以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る無線通信装置を備えた電子機器の一例であるX線画像診断装置を示す説明図である。ここで、図1に示すX,Y,Z方向は、互いに直交(交差)する方向である。
図1に示すX線画像診断装置200は、X線撮像素子(撮像素子)201と、無線通信装置202と、を備えている。撮像素子201にて撮像されて生成された画像信号は、無線通信装置202に出力される。画像信号の入力を受けた無線通信装置202は、画像信号を通信周波数帯の周波数に変調した信号波を、無線LANやBluetooth(登録商標)等の無線通信より、不図示の他のカメラやPC等の他の電子機器へ伝送する。無線LANやBluetooth(登録商標)等の無線通信には、2.4[GHz]帯(例えば2.45[GHz])や5[GHz]帯の電波が使用される。
無線通信装置202は、樹脂等の非導電性材料で形成された、X線画像診断装置200の筐体でもある筐体103と、筐体103の内部に配置された、プリント回路板100、ケーブル106、アンテナ300及び金属部材400と、を備えている。金属部材400は、電磁波を遮蔽するための部材である。電磁波を遮蔽するとは、電磁波を吸収又は反射することを意味する。本実施形態では、金属部材400の金属材料としては、例えば、ステンレスの場合について説明するが、電磁波を遮蔽するいかなる金属材料であってもよい。例えば、金属材料として、鉄、銅又はアルミニウムであってもよい。また、本実施形態では、金属部材400は、筐体103の補強も兼ねている。また、金属部材400には、プリント回路板100やアンテナ300がマウントされ、アンテナ300と金属部材400とは近接している。
プリント回路板100は、プリント配線板104を有している。また、プリント回路板100は、プリント配線板104に実装された、無線機としてのIC105と、IC105にプリント配線板104の配線で接続されたコネクタ107と、を有している。ケーブル106の一端には、アンテナ300が接続されている。ケーブル106の他端は、コネクタ107に接続されている。これにより、IC105は、アンテナ300にケーブル106を介して接続されている。IC105は、信号波を、アンテナ300を介して無線で送受信するための無線機である。即ち、IC105の内部には、送信機と受信機とが内蔵されている。なお、本実施形態では、無線機であるIC105が、送信機と受信機とを有し、信号波の送受信が可能である場合について説明するが、無線機が送信機としてのみ機能する場合、又は無線機が受信機としてのみ機能する場合であってもよい。また、送信機と受信機とが1つのIC105(半導体パッケージ)で構成されている場合について説明するが、送信機と受信機とがそれぞれ個別の半導体パッケージで構成されていてもよい。
IC105は、取得した画像信号を処理して通信周波数帯(例えば、2.4[GHz]帯や5[GHz]帯)の周波数に変調した信号波を、アンテナ300を介して無線で送信する。
アンテナ300は、通信周波数で効率よく電磁波を発するものであればよく、本実施形態では、逆Fアンテナである。
図2は、本発明の実施形態に係る無線通信装置のプリント回路板、アンテナ及び金属部材の配置関係を説明するための分解斜視図である。
図1及び図2に示すように、金属部材400は、アンテナ300に対向して配置されている。具体的には、図1中、Z方向において筐体103の内面と金属部材400の一方の表面400Aとの間にアンテナ300が配置されている。なお、アンテナ300と金属部材400との間に誘電体(絶縁体)からなる不図示の部材が介在していてもよい。
図1に示すように、撮像素子201は、金属部材400に対してZ方向でアンテナ300が配置されている側とは反対側に配置されている。具体的には、撮像素子201は、図1中、Z方向において金属部材400の他方の表面と筐体103の内面との間に配置されている。
金属部材400は、図1及び図2に示すように、アンテナ300に対向する側の表面400Aを有する金属板である。金属部材400の表面400Aには、アンテナ300から遠ざかる−Z方向に凹む、−Z方向に見て長方形状の凹部402が形成されている。
アンテナ300の金属部材400に対向する側の表面300Aと金属部材400の表面400Aとは、概略平行になるように配置されている。なお、プリント回路板100は、金属部材400に対しZ方向でアンテナ300が配置されている側に配置されている。即ち、プリント回路板100は、金属部材400の表面400Aに対向して配置されている。
金属部材400は、撮像素子201やプリント回路板100等の部品支持用の板状部材である。なお、金属部材400が、金属板である場合について説明するが、電気的なシールドボックスのような箱状部材でもよい。この場合、箱状部材の一面がアンテナ300に対向する。
アンテナ300は、プリント配線板で構成され、少なくとも2つの導体層、本実施形態では、図2に示すように、導体層301,302を有する。導体層301と導体層302とは絶縁体層を介して隣接している。導体層301,302は、主に導体が配置される層であり、絶縁体層は、主に絶縁体(誘電体)が配置される層である。アンテナ300を構成するプリント配線板の導体以外の絶縁体は、例えばFR4等のガラスエポキシ樹脂である。
アンテナ300は、アンテナ素子310と、グラウンド導体320と、信号線330と、を有する。アンテナ素子310、グラウンド導体320及び信号線330は、導電体で形成されている。グラウンド導体320は、アンテナ素子310のグラウンドとして用いられる。
アンテナ素子310は、長い帯状の導体パターンで形成されている。アンテナ素子310の長手方向の一端部310Aは、開放された開放端部であり、アンテナ素子310の長手方向の他端部310Bは、グラウンド導体320に短絡(接続)されている。
アンテナ素子310の他端部310Bは、グラウンド導体320との接続部分320Cでもある。アンテナ素子310は、直線状に形成されていてもよいが、本実施形態では、アンテナ素子310の長手方向の一端部310Aがグラウンド導体320に近づくように、L字形状に折り曲げて形成されている。具体的には、アンテナ素子310は、他端部310Bから折れ曲がり部310Cまで+Y方向に延び、折れ曲がり部310Cから一端部310AまでY方向に交差(直交)する−X方向に延びて形成されている。
信号線330は、IC105から信号波の電流がケーブル106を介して供給される給電線である。また、信号線330は、アンテナ素子310にて受信された信号波の電流が供給される給電線である。
信号線330は、Y方向に延びて形成された導体パターンである。信号線330の長手方向(Y方向)の一端部330Aは、ケーブル106に接続されている。即ち、信号線330の一端部330Aは、ケーブル106を介して無線機であるIC105に接続されている。信号線330のY方向の他端部330Bは、アンテナ素子310の一端部310Aと他端部310Bとの間の接続部分310Dに接続されている。アンテナ素子310及び信号線330は、導体層301に形成されている。
図3(a)は、アンテナ300を構成するプリント配線板の第1導体層である導体層301を示す平面図であり、図3(b)は、アンテナ300を構成するプリント配線板の第2導体層である導体層302を示す平面図である。即ち、図3(a)及び図3(b)は、図2に示す金属部材400の面400Aに垂直な垂直方向(アンテナ300の側から金属部材400の側に向かう対向方向:−Z方向)にアンテナ300を見た図である。−Z方向に見て、金属部材400の外形の面積は、アンテナ300の外形の面積よりも大きい。
グラウンド導体320は、導体層301に形成された第1グラウンドパターンであるグラウンドパターン321と、導体層301に形成された第2グラウンドパターンであるグラウンドパターン322と、を有する。また、グラウンド導体320は、導体層302に形成された第3グラウンドパターンであるグラウンドパターン323を有する。また、グラウンド導体320は、グラウンドパターン321,322とグラウンドパターン323とを接続する複数のヴィア324を有する。これにより、グラウンドパターン323と、グラウンドパターン321,322とが複数のヴィア324で導通している。グラウンドパターン321,322は、信号線330の配線方向(Y方向)と交差(直交)するX方向の両側に配置されている。グラウンドパターン321,322は、−Z方向に見て、外形四角形状(より具体的には外形長方形状)に形成されている。また、グラウンドパターン323は、−Z方向に見て、グラウンドパターン321,322を包含する外形四角形状(より具体的には外形長方形状)に形成されている。
グラウンド導体320は、X方向の第1端部である端部320Aと、端部320Aとは反対側のX方向の第2端部である端部320Bとを有する。一対の端部320A,320Bのうちアンテナ素子310の一端部310Aに相対的に近接しているのが、端部320Aである。即ち、アンテナ素子310は、端部320Aに近接する側にL字形状に折れ曲がって形成されている。+Y方向は、アンテナ素子310の他端部310Bから折れ曲がり部310Cまでアンテナ素子310が延びる配線方向である。
本実施形態では、グラウンド導体320は、信号線330のX方向の両側に配置された一対のグラウンドパターン321,322と、X方向に延びるグラウンドパターン323と、を有する。グラウンドパターン323は、X方向の端部323Aと、X方向の端部323Aとは反対側の端部323Bと、を有する。グラウンドパターン321は、X方向で信号線330に隣接する側とは反対側の端部321Aを有する。グラウンドパターン322は、X方向で信号線330に隣接する側とは反対側の端部322Bを有する。そして、−Z方向に見て、グラウンドパターン323の端部323Aと、グラウンドパターン321の端部321Aとは重なっている。また、−Z方向に見て、グラウンドパターン323の端部323Bと、グラウンドパターン322の端部322Bとは重なっている。
したがって、グラウンド導体320の端部320Aとは、グラウンドパターン321の端部321A、又はグラウンドパターン323の端部323Aである。また、グラウンド導体320の端部320Bとは、グラウンドパターン322の端部322B、又はグラウンドパターン323の端部323Bである。
なお、−Z方向に見て、端部321Aと端部323Aとが重なる場合について説明するが、いずれか一方が−X方向に張り出している場合は、張り出している端部がグラウンド導体320の端部320Aである。また、−Z方向に見て、端部322Bと端部323Bとが重なる場合について説明するが、いずれか一方が+X方向に張り出している場合は、張り出している端部がグラウンド導体320の端部320Bである。
また、本実施形態では、アンテナ300を構成するプリント配線板の導体層が2つとしたが、導体層が3つ以上であってもよく、その場合、グラウンドパターン323が導体層301以外の各導体層にそれぞれ配置されていてもよい。
L字形状のアンテナ素子310の長手方向(信号伝搬方向)の寸法L1は、効率よく電磁波を発するため、通信周波数f1の波長λの1/4の長さに設定されている。
ここで、比較例の無線通信装置について説明する。図9は、比較例の無線通信装置のプリント回路板、アンテナ及び金属部材の配置関係を説明するための分解斜視図である。なお、図9に示す金属部材400Xが、本実施形態の金属部材400と異なる。即ち、比較例の金属部材400Xは、凹部のない金属板である。比較例のプリント回路板100及びアンテナ300は、本実施形態のプリント回路板100及びアンテナ300と同様の構成である。
図10(a)は、比較例におけるアンテナ300のグラウンドパターン323と金属部材400Xとの位置関係を示す模式図である。図10(b)は、図10(a)において点線で囲われた領域501において、グラウンドパターン323と金属部材400Xの両部材に形成される近傍電界を示す模式図である。
金属部材400Xがアンテナ300に近接して配置されると、グラウンドパターン323の端部323A,323Bと金属部材400Xとの間で、図10(b)中の矢印で示すような電気力線による容量結合が生じ、特定の周波数で共振現象が起こる。
図10(b)中、点線で示す電界分布506は、グラウンドパターン323の中央では電界が弱く両端部323A,323Bでは強くなる。よって、図10(b)中、一点鎖線で示す経路504のループ状アンテナのように作用する。このループは一周の経路長が波長λ’の長さとなる周波数で共振する。
グラウンドパターン323の両端部323A,323B間の長さ(λ’/2)が、通信周波数の波長λの1/2以下になる(λ’<λ)場合、アンテナ300の共振周波数より高い周波数で共振現象が起こる。逆に、グラウンドパターン323の両端部323A,323B間の長さ(λ’/2)が、通信周波数の波長λの1/2以上になる(λ’>λ)場合、アンテナ300の共振周波数より低い周波数で共振現象が起こる。
図11は、通信周波数f1よりも高い周波数f0で共振している状態において、周波数に対するアンテナ300の放射効率を示すグラフである。図11に示すように、通信周波数f1と経路504の共振周波数f0にエネルギーが分散し、放射効率が減少する。
図12(a)は、図9のXIIA線に沿うアンテナ300及び金属部材400Xの断面を−X方向に見たときの電流及び磁界の様子を示す模式図である。図12(b)は、図9のXIIB線に沿うアンテナ300及び金属部材400Xの断面を−X方向に見たときの電流及び磁界の様子を示す模式図である。即ち、図12(a)及び図12(b)には、−X方向に見たアンテナ300及び金属部材400Xの断面(YZ平面)を図示している。
図12(a)において、信号線330には電流I1が強く流れており、電流I1に対し右ねじ方向に磁界H1が発生する。磁界H1が金属部材400Xに鎖交すると、ファラデーの法則により、磁界H1の変化を妨げる方向に電流I2が発生する。そして、電流I2に対し右ねじ方向に磁界H2が発生する。ここで、電流I1と電流I2は互いに異符号となるため、磁界H1とH2も互いに異符号となり打ち消し合う。このとき、アンテナ300と金属部材400Xとの間の全インダクタンスLは、アンテナ300の自己インダクタンスLANTおよびアンテナ300と金属部材400Xとの間の相互インダクタンスMを用いて、以下の式(1)で表される。
上式(1)は、打ち消し磁界H2の発生により、相互インダクタンスMが負の値として働くことを意味している。このとき、金属部材400Xがないときに比較して全インダクタンスLが小さくなるため、共振周波数f0=1/(2×π×√(L×C))(C:静電容量)は高い周波数にシフトする。
図12(b)において、グラウンドパターン323は電界が強いため、金属部材400Xが近接すると、グラウンドパターン323を始点とした電界E1が金属部材400Xを終点として容量結合する。そのため、アンテナ300と金属部材400Xと間の静電容量Cが大きくなるため、共振周波数f0=1/(2×π×√(L×C))は低い周波数にシフトする。
以上より、アンテナ300の磁界の強い場所に金属部材400Xが近接すると共振周波数は高域に、アンテナ300の電界の強い場所に金属部材400Xが近接すると共振周波数は低域にシフトする。
よって、アンテナ300と金属部材400との共振周波数f0を、通信周波数f1にシフトさせるには、前述のインダクタンスL又は静電容量Cを大きくすることで、(L×C)を大きくする必要がある。
図4(a)は、アンテナ300を−Z方向に見て、アンテナ300における電界強度または磁界強度が高い領域を示す説明図である。アンテナ300における領域R1は、アンテナ素子310の開放端である一端部310Aから強い電界が放射され、グラウンドパターン321に結合して強く電流が流れるため、電界強度・磁界強度ともに高い領域となる。
アンテナ300における領域R2は、信号線330、アンテナ素子310およびグラウンドパターン322で短絡された閉ループとなっているため、インピーダンスが低くなり電流が強く流れ、磁界強度が電界強度に対して非常に高い領域となっている。即ち、アンテナ300の表面300Aにおける領域R2は、磁界強度Hに対する電界強度Eの比(E/H)が最小値となる領域である。
アンテナ300における領域R3は、アンテナ素子310や信号線330から離れた位置にあり、インピーダンスが高いため、電界強度が磁界強度に対して非常に高い領域となっている。即ち、アンテナ300の表面300Aにおける領域R3は、磁界強度Hに対する電界強度Eの比(E/H)が最大値となる領域である。
よって、アンテナ300の領域R2と金属部材400の表面400AとのZ方向の間隔が、アンテナ300の領域R3と金属部材400の表面400AとのZ方向の間隔よりも相対的に大きくなるようにしている。本実施形態では、金属部材400の表面400Aにおいて領域R2に対向する部分に凹部402が形成されている。
図4(b)は、アンテナ300と凹部402との位置関係を示す説明図である。図4(b)は、図1の−Z方向に見た投影面(XY平面)として表示している。凹部402の外形を点線で示している。凹部402は、−Z方向に見て、少なくとも信号線330の一部、好ましくは信号線330の全部と重なる位置に形成されている。
具体的に説明すると、−Z方向に見て、信号線330の端部330Aにおいて端部320A(321A)に近接する側の端点をPO、アンテナ素子310の折れ曲がり部310Cにおける外側の角の頂点をPCとする。凹部402は、−Z方向に見て、点PO,PCを対角の頂点とする長方形の領域に少なくとも一部(好ましくは全部)と重なるように形成されている。図4(b)では、凹部402の外形と長方形の領域とが一致している。ここで、グラウンドパターン321の端部321Aにおいてアンテナ素子310の一端部310Aに近接する側の角の頂点をP1、グラウンドパターン322において端部(端辺)322Bと接続部分320C側の端辺との角の頂点をP2とする。また、接続部分320Cにおいて端部320B(322B)に近接する側の端点をPGとし、点P1と点P2とを結ぶ直線LXと、信号線330の端辺とが交差する交差点のうち、端部320A(321A)に近接する側の交差点をPSとする。
このように、アンテナ300に金属部材400の凹部402を対向して配置することにより、共振周波数が変動する。本実施形態では、凹部402は、−Z方向に見て、共振周波数f0を通信周波数f1側にシフトさせる位置に配置(形成)されている。
図5は、本発明の実施形態に係る無線通信装置において、グラウンド導体320の端部320B付近におけるアンテナ300と金属部材400との間の磁界の様子を示す模式図である。図5には、X方向から見た断面(YZ平面)を図示している。
本実施形態の無線通信装置202では、凹部402を設けることで磁界H1のうち金属部材400へ交差する量を減らし、打消し磁界H2’の発生を抑制している。これにより、式(1)において相互インダクタンスMを小さくすることができ、全インダクタンスLを大きくすることができる。
ここで、凹部402には、グラウンド導体320に対向する側の底面402Aが存在する。グラウンド導体320(本実施形態ではグラウンドパターン323)は、金属部材400に対向する側の表面323Cを有する。
凹部402の底面402Aとグラウンド導体320の表面323CとのZ方向の間隔、即ち、凹部402の底面402Aとアンテナ300の表面300AとのZ方向の間隔をd1とする。また、金属部材400の表面400Aにおける凹部402以外の部分とグラウンド導体320の表面323CとのZ方向の間隔、即ち、金属部材400の表面400Aにおける凹部402以外の部分とアンテナ300の表面300AとのZ方向の距離をd0とする。
このとき、静電容量Cは、凹部402を配置したことにより小さくなる。しかし、信号線330の近傍は、電界強度が他の位置の電界強度よりも相対的に小さい、即ち(E/H)比が小さいため、凹部402でグラウンド導体320との間隔が大きくなったとしても、静電容量Cの低減量は小さい。よって、L×Cが増大し、共振周波数f0が小さくなる。
このように、インダクタンスLを大きくすることにより、共振周波数f0=1/(2×π×√(L×C))を小さくすることができ、図11に示す共振周波数f0を下げて通信周波数f1に移動させ、放射効率ηをηaよりも高めることができる。以上、凹部402により、IC105において信号波をアンテナ300を介して送信する際には、IC105への供給電力を上げることなく通信周波数での電波放射量を高めることができる。また、IC105において信号波をアンテナ300を介して受信する際には、通信周波数での信号波の受信量を高めることができ、受信した信号の増幅度を上げる必要がなくなり、無線通信装置202における消費電力を低減することができる。このように、アンテナ300の磁界強度に対する電界強度の比が低い場所でアンテナ300と金属部材400との磁気結合が弱められ、アンテナ300と金属部材400との共振周波数f0が通信周波数f1側にシフトする。したがって、通信周波数f1での送受信利得(通信利得、即ち通信特性)が向上する。
[実施例]
実施例として、図1に示す無線通信装置202について、三次元電磁界シミュレーションを実施した結果について説明する。計算は、CST社の三次元電磁界シミュレータMW−STUDIOを用いた。アンテナ300は、4層のプリント配線板で形成されたシミュレーションモデルとした。
図6(a)はアンテナ300の第1導体層のシミュレーションモデルを示す平面図である。図6(b)はアンテナ300の第2、3、4導体層のシミュレーションモデルを示す平面図である。図6(c)はアンテナ300及び金属部材400のシミュレーションモデルの位置関係を示す平面図である。
配線の厚みは35[μm]、1−2層間および3−4層間の層間距離は、0.2[mm]、2−3層間の層間距離は、0.91[mm]とした。誘電体の厚みは1.345[mm]とした。誘電体はFR4(比誘電率4.3)とし、配線は銅(導電率5.8×107[S/m])とした。金属部材400の厚みを0.5[mm]とした。金属部材400はSUS304(導電率1.39×106[S/m])とした。また、アンテナ300の表面300Aと金属部材400の表面400A(凹部以外の部分)との間隔d0(図5)を1.0[mm]とした。
図6(a)〜図6(c)においてアルファベットで示した各部寸法値について以下に示す。図6(a)に示す各部寸法値は、aa=5.3[mm]、b=41.8[mm]、c=0.9[mm]、d=3.0[mm]、e=25.0[mm]、f=18.0[mm]、g=2.5[mm]、h=24.4[mm]である。また、i=26.5[mm]、j=2.4[mm]、k=8.5[mm]である。また、図6(b)に示す各部寸法値は、l=50.9[mm]、m=50.0[mm]、n=49.1[mm]、o=10.2[mm]、p=19.8[mm]である。また、図6(c)に示す各部寸法値は、q=7.9[mm]、r=7.8[mm]、s=15.0[mm]、t=15.0[mm]、u=80.9[mm]、v=49.8[mm]である。
まず、実施例の無線通信装置202において、通信周波数f1での電波放射量を改善できる凹部402の配置位置について示す。凹部402は、アンテナ300の電界強度が小さく磁界強度が大きい場所に重なるように配置する必要がある。そのため、凹部402は、−Z方向に見て、磁界強度H[A/m]に対する電界強度E[V/m]の比である波動インピーダンスE/H[Ω]が小さい場所に重なる位置に配置されている。
図7(a)は、シミュレーション結果を示すグラフであり、図6(a)の点P1と点P2とを結ぶX方向の実線LXにおいて点P1から点P2に向かう+X方向の距離に対する波動インピーダンスの値を示すグラフである。図7(b)は、図7(a)において、波動インピーダンスが100[Ω]以下の範囲を拡大したグラフである。
図7(a)及び図7(b)に示すように、点P1からの距離が大きくなると、波動インピーダンスが減少し、距離23[mm]の位置つまり点PS(図6(a))において、最小値11[Ω]となる。この点PSを+X方向に超えると波動インピーダンスが緩やかに増加し、距離32[mm]の位置、つまり点PG付近から波動インピーダンスが急激に増加する。つまり、アンテナ300において、波動インピーダンス(E/H)が最小となるのは、信号線330となる。
よって、凹部402は、−Z方向に見て、少なくとも信号線330の一部、好ましくは信号線330の全部と重なる位置に形成されている。
なお、凹部402は、−Z方向に見て、信号線330と全て重なっているのが好ましいが、これに限定するものではなく、信号線330に対して少しずれていてもよい。即ち、信号線330に対する凹部402の配置位置の範囲としては、波動インピーダンス(E/H)が、急激に増加し始める距離32[mm]の点PGにおける値、25[Ω]以下の範囲となる。つまり凹部402と信号線330とが少なくとも一部が重なる必要がある波動インピーダンスE/Hの範囲は、以下の式(2)となる。
信号線330における波動インピーダンスをηMINとして上式(2)を正規化すると、以下の式(3)となる。
つまり、凹部402は、−Z方向に見て、アンテナ300において磁界強度Hに対する電界強度Eの比(E/H)が最小値ηMINの1.0倍以上1.8倍以下となる領域のうち、少なくとも一部と重なる位置に形成されている。凹部402は、−Z方向に見て、最小値ηMINとなる領域の全部と重なる位置に形成されていればより好ましく、通信周波数f1での電波放射量を効果的に改善できる。
次に、実施例の無線通信装置202において、通信周波数f1での電波放射量を改善できる凹部402の形状について規定する。なお、図9に示す比較例の無線通信装置についても、実施例と同様にモデル化した。実施例のシミュレーションモデルと異なる点は、図6(c)において凹部402がない点のみであり、その他の各部寸法は同様とした。実施例および比較例のそれぞれのモデルについて、アンテナ300に給電する電力は100[mW]とし、通信周波数を2.45[GHz]としてアンテナ300から放射される全放射電力[mW]を求めた。
図8(a)は、−Z方向に見たときの凹部402とアンテナ300との重なり部分の面積Sに対するアンテナ300の全放射電力を示すグラフである。アンテナ300の表面300Aと凹部402の底面402Aとの間隔d1(図5)を2.5[mm]に固定した。そして、図6(c)において、−Z方向に見たときの凹部402とアンテナ300とが重なる部分の面積Sを変化させたときの全放射電力[mW]の値を観測した。
図8(a)中、実線は、図6(c)における凹部402の縦の長さm2を16.3[mm](=寸法rと寸法kの和)に固定して横の長さn2を変化させたときの特性(シミュレーション結果)である。また、図8(a)中、点線は、図6(c)における凹部402の横の長さn2を7.2[mm]に固定して、縦の長さm2を点PCまで変化させたときの特性(シミュレーション結果)である。
凹部402の面積S=0のときの全放射電力が比較例の計算結果であり、その値は3.2[mW]であった。実施例において、比較例の全放射電力3.2[mW]に対して2倍以上の効果がある範囲は、実線で示す78[mm2]≦S≦220[mm2]と、点線で示すS≧62[mm2]の範囲である。
つまり両範囲が重なる、比較例に対して2倍以上の効果がある範囲は78[mm2]≦S≦220[mm2]である。
−Z方向に見て、信号線330の一端部330Aにおいて端部320Aに近接する側の端点がPOであり、アンテナ素子310の折れ曲がり部310Cの外側の角の頂点がPCである。−Z方向に見て、点PO,PCを対角の頂点とする長方形の領域((r+k)×qの領域)の面積をS0[mm2]とする。
78[mm2]≦S≦220[mm2]の範囲は、面積S0[mm2](=(r+k)×q=129[mm2])で正規化すると、式(4)の範囲となる。
つまり、−Z方向に見て、面積Sは、長方形の領域の面積S0の0.6倍以上1.7倍以下の範囲内であるのが好ましい。
この中で、特に大きく効果が出る範囲として、比較例の10倍以上の効果がある範囲は、図8(a)中、実線で106[mm2]≦S≦136[mm2]、点線でS≧92[mm2]の範囲である。つまり両範囲が重なる、比較例に対して10倍以上の効果がある範囲は、106[mm2]≦S≦136[mm2]である。この範囲についても面積S0で正規化すると、式(5)の範囲となる。
つまり、−Z方向に見て、面積Sは、長方形の領域の面積S0の0.8倍以上1.1倍以下の範囲内であるのがより好ましい。
図8(b)は、実施例において間隔d0を固定し間隔d1を変化させたときの間隔d1に対するアンテナ300の全放射電力を示すグラフである。図8(b)におけるシミュレーション結果は、間隔d0[mm]を1.0[mm]に固定し、アンテナ300と凹部402との間隔d1[mm]を−Z方向に変化させたときの全放射電力[mW]の値を観測したものである。図8(b)示すグラフは、図8(a)で最も効果が得られた条件として、図6(c)においてm2=16.3[mm]、n2=7.2[mm](面積S=117[mm2])に固定して間隔d1を変化させたときの特性である。
ここで、間隔d1=1.0[mm]のときの全放射電力が比較例の計算結果であり、その値は3.2[mW]である。実施例において、比較例の全放射電力3.2[mW]に対して2倍以上の効果がある範囲は、1.8[mm]≦d1の範囲である。この範囲を、図5のグラウンドパターン323と金属部材400の表面400Aとの間隔d0[mm](=1.0[mm])で正規化すると、以下の式(6)となる。
つまり、間隔d1は、間隔d0の1.8倍以上の範囲内であるのが好ましい。
この中で、特に大きく効果が出る範囲として、比較例の10倍以上の効果がある範囲は、2.2[mm]≦d1≦3.1[mm]である。この範囲についても間隔d0で正規化すると、以下の式(7)となる。
つまり、間隔d1は、間隔d0の2.2倍以上3.1倍以下の範囲内であるのがより好ましい。
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されない。
上記実施形態では、凹部402(底面402A)の形状を、−Z方向に見て長方形とした場合について説明したが、これに限定するものではなく、−Z方向に見て円形や多角形等、いかなる形状であってもよい。
また、上記実施形態では、金属部材400の表面400Aに凹部402を形成した場合について説明したが、これに限定するものではない。アンテナ300の表面300Aにおける領域R2と金属部材400の表面400AとのZ方向の間隔が、アンテナ300の表面300Aにおける領域R3と金属部材400の表面400AとのZ方向の間隔よりも大きければよい。例えば、金属部材400の表面400Aに段差やアンテナ300の表面300Aに対して傾斜する傾斜面を設けてもよい。
また、上記実施形態では、アンテナ300が逆Fアンテナに適用した場合について説明したが、アンテナ素子とグラウンドパターンが同一平面もしくは互いに平行な面に配置されたパターン状のアンテナであれば本発明は適用可能である。
また、上記実施形態では、電子機器が、撮像装置の一例としてX線画像診断装置の場合について説明したが、これに限定するものではない。例えば、撮像装置として、デジタルカメラやスマートフォン等であってもよく、また、撮像装置以外の電子機器についても本発明は適用可能である。