1.薄片状カーボン分散体の製造方法
本発明の薄片状カーボンの製造方法においては、層状構造を有する炭素質材料を、芳香環を有する水溶性化合物の共存下で、
(1)30MPa以上の加圧、及び
(2)100W以上の超音波分散処理
の少なくとも1つの処理を行う。
層状構造を有する炭素質材料と芳香環を有する水溶性化合物とを共存させる方法は特に制限はないが、薄片状カーボンが安定分散した薄片状カーボン分散体が得られ、種々の用途に適用しやすいため、層状構造を有する炭素質材料、芳香環を有する水溶性化合物、及び溶媒を含有する炭素質材料分散体に対して、
(1)30MPa以上の加圧、及び
(2)100W以上の超音波分散処理
の少なくとも1つの処理を行うことが好ましい。
層状構造を有する炭素質材料
層状構造を有する炭素質材料としては、特に制限はないが、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛、酸化黒鉛等が挙げられる。酸化黒鉛とは、例えば、硫酸、硝酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素等の1種以上の酸化剤により酸化された黒鉛が使用され得る。例えば、ハマーズ法により酸化黒鉛を得る場合には、黒鉛を濃硫酸中に浸し、過マンガン酸カリウムを加えて黒鉛を酸化させた後、反応物を希硫酸及び/又は過酸化水素でクエンチし、その後、蒸留水で洗浄すること等により、炭素原子に酸素原子が結合し、層間に酸素原子が導入されて酸化黒鉛を得ることができる。
なかでも、酸素等の異種原子を含まない純度の高い薄片状カーボンを得ようとする場合には、黒鉛を原料として用いることが好ましく、天然黒鉛及び膨張黒鉛がより好ましい。なお、膨張黒鉛を使用する場合は、グラフェン構造の酸化が少ない膨張黒鉛を採用することが好ましい。
また、製造の容易さを重視する場合には、酸化黒鉛を使用してもよい。酸化黒鉛を使用することにより、層間に溶媒分子が挿入されやすく、層方向にのみ剥離させることが容易であり、薄片化効率及び分散性が向上するため、処理時間をより短くすることが可能である。ただし、酸化黒鉛を使用する場合には、後に還元処理が必要となり、グラフェン構造、導電性及び強度をより維持する観点からは、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛)が好ましい。
一方、分散性をより向上させるために、土状黒鉛を採用することも可能である。ただし、結晶性及び構造維持の観点からは、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、酸化黒鉛)が好ましい。
また、得られる薄片状カーボンの結晶性、強度、構造維持等を重視する場合には、人造黒鉛を使用してもよい。ただし、処理時間が長くなる傾向にあるため、より効率化のためには、他の材料(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、土状黒鉛、酸化黒鉛)が好ましい。
以上から、純度、製造の容易さ、グラフェン構造維持、導電性、強度等のバランスを考慮すると、天然黒鉛又は膨張黒鉛が特に好ましい。
本発明において、超音波処理及び/又は加圧処理を行う際の系中における層状構造を有する炭素質材料の含有量は、特に制限されないが、10重量%以下が好ましく、0.0001〜7重量%がより好ましく、0.001〜5重量%がさらに好ましい。なお、層状構造を有する炭素質材料の含有量は、薄いほうが薄片化(層間剥離)がより起こりやすいために薄片状カーボンをより効率的に得られ、処理回数をより少なくできる傾向があるとともに、粘度を適切に維持して超音波処理、加圧処理等を行いやすい傾向がある。一方、層状構造を有する炭素質材料の含有量が濃いほうがより生産性に優れている。このため、薄片化の効率、粘度、生産性等のバランスの観点から、層状構造を有する炭素質材料の含有量を適宜設定することが好ましい。なお、本発明の製造方法において、炭素質材料分散体を使用する場合は、当該分散体中の層状構造を有する炭素質材料の含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
芳香環を有する水溶性化合物
従来は、湿式法にて薄片状カーボンを作製する場合、薄片状カーボンの酸化物及び水性溶媒を含む水分散体に還元処理を施していたが、この方法ではグラフェン構造を維持することが困難であるとともに、得られる薄片状カーボンが激しく凝集してしまうため、薄片状カーボン水分散体を得ることは困難であった。また、安全性の観点でも問題があった。一方、本発明においては、芳香環を有する水溶性化合物を使用することにより、グラフェン構造を維持した薄片状カーボンが凝集することなく、均一分散した状態(薄片状カーボン分散体等)で薄片状カーボンを得ることができる。この際、芳香環を有する水溶性化合物は、薄片状カーボンを均一分散させるための分散剤としても機能し得る。
このような芳香環を有する水溶性化合物としては、特に制限されるわけではなく、層状構造を有する炭素質材料及び薄片状カーボンの分散剤として機能し得る種々多様な水溶性化合物を使用し得る。
なかでも、芳香環を有する水溶性化合物が有する芳香環としては、単環芳香環及び多環芳香環のいずれでもよいが、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、芳香族炭化水素環が好ましい。
芳香族炭化水素環としては、単環でも多環でもよいが、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、アセナフテン環、アセナフチレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、テトラセン環等が挙げられ、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、アントラセン環等が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環等がより好ましい。なお、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性を重視する場合はベンゼン環が特に好ましく、得られる薄片状カーボンの分散性を重視する場合はナフタレン環、フルオレン環等が特に好ましい。
また、芳香環を有する水溶性化合物は、その水溶性のため、親水基を有することが好ましい。親水基としては、芳香環を有する水溶性化合物の水に対する溶解度を上昇させることができるものであれば特に制限されないが、一般式(1)〜(7):
[式中、−OHはアルコール性水酸基又はフェノール性水酸基;R1はアルカリ金属又はNH4;R2は2価の有機基;R3a、R3b、R3c、R4a、R4b、R4c、R4d、R5a、及びR5bは同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は1価の有機基;R6は水素原子、アルカリ金属、NH4、又は有機アンモニウム;Xは水酸基又はハロゲン原子;一般式(3)の酸素原子はエーテル結合である。]
等が挙げられる。
一般式(1)において、−OHはアルコール性水酸基及びフェノール性水酸基のいずれも採用し得る。ただし、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、アルコール性水酸基が好ましい。なお、−OHがフェノール性水酸基の場合は、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、一般式(2)〜(7)のいずれかで示される親水基で置換されることが好ましい。
一般式(2)において、R1で示されるアルカリ金属としては、特に制限されず、ナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
一般式(2)において、R1で示されるアリール基としては、C6−10アリール基が好ましい。具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基(アルキル:前述したもの;トリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基等のメチルフェニル基、キシリル基等のジメチルフェニル基等)、ナフチル基等を例示できる。
このような一般式(2)で示される親水基としては、特に制限されないが、例えば、−ONa、−OK、−OLi、−ONH4、−OPh(Phはフェニル基)、−ONp(Npはナフチル基)等が挙げられる。
一般式(3)において、R2で示される2価の有機基としては、特に制限されないが、2価の炭化水素基が好ましい。2価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基(アルキレン基(又はアルキリデン基)、シクロアルキレン基、アルキレン(又はアルキリデン)−シクロアルキレン基、ビ又はトリシクロアルキレン基等)、芳香族炭化水素基(アリーレン基、アルキレン(又はアルキリデン)−アリーレン基等)等が挙げられる。
一般式(3)において、基R2で示されるアルキレン基(又はアルキリデン基)としては、アルキレン基が好ましく、C1−8アルキレン基がより好ましく、C1−4アルキレン基がさらに好ましく、C2−4アルキレン基が特に好ましく、C2−3アルキレン基が最も好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、プロピリデン基、テトラメチレン基、エチルエチレン基、ブタン−2−イリデン基、1,2−ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、ペンタン−2,3−ジイル基等が例示できる。
一般式(3)において、基R2で示されるシクロアルキレン基としては、C5−10シクロアルキレン基が好ましく、C5−8シクロアルキレン基がより好ましい。具体的には、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、メチルシクロへキシレン基、シクロへプチレン基等が例示できる。
一般式(3)において、基R2で示されるアルキレン(又はアルキリデン)−シクロアルキレン基としては、アルキレン−シクロアルキレン基が好ましく、C1−6アルキレン−C5−10シクロアルキレン基がより好ましく、C1−4アルキレン−C5−8シクロアルキレン基がさらに好ましい。具体的には、メチレン−シクロへキシレン基、エチレン−シクロへキシレン基、エチレン−メチルシクロへキシレン基、エチリデン−シクロへキシレン基等が例示できる。
一般式(3)において、基R2で示されるビ又はトリシクロアルキレン基としては、具体的には、ノルボルナン−ジイル基等が例示できる。
一般式(3)において、基R2で示されるアリーレン基としては、C6−10アリーレン基が好ましい。具体的には、フェニレン基、ナフタレンジイル基等が例示できる。
一般式(3)において、基R2で示されるアルキレン(又はアルキリデン)−アリーレン基としては、アルキレン−アリーレン基が好ましく、C1−6アルキレン−C6−20アリーレン基がより好ましく、C1−4アルキレン−C6−10アリーレン基がさらに好ましく、C1−2アルキレン−フェニレン基が特に好ましい。具体的には、メチレン−フェニレン基、エチレン−フェニレン基、エチレン−メチルフェニレン基、エチリデンフェニレン基等が例示できる。
これらのうち、二価の脂肪族炭化水素基、特に、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基等のC1−4アルキレン基等)が好ましい。
なお、アルキレン(若しくはアルキリデン)−シクロアルキレン基並びにアルキレン(アルキリデン)−アリーレン基とは、−Ra−Rb−(式中、Ra及びRbは、一般式(3)において、それぞれ別個の酸素原子に結合したアルキレン基又はアルキリデン基、Rbはシクロアルキレン基又はアリーレン基を示す)で示される基を示す。
このような一般式(3)で示される親水基としては、特に制限されないが、例えば、−OC2H4O−、−OC3H6O−、及びこれらの共重合体基等が好適に使用され得る。
一般式(4)において、R3a〜R3cは水素原子又は1価の有機基である。1価の有機基としては、特に制限されないが、例えば、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、置換アミノ基等が挙げられる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるアルキル基としては、C1−8アルキル基が好ましく、C1−4アルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基等を例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるシクロアルキル基としては、C5−10シクロアルキル基が好ましく、C5−8シクロアルキル基がより好ましく、C5−6シクロアルキル基がさらに好ましい。具体的には、シクロペンチル基、シクロへキシル基等を例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるアリール基としては、C6−10アリール基が好ましい。具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基(アルキル:前述したもの;トリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基等のメチルフェニル基、キシリル基等のジメチルフェニル基等)、ナフチル基等を例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるアラルキル基としては、前述したアリール基と前述したアルキル基を有するC7−14アラルキル基が好ましい。具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるアルコキシ基としては、C1−8アルコキシ基が好ましく、C1−6アルコキシ基がより好ましい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基等が例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるシクロアルコキシ基としては、C5−10シクロアルコキシ基が好ましい。具体的には、シクロへキシルオキシ基等が例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるアリールオキシ基としては、前述したアリール基を有するC6−10アリールオキシ基が好ましい。具体的には、フェノキシ基等が例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるアラルキルオキシ基としては、前述したアリール基と前述したアルキルオキシ基を有するC7−14アラルキルオキシ基が好ましい。具体的には、ベンジルオキシ基等が例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるアシル基としては、C1−6アシル基が好ましい。具体的には、アセチル基等が例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が例示できる。
一般式(4)において、R3a〜R3cで示される置換アミノ基における置換基としては、上記した炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等の1〜2個が挙げられる。置換アミノ基としては、具体的には、ジメチルアミノ基等のジアルキルアミノ基等が例示できる。
これらのなかでも、R3a〜R3cとしては、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましく、C1−4アルキル基がさらに好ましい。
また、R3a〜R3cは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
一般式(4)において、Xで示されるハロゲン原子としては、上記例示のハロゲン原子が例示できる。Xとしては、水酸基及びハロゲン原子のうち、水酸基又は塩化物イオンが好ましく、水酸基がより好ましい。
このような一般式(4)で示される親水基としては、特に制限されないが、例えば、−[N(CH3)3]+OH−、−[N(C2H5)3]+OH−、−[N(CH3)3]+Cl−が好適に使用され得る。
一般式(5)において、R4a〜R4dは水素原子又は1価の有機基である。1価の有機基としては、特に制限されないが、例えば、上記例示の炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、置換アミノ基等が挙げられる。好ましい具体例も同様である。
また、R4a〜R4dは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
このような一般式(5)で示される親水基としては、特に制限されないが、例えば、−O−[N(CH3)4]+、−O−[N(C2H5)4]+、−O−[N(C3H7)4]+、−O−[N(C4H9)4]+、−O−[N(CH3)3(C6H5)]+、−O−[N(CH3)3(CH2C6H5)]+等が好適に使用され得る。
一般式(6)において、R5a〜R5bは水素原子又は1価の有機基である。1価の有機基としては、特に制限されないが、例えば、上記例示の炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、置換アミノ基等が挙げられる。好ましい具体例も同様である。
また、R5a〜R5bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
このような一般式(6)で示される親水基としては、特に制限されないが、例えば、−N(CH3)2、−N(C2H5)2、−N(CH2OH)2、−N(C2H4OH)2、−N(C3H6OH)2等が好適に使用され得る。
一般式(7)において、R6は水素原子、アルカリ金属、NH4、又は有機アンモニウムである。アルカリ金属としては、例えば、上記例示のアルカリ金属が挙げられる。一方、有機アンモニウムとしては、第四級アンモニウムが好適であり、例えば、一般式(5)における
[式中、R4a〜R4dは前記に同じである。]
と同じものが採用され得る。
このような一般式(7)で示される親水基としては、特に制限されないが、例えば、−COOH、−COONa、−COOK、−COONH4、−COO−[C(CH3)4]+、−COO−[C(C2H5)4]+、−COO−[C(C3H7)4]+、−COO−[C(C4H9)4]+等が好適に使用され得る。
これら親水基のなかでも、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、一般式(2)、(3)、(5)、(7)で示される親水基が好ましく、一般式(2)、(3)、(5)で示される親水基がより好ましい。これらの親水基は、単独で用いてもよいし、複数の親水基を用いてもよい。また、複数の親水基を使用する場合には、同じ親水基を複数用いてもよいし、同じ一般式で示される親水基を複数種用いてもよいし、異なる一般式で示される親水基を複数種用いてもよい。
このような芳香環を有する水溶性化合物の好ましい態様としては、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、1個以上(特に2〜6個、さらには3〜5個)の芳香環及び2個以上(特に3〜100個)の親水基を有することが好ましい。なお、芳香環の数が多いほど得られる薄片状カーボンの分散性、層状構造を有する炭素質材料との親和性の観点から好ましく、親水基の数が多いほど芳香環を有する水溶性化合物の水溶性の観点から好ましい。これらの観点から、芳香環及び親水基の数は、適宜設定することが好ましい。
また、芳香環を有する水溶性化合物における芳香環の数と親水基の数との関係としては、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、親水基の数が芳香環の数以上であることが好ましく、親水基の数が芳香環の数の1.2〜50倍であることがより好ましい。
上記のような条件を満たす芳香環を有する水溶性化合物としては、特に制限はないが、例えば、ポリフェノール類、芳香族ノニオン界面活性剤、親水基含有多環芳香族化合物、フルオレン骨格を有する水溶性化合物、芳香環含有ポリアルキレングリコール類等が挙げられる。
ポリフェノール類としては、多価フェノールとも呼ばれる化合物の総称であり、芳香族炭化水素の二個以上の水素がヒドロキシル基で置換された化合物、又はそれらの混合物の総称を意味する。このようなポリフェノール類としては、層状構造を有する炭素質材料及び剥片上カーボンの分散剤として機能し得る化合物であれば特に制限はないが、例えば、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、クエルセチン、ヘスペリジン、タンニン酸、テアフラビン、プロシアニジン、ロイコアントシアニジン、ルチン等が挙げられる。これらのなかでも、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、タンニン酸、カテキン等が挙げられる。
これらのポリフェノール類は、多くの植物中に存在しているため、植物をそのまま使用してもよいし、植物抽出物を使用してもよい。一方、ポリフェノール類を常法により精製して使用してもよい。特に、安定した芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の効果が得られることから、精製物(アルコール精製物等)を使用することが好ましい。
芳香族ノニオン界面活性剤としては、特に制限はないが、ポリオキシアルキレン多環フェニル系界面活性剤が好ましい。ポリオキシアルキレン多環フェニル系界面活性剤とは、分子骨格中にベンゼン環を2つ以上有する芳香環を有し、アルキレンオキシドが付加された構造を有する界面活性剤である。このベンゼン環は、置換基を有していてもよい。この界面活性剤は、例えば、ジスチレン化フェノールをホルムアルデヒドの存在下でホルマリン縮合してビス体を得た後、触媒存在下でアルキレンオキシドを付加重合させること等により製造することができる。
このようなポリオキシアルキレン多環フェニル系界面活性剤としては、例えば、以下の一般式(8):
[多環フェニル基]−O−(R7O)n−H
[式中、R7はアルキレン基;nは2以上の整数である。]
で示される化合物が挙げられる。
このうち、多環フェニル基としては、特に制限されないが、例えば、以下の一般式(8A)〜(8B):
[式中、R8a〜R8c及びR8e〜R8fは同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭化水素基;R8d及びR8gは同じか又は異なり、それぞれ単結合又はアルキレン基;kは1〜4の整数である。]
で示される基が挙げられる。
上記一般式(8)におけるR7、R8d及びR8fで示されるアルキレン基、R8a〜R8c及びR8e〜R8fで示される炭化水素基としては、後述のものが挙げられる。
また、上記一般式(8)におけるnとしては、2以上の整数が好ましく、10〜120がより好ましい。
さらに、上記一般式(8A)におけるkとしては、1〜4の整数が好ましく、1〜3の整数がより好ましく、1又は2がさらに好ましい。
このようなポリオキシアルキレン多環フェニル系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化メチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフタリルエーテル、ポリオキシプロピレンナフタリルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体ナフタリルエーテル、ポリオキシエチレンアントラセニルエーテル、ポリオキシエチレンピレニルエーテル等が挙げられ、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテルが特に好ましい。
好ましいポリオキシアルキレン多環フェニルエーテルの代表例としては、例えば、エマルゲンA−60、エマルゲンA−90、エマルゲンA−500、エマルゲンB−66(以上、花王(株)製)、ニューコール703、ニューコール704、ニューコール706、ニューコール707、ニューコール708、ニューコール709、ニューコール710、ニューコール711、ニューコール712、ニューコール714、ニューコール719、ニューコール723、ニューコール729、ニューコール733、ニューコール740、ニューコール747、ニューコール780、ニューコール610、ニューコール2604、ニューコール2607、ニューコール2609、ニューコール2614(以上、日本乳化剤(株)製)、ノイゲンEA−87、ノイゲンEA−137、ノイゲンEA−157、ノイゲンEA−167、ノイゲンEA−177、ノイゲンEA−197D、ノイゲンEA−207D(以上、第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
親水基含有多環芳香族化合物としては、上記した1以上の多環の芳香環と上記した1以上の親水基からなる化合物であれば特に制限はないが、例えば、ロイコキニザリン(1,4,9,10−テトラヒドロキシアントラセン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンナフタリルエーテル等が挙げられる。
フルオレン骨格を有する水溶性化合物としては、薄片状カーボン分散体の溶媒として後述のとおり水を主溶媒として使用するために水溶性化合物であれば特に制限されないが、例えば、一般式(9):
[式中、Z1及びZ2は同じか又は異なり、それぞれ芳香族炭化水素環;R9a及びR9bは同じか又は異なり、それぞれ炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換されていてもよいアミノ基;R10a及びR10bは同じか又は異なり、それぞれアルキレン基;R11a及びR11bは同じか又は異なり、それぞれ炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換されていてもよいアミノ基;m1及びm2は同じか又は異なり、それぞれ0以上の整数;p1及びp2は同じか又は異なり、それぞれ1以上の整数;h1及びh2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数;j1及びj2は同じか又は異なり、それぞれ0〜4の整数である。]
で示されるフルオレン化合物の有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、又はアルキレンオキシド付加物が好ましい。
一般式(9)において、Z1及びZ2は、炭素数が6〜14の芳香族炭化水素環が好ましく、炭素数が6〜14の単環又は縮合環の芳香族炭化水素環がより好ましく、炭素数6〜10の単環又は二環の芳香族炭化水素環がさらに好ましい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル環、インデン環等が挙げられ、ベンゼン環、ナフタレン環がより好ましい。このうち、フルオレン骨格を有する水溶性化合物の水溶性を重視する場合はベンゼン環が好ましく、層状構造を有する炭素質材料との親和性を重視する場合はナフタレン環が好ましい。なお、Z1及びZ2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
一般式(9)において、R9a及びR9bは、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基等が好ましい。
一般式(9)において、R9a及びR9bで示されるアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜8(特に1〜6)のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が好ましい。
一般式(9)において、R9a及びR9bで示されるシクロアルキル基としては、炭素数5〜10(好ましくは5〜8、特に5〜6)のシクロアルキル基が好ましく、具体的には、シクロペンチル基、シクロへキシル基等が好ましい。
一般式(9)において、R9a及びR9bで示されるアリール基としては、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、アルキルフェニル基(アルキル:前述したもの;トリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基等のメチルフェニル基等)、キシリル基等のジメチルフェニル基等)、ナフチル基等が好ましい。
一般式(9)において、R9a及びR9bで示されるアラルキル基としては、前述したアリール基と前述したアルキル基を有する炭素数7〜14のアラルキル基が好ましく、具体的には、ベンジル基、フェネチル基等が好ましい。
一般式(9)において、R9a及びR9bで示されるアルコキシ基としては、炭素数1〜8(特に1〜6)のアルコキシ基が好ましく、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基等が好ましい。
一般式(9)において、R9a及びR9bで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
一般式(9)において、R9a及びR9bで示される置換されていてもよいアミノ基としては、非置換アミノ基の他、上述した基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基及びシアノ基等)や後述する基(シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシアリール基等)を置換基に有するものが好ましく、具体的には、ジメチルアミノ基等のジアルキルアミノ基が好ましい。
これらのなかでも、R9a及びR9bとしては、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、適宜設定することが好ましいが、炭化水素基、さらにはアルキル基、特には炭素数1〜6のアルキル基、さらにはメチル基等の炭素数が1〜4のアルキル基等を好適に使用し得る。
なお、j1が複数(2〜4の整数)である場合、複数の基R9aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、j2が複数(2〜4の整数)である場合、複数の基R9bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、異なるベンゼン環に置換した基R9aと基R9bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。また、基R9a及びR9bの結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位等の少なくとも1つが挙げられる。
前記一般式(9)において、基R9a及びR9bの置換数であるj1及びj2は同じでも異なっていてもよいが、通常0〜4の整数、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
一般式(9)において、R10a及びR10bは、アルキレン基、特に炭素数2〜4のアルキレン基が好ましく、具体的には、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。また、アルキレン基R10a及びR10bの種類は係数m1及びm2の数によっても異なっていてもよい。なかでも、炭素数が2〜3のアルキレン基が好ましく、エチレン基及びプロピレン基がより好ましく、エチレン基がさらに好ましい。
なお、m1が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R10aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、m2が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R10bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、基R10aと基R10bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
前記一般式(9)において、OR10a及びOR10bの繰り返し数であるm1及びm2は同じでも異なっていてもよく、0以上の整数であるが、通常0〜10の整数、好ましくは0〜7の整数、さらに好ましくは0〜5の整数、特に0〜3の整数、さらには0又は1である。
また、前記一般式(9)において、−O−(R10aO)m1−H基及び−O−(R10bO)m2−H基の繰り返し数であるp1及びp2は同じでも異なっていてもよく、1以上の整数であるが、通常1〜4の整数、好ましくは1〜3の整数、より好ましくは1又は2、さらに好ましくは1である。
なお、前記一般式(9)において、−O−(R10aO)m1−H基及び−O−(R10bO)m2−H基の置換位置は、特に限定されず、環Z1及びZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、−O−(R10aO)m1−H基及び−O−(R10bO)m2−H基は、環Z1及びZ2がベンゼン環である場合、ベンゼン環の2〜6位に置換していればよく、4位に置換しているのが好ましい。また、−O−(R10aO)m1−H基及び−O−(R10bO)m2−H基は、環Z1及びZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、6位等)に少なくとも置換している場合が多い。
一般式(9)において、R11a及びR11bは、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基等、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基等が好ましい。
一般式(9)において、R11a及びR11bで示される炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基等、アリール基、アラルキル基等)、アルコキシ基、ハロゲン原子、及び置換アミノ基としては、前記例示の基を採用できる。
一般式(9)において、R11a及びR11bで示されるシクロアルコキシ基としては、炭素数5〜10のシクロアルコキシ基が好ましく、具体的には、シクロへキシルオキシ基等が好ましい。
一般式(9)において、R11a及びR11bで示されるアリールオキシ基としては、前述したアリール基を有する炭素数6〜10のアリールオキシ基が好ましく、具体的には、フェノキシ基等が好ましい。
一般式(9)において、R11a及びR11bで示されるアラルキルオキシ基としては、前述したアリール基と前述したアルキルオキシ基を有する炭素数7〜14のアラルキルオキシ基が好ましく、具体的には、ベンジルオキシ基等が好ましい。
一般式(9)において、R11a及びR11bで示されるアシル基としては、炭素数1〜6のアシル基が好ましく、具体的には、アセチル基等が好ましい。
一般式(9)において、R11a及びR11bで示されるアルコキシカルボニル基としては、炭素数1〜4のアルコキシカルボニル基が好ましく、具体的には、メトキシカルボニル基等が好ましい。
一般式(9)において、R11a及びR11bで示されるヒドロキシアリール基としては、前述したアリール基を有する炭素数6〜10のヒドロキシアリール基が好ましく、具体的には、ヒドロキシフェニル基(特に4−ヒドロキシフェニル基)、ヒドロキシC1−4アルキルフェニル基(特に4−ヒドロキシ−3−メチル基)、ヒドロキシナフチル基(特に4−ヒドロキシナフチル基)等が好ましい。
これらのなかでも、R11a及びR11bとしては、芳香環を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、適宜設定することが好ましいが、炭化水素基、さらにはアルキル基、アリール基等、特には炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基等、さらにはメチル基等の炭素数が1〜4のアルキル基、フェニル基等の炭素数6〜8のアリール基等を好適に使用し得る。
なお、h1が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R11aは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、h2が複数(2以上の整数)である場合、複数の基R11bは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
また、基R11aと基R11bとは同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。
前記一般式(9)において、基R11a及びR11bの置換数であるh1及びh2は同じでも異なっていてもよいが、通常0〜4の整数、好ましくは0〜2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
なお、前記一般式(9)において、基R11a及びR11bの置換位置は、特に限定されず、環Z1及びZ2の適当な置換位置に置換していればよい。例えば、基R11a及びR11bは、環Z1及びZ2がベンゼン環である場合、ベンゼン環の2〜6位に置換していればよく、3位又は5位に置換しているのが好ましい。また、基R3a及びR3bは、環Z1及びZ2が縮合多環式炭化水素環である場合、縮合多環式炭化水素環において、フルオレンの9位に結合した炭化水素環とは別の炭化水素環(例えば、ナフタレン環の5位、7位、8位等)に少なくとも置換している場合が多い。
上記一般式(9)で示されるフルオレン化合物は、そのままでは水に対して難溶性である。本発明において、薄片状グラフェンは、水を主溶媒とする分散体として得やすいことから、本発明では、フルオレン骨格を有する水溶性化合物として、一般式(9)で示される化合物の有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、又はアルキレンオキシド付加物を使用する。
上記有機アンモニウム塩としては、第四級アンモニウム塩が好適に使用され、例えば、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等のテチラアルキルアンモニウム塩が好ましい。
上記アルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。
上記アルキレンオキシド付加物としては、例えば、エチレンオキシド付加物等が挙げられる。
これらのなかでも、本発明で使用されるフルオレン骨格を有する水溶性化合物としては、フルオレン骨格を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が好ましく、有機アンモニウム塩がより好ましい。
なお、上記一般式(9)で示される化合物において、−O−(R10aO)m1−H基及び−O−(R10bO)m2−H基のうち1つのみが上記塩を形成していてもよいし、全てが塩を形成していてもよい。なかでも、フルオレン骨格を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、全てが塩を形成していることが好ましい。
つまり、好適なフルオレン骨格を有する水溶性化合物には、一般式(10):
[式中、Z1、Z2、R9a、R9b、R10a、R10b、R11a、R11b、m1、m2、p1、p2、h1、h2、j1及びj2は前記に同じ;X1及びX2は同じか又は異なり、それぞれ有機アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオン、又はアンモニウムカチオンである。]
で示される化合物を使用し得る。なお、一般式(10)において、有機アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオン、及びアンモニウムカチオンは、それぞれ有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、及びアンモニウム塩を形成し得るカチオンである。
代表的なフルオレン骨格を有する水溶性化合物には、m1及びm2が0である水溶性化合物、すなわち、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類の塩として、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン有機アンモニウム塩、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレンアルカリ金属塩、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレンアンモニウム塩、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレンアルキレンオキシド付加物等が含まれ得る。
これらの水溶性化合物を構成する9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、前記一般式(9)において、Z1及びZ2がベンゼン環であり、p1及びp2が1である9,9−ビスフェノールフルオレン類;Z1及びZ2がナフタレン環であり、p1及びp2が1である9,9−ビスナフトールフルオレン類;Z1及びZ2がベンゼン環であり、p1及びp2が2以上である9,9−ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン類等が含まれる。
具体的には、9,9−ビスフェノールフルオレン類は、R3a及びR3bが炭化水素基であり、h1及びh2が0又は1である化合物が好適に使用される。9,9−ビスフェノールフルオレン類としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等の9,9−ビスフェノールフルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(C1−6アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(ジアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(ジC1−6アルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(C5−10シクロアルキルヒドロキシフェニル)フルオレン等);9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(アリールヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(C6−10アリールヒドロキシフェニル)フルオレン等)等が挙げられる。
また、前記9,9−ビスナフトールフルオレン類には、前記例示の9,9−ビスフェノールフルオレン類のフェニル基がナフチル基である9,9−ビスナフトールフルオレン類(例えば9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシナフチル)]フルオレン、9,9−ビス[1−(5−ヒドロキシナフチル)]フルオレン等の9,9−ビスナフトールフルオレン等)等が含まれる。
さらに、前記9,9−ビス(ポリヒドロキシフェニル)フルオレン類には、前記9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類(9,9−ビス(モノヒドロキシフェニル)フルオレン類)に対応するフルオレン類、例えば、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン(9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスカテコールフルオレン)等);9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−5−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシ−6−メチルフェニル)フルオレン等の9,9−ビス(アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレン(例えば、9,9−ビス(C1−4アルキル−ジヒドロキシフェニル)フルオレン等)等の9,9−ビス(ジ又はトリヒドロキシフェニル)フルオレン類が含まれる。
なお、前記9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類には、例えば、前記フルオレン類(すなわち、9,9−ビスフェノールフルオレン類、9,9−ビスナフトールフルオレン類、9,9−ビス(ジヒドロキシフェニル)フルオレン類等)において、m及びnが1以上である化合物、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン;BPEF)等の9,9−ビス[4−(ヒドロキシC2−3アルコキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールエタノールフルオレン;BCEF)等の9,9−ビス(アルキルヒドロキシC2−3アルコキシフェニル)フルオレン等も含まれる。
つまり、本発明で使用されるフルオレン骨格を有する水溶性化合物としては、上記説明したフルオレン類の有機アンモニウム塩、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及びアルキレンオキシド付加物のいずれもが含まれる。なかでも、フルオレン骨格を有する水溶性化合物の水溶性、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの分散性等の観点から、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2アルキレンオキシド付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2アルキレンオキシド付加物、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2アルカリ金属塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2アルキレンオキシド付加物等が好ましく、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン・2有機アンモニウム塩、9,9−ビス(4−ヒドロキシナフチル)フルオレン・2有機アンモニウム塩等がより好ましい。
これらの芳香環を有する水溶性化合物としては、フルオレン骨格を有する水溶性化合物を使用してもよいし、非フルオレン芳香環を有する水溶性化合物を使用してもよい。
本発明において、超音波処理及び/又は加圧処理を行う際の系中における芳香環を有する水溶性化合物の含有量は、特に制限されないが、0.0001〜50重量%が好ましく、0.001〜30重量%がより好ましく、0.01〜20重量%がさらに好ましく、0.05~15重量%が特に好ましい。一方、本発明において、処理前に投入する芳香環を有する水溶性化合物の含有量は、層状構造を有する炭素質材料100重量部に対して、10〜1000000重量部が好ましく、20〜100000重量部がより好ましく、30~10000重量部がさらに好ましい。なお、芳香環を有する水溶性化合物の含有量は、薄いほうが相対的に層状構造を有する炭素質材料の含有量が大きくなり導電性が向上しやすいとともに、安価に処理しやすい。一方、芳香環を有する水溶性化合物の含有量が濃いほうが薄片化(層間剥離)がより起こりやすいために薄片状カーボンをより効率的に得られる傾向がある。このため、導電性、コスト、薄片化の効率等のバランスの観点から、芳香環を有する水溶性化合物の含有量を適宜設定することが好ましい。なお、本発明の製造方法において、炭素質材料分散体を使用する場合は、当該分散体中の芳香環を有する水溶性化合物の含有量を上記範囲内とすることが好ましい。
溶媒
本発明においては、上記のとおり、層状構造を有する炭素質材料を、芳香環を有する水溶性化合物の共存下で、特定の処理を行うが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、得られる薄片状カーボンの汎用性等の観点から、層状構造を有する炭素質材料、及び芳香環を有する水溶性化合物を含む炭素質材料分散体に対して、特定の処理を行うことが好ましい。
この炭素質材料分散体としては、分散液として形成してもよいし、基板上に塗膜として形成してもよい。
この際、分散体(分散液又は塗膜)を作製するために使用される溶媒としては、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率等の観点から、水を主溶媒として用いることが好ましい。
使用する溶媒中の水の含有量は、特に制限されないが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、芳香環を有する水溶性化合物の溶解度等の観点から、70重量%以上(70〜100重量%)が好ましく、75〜95重量%がより好ましい。
なお、本発明において、溶媒としては、水のみを使用してもよく、有機溶媒は必ずしも使用しなくてもよいが、芳香環を有する水溶性化合物の水への溶解性をより向上させるために、メタノール、エタノール、2−プロパノール、t−ブチルアルコール等のアルコール;エチレングリコール等のグリコール;グリセリン;2−メトキシエタノール等の有機溶媒を使用してもよい。
使用する溶媒中の有機溶媒の含有量は、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、芳香環を有する水溶性化合物の溶解度等の観点から、30重量%以下(0〜30重量%)が好ましく、5〜25重量%がより好ましい。
本発明において、溶媒を使用した炭素質材料分散体を用いて特定の処理を行う場合、炭素質材料分散体中の溶媒の総量は、特に制限されないが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化効率、芳香環を有する水溶性化合物の溶解度等の観点から、40〜99.9998重量%が好ましく、63〜99.998重量%がより好ましく、85〜99.98重量%がさらに好ましい。
本発明において、溶媒を使用した炭素質材料分散体を用いて特定の処理を行う場合、炭素質材料分散体は、芳香環を有する水溶性化合物分散体に層状構造を有する炭素質材料を投入してもよいし、層状構造を有する炭素質材料分散体に芳香環を有する水溶性化合物を投入してもよい。また、溶媒中に、層状構造を有する炭素質材料及び芳香環を有する水溶性化合物を同時に投入してもよい。
他の成分
本発明において、特定の処理を行う際には、層状構造を有する炭素質材料は、芳香環を有する水溶性化合物以外にも、他の成分と共存させてもよい。つまり、特定の処理を行う前の炭素質材料分散体には、他の成分を含ませてもよい。これにより、最終的に得られる薄片状カーボン分散体や薄片状カーボン組成物中にも、これら他の成分を含ませることができる。このような他の成分としては、カーボンファイバー(特に繊維径500nm以下のカーボンナノファイバー)、活性炭、カーボンブラック(アセチレンブラック、オイルファーネスブラック等;特に導電性が高く、比表面積が大きいケッチェンブラック)、ガラス状カーボン、カーボンマイクロコイル、フラーレン、バイオマス系炭素材料(バガス、ソルガム、木くず、おがくず、竹、木皮、稲ワラ、籾殻、コーヒーかす、茶殻、おからかす、米糠、パルプくず等を原料としたもの;リグニンから製造したカーボンファイバー等)を、本発明の効果を損なわない範囲で使用してもよい。
処理
本発明では、上記のとおり、層状構造を有する炭素質材料を、芳香環を有する水溶性化合物の共存下で、特定の加圧処理及び/又は特定の超音波分散処理を行う。なお、炭素質材料分散体を使用する場合には、炭素質材料分散体に対して、特定の加圧処理及び/又は特定の超音波分散処理を行う。
加圧処理を施すことにより、層状構造を有する炭素質材料の微粒化が起こるために、条件によってはグラフェン構造を維持できない可能性もあるが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を効率よく行うことができ、処理時間を低減することができる。このような加圧処理を施す際の加圧レベルは、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができるものであれば特に制限はないが、30MPa以上、好ましくは50〜400MPa、より好ましくは100〜300MPaである。このような加圧処理は、高圧分散装置等を用いて行い得る。
このような加圧をすることにより、例えば、
(i)2個以上の前記炭素質材料分散体同士を衝突させること、
(ii)前記炭素質材料分散体と金属又はセラミックス材料(炭化ケイ素、アルミナ等高硬度の材料)とを衝突させること、
(iii)前記炭素質材料分散体を断面積1cm2以下の空間を通過させること
等の処理を行い得る。
上記(i)及び(ii)によれば、加圧条件をより強くすることが可能であり、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより効率よく行うことができ、処理時間をより低減することができる。また、上記(iii)によれば、グラフェン構造をより維持しつつ、層状構造を有する炭素質材料の薄片化をより適切に行うことができる。この加圧操作を1回以上、好ましくは10回以上行えばよい。
加圧温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、0℃以上、さらに0〜100℃、特に20〜95℃とし得る。なお、加圧温度が高いほど、芳香環を有する化合物が溶解しやすいため好ましいが、芳香環を有する化合物に曇点が存在する場合はその温度以下である方が望ましい。
超音波分散処理を施すことにより、グラフェン構造をより維持しつつ、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を徐々に行うことができる。後述するように、超音波分散処理は、前記加圧処理の前処理として行ってもよい。このような超音波分散処理を施す際の出力は特に制限はないが、層状構造を有する炭素質材料の薄片化の観点から、通常行われる超音波分散処理(40〜50W程度)よりも強力なものとすることが好ましい。具体的には、超音波分散処理の出力は、100W以上、好ましくは300〜20000W、より好ましくは400〜18000Wである。
超音波分散温度は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる温度とすればよく、0〜80℃、特に10〜70℃とし得る。超音波分散時間は特に制限はなく、層状構造を有する炭素質材料の薄片化を十分に行うことができる時間とすればよく、1〜600分、特に3〜120分とし得る。
なお、前記加圧処理及び超音波分散処理は、単独で行ってもよいし、組合せて行ってもよい。特に、加圧処理を行う際には、予備処理(前処理)として、後述の超音波分散処理を行い、層状構造を有する炭素質材料の微粒化を行っておくことが好ましい。これにより、目詰まり防止等の効果を有し得る。
また、これらの処理の前処理又は後処理として、通常の機械的撹拌、乳化装置による分散処理、ビーズミルによる分散処理等の他の分散装置による分散処理を併用してもよい。
なお、本発明において、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、上記加圧処理及び/又は超音波分散処理を施した分散体中には、薄片状カーボンの酸化物として存在している。このため、層状構造を有する炭素質材料として、酸化黒鉛を使用する場合には、後処理として還元処理を施すことが好ましい。還元処理としては、化学還元、電気化学還元等、種々の方法が採用できるが、化学還元が好ましい。なかでも、ヒドラジン、水素化ホウ素Na等のような還元剤による化学還元が好ましい。還元剤量は、薄片状カーボンの酸化物100重量部に対して、1〜1000重量部が好ましく、10〜500重量部がより好ましく、50〜300重量部がさらに好ましい。また、還元時に加熱を行うとより還元しやすくなる。加熱温度は、40〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましく、60〜120℃がさらに好ましい。還元時間は10分〜64時間が好ましく、30分〜48時間がより好ましく、1〜24時間がさらに好ましい。ただし、グラフェン構造が過度に破壊されない程度とすることが好ましい。
2.薄片状カーボン分散体
上記した本発明の製造方法によれば、所望の薄片状カーボンが得られる。特に、本発明の製造方法によれば、所望の薄片状カーボンが分散した状態で存在する薄片状カーボン分散体が得られる。
このようにして得られる薄片状カーボンは、薄いほうが諸物性に優れるため好ましいが、厚みが10nm以下、特に0.3〜5nmの薄片状カーボンが得られ得る。厚みが非常に大きい薄片状カーボンが得られることもあるが、多数の薄片状カーボンの厚みは上記範囲内である。
このようにして得られる薄片状カーボンは、薄いほうが諸物性に優れるため好ましいが、10層以下(つまり1〜10層)のグラフェンが積層した層状構造を有する薄片状カーボンが得られ得る。積層数が非常に大きい薄片状カーボンが得られることもあるが、多数の薄片状カーボンの積層数は上記範囲内である。このような薄片状カーボンは、多くの凸角と凹角をもつ平面形状をしているため、その大きさは一概には規定できない。本明細書では、一枚の薄片状カーボンにおいて最も離れている凸角間の距離をその薄片状カーボンの大きさとする。
このような薄片状カーボンとしては、大きさが20nm以上、好ましくは30nm以上、より好ましくは50nm以上のものが得られ得る。このような大きさの薄片状カーボンは、十分な導電性が得られ得る。なお、薄片状カーボンの大きさは、大きい方が電気的物性等の諸物性が優れていることが知られており好ましいため、大きさの上限は限定されない。また、薄片状カーボンの大きさは、顕微鏡(レーザー顕微鏡等)観察により測定するものとする。
本発明の製造方法によれば、薄片状カーボンは、薄片状カーボン分散体として得られ得る。本発明の製造方法では、芳香環を有する水溶性化合物を含んでいるため、薄片状カーボン分散体においても、芳香環を有する水溶性化合物が含まれている。この水溶性化合物は、薄片状カーボン表面に吸着して溶媒中で薄片状カーボンを高濃度に孤立分散させることも可能であるため、薄片状カーボン分散体においては分散剤としても機能する。また、前記水溶性化合物は市販品を用いることができ、コスト及び分散性の両方で従来品より優位性がある。さらに、この水溶性化合物は、薄片状カーボン表面に残存しても十分な導電性を維持することができ、また、この水溶性化合物を薄片状カーボンから容易に除去することができるという優位性もある。
また、従来の酸化処理及び還元処理を行う方法においては、還元処理の際にプラスチック基板が加水分解されること、還元処理を施すと薄片状カーボンが凝集するため分散体として存在し得ないこと等から、プラスチック基板上に薄片状カーボン分散体を形成することは不可能であったが、本発明においては、上記水溶性化合物を含ませつつ特定の処理を行うことで、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基板が加水分解を受けることなく、薄片状カーボン分散体を基板上に形成することも可能である。また、上記のとおり、この薄片状カーボン分散体から薄片状カーボンの分離・精製が容易であり、他材料に薄片状カーボンを均一混合することも可能であるため、薄片状カーボンを含むナノコンポジット等へ適用できる。さらに、薄片状カーボン分散体の乾燥物である薄片状カーボン組成物は、芳香環を有する水溶性化合物を含んでいても、導電性等の優れた諸物性を有するうえに、残存する芳香環を有する水溶性化合物を容易に除去できるため、導電材料、伝熱材料、トランジスタ、キャパシタ等の蓄電デバイス、センサー、圧電材料、抗菌材料、ろ過材料、樹脂添加剤、光学材料等のさまざまな用途に適用することができる。
3.薄片状カーボン組成物及び薄片状カーボン
本発明において、薄片状カーボン組成物は、上記薄片状カーボン分散体の乾燥物であり、薄片状カーボンと芳香環を有する水溶性化合物とを含んでいる。このような薄片状カーボン組成物の形状としては、特に制限はないが、塗膜、シート、塊状体等を挙げることができる。
乾燥物を得るためには、薄片状カーボン分散体の乾燥の他、基板上に薄片状カーボン分散体をスピンコートや塗布後に乾燥する方法、通常の固液分離により薄片状カーボン組成物を回収する方法等により実施することができる。この分離を行う方法としては、例えば、通常の固液分離に使用されている方法、例えば、濾紙、ガラスフィルター等を用いて濾過する方法;遠心分離後に濾過する方法;減圧濾過器を使用する方法を例示できる。次に、乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、温風乾燥機等を用いて50〜200℃程度で1〜24時間程度乾燥させる方法を例示できる。また、エバポレータ、減圧乾燥炉、熱風乾燥炉等により乾燥し、粉砕して使用してもよい。また、スプレードライヤ等により、瞬間的に粉末化すると、粉体中の組成がより一体である優位性と、その後液中に分散させる場合も分散がより容易であるという優位性もある。さらに、フリーズドライ等により崩壊しやすい粉末を作製することも可能である。
このようにして得られる薄片状カーボン組成物は、十分な導電性を有するだけではなく、優れたガスバリア性も有する。得られる薄片状カーボン組成物の組成は特に制限はないが、例えば、芳香環を有する水溶性化合物の含有量を、薄片状カーボン100重量部に対して1重量部以上、好ましくは10〜10000重量部、より好ましくは100〜1000重量部とし得る。
本発明において、薄片状カーボン組成物は、薄片状カーボン表面に芳香環を有する水溶性化合物が残存していても十分な電気伝導性等の諸物性を有し得るが、必要に応じて、当該水溶性化合物を除去することができる。具体的には、芳香環を有する水溶性化合物は、薄片状カーボン組成物を水、有機溶媒等で洗浄することにより除去することができる。洗浄処理は水及び有機溶媒以外にも、希酸又は希アルカリで洗浄することによっても除去できる。なお、芳香環を有する水溶性化合物が有機アンモニウム塩の場合は、150〜400℃、好ましくは200〜350℃の熱処理により有機アンモニウム塩が分解されるため、熱処理によっても芳香環を有する水溶性化合物を除去することができる。
従来の分散剤は、いわゆる洗剤に使われる界面活性剤のタイプが多く、これらは分散剤分子と薄片状カーボンとの疎水性相互作用を利用して吸着していると考えられ、また分子量が比較的大きいため、その吸着力も大きいと考えられる。他方、本発明で用いる芳香環を有する水溶性化合物は薄片状カーボンとπ−π相互作用を利用して吸着しているため、水性媒体中でしか吸着を維持できず、また分子量が小さいため従来品と比べて吸着力も弱い。よって、本発明で用いる芳香環を有する水溶性化合物は従来品よりも薄片状カーボン組成物から除去し易いという利点がある。
芳香環を有する水溶性化合物を除去するための洗浄は、薄片状カーボン組成物と洗浄液とを接触させることにより行うことができる。洗浄液としては、芳香環を有する水溶性化合物を溶解できるものであれば、水、各種の有機溶媒等が使用できる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール(特に炭素数1〜6の低級アルコール)、アセトン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が使用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
これらの中でも、洗浄後に薄片状カーボン組成物から短時間で蒸発する有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、常圧における沸点が50〜250℃程度、特に60〜200℃程度のもの、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が例示できる。
また、上記のように、芳香環を有する水溶性化合物を除去するための洗浄を、薄片状カーボン組成物と希酸又は希アルカリとを接触させ、次いで水洗することにより行ってもよい。希酸は、0.1〜5%塩酸が好ましく、希アルカリは0.1〜3%アンモニア水が好ましい。
洗浄操作は、洗浄液と薄片状カーボン組成物とを接触させればよい。例えば、薄片状カーボン分散体から回収された薄片状カーボン組成物を、洗浄液中に室温で静かに浸漬させるのが好ましい。浸漬時間は、薄片状カーボン組成物の形状を維持するために、30分以内が好ましく、20分以内がより好ましい。
洗浄液の使用量は、洗浄を行うに有効な量であれば特に限定されず、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、薄片状カーボン組成物100重量部に対して、洗浄液を100〜100000重量部程度、特に1000〜5000重量部程度使用すると良好な結果が得られる。
このようにして、薄片状カーボンを単離することができるが、この際得られる薄片状カーボンは、上記したような特徴を有するものである。
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
実施例1
水100gにタンニン酸(アルコール精製品;和光純薬工業(株)製)を2g添加し、0.01gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、氷冷しながら30分間分散処理を加えた。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及び走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図1〜4に示す。
実施例2−1
水100gにタンニン酸(アルコール精製品;和光純薬工業(株)製)を2g添加し、0.01gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、氷冷しながら5分間分散処理を加え、さらに、高圧分散装置を用いて約250MPaで分散処理(2個以上の炭素質材料分散液同士を衝突させる)を50回行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、1ヵ月後も分散状態が保持されていた。また、その材料をエタノールで洗浄してタンニン酸を除去し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及びラマン分光で分析したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図5〜6に示す。
実施例2−2
水100gにタンニン酸(アルコール精製品;和光純薬工業(株)製)を2g添加し、0.01gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、氷冷しながら5分間分散処理を加え、さらに、高圧分散装置を用いて約250MPaで分散処理(炭素質材料分散液と炭化ケイ素とを衝突させる)を50回行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、1ヵ月後も分散状態が保持されていた。また、その材料をエタノールで洗浄してタンニン酸を除去し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及びラマン分光で分析したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。
実施例3−1
タンニン酸をポリオキシエチレン多環フェニルエーテル(日本乳化剤(株)製ニューコール740)3gとする以外は、実施例2−1と同様に実験を行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図7〜8に示す。
実施例3−2
タンニン酸をポリオキシエチレン多環フェニルエーテル(日本乳化剤(株)製ニューコール740)3gとする以外は、実施例2−2と同様に実験を行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。
実施例4−1
タンニン酸をトリトンX−100(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)5gとする以外は、実施例2−1と同様に実験を行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図9〜10に示す。
実施例4−2
タンニン酸をトリトンX−100(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル)5gとする以外は、実施例2−2と同様に実験を行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図11に示す。
実施例5−1
水100gにロイコキニザリン(1,4,9,10-テトラヒドロキシアントラセン)1gを混合し、それが均一な溶液となるまでテトラメチルアンモニウムヒドロキシド25%溶液を加えた。この溶液に0.01gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、実施例2−1と同様に実験を行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図12に示す。
実施例5−2
水100gにロイコキニザリン(1,4,9,10-テトラヒドロキシアントラセン)1gを混合し、それが均一な溶液となるまでテトラメチルアンモニウムヒドロキシド25%溶液を加えた。この溶液に0.01gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、実施例2−2と同様に実験を行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。
実施例6
水100gにパモ酸3gを混合し、それが均一な溶液となるまでテトラメチルアンモニウムヒドロキシド25%溶液を加えた。この溶液に0.01gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、実施例2−1と同様に実験を行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、導電ガラスに塗布し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及び走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図13〜14に示す。
実施例7−1
9,9−ビスフェノールフルオレン(9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン)1.0gに対して、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを10g加え、水を加えて合計100gとし、透明な溶液を得た。
この溶液に0.1gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、5分間分散処理を加えた後、高圧分散装置を用いて約250MPaで分散処理(2個以上の炭素質材料分散液同士を衝突させる)を50回行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、1ヵ月後も分散状態が保持された。また、その材料をエタノールで洗浄してフルオレン系材料を除去し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及びラマン分光で分析したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が3〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。
実施例7−2
9,9−ビスフェノールフルオレン(9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン)1.0gに対して、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを10g加え、水を加えて合計100gとし、透明な溶液を得た。
この溶液に0.1gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、5分間分散処理を加えた後、高圧分散装置を用いて約250MPaで分散処理(炭素質材料分散液と炭化ケイ素とを衝突させる)を50回行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、1ヵ月後も分散状態が保持された。また、その材料をエタノールで洗浄してフルオレン系材料を除去し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及びラマン分光で分析したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が1〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図15に示す。
実施例8−1
9,9−ビスナフトールフルオレン(9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシナフチル)]フルオレン)1.0gに対して、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを10g加え、水を75gとエタノール14g加えて合計100gとし、透明な溶液を得た。
この溶液に0.1gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、5分間分散処理を加えた後、高圧分散装置を用いて約250MPaで分散処理(2個以上の炭素質材料分散液同士を衝突させる)を40回行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、1ヵ月後も分散状態が保持された。また、その材料をエタノールで洗浄してフルオレン系材料を除去し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及びラマン分光で分析したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が1〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図16に示す。
実施例8−2
9,9−ビスナフトールフルオレン(9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシナフチル)]フルオレン)1.0gに対して、25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを10g加え、水を75gとエタノール14g加えて合計100gとし、透明な溶液を得た。
この溶液に0.1gの膨張黒鉛(伊藤黒鉛(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、5分間分散処理を加えた後、高圧分散装置を用いて約250MPaで分散処理(炭素質材料分散液と炭化ケイ素とを衝突させる)を40回行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、1ヵ月後も分散状態が保持された。また、その材料をエタノールで洗浄してフルオレン系材料を除去し、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、及びラマン分光で分析したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が1〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。結果を図17に示す。
実施例9
水85gにポリオキシエチレンナフタリルエーテル(分子量550-600)15gを添加し、透明な溶液を得た。
この溶液に0.02gの天然黒鉛(日本黒鉛工業(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、氷冷しながら5分間分散処理を加え、さらに、高圧分散装置を用いて約250MPaで分散処理(炭素質材料分散液と炭化ケイ素とを衝突させる)を150回行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、1ヵ月後も分散状態が保持された。また、その材料をエタノールで洗浄してポリオキシエチレンナフタリルエーテルを除去し、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた(図18)。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が2〜6層であり、大部分の厚みが3nm以下であった。
実施例10
水90gにポリオキシエチレンナフタリルエーテル(分子量1200-1300)10gを添加し、透明な溶液を得た。
この溶液に0.1gの天然黒鉛(日本黒鉛工業(株)製)を加え、600Wの超音波分散装置を用いて、氷冷しながら5分間分散処理を加え、さらに、高圧分散装置を用いて約250MPaで分散処理(炭素質材料分散液と炭化ケイ素とを衝突させる)を100回行った。
その結果、炭素質材料の分散液が得られ、1ヵ月後も分散状態が保持された。また、その材料をエタノールで洗浄してポリオキシエチレンナフタリルエーテルを除去し、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、薄片状カーボンが得られていた。この薄片状カーボンは、大部分の積層数が1〜10層であり、大部分の厚みが5nm以下であった。
このように、テープによる剥離や、高コストのCVD等を使用することなく、また強い酸化剤を用いて炭素系材料の芳香環構造を崩したり、その還元工程を行ったりすることなく、極めて高度に薄片化した高純度な炭素を、簡易かつ量産化が可能な方法で作製することができた。
その薄片化した炭素は、分散液の状態でも得ることができ、また、それを基板やテープから剥離する等の面倒な工程を経ずに単離することもできた。