JP6440254B2 - ゲル化剤 - Google Patents
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Description
従来型のヒドロゲルとしては、高分子鎖が架橋されて3次元網目構造を形成し、これが水などの媒体間と非共有結合を形成して水を保持し、膨潤することにより形成される高分子ゲルが挙げられる。この高分子ゲルの物性研究並びに用途開発は、アガロースなどの多糖類やタンパク質から形成される天然高分子ゲルや、アクリルアミドゲルなどの高分子鎖間を化学共有結合にて架橋した合成高分子ゲルにおいて数多くなされている。
近年、上述の高分子化合物からなるゲルだけでなく、比較的低分子量の有機化合物の自己集合化からなるヒドロゲルが見出され、種々検討されている。
こうした低分子ヒドロゲル化剤は、該ヒドロゲル化剤と媒体である水とをおよそ100℃の温度条件にて加熱撹拌して、ゲル化剤を水に溶解・分散させた後、この溶液を室温に静置することにより、ヒドロゲルを形成することができる。
特に本発明は酸性からアルカリ性までの大変広い液性範囲においてゲルを形成でき、さらに無機塩が溶解した水溶液であっても、少量の添加でゲルを形成できる高いゲル化能を有し、また得られたゲルにチキソトロピー性を付与できるゲル化剤を提供することにある。
で表される構造を有するアルキルアミド−D−グルカミンおよびアルケニルアミド−D−グルカミンからなる群から選択される少なくとも一種又はその薬学的に使用可能な塩からなることを特徴とするゲル化剤に関する。
第2観点として、R1−(C=O)−基がパルミトイル基又はステアロイル基であり、R2及びR3が水素原子であり、nが1又は2であり、mが1である、請求項1に記載のゲル化剤に関する。
第3観点として、R1−(C=O)−基がオレオイル基であり、R2及びR3が水素原子であり、nが1乃至3であり、mが1又は2である、請求項1に記載のゲル化剤に関する。
第4観点として、第1観点乃至第3観点のうちいずれか一つに記載のゲル化剤と、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液又は疎水性有機溶液よりなるゲルに関する。
第5観点として、チキソトロピー性を発現する、第4観点に記載のゲルに関する。
さらに本発明のゲル化剤は、例えば従来提案されている合成高分子型のゲルを形成時に必要とされた架橋剤等を用いずに、水をゲル化させてゲルを形成することができるため、得られるヒドロゲルにおいて未反応の架橋剤などの未反応物質の残存といった問題が起こらない。しかもゲル化剤は、3質量%程度の添加量にてヒドロゲルを形成でき、環境や生体内で取り込まれた際に負荷が少ない。
さらに本発明のゲル化剤は、チキソトロピー性を発現するゲルを形成できる。
上記用途のほか、食品工業、農林業、化粧品分野、繊維工業における安定剤、分散剤、湿潤剤として、金属や導電性物質をドープしたナノ部品として電子・情報分野において、さらにはフィルター用材料や導電性材料としても有用である。
また本発明のゲルは、チキソトロピー性を発現できる。
また本発明のゲルは、上述のように比較的少量のゲル化剤の添加により得ることができるため、生体面・環境面の何れにおいても安全性の高いゲルといえる。
さらに上述のように、低分子化合物である脂肪酸−アミノ酸ポリオール誘導体から得られたゲルは、ゲル化剤の構成要素が天然物由来あるいは天然物と親和性の高い化合物であるため、外部環境中で、例えば土中で使用する場合、土壌細菌などによって容易に分解されること、また生体内で使用する場合には代謝酵素によって容易に分解されることが期待でき、環境・生体に対する負荷が少ないと考えられる。
本発明のゲル化剤であるアルキルアミド−D−グルカミンおよびアルケニルアミド−D−グルカミンは、下記式(1)で表される構造を有するアルキロイル又はアルケニロイル又はアルカジエニロイル−アミノ酸ポリオール誘導体又はその薬学的に使用可能な塩からなり、該アルキロイル又はアルケニロイル又はアルカジエニロイル−アミノ酸ポリオール誘導体は、脂溶性の高い長鎖を有する高級脂肪酸由来の部分、アミノ酸由来の部分、そしてポリオール(D−グルカミン)由来の部分より構成される。
上記R1及び隣接するカルボニル基(−(C=O)−)で構成される脂質部(アシル基)の具体例としては、ラウロイル基、ドデシルカルボニル基、ミリストイル基、テトラデシルカルボニル基、パルミトイル基、マルガロイル基、オレオイル基、エライドイル基、リノレオイル基、ステアロイル基、バクセノイル基、オクタデシルカルボニル基、アラキドイル基、エイコシルカルボニル基、ベヘノイル基、エルカノイル基、ドコシルカルボニル基、リグノセイル基、ネルボノイル基等を挙げることができ、特に好ましいものとして、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、マルガロイル基、ステアロイル基、オレオイル基、エライドイル基及びベヘノイル基が挙げられ、特にパルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基が挙げられる。
上記炭素原子数1若しくは2の分岐鎖を有し得る炭素原子数1乃至4のアルキル基とは、主鎖の炭素原子数が1乃至4であり、かつ炭素原子数1若しくは2の分岐鎖を有し得るアルキル基を意味し、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基又はtert−ブチル基などが挙げられる。
上記R2及びR3は、好ましくは、それぞれ独立して水素原子、又は炭素原子数1の分岐鎖を有し得る炭素原子数1乃至3のアルキル基であり、より好ましくは水素原子である。
また上記nは1乃至10を表し、mは1又は2を表す。
また上記R1−(C=O)−基がオレオイル基であるとき、R2及びR3が水素原子であり、nが1乃至3であり、mが1又は2である誘導体が好ましい。
なお本発明のゲル化剤が、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液又は親水性有機溶液中に投入されると、式(1)におけるアミノ酸由来の部分並びにポリオール由来の部分が水素結合により分子間非共有結合を形成し、一方、式(1)における脂肪酸由来の部分が疎水的にパッキングするように自己集合化(或いは自己組織化ともいう)し、図16に示すような筒状の二次集合体、すなわちファイバー、或いは図18に示すようなラメラ状の二次集合体が形成される。
参考として図16に本発明のゲル化剤を構成するアルキロイル又はアルケニロイル又はアルカジエニロイル−アミノ酸ポリオール誘導体の自己集合化及びゲル化の概念図の一例を示す(但し、本発明において、全てのアルキロイル又はアルケニロイル又はアルカジエニロイル−アミノ酸ポリオール誘導体が図16に示す自己集合化及びゲル化の形態をとっているとは限らない)。
すなわち、該アルキロイル又はアルケニロイル又はアルカジエニロイル−アミノ酸ポリオール誘導体分子(a)が前述の親水性の溶液中に投入されると、疎水性部位である脂肪酸由来の部分を中心として集合し(b)、自己集合化によりファイバー状の自己集合体(c)を形成する。自己集合体の形状は限定されないが、筒状又は板状の形状が挙げられる。
上記ファイバーが上述の水等の親水性の液体中で形成されると、このファイバーが三次元網目構造を形成し(例えば図16における(d)参照)、網目構造内部に溶媒分子を保持して膨潤することにより、親水性の液体全体がゲル化される。
参考として、図17に疎水性有機溶剤中の本発明のゲル化剤の自己集合化及びゲル化の概念図の一例を示す(但し、本発明において、全てのアルキロイル又はアルケニロイル又はアルカジエニロイル−アミノ酸ポリオール誘導体が図17に示す自己集合化及びゲル化の形態をとるとは限らない)。該アルキロイル又はアルケニロイル又はアルカジエニロイル−アミノ酸ポリオール誘導体分子(a)は親水性部位であるアミノ酸由来の部分及びポリオール由来の部分を中心として集合し(e)、自己集合化によりファイバー状の自己集合体(f)を形成する。そして上記ファイバーが疎水性有機溶剤の中で形成されると、このファイバーが三次元網目構造を形成し(例えば図17における(g)参照)、網目構造内部に溶媒分子を保持して膨潤することにより、疎水性有機溶剤全体がゲル化される。
前述したように、上記自己集合体が水、アルコール、水溶液、アルコール溶液又は親水性有機溶液等の水性媒体中で形成されると、この自己集合体が三次元網目構造を形成し(例えば図16における(d)参照)、網目構造内部に溶媒分子を保持して膨潤することにより、水性媒体全体がゲル化し、ヒドロゲルが形成される。
また、上記自己集合体が植物油(疎水性有機溶液)などの疎水性媒体中で形成されると、この自己集合体が同様に三次元網目構造を形成しさらに、網目構造内部に溶媒分子を保持して膨潤することにより、疎水性媒体全体がゲル化し、ゲルが形成される。
なお本発明は、前記ゲル化剤である式(1)で表されるアルキロイル又はアルケニロイル又はアルカジエニロイル−アミノ酸ポリオール誘導体又はその薬学的に使用可能な塩を含有するゲル、並びに、該ゲル化剤を含み、チキソトロピー性を発現するゲルも対象とする。
ド類が挙げられる。
具体的には、炭素原子数1乃至6のアルコールとしてはメタノール、エタノール、2−プロパノール又はi−ブタノール等;多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等;高級アルコールとしてはオクチルドデカノール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等;グリセライド類としてはトリオクタノイン、トリ(カプリルカプリル酸)グリセリル、ステアリン酸グリセリル等が挙げられる。
前記親水性有機溶媒とはアルコール以外の有機溶媒であって、かつ水に任意の割合で溶解する有機溶媒を意味する。用いる親水性有機溶媒の例としては、アセトン又はジオキサンなどが挙げられる。
好ましい無機塩の例としては無機塩化物、無機シュウ酸塩、無機炭酸塩、無機硫酸塩、無機リン酸塩及び無機リン酸水素塩が挙げられる。より好ましくは、塩化ナトリウム、四シュウ酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム又はリン酸二水素ナトリウムであり、さらに好ましくは塩化ナトリウム、四シュウ酸カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム又はリン酸二水素ナトリウムである。
又、好ましい有機塩の例としては、有機アミンの塩酸塩若しくは有機アミン酢酸塩が挙げられる。より好ましくはエチレンジアミン塩酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩である。
上記疎水性媒体の好ましい具体例としては、例えばオリーブ油、ヤシ油、ヒマシ油、ホホバ油又はヒマワリ油等の植物油;オクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル又はパルミチン酸イソプロピル等のエステル類;ミネラルオイル又は水添ポリイソブテン等の炭化水素類が挙げられる。
なお本発明において、これら疎水性媒体を総称して疎水性有機溶液と称する。
成されたゲルであり、該化合物の設定によって、例えば外部刺激応答性によりゾル−ゲル転換するゲルを形成できるなど、高分子鎖の修飾や共重合反応の実施と必要せずとも、様々な機能を容易に付加することが可能である。
以下の製造例(合成例)および実施例で使用した試薬は東京化成工業(株)、溶媒は和光純薬工業(株)より入手し、そのまま使用した。また水(純水)はElix UV3 Milli−Q純水製造装置(日本ミリポア(株)製)により精製した。
以下に各種測定及び分析に用いた装置及び条件を示す。
(1)分子構造同定
・1H−NMRおよび13C−NMRスペクトル:AVANCE500(500MHz、ブルカーバイオスピン(Bruker Biospin)(株)製)
・質量分析:LC−MSシステム、マスディテクター3100、セパレーションモデュールe2695、UV/visディテクターs2489(日本ウォーターズ(株))
・元素分析:マイクロコーダーJM10((株)ジェイ・サイエンス・ラボ製)
(2)チキソトロピー性試験(ゲルの粉砕とその回復挙動の観察)
・装置:ボルテックスミキサー(ジェニー2)、アズワン(株)製
(3)示差走査熱量測定
・装置:EXSTAR6000 熱分析装置、(株)日立ハイテクサイエンス製
・使用容器:Ag製の密封型試料容器
・昇温速度及び降温速度:2℃/分
・ピークの立ち上がりもしくは立ち下がりの温度を転移温度とした。
(4)レオメータによるゲルの粘弾性評価およびチキソトロピー性評価
・レオメータ 粘弾性測定装置 MCR−301、(株)アントンパール・ジャパン製、・測定条件:測定治具 8mm直径の円形のパラレルプレート、0.50mmギャップ、測定温度25℃、はみ出たゲルは拭き取って測定
・周波数依存性測定:0.01%歪一定で測定
・歪依存性測定:角周波数(1 rad/秒)一定で測定
・チキソトロピー性評価:低せん断(歪振幅 0.01%、周波数 1Hz)と高せん断(0.1秒間でせん断速度 3000秒−1印加)を繰り返し印加して、弾性率の変化を測定
(5)走査型電子顕微鏡写真
・装置:SU−8000、日立ハイテクノロジーズ(株)製
・加速電圧:1.0kV
・サンプル処理:導電性の物質(Pt)によるイオンコーティング処理を行った(10nm)。
(6)X線回折測定
・D8 DISCOVER 多機能薄膜材料評価X線回折装置、ブルカー・エイエックスエス(株)製
・CuKα線使用、26℃で測定、1mm直径のキャピラリーガラスにサンプルを入れて測定
<合成法1:アルキロイル−アミノ酸誘導体およびオレオイル−アミノ酸誘導体の合成>
アルキロイル−アミノ酸誘導体(パルミトイル−アミノ酸誘導体またはステアロイルアミノ酸誘導体)およびオレオイル−アミノ酸誘導体を、非特許文献7に示されている方法に従って行った(下記[反応式1]参照)。
アルキロイルクロリド(1.00モル量)またはオレオイルクロリド(1.00モル量)のテトラヒドロフラン(THF)20ml混合液を準備した。これを、氷浴にて0℃にした下記反応式1に示す種々のアミノ酸誘導体(1.50モル量)の2M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液40ml混合液に滴下し、引き続いて1時間そのまま氷浴にて反応させ、その後12時間室温にて反応させた。水10mlを加えた後、3M塩化水素(HCl)水溶液20mlを加え、pHを2以下にした。析出物をろ取、水洗し、真空乾燥した。精製はメタノールからの再結晶により行った。
以下に各種アミノ酸誘導体を用いたアルキロイル−アミノ酸誘導体およびオレオイル−アミノ酸誘導体の合成例の詳細を示す。
パルミトイルクロリド(4.00g,13.82mmol)とグリシン(1.57g,20.73mmol)を前述の合成法1に従い反応および処理させることで、PGを得た(白色結晶、2.85g,収率65.8%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.11(s(br),1H)、3.71(d,2H,J=5.7Hz)、2.10-2.18(m,2H)、1.48(m,2H)、1.24(m,24H)、0.86(t,3H,J=6.9Hz).
・質量分析:m/z 計算値C18H35NO3:313.26
実測値:312.0[M−H]−.
パルミトイルクロリド(4.00g,13.82mmol)とグリシルグリシン(2.77g,20.73mmol)を前述の合成法1に従い反応および処理させることで、PG2を得た(白色結晶、2.50g,収率48.8%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.18(t,1H,J=5.4Hz)、7.21(s(br),1H)、3.63(d,2H,J=6.0Hz)、3.24(d,2H,J=4.1Hz)、2.12(m,2H)、1.53(m,2H)、1.24(m,24H)、0.86(t,3HJ=7.3Hz).
・質量分析:m/z 計算値C20H38N2O4:370.28
実測値:369.1[M−H]−.
ステアロイルクロリド(4.00g,12.81mmol)とグリシン(1.46g,19.21mmol)を前述の合成法1に従い反応および処理させることで、SGを得た(白色結晶、3.24g,収率74.2%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.09(t,1H,J=5.4Hz)、3.71(d,2H,J=5.7Hz)、2.10(m,2H)、1.48(m,2H)、1.24(s(br),26H)、0.86(t,3H,J=6.8Hz).
・質量分析:m/z 計算値C20H39NO3:313.26
実測値:312.0[M−H]−.
オレオイルクロリド(4.12g,13.29mmol)とグリシン(1.51g,19.94mmol)を前述の合成法1に従い反応および処理させることで、OGを得た(白色結晶、3.45g,収率76.5%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.11(t,1H,J=5.8Hz)、5.33(t,2H,J=4.7Hz)、3.72(d,2H,J=6.0Hz)、2.10(m,2H,J=7.4Hz)、1.99(m,4H)、1.50(m,2H)、1.27(m,20H)、0.86(t,3H,J=6.8Hz).
・質量分析:m/z 計算値C22H38NO3:339.28
実測値:338.2[M−H]−.
オレオイルクロリド(4.12g,13.29mmol)とグリシルグリシン(2.66g,19.94mmol)を前述の合成法1に従い反応および処理させることで、OG2を得た(白色結晶、3.32g,収率63.0%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.14(t,1H,J=5.7Hz)、8.05(t,H,J=5.8Hz)、5.33(t,2H,J=5.2Hz)、3.75(d,2H,J=6.0Hz)、3.73(d,2H,J=6.0Hz)、3.70(d,2H,J=5.7Hz)、2.12(t,2H,J=7.4Hz)、1.99(m,4H)、1.51(m,2H)、1.25(m,20H)、0.86(t,3H,J=6.8Hz).
・質量分析:m/z 計算値C18H35NO3:396.30
実測値:395.2[M−H]−.
オレオイルクロリド(5.00g,16.12mmol)とグリシルグリシン(4.67g,24.18mmol)を前述の合成法1に従い反応および処理させることで、OG3を得た(白色結晶、2.22g,収率37.8%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.20(t,1H,J=6.0Hz)、8.13(t,1H,J=5.7Hz)、8.07(t,1H,J=5.7Hz)、5.33(t,2H,J=5.2Hz)、3.75(d,2H,J=5.7Hz)、3.71(d,2H,J=5.7Hz)、2.12(t,2H,J=7.4Hz)、1.48(m,2H)、1.25(m,20H)、0.86(t,3H,J=6.9Hz).
・質量分析:m/z 計算値C23H41N3O5:439.30
実測値:438.3[M−H]−.
オレオイルクロリド(6.00g,19.34mmol)とβ−アラニン(2.61g
,29.00mmol)を前述の合成法1に従い反応および処理させることで、OAを得た(白色結晶、4.62g,収率67.5%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):7.86(t,1H,J=5.4Hz)、5.33(t,2H,J=4.7Hz)、3.21(q,2H,J=6.6Hz)、2.35(m,2H,J=6.9Hz)、2.00(m,4H)、1.51(m,2H)、1.24(m,20H)、0.86(t,3H,J=6.9Hz).
・質量分析:m/z 計算値C21H39NO3:353.29
実測値:352.2[M−H]−.
前述の合成法1により得たアルキロイル−アミノ誘導体(PG、PG2またはSG:いずれも1.00mol量)またはオレオイル−アミノ酸誘導体(OG、OG2、OG3又はOA:いずれも1.00mol量)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、1.10mmol量)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)20mlの混合溶液に、窒素雰囲気下、0℃で、D−グルカミンおよび1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)(それぞれ1.10mmol量)を加えた(下記[反応式2]参照)。この溶液を氷浴で1時間撹拌した後、室温で12時間撹拌した。DMFを減圧留去し、得られた白色残渣をメタノールで2回再結晶することにより、目的物を精製した。
以下に各種アルキロイル−アミノ酸誘導体およびオレオイル−アミノ酸誘導体を用いた各種アミノ酸−D−グルカミン誘導体の合成例の詳細を示す。
合成例1−1で得られたPG(1.20g,3.83mmol)とD−グルカミン(804mg,4.21mmol)を前述の合成法2に従い反応および処理させることで、PG−Gを得た(白色結晶、1.83g,収率85.8%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):7.99(t,1H,J=5.2Hz)、7.68(t,1H,J=5.2Hz)、4.76(d,1H,J=4.4Hz)、4.47(d,1H,J=5.7Hz)、4.39(d,1H,J=6.3Hz)、4.34(t,1H,J=5.7Hz),4.30(d,1H,J=6.6Hz)、3.66(d,2H,J=5.7Hz)、3.58(m,3H)、3.48(m,1H)、3.40(m,2H)、3.29(m,1H)、3.04(m,1H)、2.12(d,2H,J=7.6Hz)、1.48(m,2H)、1.26(m,24
H)、0.86(t,3H,J=6.8Hz).
・13C−NMR(125MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):172.99、169.65、74.40、72.03、70.28、63.81、42.53、42,45、35.68、31.75、29.51、29.47、29.41、29.20、29.16、25.61、22.54、14.39.
・質量分析:m/z 計算値C24H48N2O7:476.35、実測値:477.35[M+H]+.
・元素分析:計算値C24H48N2O7:C,60.48;H,10.15;N,5.88、実測値:C,60.39;H,10.12;N,5.85.
合成例1−2で得られたPG2(1.00g,2.70mmol)とD−グルカミン(566mg,2.97mmol)を前述の合成法2に従い反応および処理させることで、PG2−Gを得た(白色結晶、636mg,収率44.4%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.10(t,11H,J=5.0Hz)、8.03(t,2H,J=5.4Hz)、7.60(t,2H,J=5.0Hz)、4.79(d,1H,J=3.8Hz)、4.47(d,1H,J=5.4Hz)、4.38(d,1H,J=6.0Hz)、4.34(t,1H,J=5.2Hz)、4.31(d,1H,J=6.3Hz)、3.70(d,2H,J=3.2Hz)、3.59(m,3H)、3.47(m,1H)、3.41(m,2H)、3.32(m,1H)、3.05(m,1H)、2.13(d,2H,J=7.6Hz)、1.49(m,2H)、1.24(m,24H)、0.86(t,3H,J=6.8Hz).
・13C−NMR(125MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):173.73、170.21、169.74、72.85、72.45、70.61、64.21、43.03、42.94、36.07、32.15、29.91、29.86、29.81、29.69、29.58、29.55、25.97、22.94、14.80.
・質量分析:m/z 計算値C26H51N3O8:533.37、実測値:534.37[M+H]+.
・元素分析:計算値C26H51N3O8:C,58.51;H,9.63;N,7.78、実測値:C,58.29;H,9.57;N,7.82.
合成例1−3で得られたSG(1.50g,4.39mmol)とD−グルカミン(921mg,4.83mmol)を前述の合成法2に従い反応および処理させることで、SG−Gを得た(白色結晶、1.82g,収率82.0%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):7.99(t,1H,J=5.4Hz)、7.67(t,1H,J=4.9Hz)、4.75(d,1H,J=4.4Hz)、4.46(d,1H,J=5.4Hz)、4.38(d,1H,J=6.3Hz)、4.33(t,1H,J=5.4Hz)、4.27(d,1H,J=6.3Hz)、3.67(d,2H,J=5.7Hz)、3.58(m,3H)、3.48(m,1H)、3.40(m,2H)、3.28(m,1H)、3.05(m,1H)、2.12(d,2H,J=7.6Hz)、1.51(m,2H)、1.25(m,28H)、0.86(t,3H,J=7.3Hz).
・13C−NMR(125MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):173.41、170.08、72.80、72.45、70.69、64.22、42.93、42.84、36.08、32.15、29.90、29.86、29.82、29.70、29.60、29.55、26.01、22.94、14.79.
・質量分析:m/z 計算値C26H52N2O7:504.38、実測値:505.38[M+H]+.
・元素分析:計算値C26H52N2O7:C,61.87;H,10.38;N,5.55、実測値:C,61.80;H,10.31;N,5.51.
合成例1−4で得られたOG(1.50g,4.78mmol)とD−グルカミン(1.00g,5.26mmol)を前述の合成法2に従い反応および処理させることで、OG−Gを得た(白色結晶、1.72g,収率71.4%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.00(t,1H,J=5.7Hz)、7.70(t,1H,J=5.5Hz)、5.31(t,2H,J=5.5Hz)、4.78(d,1H,J=4.7Hz)、4.50(d,1H,J=5.7Hz)、4.40(d,1H,J=6.3Hz)、4.37(t,1H,J=5.4Hz)、4.31(d,1H,J=6.6Hz)、3.71(m,2H,J=5.7Hz)、3.59(m,3H)、3.49(m,1H)、3.38(m,2H)、3.27(m,1H)、3.04(m,1H)、2.11(d,2H,J=7.6Hz)、1.97(m,4H),1.53(m,2H)、1.24(m,20H)、0.85(t,3H,J=6.6Hz).
・13C−NMR(125MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):173.38、170.10、130.43、130.38、72.82、72.44、70.68、64.21、42.94、42.85、36.08、32.16、30.06、30.00、29.73、29.63、29.56、29.49、27.52、27.46、26.01、22.96、14.72.
・質量分析:m/z 計算値C26H50N2O7:502.36、実測値:503.37[M+H]+.
・元素分析:計算値C26H50N2O7:C,62.12;H,10.03;N,5.57、実測値:C,62.07;H,10.01;N,5.52.
合成例1−5で得られたOG2(1.50g,4.05mmol)とD−グルカミン(894mg,4.45mmol)を前述の合成法2に従い反応および処理させることで、OG2−Gを得た(白色結晶、1.86g,収率81.9%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.08(m,2H)、7.71(s(br),1H)、5.32(t,2H,J=5.4Hz)、4.78(s(br),1H)、4.50(d,1H,J=5.4Hz)、4.40(d,1H,J=6.0Hz)、4.34(t,1H,J=5.0Hz)、4.29(d,1H,J=6.0Hz)、3.70(m,4H,J=3.5Hz)、3.59(m,3H)、3.49(m,1H)、3.42(m,2H)、3.29(m,1H)、3.06(m,1H)、2.15(d,2H,J=7.6Hz)、1.92(m,4H)、1.54(m,2H)、1.25(m,20H)、0.86(t,3H,J=6.6Hz).
・13C−NMR(125MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):173.3、169.82、169.36、130.07、130.04、72.43、72.05、70.20、63.79、42.62、42.54、35.65、31.75、29.63、29.57、29.53、29.31、29.20、29.14、29.06、27.10、27.05、25.57、22.54、14.36.
・質量分析:m/z 計算値C28H53N3O8:559.38、実測値:560.39[M+H]+.
・元素分析:計算値C28H53N3O8:C,60.08;H,9.54;N,7.51、実測値:C,59.78;H,9.48;N,7.41.
合成例1−6で得られたOG3(1.00g,2.20mmol)とD−グルカミン(
462mg,2.42mmol)を前述の合成法2に従い反応および処理させることで、OG−Gを得た(白色結晶、945mg,収率69.5%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):8.13(t,1H,J=5.7Hz)、8.10(t,1H,J=5.7Hz)、8.02(t,1H,J=5.7Hz)、7.70(t,1H,J=5.4Hz)、5.33(t,2H,J=5.7Hz)、4.77(d,1H,J=4.4Hz)、4.50(d,1H,J=5.4Hz)、4.41(d,1H,J=6.0Hz)、4.36(t,1H,J=5.4Hz)、4.29(d,1H,J=6.6Hz)、3.72(td,6H,J=9.9Hz,J=5.6Hz)、3.59(m,3H)、3.48(m,1H)、3.42(m,2H)、3.29(m,1H)、3.06(m,1H)、2.16(d,2H,J=7.3Hz)、1.95(m,4H)、1.52(m,2H)、1.24(m,20H)、0.86(t,3H,J=6.9Hz).
・13C−NMR(125MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):173.19、170.13、169.55、169.31、130.08、130.05、72.43、72.02、70.21、63.79、42.54、35.64、31.74、29.62、29.57、29.52、29.30、29.20、29.13、29.06、27.10、27.05、25.57、22.54、14.37.
・質量分析:m/z 計算値C30H56N4O9:616.40、実測値:617.4[M+H]+.
・元素分析:計算値C30H56N4O9:C,58.42;H,9.15;N,9.08、実測値:C,58.56;H,9.18;N,8.99.
合成例1−7で得られたOA(1.50g,4.08mmol)とD−グルカミン(856mg,4.49mmol)を前述の合成法2に従い反応および処理させることで、OA−Gを得た(白色結晶、1.59g,収率72.5%)。
・1H−NMR(500MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):7.81(m,1H)、7.70(m,1H)、5.33(t,2H,J=5.0Hz),4.74(s(br)、1H)、4.47(d,1H,J=5.0Hz)、4.37(d,1H,J=5.7Hz)、4.33(s(br),1H)、4.22(d,1H,J=6.3Hz)、3.57(m,3H)、3.49(m,1H)、3.40(m,2H)、3.22(m,3H)、3.05(m,1H)、2.24(d,2H,J=7.1Hz)、2.00(m,6H)、1.48(m,2H)、1.27(m,20H)、0.86(t,3H,J=6.6Hz).
・13C−NMR(125MHz、DMSO−d6、TMS、δ、ppm):172.95、171.59、130.48、130.47、73.01、72.61、72.41、70.45、64.23、42.87、36.40、36.24、36.19、32.14、30.02、29.97、29.92、29.70、29.57、29.54、29.46、29.44、27.49、27.45、26.13、22.94、14.77.
・質量分析:m/z 計算値C27H52N2O7:516.38、実測値:517.37[M+H]+.
・元素分析:計算値C27H52N2O7:C,62.76;H,10.14;N,5.42、実測値:C,62.72;H,10.11;N,5.47.
4mlサンプル管にアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(PG−G、PG2−G、SG−G)あるいはオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(OG−G、OG2−G、OG3−G、OA−G)と、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導
体あるいはオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体の添加量が所定の質量パーセント(wt%)となるように水を入れ、110℃で加熱溶解し、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体水溶液を作製した。その後、これら水溶液を室温(およそ25℃)で放冷し、ゲル化を確認した。
なお、放冷後、溶液の流動性が失われて、サンプル管を倒置しても溶液が流れ落ちない状態を「ゲル化」と判断した。このゲル化試験を種々の濃度の溶液について行い、ゲル化に要するアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体の最低濃度(wt%)を、最低ゲル化濃度とした。
得られた結果を表1に示す。ゲル化試験の放冷後および時間経過後の各サンプル管の写真を図1[(a)〜(g)]に示す。
実施例1と同様の手順にて、各種水溶液(シュウ酸緩衝液(pH=1.68)、リン酸緩衝液(pH=6.86)、炭酸緩衝液(pH=10.11)、および1M塩化ナトリウム水溶液)を用いて、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体のゲル化試験を行った。
得られた結果を表2に示す。またゲル化試験の放冷後の各サンプル管の写真を図2[(a)〜(g)]に示す。
表2および図2に示すように、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体は幅広いpH領域下ならびに高濃度の塩存在下においてもヒドロゲルを形成することが確認された。加えて、それぞれの混合ゲルは少なくとも半年経過しても離液することなく、また結晶化も認められなかった。
これに対し、本発明が対象とするアルキルアミド−D−グルカミド誘導体にアミノ酸構造を導入した分子構造の誘導体である本実施例の低分子ヒドロゲル化剤、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体では、実施例1に示すとおり、水溶媒において安定なゲルを形成することが示された。さらに実施例2に示すとおり、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体は様々な水溶媒において安定なゲルを形成することが示された。
このように、アルキルアミド−D−グルカミド誘導体にアミノ酸構造を導入することにより、ゲル状態を保持するために界面活性剤の添加が必要な従来提案されたアルキルアミド−D−グルカミド誘導体と比較して、ゲル形成能に優れる低分子ゲル化剤を得ることができた。
前述の製造例1で得られたアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(PG−G、PG2−G、SG−G)およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(OG−G、OG2−G、OG3−G、OA−G)から、実施例1と同様の手順にてアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体の水溶液を調製し、その後室温で放冷してヒドロゲルを形成させた(各誘導体の濃度:表3参照)。
次に得られた各ヒドロゲルについて、ゾル−ゲル転移温度ならびにゲル−ゾル転移温度を示差走査熱量計により測定した。得られた結果を表3、図3(アルキロイル−アミノ酸
D−グルカミン誘導体を用いたヒドロゲルの熱挙動)、および図4(オレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体を用いたヒドロゲルの熱挙動)に示す。
アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(PG−G、PG2−G、SG−G)あるいはオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(OG−G、OG2−G、OG3−G、OA−G)からなるヒドロゲルのゲル粉砕後の挙動を評価した。
まず、各種アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体のヒドロゲルを実施例1と同様の手順にて作製した(各誘導体の濃度:表4参照)。なお、PG−Gは、最低ゲル化濃度(0.5wt%)では弱いヒドロゲルしか形成しなかったので、後述の図5に示すチキソトロピー性試験(写真)は1.0wt%のヒドロゲルを作製し、評価したものである。
次に、サンプル管をボルテックスミキサーにあてて、内部のゲルを10秒間粉砕し、所定時間(1分、5分、60分、90分、12時間、24時間)静置した後、サンプル管を倒置し、ゲルが流れるかどうかを確認した。ゲルが流れなかったものを○、ゲルが流れ落ちる或いは所定時間経過後にゲルと溶媒の二層に分離したままであったものを×として評価した。得られた結果を表4に示す。
また図5にアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体の例として、(a)PG−Gおよび(b)PG2−Gの結果、図6にオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体の例としてOG3−Gのヒドロゲルのチキソトロピー試験結果を示す。
このようにアミノ酸部位を適切に分子構造中に導入することで、チキソトロピー性を示すヒドロゲルを形成する低分子ヒドロゲル化剤を得ることができた。
これは、アミノ酸部位導入による水素結合性部位の適切な導入が、粉砕されたゲル内のファイバーが形成するネットワークの回復に関与しているものと推察される。
これに対し、本発明での目的の低分子ゲル化剤は、簡便かつ温和な反応条件およびメタノール溶液からの再結晶による簡便な精製条件で得られることに特徴がある。さらに本発明の低分子ゲル化剤、すなわちアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体に類する低分子ゲル化剤から得られる新たな効果(チキソトロピー性)についての報告例は無い。
このように本実施例は、本発明のゲル化剤が有する特異な効果を示す結果となった。
アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲルの粘弾性特性評価を行うことで、ゲル状態が得られていることを確認した。得られた結果を図7(アルキロイル−アミノ酸D−グルカミン誘導体を用いたヒドロゲルの粘弾性特性)および図8(オレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体を用いたヒドロゲルの粘弾性特性)に示す。
なお使用したヒドロゲルは、実施例1と同様の手順にて、アルキロイル−アミノ酸−D
−グルカミン誘導体(PG−G、PG2−G、SG−G)およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(OG−G、OG2−G、OG3−G、OA−G)の水溶液を調製し、その後室温で放冷してヒドロゲルを形成させた(各誘導体の濃度:最低ゲル化濃度、段落[0011]に記載の[図面の簡単な説明]における図7及び図8に関する記載も参照)。
一方、図7(a)および図8(a)に示す歪依存性測定の結果によれば、歪が増加していくと、平坦な貯蔵弾性率(G′)および損失弾性率(G″)を示しかつG′>G″であったものが、歪み10%前後にて急転しG′<G″となることが確認された。すなわち、この時点にて、サンプルはゲル状態(G′>G″)から液体状態(G′<G″)へと変化することが確認された。このように、ゲル状態のサンプルに歪をかけることでゲル−ゾル転移が生じることが確認された。
アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲルにおいて、周期的な大変形印加によるゲル粉砕前後の弾性率の経時変化をレオメータ測定によりみることで、チキソトロピー性を定量的に評価した。各種アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(PG−G、PG2−G、SG−G)およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(OG−G、OG2−G、OG3−G、OA−G)のヒドロゲルは実施例1と同様の手順にて作製した(各誘導体の濃度:最低ゲル化濃度、段落[0011]に記載の[図面の簡単な説明]における図9及び図10に関する記載も参照)。得られた結果を図9(アルキロイル−アミノ酸D−グルカミン誘導体を用いたヒドロゲルのチキソトロピー性評価結果)および図10(オレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体を用いたヒドロゲルのチキソトロピー性評価結果)に示す。
以上の結果より、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲルおよびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲルにおいて、特にオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲルにおいて、良好なチキソトロピー性が確認された。
ヒドロゲルの微細構造に関する情報を得る目的で、対応するキセロゲルの走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行った。各種アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(PG−G、PG2−G、SG−G)およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体(OG−G、OG2−G、OG3−G、OA−G)のヒドロゲルを実施例1と同様の手順にて作製した(各誘導体の濃度:最低ゲル化濃度、段落[0011]に記載の[図面の簡単な説明]における図11及び図12に関する記載も参照)。こうして得られたヒドロゲルを凍結乾燥させることにより得たキセロゲルの状態をSEMにて観察した。得られた結果
を図11および図12に示す。
図11および図12に示すように、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体のキセロゲルは、サブマイクロメートル径の繊維状物質のネットワークから構成されていることが確認された。
上述の結果は、非特許文献8および非特許文献9で報告しているアルキルアミド−D−グルカミド誘導体からなるヒドロゲルにおいてもみられた繊維状構造形成に対応する結果である。アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体あるいはオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体から構成されるヒドロゲルは、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体あるいはオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体からなる繊維状物質が、高分子ヒドロゲルのようにネットワーク構造を形成しているものであると推察される。
上記実施例7で確認された繊維状物質に関する知見を得るために、前述のアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体のヒドロゲルおよび対応するキセロゲルについて、X線回折測定を行った。測定結果を図13に示す。また、ChemDraw3Dにより計算したアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体の分子長を図14に示す。さらにそれぞれの誘導体の推定されうるパッキング構造を図15に示す。
図13に示すように、アルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲル[図13(a)]およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲル[図13(c)]は、キセロゲルサンプル(繊維状物質の結晶サンプル)[図13(b)、(d)]に比べ、同等あるいは短周期で回折を示すことが確認された。
前述の非特許文献8および非特許文献9には、本発明が対象とするアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体に類似した分子構造を有するアルキルアミド−D−グルカミド誘導体は、それらが形成する繊維状物質の中で、ラメラ構造もしくは二分子同士が対となった二分子層を単位としたパッキング構造をとっていると推察されている。
本実施例のアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲルでの測定結果において、回折ピークはそれぞれの誘導体の2分子分の分子長より同等あるいは短いことから(図14)、図15(上図)に示すようなアルキル基が相互貫入したパッキング構造をとり、これにより短周期側にピークが生じたものと推察される。またアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体キセロゲルの測定結果において、回折ピークは2分子分の分子長とほぼ同じであることから、ラメラ構造をとっているものと推察される。
また本実施例のオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体ヒドロゲルでの測定結果においても、回折ピークは2分子分の分子長とほぼ同じであることから(図14)、図15(下図)に示すようなラメラ構造をとっているものと推察される。ただし、OG3−GおよびOA−Gにおいては、ラメラ構造の2分子分の長さ以上の長周期において回折が生じているものと推察される。
以上の実施例で示したように、従来の界面活性剤を添加しないと良好なヒドロゲルを形
成不可能であったアルキルアミド−D−グルカミド誘導体に対して、適切にアミノ酸を導入したアルキロイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体およびオレオイル−アミノ酸−D−グルカミン誘導体を低分子ヒドロゲル化剤とすることで、結晶化を抑制し、各種水溶液でのヒドロゲル形成が可能となり、しかも該ヒドロゲルにチキソトロピー性を付与でき得ることが示された。
Claims (5)
- 式(1)
で表される構造を有するアルキルアミド−D−グルカミンおよびアルケニルアミド−D−グルカミンからなる群から選択される少なくとも一種又はその薬学的に使用可能な塩からなることを特徴とするゲル化剤。 - R1−(C=O)−基がパルミトイル基又はステアロイル基であり、R2及びR3が水素原子であり、nが1又は2であり、mが1である、請求項1に記載のゲル化剤。
- R1−(C=O)−基がオレオイル基であり、R2及びR3が水素原子であり、nが1乃至3であり、mが1又は2である、請求項1に記載のゲル化剤。
- 請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載のゲル化剤と、水、アルコール、水溶液、アルコール溶液、親水性有機溶液又は疎水性有機溶液よりなるゲル。
- チキソトロピー性を発現する、請求項4に記載のゲル。
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