以下、図面を参照しながら、磁気共鳴イメージング装置及び画像処理装置の実施形態について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の構成例を示す図である。
例えば、図1に示すように、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:MRI)装置100は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、全身(Whole Body:WB)コイル4、送信回路5、局所コイル6、受信回路7、RF(Radio Frequency)シールド8、架台9、寝台10、ECG(Electrocardiogram)センサ11、ECG回路12、インタフェース13、ディスプレイ14、記憶回路15、処理回路16~19を備える。
静磁場磁石1は、被検体Sが配置される撮像空間に静磁場を発生させる。具体的には、静磁場磁石1は、中空の略円筒状(円筒の中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成されており、円筒内の空間に静磁場を発生させる。例えば、静磁場磁石1は、略円筒状に形成された冷却容器と、当該冷却容器内に充填された冷却材(例えば、液体ヘリウム等)に浸漬された超伝導磁石等の磁石とを有する。ここで、例えば、静磁場磁石1は、永久磁石を用いて静磁場を発生させるものであってもよい。
傾斜磁場コイル2は、静磁場磁石1の内側に配置されており、被検体Sが配置される撮像空間に傾斜磁場を印加する。具体的には、傾斜磁場コイル2は、中空の略円筒状(円筒の中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成されており、円筒内の空間に、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸の各軸に沿った傾斜磁場を発生させる。ここで、X軸、Y軸及びZ軸は、MRI装置100に固有の装置座標系を構成する。例えば、Z軸は、傾斜磁場コイル2の円筒の軸に一致し、静磁場磁石1によって発生する静磁場の磁束に沿って設定される。また、X軸は、Z軸に直交する水平方向に沿って設定され、Y軸は、Z軸に直交する鉛直方向に沿って設定される。
傾斜磁場電源3は、傾斜磁場コイル2に電流を供給することで、傾斜磁場コイル2の内側の空間に、X軸、Y軸及びZ軸それぞれに沿った傾斜磁場を発生させる。このように、傾斜磁場電源3がX軸、Y軸及びZ軸それぞれに沿った傾斜磁場を発生させることによって、リードアウト方向、位相エンコード方向、及びスライス方向それぞれに沿った傾斜磁場を発生させることができる。リードアウト方向、位相エンコード方向、及びスライス方向それぞれに沿った軸は、撮像の対象となるスライス領域又はボリューム領域を規定するための論理座標系を構成する。なお、以下では、リードアウト方向に沿った傾斜磁場をリードアウト傾斜磁場と呼び、位相エンコード方向に沿った傾斜磁場を位相エンコード傾斜磁場と呼び、スライス方向に沿った傾斜磁場をスライス傾斜磁場と呼ぶ。
これらの傾斜磁場は、静磁場磁石1によって発生する静磁場に重畳され、磁気共鳴(Magnetic Resonance:MR)信号に空間的な位置情報を付与するために用いられる。具体的には、リードアウト傾斜磁場は、リードアウト方向の位置に応じてMR信号の周波数を変化させることで、MR信号にリードアウト方向に沿った位置情報を付与する。また、位相エンコード傾斜磁場は、位相エンコード方向に沿ってMR信号の位相を変化させることで、MR信号に位相エンコード方向の位置情報を付与する。また、スライス傾斜磁場は、撮像領域がスライス領域の場合には、スライス領域の方向、厚さ、枚数を決めるために用いられ、撮像領域がボリューム領域である場合には、スライス方向の位置に応じてMR信号の位相を変化させることで、MR信号にスライス方向に沿った位置情報を付与する。
WBコイル4は、傾斜磁場コイル2の内側に配置されており、被検体Sが配置される撮像空間にRFパルス(高周波磁場パルス)を照射し、当該RFパルスの影響によって被検体Sから発生するMR信号を受信するRFコイルである。具体的には、WBコイル4は、中空の略円筒状(円筒の中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成されており、送信回路5から供給されるRFパルス信号に基づいて、円筒内の空間にRFパルスを照射する。また、WBコイル4は、RFパルスの影響によって被検体Sから発生するMR信号を受信し、受信したMR信号を受信回路7へ出力する。
送信回路5は、ラーモア周波数に対応するRFパルス信号をWBコイル4に出力する。具体的には、送信回路5は、発振器、位相選択器、周波数変換器、振幅変調器、及び、RFアンプを備える。発振器は、静磁場中に置かれた対象原子核に固有の共鳴周波数(ラーモア周波数)のRF波(高周波)信号を発生する。位相選択器は、当該RF波信号の位相を選択する。周波数変換器は、位相選択器から出力されたRF波信号の周波数を変換する。振幅変調器は、周波数変換器から出力されたRF波信号の振幅を例えばsinc関数の波形で変調することでRFパルス信号を生成する。RFアンプは、振幅変調器から出力されるRFパルス信号を電力増幅してWBコイル4に出力する。
局所コイル6は、被検体Sから発生するMR信号を受信するRFコイルである。具体的には、局所コイル6は、WBコイル4の内側に配置された被検体Sに装着され、WBコイル4によって照射されるRFパルスの影響によって被検体Sから発生するMR信号を受信し、受信したMR信号を受信回路7へ出力する。例えば、局所コイル6は、撮像対象の部位ごとに用意された受信コイルであり、頭部用の受信コイルや、頚部用の受信コイル、肩用の受信コイル、胸部用の受信コイル、腹部用の受信コイル、下肢用の受信コイル、脊椎用の受信コイル等である。なお、局所コイル6は、RFパルスを照射する送信機能をさらに有していてもよい。その場合には、局所コイル6は、送信回路5に接続され、送信回路5から供給されるRFパルス信号に基づいて、被検体SにRFパルスを照射する。
受信回路7は、WBコイル4又は局所コイル6から出力されるMR信号に基づいてMR信号データを生成し、生成したMR信号データを処理回路17に出力する。例えば、受信回路7は、選択器、前段増幅器、位相検波器、及び、A/D(Analog/Digital)変換器を備える。選択器は、WBコイル4又は局所コイル6から出力されるMR信号を選択的に入力する。前段増幅器は、選択器から出力されるMR信号を電力増幅する。位相検波器は、前段増幅器から出力されるMR信号の位相を検波する。A/D変換器は、位相検波器から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換することでMR信号データを生成し、生成したMR信号データを処理回路17に出力する。
RFシールド8は、傾斜磁場コイル2とWBコイル4との間に配置されており、WBコイル4によって発生するRFパルスから傾斜磁場コイル2を遮蔽する。具体的には、RFシールド8は、中空の略円筒状(円筒の中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成されており、傾斜磁場コイル2の内周側の空間に、WBコイル4の外周面を覆うように配置されている。
架台9は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、WBコイル4及びRFシールド8を収容している。具体的には、架台9は、円筒状に形成された中空のボアBを有しており、ボアBを囲むように静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、WBコイル4及びRFシールド8を配置した状態で、それぞれを収容している。ここで、架台9が有するボアBの内側の空間が、被検体Sの撮像が行われる際に被検体Sが配置される撮像空間となる。
なお、ここでは、MRI装置100が、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2及びWBコイル4がそれぞれ略円筒状に形成された、いわゆるトンネル型の構成を有する場合の例を説明するが、実施形態はこれに限られない。例えば、MRI装置100は、被検体Sが配置される撮像空間を挟んで対向するように一対の静磁場磁石、一対の傾斜磁場コイル及び一対のRFコイルを配置した、いわゆるオープン型の構成を有していてもよい。
寝台10は、被検体Sが載置される天板10aを備え、被検体Sの撮像が行われる際に、架台9におけるボアBの内側へ天板10aを挿入する。例えば、寝台10は、長手方向が静磁場磁石1の中心軸と平行になるように設置されている。
ECGセンサ11は、被検体Sの体表に装着され、被検体Sの心電信号を検出する。そして、ECGセンサ11は、検出した心電信号をECG回路12に出力する。
ECG回路12は、ECGセンサ11から出力される心電信号に基づいて、所定の心電波形を検出する。例えば、ECG回路12は、所定の心電波形としてR波を検出する。そして、ECG回路12は、所定の心電波形を検出したタイミングでトリガ信号を生成し、生成したトリガ信号を処理回路17に出力する。
インタフェース13は、操作者から各種指示及び各種情報の入力操作を受け付ける。具体的には、インタフェース13は、処理回路19に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換して処理回路19に出力する。例えば、インタフェース13は、撮像条件や関心領域(Region Of Interest:ROI)の設定等を行うためのトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、及び音声入力回路等によって実現される。なお、本明細書において、インタフェース13は、マウス、キーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ出力する電気信号の処理回路もインタフェース13の例に含まれる。なお、インタフェース13は、入力部の実現手段の一例である。
ディスプレイ14は、各種情報及び各種画像を表示する。具体的には、ディスプレイ14は、処理回路19に接続されており、処理回路19から送られる各種情報及び各種画像のデータを表示用の電気信号に変換して出力する。例えば、ディスプレイ14は、液晶モニタやCRT(Cathode Ray Tube)モニタ、タッチパネル等によって実現される。なお、ディスプレイ14は、表示部の実現手段の一例である。
記憶回路15は、各種データを記憶する。具体的には、記憶回路15は、MR信号データや画像データを記憶する。例えば、記憶回路15は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子やハードディスク、光ディスク等によって実現される。なお、記憶回路15は、記憶部の実現手段の一例である。
処理回路16は、寝台制御機能16aを有する。寝台制御機能16aは、寝台10に接続され、制御用の電気信号を寝台10へ出力することで、寝台10の動作を制御する。例えば、寝台制御機能16aは、インタフェース13を介して、天板10aを長手方向、上下方向又は左右方向へ移動させる指示を操作者から受け付け、受け付けた指示に従って天板10aを移動するように、寝台10が有する天板10aの駆動機構を動作させる。
処理回路17は、収集機能17aを有する。収集機能17aは、各種のパルスシーケンスを実行することで、被検体Sのデータを収集する。具体的には、収集機能17aは、処理回路19から出力されるシーケンス実行データに基づいて傾斜磁場電源3、送信回路5及び受信回路7を駆動することで、各種のパルスシーケンスを実行する。
ここで、シーケンス実行データは、MR信号データを収集するための手順を示すパルスシーケンスを定義した情報である。具体的には、シーケンス実行データは、傾斜磁場電源3が傾斜磁場コイル2に電流を供給するタイミング及び供給する電流の強さ、送信回路5がWBコイル4に供給するRFパルス信号の強さや供給タイミング、受信回路7がMR信号を検出する検出タイミング等を定義した情報である。
そして、収集機能17aは、パルスシーケンスを実行した結果として、受信回路7からMR信号データを受信し、受信したMR信号データを記憶回路15に記憶させる。このとき、収集機能17aは、ECG回路12から出力されるトリガ信号に基づいて、心時相を示す同期情報を計測し、MR信号データに対応付けて記憶させる。なお、収集機能17aによって受信されたMR信号データの集合は、前述したリードアウト傾斜磁場、位相エンコード傾斜磁場、及びスライス傾斜磁場によって付与された位置情報に応じて2次元又は3次元に配列されることで、k空間を構成するデータとして記憶回路15に記憶される。
処理回路18は、生成機能18aを有する。生成機能18aは、記憶回路15に記憶されたMR信号データに基づいて画像を生成する。具体的には、生成機能18aは、収集機能17aによって記憶回路15に記憶されたMR信号データを読み出し、読み出したMR信号データに後処理、即ち、フーリエ変換等の再構成処理を施すことで画像を生成する。また、生成機能18aは、生成した画像の画像データを記憶回路15に記憶させる。
処理回路19は、主制御機能19aと、作成機能19bと、補正機能19cと、特定機能19dと、推定機能19eと、判別機能19fとを有する。主制御機能19aは、MRI装置100が有する各構成要素を制御することで、MRI装置100の全体制御を行う。例えば、主制御機能19aは、インタフェース13を介して操作者から撮像条件の入力を受け付ける。そして、主制御機能19aは、受け付けた撮像条件に基づいてシーケンス実行データを生成し、当該シーケンス実行データを処理回路17に送信することで、各種のパルスシーケンスを実行する。また、例えば、主制御機能19aは、操作者からの要求に応じて、記憶回路15から画像データを読み出してディスプレイ14に出力する。なお、作成機能19b、補正機能19c、特定機能19d、推定機能19e、及び、判別機能19fについては、後に詳細に説明する。
例えば、上述した処理回路16~19は、プロセッサによって実現される。この場合に、処理回路16~19が有する各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路15に記憶されている。そして、各処理回路は、記憶回路15から各プログラムを読み出して実行することで、各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態の各処理回路は、図1の各処理回路内に示された各機能を有することとなる。なお、図1に示す例では、複数のプロセッサによって各処理機能が実現されるものとして説明したが、単一のプロセッサで処理回路を構成し、当該プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、各処理回路が有する処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。また、図1に示す例では、単一の記憶回路15が各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明したが、複数の記憶回路を分散して配置して、処理回路が個別の記憶回路から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。
以上、本実施形態に係るMRI装置100の全体構成について説明した。このような構成のもと、本実施形態に係るMRI装置100は、代表的な高速撮像法として、RFパルスを連続的に照射することで組織の縦磁化及び横磁化を定常状態にするパルスシーケンスを実行する機能を有する。
このように、RFパルスを連続的に照射することによって組織の縦磁化及び横磁化を定常状態にするパルスシーケンスは、SSFP(Steady-State Free Precession)シーケンスと呼ばれる。SSFPシーケンスでは、計測対象の組織に対して数ms程度の短い繰り返し時間TR(Repetition Time)でRFパルスを照射して原子核スピン(以下、スピンと省略)を励起する。この励起されたスピンは、縦緩和と横緩和による熱平衡状態に回復途中であり、次の励起までの間にMR信号を計測する。この繰り返しにより、スピンは、縦緩和時間(T1)程度の時間が経過した後に、励起と緩和がバランスした定常状態に収束する。また、スピンが熱平衡状態から定常状態に到達するまでの途中の状態は、過渡応答期間(過渡状態)や定常状態移行期間と呼ばれる。
なお、本実施形態では、SSFPシーケンスの一例として、balanced SSFPシーケンス(true SSFPとも呼ばれる)を用いる場合の例を説明する。
図2は、第1の実施形態に係るbalanced SSFPシーケンスの一例を示す図である。
ここで、図2に示す「RF」は、RFパルスが照射されるタイミングを示している。また、「Gs」は、スライス方向の傾斜磁場が照射されるタイミングを示しており、「Gp」は、位相エンコード方向の傾斜磁場が照射されるタイミングを示しており、「Gr」は、リードアウト方向の傾斜磁場が照射されるタイミングを示している。また、「Signal」は、MR信号が発生するタイミングを示している。なお、図2では、位相エンコード方向の傾斜磁場については、複数の傾斜磁場をまとめて示している。
例えば、図2に示すように、balanced SSFP(以下、bSSFP)シーケンスは、1つのTR(Repetition Time)内での傾斜磁場が正負対称となるSSFPシーケンスである。bSSFPシーケンスでは、TR(Repetition Time)の間隔で被検体SにRFパルスが連続的に照射され、各RFパルスが照射されてからTE(Echo Time)が経過したタイミングで、被検体SからMR信号が発生する。そして、bSSFPシーケンスでは、1つのTR内での傾斜磁場が正負対称となるように、スライス方向の傾斜磁場、位相エンコード方向の傾斜磁場、及び、リードアウト方向の傾斜磁場が印加される。ここで、位相エンコード方向の傾斜磁場については、TRごとに段階的に強度を変えながら印加される。
このようなbSSFPシーケンスによれば、前述したように、短いTRの間隔でRFパルスが連続的に照射されることによって、組織の縦磁化及び横磁化が、過渡応答期間(過渡状態)を経た後に定常状態に収束する。ここで、過渡応答期間における縦磁化及び横磁化の時系列の挙動は、T1値やT2値、T2*値等の組織定量値に依存するものであり、組織の状態を顕著に表すと考えられる。
そこで、本実施形態に係るMRI装置100は、bSSFPシーケンスの過渡応答期間に収集されたデータを利用して、診断対象の組織の組織定量値を推定することができるように構成されている。このような構成によれば、組織性状の診断を支援するための情報を提供することが可能になる。
以下、このような構成を有するMRI装置100について詳細に説明する。なお、本実施形態では、診断対象の組織が心筋である場合の例を説明する。また、本実施形態では、組織定量値の一例として、T1値を推定する場合の例を説明する。
具体的には、本実施形態では、図1に示した記憶回路15が、bSSFPシーケンスを実行した場合の定常状態に至る前の期間における組織の縦磁化及び横磁化の挙動を反映したMR信号に基づく参照情報を蓄積して記憶する。例えば、記憶回路15は、bSSFPシーケンスを実行した場合の少なくとも過渡応答期間における心筋の縦磁化及び横磁化の挙動を反映したMR信号に基づく時系列データとT1値との関係に基づく参照情報を蓄積して記憶する。なお、ここでいう「定常状態」は、例えば、MR信号の時間変化の微分値が所定値未満となる状態として定義される。この場合に、所定値は、例えば、操作者からの指示等に応じて任意に設定される。例えば、所定値を大きく設定した場合には、定常状態に到達するタイミングが早くなり、その結果、定常状態に至る前の期間が短くなる(すなわち、過渡応答期間が短くなる)。逆に、所定値を小さく設定した場合には、定常状態に到達するタイミングが遅くなり、その結果、定常状態に至る前の期間が長くなる(すなわち、過渡応答期間が長くなる)。
例えば、記憶回路15は、参照情報として、bSSFPシーケンスを実行した場合の過渡応答期間におけるMR信号の信号値の経時的な変化を示す曲線の情報を記憶する。ここで、記憶回路15は、参照情報として、正常な心筋に関する参照情報と、異常な心筋に関する参照情報とを記憶する。また、記憶回路15は、異常な心筋に関する参照情報を症例ごとに記憶する。
図3及び4は、第1の実施形態に係る記憶回路15によって記憶される参照情報の一例を示す図である。
例えば、図3に示すように、記憶回路15は、正常な心筋に関する曲線21を示す情報を記憶する。また、記憶回路15は、異常な心筋に関する曲線を示す情報として、症例Aに関する曲線22と、症例Bに関する曲線23と、症例Cに関する曲線24と、症例Dに関する曲線25とを記憶する。
ここで、記憶回路15は、これらの参照情報を、予め決められた心筋の複数の区画のそれぞれごとに記憶する。例えば、図4に示すように、記憶回路15は、心筋を示す円環状の領域を6つの区画S1~S6に分けた区画ごとに、参照情報を記憶する。なお、心筋の区画の数は6つに限られず、5つ以下であってもよいし、7つ以上であってもよい。
また、記憶回路15は、これらの参照情報を、被検体の属性情報と、シーケンス情報と、当該参照情報を作成する際に用いられたT1値及びT2値とに対応付けて記憶する。ここで、被検体の属性情報は、例えば、性別や年齢、体重、病例等である。また、シーケンス情報は、例えば、自由歳差運動及びRFパルスによる励起角度に関する情報である。
なお、図3に示す例では、過渡応答期間におけるMR信号の信号値を示しているが、参照情報には、過渡応答期間におけるMR信号の信号値に加えて、定常状態におけるMR信号の信号値が含まれていてもよい。
そして、本実施形態では、図1に示した処理回路17の収集機能17aが、bSSFPシーケンスを実行することによって、定常状態に至る前の期間におけるMR信号に基づくデータを収集する。例えば、収集機能17aは、bSSFPシーケンスを実行することによって、少なくとも過渡応答期間におけるMR信号に基づく時系列データを収集する。なお、収集機能17aは、収集部の実現手段の一例である。
具体的には、収集機能17aは、非直交系計測のパルスシーケンスを実行することによって、時系列データを収集する。ここでいう非直交系計測は、k空間を軸に沿って走査する直交系計測に対して、原点を中心に放射線状(ラディアル)や螺旋状(スパイラル)にk空間を走査するというように、非直交系の走査を行う方法である。
本実施形態では、一例として、収集機能17aは、k空間に対して原点を中心として放射状に設定された複数のラインそれぞれごとに1つのラインずつ角度をずらしながら順にデータを収集するラディアル収集を行うパルスシーケンスを実行することによって、時系列データを収集する。
一般的に、MRI装置を用いた心臓の検査法では、シネ検査、フロー検査、パフュージョン検査、遅延造影検査、冠動脈検査等の複数種類の検査が行われるため、予め検査ごとに決められた複数のプロトコルが順次実行される。
ここで、例えば、シネ検査は、心筋や弁の形及び動きを観察するための検査であり、短軸シネ画像を時系列に収集するためのプロトコルが実行される。また、フロー検査は、血液の逆流の有無を判別するための検査であり、血流の流れの速さを画像化するためのプロトコルが実行される。また、パフュージョン検査は、虚血の有無を判別するための検査であり、造影剤を用いてパフュージョン画像を収集するためのプロトコルが実行される。また、遅延造影検査は、心筋梗塞の有無を判別するための検査であり、遅延造影画像を収集するためのプロトコルが実行される。また、冠動脈検査は、冠動脈の狭窄の有無を判別するための検査であり、心臓全体における冠動脈の走行状態を画像化するためのプロトコルが実行される。
このような心臓の検査法において、通常、シネ検査用のプロトコルでは、bSSFPシーケンスが用いられることが多い。そこで、本実施形態では、収集機能17aは、シネ検査用のプロトコルでbSSFPシーケンスを実行する際に、少なくとも過渡応答期間における時系列データを収集する。
また、本実施形態では、図1に示した処理回路18の生成機能18aが、収集機能17aによって収集されたMR信号に基づく時系列データに基づいて、MR信号の信号値を示す時系列の複数の画像を生成する。なお、生成機能18aは、生成部の実現手段の一例である。
具体的には、生成機能18aは、収集機能17aによって収集された時系列データから、画像生成に必要なライン数のデータを当該ライン数ずつ時系列順に選択して、時系列の複数の画像を生成する。
図5及び6は、第1の実施形態に係る生成機能18aによる画像の生成の第1の例を示す図である。
例えば、図5に示すように、生成機能18aは、各データに対応付けられている同期情報に基づいて、1つの心拍ごとに、4つの連続する再構成時相(#1~#4)それぞれについて、各時相で収集されたデータを用いて1つの画像を生成する。
ここで、例えば、図6の左側に示すように、ラディアル収集によって複数ラインのデータが収集されている場合に、1つの画像を生成するために必要なデータのライン数が128ラインであったとする。この場合には、例えば、図6の右側に示すように、生成機能18aは、連続する128ライン分のデータを1つのブロックとして、時系列順に1ブロックずつデータを選択して画像を生成する。
例えば、生成機能18aは、まず、ラディアル収集によって時系列に収集された複数ラインのデータから、1番目のライン(B1)を先頭にした128ライン分のデータ(Prj#:1~128)を選択して、1つ目の再構成時相(#1)の画像を生成する。次に、生成機能18aは、129番目のライン(B1)を先頭にした128ライン分のデータ(Prj#:129~256)を選択して、2つ目の再構成時相(#2)の画像を生成する。その後も同様に、生成機能18aは、時系列順に128ライン分ずつ繰り返しデータを選択して、3番目以降の再構成時相の画像を順次生成する。
または、生成機能18aは、収集機能17aによって収集された時系列データから、画像生成に必要なライン数のデータを当該ライン数より少ない数ずつ時系列順にずらしながらデータを選択して、時系列の複数の画像を生成してもよい(スライド再構成)。
図7及び8は、第1の実施形態に係る生成機能18aによる画像の生成の第2の例を示す図である。
例えば、図7に示すように、生成機能18aは、各データに対応付けられている同期情報に基づいて、1つの心拍ごとに、複数の連続する再構成時相(#1,#2,#3,#4,#5・・・)それぞれについて、各時相で収集されたデータを用いて1つの画像を生成する。
ここで、例えば、図8の左側に示すように、ラディアル収集によって複数ラインのデータが収集されている場合に、1つの画像を生成するために必要なデータのライン数が128ラインであったとする。この場合には、例えば、図8の右側に示すように、生成機能18aは、連続する32ライン分のデータを1つのブロックとして、時系列順に1ブロックずつ位置をずらしながらデータを選択して画像を生成する。
例えば、生成機能18aは、まず、ラディアル収集によって収集された複数ラインのデータから、1番目のライン(B1)を先頭にした128ライン分のデータ(Prj#:1~128)を選択して、1つ目の再構成時相(#1)の画像を生成する。次に、生成機能18aは、1番目のラインB1から時系列順に32ライン分だけずらした位置にある33番目のライン(B2)を先頭にした128ライン分のデータを選択して、2つ目の再構成時相(#2)の画像を生成する。その後も同様に、生成機能18aは、時系列順に32ライン分ずつ先頭のラインの位置をずらしながら繰り返しデータを選択して(B3~)、3番目以降の再構成時相(#3~)の画像を順次生成する。
生成機能18aは、上述した第1の例の方法又は第2の例の方法のうち、予め決められた方法で画像を生成してもよいし、操作者によって選択された方法で画像を生成してもよい。または、生成機能18aは、第1の例の方法で画像を生成した後に、生成された画像をディスプレイ14に表示し、より高い時間分解能で画像を生成することを操作者から要求された場合に、第2の例の方法で画像を生成し直すようにしてもよい。
また、例えば、生成機能18aは、過渡応答期間が終了した時点で、画像生成の方法を第2の例の方法から第1の例の方法に切り替えるようにしてもよい。この場合には、例えば、生成機能18aは、bSSFPシーケンスによって収集されるデータから順次得られるMR信号の信号値に基づいて、信号値の変化の大きさが所定の閾値以下となったタイミングで、過渡応答期間が終了したと判定する。これにより、定常状態となった後で収集されたデータから、第1の例の方法によって、シネ検査用の短軸シネ画像が生成されるようになる。
そして、本実施形態では、図1に示したように、処理回路19が、作成機能19bと、補正機能19cと、特定機能19dと、推定機能19eと、判別機能19fとを有する。
作成機能19bは、既存の症例データ(例えば、非特許文献1:Scott A. Hamlin et al.、”Mapping the Future of Cardiac MR Imaging: Case-based Review of T1 and T2 Mapping Techniques”、Radiographics. 2014 Oct;34(6):1594-611.、非特許文献2:Philippe Germain et al.、”Native T1 Mapping of the Heart - A Pictorial Review”、Clin Med Insights Cardiol.、2014; 8(Suppl 4): 1-11.、非特許文献3:Dina Radenkovic et al.、”T1 mapping in cardiac MRI”、Heart Fail Rev. 2017 Jul;22(4):415-430.等を参照)を用いたシミュレーションによって参照情報を作成する。なお、作成機能19bは、作成部の実現手段の一例である。
具体的には、作成機能19bは、症例データとして、病院等で記録されている測定結果に基づく臨床データや医学論文等の文献等で認められた疫学的なデータ等を、病院等に設置されたデータベースから取得する。そして、作成機能19bは、取得したデータを用いて、bSSFPシーケンスを実行した場合の過渡応答期間における心筋のMR信号の信号値をシミュレーションすることで、参照情報を作成する。
例えば、作成機能19bは、ブロッホの式を用いてシミュレーションを行うことで、bSSFPシーケンスを実行した場合の過渡応答期間における心筋のMR信号の信号値を求める。ブロッホの式は、巨視的磁化(スピン)の挙動を表現することが可能な式として知られており、MRIのシミュレータ等で用いられている。
bSSFPシーケンスにおける任意の時点から次の時点へのスピン(磁化)の挙動の変化は、ブロッホの式に基づく離散システムと行列によって表現することができる。例えば、bSSFPシーケンスの過渡応答期間における磁化の挙動の変化は、以下の式(1)によって計算することができる。
M(n+1) = AM(n)+B ・・・ (1)
ここで、M(n),M(n+1)は、bSSFPシーケンスによるn番目,n+1番目のステップにおける磁化(Mx,My,Mz)を表す3次元ベクトルであり、Aは、3×3行列であり、Bは、3次元ベクトルである。これらのベクトル及び行列は、それぞれ、自由歳差運動、RFパルスによる励起角度、T1値及びT2値から求められる。
また、bSSFPシーケンスのMR信号は、複素信号による以下の式(2)で表現することができる。
Sssfp(Mxy∝) = Mx + iMy ・・・(2)
ここで、Mx、Myは前述のX軸方向とY軸方向の磁化ベクトルであり、iは虚数単位である(i2=-1)。
その後、作成機能19bは、式(2)で表現されるMR信号の信号値に基づいた時系列データを以下の式(3)で表される曲線で近似することによって、近似曲線を導出する。そして、作成機能19bは、導出した近似曲線を参照情報として記憶回路15に記憶させる。
Sssfp=α+β*exp(-1*χ/τ) ・・・ (3)
ここで、作成機能19bは、このような参照情報を、前述した心筋の区画ごとに作成して、記憶回路15に記憶させる。また、作成機能19bは、このような参照情報を、前述した被検体の属性情報と、シーケンス情報と、当該参照情報を作成する際に用いられたT1値及びT2値と対応付けて、記憶回路15に記憶させる。
例えば、作成機能19bは、MRI装置100が病院等に設置された際に、参照情報を作成する。また、例えば、作成機能19bは、操作者から要求されたタイミングで、参照情報を作成する。
補正機能19cは、ファントムを使って収集されたデータを用いて参照情報を補正する。なお、補正機能19cは、補正部の実現手段の一例である。
具体的には、補正機能19cは、T1値及びT2値が既知であるファントムを使って収集されたデータと、同じT1値及びT2値に対応する参照情報とを比較することで、記憶回路15に記憶されている参照情報を補正するための補正係数を求める。そして、補正機能19cは、求めた補正係数を用いて、記憶回路15に記憶されている他の参照情報を補正する。
例えば、補正機能19cは、MRI装置100が病院等に設置された際にキャリブレーション用のファントムを使用して収集されたデータを用いて、参照情報を補正する。また、例えば、補正機能19cは、操作者から要求されたタイミングで、参照情報を補正する。
このように参照情報を補正することによって、MRI装置100が設置される環境によって心筋の縦磁化及び横磁化の時系列の挙動に変化が生じるような場合でも、環境ごとに適切な参照情報を用いることができるようになる。
特定機能19dは、収集機能17aによって収集されたデータと記憶回路15に記憶されている参照情報とを比較し、所定の関係を有する参照情報を特定する。例えば、特定機能19dは、収集機能17aによって収集されたMR信号に基づく時系列データの信号値に基づいて、記憶回路15に記憶されている参照情報の中から、類似するMR信号に基づく時系列データの参照情報を特定する。なお、特定機能19dは、特定部の実現手段の一例である。
具体的には、特定機能19dは、収集機能17aによって収集されたMR信号に基づく時系列データから得られるMR信号の信号値の近似曲線と、記憶回路15に記憶されている各参照情報によって表される曲線とをパターンマッチングすることで、類似するMR信号に基づく時系列データの参照情報を特定する。
より具体的には、特定機能19dは、生成機能18aによって生成された時系列の複数の画像に基づいて、類似するMR信号に基づく時系列データの参照情報を特定する。ここで、特定機能19dは、まず、生成機能18aによって生成された時系列の複数の画像のうちの1つに関心領域を設定する。
図9は、第1の実施形態に係る特定機能19dによる関心領域の設定の一例を示す図である。
例えば、図9に示すように、特定機能19dは、時系列の複数の画像のうちの1つの画像31から心筋の領域32を抽出し、抽出した領域32を関心領域として設定する。ここで、画像から心筋の領域を抽出する方法としては、公知の各種の領域抽出方法を用いることができる。その後、特定機能19dは、抽出した関心領域に含まれる複数のボクセルについて、ボクセルごとに、他の画像それぞれで同じ部分に対応するボクセルを特定する。ここで、同じ部分に対応するボクセルを特定する方法としては、公知の各種のトラッキング方法を用いることができる。
そして、特定機能19dは、関心領域内で同じ部分に対応するボクセルごとに、少なくとも過渡応答期間におけるMR信号の信号値の近似曲線を導出する。
図10は、第1の実施形態に係る特定機能19dによる近似曲線の導出の一例を示す図である。
ここで、図10に示す複数の白い丸は、関心領域に含まれる1つのボクセルについて、時系列の複数の画像それぞれから特定されたMR信号の信号値を示している。例えば、図10に示すように、特定機能19dは、時系列のMR信号の信号値を前述した式(3)で表される曲線で近似することによって、近似曲線41を導出する。
そして、特定機能19dは、導出した近似曲線と、記憶回路15に記憶されている各参照情報によって表される曲線とをパターンマッチングすることで、最も類似する曲線を特定する。このとき、特定機能19dは、前述した心筋の複数の区画に対応するように関心領域を複数の区画に分けることで、処理対象のボクセルが属する区画を特定し、特定した区画に対応する参照情報の曲線と、近似曲線とをパターンマッチングする。
ここで、特定機能19dは、診断対象の被検体の属性情報に対応し、かつ、収集機能17aによって実行されたbSSFPシーケンスに関するシーケンス情報に対応する参照情報の曲線と、近似曲線とをパターンマッチングする。なお、このとき、診断対象の被検体の属性情報に対応し、かつ、収集機能17aによって実行されたbSSFPシーケンスに関するシーケンス情報に対応する参照情報が記憶回路15に記憶されている参照情報の中に存在していない場合には、特定機能19dは、作成機能19bに指示することによって、条件に合う参照情報を作成して、パターンマッチングに用いる。
また、例えば、前述したように、記憶回路15に記憶されている参照情報に、定常状態におけるMR信号の信号値も含まれている場合には、特定機能19dは、過渡応答期間及び定常状態の両方におけるMR信号の信号値を用いてパターンマッチングを行ってもよい。これにより、参照情報の特定の精度を向上させることができる。
図11は、第1の実施形態に係る特定機能19dによる参照情報の特定の一例を示す図である。
例えば、図11に示すように、特定機能19dは、図3に例示した複数の曲線の中で、図10に示した近似曲線41と最も類似する曲線として、症例Bに関する曲線23を特定する。
なお、例えば、特定機能19dは、機械学習アルゴリズムに基づいて、類似するMR信号に基づく時系列データの参照情報を特定してもよい。例えば、特定機能19dは、ニューラルネットワークや深層学習等の機械学習アルゴリズムを用いて、記憶回路15に記憶されている参照情報の中から、収集されたMR信号の時系列データに類似するMR信号に基づく時系列データの参照情報を特定する。
推定機能19eは、特定機能19dによって特定された参照情報に基づいて、心筋の特性を判定する。例えば、推定機能19eは、特定機能19dによって特定された参照情報に基づいて、T1値を推定する。なお、推定機能19eは、判定部及び推定部の実現手段の一例である。
具体的には、推定機能19eは、関心領域に含まれるボクセルごとに、特定機能19dによって特定された参照情報に対応付けられているT1値を取得し、当該T1値を推定T1値とする。そして、推定機能19eは、ボクセルごとに取得した推定T1値を色でマッピングしたT1マップ画像を生成し、生成したT1マップ画像をディスプレイ14に表示する。
判別機能19fは、特定機能19dによって特定された参照情報に基づいて、心筋が正常か異常かを判別する。なお、判別機能19fは、判別部の実現手段の一例である。
具体的には、判別機能19fは、特定機能19dによって特定された参照情報が正常な心筋に関する参照情報であった場合に、心筋が正常であると判別する。また、判別機能19fは、特定機能19dによって特定された参照情報が異常な心筋に関する参照情報であった場合に、心筋が異常であると判別する。
なお、例えば、判別機能19fは、機械学習アルゴリズムに基づいて、心筋が正常か異常かを判別してもよい。例えば、判別機能19fは、ニューラルネットワークや深層学習等の機械学習アルゴリズムを用いて、特定機能19dによって特定された参照情報が正常な心筋に関するものか異常な心筋に関するものかを判別する。
そして、判別機能19fは、正常/異常の判別をディスプレイ14に表示する。
例えば、判別機能19fは、収集機能17aによって収集されたMR信号に基づく時系列データから得られるMR信号の経時的な変化と、記憶回路15に記憶されている正常な心筋に関する参照情報におけるMR信号の経時的な変化との相関度を示す情報をディスプレイ14に表示する。また、判別機能19fは、心筋が異常であると判定した場合に、特定された参照情報に基づいて、当該参照情報の症例を示す情報をディスプレイ14に表示する。また、ディスプレイ14が、特定機能19dによって特定された参照情報を表示する。
図12は、第1の実施形態に係る判別機能19fによる情報の表示の一例を示す図である。
例えば、図12に示すように、判別機能19fは、関心領域に含まれるボクセルごとに、特定機能19dによって導出された近似曲線41と、記憶回路15に記憶されている正常な心筋に関する参照情報によって示される正常な心筋に関する曲線21と、特定機能19dによって特定された症例Bに関する曲線23を表示する。
また、判別機能19fは、特定機能19dによって導出された近似曲線41と正常な心筋に関する曲線21との相関度、特定機能19dによって特定された異常な心筋に関する曲線23の症例を示す情報(図12に示す例では、「症例Bの疑い」)、及び、特定機能19dによって導出された近似曲線41と当該異常な心筋に関する曲線23との相関度を示す情報53を、上述した各曲線とともに、ディスプレイ14にさらに表示する。
なお、ここでは、判別機能19fが、ボクセルごとに情報を表示する場合の例を説明したが、例えば、心筋の区画ごとに情報を表示してもよい。この場合には、例えば、判別機能19fは、関心領域に含まれる各ボクセルにおけるMR信号の信号値の平均値を示す曲線51をディスプレイ14に表示する。
図13は、第1の実施形態に係るMRI装置100によって行われる処理の処理手順を示すフローチャートである。
例えば、図13に示すように、本実施形態では、まず、主制御機能19aが、bSSFPシーケンスに関する撮像条件を設定する(ステップS101)。このステップS101は、例えば、処理回路19が主制御機能19aに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。
続いて、収集機能17aが、主制御機能19aによって設定された撮像条件に基づいてbSSFPシーケンスを実行することによって、少なくとも過渡応答期間における時系列データを収集する(ステップS102)。また、収集機能17aは、ECG回路12から出力されるトリガ信号に基づいて、心時相を示す同期情報を計測する(ステップS103)。このステップS102及びS103は、例えば、例えば、処理回路17が収集機能17aに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。
続いて、生成機能18aが、収集機能17aによって収集された時系列データに基づいて、時系列の画像を生成する(ステップS104)。このステップS104は、例えば、処理回路18が生成機能18aに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。
続いて、特定機能19dが、生成機能18aによって生成された時系列の画像のうちの1つに関心領域を設定し(ステップS105)、関心領域内で同じ部分に対応するボクセルごとに、少なくとも過渡応答期間におけるMR信号の信号値の近似曲線を導出する(ステップS106)。そして、特定機能19dは、導出した近似曲線と、記憶回路15に記憶されている各参照情報によって表される曲線とをパターンマッチングすることで、最も類似する曲線を特定する(ステップS107)。このステップS105~S107は、例えば、処理回路19が特定機能19dに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。
続いて、推定機能19eが、特定機能19dによって特定された曲線に基づいて、T1値を推定する(ステップS108)。そして、推定機能19eは、推定したT1値に基づいてT1マップ画像を生成し(ステップS109)、生成したT1マップ画像をディスプレイ14に表示する(ステップS110)。このステップS108~S110は、例えば、処理回路19が推定機能19eに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。
続いて、判別機能19fが、特定機能19dによって特定された曲線に基づいて、心筋の正常/異常を判別し(ステップS111)、正常/異常の判別結果をディスプレイ14に表示する(ステップS112)。このステップS111及びS112は、例えば、処理回路19が判別機能19fに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。
上述したように、第1の実施形態では、bSSFPシーケンスの少なくとも過渡応答期間に収集されたデータを利用して、心筋の組織定量値を推定することができる。これにより、第1の実施形態によれば、簡易的なバイオマーカとして、心筋性状の診断を支援するための情報を提供することができる。
例えば、T1値を表す色を各ピクセルに割り当てたT1マップ画像を表示するT1マッピング法等が知られている。しかしながら、このような従来のマップ画像では、臨床的には、心筋性状の診断が難しい場合が多い。
このことから、心筋性状の診断手法の一例として、ECV(Extracellular Volume)を併用したT1マッピング法も検討されているが、ECVは造影剤を用いる方法であり、被検体となる患者の負担が大きい。また、現状、T1マッピング法は、確立されたデータ収集方法が無く(一例として、MOLLI法はあるが)、データ収集方法や被検体等によって誤差要因が多い。また、T1マッピング法は、撮像条件の設定、データ収集、及び後処理が複雑であるため、臨床的には使い難い面もある。
これに対し、第1の実施形態で説明した方法は、造影剤を用いないため、被検体となる患者の負担を軽減することができる。また、第1の実施形態で説明した方法は、例えば、経過観察を必要とする場合の代替方法として用いることが可能である(例えば、3回の検査の中で、2回の検査を上述した方法で代替する)。また、第1の実施形態で説明した方法は、短時間(2心拍から3心拍程度)で測定が可能なため、被検体の心拍変動、息止め時の呼吸変動等のアーチファクトが軽減し、安定した測定結果を得ることができる。また、第1の実施形態で説明した方法は、MRI装置を用いた通常の心臓の検査法(例えば、左室機能評価)で一般的に行われる短軸シネ画像の撮像とほぼ同じタイミングで使用可能であるため、通常の心臓の検査法で行われるプロトコルに容易に組み込むことができる。
なお、前述したように、一般的に、MRI装置を用いた心臓の検査法では複数のプロトコルが順次実行されるが、これらの複数のプロトコルの中には、パフュージョン検査用のプロトコルや遅延造影撮像用のプロトコルのように、造影剤の注入を伴うものと、シネ検査用のプロトコルやフロー検査用のプロトコルのように、造影剤の注入を伴わないものとが含まれる。
そこで、例えば、収集機能17aは、被検体Sへの造影剤の注入を伴うプロトコルを含む複数のプロトコルを続けて実行する場合には、造影剤の注入が行われる前に、過渡応答期間における時系列データを収集し、判別機能19fによって心筋が正常であると判別されたときには、造影剤の注入及び造影剤の注入を伴うプロトコルの実行を省略するようにしてもよい。すなわち、収集機能17aは、判別機能19fによって心筋が異常であると判別されたときのみ、造影剤の注入及び造影剤の注入を伴うプロトコルを実行する。
このような構成によれば、必要な場合のみ、造影剤の注入及び造影剤の注入を伴うプロトコルを実行することが可能になり、造影剤を使用する頻度を減らすことができる。これにより、被検体となる患者の負担を軽減することができるようになる。
なお、上述した第1の実施形態では、本明細書における収集部を処理回路17の収集機能17aによって実現し、生成部を処理回路18の生成機能18aによって実現し、作成部、補正部、特定部、推定部及び判別部を、それぞれ、処理回路19の作成機能19b、補正機能19c、特定機能19d、推定機能19e及び判別機能19fによって実現する場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、本明細書における収集部、生成部、作成部、補正部、特定部、推定部及び判別部は、それぞれ、実施形態で述べた収集機能17a、生成機能18a、作成機能19b、補正機能19c、特定機能19d、推定機能19e及び判別機能19fによって実現する他にも、ハードウェアのみ、又は、ハードウェアとソフトウェアとの混合によって同機能を実現するものであっても構わない。
(第2の実施形態)
以上、第1の実施形態では、本願が開示する技術をMRI装置に適用した場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、本願が開示する技術は、ネットワークを介してMRI装置100と接続された画像処理装置に適用することも可能である。そこで、以下では、第2の実施形態として、画像処理装置の実施形態を説明する。
図14は、第2の実施形態に係る画像処理装置の構成の一例を示す図である。例えば、図14に示すように、本実施形態に係る画像処理装置300は、ネットワーク400を介して、MRI装置100及び画像保管装置200と通信可能に接続されている。
MRI装置100は、磁気共鳴現象を利用して被検体の画像データを収集する。具体的には、MRI装置100は、操作者によって設定された撮像条件に基づいて各種撮像シーケンスを実行することで、被検体から磁気共鳴データを収集する。そして、MRI装置100は、収集した磁気共鳴データに対してフーリエ変換処理等の画像処理を施すことで、2次元又は3次元の画像データを生成する。
画像保管装置200は、MRI装置100によって収集された画像データを保管する。具体的には、画像保管装置200は、ネットワーク400を介してMRI装置100から画像データを取得し、取得した画像データを装置内又は装置外に設けられた記憶回路に記憶させる。例えば、画像保管装置200は、サーバ装置等のコンピュータ機器によって実現される。
画像処理装置300は、ネットワーク400を介してMRI装置100又は画像保管装置200から画像データを取得し、取得した画像データに対して各種画像処理を行う。例えば、画像処理装置300は、ワークステーション等のコンピュータ機器によって実現される。
具体的には、画像処理装置300は、NWインタフェース310、記憶回路320、入力インタフェース330、ディスプレイ340、及び、処理回路350を有する。
NWインタフェース310は、ネットワーク400を介して接続された他の装置と画像処理装置300との間で送受信される各種データの伝送及び通信を制御する。具体的には、NWインタフェース310は、処理回路350に接続され、処理回路350から出力される画像データをMRI装置100又は画像保管装置200に送信する。また、NWインタフェース310は、MRI装置100又は画像保管装置200から受信した画像データを処理回路350に出力する。例えば、NWインタフェース310は、ネットワークカードやネットワークアダプタ、NIC(Network Interface Controller)等によって実現される。
記憶回路320は、各種データを記憶する。具体的には、記憶回路320は、処理回路350に接続されており、処理回路350から送られる命令に応じて、入力されたデータを記憶し、又は、記憶しているデータを処理回路350に出力する。例えば、記憶回路320は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子や、ハードディスク、光ディスク等によって実現される。なお、記憶回路320は、記憶部の実現手段の一例である。
入力インタフェース330は、操作者から各種指示及び各種情報の入力操作を受け付ける。具体的には、入力インタフェース330は、処理回路350に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換し制御回路へと出力する。例えば、入力インタフェース330は、関心領域(Region Of Interest:ROI)の設定等を行うためのトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力インタフェース、及び音声入力インタフェース等によって実現される。なお、本明細書において、入力インタフェース330は、マウス、キーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース330の例に含まれる。なお、入力インタフェース330は、入力部の実現手段の一例である。
ディスプレイ340は、各種情報及び各種画像を表示する。具体的には、ディスプレイ340は、処理回路350に接続されており、処理回路350から送られる各種情報及び各種画像のデータを表示用の電気信号に変換して出力する。例えば、ディスプレイ340は、液晶モニタやCRT(Cathode Ray Tube)モニタ、タッチパネル等によって実現される。なお、ディスプレイ340は、表示部の実現手段の一例である。
処理回路350は、入力インタフェース330を介して操作者から受け付けた入力操作に応じて、画像処理装置300の構成要素を制御する。例えば、処理回路350は、NWインタフェース310から出力される画像データを記憶回路320に記憶させる。また、例えば、処理回路350は、記憶回路320から画像データを読み出し、ディスプレイ340に表示する。
このような構成のもと、本実施形態では、記憶回路320が、bSSFPシーケンスを実行した場合の定常状態に至る前の期間における組織の縦磁化及び横磁化の挙動を反映したMR信号に基づく参照情報を蓄積して記憶する。例えば、記憶回路320は、第1の実施形態で説明した記憶回路15と同様に、bSSFPシーケンスを実行した場合の少なくとも過渡応答期間における心筋の縦磁化及び横磁化の挙動を反映したMR信号に基づく時系列データとT1値との関係に基づく参照情報を蓄積して記憶する。
また、本実施形態では、処理回路350が、取得機能351と、作成機能352と、補正機能353と、特定機能354と、推定機能355と、判別機能356とを有する。
取得機能351は、bSSFPシーケンスを実行することによって、定常状態に至る前の期間におけるMR信号に基づくデータを収集する。例えば、収集機能17aは、MRI装置100によりbSSFPシーケンスを実行することによって収集された少なくとも過渡応答期間におけるMR信号に基づく時系列データをMRI装置100又は画像保管装置200から取得する。なお、取得機能351は、取得部の実現手段の一例である。
具体的には、取得機能351は、bSSFPシーケンスによって収集されたデータに基づいて生成された、MR信号の信号値を示す時系列の複数の画像をMRI装置100又は画像保管装置200から取得する。
作成機能352は、第1の実施形態で説明した作成機能19bと同様に、既存の症例データを用いたシミュレーションによって参照情報を作成する。なお、作成機能352は、作成部の実現手段の一例である。
補正機能353は、第1の実施形態で説明した補正機能19cと同様に、MRI装置100によりファントムを使って収集されたデータを用いて参照情報を補正する。なお、補正機能353は、補正部の実現手段の一例である。
特定機能354は、取得機能351によって収集されたデータと記憶回路320に記憶されている参照情報とを比較し、所定の関係を有する参照情報を特定する。例えば、特定機能354は、第1の実施形態で説明した特定機能19dと同様に、取得機能351によって取得されたMR信号に基づく時系列データの信号値に基づいて、記憶回路320に記憶されている参照情報の中から、類似するMR信号に基づく時系列データの参照情報を特定する。なお、特定機能354は、特定部の実現手段の一例である。
推定機能355は、第1の実施形態で説明した推定機能19eと同様に、特定機能354によって特定された参照情報に基づいて、T1値を推定する。なお、推定機能355は、推定部の実現手段の一例である。
判別機能356は、第1の実施形態で説明した判別機能19fと同様に、特定機能354によって特定された参照情報に基づいて、心筋が正常か異常かを判別する。なお、判別機能356は、判別部の実現手段の一例である。
例えば、上述した処理回路350は、プロセッサによって実現される。この場合に、処理回路350が有する各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路320に記憶されている。そして、処理回路350は、記憶回路320から各プログラムを読み出して実行することで、各プログラムに対応する機能を実現する。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路350は、図14の各処理回路内に示された各機能を有することとなる。なお、図14に示す例では、単一のプロセッサによって各処理機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路350が有する処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。また、図14に示す例では、単一の記憶回路320が各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明したが、複数の記憶回路を分散して配置して、処理回路が個別の記憶回路から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。
上述した構成によれば、第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様に、bSSFPシーケンスの過渡応答期間に収集されたデータを利用して、心筋の組織定量値を推定することができる。これにより、第2の実施形態によっても、心筋性状の診断を支援するための情報を提供することができる。
なお、上述した第2の実施形態では、本明細書における取得部、作成部、補正部、特定部、推定部及び判別部を、それぞれ、処理回路350の取得機能351、作成機能352、補正機能353、特定機能354、推定機能355及び判別機能356によって実現する場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、本明細書における取得部、作成部、補正部、特定部、推定部及び判別部は、それぞれ、実施形態で述べた取得機能351、作成機能352、補正機能353、特定機能354、推定機能355及び判別機能356によって実現する他にも、ハードウェアのみ、又は、ハードウェアとソフトウェアとの混合によって同機能を実現するものであっても構わない。
以上、第1及び第2の実施形態について説明した。ここで、上述した各実施形態では、bSSFPシーケンスを用いる場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、上述した各実施形態は、1つのTR内での傾斜磁場が正負非対称となるようなSSFPシーケンスを用いる場合でも、同様に適用可能である。
また、上述した各実施形態では、診断対象の組織が心筋である場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、上述した各実施形態は、心筋以外の組織が診断対象の組織とした場合でも、同様に適用可能である。
また、上述した各実施形態では、T1値を推定する場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、上述した各実施形態は、T2値、T1*値、T2*値、T1ρ値、T2ρ値等の他の組織定量値を推定する場合でも、同様に適用可能である。
(第3の実施形態)
また、上述した各実施形態では、推定機能19eが、特定機能19dによって特定された参照情報に基づいて組織定量値を推定する場合の例を説明したが、さらに、推定された組織定量値を評価することで、組織定量値の推定精度を向上させるようにしてもよい。以下では、このような場合の例を第3の実施形態として説明する。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態と異なる点を中心に説明することとし、第1の実施形態と共通する内容については詳細な説明を省略する。
図15は、第3の実施形態に係るMRI装置の構成例を示す図である。
例えば、図15に示すように、本実施形態に係るMRI装置500は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、WBコイル4、送信回路5、局所コイル6、受信回路7、RFシールド8、架台9、寝台10、ECGセンサ11、ECG回路12、インタフェース13、ディスプレイ14、記憶回路15、処理回路16、517、18及び519を備える。
処理回路517は、収集機能517aを有する。収集機能517aは、第1の実施形態と同様に、RFパルスを連続的に照射することで組織の縦磁化及び横磁化を定常状態にするパルスシーケンスを実行することによって、定常状態に至る前の期間におけるMR信号に基づくデータを収集するが、本実施形態では、当該パルスシーケンスを複数回実行する。なお、収集機能517aは、収集部の実現手段の一例である。
処理回路519は、主制御機能19aと、作成機能19bと、補正機能19cと、特定機能519dと、推定機能19eと、計算機能519gと、評価機能519hと、調整機能519iとを備える。ここで、主制御機能19a、作成機能19b、補正機能19c、及び推定機能19eは、それぞれ、第1の実施形態で説明した処理を行う。なお、処理回路519は、第1の実施形態で説明した判別機能19fをさらに備えていてもよい。
特定機能519dは、第1の実施形態で説明した特定機能19dと同様の処理を行うが、本実施形態では、収集機能517aによって収集されたMR信号に基づく時系列データと、記憶回路15によって記憶されている参照情報との類似度を計算して、類似度が最も高い参照情報を特定する。なお、特定機能519dは、特定部の実現手段の一例である。
計算機能519gは、収集機能517aによってパルスシーケンスが実行されるごとに、当該パルスシーケンスが実行された際の計測条件及び推定機能19eによって推定された組織定量値を用いたシミュレーションによって、定常状態に至る前の期間における模擬MR信号を計算し、当該模擬MR信号に基づく模擬時系列データを生成する。なお、計算機能519gは、計算部の実現手段の一例である。
評価機能519hは、計算機能519gによって模擬時系列データが生成されるごとに、収集機能517aによって収集されたMR信号に基づく時系列データと、計算機能519gによって生成された模擬時系列データとを比較することで、推定機能19eによって推定された組織定量値を評価する。なお、評価機能519hは、評価部の実現手段の一例である。
調整機能519iは、評価機能519hによって組織定量値が評価されるごとに、評価機能519hによる組織定量値の評価結果に基づいて、収集機能517aによって実行される次のパルスシーケンスのパラメータを調整する。なお、調整機能519iは、調整部の実現手段の一例である。
そして、本実施形態では、収集機能517aが、評価機能519hによる組織定量値の評価結果が所定の条件を満たすまで、調整機能519iによって調整されたパラメータを用いてパルスシーケンスを繰り返し実行する。
以下、上述した各機能によって行われる処理について詳細に説明する。
図16は、第3の実施形態に係るMRI装置によって行われる処理の処理手順を示すフローチャートである。
例えば、図16に示すように、本実施形態では、まず、主制御機能19aが、操作者からの指示に応じて、計測対象を設定する(ステップS201)。例えば、主制御機能19aは、第1の実施形態と同様に、心筋を計測対象として設定する。その後、主制御機能19aは、bSSFPシーケンスに関する計測条件(撮像条件)を設定する(ステップS202)。
続いて、収集機能517aが、主制御機能19aによって設定された計測条件に基づいてbSSFPシーケンスを実行することによって、少なくとも過渡応答期間におけるMR信号を計測する(ステップS203)。ここで、収集機能517aは、第1の実施形態で説明した収集機能17aと同様に、MR信号を計測する。
続いて、特定機能519dが、収集機能517aによって計測されたMR信号に対して、非線形最小二乗法を用いてカーブフィッティングを行うことで、近似関数を導出する(ステップS204)。その後、特定機能519dは、導出した近似関数を用いて、時系列データ(近似データ)を生成する(ステップS205)。
また、特定機能519dは、生成した時系列データをベクトル化して時系列ベクトルを算出し、当該時系列ベクトルと、記憶回路15によって記憶されている参照情報を用いて得られるMR信号の時系列ベクトルとの類似度を計算して、類似度が最も高い参照情報を特定する(ステップS206)。
続いて、推定機能19eが、第1の実施形態と同様に、特定機能19dによって特定された参照情報に基づいて、組織定量値を推定する(ステップS207)。続いて、評価機能519hが、特定機能519dによって計算された類似度と第1の閾値とを比較することで、当該類似度を評価する(ステップS208)。ここで、第1の閾値としては、特定機能519によって特定された組織定量値が一定の信頼性を有すると判断できる場合の類似度の値(例えば、95%等)が設定される。また、評価機能519hによって行われる類似度の評価の方法としては、例えば、コサイン類似度を用いた判定方法等が用いられる。
続いて、計算機能519gが、収集機能517aによってパルスシーケンスが実行された際の計測条件及び推定機能19eによって推定された組織定量値を用いたシミュレーションによって、定常状態に至る前の期間における模擬MR信号を計算する(ステップS209)。ここで、例えば、計算機能519gは、第1の実施形態で説明した作成機能19bと同様に、ブロッホの式を用いてシミュレーションを行うことで、模擬MR信号を計算する。
その後、計算機能519gは、計算された模擬MR信号に基づいて、予め決められた近似関数を用いて、模擬時系列データ(近似データ)を生成する(ステップS210)。ここで、例えば、計算機能519gは、第1の実施形態において式(3)と同様の手段で導出した近似関数を用いて模擬時系列データを生成する。また、計算機能519gは、生成した模擬時系列データをベクトル化して時系列ベクトルを算出する(ステップS211)。
続いて、評価機能519hが、特定機能519dによって算出された時系列ベクトルと、計算機能519gによって算出された時系列ベクトルとを比較することで、それらの類似度を計算する(ステップS212)。その後、評価機能519hは、計算された類似度と第1の閾値とを比較することで、当該類似度を評価する(ステップS213)。その後、評価機能519hは、当該類似度と、特定機能519dによって計算された類似度とを比較することで、推定機能519eによって推定された組織定量値を評価する(ステップS214)。
ここで、評価機能519hは、収集機能517aによって収集された時系列データと計算機能519gによって生成された模擬時系列データとの類似度と、特定機能519dによって計算された類似度とを比較した結果、類似度の差が第2の閾値未満であり、かつ、特定機能519dによって計算された類似度が第1の閾値以上であった場合に、目標推定精度が達成されたと判定する(ステップS215,Yes)。なお、ここでいう目標推定精度は、実測で得られたMR信号を計算(シミュレーション)で得られた模擬MR信号との比較によって評価した結果として、特定機能519によって特定された組織定量値が組織定量値の推定値として一定の信頼性を有すると判断できる推定精度である。また、ここでは、2つの閾値を用いる場合の例を説明するが、評価機能519hは、第1の閾値は用いずに、収集機能517aによって収集された時系列データと計算機能519gによって生成された模擬時系列データとの類似度と、特定機能519dによって計算された類似度とを比較した結果、類似度の差が第2の閾値未満であった場合に、目標推定精度が達成されたと判定してもよい。
そして、評価機能519hは、目標推定精度が達成されたと判定した場合に、推定機能19eによって推定された組織定量値をディスプレイ14に出力する(ステップS216)。そして、このように評価機能519hによって目標推定精度が達成されたと判定された場合には、収集機能517aは、パルスシーケンスの実行を終了する。
一方、評価機能519hによって目標推定精度が達成されたと判定されなかった場合には(ステップS215,No)、調整機能519iが、収集機能517aによって実行されるパルスシーケンスのパラメータを調整する(ステップS217)。このとき、例えば、調整機能519iは、RFパルスによる励起角度(フリップアングル)を調整する。なお、ここでは、調整機能519iが励起角度を調整する場合の例を説明するが、調整の対象となるパラメータは励起角度に限られず、TE、TR等でもよい。
そして、収集機能517aが、評価機能519hによって目標推定精度が達成されたと判定されるまで、調整機能519iによって調整されたパラメータを用いて、パルスシーケンスを繰り返し実行する。
ここで、上述した処理手順において、ステップS201及びS202は、例えば、処理回路519が主制御機能19aに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。また、ステップS203は、例えば、処理回路517が収集機能517aに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。また、ステップS204~S206は、例えば、処理回路519が特定機能519dに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。また、ステップS207は、例えば、処理回路519が推定機能19eに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。また、ステップS209~S211は、例えば、処理回路519が計算機能519gに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。また、ステップS208及びS212~S216は、例えば、処理回路519が評価機能519hに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。また、ステップS217は、例えば、処理回路519が調整機能519iに対応する所定のプログラムを記憶回路15から読み出して実行することによって実現される。
また、図16では図示を省略したが、評価機能519hは、目標推定精度が達成されたと判定した場合に、収集機能517aによって収集された時系列データと推定機能19eによって推定された組織定量値との関係に基づく参照情報を新たに作成して記憶回路15に記憶させる。これにより、より推定精度(フィッティング)が良好で、かつ、解析効率が良い参照情報が記憶回路15に記憶されることになる。
また、図16に示す処理手順のうち、計算機能519g、評価機能519h及び調整機能519iによって行われる処理は、例えば、連続するパルスシーケンスの間に設けられる回復時間(Recovery time)を利用して実行される。または、例えば、計算機能519g、評価機能519h及び調整機能519iによって行われる処理は、計測中の繰り返し時間TRごとに、逐次(リアルタイム)に実行されてもよい。
また、図16に示す処理手順では、収集機能517aが、目標推定精度が達成されたと判定されるまでパルスシーケンスを繰り返し実行することとしたが、パルスシーケンスを実行する回数に上限を設けてもよい。具体的には、収集機能517aは、評価機能519hによって目標推定精度が達成されたと判定されるか、又は、パルスシーケンスの実行回数が所定回数を超えるまで、パルスシーケンスを繰り返し実行する。そして、評価機能519hが、目標推定精度が達成されずにパルスシーケンスの実行回数が所定回数に達した場合には、その時点で推定機能19eによって推定されている組織定量値をディスプレイ14に出力する。このとき、例えば、評価機能519hは、推定された組織定量値とともに、当該組織定量値の推定精度を示す情報を表示してもよい。例えば、評価機能519hは、組織定量値の推定精度を示す情報として、特定機能519dによって計算された類似度と第1の閾値との差の大きさに応じてレベル分けした情報を表示する。例えば、評価機能519hは、特定機能519dによって計算された類似度と第1の閾値との差の大きさに応じて3つのレベルに分けた「推定精度:高」、「推定精度:中」及び「推定精度:低」のいずれかを、推定精度を示す情報として表示する。
上述した第3の実施形態によれば、少なくともn-1回目(nは2以上の自然数)の計測信号及び解析結果に基づいてn回目の計測条件を更新することによって、組織定量値の推定精度を向上させることができる。
例えば、第3の実施形態では、調整機能519iが、RFパルスによる励起角度を調整することとした。RFパルスによる励起角度を変更することで、オフレゾナンス成分θを考慮した組織定量値(T1値/T2値)の依存性を評価することができる。
図17は、第3の実施形態に係るRFパルスによる励起角度、組織定量値及びオフレゾナンスの関係を示す図である。
ここで、図17は、組織定量値T2/T1=0.1(T1=1000[ms]、T2=100[ms])におけるSSFPによって得られるMR信号と励起角度α及びオフレゾナンス成分θとの関係を示している。
例えば、図17に示すように、SSFPによって得られるMR信号は、励起角度α(及び組織定量値(T1、T2)、オフレゾナンス成分θ)に依存しているが、単純な比例関係にはならない。このため、再計測の場合は、MRI装置100及び測定対象に固有のノイズ(磁場不均一性等に依存するオフレゾナンス成分θ)がMR信号に反映されることになり、再計算時及び再計測時に励起角度を変更することで、組織定量値の計算値と計測値との乖離の程度を評価する必要がある。
オフレゾナンス成分θを含めたbSSFPシーケンスにおける任意の時点から次の時点へのスピン(磁化)の挙動の変化は、ブロッホの式に基づく離散システムと行列によって表現することができる。例えば、オフレゾナンス成分θを含むbSSFPシーケンスの過渡応答期間における磁化の挙動の変化は、以下の式(4)によって計算することができる。
M(n)= Rx(±α)[DZ(ΔθTR)E2(TR,T2,T1)M(n-1)+E1(TR,T1)] ・・・ (4)
ここで、M(n),M(n-1)は、bSSFPシーケンスによるn番目,n-1番目のステップにおける磁化(Mx,My,Mz)を表す3次元ベクトルであり、Rx(±α)は励起角度αのRFパルスによる励起であり、Dz(ΔθTR)はTR間における位相分散(Dephasing)を表す3×3行列であり、ΔθTRはオフレゾナンス成分θに依存してTR間に蓄積された位相変化量を表し、T1緩和時間とT2緩和時間に依存するパラメータとして3×3行列E2(TR,T2,T1)とベクトルE1(TR,T1)で表される。
図18は、第3の実施形態に係るMR信号の計測及び計算の一例を示す図である。
ここで、図18の左側は、初回の計測条件におけるMR信号の計測結果と計算結果とを示しており、RFパルスによる励起角度(FA)を30°とした場合の例を示している。また、図18の右側は、n回目(≠初回)の計測条件におけるMR信号の計測結果と計算結果とを示しており、RFパルスによる励起角度(FA)を60°とした場合の例を示している。
例えば、図18に示すように、RFパルスによる励起角度(FA)を30°から60°に調整することによって、初回の計測条件におけるMR信号と、n回目(≠初回)の計測条件におけるMR信号とでは、計測結果と計算結果との乖離を小さくすることができる。この結果、組織定量値の推定精度を向上させることができる。
なお、上述した各実施形態では、組織の縦磁化及び横磁化を定常状態にするパルスシーケンスであるSSFPシーケンスが実行される場合の例を説明したが、第3の実施形態で説明した組織定量値の推定精度を向上させる方法は、これに限られるものではない。すなわち、第3の実施形態で説明した組織定量値の推定精度を向上させる方法は、SSFPシーケンス以外のパルスシーケンスによって収集されたMR信号の時系列データを用いて組織定量値を推定する場合でも、同様に適用することが可能である。
また、上述した各実施形態の説明で用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合には、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成され、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1及び14における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
ここで、プロセッサによって実行されるプログラムは、例えば、ROM(Read Only Memory)や記憶回路等に予め組み込まれて提供される。このプログラムは、これらの装置にインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disk)-ROM、FD(Flexible Disk)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録されて提供されてもよい。また、このプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納され、ネットワーク経由でダウンロードされることにより提供又は配布されてもよい。例えば、このプログラムは、上述した各機能部を含むモジュールで構成される。実際のハードウェアとしては、CPUが、ROM等の記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、各モジュールが主記憶装置上にロードされて、主記憶装置上に生成される。
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、組織性状の診断を支援するための情報を提供することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。