図2は、この発明の実施形態における駆動装置の一例を示すスケルトン図であり、フロントエンジン・フロントドライブ車に適するように構成した例である。なお、図2は各構成部材の連結関係を示し、特に説明していない限り、各構成部材の相対位置を示すものではない。ここに示す例は、複軸式でかつ二つのモータを備えたハイブリッド駆動装置である。複軸式とは、駆動力の伝達に関与する複数の回転軸が互いに平行な複数の軸線上に配置されている形式である。二つのモータは、内燃機関(以下、エンジンと記す)と共に駆動力源となっており、永久磁石式同期電動機などの発電機能のあるモータである。
図2に示すエンジン(ENG)1は、ガソリンエンジンあるいはLPGエンジンあるいはディーゼルエンジンであって、出力軸(クランクシャフト)2と同一の回転中心軸線上に、動力分割機構3および発電機能のある第1モータ(MG1)4が、ここに挙げた順に配置されている。動力分割機構3は、入力要素と、反力要素と、出力要素との三つの回転要素によって差動作用を行う機構であって、図2に示す例では、シングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、動力分割機構3は、反力要素に相当するサンギヤ5と、サンギヤ5に対して同心円上に配置されかつ出力要素に相当するリングギヤ6と、これらサンギヤ5およびリングギヤ6に噛み合っているプラネタリピニオンを自転可能かつ公転可能に保持し入力要素に相当するキャリヤ7を有している。
エンジン1の出力軸2に連結された入力軸8が、この動力分割機構3の回転中心軸線に沿って配置されている。これら入力軸8とキャリヤ7とを選択的に連結する入力クラッチC0が設けられている。入力クラッチC0は、この発明の実施形態における第2係合装置に相当し、係合することでエンジン1のトルクを後述する駆動輪23に伝達することができる。また、入力軸8およびエンジン1の出力軸2の回転を選択的に止めるためのブレーキB0が設けられている。
動力分割機構3を挟んでエンジン1とは反対側に第1モータ4が配置されており、第1モータ4の第1ロータ9と一体の第1ロータ軸10がサンギヤ5に連結されている。第1ロータ軸10は、中空軸であって、第1ロータ軸10の内部にその回転中心軸線に沿って中間軸11が挿入されている。中間軸11と第1ロータ軸10とは相対回転できるように構成されている。また、中間軸11は前述した入力軸8に連結され、入力軸8と一体となって回転する。さらに、中間軸11と第1ロータ軸10とを選択的に連結するシリーズクラッチCSが設けられている。このシリーズクラッチCSは、この発明の実施形態における第1係合装置に相当し、図2に示すように、エンジン1から第1ロータ9に対するトルクの伝達と遮断とを行うことができる。
動力分割機構3におけるリングギヤ6に、この実施形態における出力部材の一例である出力ギヤ12が連結され、これらリングギヤ6と出力ギヤ12とは一体となって回転する。したがって、前述した入力クラッチC0が係合し、かつ第1モータ4が反力トルクを発生している状態では、エンジン1の出力トルクが動力分割機構3を介して出力ギヤ12に伝達される。このようなエンジン1から動力分割機構3を介して出力ギヤ12に到るトルクの伝達を、上記の入力クラッチC0によって行い、またそのトルク伝達を入力クラッチC0によって遮断するようになっている。
エンジン1の出力軸2やこれと一体となって回転する入力軸8および中間軸11などに対して平行にカウンタ軸13が配置されている。カウンタ軸13にはドリブンギヤ14と第1ドライブギヤ15とが設けられており、ドリブンギヤ14が上記の出力ギヤ12に噛み合っている。
さらに、カウンタ軸13と平行に、発電機能のある第2モータ(MG2)16が配置されている。第2モータ16における第2ロータ17と一体となっている第2ロータ軸18には第2ドライブギヤ19が設けられており、第2ドライブギヤ19は上記のドリブンギヤ14に噛み合っている。第2モータ16は、前述した第1モータ4と同様に、例えば永久磁石式の同期電動機であって、電力が供給されることによりトルクを出力し、出力ギヤ12から出力されたトルクに第2モータ16の出力トルクを加えるように構成されている。
前記カウンタ軸13や第2モータ16と平行に終減速機であるデファレンシャルギヤ20が設けられている。このデファレンシャルギヤ20のリングギヤ21が、カウンタ軸13上の第1ドライブギヤ15に噛み合っている。そして、第2モータ16などから出力された駆動トルクがデファレンシャルギヤ20からドライブシャフト22を介して左右の駆動輪23に伝達される。
また、第1モータ4および第2モータ16は、図示しないバッテリやキャパシタなどからなる蓄電装置やインバータを含む電源部にそれぞれ電気的に接続されている。そして、第1モータ4および第2モータ16は、図示しない電源部によって制御されて、それぞれモータとして動作し、あるいは発電機として動作し、さらには第1モータ4で発電した電力で第2モータ16をモータとして動作させるように構成されている。
上述した駆動装置は、複数の走行モードを設定することができる。その走行モードは、大きく分けて電気走行(EV=Electric Vehicle)モードとハイブリッド(HV)モードとであり、HVモードにはシリーズモードとシリーズパラレルモードとがある。これらの走行モードの選択や各走行モードでの駆動力の制御などを行うためのハイブリッド用電子制御装置(HV−ECU)100が設けられている。図3はそのHV−ECU100を中心とした制御信号系統を示すブロック図である。HV−ECU100は、この発明におけるコントローラに相当し、マイクロコンピュータを主体にして構成され、入力されるデータおよび予め記憶しているデータならびにプログラムを使用して演算を行い、演算結果を制御指令信号として出力するように構成されている。その入力されるデータの例を挙げると、車速、アクセル開度(もしくは駆動要求量)、第1モータ4の回転数、第2モータ16の回転数、出力軸回転数(前記出力ギヤ12もしくはカウンタ軸13の回転数)、蓄電装置の充電残量(SOC:State Of Charge)、エンジン水温センサ(ENG水温センサ)などである。制御指令信号の例を挙げると、第1モータ4のトルク指令信号、第2モータ16のトルク指令信号、エンジン1のトルク指令信号、シリーズクラッチCSの油圧指令信号PbCS、入力クラッチC0の油圧指令信号PbC0、ブレーキB0の油圧指令信号PbB0などである。なお、各クラッチC0,CSおよびブレーキB0の油圧は、それぞれの油圧指令信号PbCS,PbC0,PbB0によって図示しないソレノイドバルブの電流を制御することにより行われる。これは、従来知られている車両用自動変速機における油圧の制御と同様である。
さらに、モータ用電子制御装置(MG−ECU)101およびエンジン用電子制御装置(ENG−ECU)102が設けられている。これらの電子制御装置101,102は、上記のHV−ECU100と同様に、マイクロコンピュータを主体に構成され、入力されるデータおよび予め記憶しているデータならびにプログラムを使用して演算を行い、演算結果を制御指令信号として出力するように構成されている。MG−ECU101は、HV−ECU100から伝送される第1モータ4および第2モータ16のトルク指令信号に基づいて演算を行い、第1モータ4の電流および第2モータ16の電流を制御する信号を出力する。また、ENG−ECU102は、HV−ECU100から伝送されるエンジントルク指令信号に基づいて演算を行い、エンジン1に付設されている図示しない電子スロットルバルブの開度信号やエンジン1に対する燃料の供給を制御する噴射信号を出力するように構成されている。
図4は、各走行モードを設定するためのクラッチC0,CSおよびブレーキB0の係合および解放の状態をまとめて示す係合作動表である。なお、図4で「〇」印は係合していることを示し、空欄は解放していることを示す。EVモードは、蓄電装置の電力で走行するモードであって、第1モータ4が出力する駆動力と第2モータ16が出力する駆動力とのうち少なくとも第2モータ16が出力する駆動力で走行するように構成され、第2モータ16のみを駆動する単駆動モードと、二つのモータ4,16を駆動する両駆動モードとがある。さらに、単駆動モードでは、第1モータ4を回転させないMG1切り離しモードと、第1モータ4を連れ回すMG1引き摺りモードとが可能である。
MG1切り離しモードは、入力クラッチC0およびブレーキB0を解放状態にし、シリーズクラッチCSの係合あるいは解放を適宜決定することによって設定することができる。また、第2モータ16が蓄電装置の電力で駆動される。したがって、第2モータ16による駆動トルクがカウンタ軸13を経由してデファレンシャルギヤ20に伝達される。その場合、ドリブンギヤ14が回転することにより出力ギヤ12が回転するが、キャリヤ7が自由に回転することができるために、エンジン1や第1モータ4は停止状態を維持することができる。このとき第1モータ4の回転数を0に維持するために、コギングトルクを利用する、あるいはHV−ECU100によって回転数を0に維持するように制御する、さらにd軸ロックによって回転数を0に維持するように制御するなどの方法が挙げられる。
これに対して、後者のMG1引き摺りモードは、入力クラッチC0のみを係合させ、その状態で第2モータ16を蓄電装置の電力で駆動する。この場合、動力分割機構3のキャリヤ7が入力軸8に連結され、その回転が止められるから、サンギヤ5およびこれに連結されている第1ロータ軸10ならびに第1ロータ9が第2モータ16とは反対方向(負方向)に回転する。なお、減速時に第2モータ16において回生エネルギーによる発電ができないときに、入力クラッチC0を係合することによってエンジンブレーキを併用することができる。具体的には、入力クラッチC0を係合することによってエンジン1が駆動輪23と連結され、その状態で第1モータ4によってエンジン1の回転数を上げることによってエンジンブレーキを作用させることができる。
このMG1引き摺りモードの動作状態を動力分割機構3を構成している遊星歯車機構についての共線図として、前進走行時の共線図を図5の(a)に示し、後進走行時の共線図を図5(b)に示してある。なお、図5において、各クラッチC0,CSやブレーキB0について付記してある「OFF」は解放していることを示し、「ON」は係合していることを示している。また、太い矢印はトルクの方向を示している。
両駆動モードは、第1モータ4および第2モータ16を蓄電装置の電力でモータとして駆動し、これらのモータ4,16が出力するトルクで走行するモードである。この両駆動モードは、入力クラッチC0とブレーキB0とを係合して設定される。動力分割機構3では、キャリヤ7が固定されるから、第1モータ4がモータとして動作して負方向に回転すると、リングギヤ6およびこれと一体の出力ギヤ12が前進走行する方向(正方向)に回転する。こうして第1モータ4の出力したトルクが出力ギヤ12からカウンタ軸13を経由してデファレンシャルギヤ20に伝達される。また、第2モータ16がモータとして動作して正方向に回転すると、その出力トルクがカウンタ軸13上で、前記出力ギヤ12から伝達されたトルクに加算され、こうして合算されたトルクがデファレンシャルギヤ20に伝達される。また、EVモードにおける後進走行時は、前進走行の際の動作状態と後進走行の際の動作状態と同じであって、第2モータ16の回転(トルク)を前進時とは反対の方向にし、両駆動モードであれば第1モータ4も前進時とは反対の方向に回転させることによって後進走行が可能である。
HVモードのうちのシリーズモードは、シリーズクラッチCSのみを係合させることにより設定される。シリーズモードにおける動作状態を図5の(c)および図5の(d)に、動力分割機構3を構成している遊星歯車機構についての共線図で示してある。エンジン1の出力トルクはシリーズクラッチCSを介して第1モータ4に伝達され、第1モータ4が発電機として機能する。その場合、動力分割機構3におけるキャリヤ7が自由に回転する状態になっているので、出力ギヤ12にはエンジン1のトルクが伝達されない。第1モータ4で発生した電力は第2モータ16に供給されて第2モータ16がモータとして動作し、その出力トルクがカウンタ軸13を経由してデファレンシャルギヤ20に伝達され、その結果、第2モータ16による駆動トルクで車両が走行する。図5の(c)は前進時の状態を示してあり、リングギヤ6が車速に応じた回転数で正方向に回転し、これに対してサンギヤ5はエンジン1と同じ回転数になるので、キャリヤ7はリングギヤ6の回転数およびサンギヤ5の回転数ならびに遊星歯車機構のギヤ比(サンギヤ5の歯数とリングギヤ6の歯数との比)に応じた回転数で空転する。なお、第2モータ16は正方向および負方向のいずれにも回転することができるから、第2モータ16の回転方向に応じて、車両は前進し、あるいは後進する。すなわち、図5(d)に示すように、エンジン1の回転数は前進走行時と比較して小さくし、第2モータ16はモータとして動作して負方向に回転させることによって、車両が後進走行することができる。
HVモードのうちのシリーズパラレルモードは、エンジン1の出力トルクとモータ4,16の出力トルクとによって走行するモードであり、前進時には、エンジン1の回転数と出力軸回転数(例えば出力ギヤ12の回転数)との比を無段階に変化させることのできる無段状態と、動力分割機構3の全体を一体化させる固定段状態とを設定することが可能である。
無段状態は入力クラッチC0のみを係合させて設定され、エンジン1が駆動力を出力する。その動作状態を動力分割機構3を構成している遊星歯車機構の共線図として図5の(e)に示してある。エンジン1の出力トルクは入力クラッチC0を介して動力分割機構3のキャリヤ7に伝達され、キャリヤ7が正方向に回転する。その状態で、第1モータ4を発電機として動作させることによりサンギヤ5に負方向のトルク(負トルク)を加える。こうすることによりリングギヤ6およびこれと一体の出力ギヤ12に正方向のトルクが伝達される。一方、第1モータ4によって発電された電力は、第2モータ16に供給されて第2モータ16がモータとして機能し、その出力トルクが前記出力ギヤ12から伝達されるトルクにカウンタ軸13を介して加えられる。したがって、エンジン1が出力する動力の一部が、動力分割機構3を介して出力ギヤ12からデファレンシャルギヤ20に向けて出力され、かつエンジン1が出力する動力の他の部分が一旦電力に変換された後、第2モータ16から駆動トルクとしてデファレンシャルギヤ20に向けて出力される。そして、第1モータ4の回転数を変化させることによりエンジン1の回転数が変化する。したがって、エンジン1の回転数を例えば燃費が最適になる回転数に制御することができる。また、シリーズパラレルモードで後進走行する場合、入力クラッチC0のみを係合させた状態で、エンジン1を駆動し、かつ第1モータ4を発電機として機能させて正方向に回転させる。また、第2モータ16はモータとして機能させ、負方向に回転させ、その出力トルクによって後進走行する。
固定段状態は、入力クラッチC0およびシリーズクラッチCSを係合させることによって設定される。その動作状態を動力分割機構3を構成している遊星歯車機構の共線図として図5の(f)に示してある。これら二つのクラッチC0,CSを係合させることにより動力分割機構3におけるキャリヤ7とサンギヤ5とが連結されるので、動力分割機構3はその全体が一体となって回転する。したがって、エンジン1が出力したトルクは、動力分割機構3によって増減されることなく出力ギヤ12に伝達される。その場合、第1モータ4は動力分割機構3を介してエンジン1に連結された状態になるので、蓄電装置の電力で第1モータ4をモータとして動作させることにより、第1モータ4の出力トルクを駆動トルクとして、エンジン1の出力トルクに加えることができる。また同様に、蓄電装置の電力で第2モータ16をモータとして動作させることにより、第2モータ16の出力トルクを駆動トルクとして、エンジン1の出力トルクに加えることができる。
上述したEVモードおよびシリーズモードは、各モータ4,16の出力トルクで走行し、もしくは第2モータ16の出力トルクで走行するモードであるから、最大駆動トルクはモータ4,16の特性に応じて制限される。例えばシリーズモードで出力できる最大駆動トルクは、図6に示すように、第2モータ16の特性に応じたものとなり、車速がある程度増大した後は、車速の増大に従って低下する。したがって、シリーズモードとシリーズパラレルモードとの切り換え制御を行うためには、図6に示すように、車速と出力軸トルク(もしくは要求トルク)とによって各モードの領域を定めたマップを用意しておき、実際の走行状態が属しているモードを設定することとすればよい。
つぎに、この発明における駆動力制御装置が搭載された車両において、エンジン1が停止している走行モードが設定されている状態、すなわちEVモードが設定されている状態からエンジン1を始動し、他の走行モードに移行する場合に実行される制御を図1のフローチャートを用いて説明する。以下に説明する制御は、この発明の実施形態におけるコントローラに相当するHV−ECU100で実行される。
上述したように、HV−ECU100は、エンジン1を停止して走行している状態、つまりEVモードで走行している状態の車両に、エンジン1を始動する要求があるか否かをステップS1で判断する。エンジン1を始動するか否かの判断は、アクセル開度の大きさ、あるいは車速、充電残量(SOC)などを基準としている。エンジン1を始動する要求が生じていない、つまりステップS1で否定的に判断された場合には、リターンする。
HV−ECU100からエンジン1を始動する要求が生じた場合、つまりステップS1で肯定的に判断された場合には、現在のシリーズクラッチCSの係合状態がステップS2で判断される。上述したように、EVモードにおいて、エンジン1が停止した状態でシリーズクラッチCSが係合されている走行モードは、シリーズクラッチCSが係合されている状態のMG1切り離しモードである。
シリーズクラッチCSが係合されている状態のMG1切り離しモードであった場合、つまりステップS2でYESと判断された場合には、ステップS3の制御が実行され、シリーズクラッチCSを係合した状態を維持してエンジン1を始動する。この場合におけるエンジン1を始動する制御は、シリーズクラッチCSを介して停止状態のエンジン1を回転させるように第1モータ4がトルクを出力する。つまり、シリーズクラッチCSが係合されていることによってエンジン1と第1モータ4とが直接連結されている状態であるため、第1モータ4が正方向へ回転するトルク(正トルク)を出力することによってエンジン1の回転数を上昇させる、すなわちクランキングすることができる。第1モータ4によってエンジン1をクランキングしてエンジン1を始動した後は、ステップS4の制御、つまり走行モードとしてシリーズモードを設定(選択)する制御が実行される。
一方、ステップS2において否定的に判断された場合、つまりシリーズクラッチCSが係合されていなかった場合には、ステップS5の制御が実行され、入力クラッチC0が係合されているか否かが判断される。上述したように、EVモードにおいてシリーズクラッチCSが係合されておらず、入力クラッチC0が係合されている走行モードは、MG1引き摺りモードあるいは両駆動モードのいずれかである。入力クラッチC0が係合されていた場合、つまりステップS5で肯定的に判断された場合には、ステップS6の制御が実行され、入力クラッチC0を係合した状態を維持してエンジン1を始動する。
MG1引き摺りモードが設定されていた場合におけるエンジン1を始動する制御は、入力クラッチC0を介して停止状態のエンジン1を回転させるように第1モータ4がトルクを出力する。つまり、入力クラッチC0が係合されていることによって、エンジン1と第1モータ4とが動力分割機構3および入力クラッチC0を介して連結されている状態である。そのため、第1モータ4が正方向へ回転するトルク(正トルク)を出力することによってエンジン1の回転数を上昇させる、すなわちクランキングすることができる。第1モータ4によってエンジン1をクランキングしてエンジン1を始動した後は、ステップS7の制御、つまり走行モードとしてシリーズモードを設定(選択)して走行する。
なお、両駆動モードが設定されていた場合には、ブレーキB0を解放した後に、ステップS6およびステップS7と同様の制御を実行する。具体的には、ブレーキB0を解放した後に、第1モータ4によってエンジン1をクランキングする。このような制御によってエンジン1を始動した後は、走行モードとしてシリーズパラレルモードを設定(選択)する制御が実行される。
他方、上述したステップS5において否定的に判断された場合、つまり入力クラッチC0が係合されていなかった場合には、ステップS8の制御が実行される。ステップS8に進んだ場合は、エンジン1が停止していて、かつシリーズクラッチCSおよび入力クラッチC0が解放されている状態であるため、EVモードにおけるMG1切り離しモードが設定されている状態である。このように各クラッチCS,C0が解放されていた場合には、エンジン1の始動要求と同時に決定されるエンジン1始動後の走行モードに基づいてエンジン1を始動する。すなわち、各クラッチCS,C0を、エンジン1始動後に設定される走行モードでの係合状態と同じ係合状態に設定してエンジン1を始動する。
この実施形態においてエンジン1を始動した後に設定される走行モードは、シリーズモードとシリーズパラレルモードとのいずれか一方である。エンジン1を始動した後に設定される走行モードがシリーズモードであった場合には、先ずシリーズクラッチCSを係合する。そして、上述したステップS3で実行した制御と同じ制御によってエンジン1を始動する。具体的には、シリーズクラッチCSを係合し、第1モータ4から正トルクを出力するように制御することでエンジン1をクランキングしてエンジン1を始動する。エンジン1始動後はシリーズモードに遷移する。
エンジン1を始動した後に設定される走行モードがシリーズパラレルモードであった場合には、先ず入力クラッチC0を係合する。そして、ステップS6で実行した制御と同じ制御によってエンジン1を始動する。具体的には、入力クラッチC0を係合し、第1モータ4から正トルクを出力するように制御することにでエンジン1をクランキングしてエンジン1を始動する。エンジン1始動後はシリーズパラレルモードに遷移する。
このように、各クラッチCS,C0が解放されていた場合には、エンジン1始動後に設定される走行モードに基づいて(従って)エンジン1を始動させる制御をステップS8で実行している。そのため、エンジン1が始動した後に各クラッチCS,C0の係合あるいは解放の状態の切り換えが生じず、エンジン1始動後は即時にシリーズモードあるいはシリーズパラレルモードに遷移させることができる。
つぎに、図1のフローチャートで実行する制御によって生じる挙動を図7および図8のタイムチャートを用いて説明する。図7では、EVモードにおけるMG1切り離しモードで走行している状態からエンジン1を始動する場合に、上述した制御を実行することで生じる挙動を示してある。なお、図7で示すMG1切り離しモードは、シリーズクラッチCSが係合している状態である。
図7に示すように、t0時点では、MG1切り離しモードで走行しているため、アクセル開度や車速に応じて第2モータ16が出力するトルクで走行している状態である。そして、t1時点において、運転者の操作によってアクセル開度が大きくなると、それに伴い第2モータ16が出力するトルクも大きくなる。
アクセル開度が大きくなり、所定のしきい値を超えるt2時点において、HV−ECU100はエンジン1を始動する必要があると判断する。
エンジン1の始動要求が生じることにより、第1モータ4は正トルクを出力するように制御される。このとき、シリーズクラッチCSが係合された状態で維持されていて、入力クラッチC0およびブレーキB0は解放された状態で維持されている。そのため、第1モータ4が出力した正トルクによって、エンジン1の回転数が上昇される。また、第2モータ16が出力する正トルクでは、アクセル開度に応じて制御される。つまり、アクセル開度が大きくなった状態で一定になると、第2モータ16が出力する正トルクも大きくなった状態で一定になる。
第1モータ4によるクランキングによってエンジン1が所定の回転数に達した時点、つまりt3時点において、エンジン1を点火させる。点火されることにより、エンジン1がトルクの出力を開始するため、第1モータ4は、出力していた正トルクは小さくなるように制御され、さらに正トルクの出力を停止した後は負トルクの出力を開始するように制御される。したがって、エンジン1が完爆するt4時点において、シリーズクラッチCSのみ係合されている状態でエンジン1が動力を出力し、第1モータ4が負トルクを出力し、第2モータ16は駆動するための正トルクを出力している状態、すなわちシリーズモードが設定された状態になる。各クラッチCS,C0およびブレーキB0の係合状態を維持した状態でエンジン1を始動した後は、図6で示したようなマップに応じて走行モードを遷移させてもよい。
この構成によれば、直前に設定されている走行モード、つまりMG1切り離しモードにおける各クラッチCS,C0およびブレーキB0の係合あるいは解放の状態を維持して第1モータ4によるエンジン1のクランキングを実行している。すなわち、エンジン1の始動要求が生じてからエンジン1を始動するまでに、各クラッチCS,C0において係合状態の切り換えが生じていない。そのため、エンジン1を始動するまでに要する時間を短縮することができ、エンジン1の始動を迅速に実行することができる。
つぎに、図8を用いて、MG1引き摺りモードで走行している状態からエンジン1を始動する場合に、上述した制御を実行することで生じる挙動を説明する。図8に示すように、MG1引き摺りモードは、入力クラッチC0が係合されていて、シリーズクラッチCSおよびブレーキB0は解放されており、第2モータ16が出力する駆動力によって走行している状態である。また、第1モータ4はトルクを出力していないが、入力クラッチC0が係合されているため、第2モータ16の出力する駆動トルクに応じて負方向に回転されている。
図8に示すように、t10時点ではMG1引き摺りモードで走行しているため、アクセル開度や車速に応じて第2モータ16が出力するトルクで走行している状態である。そして、t11時点において、運転者の操作によってアクセル開度が大きくなると、それに伴い第2モータ16が出力するトルクも大きくなる。
アクセル開度が大きくなり、所定のしきい値を超えるt12時点において、HV−ECU100はエンジン1を始動する必要があると判断する。
エンジン1の始動要求が生じることにより、第1モータ4は正トルクを出力するように制御される。このとき、入力クラッチC0が係合した状態で維持されていて、シリーズクラッチCSおよびブレーキB0は解放した状態で維持されている。言い換えれば、各クラッチCS,C0の係合状態は、シリーズパラレルモードの無段状態における係合状態と同じである。そのため、第1モータ4が出力した正トルクによって、動力分割機構3および入力クラッチC0を介してエンジン1の回転数が上昇される。また、入力クラッチC0が係合しているため、第1モータ4の正トルクは、制動力となって駆動輪23に伝達される。そのため、HV−ECU100は、第2モータ16が出力する正トルクを大きくすることによって、第1モータ4の正トルクで車速が低下しないように制御する。そして、アクセル開度が大きくなった状態で一定になると、第2モータ16が出力するトルクも大きくなった状態で一定になる。なお、第1モータ4の出力する正トルクを考慮しない場合における第2モータ16のトルクの変化を点線で示している。
第1モータ4によるクランキングによってエンジン1が所定の回転数に達した時点、つまりt13時点において、エンジン1を点火させる。点火されることによりエンジン1がトルクの出力を開始するため、第2モータ16は、出力している正トルクが小さくなるように制御され、第1モータ4は、次第に出力するトルクが正トルクから負トルクになるように制御される。したがって、エンジン1が完爆するt14時点において、入力クラッチC0のみ係合されている状態でエンジン1が動力を出力し、第1モータ4が負トルクを出力し、第2モータ16は駆動トルクを出力している状態、すなわちシリーズパラレルモードが設定された状態になる。各クラッチCS,C0の係合状態を維持した状態でエンジン1を始動した後は、図6で示したようなマップに応じて走行モードを遷移させてもよい。なお、EVモードにおける両駆動モードであった場合には、エンジン1を始動する要求が生じてから第1モータ4が正トルクを出力するまでの間にブレーキB0を解放する。ブレーキB0を解放した後に、上述したMG1引き摺りモードが設定されている状態からエンジン1を始動する制御と同様の制御を実行する。
この構成によれば、直前に設定されている走行モード、つまりMG1引き摺りモードにおける各クラッチCS,C0およびブレーキB0の係合あるいは解放の状態を維持して第1モータ4によるエンジン1のクランキングを実行している。すなわち、エンジン1の始動要求が生じてからエンジン1を始動するまでに、各クラッチCS,C0において係合状態の切り換えが生じない。そのため、エンジン1を始動するまでに要する時間を短縮することができ、エンジン1始動を迅速に実行することができる。
また、直前に設定されている走行モードが両駆動モードであった場合には、ブレーキB0を解放するが、ブレーキB0を解放するために要する時間は、係合するために要する時間と比較して短い。すなわち、エンジン1始動時に各クラッチCS,C0およびブレーキB0を特定の係合あるいは解放の状態に設定する場合と比較して、エンジン1を始動するまでに要する時間を短縮することができ、エンジン1始動を迅速に実行することができる。
さらに、図1のフローチャートで示した通り、各クラッチCS,C0およびブレーキB0が解放されていた場合には、各クラッチCS,C0およびブレーキB0を、エンジン1始動後に設定される走行モードでの係合あるいは解放の状態に設定してエンジン1を始動している。そのため、エンジン1が停止している状態から走行モードが遷移するまでに生じる各クラッチCS,C0の係合あるいは解放の切り換えを最小限にすることができる。また、エンジン1始動後の走行モードにおける各クラッチCS,C0およびブレーキB0の係合状態をエンジン1の始動前に設定しているため、エンジン1始動後に生じるショックを低減することができる。したがって、各クラッチCS,C0およびブレーキB0を常に特定の係合状態に切り換えてエンジン1を始動する制御を実行する場合と比較して、エンジン1を迅速に始動させることができる。
つぎに、この発明における駆動力制御装置の対象とすることができる他の車両の構成について説明する。他の車両の構成における入力クラッチC0は、エンジン1から動力分割機構3を介して出力ギヤ12にトルクを伝達する経路をトルク伝達可能な状態にし、またそのトルク伝達を遮断するように構成されていればよく、またシリーズクラッチCSはエンジン1の出力トルクを第1モータ4に伝達し、その伝達を遮断するように構成されていればよい。したがって、この発明の実施形態では、入力クラッチC0は図9に示すように、動力分割機構3のリングギヤ6と出力ギヤ12との間に設けられていて、またシリーズクラッチCSはキャリヤ7と第1ロータ軸10との間に設けられている。図9に示す他の構成は、前述した図2に示す構成と同様であるから、図9に図2と同様の符号を付してその説明を省略する。
図9に示す構成の駆動装置であっても、前述した図4に示すように、各クラッチC0,CSおよびブレーキB0を係合もしくは解放することにより、EVモードやHVモードを設定することができる。第2モータ16によって走行するEVモードでは、各クラッチC0,CSおよびブレーキB0を解放する。その結果、出力ギヤ12と動力分割機構3におけるリングギヤ6との連結が解除されるので、動力分割機構3を構成しているサンギヤ5およびリングギヤ6ならびにキャリヤ7は停止している。これに対して、入力クラッチC0を係合させれば、リングギヤ6が出力ギヤ12と共に回転し、またキャリヤ7がエンジン1と共に停止しているので、サンギヤ5およびこれに連結されている第1モータ4が負方向に回転する。すなわち、第1モータ4を連れ回すMG1引き摺りモードになる。この動作状態を動力分割機構3を構成している遊星歯車機構についての共線図として図10(a)に示してある。さらに、その状態でブレーキB0を係合させて入力軸8およびキャリヤ7を固定すれば、第1モータ4がトルクを出力することに対する反力トルクをキャリヤ7で受け持つことができるので、第1モータ4を負方向に回転させ、かつ第2モータ16を正方向に回転させて、これら二つのモータ4,16のトルクで走行する両駆動モードとなる。なお、MG1引き摺りモードにおける後進走行時の共線図は、上述したように、各クラッチC0,CSの位置が異なるものの、サンギヤ5およびリングギヤ6ならびキャリヤ7の回転方向などは同じであり、図10(b)に示す共線図によって表すことができる。
シリーズモードは、シリーズクラッチCSを係合させてエンジン1によって第1モータ4を駆動し、その第1モータ4で発電した電力によって第2モータ16を駆動して走行するモードである。したがって、図9に示す構成では、シリーズクラッチCSによってサンギヤ5とキャリヤ7とが連結されることにより動力分割機構3の全体が一体となって回転する。その結果、第1モータ4がエンジン1によって駆動されて発電する。しかしながら、入力クラッチC0が解放していてリングギヤ6と出力ギヤ12とが連結されていないので、エンジン1の出力トルクは出力ギヤ12に伝達されることはない。図10の(c)はその状態を共線図で示しており、サンギヤ5およびリングギヤ6ならびにキャリヤ7は同一回転数になっている。なお、シリーズモードによる後進走行時は、エンジン1および第1モータ4の動作は同様であり、第2モータ16のみ負方向に回転することによって後進する。
シリーズパラレルモードでの前進時における無段状態は、エンジン1の回転数を第1モータ4によって制御し、その結果、第1モータ4で発生した電力を第2モータ16に供給して第2モータ16が駆動トルクを出力する。その動作状態を図10の(d)に共線図で示してある。これは、前述した図5の(e)に示す共線図と各クラッチC0,CSの位置が異なるものの、サンギヤ5およびリングギヤ6ならびキャリヤ7の回転方向などは同じである。また、後進走行時には、入力クラッチC0のみを係合させた状態で、エンジン1を駆動し、かつ第1モータ4を発電機として機能させて正方向に回転させる。そして、第2モータ16はモータとして機能させ、負方向に回転させ、その出力トルクによって後進走行する。
シリーズパラレルモードでの前進時の固定段状態は各クラッチC0,CSを係合させることにより設定され、したがって動力分割機構3の全体が一体となって回転する。したがって、エンジン1に加えて各モータ4,16をモータとして駆動させてトルクを出力させることにより、エンジン1および各モータ4,16のトルクで走行するいわゆる両駆動状態となる。その動作状態を図10の(e)に共線図で示してある。これは、前述した図5の(f)に示す共線図とクラッチC0,CSの位置が異なるものの、サンギヤ5およびリングギヤ6ならびキャリヤ7の回転方向などは同じである。