JP6451496B2 - 炭酸ジフェニルの製造方法、該製造方法により得られる炭酸ジフェニル、該炭酸ジフェニルから製造されるポリカーボネート、炭酸ジフェニル製造用触媒、該触媒の製造方法 - Google Patents

炭酸ジフェニルの製造方法、該製造方法により得られる炭酸ジフェニル、該炭酸ジフェニルから製造されるポリカーボネート、炭酸ジフェニル製造用触媒、該触媒の製造方法 Download PDF

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本発明は、炭酸ジフェニルの製造方法及び該製造方法により得られる炭酸ジフェニルに関する発明である。詳しくは、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、取り扱い易い触媒を用いて、簡便で効率良く、高純度な炭酸ジフェニルを安定して連続的に製造できる方法を提供することについての発明である。また、該炭酸ジフェニル製造に好適な触媒とその製造方法についての発明である。
炭酸ジエステルは、種々の化学反応における原料化合物として知られており、特に、炭酸ジフェニルは二価ヒドロキシ芳香族化合物との重縮合反応によりポリカーボネートを製造できることが知られている。
炭酸ジエステルは、シュウ酸ジエステルを有機リン化合物などの脱カルボニル触媒の存在下で脱カルボニル反応させることにより得ることができる(特許文献1参照)。また、炭酸ジエステルは、シュウ酸ジエステルをテトラフェニルホスホニウムクロライドなどの触媒の存在下で脱カルボニル反応させることによっても得ることができる。しかしながら、この方法で得られる炭酸ジエステルは純度が低いため、これを高純度化する方法などが提案されている(特許文献2参照)。
特開平8−333307号公報 特開2002−53657号公報
しかしながら、上記特許文献2に記載の方法についても、精製に多数の蒸留工程が必要であり、操作が非常に煩雑であるなどの問題があった。また、本発明者らが、非対称テトラフェニルホスホニウムクロライドの取り扱い性について検討を行った結果、該物質は、粒径が小さいために飛散しやすく、吸湿性が高いため、これを触媒として用いてシュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応を行うと、炭酸ジフェニルの加水分解によりフェノールが副生しやすいことが判明した。
本発明は、これらの問題点を解決し、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、粒径が大きくて飛散し難く、取り扱い易い触媒を用いて、簡便で効率良く、高純度な炭酸ジフェニルを安定して連続的に製造できる方法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、シュウ酸ジフェニルを反応器内で、触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、前記触媒を非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体として供給することにより、上記課題を解決できることを見出した。また、この非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体は、ハロゲン化水素及び極性有機溶媒と接触している非対称テトラアリールホスホニウムハライ
ドを晶析することにより簡便に得ることができることを見出した。
すなわち、本発明の第1の要旨は、シュウ酸ジフェニルを反応器内で、触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記触媒を非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体として供給することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第2の要旨は、第1の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記アダクト体の平均粒径が50μm以上、1mm以下である、炭酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第3の要旨は、第1又は第2の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記アダクト体は、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素を極性有機溶媒に溶解させた後に晶析することにより得られるものである、炭酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第4の要旨は、第1乃至3の何れか1つの要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記非対称テトラアリールホスホニウムハライドがベンジルプロトンを有さない、炭酸ジフェニルの製造方法に存する。本発明の第5の要旨は、第1乃至第4の何れか1つの要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記アダクト体が、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体である、炭酸ジフェニルの製造方法に存する。
また、本発明の第6の要旨は、炭酸ジフェニルの製造方法であって、下記第1〜3工程をこの順に有することを特徴とする、炭酸ジフェニルの製造方法に存する。第1工程:第1乃至第5の何れか1つの要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法により炭酸ジフェニルを製造する工程。第2工程:第1工程で製造された炭酸ジフェニルと、前記アダクト体及び/又は前記アダクト体が分解されて生じたアダクト体分解物を含む触媒液とを分離する工程。第3工程:前記触媒液の少なくとも一部を第1工程に供給する工程。
本発明の第7の要旨は、第6の要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記第2工程で分離された触媒液から前記炭酸ジフェニルより高沸点である化合物を除去した液、および非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体を、前記第3工程で第1工程に供給することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法に存する。
そして、本発明の第8の要旨は、テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体の製造方法であって、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素を極性有機溶媒に溶解させた後、晶析することにより、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体を得ることを特徴とする、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体の製造方法に存する。
本発明の第9の要旨は、テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体であって、前記テトラアリールホスホニウムハライドがベンジルプロトンを有していない非対称テトラアリールホスホニウムハライドであることを特徴とする、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体に存する。
本発明の第10の要旨は、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応による炭酸ジフェニル製造用触媒であって、前記触媒がベンジルプロトンを有していない非対称テトラアリールホスホニウムハライドと、ハロゲン化水素とのアダクト体であることを特徴とする、炭酸ジフェニル製造用触媒に存する。
本発明の第11の要旨は、第1乃至第7の何れか1つの要旨に記載の炭酸ジフェニルの製造方法により得られる炭酸ジフェニルに存する。本発明の第12の要旨は、芳香族ジヒドロキシ化合物と第11の要旨に記載の炭酸ジフェニルとをエステル交換触媒の存在下で
重縮合させることにより得られるポリカーボネートに存する。
本発明によれば、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニルの製造方法について、取り扱い易い触媒を用いて、簡便で効率良く、高純度な炭酸ジフェニルを安定して連続的に製造することができる。ここで、この脱カルボニル反応に好適な触媒を、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素を極性有機溶媒に溶解させた後、晶析することにより簡便に得ることができる。また、この高純度な炭酸ジフェニルを原料として用いることにより、高純度なポリカーボネートを得ることができる。
以下、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の炭酸ジフェニルの製造方法では、シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応(以下、「本発明に係る脱カルボニル反応」又は単に「脱カルボニル反応」と言う場合がある。)させることにより炭酸ジフェニルを製造する。
シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応は、以下に示す反応式(1)に従って行われる。
Figure 0006451496
(式中、2つのPhは、各々独立に置換基を有していてもよいフェニル基である。)
[シュウ酸ジフェニル]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法において、シュウ酸ジフェニル(以下、「本発明に係るシュウ酸ジフェニル」又は単に「シュウ酸ジフェニル」と言う場合がある)は、炭酸ジフェニル(以下、「本発明に係る炭酸ジフェニル」又は単に「炭酸ジフェニル」と言う場合がある)の原料である。また、本発明に係るシュウ酸ジフェニルを原料として得られる、本発明に係る炭酸ジフェニルは、熱的に安定でポリカーボネートの原料として好適である。
シュウ酸ジフェニルが有するフェニル基が有していても良い置換基としては、本発明の優れた効果を大幅に妨げなければ特に限定されない。但し、得られた炭酸ジフェニルをポリカーボネート製造に用いる場合は、ポリカーボネート製造に生じる副生物の沸点が低く、蒸留除去しやすいことが好ましい。そこで、具体的には、メチル基、エチル基等の炭素数1〜12のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子及び芳香環基などが好ましい。なお、置換基としてのアルキル基は、フェニル基にアルキル基が置換基として結合した場合を言う。
置換基を有するフェニル基は、置換基の位置により各種の異性体が存在するが、いずれであっても良い。例えば、2−,3−または4−メチルフェニル基、2−,3−または4−エチルフェニル基等の炭素数1〜12のアルキル基を有する2−,3−または4−アルキルフェニル基;2−,3−または4−メトキシフェニル基、2−,3−または4−エトキシフェニル基等の炭素数1〜12のアルコキシ基を有する2−,3−または4−アルコキシフェニル基;2−,3−または4−ニトロフェニル基;2−,3−または4−フルオ
ロフェニル基、2−,3−または4−クロロフェニル基等のハロゲン原子を有する2−,3−または4−ハロフェニル基などが挙げられるが、これらのいずれであっても良い。
これらのうち、特に得られた炭酸ジフェニルをポリカーボネート製造に用いる場合などは、無置換のフェニル基が好ましい。
シュウ酸ジフェニルは、下記反応式(2)で示すようにシュウ酸ジアルキルと芳香族ヒドロキシ化合物とのエステル交換反応で製造したものなどを用いることができる。ここで、原料となるシュウ酸ジアルキルは、下記反応式(3)で示すように、一酸化炭素、酸素及び脂肪族アルコールを原料とする酸化カルボニル化反応で製造したものなどを用いることができる。
Figure 0006451496
(式中、Rはアルキル基を示し、Arは芳香環基を示す。)
Figure 0006451496
(式中、Rはアルキル基を示す。)
[脱カルボニル触媒]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法において用いる触媒は、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体として供給される。ここで、触媒は、通常、反応器に供給される。なお、該非対称テトラアリールホスホニウムハライドを「本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライド」と、該ハロゲン化水素を「本発明に係るハロゲン化水素」と、該アダクト体を「本発明に係るアダクト体」又は単に「アダクト体」と各々言う場合がある。
本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、以下の一般式(4)で表される化合物である。
Figure 0006451496
(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は、各々独立に置換基を有していても良い芳香環基、を表し、Xは、ハロゲン原子を表す。)
Ar〜Arの芳香環基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜14の芳香族炭化水素基及びチエニル基、フリル基、ピリジル基等のイオウ原子、酸素原子又は窒素原子を含有する炭素数4〜16の芳香族複素環基などが挙げられる。これらのうち安価に触媒を製造できることから芳香族炭化水素基が好ましく、フェニル基が更に好ましい。
Ar〜Arは、各種異性体を含み、各芳香環基は置換基を1つ以上有していてもよい。該置換基としては、例えば、アルキル基(好ましくは炭素数1〜12)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12)、チオアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12)、アラルキルオキシ基(好ましくは炭素数7〜13)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜16)、チオアリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜16)、アシル基(好ましくは炭素数1〜12)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜16)、カルボキシル基、アミノ基、アルキル置換アミノ基(好ましくは炭素数2〜16)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素等)等が挙げられる。また、これらの置換基は、更に置換基を有していてもよく、その置換基としては、芳香環基やハロゲン原子などが挙げられる。これらのうち、熱的に安定であることからアルキル基が好ましく、炭素数1〜12のアルキル基がより好ましく、炭素数3〜8の分岐したアルキル基が更に好ましい。また、該置換基は、本発明に係るアダクト体が熱的に安定となり、本発明の脱カルボニル反応用触媒として用いた場合に分解し難いことから、ベンジルプロトンを有さないことが好ましい。すなわち、該置換基は、炭素数3〜8のベンジルプロトンを有さないアルキル基が特に好ましく、t−ブチル基が最も好ましい。
なお、Ar〜Arが置換基を有する芳香環基である場合には、各種異性体が存在するが、Ar〜Arはその何れであっても良い。これらの異性体としては、例えば、Ar〜Arが置換基を有するフェニル基である場合、2−(又は3−、4−)メチルフェニル基、2−(又は3−、4−)エチルフェニル基、2,3−(又は3,4−)ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル基等の炭素数1〜12のアルキル基又はハロゲン化アルキル基がフェニル基に結合しているアルキルフェニル基;3−メトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基等の炭素数1〜12のアルコキシ基がフェニル基に結合しているアルコキシフェニル基;2−(又は3−、4−)ニトロフェニル基;3−(又は4−)クロロフェニル基、3−フルオロフェニル基等のハロゲン原子がフェニル基に結合しているハロフェニル基などが挙げられる。
Ar〜Arは、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良い。
本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドにおいては、Ar〜Arの少なくとも何れか1つの基は、他の3つの基の少なくとも何れかと異なる基である。ここで、異なる基とは、置換基の有無、種類、置換位置が異なるものも含めて、何れかが異なる基同士のことを言う。そして、本発明においては、このようにAr〜Arの何れか1つの基が他の3つの基の少なくとも何れかと異なる基であることを「非対称」であると言う。本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、Ar〜Arの何れか1つの基が他の3つの基の少なくとも何れかと異なる基であることにより、溶解性に優れる。
Ar〜Arの残りの3つの基は互いに同一であっても異なっていてもよい。本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドとしては、熱的に安定となりやすいことからAr〜Arが何れも芳香環基であることが好ましく、Ar〜Arの何れか1つが置換基を有する芳香環基で残りの3つの基が無置換の芳香環基であることが更に好
ましく、Ar〜Arの少なくとも何れか1つが置換基を有するアリール基で残りの基が無置換のアリール基であることが特に好ましく、Ar〜Arの何れか1つが置換基を有するフェニル基で残りの3つの基が無置換のフェニル基であることが最も好ましい。
一般式(4)のハロゲン原子Xは、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子である。これらのうち、本発明に係る脱カルボニル反応において、高活性な触媒として作用しやすいことから塩素原子が好ましい。即ち、本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、非対称テトラフェニルホスホニウムクロライドが好ましく、ベンジルプロトンを有さない非対称テトラフェニルホスホニウムクロライドが更に好ましい。
本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドの好ましい具体的としては、次のような化合物が挙げられる。即ち、Ar〜Arが何れも無置換の芳香族炭化水素基としては、p−ビフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、1−ナフチルトリフェニルホスホニウムクロライド、2−ナフチルトリフェニルホスホニウムクロライドなどが挙げられる。Ar〜Arが無置換の芳香族炭化水素基又は置換基を有する芳香族炭化水素基である有機ホスホニウムクロライドとしては、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、m−トリフルオロメチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のベンジルプロトンを有さずアルキル基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;p−クロロフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のハロゲン原子を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;m−メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−メトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−エトキシフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のアルコキシ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;p−アミノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のアミノ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物;m−シアノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、p−シアノフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド等のシアノ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物及びp−ニトロフェニル−トリ−p−トリルホスホニウムクロライド等のニトロ基を有する芳香族炭化水素基を有する化合物などが挙げられる。これらのうち、本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドが特に好ましい。
本発明に係るハロゲン化水素としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素が挙げられる。本発明に係るハロゲン化水素のハロゲンは、脱カルボニル反応用触媒に用いた場合などにハロゲンの種類が増えると副生物の種類が増えて反応系が煩雑になりやすいことから、上記の本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドのハロゲンと同じハロゲンが好ましい。すなわち、本発明に係るハロゲン化水素は、塩化水素が好ましく、本発明に係るアダクト体は、非対称テトラフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体が好ましく、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体が特に好ましい。
なお、アダクト体とは、通常、付加物結晶を意味する用語として使用されている。本発明に係るアダクト体は、通常、非対称テトラアリールホスホニウムハライドにハロゲン化水素が付加している固体やこれが融解したものや溶解されたものなども本発明に係るアダクト体に含まれる。本発明に係るアダクト体は、通常、非対称テトラアリールホスホニウムハライド1モルに対し、ハロゲン化水素が0.01〜1.0モル付加している。すなわち、本発明に係るアダクト体は、通常、モル比で、非対称テトラアリールホスホニウムハライド100に対し、ハロゲン化水素が1〜100%付加している。
なお、本発明に係るアダクト体の製法、粒径及び吸湿性などについては、後述する。
本発明に係るアダクト体の種類は、元素分析法、質量分析法、核磁気共鳴スペクトル法及び液体クロマトグラフィーなどの公知の方法により分析できる。具体的には、例えば、
4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの場合、元素分析法、質量分析法及び核磁気共鳴スペクトルにより分析することによって、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドであることが確認できる。また、この4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドであることが確認された物質の液体クロマトグラムを測定しておくことによって、液体クロマトグラフィーにより、より簡便に確認することができる。4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体については、先ず、上記のようにして、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドが含まれていることを確認し、次いで、アダクト体に含まれる塩素濃度を測定することにより、塩化水素とのアダクト体であること及びそのアダクト率を算出することができる。
本発明に係るアダクト体は、炭酸ジエステルに可溶であることが好ましい。その理由は、本発明の炭酸ジエステルの製造方法において、炭酸ジエステルに可溶な触媒を用いることにより、触媒の析出を起こすことなく安定的に高転化率で脱カルボニル反応を行い、残存シュウ酸ジエステル量を減らすことが可能となるからである。本発明において、炭酸ジエステルに可溶であるとは、150℃において炭酸ジエステル100gに対し、触媒が通常10g以上溶解することを言い、好ましくは50g以上溶解することを言う。なお、溶解度は高いほど好ましいが、通常同上限は1000gである。炭酸ジエステルに可溶な触媒は、本発明に係るアダクト体の炭酸ジエステルに対する溶解度を測定することにより簡単に選ぶことができる。
本発明に係るアダクト体は、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法において脱カルボニル反応の反応液に溶解すると共に、ハロゲン化水素が遊離して、非対称テトラアリールホスホニウムハライドが触媒として機能していると推定される。
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法において、反応器内におけるアダクト体及び/又は前記該アダクト体が分解されて生じた非対称テトラアリールホスホニウムハライドの量は、生産効率及び反応速度が速くなりやすい点では多いことが好ましいが、製造コスト及び炭酸ジフェニルの精製過程で触媒が析出し難い点では少ないことが好ましい。そこで、具体的には、合計で1.0重量%以上であることが好ましく、2.0重量%以上であることが更に好ましく、3.0重量%以上であることが特に好ましく、また、一方で、15重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることが更に好ましく、8重量%以下であることが更に好ましい。
また、アダクト体又は(該アダクト体が分解されて生じた)非対称テトラアリールホスホニウムハライドの合計量は、シュウ酸ジエステル1モルに対し、0.001モル以上用いることが好ましく、0.01モル以上用いることが更に好ましく、また、一方、1モル以下用いることが好ましく、0.5モル以下用いることが更に好ましい。
反応器内におけるシュウ酸ジフェニルと炭酸ジフェニルの合計モル量100モルに対し、アダクト体又は(該アダクト体が分解されて生じた)非対称テトラアリールホスホニウムハライドの合計で0.001モル以上であることが好ましく、0.1モル以上であることが更に好ましく、また、一方で、50モル以下であることが好ましく、20モル以下であることが更に好ましい。なお、アダクト体は、1種類を単独で用いても、複数種を任意の比率及び組み合わせで用いても良く、複数種用いる場合における上記の好ましい使用量は、その合計量を表す。
また、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法において、反応器に供給されるシュウ酸ジフェニルとアダクト体の相対量は、反応器中におけるシュウ酸ジフェニル及びアダクト体の量が上記の好ましい範囲となりやすいことから、シュウ酸ジフェニル100モルに対し、アダクト体を0.1モル以上とすることが好ましく、1モル以上とすることが更に好ましく、また、一方、50モル以下とすることが好ましく、20モル以下とすることが更に好
ましい。
[ハロゲン化合物]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、脱カルボニル反応を高選択率で維持しやすいことから、脱カルボニル触媒と共にハロゲン化合物(以下「本発明に係るハロゲン化合物」と言う場合がある)を用いることが好ましい。
本発明に係るハロゲン化合物としては、下記の無機ハロゲン化合物及び/又は有機ハロゲン化合物などが挙げられる。これらのハロゲン化合物の中では、塩素化合物が好ましい。ハロゲン化合物は、アダクト体に対してモル比(ハロゲン化合物/アダクト体)が、通常0.0001以上、好ましくは0.001以上、更に好ましくは0.01以上、特に好ましくは0.1以上であり、また、一方で、通常300以下、好ましくは100以下、更に好ましくは3.00以下、特に好ましくは1.00以下であるように用いられるのが良い。なお、ハロゲン化合物は、1種類を単独で用いても、複数種を任意の比率及び組み合わせで用いても良く、複数種用いる場合における上記の好ましい使用量は、その合計量を表す。
無機ハロゲン化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のアルミニウムのハロゲン化物;塩化白金、塩化白金酸、塩化ルテニウム、塩化パラジウム等の白金族金属のハロゲン化物;三塩化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、三臭化リン、五臭化リン、オキシ臭化リン等のリンのハロゲン化物;塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素;塩化チオニル、塩化スルフリル、二塩化イオウ、二塩化二イオウ等のイオウのハロゲン化物;塩素、臭素等のハロゲン単体などが挙げられる。
有機ハロゲン化合物としては、炭素原子と、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子と、水素原子、酸素原子、窒素原子、イオウ原子及びケイ素原子から選ばれる少なくとも1種の原子とから構成される化合物などが挙げられる。このような有機ハロゲン化合物としては、例えば、飽和炭素にハロゲン原子が結合している構造(C−Hal)、カルボニル炭素にハロゲン原子が結合している構造(−CO−Hal)、ケイ素原子にハロゲン原子が結合している構造(−C−Si−Hal)、又はイオウ原子にハロゲン原子が結合している構造(CSO2−Hal)を有する有機ハロゲン化合物が好適に用いられる。但し、H
alは塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を表す。これらの構造は、例えば、一般式(a)、(b)、(c)、(d)としてそれぞれ表される。
Figure 0006451496
(式中、Halは塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子を表し、n1は1〜4の整数、n2は1〜3の整数を表す。)
有機ハロゲン化合物としては、例えば、以下のような化合物が具体的に挙げられる。
一般式(a)で表されるような、飽和炭素にハロゲン原子が結合している構造を有する有機ハロゲン化合物としては、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、塩化ブチル、塩化ドデシル等のハロゲン化アルキルや、塩化ベンジル、ベンゾトリクロリド、塩化トリフェニルメチル、α−ブロモ−o−キシレン等のハロゲン化アラルキルや、β−クロロプロピオニトリル、γ−クロロブチロニトリル等のハロゲン置換脂肪族ニトリルや、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロプロピオン酸等のハロゲン置換脂肪族カルボン酸など
が挙げられる。
一般式(b)で表されるような、カルボニル炭素にハロゲン原子が結合している構造を有する有機ハロゲン化合物としては、塩化アセチル、塩化オキサリル、塩化プロピオニル、塩化ステアロイル、塩化ベンゾイル、2−ナフタレンカルボン酸クロライド、2−チオンフェンカルボン酸クロライド等の酸ハロゲン化物や、クロログリオキシル酸フェニル等のハロゲノグリオキシル酸アリールや、クロロギ酸フェニル等のハロゲノギ酸アリールなどが挙げられる。
一般式(c)で表されるような、ケイ素原子にハロゲン原子が結合している構造を少なくとも1個有する有機ハロゲン化合物としては、ジフェニルジクロロシラン、トリフェニルクロロシラン等のハロゲン化シランなどが挙げられる。
一般式(d)で表されるような、イオウ原子にハロゲン原子が結合している構造を有する有機ハロゲン化合物としては、p−トルエンスルホン酸クロライド、2−ナフタレンスルホン酸クロライド等のハロゲン化スルホニルなどが挙げられる。
これらのうち、ハロゲン化合物由来の副生成物を抑制できることから、無機ハロゲン化合物が好ましく、ハロゲン化水素が更に好ましく、塩化水素が特に好ましい。また、脱カルボニル反応用触媒に用いた場合などにハロゲンの種類が増えると副生物の種類が増えて反応系が煩雑になりやすいことから、本発明に係るハロゲン化合物のハロゲンは、本発明に係るハロゲン化水素のハロゲン及び本発明に係るアダクト体のハロゲンと同じハロゲンであることが好ましい。すなわち、本発明に係るアダクト体が非対称テトラアリールホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体であり、本発明に係るハロゲン化合物が塩化水素であることが特に好ましい。
[脱カルボニル反応]
本発明の炭酸ジエステルの製造方法における脱カルボニル反応(以下、「本発明に係るカルボニル反応」又は単に「脱カルボニル反応」と言う場合がある)は、液相反応で行うことが好ましい。また、炭酸ジエステルに可溶な触媒を用いる場合、触媒は、炭酸ジエステルに溶解させた状態で供給することが好ましく、炭酸ジエステルに溶解させた状態で反応器に供給することが更に好ましく、反応後の反応液に含まれる触媒を炭酸ジエステルに溶解された状態のまま再利用することが特に好ましい。
脱カルボニル反応の反応温度は、反応速度の点では高温であることが好ましいが、炭酸ジフェニルの純度の点では低温であることが好ましい。そこで、常圧の場合、反応温度は、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上が好ましい。また、一方で、通常450℃以下、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下、更に好ましくはシュウ酸ジエステルの沸点以下が良く、具体的には、340℃以下が好ましく、320℃以下が特に好ましく、300℃以下が最も好ましい。
反応時の圧力は、プロセス上の要件から決めればよい。
脱カルボニル反応は、バッチ反応でも連続反応でもよいが、工業的には、連続反応が好ましく、高転化率としやすいことから連続多段反応で行うことが更に好ましい。連続反応の一般的な方法については、特開平10−109962号公報、特開平10−109963号公報及び特開2006−89416号公報等などに記載の方法などを用いることができる。
脱カルボニル反応は、反応に用いる物質の融点以上の温度で反応を行う場合は、溶媒を用いる必要はないが、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジメチルイミダゾリドン等の非プロトン性極性溶媒、炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等を適宜使用することもでき
る。
反応器の材質は、本発明の係る脱カルボニル反応により炭酸ジフェニルを生成させることができれば特に制限はないが、副反応でフェノールが生成する場合があるので、耐酸性材質の金属製容器やグラスライニング製容器が好ましい。反応器の形式は、本発明に係る脱カルボニル反応により炭酸ジフェニルを生成させることができれば、どのような形式の反応器でも使用することが可能である。このような反応器としては、例えば1槽または多槽式の完全混合型反応器(攪拌槽)、塔型反応器などを用いることができる。
[炭酸ジフェニルの精製]
上記カルボニル反応により、原料シュウ酸ジフェニルに対応する炭酸ジフェニルを生成させることができる。脱カルボニル反応後の反応液には、炭酸ジフェニル及び脱カルボニル触媒、及び未反応シュウ酸ジフェニルが含まれている。また、この他に、シュウ酸ジフェニル、炭酸ジフェニル、脱カルボニル触媒等の転位、分解、反応等により生じた副生物なども含まれている可能性がある。副生物としては、例えば、フェノール、フェニル4−クロロ安息香酸などが挙げられる。また、前述のハロゲン化合物を用いた場合は、該ハロゲン化合物又はその副生物が含まれている可能性もある。そこで、上記カルボニル反応により得られた炭酸ジフェニルは、用途に応じた純度や形態とするために適宜精製される。但し、本発明に係る脱カルボニル反応は、本発明に係るアダクト体を触媒として用いているため、反応液に含まれるフェノール量が少ないと考えられる。その理由は、後述するとおり、アダクト体は吸湿性が低いため、加水分解によるフェノールの副生が起こりにくいことが考えられる。なお、フェノールは、本発明に係る脱カルボニル反応の阻害要因となるため、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、簡便な方法で効率良く、高純度な炭酸ジフェニルを得ることができる。
なお、脱カルボニル反応で副生する一酸化炭素は、反応液から自然に気液分離され、排出させることが好ましい。また、一酸化炭素は、亜硝酸エステルと一酸化炭素からシュウ酸ジフェニルを製造する場合の原料として再利用することも可能である。(例えば、特開
平10−152457号公報などに記載の方法を参照)。ここで、一酸化炭素にフェノー
ル、二酸化炭素、ハロゲン化水素などの不純物が含まれる場合は、吸収塔やスクラバーなどの精製装置を通した後に、シュウ酸ジフェニルの原料などに利用することが好ましい。本発明の炭酸ジフェニルの製造方法としては、特に以下の第1〜3工程をこの順に有する方法が好ましい。
第1工程:上記の本発明に係る脱カルボニル反応により炭酸ジフェニルを製造する工程、第2工程:第1工程で製造された炭酸ジフェニルと、アダクト体及び/又はアダクト体が分解されて生じたアダクト体分解物を含む触媒液とを分離する工程、
第3工程:第2工程で分離された触媒液の少なくとも一部を第1工程に供給する工程。
第2工程においては、第1工程で製造された炭酸ジフェニルと、アダクト体及び/又はアダクト体分解物を含む触媒液とを分離する。第2工程における分離は、蒸留、抽出、晶析などの公知の方法で行うことができる。本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドや本発明に係るアダクト体は通常高沸点であるので、第2工程における分離は、炭酸ジフェニルを蒸留により分離する方法が簡便で好ましい。すなわち、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、脱カルボニル反応後の反応液に含まれる炭酸ジフェニルを蒸発させて取り出すことにより、アダクト体及び/又はアダクト体分解物を含む触媒液とに分離することが好ましい。なお、脱カルボニル反応後の反応液にシュウ酸ジフェニルや炭酸ジフェニルのフリース転位化合物などの高沸点物質が含まれている場合は、これらも、アダクト体及び/又はアダクト体分解物を含む触媒液に含まれた状態となる。
炭酸ジフェニルの蒸留分離は、脱カルボニル反応を行った反応器内で行っても良いし、反応液を蒸発装置に移して行っても良い。蒸発装置(蒸発方法)については、上記の目的
を達成することができれば特に限定されることはない。蒸発装置としては、例えば、流下膜式蒸発器、薄膜式蒸発器などを用いて行うことが短時間に分離しやすいことから好ましい。また、反応器内で蒸発させる場合は、突沸が起こり難いように攪拌しながら、徐々に減圧しながら蒸発させることが好ましい。分離に要する時間は、伝熱効率や分離容器の形状にも影響されるが、不純物の副生が起こり難い点から短時間で行うことが好ましく、20時間以下が好ましく、15時間以下が更に好ましく、10時間以下が特に好ましい。
蒸発は、不純物の副生が起こり難い点から低温で低圧力で行うことが好ましい。圧力は、減圧下で蒸発させることが好ましく、具体的には、圧力は、0.1kPaA以上が好ましく、0.2kPaA以上が更に好ましく、一方、50kPaA以下が好ましく、20kPaA以下が更に好ましい。そして、温度は、脱カルボニル反応における反応温度以下で行うことが好ましい。具体的には、通常100℃以上、特に160℃以上、とりわけ180℃以上、また通常450℃以下、特に400℃以下、とりわけ350℃以下が好ましい。
上記の好ましい条件で蒸留を行った場合、蒸発させた留分には、炭酸ジフェニルが通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは97重量%以上、特に好ましくは98重量%以上含まれている。また、同上限は、通常100重量%である。この留分にシュウ酸ジフェニルを含む場合は、通常0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上であり、また、一方で、通常3重量%以下、好ましくは2重量%以下、更に好ましくは1重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。但し、0重量%が最も好ましい。これら以外の成分としては、フェノールなどが含まれる場合があるが、その場合の含有量は、通常1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.3重量%以下である。
蒸発させた炭酸ジフェニルは、そのままポリカーボネート製造等の用途に用いても良いが、必要な純度などに応じて、更に精製を行っても良い。また、上記炭酸ジエステルの蒸発を蒸留により行い、炭酸ジエステルより高沸点である成分を塔底側から、炭酸ジエステルを中段から、炭酸ジエステルより低沸点である成分を塔頂側から各々抜き出すことにより高純度な炭酸ジエステルを得ても良い。
更に精製する場合は、蒸留や吸着などにより行うことができる。
具体的には、5〜50段の理論段を有する棚段塔あるいは充填塔などの蒸発装置を用いて蒸留精製することが好ましい。
[脱カルボニル触媒の回収]
第3工程では、第2工程で得られた触媒液の少なくとも一部を第1工程の反応器に供給する。このようにして、脱カルボニル触媒を再利用することができる。
第3工程では、反応系内における高沸点化合物の蓄積を防ぐ観点より、第2工程で得られた触媒液から炭酸ジフェニルより高沸点である化合物を除去した液を第1工程の反応器に供給することが好ましい。この工程により除かれる成分としては、シュウ酸ジフェニル(1気圧における沸点334℃)や4−ヒドロキシ安息香酸フェニル(1気圧においてシュウ酸ジフェニルより高沸点)などの高沸点物質が挙げられる。高沸点化合物の除去は、蒸留、抽出、晶析など公知の方法でできる。具体的には、例えば、特開2002−45704号公報に記載の方法などで分離することができる。
また、この高沸点化合物の除去に伴い本発明に係るアダクト体やアダクト体分解物の一部も除去されてしまうことなどにより、本発明に係るアダクト体の全量が再利用されないことが起こり得る。そこで、脱カルボニル触媒の量が上述の好ましい範囲となるよう触媒量を調整することが好ましい。触媒量の調整は、第2工程において除去されたアダクト体及び/又はアダクト体分解物である非対称テトラアリールホスホニウムハライドの合計モ
ル量と同程度のモル量のアダクト体を、第2工程で得られた触媒液から高沸点化合物を除いた液と共に第1工程の反応器に供給することにより行うことが好ましい。ここで、同程度のモル量は、第2工程において除去されたアダクト体及び/又はアダクト体分解物である非対称テトラアリールホスホニウムハライドの合計量1モルに対して、0.7モル以上であることが好ましく、0.8モル以上であることが更に好ましく、0.9モル以上であることが特に好ましく、また、一方で、2モル以下であることが好ましく、1.4モル以下であることが更に好ましく、1.1モル以下であることが特に好ましい。
[炭酸ジフェニル]
本発明の炭酸ジフェニルの製造方法においては、本発明に係るアダクト体を触媒として用いて脱カルボニル反応を行っているため、副生フェノールによる脱カルボニル反応の阻害が起こり難く、高純度な炭酸ジフェニルを得ることができる。そこで、上述の本発明の炭酸ジフェニルの製造方法により得られる炭酸ジフェニルの純度は、通常99.0重量%
以上、好ましくは99.3重量%以上、更に好ましくは99.5重量%以上である。不純物が含まれる場合は、イオン性の塩素などが含まれる場合があるが、その場合の含有量は、通常0.0001重量%以下、好ましくは0.00001重量%以下、更に好ましくは0.000001重量%以下である。
[ポリカーボネートの製造方法]
本発明で製造される炭酸ジフェニルの用途のひとつであるポリカーボネートは、上述の方法により製造された炭酸ジフェニルと、ビスフェノールAに代表される芳香族もしくは脂肪族ジヒドロキシ化合物とを、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させることで製造できる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に炭酸ジフェニルとビスフェノールAを原料とした一例を説明する。
上記のポリカーボネートの製造方法において、炭酸ジフェニルは、ビスフェノールAに対して過剰量用いることが好ましい。ビスフェノールAに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネートに末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネートを製造し易い点では少ないことが好ましい。具体的には、例えば、ビスフェノールA1モルに対して、通常1.001モル以上、好ましくは1.02モル以上、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下用いることが好ましい。
原料の供給方法としては、ビスフェノールAおよび炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方または両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
炭酸ジフェニルとビスフェノールAとのエステル交換反応でポリカーボネートを製造する際には、通常、触媒が使用される。上記のポリカーボネートの製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物が望ましい。
触媒は、ビスフェノールAまたは炭酸ジフェニル1モルに対して、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上、また一方で、通常5μモル以下、好ましくは4μモル以下、さらに好ましくは2μモル以下の範囲で用いられる。
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成型時の流動性に優れるポリカーボネートを得やすい。
アルカリ金属化合物としては、セシウム化合物が好ましい。好ましいセシウム化合物は、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムである。
上記方法によりポリカーボネートを製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネートの製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
[ポリカーボネート]
上述のように本発明の製造方法により得られる炭酸ジフェニルは非常に高純度であることから、本発明の製造方法により得られる炭酸ジフェニルと芳香族ジヒドロキシ化合物とをエステル交換触媒の存在下で重縮合させることにより高純度なポリカーボネートを得ることができる。
特に、本発明の炭酸ジフェニルの製造方法により、副生フェノールが少ない高純度な炭酸ジフェニルを得ることができることから、これを用いて高品質なポリカーボネートを得ることができる。
[非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体]
テトラアリールホスホニウムハライドは、例えば、特開平9−328492号に記載されているように、トリアリールホスフィンとハロゲン化アリールを、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒の存在下で反応させることにより得ることができる。そして、特開2013−82695号には、ハロゲン化アリール、金属ハロゲン化合物触媒及び水溶性高沸点溶媒を含む液に、トリアリールホスフィンを分割又は連続的に添加することより非対称テトラアリールホスホニウムハライドを高収率、高選択率で製造できることが記載されている。また、特開2013−82695号には、このようにして得た非対称テトラアリールホスホニウムブロマイドをクロライドに変換することが記載されている。
本発明者は、このようにして得られた非対称テトラアリールホスホニウムハライドを触媒として用いた脱カルボニル反応について詳細に検討を行った。この結果、上記のようにして得られた非対称テトラフェニルホスホニウムハライドの代わりにアダクト体を触媒に用いて脱カルボニル反応を行うと、副生フェノール量を少なくできることが判明した。その理由としては、後述するとおり、アダクト体は吸湿性が低いため、加水分解によるフェノールの副生が起こり難いことが考えられる。すなわち、非対称テトラアリールホスホニウムハライドは対称性の低い構造であるため、結晶性が低く、微粉となり飛散しやすい。また、吸湿性が高い非対称テトラアリールホスホニウムハライドを触媒として用いると、触媒と共に反応系に供給されてしまう水分により、炭酸ジフェニルやシュウ酸ジフェニルの加水分解でフェノールが生成してしまったと考えられる。これに対し、本発明に係るアダクト体は、比較的大粒径であるため、吸湿性が低く、炭酸ジフェニルやシュウ酸ジフェニルの加水分解によるフェノールの副生が起こり難いと考えられる。
本発明に係るアダクト体は、粒径が大きく、吸湿性が低いことにより、飛散し難く、取り扱いやすい固体となりやすい。このため、これを脱カルボニル反応の触媒として用いると、触媒を短時間で、吸湿される前に反応器に入れることができ、フェノールの副生が少なくなり、シュウ酸ジフェニルから高転化率で、高選択率に高純度な炭酸ジフェニルを容易に得ることができる。本発明に係るアダクト体の粒径は、具体的には、50μm以上であるものが好ましく、60μm以上であるものが更に好ましく、80μm以上であるものが更に好ましく、100μm以上であるものが特に好ましい。また、本発明に係るアダクト体の粒径の上限は、通常1mmである。なお、本発明に係るアダクト体の粒径は、メチルイソブチルケトンを分散媒として、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装
置「MT3300EXII」を用いて測定したメジアン径(D50)として得ることができる。また、本発明に係るアダクト体の吸湿性は、気温15〜20℃、湿度40〜45%の大気下で、所定の含水率から所定の含水率に吸湿されるまでに要する時間を比較することにより評価することができる。具体的には、例えば、20gのアダクト体について、含水率を0.2重量から0.5重量%に上げるのに必要な時間で評価することができる。ここで、含水率の測定は、テトラアリールホスホニウムハライドを水分計(京都電子工業社製「MKS−500」)を用いて測定することができる。
本発明に係るアダクト体の種類は、上述したとおり、元素分析法、質量分析法、核磁気共鳴スペクトル法及び液体クロマトグラフィーなどの公知の方法により分析できる。
液体クロマトグラフィーによる組成分析は、以下の手順と条件で行うことができる。
装置:島津製作所社製LC−2010A、Imtakt Cadenza 3mm CD−C18 250mm×4.6mmID。低圧グラジェント法。分析温度30℃。カラムは島津製作所製「ODS3VID」を用いた。溶離液組成:A液 アセトニトリル:水=7.2:1.0重量%/重量%、B液0.5重量%リン酸二水素ナトリウム水溶液。分析時
間0分〜12分。A液:B液=65:35(体積比、以下同様。)。分析時間12〜35分は溶離液組成をA液:B液=92:8へ徐々に変化させ、分析時間35〜40分はA液:B液=92:8に維持、流速1ミリリットル/分)。
また、塩素濃度は、超純水で塩素濃度が1重量ppb未満になるまで洗浄及び抽出したトルエンに、測定対象の液を溶解させて均一溶液とした後、超純水を加えて十分に撹拌して得られた水相について、イオンクロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で測定することができる。
装置:DIONEX社製ION CROMATOGRAPH、IonPac AS12A。溶離液は、超純水に炭酸ナトリウムを2.7ミリモル・dm−3となるように、炭酸水素ナトリウムを0.3ミリモル・dm−3に添加した液を使用する。
[本発明に係るアダクト体の製造方法]
本発明に係るアダクト体は、上記のような公知の方法で製造された非対称テトラアリールホスホニウムハライドをハロゲン化水素とともに晶析することにより得ることができる。具体的には、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素を極性有機溶媒に溶解させた後、晶析させて取り出すことにより得ることができる。(以下、このアダクト体を得る方法を「本発明に係るアダクト体の製造方法」と言う場合がある)。そして、本発明に係るアダクト体は、この本発明に係るアダクト体の製造方法により得られたアダクト体を用いることが好ましい。
本発明に係るアダクト体の製造方法では、有機溶媒を用いることにより、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを溶解させることができ、また、極性溶媒を用いることによりハロゲン化水素を溶解させることができる。そして、本発明に係るアダクト体の製造方法では、非対称テトラアリールホスホニウムハライドと非対称テトラアリールホスホニウムハライドのハロゲン化水素アダクト体との溶解度差を利用してアダクト体を晶析させて得ることができる。そして、このようにして、粒径が大きく、吸湿性が低いことにより、飛散し難く、取り扱いやすい固体を得ることができる。
本発明に係るアダクト体の製造方法で用いる極性有機溶媒は、非対称テトラアリールホスホニウムハライド及びハロゲン化水素に対して十分な溶解度を有すると共に、アダクト体に対しては不溶性を示す有機溶媒が好ましい。ここで、本発明に係るアダクト体の製造方法において用いるハロゲン化水素は、通常ハロゲン化水素の水溶液として使用する。すなわち、ハロゲン化水素水溶液に対して十分な溶解度を有することを、極性を有すると言う。ハロゲン化水素に対して十分な溶解度を有するとは、通常25℃で有機溶媒100g
にハロゲン化水素が1g以上溶解することを言う。本発明に係るアダクト体の製造方法で用いる極性有機溶媒は、ハロゲン化水素水溶液と高温で均一な状態となる有機溶媒が好ましい。高温とは、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上である。
晶析は、アダクト体を冷却することによって行っても、貧溶媒と接触させることにより行っても良いが、冷却により析出がさせる方法が簡便で好ましい。
アダクト体の製造に用いる極性有機溶媒の好ましい例としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、エステル類などを挙げることができる。
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i‐ペンタノールなどの炭素数1〜5のアルキルアルコール類などを挙げることができる。ケトン類としては、例えば、ジメチルケトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、エチルn−プロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチルn−ブチルケトン、エチルイソブチルケトン等の炭素数1〜10の低級アルキルケトン類およびシクロヘキサノン、シクロペンタノン等の炭素数3〜10の環状ケトン類などを挙げることができる。エーテル類としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルn−プロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、メチルn−ブチルエーテル、メチルイソブチルエーテル、メチルn−ペンチルエーテル、メチルイソペンチルエーテル、エチルn−プロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、エチルn−ブチルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン等の炭素数2〜10の低級アルキルエーテル類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類及びジフェニルエーテル等のジアリールエーテル類等を挙げることができる。ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、1−クロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1,2−ジクロロプロパン、1,1−ジクロロプロパン、2,2−ジクロロプロパン等の炭素数1〜6のハロゲン化炭化水素類等を挙げることができる。エステル類としては、例えば、アルキルギ酸エステル、アルキル酢酸エステル、アルキルプロピオン酸エステル等の低級脂肪族カルボン酸エステル;ジメチル炭酸エステル、ジエチル炭酸エステル、メチルエチル炭酸エステル、ジブチル炭酸エステル等のアルキル炭酸ジエステル;ジメチルシュウ酸エステル、ジエチルシュウ酸エステル等のシュウ酸ジエステル;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコール酢酸エステル及びエチレングリコールの脂肪酸エステル等の酢酸エステル等を挙げることができる。
これらのうち、本発明のアダクト体の製造方法に係る極性有機溶媒としては、メチルイソプロピルケトン及びメチルイソブチルケトンのように構造が非対称であり、アルキル基の合計炭素数が3〜15であるアルキルケトン類が好ましく、アルキル基の合計炭素数が3〜10であるアルキルケトン類が更に好ましい。
また、本発明に係るアダクト体の製造方法においては、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとのアダクト体となるハロゲン化水素は、通常ハロゲン化水素の水溶液として使用する。すなわち、本発明に係るアダクト体は、ハロゲン化水素の水溶液と接触している液体状態の非対称テトラアリールホスホニウムハライドを晶析させて取り出すことにより得られる。具体的には、例えば、塩化水素とのアダクト体を得る場合は塩酸(塩化水素水溶液)を、臭化水素とのアダクト体を得る場合は臭化水素酸(臭化水素水溶液)を、ヨウ化水素とのアダクトを得る場合はヨウ化水素酸(ヨウ化水素水溶液)を各々用いることにより得ることができる。ハロゲン化水素の水溶液としては、これらのうち、塩酸が特に好ましい。
次に本発明に係るアダクト体の製造方法を実施する手順について好ましい一例を挙げて説明する。
先ず、非対称テトラアリールホスホニウムハライドと極性有機溶媒及びハロゲン化水素酸とを接触させる。
ここで、極性有機溶媒の量は、昇温させたときに非対称テトラアリールホスホニムハライドが溶解しやすい点では多いことが好ましいが、降温させたときにアダクト体が析出しやすい点では少ないことが好ましい。そこで、極性有機溶媒の量は、非対称テトラアリールホスホニウムハライドに対し、重量比で0.15倍以上用いることが好ましく、0.2倍以上用いることが更に好ましく、また、一方で、2倍以下用いることが好ましく、1倍以下用いることが更に好ましい。
また、ハロゲン化水素酸に含まれるハロゲン化水素の量は、アダクト体の生成率が高くなりやすい点では多いことが好ましいが、ハロゲン化水素酸に含まれる水が少なく、降温させたときに非対称テトラアリールホスホニウムハライドが析出しやすい点では少ないことが好ましい。そこで、ハロゲン化水素酸に含まれるハロゲン化水素の量は、非対称テトラアリールホスホニウムハライドに対し、重量比で0.5倍以上用いることが好ましく、また、一方で2.0倍以下用いることが好ましく、1.5倍以下用いることが更に好ましい。
極性有機溶媒に対する水の相対量は、昇温させたときに非対称テトラアリールホスホニムハライドが溶解しやすく、降温させたときにアダクト体が析出しやすいことから、2倍以上であることが好ましいが、また、一方で、20倍以下であることが好ましく、15倍以下であることが更に好ましい。
次に、この液を昇温することにより非対称テトラホスホニウムハライドを溶解させる。溶解させるまでの間は、液を撹拌することが好ましい。昇温後の液温は、液組成により好ましい温度が若干異なるが、非対称テトラホスホニウムハライドを短時間で溶解させやすい点では高温が好ましいが、沸騰が起こり難い点では低温が好ましい。特に、メチルイソブチルケトンのように水と共沸しやすい極性有機溶媒を用いる場合は、低めに設定することが好ましい。そこで、50℃以上が好ましく、60℃以上が更に好ましく、また、一方、95℃以下が好ましく、90℃以下が更に好ましい。
そして、非対称テトラアリールホスホニウムハライドが溶解した溶液を冷却することにより、非対称テトラアリールホスホニウムハライドとハロゲン化水素とのアダクト体を析出させることができる。アダクト体を析出させるときの温度は、溶液自体の固化が起こり難い点では高温が好ましいが、アダクト体の収率の点では低温が好ましい。そこで、通常5℃以上が好ましく、10℃以上が更に好ましく、20℃以上が特に好ましく、また、一方で、70℃以下が好ましく、60℃以下が更に好ましい。
昇温させた状態からアダクト体が析出してくるまでの降温速度は、小さい設備で短時間に析出させられる点では速いことが好ましいが、吸湿性が低く、飛散し難い取り扱い易い大きな結晶を析出させ易い点では遅いことが好ましい。そこで、降温速度は、毎分0.1〜2℃が好ましい。
有機ホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体については、特開平9−328491号に記載されている方法によっても得ることができる。しかしながら、この文献は、有機ホスホニウムブロマイドから有機ホスホニウムクロライドを製造する方法に関して記載された文献であり、この文献において、有機ホスホニウムハイドロジェンジクロライドは、各種反応の触媒(相間移動触媒、重合触媒、ハロゲン化物のハロゲン交換反応触媒など)として有用な有機ホスホニウムクロライドを得るための単なる中間体として記載されているに過ぎない。また、この文献に記載されている方法は、有機ホスホニウムブロマ
イドを溶解させた塩酸を冷却して、有機ホスホニウムハイドロジェンジクロライドを析出させた後に加熱することにより塩化水素を除去することにより、テトラフェニルホスホニウムハイドロジェンジクロライド(対称テトラアリールホスホニウムと塩化水素とのアダクト体。実施例1)やベンジルトリフェニルホスホニウムハイドロジェンジクロライドとベンジルトリフェニルホスホニウムクロライドの混合物(非対称有機ホスホニウムと塩化水素とのアダクト体を含む混合物。実施例9)などを合成している。ここで、本発明に係る非対称テトラアリールホスホニウムハライドは、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドなどのように親水性の低いものが好ましく、塩酸には溶解しないため、この方法でアダクト体を得ることはできない。なお、この文献に記載されている方法により、本発明に係るアダクト体を得ることができないことは、後述する比較例1に示した通りである。
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
[原料及び試薬]
シュウ酸ジフェニルは、東京化成工業社製1級試薬を単蒸留により精製したものを使用した。
4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドは、特開2013−82695号公報に記載の方法により合成した。
4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドは、特開平11−217393号公報に記載の方法により合成した。この4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド66.67gは、150℃において、炭酸ジフェニル100gに溶解した。
4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドは、特開平8−333307号公報に記載の方法により合成した。
[分析]
組成分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
装置:島津製作所社製LC−2010A、Imtakt Cadenza 3mm CD−C18 250mm×4.6mmID。低圧グラジェント法。分析温度30℃。カラムは島津製作所製「ODS3VID」を用いた。溶離液組成:A液 アセトニトリル:水=7.2:1.0重量%/重量%、B液0.5重量%リン酸二水素ナトリウム水溶液。分析時
間0分〜12分。A液:B液=65:35(体積比、以下同様。)。分析時間12〜35分は溶離液組成をA液:B液=92:8へ徐々に変化させ、分析時間35〜40分はA液:B液=92:8に維持、流速1ミリリットル/分)にて分析した。
ベンゾフラン−2,3−ジオンの定量は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
装置:島津製作所社製LC−2010A、Scherzo SM−C 18、3μm、250mm×4.6mmID。低圧グラジェント法。分析温度40℃。溶離液組成:A液
酢酸:アセトニトリル:水=0.1体積%:10体積%:90体積%、B液 0.2重
量%酢酸アンモニウム水溶液:アセトニトリル=90体積%:10体積%。分析時間0〜20分はA液:B液=60:40で固定(体積比、以下同様。)。分析時間20〜25分は溶離液組成をA液:B液=85:5へ徐々に変化させ、分析時間25〜35分はA液:B液=60:40に維持、流速0.85ミリリットル/分)にて分析した。
4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体およびテトラフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体のアダクト率
は、硝酸銀を用いた電位差滴定装置(京都電子工業社製「AT−610」)を用いて測定した塩素濃度から算出した。
含水率の測定は、テトラアリールホスホニウムハライドをシャーレ上に載せた状態で水分計(京都電子工業社製「MKS−500」)を用いて測定した。乾燥し易さの試験は、試料を100ミリリットルのナス型フラスコに入れ、これを、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付け、オイルバスを100℃に加熱することにより加熱し、圧力10Torr下で、所定の含水率から所定の含水率に乾燥されるまでに要する時間を比較することより行った。また、吸湿性の試験は、気温15〜20℃、湿度40〜45%の大気下で、所定の含水率から所定の含水率に吸湿されるまでに要する時間を比較することより行った。
粒径は、メチルイソブチルケトンを分散媒として、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置「MT3300EXII」を用いて測定したメジアン径(D50)とした。
臭素イオンの定量は、DIONEX社製イオンクロマトグラフィー測定装置「ION CHROMATOGRAPH」を用いて測定した。カラムは、DIONEX社製分離カラム「IonPac AS12A」を用いた。溶離液は、超純水に炭酸ナトリウムを2.7ミリモル・dm―3及び炭酸水素ナトリウムを0.3リモル・dm―3となるように調製した。
塩素濃度の測定は、超純水で塩素濃度が1重量ppb未満になるまで洗浄及び抽出したトルエンに、測定対象の液を溶解させて均一溶液とした後、超純水を加えて十分に撹拌して得られた水相について、イオンクロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
装置:DIONEX社製ION CROMATOGRAPH、IonPac AS12A。溶離液は、超純水に炭酸ナトリウムを2.7ミリモル・dm−3となるように、炭酸水素ナトリウムを0.3ミリモル・dm−3に添加した液を使用した。
[合成例1]
温度計と攪拌機を備えたフルジャケット式500ミリリットルのセパラブルフラスコにテトラフェニルホスホニウムクロライド50g(0.13モル)、28重量%塩酸400gを入れ、窒素雰囲気下で90℃に加熱した。その後、セパラブルフラスコを室温に冷却し、このスラリーをガラスフィルターにより濾過し、得られた固体をナス型フラスコに移した。ナス型フラスコを、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに付け、オイルバスを100℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより42gの固体を得た。この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、17重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、42g×0.17=7g(0.192モル)となる。ここで、この塩素量を固体に含まれるテトラフェニルホスホニウムクロライドに含まれる塩素の量とこれにアダクトしている塩化水素の量の合計量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、該固体に含まれるテトラフェニルホスホニウムの量は42g×(1−0.192)=34g(0.100モル)に、該固体に含まれる塩素の量は0.192モル−0.100モル=0.092モルとなる。そこで、得られた固体が、アダクト率92%のテトラフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体になっていることが確認された。
[実施例1]
温度計と攪拌機を備えたフルジャケット式500ミリリットルのセパラブルフラスコに4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド70g(0.162モル)、メチルイソブチルケトン18g及び28重量%塩酸263gを入れ、窒素雰囲気下で90℃に加熱して均一溶液にした。その後、セパラブルフラスコを室温に冷却することによ
りスラリーを得た。このスラリーをガラスフィルターにより濾過し、得られた固体をナス型フラスコに移した。このナス型フラスコを、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付け、オイルバスを100℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより75gの固体を得た。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、14.6重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、75g×0.146=11g(0.309モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる塩化水素の量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、この固体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は75g×(1−0.146)=64g(0.162モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.309モル−0.162モル=0.147モルとなることから、この固体が、アダクト率91%(0.147モル÷0.162モル×100)の4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、アダクト体の収率は、0.162モル÷0.162×100=100%と算出された。
温度計及び撹拌子を備えた三口フラスコに、シュウ酸ジフェニル300g(1.238モル)を入れ、この三口フラスコを230℃のオイルバスに浸漬させることにより加熱し、シュウ酸ジフェニルを融解させた。この三口フラスコに、上記のようにして得られた4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体(アダクト率91%)20g(0.043モル)を、足の口径が4mmの漏斗を用いて供給した。アダクト体の供給が終了してから30分後に、三口フラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行った。この結果、フェノール0.5重量%、シュウ酸ジフェニル29.5重量%、炭酸ジフェニル54.7重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、71%であった。
テトラフェニルホスホニウムクロライド、合成例1で得られたそのアダクト体、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド及び実施例1で得られたそのアダクト体について、その性状、嵩密度、粒径、乾燥しやすさ(含水率を2重量から0.5重量%に下げるのに必要な乾燥時間)及び吸湿性(含水率を0.2重量から0.5重量%に上げるのに必要な時間)を表1に纏めた。表1から明らかなように、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドを、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体にすることにより、ハンドリングし易くなり、乾燥しやすく、吸湿性を低くできることが明らかになった。
Figure 0006451496
[比較例1]
温度計と攪拌機を備えたフルジャケット式500ミリリットルのセパラブルフラスコに4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド50g(0.116モル)、28重量%塩酸200gを入れ、窒素雰囲気下で90℃に加熱したが均一状態にはならず、スラリー状態となった。その後、セパラブルフラスコを室温に冷却し、このスラリーをガラスフィルターにより濾過し、得られた固体をナス型フラスコに移した。ナス型フラスコを、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに付け、オイルバスを100℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより45gの微粉を得た。この微粉の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、8.0重量%であった。4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの塩素濃度の理論値8.2重量%よりも低いことから、得られた微粉が塩化水素とのアダクト体になっていないことが確認された。また、この微粉は、白色顆粒で、その嵩密度が0.23g・cm、粒径が31μmであった。
次に、微粉を触媒として用いて、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応を実施した。具体的には、実施例1の脱カルボニル反応において、触媒として、この微粉を触媒として用いた以外は実施例1と同様にして、脱カルボニル反応を行った。アダクト体の供給が終了してから30分後に、三口フラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行った。この結果、フェノール1.50重量%、シュウ酸ジフェニル63.2重量%、炭酸ジフェニル24.2重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、36%であった。
[実施例2]
温度計と攪拌機を備えたフルジャケット式500ミリリットルのセパラブルフラスコに4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイド50g(0.105モル)、メチルイソブチルケトン13g及び28重量%塩酸188gを入れた以外は、実施例1
と同様にしてスラリーを得た。このスラリーをガラスフィルターにより濾過して固体を得た。得られた固体をメチルイソブチルケトン13gおよび28重量%塩酸188gと共にセパラブルフラスコに移し、窒素雰囲気下で90℃に加熱することにより均一溶液とした後、セパラブルフラスコを室温に冷却することによりスラリーとし、このスラリーをガラスフィルターにより濾過することにより固体を得た。この固体をメチルイソブチルケトンと塩酸と共に加熱して均一溶液とした後、冷却して得られるスラリーを濾過して固体を得る操作を更に3回繰り返した(4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドを4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドに変換した)。得られた固体をナス型フラスコに移し、ナス型フラスコを、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付け、オイルバスを120℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより35gの固体を得た。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、13.3重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、35g×0.133=4.66g(0.132モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる塩化水素の量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、この固体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は35g×(1−0.133)=30g(0.077モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.132モル−0.077モル=0.055モルとなることから、この固体が、アダクト率71%(0.055モル÷0.077モル×100)の4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、アダクト体の収率は、0.077モル÷0.105モル×100=73%と算出された。
この固体に含まれる臭化物イオンを、DIONEX社製イオンクロマトグラフィー測定装置「ION CHROMATOGRAPH」を用いて測定した結果、0.5モル%以下であった。
[実施例3]
実施例1において、メチルイソブチルケトン18gの代わりに1−ブタノール18gを、28重量%塩酸263gの代わりに35重量%塩酸263gを用いた以外は、実施例1と同様にしてスラリーを得た。このスラリーをガラスフィルターにより濾過して得られた固体をナス型フラスコに移した。ナス型フラスコをオイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付け、オイルバスを130℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより72gの固体を得た。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、11.0重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、72g×0.110=7.9g(0.223モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる塩化水素の量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、この固体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は72g×(1−0.110)=64g(0.162モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.223モル−0.162モル=0.061モルとなることから、この固体が、アダクト率38%(0.061モル÷0.162モル×100)の4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムのアダクト体の収率は、0.162モル÷0.162モル×100=100%と算出された。
[実施例4]
実施例3で得られたアダクト体5g(0.011モル)をナス型フラスコに入れ、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに付け、オイルバスを180℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させた。これを京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−61
0」で分析した結果、アダクト体のアダクト率は2%に低下していた。実施例1〜3及び上記アダクト体について、アダクト率と吸湿性(含水率を0.2重量から0.5重量%に上げるのに必要な時間)を測定した結果を表2に纏めた。表2から明らかなように、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体の吸湿性は、アダクト率が高いほど低くなることが明らかになった。
Figure 0006451496
[実施例5]
温度計、攪拌機、留出管及び受器を備えたフルジャケット式500ミリリットルのセパラブルフラスコに、実施例1で得られた4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体(アダクト率91%)11g(0.024モル)及び炭酸ジフェニル96g(0.0448モル)を入れ、セパラブルフラスコ内を150℃に加熱することによりアダクト体を溶解させた。セパラブルフラスコ内を185℃に加熱し、圧力を2kPaとし3時間乾燥させることにより、水と炭酸ジフェニルを合計20g留出させ、セパラブルフラスコ内を乾燥させた。このセパラブルフラスコにシュウ酸ジフェニル160g(0.661モル)を加え、150℃に加熱することによりシュウ酸ジフェニルを溶解させた。さらに、このセパラブルフラスコに塩化水素ガス0.012モルを吹き込み、225℃に昇温した。なお、225℃に到達した時にセパラブルフラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、フェノール0.2重量%、シュウ酸ジフェニル55.1重量%、炭酸ジフェニル40.0重量%であった。
セパラブルフラスコ内が225℃に達した後、反応で発生した一酸化炭素を常圧下で窒素にて反応系外へ除去しながら、80分間、225℃に保った状態で反応させた。80分間反応させた液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、フェノール0.2重量%、シュウ酸ジフェニル8.5重量%、炭酸ジフェニル84.4重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、88%であった。
[比較例2]
実施例5において、実施例1で得られた4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体11gの代わりに、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド10g(0.024モル)を用いた以外は、実施例5と同様に実験を行った。225℃に到達した時のセパラブルフラスコ内の液の高速液体クロマトグラフィーによる組成分析結果は、フェノール0.4重量%、シュウ酸ジフェニル54.8重量%、炭酸ジフェニル40.1重量%であった。また、80分間反応させた液の高速液体クロマトグラフィーにより組成分析結果は、フェノール0.4重量%、シュウ酸ジフェニル22.2重量%、炭酸ジフェニル72.4重量%であった。ここで、シュウ
酸ジフェニルの転化率は、68%であった。
実施例5及び比較例2の結果を表3に纏めた。表3より、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドは吸湿性が高いために、シュウ酸ジフェニルや炭酸ジフェニルの加水分解によるフェノールの副生量が多くなり、その結果、シュウ酸ジフェニルの転化率が低く、反応活性が低下したことが裏付けられた。
Figure 0006451496
[実施例6]
温度計、攪拌機、留出管及び受器を備えたフルジャケット式500ミリリットルのセパラブルフラスコにシュウ酸ジフェニル300g(1.238モル)を入れた後、150℃に加熱することにより溶解させた。該セパラブルフラスコに、実施例1で得られた4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体(アダクト率91%)15g(0.032モル)を加えて溶解させた後、230℃に昇温した。なお、230℃に到達した時にセパラブルフラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、フェノール0.2重量%、シュウ酸ジフェニル75.5重量%、炭酸ジフェニル18.0重量%であった。
セパラブルフラスコ内が230℃に達した後、反応で発生した一酸化炭素を常圧下で窒素にて反応系外へ除去しながら、6時間、230℃に保った状態で反応させた。6時間反応させた液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、炭酸ジフェニル92.7重量%、フェノール0.2重量%、シュウ酸ジフェニル484.6重量ppm、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド5.0重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は99.9%であった。また、反応後の反応液(組成分析用の試料を抜き出す前)が279gであり、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの分子量が431である。そこで、反応後の反応液に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドは、279g×0.05÷431=0.032モルと算出される。ここで、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体の仕込み量も0.032モルであったことから、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体の分解率は0%であった。
その後、徐々に圧力を下げて10Torrとして、粗炭酸ジフェニル230gを留出させた。また、粗炭酸ジフェニルを留出させた後のセパラブルフラスコ内の残液47gは、200℃で、目視で溶解していた。そこで、濃縮率(蒸発率)は、230g/(230g+47g)=83%であった。また、高速液体クロマトグラフィーにより、粗炭酸ジフェニル中のベンゾフラン−2,3−ジオンの濃度を測定したところ11重量ppmであった。
[実施例7]
実施例6で得られたセパラブルフラスコ内の残液を150℃に維持した状態で、内40gを抜出した。ここで、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの分子量が431、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体の分子量が467であることから、この残液40gには、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドが15g×(431÷467)×(40÷47)=11.8g、炭酸ジフェニルに溶解した状態で含まれている。これに、実施例1で得られた4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体(アダクト率91%)0.3g(0.640ミリモル)とシュウ酸ジフェニル267g(1.102モル)を加え、均一溶液とした。これに、更に塩化水素400cm(0.0179モル)を吹き込み、230℃まで昇温した。なお、230℃に到達した時にセパラブルフラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、シュウ酸ジフェニル59.6重量%、炭酸ジフェニル33.67重量%、フェノール0.2重量%であった。
セパラブルフラスコ内が230℃に達した後、反応で発生した一酸化炭素を常圧下で窒素にて反応系外へ除去しながら、6時間、230℃に保った状態で反応させた。6時間反応させた液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行ったところ、炭酸ジフェニル92.7重量%、フェノール0.3重量%、シュウ酸ジフェニル548.1重量ppmであった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、99.9%であった。
その後、徐々に圧力を下げて10Torrとして、粗炭酸ジフェニル200gを留出させた。粗炭酸ジフェニルを留出させた後のセパラブルフラスコ内の残液36gは、200℃で、目視で溶解していた。そこで、濃縮率(蒸発率)は、200g/(230g+36g)×100=84.7%であった。また、高速液体クロマトグラフィーにより、粗炭酸ジフェニル中のベンゾフラン−2,3−ジオンの濃度を測定したところ10重量ppmであった。
[比較例3]
実施例6において、シュウ酸ジフェニルの仕込み量を300gから95g(0.392モル)に減らし、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体15gの代わりに合成例1で得られたテトラフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体5gを用い、230℃における反応時間を6時間から1.3時間に短くした以外は、実施例6と同様に炭酸ジフェニルを製造した。
1.3時間反応させた液の組成は、炭酸ジフェニル59.8重量%、シュウ酸ジフェニル30.7重量%、フェノール0.2重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、70.2%であった。
また、粗炭酸ジフェニルは38gを留出させた。粗炭酸ジフェニル留出後のセパラブルフラスコ内の残液45gは、200℃で、目視でスラリー状であった。そこで、濃縮率(蒸発率)は、38g/(38g+45g)×100=46%であった。また、高速液体クロマトグラフィーにより、粗炭酸ジフェニル中のベンゾフラン−2,3−ジオンの濃度を測定したところ150重量ppmであった。
[比較例4]
実施例6において、シュウ酸ジフェニルの仕込み量を300gから95g(0.392モル)に減らし、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体15gの代わりにテトラフェニルホスホニウムクロライド5gを用い、テトラフェニルホスホニウムクロライドを溶解させた後に塩化水素300cmを加え、230℃における反応時間を6時間から1.3時間に短くした以外は、実施例6と同様に
炭酸ジフェニルを製造した。
1.3時間反応させた液の組成は、炭酸ジフェニル57.8重量%、シュウ酸ジフェニル28.4重量%、フェノール0.2重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、72.5%であった。
また、粗炭酸ジフェニルは66gを留出させた。粗炭酸ジフェニル留出後のセパラブルフラスコ内の残液22gは、200℃で、目視でスラリー状であった。そこで、濃縮率(蒸発率)は、66g/(66g+22g)×100=75%であった。また、高速液体クロマトグラフィーにより、粗炭酸ジフェニル中のベンゾフラン−2,3−ジオンの濃度を測定したところ120重量ppmであった。
実施例6、比較例3及び比較例4の結果を表4に纏める。表4より、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドは、テトラフェニルホスホニウムクロライド及びテトラフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体に比べて、ベンゾフラン−2,3−ジオンが少なく、高純度な炭酸ジフェニルを得られることが裏付けられた。また、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドは、テトラフェニルホスホニウムクロライド及びテトラフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体に比べて、炭酸ジフェニルに対する溶解度が高いために、シュウ酸ジフェニルを炭酸ジフェニルに高転化率で反応させた後、炭酸ジフェニルを高濃度に濃縮させても残液に触媒が析出することないため、残液に含まれる触媒を再利用しやすいことが裏付けられた。
Figure 0006451496
[実施例8]
温度計と攪拌機を備えたフルジャケット式500ミリリットルのセパラブルフラスコに4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド20g(0.05モル)、1−ブタノール5g及び28重量%塩酸75gを入れ、窒素雰囲気下で90℃に加熱して均一溶液にした。その後、セパラブルフラスコを10℃に冷却することによりスラリーを得た。このスラリーをガラスフィルターにより濾過して得られた固体をナス型フラスコに移した。このナス型フラスコを、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付け、オイルバスを100℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより15gの固体を得た。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、15.8重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、15g×0.158=2.4g(0.068モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる塩化水素の量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムの分子量が353であることから、この固体に含まれる4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は15g×(1−0.158)=12.6g(0.036モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.068モル−0.036モル=0.032モルになる。そこで、この固体が、アダクト率89%(0.032モル÷0.036モル×100)の4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、アダクト体の収率は、0.036モル÷0.05×100=72%と算出された。
[実施例9]
実施例6において、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体の代わりに、実施例8で得られた4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体15g(0.035モル)(アダクト率89%)を用いて、230℃における反応時間を6時間から3時間に短くした以外は、実施例6と同様にして炭酸ジフェニルを製造した。
230℃に到達した時の液組成は、シュウ酸ジフェニル66.2重量%、炭酸ジフェニル26.6重量%、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド5.1重量%、フェノール1.5重量%であった。
また、3時間反応させた液の組成は、炭酸ジフェニル49.5重量%、シュウ酸ジフェニル39.5重量%、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド3.6重量%、フェノール2.3重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、61%であった。
ここで、反応後の反応液(組成分析用の試料を抜き出す前)が265gであり、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの分子量が389である。そこで、反応後の反応液に含まれる4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドは、265g×0.036÷389=0.025モルと算出される。ここで、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体の仕込み量が0.035モルであったことから、4−メチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体の分解率は(0.035モル−0.025モル)÷0.035モル×100=29%であった。
そこで、実施例6と実施例9の比較から、ベンジルプロトンを有さない非対称テトラアリールホスホニウムハライドである4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体は、脱カルボニル反応における安定性が高く、特に好ましいことが裏付けられた。
[実施例10]
以下の方法により、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体を合成した。
先ず、特開2013−82695号公報に記載された方法により、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムブロマイドを合成した。このブロマイド体を特開平11−217393号公報に記載された方法により、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド(クロライド体)に変換した。
セパラブルフラスコにこの4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド、ブタノール及び塩酸を入れ、窒素雰囲気下で90℃に加熱して均一溶液にした。その後、セパラブルフラスコを室温に冷却することによりスラリーを得た。このスラリーをガラスフィルターにより濾過して得られた固体をナス型フラスコに移した。ナス型フラスコを、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに付け、オイルバスを100℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより固体を得た。この固体を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、14.2重量%であったことから、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、水分計(京都電子工業社製「MKS−500」)を用いて測定した含水率は0.4重量%であった。
[実施例11]
2リットルのナス型フラスコに、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド200g(0.46モル)、1−ブタノール100g及び28重量%塩酸700gを入れ、窒素雰囲気下で90℃に加熱して均一溶液にした。その後、ナス型フラスコを室温に冷却することによりスラリーを得た。このスラリーをガラスフィルターにより濾過し、190gの固体を得た。
得られた結晶の内の30gを、500cmのナス型フラスコに移した。このナス型フラスコを、オイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付け、オイルバスを70℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより、25gの固体を得た。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、15.2重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、25g×0.152=3.8g(0.107モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドの塩素量と塩化水素量の合計と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、この固体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は25g×(1−0.152)=21.2g(0.054モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.107モル−0.054モル=0.053モルとなることから、この固体が、アダクト率が95%(0.053モル÷0.056モル×100)の4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、得られた固体は、白色顆粒で、その嵩密度が0.48g・cm、粒径が180μmであった。
次に、このアダクト率95%のアダクト体を触媒として用いて、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応を行った。具体的には、実施例1の脱カルボニル反応において、触媒として、上記のアダクト率95%のアダクト体を触媒として用いた以外は実施例1と同様にして、脱カルボニル反応を行った。アダクト体の供給が終了してから30分後に、三口フラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行った。この結果、フェノール0.5重量%、シュウ酸ジフェニル30.1重量%、炭酸ジフェニル56.2重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、70%であった。
[実施例12]
実施例11で得られたアダクト体の内の30g(0.46モル)を、500ミリリットルのナス型フラスコに移し、このナス型フラスコをオイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付けた。オイルバスを130℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより、25gの固体を得た。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、12.7重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、25g×0.127=3.2g(0.090モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる
塩素水素の量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、この固体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は25g×(1−0.127)=21.8g(0.055モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.090モル−0.055モル=0.035モルになることから、この固体が、アダクト率64%(0.035モル÷0.055モル×100)の4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、得られた固体は、白色顆粒で、その嵩密度が0.45g・cm、粒径が142μmであった。
次に、このアダクト率64%のアダクト体を触媒として用いて、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応を実施した。具体的には、実施例1の脱カルボニル反応において、触媒として、上記のアダクト率64%のアダクト体を触媒として用いた以外は実施例1と同様にして、脱カルボニル反応を行った。アダクト体の供給が終了してから30分後に、三口フラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行った。この結果、フェノール0.6重量%、シュウ酸ジフェニル31.2重量%、炭酸ジフェニル55.6重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、69%であった。
[実施例13]
実施例11で得られたアダクト体の内の30g(0.06モル)を、500ミリリットルのナス型フラスコに移し、このナス型フラスコをオイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付けた。オイルバスを150℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより、25gの固体を得た。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、10.2重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、25g×0.102=2.6g(0.073モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる塩素水素の量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、この固体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は25g×(1−0.102)=22.5g(0.057モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.073モル−0.057モル=0.016モルとなることから、この固体が、アダクト率28%(0.016モル÷0.057モル×100)の4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、得られた固体は、白色顆粒で、その嵩密度が0.45g・cm、粒径が134μmであった。
次に、このアダクト率28%のアダクト体を触媒として用いて、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応を実施した。具体的には、実施例1の脱カルボニル反応において、触媒として、上記のアダクト率28%のアダクト体を触媒として用いた以外は実施例1と同様にして、脱カルボニル反応を行った。アダクト体の供給が終了してから30分後に、三口フラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行った。この結果、フェノール0.6重量%、シュウ酸ジフェニル30.2重量%、炭酸ジフェニル55.2重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、70%であった。
[実施例14]
実施例11で得られたアダクト体の内の30g(0.06モル)を、500ミリリットルのナス型フラスコに移し、このナス型フラスコをオイルバスを備えたロータリーエバポレータに取り付けた。オイルバスを200℃に加熱し、圧力10Torrで2時間乾燥させることにより、25gの固体を得た。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した
結果、8.6重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、25g×0.086=2.2g(0.062モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる塩素水素の量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、この固体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は25g×(1−0.086)=22.9g(0.058モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.062モル−0.058モル=0.004モルとなることから、この固体が、アダクト率7%(0.004モル÷0.058モル×100)の4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、得られた固体は、白色顆粒で、その嵩密度が0.41g・cm、粒径が110μmであった。
次に、このアダクト率7%のアダクト体を触媒として用いて、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応を実施した。具体的には、実施例1の脱カルボニル反応において、触媒として、上記のアダクト率7%のアダクト体を触媒として用いた以外は実施例1と同様にして、脱カルボニル反応を行った。アダクト体の供給が終了してから30分後に、三口フラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行った。この結果、フェノール0.5重量%、シュウ酸ジフェニル29.6重量%、炭酸ジフェニル58.3重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、71%であった。
[実施例15]
500ミリリットルのハート型フラスコに、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライド30g(0.070モル)を入れた後、該フラスコに塩化水素ガスを1時間流通させて、フラスコ内を塩化水素ガスで置換した。塩化水素ガスを流通させたまま、該フラスコを液体窒素の入ったデュワー瓶に浸漬させた。フラスコ内の塩化水素ガスが液化され、フラスコ内の成分は、100ミリリットルの白濁したスラリー状になった。このまま、白濁したスラリーが100ミリリットル存在する状態を2時間維持させた後、塩化水素ガスの流通を止め、窒素ガスを流通させながら、ゆっくりと室温まで昇温し、フラスコ内の塩化水素を追い出したところ、25gの固体が得られた。
この固体の塩素濃度を京都電子工業社製の電位差滴定装置「AT−610」で分析した結果、14.5重量%であった。そこで、この固体に含まれる塩素量は、25g×0.145=3.6g(0.101モル)となる。ここで、この塩素量をアダクト体に含まれる塩素水素の量と見做すと(塩化水素に含まれる水素分を無視すると)、この固体に含まれる4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムの量は25g×(1−0.145)=21.4g(0.054モル)に、アダクト体の塩化水素に含まれる塩素量は0.101モル−0.054モル=0.047モルとなることから、この固体が、アダクト率87%(0.047モル÷0.054モル×100)の4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムと塩化水素とのアダクト体であることが確認された。また、得られた固体は、白色紛体で、その嵩密度が0.41g・cm、粒径が45μmであった。
次に、このアダクト率87%のアダクト体を触媒として用いて、シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応を実施した。具体的には、実施例1の脱カルボニル反応において、触媒として、上記のアダクト率87%のアダクト体を触媒として用いた以外は実施例1と同様にして、脱カルボニル反応を行った。アダクト体の供給が終了してから30分後に、三口フラスコ内の液の一部を抜き出し、高速液体クロマトグラフィーにより組成分析を行った。この結果、フェノール1.3重量%、シュウ酸ジフェニル51.2重量%、炭酸ジフェニル20.7重量%であった。ここで、シュウ酸ジフェニルの転化率は、48%であった。
実施例11〜15及び比較例1の結果を表5に纏める。
Figure 0006451496
表5から明らかなように、非対称テトラアリールホスホニウムハライドを塩化水素とのアダクト体にすることにより、粒径が大きく、嵩密度が高く、ハンドリングし易くなること、および、これを触媒として用いて脱カルボニル反応を行うと、シュウ酸ジフェニルの転化率が高く、フェノールの副生量が少なく、未反応シュウ酸ジフェニルの量が少なく、炭酸ジフェニルの生成量が多くなることが裏付けられた。特に、粒径が大きい触媒が、優れた反応成績を示すことも裏付けられた。また、本発明に係るアダクト体の製造方法で製造した非対称アダクト体が、粒径が大きく、優れた反応成績を示すことも裏付けられた。

Claims (8)

  1. シュウ酸ジフェニルを触媒存在下で脱カルボニル反応させることによる炭酸ジフェニル
    の製造方法であって、前記触媒を4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロ
    ライドと塩化水素とのアダクト体として供給することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造
    方法。
  2. 請求項1に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記アダクト体の平均粒径が5
    0μm以上、1mm以下である、炭酸ジフェニルの製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記アダクト体は、4−
    t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素を極性有機溶媒に溶
    解させた後に晶析することにより得られるものである、炭酸ジフェニルの製造方法。
  4. 炭酸ジフェニルの製造方法であって、下記第1〜3工程をこの順に有することを特徴と
    する、炭酸ジフェニルの製造方法。
    第1工程:請求項1乃至の何れか1項に記載の炭酸ジフェニルの製造方法により炭酸ジ
    フェニルを製造する工程、
    第2工程:第1工程で製造された炭酸ジフェニルと、前記アダクト体及び/又は前記アダ
    クト体が分解されて生じたアダクト体分解物を含む触媒液とを分離する工程、
    第3工程:前記触媒液の少なくとも一部を第1工程に供給する工程
  5. 請求項に記載の炭酸ジフェニルの製造方法であって、前記第2工程で分離された触媒
    液から前記炭酸ジフェニルより高沸点である化合物を除去した液、および4−t−ブチル
    フェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体を、前記第3工
    程で第1工程に供給することを特徴とする炭酸ジフェニルの製造方法。
  6. 4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト
    体の製造方法であって、4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと
    塩化水素を極性有機溶媒に溶解させた後、晶析することにより、4−t−ブチルフェニル
    トリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト体を得ることを特徴とする
    4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト
    体の製造方法。
  7. 4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと塩化水素とのアダクト
    体。
  8. シュウ酸ジフェニルの脱カルボニル反応による炭酸ジフェニル製造用触媒であって、前
    記触媒が4−t−ブチルフェニルトリフェニルホスホニウムクロライドと、塩化水素との
    アダクト体であることを特徴とする、炭酸ジフェニル製造用触媒。
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