JP6490325B1 - スクロール部品及びスクロール圧縮機 - Google Patents
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Abstract
Description
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、アルミニウム合金の表面に、アルミニウム合金と比較して硬度の高い鉄系めっき層を形成することで、アルミニウム合金の摺動性が向上することを見出した。更に、鉄系めっき層とアルミニウム合金との界面に、熱拡散が生じ易い特定の金属元素を含有する拡散層を形成することで、鉄系めっき層とアルミニウム合金との密着性が向上することを見出した。また、この拡散層は低温で形成することができるため、アルミニウム合金の熱変形及び強度低下を抑制することができ、圧縮機運転時の冷媒ガスのシール性の悪化を抑制できることを見出し、本発明に至った。
さらに、本発明は、密閉容器と、前記密閉容器に収容され、前記密閉容器内に流入する流体を圧縮する圧縮機構部と、回転力を発生する電動機と、前記電動機により発生する回転力を前記圧縮機構部に伝える駆動軸と、を備えたスクロール圧縮機において、前記圧縮機構部が、前記スクロール部品を含むことを特徴とするスクロール圧縮機である。
また、本発明によれば、圧縮機運転時の冷媒ガスのシール性の悪化を抑制することのできるスクロール圧縮機を提供することができる。
図1は、実施の形態1に係るスクロール部品を構成する固定スクロール及び揺動スクロールの断面模式図である。図1において、スクロール部品1は、揺動スクロール2と固定スクロール3とを備え、これらのスクロールが互いに擦れ合う摺動面1aを有している。図2及び3は、実施の形態1に係るスクロール部品の摺動面1aの断面模式図である。図4は、実施の形態1に係るスクロール部品の摺動面1aに形成された鉄系めっき層とアルミニウム合金との界面近傍の断面模式図である。図2に示されるスクロール部品では、スクロールを構成するアルミニウム合金5の表面に鉄系めっき層6が形成されており、鉄系めっき層6の表面には、複数のクラック部11が存在している。図3に示されるスクロール部品では、スクロールを構成するアルミニウム合金5の表面に鉄系めっき層6が形成されており、鉄系めっき層6の表面及びクラック部11に窒化物及び硫化物を主成分とするセラミック層7が形成されている。すなわち、図3に示されるスクロール部品は、セラミック層7を備える点で、図2に示されるスクロール部品と異なっている。また、図4に示されるように、鉄系めっき層6とアルミニウム合金5との界面にAl及びFeを主成分とする拡散層10が形成されている。摺動面1aとなるアルミニウム合金5の表面に、図2に示されるようにアルミニウム合金5よりも硬度の高い鉄系めっき層6を形成することで、アルミニウム合金5の表面の摺動性を向上させることができる。摺動面1aとなるアルミニウム合金5の表面に、図3に示されるようにアルミニウム合金5よりも硬度の高い鉄系めっき層6及びセラミック層7(以下、鉄系めっき層6及びセラミック層7を併せて複合層と略記することがある)を形成することで、アルミニウム合金5の表面の摺動性をより向上させることができる。また、鉄系めっき層6とアルミニウム合金5との界面に拡散層10を形成することで、鉄系めっき層6とアルミニウム合金5とが化学的に結合され、アルミニウム合金5に対する鉄系めっき層6及びセラミック層7の密着性を向上させることができる。さらに、拡散層10に熱拡散が生じ易い特定の金属元素を含有させることで、低温で拡散層10を形成することができるため、アルミニウム合金5の熱変形及び強度低下を抑制することができ、結果として、圧縮機運転時の冷媒ガスのシール性の悪化を防止することができる。
鉄系めっき層6の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上15μm以下である。鉄系めっき層6の厚みを2μm以上20μm以下とすることで、鉄系めっき層6の硬度を高めつつ、アルミニウム合金5の露出を防止することができる。
本実施の形態に係るスクロール部品におけるセラミック層7の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1μm以上10μm以下であり、より好ましくは2μm以上5μm以下である。セラミック層7の厚みを1μm以上10μm以下とすることで、摺動性を高めつつ、鉄系めっき層6とセラミック層7との密着性が向上し、セラミック層7の剥がれを防止することができる。
ここで、本明細書において、引張試験における0.2%耐力は、JIS Z2411に記載の方法で評価した値を用いる。
まず、アルミニウム合金をスクロール形状に加工する。ここで、アルミニウム合金で固定スクロール及び揺動スクロールを形成する方法は、特に限定されず、鋳造法、鍛造法、ダイカスト法等を用いることが可能である。また、後工程として、表面研削処理を施すことも可能である。表面研削処理を施すことで、表面の平滑性及び寸法精度を向上させることができる。次に、スクロール形状に加工したアルミニウム合金5の表面に、上述したAl及びFeよりも拡散係数の大きい金属の層を形成する。Al及びFeよりも拡散係数の大きい金属の層を形成する方法は、特に限定されないが、電解めっき、無電解めっき、蒸着、スパッタ、溶射等が挙げられる。
次に、アルミニウム合金5の表面に形成した、Al及びFeよりも拡散係数の大きい金属の層の表面に、鉄系めっき層6を形成する。鉄系めっき層6を形成する方法は、特に限定されず、電解めっき、無電解めっき等が挙げられる。スクロール形状のアルミニウム合金5に、電解めっきによって、鉄系めっき層6を形成する場合、形状が複雑であることから、めっき通電時の電流密度が不均一になり、鉄系めっき層6の厚みが不均一になる場合がある。その場合には、補助電極などの治具を使用することで、電流密度を均一化し、鉄系めっき層6の厚みを均一化することができる。補助電極の形状は、電流密度を均一化できるものであれば特に限定されないが、スクロールの渦巻き形状に類似した形状とすることが好ましい。
次に、鉄系めっき層6を形成したアルミニウム合金5を、真空中で熱処理するか、又は窒素ガス及び硫化水素ガスを含む混合ガス雰囲気下で熱処理する。この熱処理によって、鉄系めっき層6の表面に、熱膨張差によるクラックが生じると同時に、鉄系めっき層6とアルミニウム合金5との界面に拡散層10が形成される。窒素ガス及び硫化水素ガスを含む混合ガス雰囲気下で熱処理する場合には、鉄系めっき層6の表面及びクラック部11に、混合ガスとの反応により、窒化物及び硫化物を主成分とするセラミック層7が形成される。熱処理温度は、特に限定されないが、アルミニウム合金5の熱歪み及び結晶組織の変質を抑制する観点から、200℃以上400℃以下とすることが好ましく、250℃以上350℃以上とすることがより好ましい。熱処理温度が200℃未満であると、拡散層10が形成されにくく、密着性の向上が不十分となる可能性がある。さらに、鉄系めっき層6と混合ガスとの反応が進みにくくなることから、鉄系めっき層6の表面及びクラック部11へのセラミック層7の形成が不十分となる。一方、熱処理温度が400℃を超えると、アルミニウム合金5の結晶組織の変質(結晶粒子の粗大化など)が発生し、スクロール部品の歪み及び機械強度の低下による、冷媒ガスのシール性の悪化が発生する。
なお、本実施の形態では、圧縮機用スクロール部品を例に挙げたが、その他のアルミニウム合金製の摺動部品にも、本発明を適用することができる。
実施の形態2のスクロール圧縮機は、いわゆる縦型のスクロール圧縮機であって、例えば冷媒等の作動ガスを圧縮し吐出するものである。スクロール圧縮機は、密閉容器と、圧縮機構部と、回転力を発生する電動機と、電動機により発生する回転力を圧縮機構部に伝える駆動軸とを備える。密閉容器は、例えば円筒形状に形成されており、耐圧性を有している。密閉容器の一方の側面には作動ガスを密閉容器内に取り込むための吸入配管が接続されており、密閉容器の他方の側面には圧縮した作動ガスを密閉容器から外へと放出する吐出配管が接続されている。
本実施の形態のスクロール圧縮機において、圧縮機構部は、実施の形態1に係るスクロール部品を組み込んだものとなる。実施の形態1に係るスクロール部品を組み込むことで、圧縮機運転時に発生するスクロール部品の遠心力が軽減される。また、アルミニウム合金の表面に形成した鉄系めっき層、セラミック層及び拡散層により、摺動性が向上する。そのため、スクロール部品の回転数を高速化することで、冷媒ガスの圧縮効率が向上し、スクロール圧縮機の高出力化が可能となる。スクロール圧縮機に、スクロール部品を組み込む方法としては、特に限定されることはなく、公知の方法に従って行うことができる。
Al−Si−Cu−Mg系アルミニウム合金(ADC14、ヤング率:80GPa)の表面に、電解めっきにより、Zn皮膜を約0.5μmの厚みになるように形成した。次に、Zn皮膜の表面に、電解めっきにより、92質量%Fe−8質量%Cr組成のFe−Crめっき層を約10μmの厚みになるように形成した。次に、窒素及び硫化水素を含む混合ガス中で、350℃で5時間熱処理して、Al及びFeを主成分としZnを含有する拡散層(Zn含有量:5質量%)を形成すると共に、Fe−Crめっき層の表面に、窒化鉄及び硫化鉄を主成分とするセラミック層を形成して、実施例1の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであり、セラミック層の厚みは5μmであった。
Zn皮膜の代わりにNi皮膜を形成し、Al及びFeを主成分としNiを含有する拡散層(Ni含有量:6質量%)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであり、セラミック層の厚みは5μmであった。
Zn皮膜の代わりにCu皮膜を形成し、Al及びFeを主成分としCuを含有する拡散層(Cu含有量:5質量%)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであり、セラミック層の厚みは5μmであった。
Zn皮膜の代わりにZn及びNiの皮膜を形成し、Al及びFeを主成分としZn及びNiを含有する拡散層(Zn含有量:3質量%、Ni含有量:4質量%)を形成したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであり、セラミック層の厚みは5μmであった。
Fe−Crめっき層の代わりにFeめっき層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであり、セラミック層の厚みは5μmであった。
92質量%Fe−8質量%Cr組成のFe−Crめっき層の代わりに97質量%Fe−3質量%Cr組成のFe−Crめっき層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであり、セラミック層の厚みは5μmであった。
92質量%Fe−8質量%Cr組成のFe−Crめっき層の代わりに85質量%Fe−15質量%Cr組成のFe−Crめっき層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであり、セラミック層の厚みは5μmであった。
92質量%Fe−8質量%Cr組成のFe−Crめっき層の代わりに81質量%Fe−19質量%Cr組成のFe−Crめっき層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、実施例8の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであり、セラミック層の厚みは5μmであった。
窒素及び硫化水素を含む混合ガス中での熱処理を真空中での熱処理に変え、セラミック層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、実施例9の試験片を得た。得られた試験片において、Fe−Crめっき層(鉄系めっき層)の厚みは10μmであった。
Al−Si−Cu−Mg系アルミニウム合金(ADC14)そのものを試験片とした。
Zn皮膜を形成せず、Al及びFeからなる拡散層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の試験片を得た。
Zn皮膜を形成せず、熱処理条件を500℃で5時間に変え、Al及びFeからなる拡散層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の試験片を得た。
Claims (6)
- アルミニウム合金からなる固定スクロールとアルミニウム合金からなる揺動スクロールとを備えるスクロール部品において、
前記固定スクロール及び前記揺動スクロールの少なくとも一方は、その摺動面に形成された鉄系めっき層と、前記鉄系めっき層と前記アルミニウム合金との界面に形成され、Al及びFeを主成分とし且つCo、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される少なくとも一種を含有する拡散層と、前記鉄系めっき層の表面及びクラック部に形成され且つ窒化物及び硫化物を主成分とするセラミック層とを備えることを特徴とするスクロール部品。 - 前記セラミック層の主成分が、窒化鉄及び硫化鉄であることを特徴とする請求項1に記載のスクロール部品。
- 前記鉄系めっき層が3質量%以上15質量%以下のCrを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール部品。
- 前記摺動面のエッジ部に曲面加工又はテーパー加工が施されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスクロール部品。
- 前記アルミニウム合金のヤング率が70GPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のスクロール部品。
- 密閉容器と、前記密閉容器に収容され、前記密閉容器内に流入する流体を圧縮する圧縮機構部と、回転力を発生する電動機と、前記電動機により発生する回転力を前記圧縮機構部に伝える駆動軸と、を備えたスクロール圧縮機において、
前記圧縮機構部が、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスクロール部品を含むことを特徴とするスクロール圧縮機。
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