本発明の実施形態について説明する。なお、トナーコア、トナー母粒子、外添剤、又はトナーに関する評価結果(形状又は物性などを示す値)は、何ら規定していなければ、相当数の粒子について測定した値の個数平均である。
粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、顕微鏡を用いて測定された1次粒子の円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径)の個数平均値である。また、粉体の体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、ベックマン・コールター株式会社製の「コールターカウンターマルチサイザー3」を用いてコールター原理(細孔電気抵抗法)に基づき測定した値である。
酸価及び水酸基価の各々の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070−1992」に従って測定した値である。また、数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。また、ガラス転移点(Tg)及び融点(Mp)はそれぞれ、何ら規定していなければ、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて測定した値である。また、軟化点(Tm)は、何ら規定していなければ、高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)を用いて測定した値である。
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。
[本実施形態に係る静電潜像現像用トナーの構成]
本実施形態に係る静電潜像現像用トナー(以下、トナーと記載することがある)は、トナー粒子を複数含む。このようなトナーは、例えば電子写真装置において画像の形成に用いることができる。以下、電子写真装置による画像形成方法の一例について説明した後に、本実施形態に係るトナーをさらに説明する。
まず、電子写真装置の帯電装置及び露光装置が、画像データに基づいて感光体に静電潜像を形成する。次に、形成された静電潜像を、トナーを含む現像剤を用いて現像する。
現像工程では、感光体の近傍に配置された現像ローラーの現像スリーブが、現像ローラーに内蔵されたマグネットロールの磁力により、トナーを引き付ける。これにより、トナーが現像ローラーの表面に担持される。そして、現像スリーブの回転により、現像スリーブ上のトナーを感光体に供給する。これにより、感光体に形成された静電潜像にトナーが付着し、感光体上にトナー像が形成される。
続く転写工程では、感光体上のトナー像を中間転写体に転写した後、さらに中間転写体上のトナー像を記録媒体に転写する。その後、定着装置によりトナーを加熱及び加圧して、記録媒体にトナーを定着させる。その結果、記録媒体に画像が形成される。例えば、ブラック、イエロー、マゼンタ、及びシアンの4色のトナー像を重ね合わせることで、フルカラー画像を形成できる。画像が形成された後には、クリーニングブレードに代表されるクリーニング部により、感光体上に残ったトナーが除去される。
本実施形態に係るトナーの説明に戻る。本実施形態に係るトナーは、コアと、コアの表面を覆うシェル層とを備えるトナー粒子を、複数含む。コアの表面には、複数の第1凹部が形成されている。シェル層は、コアの表面領域における、第1凹部の内側領域と第1凹部の外側領域との両方に存在する。トナー粒子の表面には、第1凹部に対応する第2凹部が形成されている。トナー粒子の円形度は、0.960以上0.970以下である。トナー粒子の表面に存在する第2凹部の数は、トナー粒子の表面領域の面積1μm2あたり0.300個以上0.500個以下である。第2凹部の開口面積は、1.0μm2以下であり、好ましくは0.8μm2以下である。
なお、本実施形態では、意図せずとも自然に形成されるトナーコアの表面の微小な凹凸と第1凹部及び第2凹部とを区別するため、深さ100nm以上の穴を「凹部」と称する。また、「第2凹部の開口面積が1.0μm2以下である」とは、トナーに形成された複数の第2凹部のそれぞれの開口面積が1.0μm2以下であることを意味する。そのため、「第2凹部の開口面積が1.0μm2以下である」を「第2凹部の開口面積の最大値が1.0μm2である」と換言できる。「第2凹部の開口面積が0.8μm2以下である」についても同様のことが言える。また、以下では、「第1凹部」を「下地凹部」と記載し、「第2凹部」を「表面凹部」と記載する。また、以下では、「コア」を「トナーコア」と記載することがある。
本実施形態に係るトナーは、上記構成を有するトナー粒子を複数含む。上記のように、本実施形態に係るトナーでは、トナー粒子の円形度、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの表面凹部の数、及び表面凹部の開口面積が最適化されている。これにより、クリーニング性及びトナー粒子の耐熱保存性を高く維持できるとともに、現像性を適正な状態に維持できる。
詳しくは、トナー粒子の円形度は、0.960以上0.970以下であり、比較的低い。これにより、画像形成後の感光体の表面のクリーニング時において、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子がクリーニング部をすり抜けることを防止できる。よって、画像形成後、感光体上に残ったトナーはクリーニング部により除去される。したがって、クリーニング性を高く維持できる。
また、トナー粒子の表面に存在する表面凹部の数はトナー粒子の表面領域の面積1μm2あたり0.300個以上0.500個以下であり、表面凹部の開口面積は1.0μm2以下である。ここで、トナー粒子の表面のうち表面凹部が形成されている部分においては、トナー粒子はトナー粒子が接触する物体に接触し難い。そのため、表面凹部がトナー粒子の表面に形成されていることにより、トナー粒子とトナー粒子が接触する物体との接触面積を小さくすることができる。よって、トナー粒子とトナー粒子が接触する物体との付着力を低減できる。ここで、トナー粒子が接触する物体としては、例えば、現像ローラー、感光体、中間転写体、及び他のトナー粒子が挙げられる。
トナー粒子と現像ローラーとの付着力が小さければ、トナー像の形成時には、トナー粒子は現像ローラーから脱離して感光体へ飛散する。これにより、感光体上にはトナー像が形成される。よって、トナー粒子の円形度が0.960以上0.970以下という比較的低い値であるにも関わらず、現像性を適正な状態に維持できる。つまり、クリーニング性を高く維持しつつ、現像性を適正な状態に維持できる。
トナー粒子と感光体との付着力が小さければ、中間転写体へのトナー像の転写時には、トナー像に含まれるトナー粒子は感光体から脱離して中間転写体へ移動する。これにより、トナー像が中間転写体へ転写される。よって、トナー粒子の円形度が0.960以上0.970以下という比較的低い値であるにも関わらず、現像性を適正な状態に維持できる。つまり、クリーニング性を高く維持しつつ、現像性を適正な状態に維持できる。
トナー粒子と中間転写体との付着力が小さければ、記録媒体へのトナー像の転写時には、トナー像に含まれるトナー粒子は中間転写体から脱離して記録媒体へ移動する。これにより、トナー像が記録媒体へ転写される。よって、トナー粒子の円形度が0.960以上0.970以下という比較的低い値であるにも関わらず、現像性を適正な状態に維持できる。つまり、クリーニング性を高く維持しつつ、現像性を適正な状態に維持できる。
トナー粒子同士の付着力が小さければ、トナー粒子の凝集を防止できる。そのため、複数のトナー粒子を含むトナー又は複数のトナー粒子を含む現像剤を室温よりも高温下で保存した場合であっても、トナー粒子の凝集を防止できる。よって、トナー粒子の円形度が0.960以上0.970以下という比較的低い値であるにも関わらず、トナー粒子の耐熱保存性を高く維持できる。つまり、クリーニング性を高く維持しつつ、トナー粒子の耐熱保存性を高く維持できる。なお、以下では、複数のトナー粒子を含むトナー又は複数のトナー粒子を含む現像剤を室温よりも高温下で保存することを「複数のトナー粒子を高温保存する」と記載する。
上述したように、トナー粒子の表面のうち表面凹部が形成されている部分においては、トナー粒子はトナー粒子が接触する物体に接触し難い。そのため、トナー粒子の表面に存在する表面凹部の数がトナー粒子の表面領域の面積1μm2あたり0.300個未満であれば、トナー粒子とトナー粒子が接触する物体との接触面積を十分に小さくすることが難しい。そのため、トナー粒子とトナー粒子が接触する物体との付着力の増加を招く。その結果、現像性の低下を引き起こす。また、トナー粒子の耐熱保存性の低下を引き起こす。
また、トナー粒子の表面に存在する表面凹部の数がトナー粒子の表面領域の面積1μm2あたり0.500個超であれば、トナー粒子の耐熱保存性を高く維持することが困難となる。
また、表面凹部の開口面積が1.0μm2超であれば、トナー粒子とトナー粒子が接触する物体との付着力の低減が困難となる。そのため、現像性を適正な状態に維持することが困難となる。また、トナー粒子の耐熱保存性を高く維持することが困難となる。
トナー粒子の円形度は、フロー式粒子像分析装置(例えば、シスメックス株式会社製「FPIA(登録商標)−3000」)を用いて、測定される。
測定対象としては、外添処理後のトナー粒子を用いても良いし、トナー母粒子を用いても良い。ここで、外添処理後のトナー粒子は、トナー母粒子とトナー母粒子の表面に付着した外添剤とを含むトナー粒子を意味する。また、トナー母粒子は、外添処理前のトナー粒子と換言できる。
トナー粒子が外添剤を含む場合には、トナー粒子の円形度はトナー母粒子の円形度を意味する。測定対象として外添処理後のトナー粒子を用いる場合には、外添剤を避けてトナー粒子の円形度を測定しても良い。測定対象としてトナー母粒子を用いる場合には、外添処理前のトナー粒子を用いても良いし、外添処理後のトナー粒子に対して前処理が行われたものを用いても良い。外添処理後のトナー粒子に対する前処理としては、例えば、アルカリ溶液を用いて外添剤を溶解させること、及び超音波洗浄機を用いて外添剤をトナー母粒子の表面から離脱させることが挙げられる。測定対象に関するこれらの事項は、表面凹部の開口面積、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの表面凹部の数、後述の全体シェル被覆率、及び後述の凹部シェル被覆率のそれぞれを測定する際にも該当する。
また、表面凹部の開口面積は、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM、例えば、日本電子株式会社製「JSM−7600F」)を用いてトナー粒子の表面全域又はトナー母粒子の表面全域を観察することにより、求められる。同様の方法に従って、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの表面凹部の数を求めることができる。このような方法に従って表面凹部の開口面積を測定する場合、その測定下限値は0.005μm2である。そのため、表面凹部の開口面積の下限値は0.005μm2となる。
以下、図1〜図3を参照しながら、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子の構成の一例を示す。図1は、トナー粒子に含まれるトナー母粒子10の断面構造の一例を示す図である。図2は、図1に示されるトナー母粒子10の表面領域の一部領域を示す平面図である。図3は、図2中のIII−III断面図である。
図1に示されるトナー母粒子10は、トナーコア11と、トナーコア11の表面を覆うシェル層12とを備える。シェル層12は、トナーコア11の表面を部分的に覆っている。
図2及び図3に示すように、トナーコア11の表面には、下地凹部H4及びH11〜H13が形成されている。シェル層12は、トナーコア11の表面領域において、下地凹部H4及びH11〜H13の外側領域、下地凹部H12の内側領域、及び下地凹部H13の内側領域に存在している。しかし、シェル層12は、下地凹部H4の内側領域及び下地凹部H11の内側領域には存在していない。そのため、トナー母粒子10の表面には、下地凹部H4、下地凹部H11、下地凹部H12に対応する表面凹部H22、及び下地凹部H13に対応する表面凹部H23が形成されている。そして、トナー母粒子10の円形度は、0.960以上0.970以下である。また、トナー母粒子10の表面領域の単位面積あたりの表面凹部の数は0.300個/μm2以上0.500個/μm2以下であり、表面凹部の開口面積は1.0μm2以下である。
図3には、シェル層12に含まれる樹脂粒子同士がつながって膜化された状態を記載している。しかし、シェル層12の一部分では、シェル層12に含まれる樹脂粒子が球形状のまま残っていても良い。また、シェル層12に含まれる樹脂粒子同士がつながって膜化される際に、その樹脂粒子が扁平状になることもある。シェル層12には、このような扁平状の樹脂粒子が含まれていても良い。
図3においては、下地凹部H11に関して、範囲R1が下地凹部H11の内側領域の範囲を示し、深さD1が下地凹部H11の深さを示す。また、下地凹部H13に関して、範囲R3が下地凹部H13の内側領域の範囲を示し、深さD3が下地凹部H13に対応する表面凹部H23の深さを示す。以上、図1〜図3を用いて、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子の構成の一例を説明した。
(本実施形態に係るトナーの好ましい構成)
以下、本実施形態に係るトナーの好ましい構成を示す。
好ましくは、トナーコアの表面領域のうち、シェル層が覆うトナーコアの面積の割合(以下、全体シェル被覆率と記載する)が、30%以上80%以下である。ここで、シェル層は、トナーコアよりも耐熱性に優れる。そのため、画像形成時にトナーに熱が加えられても、トナーコアの表面領域におけるシェル層の溶融を防止できる。これにより、トナーコアの表面領域におけるシェル層の溶融に起因する表面凹部の消失を防止できる。つまり、表面凹部の開口面積が小さくなることを防止できる。よって、現像ローラー、感光体、及び中間転写体の各々とトナー粒子との接触面積を小さく維持できるため、現像ローラー、感光体、及び中間転写体の各々に対するトナー粒子の付着力を小さく維持できる。したがって、画像形成時にトナーに熱が加えられた場合であっても、現像性を適正な状態に維持できる。
また、トナーに熱が加えられても表面凹部の開口面積が小さくなることを防止できるため、複数のトナー粒子を高温保存した場合であってもトナー粒子同士の接触面積をより一層小さく維持できる。これにより、トナー粒子同士の付着力をより一層小さく維持できるため、トナー粒子の凝集をより一層防止できる。よって、トナー粒子の耐熱保存性が向上する。
好ましくは、下地凹部の内側領域のうち、シェル層が覆う内側領域の面積の割合(以下、凹部シェル被覆率と記載する)が、30%以上80%以下である。上記したように、シェル層はトナーコアよりも耐熱性に優れる。そのため、画像形成時にトナーに熱が加えられても、下地凹部の内側領域におけるシェル層の溶融を防止できる。これにより、下地凹部の内側領域におけるシェル層の溶融に起因する表面凹部の消失を防止できる。つまり、表面凹部の開口面積が小さくなることを防止できる。よって、現像ローラー、感光体、及び中間転写体の各々とトナー粒子との接触面積を小さく維持できるため、現像ローラー、感光体、及び中間転写体の各々に対するトナー粒子の付着力を小さく維持できる。したがって、画像形成時にトナーに熱が加えられた場合であっても、現像性を適正な状態に維持できる。
また、トナーに熱が加えられても表面凹部の開口面積が小さくなることを防止できるため、複数のトナー粒子を高温保存した場合であってもトナー粒子同士の接触面積をより一層小さく維持できる。これにより、トナー粒子同士の付着力をより一層小さく維持できるため、トナー粒子の凝集をより一層防止できる。よって、トナー粒子の耐熱保存性が向上する。
より好ましくは、凹部シェル被覆率から全体シェル被覆率を引いた面積差は−5%以上+5%以下である。このようなトナーでは、下地凹部の内側領域におけるシェル層の被覆率と下地凹部の外側領域におけるシェル層の被覆率との差が小さい。そのため、トナーを長期にわたって使用した場合であっても、表面凹部の内側領域又は表面凹部の外側領域のどちらかにおいてトナーの劣化が局所的に進行することを防止できる。よって、トナーの優れた特性を長期にわたって維持できる。さらに好ましくは、凹部シェル被覆率から全体シェル被覆率を引いた面積差は−3%以上+3%以下である。ここで、凹部シェル被覆率から全体シェル被覆率を引いた面積差とは下記式により算出される。
(面積差)(単位:%)=(凹部シェル被覆率)(単位:%)−(全体シェル被覆率)(単位:%)
なお、全体シェル被覆率(単位:%)は、式「全体シェル被覆率=100×シェル層が覆うトナーコアの表面領域の面積/トナーコアの表面全域の面積」で表される。全体シェル被覆率が100%であることは、トナーコアの表面全域がシェル層で覆われていることを意味する。全体シェル被覆率の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はその代替方法である。
また、凹部シェル被覆率(単位:%)は、式「凹部シェル被覆率=100×シェル層が覆う下地凹部の内側領域の面積/下地凹部の内側領域全体の面積」で表される。凹部シェル被覆率が100%であることは、下地凹部の内側領域全域がシェル層で覆われていることを意味する。凹部シェル被覆率の測定方法は、後述する実施例と同じ方法又はその代替方法である。
好ましくは、シェル層の厚さは1nm以上50nm以下である。ここで、下地凹部の深さは100nm以上である。そのため、シェル層の厚さが1nm以上50nm以下であれば、シェル層の厚さは下地凹部の深さよりも十分小さくなる。よって、表面凹部が形成され易くなる。したがって、表面凹部の形成により得られる効果が得られ易くなる。つまり、現像性を適正な状態に維持し易く、また、トナー粒子の耐熱保存性がさらに向上する。
なお、シェル層の厚さが下地凹部の深さよりも十分小さければ、表面凹部の深さは下地凹部の深さと概ね同じになると考えられる。そのため、下地凹部の深さが100nm以上であり、シェル層の厚さが1nm以上50nm以下である場合には、表面凹部の深さは100nm以上となる。また、表面凹部の十分な形成容易性を確保するためには、下地凹部の深さは3μm以下であることが好ましい。
シェル層の厚さは、トナー粒子の径方向におけるシェル層の大きさを意味し、次に示す方法に従って測定される。まず、透過電子顕微鏡(TEM、例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ製「H−7100FA」)を用いて、トナー粒子の断面TEM写真を撮影する。次に、得られたトナー粒子の断面TEM写真を、画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて解析する。詳しくは、トナー粒子の断面の略中心で直交する2本の直線を引く。その2本の直線の各々において、トナーコアとシェル層との界面(トナーコアの表面に相当)からシェル層の表面までの長さを測定する。このようにして測定された4箇所の長さの平均値を、1個のトナー粒子が備えるシェル層の厚さとする。このようなシェル層の厚さの測定を複数のトナー粒子に対して行い、複数のトナー粒子(測定対象)が備えるシェル層の厚さの平均値を求める。このようにして求められたシェル層の厚さの平均値を「シェル層の厚さ」とする。
トナー粒子の断面TEM写真においてトナーコアとシェル層との境界が不明瞭である場合には、トナー粒子の断面TEM写真を、電子エネルギー損失分光法(EELS)検出器(例えば、ガタン社製「GIF TRIDIEM(登録商標)」)と画像解析ソフトウェア(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF」)とを用いて解析することが好ましい。これにより、トナー粒子の断面TEM写真においてトナーコアとシェル層との境界が明瞭となり、よって、シェル層の厚さを求めることができる。
以上、本実施形態に係るトナーの構成、及び本実施形態に係るトナーの好ましい構成を説明した。なお、本実施形態に係るトナーに含まれるトナー粒子は、外添処理後のトナー粒子であっても良いし、トナー母粒子であっても良い。また、本実施形態に係るトナーは、外添処理後のトナー粒子とトナー母粒子との両方を含んでいても良い。また、本実施形態に係るトナーは、シェル層を備えないトナー粒子を含んでいても良い。以下、トナーコアが含有する樹脂の好ましい材料、及び、シェル層が含有する樹脂の好ましい材料を順に示す。
(トナーコアが含有する樹脂の好ましい材料)
好ましくは、トナーコアは、軟化点80℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂と、軟化点100℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂とを含有する。ここで、軟化点80℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂は、軟化点100℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂に比べ、低温下で加水分解する。そのため、トナーコアが軟化点80℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂を含有することにより、下地凹部の形成が促進する。よって、本実施形態に係るトナーが製造され易くなる。例えば、トナーコアに含有される樹脂のうち、軟化点80℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂が占める割合は、20質量%以上であることが好ましい。このことは、下記[本実施形態に係るトナーの製造]の(昇温工程:pH変化工程)で詳述する。
また、トナーコアが軟化点100℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂を含有することにより、トナーコアの耐熱性が高くなる。そのため、複数のトナー粒子を高温保存した場合であっても、トナーコアの溶融をより一層防止できる。よって、トナー粒子の耐熱保存性がさらに向上する。例えば、トナーコアに含有される樹脂のうち、軟化点100℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂が占める割合は、5質量%以上であることが好ましい。
なお、トナーコアに含有される樹脂のうち、軟化点100℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂が占める割合は、50質量%以下であることが好ましい。これにより、トナーコアに含有される樹脂が軟化点80℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂と軟化点100℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂とで構成される場合には、トナーコアに含有される樹脂のうち、軟化点80℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂が占める割合が、50質量%以上となる。よって、低温での定着を実現できる。
以上をまとめると、トナーコアに含有される樹脂のうち、軟化点80℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂が占める割合は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上95質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上50質量%以下である。また、トナーコアに含有される樹脂のうち、軟化点100℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂が占める割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上80質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以上50質量%以下である。
トナーコアが非結晶性ポリエステル樹脂を含有する場合、非結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は1000以上2000以下であることが好ましい。これにより、トナーコアの強度及びトナーの定着性が向上する。また、非結晶性ポリエステル樹脂の分子量分布は9以上21以下であることが好ましい。ここで、非結晶性ポリエステル樹脂の分子量分布とは、数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比率(Mw/Mn)を意味する。
より好ましくは、トナーコアは、非結晶性ポリエステル樹脂に加えて、結晶性ポリエステル樹脂を含有する。ここで、結晶性ポリエステル樹脂は非結晶性ポリエステル樹脂よりも加水分解し易い。そのため、トナーコアが非結晶性ポリエステル樹脂に加えて結晶性ポリエステル樹脂を含有することにより、トナーコアに含有されるポリエステル樹脂の加水分解が促進する。よって、下地凹部の形成がさらに促進する。例えば、トナーコアは、100質量部の非結晶性ポリエステル樹脂に対し、好ましくは1質量部以上20質量部以下の結晶性ポリエステル樹脂をさらに含有し、より好ましくは3質量部以上10質量部以下の結晶性ポリエステル樹脂をさらに含有する。
さらに好ましくは、トナーコアは結晶性指数0.98以上1.20以下の結晶性ポリエステル樹脂を含有する。これにより、トナーコアに含有されるポリエステル樹脂の加水分解がさらに促進する。よって、下地凹部の形成がより一層促進する。ここで、結晶性指数は、融点(Mp)に対する軟化点(Tm)の比率(=Tm/Mp)に相当する。ポリエステル樹脂の結晶性指数は、ポリエステル樹脂を合成するための材料の種類又は量を変更することで、調整できる。例えば、アルコール及びカルボン酸のうちの少なくとも1つの種類又は量を変更することにより、ポリエステル樹脂の結晶性指数を調整できる。なお、非結晶性ポリエステル樹脂については、明確なMpを測定できないことが多い。
トナーコアが含有するポリエステル樹脂の具体例については、下記[トナーコア、シェル層、及び外添剤の各々の材料の例示]の(結着樹脂:ポリエステル樹脂)で記載する。また、トナーコアは、下記[トナーコア、シェル層、及び外添剤の各々の材料の例示]の(結着樹脂:熱可塑性樹脂)に記載の熱可塑性樹脂をさらに含有していても良い。
(シェル層が含有する樹脂の好ましい材料)
好ましくは、シェル層は熱可塑性樹脂を含有する。これにより、トナー粒子の耐熱保存性がさらに向上する。より好ましくは、シェル層は熱可塑性樹脂に加えて熱硬化性樹脂をさらに含有する。シェル層が含有する樹脂の具体例については、下記[トナーコア、シェル層、及び外添剤の各々の材料の例示]の(シェル層:熱可塑性樹脂)及び(シェル層:熱硬化性樹脂)で記載する。
[本実施形態に係るトナーの製造]
本実施形態に係るトナーの製造は特に限定されない。例えば、トナーコアの表面に下地凹部を形成した後、下地凹部が形成されたトナーコアの表面にシェル層を形成するという方法が考えられる。しかし、この方法では、本実施形態に係るトナーの製造は難しい。詳しくは、シェル層が下地凹部の内側領域に形成され難い。また、下地凹部の内側領域とシェル層との間に十分な接着強度を確保するためにシェル層の厚さを大きくすると、シェル層の形成後におけるトナー粒子の表面に凹部が形成され難い。つまり、表面凹部が形成され難い。
別の方法として、トナーコアの表面にシェル層を形成した後、トナーコアの表面に下地凹部を形成するという方法が考えられる。しかし、この方法であっても、シェル層が下地凹部の内側領域に形成され難い。そのため、本実施形態に係るトナーの製造は難しい。
発明者は、本実施形態に係るトナーを容易に製造可能な方法について鋭意検討し、次に示す結論に至った。トナーコアとシェル層の材料(以下、シェル材料と記載する)とを含む液の温度を所定の目標温度まで上昇させながら、その液のpHを調整する。これにより、トナーコアに対する下地凹部の形成とシェル層の形成とが同時に進行する。その結果、本実施形態に係るトナーが得られる。
つまり、本実施形態に係る静電潜像現像用トナーは、水性媒体の準備工程と、昇温工程と、保温工程とを含む。水性媒体の準備工程では、コアとシェル材料とを含み、且つpHが3以上6以下である水性媒体を、準備する。昇温工程では、準備された水性媒体の温度を所定の目標温度まで上昇させる。保温工程では、昇温工程の終了後、水性媒体の温度を目標温度に保つ。コアは、目標温度以下の軟化点を有する非結晶性ポリエステル樹脂(以下、LTm−非結晶性ポリエステル樹脂と記載する)と、目標温度よりも高い軟化点を有する非結晶性ポリエステル樹脂(以下、HTm−非結晶性ポリエステル樹脂と記載する)とを含有する。昇温工程は、pH変化工程を含む。pH変化工程では、水性媒体の温度がpH変化温度に到達したときに、水性媒体のpHを8以上12以下に変える。pH変化温度は目標温度よりも低い。
本実施形態に係るトナーの製造方法では、ポリエステル樹脂の加水分解に起因する下地凹部の形成とシェル層の形成とが同時に進行する。そのため、下地凹部の外側領域だけでなく、下地凹部の内側領域にもシェル層が形成される。よって、本実施形態に係るトナーを容易に製造できる。以下、より具体的な例に基づいて、本実施形態に係るトナーの製造方法についてさらに説明する。
(本実施形態に係るトナーの好ましい製造方法)
本実施形態に係るトナーの好ましい製造方法は、トナーコアの準備工程とシェル層の形成工程とを含む。本実施形態に係るトナーの好ましい製造方法は、ろ過工程、洗浄工程、乾燥工程、及び外添工程のうちの少なくとも1つをさらに含んでも良い。
(トナーコアの準備工程)
凝集法又は粉砕法によりトナーコアを製造することが好ましい。これにより、トナーコアを容易に得ることができる。
以下、粉砕法の一例について説明する。まず、結着樹脂と、内添剤とを混合する。内添剤としては、例えば、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉のうちの少なくとも1つを使用できる。続けて、得られた混合物を溶融混練する。続けて、得られた溶融混練物を粉砕及び分級する。その結果、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
以下、凝集法の一例について説明する。まず、結着樹脂、離型剤、及び着色剤の各々の微粒子を含む水性媒体中で、これらの粒子を所望の粒子径になるまで凝集させる。これにより、結着樹脂、離型剤、及び着色剤を含む凝集粒子が形成される。続けて、得られた凝集粒子を加熱して、凝集粒子に含まれる成分を合一化させる。その結果、トナーコアの分散液が得られる。その後、トナーコアの分散液から、不要な物質を除去する。不要な物質としては界面活性剤が挙げられる。このようにして、所望の粒子径を有するトナーコアが得られる。
トナーコアの製造方法に依らず、使用する結着樹脂はLTm−非結晶性ポリエステル樹脂とHTm−非結晶性ポリエステル樹脂とを含有する。これにより、LTm−非結晶性ポリエステル樹脂とHTm−非結晶性ポリエステル樹脂とを含有するトナーコアが製造される。結着樹脂は、好ましくは20質量%以上のLTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有し、より好ましくは20質量%以上95質量%以下のLTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有し、さらに好ましくは20質量%以上50質量%以下のLTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有する。また、結着樹脂は、好ましくは5質量%以上のHTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有し、より好ましくは5質量%以上80質量%以下のHTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有し、さらに好ましくは5質量%以上50質量%以下のHTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有する。また、結着樹脂は結晶性ポリエステル樹脂をさらに含有することが好ましい。なお、LTm−非結晶性ポリエステル樹脂としては、例えば軟化点80℃以下の非結晶性ポリエステル樹脂を使用できる。また、HTm−ポリエステル樹脂としては、例えば軟化点100℃以上の非結晶性ポリエステル樹脂を使用できる。
(シェル層の形成工程)
シェル層の形成工程は、水性媒体の準備工程と、昇温工程と、保温工程とを含む。昇温工程は、pH変化工程を含む。
(シェル層の形成工程:水性媒体の準備工程)
水性媒体の準備工程では、まず、水性媒体を準備する。
水性媒体は、水を主成分とする媒体であり、例えば、純水、又は水と極性媒体との混合液である。水性媒体は溶媒として機能してもよい。水性媒体中に溶質が溶けていてもよい。水性媒体は分散媒として機能してもよい。水性媒体中に分散質が分散していてもよい。水性媒体中の極性媒体としては例えばアルコールを使用でき、アルコールとしては例えばメタノール又はエタノールを使用できる。水性媒体の沸点は約100℃であることが好ましい。より好ましくは、水性媒体としてイオン交換水を準備する。
続けて、酸性物質を用いて水性媒体のpHを所定のpHに調整する。例えば、塩酸を用いて水性媒体のpHを3以上6以下に調整する。続けて、pHが3以上6以下に調整された水性媒体に、上記の方法に従って得られたトナーコアと、シェル材料とを添加する。シェル材料の添加量を多くするほど、形成されるシェル層の厚さが厚くなる傾向がある。
トナーコア及びシェル材料を水性媒体に添加すると、水性媒体中で、トナーコアの表面にシェル材料の粒子が付着すると考えられる。シェル材料として非水溶性の熱可塑性樹脂からなる粒子を含むサスペンションを使用した場合、トナーコアの表面には、非水溶性の熱可塑性樹脂からなる粒子が付着すると考えられる。
また、水性媒体中でシェル層を形成することにより、シェル層形成時におけるトナーコア成分の溶解又は溶出を抑制できる。具体的には、水性媒体中でシェル層を形成することにより、シェル層形成時における結着樹脂及び離型剤の溶解又は溶出を抑制できる。
トナーコアの表面に均一にシェル材料を付着させるためには、シェル材料を含む液中にトナーコアを高度に分散させることが好ましい。液中にトナーコアを高度に分散させるために、液中に界面活性剤を含ませてもよいし、強力な攪拌装置(例えば、プライミクス株式会社製「ハイビスディスパーミックス」)を用いて液を攪拌してもよい。トナーコアがアニオン性を有する場合には、同一極性を有するアニオン界面活性剤を使用することで、トナーコアの凝集を抑制できる。アニオン界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩、又は石鹸を使用できる。このようにして、コアとシェル材料とを含み且つpHが3以上6以下である水性媒体が、準備される。
(シェル層の形成工程:昇温工程)
昇温工程では、上記の方法に従って準備された水性媒体の温度を所定の目標温度まで上昇させる。詳しくは、準備された水性媒体を攪拌しながら、その水性媒体の温度を所定の速度で所定の目標温度まで上昇させる。昇温開始時の水性媒体の温度は、例えば20℃以上35℃以下から選ばれる温度である。昇温開始時の水性媒体のpHは、例えば3以上6以下から選ばれるpHである。昇温の速度は、例えば0.1℃/分以上3.0℃/分以下から選ばれる速度である。昇温の目標温度は、昇温を止める温度であり、例えば60℃以上70℃以下から選ばれる温度である。
(昇温工程:pH変化工程)
上記昇温中であって水性媒体の温度がpH変化温度に到達すると、pH変化工程を行う。pH変化工程では、水性媒体の温度がpH変化温度に到達したときに、水性媒体のpHを8以上12以下に変える。例えば、塩基性物質を水性媒体に添加することにより、水性媒体のpHを酸性の値からアルカリ性の値に変えることができる。塩基性物質としては、例えば水酸化ナトリウムを使用できる。また、水性媒体のpHを短時間で変化させることが好ましく、例えば水性媒体のpHを10秒以内で変化させることが好ましい。
水性媒体の昇温中にpH変化工程を行うことにより下地凹部が形成されると考えられる。このような効果を得るためには、トナーコアは、好ましくはポリエステル樹脂を含有し、より好ましくはLTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有する。
詳細には、水性媒体の昇温中にpH変化工程を行う。そのため、水性媒体の温度がある程度上昇した後に、その水性媒体のpHが酸性の値からアルカリ性の値に変化する。これにより、トナーコアに含有されているポリエステル樹脂の加水分解が進行すると考えられる。その結果、トナーコアに下地凹部が形成される。
トナーコアがLTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有する場合、水性媒体の温度がLTm−非結晶性ポリエステル樹脂の軟化点に近づくと、LTm−非結晶性ポリエステル樹脂が軟化する。ここで、LTm−非結晶性ポリエステル樹脂の軟化点は昇温の目標温度以下である。また、LTm−非結晶性ポリエステル樹脂は軟化により加水分解し易くなると考えられる。これらのことから、LTm−非結晶性ポリエステル樹脂は、昇温中における水性媒体のpHの変化(具体的には、昇温中に、水性媒体のpHが酸性の値からアルカリ性の値に変化すること)だけでなく、昇温による軟化によっても、加水分解し易くなる。よって、トナーコアがLTm−非結晶性ポリエステル樹脂を含有していれば、トナーコアに含有される樹脂が昇温中に加水分解し易くなる。したがって、下地凹部の形成が促進する。好ましくは、トナーコアに含有される樹脂のうち、20質量%以上の樹脂が、LTm−非結晶性ポリエステル樹脂である。
より好ましくは、トナーコアは結晶性ポリエステル樹脂をさらに含有する。上記したように、結晶性ポリエステル樹脂は非結晶性ポリエステル樹脂よりも加水分解し易い。そのため、トナーコアが結晶性ポリエステル樹脂をさらに含有することにより、トナーコアに含有される樹脂の加水分解がさらに促進する。よって、下地凹部の形成がさらに促進する。
また、トナーコアは、HTm−ポリエステル樹脂をさらに含有する。ここで、HTm−非結晶性ポリエステル樹脂の軟化点は昇温の目標温度よりも高い。そのため、水性媒体の温度が昇温の目標温度に近づいても、トナーコア全体が軟化することを防止できる。よって、トナーコア同士の凝集を防止できる。好ましくは、トナーコアに含有される樹脂のうち、5質量%以上の樹脂が、HTm−ポリエステル樹脂である。
以上説明したように、水性媒体の昇温中にpH変化工程を行うことにより、下地凹部が形成される。以下、pH変化温度、及びpH変化工程を行った後の水性媒体のpH(以下、変化後のpHと記載する)についてさらに示す。
(pH変化工程:pH変化温度)
pH変化温度は、昇温開始時の水性媒体の温度よりも高いことが好ましい。これにより、トナーコアに含有される樹脂は、軟化し易くなるため、加水分解し易くなる。よって、下地凹部の形成が促進する。pH変化温度は、好ましくは(LTm−非結晶性ポリエステル樹脂の軟化点)±10℃であり、より好ましくは30℃以上60℃以下から選ばれる温度であり、さらに好ましくは35℃以上55℃以下から選ばれる温度である。
(pH変化工程:変化後のpH)
変化後のpHは8以上12以下である。変化後のpHが8以上であれば、トナーコアに含有される樹脂の加水分解が進行する。これにより、下地凹部が形成される。変化後のpHが12超であれば、トナーコアに含有される樹脂の加水分解が過剰に進行する。そのため、下地凹部が過剰に形成されることとなり、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの表面凹部の数(個/μm2)が0.500個超となることがある。また、表面凹部の開口面積が1.0μm2超となることがある。
(昇温工程:pH変化工程後)
pH変化工程が終了した後も水性媒体の昇温を止めず、水性媒体の温度を所定の目標温度まで上昇させる。これにより、下地凹部が形成されたトナーコアの表面がシェル材料で覆われることとなる。そのため、pH変化工程後の昇温時間が短ければ、トナーコアの表面におけるシェル材料の付着量が少なくなる。その結果、シェル層の形成が難しくなり、よって、表面凹部の形成が難しくなる。これを踏まえて、pH変化工程後の昇温時間を設定することが好ましい。昇温の速度、pH変化温度、及び昇温の目標温度のうちの少なくとも1つを変更することにより、pH変化工程後の昇温時間が変更される。したがって、pH変化工程後の昇温時間が所望の時間となるように、昇温の速度、pH変化温度、及び昇温の目標温度を設定することが好ましい。pH変化温度は昇温の目標温度よりも低いことが好ましく、例えばpH変化温度と昇温の目標温度との差は10℃以上であることが好ましい。
以上説明したように、シェル層の形成工程では、水性媒体の昇温中にpH変化工程を行い、pH変化工程後においても水性媒体の昇温を継続する。これにより、下地凹部を形成しつつ、下地凹部の内側領域を含むトナーコアの表面にシェル層が形成される。
例えば、シェル材料としてスチレン−アクリル酸系樹脂からなる粒子を含むサスペンションを使用し、昇温工程における昇温開始時の水性媒体の温度を30℃とし、昇温工程における昇温の速度を1℃/分とした場合を例に挙げる。この場合、水性媒体の温度が40℃になる頃には、トナーコアの表面領域がシェル材料で十分に覆われると考えられる。また、水性媒体の温度が60℃になる頃には、シェル材料がトナーコアの表面に固定化され始めると考えられる。
(保温工程)
保温工程では、昇温工程が終了した後に、水性媒体の温度を昇温の目標温度に所定の時間、保つ。所定の時間は、例えば、30分間以上4時間以下から選ばれる時間である。水性媒体の温度を昇温の目標温度に保つことにより、トナーコアの表面に付着しているシェル材料とトナーコアとの間で反応が進行すると考えられる。シェル材料がトナーコアと結合することで、シェル層が形成される。詳しくは、トナーコアの表面でシェル材料の粒子が2次元的に連なることにより、粒状感のある膜(シェル層)が形成されると考えられる。このようにして、トナー母粒子の分散液が得られる。
(ろ過工程)
まず、得られたトナー母粒子の分散液に冷水を入れて、フラスコ内容物を常温(約25℃)まで冷却する。続けて、例えばブフナー漏斗を用いて、トナー母粒子の分散液をろ過する。これにより、トナー母粒子が液から分離され、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られる。
(洗浄工程、乾燥工程)
得られたウェットケーキ状のトナー母粒子を洗浄する。続けて、洗浄されたトナー母粒子を乾燥する。
(外添工程)
乾燥されたトナー母粒子と外添剤とを、混合機(例えば、日本コークス工業株式会社製のFMミキサー)を用いて混合する。これにより、トナー母粒子の表面に外添剤が物理的結合する。こうして、トナー粒子を多数含むトナーが得られる。
なお、洗浄されたトナー母粒子を、スプレードライヤーを用いて乾燥させる場合には、外添剤の分散液をトナー母粒子に噴霧することが好ましい。これにより、洗浄されたトナー母粒子の乾燥と外添処理とを同時に行うことができる。
なお、上記トナーの製造方法の内容及び順序はそれぞれ、要求されるトナーの構成又は特性等に応じて任意に変更できる。例えば、シェル材料は、一度に水性媒体に添加されてもよいし、複数回に分けて水性媒体に添加されてもよい。外添工程の後で、トナーを篩別してもよい。また、必要のない工程は割愛してもよい。例えば、市販品をそのまま材料として用いることができる場合には、市販品を用いることで、その材料を調製する工程を割愛できる。
また、トナーコアの材料とシェル材料とはそれぞれ、下記[トナーコア、シェル層、及び外添剤の各々の材料の例示]に記載の材料に限定されない。例えば、下記[トナーコア、シェル層、及び外添剤の各々の材料の例示]に記載の材料の誘導体をトナーコアの材料又はシェル材料として使用してもよい。モノマーに代えてプレポリマーを使用してもよい。また、下記[トナーコア、シェル層、及び外添剤の各々の材料の例示]に記載の材料を得るために、原料として、その化合物の塩、エステル、水和物、又は無水物を使用してもよい。
また、効率的にトナーを製造するためには、多数のトナー粒子を同時に形成することが好ましい。同時に製造されたトナー粒子は、互いに略同一の構成を有すると考えられる。
[トナーコア、シェル層、及び外添剤の各々の材料の例示]
以下、トナーコア、シェル層、及び外添剤の各々の材料の具体例について、順に説明する。
(トナーコア)
トナーコアは、結着樹脂を含有する。トナーコアは、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉のうちの少なくとも1つをさらに含有しても良い。
(トナーコア:結着樹脂)
トナーコアでは、一般的に、成分の大部分(例えば、85質量%以上)を結着樹脂が占める。このため、結着樹脂の性質がトナーコア全体の性質に大きな影響を与えると考えられる。
また、結着樹脂として複数種の樹脂を組み合わせて使用することで、結着樹脂の性質(より具体的には、水酸基価、酸価、Tg、又はTm等)を調整できる。例えば、結着樹脂がエステル基、水酸基、エーテル基、酸基、又はメチル基を有する場合には、トナーコアはアニオン性になる傾向が強くなる。また、結着樹脂がアミノ基又はアミド基を有する場合には、トナーコアはカチオン性になる傾向が強くなる。結着樹脂が強いアニオン性を有するためには、結着樹脂の酸価及び水酸基価の少なくとも一方が10mgKOH/g以上であることが好ましい。
(結着樹脂:ポリエスエル樹脂)
トナーコアは、以下に示すポリエステル樹脂を含有することが好ましい。
ポリエステル樹脂は、1種以上のアルコールと1種以上のカルボン酸とを縮重合させることで得られる。ポリエステル樹脂を合成するためのアルコールとしては、例えば以下に示す2価アルコール又は3価以上のアルコールを好適に使用できる。2価アルコールとしては、例えば、ジオール類又はビスフェノール類を使用できる。ポリエステル樹脂を合成するためのカルボン酸としては、例えば以下に示す2価カルボン酸又は3価以上のカルボン酸を好適に使用できる。アルコール及びカルボン酸のうちの少なくとも1つが分子内に芳香環を有する場合には、合成されたポリエステル樹脂は結晶性を示し易くなる。
ジオール類の好適な例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
ビスフェノール類の好適な例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
3価以上のアルコールの好適な例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
2価カルボン酸の好適な例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸(より具体的には、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸等)、又はアルケニルコハク酸(より具体的には、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸等)が挙げられる。
3価以上のカルボン酸の好適な例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
(結着樹脂:熱可塑性樹脂)
トナーコアは、上記の上記ポリエスエル樹脂に加え、以下に示す熱可塑性樹脂をさらに含有しても良い。
熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル酸系樹脂、オレフィン系樹脂、ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、又はウレタン樹脂を好適に使用できる。また、これら各樹脂の共重合体、すなわち上記樹脂中に任意の繰返し単位が導入された共重合体も、トナー粒子を構成する熱可塑性樹脂として好適に使用できる。例えば、スチレン−アクリル酸系樹脂又はスチレン−ブタジエン系樹脂も、トナーコアを構成する熱可塑性樹脂として好適に使用できる。
アクリル酸系樹脂としては、例えば、アクリル酸エステル重合体又はメタクリル酸エステル重合体を使用できる。オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂を使用できる。ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、ビニルエーテル樹脂、又はN−ビニル樹脂を使用できる。
スチレン−アクリル酸系樹脂は、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体である。スチレン−アクリル酸系樹脂を合成するためには、例えば以下に示すスチレン系モノマー及びアクリル酸系モノマーを好適に使用できる。アクリル酸系モノマーを用いることで、スチレン−アクリル酸系樹脂にカルボキシル基を導入できる。また、水酸基を有するモノマーを用いることで、スチレン−アクリル酸系樹脂に水酸基を導入できる。水酸基を有するモノマーとしては、例えば、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルを使用できる。
スチレン系モノマーの好適な例としては、スチレン、アルキルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、ビニルトルエン、α−クロロスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、又はp−クロロスチレンが挙げられる。アルキルスチレンとしては、例えば、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、又は4−tert−ブチルスチレンが挙げられる。
アクリル酸系モノマーの好適な例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、又は(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、又は(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの好適な例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、又は(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが挙げられる。
(トナーコア:着色剤)
着色剤としては、トナーの色に合わせて公知の顔料又は染料を用いることができる。トナーを用いて高画質の画像を形成するためには、着色剤の量が、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
トナーコアは、黒色着色剤を含有していてもよい。黒色着色剤の例としては、カーボンブラックが挙げられる。また、黒色着色剤は、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、及びシアン着色剤を用いて黒色に調色された着色剤であってもよい。
トナーコアは、イエロー着色剤、マゼンタ着色剤、又はシアン着色剤のようなカラー着色剤を含有していてもよい。
イエロー着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アントラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、及びアリールアミド化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。イエロー着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(3、12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、151、154、155、168、174、175、176、180、181、191、又は194)、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、又はC.I.バットイエローを好適に使用できる。
マゼンタ着色剤としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、及びペリレン化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。マゼンタ着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(2、3、5、6、7、19、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、150、166、169、177、184、185、202、206、220、221、又は254)を好適に使用できる。
シアン着色剤としては、例えば、銅フタロシアニン化合物、アントラキノン化合物、及び塩基染料レーキ化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を使用できる。シアン着色剤としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、又は66)、フタロシアニンブルー、C.I.バットブルー、又はC.I.アシッドブルーを好適に使用できる。
(トナーコア:離型剤)
離型剤は、例えば、トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させる目的で使用される。トナーコアのアニオン性を強めるためには、アニオン性を有するワックスを用いてトナーコアを作製することが好ましい。トナーの定着性又は耐オフセット性を向上させるためには、離型剤の量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
離型剤としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、又はフィッシャートロプシュワックスのような脂肪族炭化水素ワックス;酸化ポリエチレンワックス又はそのブロック共重合体のような脂肪族炭化水素ワックスの酸化物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろう、又はライスワックスのような植物性ワックス;みつろう、ラノリン、又は鯨ろうのような動物性ワックス;オゾケライト、セレシン、又はペトロラタムのような鉱物ワックス;モンタン酸エステルワックス又はカスターワックスのような脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスのような、脂肪酸エステルの一部又は全部が脱酸化したワックスを好適に使用できる。1種類の離型剤を単独で使用してもよいし、複数種の離型剤を併用してもよい。
結着樹脂と離型剤との相溶性を改善するために、相溶化剤をトナーコアに添加してもよい。
(トナーコア:電荷制御剤)
電荷制御剤は、例えば、トナーの帯電安定性又は帯電立ち上がり特性を向上させる目的で使用される。トナーの帯電立ち上がり特性は、短時間で所定の帯電レベルにトナーを帯電可能か否かの指標になる。
トナーコアに負帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナーコアのアニオン性を強めることができる。また、トナーコアに正帯電性の電荷制御剤を含有させることで、トナーコアのカチオン性を強めることができる。ただし、トナーにおいて十分な帯電性が確保される場合には、トナーコアに電荷制御剤を含有させる必要はない。
(トナーコア:磁性粉)
磁性粉の材料としては、例えば、強磁性金属もしくはその合金、強磁性金属酸化物、又は強磁性化処理が施された材料を好適に使用できる。強磁性金属としては、例えば、鉄、コバルト、又はニッケルを使用できる。強磁性金属酸化物としては、例えば、フェライト、マグネタイト、又は二酸化クロムを使用できる。強磁性化処理としては、例えば、熱処理が挙げられる。1種類の磁性粉を単独で使用してもよいし、複数種の磁性粉を併用してもよい。
磁性粉からの金属イオン(例えば、鉄イオン)の溶出を抑制するためには、磁性粉を表面処理することが好ましい。酸性条件下でトナーコアの表面にシェル層を形成する場合に、トナーコアの表面に金属イオンが溶出すると、トナーコア同士が固着し易くなる。磁性粉からの金属イオンの溶出を抑制することで、トナーコア同士の固着を抑制できると考えられる。
(シェル層)
シェル層は、粒状感のない膜であってもよいし、粒状感のある膜であってもよい。シェル層を形成するための材料として樹脂粒子を使用した場合、樹脂粒子が完全に溶けて膜状の形態で硬化すれば、シェル層として、粒状感のない膜が形成されると考えられる。他方、樹脂粒子が完全に溶けずに膜状の形態で硬化すれば、シェル層として、樹脂粒子が2次元的に連なった形態を有する膜(粒状感のある膜)が形成されると考えられる。
(シェル層:熱可塑性樹脂)
シェル層は、上記(結着樹脂:ポリエスエル樹脂)に記載のポリエステル樹脂、及び上記(結着樹脂:熱可塑性樹脂)に記載の熱可塑性樹脂のうちの少なくとも1つを含有することが好ましい。
(シェル層:熱硬化性樹脂)
シェル層は、上記の熱可塑性樹脂に加え、以下に示す熱硬化性樹脂をさらに含有することが好ましい。
熱硬化性樹脂の好適な例としては、アミノアルデヒド樹脂、ポリイミド樹脂、又はキシレン系樹脂が挙げられる。アミノアルデヒド樹脂は、アミノ基を有する化合物とアルデヒドとの縮重合によって生成する樹脂である。ここで、アルデヒドとしては例えばホルムアルデヒドを使用できる。アミノアルデヒド樹脂の例としては、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、スルホンアミド系樹脂、グリオキザール系樹脂、グアナミン系樹脂、又はアニリン系樹脂が挙げられる。ポリイミド樹脂としては、例えば、マレイミド重合体又はビスマレイミド重合体を使用できる。
シェル層の膜質を向上させるために、シェル層に含有される樹脂に、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、又はメタクリル酸2−ヒドロキシプロピルに由来する1種以上のアルコール性水酸基を導入してもよい。
トナーの帯電安定性を向上させるためには、シェル層が、1種以上のスチレン系モノマーと1種以上のアクリル酸系モノマーとの共重合体を含有することが特に好ましい。スチレン系モノマーとしては、例えばスチレンを使用できる。アクリル酸系モノマーとしては、例えばアクリル酸エステルを使用できる。
シェル層に電荷制御剤を含有させることにより、トナーの帯電安定性を向上させても良い。シェル層に電荷制御剤を含有させるためには、シェル層を構成する樹脂中に電荷制御剤(例えば、4級アンモニウム塩)に由来する繰返し単位を組み込んでもよいし、シェル層を構成する樹脂中に帯電粒子を分散させてもよい。トナー粒子を正帯電させるためには、シェル層が、正帯電性を有する樹脂粒子を含むことが好ましい。
(外添剤)
外添剤は、例えばトナー粒子の流動性又はトナーの取扱性を向上させるために使用される。例えば、外添剤の量は、トナー母粒子100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましい。また、外添剤の粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下であることが好ましい。
外添剤としては、シリカ粒子、又は金属酸化物の粒子を好適に使用できる。金属酸化物は、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、又はチタン酸バリウムであることが好ましい。1種類の外添剤を単独で使用してもよいし、複数種の外添剤を併用してもよい。
[本実施形態に係るトナーの用途の例示]
本実施形態に係るトナーは、例えば正帯電性トナーとして、静電潜像の現像に好適に用いることができる。本実施形態のトナーは、1成分現像剤として使用してもよいし、2成分現像剤に含まれるトナーとして使用してもよい。
(本実施形態に係るトナーの用途の例示:2成分現像剤)
本実施形態のトナーが2成分現像剤に含まれるトナーとして使用される場合には、混合装置を用いてトナーとキャリアとを混合することにより2成分現像剤を調製できる。混合装置としては、例えばボールミルを使用できる。
キャリアとしてはフェライトキャリアを使用することが好ましい。これにより、高画質の画像を形成できる。キャリアとしては、キャリアコアと、キャリアコアを被覆する樹脂層とを備える磁性キャリア粒子を使用することがより好ましい。これにより、長期にわたって高画質の画像を形成できる。キャリア粒子に磁性を付与するためには、磁性材料でキャリア粒子を形成してもよいし、磁性粒子を分散させた樹脂でキャリア粒子を形成してもよい。また、キャリアコアを被覆する樹脂層中に磁性粒子を分散させてもよい。高画質の画像を形成するためには、2成分現像剤におけるトナーの量は、キャリア100質量部に対して、5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。なお、2成分現像剤に含まれる正帯電性トナーは、キャリアとの摩擦により正に帯電する。
本発明の実施例について説明する。しかし、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
以下に示す方法に従って、表1に示すトナーT−1〜T−18を製造した。
以下、トナーT−1〜T−18の製造方法、評価方法、及び評価結果について、順に説明する。なお、誤差が生じる評価においては、誤差が十分小さくなる相当数の測定値を得て、得られた測定値の算術平均を評価値とした。また、粉体の個数平均粒子径は、何ら規定していなければ、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて測定された1次粒子の円相当径の個数平均値である。また、Tg(ガラス転移点)及びTm(軟化点)はそれぞれ、次に示す方法で測定した。
<Tgの測定方法>
示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製「DSC−6220」)を用いて、試料(例えば、樹脂)の吸熱曲線(縦軸:熱流(DSC信号)、横軸:温度)を求めた。続けて、得られた吸熱曲線から試料のTg(ガラス転移点)を読み取った。得られた吸熱曲線中の比熱の変化点(ベースラインの外挿線と立ち下がりラインの外挿線との交点)の温度が、試料のTg(ガラス転移点)に相当する。
<Tmの測定方法>
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製「CFT−500D」)に試料(例えば、樹脂)をセットし、ダイス細孔径1mm、プランジャー荷重20kg/cm2、昇温速度6℃/分の条件で、1cm3の試料を溶融流出させて、試料のS字カーブ(横軸:温度、縦軸:ストローク)を求めた。続けて、得られたS字カーブから試料のTm(軟化点)を読み取った。得られたS字カーブにおいて、ストロークの最大値をS1とし、低温側のベースラインのストローク値をS2とすると、S字カーブ中のストロークの値が「(S1+S2)/2」となる温度が、試料のTm(軟化点)に相当する。
[トナーT−1の製造]
(トナーコアの作製)
66質量部の低粘度非結晶性ポリエステル樹脂(Tg=38℃、Tm=65℃)と、9質量部の中粘度非結晶性ポリエステル樹脂(Tg=53℃、Tm=84℃)と、12質量部の高粘度非結晶性ポリエステル樹脂(Tg=71℃、Tm=120℃)と、5質量部のカルナバワックス(株式会社加藤洋行製「カルナウバワックス1号」)と、8質量部の着色剤(DIC株式会社製「KET BLUE 111」、フタロシアニンブルー)とを、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて回転速度2400rpmで混合した。
続けて、得られた混合物を、二軸押出機(株式会社池貝製「PCM−30」)を用いて、材料供給速度5kg/時、軸回転速度160rpm、設定温度範囲(シリンダー温度)80℃以上130℃以下の条件で、溶融混練した。続けて、得られた溶融混練物を冷却し、冷却された溶融混練物を粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製「ロートプレックス(登録商標)」)を用いて粗粉砕した。続けて、得られた粗粉砕物を、ジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製「超音波ジェットミルI型」)を用いて微粉砕した。続けて、得られた微粉砕物を、分級機(日鉄鉱業株式会社製「エルボージェットEJ−LABO型」)を用いて分級した。その結果、体積中位径(D50)6μmのトナーコアが得られた。
(シェル材料の調製)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットした。続けて、フラスコ内に、875gのイオン交換水(温度:30℃)と、75gのアニオン界面活性剤(花王株式会社製「ラテムル(登録商標)WX」、成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、固形分濃度:26質量%)とを入れた。その後、フラスコ内容物を攪拌しながら、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を80℃に上昇させた。続けて、80℃のフラスコ内容物を攪拌しながら、2種類の液(第1の液及び第2の液)をそれぞれ5時間かけてフラスコ内に滴下した。第1の液は、17gのスチレンと3gのアクリル酸ブチルとの混合液であった。第2の液は、0.5gの過硫酸カリウムを30gのイオン交換水に溶かした溶液であった。
続けて、フラスコ内の温度を80℃に保ちつつ、フラスコ内容物をさらに2時間攪拌して、フラスコ内容物の重合反応を十分に進行させた。その結果、疎水性の熱可塑性樹脂からなる粒子を含むサスペンション(固形分濃度3.6質量%)が得られた。得られたサスペンションに含まれる樹脂粒子に関して、個数平均粒子径は32nmであり、Tgは71℃であった。
(シェル層の形成)
温度計及び攪拌羽根を備えた容量1Lの3つ口フラスコをウォーターバスにセットし、フラスコ内に300gのイオン交換水を入れた。その後、ウォーターバスを用いてフラスコ内の温度を30℃に保った。続けて、フラスコ内に希塩酸を加えて、フラスコ内容物のpHを4に調整した。続けて、フラスコ内に、30gのシェル材料(前述の手順で調製した疎水性熱可塑性樹脂粒子のサスペンション)を添加して、シェル材料の分散液を得た。
(シェル層の形成:昇温)
続けて、得られたシェル材料の分散液に、300gのトナーコア(前述の手順で作製したトナーコア)を添加し、フラスコ内容物を回転速度200rpmで1時間攪拌した。その後、フラスコ内に300gのイオン交換水をさらに添加した。続けて、フラスコ内容物を回転速度100rpmで攪拌しながら、フラスコ内容物を昇温させた。昇温開始時において、フラスコ内容物の温度(表1には初期の温度と記載)は30℃、フラスコ内容物のpH(表1には初期のpHと記載)は4であった。また、昇温条件に関して、目標温度は70℃、速度(表1には昇温速度と記載)は1.0℃/分であった。
上記昇温中に、フラスコ内容物の温度が35℃に到達した時点で、フラスコ内に水酸化ナトリウム水溶液を加えてフラスコ内容物のpHを9に変えた。つまり、トナーT−1の製造時にはpH変化温度を35℃とした。pH変化時もpH変化後も上記昇温は止めずに、目標温度(70℃)まで昇温を続けた。
上記昇温によりフラスコ内容物の温度が70℃に到達したら、フラスコ内容物の温度をその温度(70℃)に保ち、温度70℃かつ回転速度100rpmの条件で、フラスコ内容物をさらに1時間攪拌した。その後、フラスコ内に冷水を入れて、フラスコ内容物を常温(約25℃)まで急冷した。その結果、トナー母粒子を含む分散液が得られた。
(洗浄)
上記のようにして得られたトナー母粒子の分散液を、ブフナー漏斗を用いてろ過(固液分離)した。その結果、ウェットケーキ状のトナー母粒子が得られた。その後、得られたウェットケーキ状のトナー母粒子をイオン交換水に再分散させた。さらに、分散とろ過とを5回繰り返して、トナー母粒子を洗浄した。
(乾燥)
続けて、得られたトナー母粒子を、濃度50質量%のエタノール水溶液に分散させた。これにより、トナー母粒子のスラリーが得られた。続けて、連続式表面改質装置(フロイント産業株式会社製「コートマイザー(登録商標)」)を用いて、熱風温度45℃かつブロアー風量2m3/分の条件で、スラリー中のトナー母粒子を乾燥させた。その結果、乾燥したトナー母粒子(粉体)が得られた。
(外添)
100質量部のトナー母粒子(上記のようにして得たトナー母粒子)と、1.5質量部の乾式シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製「AEROSIL(登録商標)REA90」)と、1.5質量部の導電性酸化チタン粒子(チタン工業株式会社製「EC−100」、基体:TiO2粒子、被覆層:SbドープSnO2膜、個数平均1次粒子径:約0.35μm)とを、容量10LのFMミキサー(日本コークス工業株式会社製)を用いて5分間混合した。これにより、トナー母粒子の表面に外添剤(シリカ粒子及び酸化チタン粒子)を付着させた。その後、得られたトナーを、200メッシュ(目開き75μm)の篩を用いて篩別した。その結果、多数のトナー粒子を含むトナー(トナーT−1)が得られた。
[トナーT−2〜T−17の製造]
昇温速度(℃/分)、pH変化温度(℃)、目標温度(℃)、及び目標pHを表1に示すように変更したことを除いてはトナーT−1の製造方法に従って、トナーT−2〜T−17を製造した。
なお、トナーT−12では、シェル層の形成時における昇温工程において、水酸化ナトリウム水溶液をフラスコに添加しなかった。また、トナーT−13では、シェル層の形成時における昇温工程において、フラスコ内容物の温度が35℃に到達した時点で、フラスコ内に水酸化ナトリウム水溶液を加えてフラスコ内容物のpHを4に調整した。
[トナーT−18の製造]
低粘度非結晶性ポリエステル樹脂の材料を以下に示す材料に変更してトナーコアを作製したことを除いてはトナーT−15の製造方法に従って、トナーT−18を製造した。詳しくは、66質量部の低粘度非結晶性ポリエステル樹脂(Tg=38℃、Tm=65℃)の代わりに、33質量部の低粘度非結晶性ポリエステル樹脂(Tg=38℃、Tm=65℃)及び33質量部の低粘度非結晶性ポリエステル樹脂(Tg=40℃、Tm=69℃)を用いて、トナーコアを作製した。
[トナー粒子の円形度の測定方法]
上記のようにして得られたトナーT−1〜T−18に関して、トナー粒子の円形度を測定した。測定対象は、トナーT−1〜T−18の各々に含まれているトナー母粒子とした。つまり、トナー母粒子に対して外添処理を行う前に、トナー粒子の円形度を測定した。詳しくは、フロー式粒子像分析装置(シスメックス株式会社製「FPIA(登録商標)−3000」)を用いて、水に分散されているトナー母粒子の各々の円形度を測定した。このとき、解析対象粒子径の最大値を20μmに設定した。測定された円形度の個数平均値を、トナー粒子の円形度とした。その結果を表2に示す。
[凹部の最大開口面積、及びトナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数の測定方法]
上記のようにして得られたトナーT−1〜T−18に関して、トナー粒子の表面に形成された凹部の最大開口面積と、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数とを測定した。測定対象は、トナーT−1〜T−18の各々に含まれているトナー母粒子とした。つまり、トナー母粒子に対して外添処理を行う前に、凹部の最大開口面積を測定し、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数を測定した。詳しくは、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子株式会社製「JSM−7600F」)を用いてトナー母粒子の表面全域を観察した。1つの試料につき、20個のトナー母粒子を観察した。そして、凹部の最大開口面積(最大値)と、単位面積あたりの凹部の数(個数平均値)とを求めた。その結果を表2に示す。
[シェル被覆率の測定方法]
上記のようにして得られたトナーT−1〜T−18に関して、全体シェル被覆率(単位:%)を測定した。測定対象は、トナーT−1〜T−18の各々に含まれているトナー母粒子とした。つまり、トナー母粒子に対して外添処理を行う前に、シェル被覆率を測定した。詳しくは、トナー母粒子(粉体)を、常温(25℃)の大気雰囲気下で、濃度0.5質量%RuO4水溶液2mLの蒸気中に5分間暴露することで、トナー母粒子をRu染色した。そして、染色されたトナー母粒子を、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子株式会社製「JSM−7600F」)を用いて倍率50000倍で観察し、トナー母粒子の反射電子像を得た。トナーコアの表面領域のうち、シェル層で被覆されている領域は、ルテニウムに染色され易かった。
得られた反射電子像のうち、最も明るい部分の値を255、最も暗い部分の値を0として、輝度値を256分割した。そして、画像解析ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF」)を用いて、輝度値144を基準とする2値化処理を反射電子像に対して行った。2値化処理後、トナー母粒子の反射電子像全体の面積SA1(反射電子像中の全画素数に相当)と、反射電子像において輝度値が144以上である領域の面積SB1(反射電子像中の輝度値144以上の画素数に相当)とを求め、下記式に従って全体シェル被覆率(単位:%)を算出した。
全体シェル被覆率=100×面積SB1/面積SA1
観察倍率を50000倍から100000倍に変更した以外は、上記全体シェル被覆率の測定と同様にして、凹部シェル被覆率(単位:%)を測定した。下地凹部の内側領域の面積SA2(下地凹部の内側領域中の全画素数に相当)と、下地凹部の内側領域において輝度値が144以上である領域の面積SB2(下地凹部の内側領域中の輝度値144以上の画素数に相当)とを求め、下記式に従って凹部シェル被覆率(単位:%)を算出した。
凹部シェル被覆率=100×面積SB2/面積SA2
下記式に示すように、凹部シェル被覆率の測定値から全体シェル被覆率の測定値を引いて、面積差(単位:%)を算出した。その結果を表2に示す。
面積差=凹部シェル被覆率−全体シェル被覆率
[評価方法]
(現像性)
上記のようにして得られたトナーT−1〜T−18に関して、カラー複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5300DN」)を用いて、現像性を評価した。詳しくは、100質量部の現像剤用キャリア(FS−C5300DN用キャリア)と、10質量部のトナー(上記のようにして得られたトナー)とを、ボールミルを用いて30分間混合して、2成分現像剤を調製した。
得られた2成分現像剤を上記カラー複合機の現像装置にセットした。現像時に印加されるバイアス(電圧)を250Vに設定し、印字率が5%のソリッド画像となる画像パターン(トナー像)を感光体上に形成した。この画像パターンが中間転写体へ転写される前に画像形成を停止し、上記カラー複合機から感光体を取り出した。感光体上に形成されたトナー像を、面積及び質量が既知のテープに付着させた。トナー像が付着されたテープの質量を測定し、下記式を用いてトナー現像量(g/m2)を求めた。
トナー現像量(g/m2)=[(トナー像が付着されたテープの質量(g))−(トナー像が付着される前のテープの質量(g))]/(テープの表面のうちトナー像が付着される面の面積(m2))
上記の方法に従って、現像時に印加されるバイアス(電圧)を350V及び450Vにそれぞれ変更してトナー現像量(g/m2)を求めた。そして、現像時に印加されるバイアス(電圧)を横軸に示し、求められたトナー現像量(g/m2)を縦軸に示したグラフに、得られた結果をプロットした。プロットされたデータを最小二乗法により1次関数で近似した。その1次関数の傾き(現像性指数)を求めた。その結果を表2に示す。
現像性指数が0.022以上であれば、良いと評価した。現像性指数が0.022未満であれば、良くないと評価した。
(クリーニング性)
上記のようにして得られたトナーT−1〜T−18に関して、カラー複合機(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「FS−C5300DN」)を用いてクリーニング性を評価した。詳しくは、100質量部の現像剤用キャリア(FS−C5300DN用キャリア)と、10質量部のトナー(上記のようにして得られたトナー)とを、ボールミルを用いて30分間混合して、2成分現像剤を調製した。
得られた2成分現像剤を、上記カラー複合機の現像装置にセットし、A4サイズの印刷用紙にソリッド画像を形成した。ソリッド画像は、印刷用紙の長手方向に対し平行に延びる短冊形状(幅:30mm)を有し、印刷用紙の幅方向中央に形成された。感光体上に残ったトナーがクリーニングブレードにより除去された後に画像形成を停止し、上記カラー複合機から感光体を取り出した。そして、感光体の表面のうちクリーニングブレードが通過した部分にセロハンテープを貼り付け、セロハンテープにより、感光体上に残留しているトナーを剥がし取った。そのセロハンテープを白紙に貼り付けた。マクベス反射濃度計(X−Rite社製「RD914」)を用いて、白紙のうちトナーが付着している部分の反射濃度(ID:画像濃度)を測定した。このようにして、感光体上に残留しているトナーの量(以下、トナーの残留量と記載する)が見積もられた。
測定された画像濃度(ID)が0.01以下であれば、トナーの残留量は少ないと判断され、良い(○)と評価した。測定された画像濃度(ID)が0.01超であれば、トナーの残留量は多いと判断され、悪い(×)と評価した。
(耐熱保存性)
上記のようにして得られたトナーT−1〜T−18に関して、耐熱保存性を評価した。詳しくは、トナー2gを容量20mLのポリエチレン製容器に入れて密閉し、密閉された容器を、60℃に設定された恒温槽内に3時間静置した。その後、恒温槽から取り出したトナーを室温(約25℃)まで冷却して、評価用トナーを得た。
続けて、得られた評価用トナーを、質量既知の100メッシュ(目開き150μm)の篩に載せた。そして、評価用トナーを含む篩の質量を測定し、篩別前のトナーの質量を求めた。続けて、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)に上記篩をセットし、パウダーテスターのマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5の条件で30秒間、篩を振動させ、評価用トナーを篩別した。篩別後、篩を通過しなかったトナーの質量を測定した。そして、篩別前のトナーの質量と、篩別後のトナーの質量とに基づいて、次の式に従ってトナー凝集度(単位:質量%)を求めた。その結果を表2に示す。なお、下記式における「篩別後のトナーの質量」は、篩を通過しなかったトナーの質量であり、篩別後に篩上に残留したトナーの質量である。
トナー凝集度=100×篩別後のトナーの質量/篩別前のトナーの質量
トナー凝集度が50質量%以下であれば、良いと評価した。トナー凝集度が50質量%を超えれば、良くないと評価した。
表2において、「開口面積」には、最大開口面積(μm2)を記している。最大開口面積が0μm2であるとは、100nm以上の深さを有する凹部がトナー粒子の表面に形成されていないことを意味する。「開口数」には、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数(個/μm2)を記している。「面積差」には下記式により求められた面積差(%)を記している。
面積差=凹部シェル被覆率−全体シェル被覆率
トナーT−1〜T−11(実施例1〜11に係るトナー)はそれぞれ、前述の基本構成を有していた。詳しくは、実施例1〜11に係るトナーでは、それぞれ、コアと、コアの表面を覆うシェル層とを備えるトナー粒子を、複数含んでいた。コアの表面には、複数の第1凹部が形成されていた。シェル層は、コアの表面領域における、第1凹部の内側領域と第1凹部の外側領域との両方に存在していた。トナー粒子の表面には、第1凹部に対応する第2凹部が形成されていた。トナー粒子の円形度は、0.960以上0.970以下であった。トナー粒子の表面に存在する第2凹部の数は、トナー粒子の表面領域の面積1μm2あたり0.300個以上0.500個以下であった。第2凹部の開口面積は、1.0μm2以下であった。
表2に示されるように、トナーT−1〜T−11では、それぞれ、現像性及びクリーニング性に優れ、トナー凝集度が低く抑えられた。つまり、トナーT−1〜T−11では、それぞれ、クリーニング性及びトナー粒子の耐熱保存性を高く維持でき、現像性を適正な状態に維持できた。
トナーT−12〜T−13(比較例1及び2に係るトナー)では、トナーT−1〜T−11と比較して、現像性の評価で劣っていた。このような結果が得られた理由としては、トナーT−12〜T−13では、100nm以上の深さを有する凹部がトナー粒子の表面に形成されていないことが考えられる。詳しくは、トナーT−12では、シェル層の形成時における昇温工程において、水酸化ナトリウム水溶液を添加しなかった。そのため、トナー粒子の表面に凹部が形成されなかったと考えられる。また、トナーT−13では、シェル層の形成時における昇温工程において、フラスコ内容物のpHは酸性に維持されたままであった。そのため、トナー粒子の表面に凹部が形成され難かったと考えられる。
トナーT−14及びT−17(比較例3及び6に係るトナー)では、トナーT−1〜T−11と比較して、現像性の評価で劣っていた。このような結果が得られた理由としては、トナーT−14及びT−17では、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数が0.300個未満であることが考えられる。詳しくは、トナーT−14では、シェル層の形成時における昇温工程において、pH変化温度と目標温度とが同じ温度であった。そのため、フラスコ内容物のpHの変化時から昇温工程の終了時までの時間を確保できず、よって、トナー粒子の表面に凹部が形成され難かったと考えられる。その結果、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数が0.300個未満となったと考えられる。また、トナーT−17では、シェル層の形成時における昇温工程において、pH変化温度が35℃であり、目標温度が60℃であり、昇温速度が1.0℃/分であった。そのため、フラスコ内容物のpHの変化時から昇温工程の終了時までの時間を確保することが難しく、よって、トナー粒子の表面に凹部が形成され難かったと考えられる。その結果、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数が0.300個未満となったと考えられる。
トナーT−15(比較例4に係るトナー)では、トナーT−1〜T−11と比較して、現像性の評価で劣っていた。このような結果が得られた理由としては、トナーT−15では、トナー粒子の表面には凹部が形成されているが、その凹部の最大開口面積が3.5μm2であったことが考えられる。詳しくは、トナーT−15では、シェル層の形成時には、フラスコ内容物のpHが13に変化するように水酸化ナトリウム水溶液をフラスコに添加した。そのため、トナー粒子の表面に凹部が過剰に形成されたと考えられる。よって、凹部の最大開口面積が3.5μm2となったと考えられる。
トナーT−16(比較例5に係るトナー)では、トナーT−1〜T−11と比較して、クリーニング性の評価で劣っていた。このような結果が得られた理由としては、トナーT−16では、トナー粒子の円形度が高かったことが考えられる。詳しくは、トナーT−16では、シェル層の形成時における昇温工程において、pH変化温度が35℃であり、目標温度が75℃であり、昇温速度が1.0℃/分であった。そのため、目標温度が高く、また、フラスコ内容物のpHの変化時から昇温工程の終了時までの時間が長い傾向にあった、と考えられる。よって、円形度の高いトナー粒子が製造されたと考えられる。
トナーT−18(比較例7に係るトナー)では、トナーT−1〜T−11と比較して、耐熱保存性の評価で劣っていた。このような結果が得られた理由としては、トナーT−18では、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数が0.500個超であったことが考えられる。詳しくは、トナーT−18では、シェル層の形成時には、フラスコ内容物のpHが13に変化するように水酸化ナトリウム水溶液をフラスコに添加した。そのため、トナー粒子の表面に凹部が過剰に形成されたと考えられる。よって、トナー粒子の表面領域の単位面積あたりの凹部の数が0.500個超となったと考えられる。