場合には、以下の方法により行うことができる。
二酸化炭素分離塔202において、貯留塔64でイオン液体の水溶液がCO2を吸収した際に加えられた圧力よりも低い圧力にイオン液体の水溶液を減圧することによって、イオン液体の水溶液に含まれているCO2が分離回収される。具体的には、イオン液体の水溶液がCO2を吸収した際に加えられた圧力よりも、0MPa以上50MPa以下、好ましくは10MPa以上35MPa以下、より好ましくは15MPa以上25MPa以下の範囲でより低くするが、イオン液体のCO2放出特性等を考慮して適宜選択できる。
二酸化炭素分離塔202でCO2が分離除去されたイオン液体の水溶液は、配管100bを通り精留塔72に供給される。イオン液体の水溶液に含まれる還元物は、従来の方法により蒸留して分離することができる。具体的には、沸点の差を利用した減圧蒸留によって行うことができる。これにより、メタノールやエタノールなどの水より低い沸点を有する還元物や、水より高い沸点を有するエチレングリコールのような還元物は精留塔72の上部に備わる配管101cより取り出され、蒸気圧をほとんど持たないイオン液体の水溶液は、精留塔72の底部から回収される。
一つの態様において、還元物生産システム60は、図4に示すように、二酸化炭素分離塔202において電解液(イオン液体の水溶液)から分離されたCO2と、精留塔72において還元物が分離除去された電解液とを用いて、CO2が溶解した電解液を調製する調製槽74を備えていてもよい。
二酸化炭素分離塔202において、イオン液体の水溶液から分離されたCO2は、配管101bを通り調製槽74に供給される。
精留塔72の底部から回収された還元物を分離したイオン液体の水溶液は、イオン液体と水に分かれて各々配管100d及び100eを通り調製槽74に充填される。
調製槽74では、配管101b、100d及び100eのそれぞれから、CO2、イオン液体及び水が供給され、CO2、イオン液体及び水を含む電解液が調製される。イオン液体の水溶液にCO2を効果的に溶解させるために、イオン液体の水溶液にCO2を加圧することもできる。加圧する圧力は、低すぎると吸収が完了するまでに時間がかかるし、高すぎても運転制御が難しくなる。したがって、例えば、0MPa以上50MPa以下、好ましくは常圧(例えば、0.1MPa)以上25MPa以下、より好ましくは常圧以上12MPa以下である。
また、加圧する際の温度条件としては、還元物やイオン液体の熱安定性、溶液の流動性などを考慮して、−50℃以上250℃以下、好ましくは0℃以上200℃以下、より好ましくは、常温(例えば、15〜25℃)以上100℃以下である。
調製槽74で調製されたCO2、イオン液体及び水を含む電解液は、弁を有する第7配管84により、貯留槽64に供給される。
以上に説明した実施形態に係る還元物生産システムは、還元物を含む電解液が貯留槽64と還元反応用電解槽31bとの間で循環している。また、電解液に還元材料である二酸化炭素が補給される。それ故、還元反応用電解槽31bにおいて還元反応が持続し、電解液中に含まれる還元物の濃度が上昇する。なお、生じた還元物は、還元反応用電解槽31bにおける還元反応に関与しないため、電解液中の還元物濃度に関わらず還元反応を持続させることが可能である。
電解液に含まれる還元物の濃度が低い場合、電解液から還元物を回収するために投入するエネルギーが、還元物に貯蓄されたエネルギー量に比べて大きくなり、製造コストの採算が取れなくなる虞がある。しかしながら、実施形態に係る還元物生産システムは、還元物を高濃度で含有する電解液を得ることができる。よって、還元物を高い効率で回収することができる。回収効率を向上させるため、還元物を0.01〜50wt%の濃度で含有する電解液を分離ユニットに供給することが好ましい。ここで、還元物の濃度は、エチレングリコールの濃度であることが好ましい。
また、電解液に含まれる還元物が少量多岐にわたる場合、分離工程が煩雑になり、電解液から還元物を回収するために投入するエネルギーが、還元物に貯蓄されたエネルギー量に比べて大きくなり、製造コストの採算が取れなくなる虞がある。しかしながら、実施形態に係る還元物生産システムは、電解液が貯留槽64と還元反応用電解槽31bとの間で循環しており、二酸化炭素の還元物の還元反応が継続して行われる。そのため、多電子還元が進行し、メタノールやエタノール、エチレングリコールなどにまで変換される。よって、簡略な分離工程を用いながらも高い回収効率を実現することができる。
[化学反応装置]
次に、化学反応装置61について、図5乃至図11を参照して説明する。化学反応装置61は、酸化触媒層と還元触媒層とを有する化学反応セル30と、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bと、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとの間で電解液を分離し且つイオンの移動を可能とするイオン移動経路とを有する。
まず、化学反応セル30について、図5乃至図7を参照して説明する。化学反応セルは、酸化触媒層19と、還元触媒層20と、酸化触媒層19及び還元触媒層20のそれぞれに接続された電源素子とを具備する。また、酸化触媒層19と還元触媒層20とを隔てる隔膜を有する。電源素子は電力を酸化触媒層19と還元触媒層20とに供給することで電気分解に必要な電圧を印加する。
電源素子は外部電源であってよいが、光エネルギーにより電荷分離する半導体層であることが好ましい。電源素子として、例えば太陽電池を用いることができる。半導体層は、酸化触媒層19と還元触媒層20との間に配置されることが好ましい。酸化触媒層19と還元触媒層20との間に半導体層が配置される場合、該半導体層が隔膜として用いられる。
図5は、化学反応セル30の構造を示す断面図である。図5に示すように、化学反応セル30は、還元触媒層20、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18及び酸化触媒層19が、この順で積層された積層体である。化学反応セル30において、還元触媒層20の側が裏面であり、酸化触媒層19の側は光が入射する表面である。
基板11は、化学反応セル30を支持し、その機械的強度を増すために設けられる。基板11は導電性を有する材料で構成される。例えば、Au、Ag、Cu、Pt、Zn、Fe、Ti、Sn、In、Bi及びNiから成る群より選択される金属からなる金属板、または、それらの金属の少なくとも1種を含む合金板で構成することができる。合金板として、例えばSUSのような合金板を用いることができる。あるいは、基板11は、導電性を有する樹脂等で構成することができる。また、基板11は、SiまたはGe等の半導体基板で構成することができる。また、基板11は、イオン交換膜で構成することもできる。
反射層12は、基板11の表面上に形成される。反射層12は、光反射が可能な材料で構成される。例えば、金属層、または、半導体多層膜からなる分布型ブラッグ反射層で構成することができる。この反射層12は、基板11と多接合型太陽電池17との間に配置されている。そのため、多接合型太陽電池17において吸収されなかった光を反射し、再び多接合型太陽電池17に入射させることができる。これにより、多接合型太陽電池17における光吸収率を向上させることができる。
還元電極層13は、反射層12上に配置され、反射層12と多接合型太陽電池17のn型半導体層(後述するn型のアモルファスシリコン層14a)とにより挟持される。このため、還元電極層13は、n型半導体層とオーミック接触が可能な材料で構成されることが好ましい。還元電極層13は、例えば、Ag、Au、Al、またはCu等の金属、もしくはそれらを少なくとも1つ含む合金で構成される。または、還元電極層13は、ITO(Indium Tin Oxide)または酸化亜鉛(ZnO)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、またはATO(アンチモンドープ酸化スズ)等の透明導電性酸化物で構成される。また、還元電極層13は、例えば金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他導電性材料とが複合された構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とが複合された構造であってもよい。
多接合型太陽電池17は、還元電極層13上に配置される。還元電極層13側から順に、第1太陽電池14、第2太陽電池15、及び第3太陽電池16が積層された構成を有する。これはいずれもpin接合半導体を使用した太陽電池である。第1太陽電池14、第2太陽電池15、及び第3太陽電池16はそれぞれ、光の吸収波長が異なる。これらを平面状に積層することで、多接合型太陽電池17は、太陽光の幅広い波長の光を吸収することができる。よって、太陽光エネルギーをより効率良く利用することが可能となる。また、各太陽電池は直列に接続されているため高い開放電圧を得ることができる。
第1太陽電池14は、還元電極層13側から順に、n型のアモルファスシリコン(a−Si)層14a、真性(intrinsic)のアモルファスシリコンゲルマニウム(a−SiGe)層14b、及び、p型の微結晶シリコン(μc−Si)層14cを備える。a−SiGe層14bは、400nm程度の短波長領域の光を吸収する層である。よって、第1太陽電池14は、短波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
第2太陽電池15は、還元電極層13側から順に、n型のa−Si層15a、真性(intrinsic)のa−SiGe層15b、p型のμc−Si層15cを備える。a−SiGe層15bは、600nm程度の中間波長領域の光を吸収する層である。よって、第2太陽電池15は、中間波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
また、第3太陽電池16は、還元電極層13側から順に、n型のa−Si層16a、真性(intrinsic)のa−Si層16b、p型のμc−Si層16cを備える。a−Si層16bは、700nm程度の長波長領域の光を吸収する層である。よって、第3太陽電池16は、長波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
多接合型太陽電池17は、各波長領域の光によって電荷分離が生じる。即ち、正孔が正極側(表面側)に、電子が負極側(裏面側)に分離する。これにより、多接合型太陽電池17において起電力を発生する。
なお、ここでは3つの太陽電池の積層構造で構成される多接合型太陽電池17を例に説明したが、これに限定されず、2つまたは4つ以上の太陽電池の積層構造で構成される多接合型太陽電池を用いることも可能である。または、多接合型太陽電池17の代わりに、1つの太陽電池を用いてもよい。また、pin接合半導体を使用した太陽電池について説明したが、pn接合型半導体を使用した太陽電池を用いてもよい。また、例えば、GaAs、GaInP、AlGaInP、CdTe、CuInGaSeなどから成る半導体層を用いてもよい。さらに、半導体層として、単結晶、多結晶、アモルファス状の種々の形態を適用することができる。
酸化電極層18は、多接合型太陽電池17の上に配置され、多接合型太陽電池17のp型半導体層と酸化触媒層19とにより挟持される。酸化電極層18は、p型半導体層とオーミック接触が可能で透明な材料で構成されることが好ましい。酸化電極層18は、ITO(Indium Tin Oxide)または酸化亜鉛(ZnO)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、またはATO(アンチモンドープ酸化スズ)等の透明導電性酸化物で構成される。また、酸化電極層18は、例えば金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他導電性材料とが複合された構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とが複合された構造であってもよい。
酸化触媒層19は、多接合型太陽電池17の正極側に配置され、酸化電極層18上に形成される。酸化触媒層19は、電解液の水素イオン濃度が7よりも低い場合(pH<7)、H2Oを酸化してO2とH+を生成する。一方、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい場合(pH>7)、OH−を酸化してO2とH2Oを生成する。このため、酸化触媒層19は、酸化反応をするための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、H2OまたはOH−を酸化して電子を引き抜く反応をする際の過電圧を低下させる材料で構成される。
このような材料として、酸化マンガン(Mn−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等の二元系金属酸化物、Ni−Co−O、La−Co−O、Ni−La−O、Sr−Fe−O等の三元系金属酸化物、Pb−Ru−Ir−O、La−Sr−Co−O等の四元系金属酸化物、もしくは、Ru錯体またはFe錯体等の金属錯体が挙げられる。
酸化触媒層19の形態としては薄膜状に限らず、格子状、粒子状、ワイヤー状であってもよい。
化学反応セル30において、照射光は、酸化触媒層19及び酸化電極層18を通過して多接合型太陽電池17に到達する。このため、光照射面側に配置される酸化電極層18及び酸化触媒層19は、照射光に対して光透過性を有する。より具体的には、照射面側の酸化電極層18及び酸化触媒層19の透過性は、照射光の照射量の少なくとも10%以上、より望ましくは30%以上である。
還元触媒層20は、多接合型太陽電池17の負極側に配置され、基板11の裏面上に形成される。還元触媒層20は、二酸化炭素を還元して還元物を生成する還元触媒からなる層である。還元触媒として、後述する第1還元触媒又は第2還元触媒を用いる。これらの還元触媒によって生成する還元物には、一酸化炭素、ギ酸、ホルムアルデヒド、メタン、メタノール、酢酸、アセトアルデヒド、エタノール及びエチレングリコールなどが含まれる。また、第1還元触媒又は第2還元触媒は、還元原料として二酸化炭素に限定されず、一酸化炭素、ギ酸、ホルムアルデヒド、メタン、メタノール、酢酸、アセトアルデヒド及びエタノールをさらに還元することもできる。
多接合型太陽電池17の表面上、または光照射面側の電極層と触媒層との間(化学反応セル30においては、酸化電極層18と酸化触媒層19との間)に導電性を有する保護層を配置してもよい。保護層は、酸化還元反応において多接合型太陽電池17の腐食を防止する。その結果、多接合型太陽電池17の寿命を延ばすことができる。また、保護層は、必要に応じて光透過性を有する。保護層としては、例えばTiO2、ZrO2、Al2O3、SiO2、またはHfO2等の誘電体薄膜が挙げられる。また、その膜厚は、トンネル効果により導電性を得るため、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。
図6及び図7は、化学反応セル30の動作原理を説明するための断面図である。ここでは、反射層12、還元電極層13、及び酸化電極層18は省略している。
図6及び図7に示すように、表面側(酸化電極層18側)から光(L)が入射すると、入射光は酸化触媒層19(及び酸化電極層18)を通過し、多接合型太陽電池17に到達する。多接合型太陽電池17が光を吸収すると、光励起電子及びそれと対になる正孔が生成され、それらが分離される。具体的には、各太陽電池(第1太陽電池14、第2太陽電池15、及び第3太陽電池16)において、n型の半導体層側(還元触媒層20側)に光励起電子が移動し、p型の半導体層側(酸化触媒層19側)に光励起電子の対として発生した正孔が移動する。即ち、電荷分離が生じる。これにより、多接合型太陽電池17において起電力が発生する。
多接合型太陽電池17内で発生した光励起電子は、負極である還元触媒層20での還元反応に使用される。正孔は、正極である酸化触媒層19での酸化反応に使用される。
電解液の水素イオン濃度が7よりも小さい酸性溶液である場合の例を図6に示す。酸化触媒層19付近では、下記(1)式の反応が生じる。即ち、H2Oが酸化されてO2とH+及び電子が生成される。ここで生成されたH+は、後述するイオン移動経路を介して還元触媒層20側に移動する。還元触媒層20付近では、下記(2)式の反応が生じる。即ち、CO2が、移動してきたH+と電子により還元されて、一酸化炭素(CO)とH2Oが生成される。
2H2O → 4H++O2+4e− ・・・(1)
2CO2+4H++4e− → 2CO+2H2O ・・・(2)
一方、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい塩基性溶液である場合の例を図7に示す。酸化触媒層19付近では、下記(3)式の反応が生じる。即ち、OH−が酸化されてO2とH2Oと電子が生成される。還元触媒層20付近では、下記(4)式の反応が生じる。即ち、CO2はH2Oとともに電子を受け取る還元反応をし、一酸化炭素(CO)とOH−が生成される。還元触媒層20側で生成されたOH−は、後述するイオン移動経路を介して酸化触媒層19側に移動する。
4OH− → O2+2H2O+4e− ・・・(3)
2CO2+2H2O+4e− → 2CO+4OH− ・・・(4)
多接合型太陽電池17は、酸化触媒層19で生じる酸化反応の標準酸化還元電位と、還元触媒層20で生じる還元反応の標準酸化還元電位との、電位差以上の開放電圧を有する必要がある。例えば、反応溶液の水素イオン濃度(pH)=0の場合、(1)式における酸化反応の標準酸化還元電位は+1.23[V]であり、(2)式における還元反応の標準酸化還元電位は−0.1[V]である。このため、多接合型太陽電池17の開放電圧は、1.33[V]以上である必要がある。
より好ましくは、開放電圧は、過電圧を含めた電位差以上である必要がある。より具体的には、例えば(1)式における酸化反応及び(2)式における還元反応の過電圧がそれぞれ0.2[V]である場合、開放電圧は1.73[V]以上であることが好ましい。
なお、上記(2)式及び(4)式における還元反応は、CO2からCOへの還元反応を示したが、これに限定されず、CO2からHCOOH、HCHO、CH4、CH3OH、C2H5OH、HOCH2CH2OH等への還元反応も生じ得る。いずれの還元反応も、H+を消費するか、または、OH−を生成する。このため、酸化触媒層19で生成したH+が対極の還元触媒層20へ移動できない場合、あるいは、還元触媒層20で生成したOH−が対極の酸化触媒層19へ移動できない場合、全体の反応効率が低下する。これに対し、化学反応装置61では、H+あるいはOH−を移動させるイオン移動経路を備えることにより、H+あるいはOH−の輸送を改善することができる。よって、高い光反応効率を実現することができる。
次に、図8乃至図11を用いて、上記の化学反応セル30を用いた化学反応装置61について説明する。ここでは、電解液の水素イオン濃度が7よりも小さい酸性溶液の場合の酸化還元反応(上記(1)式及び(2)式)を例に説明する。電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい塩基性溶液の場合は、上記(3)式及び(4)式に従う酸化還元反応が生じる。
図8は、化学反応装置61の構造を示す斜視図である。図9は化学反応装置61の構造を示す断面図である。化学反応装置61は、光化学反応セル30と、光化学反応セルを収容する電解槽31と、イオン移動経路として電解槽31に接続された電解槽流路41とを備える。なお、図8では、イオン移動経路を省略している。光化学反応セル30は、上述したように、酸化触媒層19、還元触媒層20、これらの間に形成された多接合型太陽電池17、及び基板11の積層体を備える。
電解槽31は、酸化触媒層19が配置される酸化反応用電解槽31aと、還元触媒層20が配置される還元反応用電解槽31bとを含む。酸化反応用電解槽31aでは、酸化触媒層19によってH2Oが酸化されてO2とH+が生成される。還元反応用電解槽31bでは、還元触媒層20によってCO2が還元されてCOとH2Oが生成される。これら2つの電解槽は、化学反応セル30の基板11によって2つに分離されている。なお、本例において、基板11の端部は、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、及び還元触媒層20の端部よりも突出しているが、これに限定されず、基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、及び還元触媒層20が同一面積の積層体であってもよい。
酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bには、別々の電解液を供給する。イオンの移動を可能にする電解槽流路41は、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとを連結している。
このように、電解槽流路41を備えた構成によれば、酸化触媒層19側で生成されたH+を還元触媒層20へと移動させることができ、このH+によって還元触媒層20側で二酸化炭素を分解することができる。よって、高い光反応効率を達成することができる。
電解槽流路41についてより詳細に説明する。電解槽流路41は、例えば電解槽31の側方に設けられる。電解槽流路41の一方は酸化反応用電解槽31aに接続され、他方は還元反応用電解槽31bに接続される。即ち、電解槽流路41は、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとを接続している。これにより、イオンが酸化触媒層19と還元触媒層20との間を移動することが可能となる。
この電解槽流路41内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとの間で電解液を分離しつつ、特定のイオンのみを移動させることができる。
イオン交換膜43は、プロトン交換膜であり、酸化反応用電解槽31aで生成されたH+を還元反応用電解槽31b側に移動させることができる。プロトン交換膜として、ナフィオンまたはフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタまたはセレミオンのようなアニオン交換膜が挙げられる。
なお、イオン交換膜43の代わりに、イオンが移動でき、かつ電解液を分離できる、寒天などの材料を用いてもよい。例えば塩橋が用いられる。一般に、ナフィオンに代表されるようなプロトン交換性の固体高分子膜を使用すると、イオン移動性能を良好にすることができる。
また、電解槽流路41にポンプ等の循環機構42を設けてもよい。循環機構42により電解液の循環を促進することにより、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとの間で、イオン(H+)の循環を向上させることができる。また、電解槽流路41を2本設けてもよく、そのうちの少なくとも1本に設けられた循環機構42を用いて、一方の電解槽流路41を介して酸化反応用電解槽31aから還元反応用電解槽31bへイオンを移動させ、他方の電解槽流路41を介して還元反応用電解槽31bから酸化反応用電解槽31aへ移動させてもよい。また、複数の循環機構42を設けてもよい。また、イオンの拡散を低減させ、より効率よくイオンを循環させるために、複数(3個以上)の電解槽流路41を設けてもよい。
循環機構42により液体の流れを作ることにより、発生したガスの気泡が電極表面や電解槽の表面にとどまることを抑制し、気泡による太陽光の散乱に起因する効率低下や光量分布を抑制することもできる。
また、光を照射すると多接合型太陽電池17の表面に熱が生じ得る。この熱により電解液に生じた温度差を利用して対流を生じさせ、より効率よくイオンを循環させてもよい。この場合、イオン拡散よりもイオンの移動を促進させることができる。
電解槽流路41内や電解槽31内に電解液の温度調整をする温度調整機構44を設けてもよい。温度調整機構44を用いて温度制御することにより、太陽電池性能と触媒性能を制御することができる。例えば、反応系の温度を均一にすることにより、太陽電池や触媒の性能を安定及び向上させることもできる。また、システムの安定のために、温度上昇を防ぐこともできる。温度制御によって、太陽電池及び触媒の選択性を変化させることができ、その生成物を制御することもできる。
酸化反応用電解槽31aは、任意の電解質を含む電解液によって満たされていてよく、H2Oの酸化反応を促進する電解液であることが好ましい。或いは、水によって満たされていてもよい。この電解液中に酸化触媒層19が浸漬される。還元反応用電解槽31bは、上述した電解液によって満たされる。この電解液中に、還元触媒層20が浸漬される。酸化反応用電解槽31aを満たす電解液と、還元反応用電解槽31bを満たす電解液の温度は、その使用環境に応じて同じであってもよいし、異なってもよい。
次に、化学反応装置61の変形例について説明する。図10は変形例1に係る化学反応装置62の構造を示す断面図である。図11は変形例2に係る化学反応装置63の構造を示す断面図である。以下では、上述した化学反応装置61と異なる構造について説明する。
図10に示すように、変形例1にかかる化学反応装置62は、化学反応セル30と、化学反応セル30を収容した電解槽31と、イオン移動経路として基板11に形成された開口部51とを備える。
開口部51は、基板11の端部を酸化反応用電解槽31a側から還元反応用電解槽31b側まで貫通するように設けられている。開口部51の一部にはイオン交換膜43が充填されており、基板11とイオン交換膜43とにより、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとが分離されている。イオン交換膜43は、特定のイオンのみを通過させる。
このような構成により、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとの間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43を介して特定のイオンのみを移動させることができる。
図11に示すように、変形例2にかかる化学反応装置63は、化学反応セル30と、化学反応セル30を収容した電解槽31と、イオン移動経路として形成された開口部52とを備える。開口部52は、還元触媒層20、基板11、多接合型太陽電池17、及び、酸化触媒層19を、酸化反応用電解槽31a側から還元反応用電解槽31b側まで貫通するように設けられている。
開口部52の一部にはイオン交換膜43が充填されており、基板11とイオン交換膜43とにより、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとが分離されている。イオン交換膜43は、特定のイオンのみを通過させる。
このような構成により、酸化反応用電解槽31aと還元反応用電解槽31bとの間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43を介して特定のイオンのみを移動させることができる。
なお、図11の変形例2にかかる化学反応装置63では、開口部52の一部のみにイオン交換膜43を設置しているが、開口部52の全体にイオン交換膜43を設置してもよい。
[第1還元触媒]
次に、実施形態において用いられる第1還元触媒及び第2還元触媒のうち、第1還元触媒について詳細に説明する。
第1還元触媒は、表面に金属層を有する集電体と、金属層の表面に結合され、第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子とを具備する。
以下に図12乃至図14を参照して、第1還元触媒について説明する。図12は、第1還元触媒の構成を示す模式図である。図12に示すように、第1還元触媒1は、集電体101と、第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112とを備える。集電体101は、その表面に金属層102を有する。第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112は、金属層102に結合されており、単分子層(Self-Assembled Monolayer:SAM)を形成している。
集電体101は、電気伝導性を有する材料により構成される。集電体101として、例えば、ステンレス基板を用いることができる。
集電体101の表面の金属層102は、Au、Ag、Cu、Zn、Pt、Fe、Ti、Ni、Sn、In及びBiから成る群より選択される少なくとも1種の金属を含む。金属層102は、金属以外の成分を含んでいてもよいが、金属のみから成ることが好ましい。金属層102と集電体101とは同じ材料により構成されてもよい。この場合、金属層102を構成する金属が集電体101を兼ねてもよい。
金属層102に含有される金属は、還元反応を活性化する触媒として機能する。触媒の活性が向上するため、金属層102に含有される金属は、微粒子の状態であることが好ましい。
金属層102に含まれる金属微粒子の平均粒径は、1nm以上300nm以下であることが好ましい。平均粒径が300nm以下であると、触媒の活性効率を上昇させることができる。また、平均粒径が1nm未満の金属微粒子は、製造することが困難である。金属微粒子の平均粒径は、150nm以下であると、触媒の活性効率がさらに向上するためより好ましい。なお、金属微粒子は、平均粒径が50nm以下の一次粒子であってもよいが、そのような一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。
第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112は、骨格110と、金属層102側の末端に位置する反応性官能基109と、反対の末端に位置する末端官能基111とを有する。
反応性官能基109は、金属層102に対して親和性を有し、金属層102に化学的に結合する。これにより、修飾有機分子112は金属層102に固定される。反応性官能基109は、金属層102と共有結合が可能な官能基であることが好ましく、例えば、チオール基、ジスルフィド基、及びチオシアネート基から選択されることが好ましい。結合力が優れていることからチオール基であることがより好ましい。
第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112は、カウンターアニオンと塩を形成していてもよい。カウンターアニオンは、これらに限定されないが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、SO4 2−、HCO3 −、BF4 −、PF6 −、CF3COO−、CF3SO3 −、NO3 −、SCN−、N(CN)2 −、C(CN)3 −(CF3SO2)3C−、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミドアニオン及びビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン等のアニオンであってよい。なお、図12ではカウンターアニオンを省略している。
[第1態様]
次に、第1還元触媒の第1態様に係る還元触媒2について、図13を参照して説明する。
第1態様の還元触媒2において、修飾有機分子112は、末端官能基111として第4級窒素カチオンを有する有機分子である。第4級窒素カチオンは、例えば、アンモニウムカチオン、イミダゾールカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオンまたはピロリジニウムカチオン等であることが好ましい。第4級窒素カチオンは、金属微粒子で構成される金属層102によるCO2還元反応を促進する機能を有する。CO2還元の活性向上に優れていることから、第4級窒素カチオンはイミダゾールカチオンであることが好ましい。
還元触媒2において、修飾有機分子112の骨格110はアルキル鎖であってよい。アルキル鎖長を著しく長くすると、金属層102のCO2還元反応に第4級窒素カチオンが関与しにくくなる。したがって、骨格110のアルキル鎖長は、炭素数2〜16であることが好ましい。
修飾有機分子112の例には、以下の分子が含まれる:11−メルカプトウンデカン−1−トリメチルアンモニウムクロライド、1−(2−メルカプトエチル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(6−メルカプトへキシル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(8−メルカプトオクチル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(9−メルカプトノニル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−エチルイミダゾリウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−2,3−ジメチルイミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(6−メルカプトへキシル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(8−メルカプトオクチル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(9−メルカプトノニル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(6−メルカプトへキシル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(8−メルカプトオクチル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、
1−(9−メルカプトノニル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(6−メルカプトへキシル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(8−メルカプトオクチル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(9−メルカプトノニル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−1−メチルピペリジニウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−1−メチルピペリジニウムブロミド。
[第2態様]
次に、第1還元触媒の第2態様に係る還元触媒3について、図14を参照して説明する。
第2態様の還元触媒3において、修飾有機分子112は、骨格110部分に第4級窒素カチオンを有し、末端官能基111としてアミノ基を有する有機分子である。このような修飾有機分子112は、下記一般式I〜Vの何れかにより表される。
(一般式I〜Vにおいて、R1は1級、2級または3級のアミノ基である。R2及びR3は同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、Hあるいは1級、2級または3級のアミノ基である。p、q、r及びnはそれぞれ独立して1以上12以下の整数である。Yは反応性官能基であり、X−はカウンターアニオンを示す。)。
第2態様の還元触媒3において、第4級窒素カチオンは、アルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン及びイミダゾリウムカチオンから選択される少なくとも1つのカチオンである。修飾有機分子112は、一般式I〜VにおいてX−により表されるカウンターアニオンとともに塩を形成している。具体的には、アンモニウム塩、ピペリジニウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジニウム塩またはイミダゾリウム塩を形成している。後述するように、還元活性を向上させる効果が高いことから、第4級窒素カチオンはイミダゾリウムカチオンであり、修飾有機分子112はイミダゾリウム塩を形成していることがより好ましい。
骨格110は、第4級窒素カチオンと該カチオンの置換基であるアルキル基とからなる。該アルキル基の炭素数は、一般式I〜Vにおけるp、q、r及びnに相当し、それぞれ独立して1以上12以下の整数である。一般式I〜Vにおいて、p、q、r及びnが1以上12以下であると、第4級窒素カチオン及びアミノ基、並びに、第4級窒素カチオン及び金属層102が離れすぎず、後述するように、第4級窒素カチオンが還元効率を向上させる効果を得ることができる。p、q、r及びnは、2以上6以下の整数であることがより好ましい。
図14では、カウンターアニオンとして臭化物イオンを記載している。また、反応性官能基109は、一般式I〜VにおけるYに相当する。
第2態様の還元触媒3において、末端官能基111はアミノ基であり、一般式I〜VにおけるR1及び任意にR2及びR3に相当する。アミノ基は、1級、2級、または3級のアミノ基であってよい。アミノ基が2級または3級のアミノ基である場合、その置換基は、1つまたは2つのC1〜C12のアルキル基であることが好ましい。アルキル基の炭素原子が12以下であると、第4級窒素カチオンとアミノ基とが離れすぎず、後述するように、アミノ基が還元効率を向上させる効果を得ることができる。アルキル基の炭素原子は2以上6以下であることがより好ましい。アミノ基は、フッ酸、塩酸、臭酸、ヨウ酸、硫酸、硝酸、または燐酸等と塩を形成していてもよい。
第2態様における修飾有機分子112の例には、以下の分子が含まれる:1−(2−メルカプトエチル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(6−メルカプトへキシル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(8−メルカプトオクチル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(9−メルカプトノニル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−3−アミノメチルイミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(2−アミノエチル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(3−アミノプロピル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(4−アミノブチル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(5−アミノペンチル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(6−アミノヘキシル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(8−アミノオクチル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(9−アミノノニル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(10−アミノデシル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(11−アミノウンデシル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−3−(12−アミノドデシル)イミダゾリウムブロミド、
1−(4−メルカプトブチル)−3−(2−メチルアミノエチル)イミダゾリウムブロミド、1−(6−メルカプトヘキシル)−3−(3−ジメチルアミノプロピル)イミダゾリウムブロミド、1−(8−メルカプトヘキシル)−3−(4−エチルメチルアミノブチル)イミダゾリウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(6−メルカプトへキシル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(8−メルカプトオクチル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(9−メルカプトノニル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−4−アミノメチルピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(2−アミノエチル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(3−アミノプロピル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(4−アミノブチル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(5−アミノペンチル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(6−アミノヘキシル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(8−アミノオクチル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(9−アミノノニル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(10−アミノデシル)ピリジニウムブロミド、
1−(2−メルカプトエチル)−4−(11−アミノウンデシル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−4−(12−アミノドデシル)ピリジニウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−4−(3−メチルアミノプロピル)ピリジニウムブロミド、1−(9−メルカプトノニル)−4−(4−ジメチルアミノブチル)ピリジニウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−4−(6−エチルメチルアミノヘキシル)ピリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(6−メルカプトへキシル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(8−メルカプトオクチル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(9−メルカプトノニル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−1−アミノメチルピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(2−アミノエチル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(3−アミノプロピル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(4−アミノブチル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(6−アミノヘキシル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(8−アミノオクチル)ピロリジニウムブロミド、
1−(2−メルカプトエチル)−1−(9−アミノノニル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(10−アミノデシル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(11−アミノウンデシル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(12−アミノドデシル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(4−メチルアミノブチル)ピロリジニウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−1−(8−ジメチルアミノオクチル)ピロリジニウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−1−(9−エチルメチルアミノノニル)ピロリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(3−メルカプトプロピル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(4−メルカプトブチル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(5−メルカプトペンチル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(6−メルカプトへキシル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(8−メルカプトオクチル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(9−メルカプトノニル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−1−アミノメチルピペリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(2−アミノエチル)ピペリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(3−アミノプロピル)ピペリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(4−アミノブチル)ピペリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(6−アミノヘキシル)ピペリジニウムブロミド、
1−(2−メルカプトエチル)−1−(8−アミノオクチル)ピペリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(9−アミノノニル)ピペリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(10−アミノデシル)ピペリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(11−アミノウンデシル)ピペリジニウムブロミド、1−(2−メルカプトエチル)−1−(12−アミノドデシル)ピペリジニウムブロミド、1−(10−メルカプトデシル)−1−(9−メチルアミノノニル)ピペリジニウムブロミド、1−(11−メルカプトウンデシル)−1−(10−ジメチルアミノデシル)ピペリジニウムブロミド、1−(12−メルカプトドデシル)−1−(12−エチルメチルアミノドデシル)ピペリジニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、3−メルカプトプロピル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、4−メルカプトブチル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、5−メルカプトペンチル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、6−メルカプトヘキシル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、8−メルカプトオクチル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、9−メルカプトノニル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、10−メルカプトデシル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、11−メルカプトウンデシル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、12−メルカプトドデシル−(アミノメチル)ジメチルアンモニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(3−アミノプロピル)ジメチルアンモニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(4−アミノブチル)ジメチルアンモニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(5−アミノペンチル)ジメチルアンモニウムブロミド、
2−メルカプトエチル−(6−アミノヘキシル)ジメチルアンモニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(8−アミノオクチル)ジメチルアンモニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(9−アミノノニル)ジメチルアンモニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(10−アミノデシル)ジメチルアンモニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(11−アミノウンデシル)ジメチルアンモニウムブロミド、2−メルカプトエチル−(12−アミノドデシル)ジメチルアンモニウムブロミド、5−メルカプトペンチル−(8−メチルアミノノニル)エチルメチルアンモニウムブロミド、6−メルカプトヘキシル−(6−ジメチルアミノヘキシル)メチルプロピルアンモニウムブロミド、及び、8−メルカプトオクチル−(4−エチルメチルアミノブチル)ブチルヘキシルアンモニウムブロミド。
[第1還元触媒における還元反応]
第1還元触媒における還元反応を、CO2の還元を例に説明する。CO2還元反応の素反応では、CO2は1電子の還元反応によりCO2ラジカルアニオンとなる。この反応には、大きな過電圧が必要である。この過電圧はエネルギーの損失であり、エネルギー変換効率の低下の原因となる。また、CO2還元反応とともに水や水素イオンの還元反応が副反応として起こり、水素が発生する。この副反応によって、CO2還元反応のファラデー効率が低下する。しかしながら、上述した第1還元触媒は高い還元効率を有する。
第1還元触媒において、第4級窒素カチオンは、CO2と反応中間体を形成する。そのため、CO2ラジカルアニオンの生成及び安定化に寄与する。それ故、第1還元触媒は、低いエネルギーでCO2還元反応を起こすことができる。その結果、第1還元触媒のエネルギー変換効率が向上される。また、第4級窒素カチオンは、金属層102に水や水素イオンが接近することを阻害する効果を有する。このため、第4級窒素カチオンは、金属層102における還元反応に反応選択性を付与することができる。即ち、副反応による水素の発生を抑制し、ファラデー効率を向上させることができる。
第1還元触媒は高い還元効率を有するため、還元物を高効率で回収できる還元物生産システムを提供することができる。
また、第2態様の還元触媒3はさらに高い還元効率を達成できる。これは、修飾有機分子112中のアミノ基がCO2分子と反応して炭酸塩を形成するため、還元反応に必要なCO2分子を誘引し、第4級窒素カチオンや金属層102に供給することができるためである。また、アミノ基は、CO2還元によって生成したカルボン酸類(例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸など)と塩を形成する。そのため、連続的に還元が生じる多電子還元反応を促進する効果を有する。その結果、還元効率をさらに向上させることが可能である。よって、還元物をより高い効率で回収できる還元物生産システムを提供することができる。
第2態様の還元触媒3は、エチレングリコールを高い選択率で生成することができる。よって、還元触媒3を使用することにより、エチレングリコールを高い選択率で生産する還元物生産システムを提供することができる。
還元物は、第4級窒素カチオンと金属層102と還元原料との相互作用によって変化する。詳細を以下に説明する。
還元触媒の金属層102には、還元電位が印加されている。このため、電解液成分のうち特にCO2を含むイオン(例えば、炭酸水素イオン)もしくは物理的に溶解したCO2が、金属層102及びその表面に固定された修飾有機分子112に含まれる第4級窒素カチオンの近傍で静電的引力を受ける。その結果、CO2と、金属層102及び第4級窒素カチオンとで、触媒/電解液の界面において電気二重層を形成する。
この界面において、電荷移動反応によるCO2還元反応が進行する。還元反応用電解槽31bでは、還元触媒層20によってCO2が還元されて炭素化合物が生成される。具体的には、CO2は、一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、メタノール(CH3OH)、酢酸(CH3COOH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)エタノール(CH3CH2OH)、及びエチレングリコール(HOCH2CH2OH)に変換される。また、副反応として水分(H2O)が還元されて水素(H2)も生成され得る。
二酸化炭素が2電子還元反応すると、一酸化炭素の他にギ酸が生成される。ギ酸が2電子還元反応すると、ホルムアルデヒドが生成される。さらに、ホルムアルデヒドが2電子還元反応すると、メタノールが生成される。第1還元触媒1を用いてメタノールを生成する場合、二酸化炭素以外にギ酸またはホルムアルデヒドを還元原料として選択してもよい。このため、還元反応用電解槽31bにおける電解液は、二酸化炭素、ギ酸、及びホルムアルデヒドから選択される少なくとも1つの還元原料が吸収されていることが望ましい。例えば、還元反応用電解槽31bにおける電解液として、炭酸水素ナトリウム溶液が挙げられる。
また、二酸化炭素が2電子還元反応すると、シュウ酸が生成される場合もある。シュウ酸が2電子還元反応すると、グリコール酸が生成される。さらに、グリコール酸が2電子還元反応すると、グリオキサールあるいはグリコール酸が生成される。さらにグリオキサールあるいはグリコール酸が2電子還元反応すると、グリコールアルデヒドが生成される。さらに、グリコールアルデヒドが2電子還元反応すると、エチレングリコールが生成される。第1還元触媒1を用いてエチレングリコールを生成する場合、二酸化炭素以外にシュウ酸、グリコール酸、グリコールアルデヒドを還元原料として選択してもよい。このため、還元反応用電解槽31bにおける電解液は、シュウ酸、グリコール酸またはグリコールアルデヒドから選択される少なくとも1つの還元原料が吸収されていてもよい。
二酸化炭素が8電子還元反応すると、酢酸が生成される場合もある。酢酸が2電子還元反応すると、アセトアルデヒドが生成される。さらに、アセトアルデヒドが2電子還元反応すると、エタノールが生成される。第1還元触媒1を用いてエタノールを生成する場合、二酸化炭素以外に酢酸またはアセトアルデヒドを還元原料として選択してもよい。このため、還元反応用電解槽31bにおける電解液は、二酸化炭素、酢酸、及びアセトアルデヒドから選択される少なくとも1つの還元原料が吸収されていてもよい。
上述したように、二酸化炭素が還元されてギ酸、ホルムアルデヒド、及びメタノールが生成される反応と、二酸化炭素が還元されてシュウ酸、グリコール酸、グリオキサールあるいはグリコール酸、グリコールアルデヒド、及びエチレングリコールが生成され反応と、二酸化炭素が還元されて酢酸、アセトアルデヒド、及びエタノールが生成される反応とは、第1還元触媒1における修飾有機分子112の密度に依存する。例えば、金属層102に対する修飾有機分子112の密度が1×1011atoms/cm2以下の場合、主にギ酸、ホルムアルデヒド、及びメタノールが生成される反応が起こる。一方、例えば修飾有機分子112の密度が1×1012〜1015atoms/cm2の場合、ギ酸、ホルムアルデヒド及びメタノールのほかに、酢酸、アセトアルデヒド及びエタノールが生成される反応が起こる。特に、修飾有機分子112の密度が1×1013〜1015atoms/cm2の場合、主に酢酸、アセトアルデヒド、及びエタノールが生成される反応が起こる。
修飾有機分子112の結合状態と分子密度は、X線光電子分光法(XPS)による分析結果に基づいて算出できる。分析条件は、以下の条件とすることができる。なお、検出角度とは、試料法線と検出器入力レンズ軸の成す角を示している。
使用機種 PHI社製 Quantera-SXM
照射X線源 単結晶分光AlKα線
出力 50W
分析領域 φ200μm
Pass Energy Wide Scan−280.0eV(1.0eV/Step)
Narrow Scan−69.0eV(0.125eV/Step)
検出角度 45°
帯電中和電子銃 Ar+,e−共に使用
帯電補正(横軸エネルギー補正)として、C1sスペクトルのC−C/H結合成分を284.80eVに合わせる。
修飾有機分子112の結合密度(分子密度)は、下記(5)式より概算した単位面積当たりのAu原子数と、半定量分析結果のAu原子数で規格化したS原子数(S/Au)とから、下記(6)式によって算出される。
Au(atoms/cm2)=密度(g/cm3)×検出深さ(nm)×N/Mw ・・・(5)
分子密度(atoms/cm2)=Au(atoms/cm2)×S/Au(原子数比) ・・・(6)
ここで、密度は19.3g/cm3、検出深さは5nm、Nはアボガドロ数(atoms/mol)、Mwは197g/molである。
第1還元触媒1において、二酸化炭素が還元され、シュウ酸、グリコール酸またはグリコールアルデヒドを介してエチレングリコールが生成する反応は、電極が還元電位に保持されることにより選択的に生じる。即ち、電極が還元電位に保持されることにより、修飾有機分子112の配向が均一に揃うようになるため、エチレングリコールが生成される反応が起こる。電極が還元電位に保持される電解条件としては、電極基板を作用極とし、銀塩化銀を参照極とし、Ptを対極として用いた三電極式セルにおいて、作用極に−0.8V〜−1.3Vの電位が5時間以上印加されることが好ましく、3時間以上保持されることがより好ましく、1時間以上保持されることがさらに好ましい。修飾有機分子112の配向性は、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope: STM)を用いて観察することができる。
[第1還元触媒の製造方法]
次に、第1還元触媒の製造方法を説明する。
まず、集電体101の表面に金属層102を形成する。その方法としては、スパッタ法、蒸着法、またはALD(Atomic Layer Deposition)法等の既知の真空成膜方法を用いることができる。
次に、反応性官能基109を金属層102に結合することにより、修飾有機分子112を金属層102に固定する。その方法としては、既知の方法を用いることができる。例えば、修飾有機分子112が溶解された溶液に、金属層102を備えた集電体101を接触させる方法、高真空中で修飾有機分子112を蒸発させて集電体101の表面に成膜する方法、スプレー等によって修飾有機分子112を集電体101の表面に噴霧する方法等を用いることができる。
修飾有機分子112が溶解された溶液を用いる方法では、金属層102に化学吸着した修飾有機分子112が、吸着分子同士のファンデルワールス力や疎水性相互作用によって、自発的に集合体を形成する。そして、吸着分子が緻密に集合することで、配向がそろった単分子層が形成される。
修飾有機分子112を溶解する溶媒としては、有機分子を溶解できる任意の溶媒を用いてよい。例えば、エタノール等のアルコール、及び、トルエン及びヘキサン等の芳香族または脂肪族の有機溶媒から選択できる。修飾有機分子112の溶解性が高く、且つ、取扱いが容易であることから、エタノールを用いることが好ましい。
金属層102に修飾有機分子112を固定する方法の一例を、より詳細に説明する。
まず、修飾有機分子112を溶解した調製溶液を準備する。次に、この調製溶液に、金属層102が形成された集電体101を浸漬する。浸漬する時間は、数分から数時間とする。これにより、金属層102の表面上に修飾有機分子112が固定される。修飾有機分子112の濃度、浸漬時間、及び浸漬温度等の条件は、修飾有機分子112の構造等に応じて適宜変更できる。これらの条件は、修飾有機分子112からなる単分子層の形成状態に影響する。
調製溶液の濃度は、低すぎると単分子層が形成されるまでに時間がかかる。一方、濃度が高すぎると、単分子層上にさらに分子が吸着し、積層膜が形成される恐れがある。このため、修飾有機分子112の濃度は、0.1mM以上100mM以下であることが好ましく、1mM以上10mM以下であることがより好ましい。
浸漬時間は、緻密で配向の揃った単分子層を形成するために十分な時間であることが好ましい。1分以上100時間以下であることが好ましく、12時間以上72時間以下であることが好ましい。
浸漬中の調製溶液の温度は、緻密で配向がそろった単分子層の形成に影響する。このため、溶媒の蒸気圧及び沸点等を勘案して、室温(25℃)以上60℃以下の温度であることが望ましい。
金属層102の表面上に修飾有機分子112が固定されていることは、既知の電気化学的方法または表面分析方法により確認することができる。
電気化学的な方法として、サイクリックボルタンメトリ法を用いることができる。以下に具体例を説明する。まず、1mMのヘキサシアノ鉄(III)カリウム(K3[Fe(CN)6])または1mMのヘキサアンミンルテニウム(III)クロライド([Ru(NH3)6]Cl3)が溶解された0.2M塩化カリウム(KCl)水溶液を調製する。この水溶液中において、修飾有機分子112を吸着する工程の前後の集電体101の電気化学的な応答を測定し、その結果を比較する。
電気化学的な応答として、ヘキサシアノ鉄(III)アニオンまたはヘキサアンミンルテニウム(III)カチオンの電気化学的な酸化還元反応による反応電流を測定する。修飾有機分子112が固定された集電体101についての反応電流は、修飾有機分子112が固定されていない集電体101についての反応電流と比較して減少する。これは、金属層102に修飾有機分子112が固定されたことにより、ヘキサシアノ鉄(III)アニオンまたはヘキサアンミンルテニウム(III)カチオンの酸化還元反応が阻害されたことによるものである。このように、上記の反応電流を測定することにより、修飾有機分子112が固定されたことを間接的に確認することができる。
表面分析方法として、反射法を用いたフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を使用することができる。この方法によれば、集電体101表面上の薄膜及び分子吸着種の赤外スペクトルを高感度に測定できる。即ち、有機分子の構造、特に官能基の情報を知ることができる。また、表面分析方法としてX線光電子分光(XPS)を用いることもできる。この方法によれば、修飾有機分子112及び修飾有機分子112にアニオンが備わっている場合、そのアニオンの組成が測定できる。また、接触角計を用いて、水の濡れ性の違いから修飾有機分子112の有無を判定することもできる。
[第2還元触媒]
次に、実施形態において用いられる第1還元触媒及び第2還元触媒のうち、第2還元触媒について詳細に説明する。
第2還元触媒は、表面層を有する集電体と、表面層上に形成されたスペーサー有機分子層と、スペーサー有機分子層の表面に結合された金属微粒子とを具備する。
以下に、図15乃至図18を参照して第2還元触媒について説明する。図面において、第1還元触媒と同一の部分には同一の参照符号を付す。また、重複した説明は、必要に応じて行う。
図15は、第2還元触媒4の構成を示す模式図である。図15に示すように、第2還元触媒4は、集電体101と、スペーサー有機分子層100と、金属微粒子107とを備える。集電体101は、その表面に表面層120を有する。
集電体101は、第1還元触媒と同様に、電気伝導性を有する材料により構成される。集電体101として、例えば、ステンレス基板を用いることができる。
集電体101の表面の表面層120は、金属層または酸化物層である。表面層120が金属層である場合、表面層120は、Au、Ag、Cu、Zn、Pt、Fe、Ti、Ni、Sn、In及びBiから成る群より選択される少なくとも1種の金属を含む。金属層102は、金属以外の成分を含んでいてもよいが、金属のみから成ることが好ましい。金属層102と集電体101とは同じ材料により構成されてもよい。この場合、金属層102を構成する金属が集電体101を兼ねてもよい。
集電体101の表面層120が酸化物層である場合、表面層120は、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)及びフッ素ドープ酸化スズ(FTO)から成る群より選択される少なくとも1種の酸化物を含む。或いは、表面層120は、ステンレス基板の表面に形成された酸化被膜層であってもよい。なお、ITOやFTO等の透明導電膜を除き、酸化物層は一般に絶縁体である。トンネル電流による導通を確保するため、酸化物層の膜厚は10nm以下にすることが好ましく、5nm以下にすることがより好ましい。
スペーサー有機分子層100は、スペーサー有機分子106が表面層120の表面に化学吸着し、自己組織化することによって形成された単分子層(Self-Assembled Monolayer)である。スペーサー有機分子106は、集電体101に金属微粒子107を固定化するとともに電気的に接続する機能を有する。
スペーサー有機分子106は、骨格104と、その末端に結合された第1の反応性官能基103及び第2の反応性官能基105を有する。
スペーサー有機分子106の鎖長が長くなるほど、表面層120上において緻密且つ配向がそろった分子層が形成される。このため、鎖長を長くすることにより、金属微粒子107が固定しやすく、また、耐久性が高い分子層を形成することができる。一方、鎖長が長すぎると、スペーサー有機分子層100におけるトンネル電流の抵抗が増加するため、第2還元触媒4の電極抵抗が増加する。よって、スペーサー有機分子106に含まれる炭素原子の総数は、2〜12の範囲であることが好ましく、2〜6の範囲であることがより好ましい。
第1の反応性官能基103は、表面層120に対して親和性を有し、表面層120と化学的に反応して結合する。これにより、スペーサー有機分子106は表面層120に固定される。第1の反応性官能基103は、表面層120と共有結合が可能な官能基であることが好ましい。表面層120が金属層で形成される場合、第1の反応性官能基103は、チオール基、ジスルフィド基及びチオシアネート基から選択されることが好ましい。結合力が優れていることからチオール基であることがより好ましい。表面層120が酸化物層またはステンレス基板表面の酸化被膜層で構成される場合、第1の反応性官能基103は、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸エステル基及びアルコキシシリル基から選択されることが好ましい。結合力が優れていることからホスホン酸基であることがより好ましい。
第2の反応性官能基105は、金属微粒子107に対して親和性を有し、金属微粒子107に化学的に結合する。これにより、金属微粒子107がスペーサー有機分子層100の表面に固定される。第2の反応性官能基105は、帯電した金属微粒子107と静電結合が可能な官能基であることが好ましく、例えば、アミノ基及びカルボキシル基から選択されることが好ましい。あるいは、第2の反応性官能基105は、金属微粒子107と共有結合が可能な官能基であることが好ましく、例えば、チオール基、ジスルフィド基、チオシアネート基等の官能基から選択されることが好ましい。結合力が優れていることからチオール基であることがより好ましい。
スペーサー有機分子106の例には、第1還元触媒の第1態様における修飾有機分子112の例と同様の分子が含まれる。
金属微粒子107は、還元反応を活性化する触媒として機能する。金属微粒子の材料として、Au、Ag、Cu、Pt、Zn、Fe、Ti、Sn、In、Bi及びNiから成る群より選択される少なくとも1つの元素が用いられる。触媒活性が特に高いため、金属微粒子107としてAuまたはAgからなる金属微粒子を用いることが好ましい。
金属微粒子107の平均粒径は、1nm以上300nm以下であることが好ましい。平均粒径が300nm以下であると、触媒の活性効率を上昇させることができる。また、平均粒径が1nm未満の金属微粒子107は、製造することが困難である。金属微粒子107の平均粒径は、150nm以下であると、触媒の活性効率がさらに向上するためより好ましい。なお、金属微粒子107は、平均粒径が50nm以下の一次粒子であってもよいが、そのような一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。
金属微粒子107の平均粒径は、動的光散乱法による粒度分布測定により測定することができる。具体的には、金属微粒子107を分散した溶液にレーザー光を照射し、拡散係数を反映した散乱光のゆらぎを検出する。その結果から、ストークス・アインシュタイン式を利用して粒子径を算出することができる。粒子径ごとの出現比率をもとめた頻度分布において、最も大きい粒子径または分布の極大値がモード径であり、これを平均粒子径とする。
金属微粒子は、その表面の一部に電荷をもった有機分子108を備えている。これにより、金属微粒子107の表面は帯電している。金属微粒子107の表面の電荷と、第2の反応性官能基105の電荷との静電引力(静電結合)により、スペーサー有機分子層100の表面に金属微粒子107が固定化される。有機分子108の電荷は正電荷及び負電荷のいずれであってもよい。
有機分子108の電荷が負電荷である場合、金属微粒子107の表面も負電荷を有している。この場合、第2の反応性官能基105としてアミノ基を有するスペーサー有機分子106を用いることにより、金属微粒子107を固定化することができる。
一方、有機分子108の電荷が正電荷である場合、第2の反応性官能基105としてカルボキシル基を有するスペーサー有機分子106を用いることにより、金属微粒子107を固定化することができる。
金属微粒子107が電荷を有すると、粒子間に静電的反発力が生じるため、ナノ粒子サイズの微粒子同士が凝集して粗大化することを防ぐこともできる。
金属微粒子107の表面の電荷は、金属微粒子107の製造方法に起因した有機分子108による電荷、または製造後の処理に起因した有機分子108による電荷を付与することができる。例えば、液層から金属微粒子107を還元して析出する際にクエン酸等の還元剤を使用すると、金属微粒子107表面にクエン酸が付与され、金属微粒子107表面は負の電荷を帯びる。そして、負の電荷を帯びた金属微粒子107の表面にアミノ基を有する分子を静電結合させると、金属微粒子107表面は正の電荷を帯びる。一方、金属微粒子107の表面にチオール等の共有結合性の反応基を有するアミン分子を反応させても正の電荷を帯びる。すなわち、チオール等の共有結合性の反応基を有するアミン分子は、金属微粒子107の表面の電荷の有無、また電荷の正負によらず用いることができる。
[変形例1]
第2還元触媒の変形例1を、図16及び図17を参照して説明する。
図16は、変形例1に係る第2還元触媒5の構成を示す模式図である。図17は、変形例1に係る第2還元触媒5の構成の一例を詳細に示す模式図である。
図16に示すように、第2還元触媒5は、表面層120を有する集電体101と、表面層120の表面に形成されたスペーサー有機分子層100と、スペーサー有機分子層100の表面に結合された金属微粒子107と、金属微粒子107に結合された、第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112とを備える。
集電体101、表面層120、スペーサー有機分子106及び金属微粒子107は、上記の第2還元触媒4と同様のものを用いることができる。また、修飾有機分子112として、第1還元触媒の第1態様に係る還元触媒と同様のものを用いることができる。即ち、変形例1において、修飾有機分子112は、末端官能基111として第4級窒素カチオンを有する有機分子である。
修飾有機分子112の反応性官能基109は、金属微粒子107に対して親和性を有し、金属微粒子107に化学的に結合する。これにより、修飾有機分子112は金属微粒子107に固定される。修飾有機分子112は、金属微粒子107に結合され、金属微粒子107において生じるCO2還元反応を促進する作用を有する。
変形例1において用いられる修飾有機分子112の例には、第1還元触媒の第1態様における修飾有機分子112の例と同様の分子が含まれる。
第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112は、カウンターアニオンと塩を形成していてもよい。カウンターアニオンは、これらに限定されないが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、SO4 2−、HCO3 −、BF4 −、PF6 −、CF3COO−、CF3SO3 −、NO3 −、SCN−、N(CN)2 −、C(CN)3 −(CF3SO2)3C−、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミドアニオン、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミドアニオン及びビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン等のアニオンであってよい。なお、図15及び図16ではカウンターアニオンを省略している。
[変形例2]
第2還元触媒の変形例2を、図18を参照して説明する。
図18は、変形例2に係る第2還元触媒6の構成の一例を詳細に示す模式図である。
図18に示すように、第2還元触媒6は、表面層120を有する集電体101と、表面層120の表面に形成されたスペーサー有機分子層100と、スペーサー有機分子層100の表面に結合された金属微粒子107と、金属微粒子107に結合された第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112とを備える。
集電体101、表面層120、スペーサー有機分子106及び金属微粒子107は、上記の第2還元触媒4と同様のものを用いることができる。また、修飾有機分子112として、第1還元触媒の第2態様に係る還元触媒と同様のものを用いることができる。即ち、変形例2において、修飾有機分子112は、骨格110部分に第4級窒素カチオンを有し、末端官能基111としてアミノ基を有する有機分子である。
変形例2において用いられる修飾有機分子112の例には、第1還元触媒の第2態様において記載した修飾有機分子112の例と同様の分子が含まれる。
第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112は、上記変形例1と同様に、カウンターアニオンと塩を形成していてもよい。なお、図18ではカウンターアニオンとして臭化物イオンを記載している。アミノ基は、フッ酸、塩酸、臭酸、ヨウ酸、硫酸、硝酸、または燐酸等と塩を形成していてもよい。
[第2還元触媒における還元反応]
第2還元触媒における還元反応を、CO2の還元を例に説明する。第1還元触媒について述べたように、通常のCO2還元反応の素反応はファラデー効率が低いという問題がある。しかしながら、第2還元触媒は、高い還元効率を達成することが可能である。
第2還元触媒において、還元反応は金属微粒子107において生じる。金属微粒子107を用いることにより、平板状の金属層と比較してより反応面積(表面積)を大きくすることができる。その結果、CO2の還元反応効率を高くすることができる。
また、修飾有機分子112に含まれる第4級窒素カチオンは、CO2と反応中間体を形成する。そのため、CO2ラジカルアニオンの生成及び安定化に寄与する。それ故、金属微粒子107に修飾有機分子112が固定化された第2還元触媒は、より低いエネルギーでCO2還元反応を起こすことができる。その結果、還元触媒のエネルギー変換効率を向上させることができる。また、第4級窒素カチオンは、金属微粒子107に水や水素イオンが接近することを阻害する効果を有する。このため、第4級窒素カチオンは、金属微粒子107における還元反応に反応選択性を付与することができる。即ち、副反応による水素の発生を抑制し、ファラデー効率の向上させることができる。
また、修飾有機分子112の末端にアミノ基が含まれる場合、アミノ基は、CO2分子と反応して炭酸塩を形成する。そのため、還元反応に必要なCO2分子を誘引し、第4級窒素カチオンや金属微粒子107に供給することができる。また、アミノ基は、CO2還元によって生成したカルボン酸類(例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸など)と塩を形成する。そのため、連続的に還元が生じる多電子還元反応を促進する効果を有する。その結果、還元効率を向上させることが可能である。
以上のことから、第2還元触媒は高い還元効率を達成できる。よって、第2還元触媒を用いることにより、還元物を高効率で回収できる還元物生産システムを提供することができる。
第2還元触媒は、還元原料として、二酸化炭素の他に、シュウ酸、グリコール酸及びグリコールアルデヒドから成る群より選択される原料を用いることができる。還元物は、第4級窒素カチオンと表面層120と還元原料との相互作用によって変化する。例えば、原料としてCO2用いた場合、一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、メタノール(CH3OH)、酢酸(CH3COOH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)、エタノール(CH3CH2OH)、シュウ酸((COOH)2)、グリコール酸(C2H2O3)、グリコールアルデヒド(C2H2O2)、及び、エチレングリコール(HOCH2CH2OH)が生じ得る。
さらに、変形例2のように、末端官能基111としてアミノ基を有する修飾有機分子112を用いた第2還元触媒は、エチレングリコールを高い選択率で生成することができる。よって、変形例2の還元触媒を使用することにより、エチレングリコールを高い選択率で生産する還元物生産システムを提供することができる。
[第2還元触媒の製造方法]
次に、第2還元触媒の製造方法を説明する。
まず、集電体101の表面に表面層120を形成する。その方法としては、スパッタ法、蒸着法、またはALD(Atomic Layer Deposition)法等の既知の真空成膜方法を用いることができる。
次に、表面層120にスペーサー有機分子106を固定し、スペーサー有機分子層100を形成する。その方法としては、第1還元触媒の製造方法において、金属層102に修飾有機分子112を固定する方法と同様の方法を用いることができる。
表面層120の表面上にスペーサー有機分子層100が形成されたことは、第1還元触媒1の製造方法において、金属層102に修飾有機分子112が固定されていることを確認する方法と同様の方法で確認することができる。
次に、金属微粒子107を用意する。この金属微粒子に、電荷をもった有機分子108を固定する。その方法として、以下の第1の方法及び第2の方法が挙げられる。
(第1の方法)金属微粒子を調製する方法において、液層から金属微粒子を還元して析出する際に、クエン酸等の還元剤を使用する。これにより、金属微粒子表面にクエン酸が付与される。その結果、金属微粒子の表面は負に帯電する。そして、負に帯電した金属微粒子の表面にアミノ基を有する分子を静電結合させる。
(第2の方法)帯電していない金属微粒子の表面に、チオール等の共有結合性の反応基を有するアミン分子を結合させる。これにより、金属微粒子は正に帯電する。この方法によれば、金属微粒子の表面の電荷の有無、及び電荷の正負によらず、電荷をもった有機分子108を固定することができる。
次に、電荷をもった有機分子108が固定された金属微粒子107を、スペーサー有機分子層100の表面に固定する。具体的には、水溶液に金属微粒子107を分散して分散液を調製する。この分散液に、スペーサー有機分子層100が形成された集電体101を浸漬する。これにより、スペーサー有機分子層100の第2の反応性官能基105と、金属微粒子107の表面の有機分子108とが静電結合して、金属微粒子107がスペーサー有機分子層100に固定される。
金属微粒子107を分散させる溶液は、金属微粒子107が安定して分散可能であれば特に限定されない。例えば、水、エタノール、またはトルエン等を用いることができる。取扱いが容易であるため、水またはエタノールを用いることが好ましい。
分散液の濃度、浸漬時間、及び浸漬温度等の条件は、金属微粒子107の合成方法及び安定性に依存するため、適宜変更する。
分散液の濃度は、低すぎると金属微粒子107の固定に時間がかかる。一方、濃度が高すぎると、分散液中で金属微粒子107が凝集し、スペーサー有機分子層100に固定されない恐れがある。このため、分散液における金属微粒子の濃度は、0.01mM以上10mM以下であることが好ましく、0.1mM以上1mM以下であることがより好ましい。
浸漬時間は、十分な量の金属微粒子107を固定するために、1時間以上50時間以下であることが好ましく、5時間以上24時間以下であることがより好ましい。
浸漬中の分散液の温度は、室温(25℃)以上35℃以下であることが好ましい。温度が高すぎると、金属微粒子107の分散安定性が低下して金属微粒子107が凝集する恐れがある。
スペーサー有機分子層100の表面に金属微粒子107が固定されていることは、既知の電気化学的方法または表面分析方法により確認することができる。
電気化学的な方法として、サイクリックボルタンメトリ法を用いることができる。以下に具体例を説明する。まず、1mMのヘキサシアノ鉄(III)カリウム(K3[Fe(CN)6])または1mMのヘキサアンミンルテニウム(III)クロライド([Ru(NH3)6]Cl3)が溶解された0.2M塩化カリウム(KCl)水溶液を調製する。この水溶液中において、金属微粒子107を固定する工程の前後の集電体101の電気化学的な応答を測定し、その結果を比較する。
電気化学的な応答として、ヘキサシアノ鉄(III)アニオンまたはヘキサアンミンルテニウム(III)カチオンの電気化学的な酸化還元反応による反応電流を測定する。金属微粒子107が固定された集電体101についての反応電流は、金属微粒子107が固定されていない集電体101についての反応電流と比較して増加する。これは、スペーサー有機分子層100に金属微粒子107が固定されたことにより、ヘキサシアノ鉄(III)アニオンまたはヘキサアンミンルテニウム(III)カチオンの酸化還元反応が生じたことによるものである。このように、上記の反応電流を測定することにより、金属微粒子107が固定されたことを間接的に確認することができる。
表面分析方法として、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力電子顕微鏡(AFM)、または走査透過型電子顕微鏡(STEM)で直接観察することができる。また、金属の組成は、エネルギー分散型X線分析(EDX)、または電子線マイクロアナライザ(EPMA)、X線光電子分光(XPS)等で評価することができる。
さらに、このようにして製造された還元触媒において、金属微粒子107に修飾有機分子112を固定することにより、変形例1又は変形例2の還元触媒を製造することができる。具体的には、スペーサー有機分子層100に固定された金属微粒子107に、修飾有機分子112を固定する。その方法としては、第1還元触媒の製造方法において、金属層102に修飾有機分子112を固定する方法と同様の方法を用いることができる。
金属微粒子107に修飾有機分子112を固定する方法の一例を、より詳細に説明する。
まず、修飾有機分子112を溶解した調製溶液を準備する。次に、この調製溶液に、金属微粒子107が形成された集電体101を浸漬する。浸漬する時間は、数分から数時間とする。これにより、金属微粒子107の表面上に修飾有機分子112が固定される。修飾有機分子112の濃度、浸漬時間、及び浸漬温度等の条件は、修飾有機分子112の構造等に応じて適宜変更できる。
調製溶液の濃度は、低すぎると十分な量の修飾有機分子112が固定されるまでに時間がかかる。一方、濃度が高すぎると、過剰な修飾有機分子112が吸着し、分子が積層する恐れがある。このため、修飾有機分子112の濃度は、0.1mM以上100mM以下であることが好ましく、1mM以上10mM以下であることがより好ましい。
浸漬時間は、緻密で配向の揃った単分子層を形成するために十分な時間であることが好ましい。1分以上100時間以下であることが好ましく、12時間以上72時間以下であることが好ましい。
浸漬中の調製溶液の温度は、緻密で配向がそろった単分子層の形成に影響する。このため、溶媒の蒸気圧及び沸点等を勘案して、室温(25℃)以上60℃以下の温度であることが望ましい。
調製溶液の溶媒は、修飾有機分子を溶解することができれば限定されるものではない。例えば、エタノール等のアルコール、またはトルエンもしくはヘキサン等の芳香族あるいは脂肪族の有機溶媒を用いることができる。修飾有機分子112の溶解性および取扱いの容易さ等から、エタノールを用いることが好ましい。
以上の方法により、変形例1又は変形例2の還元触媒を製造することができる。このようにして得られた還元触媒において、修飾有機分子112上に金属微粒子107をさらに積層することも可能である。修飾有機分子112と金属微粒子107とをさらに積層する方法の一例を、以下により詳細に説明する。
修飾有機分子112に含まれる第4級窒素カチオンは正電荷を有している。このため、金属微粒子107を構成する金属元素を含むアニオンが溶解された水溶液に、修飾有機分子112を接触させると、アニオン交換反応によって、第4級窒素カチオンと金属元素を含むアニオンとが静電的に結合する。そして、水溶液中において電気化学的な還元または水素ガスによる還元を行うことにより、第4級窒素カチオンの表面に金属ナノ粒子を担持させることができる。この金属ナノ粒子が金属微粒子107に相当する。
第4級窒素カチオン付近に析出させることができる金属元素として、AuまたはPtを用いることができる。AuまたはPtを含むアニオンの原料として、テトラクロロ金(III)酸ナトリウム2水和物(Na[AuCl4]2H2O)、塩化金(III)酸カリウム(K[AuCl4])、テトラクロロ白金酸(II)カリウム(K2[PtCl4])、ヘキサクロロ白金酸(IV)カリウム(K2[PtCl6])等の塩を用いることができる。
この方法をより具体的に説明する。まず、修飾有機分子112が固定された金属微粒子107が固定された集電体101を、AuまたはPtを含むアニオンが溶解された溶液に浸漬することにより、アニオン交換を行う。これにより、修飾有機分子112に含まれる第4級窒素カチオンに、AuまたはPtを含むアニオンが静電的に結合される。アニオンが溶解された溶液における、AuまたはPtを含むアニオンの塩の濃度は、0.1mM以上100mM以下であることが好ましい。アニオン交換時間は30分以上2時間以下であることが好ましい。
次いで、アニオン交換後の集電体101をアルカリ性水溶液に浸漬して、定電位還元電解により還元を行う。アルカリ性水溶液として、0.5Mの濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液を用いることができる。電解には、集電体101を作用極とし、銀塩化銀と参照極とし、Ptを対極として用いた三電極式セルを用い、作用極に−0.5Vの電位が1時間程度印加する条件で行う。
あるいは、アニオン交換後の集電体101を、H2ガスを溶解させた水溶液に浸漬して還元する。浸漬は、1時間程度であってよい。これにより、第4級窒素カチオンの表面に、金属微粒子107を形成することができる。
次いで、第4級窒素カチオン付近に析出させたAuまたはPtナノ粒子の表面に、さらに第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子112を固定する。このように、第4級窒素カチオン付近に金属微粒子107を析出する工程と、修飾有機分子112を固定する工程とを繰り返すことにより、金属微粒子107の量を増やすことができる。
以上説明した本実施形態によれば、二酸化炭素の還元物を高い効率で回収できるシステムを提供することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
[付記]
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
二酸化炭素の還元物を生産するシステムであって、
酸化触媒を備えた酸化反応用電解槽と、還元触媒を備えた還元反応用電解槽とを有し、二酸化炭素を還元して還元物を生成する化学反応装置と、
前記還元反応用電解槽に電解液を供給する電解液供給ユニットと、
前記電解液に二酸化炭素を溶解させて前記還元反応用電解槽における還元反応を持続させることにより、該電解液中の前記還元物の濃度を上昇させる二酸化炭素供給ユニットと、
前記還元物の濃度が上昇した電解液から前記還元物を分離する分離ユニットと、
を備える還元物生産システム。
[2]
前記電解液供給ユニットは、電解液を貯留する貯留槽と、該貯留槽から前記還元反応用電解槽に電解液を供給する第1配管と、前記還元反応用電解槽から電解液を排出し、前記貯留槽に戻す第2配管とを備え、前記二酸化炭素供給ユニットは前記貯留槽、前記第1配管及び前記第2配管の少なくとも1つに備えられる、付記[1]に記載のシステム。
[3]
前記分離ユニットは、前記還元物の濃度が上昇した電解液を電解質と液分とに分離する粗蒸留塔と、該粗蒸留塔において分離された液分から二酸化炭素の還元物を分離する精留塔とを備える、付記[1]又は[2]に記載のシステム。
[4]
前記精留塔は、前記液分から、メタノールを分離する第1精留塔と、エタノールを分離する第2精留塔と、エチレングリコールを分離する第3精留塔とを備える、付記[3]に記載のシステム。
[5]
前記粗蒸留塔において分離された前記電解質と、前記精留塔において分離された水とを用いて、新たな電解液を調製する調製槽と、該調製槽から電解液を前記電解液供給ユニットに送液する配管とをさらに備える、付記[3]又は[4]に記載のシステム。
[6]
前記分離ユニットは、前記還元物の濃度が上昇した電解液から還元物と二酸化炭素を、抽出溶媒であるイオン液体に抽出する抽出装置と、該抽出装置において抽出された前記還元物と前記二酸化炭素を含有するイオン液体から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離塔と、前記二酸化炭素分離塔において二酸化炭素が分離されたイオン液体から前記還元物を分離する精留塔とを備える、付記[1]又は[2]に記載のシステム。
[7]
前記抽出溶媒は、イオン液体として、アルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンから選択される有機カチオンを含む化合物を少なくとも1種含む、付記[6]に記載のシステム。
[8]
前記抽出溶媒は、イオン液体として、下記一般式Ia〜VIaの何れかにより表される化合物を少なくとも1種含む、付記[6]又は[7]に記載のシステム。
一般式Ia〜VIaにおいて、R 1a 、R 2a 、R 3a 及びR 4a は、各々独立に、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。Xa − は、カウンターアニオンを表す。
[9]
前記抽出溶媒は、イオン液体として、BF 4 − 、PF 6 − 、フルオロメタンスホネートアニオン(CF 3 SO 3 − )、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドアニオン((CF 3 SO 3 ) 2 N − )及び(CN) 2 N − 、(CN) 4 B − から選択されるアニオンを含む化合物を少なくとも1種含む、付記[6]〜[8]の何れか1項に記載のシステム。
[10]
前記精留塔は、二酸化炭素が分離された前記イオン液体からメタノールを分離する第1精留塔と、エタノールを分離する第2精留塔と、エチレングリコールを分離する第3精留塔とを備える、付記[6]〜[9]のいずれか1項に記載のシステム。
[11]
前記精留塔において前記還元物が分離されたイオン液体を、前記精留塔から前記抽出装置に送液する配管とをさらに備える、付記[6]〜[10]のいずれか1項に記載のシステム。
[12]
前記抽出装置において還元物と二酸化炭素が分離された前記電解液と、前記二酸化炭素分離塔において分離された前記二酸化炭素とを用いて、二酸化炭素が溶解した電解液を調製する調製槽と、該調製槽で調製された前記電解液を該調製槽から前記電解液供給ユニットに送液する配管とをさらに備える、付記[6]〜[11]のいずれか1項に記載のシステム。
[13]
前記分離ユニットは、前記還元物の濃度が上昇した電解液から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離塔と、該二酸化炭素分離塔において二酸化炭素が分離された電解液から前記還元物を分離する精留塔とを備える、付記[1]又は[2]に記載のシステム。
[14]
電解液として、アルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン及びアルキルホスホニウムカチオンから選択される有機カチオンを含むイオン液体を少なくとも1種含む水溶液を用いる、付記[13]に記載のシステム。
[15]
電解液として、下記一般式Ib〜VIbの何れかにより表されるイオン液体を少なくとも1種含む水溶液を用いる、付記[13]又は[14]に記載のシステム。
一般式I〜VIにおいて、R 1b 、R 2b 、R 3b 及びR 4b は、各々独立に、アルキル基又はシクロアルキル基を表す。Xb − は、カウンターアニオンを表す。
[16]
電解液として、Cl − 、Br − 、I − 、BF 4 − 、(CN) 4 B − 及び(CN) 2 N − から選択されるアニオンを含むイオン液体を少なくとも1種含む水溶液を用いる、付記[13]〜[15]の何れか1項に記載のシステム。
[17]
前記精留塔において前記還元物が分離された電解液に含まれていたイオン液体及び水と、前記二酸化炭素分離塔において分離された前記二酸化炭素とを用いて、二酸化炭素、イオン液体及び水を含有する電解液を調製する調製槽と、該調製槽で調製された前記電解液を該調製槽から前記電解液供給ユニットに送液する配管をさらに備える、付記[14]〜[17]の何れか1項に記載のシステム。
[18]
前記精留塔は、二酸化炭素が分離除去された前記電解液からメタノールを分離する第1精留塔と、エタノールを分離する第2精留塔と、エチレングリコールを分離する第3精留塔とを備える、付記[13]〜[17]の何れか1項に記載のシステム。
[19]
前記化学反応装置は、前記酸化触媒からなる酸化触媒層と前記還元触媒からなる還元触媒層とに接続された電源素子をさらに備える、付記[1]〜[18]の何れか一項に記載のシステム。
[20]
前記電源素子は、光エネルギーにより電荷分離する半導体層を備える、付記[19]に記載のシステム。
[21]
前記還元触媒は、
表面に金属層を有する集電体と、
前記金属層の表面に結合され、第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子と、
を具備する、付記[1]〜[20]の何れか一項に記載のシステム。
[22]
前記修飾有機分子は、アルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン及びイミダゾリウムカチオンから選択される少なくとも1種の第4級窒素カチオンを含む、付記[21]に記載のシステム。
[23]
前記修飾有機分子は、下記一般式I〜Vの何れかにより表される、付記[21]又は[22]に記載のシステム。
一般式I〜Vにおいて、R 1 は1級、2級又は3級のアミノ基であり、R 2 及びR 3 は同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、Hあるいは1級、2級又は3級のアミノ基であり、p、q、r、nはそれぞれ独立して1以上12以下の整数であり、Yは反応性官能基であり、X − はカウンターアニオンを示す。
[24]
前記一般式I〜Vにおいて、前記R 1 が、C 1 〜C 12 アルキル基から選択される少なくとも1つの置換基により置換されたアミノ基である、付記[23]に記載のシステム。
[25]
前記金属層は金属微粒子を含む、付記[21]〜[24]の何れか一項に記載のシステム。
[26]
前記金属層は、金、銀、白金、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属微粒子を含む、付記[21]〜[25]の何れか一項に記載のシステム。
[27]
前記還元触媒は、
表面層を有する集電体と、
前記表面層上に形成されたスペーサー有機分子層と、
前記スペーサー有機分子層の表面に結合された金属微粒子と、
を具備する、付記[1]〜[20]の何れか一項に記載のシステム。
[28]
前記金属微粒子の表面に結合された、第4級窒素カチオンを含む修飾有機分子をさらに具備する、付記[27]に記載のシステム。
[29]
前記修飾有機分子は、アルキルアンモニウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン及びイミダゾリウムカチオンから選択される少なくとも1種の第4級窒素カチオンを含む、付記[28]に記載のシステム。
[30]
前記修飾有機分子は、下記一般式I〜Vの何れかにより表される、付記[28]又は[29]に記載のシステム。
一般式I〜Vにおいて、R 1 は1級、2級又は3級のアミノ基であり、R 2 及びR 3 は同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、Hあるいは1級、2級又は3級のアミノ基であり、p、q、r、nはそれぞれ独立して1以上12以下の整数であり、Yは反応性官能基であり、X − はカウンターアニオンを示す。
[31]
前記一般式I〜Vにおいて、前記R 1 が、C 1 〜C 12 アルキル基から選択される少なくとも1つの置換基より置換されたアミノ基である、付記[30]に記載のシステム。
[32]
前記金属微粒子は、金、銀、白金、銅及び亜鉛から選択される少なくとも1種の金属微粒子である、付記[27]〜[31]の何れか一項に記載のシステム。