図1は、真空ガラスパネルの一例(真空ガラスパネル1)を示す。図1は図1A〜図1Cからなる。図1Aは、平面図、図1Bは断面図、図1Cは分解斜視図である。図1A〜図1Cは、真空ガラスパネルを模式的に示しており、各部の実際の寸法はこれと異なるものであってよい。特に、図1Bでは、理解しやすいよう、真空ガラスパネルの厚みが大きくなっている。
真空ガラスパネル1は、基本的に透明である。そのため、真空ガラスパネル1の内部の部材(たとえば、網11、枠体30、スペーサ40)が視認され得る。図1Aでは、視認された内部の部材を描画している。図1Aでは、真空ガラスパネル1を第2ガラス体20側から見ている。
真空ガラスパネル1は、第1ガラス体10と、第2ガラス体20と、第1ガラス体10と第2ガラス体20とを接着する枠体30とを備えている。真空ガラスパネル1は、真空空間50を備えている。真空空間50は、第1ガラス体10と第2ガラス体20との間に配置されている。真空ガラスパネル1は、真空空間50を備えるため、真空ガラスパネル1の厚み方向に熱が伝わりにくい。そのため、真空ガラスパネル1は断熱性に優れる。
真空ガラスパネル1は、複数のスペーサ40を備えている。複数のスペーサ40により、第1ガラス体10と第2ガラス体20との間の距離が確保され、真空空間50が容易に形成される。
本実施形態では、第1ガラス体10は、網11を含んでいる。網11は、第1ガラス体10の内部に配置されている。第1ガラス体10は、いわば、網入りガラス板で形成される。網入りガラス板により、真空ガラスパネル1の防火性が向上する。網入りガラス板により、真空ガラスパネル1の強度が向上する。網入りガラス板により、真空ガラスパネル1の安全性が向上する。網入りガラス板は、ガラスが割れたときに、ガラスが散らばりにくい。火災発生のときに網入りガラス板が熱割れしても、網11があることで、ガラスが散らばらず、炎の通過を抑制し、火災の拡大を抑制することができる。
網11は、金属製である。網11は、たとえば、鉄、又は鉄を含む金属材料から形成され得る。網11は、垂直な2つの方向に伸びる複数の線11a及び線11bで形成されている。網11は、格子状の構造を有する。網11の径(線の太さ)は、たとえば、0.1〜1mmである。
第1ガラス体10において、内面は第1面10aと定義され、外面は第2面10bと定義される。第2ガラス体20において、内面は第1面20aと定義され、外面は第2面20bと定義される。第1ガラス体10の第1面10aと第2ガラス体20の第1面20aとは対向している。
第1ガラス体10の第1面10aには、赤外線反射膜が設けられていてもよい。第2ガラス体20の第1面10aには、赤外線反射膜が設けられていてもよい。赤外線反射膜により、赤外を遮断するため、真空ガラスパネル1の断熱性が向上する。
真空ガラスパネルは、たとえば建物に適用される場合、第1ガラス体10が屋外側に配置され、第2ガラス体20が屋内側に配置される。もちろん、その逆に、第1ガラス体10が屋内側に配置され、第2ガラス体20が屋外側に配置されてもよい。
第1ガラス体10及び第2ガラス体20の厚みは、たとえば、1〜10mmの範囲内である。本実施形態では、第1ガラス体10の厚みは、第2ガラス体20の厚みよりも厚い。第1ガラス体10の厚みが厚くなると、網11がガラスによって強く支持される。
図1Aに示すように、第1ガラス体10及び第2ガラス体20は、矩形状である。真空ガラスパネル1は、矩形状である。第1ガラス体10と第2ガラス体20とは、平面視における外縁が揃っている。平面視とは、真空ガラスパネル1を厚み方向に沿って見ることを意味する。
第1ガラス体10及び第2ガラス体20の材料の例は、たとえば、ソーダライムガラス、高歪点ガラス、化学強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ネオセラム、物理強化ガラスである。なお、この場合、第1ガラス体10の材料は、網11以外のガラス部分の材料を意味する。
真空空間50は、第1ガラス体10、第2ガラス体20及び枠体30で密封されている。枠体30は、シーラーとして機能する。真空空間50は、真空度が所定値以下である。真空度の所定値は、たとえば、0.01Paである。真空空間50は、排気により形成される。真空空間50の厚みは、たとえば、10〜1000μmである。
真空ガラスパネル1は、真空空間50にガス吸着体を備えていてもよい。ガス吸着体は、ゲッタを含み得る。ガス吸着体により、真空空間50のガスが吸着されるため、真空空間50の真空度が維持され、断熱性が向上する。ガス吸着体は、たとえば、第1ガラス体10の第1面10a、第2ガラス体20の第1面20a、枠体30の側部、スペーサ40の中、のいずれかに設けられてよい。
枠体30は、ガラス接着剤で形成される。ガラス接着剤は、熱溶融性ガラスを含む。熱溶融性ガラスは、低融点ガラスとも呼ばれる。ガラス接着剤は、たとえば、熱溶融性ガラスを含むガラスフリットである。ガラスフリットは、たとえば、ビスマス系ガラスフリット、鉛系ガラスフリット、バナジウム系ガラスフリットである。
スペーサ40は、真空空間50内に配置されている。スペーサ40は、第1ガラス体10の第1面10aに接し、第2ガラス体20の第1面20aに接する。スペーサ40は、平面視において、網11と重なるように配置されている。本実施形態では、スペーサ40は、網11の交差点11cに配置されている。交差点11cは、第1の方向に伸びる線11aと第2の方向に伸びる線11bとの交点である。スペーサ40が交差点11cに配置されると、スペーサ40が目立ちにくくなり、真空ガラスパネル1の外観がよくなる。スペーサ40の直径は、たとえば、0.1〜10mmである。スペーサ40は、網11の線の幅と同じかそれよりも小さくてもよい。その場合、スペーサ40が隠れてより目立たなくなる。
以下、真空ガラスパネル1の製造例を説明する。
図2及び図3は、真空ガラスパネル1の製造例を示している。図2は図2A〜図2Dからなる。図2A〜図2Dは断面図である。図3は図3A及び図3Bからなる。図3A及び図3Bは平面図である。図3では、図1A同様、内部の部材が描画されている。
真空ガラスパネル1の製造では、途中段階で、第1ガラス体10と、第2ガラス体20と、ガラス接着剤300と、スペーサ40とを含むガラス複合物100が形成される。図2C及び図3Aは、ガラス複合物100を示している。
真空ガラスパネル1の製造にあたっては、まず、第1ガラス体10と第2ガラス体20とを準備する。図2Aには、準備された第1ガラス体10が示されている。第1ガラス体10は排気口103を有している。排気口103は、網11と重ならないように設けられている。排気口103は、第1ガラス体10を貫通する孔の出口である。第1ガラス体10は、排気管104を有している。排気管104は、排気口103の外側に設けられている。
第1ガラス体10の準備は、次工程(ガラス接着剤の配置等)に進行できるように、所定の装置に第1ガラス体10を置くことを含む。第1ガラス体10の準備は、排気口103及び排気管104を第1ガラス体10に設けることを含んでもよい。図2Aでは、第1ガラス体10のみが描画されているが、第2ガラス体20も別途準備される。第2ガラス体20の準備は、第1ガラス体10に対となる所定の大きさの第2ガラス体20を用意することを含む。
ここで、製造開始時の第1ガラス体10及び第2ガラス体20は、最終の真空ガラスパネル1の第1ガラス体10及び第2ガラス体20のサイズよりも大きいものが用いられる。本製造例では、最終的に、第1ガラス体10及び第2ガラス体20の一部が除去される。製造に使用する第1ガラス体10及び第2ガラス体20は、真空ガラスパネル1になる部分と最終的に除去される部分とを含む。
次に、図2Bに示すように、ガラス接着剤300とスペーサ40とを配置する。ガラス接着剤300は、熱溶融性ガラスを含む。ガラス接着剤300は、枠状に配置される。ガラス接着剤300は、最終的に枠体30を形成する。ガラス接着剤300は、第1ガラス接着剤301と第2ガラス接着剤302との少なくとも2種類のガラス接着剤を含む。第1ガラス接着剤301及び第2ガラス接着剤302は、それぞれ、所定の場所に設けられる。図2Bでは、第2ガラス接着剤302が破線で示されている。これは、第2ガラス接着剤302が、第1ガラス体10の短辺に沿った方向の全部に設けられていないことを意味する。図3Aにより、第1ガラス接着剤301と第2ガラス接着剤302の配置が理解される。
第1ガラス接着剤301及び第2ガラス接着剤302の配置後、仮焼成が行われてもよい。仮焼成により、第1ガラス接着剤301及び第2ガラス接着剤302は、それぞれ、一体化する。ただし、第1ガラス接着剤301と第2ガラス接着剤302は、接触しない。仮焼成により、ガラス接着剤300が不用意に飛ぶことが抑制される。仮焼成により、第1ガラス接着剤301及び第2ガラス接着剤302が、第1ガラス体10に固着してもよい。
スペーサ40は、ガラス接着剤300を配置した後に配置されることが好ましい。スペーサ40は、網11の交差点11cに配置される(図3A)。第1ガラス体10の上にスペーサ40を置く場合、交差点11cが視認されるため、第2ガラス体20の上にスペーサ40を置く場合よりも、スペーサ40の配置が容易になる。
なお、図2Bでは、ガラス接着剤300は、第1ガラス体10の上に配置されているが、ガラス接着剤300は適宜の方法で配置されてよい。たとえば、ガラス接着剤300は第2ガラス体20の上に配置されてもよい。また、第1ガラス体10と第2ガラス体20とが対向配置された後に、第1ガラス体10と第2ガラス体20との隙間にガラス接着剤300が注入されて配置されてもよい。この場合、第1ガラス体10と第2ガラス体20の両方に同時にガラス接着剤300が配置される。要するに、ガラス接着剤300は、第1ガラス体10と第2ガラス体20との少なくとも一方に配置される。
また、ガス吸着体が第1ガラス体10の上に配置されてもよい。ガス吸着体は、固体のガス吸着体が接着したり、流動性のあるガス吸着体材料が塗布及び乾燥されたりすることで、設けられる。
次に、図2Cに示すように、第2ガラス体20をガラス接着剤300の上に配置する。これにより、第1ガラス体10、第2ガラス体20、ガラス接着剤300及びスペーサ40を含むガラス複合物100が形成される。ガラス複合物100は、第1ガラス体10と第2ガラス体20との間に、内部空間500を有する。図2Cでは、第2ガラス接着剤302が破線で示されている。第2ガラス接着剤302は、内部空間500を完全に分けていない。
図3Aに示すように、第1ガラス接着剤301は、第1ガラス体10の外縁に沿って設けられている。第1ガラス接着剤301は、第1ガラス体10の上で1周し、枠を形成している。第2ガラス接着剤302は、目的とする真空ガラスパネル1の端部になる部分に対応して設けられている。第2ガラス接着剤302の配置場所は、第1ガラス接着剤301で囲まれた範囲内である。
図3Aでは、第2ガラス接着剤302は、真空ガラスパネル1の短辺に沿った方向に2つ配置されている。第2ガラス接着剤302の数は1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。第2ガラス接着剤302は、壁状に設けられる。第2ガラス接着剤302は、内部空間500を2つに仕切っている。ただし、第2ガラス接着剤302の仕切りは、完全ではなく、内部空間500内の2つの空間が繋がるように行われている。内部空間500内の2つの空間は、排気口103から遠い第1空間501と、排気口103に近い第2空間502と定義される。第1空間501と第2空間502とは、第2ガラス接着剤302で仕切られている。第2空間502は、排気口103が設けられている。第1空間501は、排気口103が設けられていない。本製造例では、第2ガラス接着剤302が第1ガラス接着剤301から離れ、また、2つの第2ガラス接着剤302が離れることで、第1空間501と第2空間502とが繋がっている。第1ガラス接着剤301と第2ガラス接着剤302との間、及び、2つの第2ガラス接着剤302の間は、排気を行うときの通気路として機能する。排気工程では、第1空間501の空気が通気路を通って排気される。
そして、ガラス複合物100を加熱する。ガラス複合物100は、加熱炉内で加熱され得る。加熱により、ガラス複合物100の温度が上昇する。ガラス接着剤300は、熱溶融温度に達することでガラスが溶融し、接着性を発現する。ガラス接着剤300の溶融温度は、たとえば、300℃を超える。ガラス接着剤300の溶融温度は、400℃を超えてもよい。第1ガラス接着剤301と第2ガラス接着剤302とは異なる熱溶融温度を有する。
図4は、本製造例での温度変化の一例を説明する模式的なグラフである。グラフの横軸は時間を表し、縦軸は温度を表す。図4のグラフにおいては、温度は、まず上昇して温度Tm1に達し、この温度Tm1を少し維持した後、少し低下して温度Teになり、その後再び上昇して温度Tm2に達し、この温度Tm2を少し維持した後、終了温度まで低下する。温度Tm1までの加熱は、第1加熱工程と定義される。温度Teから温度Tm2までの加熱は、第2加熱工程と定義される。
本製造例では、第1ガラス接着剤301は、第2ガラス接着剤302よりも低い温度で溶融する。すなわち、第1ガラス接着剤301は、第2ガラス接着剤302よりも先に溶融する。第1加熱工程では、第1ガラス接着剤301が溶融し、第2ガラス接着剤302は溶融しない。第1ガラス接着剤301が溶融すると、第1ガラス接着剤301が第1ガラス体10と第2ガラス体20とを接着し、内部空間500が密封される。第1ガラス接着剤301が溶融し、第2ガラス接着剤302が溶融しない温度は、第1溶融温度と定義される。第1溶融温度では、第2ガラス接着剤302は溶融しないため、第2ガラス接着剤302は形状を維持する。第1溶融温度は、図4の温度Tm1に対応する。
第1溶融温度に達した後、排気を開始し、内部空間500の気体を排出する。排気は、第1溶融温度よりも低い温度で行われてもよい。図4の温度Teは、排気を開始する温度である。なお、ガラス複合物100の形状が乱れないのであれば、第1溶融温度に達する前から排気を開始してもよい。
排気は、排気口103に接続された真空ポンプで行われ得る。排気管104に真空ポンプから延びる管が接続される。排気により、内部空間500は、減圧され、真空状態に移行する。なお、本製造例の排気は一例であり、別の排気方法が採用されてもよい。たとえば、ガラス複合物100全体が減圧チャンバに入れられて、ガラス複合物100全体で排気が行われてもよい。
図2Cでは、内部空間500からの気体の排出が下向きの矢印で示されている。また、第1空間501から第2空間502に移る空気の流れが右向きの矢印で示されている。上述のように、第2ガラス接着剤302は、通気路を設けるように配置されているため、空気は通気路を通って排気口103から排出される。これにより、第1空間501及び第2空間502を含む内部空間500が真空になる。
内部空間500の真空度が所定の値になった後、ガラス複合物100への加熱温度を上げる(第2加熱工程)。加熱温度の上昇は、排気を継続しながら行われる。加熱温度の上昇により、温度は、第1溶融温度よりも高い第2溶融温度に到達する。第2溶融温度は、たとえば、第1溶融温度よりも10〜100℃高い。第2溶融温度は、図4の温度Tm2に対応する。
第2溶融温度では、第2ガラス接着剤302が溶融する。溶融した第2ガラス接着剤302は、第2ガラス接着剤302の場所で、第1ガラス体10と第2ガラス体20とを接着する。さらに、第2ガラス接着剤302は、その溶融性によって軟化する。軟化した第2ガラス接着剤302は変形し、通気路を塞ぐ。本製造例では、第1ガラス接着剤301と第2ガラス接着剤302との間に設けられた隙間(通気路)が塞がれる。また、2つの第2ガラス接着剤302の間に設けられた隙間(通気路)が塞がれる。なお、第2ガラス接着剤302は、通気路を塞ぎやすいように、その両端部に第2ガラス接着剤302の量が多くなった塞ぎ部302aを有している(図3A)。塞ぎ部302aは、第2ガラス接着剤302の端部で真空ガラスパネル1の長辺に沿った方向に伸びている。塞ぎ部302aが変形して、前記の通気路が塞がれる。
図2D及び図3Bは、通気路が塞がれた後のガラス複合物100を示している。ガラス複合物100は、ガラス接着剤300の接着作用により、一体化する。一体となったガラス複合物100は、途中状態のパネル(一体化パネル200と定義する)になる。
真空空間50は、内部空間500を排気口103から遠い真空空間50と排気口103に近い排気空間51とに分割することで形成される。第2ガラス接着剤302の変形によって、真空空間50が生じる。真空空間50は第1空間501から形成される。排気空間51は第2空間502から形成される。真空空間50と排気空間51とは繋がっていない。真空空間50は、第1ガラス接着剤301と第2ガラス接着剤302により密閉される。
一体化パネル200では、第1ガラス接着剤301と第2ガラス接着剤302とが一体化し、枠体30が形成される。枠体30は、真空空間50を取り囲む。枠体30は、排気空間51も取り囲む。第1ガラス接着剤301が枠体30の一部になり、第2ガラス接着剤302が枠体30の他の一部になっている。
ところで、ガラス接着剤300の溶融とは、熱溶融性ガラスが熱により軟化し、変形や接着が可能な程度になることであってよい。ガラス接着剤300が流れ出るほどの溶融性は発揮されなくてよい。
真空空間50の形成後、一体化パネル200は、冷却される。また、真空空間50の形成後、排気が終了する。真空空間50は、密閉されているため、排気がなくなっても、真空が維持される。ただし、安全のために、一体化パネル200の冷却の後に、排気が止められる。排気の終了により、排気空間51は、常圧に戻ってもよい。
最後に、一体化パネル200を切断する。一体化パネル200は、真空ガラスパネル1になる部分(ガラスパネル部分101と定義する)と、不要な部分(不要部分102と定義する)とを含んでいる。ガラスパネル部分101は真空空間50を含んでいる。不要部分102は、排気口103を含んでいる。
図2D及び図3Bでは、一体化パネル200の切断箇所が破線(切断線CL)で示されている。一体化パネル200は、たとえば、真空ガラスパネル1となる部分の枠体30の外縁に沿って切断される。真空空間50が破壊されない箇所で、一体化パネル200は切断される。
一体化パネル200を切断することで、不要部分102は取り除かれ、ガラスパネル部分101が取り出される。ガラスパネル部分101から、図1に示す真空ガラスパネル1が得られる。
ここで、本製造例では、網入りガラス板を材料として使用している。網入りガラス板は、網とガラスの複合材料であるため、網の部分とガラスの部分とでは熱膨張性が大きく異なる。そのため、網入りガラス板を用いる場合には、それらの熱膨張性の違いを考慮することが重要である。また、網入りガラス板は、網の入っていないガラス板(通常のガラス板)よりも熱膨張係数が大きくなる傾向がある。そのため、網入りガラス板と通常のガラス板(たとえばソーダガラス製の板)とを組み合わせる場合には、それらのガラス板の熱膨張性の違いを考慮することが重要である。特許文献1(特許第3312159号)では、熱膨張性を考慮した設計が開示されているが、本開示では、特許文献1の手法よりも有効な方法を提供することができる。以下、上記の製造例に即して本開示の真空ガラスパネルの製造方法を説明する。
まず、ガラス板の違いに着目する。金属製の網の熱膨張係数は、ガラスの熱膨張係数よりも高い。また、網の混入はガラス材料の熱膨張性を高める。そのため、網入りガラス板の熱膨張係数は、通常のガラス板の熱膨張係数よりも高い。たとえば、網の熱膨張係数は、100〜110×10−7程度であり得る。一方、通常のガラス板は、ソーダガラス製の場合、熱膨張係数が87〜90×10−7程度であり得る。そして、網入りガラス板の熱膨張係数は、網の含有により、91〜92×10−7程度になり得る。これらの熱膨張性の違いが、真空ガラスパネルの反りや破損の原因になり得る。
また、網入りガラス板と通常のガラス板とでは、ガラス板が製造されるときに受ける熱履歴が異なる。たとえば、網入りガラス板は、網の混入過程において、何度か加熱が行われる。ガラス板は、通常、加熱及び冷却を経ることにより、収縮する。収縮することは、コンパクションと呼ばれる。ガラス板は、通常、溶融したガラスが引っ張られて製造されている。そのため、ガラス板の内部に引っ張り時の応力が残り、再加熱された時には、冷却時にその応力によってガラス板が縮むのである。たとえば、ソータガラス製のガラス板は、長さにおいて、100〜150ppm程度収縮し得る。しかしながら、網入りガラス板は、網入りガラス板の製造過程で熱を受けているため、すでにある程度収縮された状態になっており、収縮率は通常のガラス板よりも小さい。この収縮の違いが、真空ガラスパネルの反りや破損の原因になり得る。
また、網入りガラス板は、通常のガラス板よりも厚みが大きくなり得る。ガラス板の収縮率は、ガラス板の厚みが小さいほど大きくなる傾向にある。そのため、ガラス板の厚みの違いも、反りの原因になり得る。
上記の反り及び破損の原因に鑑みて、真空ガラスパネルの製造例では、次のような方法で真空ガラスパネルの製造を行う。
本製造例では、第1ガラス体10と第2ガラス体20とを接着する工程での加熱における昇温速度が、150℃/時間以下となるようにする。すなわち、ガラス複合物100は、1時間あたり150℃以下のペースで温度が上昇する。昇温速度が150℃/時間以下になると、網11の膨張で第1ガラス体10のガラスが破損することが抑制される。昇温速度が大きい(たとえば200℃/時間)と、金属とガラスの熱膨張の違いにより、第1ガラス体10(網入りガラス板)は破損しやすくなる。昇温速度は、少なくとも第1ガラス接着剤301が溶融するまで150℃/時間以下である。図4の温度変化の例では、温度Tm1に達するまで、昇温速度が150℃/時間以下になる。昇温速度は、第2ガラス接着剤302が溶融するまで150℃/時間以下であってもよい。図4の温度変化の例では、温度Teから温度Tm2に達するまで、昇温速度が150℃/時間以下である。昇温速度は、130℃/時間以下が好ましく、120℃/時間以下がより好ましく、110℃/時間以下がさらに好ましく、100℃/時間以下がよりさらに好ましい。ただし、昇温速度が小さくなると、製造効率が低下する傾向になる。そのため、昇温速度は、50℃/時間以上が好ましく、60℃/時間以上がより好ましく、70℃/時間以上がさらに好ましく、80℃/時間以上がよりさらに好ましい。
上記の昇温速度の試験例を示す。網入りガラス板を第1ガラス体10とし、網を有さないガラス板を第2ガラス体20とし、真空ガラスパネル1を試作した。その際、昇温速度を、100℃/時間、150℃/時間、170℃/時間の3つの条件にして加熱した。この試験では、100℃/時間及び150℃/時間では、網入りガラス板に破損が生じなかったが、170℃/時間では、加熱中に亀裂が発生し、網入りガラス板に破損が生じた。したがって、昇温速度は、150℃/時間以下が好ましいことが確認された。ただし、網入りガラス板は種々のタイプがあり得るため、種々のタイプの網入りガラス板が割れないようにするためには、昇温速度は、低い方がよい。
本製造例では、真空空間50の形成後に、一体化パネル200が冷却される。より好ましくは、その冷却時の冷却速度(温度低下速度)が制御される。急激に冷却すると、網11とガラスとの熱膨張性の差によって、ガラスが破損するおそれがある。冷却速度は、1時間あたりの温度低下量で表される。冷却速度は、150℃/時間以下が好ましく、130℃/時間以下が好ましく、110℃/時間以下がより好ましい。ただし、製造効率を上げるためには、冷却速度は大きい方がよい。冷却速度は、50℃/時間以上が好ましく、80℃/時間以上がより好ましい。
本製造例では、第2ガラス体20の熱膨張係数(α2)は、第1ガラス体10の熱膨張係数(α1)よりも小さく、第2ガラス体20の熱収縮率(C2)は、第1ガラス体10の熱収縮率(C1)よりも大きくする。すなわち、第1ガラス体10(網入りガラス板)と比較して、熱膨張係数が小さく、かつ、熱収縮率が大きい第2ガラス体20が選択される。それにより、2つのガラス板(第1ガラス体10及び第2ガラス体20)の熱の負荷による寸法差が小さくなり、反りが効果的に低減される。以下、その理由を説明する。
第1ガラス体10及び第2ガラス体20は、上述したように、高温下(たとえば430℃)で接着される。高温下では、熱膨張の作用になり、第1ガラス体10及び第2ガラス体20は膨張する。そして、第1ガラス体10及び第2ガラス体20は、冷却により、膨張が元に戻り、さらに、熱収縮により元の大きさよりも縮む。このように、第1ガラス体10及び第2ガラス体20は、熱膨張の状態で接着され、冷却後には、元の大きさよりも縮むため、その寸法差に起因して、反りが発生しやすくなる。要するに、第1ガラス体10及び第2ガラス体20は、熱負荷により伸び縮みする。熱負荷とは、2つのガラス体の接着の際の加熱と、ガラス体の接着の後の冷却とを含む熱サイクルを意味する。ここで、第2ガラス体20が、第1ガラス体10よりも熱膨張係数が小さく、かつ、熱収縮率が大きいと、以下で説明するように、この寸法差が吸収されやすくなる。
図5は、ガラス体の熱膨張と熱収縮を模式的に表すグラフである。グラフの横軸は温度であり、縦軸はガラス体の長さである。長さLのガラス体は、温度の上昇により、Xの長さ膨張する。この時点でのガラス体の長さはL+Xである。また、冷却後のガラス体は熱負荷により、元の長さからYの長さ収縮する。この時点でのガラス体の長さはL−Yである。結果的に、接着時を基準として、ガラス体はX+Yの長さ縮む。この現象が、第1ガラス体10及び第2ガラス体20に起こる。
熱膨張時による第1ガラス体10の膨張量をX1とし、熱負荷を経て第1ガラス体10が収縮する収縮量をY1とすると、結果的に、接着時を基準として、第1ガラス体10は、X1+Y1の量だけ縮む。また、熱膨張時による第2ガラス体20の膨張量をX2とし、熱負荷を経て第2ガラス体20が収縮する収縮量をY2とすると、結果的に、接着時を基準として、第2ガラス体20は、X2+Y2の量だけ縮む。
このように、ガラス体の熱膨張及び熱収縮によって、2つのガラス体には、接着時を基準として、
ΔD = |(X1+Y1)−(X2+Y2)|
で表される寸法差ΔDが生じる。この式は、
ΔD = |(X1−X2)+(Y1−Y2)|
と変形される。さらに、この式は、
ΔD = |(X1−X2)−(Y2−Y1)|
とも変形される。
ここで、ガラス体の膨張量Xは、熱膨張係数α、上昇温度ΔT、ガラス体の長さLとすると、
X = L×α×ΔT
となる。
すなわち、熱膨張係数が大きいほど膨張量が大きくなる。そのため、2つのガラス体においては、α1>α2では、X1>X2が成り立つ。
ここで、熱膨張係数(α1,α2)の単位は[/℃]である。
また、ガラス体の収縮量Yは、収縮率Cとし、ガラス体の長さLとすると、
Y = L×C
となる。
すなわち、収縮率が大きいほど収縮量が大きくなる。そのため、2つのガラス体においては、C1<C2では、Y1<Y2が成り立つ。
なお、収縮率(C1,C2)は、上昇温度ΔTに依存しており、ΔTの関数として表される。すなわち、収縮率は、ガラス体の加熱温度によって変化し得る。
このように、X1>X2とY1<Y2との関係が同時に成り立つと、上記のΔDの関係式から分かるように、2つのガラス体の寸法差が低減される。要するに、熱膨張と熱収縮とが一部相殺する。そのため、熱による2つのガラス体で歪が発生するのが抑制され、ガラスパネルの反りが低減される。
熱膨張及び熱収縮の具体例を挙げる。たとえば、加熱前の温度を30℃とし、接着時の温度を430℃とし、冷却後の温度を30℃にした場合を考える。この例では、ΔTは400℃である。ΔTは、第1ガラス体10と第2ガラス体20とを枠体30で接着するときに上昇する温度である。また、2つのガラス体の長さを1mと考える。第2ガラス体20は、ソーダガラス製である。第1ガラス体10は、鉄製の網11を含むソーダガラス製のガラス板である。
そして、α1とα2との差(α1−α2)が2×10−7であると仮定する。すると、上記の熱膨張の関係式から、2つのガラス体の熱膨張量の差(X1−X2)は、80μmとなる。つまり、第1ガラス体10は、80μmだけ第2ガラス体20よりも膨張する。言い換えれば、第1ガラス体10は、冷却時に80μmだけ第2ガラス体20よりも元の大きさに戻る作用が生じる。このように、X1−X2が80μmとなる。
ここで、第2ガラス体20の縮み量が1mあたり100μm程度であり、第1ガラス体10の縮み量が1mあたり30μmであるように、第1ガラス体10及び第2ガラス体20を選定する。このとき、C2>C1が成り立つ。すると、第2ガラス体20は、70μmだけ第1ガラス体10よりも元の大きさから縮む作用が生じる。このように、Y2−Y1が70μmとなる。
上記の80μm(X1−X2)及び70μm(Y2−Y1)から、結局、ΔDは、10μmとなる。この場合、接着時から冷却後までの第1ガラス体10と第2ガラス体20との間の寸法差は10μmと小さい。寸法差10μmでは、通常、真空ガラスパネル1は反ったり割れたりすることはない。以上のように、熱膨張係数と熱収縮率とが所定の関係になることで、真空ガラスパネル1の反りや破損が抑制される。
なお、熱膨張の差(X1−X2)と熱収縮の差(Y2−Y1)とが、全く異なるオーダーになると、熱膨張と熱収縮との相殺がうまく機能しなくなる可能性があるが、上記の具体例のように、通常のガラス材料を用いるのであれば、そのような不具合は生じにくい。
また、上記では、真空ガラスパネル1の製造時における熱膨張と熱収縮を説明したが、製造後の真空ガラスパネル1においても、上記の関係が満たされ得る。熱膨張性の大小関係及び熱収縮性の大小関係は、熱負荷後も変わらないからである。
本製造例では、第1ガラス体10の熱膨張係数(α1)と第2ガラス体20の熱膨張係数(α2)との差(α1−α2)は、1×10−7〜5×10−7であることが好ましい。また、第1ガラス体10の熱収縮率(C1)と第2ガラス体20の熱収縮率(C2)との差(C2−C1)は、10〜300ppmであることが好ましい。この場合、熱膨張と熱収縮とがより効率よく相殺されるため、真空ガラスパネル1の反りや破損がさらに効果的に抑制される。なお、この好ましい態様は、製造後の真空ガラスパネル1においても適用される。
本製造例では、熱膨張係数(α1,α2)、及び熱収縮率(C1,C2)は、
(α1−α2)×ΔT−(C2−C1) < 6×10−5
の関係を満たすことが好ましい。この場合、熱膨張と熱収縮とがさらに効率よく相殺されるため、真空ガラスパネル1の反りや破損がさらに効果的に抑制される。なお、この好ましい態様は、製造後の真空ガラスパネル1においても適用される。
ところで、上記の製造例では、第1ガラス体10が網入りガラス板である場合を述べたが、第1ガラス体10が網入りガラス板でない場合(すなわち一対のガラス体の両方が網入りガラス板でない場合)も、上記の熱膨張と熱収縮との相殺の手法は有効である。要するに、第1ガラス体10と第2ガラス体20との熱膨張係数が異なる場合に、α1>α2及びC2>C1の関係を満たすことは有効である。第1ガラス体10と第2ガラス体20との材質が異なる場合に、α1とα2とが異なり得る。たとえば、第1ガラス体10及び第2ガラス体のうちの一方のガラス体が、強化ガラス、耐熱ガラスに例示される特殊ガラスで、他方のガラス体が、通常のガラスである場合に、上記の手法が適用され得る。
なお、第1ガラス体10及び第2ガラス体20が、上記の熱膨張係数及び熱収縮率の関係を満たさない場合、第1ガラス体10及び第2ガラス体20のうちの一方を予備加熱してもよい。予備加熱では、ガラス体をそのまま加熱する。予備加熱により、ガラス体は収縮率が小さくなる。予備加熱によって、第1ガラス体10及び第2ガラス体20が上記の熱膨張係数及び熱収縮率の関係を満たすように、第1ガラス体10及び第2ガラス体20を変化させることができる。予備加熱は、アニール処理であってよい。予備加熱は、第1ガラス体10及び第2ガラス体20の準備で行われる。
上記の製造例では、第1ガラス体10が網11を含み、第2ガラス体20が網を含まない例を示した。しかしながら、第1ガラス体10及び第2ガラス体20は、上記の態様に限定されない。たとえば、第1ガラス体10と第2ガラス体20との両方が網を含んでもよい。この場合、一対の網入りガラス板(網を有するガラス体)を含む真空ガラスパネルが得られる。
上記の製造例では、第1ガラス体10が排気口103を有する例を示した。しかしながら、第2ガラス体20が排気口を有していてもよい。
上記の製造例では、第1ガラス体10及び第2ガラス体20の不要部分が切断される例を示した。しかしながら、第1ガラス体10及び第2ガラス体20は切断されなくてもよい。たとえば、排気後に、内部空間500の真空が維持されたまま、第1ガラス体10の排気口103が閉じられてもよい。排気口103の閉塞は、ガラスの熱溶着及びキャップの取り付けにより行うことができる。この場合、一体化パネル200がそのまま真空ガラスパネル1になる。この場合、第2ガラス接着剤302は存在しなくてもよい。この場合、内部空間500がそのまま真空空間50になる。ただし、美観の観点から、真空ガラスパネル1は排気口を有さない方が好ましい。
以上のように、本開示の真空ガラスパネルの製造方法は、ガラス接着剤を配置する工程と、一対のガラス体を対向させて配置する工程と、一対のガラス体を接着する工程と、内部空間を排気する工程と、真空空間を形成する工程と、を含む。第1ガラス体10は、網11を含む。ガラス接着剤を配置する工程では、第1ガラス体10と、第2ガラス体20との少なくともいずれか一方に枠状に、熱溶融性ガラスを含むガラス接着剤300を配置する。一対のガラス体を対向させて配置する工程では、第1ガラス体10と第2ガラス体20とを対向させて配置する。一対のガラス体を接着する工程では、第1ガラス体10と第2ガラス体20とガラス接着剤300とを含むガラス複合物100を加熱して、ガラス接着剤300で第1ガラス体10と第2ガラス体20とを接着する。内部空間500を排気する工程では、第1ガラス体10と第2ガラス体20とガラス接着剤300とで囲まれた内部空間500を排気する。真空空間を形成する工程では、内部空間500を密封して内部空間500から真空空間50を形成する。第1ガラス体10と第2ガラス体20とを接着する工程での加熱における昇温速度は、150℃/時間以下である。
本開示の真空ガラスパネル1の製造方法は、網11の熱膨張によりガラスが割れることが低減され、真空ガラスパネル1の破損が効果的に抑制される。
真空空間を形成する工程は、内部空間500を排気口103から遠い真空空間50と排気口103に近い排気空間51とに分割することを含むことが好ましい。それにより、外観の優れた真空ガラスパネル1が容易に得られる。
本開示の真空ガラスパネル1の製造方法は、一体化パネル200を切断し、一体化パネル200の真空空間50を含む部分(ガラスパネル部分101)を取り出す工程をさらに含むことが好ましい。それにより、外観の優れた真空ガラスパネル1が容易に得られる。一体化パネル200は、第1ガラス体10と第2ガラス体20とガラス接着剤300とが一体化している。
本開示の真空ガラスパネル1の製造方法は、真空空間50の形成後に、第1ガラス体10と第2ガラス体20とガラス接着剤300とが一体化した一体化パネル200を冷却する工程をさらに含み得る。そして、一体化パネル200を冷却する工程での冷却速度は、150℃/時間以下であることが好ましい。それにより、真空ガラスパネル1の破損が効果的に抑制される。