本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置及び画像処理装置について添付図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成図である。
磁気共鳴イメージング装置20は、静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石21、この静磁場用磁石21の内側に設けられたシムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24を備えている。
また、磁気共鳴イメージング装置20には、制御系25が備えられる。制御系25は、静磁場電源26、傾斜磁場電源27、シムコイル電源28、送信器29、受信器30、シーケンスコントローラ31及びコンピュータ32を具備している。制御系25の傾斜磁場電源27は、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zで構成される。また、コンピュータ32には、入力装置33、表示装置34、演算装置35及び記憶装置36が備えられる。
静磁場用磁石21は静磁場電源26と接続され、静磁場電源26から供給された電流により撮像領域に静磁場を形成させる機能を有する。尚、静磁場用磁石21は超伝導コイルで構成される場合が多く、励磁の際に静磁場電源26と接続されて電流が供給されるが、一旦励磁された後は非接続状態とされるのが一般的である。また、静磁場用磁石21を永久磁石で構成し、静磁場電源26が設けられない場合もある。
また、静磁場用磁石21の内側には、同軸上に筒状のシムコイル22が設けられる。シムコイル22はシムコイル電源28と接続され、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて静磁場が均一化されるように構成される。
傾斜磁場コイル23は、X軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zで構成され、静磁場用磁石21の内側において筒状に形成される。傾斜磁場コイル23の内側には寝台37が設けられて撮像領域とされ、寝台37には被検体Pがセットされる。RFコイル24にはガントリに内蔵されたRF信号の送受信用の全身用コイル(WBC: whole body coil)や寝台37や被検体P近傍に設けられるRF信号の受信用の局所コイルなどがある。
また、傾斜磁場コイル23は、傾斜磁場電源27と接続される。傾斜磁場コイル23のX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zはそれぞれ、傾斜磁場電源27のX軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zと接続される。
そして、X軸傾斜磁場電源27x、Y軸傾斜磁場電源27y及びZ軸傾斜磁場電源27zからそれぞれX軸傾斜磁場コイル23x、Y軸傾斜磁場コイル23y及びZ軸傾斜磁場コイル23zに供給された電流により、撮像領域にそれぞれX軸方向の傾斜磁場Gx、Y軸方向の傾斜磁場Gy、Z軸方向の傾斜磁場Gzを形成することができるように構成される。
RFコイル24は、送信器29及び受信器30の少なくとも一方と接続される。送信用のRFコイル24は、送信器29からRF信号を受けて被検体Pに送信する機能を有し、受信用のRFコイル24は、被検体P内部の原子核スピンのRF信号による励起に伴って発生したMR信号を受信して受信器30に与える機能を有する。
一方、制御系25のシーケンスコントローラ31は、傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30と接続される。シーケンスコントローラ31は傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させるために必要な制御情報、例えば傾斜磁場電源27に印加すべきパルス電流の強度や印加時間、印加タイミング等の動作制御情報を記述したシーケンス情報を記憶する機能と、記憶した所定のシーケンスに従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることによりX軸傾斜磁場Gx、Y軸傾斜磁場Gy,Z軸傾斜磁場Gz及びRF信号を発生させる機能を有する。
また、シーケンスコントローラ31は、受信器30におけるMR信号の検波及びA/D (analog to digital)変換により得られた複素データである生データ(raw data)を受けてコンピュータ32に与えるように構成される。
このため、送信器29には、シーケンスコントローラ31から受けた制御情報に基づいてRF信号をRFコイル24に与える機能が備えられる一方、受信器30には、RFコイル24から受けたMR信号を検波して所要の信号処理を実行するとともにA/D変換することにより、デジタル化された複素データである生データを生成する機能と生成した生データをシーケンスコントローラ31に与える機能とが備えられる。
さらに、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体PのECG (electro cardiogram)信号を取得するECGユニット38が備えられる。ECGユニット38により取得されたECG信号はシーケンスコントローラ31を介してコンピュータ32に出力されるように構成される。
また、コンピュータ32の記憶装置36に保存されたプログラムを演算装置35で実行することにより、コンピュータ32には各種機能が備えられる。ただし、プログラムの少なくとも一部に代えて、各種機能を有する特定の回路を磁気共鳴イメージング装置20に設けてもよい。
図2は、図1に示すコンピュータ32の機能ブロック図である。
コンピュータ32の演算装置35は、記憶装置36に保存されたプログラムを実行することにより撮像条件設定部40及びデータ処理部41として機能する。撮像条件設定部40は、心臓形態撮像条件設定部40A及び心臓シネ撮像条件設定部40Bを有する。データ処理部41は、画像生成部41A、特徴点検出部41B、冠動脈検出部41C及び静止期間検出部41Dを有する。また、記憶装置36は、k空間データ記憶部42、画像データ記憶部43及び辞書ファイル記憶部44として機能する。
撮像条件設定部40は、パルスシーケンスを含む撮像条件を設定し、設定した撮像条件をシーケンスコントローラ31に出力する機能を有する。心臓形態撮像条件設定部40Aは、被検体Pの心臓をカバーするMR画像データを収集するための撮像条件を設定する機能を有する。心臓シネ撮像条件設定部40Bは、被検体Pの冠動脈が描出されたMRシネ画像データを収集するための撮像条件を設定する機能を有する。
図3は、心臓をカバーするMR画像データ及びMRシネ画像データの収集期間を示す図である。
図3(A)において横軸は時間(心時相方向)を示し、縦軸はECG信号の電圧を示す。心臓をカバーするMR画像データ及びMRシネ画像データは、それぞれECG信号に同期して収集される。ECG信号の基準波であるR波間には、収縮期と拡張期が存在する。収縮期と拡張期には、それぞれ冠動脈の静止相が存在する。拡張期の静止相は、拡張中期、具体的には隣接するR波間の期間(R-R)の約75%に当たる心時相付近に存在する。
従って、被検体Pの心臓をカバーするMR画像データの生成用のMR信号は、心臓の動きの影響を低減する観点からECG同期で心臓の収縮期又は拡張期の静止相において収集されるように撮像条件を設定することが適切である。特に、図3(B)に示すように、心臓の拡張中期において被検体Pの心臓をカバーするMR画像データの生成用のMR信号を収集することが実用的である。そこで、以降では、主として心臓をカバーするMR画像データの生成用のMR信号が拡張中期において収集される場合を例に説明する。
被検体Pの心臓をカバーするMR画像データは、簡易な方法としては、複数フレームのアキシャル断面画像データ、コロナル断面画像データ又はサジタル断面画像データとして収集することができる。すなわち、2次元(2D: two dimensional)の単純な直交3断面画像データのいずれかとして被検体Pの心臓をカバーするMR画像データを収集することができる。
この場合には、被検体Pの心臓をカバーするMR画像データの収集は、心臓を含む3次元(3D: three dimensional)領域を対象とするアキシャル方向、コロナル方向又はサジタル方向のマルチスライスイメージングとなる。従って、マルチスライス画像データとして、心臓を含む3D領域のMRボリューム画像データが収集される。
但し、心臓を含む3D領域からMR信号を収集する3Dスキャンによって心臓を含む3D領域のMRボリューム画像データを収集するようにしてもよい。また、アキシャル断面画像データ、コロナル断面画像データ及びサジタル断面画像データの全て又は2つを心臓をカバーするMR画像データとして収集するようにしてもよい。
心臓をカバーするMR画像データとして複数フレームのアキシャル断面画像データ等を収集する場合には、フレーム間において心臓の形状がなるべく一致するように、心臓の静止期間中において、できるだけ同一とみなせる心時相でMR信号を収集することが望ましい。従って、複数フレームの断面画像データを収集するスキャンは、ECG同期でR波間の同一とみなせる心時相で繰返しMR信号を収集するマルチスライスデータ収集スキャンとなる。すなわち、図3(B)に示すように、ECG信号のR波をトリガとしてMR信号が心臓の静止期間中における同一の心時相で収集されるように一定の遅延時間が設定される。
1フレーム分の断面画像データ用のMR信号を1心拍中に収集することが困難な場合には、2心拍等の複数心拍に亘って収集するようにしてもよい。実用的には、1心拍中又は2心拍中に1フレーム分のMR信号が収集されるようにデータ収集条件が設定される。
1フレーム分のMR信号を複数心拍に分けて収集すれば、1心拍中におけるデータ収集期間を短くすることができる。従って、息止め中にデータ収集を行うことによって、呼吸性の動きの影響を低減することもできる。もちろん、1心拍中に1フレーム分のMR信号を収集する場合においても、息止め中にデータ収集を行えば、呼吸性の動きの影響を低減することができる。
加えて、1回の励起パルスの印加後に1フレーム分のMR信号を収集するシングルショットシーケンスによってMR信号を収集することが呼吸性の動きの影響を回避する観点から重要である。また、MR信号間における心時相ずれや呼吸性の動きの影響が低減されるように、2D定常自由歳差運動(SSFP: steady state free precession)法等の高速撮像法にて。MR信号の収集を行うことが重要である。
一方、MRシネ画像データは、心臓をカバーするMR画像データの収集後にECG同期で収集される。具体的には、MRシネ画像データは、図3(C)に示すように、異なるR波間の静止相が少なくともカバーされる期間、すなわちある静止相から次の静止相までの間を含む期間において連続収集されるように撮像条件が設定される。
MRシネ画像データは、冠動脈が描出されていれば、時系列の任意の2D断面画像データとして収集することができる。以降では、MRシネ画像データとして、左冠動脈及び右冠動脈の双方が描出される時系列の四腔断面画像(4-chamber view)データが収集される場合を例に説明するが、着目する冠動脈が描出される心臓の断面画像データであれが、アキシャル断面画像データ等の所望の画像データをMRシネ画像データとして収集することができる。
データ処理部41は、撮像条件設定部40において設定された撮像条件下におけるイメージングスキャンによって収集されたMR信号をシーケンスコントローラ31から取得してk空間データ記憶部42に形成されたk空間に配置する機能、k空間データ記憶部42からk空間データを取り込んでフーリエ変換(FT: Fourier transform)を含む画像再構成処理を施すことにより画像データを再構成する機能、再構成して得られた画像データを画像データ記憶部43に書き込む機能、画像データ記憶部43から取り込んだ画像データに必要な画像処理を施して表示装置34に表示させる機能を有する。加えて、データ処理部41は、被検体Pの心臓をカバーするMR画像データ及び冠動脈が描出されたMRシネ画像データに基づいて図3(A)に示すような冠動脈の静止期間を検出する機能を有している。
画像生成部41Aは、MR信号に対する画像再構成処理及び必要な画像処理によってMR画像データを生成する機能を有する。例えば、心臓形態撮像条件設定部40Aにおいて設定された撮像条件でMR信号が収集された場合には、画像生成部41Aは、MR信号に基づいて心臓をカバーするMR画像データを生成する。また、心臓シネ撮像条件設定部40Bにおいて設定された撮像条件でMR信号が収集された場合には、画像生成部41Aは、MR信号に基づいて冠動脈が描出されたMRシネ画像データを生成する。
このためコンピュータ32の画像生成部41Aが、静磁場用磁石21、シムコイル22、傾斜磁場コイル23及びRFコイル24等のハードウェアと協働することによって、磁気共鳴イメージング装置20には、被検体Pの心臓をカバーするMR画像データと、被検体Pの冠動脈が描出されたMRシネ画像データとを収集する画像収集部としての機能が備えられる。但し、同様な機能が備えられれば、他の構成要素によって画像収集部を構成してもよい。
特徴点検出部41Bは、心臓をカバーするMR画像データに基づいて心臓の特徴点の位置を検出する機能を有する。データ処理部41において、右冠動脈の静止期間を検出する場合には、心臓の特徴点として心尖部及び三尖弁の各空間位置が自動検出される。一方、データ処理部41において、左冠動脈の静止期間を検出する場合には、心臓の特徴点として心尖部及び僧帽弁の各空間位置が自動検出される。従って、心臓の特徴点として心尖部の空間座標が少なくとも自動検出され、左右冠動脈の静止期間を検出する場合には、僧帽弁、心尖部及び三尖弁の3点の空間座標が自動検出される。
尚、心臓をカバーするMR画像データがマルチスライス画像データとして収集された場合には、スライス間隔がスライス内における解像度よりも粗くなる場合がある。そこで、解像度に関する異方性を除去するために、心臓の特徴点の検出に先だってマルチスライス画像データの解像度を3軸方向に同一にする等方化処理を行うようにしてもよい。等方化処理は、補間処理及び不要な点を除去する処理によって行うことができる。等方化処理を行う場合には、等方化処理後の心臓をカバーするボリューム画像データに基づいて心臓の特徴点が検出される。
心臓の特徴点の検出方法は任意である。心臓の特徴点を高精度に自動検出する方法としては、機械学習に基づく手法が挙げられる。機械学習に基づく手法では、複数の辞書ファイルデータが用いられる。そのために、辞書ファイル記憶部44には、心臓の特徴点を検出するための複数の辞書ファイルデータが保存される。
辞書ファイルデータは、心臓を含むボリューム画像データから心臓の心尖部、僧帽弁及び三尖弁等の特徴点の位置を特定するための判断基準をパラメータの組み合わせとして表したデータである。一方、辞書ファイルによって特定されるパラメータを参照することによって、心臓の特徴点を判別するためのアルゴリズムや関数を準備しておくことができる。
具体例として、心臓を含むボリューム画像データの各位置における画素値を表す行列を入力とし、辞書ファイルを参照することによって、心尖部、僧帽弁の尖端位置及び三尖弁の尖端位置等の特徴点の位置ベクトルを出力として返す非線形の行列式を作成することができる。或いは、ボリューム画像データの各位置における画素値を表す行列を入力とし、辞書ファイルを参照してそれらに関する統計量や確率分布等の情報に基づいて、心臓の特徴点に対応する位置ベクトルを返す関数を作成することもできる。
このため、辞書ファイル記憶部44に保存された辞書ファイルを参照することによって、特徴点の空間位置を判別することが可能となる。この場合、特徴点検出部41Bは、辞書ファイルを参照して特徴点の空間位置を判別する判別器として機能する。
辞書ファイルは、上述のように心臓の解剖学的な形態を複数のパラメータの組み合わせとして表現したものであり、心臓の各部位の形態に関する解剖学的知見及び多数の被検体の心臓の形態画像データに基づいて作成することができる。例えば、疾患別の多数の心臓の形態情報に基づいて、いわゆる学習理論によって辞書ファイルを構成するパラメータの組み合わせを算出することができる。
具体的には、特定したい特徴部位を含む周辺領域、例えば、特定したい部位が僧帽弁であれば、僧帽弁と僧帽弁を囲む血液領域並びに心筋等からなる領域に関して、各点の信号値、各信号値間の勾配、信号値及び勾配に関するヒストグラム情報等からなる多次元のベクトル情報を辞書ファイルとすることができる。
そして、多数の辞書ファイルデータを作成して、辞書ファイル記憶部44に保存することによって、特徴点検出部41Bを心臓の心尖部等の特徴点を判別するための判別器(識別器)として利用することができる。換言すれば、辞書ファイル記憶部44に保存される各辞書ファイルは、特徴点検出部41Bにおける特徴点の位置の計算のための参照データとして利用することができる。
すなわち、特徴点検出部41Bは、アキシャル断面画像データ等の単純な複数の断面画像データ又は複数の断面画像データから生成されるボリューム画像データに基づいて、解剖学的知見及び他の複数の被検体の心臓の形態画像データの少なくとも一方から生成される参照データを参照して心臓の特徴点の位置情報の検出処理を行うことができる。
尚、辞書ファイル記憶部44には、他の磁気共鳴イメージング装置又はX線CT (computed tomography)装置等の他の画像診断装置において収集された心臓形態画像データに基づく辞書ファイルを追加してもよい。また、被検体の体型や疾患の種類等の特徴ごとに統計的に処理及び作成された辞書ファイルを準備しておくことが好適である。
心臓の特徴点の検出方法の別の例としては、アキシャル断面画像データ等の単純な複数の断面画像データ又は複数の断面画像データから生成されるボリューム画像データに対する解剖学知見に基づく信号処理による方法が挙げられる。
例えば、血流からの信号が強調される条件でアキシャル断面画像データが収集された場合には、大動脈から左室及び心尖部までの血流からの信号値が連続性を有するという解剖学的知識に基づいて、ボリューム画像データから画素値の大きい部分を検出することによって心臓の特徴点を解析的に自動検出することができる。
より具体的には、あるアキシャル断面画像データにおいて、大動脈に関する空間的位置の既知情報に基づいて大動脈の探索範囲を決定する。次に、大動脈の探索範囲において画素値が最大となる位置が検出される。更に、アキシャル方向に最大画素値となる点を追跡し、検出された点群を結ぶと大動脈の中心線を求めることができる。このように求めた大動脈の中心線の端部を検出することによって、心尖部を自動検出することができる。また、血管の中心線周囲における画素値の勾配を計算し、僧帽弁の形状に対応する画素値の勾配を検出することによって、僧帽弁の尖端位置を自動検出することができる。更に、同様な方法で三尖弁の尖端位置も自動検出することができる。つまり、血液からの信号の連続性を利用して血管の位置とともに心臓の特徴点を自動検出することができる。
更に、辞書ファイルデータを参照した心臓の特徴点の位置情報の検出処理と、解剖学知見に基づく信号処理による心臓の特徴点の位置情報の検出処理とを、所望の条件に応じて切換えるようにしても良い。具体例として、解剖学知見に基づく信号処理を含む第1のアルゴリズムにより心臓の特徴点の位置情報の検出処理を行い、第1のアルゴリズムによる特徴点の位置情報の検出精度に応じて、解剖学的知見及び他の複数の被検体の心臓の形態画像データの少なくとも一方から生成される辞書ファイルデータを参照した第2のアルゴリズムによる特徴点の位置情報の検出処理を行う方法が挙げられる。
また、心臓の特徴点の検出方法の更に別の例として、2Dパターンマッチングを行う自動計算アルゴリズムにより暫定的に計算された心臓の特徴点の位置を補正することによって、正確な特徴点の位置を計算する方法がある。
具体的には、ボリューム画像データと参照データとの初期断面上における2Dパターンマッチングを行う自動計算アルゴリズムによってボリューム画像データから初期断面上における心尖部及び僧帽弁の尖端位置が計算される。
次に、初期断面上における心尖部及び僧帽弁の尖端位置を結ぶ第1の長軸の位置を表す式が計算される。但し、初期断面は、自動計算アルゴリズムにおける2Dパターンマッチングのために暫定的に設定される断面であるため、心尖部、僧帽弁の尖端及び第1の長軸の位置の計算精度は粗くなる。そこで、精度が粗い第1の長軸を中心として初期断面が回転される。
次に、等方化処理前における複数のアキシャル断面画像データの解像度が最も高くなるような初期断面の回転角度が検出される。すなわち、アキシャル断面画像データは異方性を有するため、アキシャル断面画像データと交差する断面の法線方向によって解像度が異なる。そこで、心尖部及び僧帽弁の尖端位置を高精度に検出するための高解像度の断面が検出される。
次に、検出された高解像度断面上でのアキシャル断面画像データと参照データとの2Dパターンマッチング又はアキシャル断面画像データの画素値の特徴点検出により正確な心尖部及び僧帽弁の位置を検出することができる。
また、三尖弁の尖端位置についても、僧帽弁の尖端位置と同様な方法で検出することができる。或いは、三尖弁の尖端位置については、僧帽弁の尖端と心尖部を結ぶ直線として求めらる心臓の長軸に直交する左室短軸像データを生成し、左室短軸像データに対するテンプレートマッチングや画素値判定等の特徴点検出処理によって検出することもできる。
上述の方法の他、被検体Pの特徴及び疾患別に準備した各特徴点の多数のテンプレートを用いたテンプレートマッチングによってもボリューム画像データから各特徴点の位置を自動検出することができる。
上述した各種方法に依れば、心臓の特徴点のみならず、心臓検査に必要な6つの基準断面、すなわち垂直長軸像(vertical long-axis view)、水平長軸像(horizontal long-axis view)、二腔断面画像(2-chamber view)、三腔断面画像(3-chamber view)、四腔断面画像及び左室短軸像(left ventricle short axis view)の各空間位置も自動的に検出することができる。
従って、特徴点検出部41Bにおいて基準断面の空間位置を自動検出し、検出した基準断面の空間位置を利用してMRシネ画像データ用の撮像断面の位置決めを行うことができる。実用的には、特徴点検出部41Bにおいて自動検出された基準断面の空間位置を心臓シネ撮像条件設定部40Bに与え、表示装置34に表示させることができる。そして、入力装置33の操作によって基準断面の空間位置に必要な微調整を行うことによって、MRシネ画像データ用の撮像断面を設定することができる。
左右冠動脈が描出される心臓の基準断面画像は、四腔断面画像である。従って、例えば、特徴点検出部41Bにおいて心臓全体をカバーするMRボリューム画像データから四腔断面画像の空間位置を自動検出し、自動検出された四腔断面画像の空間位置に必要な調整を施すことによって、MRシネ画像データ用の撮像断面として心臓の四腔断面を設定することができる。四腔断面の位置は、例えば、僧帽弁の尖端と心尖部を結ぶ直線として求めらる心臓の長軸を含み、三尖弁の尖端位置を通る断面、つまり僧帽弁の尖端位置、心尖部及び三尖弁の尖端位置の3点を通る断面として検出することができる。
冠動脈検出部41Cは、MRシネ画像データに対するフレームごとのテンプレートマッチングによって冠動脈の代表位置のフレーム方向における変化を検出する機能を有する。テンプレートマッチングは、テンプレートを用いて対象画像のパターンマッチングを行う画像認識処理である。特に、冠動脈検出部41Cは、MRシネ画像データにおけるテンプレートマッチング用の少なくとも初期の空間的な探索領域を、特徴点検出部41Bにおいて検出された特徴点の位置に基づいて設定するように構成されている。尚、初期よりも後の探索領域については、探索対象となる2D断面の位置が特定されていれば2D探索領域とすることができる。
図4は、冠動脈のテンプレートマッチング用の初期の空間探索領域の設定方法を説明する図である。
心臓は、右室(RV: right ventricle)、右房(RA: right atrium)、左房(LA: left atrium)及び左室(LV: left ventricle)の4つの腔(chamber)を有する。LAとLVとの間は、僧帽弁で区切られる。一方、RAとRVとの間は、三尖弁で区切られる。従って、RV、RA、LV及びLAの4つの腔が描出される四腔断面上には、僧帽弁、心尖部及び三尖弁の3点が特徴点として描出される。
そして、特徴点検出部41Bにより、図4に示すように、四腔断面上における2D位置として、僧帽弁、心尖部及び三尖弁の空間座標を検出することができる。特徴点の位置として僧帽弁、心尖部及び三尖弁の位置が検出されると、検出された心尖部、三尖弁及び僧帽弁の各位置に基づいて少なくとも右冠動脈の初期の空間探索領域及び左冠動脈の初期の空間探索領域を設定することができる。
具体的には、心尖部と三尖弁とを結ぶ線分を第1の線分、三尖弁と右冠動脈の推定位置とを結ぶ線分を第2の線分、心尖部と僧帽弁とを結ぶ線分を第3の線分、僧帽弁と左冠動脈の推定位置とを結ぶ線分を第4の線分とすると、第1の線分の長さ(心尖部と三尖弁との間における距離)Aと、第2の線分の長さ(三尖弁と右冠動脈の推定位置との間における距離)Bの比率A/B、第1の線分と第2の線分とのなす角θ1、第3の線分の長さ(心尖部と僧帽弁との間における距離)Cと第4の線分の長さ(僧帽弁と左冠動脈の推定位置との間における距離)Dの比率C/D、第3の線分と第4の線分とのなす角θ2は被検体Pに依らず同様な値となる。
そこで、予め複数の被検体Pを対象として比率A/B、比率C/D、角度θ1及び角度θ2を測定しておくことができる。そして、比率A/B、比率C/D、角度θ1及び角度θ2の平均値等を経験値として、右冠動脈及び左冠動脈の位置を推定することができる。すなわち、僧帽弁、心尖部及び三尖弁の座標に基づいて大まかな右冠動脈及び左冠動脈の位置をそれぞれ推定し、右冠動脈及び左冠動脈の各推定位置を基準とする所定の範囲を右冠動脈の初期の空間探索領域及び左冠動脈の初期の空間探索領域にぞれぞれ設定することができる。
つまり、第1の線分の長さAと第2の線分の長さBの比率A/Bの経験値及び第1の線分と第2の線分とのなす角θ1の経験値により特定される点を基準とする領域として右冠動脈の初期の空間探索領域を設定することができる。一方、第3の線分の長さCと第4の線分の長さDの比率C/Dの経験値及び第3の線分と第4の線分とのなす角θ2の経験値により特定される点を基準とする領域として左冠動脈の初期の空間探索領域を設定することができる。
別の方法として、予め複数の被検体Pを対象として比率A/B、比率C/D、角度θ1及び角度θ2を測定することによって、比率A/B、比率C/D、角度θ1及び角度θ2の取り得る範囲を求めておくことができる。そうすると、第1の線分の長さAと第2の線分の長さBの比率A/Bが取り得る範囲及び第1の線分と第2の線分とのなす角θ1が取り得る範囲に対応して特定される右冠動脈の位置の取り得る範囲を右冠動脈の初期の空間探索領域に設定することができる。一方、第3の線分の長さCと第4の線分の長さDの比率C/Dが取り得る範囲及び第3の線分と第4の線分とのなす角θ2が取り得る範囲に対応して特定される左冠動脈の位置の取り得る範囲を左冠動脈の初期の空間探索領域に設定することができる。
このように、冠動脈検出部41Cは、テンプレートマッチング用の少なくとも初期の空間探索領域を、特徴点検出部41Bにおいて検出された特徴点の位置に基づいて絞り込む機能を有している。このため、テンプレートマッチングによってMRシネ画像データから確実に冠動脈を追跡することが可能となる。
尚、心臓の特徴点が、拡張中期に収集されたMRボリューム画像データに基づいて自動検出された場合であれば、心臓の特徴点の各位置は、拡張中期における位置として検出されることになる。従って、心臓の拡張中期におけるMRシネ画像データに初期の空間探索領域が設定される。すなわち、MRシネ画像データの心臓の拡張中期におけるフレームが、テンプレートマッチングの対象となる初期フレームとされる。
テンプレートマッチングの対象となるMRシネ画像データの最初のフレームに、冠動脈の初期の空間探索領域が設定されると、テンプレートマッチングを開始することが可能となる。初期の空間探索領域を対象とするテンプレートマッチング用のテンプレートは、予め準備しておくことができる。但し、冠動脈の形状の時間変化や被検体Pごとの冠動脈の形状のばらつき等を考慮して、冠動脈の典型的な形状を模擬した複数のテンプレートを準備しておくことが好適である。
図5は、初期の空間探索領域におけるテンプレートマッチング用のテンプレートの一例を示す図である。
図5に示すように心臓の拡張中期における冠動脈の典型的な形状を模擬した複数のテンプレートT1, T2, T3, T4を準備しておくことができる。すなわち、同一の心時相又は所定の時相区間に対応する複数のテンプレートT1, T2, T3, T4を準備しておくことがテンプレートマッチングによる確実な冠動脈の検出に繋がる。
従って、左右冠動脈の双方を対象としてテンプレートマッチングを行う場合には、同一の心時相又は所定の時相区間に対応する複数の左冠動脈用のテンプレートと、同一の心時相又は所定の時相区間に対応する複数の右冠動脈用のテンプレートとをそれぞれ準備しておくことが好適である。冠動脈のテンプレートT1, T2, T3, T4は、320ピクセル四方の四腔断面画像データに描出された冠動脈を探索する場合には、25ピクセル四方程度の画像データとなる。尚、図5に示す複数のテンプレートT1, T2, T3, T4は、右冠動脈用のテンプレートである。
複数のテンプレートを準備した場合におけるテンプレートの選択方法としては、実際に複数のテンプレートを用いてテンプレートマッチングを行い、正規化後の相関係数が最も1に近い値となるテンプレートを初期のテンプレートとして選択する方法が実用的である。つまり、冠動脈の形状を模擬した複数のテンプレートのうち、初期の空間探索領域を対象とするテンプレートマッチングの結果、最も一致度が大きいテンプレートを初期の空間探索領域のテンプレートマッチング用のテンプレートとして採用することができる。
テンプレートマッチングにおいて一致度の指標として計算される正規化後の相関係数r
xyは、例えば式(1)で表される評価関数で算出することができる。
式(1)で計算される正規化後の相関係数rxyは、-1から1までの値を取る。テンプレートの輝度値が探索領域内の対応する領域の輝度値に完全に一致すれば正規化後の相関係数rxyは1となる。一方、テンプレートの輝度値と探索領域内の対応する領域の輝度値との間に関連性がない場合には、正規化後の相関係数rxyは0となる。また、テンプレートの輝度値のパターンが探索領域内の対応する領域の輝度値のパターンと完全に一致しているが濃淡が反転している場合には正規化後の相関係数rxyが-1となる。
このような相関係数の値を指標とするテンプレートマッチングを行うと、探索領域内におけるテンプレートの相対位置として左右冠動脈の代表位置を高精度に特定することができる。
冠動脈の代表位置のフレーム方向における変化を検出するためには、複数フレームに対応する初期以降の複数の探索領域を対象とするテンプレートマッチングによってMRシネ画像データからフレームごとに冠動脈の代表位置を検出することが必要である。従って、初期の空間探索領域よりも後の探索領域についても、初期の空間探索領域と同様に絞り込むことが重要である。
そこで、簡易な方法として、初期の空間探索領域よりも後の探索領域を初期の空間探索領域と同じ領域か一回り大きい一定の領域にすることができる。この場合には、テンプレートマッチング用の全ての探索領域が、特徴点検出部41Bにおいて検出された特徴点の位置に基づいて設定されることになる。また、冠動脈の位置や形状が変化しても確実に探索領域内となるように、探索領域のサイズが少なくとも冠動脈の位置が取り得る範囲に決定される。
具体例として、25ピクセル四方のテンプレートでテンプレートマッチングを行うことによって、320ピクセル四方の四腔断面画像データに描出された冠動脈を探索する場合であれば、冠動脈の位置変化を考慮して、初期の空間探索領域を50ピクセル四方程度の領域に、その後の探索領域を70ピクセル四方程度の領域に、それぞれ設定することができる。
別の方法として、初期の空間探索領域よりも後の探索領域を、過去に検出された冠動脈の代表位置に基づいて、所定のフレーム間隔で更新する方法が挙げられる。この場合には、初期の空間探索領域が特徴点検出部41Bにおいて検出された特徴点の位置に基づいて設定され、2フレーム以降の探索領域は、過去に検出された冠動脈の代表位置に基づいて設定されることになる。具体的には、2フレーム以降の探索領域を、前フレーム以前の冠動脈の代表位置を中心とする所定の範囲に設定することができる。この場合には、探索領域を変えない場合に比べて、探索領域のサイズを小さくすることができる。
例えば、25ピクセル四方のテンプレートでテンプレートマッチングを行うことによって、320ピクセル四方の四腔断面画像データに描出された冠動脈を探索する場合であれば、全ての探索領域を50ピクセル四方程度の領域に設定することができる。このため、テンプレートマッチングに要する時間を短縮することができる。
テンプレートマッチングによる探索対象となる左右冠動脈の位置及び形状は心時相に応じて変化する。また、血液の流入時と流出時との間では、左右冠動脈における輝度値も変化する。このため、同一のテンプレートを使用すると、左右冠動脈の追跡が困難となる恐れがある。
そこで、異なる心時相に対応する複数のテンプレートを予め準備しておくことができる。具体的には、少なくとも左冠動脈用の拡張期のテンプレート、右冠動脈用の拡張期のテンプレート、左冠動脈用の収縮期のテンプレート及び右冠動脈用の収縮期のテンプレートを予め準備しておき、心時相に応じてテンプレートを更新することが好適である。この場合、より多くの心時相に対応するテンプレートを準備することによって冠動脈の追跡能を確保することができる。
但し、より確実に冠動脈を追跡できるようにする方法として、MRシネ画像データの一部をテンプレートマッチング用の少なくとも1つのテンプレートとして用いる方法が挙げられる。具体的には、初期の空間探索領域よりも後の探索領域を対象とするテンプレートマッチング用のテンプレートを、過去のテンプレートマッチングによって特定された、冠動脈が描出されている領域のMRシネ画像データに、所定のフレーム間隔で更新することができる。これにより、多数のテンプレートの準備を不要にし、かつ冠動脈の形状変化に追従してテンプレートを更新することが可能となる。
図6は、テンプレートマッチング用のテンプレートの更新方法を説明する図である。
図6に示すように、予め準備した初期のテンプレートを用いてシネ画像データの初期の空間探索領域を対象とするテンプレートマッチングを行うことができる。初期の空間探索領域は、僧帽弁、心尖部及び三尖弁等の特徴点の位置に基づいて推定された冠動脈の位置を中心とする一定の範囲内の領域とすることができる。
初期のテンプレートを用いた初期の空間探索領域内のテンプレートマッチングが完了すると、初期のテンプレートの位置として初期の空間探索領域内における冠動脈の代表位置が特定される。そこで、初期の空間探索領域内における初期のテンプレートの位置に対応する一点鎖線え囲まれた矩形領域を切出して、次の探索領域用のテンプレートとして用いることができる。
このため、次の探索領域内のテンプレートマッチングには、前フレームのシネ画像データの一部がテンプレートとして用いられることになる。このような、シネ画像データの探索領域内におけるテンプレートマッチング後のテンプレートの位置に対応する領域の切出し、切出されたシネ画像データへのテンプレートの更新及び更新されたテンプレートによる次のフレームの探索領域内におけるテンプレートマッチングを、テンプレートマッチングの対象となる最後のフレームまで繰返すことができる。
尚、図6は、フレームごとにテンプレートを更新する場合の例を示しているが、複数フレームごとにテンプレートを更新するようにしてもよい。また、冠動脈が占める領域に限定せずに、冠動脈の周囲の組織を含む領域に対応するテンプレートをテンプレートマッチングに用いることが冠動脈の確実な追跡に有効である。
このような、探索領域に限定したテンプレートマッチングを時系列の複数フレームのシネ画像データに対して順次実行すると、相互相関係数が最大となる時のテンプレートの位置をフレームごとに求めることができる。そして、フレーム方向におけるテンプレートの位置の変化をプロットすることができる。
フレーム方向におけるテンプレートの位置変化は、冠動脈の代表位置の変化とみなすことができる。従って、左右の冠動脈に対応するテンプレートを用いて左右の冠動脈に対応する探索領域のテンプレートマッチングを時系列の複数フレームのシネ画像データに対して順次実行すれば、右冠動脈の代表位置のフレーム方向における変化及び左冠動脈の代表位置のフレーム方向における変化を検出することができる。
静止期間検出部41Dは、冠動脈の代表位置のフレーム方向における変化に基づいて冠動脈が静止しているとみなせる期間を検出する機能を有する。
図7は、冠動脈の代表位置のフレーム方向における変化に基づいて冠動脈の静止期間を検出した例を示す図である。
図7において縦軸はテンプレートのフレーム間における移動距離[pixel]を示し、横軸は時系列のフレーム番号を示す。フレーム間においてテンプレートが移動した直線距離を算出してプロットすると、図7に示すようなテンプレートの移動距離を表す折れ線グラフが得られる。テンプレートの移動距離は、冠動脈の移動距離を表している。このため、テンプレートの移動距離が最小となるフレームの区間を、静止相として判別することができる。
図7に示す例では、テンプレートの移動距離がゼロとなっているフレームの区間が2回現れている。2つの区間は、拡張期及び収縮期における冠動脈の静止期間に対応していると考えられる。そこで、2つのフレーム区間に対応する心時相の期間を、それぞれ冠動脈の静止期間として検出することができる。
尚、複数の被検体Pを対象として同様なテンプレートの移動距離を表すグラフを作成したところ、全てのグラフにテンプレートの移動距離がゼロとなるフレームの区間が現れた。
冠動脈は静止期間の終了時には急激に移動するが、静止期間の開始時には緩やかに停止することが知られている。従って、冠動脈が低速で移動する静止期間前の期間が静止期間として判別される恐れがある。すなわち、冠動脈の静止期間が本来の静止期間よりも早く検出される可能性がる。
そこで、予め多数の被検体Pを対象として冠動脈の静止期間の長さを測定しておき、静止期間の長さの取り得る範囲を決定しておくようにしてもよい。その場合には、テンプレートの移動距離を表すグラフから検出された冠動脈の静止期間の長さが、統計的に決定された閾値を超える場合には、検出された冠動脈の静止期間の長さを所定の長さに補正する処理を実行することができる。具体的には、検出された冠動脈の静止期間の終了時相を変えずに開始時相を遅らせることによって静止期間の長さを許容される長さまで短くする補正を行うことができる。
次に磁気共鳴イメージング装置20の動作及び作用について説明する。
図8は、図1に示す磁気共鳴イメージング装置20の動作の一例を示すフローチャートである。
まず予め寝台37に被検体Pがセットされ、静磁場電源26により励磁された静磁場用磁石21(超伝導磁石)の撮像領域に静磁場が形成される。また、シムコイル電源28からシムコイル22に電流が供給されて撮像領域に形成された静磁場が均一化される。
更に、撮像条件設定部40において、少なくとも被検体Pの心臓が描出されたアキシャル断面画像データ、コロナル断面画像データ及びサジタル断面画像データをスカウト画像データとして収集するためのパルスシーケンスを含む撮像条件が設定される。設定された撮像条件は、シーケンスコントローラ31に出力される。
そうすると、シーケンスコントローラ31は、撮像条件に従って傾斜磁場電源27、送信器29及び受信器30を駆動させることにより被検体Pがセットされた撮像領域に傾斜磁場を形成させるとともに、RFコイル24からRF信号を発生させる。このため、被検体Pの内部における核磁気共鳴により生じたMR信号が、RFコイル24により受信されて受信器30に与えられる。受信器30は、RFコイル24からMR信号を受けて、シーケンスコントローラ31に与える。シーケンスコントローラ31は、MR信号をデータ処理部41に出力する。
データ処理部41は、MR信号をk空間データ記憶部42に形成されたk空間にk空間データとして配置する。次に、画像生成部41Aは、k空間データ記憶部42からk空間データを取得して画像再構成処理を施す。これにより、被検体Pの心臓が描出されたアキシャル断面画像データ、コロナル断面画像データ及びサジタル断面画像データがスカウト画像データとして生成される。生成されたスカウト画像データは、イメージング領域の設定用に表示装置34に表示される。
そして、ステップS1において、ECG同期下において心臓の拡張中期に心臓をカバーするMR画像データが収集される。一例として、心臓全体をカバーする複数フレームのアキシャル断面画像データが収集される。
そのために、撮像条件設定部40は、スカウト画像データを参照して心臓全体をカバーするアキシャル方向の複数のスライス断面を撮像断面として設定する。また、図3(B)に例示されるように、心臓のR波間(R-R)の約75%の心時相でMR信号が収集されるように、R波からの遅延時間が設定される。
そして、スカウト画像データの収集と同様な流れで複数のアキシャル断面画像データが収集される。但し、複数のアキシャル断面画像データの収集は、ECG同期下において実行される。また、望ましくは、息止め中にアキシャル断面のマルチスライス撮像が実行される。収集された心臓全体をカバーする複数フレームのアキシャル断面画像データは、画像データ記憶部43に保存される。
次にステップS2において、特徴点検出部41Bにより、複数フレームのアキシャル断面画像データから心臓の特徴点及び基準断面が自動検出される。すなわち、任意の特徴点検出処理によって心尖部、僧帽弁及び三尖弁の位置が自動検出される。併せて、四腔断面等の心臓の基準断面の位置が特徴点検出部41Bにより自動計算される。
自動計算された四腔断面の位置は、表示装置34に表示される。そして、ユーザは、入力装置33の操作によって四腔断面の位置を微調整し、シネ画像データの撮像断面に設定することができる。
次にステップS3において、冠動脈検出部41Cにより、四腔断面のシネ画像データから左右冠動脈の位置を検出するための初期の空間探索領域が、特徴点検出部41Bにより検出された特徴点の位置に基づいて設定される。具体的には、図4に示すように心尖部、僧帽弁及び三尖弁の位置に基づいて左冠動脈の位置及び右冠動脈の位置がそれぞれ推定される。
そして、左冠動脈の推定位置を中心とする所定の範囲が左冠動脈の初期の空間探索領域に設定される。同様に、右冠動脈の推定位置を中心とする所定の範囲が右冠動脈の初期の空間探索領域に設定される。初期の空間探索領域のサイズは、320ピクセル四方の四腔断面画像データを収集する場合であれば、50ピクセル四方程度にすることができる。
次にステップS4において、左右冠動脈及び心臓が描出される四腔断面のシネ撮像が開始される。すなわち、ECG同期下において時系列の複数フレームの四腔断面画像データが順次収集される。
次にステップS5において、冠動脈検出部41Cは、拡張中期のフレームのシネ画像データをテンプレートマッチングの対象として選択し、予め準備した左右冠動脈のテンプレートを初期のテンプレートに設定する。すなわち、心臓全体をカバーするアキシャル断面画像データが収集された心時相と同一とみなせるR波間(R-R)の約75%の心時相における四腔断面画像データがテンプレートマッチングの最初の対象として選択される。R波間(R-R)の約75%の心時相における四腔断面画像データは、R波間(R-R)に60フレームの四腔断面画像データが収集される場合であれば、45フレーム目の四腔断面画像データとなる。
上述のようにアキシャル断面画像データが収集された心時相と同一又は近い心時相の四腔断面画像データを選択すると、心尖部、僧帽弁及び三尖弁の位置に基づいて推定された左右冠動脈の位置を、四腔断面画像データ上における左右冠動脈の推定位置とみなすことができる。
但し、心臓の大きさや形状には個人差があるため、左右冠動脈の推定位置は、必ずしも正確な左右冠動脈の位置とはならない。そこで、選択された拡張中期の四腔断面画像データがテンプレートマッチングによる左右冠動脈の初期の探索対象とされる。そのためのテンプレートには、予め準備された左右冠動脈のテンプレートが用いられる。初期のテンプレートは、図5に例示されるような左右の冠動脈の特徴的な複数種類のテンプレートから選択されたテンプレートとすることが左右冠動脈を確実に探索する観点から望ましい。
次にステップS6において、冠動脈検出部41Cは、拡張中期の四腔断面画像データに設定された左右冠動脈の初期の空間探索領域を対象とするテンプレートマッチングを行う。これにより、左右冠動脈のテンプレートの位置として、それぞれ左右冠動脈の代表位置を検出することができる。左冠動脈用のテンプレート及び右冠動脈用のテンプレートの少なくとも一方として複数種類のテンプレートを用いてテンプレートマッチングを行う場合には、相互相関係数が最大となるテンプレートの位置を、冠動脈の代表位置とすることができる。
尚、拡張中期の四腔断面画像データに対するテンプレートマッチングの対象領域は、ステップS3において心臓の特徴点の位置に基づいて設定された初期の空間探索領域内に限定される。このため、簡易な処理で精度良く冠動脈の代表位置を検出することができる。
次にステップS7において、冠動脈検出部41Cは、左右冠動脈用のテンプレートの各位置として特定された左右冠動脈の代表位置を記録する。
次にステップS8において、冠動脈検出部41Cは、冠動脈の位置の検出対象となる次のフレームの四腔断面画像データが存在するか否かを判定する。次のフレームが存在すると判定された場合には、ステップS9において、左右冠動脈の検出位置を含む現フレームの四腔断面画像データの領域が次フレームのテンプレートとして切出される。
具体的には、図6に示すように、テンプレートマッチングによって現在のフレームの探索領域内において特定されたテンプレートの位置に対応する四腔断面画像データの部分が、次のフレーム用のテンプレートとして切出される。これにより、左右冠動脈用のテンプレートが現在のフレームにおける左右冠動脈の輝度値に応じてそれぞれ更新される。
次フレーム用に切出されるテンプレートのサイズは、320ピクセル四方の四腔断面画像データを収集する場合であれば、冠動脈のみならず、冠動脈の周囲の組織も含まれるように25ピクセル四方程度とすることが適切である。これにより、冠動脈のより正確な追跡が可能となる。
次にステップS10において、必要に応じて左右冠動脈の検出位置に応じてテンプレートマッチングの対象となる探索領域も更新される。例えば、テンプレートマッチングによって特定されたテンプレートの中心位置を中心とする所定の範囲を次フレームの探索領域に設定することができる。
或いは、初期のフレームと、2フレーム以降との間においてのみ探索領域を更新するようにしてもよい。例えば、320ピクセル四方の四腔断面画像データを収集する場合であれば、左右冠動脈が移動しても確実に探索領域内となるように、2フレーム以降の探索領域のサイズを70ピクセル四方程度に設定することができる。
次フレーム用のテンプレート及び探索領域が定まると、次フレームの四腔断面画像データを対象として、再びステップS6におけるテンプレートマッチング及びステップS7における左右冠動脈の代表位置の記録が行われる。そして、ステップS9におけるテンプレートの更新、ステップS10における探索領域の更新、ステップS6におけるテンプレートマッチング及びステップS7における左右冠動脈の代表位置の記録が、ステップS8の判定において、次フレームが存在しないと判定されるまで繰返される。すなわち、テンプレートを更新しながら、対象となる全フレームの四腔断面画像データに対してテンプレートマッチング及びテンプレートの位置の記録が順次実行される。
全フレームの四腔断面画像データに対するテンプレートマッチング及びテンプレートの位置の記録が完了すると、ステップS8の判定において、次フレームが存在しないと判定される。そうすると、ステップS11において、左右冠動脈の位置変化に基づく冠動脈の静止期間の検出が静止期間検出部41Dにより実行される。
隣接するフレーム間におけるテンプレートの中心位置の移動距離を計測してプロットすると、図7に示すようなグラフが得られる。そうすると、図7に示すグラフは、冠動脈の代表位置の移動距離の変化とみなすことができる。このため、テンプレートの中心位置の移動距離が閾値以下となるフレームの区間を冠動脈の静止期間として抽出することができる。図7に示す例では、テンプレートの中心位置の移動距離がゼロとなるフレームの区間が、冠動脈の静止期間として抽出されている。
尚、実際には図7に示すようなグラフを作成せずに、閾値処理を含む数値計算のみによって冠動脈の静止期間を検出するようにしてもよい。
冠動脈の静止期間が検出されると、冠動脈の静止期間を利用した所望のイメージングを実行することが可能となる。実行される頻度が高い磁気共鳴血管撮像(MRA: magnetic resonance angiography)としては、WHCA (Whole-heart Coronary MRA)及び遅延造影(DE: delayed enhancement) イメージングが挙げられる。造影剤の投与を伴うDEイメージングとWHCAの双方を行う場合には、撮像時間短縮化のため、造影剤が被検体Pに投与されてからDE像の撮像が可能となるまでの10〜15分間にWHCAを実行し、その後、DEイメージングを行う場合が多い。
その場合には、ステップS12において、冠動脈の静止期間を利用したWHCAが実行される。次にステップS13において、冠動脈の静止期間を利用したDE-MRIが実行される。
尚、DEイメージング及びWHCAの他、FBI(Fresh Blood Imaging)法によるイメージングを冠動脈の静止期間中に行うというニーズもある。FBI(Fresh Blood Imaging)法は、R波等の被検体Pの心時相を表す基準波に同期したトリガ信号から所定時間遅延させて複数心拍毎にエコーデータを繰り返して収集する非造影MRAである。
つまり以上のような磁気共鳴イメージング装置20は、僧帽弁、三尖弁及び心尖部の3つの特徴点の検出位置に基づいて左右冠動脈の推定位置を絞り込み、探索領域に限定したテンプレートマッチングによって冠動脈の位置変化及び冠動脈の位置変化が小さい静止相を求めるようにしたものである。更に、磁気共鳴イメージング装置20は、テンプレートマッチングに用いられるテンプレートを、冠動脈が描出された直前の画像データに更新しながらシネ画像に描出された冠動脈を追跡するようにしたものである。
このため、磁気共鳴イメージング装置20によれば、冠動脈の静止期間を簡易に自動検出することができる。すなわち、技師が画像を目視しながら手動で冠動脈に対応するROIを指定するという従来必要であった煩雑な作業を省略することができる。このため、検査時間の短縮に繋がる。
また、冠動脈の形状が時相とともに変化しても、冠動脈の形状に追従してテンプレートを更新することができる。このため、テンプレートマッチングによって冠動脈を確実に追跡することができる。その結果、技師と同様な精度で冠動脈の静止期間を判別することができる。
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
例えば、上述した実施形態では、冠動脈の静止期間を特定した後に、冠動脈の静止期間に他のイメージングを行う場合を例として説明したが、診断画像データの収集後に後処理として冠動脈の静止期間を検出する場合においても同様な方法で静止期間を検出することができる。従って、磁気共鳴イメージング装置20とネットワークを介して接続された医用画像処理装置に、心臓の特徴点の位置及びMRシネ画像データに基づいて冠動脈の静止期間を特定する機能を設けてもよい。
また、上述した実施形態では、テンプレートマッチングにおける一致度の指標として相関係数を用いる場合を例に説明したが、残差二乗和(SSR: sum of squared residuals)等の他の一致度の指標を用いてもよい。
また、上述した実施形態では、収縮期及び拡張期のいずれかの静止相において心臓をカバーするボリューム画像データが収集されるものとしたが、収縮期及び拡張期の双方の静止相において心臓をカバーするボリューム画像データを収集するようにしてもよい。そうすると、収縮期の静止相に対応する心臓の特徴点の位置と、拡張期の静止相に対応する心臓の特徴点の位置を、それぞれ自動検出することが可能となる。このため、より高精度に自動検出された特徴点の位置を、テンプレートマッチングの初期の空間探索領域の絞り込みに用いることができる。換言すれば、収縮期及び拡張期のいずれかの静止相における心臓の特徴点が万一良好な精度で自動検出されなかった場合であっても、心臓をカバーするボリューム画像データの再収集を回避することができる。