JP6455342B2 - 高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材ならびにその鋼材からなる、配管、容器、バルブおよび継手 - Google Patents

高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材ならびにその鋼材からなる、配管、容器、バルブおよび継手 Download PDF

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Description

本発明は、高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材ならびにその鋼材からなる、配管、容器、バルブおよび継手に関する。より詳しくは、本発明は、高圧水素ガス環境において優れた機械的特性を有する高Mn鋼鋼材に関し、さらに、上記の鋼材からなり、水素を燃料として走行する燃料電池自動車(以下、単に「燃料電池自動車」という。)ならびに上記燃料電池自動車に水素を供給する水素ステーションで使用される高圧水素ガス用の、配管、容器、バルブおよび継手にも関する。
近年、燃料電池自動車の開発および水素ステーションの実用化研究が進められており、オーステナイト系ステンレス鋼はこれらに用いられる主要金属材料である。
これは、結晶構造として、面心立方(fcc)構造のオーステナイト系ステンレス鋼が、一般的に体心立方(bcc)構造または体心正方(bct)構造(以下、本明細書においてはこれらをまとめて「bcc構造」という。)の炭素鋼および低合金鋼に比べて、優れた耐水素ガス脆化特性を有するためである。
しかし、高圧の水素ガス環境ではオーステナイト系ステンレス鋼も水素ガスによる脆化(以下「水素ガス脆化」という。)を起こす場合がある。
例えば、オーステナイト系ステンレス鋼のうちで、SUS304等の準安定オーステナイト系ステンレス鋼は、塑性変形に伴って水素脆化感受性の高いbcc構造のひずみ誘起マルテンサイト(α’マルテンサイト)を生成するため、水素ガス脆化を起こし易い。
一方、SUS316、SUS316L等の安定オーステナイト系ステンレス鋼は、常温では相変態を起こしにくいため、優れた耐水素ガス脆化特性を有する。
しかし、上記のSUS316およびSUS316Lでも、温度が低くなって常温を下回ると、それらの成分規格内でもCr、Ni等の含有量が低い場合にひずみ誘起マルテンサイトを生成し、水素ガス脆化を起こす。
さらに、燃料電池自動車の航続距離向上のため、燃料電池自動車に搭載される水素タンクの圧力は、近年では従来の45MPaよりも高い70MPaとなっている。
このため、非特許文献1に、高圧の水素ガス環境用のオーステナイト系ステンレス鋼として、その使用温度に応じて、下記の〔1〕式で表されるNi当量と呼ばれるパラメータ式に基づき、化学組成を厳格に管理したものを使用するべきことが提案されている。
Ni当量=12.6C+0.35Si+1.05Mn+Ni+0.65Cr+0.98Mo・・・〔1〕。
但し、〔1〕式中のC、Si、Mn、Ni、CrおよびMoは、それぞれの元素の鋼中含有量(質量%)を意味する。
高圧ガス保安法に定められる自動車用圧縮水素容器例示基準では、水素ガス脆化を起こしにくいオーステナイト系ステンレス鋼として、上記Ni当量の下限値が規定され、該条件を満たすSUS316およびSUS316Lの使用が認められている。そして、実態として、所定のNi当量値を満足するように、高価なNiを成分規格の上限に近い量まで多量に含有させたSUS316およびSUS316Lが用いられている。
一方、現在、燃料電池自動車および水素ステーションでは、製造コストの低減が最大の課題となっている。したがって、高価なNiを多量に含有する材料を使用することは、燃料電池自動車および水素ステーションの低コスト化に対して大きな抵抗となる。このため、水素ガス脆化を起こしにくく、かつSUS316およびSUS316Lよりも安価なオーステナイト系ステンレス鋼の開発要望が極めて高い。
さらに、燃料電池自動車の航続距離向上のための高い水素タンク圧力に耐えられるように、上記オーステナイト系ステンレス鋼には、従来以上の高強度も要求される。このため、特に、800MPa以上の引張強さを有する安価な高強度オーステナイト系ステンレス鋼の開発要望が大きい。
オーステナイト安定化作用を有し、かつNiよりも安価な元素として、Mnが挙げられる。オーステナイト系の高Mn鋼としては、例えば、Cr−Mn−Ni系の高N鋼であるAISI type 205ステンレス鋼およびC−Mn系のハッドフィールド鋼(Hadfield’s Steel)がよく知られている。
また、特許文献1〜3に、オーステナイト系の各種高Mn鋼が開示されている。
特開昭53−096912号公報 国際公開第2015/012357号 特開2007−126688号公報
山田敏弘、小林英男:高圧ガス、Vol.49(2012)No.10、pp.885−893 矢澤武男ら:鉄と鋼、Vol.83(1997)No.1、pp.60−65
前述のとおり、SUS304のようにオーステナイトの安定度が低く、塑性変形によりひずみ誘起マルテンサイトを生成するオーステナイト系ステンレス鋼は、水素ガス脆化を起こし易いので高圧の水素ガス環境で用いることはできない。
また、前記〔1〕式で表されるNi当量の規定値を満足させるために高価なNiを成分規格の上限に近い量まで多量に含有させたSUS316およびSUS316Lは、水素ガス脆化を起こしにくいものの高価である。
一方、既存のAISI type 205ステンレス鋼およびハッドフィールド鋼は、オーステナイトの安定度が高く塑性変形してもひずみ誘起マルテンサイトを生じない。さらに、これらの鋼は、上述のSUS316およびSUS316Lよりも安価である。しかし、本発明者らが70MPa以上という高圧水素ガス環境での水素ガス脆化特性を評価したところ、いずれも水素ガス脆化を起こし易く、上記高圧水素ガス環境ではこれらの鋼を使用できないことが判明した。
特許文献1で開示された鉄合金は、「水素脆化に対する抵抗性を持つ」とされている。しかしながら、本発明者らが水素ガス脆化特性を70MPa以上という高圧水素ガス環境で評価したところ、特許文献1の鉄合金は、その規定範囲内の化学組成を有していても、特に引張強さが800MPa以上の場合には、水素ガス脆化を起こすことがあり、上記のような高圧の水素ガス環境では安定して使用できないことが判明した。
特許文献2で開示された鋼材は、硫化物応力割れ(SSC)に対して優れた耐性を有しているため、高強度油井用鋼材として適している。なお、上記の「SSC」は、腐食環境中で鋼材表面に発生した水素の鋼中への拡散と鋼材に負荷された応力との相乗作用によって破断に至る水素脆化の1種である。しかし、本発明者らが70MPa以上という高圧水素ガス環境で上記鋼材の水素ガス脆化特性を評価したところ、特許文献2の鋼材は、その規定範囲内の化学組成を有していても、水素ガス脆化を起こす場合のあることが判明した。このため、特許文献2で提案された鋼材は、70MPa以上という高圧の水素ガス環境での使用に対しては、改善すべき余地がある。
特許文献3で開示された鋼は、確かに、SUS316系鋼を上回る耐水素脆化感受性を有するため、高圧水素環境で使用するのに適している。しかし、特許文献3の鋼は、Cr含有量が10〜20%と高いため、鋼材コストの低減という観点から、改善すべき余地がある。
上記のように、これまでは800MPa以上の引張強さおよび70MPa以上という高圧水素ガス環境での良好な耐水素ガス脆化特性を有し、さらに経済性にも優れる金属材料は存在しなかった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、Ni当量を管理したSUS316およびSUS316Lよりも安価で800MPa以上の引張強さを有し、かつ高圧水素ガス環境(中でも70MPa以上の高圧水素ガス環境)下での機械的特性に優れて良好な耐水素ガス脆化特性を備える高Mn鋼鋼材を提供することを目的とする。さらに、上記の鋼材からなる、高圧水素ガス用の、配管、容器、バルブおよび継手を提供することもまた、本発明の目的である。
本発明者らは、前記の課題を解決するために、高圧水素ガス環境で十分な耐水素ガス脆化特性を確保するための調査を実施した。この調査には、既存のAISI type 205ステンレス鋼およびハッドフィールド鋼をベースにして化学組成を種々調整した鋼、ならびに従来提案されているオーステナイト系の高Mn鋼をベースにして化学組成を種々調整した高Mn鋼を用いた。その結果、下記(a)〜(f)の知見を得た。
(a)Mnを多量に含有させることにより、高価なNiを含有させることなく、オーステナイトを安定化させることができる。しかし、高Mn鋼は、固溶化熱処理のままでは、安定して800MPa以上の引張強さが得られないことがある。
(b)下記の[1]式で表されるFn1が0.05以上である高Mn鋼は、塑性変形、特に冷間加工によって、安定して800MPa以上の引張強さを備える。
Fn1=C+4N・・・[1]。
但し、[1]式中のCおよびNは、それぞれの元素の鋼中含有量(質量%)を意味する。
(c)AISI type 205ステンレス鋼およびハッドフィールド系鋼は、塑性変形でひずみ誘起マルテンサイトが生成しないにも拘わらず、70MPa以上という高圧水素ガス環境で水素ガス脆化を起こし易い。その理由は、積層欠陥エネルギーを低下させる元素である固溶型元素のN(窒素)および/またはC(炭素)を多く含有するためと考えられる。すなわち、AISI type 205ステンレス鋼は、一般に、質量%で、0.32〜0.40%のNおよび0.12〜0.25%のCを含有し、ハッドフィールド系鋼は、一般に、質量%で、0.9〜1.2%のCを含有する。このため、Nまたは/およびCを多量に含有する上記の鋼種では、塑性変形時に積層欠陥が生じ易くなり、積層欠陥の生成によって変形の局所化が起こり、変形が局所化した部位で水素ガス脆化感受性が高まると考えられる。
(d)さらに、冷間加工された高Mn鋼では、CおよびNの含有量が水素ガス脆化に及ぼす作用が大きくなる。特に、前記の[1]式で表されるFn1が0.40を超える高Mn鋼は、冷間加工によって極めて70MPa以上という高圧水素ガス環境で水素ガス脆化を生じやすくなる。
(e)オーステナイトの安定度が低く、しかも冷間加工を受けて、金属組織中にbcc構造のフェライトまたは/およびα’マルテンサイトの体積率が高くなったオーステナイト系の高Mn鋼は、70MPa以上という高圧水素ガス環境で極めて水素ガス脆化を起こし易い。
(f)同様に、オーステナイトの安定度が低く、しかも冷間加工を受けて、金属組織中にhcp構造のεマルテンサイトの体積率が高くなったオーステナイト系の高Mn鋼は、70MPa以上という高圧水素ガス環境で極めて水素ガス脆化を起こし易い。
本発明は、上記の内容に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記に示す高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材ならびにその鋼材からなる、高圧水素ガス用の、配管、容器、バルブおよび継手にある。
(1)化学組成が、質量%で、C:0.40%未満、Si:0.05〜1.0%、Mn:20.0〜60.0%、N:0.10%未満、Ni:0〜5%、Cu:0〜5%、Co:0〜5%、Al:0〜1%、Cr:0〜5%、Mo:0〜3%、W:0〜6%、V:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Zr:0〜1.0%、Hf:0〜1.0%、Ta:0〜1.0% B:0〜0.020%、Ca:0〜0.0050%、Mg:0〜0.0050%、REM:0〜0.50%、残部がFeおよび不純物であり、不純物としてのP、SおよびOが、P:0.050%以下、S:0.050%以下およびO:0.020%以下で、さらに、下記[1]式で表されるFn1が、0.05≦Fn1≦0.40であり、
マトリックスの金属組織が、体積率で、fcc構造相:90〜100%、bcc構造相:0〜10%およびhcp構造相:0〜10%、かつ上記構造相の合計:100%であり、結晶粒のアスペクト比:2.0超えであり、
引張強さが800MPa以上である、
高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
Fn1=C+4N・・・[1]
但し、[1]式中のCおよびNは、それぞれの元素の鋼中含有量(質量%)を意味する。
(2)質量%で、Ni:0.1〜5%、Cu:0.1〜5%およびCo:0.1〜5%から選択される1種以上を含有する、上記(1)に記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
(3)質量%で、Al:0.005〜1%、Cr:0.1〜5%、Mo:0.1〜3%、W:0.1〜6%、V:0.01〜1.0%、Nb:0.01〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%、Zr:0.001〜1.0%、Hf:0.001〜1.0%、Ta:0.001〜1.0%およびB:0.0001〜0.020%から選択される1種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
(4)質量%で、Ca:0.0001〜0.0050%、Mg:0.0001〜0.0050%およびREM:0.0001〜0.50%から選択される1種以上を含有する、上記(1)から(3)までのいずれかに記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
(5)マトリックスの金属組織が、体積率で、fcc構造相:100%である、上記(1)から(4)までのいずれかに記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
(6)上記(1)から(5)までのいずれかに記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材からなる、高圧水素ガス用の、配管、容器、バルブおよび継手。
本発明によれば、Ni当量を管理したSUS316およびSUS316Lよりも安価で800MPa以上の引張強さを有し、かつ高圧水素ガス環境(中でも70MPa以上の高圧水素ガス環境)下での機械的特性に優れて良好な耐水素ガス脆化特性を備える高Mn鋼鋼材を得ることができる。また、この高Mn鋼鋼材からなる、配管、容器、バルブおよび継手は、上記高圧水素ガス環境での耐久性に優れる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.化学組成:
本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材の化学組成の限定理由は次のとおりである。以下の説明において各元素の含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.40%未満
Cは、オーステナイトの安定化および冷間加工後の高強度化に有効な元素である。しかし、過剰なC含有量は、冷間加工によって、高Mn鋼鋼材中に積層欠陥の生成を促進し、耐水素ガス脆化特性を大きく低下させる。したがって、Cの含有量を0.40%未満とする。C含有量の好ましい上限は0.30%であり、また、より好ましい上限は0.10%である。なお、C含有量は、前記[1]式で表されるFn1が、0.05≦Fn1≦0.40も満たす必要がある。
Si:0.05〜1.0%
Siは、鋼の脱酸に有効な元素であり、この効果を得るには、0.05%以上含有させる必要がある。一方、1.0%を超えてSiを含有させても上記の効果は飽和する。このため、Siの含有量は0.05〜1.0%とする。Si含有量の好ましい下限は0.1%であり、また、好ましい上限は0.5%である。
Mn:20.0〜60.0%
Mnは、本発明において重要な元素である。Mnは、安価でかつオーステナイトを安定化させる作用を有する。この効果を十分に得るには、Mnを20.0%以上含有させる必要がある。一方、Mnを60.0%を超えて過剰に含有させても上記の効果は飽和し、かつ熱間加工性等の製造性が低下する。このため、Mnの含有量は20.0〜60.0%とする。Mn含有量の好ましい下限は30.0%であり、より好ましい下限は35.0%である。Mn含有量の好ましい上限は50.0%であり、より好ましい上限は45.0%である。
N:0.10%未満
Nは、オーステナイトの安定化および冷間加工後の高強度化に有効な元素である。しかし、過剰なN含有量は、冷間加工によって、高Mn鋼鋼材中に積層欠陥の生成を促進し、耐水素ガス脆化特性を大きく低下させる。したがって、Nの含有量を0.10%未満とする。N含有量の好ましい上限は0.08%であり、また、より好ましい上限は0.05%である。なお、N含有量は、前記[1]式で表されるFn1が、0.05≦Fn1≦0.40も満たす必要がある。
Ni:0〜5%
Niは、オーステナイトを安定化させて水素ガス脆化を防止するのに有効な元素である。また、Niは、靱性の改善にも有効な元素である。このため、必要に応じてNiを含有させてもよい。しかしながら、Niを多量に含有させると、材料コストの上昇を招く。したがって、含有させる場合のNi含有量の上限を5%とする。Ni含有量の上限は3%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Ni含有量の下限は、0.1%であることが好ましく、0.5%であることがより好ましい。
Cu:0〜5%
Cuは、オーステナイトを安定化させて水素ガス脆化を防止するのに有効な元素である。このため、必要に応じてCuを含有させてもよい。しかしながら、Cuを多量に含有させると、材料コストの上昇を招き、さらに熱間加工性等製造性の低下も招く。したがって、含有させる場合のCu含有量の上限を5%とする。Cu含有量の上限は3%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Cu含有量の下限は、0.1%であることが好ましく、0.5%であることがより好ましい。
Co:0〜5%
Coは、オーステナイトを安定化させて水素ガス脆化を防止するのに有効な元素である。また、Coは、靱性の改善にも有効な元素である。このため、必要に応じてCoを含有させてもよい。しかしながら、Coを多量に含有させると、材料コストの上昇を招く。したがって、含有させる場合のCo含有量の上限を5%とする。Co含有量の上限は3%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Co含有量の下限は、0.1%であることが好ましく、0.5%であることがより好ましい。
上記したNi、CuおよびCoから選択される2種以上を複合して含有させる場合の合計量は、5%以下であることが好ましい。
Al:0〜1%
Alは、フェライト安定化元素である。一方、Alは、鋼の脱酸に有効な元素である。このため、必要に応じてAlを含有させてもよい。しかしながら、Alを1%を超えて含有させてもその効果は飽和する。しかも、Alの含有量が1%を超えると、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性の低下を招き、さらに、酸化物が形成されやすくなって、靱性等にも悪影響を与えることがある。このため、含有させる場合のAlの量を1%以下とする。Alの量は、0.5%以下であることが好ましい。一方、前記したAlの効果を安定して発現させるためには、Alの量は、0.005%以上であることが好ましく、0.02%以上であることがさらに好ましい。なお、本発明のAl含有量とは、酸可溶Al(所謂「Sol.Al」)での含有量を指す。
Cr:0〜5%
Crは、フェライト安定化元素である。一方、Crは、耐候性、耐酸性等、ステンレス鋼としての一般的な耐食性を確保するのに有効な元素である。このため、必要に応じてCrを含有させてもよい。しかしながら、Crを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のCr含有量の上限を5%とする。Cr含有量の上限は3%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Cr含有量の下限は、0.1%であることが好ましく、0.5%であることがより好ましい。
Mo:0〜3%
Moは、フェライト安定化元素である。一方、Moは、耐候性、耐酸性等、ステンレス鋼としての一般的な耐食性を確保するのに有効な元素である。このため、必要に応じてMoを含有させてもよい。しかしながら、Moを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のMo含有量の上限を3%とする。Mo含有量の上限は2%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Mo含有量の下限は、0.1%であることが好ましく、0.5%であることがより好ましい。
W:0〜6%
Wは、フェライト安定化元素である。一方、Wは、耐候性、耐酸性等、ステンレス鋼としての一般的な耐食性を確保するのに有効な元素である。このため、必要に応じてWを含有させてもよい。しかしながら、Wを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のW含有量の上限を6%とする。W含有量の上限は3%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、W含有量の下限は、0.1%であることが好ましく、0.5%であることがより好ましい。
V:0〜1.0%
Vは、フェライト安定化元素である。一方、Vは、合金炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、靱性改善に寄与する元素である。このため、必要に応じてVを含有させてもよい。しかしながら、Vを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のV含有量の上限を1.0%とする。V含有量の上限は0.5%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、V含有量の下限は、0.01%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。
Nb:0〜1.0%
Nbは、フェライト安定化元素である。一方、Nbは、合金炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、靱性改善に寄与する元素である。このため、必要に応じてNbを含有させてもよい。しかしながら、Nbを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のNb含有量の上限を1.0%とする。Nb含有量の上限は0.5%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Nb含有量の下限は、0.01%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。
Ti:0〜1.0%
Tiは、フェライト安定化元素である。一方、Tiは、合金炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、靱性改善に寄与する元素である。このため、必要に応じてTiを含有させてもよい。しかしながら、Tiを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のTi含有量の上限を1.0%とする。Ti含有量の上限は0.5%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Ti含有量の下限は、0.001%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。
Zr:0〜1.0%
Zrは、フェライト安定化元素である。一方、Zrは、合金炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、靱性改善に寄与する元素である。このため、必要に応じてZrを含有させてもよい。しかしながら、Zrを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のZr含有量の上限を1.0%とする。Zr含有量の上限は0.5%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Zr含有量の下限は、0.001%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。
Hf:0〜1.0%
Hfは、フェライト安定化元素である。一方、Hfは、合金炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、靱性改善に寄与する元素である。このため、必要に応じてHfを含有させてもよい。しかしながら、Hfを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のHf含有量の上限を1.0%とする。Hf含有量の上限は0.5%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Hf含有量の下限は、0.001%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。
Ta:0〜1.0%
Taは、フェライト安定化元素である。一方、Taは、合金炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、靱性改善に寄与する元素である。このため、必要に応じてTaを含有させてもよい。しかしながら、Taを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、さらに、フェライトの生成を促進して耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。したがって、含有させる場合のTa含有量の上限を1.0%とする。Ta含有量の上限は0.5%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Ta含有量の下限は、0.001%であることが好ましく、0.1%であることがより好ましい。
B:0〜0.020%
Bは、フェライト安定化元素である。一方、Bは、オーステナイト結晶粒径を微細化し、靱性改善に寄与する元素である。このため、必要に応じてBを含有させてもよい。しかしながら、Bを多量に含有させても上記の効果が飽和して材料コストの上昇を招き、また、フェライトの生成を促進して、耐水素ガス脆化特性を低下させることがある。このため、含有させる場合のBの量を0.020%以下とする。Bの量は、0.01%以下であることが好ましい。一方、前記したBの効果を安定して発現させるためには、Bの量は、0.0001%以上であることが好ましく、0.0005%以上であることがさらに好ましい。
上記したAl、Cr、Mo、W、V、Nb、Ti、Zr、Hf、TaおよびBから選択される2種以上を複合して含有させる場合の合計量は、8%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
Ca:0〜0.0050%
Caは、鋳造時の凝固割れを防止する作用を有する。このため、必要に応じてCaを含有させてもよい。しかしながら、Caを多量に含有させると、熱間加工性の低下を招くことがある。このため、含有させる場合のCa含有量の上限を0.0050%とする。Ca含有量の上限は0.0030%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Ca含有量の下限は、0.0001%であることが好ましく、0.0005%であることがより好ましい。
Mg:0〜0.0050%
Mgは、鋳造時の凝固割れを防止する作用を有する。このため、必要に応じてMgを含有させてもよい。しかしながら、Mgを多量に含有させると、熱間加工性の低下を招くことがある。このため、含有させる場合のMg含有量の上限を0.0050%とする。Mg含有量の上限は0.0030%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、Mg含有量の下限は、0.0001%であることが好ましく、0.0005%であることがより好ましい。
REM:0〜0.50%
REMは、鋳造時の凝固割れを防止する作用を有する。このため、必要に応じてREMを含有させてもよい。しかしながら、REMを多量に含有させると、熱間加工性の低下を招くことがある。このため、含有させる場合のREM含有量の上限を0.50%とする。REM含有量の上限は0.30%であることが好ましい。なお、上述の効果を得るためには、REM含有量の下限は、0.0001%であることが好ましく、0.0005%であることがより好ましい。
本発明において「REM」とは、Sc、Y、およびランタノイドの合計17元素を指し、「REMの含有量」とは、REMが1種の場合はその含有量、2種以上の場合はそれらの合計含有量を指す。また、REMは一般的には複数種のREMの合金であるミッシュメタルとしても供給されている。このため、個別の元素を1種または2種以上添加してREMの量が上記の範囲となるように含有させてもよいし、例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REMの量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
上記したCa、MgおよびREMから選択される2種以上を複合して含有させる場合の合計量は、REMを含む場合は0.50%以下であることが好ましく、また、REMを含まない場合には0.0050%以下であることが好ましい。
本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材は、上述の各元素と、残部がFeおよび不純物とからなり、不純物としてのP、SおよびOが、P:0.050%以下、S:0.050%以下およびO:0.020%以下で、さらに、前記[1]式で表されるFn1が、0.05≦Fn1≦0.40である化学組成を有する。
ここで「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
P:0.050%以下
Pは、粒界に偏析し、靱性等の機械的特性に悪影響を及ぼす元素である。このため、P含有量は0.050%以下に制限する必要がある。P含有量はできるだけ少ないことが望ましい。
S:0.050%以下
SもPと同様に、鋼の靱性等の機械的特性に悪影響を及ぼす元素である。このため、S含有量は0.050%以下に制限する必要がある。S含有量はできるだけ少ないことが望ましい。
O:0.020%以下
O(酸素)も、SおよびPと同様に、鋼の靱性等の機械的特性に悪影響を及ぼす元素である。このため、O含有量は0.020%以下に制限する必要がある。O含有量はできるだけ少ないことが望ましい。
Fn1:0.05以上で0.40以下
本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材は、下記[1]式で表されるFn1が、0.05≦Fn1≦0.40である。
Fn1=C+4N・・・[1]
但し、[1]式中のCおよびNは、それぞれの元素の鋼中含有量(質量%)を意味する。
Fn1は、本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材におけるオーステナイトの安定化、冷間加工後の高強度化および耐水素ガス脆化特性確保の指標である。Fn1が0.05以上で0.40以下の場合に、オーステナイトの安定化と冷間加工後の高強度化が達成され、しかも良好な耐水素ガス脆化特性が確保される。Fn1の好ましい上限は0.30であり、より好ましい上限は0.10である。Fn1は、0.05以上であれば、より0.05に近いことが望ましい。
例えば、後述の「4.製造方法」の項で述べる方法によって得られる上記の化学組成を有する高Mn鋼鋼材は、800MPa以上の引張強さを有するとともに、概ね高圧水素ガス環境での機械的特性に優れて良好な耐水素ガス脆化特性を備える。しかし、化学組成の規定だけでは、70MPa以上という高圧水素ガス環境での良好な耐水素ガス脆化特性を安定して確保できない場合もある。したがって、本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材においては、次に述べるマトリックスの金属組織も併せて規定する。
2.マトリックスの金属組織:
本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材は、マトリックスの金属組織が、体積率で、fcc構造相:90〜100%、bcc構造相:0〜10%およびhcp構造相:0〜10%、かつ上記構造相の合計:100%であり、結晶粒のアスペクト比:2.0超えである。
先の化学組成規定およびマトリックスの金属組織が上記規定を満たす本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材は、800MPa以上の引張強さを有するとともに、70MPa以上という高圧水素ガス環境において、機械的特性に優れて良好な耐水素ガス脆化特性を安定して確保することができる。
上記金属組織におけるfcc構造相の体積率は95%以上であることが好ましく、100%であることが最も好ましい。上記金属組織におけるbcc構造相の体積率は、5%以下であることが好ましく、0%であれば最も好ましい。同様に、上記金属組織におけるhcp構造相の体積率は、5%以下であることが好ましく、0%であれば最も好ましい。
既に述べたように、本明細書における「bcc構造」とは、bcc構造とbct構造をまとめたものを指す。
本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材のマトリックスの金属組織における上記各構造相の体積率は、例えば、次の(1)〜(4)の順に処理して求めることができる。
(1)厚さが2mm、幅が10mmで長さが10mmの寸法の試験片を採取する。
(2)上記の試験片を、1200番エメリー紙まで研磨する。
(3)上記の研磨した試験片を常温の過酸化水素とシュウ酸の混合溶液に浸漬して表面の加工層を除去する。
(4)加工層を除去した試験片にX線回折測定を実施する。
本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材は、上記金属組織における結晶粒のアスペクト比が2.0超えであれば、安定して800MPa以上の引張強さを備えることができる。なお、本明細書における「結晶粒のアスペクト比」とは、結晶粒における、鋼材の圧延方向または鍛錬軸に平行な方向(以下、まとめて「長手方向」という。)での長径の平均値aと、前記方向に垂直な方向(以下、「厚さ方向」という。)での長径の平均値bとの比「a/b」を指す。なお、結晶粒のアスペクト比は、4.0以上であることが好ましい。
本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材のマトリックスの金属組織における結晶粒のアスペクト比は、例えば、次の<1>〜<4>の順に処理して求めることができる。
<1>厚さが10mm、幅が10mmで長さが20mmの寸法の試験片を採取する。
<2>上記試験片の厚さが10mmで長さが20mmの断面が被検面になるように樹脂埋めして鏡面研磨する。
<3>ビレラ溶液で腐食(エッチング)し、光学顕微鏡を用いて100倍の倍率で適宜の面積の視野を観察する。
<4>切片法にて、結晶粒における、長手方向での長径の平均値aおよび厚さ方向での長径の平均値bを求め、「a/b」を算出する。
3.引張強さ:
本発明に係る高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材ならびにその鋼材からなる、高圧水素ガス用の、配管、容器、バルブおよび継手の強度は、引張強さ(TS)が800MPa以上である。引張強さが800MPa以上であれば、例えば、燃料電池自動車の航続距離向上のための高い水素タンク圧力にも安定して耐えることができる。なお、本発明における「引張強さ」とは「大気中での引張強さ」を指す。
4.製造方法:
本発明の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材ならびにその鋼材からなる、高圧水素ガス用の、配管、容器、バルブおよび継手は、例えば、以下の方法により製造することができるが、この方法には限定されない。
上記で説明した化学組成を有する高Mn鋼を、溶製した後、鋳造によりインゴットまたは鋳片とする。鋳造されたインゴットまたは鋳片は、熱間圧延、熱間押出、熱間鍛造等の熱間加工によって、厚板、薄板、丸棒、継目無鋼管等所要の粗形状を有する鋼材に仕上げる。その後、固溶化熱処理を行う。
上記固溶化熱処理の条件は、析出物等を十分固溶させることができる温度、時間条件であればよい。具体的には、上記粗形状を有する鋼材のサイズにもよるが、通常は1000〜1200℃の温度域で、10分以上の均熱保持とすればよい。上記固溶化熱処理において、均熱温度の好ましい下限は1050℃程度、好ましい上限は1100℃程度であり、均熱保持時間の好ましい上限は60分程度である。均熱後は、油冷以上の冷却速度で冷却することが望ましい。
上記固溶化熱処理を施した所要の粗形状を有する鋼材に対して、次に冷間加工を施して所要の形状を有する鋼材、さらには、配管、容器等所定形状の部材に仕上げる。この場合の冷間加工方法は、特に指定するものではなく、例えば、断面減少率が20%以上となるような冷間加工を行えばよい。上記の冷間加工を行えば、結晶粒のアスペクト比が2.0超えになる。上記冷間加工において、断面減少率の好ましい下限は40%程度である。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する高Mn鋼A〜Zを50kg真空溶解炉を用いて溶製し、インゴットに鋳造した。
表1における鋼A〜S、鋼Xおよび鋼Zは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。
一方、表1における鋼T〜Wおよび鋼Yは、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。
Figure 0006455342
上記の各インゴットを熱間鍛造して、厚さ80mmのブロックとし、このブロックをさらに熱間圧延して、厚さ15〜60mmの板材に仕上げた。
上記の各15〜60mmの板材は、1100℃で60分保持した後水冷して固溶化熱処理を行った。
各鋼について、上記固溶化熱処理した板材を用いて、表2に示す20〜80%のいずれかの断面減少率で冷間圧延を行い、各構造相の体積率を求めた。具体的には、板材の厚さ方向中心部から、長手方向に厚さが2mm、幅が10mmで長さが10mmの寸法の試験片を採取し、1200番エメリー紙まで研磨後、常温の過酸化水素とシュウ酸の混合溶液に浸漬して表面の加工層を除去した。次いで、上記の加工層を除去した試験片に非特許文献2に準拠した方法でX線回折測定(Cu対陰極、管電圧30kV、管電流100mA)を実施し、マトリックスの金属組織における各構造相の体積率を求めた。
具体的には、fcc構造相に関しては(111)、(200)および(220)のピーク強度、bcc構造相に関しては(110)、(200)および(211)のピーク強度、hcp構造相に関しては(100)、(101)および(102)のピーク強度に基づいて各構造相の体積率を同定した。
また、各鋼について、上記冷間圧延した板材の厚さ方向中心部から、長手方向に厚さが10mm、幅が10mmで長さが20mmの寸法の試験片を採取した。次いで、結晶粒における、長手方向での長径と厚さ方向での長径の双方を観察するために、厚さが10mmで長さが20mmの断面が被検面になるように樹脂埋めして鏡面研磨した後、ビレラ溶液で腐食(エッチング)し、以下に示す方法でマトリックスの金属組織における結晶粒のアスペクト比を求めた。
上記の厚さが10mmで長さが20mmの断面を被検面として、光学顕微鏡を用いて100倍の倍率で500μm×500μmの視野をランダムに5視野観察し、切片法にて、結晶粒における、長手方向での長径の平均値a(μm)および厚さ方向での長径の平均値b(μm)を求めた。次いで、「a/b」すなわち結晶粒のアスペクト比を算出した。
さらに、各鋼について、冷間圧延した板材の厚さ方向中心部から、長手方向に平行部直径が2.5mmの丸棒引張試験片を採取した。
上記の丸棒引張試験片を用いて、常温大気中で、ひずみ速度3×10-6/sで引張試験を行い、降伏強さ(0.2%耐力、YS1)、引張強さ(TS1)および破断伸び(EL1)を測定した。また、上記の丸棒引張試験片を用いて、常温の85MPaの高圧水素ガス中で、上記と同じ3×10-6/sのひずみ速度で引張試験を行い、破断伸び(EL2)を測定した。
水素の影響は延性の低下に顕著に現れる。このため、大気中での破断伸び(EL1)と高圧水素ガス中での破断伸び(EL2)から、下記[2]式を用いて相対破断伸びを算出した。このようにして求めた相対破断伸びの値が50%以上であれば、水素による脆化が抑制されて良好な耐水素ガス脆化特性を有し、さらに、70%以上であれば、極めて良好な耐水素ガス脆化特性を有すると判断できる。
(EL2/EL1)×100・・・[2]。
表2に、上記の各調査結果をまとめて示す。
Figure 0006455342
表2における試験番号1〜19は本発明例である。TSが800MPaを超える高強度の上記試験番号は、いずれも相対破断伸びが50%を超えており、良好な耐水素ガス脆化特性を有していることが明らかである。なお、上記の本発明例では、いずれもマトリックスの金属組織は、体積率で、fcc構造相が100%であった。
試験番号20は参考例であり、相対破断伸びは92%と大きく良好な耐水素ガス脆化特性を有している。しかし、この試験番号20は、用いた鋼TのFn1が本発明で規定する化学組成条件から外れる0.033であるため、冷間圧延してもTSが705MPaと低く、本発明で規定する下限値の800MPaに達しなかった。
試験番号21〜26は比較例である。上記の比較例は、いずれも相対破断伸びが50%未満であり、耐水素ガス脆化特性に劣っていた。
試験番号21は、用いた鋼UのC含有量およびFn1がそれぞれ、0.453%および0.525で、いずれも本発明で規定する化学組成条件から外れるため、耐水素ガス脆化特性に劣っていた。
試験番号22は、用いた鋼VのMn含有量が19.82%と低く本発明で規定する化学組成条件から外れ、マトリックスの金属組織における体積率が、fcc構造相が26%およびhcp構造相が74%で規定を満たさないため、耐水素ガス脆化特性に劣っていた。
試験番号23は、用いた鋼WのFn1が本発明で規定する化学組成条件から外れる0.495であるため、耐水素ガス脆化特性に劣っていた。
試験番号24は、用いた鋼Xの化学組成は本発明で規定する範囲内にあるが、マトリックスの金属組織におえる体積率が、fcc構造相が30%およびhcp構造相が70%で規定を満たさないため、耐水素ガス脆化特性に劣っていた。
試験番号25は、試験番号23と同様に、用いた鋼YのFn1が本発明で規定する化学組成条件から外れる0.470であるため、耐水素ガス脆化特性に劣っていた。
試験番号26は、用いた鋼Zの化学組成は本発明で規定する範囲内にあるが、マトリックスの金属組織における体積率が、fcc構造相が65%およびbcc構造相が35%で規定を満たさないため、耐水素ガス脆化特性に劣っていた。
本発明によれば、Ni当量を管理したSUS316およびSUS316Lよりも安価で800MPa以上の引張強さを有し、かつ高圧水素ガス環境(中でも70MPa以上の高圧水素ガス環境)下での機械的特性に優れて良好な耐水素ガス脆化特性を備える高Mn鋼鋼材を得ることができる。また、この高Mn鋼鋼材からなる、配管、容器、バルブおよび継手は、上記高圧水素ガス環境での耐久性に優れる。


Claims (6)

  1. 化学組成が、質量%で、C:0.40%未満、Si:0.05〜1.0%、Mn:20.0〜60.0%、N:0.10%未満、Ni:0〜5%、Cu:0〜5%、Co:0〜5%、Al:0〜1%、Cr:0〜5%、Mo:0〜3%、W:0〜6%、V:0〜1.0%、Nb:0〜1.0%、Ti:0〜1.0%、Zr:0〜1.0%、Hf:0〜1.0%、Ta:0〜1.0% B:0〜0.020%、Ca:0〜0.0050%、Mg:0〜0.0050%、REM:0〜0.50%、残部がFeおよび不純物であり、不純物としてのP、SおよびOが、P:0.050%以下、S:0.050%以下およびO:0.020%以下で、さらに、下記[1]式で表されるFn1が、0.05≦Fn1≦0.40であり、
    マトリックスの金属組織が、体積率で、fcc構造相:90〜100%、bcc構造相:0〜10%およびhcp構造相:0〜10%、かつ上記構造相の合計:100%であり、結晶粒のアスペクト比:2.0超えであり、
    引張強さが800MPa以上である、
    高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
    Fn1=C+4N・・・[1]
    但し、[1]式中のCおよびNは、それぞれの元素の鋼中含有量(質量%)を意味する。
  2. 質量%で、Ni:0.1〜5%、Cu:0.1〜5%およびCo:0.1〜5%から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
  3. 質量%で、Al:0.005〜1%、Cr:0.1〜5%、Mo:0.1〜3%、W:0.1〜6%、V:0.01〜1.0%、Nb:0.01〜1.0%、Ti:0.001〜1.0%、Zr:0.001〜1.0%、Hf:0.001〜1.0%、Ta:0.001〜1.0%およびB:0.0001〜0.020%から選択される1種以上を含有する、請求項1または2に記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
  4. 質量%で、Ca:0.0001〜0.0050%、Mg:0.0001〜0.0050%およびREM:0.0001〜0.50%から選択される1種以上を含有する、請求項1から3までのいずれかに記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
  5. マトリックスの金属組織が、体積率で、fcc構造相:100%である、請求項1から4までのいずれかに記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材。
  6. 請求項1から5までのいずれかに記載の高圧水素ガス用高Mn鋼鋼材からなる、高圧水素ガス用の、配管、容器、バルブおよび継手。

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