実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るエレベータ制動装置が設けられた、エレベータシステム全体の構成を示す構成図である。以下、エレベータ制動装置を、ブレーキ装置8と呼ぶこととする。
図1において、エレベータのかご1は、昇降路内に配置されている。昇降路の上部には、巻上機2が設けられている。巻上機2に備えられたシーブには、ロープ3が巻き掛けられている。ロープ3の一端には、かご1が取付けられ、ロープ3の他端には、釣合おもり4が取付けられている。かご1と釣合おもり4とは、ロープ3により、つるべ式に吊持されている。かご1は、巻上機2に備えられたモータによって、上下方向に昇降駆動される。昇降路内には、かご1の昇降を案内する一対のガイドレール5が設置されている。ガイドレール5は、かご1の昇降方向に、延びている。本実施の形態においては、ガイドレール5が、対象となる制動面を構成している。すなわち、ガイドレール5をブレーキ装置8で把持することで、かご1の保持及び制動を行う。
かご1の昇降は、エレベータ制御装置6により制御される。エレベータ制御装置6には、制動指令部7が設けられている。制動指令部7は、かご1が各階に停止したときに、かご1を静止保持する保持指令及びエレベータに異常が発生したときにかご1を制動する制動指令を出力する。
かご1には、一対のブレーキ装置8が搭載されている。ブレーキ装置8は、ガイドレール5を把持することで、かご1の保持及び制動を行うエレベータ制動装置である。各ブレーキ装置8は、ブレーキ制御装置9により制御される。ブレーキ制御装置9は、制動指令部7からの保持指令または制動指令を受けて、ブレーキ装置8を動作させる。ブレーキ制御装置9には、ブレーキ装置8の動作を制御する制御部10と、かご1の負荷を検出する負荷検出部11とが設けられている。
図2は、図1のブレーキ装置8の構成を示す側面図である。図2は、断面図ではなく、側面図であるが、図面を分かりやすくするために、各部材ごとに、異なる色付け又はハッチングを施している。このことは、後述する図3〜図5においても同様である。また、図2において、かご1の昇降方向を「Y軸方向」と呼び、Y軸方向に対して垂直な方向を「X軸方向」および「Z軸方向」と呼ぶ。なお、「X軸方向」は、紙面の左右方向であり、「Z軸方向」は、紙面の奥行き方向である。このことは、後述する図3〜図5においても同様である。
図2において、取付け枠12は、かご1の側面に取付けられている。取付け枠12は、矩形の枠形状を有している。取付け枠12の内部には、ガイドロッド13が取付けられている。ガイドロッド13が取付けられている位置は、取付け枠12内の中央よりも下方の位置である。ガイドロッド13は、棒状の形状を有し、X軸方向に延設されている。
取付け枠12の内部には可動部14が設けられている。可動部14の下部には、1以上の突起部が設けられている。可動部14の突起部には、ガイドロッド13が貫通している。これによって、可動部14は、ガイドロッド13に沿って、取付け枠12に対して、摺動可能となっている。即ち、可動部14は、X軸方向に、変位可能となっている。これにより、可動部14は、かご1及びガイドレール5に対して、垂直方向つまりX軸方向に変位する。
可動部14には、受け側摺動部15及び回動摺動部16が取付けられている。受け側摺動部15及び回動摺動部16は、X軸方向において、ガイドレール5を挟んで、互いに対向している。即ち、ガイドレール5は、受け側摺動部15と回動摺動部16との間に配置されている。受け側摺動部15及び回動摺動部16は、可動部14とともに、X軸方向に変位される。そして、受け側摺動部15及び回動摺動部16は、取付け枠12に対する可動部14の変位に応じて、ガイドレール5に対してそれぞれ接離可能となっている。
受け側摺動部15は、ガイドレール5と接触する面に制動シュー17が取付けられている。回動摺動部16には、上部制動シュー18及び下部制動シュー19が取付けられている。
受け側摺動部15は、可動部14に固設されている。受け側摺動部15は、可動部14と別の部材で構成してもよいが、受け側摺動部15を可動部14と一体成型してもよい。
一方、回動摺動部16は、可動部14に対して、回動可能に取付けられている。以下に、その構造について説明する。
回動摺動部16は、可動部14に、モータ20を介して、取付けられている。モータ20は、第一の駆動部である。モータ20の回転軸は、Z軸方向に配置され、可動部14と回動摺動部16とに取付けられている。回動摺動部16は、モータ20の回転軸を中心にして、上下両方向に回動可能となっている。モータ20に通電することで、回動摺動部16を回動させる回転トルクが発生する。一方、モータ20の電源遮断時には、回転トルクが消失して、回動摺動部16は回動自由となる。
回動摺動部16の外周部は、大きく分けて、3つの辺から構成されている。そのうちの1つの辺は、曲線であり、他の2つの辺は、直線である。回動摺動部16の曲線状の外周部は、ガイドレール5側に配置されている。回動摺動部16の当該曲線状の外周部は、ガイドレール5が接触可能な接触面を構成している。接触面は、基準となる水平角度における、中央接触面から、上下それぞれの方向への回転角の増加に伴い、回転軸からの曲率半径が大きくなるように形成されている。上部制動シュー18は、接触面の上端に配置され、下部制動シュー19は接触面の下端に配置されている。
また、取付け枠12の内部には、第二の駆動部が設けられている。第二の駆動部は、例えば、電磁石21と付勢ばね22とから構成される。電磁石21の下部には、突起部が設けられている。電磁石21には、ガイドロッド13が貫通している。電磁石21は、ガイドロッド13に沿って、取付け枠12に対して摺動可能となっている。付勢ばね22は、可動部14と電磁石21との間に設置され、可動部14と電磁石21とを離す力を与える。電磁石21は、電流を流すことで、電磁力によって、可動部14を付勢ばね22の付勢力に逆らって吸引する。一方、電磁石21への給電を停止し、電磁石21の電磁力を停止させると、電磁石21は付勢ばね22の付勢力により、電磁石21が可動部14から離れる方向に移動する。
本実施の形態では、可動部14と電磁石21と付勢ばね22の構成を例に説明しているが、これに限定するわけではなく、可動部14と分割可動部と付勢ばね22の構成としてもよい。本実施の形態では、電磁石21が分割可動部に相当する。分割可動部は可動部14と接続及び分離可能に設けられており、付勢ばね22の付勢力によって可動部14と分割可動部とは分離される。このような構成において、電磁石は必ずしも分割可動部に設けられる必要はなく、電磁石が可動部14に設けられていても良い。そして、電磁石への電源通電時には、電磁力によって、分割可動部は、付勢ばね22の付勢力に逆らって、可動部14に向かって吸引される。
制動解除状態における可動部14の位置を保つための位置調整部として、位置調整ばね23が、電磁石21と取付け枠12との間に配置される。取付け枠12は、かご1の側面に取付けられているため、位置調整ばね23は電磁石21とかご1との間に作用する力となる。そのため、位置調整ばね23は電磁石21とかご1との間に直接配置されてもよい。位置調整ばね23は、付勢ばね22に対し、十分に小さい付勢力に設計される。尚、ここでは、位置調整部として、位置調整ばね23を使用しているが、これに限定されるわけではなく、ゴムなどの復元力が得られる機構を用いることもできる。また、ここでは、位置調整ばね23を、取付け枠12と電磁石21との間に配置しているが、取付け枠12と可動部14との間に配置してもよい。
取付け枠12には、電磁石21の位置決めを行うための位置決め機構(符号24,25参照)が取付けられている。位置決め機構は、電磁石21と取付け枠12との間に配置されている。電磁石21が付勢ばね22の付勢力により可動部14から離された時に、位置決め機構は、取付け枠12に対する、電磁石21のX軸方向の位置を調整する。なお、図2に示す例では、位置決め機構は、位置調整ボルト24とプレート25によって構成されている。プレート25は、取付け枠12の内部に配置されている。プレート25は、平板状の形状を有している。プレート25の一方の主面は、電磁石21に対向している。プレート25は、位置調整ボルト24により、取付け枠12に固定されている。電磁石21が可動部14から離れる方向に移動したとき、電磁石21はプレート25に当接して停止する。尚、プレート25の電磁石21側の主面に、ゴムなどの緩衝材を取付けることで、電磁石21がプレート25に衝突するときの衝撃を低減することができる。
以下では、本発明の実施の形態1によるブレーキ装置8の動作を説明する。ブレーキ装置8の動作としては、各階に停止している状態のかご1を静止保持しておく通常動作とエレベータに異常が発生した時にかご1を制動する非常動作がある。
まずは、ブレーキ装置8の通常動作に関して説明する。通常動作時において、エレベータ制御装置6の制御により、かご1は巻上機2によって各階の停止位置に停止される。その後、エレベータ制御装置6の制動指令部7から、ブレーキ制御装置9の制御部10に対して、かご1を保持させるための保持指令が出力される。制御部10は、保持指令を受取ると、負荷検出部11からかご1の負荷の大きさを取得する。次に、制御部10は、かご1の負荷の大きさに応じて、モータ20に通電し、回動摺動部16に回転トルクを発生させ、回動摺動部16を上方向または下方向に回動させる。
負荷検出部11としては、かご1内の負荷を秤装置のようなもので計測しても良いし、巻上機2のモータによってかご1を静止保持するために必要なモータトルクをモータ電流から推定し、釣合おもり4の重量からかご1の負荷を推定してもよい。
ここでは、かご1の負荷が、釣合おもり4による負荷よりも大きい場合を例にして、本実施の形態1のブレーキ装置8の通常動作の動きを説明する。
図3は、回動摺動部16を、モータ20で、上方向に回動させた時のブレーキ装置8を示している。負荷検出部11で検出されたかご1の負荷が、釣合おもり4による負荷よりも大きいとき、つまり、巻上機2によるモータトルクがなければ、かご1が下方向に下がってしまう場合には、制御部10は、回動摺動部16を上方向に回動させるようモータ20に指令を出す。ここでの「上方向」とは、図3の矢印の向きを意味する。すなわち、モータ20の回転軸を中心とする時計回りの方向を意味する。尚、ここでは、かご1が下方向に下がってしまう場合を例に説明しているが、逆に、かご1が上に上がっていく場合は、制御部10は回動摺動部16を下方向に回動させるようモータ20に指令を出す。すなわち、その場合は、モータ20の回転軸を中心とする反時計回りの方向に回動摺動部16を回動させる。
回動摺動部16が上方向に回動されるにつれ、上述した回動摺動部16の形状に起因して、回動摺動部16とガイドレール5との間の隙間が小さくなり、回動摺動部16はガイドレール5に接触する。その後、更に、回動摺動部16が回動すると、それに伴って、受け側摺動部15がガイドレール5に近づく方向に可動部14が変位される。そして、制動シュー17がガイドレール5と接触すると、ガイドレール5は制動シュー17と下部制動シュー19との間で把持される。
ガイドレール5が把持されると、制御部10は、電磁石21の電磁力を停止させる。図4は、ガイドレール5の把持後に、電磁石21の電磁力を停止させた時のブレーキ装置8を示している。電磁石21の電磁力が消えると、電磁石21は、図4の矢印で示されるように、付勢ばね22の付勢力により、可動部14から離れる方向に変位し、プレート25に接触し停止する。ガイドレール5を把持した後、電磁石21を停止させることで、エネルギー消費を抑えることができる。
ガイドレール5を把持後、巻上機2のモータトルクを停止させる。モータトルクを停止させると、かご1には、かご1による負荷から釣合おもり4による負荷を差し引いた値の負荷が下方向に作用する。この負荷によって回動摺動部16を更に回動させようとするトルクが作用する。かご1と釣合いおもり4の負荷との差分によるトルクによって自己倍力作用が働き、ガイドレール5に作用する制動力が増大する。そのため、モータ20で印加するトルクを低減でき、小型で軽量なモータでも高い制動力を発生させることができる。
最後に、巻上機2のモータトルクを停止させると、かご1の静止保持が完了するため、エレベータ制御装置6は、かご1のかごドアを開放する。これにより、乗客の乗り降りが行われる。乗客の乗り降りによって、かご1の負荷が変化するため、かご1の負荷と釣合いおもり4の負荷との差分の正負が反転する場合がある。かご1の負荷よりも釣合いおもり4の負荷の方が大きくなると、かご1は上方向に移動しようとする。これに伴い、かご1の負荷と釣合いおもり4の負荷との差分によって、回動摺動部16に働くトルクは回動摺動部16を下方向に回転させる向きに働くことになる。制御部10は、乗客の乗り降りの途中も負荷検出部11から検出されるかご1の負荷情報を監視し、かご1の負荷が変動し、かご1の負荷と釣合いおもり4の負荷との差分が作用する方向が反転した場合は、モータ20のトルクを反転させ、回動摺動部16を反対側に回動させる。乗客の乗り降り中において、負荷検出部11はかご1内の負荷を秤装置のようなもので計測しても良いし、巻上機2のエンコーダを用いてかご1の負荷と釣合いおもり4の負荷の差分が作用する方向を検出するようにしてもよい。
乗客の乗り降りが完了すると、エレベータ制御装置6は、かご1のかごドアを閉じ、ブレーキ装置8の開放動作を行う。エレベータ制御装置6は、まず、ブレーキ装置8の開放動作前に、巻上機2に、かご1を静止保持するために必要なモータトルクを出力させる。次に、ブレーキ装置8の開放動作を行うようブレーキ制御装置9に対し指令を出す。ブレーキ制御装置9は、当該指示により、電磁石21に通電し、電磁石21の電磁力によって、電磁石21を可動部14に吸着させる。電磁石21を可動部14に吸引するために必要な電磁力の大きさは、ブレーキ装置8が動作した状態での電磁石21と可動部14との間のギャップによって変化する。ブレーキ装置8が動作した状態での電磁石21と可動部14との間のギャップは、位置決め機構の位置調整ボルト24によって調整可能であり、このギャップを小さく調整することで、電磁石21を吸引するのに必要な電磁力を小さくできるため、電磁石21を小さくできる。
電磁石21の電磁力によって、電磁石21を可動部14に吸着させた後は、ブレーキ制御装置9は、モータ20のモータトルクによって、回動摺動部16を初期の水平角度に戻す。すなわち、図2に示す状態になるように、回動摺動部16の中央接触面が、ガイドレール5に対向する位置になるように、回動摺動部16を回動させる。回動摺動部16の角度が水平に戻るにつれ、可動部14は位置調整ばね23により初期位置へ戻っていく。これによって、受け側摺動部15がガイドレール5から離れる方向に変位し、制動シュー17がガイドレール5から離れ、ガイドレール5の把持が解除される。
以上が、本実施の形態1のブレーキ装置8の通常動作の動きである。
次に、ブレーキ装置8の非常動作に関して説明を行う。ここでは、かご1の下降中に、何等かの異常が発生し、ブレーキ装置8の非常動作を行う場合を例に説明を行う。図5は、かご1が下降中に非常動作を実施した場合のブレーキ装置8を示している。
エレベータに何等かの異常が発生すると、制動指令部7は、制御部10に、制動指令を出力する。このときは、図2の状態である。制御部10は、制動指令を受取ると、電磁石21の電流を遮断し、電磁力を停止させる。電磁石21の電磁力が遮断されると、付勢ばね22によって、可動部14と電磁石21とが離間され、電磁石21がプレート25と接触するとともに、回動摺動部16がガイドレール5と接触する。接触した時点においては、回動摺動部16はまだ回動しておらず、初期の水平角度の状態である。
電磁石21の電流遮断時に可動部14と電磁石21とを離間させ、回動摺動部16をガイドレール5と接触させる必要がある。そのため、電磁石21が、位置決め機構であるプレート25に接触し停止しているときの位置調整ばね23の付勢力は、電磁石21の電流を遮断し、回動摺動部16がガイドレール5と接触した状態において可動部14と電磁石21との間に作用する付勢ばね22による付勢力よりも小さくなるように設定されている。
こうして、かご1の下降中に、回動摺動部16がガイドレール5と接触すると、かご1の移動に伴い、回動摺動部16はガイドレール5との摩擦力によって引かれて上方向へ回動させられる。すなわち、時計回りに回動させられる。回動摺動部16の上方向への回動に伴い、可動部14は、受け側摺動部15がガイドレール5に近づく方向に、X軸方向に変位する。そして、制動シュー17がガイドレール5と接触すると、ガイドレール5は制動シュー17と下部制動シュー19との間で把持される。これによってかご1に制動力が作用し、かご1が静止状態へと減速させられる。
尚、かご1が上昇中に回動摺動部16がガイドレール5と接触すると、かご1の移動に伴い、回動摺動部16は下方向へ、すなわち、反時計回りに回動させられる。
非常動作時においても、かご1の移動により生じる回動摺動部16を回動させようとするトルクにより自己倍力作用が働き、かご1に対し高い制動力を発生させることができる。
このように、通常動作用の回動摺動部16を直接動作できる第一の駆動部としてのモータ20を有することで、通常動作時において、かご1の移動がなくとも、自己倍力作用による高い制動力を実現できる。つまり、各階に停止したかご1の沈み込みを防ぎつつ、高い制動力を実現できる。更に、第一の駆動部とは別に、電源遮断によりブレーキ装置8を動作可能な第二の駆動部(電磁石21と付勢ばね22)を有することで、エレベータに異常が発生した場合も、確実に、かご1を制動させることができる。また、上下どちらの方向に対しても、回転角の増加に伴い、回転軸からの曲率半径が大きくなる回動摺動部16を用いることにより、上下どちらの方向でも自己倍力作用による高い制動力が得られるため、ブレーキ装置8の小型化を図ることができる。
また、位置決め機構によってブレーキ装置8の動作時の可動部14と電磁石21との間のギャップが小さくなるように調整できるため、電磁石21を小さくでき、ブレーキ装置8の小型化を図ることができる。
また、負荷検出部11によりかご1の負荷を検出し、検出された負荷の大きさによって回動摺動部16の回動方向を変更することで、乗客乗り込み時のかご1の沈み込みも防ぐことができる。
以上のように、本実施の形態に係るエレベータ制動装置は、対象となる制動面としてのガイドレール5に対して、垂直な方向に変位可能な可動部14と、可動部14に対して回動可能に設けられ、基準となる水平角度から、予め設定された回転角度だけ回動したときに、制動面に接触するように配置された回動摺動部16と、回動摺動部16を回動させる第一の駆動部としてのモータ20と、電源遮断時には回動摺動部16が制動面に接触する方向へ変位するように可動部14を変位させ、通電時には、水平角度の状態における回動摺動部16が制動面に接触しない位置になるように可動部14を保持する第二の駆動部としての電磁石21と付勢ばね22とを備えている。本実施の形態に係るエレベータ制動装置は、通常の動作時においては、第一の駆動部によって回動摺動部16を回動させることによって、回動摺動部16と制動面とを接触させて、制動面を保持する。また、非常時には、第二の駆動部の電磁石21を電源遮断することによって、回動摺動部16を制動面に接触させて、制動面の制動を行う。これにより、通常時は、かご1の移動なしでも自己倍力作用を得られるともに、異常時も確実に制動を得られる。
また、回動摺動部16は、水平角度からの両方向において、水平角度からの回転角の増加に伴い曲率半径が大きくなるように構成されているので、通常動作においては、基準となる水平角度から予め設定された回転角度だけ回動したときに制動面に接触し、水平角度の状態においては、制動面に接触しないようにすることができる。
また、第一の駆動部は、通電時に回動摺動部16を回動させる回転トルクを発生させ、電源遮断時には回転トルクが消失するように構成されている。また、第二の駆動部は、付勢力によって、回動摺動部16が制動面に接触する方向に向かって可動部14を変位させる付勢ばね22と、通電によって付勢ばね22の付勢力に逆らって可動部14を吸引する電磁石21とを有している。これにより、異常時に電源遮断により確実に制動が得られる。
また、第二の駆動部の電源遮断時に、付勢力によって、可動部の位置を保持する位置調整部としての位置調整ばね23と、電磁石21の電源遮断時に電磁石21の位置を保持する位置決め機構としての位置調整ボルト24とプレート25とを更に備えている。また、位置調整部である位置調整ばね23の付勢力は、付勢ばね22の付勢力よりも小さい。これにより、位置調整部により、制動解除時に制動面と回動摺動部16の間に隙間を生成できるため、引きずり運転を回避できる。また、位置調整部によって電磁石21に必要な電磁力を抑えられるため、電磁石21を小型化できる。
かご1の負荷を検出する負荷検出部11を更に備え、第一の駆動部は、負荷検出部11によって検出されるかご1の負荷に応じて、回動摺動部16の回動を制御する。これにより、かご1内の負荷に応じて変化するアンバランストルクによるかご1の移動方向を検出して適切な方向に回動摺動部16を回動することができる。また、自己倍力作用が常に得られるようになる。
実施の形態2.
上記の実施の形態1では、エレベータ制動装置がかご1に配置された場合に関して説明したが、これに限定されるものではなく、図6に示すように、エレベータ制動装置を巻上機2に配置してもよい。
図6は、本発明の実施の形態2に係るエレベータ制動装置が設けられた、エレベータシステム全体の構成を示す構成図である。本実施の形態においては、図6に示すように、エレベータ制動装置を巻上機2に配置しており、この点が、上記の実施の形態1と異なる。尚、前述の実施の形態1と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または、同一符号の後に「a」を付して示し、ここでは詳述を省略する。
図6において、巻上機2において、シーブとモータとを結合する軸上に、ブレーキドラム26(図7参照)が設置されている。ブレーキドラムは、一般的に、巻上機2で使用される部材である。本実施の形態においては、巻上機2に、一対のブレーキ装置8aが搭載されている。ブレーキ装置8aは、ブレーキドラム26を用いて、かご1の保持及び制動を行うエレベータ制動装置である。すなわち、本実施の形態においては、ブレーキドラム26が、対象となる制動面を構成している。すなわち、ブレーキドラム26をブレーキ装置8aで把持することで、かご1の保持及び制動を行う。
図7は、図6のブレーキ装置8aを示す構成図である。図7は、断面図ではなく、側面図であるが、図面を分かりやすくするために、各部材ごとに、異なる色付け又はハッチングを施している。また、図7において、かご1の昇降方向を「Y軸方向」と呼び、Y軸方向に対して垂直な方向を「X軸方向」および「Z軸方向」と呼ぶ。なお、「X軸方向」は、紙面の左右方向であり、「Z軸方向」は、紙面の奥行き方向である。また、図7においては、取付け枠12を図示していないが、実際には、本実施の形態においても、実施の形態1と同様に、取付け枠12は設けられている。
図7において、ガイドロッド13aは、制動面であるブレーキドラム26に対して、垂直に配置されている。すなわち、ブレーキドラム26の制動面がY軸方向に配置され、ガイドロッド13aがX軸方向に配置されている。可動部14aの下方には、突起部が設けられている。可動部14aの突起部には、ガイドロッド13aが貫通するように設けられている。これによって、可動部14aは、ガイドロッド13aに沿って、X軸方向に摺動可能となっている。即ち、可動部14aは、ブレーキドラム26に対して、垂直方向つまりX軸方向に、変位可能となっている。
可動部14aには、回動摺動部16aが設けられている。回動摺動部16aは、可動部14aの変位に伴って、X軸方向に変位し、ブレーキドラム26に接離可能となっている。
回動摺動部16aには、上部制動シュー18aおよび下部制動シュー19aが取付けられている。回動摺動部16aの形状は、前述の実施の形態1で示した回動摺動部16と同じである。
回動摺動部16aは、可動部14aに、モータ20aを介して取付けられている。モータ20aは、第一の駆動部である。モータ20aの回転軸は、可動部14および回動摺動部16aに取付けられている。モータ20aの回転軸は、Z軸方向に配置されている。モータ20aの回転軸には、回動摺動部16aが取付けられている。回動摺動部16aは、モータ20aの回転軸を中心にして、上下両方向に回動可能となっている。モータ20aに通電することで回動摺動部16aを回動させる回転トルクが発生する。一方、電源遮断時には、回転トルクが消失して、回動摺動部16aは回動自由となる。
回動摺動部16aのブレーキドラム26側の外周部は、ブレーキドラム26が接触可能な接触面を構成している。接触面は中央接触面からそれぞれの方向への回転角の増加に伴い、回転軸からの曲率半径が大きくなるように形成されている。上部制動シュー18aは接触面の一方の端に配置され、下部制動シュー19aは接触面のもう一方の端に配置されている。
また、第二の駆動部として、電磁石21aと付勢ばね22aとが設けられている。電磁石21aの下方には、突起部が設けられている。電磁石21aの突起部には、ガイドロッド13aが貫通している。電磁石21aは、ガイドロッド13aに沿って、取付け枠12に対して、X軸方向に摺動可能となっている。付勢ばね22aは、可動部14aと電磁石21aとの間に設置され、可動部14aと電磁石21aとを離す力を与える。電磁石21aは、電流を流すことで、電磁力によって、可動部14aを付勢ばね22aの付勢力に逆らって吸引する。一方、電磁石21への給電を停止し、電磁石21の電磁力を停止させると、電磁石21は付勢ばね22の付勢力により、電磁石21が可動部14から離れる方向に移動する。尚、付勢ばね22aの替わりにゴムを使用してもよい。
以下では、本発明の実施の形態2によるブレーキ装置8aの動作を説明する。まずは、ブレーキ装置8aの通常動作に関して説明する。巻上機2によってかご1が各階の停止位置に停止された後、エレベータ制御装置6の制動指令部7から、ブレーキ制御装置9の制御部10に対して、保持指令が出力される。制御部10は保持指令を受取ると、負荷検出部11から、かご1の負荷の大きさを取得し、かご1の負荷に応じてモータ20aに通電し、回動摺動部16aに回転トルクを発生させ、回動摺動部16aを回動させる。このときの回動摺動部16aの回動方向は、かご1による負荷とおもり4による負荷の差分によって巻上機2に作用するトルクに対し逆方向となる。
回動摺動部16aが、回動されるにつれ、回動摺動部16aとブレーキドラム26との間の隙間が小さくなり、回動摺動部16aに取付けられた上部制動シュー18aまたは下部制動シュー19aがブレーキドラム26に接触する。このとき、上部制動シュー18aか下部制動シュー19aのどちらがブレーキドラム26と接触するかは、回動摺動部16aの回転方向によって決まる。上部制動シュー18aまたは下部制動シュー19aがブレーキドラム26と接触すると、制動力が発生し、ブレーキドラム26が保持される。
ブレーキドラム26を保持すると、エレベータ制御装置6は、巻上機2のモータトルクを停止させる。モータトルクを停止させると、かご1には、かご1の負荷から釣合いおもり4の負荷を差し引いた負荷が巻上機2に作用する。この負荷によって回動摺動部16を更に回動させようとするトルクが作用する。かご1の負荷と釣合いおもり4の負荷との差分によるトルクによって、自己倍力作用が働き、ブレーキドラム26に作用する制動力が増大する。そのため、モータ20で印加するトルクを低減でき、小型で軽量なモータでも高い制動力を発生させることができる。
ブレーキドラム26が保持されると、制御部10は、電磁石21aの電磁力を停止させる。電磁石21aを停止させることでエネルギー消費を抑えることができる。
巻上機2のモータトルクを停止させると、かご1の静止保持が完了するため、かご1はかごドアを開放し、乗客の乗り降りが行われる。
乗客の乗り降りが完了すると、かご1のドアを閉じ、ブレーキ装置8の開放動作を行う。まず、エレベータ制御装置6が、ブレーキ装置8の開放動作前に、巻上機2に、かご1を静止保持するために必要なモータトルクを出力させる。そして、ブレーキ制御装置9の制御部10が、電磁石21aの電磁力によって電磁石21aを可動部14aに吸着させる。
そして、ブレーキ制御装置9の制御部10が、モータ20aのモータトルクによって回動摺動部16aを初期の角度に戻す。回動摺動部16aの角度が戻ると、上部制動シュー18aまたは下部制動シュー19aがブレーキドラム26から離れブレーキドラム26の保持が解除される。
次に、ブレーキ装置8の非常動作に関して説明を行う。かご1が走行中に、エレベータに何等かの異常が発生すると、制動指令部7は、制御部10に制動指令を出力する。制御部10は制動指令を受取ると、電磁石21aの電流を遮断し、電磁力を停止させる。電磁石21aの電磁力が遮断されると、付勢ばね22aによって、可動部14aと電磁石21aとが離間され、回動摺動部16aがブレーキドラム26と接触する。
かご1が走行中に、回動摺動部16aがブレーキドラム26と接触すると、かご1の移動に伴い、回動摺動部16aはブレーキドラム26との摩擦力によって回動させられる。回動摺動部16aの回動に伴い、可動部14aは、電磁石21aに近づく方向に変位する。そして、ブレーキドラム26と上部制動シュー18aまたは下部制動シュー19aが接触すると、ブレーキドラム26は上部制動シュー18aまたは下部制動シュー19aによって制動される。これによって、かご1に制動力が作用し、かご1が静止状態へと減速させられる。
非常動作時においても、かご1の移動により生じる回動摺動部16aを回動させようとするトルクにより自己倍力作用が働き、かご1に対し高い制動力を発生させることができる。
このように、エレベータ制動装置を巻上機2に配置しても、通常動作時において、かご1の移動がなくとも、自己倍力作用による高い制動力を実現できるとともに、エレベータに異常が発生した場合も、確実に、かご1を制動させることができる。
以上のように、本実施の形態に係るエレベータ制動装置は、対象となる制動面としてのブレーキドラム26に対して、垂直な方向に変位可能な可動部14aと、可動部14aに対して回動可能に設けられ、基準となる水平角度から、予め設定された回転角度だけ回動したときに、制動面に接触するように配置された回動摺動部16aと、回動摺動部16aを回動させる第一の駆動部としてのモータ20aと、電源遮断時には回動摺動部16が制動面に接触する方向へ変位するように可動部14aを変位させ、通電時には、水平角度の状態における回動摺動部16aが制動面に接触しない位置になるように可動部14aを保持する第二の駆動部としての電磁石21aと付勢ばね22aとを備えている。本実施の形態に係るエレベータ制動装置は、通常の動作時においては、第一の駆動部によって回動摺動部16aを回動させることによって、回動摺動部16aと制動面とを接触させて、制動面を保持する。また、非常時には、第二の駆動部の電磁石21aを電源遮断することによって、回動摺動部16aを制動面に接触させて、制動面の制動を行う。これにより、通常時は、かご1の移動なしでも自己倍力作用を得られるともに、異常時も確実に制動を得られる。
また、回動摺動部16aは、実施の形態1と同様に、水平角度からの両方向において、水平角度からの回転角の増加に伴い曲率半径が大きくなるように構成されているので、通常動作においては、基準となる水平角度から予め設定された回転角度だけ回動したときに制動面に接触し、水平角度の状態においては、制動面に接触しないようにすることができる。
また、第一の駆動部であるモータ20aは、通電時に回動摺動部16aを回動させる回転トルクを発生させ、電源遮断時には回転トルクが消失するように構成されている。また、第二の駆動部は、付勢力によって、回動摺動部16aが制動面に接触する方向に向かって可動部14aを変位させる付勢ばね22aと、通電によって付勢ばね22aの付勢力に逆らって可動部14aを吸引する電磁石21aとを有している。これにより、異常時に電源遮断により確実に制動が得られる。
また、実施の形態1と同様に、かご1の負荷を検出する負荷検出部11を更に備え、第一の駆動部は、負荷検出部11によって検出されるかご1の負荷に応じて、回動摺動部16の回動を制御する。これにより、かご1内の負荷に応じて変化するアンバランストルクによるかご1の移動方向を検出して適切な方向に回動摺動部16を回動することができる。また、自己倍力作用が常に得られるようになる。
実施の形態3.
上記実施の形態1では、可動部14に回動摺動部16が一つ配置された場合に関して説明したが、これに限定されるものではなく、図8に示すように、可動部14に、回動摺動部16を補助する補助回動摺動部28bを配置しても良い。
図8は、本発明の実施の形態3に係るエレベータ制動装置のブレーキ装置8bを示す構成図である。本実施の形態においては、図8に示すように、可動部14bに回動摺動部16bを補助する補助回動摺動部28bが配置されており、この点が、上述の実施の形態1と異なる。尚、前述の実施の形態1と同様のものについては前述と同一符号を付して、または、同一符号の後に「b」を付して示し、ここでは詳述を省略する。
また、図8において、かご1の昇降方向を「Y軸方向」と呼び、Y軸方向に対して垂直な方向を「X軸方向」および「Z軸方向」と呼ぶ。尚、「X軸方向」は、紙面の左右方向であり、「Z軸方向」は、紙面の奥行き方向である。
図8において、取付け枠12bの内部に可動部14bが設けられている。そして、可動部14bには、受け側摺動部15b、回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bが取付けられている。回動摺動部16bと同様に、補助回動摺動部28bは、X軸方向において、ガイドレール5を挟んで、受け側摺動部15bと対向している。即ち、ガイドレール5が、受け側摺動部15bと補助回動摺動部28bとの間に配置されている。補助回動摺動部28b、受け側摺動部15bおよび回動摺動部16bは、可動部14bとともに、X軸方向に変位される。そして、補助回動摺動部28b、受け側摺動部15bおよび回動摺動部16bは、取付け枠12bに対する可動部14bの変位に応じて、ガイドレール5に対してそれぞれ接離可能となっている。
補助回動摺動部28bは可動部14bに対して、回動可能に取付けられている。以下に、その構造について説明する。
補助回動摺動部28bには、上部制動シュー29bおよび下部制動シュー30bが取付けられている。補助回動摺動部28bは、可動部14bに、モータ31bを介して取付けられている。回動摺動部16bに取付けられたモータ20bおよび補助回動摺動部28bに取付けられたモータ31bが、第一の駆動部となる。モータ31bの回転軸は、Z軸方向に配置され、可動部14bと補助回動摺動部28bとに取付けられている。補助回動摺動部28bは、モータ31bの回転軸を中心にして、上下両方向に回動可能となっている。モータ31bに通電することで、補助回動摺動部28bを回動させる回転トルクが発生する。一方、モータ31bの電源遮断時には、回転トルクが消失して、補助回動摺動部28bは回動自由となる。
補助回動摺動部28bの外周部は、大きく分けて、3つの辺から構成されている。そのうちの1つの辺は、曲線であり、他の2つの辺は、直線である。補助回動摺動部28bの曲線状の外周部は、ガイドレール5側に配置されている。補助回動摺動部28bの当該曲線状の外周部は、ガイドレール5が接触可能な接触面を構成している。接触面は、基準となる水平角度における中央接触面から、上下それぞれの方向への回転角の増加に伴い、回転軸からの曲率半径が大きくなるように形成されている。上部制動シュー29bは、接触面の上端に配置され、下部制動シュー30bは接触面の下端に配置されている。
補助回動摺動部28bは、回動摺動部16bの機能を補助するもののため、補助回動摺動部28bの外形は回動摺動部16bよりも小さい。また、補助回動摺動部28bを回動させるモータ31bは、回動摺動部16bを回動させるモータ20bよりも小型のものが取付けられている。
以下では、本発明の実施の形態3によるブレーキ装置8bの動作を説明する。まずは、ブレーキ装置8bの通常動作に関して説明する。巻上機2によってかご1が各階の停止位置に停止された後、エレベータ制御装置6の制動指令部7から、ブレーキ制御装置9の制御部10に対して、保持指令が出力される。制御部10は保持指令を受取ると、負荷検出部11から、かご1の負荷の大きさを取得し、かご1の負荷に応じてモータ20bに通電し、回動摺動部16bに回転トルクを発生させ、回動摺動部16bを上方向または下方向に回動させる。同時に制御部10は、かご1の負荷に応じてモータ31bにも通電し、補助回動摺動部28bに回転トルクを発生させ、補助回動摺動部28bを上方向または下方向に回動させる。
このときの回動摺動部16bの回動方向は、かご1による負荷とおもり4による負荷の差分によってかごに作用する力に対し逆方向となる。一方、補助回動摺動部28bの回動方向は、かご1による負荷とおもり4による負荷の差分によってかごに作用する力と同じ方向となる。つまり、かご1の負荷が、釣合おもり4による負荷よりも大きい場合を考えると、かご1には下方向の力が作用する。この場合は、回動摺動部16bの回動方向は上方向であり、補助回動摺動部28bの回動方向は下方向となる。
図9は、回動摺動部16bを、上方向に回動させた時のブレーキ装置8bを示している。ここでの「上方向」とは、モータ20bの回転軸を中心とする時計回りの方向を意味する。
回動摺動部16bが、回動されるにつれ、回動摺動部16bとガイドレール5との間の隙間が小さくなり、回動摺動部16bはガイドレール5に接触する。その後、更に回動摺動部16bが回動すると、それに伴って、受け側摺動部15bがガイドレール5に近付く方向に可動部14bが変位される。そして、制動シュー17bがガイドレール5と接触すると、ガイドレール5は制動シュー17bと上部制動シュー18bとの間、または制動シュー17bと下部制動シュー19bとの間で把持される。
このとき、同時に補助回動摺動部28bは回動摺動部16bと逆方向に回動される。補助回動摺動部28bも、回動されるにつれ、補助回動摺動部28bとガイドレール5との間の隙間が小さくなり、補助回動摺動部28bもガイドレール5に接触する。補助回動摺動部28bは、可動部14bの変位に合わせて、ガイドレール5との接触を維持するように回動させる。例えば、回動摺動部16bに発生させた回転トルクよりも小さい回転トルクで補助回動摺動部28bを回動させることで、可動部14bの変位を妨げることなく、ガイドレール5との接触を維持させることができる。そして、制動シュー17bがガイドレール5と接触すると、上部制動シュー29bまたは下部制動シュー30bがガイドレール5と接触する。
ガイドレール5を把持後、巻上機2からのモータトルクの発生を停止させる。モータトルクの発生を停止させると、かご1には、かご1による負荷と釣合おもりの負荷との差分による負荷が作用する。この負荷によって、回動摺動部16bを更に回動させようとするトルクが作用する。かご1の負荷と釣合おもりの負荷との差分によるトルクによって自己倍力作用が働き、ガイドレール5に作用する制動力が増大させることができる。
巻上機2からのモータトルクの発生を停止させ、かご1の静止保持が完了すると、かご1はかごドアを開放し、乗客の乗り降りが行われる。乗客の乗り降りによって、かご1の負荷が変化するため、かご1の負荷と釣合おもり4の負荷との差分が作用する方向が反転する場合がある。乗客の乗り降りにより、かご1の負荷と釣合おもり4の負荷との差分の作用する方向が反転すると、かご1による負荷と釣合おもりの負荷との差分によって回動摺動部16bに作用するトルクは回動摺動部16bによる制動力を低減させる方向に作用することになる。一方、反転したかご1による負荷と釣合おもりの負荷との差分によって補助回動摺動部28bに作用するトルクは、補助回動摺動部28bを更に回動させる方向作用する。補助回動摺動部28bには自己倍力作用が働き、ガイドレール5に作用する制動力を増大させることができる。そのため、制御部10は、乗客の乗り降り中も負荷検出部11から検出されるかご1の負荷情報を監視し、かご1の負荷と釣合おもり4の負荷との差分が作用する方向が反転した場合は、モータ31bのトルクを増大させ、補助回動摺動部28bによる制動力を増大させる。かご1の負荷と釣合おもり4の負荷との差分が作用する方向が反転する前から補助回動摺動部28bはガイドレール5に接触した状態が維持されているため、かご1の負荷と釣合おもり4の負荷との差分が作用する方向が反転後から直ぐにガイドレール5を把持するための制動力を発生させられる。これによって、乗客の乗り降りによってかご1の負荷と釣合おもり4の負荷との差分が作用する方向が反転した場合においても、かご1の移動なしで、自己倍力作用よる高い制動力が実現できる。
このとき、回動摺動部16bはガイドレール5との接触状態を維持し、もう一度かご1の負荷と釣合おもり4の負荷との差分が作用する方向が反転した場合に備えてもよいし、回動方向を反転させて、補助回動摺動部28bと同じ方向に制動力を発生させ、ガイドレール5に作用する制動力を増加させてもよい。
乗客の乗り降りが完了すると、エレベータ制御装置6は、かご1のドアを閉じ、ブレーキ装置8bの開放動作を行う。まず、エレベータ制御装置6が、ブレーキ装置8bの開放動作前に、巻上機2に、かご1を静止保持するために必要なモータトルクを出力させる。そして、ブレーキ制御装置9の制御部10が、モータ20bのモータトルクによって回動摺動部16bを初期の角度に戻す。同時に、制御部10は、モータ31bのモータトルクによって補助回動摺動部28bも初期の角度に戻す。回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bの角度が戻ると、位置調整ばね23bの付勢力によって回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bがガイドレール5から離れ、ガイドレール5の把持が解除される。
次に、ブレーキ装置8bの非常動作に関して説明を行う。かご1が走行中に、エレベータに何等からの異常が発生すると、制動指令部7は、制御部10に制動指令を出力する。制御部10は制御指令を受取ると、電磁石21bの電流を遮断し、電磁力を停止させる。電磁石21bの電磁力が遮断されると、付勢ばね22bによって、可動部14bと電磁石21bとが離間され、回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bがガイドレール5と接触する。
かご1が走行中に、回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bがガイドレール5と接触すると、かご1の移動に伴い、回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bはガイドレール5との摩擦力によって回動させられる。回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bの回動に伴い、可動部14bは、受け側摺動部15bがガイドレール5に近づく方向に変位する。そして、制動シュー17bがガイドレール5と接触すると、ガイドレール5は、制動シュー17bと上部制動シュー18bおよび上部制動シュー29bとの間、または、制動シュー17bと下部制動シュー19bおよび下部制動シュー30bとの間で把持される。これによって、かご1に制動力が作用し、かご1が静止状態へと減速させられる。
非常停止時においても、かご1の移動により生じる回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bを回動させようとするトルクにより自己倍力作用が働き、かご1に対し高い制動力を発生させることができる。
尚、ここでは回動摺動部16bと補助回動摺動部28bとが同時にガイドレール5と接触する場合を説明したが、これに限定されるわけでなく、回動摺動部16bよりも補助回動摺動部28bがガイドレール5に対し離れた位置に配置されており、非常停止時に回動摺動部16bのみがガイドレール5と接触するようにしてもよい。逆に補助回動摺動部28bのみが非常停止時にガイドレール5と接触するように配置してもよい。
以上のように、本実施の形態に係るエレベータ制動装置は、補助回動摺動部28bを備え、通常動作時においては回動摺動部16bと反対方向に回動し、乗客乗り込み中にガイドレール5と上部制動シュー29bもしくは下部制動シュー30bとの接触状態を維持しておく。これによって、かご1の負荷と釣合おもりの負荷との差分が作用する方向が変わっても、接触している上部制動シュー29bもしくは下部制動シュー30bによって、直ぐにガイドレール5に対し制動力を作用させることができる。これにより、かご1の移動を防ぐことができる。
また、実施の形態1と同様に、通常の動作時においては、第一の駆動部であるモータ20bによって回動摺動部16bを回動させることによって、制動面を保持するため、通常時にかご1の移動なしでも自己倍力作用を得ることができる。
補助回動摺動部28bも、回動摺動部16bと同様に、上下どちらの方向に対しても、回転角の増加に伴い、回転軸からの曲率半径が大きくなる形状を用いることにより、上下どちらの方向でも自己倍力作用による高い制動力が得られるため、ブレーキ装置8bの小型化を図ることができる。
尚、本実施の形態においては、補助回動摺動部28bが回動摺動部16bよりも小さいとしたが、これに限定されるわけではなく、補助回動摺動部28bと回動摺動部16bが同じ大きさでもよい。
また、本実施の形態においては、回動摺動部16bおよび補助回動摺動部28bの基準を水平角度としているが、これに限定するわけでなく、水平角度から所定の角度傾いた角度を基準角度として設定してもよい。そして、設定した基準角度からの所定の回転角度だけ回動したときに制動面に接触し、基準角度の状態においては、制動面に接触しないようにしてもよい。
実施の形態4.
上記実施の形態1では、曲線状の外周部をもつ回動摺動部16の場合に関して説明したが、これに限定されるものではなく、図10に示すように、傾斜状の外周部を有する回動摺動部34cを配置しても良い。
図10は、本実施の形態4に係るエレベータ制動装置のブレーキ装置8cを示す構成図である。本実施の形態においては、図10に示すように、傾斜状の外周部を有する回動摺動部34cが配置されており、この点が、上述の実施の形態1と異なる。尚、前述の実施の形態1と同様のものについては前述と同一符号を付して、または、同一符号の後に「c」を付して示し、ここでは詳述を省略する。
また、図10において、かご1の昇降方向を「Y軸方向」と呼び、Y軸方向に対して垂直な方向を「X軸方向」および「Z軸方向」と呼ぶ。尚、「X軸方向」は、紙面の左右方向であり、「Z軸方向」は、紙面の奥行き方向である。
図10において、取付け枠12cの内部に可動部14cが設けられている。そして、可動部14cには、回動摺動部34cが取付けられている。回動摺動部34cは可動部14cとともに、X軸方向に変位される。そして、回動摺動部34cは、取付け枠12cに対する可動部14cの変位に応じて、ガイドレール5に対して接離可能となっている。
また、取付け枠12cの内部には受け側摺動部36cも設けられている。回動摺動部34cは、X軸方向において、ガイドレール5を挟んで、受け側摺動部36cと対向している。即ち、ガイドレール5が、回動摺動部34cと受け側摺動部36cとの間に配置されている。
受け側摺動部36cは、U字型形状を有している。受け側摺動部36cは、X軸方向に可動部14cの方向に向かって開口している。具体的には、受け側摺動部36cは、棒状の本体36ccと、本体36ccの両端からX軸方向に回動摺動部34cに向けて延びた突出部36caとから構成されている。受け側摺動部36cの本体36ccのガイドレール5と対向する面に、付勢ばね32cを介して、制動シュー17が取付けられている。
回動摺動部34cの先端部34ccの断面形状は、正三角形または二等辺三角形などの三角形を有している。先端部34ccの当該三角形の一辺、すなわち、先端部34ccの1つの面が、ガイドレール5に対して平行になるように、回動摺動部34cは配置されている。回動摺動部34cの先端部34ccの当該面に、制動シュー35cが取付けられている。
受け側摺動部36cの下部には、1以上の突起部36cbが設けられている。受け側摺動部36cの突起部36cbには、ガイドロッド13cが貫通している。これによって、受け側摺動部36cは、ガイドロッド13cに沿って、取付け枠12cに対して、摺動可能となっている。即ち、受け側摺動部36cは、X軸方向に、変位可能となっている。これにより、受け側摺動部36cは、かご1およびガイドレール5に対して、垂直方向つまりX軸方向に変位する。また、制動解除状態における受け側摺動部36cの位置を保つための位置調整部として、位置調整ばね33cが、受け側摺動部36cと取付け枠12cとの間に配置されている。
回動摺動部34cは可動部14cに対して、回動可能に取付けられている。
以下に、回動摺動部34cおよび受け側摺動部36cの構造について説明する。
回動摺動部34cは、可動部14cに、モータ20cを介して、取付けられている。モータ20cは、第一の駆動部である。モータ20cの回転軸は、Z軸方向に配置され、可動部14cと回動摺動部34cに取付けられている。回動摺動部34cは、モータ20cの回転軸を中心にして、上下両方向に回動可能となっている。モータ20cに通電することで、回動摺動部34cを回動させる回転トルクが発生する。一方、モータ20cの電源遮断時には、回転トルクが消失して、回動摺動部34cは回動自由となる。
上述したように、回動摺動部34cの先端部34ccのガイドレール5と接触する面には、制動シュー35cが配置されている。先端部34ccは、三角形の断面形状を有しているため、先端部34ccにおいて、制動シュー35cの取付けられている面の反対側は、上下方向の傾斜となっている。以下では、この部分を、先端部34ccの傾斜部と呼ぶこととする。回動摺動部34cの先端部34ccは、回動摺動部34cに対して回転自由となっている。
受け側摺動部36cは、上述したように、U字型形状を有しており、回動摺動部34cに向けて、2つの突出部36caが設けられている。回動摺動部34cのそれらの突出部36caは、ガイドレール5の裏側を通り、回動摺動部34cの先端部34ccの裏側まで伸びている。そして、それらの突出部36caの先端には、回動摺動部34cの先端部34ccの傾斜にそれぞれ対向するように、傾斜がつけられている。具体的には、上側に設けられた突出部36caの傾斜と、先端部34ccの傾斜部の上半分とが対向し、同様に、下側に設けられた突出部36caの傾斜と、先端部34ccの傾斜部の下半分とが対向する。このように、受け側摺動部36cの突出部36caも、回動摺動部34cの先端部34ccと同様に、上下方向両方に傾斜がある。以下では、これらの部分を、突出部36caの傾斜部と呼ぶこととする。
以下では、本発明の実施の形態4によるブレーキ装置8cの動作を説明する。まずは、ブレーキ装置8cの通常動作に関して説明する。巻上機2によってかご1が各階の停止位置に停止された後、エレベータ制御装置6の制動指令部7から、ブレーキ制御装置9の制御部10に対して、保持指令が出力される。制御部10は保持指令を受取ると、負荷検出部11から、かご1の負荷の大きさを取得し、かご1の負荷に応じてモータ20cに通電し、回動摺動部34cに回動トルクを発生させ、回動摺動部34cを上方向または下方向に回動させる。
このときの回動摺動部34cの回動方向は、かご1による負荷とおもり4による負荷との差分によってかごに作用する力に対し逆方向となる。つまり、かご1の負荷が、釣合おもり4による負荷よりも大きい場合を考えると、かご1には下方向の力が作用する。この場合は、回動摺動部34cの回動方向は上方向となる。
図11は、回動摺動部34cを、上方向に回動させた時のブレーキ装置8cを示している。ここでの「上方向」とは、モータ20cの回転軸を中心とする時計回りの方向を意味する。
回動摺動部34cが、回動されるにつれ、回動摺動部34cと受け側摺動部36cとの間の隙間が小さくなり、回動摺動部34cの先端部34ccの傾斜部は、回動摺動部34cの突出部36caの傾斜部に接触する。その後、更に、回動摺動部34cが回動すると、それに伴って、受け側摺動部36cがガイドレール5に近付く方向に変位される。そして、制動シュー17cがガイドレール5に接触し、付勢ばね32cを介してガイドレール5に押付けられる。そこから更に回動摺動部34cが回動すると、回動摺動部34cの先端部34ccの傾斜部が、受け側摺動部36cの突出部36caの傾斜部を伝いながら、回動摺動部34cが、ガイドレール5に近付く方向に変位される。このとき、可動部14cも、回動摺動部34cによってガイドレール5に近付く方向に変位する。そして、回動摺動部34cに取付けられた制動シュー35cがガイドレール5と接触すると、ガイドレール5は制動シュー17cと制動シュー35cとの間で把持される。
ガイドレール5を把持後、巻上機2からのモータトルクの発生を停止させる。モータトルクの発生を停止させると、かご1には、かご1による負荷と釣合おもりの負荷との差分による負荷が作用する。この負荷によってかご1に取付けられた取付け枠12cもかご1と同じ方向に移動する方向に負荷を受けるため、受け側摺動部36cにも上方向または下方向の負荷が加わる。このとき、受け側摺動部36cの突出部36caの傾斜部と回動摺動部34cの先端部34ccの傾斜部とは互いに接触しているため、受け側摺動部36cに加わったかご1による負荷と釣合おもりの負荷との差分による負荷は、受け側摺動部36cの突出部36caの傾斜部によって、回動摺動部34cを更にガイドレール5に押付けようとする方向に作用する。かご1の負荷と釣合おもりの負荷との差分による負荷によって自己倍力作用が働き、ガイドレール5に作用する制動力が増大させることができる。そのため、モータ20cで印加するトルクを低減でき、小型で軽量なモータでも高い制動力を発生させることができる。
巻上機2のモータトルクの発生を停止させると、かご1の静止保持が完了するため、かご1はかごドアを開放し、乗客の乗り降りが行われる。
乗客の乗り降りが完了すると、かご1のドアを閉じ、ブレーキ装置8c開放動作を行う。まず、エレベータ制御装置6が、ブレーキ装置8cの開放動作前に、巻上機2に、かご1を静止保持するために必要なモータトルクを出力させる。そして、ブレーキ制御装置9の制御部10が、モータ20cのモータトルクによって回動摺動部34cを初期の角度に戻す。回動摺動部34cの角度が戻ると、位置調整ばね23cの付勢力によって回動摺動部34cがガイドレール5から離れ、位置調整ばね33cの付勢力によって受け側摺動部36cもガイドレール5から離れる。これによって、ガイドレール5の把持が解除される。
次に、ブレーキ装置8cの非常動作に関して説明を行う。かご1が走行中に、エレベータに何等からの異常が発生すると、制動指令部7は、制御部10に制動指令を出力する。制御部10は制御指令を受取ると、電磁石21cの電流を遮断し、電磁力を停止させる。電磁石21cの電磁力が遮断されると、付勢ばね22cによって、可動部14cと電磁石21cとが離間され、回動摺動部34cがガイドレール5と接触する。
かご1が走行中に、回動摺動部34cがガイドレール5と接触すると、かご1の移動に伴い、受け側摺動部36cの突出部36caの傾斜部と回動摺動部34cの先端部34ccの傾斜部が接触する。そして、受け側摺動部36cは、回動摺動部34cの先端部34ccの傾斜部によって、制動シュー17cがガイドレール5に近付く方向に変位させられる。そして、制動シュー17cがガイドレール5と接触すると、ガイドレール5は制動シュー17cと制動シュー35cとの間で把持される。これによって、かご1に制動力が作用し、かご1が静止状態へと減速させられる。
非常停止時においても、かご1の移動により受け側摺動部36cの突出部36caの傾斜部から回動摺動部34cに加えられる、回動摺動部34cをガイドレール5に押付けようとする負荷により、自己倍力作用が働き、かご1に対し高い制動力を発生させることができる。
以上のように、本実施の形態に係るエレベータ制動装置は、共に傾斜部を有する回動摺動部34cと受け側摺動部36cとを備えている。これによってかご1に作用するかご1による負荷と釣合おもりの負荷との差分による負荷によって自己倍力作用による高い制動力が得られるため、ブレーキ装置8cの小型化を図ることができる。
また、実施の形態1と同様に、通常の動作時においては、第一の駆動部であるモータ20cによって回動摺動部34cを回動させることによって、制動面を保持するため、通常時にかご1の移動なしでも自己倍力作用を得ることができる。