しかしながら、光信号の1チャネルに対して高周波電気信号を多チャネル化したり、光送受信デバイスを小型化したりすると、いずれの場合でも光伝送装置内で送信デバイスと受信デバイスとの間の距離が短くなってくる。送信デバイスおよび受信デバイスがあまりに近接すると、相互のデバイス間で電気信号のクロストークが大きくなる問題があった(特許文献1)。
図9は、従来技術による光送受信システムの概略の構成を示す図である。光送受信システムは、これに限定はしないが、基幹ネットワークを取り扱う通信業者のネットワークセンタにおいて使用される光伝送装置が一例である。図9に示した光送受信システム900は、この光伝送装置の一部に対応しており、光信号の送信および受信を行う機能部分を主に示している。光送受信システム900は、イーサネット(登録商標)との送信側インタフェース914および受信側インタフェース915で、例えば図には示されていないルータ装置などと接続される。2つのインタフェース914、915の配線は、イーサネットとの接続を概念的に示したものである。また、光送受信システム900は、図に示されていないCPUを含む制御部やメモリなどを持っていても良い。さらに、図9の中で1つのブロックで表示した各要素は、各要素の機能を明示するために別個のブロックとして表記したものであって、実際のデバイスの物理的構成とは関係がないことに留意されたい。
光信号と電気信号のインタフェースの観点からは、光送受信システム900は、大別して、光信号および電気信号を変復調のためにアナログ的に処理するアナログ信号処理デバイス部901と、電気信号をデジタル領域で信号処理するデジタル信号処理デバイス部902とからなる。信号送信インタフェース914からの送信情報データに基づいて信号生成部903で生成されたデジタル電気信号は、デジタルアナログ変換器(DAC:Digital- to -Analog Converter)904にて、変調方式に対応したアナログ信号に変換される。DAC904からの出力電気信号は、変調器ドライバ905において変調器を駆動するのに十分な電圧(電流)レベルまで増幅され、光変調器906によって光信号に変換される。送信情報によって、変調された光信号は、出力用光ポート907から光ファイバなどへ出力される。
一方、光ファイバから入力用光ポート908に入力された光信号は、光受信器909によって受信されて電気信号に変換される。光受信器909からの出力電気信号は、トランスインピーダンス増幅器(TIA:Transimpedance Amplifier)910によってデジタル信号へ変換するのに適切なレベルまで増幅され、アナログデジタル変換器(ADC:Analog-to-Digital Converter)911に入力される。光信号の変調方式に対応したアナログ受信信号は、ADC911でデジタル信号に変換され、さらに信号受信部912により受信される。信号受信部912では、受信されたデジタル信号から復号処理などが実施され、受信情報データが信号受信インタフェース915へ送られる。
上述のようにアナログ信号処理デバイス部901およびデジタル信号処理デバイス部902は、半導体チップや光回路、光部品などが搭載された別個のモジュールとして構成もできるし、一体のモジュールまたはチップとして構成もできる。光変調器906へのアナログ変調信号および光受信器909からのアナログ復調信号は、光伝送装置の帯域幅にもよるが数10GHz以上の周波数成分を持つ高周波信号である。したがって、DAC904から光変調器906までの経路、および、光受信器909からADC911までの経路は、それぞれ高周波信号伝送路913で結ばれている。高周波信号伝送路913は様々な形態で実現されるが、DAC904およびADC911の動作の安定性や実装の容易さを考慮して、PCB基板上のストリップラインとして構成される場合が多い。
数GHz程度のより低い周波数を取り扱う無線通信端末などでは、多層基板を使用してビアを用いて内層にストリップラインを形成することができる。しかしながら、光伝送装置のようにベースバンド信号が数10GHzを超える周波数の電気信号を基板上で扱う場合には、状況は大きく変わってくる。誘電体による損失や反射波の発生を避けるために、ビアなどを使用せずに基板の表層においてストリップラインを形成するのが一般的である。表層に形成されたストリップラインによる高周波信号伝送路913は、高周波信号を周囲の空間や媒質へ放射し易く、同時に周囲の高周波信号を吸収しやすい。このため、送信側のストリップラインと受信側のストリップラインが近接していれば、相互にクロストークが生じる。特に、送信側デバイスにおける高レベルの変調信号から受信側デバイスへの低レベルの復調信号への電気信号クロストークにより、信号受信部912で受信する信号の特性が劣化してしまう問題があった。従って、図9のDAC904および変調器ドライバ905の間の送信側ストリップラインから、TIA910およびADC911の間の受信側ストリップラインへの高周波信号伝送路913におけるクロストークのほか、変調器ドライバ905の出力側からTIA910の入力側へのクロストークもより大きな問題となる。このようなクロストークが大きいと、受信信号自体の品質が劣化してエラーベクトル振幅(EVM:Error Vector Magnitude)が増えたり、受信系のビット誤り率(BER:Bit Error Rate)が高くなったりする問題が生じていた。
また、上述の電気信号クロストークの問題を考慮した送信側デバイスおよび受信側デバイスの構成や配置を行う必要があり、光伝送装置の小型化に対しても制限を与えていた。例えば、上述の送信側のストリップラインと受信側のストリップラインを、相互で電気信号クロストークの影響が無い様に、十分に離したレイアウトとする必要があった。従って、好ましくは別個の基板にストリップラインを構成する必要があった。場合によっては、基板上の異なる面に送信側のストリップラインと受信側のストリップラインを別々に構成する、クロストーク防止のためのシールド機構・部材の追加などの必要もあった。このような回路配置の実装上の制限は、光伝送装置の小型化の障害になっていた。
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、光送受信システムの光伝送装置における送信側から受信側への電気信号のクロストークを補償する光送受信システムを提供することにある。
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、送信情報に基づいて、前記送信情報に対応するデジタル送信データを生成する信号生成部と、前記デジタル送信データが入力され、対応する1つ以上のアナログ送信信号を生成するデジタルアナログ変換器(DAC)と、第1の高周波信号伝送路を経由して前記1つ以上のアナログ送信信号が入力され、変調された光信号を送信する送信用光デバイスと、光信号を受信して、前記受信した光信号から1つ以上のアナログ受信信号を出力する受信用光デバイスと、第2の高周波信号伝送路を経由して前記1つ以上のアナログ受信信号が入力され、対応するデジタル受信データを生成するアナログデジタル変換器(ADC)と、前記デジタル受信データに基づいて、対応する受信情報を生成する信号受信部と、前記デジタル送信データに基づいて、前記対応する1つ以上のアナログ送信信号の各々の位相および振幅を変化させた信号を合算した補償信号を生成し、前記デジタル受信データに加算するよう構成されたクロストーク補償回路とを備えたことを特徴とする光送受信システムである。
請求項2に記載の発明は、請求項1の光送受信システムであって、前記受信用光デバイスから前記ADCへ前記1つ以上のアナログ受信信号が入力されていないとき、前記信号受信部における前記1つ以上のアナログ受信信号に対応する信号の振幅が最小となるように、前記補償信号が設定されていることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1の光送受信システムであって、前記1つ以上のアナログ受信信号がトレーニング信号を含むとき、前記信号受信部において、前記1つ以上のアナログ受信信号に対応する信号から前記トレーニング信号の周波数成分を除いた信号が最小となるように、前記補償信号が設定されていることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3いずれかの光送受信システムであって、前記クロストーク補償回路は、前記対応する1つ以上のアナログ送信信号の各々に遅延を与える遅延機能と、前記対応する1つ以上のアナログ送信信号の各々を定数倍する乗算機能と
を含むことを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4いずれかの光送受信システムであって、前記クロストーク補償回路は、前記対応する1つ以上のアナログ送信信号の各々に作用する有限インパルス応答フィルタを含むことを特徴とする。有限インパルス応答フィルタは、実施例3、4における固定等化器、実施例5における適応等化器に対応する。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5いずれかの光送受信システムであって、前記クロストーク補償回路は、遅延時間が固定長の遅延回路を含むことを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至4いずれかの光送受信システムであって、前記クロストーク補償回路は、前記対応する1つ以上のアナログ送信信号の各々をフーリエ変換する高速フーリエ変換回路と、周波数領域で遅延および振幅を変化させる位相振幅演算回路と、遅延および振幅を変化させた前記対応する1つ以上のアナログ送信信号を逆フーリエ変換する逆高速フーリエ変換回路とを含むことを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至4いずれかの光送受信システムであって、前記光送受信システムは、ルータに接続される光伝送装置であり、前記第1の高周波信号伝送路および前記第2の高周波信号伝送路は、同一基板の同一の表層に構成されたストリップラインであることを特徴とする。
以上説明したように、本発明の光送受信システムによれば、送信側から受信側への電気信号のクロストークを低減ことができる。クロストークの低減によって、送信用光回路および受信用光回路の配置構成条件も緩和され、光伝送装置の小型化を助ける。
本発明の光送受信システムでは、デジタル領域で送信側から受信側への電気信号のクロストークを補償する補償回路を備える。光送受信システムにおいては、通常の無線周波数の通信システムとは異なり、ベースバンド信号自体が数10GHz以上の帯域を持つ高周波信号であって、ベースバンド信号におけるクロストークを無視できない。本発明の光送受信システムでは、従来の光送受信システムで容認していたベースバンド信号のクロストークを積極的に抑える。受信信号が存在しない時間を使って、補償回路のパラメータの構成を決定する。一例を挙げれば、本発明の光送受信システムは、クロストーク補償回路を含む光伝送装置として実現できる。クロストーク補償回路は、典型的には、デジタル信号処理プロセッサを用いて実現することができる。受信信号のエラーベクトル振幅(EVM)を改善し、BERを改善する。合わせて、ストリップラインの配置構成などで、送信用光回路および受信用光回路の配置構成条件を緩和する効果もある。
以下、図面および数式を参照しながら、本発明の光送受信システムの様々な実施例について説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る光送受信システムの構成を示す図である。光送受信システムは、具体的には、これに限定はしないが、基幹ネットワークを取り扱う通信業者のネットワークセンタにおいて使用される光伝送装置として実施できる。光送受信システム100は、一例を挙げれば、イーサネットとの送信側インタフェース113および受信側インタフェース114で、例えば図には示されていないルータ装置などと接続される。2つのインタフェース113、114の配線はイーサネットとの接続を概念的に示したものである。また、本発明の光送受信システム100は、図に示されていないCPU、DSP(Digital Signal Processor)を含む制御部やメモリなどを持っていても良い。さらに、図1の中で1つのブロックで表示した各要素は、各要素の機能を明示するために別個のブロックで表記したものであって、実際のデバイスの物理的構成とは関係がないことに留意されたい。
本発明の光送受信システム100は、大別して、光信号および電気信号をアナログ的に処理するアナログ信号処理デバイス部101、並びに、電気信号をデジタル的に処理するデジタル信号処理デバイス部102から成る。送信側インタフェースからの送信データ情報に基づいて信号生成部103で生成されたデジタル電気信号は、DAC104にてアナログ信号に変換される。DAC104からの出力電気信号は、高周波伝送路112を経由して、変調信号として送信用光デバイス105に与えられ、所定の変調方式に従った光信号に変換される。送信用光デバイス105からの光信号は、出力用光ポート107から出力され、光ファイバなどに与えられる。送信用光デバイス105は、PLC(Planar Lightwave Circuit)または基板上に構成された光部品などを含むモジュールとして構成することができる。また、次に述べる受信側のデバイスを含む構成も可能である。
一方、光ファイバなどから入力された入力用光ポート108から入力された光信号は受信用光デバイス106にて電気信号に変換される。受信用光デバイス106からの電気信号は、高周波伝送路112を経由してADC109に与えられ、デジタル信号に変換される。変換されたデジタル信号は、信号受信部110により受信および信号処理され、受信情報データとして、受信側インタフェース114へ出力される。
DAC104から送信用光デバイス105までの経路、および、受信用光デバイス106からADC109までの経路は高周波信号伝送路112で結ばれている。上述の構成は、概ね従来技術の光伝送装置の構成と同様である。本発明では、信号生成部103の出力が入力され信号受信部110の入力に出力されるクロストーク(XT)補償回路111をさらに備えている。
以下では、まず本発明の光送受信システムにおけるクロストーク補償回路111の機能について数式を使って説明する。受信用光デバイス106からの4チャネルの出力信号をsrai(i=1,2,3,4)とし、信号生成部103からの4チャネルの出力信号をstj(j=1,2,3,4)とする。高周波伝送路112において、送信側アナログ信号ラインから受信側アナログ信号ラインへのクロストークを受けた場合、デジタル領域で信号受信部110の4チャネルの入力信号srdi(i=1,2,3,4)は、次式によって表される。
式(1)において、右辺の第2項の係数αijは周波数依存性を持つ複素数である。
デジタル領域で、クロストーク補償回路111の出力を加算してクロストークを補償した後の信号受信部110の4チャネルの入力信号srd’i(i=1,2,3,4)は、次式で表される。
式(2)において、右辺の第3項の係数βijは周波数依存性を持つ複素数である。式(2)では、右辺の第2項が高周波伝送路112における送信側アナログ信号ラインから受信側アナログ信号ラインへのクロストーク成分であり、第3項がクロストーク補償回路111からの出力である。したがって、クロストーク補償回路111においては、次式の関係が成り立つように演算を施すことで送信側から受信側へのクロストークが補償される。
受信用光デバイス106が無出力のときには、srai=0となるので、信号受信部110の4チャネルの入力信号srd’’i(i=1,2,3,4)は、次式で与えられる。
上述の式(1)〜式(4)からもわかるように、本発明の光送受信システムにおいて、クロストーク補償回路は、受信信号の信号経路に現われた送信信号の相殺回路として機能していることがわかる。
したがって、本発明は、送信情報に基づいて、前記送信情報に対応するデジタル送信データを生成する信号生成部103と、前記デジタル送信データが入力され、対応する1つ以上のアナログ送信信号を生成するデジタルアナログ変換器(DAC)104と、第1の高周波信号伝送路を経由して前記1つ以上のアナログ送信信号が入力され、変調された光信号を送信する送信用光デバイス105と、光信号を受信して、前記受信した光信号から1つ以上のアナログ受信信号を出力する受信用光デバイス106と、第2の高周波信号伝送路を経由して前記1つ以上のアナログ受信信号が入力され、対応するデジタル受信データを生成するアナログデジタル変換器(ADC)109と、前記デジタル受信データに基づいて、対応する受信情報を生成する信号受信部110と、前記デジタル送信データに基づいて、前記対応する1つ以上のアナログ送信信号の各々の位相および振幅を変化させた信号を合算した補償信号を生成し、前記デジタル受信データに加算するよう構成されたクロストーク補償回路111とを備えたことを特徴とする光送受信システムとして実施できる。
ここで、信号受信部110への入力信号srd’’iの振幅値をモニタして、この振幅値が最小となるような係数βijを求めれば良い。クロストーク補償回路111においてモニタする値は振幅値ではなくて振幅値と相関のある二乗平均平方根値であっても構わないし、振幅値のピーク値であっても構わない。受信用光デバイス106が無出力となるのは、光ファイバなどから入力用光ポート108に光信号が入力されない場合、受信用光デバイス106に設けられたシャットダウン機能によって出力を遮断する場合などがある。本発明において、クロストーク補償回路111の係数βijを求めるための調整工程をどのようなタイミングで行うかは、クロストーク補償回路の具体的な構成に応じて、決定すれば良い。
したがって本発明では、受信用光デバイス106からADC109へ1つ以上のアナログ受信信号が入力されていないとき、信号受信部110における前記1つ以上のアナログ受信信号に対応する信号の振幅が最小となるように、クロストーク補償回路111の補償信号が設定されていることになる。
クロストーク補償回路111の係数βijを求めるためには、既知のトレーニング信号を利用することもできる。トレーニング信号を受信している時の信号受信部110の4チャネルの入力信号srd’’’i(i=1,2,3,4)は、次式で表される。
式(5)において、strはある単一の周波数をもつ正弦波である。送信側アナログ信号ラインから受信側アナログ信号ラインへのクロストーク信号は、広く分布した周波数成分を持つ信号である。信号受信部110の入力信号srd’’’iからトレーニング信号の周波数成分を除いた信号をモニタして、この信号の振幅値が最小となるような係数βijを求めれば良い。トレーニング信号は、使用する光送受信システムの仕様に合わせて選択することができる。一例を挙げれば、対象とするシステムの信号のシンボルレートの1/2の周波数などを利用できる。具体的には、最近商用化されているシンボルレートが32GBaudのシステムでは16GHzのトレーニング信号となる。トレーニング信号を利用してクロストーク補償回路111の係数βijを求めるための調整工程をどのようなタイミングで行うかは、クロストーク補償回路の具体的な構成に応じて、決定すれば良い。
したがって本発明では、1つ以上のアナログ受信信号がトレーニング信号を含むとき、信号受信部110において、前記1つ以上のアナログ受信信号に対応する信号から前記トレーニング信号の周波数成分を除いた信号が最小となるように、クロストーク補償回路111の補償信号が設定されていることになる。
図2は、本発明の光送受信システムにおけるクロストークの補償効果を説明する図である。図2の(a)は、クロストーク補償回路を持たない従来技術の光送受信システムで受信したQPSK信号を、信号受信部で解析した信号点図(コンスタレーションマップ)である。エラーが無い理想信号点のからのずれ量の平均値を示し、その値が低いほど信号品質が高いことを示す指標であるエラーベクトル振幅(EVM:Error Vector Magnitude)は、18.2%であった。図2の(b)は、クロストーク補償回路を備えた本発明の実施例1に係る光送受信システムで受信した信号のコンスタレーションマップである。そのEVMは9.7%と、従来技術の場合と比べて半減しており、受信信号の信号点のバラつきが抑えられている。クロストーク補償回路の効果により従来技術の光送受信システムと比較して品質の高い信号が受信できていることがわかる。なお、EVMはBERへ換算可能なパラメータであり、EVMが小さいとBERが低く、EVMが大きいとBERが高いという関係性がある。したがって、図2の(b)のように受信信号のEVMが改善されれば、同時にBERも改善されることになる。
上述の実施例1の説明では、送信側および受信側いずれも4つのチャネルの電気信号からなる光送受信システムを例としたが、この構成が多くの商用システムの光伝送装置で広く用いられているためである。本発明の実施例1に係る光送受信システムは、このチャネル数の例に限定されるものではなく、NとMは任意の自然数として、送信側がNチャネル、受信側がMチャネルの光送受信システムに対して、同様の効果を発揮する。以下の実施例では、クロストーク補償回路のより具体的な構成例を示す。
図3は、本発明の実施例2に係る光送受信システムのクロストーク補償回路の構成を示す図である。以後のすべての実施例では、光送受信システムの全体構成は、図1と同じである。図1におけるDACの出力側の高周波伝送路およびADCへの入力側の高周波伝送路間で生じるクロストークを補償するためのクロストーク補償回路の構成に絞って説明する。図3の本発明の実施例2に係る光送受信システムのクロストーク補償回路300は、送信信号が入力される4つの入力用ポート301と、入力用ポート301から入力された信号が入力される16の遅延回路302と、遅延回路302の出力と係数aを乗算する乗算器303と、乗算器303の出力を加算する加算器304と、加算器304の出力が接続された出力用ポート305とを備える。
遅延回路302の各々が、デジタル領域で4チャネルの送信信号からの16(4チャネル×4)の入力に対してそれぞれ位相変化を与え、乗算器303が上記16の入力に対してそれぞれ振幅変化を与える。遅延回路302の出力および乗算器303の出力は、その後加算器304により加算される。上述の遅延回路302の遅延時間および乗算器303のゲインにより、式(3)における係数βijを実現する演算がなされる。図3の遅延回路、乗算器、加算器の構成は、DSPを使用したデジタル領域の演算によってソフトウェアによって実現することができる。すなわち、図1(図3)のクロストーク補償回路111(300)は、デジタルデータである送信信号および実際に観測される受信用光デバイスからのデジタルデータである受信信号に基づいて、デジタル領域で係数βijを満たす遅延回路302、乗算器303および加算器304の具体構成(遅延時間、ゲインのパラメータ設定)を決定する。
図1を再び参照すると、信号生成部103および信号受信部110の各信号処理も、DSPによって実施されるのが一般的なので、信号生成部103、信号受信部110およびクロストーク補償回路111のすべての信号処理を共通のDSPで実施することができる。もちろん、各機能を別個のDSPによって実施しても良く、デジタル信号処理のためにどのようなハードウェアの構成、組み合わせを用いても良い。また、遅延時間を設定可能(プログラマブル)な遅延回路302、ゲインを設定可能(プログラマブル)な乗算器303および加算器を、ハードウェアの論理回路で構成することも可能である。また、ハードウェアおよびDSPによる演算処理を組み合わせて構成しても良い。
実施例1で説明した、受信用光デバイス106からの信号が無い場合、または、受信用光デバイス106からトレーニング信号を受信する状態のいずれかで、式(3)における係数βijを求め、この係数βijを実現するための遅延回路302、乗算器303および加算器304の遅延時間、ゲインのパラメータを決定する。
本発明の光送受信システムでは、クロストーク補償回路を備えることで、送信用光回路と受信光回路との間にクロストークを大幅に抑えることが可能となる。従って、送信用光回路の高周波伝送路(ストリップライン)と、受信用光回路の高周波伝送路(ストリップライン)を同一基板上に作成することも可能となる。また、同一基板に作成されているが、反対側の面に作成されていた2つの伝送線路を、同一面上に作成することもできる。したがって、これまでクロストークのために制限を受けていた、光回路の構成配置がはるかに緩やかな制限条件で行える効果が生じることに留意されたい。
また、クロストークが発生するのは、送信・受信間で信号レベル差の大きい箇所においてである。例えば送信側の変調信号を増幅する送信アンプの後から、受信側の復調信号を増幅する受信アンプの手前へのクロストークが問題となる。本発明のように、クロストーク補償回路を備えることで、例えば上記の2つのアンプを送信用光デバイスまたは受信用光デバイスのどちらかに一体集積したり、さらには送信用光デバイスと受信用光デバイスを一体集積したりする場合にも、本発明のクロストーク補償回路による受信信号の劣化防止によって、実装上の小型化の大きな助けとなる。したがって、従来技術では送信側から受信側へのクロストークが障壁となって実現できなかった送受一体集積化に対して非常に効果的である。この効果は、次以降に述べる各実施例でも共通している。
図4は、本発明の実施例3に係る光送受信システムのクロストーク補償回路の構成を示す図である。本発明の実施例3に係る光送受信システムのクロストーク補償回路400は、送信信号が入力される4つの入力用ポート401と、入力用ポート401から入力された信号が入力される16の固定等化器402と、固定等化器402の出力を加算する加算器404と、加算器404の出力が接続された出力用ポート405とを備える。4チャネルの送信信号からの16(4チャネル×4)の入力に対して、16の固定等化器402がそれぞれ位相変化および振幅変化を与える。その後、固定等化器402からの4つのチャネルの送信信号が加算器404で加算されることにより、式(3)における係数βijを実現する演算がなされる。
上述の説明で、固定等化器402の「固定」の意味するところは、後述の実施例5との関係で、係数βijを実現する等化器の位相値および振幅値(ゲイン)がそれぞれ一旦設定されれば、その値が固定維持される点にある。図4の固定等化器、加算器の構成は、DSPを使用したデジタル領域の演算によってソフトウェアによって実現することができる。実施例1および実施例2と同様に、受信用光デバイス106からの信号が無い場合、または、受信用光デバイス106からトレーニング信号を受信する状態のいずれかで、式(3)における係数βijを求め、この係数βijを実現するための固定等化器402の位相値および、振幅値(ゲイン)のパラメータを決定する。
図5は、本発明の実施例4に係る光送受信システムのクロストーク補償回路の構成を示す図である。実施例4の光送受信システムのクロストーク補償回路500は、送信信号が入力される4つの入力用ポート501と、入力用ポート501から入力された信号が入力される16の遅延回路502と、遅延回路502の出力が入力される固定等化器503と、固定等化器503の出力を加算する加算器504と、加算器504の出力が接続された出力用ポート505とを備える。一般に固定等化器は任意の位相変化と振幅変化を与えることが可能であるが、大きな位相差を与えるためには回路規模を大きくする必要がある。そこで、実施例4の光送受信システムのクロストーク補償回路のように固定等化器503の前に遅延回路502を設け、大きな位相変化は遅延回路502で与えて小さな位相変化を固定等化器503で与えることで、全体としての回路規模を小さくすることができる。
したがって、4チャネルの送信信号からの16(4チャネル×4)の入力に対して、遅延回路502および固定等化器503によって位相値を設定し、固定等化器503によって振幅値(ゲイン)を設定する。実施例1〜3と同様に、受信用光デバイス106からの信号が無い場合、または、受信用光デバイス106からトレーニング信号を受信する状態のいずれかで、式(3)における係数βijを求め、この係数βijを実現するための遅延回路502および固定等化器503の位相値および、固定等化器503の振幅値(ゲイン)のパラメータを決定する。このような構成とすることで、回路規模の増大を抑えて本発明の効果を奏することができる。
図6は、本発明の実施例5に係る光送受信システムのクロストーク補償回路の構成を示す図である。実施例5の光送受信システムのクロストーク補償回路600は、送信信号が入力される4つの入力用ポート601と、入力用ポート601から入力された信号が入力される16の適応等化器602と、適応等化器602の出力を加算する加算器603と、加算器603の出力が接続された出力用ポート605とを備える。
4チャネルの送信信号からの16(4チャネル×4)の入力に対して、適応等化器602がそれぞれ位相変化および振幅変化を与え、その後、4つのチャネルからの送信信号が加算器603により加算される。実施例1〜4と同様に、本実施例でも受信用光デバイス106からの信号が無い場合、または、受信用光デバイス106からトレーニング信号を受信する状態のいずれかで、式(3)における係数βijを求め、この係数βijを実現するための適応等化器602の位相値および振幅値(ゲイン)のパラメータを決定する。本実施例の適応等化器602における「適応」の意味するところは、係数βijを実現する等化器の位相値および振幅値(ゲイン)が、光伝送装置の状態に応じて適応的に更新されるところにある。
本実施例では、クロストークを補償するための係数βijを求め、適応等化器602の位相値および振幅値(ゲイン)のパラメータを決定する調整工程を、光伝送装置の状況に応じて、定期的に繰り返すところに特徴がある。高周波伝送路におけるクロストーク量は、外部温度の変化によって変化し得る。例えば、温度変化により高周波伝送線路の誘電体部の比誘電率が変化し、特性インピーダンスが変化する。このため、高周波伝送線路をクロストークの送/受信アンテナと見たときの送信/受信周波数特性が変化する。
先に述べたように、光伝送装置においては、プラガブルな複数のモジュール(例えば、CFP2)を装置内に挿入して、必要な通信容量やチャネル数に適応させて、装置を構成する。したがって、光伝送装置に新たなモジュールが挿入されたり、除去されたりすれば、光伝送装置内の温度分布が変わり、クロストーク量が変化し得る。
トレーニング信号を受信する場合の式(5)において、srd’’’iの振幅値からトレーニング信号の周波数成分を除いた信号をモニタして、必要なタイミングでクロストークを補償するための係数βijを求め、適応等化器602の位相値および振幅値(ゲイン)のパラメータを決定することができる。適応等化器602の位相値および振幅値(ゲイン)のパラメータを更新することにより、クロストーク補償回路600は最適な補償状態が維持される。トレーニング信号は、システムの仕様に応じて、一定の時間間隔で定期的に受信することが可能であって、数秒の単位で繰り返しクロストーク補償回路の構成を更新することも可能である。また、先の述べた無信号状態を生じさせるシャットダウン機能に加えて、光伝送装置の受信用デバイスの内部でトレーニング信号を発生させるような構成も可能である。これによって、光信号からのトレーニング信号に頼らずに任意の時間に、クロストークを補償するための係数βijを求め、適応等化器602の位相値および振幅値(ゲイン)のパラメータを決定する調整工程を実施できる。
上述の調整工程をいつどのようなタイミングで実施するかは、光伝送装置の環境に応じて様々な変更が可能である。また調整工程を何らかのイベント(例えば、電源ON、リセット、装置のメインテナンス、外部からのトリガ信号)によってトリガされる構成とすることもできる。本実施例のような構成とすることで、クロストーク量が数秒程度のオーダーで時間的に変化する状況においても、本発明の光送受信システムにおけるクロストークの低減効果を発揮できる。
図7は、本発明の実施例6に係る光送受信システムのクロストーク補償回路の構成を示す図である。実施例6の光送受信システムのクロストーク補償回路700は、4つの送信信号の入力用ポート701と、入力用ポート701から入力された信号が入力される4つのフーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)回路702と、FFT回路702の出力が入力される16の位相・振幅演算回路703と、位相・振幅演算回路703の出力が入力される16の逆フーリエ変換(IFFT:Inversed Fast Fourier Transform)回路704と、IFFT回路704の出力を加算する加算器706と、加算器706の出力が接続された出力用ポート705とを備える。
クロストーク補償回路700に入力された、4チャネルの送信信号からの16(4チャネル×4)の入力信号は、FFT回路702により周波数情報に変換された後に周波数軸上で位相・振幅演算回路703により位相変化と振幅変化が与えられる。その後、周波数領域の信号は、IFFT回路704により再び時間軸情報に戻される。補償すべきクロストーク成分が大きな遅延時間差を持つ場合には、周波数領域において補償回路の係数βijを求め、位相・振幅演算回路703の位相値および振幅値パラメータを演算するほうが、演算時間がより少なく済むという利点がある。本実施例の構成であっても、式(3)におけるβを満たす演算がなされ、上述の全ての実施例と同様本発明の効果を発揮する。
図8は、本発明の実施例6に係る光送受信システムの変形したクロストーク補償回路の構成を示す図である。実施例6の変形例の光送受信システムのクロストーク補償回路800は、図7に示した実施例7の光送受信システムのクロストーク補償回路700と比較してIFFT回路806と加算回路804の順序が入れ替わっている。すなわち、クロストーク補償回路800は、送信信号が入力される4つの入力用ポート801と、入力用ポート801から入力された信号が入力される4つのFFT回路802と、FFT回路802の出力が入力される16の位相・振幅演算回路803と、位相・振幅演算回路803の出力を加算する加算器804と、加算器804の出力を逆フーリエ変換するIFFT回路806と、FFT回路806の出力が接続された出力用ポート805とを備える。
本変形例の構成であっても、式(3)における係数βijを求め、この係数βijを実現するための遅延回路502および固定等化器503の位相値および、固定等化器503の振幅値(ゲイン)のパラメータを決定する。このような構成とすることで、回路規模の増大を抑えて本発明の効果を奏することができる。
本発明の光送受信システムにおけるクロストーク補償回路は、独立した別個のアナログ信号が伝送される高周波伝送路間で、高周波信号のクロストークが生じる場合に、別個のアナログ信号のそれぞれの対応するデジタル領域の信号間にこのクロストーク補償回路を配置できる場合に適用できる。図1に示したような高レベルの送信信号と低レベルの受信信号が共存するような場合に好適であるが、図1に示した光伝送装置の例だけに限られない。例えば図1では光送受信システム100は、外部のネットワーク要素(ルータ)とのインタフェース113、114を持つものとして説明したが、外部のネットワーク要素とのインタフェースを持たない単一の独立した装置にも適用できる。また、光信号を含まない、電気信号だけの装置におけるクロストークの補償にも適用できる。
本発明の光伝送装置におけるクロストーク補償回路は、図1における信号生成部103や信号受信部110のためにDSPを使用していれば、既存のDSPの中の信号処理の一部としてクロストーク補償回路の機能を追加することで簡単に実施できる。したがって、追加のハードウェアなしに、受信信号品質の改善と、送信回路および受信回路の一体化を含む回路配置や実装条件の緩和にも役立つことに注目されたい。すなわち、回路配置条件や実装条件の緩和を通じて、光伝送装置の小型化にも非常に効果的である。
以上詳細に説明してきたように、本発明の光送受信システムは、クロストーク補償回路を備えることで、光伝送装置における送信側から受信側へのクロストークを効果的に補償することができる。さらにクロストークの低減によって、送信用光回路および受信用光回路の配置構成条件も緩和され、光伝送装置の小型化をより容易にすることができる。