JP6497556B2 - 車体補強構造 - Google Patents
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Description
特に、車室の底面を形成するフロアパネルは、車幅方向中央部分に車室内に突出して前後方向に延びるトンネル部が設けられるため、フロアパネルの剛性低下により振動が増加する要因になっていた。フロアパネルの振動増加は、車室騒音を招くため乗員に不快感を与える虞があり、乗員の操縦安定性に対しても影響を与える虞があった。
そこで、フロアパネルの剛性を増加させることによって、フロアパネルの振動を低減する技術が提案されている。
この炭素繊維樹脂は、炭素繊維が強度等の力学的特性を分担し、母材樹脂(マトリックス)が炭素繊維間の応力伝達機能と繊維の保護機能を分担するため、繊維方向と非繊維方向(負荷の掛かる方向)によって物性が大きく異なる異方性材料である。
これらの知見を踏まえて、本出願人は、炭素繊維樹脂を車体補強部材として用いた技術を提案している。
しかし、特許文献1の下部車体構造では、捩れ剛性について一切考慮されていないため、ステアリングホイールを一方向に操舵したとき、車体中心軸回りの捩りモーメントに基づく位相遅れに起因したフロアパネルの振動が生じる虞がある。
この捩れ剛性に対する乗員の感覚は、単なる車体の剛性感に依存するのではなく、剛体に囲まれているという、所謂振動の位相遅れを考慮しない箱感とも言えるような心理的安心感に繋がり、乗員による操縦安定性や乗り心地等の評価指標である。
しかも、特許文献1の技術では、金属を材料とした平板状大型部材であるトンネルメンバとブレース部材とを設置しているため、大きな重量増加を招く虞もある。
一般に、振動減衰特性は、蓄積された歪エネルギーと材料固有の損失係数の積で数値的に評価することができ、炭素繊維樹脂は、捩れ損失係数が曲げ損失係数の約3倍の値を有する異方性材料である。
しかし、特許文献2の下部車体構造では、炭素繊維の引張強度を用いてフロアパネルに配設された骨格部材に対して単に張力を付与するものであって、車体中心軸回りの捩りモーメントに基づくフロアパネルの振動を減衰させるものではない。
即ち、特許文献2の技術は、炭素繊維樹脂内に積極的に歪エネルギーを蓄積するための構造的な対策が検討されておらず、捩れ損失係数が大きな物質特性を有する炭素繊維バンドを用いたとしても、炭素繊維樹脂の物質特性を活かした十分な振動減衰効果を期待することができない。
複数の繊維が帯板材の長さ方向に延びるように配列されているため、歪エネルギーを帯板材の全長に亙って能率的に蓄積することができる。
前記サイドシルに第1連結部を設けると共に前記トンネルフレーム部の前記第1連結部よりも前側位置と第1連結部よりも後側位置とに第2,第3連結部を夫々設け、第1帯板材の両端部が前記第1,第2連結部に連結されると共に、第2帯板材の両端部が前記第1,第3連結部に連結され、車体変形時、前記第2の帯板材に捩りモーメントが作用するように構成されたため、第2帯板材の繊維間の樹脂に大きな歪エネルギーを蓄積することができ、振動減衰機能を大きくすることができる。
即ち、第2帯板材の複数の繊維が夫々独立して捩れ変形するため、繊維間に存在する樹脂に剪断変形が生じるものの、繊維間の樹脂が微小体積(微小量)であるため、繊維間に存在する樹脂の剪断歪の増加に伴って樹脂内に蓄積される歪エネルギーが増加する。
それ故、歪エネルギーと捩れ損失係数との相乗作用によって減衰効果が増大し、車体の振動減衰を図ることができる。
この構成によれば、確実に繊維間に存在する樹脂に蓄積される剪断歪を増加することができる。
この構成によれば、車体中心に対して左右対称に捩れ剛性を増加することができ、車体の重量バランスを確保しつつ、車体の振動減衰効果を高くすることができる。
この構成によれば、シートフレームの剛性を車体の捩れ剛性増加に寄与させることにより、車体の振動減衰効果を一層高くすることができる。
以下の説明は、本発明を車両の下部車体構造に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。
尚、図において、矢印Fは前方を示し、矢印Lは左方を示し、矢印Uは上方を示すものとして説明する。
まず、車両Vの全体構成について説明する。
図1〜図3に示すように、車両Vは、モノコック式ボディで構成され、車室Rの底面を形成するフロアパネル1と、このフロアパネル1の前端部分から上方へ立ち上がるように形成され且つエンジンルームEと車室Rとを仕切るダッシュパネル2と、このダッシュパネル2から前方に延びる左右1対のフロントサイドフレーム3と、フロアパネル1の後端側部分から後方に延びる左右1対のリヤサイドフレーム4等を備えている。
図1〜図3に示すように、フロアパネル1は、平面視にて略矩形状に形成され、車幅方向中央部分に、前後に延び且つ車室Rに向けて突出したトンネル部10を備えている。
トンネル部10の左右両端部には、前後に延びる左右1対の断面略ハット状のトンネルフレーム部11が設けられ、このトンネルフレーム部11はフロアパネル1の下面と協働して前後方向に略平行状に延びる断面略矩形状の閉断面を構成している。
左右1対のサイドシル5と左右1対のトンネルフレーム部11との間には、前後に延びる断面略ハット状のフロアフレーム12が夫々設けられている。このフロアフレーム12は、後側程車幅方向外側に移行するように配設され、フロアパネル1の下面と協働して前後に延びる断面略矩形状の閉断面を構成している。
フロアフレーム12の前端部は、フロントサイドフレーム3の後端部に連結されている。
クロスメンバ13は、ヒンジピラー6とセンタピラー7との中間部に対応する位置に配置され、クロスメンバ13の前側壁部には、フロアフレーム12の前端側部分にフロアパネル1を介在させて接合された上側フレーム15の後端部が連結されている。
クロスメンバ14は、クロスメンバ13に略平行状に配設され、センタピラー7に対応する位置に配置されている。
図3に示すように、前側に左右1対のシート取付部、後側に左右1対のシート取付部からなる前後2対のシート取付部が設けられ、1対のシートレール16のうち車幅方向外側のシートレール16は、前端部分(前側シート取付部)がクロスメンバ13の車幅方向外側部分に固定され、後端部分(後側シート取付部)がクロスメンバ14の車幅方向外側部分に固定されている。同様に、1対のシートレール16のうち車幅方向内側のシートレール16は、前端部分(前側シート取付部)がクロスメンバ13の車幅方向内側部分に固定され、後端部分(後側シート取付部)がクロスメンバ14の車幅方向内側部分に固定されている。
フロアパネル1の下側には、複数(例えば13本)の帯板材21〜27が配設されている。
複数の帯板材21〜27は、フロアパネル1から車体中心軸回りに発生する捩りモーメントに基づく位相遅れに起因したフロアパネル1の振動を減衰可能に構成されている。
図1,図2に示すように、これら複数の帯板材21〜27は、左右対称位置に配置されているため、以下、車体左側部分に配置された帯板材21〜27について主に説明し、車体右側部分に配置された帯板材21〜27についての説明を省略する。
帯板材21は、長さ方向一端部にボルト穴が形成された取付部21aと、長さ方向他端部にボルト穴が形成された取付部21bとを備えている。
取付部21a,21bの縦長が、中間部分の縦長よりも若干短く形成されている。
図6に示すように、帯板材21をボルト31及びナット32を介してフロアパネル1(サイドシル5、ブラケット34)に取り付けるとき、取付部21a,21bは1対の取付板33によって夫々挟持されている。
図5に示すように、炭素繊維Fは、帯板材21(炭素繊維樹脂)の長さ方向の一端から他端に亙って連続して帯板材21の長さ方向に一様に延びる単繊維(フィラメント)が所定数(例えば12k)束ねられた繊維束(トウ)で構成されている。炭素繊維Fの単繊維の直径は、例えば7〜10μmである。帯板材21の母材Mには、例えば熱硬化性エポキシ系合成樹脂が使用されている。また、帯板材22〜27は、帯板材21と長さ方向の寸法が異なる以外は同様の仕様で構成され、各々が取付部22a〜27aと、取付部22b〜27bとを有している。
図1,図2,図6に示すように、帯板材21は、取付部21aがキックアップ前端に対応した右側サイドシル5の下部にブラケット34を介して固定され、取付部21bがキックアップよりも前方且つクロスメンバ14よりも後方の右側トンネルフレーム部11の下部にブラケット(図示略)を介して固定されている。
帯板材22は、取付部22aが取付部21bと同位置に固定され、取付部22bがクロスメンバ14の右端部(車幅方向内側部分)に対応した左側トンネルフレーム部11の下部にブラケット(図示略)を介して固定されている。
帯板材24(第1帯板材)は、取付部24aが取付部23bと同位置に固定され、取付部24b(第2連結部)が左側トンネルフレーム部11の前端側部分下部にブラケット(図示略)を介して固定されている。
帯板材27は、取付部27aが取付部26bと同位置に固定され、取付部27bがキックアップよりも前方且つクロスメンバ14よりも後方の左側トンネルフレーム部11の下部にブラケット(図示略)を介して固定されている。
帯板材21〜24,26は、前後方向及び左右方向に対して所定の交差角度を形成している。
作用、効果の説明に当り、本実施例の車両Vと、比較車両VA,VBを準備し、前席乗員のシート下加速度振幅(m/s2)を計測する第1の検証実験を行った。
図7,図8に示すように、比較車両VAは、本実施例の車両Vの帯板材21〜27に代えて金属製第1,第2ブレース部材41,42を設けている。
第1ブレース部材41は、トンネルフレーム部11の前端側部分からクロスメンバ13に対応する位置に亙ってトンネル部10を塞ぐように左右1対のトンネルフレーム部11を連結する板状補強部材(トンネルメンバとも言われる)である。第2ブレース部材42は、クロスメンバ14の周辺位置のトンネル部10を塞ぐように左右1対のトンネルフレーム部11を連結する板状補強部材である。尚、第1,第2ブレース部材41,42は、全帯板材21〜27に比べて約2kg重量が増加している。
比較車両VBは、本実施例の車両Vの帯板材21〜27に代えて金属製帯板材を設けている。尚、各金属製帯板材は、各帯板材21〜27と同じ寸法である。これら金属製帯板材は、全帯板材21〜27に比べて約6kg重量が増加している。
図10に示すように、車両V,VA,VBを加振したとき、乗員がフロア振動を知覚可能な40Hz付近の振動(フロア膜振動モード)で金属製帯板材の全重量が第1,第2ブレース部材41,42の全重量よりも大きいにも拘らず、比較車両VA(0.009m/s2)が比較車両VB(0.011m/s2)よりも振動減衰能力が高かった。
これは、比較車両VAの第1,第2ブレース部材41,42がトンネル部10の剛性を向上しているのに対し、比較車両VBの金属製帯板材はトンネル部10を塞ぐ帯板材の絶対体積が少なく、振動減衰に対して貢献できていない帯板材が多数存在しているものと推測される。
本実施例の車両V(0.003m/s2)は、比較車両VAよりも振動減衰能力が高く、約66%の減衰効果を達成できた。これにより、比較車両VBにおいて、振動減衰に対して貢献できていない帯板材であっても、帯板材21〜27の材料を炭素繊維樹脂に変更することによって、略全ての帯板材21〜27が振動減衰能を発揮していると推測され、帯板材21〜27の物質特性によって振動減衰を飛躍的に増加可能であることが判明した。
図11に示すように、帯板材21は、取付部21aの近傍位置に長さ直交方向に隣接する1対の加速度センサ39(加速度ピックアップ)と、取付部21bの近傍位置に長さ直交方向に隣接する1対の加速度センサ39と、長さ方向中間位置に長さ直交方向に隣接する1対の加速度センサ39との6つのセンサが設置され、帯板材22〜26についても、同様の加速度センサ39が設置されている。これらの加速度センサ39の検出値に基づき、帯板材21〜26の挙動を実験モーダル解によって解析した。
図12(a)〜図12(c)に示すように、帯板材21〜26には、−90°から90°の期間に亙って車体中心軸回りの捩りモーメントが作用することが判明した。尚、図中、捩れ変形が大きい部位程、高明度で示している。
図13の矢印に示すように、例えば、車両Vの旋回時、フロアパネル1は、前側一端部と後側他端部とが同じモードで振動し、前側他端部と後側一端部とが逆位相(位相遅れ)のモードで振動している。特に、帯板材21〜24,26は、板形状に形成されており、前後方向及び左右方向に対して所定の交差角度を形成しているため、旋回時、フロアパネル1に発生した車体中心軸回りの捩りモーメントが能率的に作用する構成になっている。
また、炭素繊維樹脂は、捩れ損失係数が曲げ損失係数の約3倍の値を有する異方性材料であるため、母材M内に蓄積する歪エネルギーを能率的に増大することができる。
通常、部材に入力された振動エネルギーは、歪エネルギーと運動エネルギーに変換され、この歪エネルギーは部材内部に剪断歪として一旦蓄えられ、その後運動エネルギーに再び変換される。このとき、歪エネルギーの一部が熱エネルギーに変換され、散逸される。
従って、内部に蓄積される歪エネルギーを増大させることで、散逸される熱エネルギーを増加することができ、結果的に、車両Vの振動減衰能を増加させている。
尚、左右方向に平行な帯板材25や前後方向に平行な帯板材27は、振動減衰よりも主にフロアパネル1の剛性向上に寄与する部材として設置されている。
複数の炭素繊維Fが帯板材21〜27の長さ方向に延びるように配列されているため、歪エネルギーを帯板材21〜27の全長に亙って能率的に蓄積することができる。
帯板材21〜27の両端部21a〜27a,21b〜27bが車体の車幅方向に離隔した1対の連結部に連結され且つ車体変形時、帯板材21〜27に捩りモーメントが作用するように構成されているため、炭素繊維F間の母材Mに大きな歪エネルギーを蓄積することができ、振動減衰機能を大きくすることができる。
即ち、帯板材21〜27の複数の炭素繊維Fが夫々独立して捩れ変形するため、炭素繊維F間に存在する母材Mに剪断変形が生じるものの、炭素繊維F間の母材Mが微小体積であるため、炭素繊維F間に存在する母材Mの剪断歪の増加に伴って母材M内に蓄積される歪エネルギーが増加する。それ故、歪エネルギーと捩れ損失係数との相乗作用によって減衰効果が増大し、車体の振動減衰を図ることができる。
車体中心線に対して左右対称となるように2本の帯板材21〜24,26,27を夫々設けたため、車体中心に対して左右対称に捩れ剛性を増加することができ、車体の重量バランスを確保しつつ、車体の振動減衰効果を高くすることができる。
1〕前記実施形態においては、帯板材21〜27を車体中心線に対して左右対称に設置した例を説明したが、仕様に応じて帯板材21〜27を任意に増減しても良い。
例えば、重量軽減を更に高める場合、振動減衰能の低い帯板材27を省略しても良く、トンネル部10とシート周辺のみを補強するため、振動減衰効率の高い、帯板材22,23,25,26のみを配置することも可能である。
具体的には、帯板材21〜27の取付部21a〜27a,21b〜27bにボルト穴を備えた1対のボビン部材を配置し、これら1対のボビン部材に巻回された複数の環状の炭素繊維と、複合母材とによって形成する。
具体的には、アンダカバーに帯板材21〜27の格納部を形成し、アンダカバーと帯板材21〜27とを一体化すると共に帯板材21〜27の車体への連結部をアンダカバーの取付部に兼用することができる。
また、帯板材21〜27の強化繊維は、炭素繊維以外にガラス繊維や樹脂繊維を用いても良い。
F 炭素繊維
M 母材
1 フロアパネル
10 トンネル部
16 シートレール
21〜27 帯板材
21a〜27a, 取付部
21b〜27b
Claims (4)
- 複数の繊維が組み込まれた繊維強化樹脂製の帯板材を介して補強された車体補強構造において、
前記繊維強化樹脂内で複数の繊維が前記帯板材の長さ方向に延びるように配列され、
前記車体が、車室床面の車幅方向中央部分において前後に延び且つ車室に向けて突出したトンネル部を備えたフロアパネルと、前記フロアパネルの車幅方向外側端部に前後に延びるように配設されたサイドシルと、前記トンネル部の車幅方向外側端部に前後に延びるように配設されたトンネルフレーム部とを有し、
前記サイドシルに第1連結部を設けると共に前記トンネルフレーム部の前記第1連結部よりも前側位置と第1連結部よりも後側位置とに第2,第3連結部を夫々設け、
第1帯板材の両端部が前記第1,第2連結部に連結されると共に、
第2帯板材の両端部が前記第1,第3連結部に連結され、車体変形時、前記第2の帯板材に捩りモーメントが作用するように構成されたことを特徴とする車体補強構造。 - 前記第1〜第3連結部が車体前後方向に離隔していることを特徴とする請求項1に記載の車体補強構造。
- 車体中心線に対して左右対称となるように前記第1,第2帯板材を夫々設けたことを特徴とする請求項2に記載の車体補強構造。
- 前記車体の片側に位置する前後2対のシート取付部を備え、
前記第1連結部が前記サイドシルに形成された車幅方向外側の前側シート取付部に対応するように設定され、前記第3連結部が前記トンネルフレーム部に形成された車幅方向内側の後側シート取付部に対応するように設定されると共に、
前記第2帯板材が、前記前側シート取付部と後側シート取付部とを連結したことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車体補強構造。
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